(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】非水系電解液及び非水系電解液電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20241031BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241031BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241031BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241031BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241031BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20241031BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20241031BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20241031BHJP
H01G 11/46 20130101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/525
H01G11/64
H01G11/62
H01G11/06
H01G11/46
(21)【出願番号】P 2021524899
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2020022088
(87)【国際公開番号】W WO2020246540
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019104306
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019118074
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019118148
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019118145
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020073075
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本多 立彦
(72)【発明者】
【氏名】徳田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】川上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山口 亮
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-239426(JP,A)
【文献】特開2019-040721(JP,A)
【文献】特開2003-346900(JP,A)
【文献】特開2008-269978(JP,A)
【文献】国際公開第2019/093159(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/031508(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1a)FSO
3Liを含み、
(1b)ニッケルイオン(a)、コバルトイオン(b)、銅イオン(c)、マンガンイオン(d)及びアルミニウムイオン(e)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含み、かつ
(1c)以下の条件(i)~(v)の少なくとも一つを満たす非水系電解液。
(i) 前記(a)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(ii) 前記(b)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(iii) 前記(c)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(iv) 前記(d)の濃度が1質量ppm以上100質量ppm以下
(v) 前記(e)の濃度が1質量ppm以上100質量ppm以下
【請求項2】
少なくともニッケルイオン(a)を含む、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
金属イオン(a)~(e)の全量に対してニッケルイオンを40質量%以上含む、請求項2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
前記(a)~(e)の合計の濃度が1質量ppm以上120質量ppm以下である、請求項3に記載の非水系電解液。
【請求項5】
FSO
3Liの含有量が0.001質量%以上10.0質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項6】
金属イオンを吸蔵及び放出可能な正極並びに負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液電池であって、該非水系電解液が
(1a)FSO
3Liを含み、
(1b)ニッケルイオン(a)、コバルトイオン(b)、銅イオン(c)、マンガンイオン(d)及びアルミニウムイオン(e)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含み、かつ
(1c)以下の条件(i)~(v)の少なくとも一つを満たす非水系電解液である、非水系電解液電池。
(i) 前記(a)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(ii) 前記(b)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(iii) 前記(c)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(iv) 前記(d)の濃度が1質量ppm以上100質量ppm以下
(v) 前記(e)の濃度が1質量ppm以上100質量ppm以下
【請求項7】
前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(1)で表される金属酸化物である、請求項6に記載の非水系電解液電池。
Li
a1Ni
b1Co
c1M
d1O
2・・・(1)
(上記式(1)中、a1、b1、c1及びd1は、0.90≦a1≦1.10、0<b1<0.4、b1+c1+d1=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
【請求項8】
前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(2)で表される金属酸化物である、請求項
6に記載の非水系電解液電池。
Li
a2Ni
b2Co
c2M
d2O
2・・・(2)
(上記式(2)中、a2、b2、c2及びd2は、0.90≦a2≦1.10、0.4≦b2<1.0、b2+c2+d2=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
【請求項9】
前記正極がNMC正極であり、該NMC正極中、
ニッケル元素、マンガン元素、及びコバルト元素の総量に対する該ニッケル元素の含有量が40モル%以上である、請求項6
又は8に記載の非水系電解液電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液、及び非水系電解液電池に関し、詳しくは特定の化合物、及び特定の金属元素のイオンを特定量含有する非水系電解液、並びにこの非水系電解液を用いた非水系電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車用等の駆動用車載電源の用途において、リチウム二次電池等の非水系電解液電池が実用化されている。
【0003】
非水系電解液電池の電池特性を改善する手段として、正極や負極の活物質、非水系電解液の添加剤分野において数多くの検討がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、非水系電解液二次電池の初期充電容量、及び入出力特性の改善を目的として、M(FSO3)xで表されるフルオロスルホン酸塩を少なくとも1種含有する非水系電解液に、さらにLiPF6に加え、かつ上記フルオロスルホン酸塩とLiPF6との割合を特定範囲とする非水系電解液及び非水系電解液二次電池が開示されている。
特許文献2には、広い温度範囲での電気化学特性を向上できる非水電解液、及びそれを用いた蓄電デバイスの提供を目的とし、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、特定の非環状リチウム塩を、非水電解液中に0.001~5質量%含有することを特徴とする非水電解液、及びそれを用いた蓄電デバイスが開示されている。
特許文献3には、負極活物質(黒鉛材料)の表面に安定な被膜が形成され、より高い電池性能を発揮し得る非水電解液二次電池を提供することを目的とし、正極と負極とを含む電極体と、非水電解液とを備える非水電解液二次電池であって;前記負極は、黒鉛材料を主体とする負極活物質層を備え、前記黒鉛材料の酸性官能基の量は1μeq/m2以上であり、且つ、該黒鉛材料の表面には硫黄(S)原子と電荷担体とを含む被膜が形成されていることを特徴とする、非水電解液二次電池が開示されている。
特許文献4には、耐久性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とし、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解質とを備え、前記正極活物質の表面にタングステンが存在し、前記非水電解質にフルオロスルホン酸リチウムが添加されている、リチウムイオン二次電池が開示されている。当該文献には、上記構成により、電池を長期に使用しても、正極の表面に付着させた金属元素が非水電解質中に溶出してしまうことがなく、長期に亘って低い反応抵抗を維持することができる、耐久性に優れたリチウムイオン電池を提供できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/099585号
【文献】国際公開第2013/168821号
【文献】特開2014-127313号公報
【文献】特開2015-037012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フルオロスルホン酸リチウム(FSO3Li)を非水系電解液に添加することにより、非水系電解液電池の耐久性は向上する傾向にある。一方で、本発明者の検討によると、FSO3Liを含有する非水系電解液を含む電池では、高温環境下での充電保存特性が不充分であることが判明した。したがって、本発明は、FSO3Liを含有する非水系電解液でありながら、非水系電解液電池の高温環境下での充電保存特性を向上させることができる非水系電解液及び高温環境下で優れた充電保存特性を有する非水系電解液電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、FSO3Liを含有する非水系電解液について、さらにニッケルイオン(a)、コバルトイオン(b)、銅イオン(c)、マンガンイオン(d)及びアルミニウムイオン(e)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含有し、且つ、該(a)~(e)のいずれかの金属イオンの含有量を特定の範囲内とすることにより、非水系電解液電池の高温環境下での充電保存特性を向上できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下[1]~[9]に示す具体的態様等を提供する。
[1] (1a)FSO3Liを含み、
(1b)ニッケルイオン(a)、コバルトイオン(b)、銅イオン(c)、マンガンイオン(d)及びアルミニウムイオン(e)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含み、かつ
(1c)以下の条件(i)~(v)の少なくとも一つを満たす非水系電解液。
(i) 前記(a)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(ii) 前記(b)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(iii) 前記(c)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(iv) 前記(d)の濃度が1質量ppm以上100質量ppm以下
(v) 前記(e)の濃度が1質量ppm以上100質量ppm以下
[2] 少なくともニッケルイオン(a)を含む、[1]に記載の非水系電解液。
[3] 金属イオン(a)~(e)の全量に対してニッケルイオンを40質量%以上含む、[2]に記載の非水系電解液。
[4] 前記(a)~(e)の合計の濃度が1質量ppm以上120質量ppm以下である、[3]に記載の非水系電解液。
[5] FSO3Liの含有量が0.001質量%以上10.0質量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の非水系電解液。
[6] 金属イオンを吸蔵及び放出可能な正極並びに負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液電池であって、該非水系電解液が
(1a)FSO3Liを含み、
(1b)ニッケルイオン(a)、コバルトイオン(b)、銅イオン(c)、マンガンイオン(d)及びアルミニウムイオン(e)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含み、かつ
(1c)以下の条件(i)~(v)の少なくとも一つを満たす非水系電解液である、非水系電解液電池。
(i) 前記(a)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(ii) 前記(b)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(iii) 前記(c)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(iv) 前記(d)の濃度が1質量ppm以上100質量ppm以下
(v) 前記(e)の濃度が1質量ppm以上100質量ppm以下
[7] 前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(1)で表される金属酸化物である、[6]に記載の非水系電解液電池。
Lia1Nib1Coc1Md1O2・・・(1)
(上記式(1)中、a1、b1、c1及びd1は、0.90≦a1≦1.10、0<b1<0.4、b1+c1+d1=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[8] 前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(2)で表される金属酸化物である、[6]に記載の非水系電解液電池。
Lia2Nib2Coc2Md2O2・・・(2)
(上記式(2)中、a2、b2、c2及びd2は、0.90≦a2≦1.10、0.4≦b2<1.0、b2+c2+d2=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[9] 前記正極がNMC正極であり、該NMC正極中、ニッケル元素の含有量が40モル%以上である、[6]~[8]のいずれかに記載の非水系電解液電池。
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、FSO3Liを含有する電解液について、さらにニッケルイオンを含有し、且つ、ニッケルイオンの含有量が特定の範囲内である非水系電解液を用いることにより、非水系電解液電池の高温環境下での充電保存特性を向上できることを見出し、本発明の態様Aに到達した。
【0010】
すなわち、本発明の態様Aは、以下[A1]~[A8]に示す具体的態様等を提供する。
[A1] FSO3Liを含み、ニッケルイオンを1質量ppm以上500質量ppm以下含む、非水系電解液。
[A2] FSO3Liの含有量が0.001質量%以上10.0質量%以下である、[A1]に記載の非水系電解液。
[A3] 金属イオンを吸蔵及び放出可能な正極及び負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液電池であって、該非水系電解液がFSO3Liを含み、ニッケルイオンを1質量ppm以上500質量ppm以下含む非水系電解液である、非水系電解液電池。
[A4] 前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(1)で表される金属酸化物である、[A3]に記載の非水系電解液電池。
Lia1Nib1Coc1Md1O2・・・(1)
(上記式(1)中、a1、b1、c1及びd1は、0.90≦a1≦1.10、0<b1<0.4、b1+c1+d1=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[A5] 前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(2)で表される金属酸化物である、[A3]に記載の非水系電解液電池。
Lia2Nib2Coc2Md2O2・・・(2)
(上記式(2)中、a2、b2、c2及びd2は、0.90≦a2≦1.10、0.4≦b2<1.0、b2+c2+d2=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[A6] 前記正極がNMC正極であり、該NMC正極中、ニッケル元素の含有量が30モル%以上である、[A3]~[A5]のいずれかに記載の非水系電解液電池。
[A7] 前記正極がNMC正極であり、該NMC正極中、ニッケル元素の含有量が40モル%以上である、[A3]、[A5]又は[A6]に記載の非水系電解液電池。
[A8] 該非水系電解液中のFSO3Liの含有量が、0.001質量%以上10.0質量%以下である、[A3]~[A7]のいずれかに記載の非水系電解液電池。
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、FSO3Liを含有する非水系電解液について、さらにコバルトイオンを含有し、且つ、コバルトイオンの含有量が特定の範囲内である非水系電解液を用いることにより、非水系電解液電池の高温環境下での充電保存特性を向上できることを見出し、本発明の態様Bに到達した。
【0012】
すなわち、本発明の態様Bは、以下[B1]~[B8]に示す具体的態様等を提供する。
[B1] FSO3Liを含み、コバルトイオンを1質量ppm以上500質量ppm以下含む、非水系電解液。
[B2] FSO3Liの含有量が0.001質量%以上10.0質量%以下である、[B1]に記載の非水系電解液。
[B3] 金属イオンを吸蔵及び放出可能な正極及び負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液電池であって、該非水系電解液がFSO3Liを含み、コバルトイオンを1質量ppm以上500質量ppm以下含む非水系電解液である、非水系電解液電池。
[B4] 前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(1)で表される金属酸化物である、[B3]に記載の非水系電解液電池。
Lia1Nib1Coc1Md1O2・・・(1)
(上記式(1)中、a1、b1、c1及びd1は、0.90≦a1≦1.10、0<b1<0.4、b1+c1+d1=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[B5] 前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(2)で表される金属酸化物である、[B3]に記載の非水系電解液電池。
Lia2Nib2Coc2Md2O2・・・(2)
(上記式(2)中、a2、b2、c2及びd2は、0.90≦a2≦1.10、0.4≦b2<1.0、b2+c2+d2=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[B6] 前記正極がNMC正極であり、該NMC正極中、ニッケル元素の含有量が30モル%以上である、[B3]~[B5]のいずれかに記載の非水系電解液電池。
[B7] 前記正極がNMC正極であり、該NMC正極中、ニッケル元素の含有量が40モル%以上である、[B3]、[B5]又は[B6]に記載の非水系電解液電池。
[B8] 該非水系電解液中のFSO3Liの含有量が、0.001質量%以上10.0質量%以下である、[B3]~[B7]のいずれかに記載の非水系電解液電池。
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、FSO3Liを含有する非水系電解液について、さらに銅イオンを含有し、且つ、銅イオンの含有量が特定の範囲内である非水系電解液を用いることにより、非水系電解液電池の高温環境下での充電保存特性を向上できることを見出し、本発明の態様Cに到達した。
【0014】
すなわち、本発明の態様Cは、以下[C1]~[C8]に示す具体的態様等を提供する。
[C1] FSO3Liを含み、銅イオンを1質量ppm以上500質量ppm以下含む、非水系電解液。
[C2] FSO3Liの含有量が0.001質量%以上10.0質量%以下である、[C1]に記載の非水系電解液。
[C3] 金属イオンを吸蔵及び放出可能な正極及び負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液電池であって、該非水系電解液がFSO3Liを含み、銅イオンを1質量ppm以上500質量ppm以下含む非水系電解液である、非水系電解液電池。
[C4] 前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(1)で表される金属酸化物である、[C3]に記載の非水系電解液電池。
Lia1Nib1Coc1Md1O2・・・(1)
(上記式(1)中、a1、b1、c1及びd1は、0.90≦a1≦1.10、0<b1<0.4、b1+c1+d1=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[C5] 前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(2)で表される金属酸化物である、[C3]に記載の非水系電解液電池。
Lia2Nib2Coc2Md2O2・・・(2)
(上記式(2)中、a2、b2、c2及びd2は、0.90≦a2≦1.10、0.4≦b2<1.0、b2+c2+d2=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[C6] 前記正極がNMC正極であり、該NMC正極中、ニッケル元素の含有量が30モル%以上である、[C3]~[C5]のいずれかに記載の非水系電解液電池。
[C7] 前記正極がNMC正極であり、該NMC正極中、ニッケル元素の含有量が40モル%以上である、[C3]、[C5]又は[C6]に記載の非水系電解液電池。
[C8] 該非水系電解液中のFSO3Liの含有量が、0.001質量%以上10.0質量%以下である、[C3]~[C7]のいずれかに記載の非水系電解液電池。
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、FSO3Liを含有する非水系電解液について、さらにマンガンイオンを含有し、且つ、マンガンイオンの含有量が特定の範囲内である非水系電解液を用いることにより、非水系電解液電池の高温環境下での充電保存特性を向上できることを見出し、本発明の態様Dに到達した。
【0016】
すなわち、本発明の態様Dは、以下[D1]~[D8]に示す具体的態様等を提供する。
[D1] FSO3Liを含み、マンガンイオンを1質量ppm以上100質量ppm以下含む、非水系電解液。
[D2] FSO3Liの含有量が0.001質量%以上10.0質量%以下である、[D1]に記載の非水系電解液。
[D3] 金属イオンを吸蔵及び放出可能な正極及び負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液電池であって、該非水系電解液がFSO3Liを含み、マンガンイオンを1質量ppm以上100質量ppm以下含む非水系電解液である、非水系電解液電池。
[D4] 前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(1)で表される金属酸化物である、[D3]に記載の非水系電解液電池。
Lia1Nib1Coc1Md1O2・・・(1)
(上記式(1)中、a1、b1、c1及びd1は、0.90≦a1≦1.10、0<b1<0.4、b1+c1+d1=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[D5] 前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(2)で表される金属酸化物である、[D3]に記載の非水系電解液電池。
Lia2Nib2Coc2Md2O2・・・(2)
(上記式(2)中、a2、b2、c2及びd2は、0.90≦a2≦1.10、0.4≦b2<1.0、b2+c2+d2=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[D6] 前記正極がNMC正極であり、該NMC正極中、ニッケル元素の含有量が30モル%以上である、[D3]~[D5]のいずれかに記載の非水系電解液電池。
[D7] 前記正極がNMC正極であり、該NMC正極中、ニッケル元素の含有量が40モル%以上である、[D3]、[D5]又は[D6]に記載の非水系電解液電池。
[D8] 該非水系電解液中のFSO3Liの含有量が、0.001質量%以上10.0質量%以下である、[D3]~[D7]のいずれかに記載の非水系電解液電池。
【0017】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、FSO3Liを含有する非水系電解液について、さらにアルミニウムイオンを含有し、且つ、アルミニウムイオンの含有量を特定の範囲内とすることにより、非水系電解液電池の高温環境下での充電保存特性を向上できることを見出し、本発明の態様Eに到達した。
【0018】
すなわち、本発明の態様Eは、以下[E1]~[E8]に示す具体的態様等を提供する。
[E1] FSO3Liを含み、アルミニウムイオンを1質量ppm以上100質量ppm以下含む、非水系電解液。
[E2] FSO3Liの含有量が0.001質量%以上10.0質量%以下である、[E1]に記載の非水系電解液。
[E3] 金属イオンを吸蔵及び放出可能な正極並びに負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液電池であって、該非水系電解液がFSO3Liを含み、アルミニウムイオンを1質量ppm以上100質量ppm以下含む非水系電解液である、非水系電解液電池。
[E4] 前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(1)で表される金属酸化物である、[E3]に記載の非水系電解液電池。
Lia1Nib1Coc1Md1O2・・・(1)
(上記式(1)中、a1、b1、c1及びd1は、0.90≦a1≦1.10、0<b1<0.4、b1+c1+d1=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[E5] 前記正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有し、該正極活物質が、下記組成式(2)で表される金属酸化物である、[E3]に記載の非水系電解液電池。
Lia2Nib2Coc2Md2O2・・・(2)
(上記式(2)中、a2、b2、c2及びd2は、0.90≦a2≦1.10、0.4≦b2<1.0、b2+c2+d2=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
[E6] 前記正極がNMC正極であり、該NMC正極中、ニッケル元素の含有量が30モル%以上である、[E3]~[E5]のいずれかに記載の非水系電解液電池。
[E7] 前記正極がNMC正極であり、該NMC正極中、ニッケル元素の含有量が40モル%以上である、[E3]、[E5]又は[E6]に記載の非水系電解液電池。
[E8] 該非水系電解液中のFSO3Liの含有量が、0.001質量%以上10.0質量%以下である、[E3]~[E7]のいずれかに記載の非水系電解液電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明の非水系電解液を用いることで、高温環境下での充電保存特性が向上した非水系電解液電池を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0021】
<1.非水系電解液>
本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、FSO3Liを含み、特定の金属元素のイオンを特定の範囲の量で含む。
以下、本発明の一実施形態に係る非水系電解液について詳細に説明する。本明細書の各項目の説明は、特定の金属元素のイオンに関する説明以外は、全ての態様に適用できる。
【0022】
<1-1.FSO3Li>
本実施形態の非水系電解液はFSO3Liを含む。
FSO3Liの含有量は、非水系電解液中、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.010質量%以上、特に好ましくは0.10質量%以上であり、一方、上限として特段の制限はないが、好ましくは10.0質量%以下であり、より好ましくは7.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下、殊更に好ましくは、4.0質量%以下、特に好ましくは3.0質量%以下である。
FSO3Liの含有量が非水系電解液中にて10.0質量%以下の場合には、非水系電解液電池の内部抵抗が上昇するほど負極還元反応が増大することがない点で好ましく、0.001質量%以上の場合には、FSO3Liを含有することの本願効果が生じる点で好ましい。ゆえに、上記の範囲内であれば、高温環境下での負極還元反応が抑制される等により、高温環境下での充電保存特性を向上することができる。
FSO3Liは公知の方法で合成して使用してもよいし、市販品を入手して使用してもよい。非水系電解液電池中の電解液内のFSO3Liの量を測定する場合には、非水系電解液電池から非水系電解液を含有する部材を取り出し、非水系電解液を抽出して測定すればよい。例えば、遠心分離機により抽出することもできるし、又は有機溶媒を用いて非水系電解液を抽出することができる。抽出した非水系電解液に氷冷した純水を加え、素早く混合して直ちにアニオンイオンクロマトグラフィー(例えば、Thermo Fisher Scientific、ICS-2000、カラム:AS23、溶離液:5.0mM Na2CO3/0.9mM NaHCO3、検出法:サプレッサー付電気伝導率検出方式(12.5mM H2SO4))にて分離したSO4
2-イオンを検出し、FSO3
-イオンをSO4
2-イオンの検量線から、モル感度比[k(SO4
2-)/k(FSO3
-)]=2.0として換算してFSO3
-イオンを定量することができる。通常、非水系電解液中、FSO3
-イオンの量をFSO3Liの量とみなすことができる。一方、後述するように、特定の金属イオン源として、FSO3
-イオンを含む化合物を用いることができる。例えば、アルミニウムイオン源としてAl(FSO3)3を用いてもよい。この場合、非水系電解液中のFSO3
-イオンの総量から、Al(FSO3)3由来のFSO3
-イオンの量を減じて、FSO3Liの量を求めればよい。また、アルミニウムイオン源としてAl(FSO3)3を用いたか否かが不明な場合は、非水系電解液中のFSO3
-イオンの量をFSO3Liの量とみなしてもよい。
【0023】
<1-2.金属イオン>
本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、ニッケルイオン(a)、コバルトイオン(b)、銅イオン(c)、マンガンイオン(d)、及びアルミニウムイオン(e)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含み、以下の条件(i)~(v)の少なくとも1つを満たす。
(i) (a)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(ii) (b)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(iii) (c)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(iv) (d)の濃度が1質量ppm以上100質量ppm以下
(v) (e)の濃度が1質量ppm以上100質量ppm以下
本明細書において、非水系電解液中の特定イオン(a)~(e)の含有量とは、特定の金属元素のイオンの非水系電解液(100質量%)中の濃度である。特定の金属元素のイオンの価数は何価であってもよく、異なる価数の金属イオンの組み合わせであってもよい。また、複数種の金属イオンを含んでいてもよい。
非水系電解液電池の電解液に含まれる金属イオンの量を測定する場合には、非水系電解液電池から非水系電解液を含有する部材を取り出し、非水系電解液を抽出して測定すればよい。例えば、非水系電解液は遠心分離機により抽出することもできるし、又は有機溶媒を用いて非水系電解液を抽出することができる。抽出した非水系電解液を用いて誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP―AES、たとえばThermo Fischer Scientific、iCAP 7600duo)によりLi及び酸濃度マッチング検量線法で金属元素、すなわち金属イオンを定量する。
以下、各イオンについて説明する。
【0024】
<1-2-1.ニッケルイオン>
本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、ニッケルイオンを1質量ppm以上500質量ppm以下含む。本明細書において、非水系電解液中のニッケルイオンの含有量とは、非水系電解液中のニッケル元素のイオンの濃度である。非水系電解液に含まれるニッケルイオンの価数は特に限定されず、2価であってもよいし、3価であってもよい。また、本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、2価のニッケルイオン(Ni2+)と3価のニッケルイオン(Ni3+)の両方を任意の比率で含んでいてもよい。
ニッケルイオンの含有量は、非水系電解液中、通常1質量ppm以上、好ましくは2質量ppm以上、より好ましくは3質量ppm以上であり、更に好ましくは5質量ppm以上、殊更に好ましくは10質量ppm以上、特に好ましくは25質量ppm以上であり、一方、上限として、通常500質量ppm以下、好ましくは400質量ppm以下、より好ましくは350質量ppm以下、更に好ましくは300質量ppm以下、殊更に好ましくは220質量ppm以下、特に好ましくは150質量ppm以下である。
ニッケルイオンの含有量が500質量ppmより高い場合には、負極還元反応が増大するために非水系電解液電池の内部抵抗が上昇し、一方、1質量ppmより低い場合には、ニッケルイオンを含有しない場合との差異が小さくなるため助剤としての効果が低くなる。
ニッケルイオン源となる化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。ニッケルイオン源となる化合物としては、Ni(EC)n(PF6)2(EC=エチレンカーボネート配位子、n=0~6)などのNi錯体が挙げられる。配位子としては、電池を構成する要素が好ましく挙げられ、例えば、非水溶媒として用いられる、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、酢酸メチル等のカルボン酸エステル、エーテル系化合物、及びスルホン系化合物等の有機溶媒が挙げられる。また、Ni(CH3COO)2、Ni(OH)2、NiO、NiCO3、NiSO4、塩化ニッケル等のニッケルハロゲン化物等が挙げられる。また、ニッケルイオンは、ニッケル元素を含みうる、正極活物質、負極活物質、正極集電体、負極集電体又は外装体等、電池の構成要素から溶出したものであってもよい。
ニッケルイオンは非水系電解液中、通常カウンターアニオンと塩を形成している。本実施形態においては、FSO3
-イオン以外のカウンターアニオンがニッケルイオンと配位し錯体を形成していてもよく、1種以上のカウンターアニオンと塩を形成していてもよい。カウンターアニオンとしては、電池を構成する要素が好ましく挙げられ、例えば、LiPF6由来のPF6
-イオン、LiPO2F2由来のPO2F2
-イオン等のフルオロリン酸イオン、FSO3Li由来のFSO3
-イオン、フッ化物イオン、炭酸イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、スルホニルイミドイオン、(オキサラート)ホウ酸イオン等が挙げられ、より好ましくは、PF6
-イオン、FSO3
-イオン又はフッ化物イオンが挙げられる。中でも、FSO3
-イオンはPF6
-イオンより、ニッケルイオンへの配位力が高く、特に好ましい。
本実施形態においては、特定量のニッケルイオンとFSO3Liとを非水系電解液中に含有することにより、FSO3
-イオンがニッケルイオンに配位又は相互作用することで、ニッケルイオンの耐還元性が上がり、高温環境下での負極還元反応が抑制される等により、高温環境下での充電保存特性を向上することができると推定される。
【0025】
<1-2-2.コバルトイオン>
本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、コバルトイオンを1質量ppm以上500質量ppm以下含む。本明細書において、非水系電解液中のコバルトイオンの含有量とは、非水系電解液中のコバルト元素のイオンの濃度である。非水系電解液に含まれるコバルトイオンの価数は特に限定されず、2価であってもよいし3価であってもよい。また、本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、2価のコバルトイオン(Co2+)と3価のコバルトイオン(Co3+)の両方を任意の比率で含んでいてもよい。
コバルトイオンの含有量は、非水系電解液中、通常1質量ppm以上、好ましくは2質量ppm以上、より好ましくは3質量ppm以上であり、更に好ましくは5質量ppm以上、殊更に好ましくは10質量ppm以上、特に好ましくは25質量ppm以上であり、一方、上限として、通常500質量ppm以下、好ましくは400質量ppm以下、より好ましくは350質量ppm以下、更に好ましくは300質量ppm以下、殊更に好ましくは220質量ppm以下、特に好ましくは150質量ppm以下である。
コバルトイオンの含有量が500質量ppmより高い場合には、負極還元反応が増大するために非水系電解液電池の内部抵抗が上昇し、一方、1質量ppmより低い場合には、コバルトイオンを含有しない場合との差異が小さくなるため助剤としての効果が低くなる。
コバルトイオン源となる化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。コバルトイオン源となる化合物としては、Co(EC)n(PF6)2(EC=エチレンカーボネート配位子、n=0~6)、Co(EC)n(PF6)3(n=0~6)などのCo錯体が挙げられる。配位子としては、電池を構成する要素が好ましく挙げられ、例えば、非水溶媒として用いられる、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、酢酸メチル等のカルボン酸エステル、エーテル系化合物、及びスルホン系化合物等の有機溶媒が挙げられる。また、Co(CH3COO)2;Co(HCOO)2;Co(OH)2;CoO、Co3O4等のコバルト酸化物;CoLiO2;CoCO3;CoSO4;Co(NO3)2;弗化コバルト(II)、弗化コバルト(III)、臭化コバルト(II)、塩化コバルト(II)等のコバルトハロゲン化物等が挙げられる。また、コバルトイオンは、コバルト元素を含みうる、正極活物質、負極活物質、正極集電体、負極集電体又は外装体等、電池の構成要素から溶出したものであってもよい。
コバルトイオンは非水系電解液中、通常カウンターアニオンと塩を形成している。本実施形態においては、FSO3
-イオン以外のカウンターアニオンがコバルトイオンと配位し錯体を形成していてもよく、1種以上のカウンターアニオンと塩を形成していてもよい。カウンターアニオンとしては、電池を構成する要素が好ましく挙げられ、例えば、LiPF6由来のPF6
-イオン、LiPO2F2由来のPO2F2
-イオン等のフルオロリン酸イオン、FSO3Li由来のFSO3
-イオン、フッ化物イオン、炭酸イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、スルホニルイミドイオン、(オキサラート)ホウ酸イオン等が挙げられ、より好ましくは、PF6
-イオン、FSO3
-イオン又はフッ化物イオンが挙げられる。中でも、FSO3
-イオンはPF6
-イオンより、コバルトイオンへの配位力が高く、特に好ましい。
本実施形態においては、特定量のコバルトイオンとFSO3Liとを非水系電解液中に含有することにより、FSO3
-イオンがコバルトイオンに配位又は相互作用することで、コバルトイオンの耐還元性が上がり、高温環境下での負極還元反応が抑制される等により、高温環境下での充電保存特性を向上することができると推定される。
【0026】
<1-2-3.銅イオン>
本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、銅イオンを1質量ppm以上500質量ppm以下含む。本明細書において、非水系電解液中の銅イオンの含有量とは、非水系電解液中の銅元素のイオンの濃度である。非水系電解液に含まれる銅イオンの価数は特に限定されず、1価であってもよいし2価であってもよい。また、本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、1価の銅イオン(Cu+)と2価の銅イオン(Cu2+)の両方を任意の比率で含んでいてもよい。
銅イオンの含有量は、非水系電解液中、通常1質量ppm以上、好ましくは2質量ppm以上、より好ましくは3質量ppm以上であり、更に好ましくは5質量ppm以上、殊更に好ましくは10質量ppm以上、特に好ましくは25質量ppm以上であり、一方、上限として、通常500質量ppm以下、好ましくは400質量ppm以下、より好ましくは350質量ppm以下、更に好ましくは300質量ppm以下、殊更に好ましくは220質量ppm以下、特に好ましくは150質量ppm以下である。
銅イオンの含有量が500質量ppmより高い場合には、負極還元反応が増大するために非水系電解液電池の内部抵抗が上昇し、一方、1質量ppmより低い場合には、銅イオンを含有しない場合との差異が小さくなるため助剤としての効果が低くなる。
銅イオン源となる化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。銅イオン源となる化合物としては、Cu(EC)n(PF6)2(EC=エチレンカーボネート配位子、n=0~6)などのCu錯体が挙げられる。配位子としては、電池を構成する要素が好ましく挙げられ、例えば、非水溶媒として用いられる、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、酢酸メチル等のカルボン酸エステル、エーテル系化合物、及びスルホン系化合物等の有機溶媒が挙げられる。また、Cu(CH3COO)2;Cu(HCOO)2;Cu(OH)2;CuO、Cu2O等の銅酸化物;CuCO3;CuSO4、Cu(NO3)2;塩化銅(I)、塩化銅(II)等の銅ハロゲン化物等が挙げられる。また、銅イオンは、銅元素を含みうる、正極活物質、負極活物質、正極集電体、負極集電体又は外装体等、電池の構成要素から溶出したものであってもよい。
銅イオンは非水系電解液中、通常カウンターアニオンと塩を形成している。本実施形態においては、FSO3
-イオン以外のカウンターアニオンが銅イオンと配位し錯体を形成していてもよく、1種以上のカウンターアニオンと塩を形成していてもよい。カウンターアニオンとしては、電池を構成する要素が好ましく挙げられ、例えば、LiPF6由来のPF6
-イオン、LiPO2F2由来のPO2F2
-イオン等のフルオロリン酸イオン、FSO3Li由来のFSO3
-イオン、フッ化物イオン、炭酸イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、スルホニルイミドイオン、(オキサラート)ホウ酸イオン等が挙げられ、より好ましくは、PF6
-イオン、FSO3
-イオン又はフッ化物イオンが挙げられる。中でも、FSO3
-イオンはPF6
-イオンより、銅イオンへの配位力が高く、特に好ましい。
本実施形態においては、特定量の銅イオンとFSO3Liとを非水系電解液中に含有することにより、FSO3
-イオン(フルオロスルホン酸イオン)が銅イオンに配位又は相互作用することで、銅イオンの耐還元性が上がり、高温環境下での負極還元反応が抑制される等により、高温環境下での充電保存特性を向上することができると推定される。
【0027】
<1-2-4.マンガンイオン>
本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、マンガンイオンを1質量ppm以上100質量ppm以下含む。本明細書において、非水系電解液中のマンガンイオンの含有量とは、非水系電解液中のマンガン元素のイオンの濃度である。非水系電解液に含まれるマンガンイオンの価数は特に限定されず、2価であってもよいし、3価であってもよい。また、本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、2価のマンガンイオン(Mn2+)と3価のマンガンイオン(Mn3+)の両方を任意の比率で含んでいてもよい。
マンガンイオンの含有量は、非水系電解液中、通常1質量ppm以上、好ましくは2質量ppm以上、より好ましくは3質量ppm以上であり、更に好ましくは5質量ppm以上、殊更に好ましくは10質量ppm以上、特に好ましくは25質量ppm以上であり、一方、上限として、通常100質量ppm以下、好ましくは95質量ppm以下、より好ましくは90質量ppm以下、更に好ましくは85質量ppm以下、殊更に好ましくは80質量ppm以下、特に好ましくは75質量ppm以下である。
マンガンイオンの含有量が100質量ppmより高い場合には、負極還元反応が増大するために非水系電解液電池の内部抵抗が上昇し、一方、1質量ppmより低い場合には、マンガンイオンを含有しない場合との差異が小さくなるため助剤としての効果が低くなる。
マンガンイオン源となる化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。マンガンイオン源となる化合物としては、Mn(EC)n(PF6)2(EC=エチレンカーボネート配位子、n=0~6)などのMn錯体が挙げられる。配位子としては、電池を構成する要素が好ましく挙げられ、例えば、非水溶媒として用いられる、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、酢酸メチル等のカルボン酸エステル、エーテル系化合物、及びスルホン系化合物等の有機溶媒が挙げられる。また、Mn(CH3COO)2・2H2O、Mn(CH3COO)2・4H2O、Mn(CH3COO)3・2H2O等の酢酸マンガン水和物;Mn(OH)2;MnO2、Mn3O4等の酸化マンガン;MnCO3、MnSO4、KMnO4、MnB4O7・8H2O、塩化マンガン(II)等のマンガンハロゲン化物等が挙げられる。また、マンガンイオンは、マンガン元素を含みうる、正極活物質、負極活物質、正極集電体、負極集電体又は外装体等、電池の構成要素から溶出したものであってもよい。
マンガンイオンは非水系電解液中、通常カウンターアニオンと塩を形成している。本実施形態においては、FSO3
-イオン以外のカウンターアニオンがマンガンイオンと配位し錯体を形成していてもよく、1種以上のカウンターアニオンと塩を形成していてもよい。カウンターアニオンとしては、電池を構成する要素が好ましく挙げられ、例えば、LiPF6由来のPF6
-イオン、LiPO2F2由来のPO2F2
-イオン等のフルオロリン酸イオン、FSO3Li由来のFSO3
-イオン、フッ化物イオン、炭酸イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、スルホニルイミドイオン、(オキサラート)ホウ酸イオン等が挙げられ、より好ましくは、PF6
-イオン、FSO3
-イオン又はフッ化物イオンが挙げられる。中でも、FSO3
-イオンはPF6
-イオンより、マンガンイオンへの配位力が高く、特に好ましい。
本実施形態においては、特定量のマンガンイオンとFSO3Liとを非水系電解液中に含有することにより、FSO3
-イオンがマンガンイオンに配位又は相互作用することで、マンガンイオンの耐還元性が上がり、高温環境下での負極還元反応が抑制される等により、高温環境下での充電保存特性を向上することができると推定される。
【0028】
<1-2-5.アルミニウムイオン>
本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、アルミニウムイオンを1質量ppm以上100質量ppm以下含む。本明細書において、非水系電解液中のアルミニウムイオンの含有量とは非水系電解液中のアルミニウム元素のイオンの濃度である。
アルミニウムイオンの含有量は、非水系電解液中、通常1質量ppm以上、好ましくは2質量ppm以上、より好ましくは3質量ppm以上であり、更に好ましくは5質量ppm以上、殊更に好ましくは10質量ppm以上、特に好ましくは25質量ppm以上であり、一方、上限として、通常100質量ppm以下、好ましくは90質量ppm以下、より好ましくは80質量ppm以下、更に好ましくは70質量ppm以下、特に好ましくは60質量ppm以下である。
アルミニウムイオンの含有量が100質量ppmより高い場合には、負極還元反応が増大するために非水系電解液電池の内部抵抗が上昇し、一方、1質量ppmより低い場合には、アルミニウムイオンを含有しない場合との差異が小さくなるため効果が低くなる。
アルミニウムイオン源となる化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。アルミニウムイオン源となる化合物としては、Al(EC)n(PF6)3(EC=エチレンカーボネート配位子、n=0~6)などのAl錯体が挙げられる。配位子としては、電池を構成する要素が好ましく挙げられ、例えば、非水溶媒として用いられる、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート;酢酸メチル等のカルボン酸エステル;エーテル系化合物;及びスルホン系化合物;等の有機溶媒が挙げられる。また、アルミニウムイオン源となる化合物としてはAl(FSO3)3;Al(CH3COO)3;Al(CF3COO)3;Al(CF3SO3)3;トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム-n-ブトキシド等のアルミニウムアルコキシド;トリメチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム;塩化アルミニウム等のAlハロゲン化物;等のアルミニウム塩も挙げられる。また、アルミニウムイオンは、アルミニウム元素を含みうる、正極活物質、負極活物質、正極集電体、負極集電体又は外装体等、電池の構成要素から溶出したものであってもよい。
アルミニウムイオンは非水系電解液中、通常カウンターアニオンと塩を形成している。本実施形態においては、FSO3
-イオン以外のカウンターアニオンがアルミニウムイオンに配位して錯体を形成していてもよく、アルミニウムイオンと1種以上のカウンターアニオンとが塩を形成していてもよい。カウンターアニオンとしては、電池を構成する要素も好ましく挙げられ、例えば、LiPF6由来のPF6
-イオン、LiPO2F2由来のPO2F2
-イオン等のフルオロリン酸イオン、FSO3Li由来であってもよいFSO3
-イオン、フッ化物イオン、炭酸イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、スルホニルイミドイオン、(オキサラート)ホウ酸イオン等が挙げられ、より好ましくは、PF6
-イオン、FSO3
-イオン又はフッ化物イオンが挙げられる。中でも、FSO3
-イオンはPF6
-イオンより、アルミニウムイオンへの配位力が高く、特に好ましい。
本実施形態においては、特定量のアルミニウムイオンとFSO3Liとを非水系電解液中に含有することにより、FSO3
-イオンがアルミニウムイオンに配位又は相互作用することで、アルミニウムイオンの耐還元性が上がり、高温環境下での負極還元反応が抑制される等により、高温環境下での充電保存特性を向上することができると推定される。非水系電解液電池中の電解液内のアルミニウムイオンの量を測定する場合には、非水系電解液電池から非水系電解液を含有する部材を取り出し、非水系電解液を抽出して測定すればよい。例えば、遠心分離機により非水系電解液を抽出することもできるし、又は有機溶媒を用いて非水系電解液を抽出することができる。抽出した非水系電解液を用いて誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES、たとえばThermo Fischer Scientific、iCAP 7600duo)によりLi及び酸濃度マッチング検量線法でアルミニウム元素、すなわちアルミニウムイオンを定量する。
【0029】
本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、ニッケルイオン、コバルトイオン、銅イオン、マンガンイオン、及びアルミニウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含む場合、該金属イオンの総含有量は、非水系電解液中、通常1質量ppm以上、好ましくは2質量ppm以上、より好ましくは3質量ppm以上であり、更に好ましくは5質量ppm以上、殊更に好ましくは10質量ppm以上、特に好ましくは25質量ppm以上であり、一方、上限として、通常500質量ppm以下、好ましくは400質量ppm以下、より好ましくは300質量ppm以下、更に好ましくは200質量ppm以下、特に好ましくは120質量ppm以下である。
また、本発明の一実施形態に係る非水系電解液においては少なくともニッケルイオンを含み、上記5種の金属イオン全量に対してニッケルイオンを好ましくは30質量%以上含み、より好ましくは40質量%以上含む。
また、本発明の一実施形態に係る非水系電解液において、ニッケルイオン、コバルトイオン、銅イオン、マンガンイオン、及びアルミニウムイオンからなる群より選ばれる金属イオンのうち複数種含む場合においては、少なくとも下記に示す金属イオンの組み合わせを含むことが好ましい。
ニッケルイオン及びコバルトイオン;ニッケルイオン及び銅イオン;ニッケルイオン及びマンガンイオン;コバルトイオン及び銅イオン;コバルトイオン及びマンガンイオン;銅イオン及びマンガンイオン;ニッケルイオン、コバルトイオン及び銅イオン;ニッケルイオン、コバルトイオン及びマンガンイオン;ニッケルイオン、銅イオン及びマンガンイオン;コバルトイオン、銅イオン及びマンガンイオン;ニッケルイオン、コバルトイオン、銅イオン及びマンガンイオンの組み合わせであり、特に好ましくはニッケルイオン及びコバルトイオン;ニッケルイオン及び銅イオン;ニッケルイオン及びマンガンイオン;ニッケルイオン、コバルトイオン及びマンガンイオン;ニッケルイオン、銅イオン及びマンガンイオン;ニッケルイオン、コバルトイオン、銅イオン及びマンガンイオンの組み合わせである。
上記特に好ましい組み合わせにおける各金属イオンの好ましい含有量は以下の通りである。
ニッケルイオン及びコバルトイオン;ニッケルイオンは通常1質量ppm以上、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは20質量ppm以上、さらに好ましくは25質量ppm以上であり、通常300質量ppm以下、好ましくは220質量ppm以下、より好ましくは150質量ppm以下であり、コバルトイオンは通常1質量ppm以上、好ましくは5質量ppm以上、より好ましくは10質量ppm以上であり、通常300質量ppm以下、好ましくは220質量ppm以下、より好ましくは150質量ppm以下である。
ニッケルイオン及び銅イオン;ニッケルイオンは通常1質量ppm以上、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは20質量ppm以上であり、通常300質量ppm以下、好ましくは220質量ppm以下、より好ましくは150質量ppm以下であり、銅イオンは通常1質量ppm以上、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは25質量ppm以上であり、通常300質量ppm以下、好ましくは220質量ppm以下、より好ましくは150質量ppm以下である。
ニッケルイオン及びマンガンイオン;ニッケルイオンは通常1質量ppm以上、好ましくは10質量ppm以上、好ましくは25質量ppm以上であり、通常300質量ppm以下、好ましくは220質量ppm以下、より好ましくは150質量ppm以下であり、マンガンイオンは通常1質量ppm以上、好ましくは2質量ppm以上であり、通常100質量ppm以下、好ましくは80質量ppm以下、より好ましくは75質量ppm以下である。
ニッケルイオン、コバルトイオン及びマンガンイオン;ニッケルイオンは通常1質量ppm以上、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは25質量ppm以上であり、通常300質量ppm以下、好ましくは220質量ppm以下、より好ましくは150質量ppm以下であり、コバルトイオンは通常1質量ppm以上、好ましくは5質量ppm以上、より好ましくは10質量ppm以上であり、通常300質量ppm以下、好ましくは220質量ppm以下、より好ましくは150質量ppm以下であり、マンガンイオンは好ましくは1質量ppm以上であり、通常100質量ppm以下、好ましくは80質量ppm以下、より好ましくは75質量ppm以下である。
ニッケルイオン、銅イオン及びマンガンイオン;ニッケルイオンは通常1質量ppm以上、好ましくは5質量ppm以上、より好ましくは10質量ppm以上であり、通常300質量ppm以下、好ましくは220質量ppm以下、より好ましくは150質量ppm以下であり、銅イオンは通常1質量ppm以上、好ましくは10質量ppm以上であり、通常300質量ppm以下、好ましくは220質量ppm以下、好ましくは150質量ppm以下であり、マンガンイオンは好ましくは1質量ppm以上であり、通常100質量ppm以下、好ましくは80質量ppm以下、より好ましくは75質量ppm以下である。
ニッケルイオン、コバルトイオン、銅イオン及びマンガンイオン;ニッケルイオンは通常1質量ppm以上、好ましくは5質量ppm以上、好ましくは10質量ppm以上であり、通常300質量ppm以下、好ましくは220質量ppm以下、さらに好ましくは150質量ppm以下であり、コバルトイオンは通常1質量ppm以上、好ましくは2質量ppm以上であり、通常300質量ppm以下、好ましくは220質量ppm以下、好ましくは150質量ppm以下であり、銅イオンは通常1質量ppm以上、好ましくは5質量ppm以上、より好ましくは10質量ppm以上であり、通常300質量ppm以下、好ましくは220質量ppm以下、好ましくは150質量ppm以下であり、マンガンイオンは好ましくは1質量ppm以上、通常100質量ppm以下、好ましくは80質量ppm以下、より好ましくは75質量ppm以下である。
【0030】
<1-3.電解質>
本実施形態の非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様、通常はその成分として、電解質を含有する。本実施形態の非水系電解液に用いられる電解質について特に制限は無く、公知の電解質を用いることができる。以下、電解質の具体例について詳述する。
<1-3-1.リチウム塩>
本実施形態の非水系電解液における電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、この用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを1種以上用いることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
【0031】
例えば、LiBF4等のフルオロホウ酸リチウム塩類;
LiPF6、LiPO2F2等のフルオロリン酸リチウム塩類;
LiWOF5等のタングステン酸リチウム塩類;
CF3CO2Li等のカルボン酸リチウム塩類;
CH3SO3Li等のスルホン酸リチウム塩類;
LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2等のリチウムイミド塩類;
LiC(FSO2)3等のリチウムメチド塩類;
リチウムジフルオロオキサラトボレート等のリチウムオキサラート塩類;
その他、LiPF4(CF3)2等の含フッ素有機リチウム塩類;
等が挙げられる。
【0032】
本発明で得られる高温環境下での充電保存特性向上の効果に加え、充放電レート特性、インピーダンス特性の向上効果を更に高める点から、フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロリン酸リチウム塩類、スルホン酸リチウム塩類、リチウムイミド塩類、リチウムオキサラート塩類、の中から選ばれるものが好ましく、フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロリン酸リチウム塩類、リチウムイミド塩類、及びリチウムオキサラート塩類の中から選ばれるものが好ましい。
【0033】
非水系電解液中のこれらの電解質の総濃度は、特に制限はないが、非水系電解液の全量に対して、通常8質量%以上、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9質量%以上である。また、その上限は、通常18質量%以下、好ましくは17質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。電解質の総濃度が上記範囲内であると、電気伝導率が電池動作に適正となるため、十分な出力特性が得られる傾向にある。
【0034】
<1-4.非水溶媒>
本実施形態の非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様、通常はその主成分として、上述した電解質を溶解する非水溶媒を含有する。ここで用いる非水溶媒について特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、エーテル系化合物又はスルホン系化合物等が挙げられる。これらに特に限定されないが、好ましくは飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート又はカルボン酸エステルであり、より好ましくは飽和環状カーボネート又は鎖状カーボネートである。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の非水溶媒の組み合わせとして、飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート、及びカルボン酸エステルからなる群より選択される2種以上の組み合わせが好ましく、飽和環状カーボネート又は鎖状カーボネートの組み合わせがより好ましい。
【0035】
<1-4-1.飽和環状カーボネート>
飽和環状カーボネートとしては、通常炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられ、リチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から炭素数2~3の飽和環状カーボネートが好ましく用いられる。また、飽和環状カーボネートはモノフルオロエチレンカーボネートのようにフッ素原子を有する環状カーボネートであってもよい。
【0036】
飽和環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートが好ましく、酸化・還元されにくいエチレンカーボネートがより好ましい。飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0037】
飽和環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、下限は、非水系電解液の溶媒全量に対して、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上である。この範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。また上限は、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。この範囲とすることで、非水系電解液の酸化・還元耐性が向上し、高温保存時の安定性が向上する傾向にある。
尚、本発明における体積%とは25℃、1気圧における体積を意味する。
【0038】
<1-4-2.鎖状カーボネート>
鎖状カーボネートとしては、通常炭素数3~7のものが用いられ、電解液の粘度を適切な範囲に調整するために、炭素数3~5の鎖状カーボネートが好ましく用いられる。
【0039】
具体的には、鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、n-ブチルメチルカーボネート、イソブチルメチルカーボネート、t-ブチルメチルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート、n-ブチルエチルカーボネート、イソブチルエチルカーボネート、t-ブチルエチルカーボネート等が挙げられる。
【0040】
中でも、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネートが好ましく、特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
【0041】
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と略記する場合がある。)も好適に用いることができる。フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、それらは互いに同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。フッ素化鎖状カーボネートとしては、フッ素化ジメチルカーボネート誘導体、フッ素化エチルメチルカーボネート誘導体、フッ素化ジエチルカーボネート誘導体等が挙げられる。
【0042】
フッ素化ジメチルカーボネート誘導体としては、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート等が挙げられる。
【0043】
フッ素化エチルメチルカーボネート誘導体としては、2-フルオロエチルメチルカーボネート、エチルフルオロメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、2-フルオロエチルフルオロメチルカーボネート、エチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルフルオロメチルカーボネート、2-フルオロエチルジフルオロメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート等が挙げられる。
【0044】
フッ素化ジエチルカーボネート誘導体としては、エチル-(2-フルオロエチル)カーボネート、エチル-(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2-フルオロエチル)カーボネート、エチル-(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2,2-ジフルオロエチル-2’-フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2-トリフルオロエチル-2’-フルオロエチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチル-2’,2’-ジフルオロエチルカーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。
【0045】
鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0046】
鎖状カーボネートの含有量は特に限定されないが、非水系電解液の溶媒全量に対して、通常15体積%以上であり、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上である。また、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。鎖状カーボネートの含有量を上記範囲とすることによって、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液電池の出力特性を良好な範囲としやすくなる。鎖状カーボネートを2種以上併用する場合には、鎖状カーボネートの合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。
【0047】
さらに、特定の鎖状カーボネートに対して、エチレンカーボネートを特定の含有量で組み合わせることにより、電池性能を著しく向上させることができる。
【0048】
例えば、特定の鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを選択した場合、エチレンカーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の溶媒全量に対して、通常15体積%以上、好ましくは20体積%以上、また通常45体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、ジメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下であり、エチルメチルカーボネートの含有量は通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下である。エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートの含有量を上記範囲
内とすることで、高温安定性に優れ、ガス発生が抑制される傾向がある。
【0049】
<1-4-3.エーテル系化合物>
エーテル系化合物としては、炭素数3~10の鎖状エーテル、及び炭素数3~6の環状エーテルが好ましい。
【0050】
エーテル系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
エーテル系化合物の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水溶媒100体積%中、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、また、通常30体積%以下、好ましくは25体積%以下、より好ましくは20体積%以下である。エーテル系化合物を2種以上併用する場合には、エーテル系化合物の合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。エーテル系化合物の含有量が前記好ましい範囲内であれば、鎖状エーテルのリチウムイオン解離度の向上と粘度低下に由来するイオン伝導度の向上効果を確保しやすい。また、負極活物質が炭素質材料の場合、鎖状エーテルがリチウムイオンと共に共挿入される現象を抑制できることから、入出力特性や充放電レート特性を適正な範囲とすることができる。
【0051】
<1-4-4.スルホン系化合物>
スルホン系化合物としては、環状スルホン、鎖状スルホンであっても特に制限されないが、環状スルホンの場合、通常炭素数が3~6、好ましくは炭素数が3~5であり、鎖状スルホンの場合、通常炭素数が2~6、好ましくは炭素数が2~5である化合物が好ましい。また、スルホン系化合物1分子中のスルホニル基の数は、特に制限されないが、通常1又は2である。
【0052】
環状スルホンとしては、モノスルホン化合物であるトリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類;ジスルホン化合物であるトリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類等が挙げられる。中でも誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
【0053】
スルホラン類としては、スルホラン又はスルホラン誘導体(以下、スルホランも含めて「スルホラン類」と略記する場合がある。)が好ましい。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子上に結合した水素原子の1以上がフッ素原子やアルキル基で置換されたものが好ましい。
【0054】
スルホン系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
スルホン系化合物の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の溶媒全量に対して、通常0.3体積%以上、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1体積%以上であり、また、通常40体積%以下、好ましくは35体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。スルホン系化合物を2種以上併用する場合には、スルホン系化合物の合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。スルホン系化合物の含有量が前記範囲内であれば、高温保存安定性に優れた電解液が得られる傾向にある。
【0055】
<1-4-5.カルボン酸エステル>
カルボン酸エステルとしては、好ましくは鎖状カルボン酸エステルであり、より好ましくは飽和鎖状カルボン酸エステルである。また、カルボン酸エステルの総炭素数は、通常3~7であり、出力特性向上に由来する電池特性改善の点から3~5のカルボン酸エステルが好ましく用いられる。
【0056】
カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ピバル酸メチル、ピバル酸エチル等の飽和鎖状カルボン酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の不飽和鎖状カルボン酸エステル等が挙げられる。中でも、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ピバル酸メチル、ピバル酸エチルが好ましく、出力特性向上の点から、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルがより好ましい。カルボン酸エステルは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0057】
カルボン酸エステルの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、下限は、非水系電解液の溶媒全量に対して、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上である。この範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。また上限は、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。この範囲とすることで、非水系電解液の酸化・還元耐性が向上し、高温保存時の安定性が向上する傾向にある。
尚、本発明における体積%とは25℃、1気圧における体積を意味する。
【0058】
<1-5.FSO3Li以外のフルオロスルホン酸塩>
FSO3Li以外のフルオロスルホン酸塩(以下、単に「フルオロスルホン酸塩」という)のカウンターカチオンとしては特に限定はないが、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、及び、NR13R14R15R16(式中、R13~R16は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~12の有機基を表わす。)で表されるアンモニウム等がその例として挙げられる。
【0059】
フルオロスルホン酸塩の具体例としては、
フルオロスルホン酸ナトリウム、フルオロスルホン酸カリウム、フルオロスルホン酸ルビジウム、フルオロスルホン酸セシウム等が挙げられる。
【0060】
フルオロスルホン酸塩は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、本実施形態の非水系電解液全体に対するフルオロスルホン酸塩とFSO3Liの合計含有量は、非水系電解液100質量%中、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、また、通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、殊更に好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。フルオロスルホン酸塩を2種以上併用する場合には、FSO3Liとフルオロスルホン酸塩の合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。
この範囲内であれば、充放電に伴う非水系電解液電池の膨れを好適に抑制できる。
【0061】
<1-6.助剤>
本実施形態の非水系電解液において、本発明の効果を奏する範囲で以下の助剤を含有してもよい。
ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート又はエチニルエチレンカーボネート等の不飽和環状カーボネート;
メトキシエチル-メチルカーボネート等のカーボネート化合物;
メチル-2-プロピニルオギザレート等のスピロ化合物;
エチレンサルファイト等の含硫黄化合物;
1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等のシクロアルキレン基を有するジイソシアネート等のイソシアネート化合物;
1-メチル-2-ピロリジノン等の含窒素化合物;
シクロヘプタン等の炭化水素化合物;
フルオロベンゼン等の含フッ素芳香族化合物;
ホウ酸トリス(トリメチルシリル)等のシラン化合物;
2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸2-プロピニル、等のエステル化合物;
リチウムエチルメチルオキシカルボニルホスホネート等のリチウム塩;
トリアリルイソシアヌレート等のイソシアン酸エステル;
等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの助剤を添加することにより、高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を向上させることができる。
【0062】
助剤の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。助剤の含有量は、非水系電解液の全量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、また、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。この範囲であれば、助剤の効果が十分に発現させやすく、高温保存安定性が向上する傾向にある。助剤を2種以上併用する場合には、助剤の合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。
【0063】
<2.非水系電解液電池>
本発明の一実施形態に係る非水系電解液電池は、金属イオンを吸蔵及び放出可能な正極並びに負極と、非水系電解液とを備える非水系電解液電池であって、上述した本発明の一実施形態に係る非水系電解液とを備える。
より詳細には、本発明の一実施形態に係る非水系電解液電池は、集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有しかつ金属イオンを吸蔵及び放出し得る正極と、集電体及び該集電体上に設けられた負極活物質層を有しかつ金属イオンを吸蔵及び放出し得る負極と、FSO3Liを含み、ニッケルイオン(a)、コバルトイオン(b)、銅イオン(c)、マンガンイオン(d)及びアルミニウムイオン(e)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含み、かつ以下の条件(i)~(v)の少なくとも一つを満たす非水系電解液とを備える。
(i) 前記(a)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(ii) 前記(b)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(iii) 前記(c)の濃度が1質量ppm以上500質量ppm以下
(iv) 前記(d)の濃度が1質量ppm以上100質量ppm以下
(v) 前記(e)の濃度が1質量ppm以上100質量ppm以下
特に、本発明の態様Aに係る非水系電解液電池は、集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有しかつ金属イオンを吸蔵及び放出し得る正極と、集電体及び該集電体上に設けられた負極活物質層を有しかつ金属イオンを吸蔵及び放出し得る負極と、FSO3Liを含み、ニッケルイオンを1質量ppm以上500質量ppm以下含む非水系電解液とを備える。
また、本発明の態様Bに係る非水系電解液電池は、集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有しかつ金属イオンを吸蔵及び放出し得る正極と、集電体及び該集電体上に設けられた負極活物質層を有しかつ金属イオンを吸蔵及び放出し得る負極と、FSO3Liを含み、コバルトイオンを1質量ppm以上500質量ppm以下含む非水系電解液とを備える。
また、本発明の態様Cに係る非水系電解液電池は、集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有しかつ金属イオンを吸蔵及び放出し得る正極と、集電体及び該集電体上に設けられた負極活物質層を有しかつ金属イオンを吸蔵及び放出し得る負極と、FSO3Liを含み、銅イオンを1質量ppm以上500質量ppm以下含む非水系電解液とを備える。
また、本発明の態様Dに係る非水系電解液電池は、集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有しかつ金属イオンを吸蔵及び放出し得る正極と、集電体及び該集電体上に設けられた負極活物質層を有しかつ金属イオンを吸蔵及び放出し得る負極と、FSO3Liを含み、マンガンイオンを1質量ppm以上100質量ppm以下含む非水系電解液とを備える。
また、本発明の態様Eに係る非水系電解液電池は、集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有しかつ金属イオンを吸蔵及び放出し得る正極と、集電体及び該集電体上に設けられた負極活物質層を有しかつ金属イオンを吸蔵及び放出し得る負極と、FSO3Liを含み、アルミニウムイオンを1質量ppm以上100質量ppm以下含む非水系電解液とを備える。
【0064】
<2-1.電池構成>
本実施形態の非水系電解液電池は、上記の非水系電解液以外の構成については、従来公知の非水系電解液電池と同様である。通常は上記の非水系電解液が含浸されている多孔膜(セパレータ)を介して正極と負極とが積層され、これらがケース(外装体)に収納された形態を有する。従って、本実施形態の非水系電解液電池の形状は特に制限されるものではなく、円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【0065】
<2-2.非水系電解液>
非水系電解液としては、上述の本発明の一実施形態に係る非水系電解液を用いる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記非水系電解液に対し、その他の非水系電解液を配合して用いることも可能である。
【0066】
<2-3.正極>
本発明の一実施形態においては、正極は集電体及び該集電体上に設けられた正極活物質層を有する。
以下に本実施形態の非水系電解液電池に使用される正極について詳細に説明する。
【0067】
<2-3-1.正極活物質>
以下に正極に使用される正極活物質について説明する。
(1)組成
正極活物質としては、コバルト酸リチウムや、少なくともNiとCoを含有し、遷移金属のうち50モル%以上がNiとCoである遷移金属酸化物であり、電気化学的に金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限はないが、例えば、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものが好ましく、リチウムと少なくともNiとCoを含有し、遷移金属のうち60モル%以上がNiとCoである遷移金属酸化物が好ましい。Ni及びCoは、酸化還元の電位が二次電池の正極材として用いるのに好適であり、高容量用途に適しているためである。
【0068】
リチウム遷移金属酸化物の金属成分としては、必須遷移金属元素として、少なくともNi又はCoが含まれるが、その他の金属元素としてMn、V、Ti、Cr、Fe、Cu、Al、Mg、Zr、Er等が挙げられ、Mn、Ti、Fe、Al、Mg、Zr等が好ましい。リチウム遷移金属酸化物の具体例としては、例えば、LiCoO2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、Li1.05Ni0.33Mn0.33Co0.33O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.50Mn0.29Co0.21O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2等が挙げられる。
【0069】
とりわけ、正極活物質が下記組成式(1)で示される遷移金属酸化物である態様が好ましい。
Lia1Nib1Coc1Md1O2・・・(1)
(上記式(1)中、a1、b1、c1及びd1は、0.90≦a1≦1.10、0<b1<0.4、b1+c1+d1=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
組成式(1)中、0.1≦d1<0.5の数値を示すことが好ましい。
NiやCoの組成比およびその他の金属種の組成比が特定の範囲であることで、正極から遷移金属が溶出しにくく、かつ、たとえ溶出したとしてもNiやCoは非水系二次電池内での悪影響が小さいためである。
【0070】
とりわけ、正極活物質が下記組成式(2)で示される遷移金属酸化物である態様が好ましい。
Lia2Nib2Coc2Md2O2・・・(2)
(上記式(2)中、a2、b2、c2及びd2は、0.90≦a2≦1.10、0.4≦b2<1.0、b2+c2+d2=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
組成式(2)中、0.10≦d2<0.40の数値を示すことが好ましい。また、0.50≦b2≦0.96の数値を示すことが好ましい。
NiおよびCoが主成分であり、かつNiの組成比がCoの組成比より大きいことで、非水系電解液電池の正極として用いた際に、安定であり、かつ高容量を取り出すことが可能となるからである。
【0071】
とりわけ、正極活物質が下記組成式(3)で示される遷移金属酸化物である態様が好ましい。
Lia3Nib3Coc3Md3O2・・・(3)
(式(3)中、0.90≦a3≦1.10、0.50≦b3≦0.94、0.05≦c3≦0.2、0.01≦d3≦0.3の数値を示し、b3+c3+d3=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
組成式(3)中、0.10≦d3≦0.3の数値を示すことが好ましい。
正極活物質が上記の組成であることで、非水系二次電池正極として用いた際に、特に高容量を取り出すことが可能となるからである。
【0072】
また、上記の正極活物質のうち2種類以上を混合して使用してもよい。同様に、上記の正極活物質のうち少なくとも1種と他の正極活物質を混合して使用してもよい。他の正極活物質の例としては、上記に挙げられていない遷移金属酸化物、遷移金属燐酸化合物、遷移金属ケイ酸化合物、遷移金属ホウ酸化合物が挙げられる。
中でも、スピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物やオリビン型構造を有するリチウム含有遷移金属燐酸化合物が好ましい。具体的にはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物として、LiMn2O4、LiMn1.8Al0.2O4、LiMn1.5Ni0.5O4等が挙げられる。これらのリチウムマンガン複合酸化物は最も安定した構造を有し、非水系電解液電池の異常時にも酸素放出しにくく、安全性に優れるためである。
また、リチウム含有遷移金属燐酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、例えば、LiFePO4、Li3Fe2(PO4)3、LiFeP2O7等の燐酸鉄類、LiCoPO4等の燐酸コバルト類、LiMnPO4等の燐酸マンガン類、これらのリチウム遷移金属燐酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn、W等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
リチウム含有遷移金属燐酸化合物の中でも、リチウム鉄燐酸化合物が好ましい。鉄は資源量も豊富で極めて安価な金属であり、かつ有害性も少ないためである。すなわち、上記の具体例のうち、LiFePO4をより好ましい具体例として挙げることができる。
【0073】
本発明の一実施形態においては、正極がNMC正極であり、該NMC正極中、ニッケル元素の含有量が30モル%以上である態様が好ましく、40モル%以上である態様が非水系電解液電池の高容量化の観点からより好ましい。
ここで、本明細書において、NMC正極とは、正極活物質がニッケル・マンガン・コバルト(NMC)を含み下記式(I)で表される材料である、正極を意味する。
LiaNibCocMndO2・・・(I)
(上記式(I)中、a、b、c及びdは、0.90≦a≦1.10、b+c+d=1を満たす。)
【0074】
(2)表面被覆
上記の正極活物質の表面に、主体となる正極活物質を構成する物質とは異なる組成の物質(以後、適宜「表面付着物質」という)が付着したものを用いることもできる。表面付着物質の例としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物;硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩;炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;炭素;等が挙げられる。
【0075】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸添加させた後に乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸添加させた後に加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により、正極活物質表面に付着させることができる。なお、炭素を付着させる場合には、炭素質を、例えば、活性炭等の形で後から機械的に付着させる方法も用いることができる。
【0076】
正極活物質の表面に付着している表面付着物質の質量は、正極活物質の質量に対して、好ましくは0.1ppm以上であり、1ppm以上がより好ましく、10ppm以上が更に好ましい。また、好ましくは20%以下であり、10%以下がより好ましく、5%以下が更に好ましい。
表面付着物質により、正極活物質表面での非水系電解液の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができる。また、付着量が上記範囲内にあると、その効果を十分に発現することができ、リチウムイオンの出入りを阻害することなく抵抗も増加し難くなる。
【0077】
(3)形状
正極活物質は、粒子形態を有していてもよい。正極活物質粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が用いられる。また、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成して成り、その二次粒子の形状が球状又は楕円球状であってもよい。
【0078】
(4)正極活物質の製造法
正極活物質の製造法としては、本発明の要旨を超えない範囲で特には制限されないが、いくつかの方法が挙げられ、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。
特に球状ないし楕円球状の活物質を作製するには種々の方法が考えられるが、例えばその1例として、遷移金属硝酸塩、硫酸塩等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作製回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法が挙げられる。
【0079】
また、別の方法の例として、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物等の遷移金属原料物質と、必要に応じ他の元素の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これにLiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法が挙げられる。
【0080】
更に別の方法の例として、遷移金属硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、酸化物等の遷移金属原料物質と、LiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源と、必要に応じ他の元素の原料物質とを水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、それをスプレードライヤー等で乾燥成型して球状ないし楕円球状の前駆体とし、これを高温で焼成して活物質を得る方法が挙げられる。
【0081】
<2-3-2.正極構造と作製法>
以下に、本発明に使用される正極の構成及びその作製法について説明する。
(正極の作製法)
正極は、正極活物質粒子と結着剤とを含有する正極活物質層を、集電体上に形成して作製される。正極活物質を用いる正極の製造は、公知のいずれの方法で行ってもよい。例えば、正極活物質と結着剤、並びに必要に応じて導電材及び増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、又はこれらの材料を液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成させることにより正極を得ることができる。
【0082】
正極活物質層中の正極活物質の含有量は、好ましくは60質量%以上であり、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、また、好ましくは99.9質量%以下であり、99質量%以下がより好ましい。正極活物質の含有量が、上記範囲内であると、非水系電解液電池の電気容量を十分確保できる。さらに、正極の強度も十分なものとなる。なお、本実施形態において正極活物質粉体(粒子)は、1種を単独で用いてもよく、異なる組成又は異なる粉体物性の2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。2種以上の活物質を組み合わせて用いる際は、前記リチウムとマンガンを含有する複合酸化物を粉体の成分として用いることが好ましい。コバルト又はニッケルは、資源量も少なく高価な金属であり、自動車用途等の高容量が必要とされる大型電池では活物質の使用量が大きくなることから、コストの点で好ましくない。そのため、大型電池では、正極活物質には、より安価な遷移金属としてマンガンを主成分に用いることが望ましいためである。
【0083】
<導電材>
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素質材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0084】
正極活物質層中の導電材の含有量は、好ましくは0.01質量%以上であり、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、また、好ましくは50質量%以下であり、30質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましい。含有量が上記範囲内であると、導電性を十分確保できる。さらに、電池容量の低下も防ぎやすい。
【0085】
<結着剤>
正極活物質層の製造に用いる結着剤は、非水系電解液や電極製造時用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に限定されない。
塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して溶解又は分散される材料であれば特に限定されないが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0086】
正極活物質層中の結着剤の含有量は、好ましくは0.1質量%以上であり、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましく、また、好ましくは80質量%以下であり、60質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましく、10質量%以下が特に好ましい。結着剤の割合が、上記範囲内であると、正極活物質を十分保持でき、正極の機械的強度を確保できるため、サイクル特性等の電池性能が良好となる。さらに、電池容量や導電性の低下を回避することにもつながる。
【0087】
<液体媒体>
正極活物質層を形成するためのスラリーの調製に用いる液体媒体としては、正極活物質、導電材、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
水系溶媒の例としては、例えば、水、アルコールと水との混合溶媒が挙げられる。有機系溶媒の例としては、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジン等の複素環化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチル等のエステル類;ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン等のアミン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルフォキシド等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0088】
<増粘剤>
スラリーを形成するための液体媒体として水系溶媒を用いる場合、増粘剤と、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のラテックスを用いてスラリー化するのが好ましい。増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。
増粘剤としては、本発明の効果を著しく制限しない限り制限はないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、燐酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0089】
増粘剤を使用する場合には、正極活物質に対する増粘剤の割合は、好ましくは0.1質量%以上であり、0.5質量%以上がより好ましく、0.6質量%以上が更に好ましく、また、好ましくは5質量%以下であり、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。上記範囲内であると、塗布性が良好となり、さらに、正極活物質層に占める活物質の割合が十分なものとなるため、電池の容量が低下する問題や正極活物質間の抵抗が増大する問題を回避し易くなる。
【0090】
<圧密化>
集電体への上記スラリーの塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。正極活物質層の密度は、1g・cm-3以上が好ましく、1.5g・cm-3以上が更に好ましく、2g・cm-3以上が特に好ましく、また、4g・cm-3以下が好ましく、3.5g・cm-3以下が更に好ましく、3g・cm-3以下が特に好ましい。
正極活物質層の密度が、上記範囲内であると、集電体/活物質界面付近への非水系電解液の浸透性が低下することなく、特に高電流密度での充放電特性が良好となる。さらに、活物質間の導電性が低下し難くなり、電池抵抗が増大し難くなる。
【0091】
<集電体>
正極集電体の材質としては特に制限は無く、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素質材料が挙げられる。中でも金属材料、特にアルミニウムが好ましい。
【0092】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素質材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属薄膜が好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
集電体の厚さは任意であるが、好ましくは1μm以上であり、3μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましく、また、好ましくは1mm以下であり、100μm以下がより好ましく、50μm以下が更に好ましい。集電体の厚さが、上記範囲内であると、集電体として必要な強度を十分確保することができる。さらに、取り扱い性も良好となる。
【0093】
集電体と正極活物質層の厚さの比は特には限定されないが、(非水系電解液注液直前の片面の活物質層厚さ)/(集電体の厚さ)が、好ましくは150以下であり、20以下がより好ましく、10以下が特に好ましく、また、好ましくは0.1以上であり、0.4以上がより好ましく、1以上が特に好ましい。
集電体と正極活物質層の厚さの比が、上記範囲内であると、高電流密度充放電時に集電体がジュール熱による発熱を生じ難くなる。さらに、正極活物質に対する集電体の体積比が増加し難くなり、電池容量の低下を防ぐことができる。
【0094】
<電極面積>
高出力かつ高温時の安定性を高める観点から、正極活物質層の面積は、電池外装ケースの外表面積に対して大きくすることが好ましい。具体的には、非水系電解液電池の外装の表面積に対する前記正極の電極面積の総和を、面積比で20倍以上とすることが好ましく、更に40倍以上とすることがより好ましい。外装ケースの外表面積とは、有底角型形状の場合には、端子の突起部分を除いた発電要素が充填されたケース部分の縦と横と厚さの寸法から計算で求める総面積をいう。有底円筒形状の場合には、端子の突起部分を除いた発電要素が充填されたケース部分を円筒として近似する幾何表面積である。正極の電極面積の総和とは、負極活物質を含む合材層に対向する正極合材層の幾何表面積であり、集電体箔を介して両面に正極合材層を形成してなる構造では、それぞれの面を別々に算出する面積の総和をいう。
【0095】
<放電容量>
上記の非水系電解液を用いる場合、非水系電解液電池の1個の電池外装に収納される電池要素のもつ電気容量(電池を満充電状態から放電状態まで放電したときの電気容量)が、1アンペアーアワー(Ah)以上であると、低温放電特性の向上効果が大きくなるため好ましい。そのため、正極板は、放電容量が満充電で、好ましくは3Ah(アンペアアワー)以上であり、より好ましくは4Ah以上、また、好ましくは100Ah以下であり、より好ましくは70Ah以下であり、特に好ましくは50Ah以下になるように設計する。
【0096】
上記範囲内であると、大電流の取り出し時に電極反応抵抗による電圧低下が大きくなり過ぎず、電力効率の悪化を防ぐことができる。さらに、パルス充放電時の電池内部発熱による温度分布が大きくなり過ぎず、充放電繰り返しの耐久性が劣り、また、過充電や内部短絡等の異常時の急激な発熱に対して放熱効率も悪くなるといった現象を回避することができる。
【0097】
<正極板の厚さ>
正極板の厚さは、特に限定されないが、高容量かつ高出力、高レート特性の観点から、集電体の厚さを差し引いた正極活物質層の厚さは、集電体の片面に対して、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、また、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
【0098】
<2-4.負極>
本発明の一実施形態においては、負極は集電体及び該集電体上に設けられた負極活物質層を有する。
以下に負極に使用される負極活物質について述べる。負極活物質としては、電気化学的に金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素質材料などの構成元素として炭素を有するもの、合金系材料等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0099】
<2-4-1.負極活物質>
負極活物質としては、前記の通り炭素質材料、合金系材料等が挙げられる。
【0100】
前記炭素質材料としては、(1)天然黒鉛、(2)人造黒鉛、(3)非晶質炭素、(4)炭素被覆黒鉛、(5)黒鉛被覆黒鉛、(6)樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。
【0101】
(1)天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土壌黒鉛及び/又はこれらの黒鉛を原料に球形化や緻密化等の処理を施して得られた黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性や充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状もしくは楕円体状の黒鉛が特に好ましい。
【0102】
前記球形化処理に用いる装置としては、例えば、衝撃力を主体に粒子の相互作用も含めた圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し粒子に与える装置を用いることができる。
【0103】
具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された天然黒鉛(1)の原料に対して衝撃圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与え、球形化処理を行なう装置が好ましい。また、原料を循環させることによって機械的作用を繰り返して与える機構を有する装置が好ましい。
【0104】
例えば前述の装置を用いて球形化処理する場合は、回転するローターの周速度を30~100m/秒に設定するのが好ましく、40~100m/秒に設定するのがより好ましく、50~100m/秒に設定するのが更に好ましい。また、球形化処理は、単に原料を通過させるだけでも可能であるが、30秒以上装置内を循環又は滞留させて処理するのが好ましく、1分以上装置内を循環又は滞留させて処理するのがより好ましい。
【0105】
(2)人造黒鉛としては、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサイルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の有機化合物を、通常2500℃以上、通常3200℃以下の範囲の温度で黒鉛化し、必要に応じて粉砕及び/又は分級して製造されたものが挙げられる。
【0106】
この際、ケイ素含有化合物やホウ素含有化合物等を黒鉛化触媒として用いることもできる。また、ピッチの熱処理過程で分離したメソカーボンマイクロビーズを黒鉛化して得た人造黒鉛が挙げられる。更に一次粒子からなる造粒粒子の人造黒鉛も挙げられる。例えば、メソカーボンマイクロビーズや、コークス等の黒鉛化可能な炭素質材料粉体とタール、ピッチ等の黒鉛化可能な結着剤と黒鉛化触媒を混合し、黒鉛化し、必要に応じて粉砕することで得られる、扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合した黒鉛粒子が挙げられる。
【0107】
(3)非晶質炭素としては、タール、ピッチ等の易黒鉛化性炭素前駆体を原料に用い、黒鉛化しない温度領域(400~2200℃の範囲)で1回以上熱処理した非晶質炭素粒子や、樹脂等の難黒鉛化性炭素前駆体を原料に用いて熱処理した非晶質炭素粒子が挙げられる。
【0108】
(4)炭素被覆黒鉛としては、以下のようにして得られるものが挙げられる。天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、タール、ピッチや樹脂等の有機化合物である炭素前駆体とを混合し、400~2300℃の範囲で1回以上熱処理する。熱処理後の天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、これを非晶質炭素により被覆して炭素黒鉛複合体を得る。この炭素黒鉛複合体が炭素被覆黒鉛(4)として挙げられる。
【0109】
また、前記複合の形態は、核黒鉛の表面全体又は一部を非晶質炭素が被覆した形態でも、複数の一次粒子を前記炭素前駆体起源の炭素を結着剤として複合させた形態であってもよい。また、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛にベンゼン、トルエン、メタン、プロパン、芳香族系の揮発分等の炭化水素系ガス等を高温で反応させ、黒鉛表面に炭素を堆積(CVD)させることでも、前記炭素黒鉛複合体を得ることができる。
【0110】
(5)黒鉛被覆黒鉛としては、以下のようにして得られるものが挙げられる。天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、タール、ピッチや樹脂等の易黒鉛化性の有機化合物の炭素前駆体とを混合し、2400~3200℃程度の温度範囲で1回以上熱処理する。熱処理後の天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、黒鉛化物でその核黒鉛の表面全体又は一部を被覆して黒鉛被覆黒鉛(5)が得られる。
【0111】
(6)樹脂被覆黒鉛は、例えば、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、樹脂等を混合し、400℃未満の温度で乾燥して得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、樹脂等でその核黒鉛を被覆することで得られる。
【0112】
また、以上説明した(1)~(6)の炭素質材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0113】
上記(2)~(5)の炭素質材料に用いられるタール、ピッチや樹脂等の有機化合物としては、石炭系重質油、直流系重質油、分解系石油重質油、芳香族炭化水素、N環化合物、S環化合物、ポリフェニレン、有機合成高分子、天然高分子、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂からなる群より選ばれた炭化可能な有機化合物等が挙げられる。また、原料有機化合物は混合時の粘度を調整するため、低分子有機溶媒に溶解させて用いてもよい。
【0114】
また、核黒鉛の原料となる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛としては、球形化処理を施した天然黒鉛が好ましい。
【0115】
次に、負極活物質として用いられる上記合金系材料は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能であれば、リチウム単体、リチウム合金を形成する単体金属及び合金、又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の化合物のいずれであってもよく、特に制限されない。リチウム合金を形成する単体金属及び合金は、13族及び14族の金属・半金属元素(即ち炭素を除く)を含む材料であることが好ましく、より好ましくはアルミニウム、ケイ素及びスズの単体金属及びこれら原子を含む合金又は化合物であり、更に好ましくはケイ素及びスズの単体金属及びこれら原子を含む合金又は化合物などの、ケイ素又はスズを構成元素として有るものである。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0116】
<Liと合金化可能な金属粒子>
リチウム合金を形成する単体金属及び合金、又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の化合物を負極活物質として使用する場合、Liと合金化可能な金属は、粒子形態である。金属粒子が、Liと合金化可能な金属粒子であることを確認するための手法としては、X線回折による金属粒子相の同定、電子顕微鏡による粒子構造の観察及びEDX元素分析、蛍光X線による元素分析等が挙げられる。
【0117】
Liと合金化可能な金属粒子としては、従来公知のいずれのものも使用可能であるが、非水系電解液電池の容量とサイクル寿命の点から、前記金属粒子は、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Ag、Si、Sn、Al、Zr、Cr、P、S、V、Mn、As、Nb、Mo、Cu、Zn、Ge、In、Ti及びWからなる群から選ばれる金属又はその化合物であることが好ましい。また、前記金属粒子が、2種以上の金属元素により形成された合金粒子であってもよい。これらの中でも、Si、Sn、As、Sb、Al、Zn及びWからなる群から選ばれる金属又はその金属化合物が好ましい。
【0118】
前記金属化合物としては、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等が挙げられる。また、2種以上の金属からなる合金を使用してもよい。
【0119】
Liと合金化可能な金属粒子の中でも、電池の高容量化の点で、Si又はSi金属化合物が好ましい。Si金属化合物は、Si金属酸化物であることが好ましい。本明細書では、Si又はSi金属化合物を総称してSi化合物と呼ぶ。Si化合物としては、具体的には、SiOx,SiNx,SiCx、SiZxOy(Z=C、N)等が挙げられる。Si化合物は、好ましくは、Si金属酸化物であり、Si金属酸化物は、一般式で表すとSiOxである。この一般式SiOxは、二酸化Si(SiO2)と金属Si(Si)とを原料として得られるが、そのxの値は通常0<x<2である。SiOxは、黒鉛と比較して理論容量が大きく、更に非晶質SiあるいはナノサイズのSi結晶は、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量の電池を得ることが可能となる。
【0120】
Si金属酸化物は、具体的には、SiOxと表されるものであり、xは0≦x<2であり、より好ましくは、0.2以上1.8以下、更に好ましくは、0.4以上1.6以下、特に好ましくは、0.6以上1.4以下である。この範囲であれば、電池が高容量であると同時に、Liと酸素との結合による不可逆容量を低減させることが可能となる。
【0121】
<Liと合金化可能な金属粒子の含有酸素量>
Liと合金化可能な金属粒子の含有酸素量は、特に制限はないが、通常0.01質量%以上8質量%以下であり、0.05質量%以上5質量%以下であることが好ましい。粒子内の酸素分布状態は、表面近傍に存在、粒子内部に存在、粒子内一様に存在のいずれでもかまわないが、特に表面近傍に存在していることが好ましい。Liと合金化可能な金属粒子の含有酸素量が前記範囲内であると、金属粒子とO(酸素原子)との強い結合により、非水系電解液電池の二次充放電に伴う体積膨張が抑制され、また、サイクル特性に優れる非水系電解液電池とすることが出来るので好ましい。
【0122】
<Liと合金化可能な金属粒子と黒鉛粒子とを含有する負極活物質>
負極活物質は、Liと合金化可能な金属粒子と黒鉛粒子とを含有するものであってもよい。その負極活物質とは、Liと合金化可能な金属粒子と黒鉛粒子とが互いに独立した粒子の状態で混合されている混合物でもよいし、Liと合金化可能な金属粒子が黒鉛粒子の表面及び/又は内部に存在している複合体でもよい。
【0123】
上記Liと合金化可能な金属粒子と黒鉛粒子との複合体(複合粒子ともいう)とは、特に、Liと合金化可能な金属粒子及び黒鉛粒子が含まれている粒子であれば特に制限はないが、好ましくは、Liと合金化可能な金属粒子及び黒鉛粒子が物理的及び/又は化学的な結合によって一体化した粒子である。より好ましい形態としては、Liと合金化可能な金属粒子及び黒鉛粒子が、少なくとも複合粒子表面及びバルク内部の何れにも存在する程度に各々の固体成分が粒子内で分散して存在している状態にあり、それらを物理的及び/又は化学的な結合によって一体化させるために、黒鉛粒子が存在しているような形態である。更に具体的な好ましい形態は、Liと合金化可能な金属粒子と黒鉛粒子から少なくとも構成される複合材であって、黒鉛粒子、好ましくは、天然黒鉛が曲面を有する折り畳まれた構造を持つ粒子内に、該構造内の間隙にLiと合金化可能な金属粒子が存在していることを特徴とする複合材(負極活物質)である。また、間隙は空隙であってもよいし、非晶質炭素や黒鉛質物、樹脂等、Liと合金化可能な金属粒子の膨張、収縮を緩衝するような物質が、前記間隙中に存在していてもよい。
【0124】
<Liと合金化可能な金属粒子の含有割合>
Liと合金化可能な金属粒子と黒鉛粒子の合計に対するLiと合金化可能な金属粒子の含有割合は、通常0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは、1.0質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上である。また、通常99質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは25質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。Liと合金化可能な金属粒子の含有割合がこの範囲内であると、Si表面での副反応の制御が可能であり、非水系電解液電池において十分な容量を得ることが可能となる点で好ましい。
【0125】
<被覆率>
本実施形態において、負極活物質は、炭素質物又は黒鉛質物で被覆されていてもよい。この中でも非晶質炭素質物で被覆されていることが、リチウムイオンの受入性の点から好ましい。この被覆率は、通常0.5%以上30%以下、好ましくは1%以上25%以下、より好ましくは、2%以上20%以下である。被覆率の上限は、電池を組んだ際の可逆容量の観点から、被覆率の下限は、核となる炭素質材料が非晶質炭素によって均一にコートされ強固な造粒がされるという観点、焼成後に粉砕した際、得られる粒子の粒径の観点から、上記範囲とすることが好ましい。
【0126】
なお、最終的に得られる負極活物質の有機化合物由来の炭化物の被覆率(含有率)は、負極活物質の量と、有機化合物の量及びJIS K 2270に準拠したミクロ法により測定される残炭率により、下記式で算出することができる。
【0127】
式:有機化合物由来の炭化物の被覆率(%)=(有機化合物の質量×残炭率×100)/{負極活物質の質量+(有機化合物の質量×残炭率)}
【0128】
<内部間隙率>
負極活物質の内部間隙率は通常1%以上、好ましくは3%以上、より好ましく5%以上、更に好ましくは7%以上である。また通常50%未満、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下である。この内部間隙率が小さすぎると、非水系電解液電池において負極活物質の粒子内の液量が少なくなる傾向がある。一方、内部間隙率が大きすぎると、電極にした場合に粒子間間隙が少なくなる傾向にある。内部間隙率の下限は充放電特性の観点から、上限は非水系電解液の拡散の観点から上記範囲とすることが好ましい。また、上述したように、この間隙は空隙であってもよいし、非晶質炭素や黒鉛質物、樹脂等、Liと合金化可能な金属粒子の膨張、収縮を緩衝するような物質が、間隙中に存在又は間隙がこれらにより満たされていてもよい。
【0129】
<2-4-2.負極の構成と作製法>
負極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法をも用いることができる。例えば、負極活物質に、結着剤、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスすることによって形成することができる。
【0130】
また、合金系材料負極は、公知のいずれの方法を用いても製造することが可能である。具体的に、負極の製造方法としては、例えば、上述の負極活物質に結着剤や導電材等を加えたものをそのままロール成型してシート電極とする方法や、圧縮成形してペレット電極とする方法も挙げられるが、通常は負極用の集電体(以下「負極集電体」という場合がある。)上に塗布法、蒸着法、スパッタ法、メッキ法等の手法により、上述の負極活物質を含有する薄膜層(負極活物質層)を形成する方法が用いられる。この場合、上述の負極活物質に結着剤、増粘剤、導電材、溶媒等を加えてスラリー状とし、これを負極集電体に塗布、乾燥した後にプレスして高密度化することにより、負極集電体上に負極活物質層を形成する。
【0131】
負極集電体の材質としては、鋼、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス等が挙げられる。これらのうち、薄膜に加工し易いという点及びコストの点から、銅が好ましく、銅箔を用いることよりが好ましい。
【0132】
負極集電体の厚さは、通常1μm以上、好ましくは5μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは50μm以下である。負極集電体の厚さが厚過ぎると、非水系電解液電池全体の容量が低下し過ぎることがあり、逆に薄過ぎると取り扱いが困難になることがある。
【0133】
なお、表面に形成される負極活物質層との結着効果を向上させるため、これら負極集電体の表面は、予め粗面化処理しておくことが好ましい。表面の粗面化方法としては、ブラスト処理、粗面ロールによる圧延、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線等を備えたワイヤーブラシ等で集電体表面を研磨する機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法等が挙げられる。
【0134】
また、負極集電体の質量を低減させて電池の質量当たりのエネルギー密度を向上させるために、エキスパンドメタルやパンチングメタルのような穴あきタイプの負極集電体を使用することもできる。このタイプの負極集電体は、その開口率を変更することで、質量も自在に変更可能である。また、このタイプの負極集電体の両面に負極活物質層を形成させた場合、この穴を通してのリベット効果により、負極活物質層の剥離が更に起こり難くなる。しかし、開口率があまりに高くなった場合には、負極活物質層と負極集電体との接触面積が小さくなるため、かえって接着強度は低くなることがある。
【0135】
負極活物質層を形成するためのスラリーは、通常は負極材に対して結着剤、増粘剤等を加えて作製される。なお、本明細書における「負極材」とは、負極活物質と導電材とを合わせた材料を指すものとする。
【0136】
負極材中における負極活物質の含有量は、通常70質量%以上、特に75質量%以上、また、通常97質量%以下、特に95質量%以下であることが好ましい。負極活物質の含有量が少な過ぎると、得られる負極を用いた二次電池の容量が不足する傾向があり、多過ぎると相対的に導電材の含有量が不足することにより、負極としての電気伝導性を確保しづらい傾向にある。なお、二以上の負極活物質を併用する場合には、負極活物質の合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。
【0137】
負極に用いられる導電材としては、銅やニッケル等の金属材料;黒鉛、カーボンブラック等の炭素材料等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。特に、導電材として炭素材料を用いると、炭素材料が活物質としても作用するため好ましい。負極材中における導電材の含有量は、通常3質量%以上、好ましくは5質量%以上、また、通常30質量%以下であり、25質量%以下であることが好ましい。導電材の含有量が少な過ぎると導電性が不足する傾向があり、多過ぎると相対的に負極活物質等の含有量が不足することにより、電池容量や強度が低下する傾向となる。なお、二以上の導電材を併用する場合には、導電材の合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。
【0138】
負極に用いられる結着剤としては、電極製造時に使用する溶媒や電解液に対して安定な材料であれば、任意のものを使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。結着剤の含有量は、負極材100質量部に対して通常0.5質量部以上、好ましくは1質量部以上、また、通常10質量部以下であり、8質量部以下であることが好ましい。結着剤の含有量が少な過ぎると得られる負極の強度が不足する傾向があり、多過ぎると相対的に負極活物質等の含有量が不足することにより、電池容量や導電性が不足する傾向となる。なお、二以上の結着剤を併用する場合には、結着剤の合計量が上記範囲を満たすようにすればよい。
【0139】
負極に用いられる増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。増粘剤は必要に応じて使用すればよいが、使用する場合には、負極活物質層中における増粘剤の含有量が通常0.5質量%以上、5質量%以下の範囲で用いることが好ましい。
【0140】
負極活物質層を形成するためのスラリーは、上記負極活物質に、必要に応じて導電材や結着剤、増粘剤を混合して、水系溶媒又は有機溶媒を分散媒として用いて調製される。水系溶媒としては、通常、水が用いられるが、これにエタノール等のアルコール類、N-メチルピロリドン等の環状アミド類等の有機溶媒を、水に対して30質量%以下の範囲で併用することもできる。また、有機溶媒としては、N-メチルピロリドン等の環状アミド類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の直鎖状アミド類;アニソール、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ブタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;が挙げられ、中でも、N-メチルピロリドン等の環状アミド類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の直鎖状アミド類が好ましい。なお、これらは何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0141】
得られたスラリーを上述の負極集電体上に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより、負極活物質層が形成され、負極が得られる。塗布の手法は特に制限されず、それ自体既知の方法を用いることができる。乾燥の手法も特に制限されず、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等の公知の手法を用いることができる。
【0142】
<電極密度>
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質の密度は、1g・cm-3以上が好ましく、1.2g・cm-3以上がさらに好ましく、1.3g・cm-3以上が特に好ましく、また、2.2g・cm-3以下が好ましく、2.1g・cm-3以下がより好ましく、2.0g・cm-3以下がさらに好ましく、1.9g・cm-3以下が特に好ましい。集電体上に存在している負極活物質の密度が、上記範囲を上回ると、負極活物質粒子が破壊され、非水系電解液電池の初期不可逆容量の増加や、集電体/負極活物質界面付近への非水系電解液の浸透性低下による高電流密度充放電特性悪化を招く場合がある。また、負極活物質の密度が上記範囲を下回ると、負極活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し、単位容積当たりの容量が低下する場合がある。
【0143】
<2-5.セパレータ>
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、本発明の非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
【0144】
セパレータの材料や形状については特に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。中でも、本発明の非水系電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が好ましく用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物を用いるのが好ましい。
【0145】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。中でも好ましくはガラスフィルター、ポリオレフィンであり、さらに好ましくはポリオレフィンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0146】
上記セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、非水系電解液電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0147】
さらに、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下がより好ましい。空孔率が、上記範囲より小さ過ぎると、膜抵抗が大きくなってレート特性が悪化する傾向がある。また、上記範囲より大き過ぎると、セパレータの機械的強度が低下し、絶縁性が低下する傾向にある。
【0148】
また、セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましく、また、通常0.05μm以上である。平均孔径が、上記範囲を上回ると、短絡が生じ易くなる。また、上記範囲を下回ると、膜抵抗が大きくなりレート特性が低下する場合がある。
【0149】
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物類、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物類、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩類が用いられる。
【0150】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01~1μm、厚さが5~50μmのものが好適に用いられる。前記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着剤を用いた粒子形状若しくは繊維形状の無機物を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に、フッ素樹脂を結着剤として90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を含む多孔層を形成させることが挙げられる。
【0151】
<2-6.電池設計>
[電極群]
電極群は、前述の正極板と負極板とを前述のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び前述の正極板と負極板とを前述のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のものの何れでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する。)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましく、また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。電極群占有率の下限は、電池容量の観点から、上記範囲とすることが好ましい。また、電極群占有率の上限は、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存特性等の諸特性の観点、内部圧力を外に逃がすガス放出弁の作動回避の観点から、間隙スペースを確保するために上記範囲とすることが好ましい。間隙スペースが少な過ぎると、電池が高温になることによって部材が膨張したり電解質の液成分の蒸気圧が高くなったりして内部圧力が上昇し、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存特性等の諸特性を低下させたり、さらには、内部圧力を外に逃がすガス放出弁が作動する場合がある。
【0152】
[集電構造]
集電構造は特に限定されるものではないが、上記の非水系電解液による放電特性の向上をより効果的に実現するには、配線部分や接合部分の抵抗を低減する構造にすることが好ましい。この様に内部抵抗を低減させた場合、上記の非水系電解液を使用した効果は特に良好に発揮される。
【0153】
電極群が前述の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。1枚の電極面積が大きくなる場合には、内部抵抗が大きくなるので、電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が前述の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0154】
[保護素子]
保護素子として、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC素子(Positive Temperature Coefficient)素子、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等が挙げられる。前記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、高出力の観点から、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0155】
[外装体]
本実施形態の非水系電解液電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体(外装ケース)内に収納して構成される。この外装体に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り公知のものを任意に採用することができる。
【0156】
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に限定されるものではない。具体的に、ニッケルメッキ鋼板、ステンレス、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、マグネシウム合金、ニッケル、チタン等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が好適に用いられる。
【0157】
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、又は、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0158】
また、外装体の形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【実施例】
【0159】
[実験A]
以下、実施例及び参考例を挙げて本発明の1態様を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0160】
<実施例A1-1~A1-4、比較例A1-1~A1-7>
[Ni(PF6)2を含むEC溶液の調製]
アルゴングローブボックス中、50mLビーカーにNiCl2 0.5g(3.9mmol)を秤量し、アセトニトリル(AN)に懸濁させた。これを撹拌しながら、AgPF6 1.95g(7.7mmol)を細かく分けてゆっくりと加え、その後室温にて3時間撹拌した。反応進行とともにAgClの白色固体が生成した。そのまま一晩放置した後、AgClをろ別し、得られたろ液をロータリーエバポレータ―で減圧濃縮することで、[Ni(AN)n](PF6)2(n=0~6)の青色固体を得た。ここに、45℃で融解させたエチレンカーボネート(EC)5.0g(56.8mmol)を加えて固体を溶解させ、35℃で6時間真空引きすることで、配位溶媒であったANを除去し、Ni(PF6)2を含むEC溶液を得た。
【0161】
[正極の作製]
正極活物質としてLi(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O285質量部と、導電材としてアセチレンブラック10質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量部とを、N-メチルピロリドン溶媒中で、ディスパーザーで混合してスラリー化した。これを厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして正極とした。
【0162】
[負極の作製]
天然黒鉛98質量部に、増粘剤及び結着剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)1質量部及びスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に塗布して乾燥した後、プレスして負極とした。
【0163】
[非水系電解液の調製]
乾燥アルゴン雰囲気下、Ni(PF6)2を含むEC溶液を基に、混合溶媒中のニッケルイオン濃度が表1となるように、及び溶媒組成がエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)の混合物の体積比が3:4:3となるように、EC、EMC、DMCで希釈し、十分に乾燥させたLiPF6を1モル/L(非水系電解液中の濃度として)溶解させた。なお、Ni(PF6)2を含まない非水系電解液を基準電解液A1と呼ぶ。上記で作成したNi(PF6)2含有非水系電解液又は基準電解液A1に対して、FSO3Liを加えて、下記表1に記載の非水系電解液を調製した。ただし、比較例A1-1は基準電解液A1そのものである。表中、FSO3Liの含有量は添加量を示し、ニッケル元素(ニッケルイオン)の含有量は、後述する誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)の測定結果に基づき求めた値である。なお、表中の「含有量(質量%)」及び「含有量(質量ppm)」は、基準電解液A1を100質量%とした時の含有量である。
【0164】
<非水系電解液中におけるニッケル元素の含有量の測定>
非水系電解液100μL(約130mg)を分取した。分取した非水系電解液をPTFEビーカーに秤り取り、適切な量の濃硝酸を加えてホットプレート上で湿式分解した後に50mL定容し、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES、Thermo Fischer Scientific、iCAP 7600duo)を用いてLi及び酸濃度マッチング検量線法でニッケル元素の含有量を測定した。
【0165】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の正極、負極、及びポリエチレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正極と負極の端子を突設させながら挿入した後、上記調製後の非水系電解液を袋内に注入し、真空封止を行い、ラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0166】
<非水系電解液二次電池の評価>
[初期コンディショニング]
25℃の恒温槽中、非水系電解液二次電池を1/6C(1Cとは、充電または放電に1時間かかる電流値のことを示す。以下同様。)に相当する電流で4.2Vまで定電流-定電圧充電(以下、CC-CV充電と記載)した後、1/6Cで2.5Vまで放電した。1/6Cで4.1VまでCC-CV充電を行った。その後、60℃、12時間の条件でエージングを実施した。その後、1/6Cで2.5Vまで放電し、非水系電解液二次電池を安定させた。さらに、1/6Cで4.2VまでCC-CV充電を行った後、1/6Cで2.5Vまで放電し、初期コンディショニングを行った。
【0167】
[充電保存試験]
初期コンディショニング後の非水系電解液二次電池を再度、1/6Cで4.2VまでCC-CV充電を行った後、60℃、168時間の条件で高温保存を行った。高温保存後、電池を冷却させた後、非水系電解液二次電池を25℃において1/6Cで2.5Vまで放電させた時の放電容量を求め、これを「残存容量(1週間)」とした。下記表1に、比較例A1-1の残存容量(1週間)を100とした際の残存容量(1週間)の値を示す。
充電保存試験後の非水系電解液二次電池を再度、1/6Cで4.2VまでCC-CV充電を行った後、60℃、336時間の条件で高温保存を行った。非水系電解液二次電池を25℃において1/6Cで2.5Vまで放電させた時の放電容量を求め、これを「残存容量(2週間)」とした。下記表1に、比較例A1-1の残存容量(2週間)を100とした際の残存容量の値を示す。
【0168】
【0169】
比較例A1-1と比較例A1-2との比較から、電解液がFSO3Liを含むことにより、電池の残存容量が増加することが示された。一方、比較例A1-1~比較例A1-3から、電解液がFSO3Liを含んでいても、所定の量を超えるニッケルイオンを含むと、残存容量が低下することが示された。また、比較例A1-4~A1-7から、電解液がニッケルイオンを50質量ppm程度含有する場合(比較例A1-6)は残存容量の向上が示されたが、それより少ない又は多いニッケルイオンを含む場合には、残存容量の低下が示された。一方、実施例A1-2~A1-4から、電解液がFSO3Liを含む場合、比較例A1-4、A1-5及びA1-7と同様の量のニッケルイオンを含む場合であっても、FSO3Liを単独で含む場合よりも残存容量が向上する効果が示された。すなわち、非水系電解液がFSO3Li及び所定の量のニッケルイオンを含むことで、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上することが示された。
【0170】
<実施例A2-1~A2-3、比較例A2-1~A2-3>
[正極の作製]
実施例A1-1と同様の方法で正極を作製した。
【0171】
[負極の作製]
実施例A1-1と同様の方法で負極を作製した。
【0172】
[非水系電解液の調製]
実施例A1-1等と同様に、Ni(PF6)2含有非水系電解液又は基準電解液A1に対して、FSO3Liを加えて、下記表2に記載の非水系電解液を調製した。
【0173】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の非水系電解液を用いたこと以外は、実施例A1-1と同様にラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0174】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例A1-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例A1-1と同様の方法で残存容量を求めた。下記表2に、比較例A1-1の残存容量(1週間)を100とした際の、実施例A2-1~A2-3及び比較例A2-1~A2-3の残存容量(1週間)の値を、比較例A1-1及びA1-5の結果と併せて示す。
【0175】
【0176】
比較例A1-1と比較例A1-5との比較から、ニッケルイオンを103質量ppm含む電解液はニッケルイオンを含まない電解液より電池の残存容量を低下させることが示された。また、比較例A2-1及びA2-2からは、電解液がFSO3Liを含む場合であっても、その含有量が少なすぎると、電池の残存容量が向上するどころか、低下することが示された。これらの結果から、実施例A2-1の電池は、比較例A1-5及び比較例A2-1より残存容量の低下が予想される。しかしながら、実施例A2-1は、比較例A1-5及び比較例A2-1より残存容量が向上し、さらには、比較例A1-1よりも残存容量が向上するという顕著な効果が示された。また、実施例A2-2と比較例A2-2との比較、並びに、実施例A2-3と比較例A2-3との比較からも、電解液がFSO3Liと所定の量のニッケルイオンを含むことにより、非水系電解液二次電池の残存容量が向上する、すなわち、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上するという顕著な効果が示された。
【0177】
<実施例A3-1~A3-2、比較例A3-1~A3-5>
[正極の作製]
正極活物質としてLi(Ni0.5Mn0.3Co0.2)O290質量部と、導電材としてアセチレンブラック7質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)3質量部とを、N-メチルピロリドン溶媒中で、ディスパーザーで混合してスラリー化した。これを厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして正極とした。
【0178】
[負極の作製]
負極活物質を含むスラリーを銅箔の両面に塗布した以外は実施例A1-1と同様の方法で、負極を作製した。
【0179】
[非水系電解液の調液]
実施例A1-1等と同様に、Ni(PF6)2含有非水系電解液又は基準電解液A1に対して、FSO3Liを加えて、下記表3に記載の非水系電解液を調製した。ただし、比較例A3-1は基準電解液A1そのものである。なお、表中の「含有量(質量%)」及び「含有量(質量ppm)」は、基準電解液A1を100質量%とした時の含有量である。
【0180】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の正極、負極及び非水系電解液を用いたこと以外は、実施例A1-1と同様にラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0181】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例A1-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例A1-1と同様の方法で残存容量(1週間)および残存容量(2週間)を求めた。下記表3に、比較例A3-1の残存容量(1週間)を100とした際の残存容量の値、及び比較例A3-1の残存容量(2週間)を100とした際の残存容量(2週間)の値を示す。
【0182】
【0183】
比較例A3-1、比較例A3-4及び比較例A3-5から、ニッケルイオンが5質量ppm含まれる電解液は非水系電解液電池の残存容量を向上させる一方、ニッケルイオンの量が515質量ppmと多くなると、残存容量を低下させることがわかる。一方、実施例A3-1、実施例A3-2及び比較例A3-2から、電解液が所定の量のニッケルイオンを含み、かつFSO3Liを含む場合には、FSO3Liを単独で含む場合よりも残存容量が増加することが示された。さらに、2週間保存後の残存容量からも、電解液が所定の量のニッケルイオンを含みかつFSO3Liを含むことにより、継時変化による非水系電解液電池の劣化が抑制される、すなわち、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上することが示された。また、比較例A3-3と比較例A3-2との比較から、電解液が含むニッケルイオンの量が所定の範囲外であると、FSO3Liの添加効果が損なわれ、非水系電解液電池の残存容量が低下することがわかる。
【0184】
電池の保存期間は、例えば車両メーカーであれば、通常200日程度である。1週間、2週間保存後の残存容量の差は、経時的に大きくなるため、保存期間が長期化すればするほど、本発明の効果が一層顕著になるといえる。
【0185】
[実験B]
以下、実施例及び参考例を挙げて本発明の1態様を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0186】
<実施例B1-1~B1-3、比較例B1-1~B1-5>
[Co(PF6)2を含むEC溶液の調製]
アルゴングローブボックス中、50mLビーカーにCoCl2 0.30g(2.3mmol)を秤量し、アセトニトリル(AN)に懸濁させた。これを撹拌しながら、AgPF61.168g(4.6mmol)を細かく分けてゆっくりと加え、その後室温にて3時間撹拌した。反応進行とともにAgClの白色固体が生成した。そのまま一晩放置した後、AgClをろ別し、得られたろ液をロータリーエバポレータ―で減圧濃縮することで、[Co(AN)n](PF6)2(n=0~6)の橙色固体を得た。得られた橙色固体のうち0.5gを、45℃で融解させたエチレンカーボネート(EC)2.0g(22.7mmol)に溶解させ、35℃で6時間真空引きすることで、配位溶媒であったANを除去し、Co(PF6)2を含むEC溶液を得た。
【0187】
[正極の作製]
実施例A1-1と同様の方法で正極を作製した。
【0188】
[負極の作製]
実施例A1-1と同様の方法で負極を作製した。
【0189】
[非水系電解液の調製]
乾燥アルゴン雰囲気下、Co(PF6)2を含むEC溶液を基に、混合溶媒中のコバルトイオン濃度が表4となるように、及び溶媒組成がエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)の混合物の体積比が3:4:3となるように、EC、EMC、DMCで希釈し、十分に乾燥させたLiPF6を1モル/L(非水系電解液中の濃度として)溶解させた。なお、Co(PF6)2を含まない非水系電解液を基準電解液B1と呼ぶ。上記で作成したCo(PF6)2含有非水系電解液又は基準電解液B1に対して、FSO3Liを加えて、下記表4に記載の非水系電解液を調製した。ただし、比較例B1-1は基準電解液B1そのものである。表中、FSO3Liの含有量は添加量を示し、コバルト元素(コバルトイオン)の含有量は、後述する誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)の測定結果に基づき求めた値である。なお、表中の「含有量(質量%)」及び「含有量(質量ppm)」は、基準電解液B1を100質量%とした時の含有量である。
【0190】
<非水系電解液中におけるコバルト元素の含有量の測定>
非水系電解液100μL(約130mg)を分取した。分取した非水系電解液をPTFEビーカーに秤り取り、適切な量の濃硝酸を加えてホットプレート上で湿式分解した後に50mL定容し、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES、Thermo Fischer Scientific、iCAP 7600duo)を用いてLi及び酸濃度マッチング検量線法でコバルト元素の含有量を測定した。
【0191】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の非水系電解液を用いたこと以外は、実施例A1-1と同様にラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0192】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例A1-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例A1-1と同様の方法で残存容量を求めた。下記表4に、比較例B1-1の残存容量(1週間)を100とした際の残存容量の値を示す。下記表4に、比較例B1-1の残存容量(2週間)を100とした際の残存容量の値を示す。
【0193】
【0194】
比較例B1-1と比較例B1-2との比較から、非水系電解液がFSO3Liを含むことにより、非水系電解液二次電池の残存容量が増加することが示された。また、比較例B1-3~B1-5から、非水系電解液がFSO3Liを含まずにコバルトイオンのみを4~190質量ppm含有する場合は非水系電解液二次電池の残存容量の低下が示された。一方、実施例B1-1~B1-3から、電解液がFSO3Liを含む場合、比較例B1-3
~B1-5と同様の量のコバルトイオンを含む場合であっても、予測に反して、FSO3Liを単独で含む場合よりも残存容量が向上する効果が示された。また、比較例B1-2と実施例B1-2との比較から、コバルトイオン含有の有無により、168時間(1週間)高温保存後の残存容量と336時間(2週間)高温保存後の残存容量の差がより一層大きくなっていることがわかる。すなわち、非水系電解液がFSO3Li及び所定の量のコバルトイオンを含むことで、高温保存時の経時変化を顕著に抑制され、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上することが示された。
【0195】
<実施例B2-1~B2-3、比較例B2-1~B2-3>
[正極の作製]
実施例B1-1と同様の方法で正極を作製した。
【0196】
[負極の作製]
実施例B1-1と同様の方法で負極を作製した。
【0197】
[非水系電解液の調製]
実施例B1-1等と同様に、Co(PF6)2含有非水系電解液又は基準電解液B1に対して、FSO3Liを加えて、下記表5に記載の非水系電解液を調製した。
【0198】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の非水系電解液を用いたこと以外は、実施例B1-1と同様にラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0199】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例B1-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例B1-1と同様の方法で残存容量を求めた。下記表5に、比較例B1-1の残存容量(1週間)を100とした際の、実施例B2-1~B2-3及び比較例B2-1~B2-3の残存容量(1週間)の値を、比較例B1-1及びB1-4の結果と併せて示す。
【0200】
【0201】
比較例B1-1と比較例B1-4との比較から、FSO3Liを含まずにコバルトイオンを78質量ppm含む非水系電解液はコバルトイオンを含まない非水系電解液より非水系電解液二次電池の残存容量を低下させることが示された。また、比較例B2-1及びB2-2からは、非水系電解液がFSO3Liを含む場合であっても、その含有量が少なすぎると、非水系電解液二次電池の残存容量が向上するどころか、低下することが示された。これらの結果から、実施例B2-1の非水系電解液二次電池は、比較例B1-4及び比較例B2-1より残存容量の低下が予測される。しかしながら、実施例B2-1は、比較例B1-4及び比較例B2-1より残存容量が向上し、さらには、比較例B1-1よりも残存容量が向上するという顕著な効果が示された。また、実施例B2-2と比較例B2-2との比較、並びに、実施例B2-3と比較例B2-3との比較からも、非水系電解液がFSO3Liと所定の量のコバルトイオンを含むことにより、非水系電解液二次電池の残存容量が向上する、すなわち、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上するという顕著な効果が示された。
【0202】
<実施例B3-1~B3-3、比較例B3-1~B3-6>
[正極の作製]
実施例A3-1と同様の方法で正極を作製した。
【0203】
[負極の作製]
実施例A3-1と同様の方法で負極を作製した。
【0204】
[非水系電解液の調液]
実施例B1-1等と同様に、Co(PF6)2含有非水系電解液又は基準電解液B1に対して、FSO3Liを加えて、下記表6に記載の非水系電解液を調製した。ただし、比較例B3-1は基準電解液B1そのものである。なお、表中の「含有量(質量%)」及び「含有量(質量ppm)」は、基準電解液B1を100質量%とした時の含有量である。
【0205】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の正極、負極及び非水系電解液を用いたこと以外は、実施例B1-1と同様にラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0206】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例B1-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例B1-1と同様の方法で残存容量(1週間)および残存容量(2週間)を求めた。下記表6に、比較例B3-1の残存容量(1週間)を100とした際の残存容量(1週間)の値、及び比較例B3-1の残存容量(2週間)を100とした際の残存容量(2週間)の値を示す。
【0207】
【0208】
比較例B3-1、比較例B3-4及び比較例B3-6から、コバルトイオンを4質量ppm含む非水系電解液は非水系電解液二次電池の残存容量を向上させる一方、コバルトイオンの量が476質量ppmと多くなると、168時間(1週間)高温保存後の残存容量を低下させ、336時間(2週間)高温保存後の残存容量はコバルトイオンを含まない場合と同等であることが示された。また、比較例B3-3と比較例B3-2との比較から、非水系電解液がFSO3Liを含んでいても、760質量ppmのコバルトイオンを含む場合、FSO3Liの添加効果が損なわれ、168時間(1週間)高温保存後の非水系電解液二次電池の残存容量を低下させることが示された。さらに、実施例B3-1~B3-3並びに比較例B3-1~B3-6から、非水系電解液が所定の量のコバルトイオンを含みかつFSO3Liを含むことにより、FSO3Li又はコバルトイオンを単独で含む場合よりも高温保存後の非水系電解液二次電池の残存容量が増加すること、特に、168時間(1週間)高温保存後と336時間(2週間)高温保存後の残存容量の比の比較から、経時変化による非水系電解液二次電池の劣化が顕著に抑制され、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上することが示された。
【0209】
電池の保存期間は、例えば車両メーカーであれば、通常200日程度である。1週間、2週間保存後の残存容量の差は、経時的に大きくなるため、保存期間が長期化すればするほど、本発明の効果が一層顕著になるといえる。
【0210】
[実験C]
以下、実施例及び参考例を挙げて本発明の1態様を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0211】
<実施例C1-1~C1-4、比較例C1-1~C1-7>
[Cu(PF6)2を含むEC溶液の調製]
アルゴングローブボックス中、50mLビーカーにCuCl2 0.50g(3.7mmol)を秤量し、アセトニトリル(AN)に懸濁させた。これを撹拌しながら、AgPF6 1.88g(7.4mmol)を細かく分けてゆっくりと加え、その後室温にて3時間撹拌した。反応進行とともにAgClの白色固体が生成した。そのまま一晩放置した後、AgClをろ別し、得られたろ液をロータリーエバポレータ―で減圧濃縮することで、[Cu(AN)n](PF6)2(n=0~6)の青色固体を得た。ここに、45℃で融解させたエチレンカーボネート(EC)5.0g(56.8mmol)を加えて固体を溶解させ、35℃で6時間真空引きすることで、配位溶媒であったANを除去し、Cu(PF6)2を含むEC溶液を得た。
【0212】
[正極の作製]
実施例A1-1と同様の方法で正極を作製した。
【0213】
[負極の作製]
実施例A1-1と同様の方法で負極を作製した。
【0214】
[非水系電解液の調製]
乾燥アルゴン雰囲気下、Cu(PF6)2を含むEC溶液を基に、混合溶媒中の銅イオン濃度が表7となるように、及び溶媒組成がエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)の混合物の体積比が3:4:3となるように、EC、EMC、DMCで希釈し、十分に乾燥させたLiPF6を1モル/L(非水系電解液中の濃度として)溶解させた。なお、Cu(PF6)2を含まない非水系電解液を基準電解液C1と呼ぶ。上記で作成したCu(PF6)2含有非水系電解液又は基準電解液C1に対して、FSO3Liを加えて、下記表7に記載の非水系電解液を調製した。ただし、比較例C1-1は基準電解液C1そのものである。表中、FSO3Liの含有量は添加量を示し、銅元素(銅イオン)の含有量は、後述する誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)の測定結果に基づき求めた値である。なお、表中の「含有量(質量%)」及び「含有量(質量ppm)」は、基準電解液C1を100質量%とした時の含有量である。
【0215】
<非水系電解液中における銅元素の含有量の測定>
非水系電解液100μL(約130mg)を分取した。分取した非水系電解液をPTFEビーカーに秤り取り、適切な量の濃硝酸を加えてホットプレート上で湿式分解した後に50mL定容し、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES、Thermo Fischer Scientific、iCAP 7600duo)を用いてLi及び酸濃度マッチング検量線法で銅元素の含有量を測定した。
【0216】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の非水系電解液を用いたこと以外は、実施例A1-1と同様に、ラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0217】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例A1-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例A1-1と同様の方法で残存容量を求めた。下記表7に、比較例C1-1の残存容量を100とした際の残存容量(1週間)の値を示す。下記表7に、比較例C1-1の残存容量(2週間)を100とした際の残存容量の値を示す。
【0218】
【0219】
比較例C1-1と比較例C1-2との比較から、電解液がFSO3Liを含むことにより、電池の残存容量が増加することが示された。一方、比較例C1-1~比較例C1-3から、電解液がFSO3Liを含んでいても、所定の量を超える銅イオンを含むと、残存容量は変わらず、FSO3Li含有の効果を発揮しないことが示された。また、比較例C1-4~C1-7から、電解液が銅イオンを5質量ppm含む場合には残存容量は銅イオンを含まない場合と変わらず、60質量ppm程度含む場合は残存容量の向上が示されたが、それより多い銅イオンを含む場合には、残存容量の低下が示された(比較例C1-4、C1-5)。一方、実施例C1-1~C1-4から、電解液がFSO3Liを含む場合、比較例C1-5~C1-7と同様の量の銅イオンを含む場合であっても、FSO3Liを単独で含む場合よりも残存容量が向上する効果が示された。すなわち、非水系電解液がFSO3Li及び所定の量の銅イオンを含むことで、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上することが示された。また、比較例C1-5では、60℃、168時間の条件で高温保存後、残存容量が低下し、60℃、336時間の条件で高温保存後、残存容量の値がさらに低下したのに対し、同じ量の銅イオンかつFSO3Liを含む非水系電解液電池の実施例C1-2では、60℃、168時間の条件で高温保存後、残存容量の比が向上し、60℃、336時間の条件で高温保存後、残存容量の比がさらに向上することが示された。すなわち、非水系電解液が所定の量の銅イオンを含みかつFSO3Liを含むことにより、経時変化による非水系電解液電池の劣化が顕著に抑制されることが示された。
【0220】
<実施例C2-1~C2-3、比較例C2-1~C2-3>
[正極の作製]
実施例C1-1と同様の方法で正極を作製した。
【0221】
[負極の作製]
実施例C1-1と同様の方法で負極を作製した。
【0222】
[非水系電解液の調製]
実施例C1-1等と同様に、Cu(PF6)2含有非水系電解液又は基準電解液C1に対して、FSO3Liを加えて、下記表8に記載の非水系電解液を調製した。
【0223】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の非水系電解液を用いたこと以外は、実施例C1-1と同様にラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0224】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例C1-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例C1-1と同様の方法で残存容量(1週間)を求めた。下記表8に、比較例C1-1の残存容量(1週間)を100とした際の、実施例C2-1~C2-3及び比較例C2-1~C2-3の残存容量(1週間)の値を、比較例C1-1及びC1-5の結果と併せて示す。
【0225】
【0226】
比較例C1-1と比較例C1-5との比較から、FSO3Liを含まず、かつ銅イオンを123質量ppm含む非水系電解液は、銅イオンを含まない非水系電解液より電池の残存容量を低下させることが示された。また、比較例C2-1~C2-3からは、非水系電解液がFSO3Liを含む場合であっても、その含有量が少なすぎると、電池の残存容量が向上するどころか、低下することが示された。これらの結果から、実施例C2-1、C2-2の非水系電解液電池は、比較例C1-5及び比較例C2-1又は比較例C2-2より残存容量の低下が予想される。しかしながら、実施例C2-1の非水系電解液電池は、比較例C1-5及び比較例C2-1より残存容量が向上し、さらには、比較例C1-1よりも残存容量が向上するという顕著な効果が示された。また、実施例C2-2の非水系電解液電池は、比較例C1-5及び比較例C2-2より残存容量が向上し、さらには、比較例C1-1よりも残存容量が向上するという顕著な効果が示された。また、実施例C2-1~C2-3から、電解液がFSO3Liと所定の量の銅イオンを含むことにより、非水系電解液二次電池の残存容量が向上する、すなわち、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上するという顕著な効果が示された。
【0227】
<実施例C3-1~C3-2、比較例C3-1~C3-5>
[正極の作製]
実施例A3-1と同様の方法で正極を作製した。
【0228】
[負極の作製]
実施例A3-1と同様の方法で負極を作製した。
【0229】
[非水系電解液の調液]
実施例C1-1等と同様に、Cu(PF6)2含有非水系電解液又は基準電解液D1に対して、FSO3Liを加えて、下記表9に記載の非水系電解液を調製した。ただし、比較例C3-1は基準電解液C1そのものである。なお、表中の「含有量(質量%)」及び「含有量(質量ppm)」は、基準電解液C1を100質量%とした時の含有量である。
【0230】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の正極、負極及び非水系電解液を用いたこと以外は、実施例C1-1と同様にラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0231】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例C1-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例C1-1と同様の方法で残存容量(1週間)および残存容量(2週間)を求めた。下記表9に、比較例C3-1の残存容量(1週間)を100とした際の残存容量(1週間)の値、及び比較例C3-1の残存容量(2週間)を100とした際の残存容量(2週間)の値を示す。
【0232】
【0233】
比較例C3-1、比較例C3-4から、FSO3Liを含まず、かつ銅イオンを308質量ppm含む非水系電解液は非水系電解液二次電池の残存容量を低下させることがわかる。また、比較例C3-5から、FSO3Liを含まず、かつ銅イオンの量が5質量ppmと少ない場合、60℃、168時間の条件で高温保存後、残存容量の比が低下したが、60℃、336時間の条件で高温保存後、残存容量の比が向上したことがわかる。また、比較例C3-3と比較例C3-2との比較から、非水系電解液が含む銅イオンの量が所定の範囲外であると、FSO3Liの添加効果が損なわれ、非水系電解液電池の残存容量が低下することがわかる。さらに、実施例C3-1、C3-2及び比較例C3-1~C3-5から、非水系電解液が所定の量の銅イオンを含み、かつFSO3Liを含むことにより、FSO3Li又は銅イオンを単独で含む場合よりも168時間(1週間)高温保存後の残存容量が増加すること、さらに、168時間(1週間)高温保存後と336時間(2週間)高温保存後の残存容量の比較から、経時変化による非水系電解液二次電池の劣化が顕著に抑制されることが示された。すなわち、非水系電解液がFSO3Liと所定の量の銅イオンを含むことにより、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上することが示された。
【0234】
電池の保存期間は、例えば車両メーカーであれば、通常200日程度である。1週間、2週間保存後の残存容量の差は、経時的に大きくなるため、保存期間が長期化すればするほど、本発明の効果が一層顕著になるといえる。
【0235】
[実験D]
以下、実施例及び参考例を挙げて本発明の1態様を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0236】
<実施例D1-1~D1-2、比較例D1-1~D1-5>
[Mn(PF6)2を含むEC溶液の調製]
アルゴングローブボックス中、50mLビーカーにMnCl2 0.10g(0.8mmol)を秤量し、アセトニトリル(AN)に懸濁させた。これを撹拌しながら、AgPF6 0.402g(1.6mmol)を細かく分けてゆっくりと加え、その後室温にて3時間撹拌した。反応進行とともにAgClの白色固体が生成した。そのまま一晩放置した後、AgClをろ別し、得られたろ液をロータリーエバポレータ―で減圧濃縮することで、[Mn(AN)n](PF6)2(n=0~6)の白色固体を得た。ここに、45℃で融解させたエチレンカーボネート(EC)5.0g(56.8mmol)を加えて固体を溶解させ、35℃で6時間真空引きすることで、配位溶媒であったANを除去し、Mn(PF6)2を含むEC溶液を得た。
【0237】
[正極の作製]
実施例A1-1と同様の方法で正極を作製した。
【0238】
[負極の作製]
実施例A1-1と同様の方法で負極を作製した。
【0239】
[非水系電解液の調製]
乾燥アルゴン雰囲気下、Mn(PF6)2を含むEC溶液を基に、混合溶媒中のマンガンイオン濃度が表10となるように、及び溶媒組成がエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)の混合物の体積比が3:4:3となるように、EC、EMC、DMCで希釈し、十分に乾燥させたLiPF6を1モル/L(非水系電解液中の濃度として)溶解させた。なお、Mn(PF6)2を含まない非水系電解液を基準電解液D1と呼ぶ。上記で作成したMn(PF6)2含有非水系電解液又は基準電解液D1に対して、FSO3Liを加えて、下記表10に記載の非水系電解液を調製した。ただし、比較例D1-1は基準電解液D1そのものである。表中、FSO3Liの含有量は添加量を示し、マンガン元素(マンガンイオン)の含有量は、後述する誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)の測定結果に基づき求めた値である。なお、表中の「含有量(質量%)」及び「含有量(質量ppm)」は、基準電解液D1を100質量%とした時の含有量である。
【0240】
<非水系電解液中におけるマンガン元素の含有量の測定>
非水系電解液100μL(約130mg)を分取した。分取した非水系電解液をPTFEビーカーに秤り取り、適切な量の濃硝酸を加えてホットプレート上で湿式分解した後に50mL定容し、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES、Thermo Fischer Scientific、iCAP 7600duo)を用いてLi及び酸濃度マッチング検量線法でマンガン元素の含有量を測定した。
【0241】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の非水系電解液を用いたこと以外は、実施例A1-1と同様に、ラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0242】
<非水系電解液二次電池の評価>
[初期コンディショニング]
実施例A1-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例A1-1と同様の方法で残存容量を求めた。下記表10に、比較例D1-1の残存容量(1週間)を100とした際の残存容量(1週間)の値を示す。
下記表10に、比較例D1-1の残存容量(2週間)を100とした際の残存容量の値を示す。
【0243】
【0244】
比較例D1-1と比較例D1-2との比較から、非水系電解液がFSO3Liを含むことにより、高温保存後の非水系電解液二次電池の残存容量が増加することが示された。一方、比較例D1-1~比較例D1-3から、非水系電解液がFSO3Liを含んでいても、所定の量を超えるマンガンイオンを含むと、高温保存後の残存容量が低下することが示された。また、比較例D1-4から、非水系電解液がFSO3Liを含まずにマンガンイオンを26質量ppm含む場合、60℃、168時間(1週間)高温保存後の残存容量はマンガンイオンを含まない場合と同じであったが、336時間(2週間)高温保存後の残存容量の比が低下していることから、マンガンイオンを含む非水系電解液二次電池の充電保存特性は経時変化により劣化する傾向がわかる。また、比較例D1-1と比較例D1-5との比較から、非水系電解液がFSO3Liを含まずにマンガンイオンを7質量ppm含む場合は、60℃、168時間(1週間)高温保存後の残存容量は向上したが、336時間(2週間)の高温保存後には、マンガンイオンを含まない場合よりも残存容量が著しく低下することが示された。一方、実施例D1-1、D1-2から、非水系電解液がFSO3Liを含む場合、比較例D1-4、D1-5と同様の量のマンガンイオンを含む場合であっても、FSO3Liを単独で含む場合よりも高温保存後の残存容量が向上する効果が示された。すなわち、非水系電解液がFSO3Li及び所定の量のマンガンイオンを含むことで、経時変化による非水系電解液二次電池の劣化が顕著に抑制され、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上することが示された。
【0245】
<実施例D2-1~D2-3、比較例D2-1~D2-3>
[正極の作製]
実施例D1-1と同様の方法で正極を作製した。
【0246】
[負極の作製]
実施例D1-1と同様の方法で負極を作製した。
【0247】
[非水系電解液の調製]
実施例D1-1等と同様に、Mn(PF6)2含有非水系電解液又は基準電解液D1に対して、FSO3Liを加えて、下記表11に記載の非水系電解液を調製した。
【0248】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の非水系電解液を用いたこと以外は、実施例D1-1と同様にラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0249】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例D1-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例D1-1と同様の方法で残存容量を求めた。下記表11に、比較例D1-1の残存容量(1週間)を100とした際の、実施例D2-1~D2-3及び比較例D2-1~D2-3の残存容量(1週間)の値を、比較例D1-1及びD1-4の結果と併せて示す。
【0250】
【0251】
比較例D1-1と比較例D1-4との比較から、FSO3Liを含まず、かつマンガンイオンを26質量ppm含む非水系電解液は60℃、168時間(1週間)高温保存後の残存容量はマンガンイオンを含まない非水系電解液と同等であることが示された。また、比較例D2-1から、非水系電解液がFSO3Liを含む場合であっても、その含有量が少なすぎると、非水系電解液二次電池の残存容量が向上するどころか、低下することが示された。これらの結果から、実施例D2-1の非水系電解液二次電池は、比較例D1-4及び比較例D2-1より残存容量の低下が予測される。しかしながら、実施例D2-1は、比較例D1-4及び比較例D2-1より残存容量が向上し、さらには、比較例D1-1よりも残存容量が向上するという顕著な効果が示された。また、実施例D2-2と比較例D2-2との比較、並びに、実施例D2-3と比較例D2-3との比較からも、非水系電解液がFSO3Liと所定の量のマンガンイオンを含むことにより、非水系電解液二次電池の高温保存後の残存容量が向上する、すなわち、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上するという顕著な効果が示された。
【0252】
<実施例D3-1~D3-3、比較例D3-1~D3-6>
[正極の作製]
実施例A3-1と同様の方法で正極を作製した。
【0253】
[負極の作製]
実施例A3-1と同様の方法で負極を作製した。
【0254】
[非水系電解液の調液]
実施例D1-1等と同様に、Mn(PF6)2含有非水系電解液又は基準電解液D1に対して、FSO3Liを加えて、下記表12に記載の非水系電解液を調製した。ただし、比較例D3-1は基準電解液D1そのものである。なお、表中の「含有量(質量%)」及び「含有量(質量ppm)」は、基準電解液D1を100質量%とした時の含有量である。
【0255】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の正極、負極及び非水系電解液を用いたこと以外は、実施例D1-1と同様にラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0256】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例D1-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例D1-1と同様の方法で残存容量(1週間)および残存容量(2週間)を求めた。下記表12に、比較例D3-1の残存容量を100とした際の残存容量の値、及び比較例D3-1の残存容量(2週間)を100とした際の残存容量(2週間)の値を示す。
【0257】
【0258】
比較例D3-1と比較例D3-2との比較から、非水系電解液がFSO3Liを含むことにより、高温保存後の非水系電解液二次電池の充電保存特性が向上することが示された。一方、比較例D3-1~D3-3、実施例D3-1~D3-3から、非水系電解液がFSO3Liを含んでいても、所定の量を超えるマンガンイオンを含むと、高温保存後の非水系電解液二次電池残存容量が低下することが示された。また、比較例D3-1、比較例D3-4及びD3-5から、マンガンイオンを10質量ppm以上含む非水系電解液は168時間(1週間)高温保存後の非水系電解液二次電池の残存容量を低下させる一方、マンガンイオンを含まない場合よりも336時間(2週間)高温保存後の残存容量を向上させることがわかる。さらに、実施例D3-1~D3-3から、非水系電解液が所定の量のマンガンイオンを含みかつFSO3Liを含むことにより、FSO3Li又はマンガンイオンを単独で含む場合よりも168時間(1週間)高温保存後の残存容量が増加すること、さらに、168時間(1週間)高温保存後と336時間(2週間)高温保存後の残存容量の比の比較から、経時変化による非水系電解液二次電池の劣化が顕著に抑制され、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上することが示された。
【0259】
電池の保存期間は、例えば車両メーカーであれば、通常200日程度である。1週間、2週間保存後の残存容量の差は、経時的に大きくなるため、保存期間が長期化すればするほど、本発明の効果が一層顕著になるといえる。
【0260】
[実験E]
以下、実施例及び参考例を挙げて本発明の1態様を更に具体的に説明するが、本態様は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0261】
<実施例E1-1~E1-7、比較例E1-1~E1-10>
[正極の作製]
実施例A3-1と同様の方法で正極を作製した。
【0262】
[負極の作製]
実施例A3-1と同様の方法で負極を作製した。
【0263】
[非水系電解液の調製]
乾燥アルゴン雰囲気下、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(Al(acac)3)またはフルオロスルホン酸アルミニウム(Al(FSO3)3)を、混合溶媒中のアルミニウムイオン濃度が表13となるように、並びに溶媒組成がエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジメチルカーボネート(DMC)の体積比が3:4:3となるように、EC、EMC、及びDMCに溶解し、十分に乾燥させたLiPF6を1モル/L(12.3質量%、非水系電解液中の濃度として)溶解させた。Al(acac)3およびAl(FSO3)3のいずれも含まない非水系電解液を基準電解液E1と呼ぶ。上記で作製した非水系電解液又は基準電解液E1に対して、FSO3Liを加えて、下記表13に記載の実施例E1-1~実施例E1-7の非水系電解液、比較例E1-2~比較例E1-3の非水系電解液を調製した。比較例E1-1は基準電解液E1そのものである。また、FSO3Liを加えなかったものを、比較例E1-4~比較例E1-10の非水系電解液とした。表中、FSO3Liの含有量は添加量を示し、アルミニウム元素(アルミニウムイオン)の含有量は、後述する誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES)の測定結果に基づき求めた値である。なお、表中の「含有量(質量%)」及び「含有量(質量ppm)」は、基準電解液E1を100質量%とした時の含有量である。Al(FSO3)3はPolyhedron、1983、Volume2、Issue11、Pages1209-1210に記載の方法に従って合成した。
【0264】
<非水系電解液中におけるアルミニウム元素の含有量の測定>
非水系電解液100μL(約130mg)を分取した。分取した非水系電解液をPTFEビーカーに秤り取り、適切な量の濃硝酸を加えてホットプレート上で湿式分解した後に50mL定容し、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析(ICP-AES、Thermo Fischer Scientific、iCAP 7600duo)を用いてLi及び酸濃度マッチング検量線法でアルミニウム元素(アルミニウムイオン)の含有量を測定した。
【0265】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の非水系電解液を用いたこと以外は、実施例A1-1と同様に、ラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0266】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例A1-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例A1-1と同様の方法で残存容量を求めた。下記表13に、比較例E1-1の残存容量(1週間)を100とした際の、実施例E1-1~実施例E1-7、比較例E1-1~比較例E1-10の残存容量(1週間)の値を示す。下記表13に、比較例E1-1の残存容量(2週間)を100とした際の、実施例E1-1~実施例E1-7、比較例E1-1~比較例E1-10の残存容量(2週間)の値を示す。
【0267】
【0268】
比較例E1-1と比較例E1-2との比較から、電解液がFSO3Liを含むことにより、電池の残存容量が増加することが示された。一方、比較例E1-1~比較例E1-3から、電解液がFSO3Liを含んでいても、特定の量を超えるアルミニウムイオンを含むと、残存容量が低下することが示された。実施例E1-1~実施例E1-7から、電解液がFSO3Liを含む場合、比較例E1-4~比較例E1-10と同様の量のアルミニウムイオンを含む場合であっても、FSO3Liを単独で含む場合(比較例E1-2)よりも残存容量が向上する効果が示された。さらに、2週間保存後の残存容量からも、電解液が特定の量のアルミニウムイオンを含みかつFSO3Liを含むことにより、経時変化による非水系電解液電池の劣化が抑制される、すなわち、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上することが示された。実施例E1-1~実施例E1-7から、アルミニウムイオンのカウンターアニオンの種類に関わらず、非水系電解液がFSO3Li及び特定の量のアルミニウムイオンを含むことで、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上することが示された。電池の保存期間は、例えば車両メーカーであれば、通常200日程度である。1週間、2週間保存後の残存容量の差は、経時的に大きくなるため、保存期間が長期化すればするほど、本発明の効果が一層顕著になるといえる。
【0269】
<実施例E2-1~実施例E2-3、比較例E2-1~比較例E2-3>
[正極の作製]
実施例E1-1と同様の方法で正極を作製した。
【0270】
[負極の作製]
実施例E1-1と同様の方法で負極を作製した。
【0271】
[非水系電解液の調製]
FSO3Liの含有量を下記表14に記載の通りに変更した以外は、実施例E1-4と同様にして、実施例E2-1~実施例E2-3のAl(FSO3)3含有非水系電解液を調製した。又、基準電解液E1に対して、下記表14に記載の通りFSO3Liを加えて、比較例E2-1~比較例E2-3非水系電解液を調製した。
【0272】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の非水系電解液を用いたこと以外は、実施例E1-4と同様にラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0273】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例E1-4と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例E1-4と同様の方法で残存容量(1週間)を求めた。下記表14に、比較例E1-1の残存容量(1週間)を100とした際の実施例E2-1~実施例E2-3及び比較例E2-1~比較例E2-3の残存容量(1週間)の値を、比較例E1-1及び比較例E1-7の結果と併せて示す。
【0274】
【0275】
比較例E1-1と比較例E1-7との比較から、FSO3Liを含まず、特定の量のアルミニウムイオンを含む電解液(比較例E1-7)はアルミニウムイオンを含まない電解液(比較例E1-1)より非水系電解液電池の残存容量を低下させることが示された。また、比較例E2-1及び比較例E2-2からは、電解液がFSO3Liを含む場合であっても、その含有量が少なすぎると、電池の残存容量が向上するどころか、低下することが示された。これらの結果から、実施例E2-1の電池は、比較例E1-7及び比較例E2-1より残存容量の低下が予想される。しかしながら、実施例E2-1は、比較例E1-7及び比較例E2-1より残存容量が向上し、さらには、比較例E1-1よりも残存容量が向上するという顕著な効果が示された。また、実施例E2-2と比較例E2-2との比較、並びに、実施例E2-3と比較例E2-3との比較からも、非水系電解液がFSO3Liと特定の量のアルミニウムイオンを含むことにより、非水系電解液二次電池の残存容量が向上する、すなわち、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上するという顕著な効果が示された。
【0276】
[実験F]
以下、実施例及び参考例を挙げて本発明の1態様を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0277】
<実施例F1-1~F1-17、比較例F1-1~F1-19>
[正極の作製]
実施例A3-1と同様の方法で正極を作製した。
【0278】
[負極の作製]
実施例A3-1と同様の方法で負極を作製した。
【0279】
[非水系電解液の調製]
FSO3Li及び金属イオンの含有量を下記表15に記載の通りに変更した以外は、実施例A3と同様にして実施例F1-1~実施例F1-17の金属イオン含有非水系電解液を調製した。基準電解液F1は基準電解液A1同様、EC:EMC:DMCの体積比が3:4:3の混合物にLiPF6を1モル/L(非水系電解液中の濃度として)溶解させた電解液である。又、基準電解液F1に対して、下記表に記載の通りFSO3Liを加えて、比較例F1-2の非水系電解液を調製した。また、特定の金属イオンは加え、FSO3Liを加えなかったものを、比較例F1-3~比較例F1-19の非水系電解液とした。
【0280】
[非水系電解液二次電池の製造]
上記の非水系電解液を用いたこと以外は、実施例A3-1と同様にラミネート型の非水系電解液二次電池を作製した。
【0281】
<非水系電解液二次電池の評価>
実施例A3-1と同様の方法で、初期コンディショニング及び充電保存試験を行った。実施例A3-1と同様の方法で残存容量(1週間)を求めた。下記表に、比較例F1-1の残存容量(1週間)を100とした際の実施例F1-1~実施例F1-17及び比較例F1-1~比較例F1-19の残存容量(1週間)の値を示す。
下記表に、比較例F1-1の残存容量(2週間)を100とした際の、実施例F1-1~実施例F1-17、比較例F1-1~比較例F1-19の残存容量(2週間)の値を示す。
【0282】
【0283】
比較例F1-3~比較例F1-19は特定の金属イオンを含み、FSO3Liは含まない電解液を用いた。比較例F1-3、比較例F1-5、比較例F1-7、比較例F1-8、比較例F1-12、比較例F1-14、及び比較例F1-16は、特定の金属イオンもFSO3Liも含まない比較例F1-1よりも電池の残存容量が低下する傾向を示した。また、比較例F1-4、比較例F1-9、比較例F1-10、比較例F1-15は1週間後の残存容量は比較例F1-1と同等であったが、2週間後の残存容量は低下した。比較例F1-6、比較例F1-11、比較例F1-13、比較例F1-17、比較例F1-18、及び比較例F1-19は比較例F1-1に比べ1週間後の残存容量は増加していたが、2週間後の残存容量は比較例F1-1より劣るものもあった。これらの結果から、特定の金属イオンを複数種含む非水系電解液を用いても、電池の残存容量が改善されるとは限らず、経時変化により劣化する場合のほうが多いことがわかる。
一方、実施例F1-1~実施例F1-17から、電解液が特定の金属イオン及びFSO3Liの両方を含む場合、比較例F1-3~比較例F1-19と同様の量の金属イオンを含む場合であっても、FSO3Liを単独で含む場合(比較例F1-2)よりも残存容量が向上する効果が示された。さらに、2週間保存後の残存容量からも、電解液が特定の量の金属イオンを含みかつFSO3Liを含むことにより、経時変化による非水系電解液電池の劣化が抑制される、すなわち、非水系電解液二次電池の高温環境下での充電保存特性が向上することが示された。電池の保存期間は、例えば車両メーカーであれば、通常200日程度である。1週間、2週間保存後の残存容量の差は、経時的に大きくなるため、保存期間が長期化すればするほど、本発明の効果が一層顕著になるといえる。
【0284】
本出願は、2019年6月4日出願の日本特許出願(特願2019-104306)、2019年6月26日出願の日本特許出願(特願2019-118148)、2019年6月26日出願の日本特許出願(特願2019-118074)、2019年6月26日出願の日本特許出願(特願2019-118145)及び2020年4月15日出願の日本特許出願(特願2020-073075)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0285】
本発明によれば、高温環境下で優れた充電保存特性を有する非水系電解液電池を実現でき、有用である。
また、本発明の非水系電解液及び非水系電解液電池は、非水系電解液又は非水系電解液電池を用いる公知の各種用途に用いることが可能である。具体例としては、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用バックアップ電源、事業所用バックアップ電源、負荷平準化用電源、自然エネルギー貯蔵電源、リチウムイオンキャパシタ等が挙げられる。