(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】真空噴霧凍結用ノズル、凍結乾燥装置、および造粒方法
(51)【国際特許分類】
F26B 5/06 20060101AFI20241031BHJP
F26B 17/10 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
F26B5/06
F26B17/10 B
(21)【出願番号】P 2020168279
(22)【出願日】2020-10-05
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 薫樹
(72)【発明者】
【氏名】吉元 剛
(72)【発明者】
【氏名】新井 進
(72)【発明者】
【氏名】茂木 信博
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-090671(JP,A)
【文献】特開平06-297719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 5/06
F26B 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液の粒が自己凍結する真空空間に前記原料液を噴射する真空噴霧凍結用ノズルであって、
前記原料液の流入口を区切る流入面と、
前記原料液の噴射口を区切る噴射面と、
前記流入口と前記噴射口とを連通する噴射孔を区切る孔内面と、を備え
、
前記孔内面は、前記流入口を底部とする第1錘台筒面と、前記噴射口を底部とする第2錘台筒面と、前記第1錘台筒面と前記第2錘台筒面とを接続する円筒面とを備え、
前記第1錘台筒面および前記第2錘台筒面の少なくとも一方が対象筒面であり、
前記円筒面の接触角は、前記対象筒面の接触角よりも小さい
真空噴霧凍結用ノズル。
【請求項2】
前記対象筒面は、前記第2錘台筒面を含み、
前記円筒面に対する前記第2錘台筒面の角度は、前記円筒面の接触角と前記第2錘台筒面の接触角との差分値よりも大きい
請求項
1に記載の真空噴霧凍結用ノズル。
【請求項3】
原料液の粒が自己凍結する真空空間に前記原料液を
液柱として噴射する真空噴霧凍結用ノズルであって、
前記原料液の流入口を区切る流入面と、
前記原料液の噴射口を区切る噴射面と、
前記流入口と前記噴射口とを連通する噴射孔を区切る孔内面と、を備え
、
前記流入面における前記流入口の外側の接触角よりも前記流入口の接触角が小さい
真空噴霧凍結用ノズル。
【請求項4】
原料液の粒が自己凍結する真空空間に前記原料液を
液柱として噴射する真空噴霧凍結用ノズルであって、
前記原料液の流入口を区切る流入面と、
前記原料液の噴射口を区切る噴射面と、
前記流入口と前記噴射口とを連通する噴射孔を区切る孔内面と、を備え
、
前記孔内面における前記流入口の接触角よりも前記孔内面の延在方向の中心位置の接触角が小さい
真空噴霧凍結用ノズル。
【請求項5】
真空室と、
前記真空室内に原料液を噴射する真空噴霧凍結用ノズルと、
前記真空噴霧凍結用ノズルに前記原料液を供給する供給部と、を備え、
前記真空噴霧凍結用ノズルは、請求項1から
4のいずれか一項に記載の真空噴霧凍結用ノズルである
凍結乾燥装置。
【請求項6】
真空噴霧凍結用ノズルに原料液を供給すること、および、
前記真空噴霧凍結用ノズルから真空室内に原料液を噴射して前記原料液からなる粒を前記真空室内で自己乾燥させることを含む造粒方法であって、
前記真空噴霧凍結用ノズルは、請求項1から
4のいずれか一項に記載の真空噴霧凍結用ノズルである
造粒方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空噴霧凍結用ノズル、凍結乾燥装置、および造粒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
噴射式の凍結乾燥装置は、真空室内において、真空噴霧凍結用ノズルから下方に向けて原料液を噴射する。噴射される原料液は、溶媒や分散媒のなかに、例えば医薬品、食品、化粧品などの原料を含む。噴射された原料液は、真空噴霧凍結用ノズルの下方で、液柱から粒子に変わる。粒子のなかに含まれる原料は、溶媒や分散媒に蒸発潜熱を奪われて自己凍結する(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
真空噴霧凍結用ノズルにおける原料液の円滑な流れを実現可能にする技術は、様々な利用分野に凍結乾燥技術を展開するうえで切望されている。真空噴霧凍結用ノズルにおける原料液の円滑な流れは、噴射された原料液が液柱として成長する際に噴射口の周囲に向けて飛散しにくいこと、あるいは噴射口に向けた原料液の開始や終了において原料液が噴射口に向けて滞りなく流れ込むことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための真空噴霧凍結用ノズルは、原料液の粒が自己凍結する真空空間に前記原料液を噴射する真空噴霧凍結用ノズルであって、前記原料液の流入口を区切る流入面と、前記原料液の噴射口を区切る噴射面と、前記流入口と前記噴射口とを連通する噴射孔を区切る孔内面と、を備える。前記流入面および前記噴射面の少なくとも一方が対象面であり、前記対象面と前記孔内面とから構成される表面のなかに前記対象面から前記孔内面に向く方向で接触角が下がる領域を備える。
【0006】
上記構成によれば、接触角が高い表面と接触角が低い表面との境界に位置する液体は、接触角が高い面から接触角が低い面に向けて流動する駆動力を発現する。上記真空噴霧凍結用ノズルによれば、こうした接触角の差異に基づく駆動力が、対象面から孔内面に向く方向で発現する。結果として、対象面が噴射面である場合、噴射面から孔内面に向く方向で原料液を戻すような駆動力を原料液が発現し、これにより、噴射口の周囲に向けた飛散が抑えられる。対象面が流入面である場合、流入面から孔内面に向く方向で原料液を押し流すような駆動力を原料液が発現し、これにより、原料液の噴射開始、あるいは原料液の噴射終了において、噴射孔の内部に滞りなく原料液が流れ込む。すなわち、原料液の円滑な流れが実現される。
【0007】
上記真空噴霧凍結用ノズルにおいて、前記対象面は、前記噴射面を含み、前記流入面および前記噴射面から構成される表面は、前記噴射面と前記孔内面との境界で前記噴射面から前記孔内面に向く方向で接触角が下がる領域を備えてもよい。
【0008】
従来の真空噴霧凍結用ノズルでは、噴射面と孔内面との境界に位置する原料液は、液柱として成長する前に、噴射口の周囲に向けて飛散しやすい。この点、上記真空噴霧凍結用ノズルによれば、噴射面と孔内面との境界に位置する原料液が、噴射孔の内部に向けて押し戻されるような駆動力を発現するため、噴射口の周囲に向けた飛散が、より効果的に抑えられる。
【0009】
上記真空噴霧凍結用ノズルにおいて、前記孔内面は、前記対象面から前記孔内面に入る方向で接触角が下がる領域を備えてもよい。
上記構成によれば、噴射孔の内部に位置する原料液が、孔内面に沿って円滑に流動するため、噴射孔の内部において、原料液を円滑に押し流すことが可能である。また、噴射孔の内部から出るときの原料液の流れが噴射口の外側に向きにくいように、原料液が噴射口に向けて押し流される。これにより、原料液が噴射口の周囲に向けて飛散することを抑えることが可能ともなる。
【0010】
上記真空噴霧凍結用ノズルにおいて、前記孔内面には、前記対象面から前記孔内面に向く方向で接触角が下がるように、前記流入口から前記噴射口に向けて延びる溝を備えてもよい。
【0011】
上記構成によれば、噴射孔内に位置する原料液が、孔内面の溝に沿って円滑に流動するため、噴射孔内に原料液を円滑に押し流すことが可能となる。また、噴射口から原料液を噴射して液柱を円滑に形成すること、ひいては噴射口の周囲に向けた飛散を抑えることが可能となる。
【0012】
上記真空噴霧凍結用ノズルにおいて、前記対象面および前記孔内面のなかに前記対象面から前記孔内面に向く方向で接触角を段階的に下げる領域を備えてもよい。
上記構成によれば、接触角が段階的に下がるため、撥液性を有した表面層の有無や、撥液性を有した表面構造の有無などのように、表面加工の有無によって、上記接触角を有した領域を形成可能となる。これによって、真空噴霧凍結用ノズルのなかで表面加工の程度を徐々に変える製造と比べて、真空噴霧凍結用ノズルの製造負荷が高まることが抑制可能ともなる。
【0013】
上記真空噴霧凍結用ノズルにおいて、前記噴射孔は、前記流入口から前記噴射口に向けて延びる一定の直径を有した円形孔であってもよい。
上記真空噴霧凍結用ノズルによれば、流入口から噴射口に向けて延びる一定の直径を有した噴射孔を備える構成において、原料液の円滑な流れが実現される。
【0014】
上記真空噴霧凍結用ノズルにおいて、前記孔内面は、前記流入口を底部とする第1錘台筒面と、前記噴射口を底部とする第2錘台筒面と、前記第1錘台筒面と前記第2錘台筒面とを接続する円筒面とを備え、前記第1錘台筒面および前記第2錘台筒面の少なくとも一方が対象筒面であり、前記円筒面の接触角は、前記対象筒面の接触角よりも小さくてもよい。
【0015】
上記真空噴霧凍結用ノズルによれば、対象面から噴射孔内に向けて下がる接触角の変化を孔内面が有するため、対象面と孔内面との境界に位置する原料液のみならず、噴射孔内に位置する原料液までが、接触角の差異による駆動力に追従しやすい。結果として、原料液の円滑な流れが実現される効果の実効性が高まる。
【0016】
上記真空噴霧凍結用ノズルにおいて、前記対象筒面は、前記第2錘台筒面を含み、前記円筒面に対する前記第2錘台筒面の角度は、前記円筒面の接触角と前記第2錘台筒面の接触角との差分値よりも大きくてもよい。
【0017】
上記真空噴霧凍結用ノズルによれば、円筒面と第2錘台筒面とが形成する角度が、円筒面の接触角と第2錘台筒面の接触角との差分値よりも大きいため、接触角による原料液の誘導に加え、円筒面と第2錘台筒面とが形成する角度によっても、噴射口の周囲に向けた飛散を抑えることが可能ともなる。
【0018】
上記真空噴霧凍結用ノズルによれば、前記対象面と前記孔内面とから構成される表面のなかに前記対象面から前記孔内面に向く方向で接触角が下がるように、前記表面のなかに表面粗さの差異を有してもよい。
【0019】
上記真空噴霧凍結用ノズルによれば、対象面から孔内面に向く方向で接触角が下がる領域が表面粗さの差異によって具体化されるため、対象部材に表面加工を施すような汎用的な方法によって上述した効果が得られる。
【0020】
上記課題を解決するための凍結乾燥装置は、真空室と、前記真空室内に原料液を噴射する真空噴霧凍結用ノズルと、前記真空噴霧凍結用ノズルに前記原料液を供給する供給部と、を備え、前記真空噴霧凍結用ノズルは、上記真空噴霧凍結用ノズルである。
【0021】
上記課題を解決するための造粒方法は、真空噴霧凍結用ノズルに原料液を供給すること、および、前記真空噴霧凍結用ノズルから真空室内に原料液を噴射して前記原料液からなる粒を前記真空室内で自己乾燥させることを含む造粒方法であって、前記真空噴霧凍結用ノズルが上記真空噴霧凍結用ノズルである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る真空噴霧凍結用ノズル、凍結乾燥装置、および造粒方法によれば、原料液の円滑な流れを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】凍結乾燥装置の一実施形態における装置構成を示す構成図。
【
図2】真空噴霧凍結用ノズルにおける断面構造の一例を示す断面図。
【
図3】真空噴霧凍結用ノズルにおける断面構造の他の例を示す断面図。
【
図4】真空噴霧凍結用ノズルにおける断面構造の他の例を示す断面図。
【
図5】真空噴霧凍結用ノズルにおける断面構造の他の例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、
図1および
図4を参照して、凍結乾燥装置、真空噴霧凍結用ノズル、および造粒方法の一実施形態を説明する。凍結乾燥は、水の相図において圧力が三重点以下となる真空中に、真空噴霧凍結用ノズルから原料液を噴射し、原料液に含まれる液体および固体から蒸発潜熱を奪い、原料液を自己凍結させる。
【0025】
図1が示すように、凍結乾燥装置10は、供給部11、真空室21、真空ポンプ31、および噴射器41を備える。供給部11は、原料液を噴射器41に供給する。真空室21は、真空ポンプ31の駆動によって真空室21の内部を排気する。噴射器41は、供給部11から供給される原料液を真空室21の内部に噴射する。
【0026】
供給部11が供給する原料液は、例えば、医薬品、食品、化粧品などの原料を含み、原料の粉末が溶媒に溶解された液体、原料の粉末が溶媒に溶解された液状体、または、原料の粉末が分散媒に分散した液体や液状体である。液状体は、固体と液体との間に位置付けられる液体よりも粘度が高い流体である。原料液の一例は、アルブミンを含むアルブミン水溶液、またマンニトールを含むマンニトール水溶液である。
【0027】
水溶液に含まれる水は、例えば、70重量%以上である。水溶液における水の含有量が70重量%以上であることは、水から蒸発潜熱を奪いやすい観点において好ましい。例えば、水溶液における水の含有量が70重量%以上であることは、噴射器41から噴射された原料液の表層がトレイ21Tに到達する前に固相に変化しても、表層以外の液相から固相に変化した表層を通じて蒸発潜熱を奪うことができる。
【0028】
供給部11は、原料液が貯留される容器と、容器に貯留された原料液の流量を調整する調整部とを備えてもよい。供給部11が備える調整部は、原料液の体積流量を調整してもよいし、原料液の質量流量を調整してもよい。また、供給部11が備える調整部は、噴射器41が噴射する流量と容器の圧力とが比例する前提において、容器の内部に不活性ガスを供給し、これによって、容器の内圧と真空室21の内圧との差圧を調整してもよい。容器の内圧は、例えば0MPa以上0.5MPa以下である。
【0029】
真空室21は、上面と底面とを有した円筒形状を有してもよい。真空室21は、真空室の内部空間である真空空間21Sを区切る。真空空間21Sの圧力は、水の相図において三重点以下の値である。真空空間21Sの圧力は、真空ポンプ31の駆動によって、0.1Pa以上500Pa以下のなかのいずれかの値に調整されてもよい。なお、0.1Pa以上500Pa以下は、真空空間21Sの全圧ではなく、真空空間21Sのなかの水分圧であることが好ましい。
【0030】
噴射器41は、真空室21の上面に配置されてもよいし、真空室21の側面に配置されてもよいし、真空室21の底面に配置されてもよい。噴射器41は、供給部11に接続されている。噴射器41は、真空噴霧凍結用ノズル43を備える。真空噴霧凍結用ノズル43は、供給部11から供給された原料液を真空空間21Sの内部に噴射する。噴射後の原料液は、真空空間21Sの内部において霧とはならず、後述する液柱L1を生成するから、原料液を噴射することは、原料液を射出することに言い換えることも可能である。真空室21は、噴射器41の周囲にコールドトラップを備えてもよい。コールドトラップは、原料液に含まれる原料を吸着しない一方で、噴射器41から減圧下に導入されて気化した水蒸気を吸着排気する。
【0031】
真空空間21Sの内部に噴射される原料液は、真空噴霧凍結用ノズル43から液柱L1を形成する。液柱L1の長さは、原料液の粘度、真空噴霧凍結用ノズル43が備える噴射孔51の内径、噴射孔51から噴射されるときの圧力、真空空間21Sの圧力などによって定まる。原料液がマンニトール水溶液である場合、噴射孔51の内径の一例は150μmであり、噴射されるときの圧力の一例は0.5MPaであり、真空空間21Sの圧力の一例は50Paである。この例において、液柱L1の長さは、約400mmである。
【0032】
液柱L1は、原料液における表面張力の作用などを受けて、噴射された時点から時間が経過するに連れて、不安定な柱状から安定的な粒状に変形し、最終的に原料液の粒である液滴L2に分断される。液柱L1、および液滴L2に含まれる液体成分は、真空空間21Sにおいて、原料などから蒸発潜熱を奪って蒸発する。蒸発潜熱を奪われた液滴L2は、自己凍結をはじめて凍結粒子L3に変わる。ここで、凍結粒子L3は、自己凍結の結果として液滴L2の少なくとも表層が液相から固相に変化した粒子である。なお、液滴L2から凍結粒子L3に変形した直後において、凍結粒子L3の表層は、液相と固相との両相が発現した2相状態でもよい。ただし、凍結粒子L3がトレイ21Tに堆積する直前までに、凍結粒子L3が相互に接合不能となる程度に、凍結粒子L3の表層で固相の形成が進行するように、装置の噴射量などが調整されている。凍結粒子L3に含まれる液体成分の固相分(固化分)も、原料などから昇華潜熱を奪って蒸発する。これにより、原料の粒が自己凍結して、原料の凍結乾燥物である凍結粒子L3が、トレイ21Tの上に堆積する。なお、液相または固相から気相に相変化することが、液滴L2において熱を支配的に抜熱するとき、原料液の粒における表層の全てが固相に変わる。こうした凍結現象を自己凍結という。自己凍結が発現される条件として、液滴L2の大きさが十分に小さいこと、および液滴L2の置かれる環境の水分圧が三重点以下であることを要する。
【0033】
トレイ21Tは、搬送機構などの駆動を通じて、真空室21に接続された乾燥室などに真空室21から搬出されてもよい。乾燥室は、凍結粒子L3を乾燥するための赤外線ヒーターなどの加熱装置を備え、乾燥室に搬入された凍結粒子L3を乾燥する。
【0034】
図2が示すように、噴射器41は、導入管42、真空噴霧凍結用ノズル43、および固定リング44を備える。導入管42は、真空室21の上面に固定される。導入管42の内部42Sは、供給部11から原料液を受け入れる。導入管42は、供給部11から受け入れた原料液を真空噴霧凍結用ノズル43に導入する。導入管42は、円筒状を有してもよいし、多角管状を有してもよい。導入管42の先端部は、真空噴霧凍結用ノズル43を支持するための支持リング42Aを備えてもよい。
【0035】
真空噴霧凍結用ノズル43は、導入管42から導入される原料液を真空空間21Sに噴射する。真空噴霧凍結用ノズル43は、導入管42の内部と、真空空間21Sとの間を貫通する噴射孔51を備える。噴射孔51の数量は、導入管42に1つずつであってもよいし、導入管42に2つずつ以上であってもよい。真空噴霧凍結用ノズル43は、板状を有してもよいし、噴射孔51を備える底部を備える筒状を有してもよい。
【0036】
真空噴霧凍結用ノズル43は、噴射孔51が真空空間21Sに向けて開口するように、支持リング42Aと固定リング44とに挟持されてもよいし、導入管42のみに支持されてもよいし、導入管42と一体に構成されてもよい。真空噴霧凍結用ノズル43が支持リング42Aと固定リング44とに挟持される場合、支持リング42Aと固定リング44とは、締付部材45によって固定されてもよい。真空噴霧凍結用ノズル43が支持リング42Aと接続される場合、支持リング42Aと真空噴霧凍結用ノズル43との間には、Oリングなどの封止部材が介在してもよい。
【0037】
図3が示すように、真空噴霧凍結用ノズル43は、流入面S1と噴射面S2とを備える。
流入面S1は、噴射孔51が開口した面であり、真空噴霧凍結用ノズル43のなかで導入管42の内部と対向する面である。流入面S1は、水平面などの平面でもよいし、曲面でもよい。流入面S1は、導入管42の内部に向けて突き出る突曲面でもよいし、噴射面S2に向けて突き出る突曲面でもよい。
【0038】
噴射面S2は、噴射孔51が開口した面であり、真空噴霧凍結用ノズル43のなかで真空空間21Sに曝される面である。噴射面S2は、トレイ21Tと対向する面でもよいし、真空空間21Sのなかでトレイ21T以外の部材と対向する面でもよい。噴射面S2は、水平面などの平面でもよいし、曲面でもよい。噴射面S2は、真空空間21Sに向けて突き出る突曲面でもよいし、流入面S1に向けて突き出る突曲面でもよい。
【0039】
噴射孔51は、流入面S1と噴射面S2との間を貫通している。噴射孔51は、流入面S1から噴射面S2に向けて延びる一定の直径を有した円形孔でもよい。噴射孔51の孔内面51Sは、流入面S1、噴射面S2、および真空噴霧凍結用ノズル43のバルクと、噴射孔51とを区切る面である。噴射孔51が円形孔である場合、噴射孔51の孔内面51Sは、流入面S1から噴射面S2に向けて延びる円筒面である。噴射孔51の内径51Rは、0.05mm以上0.5mm以下でもよい。噴射孔51の内径は、液柱L1の太さ、ひいては、液滴L2の大きさを左右する。噴射孔51の内径51Rは、凍結粒子L3の大きさに応じて適宜選択される。また、流入面S1と噴射面S2との間の距離である噴射孔51の長さは、流体の抵抗として機能し、液柱L1の太さ、ひいては、液滴L2の大きさや粒径の分布を左右する。液柱L1の形状を安定させられる観点において、一般に、流体の抵抗は低いことが好ましく、噴射孔51の長さは、数mmに設定される。
【0040】
図4が示すように、噴射孔51は、流入面S1から噴射面S2に向けて延びる円錐台孔と、噴射面S2から流入面S1に向けて延びる円錐台孔と、各円錐台孔を接続する円形孔とから構成されてもよい。この場合、噴射孔51の孔内面51Sは、第1錘台筒面511S、第2錘台筒面512S、および円筒面513Sから構成されてもよい。第1錘台筒面511Sは、流入口H1を底部として、流入面S1から噴射面S2に向けて延びる。第2錘台筒面512Sは、噴射口H2を底部として、噴射面S2から流入面S1に向けて延びる。1つの円筒面513Sは、一定の直径を有し、錘台筒面511Sの頂部と、錘台筒面512Sの頂部とを連結する。
【0041】
また、噴射孔51は、流入面S1から噴射面S2に向けて延びる円錐台孔と、当該円錐台孔と噴射面S2とを接続する円形孔とから構成されてもよい。この場合、噴射孔51の孔内面51Sは、第1錘台筒面511Sと、第1錘台筒面511Sから噴射面S2に至る1つの円筒面とから構成されてもよい。あるいは、噴射孔51は、流入面S1から噴射面S2に向けて延びる円形孔と、当該円形孔から噴射面S2に向けて延びる円錐台孔とから構成されてもよい。この場合、噴射孔51の孔内面51Sは、流入面S1から噴射面S2に向けて延びる1つの円筒面と、当該円筒面から噴射面S2に至る第2錘台筒面512Sとから構成されてもよい。
【0042】
図5が示すように、噴射孔51は、流入面S1から噴射面S2に向けて延びる円錐台孔でもよい。あるいは、噴射孔51は、噴射面S2から流入面S1に向けて延びる円錐台孔でもよい。この場合、噴射孔51の孔内面51Sは、流入面S1から噴射面S2に向けて先細る錘台筒面でもよいし、噴射面S2から流入面S1に向けて先細る錘台筒面でもよい。
【0043】
孔内面51Sと流入面S1との境界は、噴射孔51における一方の開口である流入口H1である。孔内面51Sと噴射面S2との境界は、噴射孔51における他方の開口である噴射口H2である。流入口H1は、噴射孔51に原料液を入れる開口である。噴射口H2は、真空空間21Sに原料液を出す開口である。
【0044】
流入面S1と噴射面S2との少なくとも一方は対象面である。対象面と孔内面51Sとから構成される表面は、対象面から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域を備える。対象面から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域は、当該方向と直交する方向において接触角を上げる領域でもよい。
【0045】
対象面から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域は、より低い接触角を有した部位に向けて原料液の流れを誘導する。対象面から孔内面51Sに向く方向と直交する方向において接触角を上げる領域もまた、対象面から孔内面51Sに向く方向に原料液の流れを誘導する。
【0046】
対象面から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域は、接触角を一段下げる領域でもよいし、接触角を多段階で下げる領域でもよいし、接触角を連続的に下げる領域でもよい。接触角が段階的に下がる場合、接触角の境界となる位置は、対象面の内部でもよいし、対象面と孔内面51Sとの境界でもよいし、孔内面51Sの内部でもよい。
【0047】
流入面S1が対象面である場合、対象面から孔内面51Sに向く方向は、(i)流入面S1のなかにおいて流入面S1に沿う方向であり、流入面S1における流入口H1の外側から流入口H1に向く方向を成分として有する第1誘導方向DS1でもよい。第1誘導方向DS1は、噴射孔51の径方向でもよいし、当該径方向を成分として有した旋回方向でもよい。
【0048】
流入面S1が対象面である場合、対象面から孔内面51Sに向く方向は、(ii)流入面S1から孔内面51Sに入る方向でもよい。流入面S1から孔内面51Sに入る方向は、流入方向DH1である。流入方向DH1は、孔内面51Sのなかの流入口H1から孔内面51Sの延在方向の中心位置51Cまでの範囲に適用される。流入方向DH1は、孔内面51Sに沿う方向であり、流入口H1から噴射口H2に向く方向を成分として有する。流入方向DH1は、噴射孔51の延在方向でもよいし、該延在方向を成分として有した螺旋方向でもよい。
【0049】
流入面S1が対象面である場合、対象面から孔内面51Sに向く方向は、流入面S1においては第1誘導方向DS1を有し、かつ、孔内面51Sにおいては流入方向DH1を有してもよい。
【0050】
噴射面S2が対象面である場合、対象面から孔内面51Sに向く方向は、(iii)噴射面S2のなかにおいて噴射面S2に沿う方向であり、噴射面S2における噴射口H2の外側から噴射口H2に向く方向を成分として有する第2誘導方向DS2でもよい。第2誘導方向DS2は、噴射孔51の径方向でもよいし、当該径方向を成分として有した旋回方向でもよい。
【0051】
噴射面S2が対象面である場合、対象面から孔内面51Sに向く方向は、(iv)噴射面S2から孔内面51Sに入る方向でもよい。噴射面S2から孔内面51Sに入る方向は、反流入方向DH2である。反流入方向DH2は、孔内面51Sのなかの噴射口H2から孔内面51Sの延在方向の中心位置51Cまでの範囲に適用される。反流入方向DH2は、孔内面51Sに沿う方向であり、噴射口H2から流入口H1に向く方向を成分として有する。反流入方向DH2は、噴射孔51の延在方向でもよいし、該延在方向を成分として有した螺旋方向でもよい。
【0052】
噴射面S2が対象面である場合、対象面から孔内面51Sに向く方向は、噴射面S2においては第2誘導方向DS2を有し、かつ、孔内面51Sにおいては反流入方向DH2を有してもよい。
【0053】
例えば、
図3、4、5が示す真空噴霧凍結用ノズル43は、流入面S1と孔内面51Sとの境界である流入口H1の少なくとも一部において、流入面S1から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域を備えてもよい。また、真空噴霧凍結用ノズル43は、流入面S1のなかで流入口H1よりも噴射孔51の外側において、流入面S1から孔内面51Sに向く第1誘導方向DS1で接触角が下がる領域を備えてもよい。また、真空噴霧凍結用ノズル43は、孔内面51Sのなかで流入口H1から中心位置51Cまでの範囲において、流入方向DH1で接触角が下がる領域を備えてもよい。
【0054】
例えば、
図4が示す真空噴霧凍結用ノズル43の第1錘台筒面511Sは、流入方向DH1で接触角が下がる領域を備えてもよい。また、真空噴霧凍結用ノズル43は、第1錘台筒面511Sと円筒面513Sとの境界から中心位置51Cまでの範囲において、流入方向DH1で接触角が下がる領域を備えてもよい。
【0055】
また、真空噴霧凍結用ノズル43は、第1錘台筒面511Sと円筒面513Sとの境界において、流入方向DH1で接触角が下がる領域を備えてもよい。この際、噴射孔51の中心軸を含む真空噴霧凍結用ノズル43の断面において、円筒面513Sに対する第1錘台筒面511Sの角度は、第1錘台筒面511Sの接触角と円筒面513Sにおける接触角との差分値よりも大きくてもよいし、当該差分値以下でもよい。原料液の流れをより円滑にする観点において、円筒面513Sに対する第1錘台筒面511Sの角度、すなわち円筒面513Sの延長面と第1錘台筒面511Sとが形成する角度は、第1錘台筒面511Sの接触角と円筒面513Sにおける接触角との差分値よりも大きいことが好ましい。
【0056】
例えば、
図3、4、5が示す真空噴霧凍結用ノズル43は、噴射面S2と孔内面51Sとの境界である噴射口H2の少なくとも一部において、噴射面S2から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域を備えてもよい。また、真空噴霧凍結用ノズル43は、噴射面S2のなかで噴射口H2よりも噴射孔51の外側において、噴射面S2から孔内面51Sに向く第2誘導方向DS2で接触角が下がる領域を備えてもよい。また、真空噴霧凍結用ノズル43は、孔内面51Sのなかで噴射口H2から中心位置51Cまでの範囲において、反流入方向DH2で接触角が下がる領域を備えてもよい。
【0057】
例えば、
図4が示す真空噴霧凍結用ノズル43の第2錘台筒面512Sは、反流入方向DH2で接触角が下がる領域を備えてもよい。また、真空噴霧凍結用ノズル43は、第2錘台筒面512Sと円筒面513Sとの境界から中心位置51Cまでの範囲において、反流入方向DH2で接触角が下がる領域を備えてもよい。
【0058】
また、真空噴霧凍結用ノズル43は、第2錘台筒面512Sと円筒面513Sとの境界において、反流入方向DH2で接触角が下がる領域を備えてもよい。この際、噴射孔51の中心軸を含む真空噴霧凍結用ノズル43の断面において、円筒面513Sに対する第2錘台筒面512Sの角度は、円筒面513Sにおける接触角と第2錘台筒面512Sの接触角との差分値よりも大きくてもよいし、当該差分値以下でもよい。原料液の流れをより円滑にする観点において、円筒面513Sに対する第2錘台筒面512Sの角度、すなわち円筒面513Sの延長面と第2錘台筒面512Sとが形成する角度は、円筒面513Sにおける接触角と第2錘台筒面512Sの接触角との差分値よりも大きいことが好ましい。
【0059】
接触角は、JIS R 3257:1999に準拠した静滴法による水の前進接触角である。対象面から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域は、第1誘導方向DS1、第2誘導方向DS2、流入方向DH1、および反流入方向DH2において接触角が下がる領域である。
【0060】
各方向DS1,DS2,DH1,DH2において接触角が下がる領域は、真空噴霧凍結用ノズル43の表面において、表面撥液層の有無によって実現されてもよいし、表面撥液層における撥液性能の差異によって実現されてもよい。また、各方向DS1,DS2,DH1,DH2において接触角が下がる領域は、真空噴霧凍結用ノズル43の表面において、表面凹凸構造の有無によって実現されてもよいし、表面凹凸構造における流動性能の差異によって実現されてもよい。また、各方向DS1,DS2,DH1,DH2において接触角が下がる領域は、真空噴霧凍結用ノズル43の表面において、表面粗さの大小によって実現されてもよい。あるいは、各方向DS1,DS2,DH1,DH2において接触角が下がる領域は、表面撥液層における表面凹凸構造の有無によって実現されてもよいし、表面撥液層における表面凹凸構造での流動性能の差異によって実現されてもよいし、表面撥液層における表面粗さの大小によって実現されてもよい。
【0061】
表面撥液層は、表面撥液層を備えない真空噴霧凍結用ノズル43よりも、真空噴霧凍結用ノズル43の表面において、原料液を撥液する。表面撥液層を構成する材料は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)からなる群から選択される少なくとも1つである。表面撥液層を構成する材料は、例えば、撥水性樹脂と共析されためっき被膜、あるいは、撥水性シランカップリング処理された、亜鉛-ニッケル-シリカ複合めっき被膜である。表面撥液層を構成する材料は、高い撥液性が得られる観点において、フッ素樹脂を含むことが好ましい。また、表面撥液層は、表面撥液層の機械的な耐久性が得られる観点において、フッ素樹脂と共析されためっき被膜であることが好ましい。フッ素樹脂と共析されためっき被膜であれば、表面撥液層のなかにフッ素樹脂が均一に分布しやすく、フッ素樹脂による撥液性と、めっき被膜による耐久性とが、表面撥液層の全体で均一に得られやすい。
【0062】
表面撥液層は、例えば、PTFEと共析されたニッケルめっき被膜である。ニッケルめっき被膜は、例えば、PTFEを30%含む無電解ニッケルめっき被膜である。無電解ニッケルめっき被膜であれば、フッ素樹脂の一例であるPTFEがニッケルめっき被膜のなかに均一に分布しやすく、これにより、液体成分の撥液性を表面撥液層のほぼ全体で均一に得られやすい。また、ニッケルめっき被膜であれば、原料液のなかに粉末などが含まれる場合であっても、粉末に対する耐摩耗を表面撥液層において得られる。
【0063】
表面凹凸構造は、真空噴霧凍結用ノズル43の表面に微細加工された各方向DS1,DS2,DH1,DH2に沿う筋状の凹凸である。流入面S1、噴射面S2、あるいは孔内面51Sにおける表面凹凸構造は、レーザー加工やウォータージェット切断などの切断加工によって形成される縦筋でもよい。また、流入面S1、噴射面S2、あるいは孔内面51Sにおける表面凹凸構造は、ブローチ加工やシェーパー加工やスロッター加工などの切削加工、研削加工などによって形成された縦筋でもよい。また、孔内面51Sにおける表面凹凸構造は、ワイヤー放電加工や電極放電加工などの放電加工によって形成された縦筋でもよい。さらに、流入面S1、噴射面S2、あるいは孔内面51Sにおける表面凹凸構造は、原料液に含まれる粒子を用いた予備的噴射の繰り返しによる粒子と表面との衝突を通じ、流入面S1、噴射面S2、あるいは孔内面51Sに形成された筋でもよい。
【0064】
表面粗さは、真空噴霧凍結用ノズル43の表面に加工された各方向DS1,DS2,DH1,DH2での凹凸の大小である。表面粗さは、算術平均高さでもよいし、最大高さでもよいし、最大谷深さでもよい。表面粗さを定める凹凸構造は、表面凹凸構造で説明した加工方法を用いて形成される。
【0065】
表面凹凸構造が有する凹凸の大きさ、および表面粗さを定める凹凸の大きさと、接触角との関係は、原料液に対する表面の化学的性状が、撥液性であるか、あるいは親液性であるかに基づいて異なる。
【0066】
例えば、対象面や孔内面51Sの化学的性状が親液性である場合、表面凹凸構造を構成する凹凸や、表面粗さの大小を定める凹凸での内部全体と原料液とが接していると、原料液に対する表面積は、凹凸の分だけ拡大して表面での濡れ性を強調する。すなわち、表面の全体が水と接する程度に大きい凹凸で表面が構成されている場合、対象面、あるいは孔内面51Sが濡れ性を強調する。そして、各方向DS1,DS2,DH1,DH2に延びる表面凹凸構造は、原料液を親液する親液性を強調し、凹凸が延在する方向に原料液の流れを誘導する。
【0067】
例えば、対象面や孔内面51Sの化学的性状が撥液性である場合、表面凹凸構造を構成する凹凸の先端のみと原料液とが接していると、原料液に対する表面積は、凹凸の分だけ縮小して表面での撥液性を強調する。すなわち、凸部の先端のみが水と接する程度に小さい凹凸で表面が構成されている場合、対象面、あるいは孔内面51Sで濡れ性の抑制が強調される。そして、各方向DS1,DS2,DH1,DH2に延びる表面凹凸構造は、当該方向と直交する方向での濡れ性の抑制を強め、凹凸が延在する方向に原料液の流れをさらに強く誘導する。
【0068】
[作用]
上記真空噴霧凍結用ノズルを用いた造粒方法は、真空噴霧凍結用ノズル43に原料液を供給すること、および、真空噴霧凍結用ノズル43から真空室21の内部に原料液を噴射して原料液からなる粒を真空室21の内部で自己乾燥させることを含む。
【0069】
噴射器41に供給された原料液は、導入管42から流入面S1を通り、流入口H1から孔内面51Sの内部に入る。孔内面51Sの内部に入った原料液は、噴射口H2から真空空間21Sに噴射される。噴射口H2から噴射された原料液は、噴射口H2から延在する液柱L1を形成する。液柱L1に含まれる液体成分は、真空空間21Sにおいて、原料液などから蒸発潜熱を奪って蒸発する。蒸発潜熱を奪われた液滴L2は、自己凍結をはじめて凍結粒子L3に変わる。凍結粒子L3に含まれる液体成分の固相分(固化分)も、原料などから昇華潜熱を奪って蒸発する。これにより、原料の粒が自己凍結して、原料の凍結乾燥物である凍結粒子L3が、トレイ21Tの上に堆積する。
【0070】
なお、液柱L1、および液滴L2は、噴射口H2の近傍において歳差運動を行い、これによって、
図1における凍結粒子L3が円錐形状に分布する、すなわち断面視において放射状に分布する。言い換えれば、液柱L1、および液滴L2の歳差運動は、原料液が噴射される期間にわたり、直線状に連なる液柱L1の位置、および直線上に点在する液滴L2の位置を、直線における延在方向の変化に合わせて変える。そして、
図1では、上述した歳差運動と、気相に転換したガスの流れとが相まって、トレイ21Tにおける凍結粒子L3の着弾位置が一定の範囲に広がることを示している。ちなみに、高速度カメラを用いて凍結粒子L3の生成過程を観察した結果、液滴L2から凍結粒子L3への変化は、液相から固相への相変化のみである。また、凍結粒子L3の進行方向は、液滴L2の進行方向に追従した方向であり、慣性の法則にほぼ従った軌跡を描いて、トレイ21Tに向かい着弾していることが認められた。
【0071】
ここで、原料液の噴射開始に先駆けて、原料液が流入面S1で滞留したり、原料液の流れが流入口H1で淀んだりすると、噴射口H2から流れ出る原料液のなかに気泡が介在したり、噴射孔51を流れ出る原料液のなかで脈動が生じたりする。この他、原料液に溶存する気体などが遠因として存在し、キャビテーションと疑われる現象が発生する。気泡の介在や脈動などは液柱L1の不安定化を招来させるために、原料液の噴射開始に先駆けて、定常的な原料液の流れが形成されるまで、より多くの原料液を予備的に流すことが強いられている。なお、原料液の噴射終了の直前においても同様に、原料液が流入面S1で滞留したり、原料液の流れが流入口H1で淀んだりすると、噴射口H2から流れ出る原料液のなかに気泡が介在したり、噴射孔51を流れ出る原料液のなかで脈動が生じたりする。そして、原料液の噴射終了においては、定常的な原料液の流れを担保するために、より多くの原料液を供給系に残して処理を終えることが強いられている。
【0072】
この点、流入面S1から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域は、流入面S1と孔内面51Sとの境界に位置する原料液を、流入面S1から孔内面51Sに向けて押し流す駆動力を発現する。また、上記(i)の構成のように、流入面S1から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域は、流入口H1の周囲に位置する原料液を、流入口H1に向けて押し流す駆動力を発現する。また、上記(ii)の構成のように、流入面S1から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域は、噴射孔51の内部において原料液の流れを円滑なものとして、原料液の流れを流入口H1から噴射口H2に向ける駆動力を発現する。
【0073】
そのため、流入面S1から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域は、噴射開始や噴射終了において、原料液の流れを円滑なものとして、気泡の介在や流れの脈動を抑える。結果として、原料液の噴射開始に先駆けた原料液の排出量が抑えられたり、原料液の噴射終了に備えた原料液の残存量が抑えられたりする。なお、流入口H1の近傍おける円滑な原料液の流れとは、真空噴霧凍結用ノズル43と原料液との接触界面において当該近傍の上流よりも流体抵抗が低減される流れであると解されるものである。
【0074】
また、原料液が噴射されている最中においては、噴射口H2から噴射された原料液のなかの一部が、液柱L1を形成せずに、あるいは、液柱L1から切り離されて(分裂して)、噴射口H2の周囲に向かって微小液滴として飛散する。粘度の高い原料液においては、水などの粘度が低い原料液と比べて、特に、より多くの微小液滴が形成され得る。飛散した微小液滴の多くは、噴射口H2の周囲に到達し、噴射面S2のうえで自己凍結して乾燥する。噴射面S2で自己凍結した原料液は、他の原料液と接触して相転移することもなく、固相として存在し続けて、原料液の噴射方向や液柱L1の成長する方向を変えてしまう。
【0075】
この点、噴射面S2から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域は、噴射面S2と孔内面51Sとの境界に位置する原料液を、噴射面S2から孔内面51Sに向けて押し戻す駆動力を発現する。また、上記(iii)の構成のように、噴射面S2から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域は、噴射口H2からその周囲にはみ出す原料液を、噴射口H2に向けて押し戻す駆動力を発現する。また、上記(iv)の構成のように、噴射面S2から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域は、噴射口H2に到達する原料液の流れが噴射口H2の外側に向きにくいように、噴射口H2の近くで接触角を上げることを実現する。これにより、噴射孔51から押し出される原料液が、噴射口H2の周囲に向けて飛散することを抑え、液柱L1を円滑に形成することが可能となる。
【0076】
特に、円筒面513Sに対する第2錘台筒面512Sの角度が、円筒面513Sにおける接触角と第2錘台筒面512Sの接触角との差分値よりも大きい場合、噴射孔51の構造による飛散の抑制と、孔内面51Sの接触角による飛散の抑制とが相まって、液柱L1がより円滑に形成される。なお、噴射孔51の構造による飛散の抑制は、原料液の流れる経路を円筒面513Sから第2錘台筒面512Sに切り換え、これにより、原料液と孔内面51Sとの接触を噴射口H2の前段で徐々に抑えることである。
【0077】
このように、噴射面S2から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域は、噴射開始や噴射終了のみならず、噴射最中においても、原料液の流れを円滑なものとして、原料液が微小液滴として飛散すること、および飛散した微小液滴が噴射口H2の周囲で固着することを抑える。結果として、原料液の円滑な流れが実現されて、凍結乾燥による生成物の粒径などにばらつきが生じることが抑えられる。
【0078】
なお、噴射口H2の近傍における円滑な原料液の流れとは、押し出される原料液に応じ、分裂せずに一定形状の液柱L1の表面が連続的に新生され続ける現象として解釈することもできる。仮に分裂した原料液らが存在したとしても、噴射口H2へと向かう駆動力により、各表面は速やかに液柱L1表面へと合一され、動的に安定な流れが形成される。これを円滑の定義としてもよい。
【0079】
以上、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)対象面が噴射面S2である場合、噴射面S2から孔内面51Sに向く方向で原料液を戻すような駆動力を原料液が発現して、噴射口H2の周囲に向けた原料液の飛散が抑えられる。
【0080】
(2)対象面が流入面S1である場合、流入面S1から孔内面51Sに向く方向で原料液を押し流すような駆動力を原料液が発現し、原料液の噴射開始、あるいは原料液の噴射終了において、噴射孔51の内部に滞りなく原料液が流れ込む。すなわち、原料液の円滑な流れが実現される。
【0081】
(3)噴射面S2から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がり、かつ噴射口H2で接触角が下がる場合、噴射面S2と孔内面51Sとの境界に位置する原料液は、噴射孔51の内部に向けて押し戻されるような駆動力を発現する。これにより、噴射口H2の周囲に向けた飛散が、より効果的に抑えられる。
【0082】
(4)上記(ii)のように、流入方向DH1で接触角が下がる領域を孔内面51Sが有する場合、噴射孔51の内部に位置する原料液を孔内面51Sに沿って円滑に押し流すことが可能となる。
【0083】
(5)上記(iv)のように、反流入方向DH2で接触角が下がる領域を孔内面51Sが有する場合、噴射口H2に到達する際の原料液の流れが噴射口H2の外側に向きにくいように、原料液が噴射口H2に向けて押し流される。これにより、噴射孔51から押し出される原料液が、噴射口H2の周囲に向けて飛散することを抑え、液柱L1を円滑に形成することが可能となる。
【0084】
(6)接触角が段階的に下がる場合、撥液性を有した表面層の有無や、撥液性を有した表面構造の有無などのように、表面加工の有無によって、上記(1)から(5)に準じた効果が得られる。これによって、真空噴霧凍結用ノズルのなかで表面加工の程度を徐々に変える製造と比べて、真空噴霧凍結用ノズルの製造負荷が高まることが抑制可能ともなる。
【0085】
(7)噴射孔51が一定の直径を有した円形孔である場合、流入口H1から噴射口H2までの孔加工を容易にすること、および孔寸法の精度確保を容易にすることが可能ともなる。
【0086】
(8)円筒面513Sと第2錘台筒面512Sとが形成する角度が、円筒面513Sの接触角と第2錘台筒面512Sの接触角との差分値よりも大きい場合、接触角による原料液の誘導に加え、噴射孔51の構造によっても、噴射口H2の周囲に向けた飛散を抑えることが可能ともなる。
【0087】
(9)対象面から孔内面51Sに向く方向で接触角が下がる領域が表面凹凸構造や表面粗さの差異による場合、真空噴霧凍結用ノズル43に表面加工を施すような汎用的な方法によって上記(1)から(8)に準じた効果が得られる。
【0088】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。
・固定リング44のようなカバーは、噴射孔51から真空空間21Sに向けて拡開された孔を有してもよい。すなわち、カバーが有する孔は、噴射孔51に向けて先細る錘台筒面状を有してもよい。また、カバーが有する孔は、噴射孔51よりも十分に大きい径を有した円筒面状であってもよい。
【0089】
・カバーの表面もまた、原料液の液体成分を撥液する撥液性を備えてもよい。この構成であれば、噴射孔51の周囲に凍結乾燥物が堆積することを、さらに抑制することが可能ともなる。なお、カバーの表面が備える撥液性は、カバーそのものが撥液性を有した材料から構成されてもよいし、カバーの表面が撥液層から構成されてもよい。
【0090】
・撥液層は、真空噴霧凍結用ノズル43の表面に塗布された撥水性シランカップリング剤であってもよい。
・真空噴霧凍結用ノズル43を構成する材料は、例えば、PTFE、PFA、および、FEPなどの撥水性樹脂であってもよい。この際、撥液層が割愛されて、真空噴霧凍結用ノズル43の外表面が、真空噴霧凍結用ノズルの外表面であって、撥液性を備えた面であってもよい。すなわち、真空噴霧凍結用ノズルの外表面における撥液性は、真空噴霧凍結用ノズル43の撥液性によって担われてもよい。
【0091】
・接触角を連続的に下げる領域は、2種類の接触角を持つ領域を櫛歯状に配する構成でもよい。流入面S1と対向する視点から見て、流入面S1のなかで接触角を連続的に下げる領域は、上記櫛歯状の各歯を二等辺三角形の斜辺で構成し、二等辺三角形の底部から頂部へ向けた方向で、一方の接触角を有する領域の面積を連続的に0%から100%に変化させてもよい。噴射面S2と対向する視点から見ても同じく、噴射面S2のなかで接触角を連続的に下げる領域は、上記櫛歯状の各歯を二等辺三角形の斜辺で構成し、二等辺三角形の底部から頂部へ向けた方向で、一方の接触角を有する領域の面積を連続的に0%から100%に変化させてもよい。
【0092】
すなわち、接触角を連続的に下げる領域は、相互に異なる2種類の接触角を有した領域での各面積について、一方で連続的に増加させると共に、他方で連続的に減少させる構成でもよい。このような構成であれば、2種類の接触角を有した領域において、単位面積あたりの接触角は、各接触角を有した領域の面積比による寄与を合一させた値、すなわち各接触角の面積比で合一した接触角として、液状体に作用することになる。なお、櫛歯状における歯のピッチ幅は、例えば分裂した原料液において想定される液滴径の1/2以下であれば、分裂した液滴に対し十分な駆動力を発揮することが可能となる。
【0093】
・撥液層や表面凹凸構造は、噴射孔51から割愛されて、真空噴霧凍結用ノズルの噴射面にのみ位置する構成であってもよい。また、撥液層や表面凹凸構造は、真空噴霧凍結用ノズルの噴射面のなかで、噴射孔51を囲う部分にのみ位置する構成であってもよい。
【0094】
・対象面から孔内面51Sに向く方向は、上記(i)から(iv)の少なくとも1つであればよい。
・真空室21は、凍結乾燥物を加熱する加熱機構を搭載してもよい。加熱機構を搭載する構成であれば、凍結乾燥物の加熱による乾燥を促すことも可能となる。
【符号の説明】
【0095】
L1…液柱
L2…液滴
L3…凍結粒子
10…凍結乾燥装置
11…供給部
21…真空室
21S…真空空間
21T…トレイ
31…真空ポンプ
41…噴射器
42…導入管
42A…支持リング
43…真空噴霧凍結用ノズル
44…固定リング
45…締付部材
51…噴射孔
511S…第1錘台筒面
512S…第2錘台筒面
513S…円筒面