(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】剥落防止パネル及び剥落防止構造
(51)【国際特許分類】
E21D 11/00 20060101AFI20241030BHJP
E21D 11/38 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
E21D11/38 Z
(21)【出願番号】P 2021018809
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 央真
(72)【発明者】
【氏名】立石 晶洋
(72)【発明者】
【氏名】五百井 誠二
(72)【発明者】
【氏名】栗林 健一
(72)【発明者】
【氏名】向井 鷹則
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-094772(JP,A)
【文献】特開2016-023479(JP,A)
【文献】実開昭63-019622(JP,U)
【文献】特開昭59-027055(JP,A)
【文献】実開昭62-011925(JP,U)
【文献】米国特許第04439065(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00 - 11/40
E04D 3/00 - 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に配置される、該構造物からの破片の落下を防止するための剥落防止パネルであって、
前記剥落防止パネルが前記表面に配置された状態において、一方の面が該表面に対向し且つ該表面からの漏水を凹部で一方向へ導く波板と、
前記波板の他方の面側に配置され、前記波板との間に空気層を有する板と、
前記波板と前記板との間に配置され、前記空気層を封止するスペーサと、
前記波板と前記板との間、又は、前記板に対する前記波板側とは反対側に配置され、前記一方向に沿って延在する補強部材と、
を備える剥落防止パネル。
【請求項2】
前記スペーサは、前記一方向に沿って延在する一方向スペーサを有し、
該一方向スペーサは、前記波板における前記一方向に対する直交方向の一端側部分及び他端側部分の各々に配置されている
請求項1に記載の剥落防止パネル。
【請求項3】
前記一方向スペーサは、前記直交方向の一端側部分に配置された一方向スペーサと、前記直交方向の他端側部分に配置された一方向スペーサと、の間に、さらに配置されている
請求項2に記載の剥落防止パネル。
【請求項4】
前記一方向スペーサは、前記直交方向に等間隔で配置されている
請求項3に記載の剥落防止パネル。
【請求項5】
前記一方向スペーサは、前記凹部に対する前記他方の面側に配置されている
請求項2~4のいずれか1項に記載の剥落防止パネル。
【請求項6】
前記スペーサは、前記一方向に対する直交方向に沿って延在する直交方向スペーサを有し、
該直交方向スペーサは、前記波板における前記一方向の一端側部分及び他端側部分の各々に配置されている
請求項1~5のいずれか1項に記載の剥落防止パネル。
【請求項7】
前記波板、前記板及び前記補強部材を貫通する固定部材で前記構造物の表面に固定される請求項1~6のいずれか1項に記載の剥落防止パネルであって、
前記スペーサは、前記固定部材による荷重を支持する支持スペーサを有する
剥落防止パネル。
【請求項8】
前記支持スペーサは、低剛性体と、入力荷重に対して前記低剛性体よりも変形しにくい高剛性体と、を有している
請求項7に記載の剥落防止パネル。
【請求項9】
前記波板における前記一方向の一端部及び他端部の少なくとも一方に配置され、前記波板と前記板との間の空間が外部に開放され、前記波板と前記板とが接触可能な開放部
を備える請求項1~8のいずれか1項に記載の剥落防止パネル。
【請求項10】
前記波板は、第一波板であり、
前記板は、第二波板であり、
前記補強部材は、前記第二波板における前記第一波板とは反対側の反対面の凹部に配置されている
請求項1~9のいずれか1項に記載の剥落防止パネル。
【請求項11】
前記板は、平板であり、
前記補強部材は、前記波板と前記平板との間において、前記波板における前記他方の面の凹部に配置されている
請求項1~9のいずれか1項に記載の剥落防止パネル。
【請求項12】
請求項1~6、8~11のいずれか1項に記載の剥落防止パネルを複数有し、
前記波板、前記板及び前記補強部材を貫通する固定部材で、該複数の剥落防止パネルの各々が前記構造物の表面に固定された剥落防止構造。
【請求項13】
請求項9に記載の剥落防止パネルを有し、
該剥落防止パネルの開放部と、他の前記剥落防止パネルの前記空気層と、を重ねた状態において、該剥落防止パネルの各々が前記固定部材で前記構造物の表面に固定された
請求項12に記載の剥落防止構造。
【請求項14】
請求項7に記載の剥落防止パネルを複数有し、
前記固定部材で、該複数の剥落防止パネルの各々が前記構造物の表面に固定された剥落防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートやレンガ等を使用した構造物の老朽化などの損傷による破片の剥落を防止するための剥落防止パネル及び剥落防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プラスチック波板を、トンネルの覆工壁の表面に山部及び谷部がトンネルの周方向に延在するようにして配置し、繊維強化プラスチック材で形成された繊維軸線方向に延在した細長形状の押え部材であって、プラスチック波板の谷部に適合される表面外形状がプラスチック波板の谷部の横断面形状に沿った湾曲形状とされる押え部材を、プラスチック波板の谷部に適合してトンネルの周方向に設置し、プラスチック波板を、アンカーボルトにより押え部材を介して覆工壁に固定するトンネルの剥落防止工法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、コンベア上に先行載置された矩形板面材の上流側端縁の上に、後続載置される矩形板面材の下流側端縁を重ねるようにして順次載置する工程と、先行載置された矩形板面材の上流側端縁の上面側に塗布されたホットメルト樹脂を加熱して溶融させ、後続載置された矩形板面材をその自重により先行載置された矩形板面材の上流側端縁の上に接合させて帯状の下面材とする工程と、帯状の上面材を供給する工程と、下面材の上にミキシングヘッドからポリウレタンフォーム発泡原液組成物を供給し、上下面材間で発泡硬化させて帯状のパネルとする工程と、帯状のパネルを所定の長さに裁断する工程とを備えるサンドイッチパネル製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献3には、アンカーボルトとナットとの締結によりトンネルの内壁面に張り詰める断熱防水板であって、断熱層の裏面に固定したこの断熱層より外方へ延出する接合縁を備えた防水層と、該防水層の裏面にあって前記アンカーボルトとナットとの締結箇所に固定した浮座から構成され、これらの各構成部材を合成樹脂を主体とした難燃材によってそれぞれ形成するとともに、前記浮座をJIS K 6767で0.87kg/cm2~3.00kg/cm2の圧縮硬さとするトンネル用断熱防水板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-94772号公報
【文献】特開2008-307824号公報
【文献】特開2001-349193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トンネルの覆工壁(構造物の一例)の表面に、特許文献1のような、波板を有する剥落防止パネルを配置した剥落防止構造では、覆工壁の表面からの漏水を波板の凹部で導くことができる。しかしながら、寒冷地のトンネルにおいて前記の剥落防止パネルを用いた場合では、トンネル内の低温の空気により、漏水が結氷する場合がある。
【0007】
本発明は、構造物の表面からの漏水を波板の凹部で導く、構造物からの破片の落下を防止するための剥落防止パネル又は剥落防止構造において、漏水の結氷を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1態様の剥落防止パネルは、構造物の表面に配置される、該構造物からの破片の落下を防止するための剥落防止パネルであって、前記剥落防止パネルが前記表面に配置された状態において、一方の面が該表面に対向し且つ該表面からの漏水を凹部で一方向へ導く波板と、前記波板の他方の面側に配置され、前記波板との間に空気層を有する板と、前記波板と前記板との間に配置され、前記空気層を封止するスペーサと、前記波板と前記板との間、又は、前記板に対する前記波板側とは反対側に配置され、前記一方向に沿って延在する補強部材と、を備える。
【0009】
第1態様の剥落防止パネルによれば、剥落防止パネルが構造物の表面に配置された状態において、波板の一方の面が該表面に対向する。波板の他方の面側には、板が配置されている。波板と板との間、又は、板に対する波板とは反対側には、一方向に沿って延在する補強部材が配置されている。これにより、第1態様の剥落防止パネルでは、波板、板及び補強部材の組み合わせによって、構造物から剥落した破片を受け止めることができる。さらに、第1態様の剥落防止パネルによれば、剥落防止パネルが構造物の表面に配置された状態において、構造物の表面からの漏水が、波板の凹部によって一方向へ導かれる。
【0010】
ここで、第1態様の剥落防止パネルは、スペーサで封止された空気層を波板と板との間に有している。このため、低温の空気により、板が波板とは反対側から冷やされた場合でも、空気層が断熱し、波板の凹部によって導かれる漏水の結氷を抑制できる。
【0011】
第2態様の剥落防止パネルでは、前記スペーサは、前記一方向に沿って延在する一方向スペーサを有し、該一方向スペーサは、前記波板における前記一方向に対する直交方向の一端側部分及び他端側部分の各々に配置されている。
【0012】
第2態様の剥落防止パネルによれば、一方向に沿って延在する一方向スペーサが、波板における直交方向の一端側部分及び他端側部分の各々に配置されているので、波板と板との間の空気層の空気が、該一端側部分及び該他端側部分から漏れることを抑制できる。
【0013】
第3態様の剥落防止パネルでは、前記一方向スペーサは、前記直交方向の一端側部分に配置された一方向スペーサと、前記直交方向の他端側部分に配置された一方向スペーサと、の間に、さらに配置されている。
【0014】
第3態様の剥落防止パネルによれば、波板の直交方向の一端側部分と他端側部分との各々に配置された一方向スペーサの間に、一方向スペーサがさらに配置されているので、波板と板との間の空気層の厚みが、波板の直交方向の一端側部分と他端側部分との各々に配置された一方向スペーサの間で減少することを抑制できる。
【0015】
第4態様の剥落防止パネルでは、前記一方向スペーサは、前記直交方向に等間隔で配置されている。
【0016】
第4態様の剥落防止パネルによれば、一方向スペーサが、直交方向に等間隔で配置されているので、波板と板との間の空気層の厚みの直交方向におけるばらつきを抑制できる。
【0017】
第5態様の剥落防止パネルでは、前記一方向スペーサは、前記凹部に対する前記他方の面側に配置されている。
【0018】
第5態様の剥落防止パネルによれば、一方向スペーサが、構造物の表面からの漏水が導かれる凹部に対する他方の面側に配置されているので、該凹部に対する他方の面側で空気層の厚みが減少することを抑制できる。
【0019】
第6態様の剥落防止パネルでは、前記スペーサは、前記一方向に対する直交方向に沿って延在する直交方向スペーサを有し、該直交方向スペーサは、前記波板における前記一方向の一端側部分及び他端側部分の各々に配置されている。
【0020】
第6態様の剥落防止パネルによれば、直交方向に沿って延在する直交方向スペーサが、波板における一方向の一端側部分及び他端側部分の各々に配置されているので、波板と板との間の空気層の空気が、該一端側部分及び該他端側部分から漏れることを抑制できる。
【0021】
第7態様の剥落防止パネルは、前記波板、前記板及び前記補強部材を貫通する固定部材で前記構造物の表面に固定される第1態様~第6態様のいずれか1つの剥落防止パネルであって、前記スペーサは、前記固定部材による荷重を支持する支持スペーサを有する。
【0022】
第7態様の剥落防止パネルによれば、支持スペーサが固定部材による荷重を支持するので、波板と板との間の空気層の厚みが減少することを抑制できる。
【0023】
第8態様の剥落防止パネルでは、前記支持スペーサは、低剛性体と、入力荷重に対して前記低剛性体よりも変形しにくい高剛性体と、を有している。
【0024】
第8態様の剥落防止パネルによれば、支持スペーサが、低剛性体と、入力荷重に対して低剛性体よりも変形しにくい高剛性体と、を有しているので、支持スペーサが固定部材による荷重を支持しつつ、波板及び板と支持スペーサとの間から空気層の空気が漏れることを抑制できる。
【0025】
第9態様の剥落防止パネルは、前記波板における前記一方向の一端部及び他端側部の少なくとも一方に配置され、前記波板と前記板との間の空間が外部に開放され、前記波板と前記板とが接触可能な開放部を備える。
【0026】
第9態様の剥落防止パネルによれば、該剥落防止パネルの一方向端部に他の剥落防止パネルの一方向端部を重ねて、構造物の表面に配置する場合に、開放部に他の剥落防止パネルを重ねることで、該重ねた部分の厚みが厚くなることを抑制できる。
【0027】
第10態様の剥落防止パネルでは、前記波板は、第一波板であり、前記板は、第二波板であり、前記補強部材は、前記第二波板における前記第一波板とは反対側の反対面の凹部に配置されている。
【0028】
第10態様の剥落防止パネルによれば、波板及び板の両方が波板とされ、補強部材が第二波板における第一波板とは反対側の反対面の凹部に配置されているので、補強部材が該反対側に張り出しにくく、剥落防止パネルの厚みが厚くなることを抑制できる。
【0029】
第11態様の剥落防止パネルでは、前記板は、平板であり、前記補強部材は、前記波板と前記平板との間において、前記波板における前記他方の面の凹部に配置されている。
【0030】
第11態様の剥落防止パネルによれば、補強部材が、波板と平板との間において、波板における他方の面の凹部に配置されているので、波板における他方の面の凹部と平板との間において、補強部材をスペーサとして機能させることができる。
【0031】
第12態様の剥落防止構造は、第1態様~第11態様のいずれか1つの剥落防止パネルを複数有し、前記波板、前記板及び前記補強部材を貫通する固定部材で、該複数の剥落防止パネルの各々が前記構造物の表面に固定されている。
【0032】
第12態様の剥落防止構造によれば、波板、板及び補強部材を貫通する固定部材で、複数の剥落防止パネルの各々が構造物の表面に固定されている。これにより、複数の剥落防止パネルの各々における波板、板及び補強部材によって、構造物から剥落した破片を受け止めることができる。さらに、第12態様の剥落防止構造によれば、構造物の表面からの漏水が、複数の剥落防止パネルの各々における波板の凹部によって一方向へ導かれる。
【0033】
ここで、第12態様の剥落防止構造では、複数の剥落防止パネルの各々が、スペーサで封止された空気層を波板と板との間に有している。このため、低温の空気により、板が波板とは反対側から冷やされた場合でも、空気層が断熱し、波板の凹部によって導かれる漏水の結氷を抑制できる。
【0034】
第13態様の剥落防止構造は、第9態様の剥落防止パネルを有し、該剥落防止パネルの開放部と、他の前記剥落防止パネルの前記空気層と、を重ねた状態において、該剥落防止パネルの各々が前記固定部材で前記構造物の表面に固定されている。
【0035】
第13態様の剥落防止構造によれば、剥落防止パネルの開放部と、他の剥落防止パネルの空気層と、を重ねた状態において、該剥落防止パネルの各々が固定部材で構造物の表面に固定されているので、波板の凹部によって導かれる漏水の結氷を抑制しつつ、剥落防止パネルを重ねた部分の厚みが厚くなることを抑制できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明は、上記構成としたので、構造物の表面からの漏水を波板の凹部で導く、構造物からの破片の落下を防止するための剥落防止パネル又は剥落防止構造において、漏水の結氷を抑制できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本実施形態に係る剥落防止構造の概略図である。
【
図2】
図1に示される剥落防止構造を矢印A方向へ見た場合における展開図である。
【
図3】本実施形態に係る剥落防止パネルの分解斜視図である。
【
図4】本実施形態に係る剥落防止パネルを+Y方向視した断面図である。
【
図5】補強部材及び固定部材を省略し且つスペーサを透視した、本実施形態に係る剥落防止パネルの平面図である。
【
図6】本実施形態に係る剥落防止パネルを+Y方向視した側面図である。
【
図7】
図4に示される剥落防止パネルの一部を拡大した拡大図である。
【
図8】本実施形態に係る剥落防止パネルに備えられた補強部材の斜視図である。
【
図9】
図5に示される剥落防止パネルとは別の種類の剥落防止パネルの平図である。
【
図10】
図5及び
図9に示される剥落防止パネルとは別の種類の剥落防止パネルの平面図である。
【
図12】本実施形態に係る5枚の剥落防止パネルのY方向端部同士を重ねて該剥落防止パネルを覆工壁に取り付ける様子を示す展開図である。
【
図13】本実施形態に係る剥落防止パネルのX方向端部同士を重ねて該剥落防止パネルを覆工壁に取り付ける様子を示す断面図である。
【
図14】変形例に係る剥落防止パネルの分解斜視図である。
【
図15】変形例に係る剥落防止パネルを+Y方向視した断面図である。
【
図16】変形例に係る剥落防止パネルを+Y方向視した側面図である。
【
図17】本実施形態に係る剥落防止パネルの耐剥落荷重性能を評価するための載荷試験の試験結果を示すグラフである。
【
図18】本実施形態に係る剥落防止パネルの断熱性能を評価する解析結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を図面に基づき説明する。
(剥落防止構造100)
本実施形態では、構造物の一例としての、鉄道や道路等のトンネルの覆工壁90(以下、単に「覆工壁90」という場合がある)に適用された剥落防止構造100について説明する。
図1は、本実施形態に係る剥落防止構造100の概略図である。
図2は、
図1に示される剥落防止構造100を矢印A方向へ見た場合における展開図である。
【0039】
なお、下記の説明で用いる+X方向、-X方向、+Y方向、-Y方向、+Z方向及び-Z方向は、図中に示す矢印方向である。また、下記の説明では、+-を付さない「X方向」を、「+X方向及び-X方向の両方向」という意味で用いる場合がある。+-を付さない「Y方向」を、「+Y方向及び-Y方向の両方向」という意味で用いる場合がある。+-を付さない「Z方向」を、「+Z方向及び-Z方向の両方向」という意味で用いる場合がある。さらに、X方向、Y方向、Z方向は、互いに交差する方向(具体的には、直交する方向)である。
【0040】
また、図中の「○」の中に「×」が記載された記号は、紙面の手前から奥へ向かう矢印を意味する。また、図中の「○」の中に「・」が記載された記号は、紙面の奥から手前へ向かう矢印を意味する。また、各図に示す各部分同士のX方向、Y方向、Z方向の寸法比は、実際の寸法比と異なる場合がある。
【0041】
図1及び
図2に示される剥落防止構造100は、覆工壁90から剥落した破片を受け止めることで、覆工壁90の剥落を防止する構造である。覆工壁90は、レンガ又はコンクリート等で形成された構造物である。この覆工壁90の壁面91(表面の一例)は、
図1に示されるように、凹状に湾曲されており、この湾曲された壁面91に対して剥落防止構造100が適用されている。
【0042】
また、覆工壁90は、壁面91から漏水が想定される構造物であり、剥落防止構造100は、後述するように、覆工壁90の壁面91からの漏水を導く導水機能を有している。さらに、剥落防止構造100は、後述するように、断熱機能を有しており、寒冷地に設けられたトンネルの覆工壁90に対して適用可能である。
【0043】
剥落防止構造100は、具体的には、
図1及び
図2に示されるように、剥落防止パネル50を複数有している。本実施形態では、剥落防止パネル50は、覆工壁90の壁面91に対し、覆工壁90の周方向(
図1及び
図2のY方向)に沿って、一例として、5枚が配置されている。この5枚の剥落防止パネル50(以下、1組の剥落防止パネル50という)は、
図1及び
図2に示されるように、Y方向の端部同士が重なるように配置されている。
【0044】
また、1組の剥落防止パネル50は、トンネルの延長方向(
図1における紙面に対する直交方向、
図2のX方向)に沿って複数組が配置されている。この複数組の剥落防止パネル50は、
図2に示されるように、X方向の端部同士が重なるように配置されている。なお、
図2では、図示の都合上、トンネルの延長方向(
図2のX方向)に3組の剥落防止パネル50を配置しているが、実際には、トンネルの延長方向の長さに応じた枚数が配置される。
【0045】
さらに、剥落防止構造100では、1組を構成する前述の5枚の剥落防止パネル50として、4種類の剥落防止パネル51、52、53、54が用いられている。以下、剥落防止パネル51、52、53、54の構成について説明する。なお、剥落防止パネル51、52、53、54の具体的な配置については、後述の剥落防止構造100の施工方法の説明によって示す。
【0046】
また、構造物の一例としては、鉄道や道路等のトンネルの覆工壁90に限られず、例えば、鉱山等の坑道、レンガ等を用いていることによる破片の剥落の恐れのある橋梁や倉庫等の建築物などであってもよく、使用に際してコンクリート片やレンガ、石等の剥落防止の対象となる構造物であればよい。
【0047】
(剥落防止パネル54)
図3は、剥落防止パネル54の分解斜視図である。
図4は、剥落防止パネル54を+Y方向視した断面図である。
図5は、後述の補強部材40及び固定部材60を省略し且つ後述のスペーサ30を透視した剥落防止パネル54の平面図である。
図6は、剥落防止パネル54を+Y方向視した側面図である。
図7は、
図4に示される剥落防止パネル54の一部を拡大した拡大図である。
図8は、剥落防止パネル54に備えられた後述の補強部材40の斜視図である。
【0048】
剥落防止パネル54は、
図3に示されるように、第一波板10と、第二波板20と、スペーサ30と、開放部71、72と、一対の補強部材40と、固定部材60と、を備えている。剥落防止パネル54では、第一波板10、スペーサ30、第二波板20及び一対の補強部材40が、この順で+Z方向へ重ねられて配置される。以下、剥落防止パネル54の各部(第一波板10、第二波板20、スペーサ30、開放部71、72、一対の補強部材40、及び固定部材60)について説明する。
【0049】
(第一波板10及び第二波板20)
第一波板10と第二波板20とは、
図3及び
図4に示されるように、波形形状を有する板材であり、同一形状とされている。この第一波板10及び第二波板20は、平面視(Z方向視)にてY方向に長さを有する長方形状に形成されている。
【0050】
第一波板10及び第二波板20は、剥落防止パネル54が覆工壁90の壁面91に配置された状態(以下、剥落防止パネル54の配置状態という)において(
図4参照)、覆工壁90側(-Z方向側)を向く対向面11、21と、その反対側(+Z方向側)を向く反対面15、25と、を有している。対向面11は、一方の面の一例であり、反対面15は、他方の面の一例である。
【0051】
第一波板10及び第二波板20は、対向面11、21側から見て、-Z方向側に突出する凸部12、22(山部)と、+Z方向側に凹む凹部13、23(谷部)と、がX方向に沿って交互に配置されている。本実施形態では、凸部12、22及び凹部13、23の各々は、
図4に示されるように、11個形成されている。なお、
図4では、凹部13、23(後述の凸部16、26)に対して、-X方向に順番に丸数字1~11が付されている。
【0052】
図4に示されるように、剥落防止パネル54の配置状態において、第一波板10の凸部12は覆工壁90の壁面91に接触する。一方、第一波板10の凹部13は、剥落防止パネル54の配置状態において、覆工壁90の壁面91に対して非接触とされ、壁面91との間に、壁面91からの漏水を導く導水路93を形成する。導水路93は、Y方向に延在している。すなわち、第一波板10は、剥落防止パネル54の配置状態において、覆工壁90の壁面91から漏水を凹部13でY方向へ導く。なお、Y方向は、一方向の一例である。
【0053】
第一波板10及び第二波板20における凸部12、22が形成された部分は、反対面15、25側から見た場合には、-Z方向側に凹む凹部17、27(谷部)を構成している。第一波板10及び第二波板20における凹部13、23が形成された部分は、反対面15、25側から見た場合には、+Z方向側に突出する凸部16、26(山部)を構成している。
【0054】
凸部12、22(凹部17、27)及び凹部13、23(凸部16、26)の各々は、Y方向に延在しており、凸部12、22(凹部17、27)及び凹部13、23(凸部16、26)は平行に且つ、X方向に一定の周期で配列されている。
【0055】
第二波板20は、
図4に示されるように、第一波板10の反対面15側に配置されており、第一波板10の間に空気層29を有している。すなわち、第一波板10及び第二波板20は、互いの間に隙間を有した状態で、反対面15と対向面21とが対向している。具体的には、第一波板10及び第二波板20は、凸部16と凹部23とが対向し、凹部17と凸部22とが対向している。
【0056】
第一波板10及び第二波板20の凸部凹部のピッチの周期およびその大きさについては、両者異なっていてもかまわないが、同一であることが好ましい。なお、第一波板と第二波板で凸部凹部のピッチを異なるものとする場合は、第二波板のピッチ周期を長く、かつ凹凸差を小さくするようにすることが良い。
【0057】
第一波板10及び第二波板20の材料としては、高靭性のものが好ましく、例えば、樹脂、又は、強化繊維を含む繊維強化樹脂が用いられる。樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂などが好適に用いられる。例えば、ポリカーボネートの靭性は、衝撃試験(例えばシャルピー試験)で5~100とされる。このような波板としては、例えば、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社にて商品名「ユーピロン・サンガード波板」として市販されているものを使用することができる。
【0058】
また、繊維強化樹脂としては、塩化ビニル樹脂にメッシュ状のガラス繊維またはアラミド繊維等の高強度の有機繊維を埋め込むか、更には、ガラス繊維を含む不飽和ポリエステル樹脂或いはビニルエステル樹脂とされる繊維強化プラスチック(FRP)などが用いられる。
【0059】
なお、第一波板10及び第二波板20の材料としては、上記の材料に限定されず、種々の材料を用いることができるが、壁面91の状態が目視できる程度の透明性が確保されている材料であることが好ましい。
【0060】
第一波板10及び第二波板20の厚さとしては、例えば、0.5mm以上3.0mm以下、好ましくは、0.7mm以上1.5mm以下の板材が用いられる。また、空気層29の厚さ(Z方向長さ)としては、例えば、2mm以上30mm以下とされ、好ましくは、4mm以上20mm以下とされる。2mm未満の空気層では断熱効果が不十分であるために漏水が結氷する恐れがあり、空気層が30mmを超えるとパネルが嵩張るため設置に際してより多くの空間が必要となるほか、施工性も低下してしまう。なお、空気層厚みは2枚の波板の間隔が最も狭くなる箇所を測定する。
【0061】
(スペーサ30)
スペーサ30は、
図3及び
図4に示されるように、第一波板10と第二波板20との間に配置されている。スペーサ30は、第一波板10と第二波板20との間隔を維持する機能を有している。さらに、スペーサ30は、第一波板10と第二波板20との間に形成された空気層29を封止する機能を有している。
【0062】
具体的には、スペーサ30は、
図3及び
図5に示されるように、複数の第一スペーサ31と、一対の第二スペーサ32と、一対の第三スペーサ33と、を有している。第一スペーサ31は、一方向スペーサの一例であり、第二スペーサ32は、直交方向スペーサの一例であり、第三スペーサ33は、支持スペーサの一例である。
【0063】
第一スペーサ31は、Y方向に延在しており、Y方向に長さを有している。この第一スペーサ31は、
図4に示されるように、断面矩形状に形成されている。複数の第一スペーサ31は、
図4及び
図5に示されるように、X方向に予め定められた間隔で配置されている。
【0064】
具体的には、複数の第一スペーサ31は、第一波板10及び第二波板20における+X方向端部及び-X方向端部に配置された一対の第一スペーサ31A、31Bと、一対の第一スペーサ31A、31Bの間に配置された複数の第一スペーサ31Cと、で構成されている。
【0065】
+X方向端部及び-X方向端部に配置された一対の第一スペーサ31A、31Bによって、空気層29に対する+X方向側及び-X方向側が封止される。さらに、一対の第一スペーサ31A、31Bの間に配置された複数の第一スペーサ31Cによって、空気層29がX方向において複数に仕切られる。
【0066】
さらに具体的には、第一スペーサ31は、
図4に示されるように、第一波板10の凸部16の各々と第二波板20の凹部23の各々との間に配置されている。したがって、第一スペーサ31は、X方向に等間隔で配置されている。さらにいえば、第一スペーサ31は、第一波板10及び第二波板20の凹凸と同一周期で配置されている。
【0067】
また、第一スペーサ31は、
図4に示されるように、第一波板10の凹部13に対する反対面15側に配置されているともいえる。すなわち、第一スペーサ31は、壁面91からの漏水を導く導水路93に対する反対面15側に配置されている。
【0068】
本実施形態では、全11個の凸部16の各々と全11個の凹部23の各々との間に第一スペーサ31が配置されており、第一スペーサ31は、11個設けられている。なお、一対の第一スペーサ31A、31Bは、+X方向側から数えて1番目と11番目の凸部16と凹部23との間に配置されている。複数(具体的には9個)の第一スペーサ31Cは、+X方向側から数えて2番目から10番目までの凸部16と凹部23との間に配置されている。
【0069】
なお、X方向は直交方向の一例であり、+X方向端部は、直交方向の一端側部分の一例であり、-X方向端部は、直交方向の他端側部分の一例である。
【0070】
一対の第二スペーサ32は、
図3及び
図5に示されるように、第一波板10及び第二波板20における+Y方向端部及び-Y方向端部に配置された第二スペーサ32A、32Bで構成されている。具体的には、第二スペーサ32Aは、第一波板10及び第二波板20の+Y方向端と、第一スペーサ31の+Y方向端との間に配置されている。第二スペーサ32Bは、第一波板10及び第二波板20の-Y方向端と、第一スペーサ31の-Y方向端との間に配置されている。一対の第二スペーサ32は、
図3、
図5及び
図6に示されるように、X方向に沿って延在しており、第一波板10及び第二波板20の-X方向端から+X方向端まで配置されている。さらに、一対の第二スペーサ32は、
図6に示されるように、第一波板10及び第二波板20の波形形状に対応して波形形状に形成されている。そして、一対の第二スペーサ32は、第一波板10及び第二波板20の+Y方向端部及び-Y方向端部の各々の空間を埋めている。これにより、一対の第二スペーサ32が、空気層29に対する+Y方向側及び-Y方向側を封止する。なお、+Y方向端部は、一方向の一端側部分の一例であり、-Y方向端部は、一方向の他端側部分の一例である。
【0071】
第一スペーサ31及び第二スペーサ32は、一例として、ポリエチレンフォーム等の発泡体で形成されている。第一スペーサ31及び第二スペーサ32は、接着剤又は両面テープ等の接合材により、第一波板10の反対面15及び第二波板20の対向面21に接合されている。
【0072】
一対の第三スペーサ33は、
図4に示されるように、固定部材60により固定される固定位置における第一波板10の凹部17と第二波板20の凸部22の間に配置されている。当該固定位置は、一対の補強部材40が配置される配置位置でもある。
【0073】
一対の第三スペーサ33は、固定部材60による荷重を支持する機能を有している。一対の第三スペーサ33は、具体的には、
図5及び
図7に示されるように、入力荷重に対して相対的に変形しやすい低剛性体33Aと、入力荷重に対して低剛性体33Aよりも変形しにくい高剛性体33Bと、を有している。
【0074】
高剛性体33Bとしては、ゴム体が用いられ、クロロプレンゴム等の合成ゴム体が好ましく用いられる。低剛性体33Aとしては、樹脂フォーム等の発泡体が用いられ、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂フォームが好ましく用いられる。低剛性体33Aは、固定部材60が貫通する位置に配置されている。高剛性体33Bは、低剛性体33AをX方向に挟むように配置されている。第三スペーサ33の低剛性体33A及び高剛性体33Bは、接着剤又は両面テープ等の接合材により、第一波板10の反対面15及び第二波板20の対向面21に接合されている。なお、
図3では、低剛性体33Aと高剛性体33Bとを一体的に図示している。
【0075】
第一スペーサ31、第二スペーサ32及び第三スペーサ33の厚さ(Z方向長さ)としては、空気層29と同じ厚さとされる。なお、第一スペーサ31、第二スペーサ32及び第三スペーサ33の厚さは、経時的なZ方向の圧縮変形を考慮して、狙いの厚さ(例えば、4mm)よりも予め厚い値(例えば、6mm)に設定してもよい。
【0076】
(開放部71、72)
図4及び
図5に示される開放部71、72は、第一波板10と第二波板20との間の空間が外部に開放され、第一波板10と第二波板20とが接触可能な部分である。この開放部71、72は、複数枚の剥落防止パネル50を覆工壁90の壁面91に取り付ける際に、他の剥落防止パネル50が重ねられる部分である(
図13参照)。
【0077】
開放部71は、
図4及び
図5に示されるように、第一波板10及び第二波板20の+X方向端部に設けられている。具体的には、開放部71は、第一スペーサ31Aの+X方向側に配置されている。開放部71では、+X方向側に開口することで、第一波板10と第二波板20との間の空間が外部に開放されている。また、開放部71では、第一波板10の+X方向端と第二波板20の+X方向端との間にスペーサ30が配置されておらず、その間隔が維持されないため、第一波板10の+X方向端と第二波板20の+X方向端とが接触可能である。
【0078】
開放部72は、
図4及び
図5に示されるように、第一波板10及び第二波板20の-X方向端部に設けられている。具体的には、開放部72は、第一スペーサ31Bの-X方向側に配置されている。開放部72では、-X方向側に開口することで、第一波板10と第二波板20との間の空間が外部に開放されている。また、開放部72では、第一波板10の-X方向端と第二波板20の-X方向端との間にスペーサ30が配置されておらず、その間隔が維持されないため、第一波板10の-X方向端と第二波板20の-X方向端とが接触可能である。
【0079】
(一対の補強部材40)
一対の補強部材40は、第一波板10及び第二波板20の変形を抑制する補強機能を有している。この一対の補強部材40は、
図3に示されるように、第二波板20に対する第一波板10側(-Z方向側)とは反対側(+Z方向側)に配置されている。この一対の補強部材40は、Y方向に延在されており、Y方向に長さを有している。一対の補強部材40は、
図4に示されるように、X方向に間隔を有して、第二波板20の反対面25の凹部27に配置されている。具体的には、本実施形態では、補強部材40は、第二波板20において+X方向側から数えて、1番目の凹部27と6番目の凹部27とに配置されている。
【0080】
補強部材40は、
図7及び
図8に示されるように、Y方向視にて、一方の面41(+Z方向側の面)が平面とされ、他方の面42(-Z方向側の面)が、凹部27の底面に沿った凸状の湾曲面とされている。すなわち、補強部材40は、Y方向視(Y方向断面視)にて、かまばこ形状に形成されている。
【0081】
補強部材40の高さ(Z方向長さ)は、凹部27の深さよりも低い。したがって、補強部材40の平面は、凸部24の頂点よりも-Z方向側に位置する。
【0082】
補強部材40には、樹脂と強化繊維とを有する繊維強化プラスチック、いわゆるFRP(Fiber Reinforced Plastics)が用いられる。強化繊維は、補強部材40の長手方向(Y方向)に沿って配置されている。強化繊維としては、一例として、ガラス繊維が用いられる。なお、強化繊維としては、ガラス繊維に限られず、炭素繊維等の無機繊維や、アラミド繊維、ビニロン繊維等の有機繊維などを用いてもよく、樹脂を強化する繊維であればよい。
【0083】
また、樹脂としては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれでも良く、使用される樹脂に制限はない。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びウレタンアクリレート樹脂などが用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、PPS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、及びABS樹脂などが用いられる。
【0084】
補強部材40の繊維の含有率は、30vol%以上70vol%以下とされ、好ましくは、50vol%以上60vol%以下とされる。繊維の含有率が30vol%以下であると強度が低下してパネルを支持する効果弱くなるために設置時にパネルに撓み等が生じる恐れがある。また、繊維の含有率が70vol%を超えると補強部材が硬くなり、覆孔壁90の壁面91の形状に沿わせにくくなる。補強部材40は、例えば、一方向(Y方向)へ配置した状態で樹脂を含侵させた後、硬化させて製造される。
【0085】
補強部材40は、
図7に示されるように、両面テープや接着剤等の接合材49により、第二波板20の凹部27の底面に接合されている。
【0086】
(固定部材60)
固定部材60は、剥落防止パネル54を覆工壁90の壁面91に固定するための部材である。固定部材60は、
図7に示されるように、アンカーボルト61と、ナット62と、ワッシャ63と、を有している。
【0087】
アンカーボルト61は、補強部材40、第二波板20、第三スペーサ33の低剛性体33A、及び第一波板10をこの順で貫通し、覆工壁90に打ち込まれる。このアンカーボルト61は、覆工壁90へ打ち込まれることで、先端に配置された円錐状のクサビ61Aが、スリット61B部分に押し込まれて、スリット61B部分が径方向外側へ拡張される。これにより、剥落防止パネル54が覆工壁90に固定される。
【0088】
ナット62は、覆工壁90へ打ち込まれたアンカーボルト61に対し補強部材40の+Z方向側から螺合し、補強部材40を締め付ける。ワッシャ63は、ナット62と補強部材40との間に配置され、補強部材40側にゴムが設けられた防水ワッシャとされている。ナット62が、ワッシャ63を介して補強部材40を第一波板10へ押圧することにより、ワッシャ63が、補強部材40の座面と、アンカーボルト61のねじ部を密封する。
【0089】
固定部材60は、
図3に示されるように、一対の補強部材40の各々の長手方向に沿って複数(例えば4本)が配置される。すなわち、剥落防止パネル54は、補強部材40の配置部分で覆工壁90に対して固定される。
【0090】
なお、本実施形態では、固定部材60を剥落防止パネル54の構成部品として説明したが、固定部材60を剥落防止パネル54とは別の部材と把握してもよい。すなわち、固定部材60を有さないものを剥落防止パネル54と把握してもよい。
【0091】
(剥落防止パネル51、52、53)
以下では、剥落防止パネル51、52、53において、剥落防止パネル54と異なる部分について説明し、剥落防止パネル54と同一部分については、適宜、説明を省略する。
【0092】
図9は、固定部材60を省略し且つスペーサ30を透視した剥落防止パネル51の平面図である。
図10は、固定部材60を省略し且つスペーサ30を透視した剥落防止パネル52の平面図である。
図11は、固定部材60を省略し且つスペーサ30を透視した剥落防止パネル53の平面図である。
【0093】
剥落防止パネル51では、
図9に示されるように、+Y方向端部に配置された第二スペーサ32Aは、剥落防止パネル54の構成(
図5参照)に比べ、-Y方向側配置されている。また、剥落防止パネル51では、-Y方向端部に配置された第二スペーサ32Bは、剥落防止パネル54の構成(
図5参照)に比べ、+Y方向側配置されている。第一スペーサ31、第三スペーサ33及び一対の補強部材40は、一対の第二スペーサ32A、32Bに配置されている。したがって、第一スペーサ31、第三スペーサ33及び一対の補強部材40は、剥落防止パネル54の構成(
図5参照)に比べ、Y方向長さが短くされている。
【0094】
そして、剥落防止パネル51は、
図9に示されるように、開放部73、74を+Y方向端部及び-Y方向端部に有している。具体的には、開放部73は、第二スペーサ32Aに対する+Y方向側に配置されている。開放部74は、第二スペーサ32Bに対する-Y方向側に配置されている。
【0095】
開放部73、74は、第一波板10と第二波板20との間の空間が外部に開放され、第一波板10と第二波板20とが接触可能な部分である。この開放部73、74は、複数枚の剥落防止パネル50を覆工壁90の壁面91に取り付ける際に、他の剥落防止パネル50が重ねられる部分である(
図12参照)。
【0096】
開放部73では、第一波板10と第二波板20との間の空間は、+Y方向、+X方向及び-X方向の3方向で外部に開放されている。開放部74では、第一波板10と第二波板20との間の空間は、-Y方向、+X方向及び-X方向の3方向で外部に開放されている。この開放部73、74では、第一波板10と第二波板20との間にスペーサ30が配置されておらず、その間隔が維持されないため、第一波板10と第二波板20とが接触可能となっている。
【0097】
剥落防止パネル52では、
図10に示されるように、+Y方向端部に配置された第二スペーサ32Aは、剥落防止パネル51と同様に、剥落防止パネル54の構成(
図5参照)に比べ、-Y方向側配置されている。なお、剥落防止パネル52では、-Y方向端部に配置された第二スペーサ32Bは、剥落防止パネル54の構成(
図5参照)と同じ位置に配置されている。第一スペーサ31、第三スペーサ33及び一対の補強部材40は、一対の第二スペーサ32A、32Bに配置されている。したがって、第一スペーサ31、第三スペーサ33及び一対の補強部材40は、剥落防止パネル54の構成(
図5参照)に比べ、Y方向長さが短く、剥落防止パネル51の構成(
図9参照)に比べ、Y方向長さが長くされている。
【0098】
そして、剥落防止パネル52は、
図10に示されるように、開放部73を+Y方向端部に有している。開放部73は、剥落防止パネル51における開放部73と同様に構成されている。
【0099】
剥落防止パネル53では、
図11に示されるように、-Y方向端部に配置された第二スペーサ32Bは、剥落防止パネル51と同様に、剥落防止パネル54の構成(
図5参照)に比べ、+Y方向側配置されている。なお、剥落防止パネル53では、+Y方向端部に配置された第二スペーサ32Aは、剥落防止パネル54の構成(
図5参照)と同じ位置に配置されている。第一スペーサ31、第三スペーサ33及び一対の補強部材40は、一対の第二スペーサ32A、32Bに配置されている。したがって、第一スペーサ31、第三スペーサ33及び一対の補強部材40は、剥落防止パネル54の構成(
図5参照)に比べ、Y方向長さが短く、剥落防止パネル51の構成(
図9参照)に比べ、Y方向長さが長くされている。なお、第一スペーサ31、第三スペーサ33及び一対の補強部材40は、剥落防止パネル52の構成(
図10参照)と同じ長さとされている。
【0100】
そして、剥落防止パネル54は、
図11に示されるように、開放部74を-Y方向端部に有している。開放部74は、剥落防止パネル51における開放部74と同様に構成されている。
【0101】
(施工方法)
次に、前述の剥落防止構造100を覆工壁90に対して施工する施工方法について説明する。なお、本施工方法により剥落防止構造100が形作られるので、本施工方法は、剥落防止構造100を製造する製造方法ともいえる。
【0102】
本施工方法では、まず、覆工壁90の施工範囲におけるトンネル延長方向(X方向)の端部であって、天端部(最も高い部分)に対して、剥落防止パネル51を取り付ける(
図1参照)。このとき、
図1に示されるように、剥落防止パネル51の長手方向が、覆工壁90の周方向に沿うように、剥落防止パネル51を湾曲させた状態で取り付ける。
【0103】
剥落防止パネル51の取り付けに際しては、ドリル等の削孔機を用いて、剥落防止パネル51の補強部材40、第二波板20、第三スペーサ33の低剛性体33A、及び第一波板10を貫通させながら、覆工壁90に対して孔を開ける(
図7参照)。当該孔に対してアンカーボルト61を挿入し、アンカーボルト61を打撃固定した後、ワッシャ63を介してナット62を締め込む。なお、アンカーボルト61を挿入する孔には、接着樹脂を注入してもよい。
【0104】
次に、
図1及び
図12に示されるように、剥落防止パネル51における+Y方向端部の開放部73に、剥落防止パネル52の-Y方向端部が重なるように剥落防止パネル52を覆工壁90に取り付ける。このとき、剥落防止パネル52の長手方向が、覆工壁90の周方向に沿うように、剥落防止パネル52を湾曲させた状態で、剥落防止パネル52の場合と同様に取り付ける。
【0105】
なお、剥落防止パネル52の取り付けにおいて、剥落防止パネル52が重ねられた剥落防止パネル51の開放部73では、剥落防止パネル52の補強部材40、第二波板20、第三スペーサ33の低剛性体33A、及び第一波板10と、剥落防止パネル51の第一波板10及び第二波板20と貫通させながら、覆工壁90に対して孔を開ける。この孔に挿入したアンカーボルト61によって、剥落防止パネル51の開放部73に剥落防止パネル52が重ねられた状態で、剥落防止パネル51、52を覆工壁90に対して取り付ける。
【0106】
また、剥落防止パネル51における-Y方向端部の開放部74に、剥落防止パネル53の+Y方向端部が重なるように、剥落防止パネル53を覆工壁90に取り付ける。このとき、剥落防止パネル53の長手方向が、覆工壁90の周方向に沿うように、剥落防止パネル53を湾曲させた状態で、剥落防止パネル51の場合と同様に取り付ける。
【0107】
なお、剥落防止パネル53の取り付けにおいて、剥落防止パネル53が重ねられた剥落防止パネル51の開放部74では、剥落防止パネル53の補強部材40、第二波板20、第三スペーサ33の低剛性体33A、及び第一波板10と、剥落防止パネル51の第一波板10及び第二波板20と貫通させながら、覆工壁90に対して孔を開ける。この孔に挿入したアンカーボルト61によって、剥落防止パネル51の開放部74に剥落防止パネル53が重ねられた状態で、剥落防止パネル51、53を覆工壁90に対して取り付ける。なお、剥落防止パネル52と剥落防止パネル53との取り付けは、どちらを先に行ってもよい。
【0108】
次に、剥落防止パネル52における+Y方向端部の開放部73に、剥落防止パネル54の-Y方向端部が重なるように、剥落防止パネル54を覆工壁90に取り付ける。このとき、剥落防止パネル54の長手方向が、覆工壁90の周方向に沿うように、剥落防止パネル54を湾曲させた状態で、剥落防止パネル52の場合と同様に取り付ける。
【0109】
また、剥落防止パネル53における-Y方向端部の開放部74に、剥落防止パネル54の+Y方向端部が重なるように、剥落防止パネル54を覆工壁90に取り付ける。このとき、剥落防止パネル54の長手方向が、覆工壁90の周方向に沿うように、剥落防止パネル54を湾曲させた状態で、剥落防止パネル53の場合と同様に取り付ける。なお、剥落防止パネル52に重ねられる剥落防止パネル54と、剥落防止パネル53に重ねられる剥落防止パネル54との取り付けは、どちらを先に行ってもよい。
【0110】
このようにして、5枚の剥落防止パネル54、52、51、53、54(以下、剥落防止パネル54~54という)が、この順で、+Y方向側から-Y方向側に向けて配置された状態で、覆工壁90の壁面91に取り付けられる。この5枚の剥落防止パネル54~54によって、1組の剥落防止パネル50が構成される。
【0111】
そして、この5枚の剥落防止パネル54~54に対するトンネル延長方向側(X方向側に相当)に、同様に、5枚の剥落防止パネル54~54を覆工壁90に取り付ける(
図2参照)。このとき、
図2に示されるように、5枚の剥落防止パネル54~54(以下、「-Z方向側の剥落防止パネル50」という)の各々の上側(+Z方向側)に、5枚の剥落防止パネル54~54(以下、「+Z方向側の剥落防止パネル50」という)の各々が、X方向端部同士が重なるように、+Z方向側の剥落防止パネル50を覆工壁90に取り付ける。
【0112】
具体的には、
図13に示されるように、-Z方向側の剥落防止パネル50における+X方向側から数えて11番目の凸部26の上に、+Z方向側の剥落防止パネル50における+X方向側から数えて1番目の凸部26が重なるように、+Z方向側の剥落防止パネル50を覆工壁90に取り付ける。このとき、-Z方向側の剥落防止パネル50の開放部72では、+Z方向側の剥落防止パネル50の補強部材40、第二波板20、第三スペーサ33の低剛性体33A、及び第一波板10と、-Z方向側の剥落防止パネル50の第一波板10及び第二波板20と貫通させながら、覆工壁90に対して孔を開ける。この孔に挿入したアンカーボルト61によって、-Z方向側の剥落防止パネル50の開放部72に+Z方向側の剥落防止パネル50が重ねられた状態で、+Z方向側の剥落防止パネル50を覆工壁90に取り付ける。
【0113】
+Z方向側の剥落防止パネル50及び-Z方向側の剥落防止パネル50の覆工壁90への取付状態では、+Z方向側の剥落防止パネル50の開放部71が-Z方向側の剥落防止パネル50に重なり、+Z方向側の剥落防止パネル50の第一スペーサ31Aと、-Z方向側の剥落防止パネル50の第一スペーサ31BとがZ方向に配置されている。
【0114】
なお、本実施形態では、5枚の剥落防止パネル54~54によって、1組の剥落防止パネル50が構成されていたが、これに限られない。例えば、1~4枚の剥落防止パネル50又は、6枚以上の剥落防止パネル50によって、1組の剥落防止パネル50を構成してもよい。1枚の剥落防止パネル50で1組の剥落防止パネル50を構成する場合は、例えば、剥落防止パネル54を用いることができる。2枚の剥落防止パネル50で1組の剥落防止パネル50を構成する場合は、例えば、剥落防止パネル52の開放部73に剥落防止パネル54を重ねて用いるか、又は、剥落防止パネル53の開放部74に剥落防止パネル54を重ねて用いることができる。3枚の剥落防止パネル50で1組の剥落防止パネル50を構成する場合は、例えば、剥落防止パネル51の開放部73、74の各々に剥落防止パネル54を重ねて用いることができる。
【0115】
(本実施形態の作用効果)
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
【0116】
本実施形態の剥落防止構造100によれば、複数の剥落防止パネル50(具体的には、5枚の剥落防止パネル54~54)が覆工壁90の壁面91に配置された状態において、第一波板10の対向面11が壁面91に対向する。第一波板10の反対面15には、第二波板20が配置されている。第二波板20に対する第一波板10とは反対側には、Y方向に沿って延在する一対の補強部材40が配置されている。これにより、剥落防止構造100では、第一波板10、第二波板20及び補強部材40の組み合わせによって、覆工壁90から剥落した破片を受け止めることができる。さらに、剥落防止構造100によれば、剥落防止パネル50が覆工壁90の壁面91に配置された状態において、壁面91からの漏水が、第一波板10の凹部13によってY方向へ導かれる。
【0117】
ここで、剥落防止構造100では、剥落防止パネル50は、スペーサ30(具体的には、複数の第一スペーサ31、一対の第二スペーサ32及び一対の第三スペーサ33)で封止された空気層29を第一波板10と第二波板20との間に有している。このため、低温の空気により、第二波板20が第一波板10とは反対側(すなわち-Z方向側)から冷やされた場合でも、空気層29が断熱し、第一波板10の凹部13によって導かれる漏水の結氷を抑制できる。このため、従来のパネルの課題であった寒冷地対応も可能となり、剥落防止パネルの使用を拡大することができる。
【0118】
また、剥落防止構造100によれば、Y方向に沿って延在する第一スペーサ31A、31Bが、第一波板10の+X方向端部及び-X方向端部に配置されているので、第一波板10と第二波板20との間の空気層29の空気が、+X方向端部及び-X方向端部から漏れることを抑制できる。
【0119】
また、剥落防止構造100では、第一波板10の+X方向端部に配置された第一スペーサ31Aと、第一波板10の-X方向端部に配置された第一スペーサ31Bと、の間に、複数の第一スペーサ31Cが、さらに配置されている。このため、第一スペーサ31Aと第一スペーサ31Bとの間で、第一波板10と第二波板20との間隔が維持される。このため、第一波板10と第二波板20との間の空気層29の厚み(Z方向長さ)が、第一スペーサ31Aと第一スペーサ31Bとの間で減少することを抑制できる。
【0120】
また、剥落防止構造100によれば、複数の第一スペーサ31が、X方向に等間隔で配置されているので、第一波板10と第二波板20との間隔が、X方向において一定に維持されやすい。このため、第一波板10と第二波板20との間の空気層29の厚みのX方向におけるばらつきを抑制できる。
【0121】
また、剥落防止構造100によれば、第一スペーサ31が、覆工壁90の壁面91からの漏水が導かれる凹部13に対する反対面15側に配置されているので、凹部13に対する反対面15側で空気層29の厚みが減少することを抑制できる。これにより、漏水の結氷を効果的に抑制できる。
【0122】
また、剥落防止構造100によれば、X方向に沿って延在する一対の第二スペーサ32A、32Bが、第一波板10における+Y方向端部及び-Y方向端部に配置されているので、第一波板10と第二波板20との間の空気層29の空気が、+Y方向端部及び-Y方向端部から漏れることを抑制できる。
【0123】
また、剥落防止構造100によれば、第三スペーサ33が固定部材60による荷重を支持するので、固定部材60が配置される位置において、第一波板10と第二波板20との間の空気層29の厚みが減少することを抑制できる。
【0124】
また、剥落防止構造100によれば、第三スペーサ33が、低剛性体33Aと、入力荷重に対して低剛性体33Aよりも変形しにくい高剛性体33Bと、を有しているので、高剛性体33Bで固定部材60による荷重を支持しつつ、入力荷重に対して相対的に変形しやすい低剛性体33Aによって、第一波板10と第二波板20との間に隙間ができることが抑制される。したがって、第三スペーサ33によれば、固定部材60による荷重を支持しつつ、第一波板10と第二波板20との間から空気層29の空気が漏れることを抑制できる。
【0125】
また、剥落防止構造100では、剥落防止パネル51、52、53は、第一波板10と第二波板20とが接触可能な開放部73、74を備えているので、剥落防止パネル51、52、53の開放部73、74に他の剥落防止パネル50を重ねて、覆工壁90に配置する場合に、重ねた部分の厚みが厚くなることを抑制できる。
【0126】
具体的には、剥落防止構造100によれば、剥落防止パネル51、52、53の開放部73、74と他の剥落防止パネル50の空気層29とを重ねた状態において、複数の剥落防止パネル50(具体的には、5枚の剥落防止パネル54~54)の各々が固定部材60で覆工壁90に固定されている。このため、空気層29によって漏水の結氷を抑制しつつ、剥落防止パネル50を重ねた部分の厚みが厚くなることを抑制できる。
【0127】
また、剥落防止構造100によれば、第一波板10及び第二波板20の両方が波形形状とされ、補強部材40が第二波板20における第一波板10とは反対側(+Z方向側)の反対面25の凹部27に配置されているので、補強部材40が+Z方向側に張り出しにくく、剥落防止パネル50の厚みが厚くなることを抑制できる。
【0128】
(剥落防止パネル50の変形例)
1組の剥落防止パネル50を構成する剥落防止パネル54に替えて、剥落防止パネル254を用いてもよい。
図14は、剥落防止パネル254の分解斜視図である。
図15は、剥落防止パネル254を+Y方向視した断面図である。
図16は、剥落防止パネル254を+Y方向視した側面図である。なお、剥落防止パネル54と同一機能を有する部分については、同一符号を付して、適宜、説明を省略する。
【0129】
剥落防止パネル254は、
図14に示されるように、第一波板10と、一対の補強部材40と、スペーサ230と、平板220と、固定部材60と、を備えている。すなわち、剥落防止パネル254では、第二波板20に替えて平板220を備え、スペーサ30に替えてスペーサ230を備えている。剥落防止パネル254では、第一波板10、一対の補強部材40及び平板220が、この順で+Z方向へ重ねられて配置される。
【0130】
平板220は、平面視にてY方向に長さを有する長方形状に形成されており、平面視における大きさが第一波板10と同じとされている。平板220は、第一波板10の凸部16に対する+Z方向側に、凸部16に対して隙間を有して配置されている。平板220は、第一波板10と同様の材料で構成されている。
【0131】
スペーサ230は、複数の第一スペーサ31と、一対の第二スペーサ32と、一対の第三スペーサ233と、を有している。複数の第一スペーサ31は、剥落防止パネル54における複数の第一スペーサ31と同様に構成されている。
【0132】
一対の第二スペーサ32は、+Z方向側の面が平面とされ、-Z方向側の面が複数の凸部16及び凹部17の底面に沿った波形形状の曲面とされている。一対の第二スペーサ32は、配置位置及び材料については、剥落防止パネル54における一対の第二スペーサ32と同様に構成されている。
【0133】
一対の第三スペーサ233は、固定部材60による荷重を支持する機能を有しており、固定部材60により固定される固定位置に配置されている。具体的には、一対の第三スペーサ233は、一対の補強部材40の+Z方向の面上に設けられている。一対の第三スペーサ233は、断面矩形状に形成され、剥落防止パネル54における高剛性体33Bと同様に、クロロプレンゴム等のゴム体で構成されている。
【0134】
剥落防止パネル254では、
図14及び
図15に示されるように、一対の補強部材40は、第一波板10と平板220との間に配置されている。この一対の補強部材40は、X方向に間隔を有して、第一波板10の反対面15の凹部17に配置されている。具体的には、本実施形態では、補強部材40は、第一波板10において+X方向側から数えて、1番目の凹部17と6番目の凹部17とに配置されている。一対の補強部材40は、配置位置が異なる点を除いて、剥落防止パネル54における一対の補強部材40と同様に構成されている。
【0135】
なお、一対の補強部材40の+Y方向端部及び-Y方向端部では、第二スペーサ32が補強部材40及び第三スペーサ233の-X方向側及び+X方向側の側面に接触している。これにより、一対の第二スペーサ32が、空気層29に対する+Y方向側及び-Y方向側を封止する。
【0136】
また、剥落防止パネル254では、固定部材60のアンカーボルト61は、平板220、補強部材40、第三スペーサ233及び第一波板10をこの順で貫通し、覆工壁90に打ち込まれる。ナット62は、覆工壁90へ打ち込まれたアンカーボルト61に対し平板220の+Z方向側から螺合し、補強部材40を締め付ける。
【0137】
剥落防止パネル254によれば、補強部材40が、第一波板10と平板220との間において、第一波板10における反対面15の凹部17に配置されているので、第一波板10の凹部17と平板220との間において、補強部材40をスペーサとして機能させることができる。
【0138】
なお、上記では、剥落防止パネル54の変形例として、剥落防止パネル254について説明したが、剥落防止パネル51、52、53に替えて、上記の剥落防止パネル254と同様の構成を用いてもよい。剥落防止パネル51の変形例としては、剥落防止パネル51の場合と同様に、上記の剥落防止パネル254において、開放部73、74を+Y方向端部及び-Y方向端部に設けた構成とすることができる。
【0139】
剥落防止パネル52の変形例としては、剥落防止パネル52の場合と同様に、上記の剥落防止パネル254において、開放部73を+Y方向端部に設けた構成とすることができる。剥落防止パネル53の変形例としては、剥落防止パネル53の場合と同様に、上記の剥落防止パネル254において、開放部74を-Y方向端部に設けた構成とすることができる。
【0140】
(評価試験)
本評価試験では、剥落防止パネル54において、耐剥落荷重性能、断熱性能、空気層の厚み維持性能及び施工性能について評価した。
【0141】
[耐剥落荷重性能]
本評価では、「FRPによるトンネル覆工剥落対策マニュアル(トンネル安全対策工法研究会編)」に記載の試験方法に準拠して、剥落防止パネル54及び現行の剥落防止パネルに対して、載荷試験を行った。
【0142】
剥落防止パネル54の構成は、以下の通りである。
第一波板10及び第二波板20:Y方向長さ1820mm、X方向長さ730mm、厚み1mmのポリカーボネート樹脂製の波板、凹凸ピッチ(凸部16の頂点間のX方向に沿った距離)63mm、凹凸高さ(凸部16と凸部12との頂点間のY方向に沿った距離)18mm
補強部材40:X方向幅28mm、Z方向厚み7mm、Y方向長さ1820mmのガラス繊維強化プラスチック
第一スペーサ31及び第二スペーサ32:Z方向厚み6mmのポリエチレンフォーム
第三スペーサ33:低剛性体33AとしてZ方向厚み6mmのポリエチレンフォーム、高剛性体33BとしてZ方向厚み6mmのクロロプレンゴム
【0143】
現行のパネルは、上記の剥落防止パネル54における第一波板10、第一スペーサ31、第二スペーサ32及び第三スペーサ33を備えずに、第二波板20と一対の補強部材40とを備える構成である。第二波板20と一対の補強部材40は、上記の剥落防止パネル54と同じものと用いている。
【0144】
剥落防止パネル54は、2枚の波板を有するため、現行の剥落防止パネルよりも剛性が高く、
図17のグラフに示されるように、規格値を十分満たしている。剥落防止パネル54は、現行の剥落防止パネルと同様に、規格値を満たすことが確認できた。
【0145】
[断熱性能]
本評価では、解析モデルを用いて、地山温度(覆工壁90の温度に相当)と、坑内温度(トンネル坑内の空気の温度に相当)と、剥落防止パネル54のパネル内側の温度(凹部13内の空気の温度に相当)が0℃(結氷温度)を上回るか否かの確認を行った。
【0146】
本解析モデルでは、鉄道トンネルが存在する寒冷地として、秋田県湯瀬地区及び岩手県薮川地区における地山温度と坑内温度とを算出した。地山温度は、年平均気温に近似するため、年平均気温を地山温度とした。坑内温度は、過去30年間における最低気温を基準に算出した。また、空気層29が2mmである場合と、4mmである場合とを評価対象とした。
【0147】
その結果、
図18の表に示されるように、秋田県湯瀬地区では、空気層29が2mmと4mmの両方の場合において、パネル内側の温度が0℃を上回り、漏水の結氷の抑制効果があることが確認できた。岩手県薮川地区では、空気層29が2mmの場合に、パネル内側の温度が0℃を下回ったが、空気層29が4mmの場合では、パネル内側の温度が0℃を上回り、漏水の結氷の抑制効果があることが確認できた。
【0148】
[空気層の厚み維持性能]
前述の施工方法で示したように、剥落防止パネル54は、長手方向が覆工壁90の周方向に沿うように湾曲した状態で覆工壁90に取り付けられるため、この湾曲状態でも、空気層29が潰れずに、厚みを維持するかを評価した。
【0149】
本評価では、予め第一波板10と第二波板20との間に+Y方向端から-Y方向端まで配置したZ方向厚さ5mmの発泡体が、前述の載荷試験において剥落防止パネル54を湾曲させた状態で、引き抜けるか否かの確認を行った。
【0150】
この結果、上記の発泡体を第一波板10と第二波板20との間から抵抗なく引き抜くことができた。したがって、Z方向厚さ6mmの第一スペーサ31、第二スペーサ32及び第三スペーサ33を用いることで、空気層29のZ方向厚さが少なくとも5mm維持されることが確認できた。
【0151】
[施工性能]
前述の施工方法で示したように、施工の際には、剥落防止パネル54の長手方向が、覆工壁90の周方向に沿うように、剥落防止パネル54を湾曲させた状態で取り付けるため、剥落防止パネル54は、施工性能として、施工者一人の人力により湾曲させられることが必要となる。本評価では、剥落防止パネル54を施工者一人の人力により、押し曲げられるか否かの確認を行った。
【0152】
その結果、剥落防止パネル54は、2枚の波板を有するため、現行の剥落防止パネルよりも剛性が高いものの、施工者一人の人力により、押し曲げられることが確認できた。
【0153】
本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、その主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形、変更、改良が可能である。例えば、上記に示した変形例は、適宜、複数を組み合わせて構成してもよい。
【符号の説明】
【0154】
10 第一波板(波板の一例)
11 対向面(一方の面の一例)
13 凹部
15 反対面(他方の面の一例)
20 第二波板(板の一例)
29 空気層
30、230 スペーサ
31 第一スペーサ(一方向スペーサの一例)
32 第二スペーサ(直交方向スペーサの一例)
33、233 第三スペーサ(支持スペーサの一例)
33A 低剛性体
33B 高剛性体
40 補強部材
50、254 剥落防止パネル
60 固定部材
73 開放部
74 開放部
90 覆工壁(構造物の一例)
91 壁面(表面の一例)
100 剥落防止構造
220 平板(板の一例)