(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/318 20060101AFI20241031BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01L21/318 C
H01L21/31 B
(21)【出願番号】P 2023501985
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007506
(87)【国際公開番号】W WO2022180825
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】318009126
【氏名又は名称】株式会社KOKUSAI ELECTRIC
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】清水 富介
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 貴志
(72)【発明者】
【氏名】赤江 尚徳
(72)【発明者】
【氏名】西田 圭吾
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-005095(JP,A)
【文献】特開2018-137356(JP,A)
【文献】特開2012-104720(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0117140(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/318
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基板に対して所定元素を含む第1原料を供給する工程と、
(b)前記基板に対して、前記第1原料とは分子構造が異なり、前記所定元素及び酸素を含む第2原料を供給する工程と、
(c)前記基板に対して酸化剤を供給する工程と、
(d)前記基板に対して窒化剤を供給する工程と、
を含むサイクルを
、(a)(b)(c)(d)、(b)(a)(c)(d)、および(a)(b)(d)(c)のうちいずれかの順で所定回数行うことで、前記基板上に、前記所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する工程を有する基板処理方法。
【請求項2】
(a)基板に対して所定元素を含む第1原料を供給する工程と、
(b)前記基板に対して、前記第1原料とは分子構造が異なり、前記所定元素及び酸素を含む第2原料を供給する工程と、
(c)前記基板に対して酸化剤を供給する工程と、
(d)前記基板に対して窒化剤を供給する工程と、
を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する工程と、
前記サイクルを前記所定回数行う前に、前記基板に対して前記窒化剤を供給する工程
と、
を有す
る基板処理方法。
【請求項3】
前記第2原料は、前記所定元素の原子に結合したアルコキシ基を含む分子構造を有している
請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項4】
(a)基板に対して所定元素を含む第1原料を供給する工程と、
(b)前記基板に対して、前記第1原料とは分子構造が異なり、且つ、前記所定元素の原子の少なくとも1つの結合手にアミノ基が結合しており、残りの結合手にアルコキシ基が結合している分子構造を有している、
前記所定元素及び酸素を含む第2原料を供給する工程と、
(c)前記基板に対して酸化剤を供給する工程と、
(d)前記基板に対して窒化剤を供給する工程と、
を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する工程を有する基板処理方法。
【請求項5】
前記所定元素はシリコンである
請求項4に記載の基板処理方法。
【請求項6】
(a)基板に対して所定元素を含む第1原料を供給する工程と、
(b)前記基板に対して、前記第1原料とは分子構造が異なり、且つ、前記所定元素の原子に結合したアルコキシ基を含む分子構造を有している、前記所定元素及び酸素を含む第2原料を供給する工程と、
(c)前記基板に対して酸化剤を供給する工程と、
(d)前記基板に対して窒化剤を供給する工程と、
を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する工程を有し、
(b)では、前記所定元素の原子から前記アルコキシ基が脱離することなく、前記所定元素の原子に結合した他の少なくとも1つの基が脱離する条件であって、前記少なくとも1つの基が脱離し前記アルコキシ基との結合が維持された状態の前記所定元素の原子が、前記基板の表面に吸着する条件下で、前記第2原料が前記基板に対して供給され
る基板処理方法。
【請求項7】
前記第1原料は、前記所定元素の原子に結合したハロゲン元素を含む分子構造を有している
請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項8】
(a)基板に対して所定元素を含む第1原料を供給する工程と、
(b)前記基板に対して、前記第1原料とは分子構造が異なり、前記所定元素及び酸素を含む第2原料を供給する工程と、
(c)前記基板に対して酸化剤を供給する工程と、
(d)前記基板に対して窒化剤を供給する工程と、
を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する工程を有し、
前記膜に含ませる窒素の濃度を所定の値とするように、(a)における前記第1原料の供給時間に対する(b)における前記第2原料の供給時間の比率
、(a)における前記基板が存在する空間の圧力に対する(b)における前記基板が存在する空間の圧力の比率、および(a)における前記第1原料の供給流量に対する(b)における前記第2原料の供給流量の比率のうち少なくとも何れかを設定す
る基板処理方法。
【請求項9】
(a)では、前記第2原料の前記基板の表面への吸着反応が飽和するまで、前記第2原料の供給を継続する
請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項10】
(a)では、前記第2原料の前記基板の表面への吸着反応が飽和する前に、前記第2原料の供給を停止する
請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の基板処理方法の工程を有する半導体装置の製造方法。
【請求項12】
基板に対して、所定元素を含む第1原料を供給する第1原料供給系と、
前記基板に対して、前記第1原料とは分子構造が異なり、前記所定元素及び酸素を含む第2原料を供給する第2原料供給系と、
前記基板に対して、酸化剤を供給する酸化剤供給系と
、
前記基板に対して、窒化剤を供給する窒化剤供給系と
、
(a)前記基板に対して前記第1原料を供給する処理と、(b)前記基板に対して前記第2原料を供給する処理と、(c)前記基板に対して前記酸化剤を供給する処理と、(d)前記基板に対して前記窒化剤を供給する処理と、を含むサイクルを
、(a)(b)(c)(d)、(b)(a)(c)(d)、および(a)(b)(d)(c)のうちいずれかの順で所定回数行うことで、前記基板上に、前記所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する処理を行わせるように、前記第1原料供給系、前記第2原料供給系、前記酸化剤供給系、および前記窒化剤供給系を制御することが可能なように構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項13】
基板に対して、所定元素を含む第1原料を供給する第1原料供給系と、
前記基板に対して、前記第1原料とは分子構造が異なり、前記所定元素及び酸素を含む第2原料を供給する第2原料供給系と、
前記基板に対して、酸化剤を供給する酸化剤供給系と、
前記基板に対して、窒化剤を供給する窒化剤供給系と、
(a)前記基板に対して前記第1原料を供給する処理と、(b)前記基板に対して前記第2原料を供給する処理と、(c)前記基板に対して前記酸化剤を供給する処理と、(d)前記基板に対して前記窒化剤を供給する処理と、を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する処理と、前記サイクルを前記所定回数行う前に、前記基板に対して前記窒化剤を供給する処理と、を行わせるように、前記第1原料供給系、前記第2原料供給系、前記酸化剤供給系、および前記窒化剤供給系を制御することが可能なように構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項14】
基板に対して、所定元素を含む第1原料を供給する第1原料供給系と、
前記基板に対して、前記第1原料とは分子構造が異なり、且つ、前記所定元素の原子の少なくとも1つの結合手にアミノ基が結合しており、残りの結合手にアルコキシ基が結合している分子構造を有している、前記所定元素及び酸素を含む第2原料を供給する第2原料供給系と、
前記基板に対して、酸化剤を供給する酸化剤供給系と
前記基板に対して、窒化剤を供給する窒化剤供給系と
(a)前記基板に対して前記第1原料を供給する処理と、(b)前記基板に対して前記第2原料を供給する処理と、(c)前記基板に対して前記酸化剤を供給する処理と、(d)前記基板に対して前記窒化剤を供給する処理と、を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する処理を行わせるように、前記第1原料供給系、前記第2原料供給系、前記酸化剤供給系、および前記窒化剤供給系を制御することが可能なように構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項15】
基板に対して、所定元素を含む第1原料を供給する第1原料供給系と、
前記基板に対して、前記第1原料とは分子構造が異なり、
且つ、前記所定元素の原子に結合したアルコキシ基を含む分子構造を有している、前記所定元素及び酸素を含む第2原料を供給する第2原料供給系と、
前記基板に対して、酸化剤を供給する酸化剤供給系と
前記基板に対して、窒化剤を供給する窒化剤供給系と
(a)前記基板に対して前記第1原料を供給する処理と、(b)前記基板に対して前記第2原料を供給する処理と、(c)前記基板に対して前記酸化剤を供給する処理と、(d)前記基板に対して前記窒化剤を供給する処理と、を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する処理を行わせ、(b)では、前記所定元素の原子から前記アルコキシ基が脱離することなく、前記所定元素の原子に結合した他の少なくとも1つの基が脱離する条件であって、前記少なくとも1つの基が脱離し前記アルコキシ基との結合が維持された状態の前記所定元素の原子が、前記基板の表面に吸着する条件下で、前記第2原料が前記基板に対して供給されるように、前記第1原料供給系、前記第2原料供給系、前記酸化剤供給系、および前記窒化剤供給系を制御することが可能なように構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項16】
基板に対して、所定元素を含む第1原料を供給する第1原料供給系と、
前記基板に対して、前記第1原料とは分子構造が異なり、前記所定元素及び酸素を含む第2原料を供給する第2原料供給系と、
前記基板に対して、酸化剤を供給する酸化剤供給系と
前記基板に対して、窒化剤を供給する窒化剤供給系と
(a)前記基板に対して前記第1原料を供給する処理と、(b)前記基板に対して前記第2原料を供給する処理と、(c)前記基板に対して前記酸化剤を供給する処理と、(d)前記基板に対して前記窒化剤を供給する処理と、を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する処理を行わせるように、前記第1原料供給系、前記第2原料供給系、前記酸化剤供給系、および前記窒化剤供給系を制御することが可能なように構成される制御部と、
を有し、
前記膜に含ませる窒素の濃度を所定の値とするように、(a)における前記第1原料の供給時間に対する(b)における前記第2原料の供給時間の比率、(a)における前記基板が存在する空間の圧力に対する(b)における前記基板が存在する空間の圧力の比率、および(a)における前記第1原料の供給流量に対する(b)における前記第2原料の供給流量の比率のうち少なくとも何れかが設定されている基板処理装置。
【請求項17】
請求項1~10のいずれか1項に記載の基板処理方法の工程を行う手順を、
コンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程の一工程として、基板に対して原料、酸化剤、窒化剤を供給し、基板上に所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する基板処理工程が行われる場合がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、基板上に形成される所定元素、酸素及び窒素を含む膜の組成比制御性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
(a)基板に対して所定元素を含む第1原料を供給する工程と、
(b)前記基板に対して、前記第1原料とは分子構造が異なり、前記所定元素及び酸素を含む第2原料を供給する工程と、
(c)前記基板に対して酸化剤を供給する工程と、
(d)前記基板に対して窒化剤を供給する工程と、
を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する工程を有する技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、基板上に形成される所定元素、酸素及び窒素を含む膜の組成比制御性を向上させることが可能な技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉202部分を縦断面図で示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉202部分を
図1のA-A線断面図で示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置のコントローラ121の概略構成図であり、コントローラ121の制御系をブロック図で示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の一態様におけるガス供給シーケンスを示すフロー図である。
【
図5A】成膜処理を開始する前における基板の表面状態を模式的に示す図である。
【
図5B】ステップBを実施した際における基板の表面状態を模式的に示す図である。
【
図5C】ステップBの終了後、ステップAを実施した際における基板の表面状態を模式的に示す図である。
【
図5D】ステップB,Aの終了後、ステップCを実施した際における基板の表面状態を模式的に示す図である。
【
図5E】ステップB,A,Cの終了後、ステップDを実施した際における基板の表面状態を模式的に示す図である。
【
図6】基板上に形成された膜の各種測定結果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様について、主に、
図1~
図4、
図5A~
図5Eを参照しながら説明する。なお、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面上の各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0009】
(1)基板処理装置の構成
図1に示すように、処理炉202は温度調整器(加熱部)としてのヒータ207を有する。ヒータ207は円筒形状であり、保持板に支持されることにより垂直に据え付けられている。ヒータ207は、ガスを熱で活性化(励起)させる活性化機構(励起部)としても機能する。
【0010】
ヒータ207の内側には、ヒータ207と同心円状に反応管203が配設されている。反応管203は、例えば石英(SiO2)または炭化シリコン(SiC)等の耐熱性材料により構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。反応管203の下方には、反応管203と同心円状に、マニホールド209が配設されている。マニホールド209は、例えばステンレス鋼(SUS)等の金属材料により構成され、上端および下端が開口した円筒形状に形成されている。マニホールド209の上端部は、反応管203の下端部に係合しており、反応管203を支持するように構成されている。マニホールド209と反応管203との間には、シール部材としてのOリング220aが設けられている。反応管203はヒータ207と同様に垂直に据え付けられている。主に、反応管203とマニホールド209とにより処理容器(反応容器)が構成される。処理容器の筒中空部には処理室201が形成される。処理室201は、基板としてのウエハ200を収容可能に構成されている。この処理室201内でウエハ200に対する処理が行われる。
【0011】
処理室201内には、第1~第3供給部としてのノズル249a~249cが、マニホールド209の側壁を貫通するようにそれぞれ設けられている。ノズル249a~249cを、それぞれ第1~第3ノズルとも称する。ノズル249a~249cは、例えば石英またはSiC等の耐熱性材料により構成されている。ノズル249a~249cには、ガス供給管232a~232cがそれぞれ接続されている。ノズル249a~249cはそれぞれ異なるノズルであり、ノズル249b,249cのそれぞれは、ノズル249aに隣接して設けられている。
【0012】
ガス供給管232a~232cには、ガス流の上流側から順に、流量制御器(流量制御部)であるマスフローコントローラ(MFC)241a~241cおよび開閉弁であるバルブ243a~243cがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aのバルブ243aよりも下流側には、ガス供給管232d,232eが接続されている。ガス供給管232b,232cのバルブ243b,243cよりも下流側には、ガス供給管232f,232gが接続されている。ガス供給管232e~232gには、ガス流の上流側から順に、MFC241e~241gおよびバルブ243e~243gがそれぞれ設けられている。ガス供給管232a~232gは、例えばSUS等の金属材料により構成されている。
【0013】
図2に示すように、ノズル249a~249cは、反応管203の内壁とウエハ200との間における平面視において円環状の空間に、反応管203の内壁の下部より上部に沿って、ウエハ200の配列方向上方に向かって立ち上がるようにそれぞれ設けられている。すなわち、ノズル249a~249cは、ウエハ200が配列されるウエハ配列領域の側方の、ウエハ配列領域を水平に取り囲む領域に、ウエハ配列領域に沿うようにそれぞれ設けられている。平面視において、ノズル249aは、処理室201内に搬入されるウエハ200の中心を挟んで後述する排気口231aと一直線上に対向するように配置されている。ノズル249b,249cは、ノズル249aと排気口231aの中心とを通る直線Lを、反応管203の内壁(ウエハ200の外周部)に沿って両側から挟み込むように配置されている。直線Lは、ノズル249aとウエハ200の中心とを通る直線でもある。すなわち、ノズル249cは、直線Lを挟んでノズル249bと反対側に設けられているということもできる。ノズル249b,249cは、直線Lを対称軸として線対称に配置されている。ノズル249a~249cの側面には、ガスを供給するガス供給孔250a~250cがそれぞれ設けられている。ガス供給孔250a~250cは、それぞれが、平面視において排気口231aと対向(対面)するように開口しており、ウエハ200に向けてガスを供給することが可能となっている。ガス供給孔250a~250cは、反応管203の下部から上部にわたって複数設けられている。
【0014】
ガス供給管232aからは、所定元素を含む第1原料(第1原料ガス)が、MFC241a、バルブ243a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。
【0015】
ガス供給管232bからは、酸化剤(酸化ガス)が、MFC241b、バルブ243b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。
【0016】
ガス供給管232cからは、窒化剤(窒化ガス)が、MFC241b、バルブ243b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。
【0017】
ガス供給管232dからは、上述の第1原料とは分子構造が異なり、所定元素及び酸素(O)を含む第2原料(第2原料ガス)が、MFC241d、バルブ243d、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。
【0018】
ガス供給管232e,232f,232gからは、不活性ガスが、それぞれMFC241e,241f,241g、バルブ243e,243f,243g、ガス供給管232a,232b,232c、ノズル249a,249b,249cを介して処理室201内へ供給される。不活性ガスは、パージガス、キャリアガス、希釈ガス等として作用する。
【0019】
主に、ガス供給管232a、MFC241a、バルブ243aにより、第1原料供給系が構成される。主に、ガス供給管232b、MFC241b、バルブ243bにより、酸化剤供給系が構成される。主に、ガス供給管232c、MFC241c、バルブ243cにより、窒化剤供給系が構成される。主に、ガス供給管232d、MFC241d、バルブ243dにより、第2原料供給系が構成される。主に、ガス供給管232e~232g、MFC241e~241g、バルブ243e~243gにより、不活性ガス供給系が構成される。
【0020】
なお、第1原料ガス、第2原料ガス、酸化ガス、窒化ガスの少なくともいずれかを、成膜ガスとも称し、第1原料供給系、第2原料供給系、酸化剤供給系、窒化剤供給系の少なくともいずれかを、成膜ガス供給系とも称する。
【0021】
上述の各種ガス供給系のうち、いずれか、或いは、全てのガス供給系は、バルブ243a~243gやMFC241a~241g等が集積されてなる集積型ガス供給システム248として構成されていてもよい。集積型ガス供給システム248は、ガス供給管232a~232gのそれぞれに対して接続され、ガス供給管232a~232g内への各種ガスの供給動作、すなわち、バルブ243a~243gの開閉動作やMFC241a~241gによる流量調整動作等が、後述するコントローラ121によって制御されるように構成されている。集積型ガス供給システム248は、一体型、或いは、分割型の集積ユニットとして構成されており、ガス供給管232a~232g等に対して集積ユニット単位で着脱を行うことができ、集積型ガス供給システム248のメンテナンス、交換、増設等を、集積ユニット単位で行うことが可能なように構成されている。
【0022】
反応管203の側壁下方には、処理室201内の雰囲気を排気する排気口231aが設けられている。
図2に示すように、排気口231aは、平面視において、ウエハ200を挟んでノズル249a~249c(ガス供給孔250a~250c)と対向(対面)する位置に設けられている。排気口231aは、反応管203の側壁の下部より上部に沿って、すなわち、ウエハ配列領域に沿って設けられていてもよい。排気口231aには排気管231が接続されている。排気管231は、例えばSUS等の金属材料により構成されている。排気管231には、処理室201内の圧力を検出する圧力検出器(圧力検出部)としての圧力センサ245および圧力調整器(圧力調整部)としてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ244を介して、真空排気装置としての真空ポンプ246が接続されている。APCバルブ244は、真空ポンプ246を作動させた状態で弁を開閉することで、処理室201内の真空排気および真空排気停止を行うことができ、更に、真空ポンプ246を作動させた状態で、圧力センサ245により検出された圧力情報に基づいて弁開度を調節することで、処理室201内の圧力を調整することができるように構成されている。主に、排気管231、APCバルブ244、圧力センサ245により、排気系が構成される。真空ポンプ246を排気系に含めて考えてもよい。
【0023】
マニホールド209の下方には、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシールキャップ219が設けられている。シールキャップ219は、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シールキャップ219の上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220bが設けられている。シールキャップ219の下方には、後述するボート217を回転させる回転機構267が設置されている。回転機構267の回転軸255は、例えばSUS等の金属材料により構成され、シールキャップ219を貫通してボート217に接続されている。回転機構267は、ボート217を回転させることでウエハ200を回転させるように構成されている。シールキャップ219は、反応管203の外部に設置された昇降機構としてのボートエレベータ115によって垂直方向に昇降されるように構成されている。ボートエレベータ115は、シールキャップ219を昇降させることで、ウエハ200を処理室201内外に搬入および搬出(搬送)する搬送装置(搬送機構)として構成されている。
【0024】
マニホールド209の下方には、シールキャップ219を降下させボート217を処理室201内から搬出した状態で、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシャッタ219sが設けられている。シャッタ219sは、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シャッタ219sの上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220cが設けられている。シャッタ219sの開閉動作(昇降動作や回動動作等)は、シャッタ開閉機構115sにより制御される。
【0025】
基板支持具としてのボート217は、複数枚、例えば25~200枚のウエハ200を、水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた状態で垂直方向に整列させて多段に支持するように、すなわち、間隔を空けて配列させるように構成されている。ボート217は、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される。ボート217の下部には、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される断熱板218が多段に支持されている。
【0026】
反応管203内には、温度検出器としての温度センサ263が設置されている。温度センサ263により検出された温度情報に基づきヒータ207への通電具合を調整することで、処理室201内の温度が所望の温度分布となる。温度センサ263は、反応管203の内壁に沿って設けられている。
【0027】
図3に示すように、制御部(制御手段)であるコントローラ121は、CPU(Central Processing Unit)121a、RAM(Random Access Memory)121b、記憶装置121c、I/Oポート121dを備えたコンピュータとして構成されている。RAM121b、記憶装置121c、I/Oポート121dは、内部バス121eを介して、CPU121aとデータ交換可能なように構成されている。コントローラ121には、例えばタッチパネル等として構成された入出力装置122が接続されている。
【0028】
記憶装置121cは、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等で構成されている。記憶装置121c内には、基板処理装置の動作を制御する制御プログラムや、後述する基板処理の手順や条件等が記載されたプロセスレシピ等が、読み出し可能に格納されている。プロセスレシピは、後述する基板処理における各手順をコントローラ121に実行させ、所定の結果を得ることができるように組み合わされたものであり、プログラムとして機能する。以下、プロセスレシピや制御プログラム等を総称して、単に、プログラムともいう。また、プロセスレシピを、単に、レシピともいう。本明細書においてプログラムという言葉を用いた場合は、レシピ単体のみを含む場合、制御プログラム単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。RAM121bは、CPU121aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。
【0029】
I/Oポート121dは、上述のMFC241a~241g、バルブ243a~243g、圧力センサ245、APCバルブ244、真空ポンプ246、温度センサ263、ヒータ207、回転機構267、ボートエレベータ115、シャッタ開閉機構115s等に接続されている。
【0030】
CPU121aは、記憶装置121cから制御プログラムを読み出して実行すると共に、入出力装置122からの操作コマンドの入力等に応じて記憶装置121cからレシピを読み出すことが可能なように構成されている。CPU121aは、読み出したレシピの内容に沿うように、MFC241a~241gによる各種ガスの流量調整動作、バルブ243a~243gの開閉動作、APCバルブ244の開閉動作および圧力センサ245に基づくAPCバルブ244による圧力調整動作、真空ポンプ246の起動および停止、温度センサ263に基づくヒータ207の温度調整動作、回転機構267によるボート217の回転および回転速度調節動作、ボートエレベータ115によるボート217の昇降動作、シャッタ開閉機構115sによるシャッタ219sの開閉動作等を制御することが可能なように構成されている。
【0031】
コントローラ121は、外部記憶装置123に格納された上述のプログラムを、コンピュータにインストールすることにより構成することができる。外部記憶装置123は、例えば、HDD等の磁気ディスク、CD等の光ディスク、MO等の光磁気ディスク、USBメモリやSSD等の半導体メモリ等を含む。記憶装置121cや外部記憶装置123は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成されている。以下、これらを総称して、単に、記録媒体ともいう。本明細書において記録媒体という言葉を用いた場合は、記憶装置121c単体のみを含む場合、外部記憶装置123単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。なお、コンピュータへのプログラムの提供は、外部記憶装置123を用いず、インターネットや専用回線等の通信手段を用いて行ってもよい。
【0032】
(2)基板処理工程
上述の基板処理装置を用い、半導体装置の製造工程の一工程として、基板としてのウエハ200に対し処理を行うシーケンス例、すなわち、ウエハ200上に膜を形成する成膜シーケンス例について、主に、
図4を用いて説明する。以下の説明において、基板処理装置を構成する各部の動作はコントローラ121により制御される。
【0033】
本態様における成膜シーケンスでは、
ウエハ200に対して所定元素を含む第1原料を供給するステップAと、
ウエハ200に対して、第1原料とは分子構造が異なり、所定元素及び酸素を含む第2原料を供給するステップBと、
ウエハ200に対して酸化剤を供給するステップCと、
ウエハ200に対して窒化剤を供給するステップDと、
を含むサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行うことで、ウエハ200上に、所定元素、酸素及び窒素を含む膜を形成する。
【0034】
なお、
図4に示すガス供給シーケンスでは、
各サイクルにおいて、ステップAおよびBの後にステップCおよびDを行う場合、具体的には、ステップA,B,C,Dを非同時に行う場合、より具体的にはステップB,A,C,Dをこの順に行う場合を示している。
【0035】
本明細書では、上述の成膜シーケンスを、便宜上、以下のように示すこともある。以下の変形例や他の態様の説明においても、同様の表記を用いる。
【0036】
(第2原料→第1原料→酸化剤→窒化剤)×n
【0037】
本明細書において「ウエハ」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものを意味する場合や、ウエハとその表面に形成された所定の層や膜との積層体を意味する場合がある。本明細書において「ウエハの表面」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものの表面を意味する場合や、ウエハ上に形成された所定の層等の表面を意味する場合がある。本明細書において「ウエハ上に所定の層を形成する」と記載した場合は、ウエハそのものの表面に所定の層を直接形成することを意味する場合や、ウエハ上に形成されている層等の上に所定の層を形成することを意味する場合がある。本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も、「ウエハ」という言葉を用いた場合と同義である。
【0038】
(ウエハチャージおよびボートロード)
複数枚のウエハ200がボート217に装填(ウエハチャージ)された後、シャッタ開閉機構115sによりシャッタ219sが移動させられて、マニホールド209の下端開口が開放される(シャッタオープン)。その後、
図1に示すように、複数枚のウエハ200を支持したボート217は、ボートエレベータ115によって持ち上げられて処理室201内へ搬入(ボートロード)される。この状態で、シールキャップ219は、Oリング220bを介してマニホールド209の下端をシールした状態となる。
【0039】
(圧力調整および温度調整)
ボートロードが終了した後、処理室201内、すなわち、ウエハ200が存在する空間が所望の圧力(真空度)となるように、真空ポンプ246によって真空排気(減圧排気)される。この際、処理室201内の圧力は圧力センサ245で測定され、この測定された圧力情報に基づきAPCバルブ244がフィードバック制御される(圧力調整)。また、処理室201内のウエハ200が所望の処理温度となるように、ヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電具合がフィードバック制御される(温度調整)。また、回転機構267によるウエハ200の回転を開始する。処理室201内の排気、ウエハ200の加熱および回転は、いずれも、少なくともウエハ200に対する処理が終了するまでの間は継続して行われる。
【0040】
図5Aに示すように、ウエハ200の表面は、ヒドロキシ基(-OH)により終端(OH終端)された状態となっている。ウエハ200の表面に存在するOH終端は、分子や原子の吸着サイトとしての機能を有している。
【0041】
(成膜処理)
その後、以下のステップB,A,C,Dを順次実行する。
【0042】
[ステップB]
このステップでは、処理室201内のウエハ200に対して、第2原料を供給する。
【0043】
具体的には、バルブ243dを開き、ガス供給管232d内へ第2原料を流す。第2原料は、MFC241dにより流量調整され、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対して第2原料が供給される(第2原料供給)。このとき、バルブ243e~243gを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給する。なお、以下に示すいくつかの方法においては、処理室201内への不活性ガスの供給を不実施とするようにしてもよい。
【0044】
第2原料としては、所定元素としてのシリコン(Si)に結合したアルコキシ基を含む分子構造を有するガスを用いることができる。第2原料としては、例えば、中心原子Xを構成する所定元素としてのSiの1つの結合手にはアミノ基が結合しており、残りの3つの結合手にはアルコキシ基が結合しているガスを用いることができる。
【0045】
アミノ基とは、アンモニア(NH3)、第一級アミン、第二級アミンのいずれかから水素(H)を除去した構造を有するものであり、-NH2、-NHR、-NRR’のうちいずれかの構造式で表される1価の官能基のことである。構造式中に示したR、R’は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を含むアルキル基である。R、R’は、これらの直鎖状アルキル基だけでなく、イソプロピル基、イソブチル基、セカンダリブチル基、ターシャリブチル基等の分岐状アルキル基であってもよい。R、R’は、同一のアルキル基であってもよいし、異なるアルキル基であってもよい。
【0046】
アルコキシ基とは、アルキル基(R)が酸素(O)原子と結合した構造を有するものであり、-ORの構造式で表される1価の官能基のことである。アルコキシ基には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が含まれる。アルコキシ基は、これらの直鎖状アルコキシ基だけでなく、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、セカンダリブトキシ基、ターシャリブトキシ基等の分岐状アルコキシ基であってもよい。また、上述のアルキル基には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が含まれる。アルキル基は、これらの直鎖状アルキル基だけでなく、イソプロピル基、イソブチル基、セカンダリブチル基、ターシャリブチル基等の分岐状アルキル基であってもよい。
【0047】
第2原料としては、例えば、トリメトキシジメチルアミノシラン((CH3)2NSi(OCH3)3、略称:TMDMAS)ガス、トリメトキシジエチルアミノシラン((C2H5)2NSi(OCH3)3)ガス、トリエトキシジメチルアミノシラン((CH3)2NSi(OC2H5)3)ガス、トリエトキシジエチルアミノシラン((C2H5)2NSi(OC2H5)3)ガス等のジアルキルアミノトリアルコキシシランガスを用いることができる。これらのガスに含まれるSiは4つの結合手を有しており、Siの4つの結合手のうち3つの結合手にはアルコキシ基が結合しており、Siの4つの結合手のうち残りの1つの結合手にはアミノ基が結合している。ガス分子に含まれるアミノ基の数とアルコキシ基の数との比率は、1:3となっている。アルコキシ基とSiとの結合エネルギーEOは、アミノ基とSiとの結合エネルギーEAよりも高い。すなわち、アミノ基は、アルコキシ基に比べて、Siから脱離しやすい活性な特性を有している。
【0048】
不活性ガスとしては、例えば、窒素(N2)ガスや、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、キセノン(Xe)ガス等の希ガスを用いることができる。不活性ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。この点は、後述する各ステップにおいても同様である。
【0049】
第2原料として、例えば、TMDMASガスを用いる場合、後述する処理条件下で本ステップを行うことにより、TMDMASガスに含まれるSiから、メトキシ基(-OMe)を脱離させることなく、ジメチルアミノ基(-NMe2)を脱離させることが可能となる。また、ジメチルアミノ基が脱離しメトキシ基との結合が維持された状態のSiを、ウエハ200の表面に吸着(化学吸着)させることが可能となる。すなわち、Siの4つの結合手のうち3つの結合手にアルコキシ基が結合した状態で、Siを、ウエハ200の表面における吸着サイトの一部に吸着させることが可能となる。このようにして、ウエハ200の最表面上に、Siにアルコシキ基が結合した成分を含む第1層を形成することが可能となる。なお、この層を形成する際に生じた反応生成物は、例えば、アミノ基を含むガス状物質を構成し、処理室201内から排出される。
【0050】
また、本ステップを後述する処理条件下で行うことにより、第2原料に含まれるSiから脱離したアミノ基を、ウエハ200の表面に吸着させないようにすることが可能となる。結果として、ウエハ200上に形成される第1層中に、第2原料に含まれるSiから脱離したアミノ基を含ませないようにすることが可能となる。
【0051】
本ステップでは、ウエハ200の表面に吸着したSiに結合したメトキシ基により、すなわち、ウエハ200の表面に吸着したSiの3つの結合手がメトキシ基により埋められていることにより、ウエハ200の表面に吸着したSiへの原子または分子の吸着を阻害することが可能となる。また、本ステップでは、ウエハ200の表面に吸着したSiに結合したメトキシ基を立体障害として作用させ、ウエハ200の表面に吸着したSiの周辺の、ウエハ200の表面における吸着サイト(OH終端)への原子または分子の吸着を阻害することが可能となる。これにより、本ステップでは、ウエハ200の表面に吸着したSiの周辺の、ウエハ200の表面における吸着サイト(OH終端)の少なくとも一部を保持することも可能となる。言い換えると、ウエハ200の表面に吸着したSiの周辺の、ウエハ200の表面における吸着サイト(OH終端)の少なくとも一部が、他の工程で減ること(消費されること)を抑制することも可能となる。
【0052】
本ステップでは、Siのウエハ200の表面への吸着反応(化学吸着反応)が飽和するまで第2原料の供給を継続する。第2原料の供給をこのように継続したとしても、Siに結合したメトキシ基が立体障害として作用することにより、Siを、ウエハ200の表面に不連続に吸着させることが可能となる。具体的には、Siを、ウエハ200の表面に1原子層未満の厚さとなるように吸着させることが可能となる。
【0053】
Siのウエハ200の表面への吸着反応を飽和させた状態において、ウエハ200の表面は、
図5Bに示すように、Siに結合したメトキシ基により覆われた状態となり、ウエハ200の表面の一部は、吸着サイト(OH終端)が消費されることなく保持された状態となる。Siのウエハ200の表面への吸着反応を飽和させた状態において、ウエハ200の表面へ吸着したSiにより構成される層は、1原子層未満の厚さの不連続層となる。
【0054】
第1層が形成された後、バルブ243dを閉じ、処理室201内への第2原料の供給を停止する。そして、処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。このとき、バルブ243e~243gを開き、処理室201内へ不活性ガスを供給する。不活性ガスはパージガスとして作用する。
【0055】
[ステップA]
ステップBが終了したら、処理室201内のウエハ200、すなわち、ウエハ200上に形成された第1層に対して第1原料を供給する。
【0056】
具体的には、バルブ243aを開き、ガス供給管232a内へ第1原料を流す。第1原料は、MFC241aにより流量調整され、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対して第1原料が供給される(第1原料供給)。このとき、バルブ243e~243gを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給する。なお、以下に示すいくつかの方法においては、処理室201内への不活性ガスの供給を不実施とするようにしてもよい。
【0057】
第1原料としては、例えば、所定元素としてのシリコン(Si)に結合したハロゲン元素を含む分子構造を有するガス、すなわち、ハロシランガスを用いることができる。ハロゲン元素には、塩素(Cl)、フッ素(F)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等が含まれる。ハロシランガスとしては、例えば、SiおよびClを含むクロロシランガスを用いることができる。
【0058】
第1原料としては、例えば、ヘキサクロロジシラン(Si2Cl6、略称:HCDS)ガス、モノクロロシラン(SiH3Cl、略称:MCS)ガス、ジクロロシラン(SiH2Cl2、略称:DCS)ガス、トリクロロシラン(SiHCl3、略称:TCS)ガス、テトラクロロシラン(SiCl4、略称:STC)ガス、オクタクロロトリシラン(Si3Cl8、略称:OCTS)ガス等のクロロシランガスを用いることができる。これらのガスは、酸素非含有のガスである。第1原料としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0059】
第1原料としては、クロロシランガスの他、例えば、テトラフルオロシラン(SiF4)ガス、ジフルオロシラン(SiH2F2)ガス等のフルオロシランガスや、テトラブロモシラン(SiBr4)ガス、ジブロモシラン(SiH2Br2)ガス等のブロモシランガスや、テトラヨードシラン(SiI4)ガス、ジヨードシラン(SiH2I2)ガス等のヨードシランガスを用いることもできる。これらのガスは、酸素非含有のガスである。第1原料としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0060】
第1原料としては、これらの他、例えば、Siおよびアミノ基を含むガス、すなわち、アミノシランガスを用いることもできる。
【0061】
第1原料としては、例えば、テトラキス(ジメチルアミノ)シラン(Si[N(CH3)2]4、略称:4DMAS)ガス、トリス(ジメチルアミノ)シラン(Si[N(CH3)2]3H、略称:3DMAS)ガス、ビス(ジエチルアミノ)シラン(Si[N(C2H5)2]2H2、略称:BDEAS)ガス、ビス(ターシャリーブチルアミノ)シラン(SiH2[NH(C4H9)]2、略称:BTBAS)ガス、(ジイソプロピルアミノ)シラン(SiH3[N(C3H7)2]、略称:DIPAS)ガス等のアミノシランガスを用いることもできる。これらのガスは、酸素非含有のガスである。第1原料としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0062】
第1原料として、例えば、HCDSガスを用いる場合、後述する処理条件下で本ステップを行うことにより、ウエハ200上に形成された第1層に含まれるメトキシ基の一部を分解させ、Siに結合している一部のOからメチル基を脱離させることが可能となる。また、メチル基が脱離することによって未結合手を有することとなったOに、第1原料に含まれるSiを結合させることが可能となる。これにより、下地としてのウエハ200の最表面、すなわち、Siにアルコシキ基が結合した成分を含む第1層上に、第2層として、所定の厚さの塩素(Cl)等のハロゲン元素を含むシリコン(Si)含有層を形成することが可能となる。ハロゲン元素を含むSi含有層は、ウエハ200の最表面への、第1原料の分子の物理吸着や化学吸着、第1原料の一部が分解した物質の分子の物理吸着や化学吸着、第1原料の熱分解によるSiの堆積等により形成される。ハロゲン元素を含むSi含有層は、第1原料の分子や第1原料の一部が分解した物質の分子の吸着層(物理吸着層や化学吸着層)であってもよく、ハロゲン元素を含むSiの堆積層であってもよい。ウエハ200の最表面に上述の化学吸着層や上述の堆積層が形成される場合、ウエハ200の最表面には、第1原料に含まれるSiが吸着することとなる。
【0063】
本ステップを行う際、第1層に含まれるアルコキシ基の少なくとも一部は、Siから脱離することなく、また、分解することなく(アルコキシ基を構成するOからアルキル基が脱離することなく)、そのまま保持(維持)される。
図5Cに示すように、本ステップを行うことでウエハ200上に形成される層(第1層上に第2層が積層されてなる層)は、Si-O-Si結合を含み、Siに結合したアルコキシ基(例えばメトキシ基)、および、Siに結合したハロゲン基(例えばクロロ基)をそれぞれ含む層となる。なお、この層を形成する際に生じた反応生成物は、例えば、ハロシランやアミノ基を含むガス状物質を構成し、処理室201内から排出される。
【0064】
第1層上に第2層が形成された後、バルブ243aを閉じ、処理室201内への第1原料の供給を停止する。そして、ステップBにおけるパージと同様の処理手順により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。
【0065】
[ステップC]
ステップAが終了した後、処理室201内のウエハ200、すなわち、ウエハ200上に形成された第1層および第2層に対して酸化剤を供給する。
【0066】
具体的には、バルブ243bを開き、ガス供給管232b内へ酸化剤を流す。酸化剤は、MFC241bにより流量調整され、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対して酸化剤が供給される(酸化剤供給)。このとき、バルブ243e~243gを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給する。なお、以下に示すいくつかの方法においては、処理室201内への不活性ガスの供給を不実施とするようにしてもよい。
【0067】
酸化剤としては、例えば、酸素(O2)ガス、プラズマ励起させたO2ガス(O2
*)、オゾン(O3)ガス、O2ガス+水素(H2)ガス、水蒸気(H2Oガス)、一酸化窒素(NO)ガス、亜酸化窒素(N2O)ガス等の酸素(O)含有ガスを用いることができる。酸化剤としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0068】
酸化剤としてO含有ガスを用いる場合、後述する処理条件下で本ステップを行うことにより、ウエハ200上に形成された第1層および第2層の少なくとも一部を酸化(改質)させることが可能となる。例えば、第1層からアミノ基やアルコキシ基を脱離させ、第1層に含まれるSiにヒドロキシ基を結合させることが可能となる。また例えば、第2層に含まれるSiから水素を脱離させ、これにより生じたSiの未結合手にヒドロキシ基を結合させることが可能となる。これらにより、下地としてのウエハ200の最表面上に、第3層として、第1層および第2層が酸化されてなる層、すなわち、SiおよびOを含むシリコン酸化層(SiO層)が形成される。
【0069】
なお、本ステップを行う際、第2層に含まれるハロゲン基の少なくとも一部は、Siから脱離することなく、そのまま保持(維持)される。
図5Dに示すように、本ステップを行うことでウエハ200上に形成される層(第3層)は、Si-O-Si結合を含み、Siに結合したヒドロキシ基(-OH)、および、Siに結合したクロロ基等のハロゲン基をそれぞれ含む層となる。このハロゲン基は、後述するステップDにおいて、ウエハ200に対して供給される窒化剤との反応サイト、すなわち、第3層を窒化させるのに必要な反応サイトとして機能することになる。なお、この層を形成する際に生じた反応生成物は、例えば、アルコキシ基やアミノ基を含むガス状物質を構成し、処理室201内から排出される。
【0070】
第3層としてのSiO層が形成された後、バルブ243bを閉じ、処理室201内への酸化剤の供給を停止する。そして、ステップBにおけるパージと同様の処理手順により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。
【0071】
[ステップD]
ステップCが終了した後、処理室201内のウエハ200、すなわち、ウエハ200上に形成された第3層に対して窒化剤を供給する。
【0072】
具体的には、バルブ243cを開き、ガス供給管232c内へ窒化剤を流す。窒化剤は、MFC241cにより流量調整され、ノズル249cを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200に対して窒化剤が供給される(窒化剤供給)。このとき、バルブ243e~243gを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給する。なお、以下に示すいくつかの方法においては、処理室201内への不活性ガスの供給を不実施とするようにしてもよい。
【0073】
窒化剤としては、例えば、アンモニア(NH3)ガス、ジアゼン(N2H2)ガス、ヒドラジン(N2H4)ガス、N3H8ガス等の窒化水素系ガス、すなわち、窒素(N)及び水素(H)含有ガスを用いることができる。窒化剤としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0074】
窒化剤としては、例えば、窒素(N)、炭素(C)及び水素(H)含有ガスを用いることもできる。N,C及びH含有ガスとしては、例えば、アミン系ガスや有機ヒドラジン系ガスを用いることができる。N,C及びH含有ガスは、N含有ガスでもあり、C含有ガスでもあり、H含有ガスでもあり、N及びC含有ガスでもある。
【0075】
窒化剤としては、例えば、モノエチルアミン(C2H5NH2、略称:MEA)ガス、ジエチルアミン((C2H5)2NH、略称:DEA)ガス、トリエチルアミン((C2H5)3N、略称:TEA)ガス等のエチルアミン系ガスや、モノメチルアミン(CH3NH2、略称:MMA)ガス、ジメチルアミン((CH3)2NH、略称:DMA)ガス、トリメチルアミン((CH3)3N、略称:TMA)ガス等のメチルアミン系ガスや、モノメチルヒドラジン((CH3)HN2H2、略称:MMH)ガス、ジメチルヒドラジン((CH3)2N2H2、略称:DMH)ガス、トリメチルヒドラジン((CH3)2N2(CH3)H、略称:TMH)ガス等の有機ヒドラジン系ガスを用いることができる。窒化剤としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0076】
窒化剤としてN及びH含有ガスを用いる場合、後述する処理条件下で本ステップを行うことにより、ウエハ200上に形成された第3層の少なくとも一部を窒化(改質)させることが可能となる。例えば、第3層に含まれるクロロ基等のハロゲン基とN及びH含有ガスとを反応させ、第3層からハロゲン基を脱離させるとともに、ハロゲン基が脱離することによって未結合手を有することとなったSiに、N及びH含有ガスが分解してなるアミノ基(-NH2)等のNを含有する基を結合させることが可能となる。これにより、下地としてのウエハ200の最表面上に、第4層として、第3層が窒化されてなる層、すなわち、Si、OおよびNを含むシリコン酸窒化層(SiON層)が形成される。
【0077】
なお、本ステップを行う際、第3層に含まれるヒドロキシ基の少なくとも一部は、Siから脱離することなく、そのまま保持(維持)される。言い換えると、本ステップにおける第3層の窒化反応は、第3層の表面にハロゲン基が存在していることによって進行可能となっている。仮に、第3層の表面全域がOH終端されており、第3層の表面にハロゲン基が存在しない場合には、本ステップを行っても、第3層を窒化させることは困難であるといえる。
図5Eに示すように、本ステップを行うことでウエハ200上に形成される層(第4層)は、Si-O-Si結合を含み、Siに結合したヒドロキシ基(-OH)、および、Siに結合したアミノ基(-NH
2)等のNを含有する基をそれぞれ含む層となる。なお、この層を形成する際に生じた反応生成物は、例えば、HCl等のハロゲン化水素を含むガス状物質を構成し、処理室201内から排出される。
【0078】
第4層としてのSiON層が形成された後、バルブ243bを閉じ、処理室201内への窒化剤の供給を停止する。そして、ステップAにおけるパージと同様の処理手順により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。
【0079】
[所定回数実施]
上述のステップB,A,C,Dを非同時に、すなわち、同期させることなくこの順に行うサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行うことにより、ウエハ200の表面上に、膜として、例えば、シリコン酸窒化膜(SiON膜)を形成することができる。上述のサイクルは、複数回繰り返すことが好ましい。すなわち、1サイクルあたりに形成されるSiON層の厚さを所望の膜厚よりも薄くし、SiON層を積層することで形成されるSiON膜の厚さが所望の厚さになるまで、上述のサイクルを複数回繰り返すことが好ましい。なお、窒化剤として、N,C及びH含有ガスを用いる場合、第4層として、例えば、シリコン酸炭窒化層(SiOCN層)を形成することもでき、上述のサイクルを所定回数行うことで、ウエハ200の表面上に、膜として、例えば、シリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜)を形成することもできる。
【0080】
以下に、上述の各ステップにおける処理条件を例示する。なお、本明細書における「1~2666Pa」のような数値範囲の表記は、下限値および上限値がその範囲に含まれることを意味する。よって、例えば、「1~2666Pa」とは「1Pa以上2666Pa以下」を意味する。他の数値範囲についても同様である。また、本明細書における処理温度とは、ウエハ200の温度のことを意味し、処理圧力とは、ウエハ200が存在する空間である処理室201内の圧力のことを意味する。また、ガス供給流量:0slmとは、そのガスを供給しないケースを意味する。これらは、以下の説明においても同様である。
【0081】
ステップBにおける処理条件としては、
第2原料供給流量:0.01~2slm、好ましくは0.1~1slm
第2原料供給時間:1~120秒、好ましくは1~60秒
不活性ガス供給流量:0~30slm
処理温度:550~700℃、好ましくは600~650℃
処理圧力:1~2666Pa、好ましくは67~1333Pa
が例示される。
【0082】
ステップAにおける処理条件としては、
第1原料供給流量:0.01~2slm、好ましくは0.1~1slm
第1原料供給時間:1~120秒、好ましくは1~60秒
が例示される。他の処理条件は、ステップBにおける処理条件と同様とすることができる。
【0083】
ステップCにおける処理条件としては、
酸化剤供給流量:0.1~10slm
酸化剤供給時間:1~120秒、好ましくは1~60秒
処理圧力:1~4000Pa、好ましくは1~3000Pa
が例示される。他の処理条件は、ステップBにおける処理条件と同様とすることができる。
【0084】
ステップDにおける処理条件としては、
窒化剤供給流量:0.1~10slm
窒化剤供給時間:1~120秒、好ましくは1~60秒
処理圧力:1~4000Pa、好ましくは1~3000Pa
が例示される。他の処理条件は、ステップBにおける処理条件と同様とすることができる。
【0085】
なお、ステップAにおける第1原料の供給時間に対するステップBにおける第2原料の供給時間の比率を調整することにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜に含ませる窒素の濃度を所望の値とすることが可能となる。
【0086】
例えば、ステップAにおける第1原料の供給時間に対するステップBにおける第2原料の供給時間の比率を大きくすることにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜に含ませる窒素の濃度を低くすることが可能となる。
【0087】
また例えば、ステップAにおける第1原料の供給時間を、ステップBにおける第2原料の供給時間よりも短くすることにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜に含ませる窒素の濃度を低くすることが可能となる。
【0088】
また、ステップAにおける処理圧力に対するステップBにおける処理圧力の比率を調整することにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜に含ませる窒素の濃度を所望の値とすることが可能となる。
【0089】
例えば、ステップAにおける処理圧力に対するステップBにおける処理圧力の比率を大きくすることにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜に含ませる窒素の濃度を低くすることが可能となる。
【0090】
また例えば、ステップAにおける処理圧力を、ステップBにおける処理圧力よりも小さくすることにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜に含ませる窒素の濃度を低くすることが可能となる。
【0091】
また、ステップAにおける第1原料の供給流量に対するステップBにおける第2原料の供給流量の比率を調整することにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜に含ませる窒素の濃度を所望の値とすることが可能となる。
【0092】
例えば、ステップAにおける第1原料の供給流量に対するステップBにおける第2原料の供給流量の比率を大きくすることにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜に含ませる窒素の濃度を低くすることが可能となる。
【0093】
また例えば、ステップAにおける第1原料の供給流量を、ステップBにおける第2原料の供給流量よりも小さくすることにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜に含ませる窒素の濃度を低くすることが可能となる。
【0094】
(アフターパージおよび大気圧復帰)
ウエハ200上への所望の厚さの膜の形成が完了した後、ノズル249a~249cのそれぞれから、パージガスとしての不活性ガスを処理室201内へ供給し、排気口231aより排気する。これにより、処理室201内がパージされ、処理室201内に残留するガスや反応副生成物等が処理室201内から除去される(アフターパージ)。その後、処理室201内の雰囲気が不活性ガスに置換され(不活性ガス置換)、処理室201内の圧力が常圧に復帰される(大気圧復帰)。
【0095】
(ボートアンロードおよびウエハディスチャージ)
その後、ボートエレベータ115によりシールキャップ219が下降され、マニホールド209の下端が開口される。そして、処理済のウエハ200が、ボート217に支持された状態でマニホールド209の下端から反応管203の外部に搬出(ボートアンロード)される。ボートアンロードの後は、シャッタ219sが移動させられ、マニホールド209の下端開口がOリング220cを介してシャッタ219sによりシールされる(シャッタクローズ)。処理済のウエハ200は、反応管203の外部に搬出された後、ボート217より取り出される(ウエハディスチャージ)。
【0096】
(3)本態様による効果
本態様によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
【0097】
(a)上述のステップB,A,C,Dをこの順に行うサイクルを所定回数行うことにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜中の窒素の濃度(組成比率)を所望の値とするように、例えば、窒素濃度を所望の値にまで低下させるように制御することが可能となる。
【0098】
なお、ステップAを不実施とし、上述のステップB,C,Dをこの順にサイクルを所定回数行う場合には、窒化反応が進行しにくく、ウエハ200上に形成される膜中にNを含ませることが困難となり、ウエハ200上にはNがほとんど含まれないシリコン酸化膜(SiO膜)が形成されてしまう。これは、ステップBを行うことでウエハ200上に形成されるSi含有層に含まれるSiの結合手には、窒化剤であるN及びH含有ガスに含まれるNが結合しにくいためであると考えられる。本態様のように、ステップBの後にステップAを行うことにより、ウエハ200上に形成されるSi含有層の表面に、酸化剤供給後においてもN及びH含有ガスと反応することのできるハロゲン基を存在させることが可能となり、結果として、ウエハ200上に形成される層中にNを含ませ、ウエハ200上に、所望の濃度でNを添加させたSiON膜を形成することが可能となる。
【0099】
また、ステップBを不実施とし、上述のステップA,C,Dをこの順に行うサイクルを所定回数行う場合には、ウエハ200上に形成される膜中にNが過剰に取り込まれてしまい、ウエハ200上に形成されるSiON膜中の窒素濃度を所望の値にまで低下させることは困難となる。これは、ステップAを行うことで形成されるSi含有層とN及びH含有ガスとの反応性が高く、ステップC,Dにおける処理条件を広範囲に変更しても、ウエハ200上に形成されるSi含有層中へのNの添加を抑制することが難しいためであると考えられる。本態様のように、ステップAの前にステップBを先行して行うことにより、ウエハ200上に形成されるSi含有層中へのNの添加を適正に抑制し、ウエハ200上に形成されるSiON膜中の窒素濃度を所望の値にまで低下させることが可能となる。
【0100】
(b)ステップBにおいて、第2原料のSiのウエハ200の表面への吸着反応(化学吸着反応)が飽和するまで第2原料の供給を継続することにより、第1層に含まれるSiや酸素の比率を最大化させ、ウエハ200上に形成されるSiON膜中の窒素濃度を低下させることが可能となる。
【0101】
(c)ステップBにおいて、第2原料に含まれるSiからアルコキシ基を脱離させることなくアミノ基を脱離させ、アミノ基が脱離しアルコキシ基との結合が維持された状態のSiをウエハ200の表面に吸着させることにより、Siに結合したアルコキシ基による作用により、ウエハ200の表面に吸着したSiおよびその周辺の、ウエハ200の表面における吸着サイトへの原子または分子の吸着を阻害することが可能となる。これにより、ウエハ200の表面に吸着したSiにより構成される層を1原子層未満の厚さの不連続層とすることが可能となる。そしてこれにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜のウエハ面内膜厚均一性や段差被覆性を向上させることができ、この膜を、コンフォーマルな膜とすることが可能となる。なお、原料ガスとして、例えば、3DMASガスのような、中心原子Siにアミノ基が結合し、アルコキシ基が結合していないガスを用いた場合、本態様におけるアルコキシ基(メトキシ基)による作用は得られず、ウエハ200上に形成されるSiON膜のウエハ面内膜厚均一性や段差被覆性が低下する場合がある。
【0102】
(d)ステップBにおいて、第2原料に含まれるSiから脱離したアミノ基を、ウエハ200の表面に吸着させないようにすることにより、ウエハ200上に形成されるSi含有層を、C等の不純物の少ない層とすることが可能となる。これにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜を、加工耐性に優れた膜とすることが可能となる。
【0103】
(e)ステップC,Dにおいて、改質対象の層中からアミノ基、メトキシ基、ハロゲン基を脱離させることにより、改質後の層を、Cやハロゲン元素等の不純物の少ない層とすることが可能となる。これにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜を、加工耐性に優れた膜とすることが可能となる。
【0104】
(f)ステップC,Dにおいて、酸化剤や窒化剤をノンプラズマの雰囲気下で供給することにより、ウエハ200上に形成される膜やその下地、処理室201内の部材等に対するプラズマダメージを回避することが可能となる。
【0105】
(g)上述の効果は、上述の各種原料、上述の各種酸化剤、上述の各種窒化剤、上述の各種不活性ガスを用いる場合にも、同様に得ることができる。
【0106】
(4)変形例
本態様における基板処理シーケンスは、以下に示す変形例のように変更することができる。これらの変形例は、任意に組み合わせることができる。特に説明がない限り、各変形例の各ステップにおける処理手順、処理条件は、上述の態様の各ステップにおける処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【0107】
(変形例1)
以下に示すガス供給シーケンスのように、各サイクルでは、ステップA,B,C,Dをこの順に行うようにしてもよい。
【0108】
(第1原料→第2原料→酸化剤→窒化剤)×n
【0109】
本変形例においても上述の態様と同様の効果が得られる。また、本変形例においては、第1原料を先行して供給することによりウエハ200上にハロゲン終端を有する第1層が形成される。このハロゲン終端を有する第1層は、第2原料が含むアミノ基との置換反応が起きにくいため、窒化剤としてのN及びH含有ガスと反応しやすいハロゲン終端を有する第1層の割合が、第2原料により形成される第2層の割合よりも相対的に大きくなり、上述の態様よりも、ウエハ200上に形成されるSiON膜中の窒素濃度を高くすることが容易となる。
【0110】
(変形例2)
以下に示すガス供給シーケンスのように、各サイクルでは、ステップA,B,D,Cをこの順に行うようにしてもよい。
【0111】
(第1原料→第2原料→窒化剤→酸化剤)×n
【0112】
本変形例においても上述の態様と同様の効果が得られる。また、本変形例においては、上述の態様よりも、ステップDにおけるN及びH含有ガスと第1層及び第2層との反応が起こりやすいため、上述の態様のようにステップDよりも先にステップCにおいて酸化剤を供給する場合に比べて、ウエハ200上に形成されるSiON膜中の窒素濃度を相対的に高くするように調整することが容易となる。換言すると、ウエハ200上に形成されるSiON膜中の窒素濃度をより低くするように調整するには、上述の態様や変形例1のように、ステップDよりも先にステップCにおいて酸化剤をウエハ200に供給する態様がより好適である。また、本変形例においては、上述の態様や変形例1よりも、ウエハ200上に形成されるSiON膜の形成レートを大きくすることが可能となる。
【0113】
(変形例3)
以下に示すガス供給シーケンスのように、各サイクルでは、ステップB,A,D,Cをこの順に行うようにしてもよい。
【0114】
(第2原料→第1原料→窒化剤→酸化剤)×n
【0115】
本変形例においても上述の態様と同様の効果が得られる。また、本変形例においては、変形例2と同様に、上述の態様や変形例1と比べて、ウエハ200上に形成されるSiON膜中の窒素濃度を相対的に高くするように調整することが容易となる。また、本変形例においては、変形例2と同様に、上述の態様や変形例1よりも、ウエハ200上に形成されるSiON膜の形成レートを大きくすることが可能となる。
【0116】
(変形例4)
以下に示すガス供給シーケンスのように、サイクルを所定回数行う前に、ウエハ200に対して窒化剤を供給(プリフロー)するようにしてもよい。
【0117】
窒化剤→(第2原料→第1原料→酸化剤→窒化剤)×n
窒化剤→(第1原料→第2原料→酸化剤→窒化剤)×n
窒化剤→(第2原料→第1原料→窒化剤→酸化剤)×n
窒化剤→(第1原料→第2原料→窒化剤→酸化剤)×n
【0118】
本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、本変形例においては、窒化剤としてN及びH含有ガスをプリフローすることにより、サイクルを行う前のウエハ200の表面に吸着サイトとなるH終端(NH終端)を形成し、ステップAやステップBにおいて、ウエハ200の表面と第1原料又は第2原料が反応しやすい状態とすることが可能となる。これにより、サイクル開始後におけるウエハ200上へのSi含有層の形成を促し、ウエハ200上にSiON膜を形成する際のインキュベーションタイムを短縮させることが可能となる。
【0119】
なお、プリフローにおける窒化剤の供給条件と、ステップDにおける窒化剤の供給条件は、異なる条件で行われても良い。また、プリフローにおける窒化剤と、ステップDにおける窒化剤は、同じ種類のガスが用いられてもよく、異なる種類のガスが用いられてもよい。
【0120】
(変形例5)
各サイクルでは、ステップAにおける第1原料が供給される期間と、ステップBにおける第2原料が供給される期間と、の少なくとも一部を重ねるようにしてもよい。本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、本変形例においては、サイクルタイムを短縮し、製膜処理のスループットを向上させることが可能となる。
【0121】
(変形例6)
ステップBでは、第2原料のウエハ200の表面への吸着反応が飽和する前に、第2原料の供給を停止するようにしてもよい。第2原料の吸着反応が飽和しない状態(不飽和状態)において第2原料の供給時間を調整することにより、ステップBにおいて形成されるSi含有層に含まれるSiや酸素の比率を調整し、ウエハ200上に形成されるSiON膜中の窒素濃度を制御することが可能となる。
例えば、第2原料の吸着反応が飽和しない状態において、ステップBにおける第2原料の供給時間を短くすることにより、ウエハ200上に形成されるSiON膜中における窒素濃度を高める方向に調整することが可能となる。
【0122】
<本開示の他の態様>
以上、本開示の態様を具体的に説明した。しかしながら、本開示は上述の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0123】
酸化剤や窒化剤は、プラズマ励起させて供給するようにしてもよい。これらの場合における処理手順、処理条件は、上述の態様のステップC,Dにおけるそれらと同様とすることができる。これらの場合であっても、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0124】
原料に含まれる中心原子Xを構成する所定元素は、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)ランタン(La)等の金属元素であってもよい。また、所定元素は、例えば、Siと同じ第14族元素の元素であってもよく、第4族元素であってもよい。所定元素が第14族元素又は第4族元素である場合、第2原料は、例えば、所定元素の原子の1つの結合手にアミノ基が結合しており、残りの3つの結合手にはアルコキシ基が結合している分子構造を有していることが好ましい。また、所定元素としてこれらの金属元素を含む原料を用いる場合、ウエハ200上に、アルミニウム酸窒化膜(AlON)膜、チタン酸窒化膜(TiON膜)、ジルコニウム酸窒化膜(ZrON膜)、ハフニウム酸窒化膜(HfON膜)、ランタニウム酸窒化膜(LaON膜)等の金属酸窒化膜を形成することが可能となる。これらの場合における処理手順、処理条件は、上述の態様におけるそれらと同様とすることができる。これらの場合においても、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0125】
各処理に用いられるレシピは、処理内容に応じて個別に用意し、電気通信回線や外部記憶装置123を介して記憶装置121c内に格納しておくことが好ましい。そして、各処理を開始する際、CPU121aが、記憶装置121c内に格納された複数のレシピの中から、処理内容に応じて適正なレシピを適宜選択することが好ましい。これにより、1台の基板処理装置で様々な膜種、組成比、膜質、膜厚の膜を、再現性よく形成することができるようになる。また、オペレータの負担を低減でき、操作ミスを回避しつつ、各処理を迅速に開始できるようになる。
【0126】
上述のレシピは、新たに作成する場合に限らず、例えば、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを変更することで用意してもよい。レシピを変更する場合は、変更後のレシピを、電気通信回線や当該レシピを記録した記録媒体を介して、基板処理装置にインストールしてもよい。また、既存の基板処理装置が備える入出力装置122を操作し、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを直接変更してもよい。
【0127】
上述の態様では、一度に複数枚の基板を処理するバッチ式の基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、例えば、一度に1枚または数枚の基板を処理する枚葉式の基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用できる。また、上述の態様では、ホットウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、コールドウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用できる。
【0128】
これらの基板処理装置を用いる場合においても、上述の態様や変形例における処理手順、処理条件と同様な処理手順、処理条件にて各処理を行うことができ、上述の態様や変形例と同様の効果が得られる。
【0129】
上述の態様や変形例は、適宜組み合わせて用いることができる。このときの処理手順、処理条件は、例えば、上述の態様や変形例における処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【実施例】
【0130】
サンプル1として、上述の基板処理装置を用い、ウエハに対して第2原料としてTMDMASガス、第1原料としてHCDSガス、酸化剤としてO2ガス、窒化剤としてNH3ガスをこの順に供給するサイクルを所定回数行うことにより、ウエハ上にSiON膜を形成した。各ステップにおける処理条件は、上述の態様に記載の処理条件範囲内の所定の条件とした。
【0131】
サンプル2として、上述の基板処理装置を用い、ウエハに対して第1原料、第2原料、酸化剤、窒化剤をこの順に供給するサイクルを所定回数行うことにより、ウエハ上にSiON膜を形成した。各ステップにおける処理条件やサイクルの実施回数は、サンプル1を作製する際におけるそれらと同様とした。
【0132】
サンプル3として、上述の基板処理装置を用い、ウエハに対して第1原料、酸化剤、窒化剤をこの順に供給するサイクルを所定回数行うことにより、ウエハ上にSiON膜を形成した。各ステップにおける処理条件やサイクルの実施回数は、サンプル1を作製する際におけるそれらと同様とした。
【0133】
そして、各サンプルのSiON膜におけるウエハ面内平均膜厚(Thick.)、屈折率(R.I.)、窒素濃度(N濃度)をそれぞれ測定した。なお、屈折率はSiON膜中におけるSi濃度を示す指標として用いており、屈折率が大きいほど、Si濃度が高いことを示している。その結果、第1原料および第2原料の両方を用いて作製したサンプル1,2のSiON膜の方が、原料として第2原料を用いずに第1原料のみを用いて作製したサンプル3のSiON膜よりも、N濃度が低くなることが確認できた。また、第2原料、第1原料、酸化剤、窒化剤をこの順に供給することで作製したサンプル1のSiON膜の方が、第1原料、第2原料、酸化剤、窒化剤をこの順に供給することで作製したサンプル2のSiON膜よりも、N濃度が低くなることが確認できた。
【符号の説明】
【0134】
200 ウエハ(基板)