(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-30
(45)【発行日】2024-11-08
(54)【発明の名称】にごり酢及びにごり酢の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12J 1/00 20060101AFI20241031BHJP
C12J 1/04 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C12J1/00 Z
C12J1/04 102
C12J1/04 103Z
(21)【出願番号】P 2024020941
(22)【出願日】2024-02-15
【審査請求日】2024-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2023125445
(32)【優先日】2023-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 有紀子
(72)【発明者】
【氏名】▲塚▼本 やよい
(72)【発明者】
【氏名】三上 晃史
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特許第7235362(JP,B1)
【文献】国際公開第2008/012912(WO,A1)
【文献】特開2004-033111(JP,A)
【文献】特開2020-000210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸菌を含有する酸度4%以上9%以下のにごり酢であって、
前記にごり酢に含まれる菌体の90%以上を占める主要な酢酸菌は、グルコノアセトバクター属、アセトバクター属、グルコノバクター属、コマガタエイバクター属、ノブアセチモナス属から選ばれる1種の酢酸菌であり、
前記酢酸菌の菌体数が、1.0×10
8個/mL以上であり、
固形分の乾燥重量が5%(w/v)以上18%(w/v)以下である
ことを特徴とするにごり酢。
【請求項2】
果汁をさらに含有する
請求項1に記載のにごり酢。
【請求項3】
前記酢酸菌の菌体の湿重量が1%(w/v)未満である
請求項1又は2に記載のにごり酢。
【請求項4】
酢酸菌を含有する酸度4%以上9%以下のにごり酢の製造方法であって、
予め増殖させた前記酢酸菌を含有する培地で酢酸発酵を行う酢酸発酵工程を含み、
前記にごり酢に含まれる菌体の90%以上を占める主要な酢酸菌は、グルコノアセトバクター属、アセトバクター属、グルコノバクター属、コマガタエイバクター属、ノブアセチモナス属から選ばれる1種の酢酸菌であり、
前記酢酸菌の菌体数が、1.0×10
8個/mL以上であり、
固形分の乾燥重量が5%(w/v)以上18%(w/v)以下であ
り、
前記予め増殖させた前記酢酸菌は、酢酸増殖用培地で酸度1%以下となるように増殖させたものである、
ことを特徴とするにごり酢の製造方法。
【請求項5】
前記培地が、前記酢酸菌を1×10
7個/mL以上含有することを特徴とする
請求項4に記載のにごり酢の製造方法。
【請求項6】
前記酢酸発酵工程では、エタノールを含有する培地に、
前記酢酸増殖用培地で増殖させた前記酢酸菌の菌体を含有する酢酸菌含有添加物を添加して酢酸発酵を行う
請求項4に記載のにごり酢の製造方法。
【請求項7】
前記酢酸発酵工程の後に、前記培地をろ過する工程を含まない
請求項4から6のいずれか一項に記載のにごり酢の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸菌を含有するにごり酢及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食酢は、エタノール等を含有する培地で酢酸菌が酢酸発酵することにより製される。一般的な食酢において、酢酸菌は、濁りの原因となるため、ろ過等によって除去される。一方で酢酸菌は、近年、アルデヒド酸化能や免疫賦活作用などの機能性が見出されており、酢酸菌の菌体を含むにごり酢が着目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルデヒド酸化能が効率的に高められた酢酸菌培養液として、所定の酢酸菌を含有し、酢酸菌培養液の波長660nmにおける濁度(OD660nm)が1~10であり、酢酸菌培養液15mLあたりのアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性が4~60である、酢酸菌培養液が開示されている。また、特許文献2には、発酵セルロースと酢酸を含有する食酢であって、さらに酢酸菌体を含有するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-195807号公報
【文献】特開2020-210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機能性等の観点からにごり酢中の酢酸菌の菌体を増加させると、雑味が増して風味が低下するという問題があった。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、酢酸菌の菌体を多く含有し、かつ、酢酸菌由来の発酵感を感じられるにごり酢及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、酢酸菌の菌体数を増加させると雑味が増すが、ある条件の下、酢酸菌由来の香ばしく豊かな発酵感が感じられることがわかった。本発明者らはさらに安定して発酵感を得られる条件について検討し、酢酸菌の含有量を菌体数換算で1.0×108/mL以上とし、かつ、固形分の乾燥重量を5%(w/v)以上18%(w/v)以下に調整することで、酢酸菌の菌体を多く含有しつつも酢酸菌由来の香ばしく豊かな発酵感を感じられるにごり酢が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)酢酸菌を含有する酸度4%以上9%以下のにごり酢であって、
前記にごり酢に含まれる菌体の90%以上を占める主要な酢酸菌は、グルコノアセトバクター属、アセトバクター属、グルコノバクター属、コマガタエイバクター属、ノブアセチモナス属から選ばれる1種の酢酸菌であり、
前記酢酸菌の菌体数が、1.0×108個/mL以上であり、
固形分の乾燥重量が5%(w/v)以上18%(w/v)以下である
ことを特徴とするにごり酢、
(2)果汁をさらに含有する
(1)に記載のにごり酢、
(3)前記酢酸菌の菌体の湿重量が1%(w/v)未満である
(1)又は(2)に記載のにごり酢、
(4)酢酸菌を含有する酸度4%以上9%以下のにごり酢の製造方法であって、
予め増殖させた前記酢酸菌を含有する培地で酢酸発酵を行う酢酸発酵工程を含む
にごり酢の製造方法、
(5)前記培地が、前記酢酸菌を1×107個/mL以上含有することを特徴とする
(4)に記載のにごり酢の製造方法、
(6)前記酢酸発酵工程では、エタノールを含有する培地に、増殖させた前記酢酸菌の菌体を含有する酢酸菌含有添加物を添加して酢酸発酵を行う
(4)又は(5)に記載のにごり酢の製造方法、
(7)前記酢酸発酵工程の後に、前記培地をろ過する工程を含まない
(4)から(6)のいずれか一項に記載のにごり酢の製造方法、
(4)' 酢酸菌を含有する酸度4%以上9%以下のにごり酢の製造方法であって、
予め増殖させた前記酢酸菌を含有する培地で酢酸発酵を行う酢酸発酵工程を含み、
前記にごり酢に含まれる菌体の90%以上を占める主要な酢酸菌は、グルコノアセトバクター属、アセトバクター属、グルコノバクター属、コマガタエイバクター属、ノブアセチモナス属から選ばれる1種の酢酸菌であり、
前記酢酸菌の菌体数が、1.0×108個/mL以上であり、
固形分の乾燥重量が5%(w/v)以上18%(w/v)以下である
ことを特徴とするにごり酢の製造方法、
(5)'前記培地が、前記酢酸菌を1×107個/mL以上含有することを特徴とする
(4)'に記載のにごり酢の製造方法、
(6)'前記酢酸発酵工程では、エタノールを含有する培地に、増殖させた前記酢酸菌の菌体を含有する酢酸菌含有添加物を添加して酢酸発酵を行う
(4)'又は(5)'に記載のにごり酢の製造方法、
(7)'前記酢酸発酵工程の後に、前記培地をろ過する工程を含まない
(4 )' から(6) ' のいずれか一項に記載のにごり酢の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、酢酸菌の菌体を多く含有し、かつ、酢酸菌由来の発酵感を感じられるにごり酢及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例(実施例1)に係るにごり酢を600倍に拡大して撮像した画像である。
【
図2】本発明の比較例(比較例3)に係るにごり酢を600倍に拡大して撮像した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
<本発明の特徴>
本発明は、酢酸菌を含有する酸度4%以上のにごり酢であって、当該にごり酢が、所定の主要な酢酸菌を含有し、酢酸菌の菌体数が1.0×108/mL以上であり、固形分の乾燥重量が5%(w/v)以上18%(w/v)以下であることを特徴とする。これにより、酢酸菌の菌体を多く含有しつつも、雑味を抑えた酢酸菌由来の豊かな発酵感を十分に感じられるにごり酢を提供することができる。なお、本発明において、「発酵感」とは、果汁や穀物等の原料由来の香り以外の、発酵後の酢酸菌体及び酢酸菌体を含む培地から発せられる香ばしい特有の風味をいう。
【0013】
<にごり酢>
本発明においてにごり酢とは、濁りを有する食酢をいう。一般的な食酢は、酢酸菌による酢酸発酵後、ろ過などの工程によって酢酸菌を除去するが、本発明のにごり酢は、酢酸菌を除去しないことで菌体による濁りを有する。本発明のにごり酢における濁り成分は、酢酸菌の菌体の他、酵母などの他の菌体や果実繊維などの成分を含んでいてもよい。また、本発明のにごり酢は、容器の底部に沈殿物が沈殿しており攪拌することで濁りが生じるものを含む。なお、本発明における食酢とは、水及び酢酸を主成分とする調味料をいい、例えば、米酢、黒酢、五穀酢、ワインビネガー、りんご酢、トマト酢等が挙げられる。本発明のにごり酢は酢酸菌由来の発酵感を感じられるという点から醸造酢であることが好ましい。また後述するように、本発明のにごり酢は、異なる酢酸発酵過程で製された複数の異なる醸造酢を単に混合したものではなく、単一の酢酸発酵工程を経て製されたものであることが好ましい。
【0014】
<酸度>
本発明におけるにごり酢は、酸度4%以上9%以下である。本発明における酸度とは、醸造酢の日本農林規格で規定された「酸度」をいい、後述する中和滴定法により算出することができる。本発明におけるにごり酢の酸度を4%以上とすることで、日本農林規格で規定された醸造酢の酸度の要件を満たすことができる。また、本発明におけるにごり酢の酸度を9%以下とすることで、酢酸菌由来の発酵感をより確実に感じることができる。さらに、本発明におけるにごり酢は、酢酸菌由来の発酵感をより強く感じることから、酸度6%以下であることが好ましい。
【0015】
<酸度の測定方法>
まず、にごり酢からサンプルとして10gを正確に採取し、イオン交換水で10倍に希釈し、その希釈液(100g)に、指示薬として0.1%フェノールフタレイン溶液を2滴加え、力価既知の0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で中和滴定する。以下の式により、サンプルの酸度を求める。
サンプルの酸度(%)={(60.05×0.1×F×V)×100}/{サンプル採取量(10g)×1000}
60.05:酢酸の分子量
0.1:水酸化ナトリウム溶液のモル濃度(mol/L)
F:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の力価
V:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の滴定量(mL)
【0016】
<酢酸菌>
酢酸菌は、糖や糖アルコールを利用して生育し、エタノールを酸化して酢酸を生成する微生物の総称である。本発明において、にごり酢に含有される菌体の90%を占める主要な酢酸菌は、醸造酢の製造に使用される代表的な酢酸菌であり、具体的には、グルコノアセトバクター(Gluconacetobacter)属、アセトバクター(Acetobacter)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属、コマガタエイバクター(Komagataeibacter)属、ノブアセチモナス(Novacetimonas)属から選ばれる1種の酢酸菌である。さらに、本発明において、酢酸菌由来の豊かな発酵感が得られやすいことから、主要な酢酸菌は、Gluconacetobacter hansenii、Gluconacetobacter liquefaciens、Komagataeibacter maltaceti、Komagataeibacter medellinensisから選ばれる1種であるとよく、特にGluconacetobacter hanseniiであるとよい。
【0017】
<酢酸菌の菌体数>
本発明において、にごり酢に含まれる酢酸菌の菌体数は、酢酸菌由来の発酵感を高める観点から、1.0×108個/mL以上である。なお、本発明において「酢酸菌の菌体数」は、にごり酢に含まれる酢酸菌全体の菌体数をいう。また、当該酢酸菌の菌体数は、酢酸菌由来の発酵感をより高める観点から、2.0×108個/mL以上であるとよく、さらに4.0×108個/mL以上であるとよりよい。また、当該酢酸菌の菌体数の上限は特に限定されないが、雑味を抑えた良好な発酵感を得る観点から、5.0×1010個/mL以下であるとよく、さらに、2.0×1010個/mL以下であるとよい。この菌体数は、生菌の菌体数と死菌の菌体数の合計数である。本発明では、酢酸菌の菌体数の指標として、濁度ではなく菌体数そのものを用いることで、夾雑物を除いた酢酸菌の菌体数をより精度よく示すことができる。なお、酢酸菌の菌体数は、以下の方法により測定することができる。
【0018】
<酢酸菌の菌体数の算出方法>
(1)サンプルを血球盤の1マスに菌体が5~10個になるように希釈する。希釈する際は、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、純水のいずれかを使用するとよい。
(2)希釈したサンプルをトーマ血球盤に注入する。
(3)数分~数十分静置して、菌体を沈降させる。
(4)顕微鏡観察によりマス中の菌体数をカウントする。なお、連鎖した菌は連鎖を構成する単一の酢酸菌の菌体の個数をカウントする。また、酢酸菌の菌体の形状が維持されているもののみをカウントし、菌体の粉砕物等は除外する。さらに、複数の菌体が混在している場合は、後述する酢酸菌の特徴に合致する形状の菌体のみをカウントする。
(5)各マスでのばらつきを少なくするため、80~100マス程度カウントし、1マス当たりの平均菌体数を算出する。
(6)以下の式から1mL当たりの菌体数を求める。
酢酸菌の菌体数(個/1mL)=(1マス当たりの平均菌数/1マスの体積)×希釈倍率
【0019】
[酢酸菌の菌体形状]
醸造酢の製造では酢酸菌を使用して酢酸発酵をさせるため、細長い形状の桿菌は酢酸菌であり、酵母などの丸い形状の菌体とは区別することができる(後述する
図1及び
図2参照)。また、酢酸菌のサイズは、1~5μmであり、酵母などの菌体よりも小さい。このように、上記(3)の菌体数のカウントでは、目視又は画像解析により、酢酸菌の菌体を、混在する他の菌体等と区別することができる。また、食酢中に生育できる桿菌としては乳酸菌や枯草菌が挙げられるが、これらが混入している場合には、乳酸菌(ラクトバチルス属)や枯草菌(バチルス属)はグラム陽性菌であり、グラム陰性菌の酢酸菌とはグラム染色を行うことで、判別することができる。さらに複数の酢酸菌が混在している場合は、遺伝子解析によってそれぞれの種類の酢酸菌の割合を算出してもよい。
【0020】
<固形分の乾燥重量>
本発明において、にごり酢の固形分の乾燥重量は、5%(w/v)以上18%(w/v)以下である。このように、1.0×108個/mL以上の多くの菌体を含有しつつも、固形分の乾燥重量を5%(w/v)以上18%(w/v)以下の範囲に調整することで、雑味を抑えつつ、酢酸菌由来の発酵感を感じられるにごり酢を実現することができる。また、固形分の乾燥重量の下限は、十分な菌体数を確保して発酵感を得る観点から、7%(w/v)以上であるとよく、さらに9%(w/v)以上であるとよりよい。また、固形分の乾燥重量の上限は、雑味をより効果的に抑える観点から、16%(w/v)以下であるとよく、さらに15%(w/v)以下であるとよりよい。
【0021】
<固形分の乾燥重量の測定方法>
にごり酢から1mLをサンプルとして採取して、このサンプルを湯浴上で蒸発乾固させた後、105℃の乾熱恒温槽に2時間30分間入れることで乾燥させる。乾燥後のサンプルをデシケーター内で30分から60分冷却した後の重量を測定し、以下の式により固形分の乾燥重量を算出する。
固形分の乾燥重量(%(w/v))=乾燥後のサンプル重量(g)/乾燥前のサンプルの容量(mL)×100
ただし、食塩を含む場合は、乾燥重量から食塩の重量を引いたものを固形分の乾燥重量とする。食塩の重量についてはモール法などにより測定することができる。
【0022】
<果汁>
本発明のにごり酢は、口当たりのよいにごり酢を提供する観点から、果汁をさらに含有するとよい。果汁は、特に限定されないが、例えば、りんご果汁、ブルーベリー果汁、レモン果汁、みかん果汁、ブドウ果汁、ザクロ果汁、柿果汁、梅果汁、イチゴ果汁、トマト果汁等が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。果汁は、酢酸菌の培地の栄養源として用いられるとよいが、発酵後に添加されてもよい。
【0023】
<酢酸菌の菌体の湿重量>
本発明のにごり酢は、酢酸菌の菌体数が多い一方で、発酵セルロースなどの成分や他の夾雑物などが少ないことを特徴とする。このため、菌体が水分によって膨潤しにくく、湿重量が低く抑えられやすい。したがって、本発明のにごり酢では、酢酸菌の菌体の湿重量が1(w/v)%未満であるとよく、さらに0.7(w/v)%以下であるとよりよい。なお、本発明において「酢酸菌の菌体の湿重量」は、にごり酢に含まれる酢酸菌全体の湿重量をいう。この湿重量は、遠心分離(6000G、5min)後に上澄み液を除去して、得られた沈殿物の重量とする。
【0024】
<その他の材料>
本発明のにごり酢は、上述した成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で食酢に通常用いられている各種成分を適宜選択して配合することができる。他の成分としては、例えば、アミノ酸、食塩、甘味料、増粘剤等が挙げられる。
【0025】
<本発明のにごり酢の作用効果>
本発明のにごり酢は、酢酸菌の菌体数を1.0×108個/mL以上とし、かつ固形分の乾燥重量を5%(w/v)以上18%(w/v)以下に調整することで、夾雑物を抑えつつ、菌体数を十分に増加させることができる。これにより、夾雑物による雑味が抑制された、酢酸菌本来の味わいや風味を楽しむことができ、酢酸菌由来の香ばしい豊かな発酵感を感じることができる。さらに、本発明のにごり酢は、発酵感という深みのある独特な風味を有することで、食酢らしい爽やかな酸味と香りを引き立てつつも、まろやかで良好な口当たりを実現することができる。したがって、本発明によれば、酢酸菌による生体調節機能を享受できることに加えて、摂取しやすい風味と口当たりを有するにごり酢を提供することができる。
【0026】
<にごり酢の製造方法>
本発明のにごり酢の製造方法は、酢酸菌を増殖させることで酢酸菌を含有する酸度4%以上のにごり酢を製造するにごり酢の製造方法であって、予め増殖させた酢酸菌を含有する培地で酢酸発酵を行う酢酸発酵工程を含むことを特徴とする。本発明者らは、培地の酢酸濃度が高い状態で酢酸菌を増殖させると、酢酸菌の増殖効率が抑制されることを見出した。このため、本発明者らは、酢酸濃度を一定以下にした培地で酢酸菌を増殖させ、その後、その予め増殖させた酢酸菌を含有する培地で酢酸発酵を行うことで、酢酸菌の菌体数の増加と、酢酸発酵の効率化と、の両立を図ることに想到した。
【0027】
<酢酸発酵工程>
本発明の酢酸発酵工程では、予め増殖させた酢酸菌を含有する培地に、エタノール等を添加して酢酸発酵を行う。予め増殖させた酢酸菌は、生菌でもよいし、死菌でもよい。予め増殖させた酢酸菌が死菌の場合は、酢酸発酵のための酢酸菌の生菌を培地に植菌してもよい。また、本発明の製造方法では、酢酸発酵工程の後に、培地をろ過する工程を含まないとよい。これにより、1.0×108個/mL以上の酢酸菌の菌体数を確保しやすくなり、菌体による濁りが明確なにごり酢を製することができる。さらに、本発明の製造方法では、酢酸発酵工程を含む製造方法でそれぞれ製造された2以上の食酢を混合する工程を含まないことが好ましい。つまり、本発明のにごり酢は、単一の酢酸発酵工程を含む製造方法により製造されたものであることが好ましい。これにより、にごり酢の雑味を抑えて発酵感を高めることができる。
以下、このような酢酸発酵工程を有する本発明の製造方法について、2つの実施形態を例に挙げて具体的に説明する。なお、本発明の製造方法は、以下の2つの実施形態に限定されない。
【0028】
<にごり酢の製造方法の第1実施形態>
第1実施形態に係るにごり酢の製造方法は、酢酸発酵工程の前に、酢酸菌を増殖させる増殖工程を含むことを特徴とする。
【0029】
[増殖工程]
本実施形態の増殖工程では、酢酸菌の増殖用培地で酢酸菌を増殖させる。そのため、本工程に用いられる酢酸菌は生菌である。本工程で用いられる増殖用培地は、酢酸菌の増殖に用いられる公知の成分を含んでいればよく、例えば、果汁などの糖類、酵母エキス、ペプトン、トリプトンなどの有機窒素源、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素源などの酢酸菌の発酵栄養源として一般的に利用されている成分を含有しているとよい。さらに、本工程で用いられる増殖用培地は、酢酸菌の増殖効率を高める観点から、培地の酸度が1%以下であると好ましく、さらに0.5%以下であると好ましく、さらに酢酸を含有しないことがより好ましい。本工程では、菌体数が例えば1×107個/mL以上になるまで、酢酸菌を増殖させるとよい。本工程において増殖させた酢酸菌の菌体数は、さらに3×107個/mL以上であるとよく、5×107個/mL以上であるとよりよい。本工程では、培地中の酸度を低くするなどストレスを酢酸菌にできるだけ与えないような培地とすることで酢酸菌を増殖させることができ、酢酸菌の増殖効率を高めることができる。また、本工程の培養開始時には、培地中の酢酸菌(生菌)の密度が低く他の菌によるストレスも少ない環境であるため、これによっても酢酸菌の増殖効率を高めることができる。
【0030】
[酢酸発酵工程(第1実施形態)]
本実施形態の酢酸発酵工程では、増殖工程で増殖させた酢酸菌を含有する培地にエタノールを添加して酢酸発酵を行う。酢酸発酵工程で用いられる培地は、増殖工程に用いた培地にエタノールを添加したものであるとよく、さらに発酵栄養源となる成分や酢酸等を添加してもよい。エタノールは、酢酸発酵開始時に一括して添加してもよいし、酢酸発酵の開始から終了までに数回に分けて添加してもよい。また本工程では、増殖工程で増殖させた酢酸菌のみで酢酸発酵を行うとよいが、新たに生菌を添加してもよい。
【0031】
<にごり酢の製造方法の第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係るにごり酢の製造方法は、酢酸発酵工程において、増殖させた酢酸菌の菌体を含有する酢酸菌含有添加物を添加して酢酸発酵を行うことを特徴とする。なお、本実施形態に係る製造方法は、酢酸発酵工程の前に、酢酸菌含有添加物を準備する準備工程をさらに含んでいてもよい。
【0032】
[酢酸菌含有添加物]
本実施形態において、酢酸菌含有添加物は、増殖させた酢酸菌の菌体を含有する。酢酸菌含有添加物は、粉砕されていない菌体を含有していればよく、一部粉砕された菌体を含有していてもよい。酢酸菌含有添加物に含まれる酢酸菌は、死菌でも生菌でもよいが、特に死菌であるとよい。死菌を培地に添加することで、酢酸発酵する生菌のストレスをより低減でき、発酵効率を高められると考えられる。酢酸菌含有添加物の具体例としては、酢酸菌を増殖させた培地、当該培地の酢酸菌濃縮処理物、当該培地から酢酸菌の菌体を抽出した抽出物等が挙げられる。特に、酢酸菌含有添加物は、添加対象の培地に効率よく酢酸菌を添加する観点から、酢酸菌を増殖させた培地の濃縮処理物であることが好ましい。
【0033】
[酢酸発酵工程(第2実施形態)]
本実施形態の酢酸発酵工程では、エタノールを含む培地に、上記酢酸菌含有添加物を添加して酢酸発酵を行う。酢酸菌含有添加物が死菌を含む場合は、さらに生菌を培地に添加する。酢酸菌含有添加物の添加は、酢酸発酵工程におけるいずれのタイミングでもよく、添加の回数は、一回でも複数回でもよい。酢酸菌含有添加物を本工程の開始後、特に中盤以降で添加することで、酢酸菌の過密による酢酸発酵の効率低下を抑制することができる。本工程に用いられる培地は、エタノールの他、上述の酢酸菌の発酵栄養源として一般的に利用されている成分を含有するとよく、さらに酢酸を含有してもよい。
【0034】
<発酵方法>
本発明の製造方法において採用される発酵方法としては、通気発酵、静置発酵(表面発酵)、振とう発酵等の手法が挙げられ、特に通気発酵を採用するとよい。通気発酵は、攪拌しながら空気を取り込む発酵方法であり、生菌の増殖効率及び発酵効率を高めることができる。また、静置発酵と比較して他の菌による汚染が少なく、雑味をより低下させることができる。
【0035】
<にごり酢の製造方法の作用効果>
本発明の製造方法では、予め増殖させた酢酸菌を含有する培地で酢酸発酵を行うことで、酸度4%以上まで十分に酢酸発酵させつつ、酢酸菌の菌体数を1.0×108個/mL以上まで高めることができる。また、酢酸菌の増殖を効率化できることで、にごり酢の製造時間を短縮することができ、コンタミネーション等のリスクを低減することができる。これにより、酢酸菌の菌体数を1.0×108個/mL以上まで高めつつ、固形分の乾燥重量を5%(w/v)以上18%(w/v)以下に調整することができる。したがって、本発明の製造方法によれば、酢酸菌由来の豊かで香ばしい発酵感を感じられるにごり酢を製造することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。なお、以下の培地の組成において、「%」は「%(w/v)」を示す。
【0037】
<試験例1:にごり酢の製造方法及び酢酸菌の菌体数等の検討>
[にごり酢の製造]
(実施例1)
実施例1では、上述の第1実施形態に係る製造方法によってにごり酢を製造した。まず、増殖工程では、酢酸菌の増殖用培地に、酢酸菌Gluconacetobacter hanseniiの生菌を添加した。培地は、濃縮りんご果汁(7倍濃縮)10%の他、酵母エキス、無機系栄養剤及び清水を含有するものとした。そして、温度30度、培地当たりの通気量を0.1L/minの条件で、約20時間、酢酸菌を通気発酵させた。続いて、酢酸発酵工程では、増殖工程で菌体数を5×107個/mLまで増加させた培地に、培地の酸度が4%以上となるまでエタノールを適宜添加し、増殖工程と同様の条件で通気発酵させた。この酢酸菌を含有する培地(発酵液)をろ過せずに、実施例1のにごり酢とした。
【0038】
(実施例2)
実施例2では、上述の第2実施形態に係る製造方法によってにごり酢を製造した。まず、エタノールを含む培地に、実施例1と同一の酢酸菌の死菌を含有する酢酸菌含有添加物を添加し、培地に含まれる菌体数を5×107個/mLとした。さらに当該酢酸菌の生菌を添加して、酢酸発酵を行った。酢酸菌含有添加物は、実施例1と同一の酢酸菌を増殖させた培地を濃縮して殺菌処理した濃縮液とした。培地は、濃縮りんご果汁(7倍濃縮)10%、エタノール4.5%及び酢酸0.4%の他、酵母エキス、無機系栄養剤及び清水を含有するものとした。実施例2において、酢酸菌含有添加物を表1の菌の濃度になるように添加した。酢酸菌含有添加物の添加タイミングは、発酵開始時とした。酢酸発酵の条件は、実施例1の酢酸発酵工程と同様の条件とした。上記培地を用いて酸度が4%以上となるまで通気発酵を行い、ろ過せずに実施例2のにごり酢とした。
【0039】
(実施例3)
実施例2と同様の死菌を含有する酢酸菌含有添加物を表1に記載の菌の濃度になるように適宜添加したこと以外は、実施例2と同様に実施例3のにごり酢を製した。
【0040】
(実施例4)
実施例2と同様の死菌を含有する酢酸菌含有添加物を表1に記載の菌の濃度になるように適宜添加したこと以外は、実施例2と同様に実施例4のにごり酢を製した。
【0041】
(実施例5)
実施例3のにごり酢に発酵セルロースを0.3%添加することで、実施例5のにごり酢を製した。
【0042】
(実施例6)
実施例6では、実施例1~5とは異なる酢酸菌Acetobacter pasteurianusを用いて、上述の第2実施形態に係る製造方法によってにごり酢を製造した。まず、米糖化液を米含量として13%、エタノール4.5%、無機系栄養剤及び清水を含有する培地に、上記酢酸菌の死菌を含む酢酸菌含有添加物を添加し、さらに当該酢酸菌の生菌を添加して、酢酸発酵を行った。酢酸菌含有添加物は、上記酢酸菌を使用したこと以外は実施例2の酢酸菌含有添加物と同様に製した。酢酸菌含有添加物を表1の菌の濃度になるようにした。実施例2と同様の条件で培地の酸度が4%以上となるまで通気発酵を行い、ろ過せずに実施例6のにごり酢とした。
【0043】
(実施例7)
実施例6と同様の死菌を含む酢酸菌含有添加物を表1に記載の菌の濃度になるように適宜添加したこと以外は、実施例6と同様に実施例7のにごり酢を製した。
【0044】
(実施例8)
実施例2と同様の死菌を含む酢酸菌含有添加物を表1に記載の菌の濃度になるように適宜添加したこと以外は、実施例6と同様に実施例8のにごり酢を製した。
【0045】
(実施例9)
実施例1と同一の酢酸菌を用いて、培地の組成を、米糖化液を米含量として10%、エタノール4.5%、酢酸0.4%、無機系栄養剤及び清水に変更した以外は、実施例3と同様に実施例9のにごり酢を製した。
【0046】
(比較例1)
実施例2と同様の工程に加えて、ろ過により酢酸菌を取り除いた醸造酢を混合することで、比較例1のにごり酢を製した。
【0047】
(比較例2)
実施例2と同様の工程で調製したにごり酢と、固形分の多い醸造酢(濃縮りんご果汁(7倍濃縮)30%、酢酸0.4%、エタノール4.5%、無機系栄養剤及び清水)を混合して調製することで、比較例2のにごり酢を製した。
【0048】
(比較例3)
蒸し米を用いた静置発酵で製された市販のにごり酢を比較例3のにごり酢とした。一般に、静置発酵では、酸度(酢酸換算)約1~2%、エタノール約4%に調整した仕込み液の上に、酢酸菌の皮膜を浮かべ、酸度4%以上になるまで酢酸発酵を行う。比較例3のにごり酢は、静置発酵後にろ過を行わずに、必要に応じて殺菌して製されたものと推認される。
【0049】
[酸度の測定]
実施例1~9及び比較例1~3の各サンプルの酸度を、以下の方法(中和滴定法:定量式)により算出した。まず、サンプルを正確に採取し、イオン交換水で10倍に希釈し、その希釈液(100g)に、指示薬として0.1%フェノールフタレイン溶液を2滴加え、力価既知の0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で中和滴定して、下記式により、サンプル液の酸度を求めた。その結果、実施例1~9及び比較例1~3のサンプルの酸度は、いずれも4.5であった(表1参照)。
サンプルの酸度(%)={(60.05×0.1×F×V)×100}/{サンプル採取量(10g)×1000}
60.05:酢酸の分子量
0.1:水酸化ナトリウム溶液のモル濃度(mol/L)
F:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の力価
V:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の滴定量(mL)
【0050】
【0051】
[菌体数の評価]
実施例1~9及び比較例1~3の各にごり酢からサンプルを採取し、リン酸緩衝生理食塩水を用いて各サンプルを血球盤の1マスに菌体が5~10個になるように希釈した。希釈したサンプルをトーマ血球盤に注入し、数分~数十分静置して、菌体を沈降させた。顕微鏡観察によりマス中の酢酸菌の菌体数をカウントした。なお、連鎖した酢酸菌は、連鎖を構成する単一の酢酸菌の菌体の個数をカウントした。80~100マス程度カウントして1マス当たりの平均菌体数を算出し、以下の式から1mL当たりの菌体数を求めた。
酢酸菌の菌体数(個/1mL)=(1マス当たりの平均菌数/1マスの体積)×希釈倍率
【0052】
表1に示すように、実施例1~9のにごり酢の菌体数は、いずれも1.0×108個/mL以上であった。その一方で、比較例1~3のにごり酢の菌体数は、いずれも1.0×108個/mL未満であった。また、酢酸菌含有添加物の添加量を変化させた実施例2,3及び4のグループと実施例6,7及び8のグループ内では、酢酸菌含有添加物の添加量が多いほど、菌体数が多くなる傾向が確認された。
【0053】
[主要な酢酸菌の割合の評価]
菌体数のカウント時に用いた画像から、目視にて菌体の種類を分類することにより、にごり酢に含まれる全菌体に占める主要な酢酸菌の割合を測定した。その結果、表1に示すように、通気発酵により製造された実施例1~9及び比較例1~2のにごり酢では主要な酢酸菌が全菌体のうちの100%を占め、表面発酵により製造された比較例3のにごり酢では、主要な酢酸菌が全菌体のうちの33%を占めていた。
【0054】
図1は、実施例1のサンプルを600倍に拡大した画像を示し、
図2は、比較例3のサンプルを600倍に拡大した画像を示す。
図2の画像では、桿菌である主要な酢酸菌1bの他、丸い酵母2や菌体以外の夾雑物(果実の一部など)3なども混在していた。一方で、
図1の画像では、桿菌である主要な酢酸菌1aは多く見られるが、酵母やその他の夾雑物は少なかった。なお、発明者らが他の実施例の画像も確認したところ、
図1と同様の傾向を有していた。このように、本発明の実施例のにごり酢では、比較例3のにごり酢よりも、主要な酢酸菌の割合が多く、酵母やその他の夾雑物が少ない傾向が認められた。
【0055】
[固形分の乾燥重量の評価]
実施例1~9及び比較例1~3の各にごり酢の1mLをサンプルとして採取して、湯浴上で蒸発乾固させた後、105℃の乾熱恒温槽に2時間30分間入れることによって乾燥した。乾燥後のサンプルの重量を測定し、以下の式により固形分の乾燥重量を算出した。結果を、表1に示す。
乾燥重量(%(w/v))=乾燥後のサンプル重量(g)/乾燥前のサンプルの容量(mL)×100
【0056】
表1に示すように、実施例1~9のにごり酢では、いずれも乾燥重量が5%(w/v)以上18%(w/v)以下であった。一方で、比較例1及び比較例3のサンプルでは、いずれも乾燥重量が5%(w/v)未満であった。また、比較例2のサンプルは、乾燥重量が18%(w/v)よりも多かった。
【0057】
[酢酸菌の菌体の湿重量の評価]
実施例1~9及び比較例1~3の各にごり酢からサンプル10mLを採取して、遠心分離(6000G、5min)後に上澄み液を除去して、得られた沈殿物の重量を湿重量とした。
【0058】
表1に示すように、実施例1~9及び比較例1~3のにごり酢のうち、実施例1~3、6及び9並びに比較例1のにごり酢では、酢酸菌の湿重量が1%(w/v)未満であった。
【0059】
[発酵感の評価]
実施例1~9及び比較例1~3のにごり酢を、複数の訓練されたパネルが口に含み、下記に示す評価基準に基づいて、菌由来の豊かな発酵感を評価した。「菌由来の豊かな発酵感」は、果汁や穀物等の原料由来の香り以外の、酢酸菌による香ばしい特有のコクのある風味として評価した。実施例1~9及び比較例1~3の各にごり酢について、1~4点を0.5点刻みで評点し、評価点の平均点を算出した。平均点が2.0点以上あれば合格とした。その結果を、表1に示す。
(菌由来の豊かな発酵感の評価基準)
1:酢酸菌由来の豊かな発酵感を弱く感じる又は感じられない
2:酢酸菌由来の豊かな発酵感を感じる
3:酢酸菌由来の豊かな発酵感を十分感じる
4:酢酸菌由来の豊かな発酵感を強く感じる
【0060】
表1に示すように、実施例1~9のにごり酢は、いずれも発酵感の評点が2.0点以上であった。その一方で、比較例1~3のにごり酢は、いずれも発酵感の評点が2.0点未満であった。これにより、酢酸菌を含有する酸度4%以上のにごり酢では、酢酸菌の菌体数を1.0×108個/mL以上とし、固形分の乾燥重量を5%(w/v)以上18%(w/v)以下とすることで、酢酸菌由来の豊かな発酵感を感じられることがわかった。
【0061】
また、同様の製造方法を採用し菌種を変更した実施例2,3及び4のグループと実施例6,7及び8のグループの結果から、酢酸菌の菌種を変更しても、酢酸菌の菌体数と固形分の乾燥重量を上記範囲に調整することで、いずれも十分な発酵感が得られることがわかった。さらに、実施例2,3及び4のグループの内部と実施例6,7及び8のグループの内部でそれぞれ比較すると、酢酸菌の菌体数が多い実施例(実施例4及び実施例8)で発酵感の評価がやや低い傾向となることがわかった。これにより、酢酸菌の菌体数を適正化することで、雑味を抑え酢酸菌由来の発酵感を高められると考えられる。
【0062】
また、実施例1及び6などの結果から、湿重量が1.0%(w/v)未満でも、酢酸菌の菌体数が十分に多く発酵感が十分に高いにごり酢が得られることがわかった。
【0063】
<試験例2:にごり酢の酸度の検討>
[にごり酢の製造]
実施例10と12では培養開始時の培地の酢酸を2.5%にし、最終的な培地の酸度が6.5%(表2参照)となるように通気発酵させ、実施例11では培養開始時の培地の酢酸を4.5%にし、最終的な酸度が8.5%(表2参照)となるまで通気発酵させた以外は、実施例2と同様に、実施例10~12のにごり酢を製した。なお、実施例10及び11では、実施例1~5と同様の酢酸菌Gluconacetobacter hanseniiを用いた。実施例12では、実施例6と同様の酢酸菌Acetobacter pasteurianusを用いた。なお、酸度は、試験例1と同様に測定された。
【0064】
【0065】
[菌体数の評価]
試験例1と同様に、実施例10~12の各にごり酢の菌体数を測定したところ、表2に示すように、実施例10~12のにごり酢の菌体数は、いずれも1.0×108個/mL以上であった。
【0066】
[主要な酢酸菌の割合の評価]
試験例1と同様に、実施例10~12の各にごり酢における主要な酢酸菌の割合を測定したところ、いずれも主要な酢酸菌が全菌体のうちの100%を占めていた。
【0067】
[固形分の乾燥重量の評価]
試験例1と同様に、実施例10~12の各にごり酢における固形分の乾燥重量を測定したところ、いずれも乾燥重量が5%(w/v)以上18%(w/v)以下であった。
【0068】
[酢酸菌の菌体の湿重量の評価]
試験例1と同様に、実施例10~12の各にごり酢における酢酸菌の湿重量を測定したところ、実施例10及び11は酢酸菌の湿重量が1%(w/v)未満であった。
【0069】
[発酵感の評価]
試験例1と同様に、実施例10~12の各にごり酢における発酵感を評価したところ、いずれも発酵感の評点が2.0点以上であった。このうち、酸度6.5%である実施例10及び12は、酸度8.5%である実施例11よりも発酵感の評点が高く、酸度4.5%である実施例2よりも発酵感の評点が低かった。この結果から、酸度が高くなるに従い、発酵感が低くなる傾向が示された。
【0070】
<総括>
以上より、酢酸菌を含有する酸度4%以上9%以下のにごり酢では、酢酸菌の菌体数を1.0×108個/mL以上とし、固形分の乾燥重量を5%(w/v)以上18%(w/v)以下とすることで、雑味を抑え、酢酸菌由来の豊かな発酵感を感じられることがわかった。
【符号の説明】
【0071】
1a,1b…酢酸菌
2…酵母
3…夾雑物
【要約】
【課題】酢酸菌の菌体を多く含有し、かつ、酢酸菌由来の発酵感を感じられるにごり酢及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酢酸菌を含有する酸度4%以上9%以下のにごり酢であって、前記にごり酢に含まれる菌体の90%以上を占める主要な酢酸菌は、グルコノアセトバクター属、アセトバクター属、グルコノバクター属、コマガタエイバクター属、ノブアセチモナス属から選ばれる1種の酢酸菌であり、前記酢酸菌の菌体数が、1.0×10
8個/mL以上であり、固形分の乾燥重量が5%(w/v)以上18%(w/v)以下である、ことを特徴とするにごり酢。
【選択図】
図1