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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】移動型ロボット
(51)【国際特許分類】
   B25J 5/00 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
B25J5/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023500211
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006083
(87)【国際公開番号】W WO2022176095
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三山 敏史
(72)【発明者】
【氏名】金井 嘉毅
(72)【発明者】
【氏名】柴田 亨
(72)【発明者】
【氏名】岡田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 智博
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-129923(JP,A)
【文献】特開昭61-122315(JP,A)
【文献】特開2010-064198(JP,A)
【文献】米国特許第06752230(US,B1)
【文献】特開2006-123854(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0106422(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0114236(US,A1)
【文献】特開平07-011876(JP,A)
【文献】特開2009-227198(JP,A)
【文献】特開2008-110848(JP,A)
【文献】特開平07-331872(JP,A)
【文献】特開平08-168978(JP,A)
【文献】特開2009-012878(JP,A)
【文献】特開2016-224654(JP,A)
【文献】特開2001-260056(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0114079(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0067866(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0334429(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107253179(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 5/00-19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節アームを有する作業機構と、前記作業機構を移動させる移動機構と、を有し、液体を運搬し、分注作業、攪拌作業を行う移動型ロボットであって、
前記作業機構は、前記移動機構に対して、前記移動機構の移動方向の前方に偏った位置に設置され、前記作業機構の動作時に、前記移動機構に対して、前記移動機構の移動方向の前方に傾くように設置され、
前記移動機構は、自重を支持する第一の支持部と第二の支持部とを有し、
前記第一の支持部は、揺動軸を中心に揺動する前後左右4つの揺動部と、前記揺動部に設置される前後左右4つの車輪と、常時、前記車輪を接地面に接触させる付勢力を付与する前後左右4つの弾性部と、を有し、
前記第二の支持部は、前方の2つの車輪の中心軸よりも、前記移動機構の移動方向に対し、外周部寄りの位置であって、前方の2つの車輪の間に1つ設置され、直動アクチュエータにより上下移動する移動体と、前記移動体に設置され、伸長時に接地面に接触し、収縮時に接地面から離間する接触部と、を有することを特徴とする移動型ロボット。
【請求項2】
請求項1に記載する移動型ロボットであって、
前記直動アクチュエータ及び前記第二の支持部における前記接触部は、前記第一の支持部における前記弾性部よりも、高い剛性を有することを特徴とする移動型ロボット。
【請求項3】
請求項1に記載する移動型ロボットであって、
前記作業機構の動作時には、前記第二の支持部における前記接触部と、前記第一の支持部における前記車輪とが、接地面に接触することを特徴とする移動型ロボット。
【請求項4】
請求項1に記載する移動型ロボットであって、
前記直動アクチュエータは、回転モータと、回転モータの回転軸が回転し、その回転力が、ウォームギヤを介して、ネジ機構に伝達され、前記ネジ機構が回転する直動部と、前記直動部により上下移動する移動体と、を有することを特徴とする移動型ロボット。
【請求項5】
請求項1に記載する移動型ロボットであって、
前記第二の支持部は、更に、後方の2つの車輪の中心軸よりも、外周部寄りの位置であって、後方の2つの車輪の間に1つ設置されることを特徴とする移動型ロボット。
【請求項6】
請求項1に記載する移動型ロボットであって、
前記作業機構及び前記移動機構は、距離を測定する位置検出手段を有することを特徴とする移動型ロボット。
【請求項7】
多関節アームを有する作業機構と、前記作業機構を移動させる移動機構と、を有し、液体を運搬し、分注作業、攪拌作業を行う移動型ロボットであって、
前記作業機構は、前記移動機構に対して、前記移動機構の移動方向の前方に偏った位置に設置され、前記作業機構の動作時に、前記移動機構に対して、前記移動機構の移動方向の前方に傾くように設置され、
前記移動機構は、自重を支持する第一の支持部と第二の支持部とを有し、
前記第一の支持部は、揺動軸を中心に揺動する前後左右4つの揺動部と、前記揺動部に設置される前後左右4つの車輪と、常時、前記車輪を接地面に接触させる付勢力を付与する前後左右4つの弾性部と、を有し、
前記第二の支持部は、回転モータの回転軸が回転し、その回転力が、ウォームギヤを介して、ネジ機構に伝達され、前記ネジ機構が回転する直動部と、前記直動部により上下移動する接触部と、を有し、
前記第二の支持部は、前記移動機構の移動方向に対して、前方の2つの車輪の中心軸と前方の2つの揺動部の揺動軸との間の、左右二箇所に設置され、前記接触部を下方向に移動させることにより、前記揺動部に荷重をかけることを特徴とする移動型ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動機構(例えば、台車)上に多関節アームを搭載した移動型ロボットに関する。特に、作業対象を把持し、作業場所(例えば、作業台)まで移動し、各種作業を行う移動型ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多関節アームを有する双腕ロボットやロボットアーム単体が自律移動可能な台車に搭載された、移動型ロボットの研究や開発が行われている。そして、移動型ロボットは、作業対象を担持し、作業台まで移動し、作業台上にある各種ツールを使用し、各種作業を自動で行うことができる。
【0003】
こうした技術分野における背景技術に、特開2017-94470号公報(以下、特許文献1)がある。
【0004】
この特許文献1には、ロボットの移動と設置とを容易に行い、ロボットの位置及び姿勢のずれを抑制することができ、ロボットを移動させる複数の移動部と操作部とを有し、操作部を操作することにより、複数の移動部のうち少なくとも一つを、ロボットを接地面から離間させる固定部を有するロボットが記載されている(特許文献1の要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-94470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、ロボットを接地面から離間させる固定部を有するロボット(移動型ロボット)が記載されている。つまり、特許文献1に記載される移動型ロボットは、多関節アームの動作時に、移動型ロボットの位置及び姿勢のずれを抑制するため、固定部により、多関節アームの動作時の移動型ロボットの変位を抑制する。
【0007】
一般的に、移動型ロボットは、凹凸路面を移動する場合があるため、車輪を支持する構造の剛性を低め、移動型ロボットの移動時に、凹凸路面から受ける衝撃を吸収し、移動型ロボットの移動時の移動型ロボットの姿勢変化を抑制する必要がある。
【0008】
また、多関節アームを有する移動型ロボットは、多関節アームの動作時に台車上で重心位置が偏移するため、車輪を支持する構造の剛性を高め、多関節アームの動作時に、移動型ロボットの位置や姿勢を変化させないよう、移動型ロボットの動作時の移動型ロボットの姿勢変化を抑制する必要がある。
【0009】
このように、多関節アームを有する移動型ロボットは、移動型ロボットの移動時や多関節アームの動作時に応じて、車輪を支持する構造の剛性が設定される。
【0010】
そして、例えば、作業対象である液体を担持し、作業台に移動し、作業台上で精密な分注作業(動作)や攪拌作業(動作)を行うような移動型ロボットは、移動時に液体を溢さないように、凹凸路面から受ける衝撃を吸収すると共に、動作時に精密な分注作業や攪拌作業を行うように、移動型ロボットの位置や姿勢を維持する、つまり、移動型ロボットの姿勢変化を抑制する、必要がある。
【0011】
つまり、このような移動型ロボットは、移動中の凹凸路面から受ける衝撃の吸収と、動作中の移動型ロボットの位置や姿勢の維持と、を同時に実現する必要がある。
【0012】
しかし、特許文献1には、移動中の凹凸路面から受ける衝撃の吸収と、動作中の移動型ロボットの位置や姿勢の維持と、を同時に実現する移動型ロボットは、記載されていない。
【0013】
そこで、本発明は、移動中の凹凸路面から受ける衝撃の吸収と、動作中の移動型ロボットの位置や姿勢の維持と、を同時に実現する移動型ロボットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した課題を解決するため、本発明の移動型ロボットは、多関節アームを有する作業機構と、作業機構を移動させる移動機構と、を有し、液体を運搬し、分注作業、攪拌作業を行う移動型ロボットであって、作業機構は、移動機構に対して、移動機構の移動方向の前方に偏った位置に設置され、作業機構の動作時に、移動機構に対して、移動機構の移動方向の前方に傾くように設置され、移動機構は、自重を支持する第一の支持部と第二の支持部とを有し、第一の支持部は、揺動軸を中心に揺動する前後左右4つの揺動部と、揺動部に設置される前後左右4つの車輪と、常時、車輪を接地面に接触させる付勢力を付与する前後左右4つの弾性部と、を有し、第二の支持部は、前方の2つの車輪の中心軸よりも、移動機構の移動方向に対し、外周部寄りの位置であって、前方の2つの車輪の間に1つ設置され、直動アクチュエータにより上下移動する移動体と、移動体に設置され、伸長時に接地面に接触し、収縮時に接地面から離間する接触部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、移動中の凹凸路面から受ける衝撃の吸収と、動作中の移動型ロボットの位置や姿勢の維持と、を同時に実現する移動型ロボットを提供することができる。
【0016】
なお、上記した以外の課題、構成及び効果については、下記する実施例の説明により、明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1に記載する移動型ロボット1の外観を説明する説明図である。
図2】実施例1に記載する移動型ロボット1の移動機構20の構造を説明する説明図である。
図3】実施例1に記載する移動型ロボット1の第二の支持部220の構造を説明する説明図である。
図4】実施例1に記載する移動型ロボット1の移動時の状態を説明する説明図である。
図5】実施例1に記載する移動型ロボット1の移動時の支持構造を説明する模式図である。
図6】実施例1に記載する移動型ロボット1が、作業台50まで移動し、停止した状態を説明する説明図である。
図7】実施例1に記載する移動型ロボット1が、作業台50まで移動し、停止した状態の支持構造を説明する模式図である。
図8】実施例1に記載する移動型ロボット1の前方の第一の支持部210に作用する荷重N11Fと第二の支持部220に作用する荷重N21との時間推移を説明するグラフである。
図9】実施例1に記載する移動型ロボット1が、作業台50上で作業している状態を説明する説明図である。
図10】実施例1に記載する移動型ロボット1が、作業台50上で作業している状態の支持構造を説明する模式図である。
図11】実施例1に記載する移動型ロボット1の前方の第一の支持部210に作用する荷重N12Fと第二の支持部220に作用する荷重N22との時間推移を説明するグラフである。
図12】実施例2に記載する移動型ロボット1の移動機構20の構造を説明する説明図である。
図13】実施例3に記載する移動型ロボット1の移動機構20の構造を説明する説明図である。
図14】実施例3に記載する移動型ロボット1の第二の支持部220の近傍を拡大して説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を、図面を使用し、説明する。なお、実質的に、機能的に同一又は類似の構成には、同一の符号を付し、説明が重複する場合には、その説明を省略する場合がある。
【実施例1】
【0019】
先ず、実施例1に記載する移動型ロボット1の外観を説明する。
【0020】
図1は、実施例1に記載する移動型ロボット1の外観を説明する説明図である。なお、図1は、移動型ロボット1の移動機構20の内部構造が理解しやすいように、移動型ロボット1の移動機構20のカバーの一部を除去し、内部構造が見えるように図示する。
【0021】
実施例1に記載する移動型ロボット1は、多関節アーム100を有する作業機構(以下、双腕ロボット10)や頭部110を有する。しかし、この移動型ロボット1は、これに限定されるものではない。例えば、移動型ロボット1は、右腕の単腕のロボットと左腕の単腕のロボットとの2つのロボットの組み合わせであってもよい。この2つのロボットは、それぞれ相違する種類のロボットであってもよい。また、単腕のみの構成でもよく、腕の数によって制限されるものではない。
【0022】
そして、移動型ロボット1は、自律的に自己位置を推定しつつ移動し、その位置や姿勢を維持し、凹凸路面を安定して車輪で走行することができる。
【0023】
移動型ロボット1は、各種作業を行い、多関節アーム100を有する双腕ロボット10と、双腕ロボット10を移動させる移動機構20と、これらの動作を制御する制御部30と、を有する。
【0024】
双腕ロボット10は、各関節にアクチュエータを内蔵した多関節アーム100を、二本(左右に)有し、その先端には、作業対象を把持し、各種作業(操作)するためのハンド(グリッパ)101が設置される。
【0025】
また、双腕ロボット10は、頭部110を有し、頭部110の内部には、2つの撮像素子及び2つのレンズユニットを有するステレオカメラユニット111が設置(内蔵)される。このように、両眼のステレオカメラユニット111により、作業台までの距離や作業台上の目標点までの距離を測定することができ、また、作業対象又は対象マーカを観察して、位置や姿勢を補正することができる。
【0026】
また、双腕ロボット10は、移動機構20の前方(作業方向)に設置される。つまり、双腕ロボット10は、移動機構20に対して、移動型ロボット1の前方への移動方向(図1中の矢印A方向)に偏った位置(双腕ロボット10の設置位置)に設置される。このような双腕ロボット10の設置位置により、双腕ロボット10を作業台に接近させることができる。
【0027】
また、双腕ロボット10は、移動機構20に対して前方(作業方向)に傾くように設置される。つまり、双腕ロボット10は、その腰部を、移動型ロボット1の移動方向前方(図1中の矢印A方向)に前傾させるように設置される。ここで、双腕ロボット10は、作業方向(図1中の矢印A方向)に傾けることができる腰部105を有する。つまり、双腕ロボット10は、その腰部105を傾けることにより、移動型ロボット1の前方(図1中の矢印A方向)に前傾させることができる。
【0028】
このように、双腕ロボット10の腰部105が前傾することにより、作業台上での作業性を向上させることができる。
【0029】
移動機構20は、制御部30からの動作指令により駆動する回転アクチュエータ(図示なし)を有する。回転アクチュエータの動力が、各種動力伝達手段により、例えば、樹脂など形成される車輪212に伝達され、車輪212が回転することにより、移動型ロボット1が移動する。
【0030】
移動機構20では、車輪212は、メカナムホイールと呼称され、表面(円周上)が車軸に対して45°傾いた樽形状の部材を有する。そして、全ての車輪212は、これらが独立して駆動可能なように、車輪212毎に、回転アクチュエータを有する。各回転アクチュエータの回転方向と速度とを調整・制御することにより、前後左右への並進移動とその場における回転動作が可能となる。
【0031】
また、移動機構20は、移動型ロボット1の移動中に、壁などの障害物や作業台などの対象物と自己位置との距離を測定するレーザレンジファインダ240と、障害物に衝突した際の衝撃を吸収するバンパ230と、を有する。このレーザレンジファインダ240が、移動型ロボット1の移動中に、障害物を検知することができるため、移動型ロボット1の自律的な移動が可能となる。
【0032】
このように、移動型ロボット1は、ステレオカメラユニット111やレーザレンジファインダ240の距離を測定する位置検出手段と、この位置検出手段により取得される自己位置(位置データ)を演算する制御部30と、を有する。
【0033】
また、移動機構20は、第一の支持部210と第二の支持部220とを有する。
【0034】
このように、移動型ロボット1は、多関節アーム100を有する双腕ロボット10と、移動型ロボット1の自重を支持する第一の支持部210と第二の支持部220とを有する移動機構20と、を有し、移動中の凹凸路面から受ける衝撃の吸収(移動中の路面からの衝撃吸収)と、精密性が要求される動作(精密動作)中の移動型ロボットの位置や姿勢の維持(動作中の位置姿勢の維持)と、を同時に実現する。
【0035】
そして、作業対象(運搬対象)である試薬やサンプルなどの液体を運搬し、作業台上で精密な分注作業や攪拌作業を行うような移動型ロボット1では、移動中に液体を溢さないように、凹凸路面から受ける衝撃を吸収すると共に、動作中に精密な分注作業や攪拌作業を行うために、移動型ロボット1の位置や姿勢を維持する。
【0036】
つまり、このような移動型ロボット1は、移動中の凹凸路面から受ける衝撃の吸収と、動作中の移動型ロボット1の位置や姿勢の維持と、を同時に実現する。
【0037】
次に、実施例1に記載する移動型ロボット1の移動機構20の構造を説明する。
【0038】
図2は、実施例1に記載する移動型ロボット1の移動機構20の構造を説明する説明図である。なお、図2は、移動型ロボット1の移動機構20の内部構造が理解しやすいように、移動型ロボット1の移動機構20のカバーを除去し、内部構造が見えるように図示する。
【0039】
移動機構20は、移動機構20の基礎部材である車体250と、第一の支持部210と、第二の支持部220と、を有する。
【0040】
第一の支持部210は、常時、移動型ロボット1の自重を支持する部材である。第一の支持部210は、前後左右4つの揺動軸211sを中心に揺動し、変位が可能な前後左右4つの揺動部211と、4つの揺動部211の先端にそれぞれ回転可能な状態で設置され、回転アクチュエータ(図示なし)の動力により駆動する前後左右4つの車輪212と、常時、4つの車輪212を接地面(例えば、床など)に接触させる付勢力を付与し、確実な駆動力を4つの車輪212に発生させる前後左右4つの変位可能な弾性部213と、を有する。このように、第一の支持部210は、移動機構20の前後左右の四箇所に、設置される。
【0041】
なお、実施例1では、揺動部211はL字形状を有し、L字の曲がり部に揺動軸211sが形成され、L字の一方の辺の先端には、弾性部213が設置され、L字の他方の辺の先端には車輪212の中心軸が設置される。
【0042】
弾性部213は、一端が揺動部211に、他端が車体250に連結される。弾性部213は、例えば、圧縮方向で変形し、弾性力が発生するコイルばねのようなものである。
【0043】
第一の支持部210が移動型ロボット1の自重を支持する場合、揺動部211は、揺動軸211sを中心に、図2中の矢印Mの方向に、揺動する。この揺動により、弾性部213は変形し、バネ力が作用し、移動型ロボット1の自重を支持する。なお、弾性部213は、ダンパ性能を有してもよい。
【0044】
次に、実施例1に記載する移動型ロボット1の第二の支持部220の構造を説明する。
【0045】
図3は、実施例1に記載する移動型ロボット1の第二の支持部220の構造を説明する説明図である。
【0046】
第二の支持部220は、移動型ロボット1の移動中と移動型ロボット1の動作中とで、その状態を変化させる動作機構(直動アクチュエータ)であり、直動部222と、直動部222により上下移動する移動体223と、直動アクチュエータ(直動部222)により上下移動する移動体223に設置され、伸長時(動作時)に接地面に接触し、収縮時(移動時)に接地面から離間する接触部221と、移動部223の過剰移動を検知するフォトインタラプタ224と、これらを保持するフレーム225と、を有する。
【0047】
このように、第二の支持部220は、移動体223を上下方向に移動させる直動アクチュエータを有し、この直動アクチュエータにより、接触部221は、移動体223を介して、上下方向に移動する。
【0048】
そして、直動部222は、回転モータ2220と、ウォームギヤ2221と、ネジ機構2222と、を有する。
【0049】
直動部222では、回転モータ2220の回転軸が回転し、その回転力が、ウォームギヤ2221を介して、ネジ機構2222に伝達され、ネジ機構2222が回転する。
【0050】
なお、回転モータ2220は、作用する負荷トルクを検知する負荷トルク検知手段を有する。この負荷トルク検知手段は、例えば、回転モータ2220に一定の電圧を印加し、回転モータ2220の負荷に基づいて変化する電流値を検知するようなものである。
【0051】
また、ウォームギヤ2221は、回転モータ2220の回転軸の回転を抑制することもできる。ネジ機構2222にスラスト方向のスラスト力が発生した場合、ネジ機構2222は回転方向に回転しようとする。このため、ウォームギヤ2221を、ネジ機構2222と回転モータ2220との間に設置し、ウォームギヤ2221により、回転モータ2220の回転軸の逆回転を抑制する。
【0052】
移動体223は、直動部222により移動し、ネジ機構2222が貫通する部分にナット部(図示なし)を有し、このナット部にネジ機構2222が嵌合する。そして、ネジ機構2222が回転することにより、移動体223は、図3中の矢印Y方向(上下方向)へ移動する。
【0053】
また、移動体223は、ネジ機構2222が嵌合するナット部を有すると共に、移動体223の移動を案内する並進ガイド(図示なし)を有する。つまり、移動体223は、ナット部でネジ機構2222に嵌合すると共に、並進ガイドを介して、フレーム225の内側を、図3中の矢印Y方向へ移動する。
【0054】
なお、実施例1では、移動体223は、略直方体の形状を有し、ナット部は、ネジ機構2222の回転力が移動体223に均等に作用するように、移動体223の水平断面の略中央部に、図3中の矢印Y方向に貫通するように、形成される。
【0055】
また、実施例1では、並進ガイドは、移動体223が図3中の矢印Y方向へ安定して移動するように、移動体223の長手方向の左右の端面に設置される。なお、並進ガイドは、フレーム225の内側の左右に、設置されてもよい。
【0056】
更に、移動体223には、球面軸受227を介して、接地面と接触する接触部221が設置される。
【0057】
なお、球面軸受227は、例えば、接地面が傾斜している場合であっても、接触部221の端面(接触部221が接地面に接触する面)が接地面に倣うように、接触部221の端面を接地面に接触させるため、設置される。
【0058】
このように、第二の支持部220は、球面軸受227を有するため、例えば、接地面が傾斜している場合であっても、接触部221の端面が接地面に倣うように、接触部221の端面が接地面に接触することができる。
【0059】
そして、移動体223が下降することにより、接触部221が接地面と接触する。移動体223が下降し、負荷トルク検知手段が、接触部221が接地面に接触した際の回転モータ2220の負荷(電流値)を(回転モータ2220の負荷(電流値)の変化を)、検知することにより、制御部30は、接触部221が接地面に接触したと判断し、回転モータ2220を停止し、移動体223を停止させる。
【0060】
また、接地面の状態により、接触部221が接地面と接触しない場合には、フォトインタラプタ224により、移動部223の過剰移動を検知し、回転モータ2220を停止し、移動体223を停止させる。これにより、移動体223が所定の位置よりも下降することを抑制する。
【0061】
なお、実施例1では、移動体223に設置される接触部221は、移動型ロボット1の位置や姿勢を安定して維持させるため、ネジ機構2222の左右に、ネジ機構2222からほぼ均等に、2つ設置される。
【0062】
そして、フレーム225の外側の左右には、固定部材226が設置される。固定部材226により、第二の支持部220が、車体250に固定される。
【0063】
次に、第一の支持部210と第二の支持部220との特徴について説明する。
【0064】
図2に示すように、第一の支持部210において、車輪212は、弾性部213により、常時、接地面に接触しているため、第一の支持部210は、常時、移動型ロボット1の自重を支持する。そして、弾性部213は、車輪212が、凹凸路面から受ける衝撃を吸収する(凹凸路面から受ける外力を受動的に緩衝する)ために、最適な所定のバネ定数を有する。
【0065】
一方、図3に示すように、第二の支持部220において、接触部221は、移動部223を介して、直動部222により、上下方向に移動する。つまり、接触部221、移動部223、直動部221は、必要に応じて、移動型ロボット1の自重を支持することができる。
【0066】
そして、第二の支持部220の接触部221は、第一の支持部210の弾性部213よりも、高い剛性を有する。これにより、移動中の凹凸路面から受ける衝撃の吸収と、動作中の移動型ロボット1の位置や姿勢の維持と、を同時に安定して実現することができる。
【0067】
また、第二の支持部220における直動部222は、第一の支持部210における弾性部213よりも高い剛性を有する。
【0068】
また、移動型ロボット1において、第二の支持部220は、移動機構20の前後左右の四箇所に設置される第一の支持部210のうち、双腕ロボット10の搭載位置(図1中の矢印A方向の設置位置:双腕ロボット10の設置位置)側における第一の支持部210の設置位置(前方)よりも、移動型ロボット1の移動方向(移動機構20の移動方向と同義)の外側(移動型ロボット1の移動方向前方)に、少なくとも一箇所設置される。
【0069】
特に、第二の支持部220は、第一の支持部210の前方の2つの車輪212の中心軸よりも、移動型ロボット1の移動方向前方に、設置される。なお、第二の支持部220の設置位置は、双腕ロボット10の使用態様により、決定され、双腕ロボット10の作業方向(移動方向)に対し、第一の支持部210の設置位置よりも、外側(外周部寄りの位置)であればよい。
【0070】
なお、実施例1では、第二の支持部220は、前方の2つの車輪212の間であって、前方の2つの車輪212の中心軸よりも、前方に、1つのみが設置される。このように、実施例1では、第二の支持部220は、双腕ロボット10の前方への移動方向に対し、第一の支持部210の設置位置よりも、外側に1つ設置される。
【0071】
次に、実施例1に記載する移動型ロボット1の移動時の状態を説明する。
【0072】
図4は、実施例1に記載する移動型ロボット1の移動時の状態を説明する説明図である。
【0073】
移動型ロボット1は、作業台50上で分注作業や攪拌作業を行うため、初期位置から作業台50へ向かって移動する。また、移動型ロボット1は、作業対象である試薬やサンプルなどの液体が収容される容器や容器トレイなどを運搬することもできる。
【0074】
作業台50には、作業対象である試薬やサンプルなどの液体が収容される試験管501や、所定量の液体を吸引又は吐出するという分注作業を行うピペット502などが、設置される。
【0075】
移動型ロボット1の移動中は、第二の支持部220の接触部221は、直動部222により、上方に退避し、接地面から離間した状態となる。そして、この状態では、移動型ロボット1は、第一の支持部210のみにより、移動型ロボット1の自重を支持する。
【0076】
作業台50への移動に際しては、双腕ロボット10の頭部110に設置されるステレオカメラユニット111により、作業台50までの距離を測定し、移動機構20に設置されるレーザレンジファインダ240により、作業台50までの距離を測定する。
【0077】
次に、実施例1に記載する移動型ロボット1の移動時の支持構造を説明する。
【0078】
図5は、実施例1に記載する移動型ロボット1の移動時の支持構造を説明する模式図である。
【0079】
移動型ロボット1の移動中は、第二の支持部220の接触部221は、接地面から離間した状態であり、移動型ロボット1の自重Wは、第一の支持部210のみにより、支持される。
【0080】
前方の第一の支持部210F(車輪212)に作用する荷重(力)をN10F、後方の第一の支持部210R(車輪212)に作用する荷重(力)をN10R、とすると、
W = N10R + N10Fとなる。
【0081】
そして、第一の支持部210の付勢力は、車輪212が凸部に乗り上げた場合や車輪212が凹部に落ち込んだ場合に、弾性部213が伸縮することにより、車輪212が接地面から離間しないように、その大きさが、調整される。
【0082】
このため、移動型ロボット1は、凹凸路面を移動する場合であっても、凹凸路面から受ける衝撃を吸収し、移動型ロボット1は、凹凸路面を安定して移動することができ、移動中の移動型ロボット1の姿勢変化を抑制することができる。
【0083】
次に、実施例1に記載する移動型ロボット1が、作業台50まで移動し、停止した状態を説明する。
【0084】
図6は、実施例1に記載する移動型ロボット1が、作業台50まで移動し、停止した状態を説明する説明図である。
【0085】
移動型ロボット1は、作業台50に一定の距離まで接近し、停止する。
【0086】
作業台50への接近に際しては、双腕ロボット10の頭部110に設置されるステレオカメラユニット111により、作業台50までの距離を測定し、移動機構20に設置されるレーザレンジファインダ240により、作業台50までの距離を測定する。
【0087】
これら、ステレオカメラユニット111やレーザレンジファインダ240による距離測定は、移動型ロボット1に設置される制御部30により制御される。
【0088】
移動の完了が検知された移動型ロボット1は、停止し、第二の支持部220を接地面に接触させる。そして、制御部30から送信される信号により、第二の支持部220の接触部221が下降し、接触部221が接地面に接触し、移動型ロボット1(特に、移動機構20)の位置や姿勢が固定される。
【0089】
また、ここで、再度、ステレオカメラユニット111やレーザレンジファインダ240の位置検出手段を使用し、例えば、作業台50までの距離を測定し、予め作成された地図などを使用し、又は、例えば、GPSなどを使用し、自己位置を演算し、その後、自己位置と予め設定された動作位置とのずれを補正してもよい。なお、この自己位置の演算は、制御部30で行う。
【0090】
また、自己位置の検知により、停止位置が予定位置と相違する場合には、その後行う予定の各種作業における多関節アーム100の軌道を補正することもできる。なお、この軌道補正は、移動型ロボット1(特に、移動機構20)の姿勢が安定する、第二の支持部220の接触部221が接地面に接触した状態で行うことが好ましい。
【0091】
次に、実施例1に記載する移動型ロボット1が、作業台50まで移動し、停止した状態の支持構造を説明する。
【0092】
図7は、実施例1に記載する移動型ロボット1が、作業台50まで移動し、停止した状態の支持構造を説明する模式図である。
【0093】
移動型ロボット1が停止し、第二の支持部220の接触部221が接地面に接触すると、第一の支持部210と第二の支持部220とが並列して、同時に移動型ロボット1の自重を支持するようになる。そして、移動中に第一の支持部210のみにより、支持されていた移動型ロボット1の自重Wの一部を、第二の支持部220も支持するようになる。
【0094】
前方の第一の支持部210F(車輪212)に作用する荷重(力)をN11F、後方の第一の支持部210R(車輪212)に作用する荷重(力)をN11R、第二の支持部220(接触部221)に作用する荷重(力)をN21とすると、
W = N11R + N11F + N21となる。つまり、双腕ロボット10の動作時には、第二の支持部220における接触部221と、第一の支持部210における車輪212とが、接地面に接触する。
【0095】
このように、第一の支持部210と第二の支持部220とが並列して、同時に移動型ロボット1の自重を支持するため、移動型ロボット1(特に、移動機構20)の姿勢を安定させることができる。
【0096】
次に、実施例1に記載する移動型ロボット1の前方の第一の支持部210に作用する荷重N11Fと第二の支持部220に作用する荷重N21との時間推移を説明する。ここでロボットの停止時における第二の支持部の動作について、図8を用いて説明する。
【0097】
図8は、実施例1に記載する移動型ロボット1の前方の第一の支持部210に作用する荷重N11Fと第二の支持部220に作用する荷重N21との時間推移を説明するグラフである。
【0098】
なお、図8は、横軸に時間、縦軸に作用力(荷重)を示し、前方の第一の支持部210Fに作用する荷重N11Fを代表して示す。
【0099】
移動型ロボット1が停止し、第二の支持部220の接触部221が接地面に接触したタイミング(t1)の後、前方の第一の支持部210に作用する荷重N11Fが徐々に減少し、第二の支持部220に作用する荷重N21が徐々に上昇し、回転モータ2220が停止するタイミング(t2)の後、第一の支持部210と第二の支持部220とが並列して、同時に移動型ロボット1の自重を支持するようになる。
【0100】
つまり、第二の支持部220に作用する荷重N21が所定の値になると、負荷トルク検知手段により、回転モータ2220の負荷(電流値)が、設定値以上になったことを検知し、回転モータ2220を停止させる。
【0101】
なお、回転モータ2220が停止した後、第二の支持部220には、荷重N21が作用し、接触部221と連結している移動体223に形成されるナット部と嵌合するネジ機構2222に、スラスト方向のスラスト力が発生する。ネジ機構2222にスラスト方向のスラスト力が発生した場合、ネジ機構2222は回転方向に回転しようとする。このため、ウォームギヤ2221を、ネジ機構2222と回転モータ2220との間に設置し、ウォームギヤ2221により、回転モータ2220の回転軸の逆回転を抑制する。これにより、回転モータ2220は逆回転が抑制され、第二の支持部220の変位も抑制される。
【0102】
なお、ここで、第一の支持部210と第二の支持部220とにより、同時に移動型ロボット1の自重を支持するとは、4つの車輪212のいずれもが、接地面から離間しないことを意味する。つまり、接触部221が接地面に接触した後も、4つの車輪212のいずれもが、接地面に接触していることを意味する。
【0103】
これにより、前方の第一の支持部210に作用する荷重N11Fも、移動型ロボット1の自重の一部を支持するため、第二の支持部220に作用する荷重N21を低減し、第二の支持部220を小型化することができる。
【0104】
なお、この際、前方の第一の支持部210に作用する荷重N11Fは、第二の支持部220に作用する荷重N21よりも小さい。これにより、移動型ロボット1の姿勢を安定させることができる。
【0105】
次に、実施例1に記載する移動型ロボット1が、作業台50上で作業している状態を説明する。
【0106】
図9は、実施例1に記載する移動型ロボット1が、作業台50上で作業している状態を説明する説明図である。
【0107】
移動型ロボット1(移動機構20)は、作業台50に接近し、停止する。そして、第二の支持部220の接触部221は接地面に接触した状態が維持される。
【0108】
そして、この状態で、移動型ロボット1は、双腕ロボット10の多関節アーム100のアクチュエータを動作させ、所定の位置まで多関節アーム100を伸ばし、試験管501やピペット502をハンド101により把持する。そして、作業台50上で、分注作業や攪拌作業を行う。
【0109】
また、この状態では、双腕ロボット10は、移動機構20に対して前方に傾く場合もある。つまり、双腕ロボット10は、その腰部105を、移動型ロボット1の移動方向前方(図9中、矢印A方向)に前傾させる場合もある。これにより、双腕ロボット10は、作業台50上での作業性を向上させることができる。
【0110】
なお、ハンド101により試験管501やピペット502を把持する際には、ステレオカメラユニット111を使用し、作業台50までの距離や作業台50上の目標点までの距離を測定することができ、また、作業対象又は対象マーカを観察して、位置や姿勢を補正することもできる。
【0111】
そして、双腕ロボット10は、分注作業や攪拌作業などの全作業が完了した後に、把持している試験管501やピペット502を所定の位置に置き、初期姿勢に戻り、第二の支持部220の接触部221を接地面から離間させ、移動機構20により、初期位置に戻る。
【0112】
また、全作業が完了した後、別の作業台上で作業する場合や処理した作業対象を別の場所へ運搬する場合も、再度、第二の支持部220の接触部221を接地面から離間させ、移動機構20により、移動する。
【0113】
次に、実施例1に記載する移動型ロボット1が、作業台50上で作業している状態の支持構造を説明する。
【0114】
図10は、実施例1に記載する移動型ロボット1が、作業台50上で作業している状態の支持構造を説明する模式図である。
【0115】
移動型ロボット1の動作中は、双腕ロボット10は作業台50上で作業するため、多関節アーム100を伸ばす。また、作業台50上での作業性を向上させるため、双腕ロボット10は、その腰部105を前傾させる場合もある。
【0116】
これにより、移動機構20上に設置される双腕ロボット10の重心位置が、図10中の矢印α方向に変化する。この双腕ロボット10の重心位置の変化により、移動型ロボット1には、全体が前方に傾く方向に、力のモーメントMが作用する場合がある。
【0117】
前方の第一の支持部210F(車輪212)に作用する荷重(力)をN12F、後方の第一の支持部210R(車輪212)に作用する荷重(力)をN12R、第二の支持部220(接触部221)に作用する荷重(力)をN22とすると、
W = N12R + N12F + N22となる。つまり、双腕ロボット10の動作時には、第二の支持部220における接触部221と、第一の支持部210における車輪212とが、接地面に接触する。
【0118】
このように、第一の支持部210と第二の支持部220とが並列して、同時に移動型ロボット1の自重を支持するため、移動型ロボット1の姿勢を安定させることができる。
【0119】
また、第二の支持部220が、移動型ロボット1の前方への移動方向に、設置されるため、こうした力のモーメントMが移動型ロボット1に作用する場合であっても、移動型ロボット1の姿勢を安定させることができる。
【0120】
そして、実施例1に記載する移動型ロボット1では、第二の支持部220の設置位置は、第一の支持部210Fの設置位置よりも、移動型ロボット1の移動方向前方(図10中の矢印A方向)である。また、実施例1に記載する移動型ロボット1では、第二の支持部220は、双腕ロボット10の多関節アーム100を伸ばす方向であって、第一の支持部210Fの設置位置よりも、移動型ロボット1の移動方向の外側に、設置される。これにより、双腕ロボット10の動作中の、移動型ロボット1の姿勢を安定させることができる。
【0121】
移動型ロボット1は、移動中は第二の支持部220の接触部221を収縮し、接触部221を接地面から離間させると共に、動作中は第二の支持部220の接触部221を伸張し、接触部221を接地面に接触させる。これにより、移動中は第一の支持部210の弾性部213により、凹凸路面から受ける衝撃を吸収し、動作中は第二の支持部220により、移動型ロボット1の姿勢を安定させることができる。
【0122】
つまり、動作中は第二の支持部220が接地面と接触しており、多関節アーム100が作業方向に動作した場合や双腕ロボット10が作業方向に傾斜した場合であっても、移動型ロボット1の自重を支持し、移動型ロボット1の姿勢を安定させると共に、移動型ロボット1の姿勢の変化を抑制する。
【0123】
次に、実施例1に記載する移動型ロボット1の前方の第一の支持部210に作用する荷重N12Fと第二の支持部220に作用する荷重N22との時間推移を説明する。
【0124】
図11は、実施例1に記載する移動型ロボット1の前方の第一の支持部210に作用する荷重N12Fと第二の支持部220に作用する荷重N22との時間推移を説明するグラフである。
【0125】
なお、図11は、横軸に時間、縦軸に作用力(荷重)及び重心位置を示し、前方の第一の支持部210Fに作用する荷重N12Fを代表して示す。
【0126】
ここで、図11に示すように、例えば、多関節アーム100を伸ばし始め、双腕ロボット10の重心位置αが変化し始まるタイミングがt3であり、多関節アーム100を伸ばし終わり、双腕ロボット10の重心位置αの変化が停止するタイミングがt4であり、多関節アーム100を縮め始め、双腕ロボット10の重心位置αが変化し始まるタイミングがt5であり、多関節アーム100を縮め終わり、双腕ロボット10の重心位置αの変化が停止するタイミングがt6である。このように、双腕ロボット10の重心位置αは変化する。
【0127】
一方、この双腕ロボット10の重心位置αの変化に伴い、第二の支持部220に作用する荷重N22も、図11に示すように、変化する。しかし、前方の第一の支持部210Fに作用する荷重N12Fは、ほぼ一定である。つまり、双腕ロボット10の重心位置αの変化に伴う荷重の変化を、第二の支持部220で吸収する。これにより、移動型ロボット1の姿勢を安定させることができる。
【0128】
このように、双腕ロボット10の重心位置αの変化により発生する力のモーメントMは、第二の支持部220により、支持することができる。そして、前方の第一の支持部210Fに作用する荷重N12Fは、ほぼ一定となり、前方の第一の支持部210Fの変位を抑制することができる。
【0129】
なお、第二の支持部220には、荷重N22が作用し、接触部221と連結している移動体223に形成されるナット部と嵌合するネジ機構2222に、スラスト方向のスラスト力が発生する。ネジ機構2222にスラスト方向のスラスト力が発生した場合、ネジ機構2222は回転方向に回転しようとする。このため、ウォームギヤ2221を、ネジ機構2222と回転モータ2220との間に設置し、ウォームギヤ2221により、回転モータ2220の回転軸の逆回転を抑制する。これにより、回転モータ2220は逆回転が抑制され、第二の支持部220の変位も抑制される。
【実施例2】
【0130】
次に、実施例2に記載する移動型ロボット1の移動機構20の構造を説明する。
【0131】
図12は、実施例2に記載する移動型ロボット1の移動機構20の構造を説明する説明図である。なお、図12は、移動型ロボット1の移動機構20の内部構造が理解しやすいように、移動型ロボット1の移動機構20のカバーを除去し、内部構造が見えるように図示する。
【0132】
実施例2に記載する移動機構20は、実施例1に記載する移動機構20に相違して、第二の支持部220が、前方の2つの車輪212の間であって、前方の2つの車輪212の中心軸よりも、前方に1つと、後方の2つの車輪212の間であって、後方の2つの車輪212の中心軸よりも、後方に1つと、が設置される。このように、実施例2では、第二の支持部220は、双腕ロボット10の前後方向の移動方向(図12中の矢印A方向と図12中の矢印B方向)に対し、前方の第一の支持部210の設置位置よりも、前方外側(外周部寄りの位置)に1つ、及び、後方の第一の支持部210の設置位置よりも、後方外側(外周部寄りの位置)に1つが、設置される。
【0133】
これにより、多関節アーム100が前後方向に、多関節アーム100を伸ばし、動作した場合であっても、移動型ロボット1の自重を支持し、移動型ロボット1の姿勢を安定させると共に、車体250の傾斜を抑制することができる。
【実施例3】
【0134】
次に、実施例3に記載する移動型ロボット1の移動機構20の構造を説明する。
【0135】
図13は、実施例3に記載する移動型ロボット1の移動機構20の構造を説明する説明図である。なお、図13は、移動型ロボット1の移動機構20の内部構造が理解しやすいように、移動型ロボット1の移動機構20のカバーを除去し、内部構造が見えるように図示する。
【0136】
実施例3に記載する移動機構20は、実施例1に記載する移動機構20に比較して、第二の支持部220の設置位置及び第二の支持部220の概略構成が相違する。
【0137】
実施例3に記載する移動機構20において、第二の支持部220は、移動機構20の前後左右の四箇所に設置される第一の支持部210のうち、双腕ロボット10の搭載位置(図13中の矢印A方向の設置位置:双腕ロボット10の設置位置)側における揺動部211の上面(車輪212の中心軸が設置されるL字の辺の上面)の、左右二箇所に設置される。
【0138】
特に、第二の支持部220は、第一の支持部210の前方の2つの車輪212の中心軸よりも、移動型ロボット1の移動方向後方であって、第一の支持部210の前方の2つの揺動部211の揺動軸211s(及び、第一の支持部210の前方の2つの弾性部213)よりも、移動型ロボット1の移動方向前方に、設置される。つまり、この第二の支持部220は、車輪212の中心軸と揺動部211の揺動軸211sとの間の、左右二箇所に設置される。
【0139】
このように、実施例3では、第二の支持部220は、双腕ロボット10の移動方向に対し、第一の支持部210の前方の2つの揺動部211の揺動軸211sの設置位置よりも、前方外側に2つ設置される。これにより、移動型ロボット1の姿勢を安定させることができる。
【0140】
次に、実施例3に記載する移動型ロボット1の第二の支持部220の近傍を拡大して説明する。
【0141】
図14は、実施例3に記載する移動型ロボット1の第二の支持部220の近傍を拡大して説明する説明図である。
【0142】
第二の支持部220は、直動部222と、ナット部が形成され、揺動部211に固定された接触部221と、これらを保持するフレーム225と、を有する。
【0143】
また、直動部222は、回転モータ2220と、ウォームギヤ2221と、ネジ機構2222と、を有する。直動部222では、回転モータ2220の回転軸が回転し、その回転力が、ウォームギヤ2221を介して、ネジ機構2222に伝達され、ネジ機構2222が回転する。そして、ネジ機構2222が回転することにより、接触部221は、上下方向へ移動する。接触部221が、下方向へ移動することにより、揺動部211に荷重がかかり、これにより、移動型ロボット1の姿勢を安定させることができる。
【0144】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために、具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を有するものに限定されるものではない。
【0145】
また、ある実施例の構成の一部を、他の実施例の構成の一部に置換することもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を追加することもできる。また、各実施例の構成の一部について、それを削除し、他の構成の一部を追加し、他の構成の一部と置換することもできる。
【0146】
また、添付図面は、本発明の原理に則った実施例を示すものであり、これらは、本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために使用されるものではない。また、明細書の記載は、典型的な例示に過ぎず、特許請求の範囲の解釈を如何なる意味においても限定するものではない。
【符号の説明】
【0147】
1…移動型ロボット、10…双腕ロボット、100…多関節アーム、101…ハンド、105…腰部、110…頭部、111…テレオカメラユニット、20…移動機構、210…第一の支持部、211…揺動部、211s…揺動軸、212…車輪、213…弾性部、220…第二の支持部、221…接触部、222…直動部、2220…回転モータ、2221…ウォームギヤ、2222…ネジ機構、223…移動体、224…フォトインタラプタ、225…フレーム、226…固定部材、227…球面軸受、230…バンパ、240…レーザレンジファインダ、250…車体、30…制御部、50…作業台、501…試験管、502…ピペット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14