(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】嚥下シミュレーション装置及び嚥下シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
A61B5/11 310
(21)【出願番号】P 2020189576
(22)【出願日】2020-11-13
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2019207530
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020012026
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(73)【特許権者】
【識別番号】512078812
【氏名又は名称】道脇 幸博
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】道脇 幸博
(72)【発明者】
【氏名】菊地 貴博
(72)【発明者】
【氏名】井上 元幹
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-202119(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0120509(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103597510(CN,A)
【文献】菊地 貴博 他,嚥下シミュレータSwallow Vision の開発と妥当性確認方法の検討,第32 回数値流体力学シンポジウム,2018年12月11日,F03-2,1-5,https://www2.nagare.or.jp/cfd/cfd32/cfd32papers/paper/F03-2.pdf
【文献】菊地 貴博 他,筋駆動型の嚥下シミュレータSwallow Visionの開発―筋収縮モデルの導入―,第31回 計算力学講演会,2018年11月23日,No.18-8,1-4,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmecmd/2018.31/0/2018.31_078/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01、5/06-5/22、9/00-10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の頭頸部器官が筋種ごとに三次元画像内で筋線維方向を特定した複数の筋粒子によりモデル化され、かつ、嚥下時における前記筋線維方向に基づく収縮応力が筋活動率により前記筋粒子に与えられる動的三次元頭頸部粒子モデルを記憶する記憶部と、
筋種ごとに設定されている前記筋活動率の値を変更する筋活動率変更部と、
前記筋活動率の値を変更した前記動的三次元頭頸部粒子モデルを用い、嚥下時における前記頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて前記三次元画像で解析する運動解析部と、
前記運動解析部によって粒子法により解析された、嚥下時における前記頭頸部器官の運動の解析結果を基に、前記筋活動率を評価する評価関数を算出し、前記評価関数に基づいて前記筋活動率を解析する筋活動率解析部と、
を備える、嚥下シミュレーション装置。
【請求項2】
前記筋活動率解析部は、
前記運動解析部での粒子法による解析結果であって嚥下中の所定時刻における前記三次元画像内での前記筋粒子の位置と、
嚥下中の前記所定時刻で目標となる、前記筋粒子の前記三次元画像内での目標位置と、
前記運動解析部によって粒子法により前記筋粒子の運動を解析したときに用いた前記筋活動率と、
に基づいて、前記評価関数を算出する、請求項1に記載の嚥下シミュレーション装置。
【請求項3】
前記筋活動率解析部は、下記の(1)式に基づいて前記評価関数を算出する、
請求項1又は2に記載の嚥下シミュレーション装置。
【数1】
…(1)
e
k,Phは前記評価関数を示す。上付き文字のkは、前記筋活動率解析部により算出する前記評価関数の最適化計算回数を示し、上付き文字のPhは、筋種ごとに前記筋活動率の値を変えながら前記評価関数を算出してゆく際の、前記筋活動率の変更状態を識別するための識別子を示す。
Osは、前記動的三次元頭頸部粒子モデルにおける前記複数の頭頸部器官の集合を示す。
Ojは、前記複数の頭頸部器官のうち、前記評価関数を算出する前記頭頸部器官を示す。
w
P,Ojは、前記評価関数を算出する前記頭頸部器官(Oj)に対して重み付けを行う定数を示す。
r
i
k,Phは、前記最適化計算回数がk回目の前記評価関数を算出する際に求めた、前記運動解析部での粒子法による解析結果であって、嚥下中の所定時刻における前記三次元画像内での筋粒子iの位置を示す。下付き文字のiは、前記筋粒子iを識別する識別子である。
s
iは、嚥下中の前記所定時刻で目標となる、前記筋粒子iの前記三次元画像内での目標位置を示す。
w
αは、前記筋活動率に対して重み付けを行う定数を示す。
α
m
k,Phは、前記最適化計算回数がk回目の前記評価関数を算出する際に用いる、筋種mにおける前記筋粒子iの前記筋活動率を示す。下付き文字のmは、前記頭頸部器官の筋種ごとに規定された識別子である。
【請求項4】
前記筋活動率解析部は、
前記運動解析部での粒子法による解析結果であって嚥下中の所定時刻における前記三次元画像内での前記筋粒子の位置及び速度と、
嚥下中の前記所定時刻で目標となる、前記筋粒子の前記三次元画像内での目標位置及び目標速度と、
前記運動解析部によって粒子法により前記筋粒子の運動を解析したときに用いた前記筋活動率と、
に基づいて、前記評価関数を算出する、請求項1に記載の嚥下シミュレーション装置。
【請求項5】
前記筋活動率解析部は、下記の(2)式に基づいて前記評価関数を算出する、
請求項1又は4に記載の嚥下シミュレーション装置。
【数2】
…(2)
e
k,Phは前記評価関数を示す。上付き文字のkは、前記筋活動率解析部により算出する前記評価関数の最適化計算回数を示し、上付き文字のPhは、筋種ごとに前記筋活動率の値を変えながら前記評価関数を算出してゆく際の、前記筋活動率の変更状態を識別するための識別子を示す。
Osは、前記動的三次元頭頸部粒子モデルにおける前記複数の頭頸部器官の集合を示す。
Ojは、前記複数の頭頸部器官のうち、前記評価関数を算出する前記頭頸部器官を示す。
w
P,Oj及びw
V,Ojは、前記評価関数を算出する前記頭頸部器官(Oj)に対して重み付けを行う定数を示す。
r
i
k,Phは、前記最適化計算回数がk回目の前記評価関数を算出する際に求めた、前記運動解析部での粒子法による解析結果であって、嚥下中の所定時刻における前記三次元画像内での筋粒子iの位置を示す。下付き文字のiは、前記筋粒子iを識別する識別子である。
s
iは、嚥下中の前記所定時刻で目標となる、前記筋粒子iの前記三次元画像内での目標位置を示す。
v
i
k,Phは、前記最適化計算回数がk回目の前記評価関数を算出する際に求めた、前記運動解析部での粒子法による解析結果であって、嚥下中の前記所定時刻における前記三次元画像内での前記筋粒子iの速度を示す。
u
iは、嚥下中の前記所定時刻で目標となる、前記筋粒子iの前記三次元画像内での目標速度を示す。
w
αは、前記筋活動率に対して重み付けを行う定数を示す。
α
m
k,Phは、前記最適化計算回数がk回目の前記評価関数を算出する際に用いる、筋種mにおける前記筋粒子iの前記筋活動率を示す。下付き文字のmは、前記頭頸部器官の筋種ごとに規定された識別子である。
【請求項6】
前記筋活動率解析部は、
前記動的三次元頭頸部粒子モデルで前記頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて前記三次元画像で解析する嚥下開始から嚥下終了までの時刻の中から、前記評価関数を用いて筋活動率を特定する最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)を設定し、
前記最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)の最適化終了時刻(ts+△t
opt)での筋活動率α
kmax,pendを前記評価関数に基づいて特定し、
前記最適化対象時刻
ts~(ts+△t
opt
)の最適化開始時刻tsでの筋活動率α
tsと、前記最適化終了時刻(ts+△t
opt)での前記筋活動率α
kmax,pendと、緩和度合βとを用いて、下記の(3)式より、緩和処理を行った筋活動率α
kmax,pend(β)を算出する、請求項1、4及び5のいずれか1項に記載の嚥下シミュレーション装置。
【数3】
…(3)
α
tsは、最適化開始時刻tsでの筋活動率の値を示す。
α
kmax,pendは、前記緩和処理を行う前に、前記評価関数に基づいて最終的に決定した前記筋活動率の値を示す。
βは、緩和度合であり、予め定めた定数を示す。
α
kmax,pend(β)は、前記緩和処理を行った筋活動率であり、上付き文字の(β)は前記緩和処理を行ったことを示す識別子である。
【請求項7】
前記筋活動率解析部は、下記の(4)式に基づいて前記評価関数を算出する、
請求項1又は4に記載の嚥下シミュレーション装置。
【数4】
…(4)
e
k,Phは前記評価関数を示す。上付き文字のkは、前記筋活動率解析部により算出する前記評価関数の最適化計算回数を示し、上付き文字のPhは、筋種ごとに前記筋活動率の値を変えながら前記評価関数を算出してゆく際の、前記筋活動率の変更状態を識別するための識別子を示す。
Osは、前記動的三次元頭頸部粒子モデルにおける前記複数の頭頸部器官の集合を示す。
Ojは、前記複数の頭頸部器官のうち、前記評価関数を算出する前記頭頸部器官を示す。
w
V,Ojは、前記評価関数を算出する前記頭頸部器官(Oj)に対して重み付けを行う定数を示す。
v
i
k,Phは、前記最適化計算回数がk回目の前記評価関数を算出する際に求めた、前記運動解析部での粒子法による解析結果であって、嚥下中
の所定時刻における前記三次元画像内での前記筋粒子iの速度を示す。
u
i
*は、前記筋粒子iの目標速度であり、下付き文字のiは、前記筋粒子iを識別する識別子である。
w
αは、前記筋活動率に対して重み付けを行う定数を示す。
α
m
k,Phは、前記最適化計算回数がk回目の前記評価関数を算出する際に用いる、筋種mにおける前記筋粒子iの前記筋活動率を示す。下付き文字のmは、前記頭頸部器官の筋種ごとに規定された識別子である。
【請求項8】
前記u
i
*は、下記の(5)式から算出する、
請求項7に記載の嚥下シミュレーション装置。
【数5】
…(5)
u
iは、嚥下中の前記所定時刻で目標となる、前記筋粒子iの前記三次元画像内での目標速度を示す。
u
-
iは、前記筋粒子iの参照速度であり、下記の(6)式から算出する。
w
u-は、前記筋粒子iの前記参照速度であるu
-
iと、前記三次元画像内での前記筋粒子iの前記目標速度であるu
iと、に対して重み付けを行う定数を示し、0<w
u-<1の範囲で決められる数値である。
【数6】
…(6)
s
iは、嚥下中の前記所定時刻で目標となる、前記筋粒子iの前記三次元画像内での目標位置を示す。
△t
optは、嚥下開始から嚥下終了までを所定間隔で区切る時刻を示す。
r
i
tsは、前記動的三次元頭頸部粒子モデルで前記頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて前記三次元画像で解析する嚥下開始から嚥下終了までの時刻の中から、前記評価関数を用いて筋活動率を特定する最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)を設定した際の、前記最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)における前記運動解析部での粒子法による解析結果であって、最適化開始時刻tsにおける前記三次元画像内での筋粒子iの位置を示す。
v
i
tsは、前記動的三次元頭頸部粒子モデルで前記頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて前記三次元画像で解析する、嚥下開始から嚥下終了までの時刻の中から、前記評価関数を用いて筋活動率を特定する最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)を設定した際の、前記最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)における前記運動解析部での粒子法による解析結果であって、最適化開始時刻tsにおける前記三次元画像内での前記筋粒子iの速度を示す。
【請求項9】
前記筋活動率変更部によって筋種ごとに前記筋活動率の値を変えるたびに、前記運動解析部によって粒子法により前記筋粒子の運動を解析し、前記運動解析部での粒子法による解析結果ごとに前記筋活動率解析部により前記評価関数を算出し、複数の評価関数に基づいて前記筋活動率を決定する、請求項1~8のいずれか1項に記載の嚥下シミュレーション装置。
【請求項10】
前記筋活動率解析部は、
前記評価関数を算出した後に、下記の(7)式のステップサイズμ
pの値を変更しながら下記の(7)式に基づいて前記筋活動率α
m
k,pを算出してゆき、前記運動解析部によって前記筋活動率α
m
k,pを用いて粒子法により前記筋粒子の運動を解析し、前記運動解析部での粒子法による解析結果ごとに前記評価関数を算出する、請求項1~9のいずれか1項に記載の嚥下シミュレーション装置。
【数7】
…(7)
α
m
k,pは、最適化計算回数がk回目の前記評価関数を算出する際に用いる、筋種mにおける前記筋粒子iの前記筋活動率を示す。下付き文字のmは、前記頭頸部器官の筋種ごとに規定された識別子である。pは、前記筋活動率が所定の変更状態であることを識別するための識別子を示す。
α
m
k,0は、前記最適化計算回数がk回目の前記評価関数を算出する際に用いる、前記頭頸部器官の筋種mにおける前記筋粒子iの前記筋活動率のうち、初期の筋活動率を示す。
μ
pは、変更可能な値を示す。
ya
m
kは、前記評価関数に基づいて求められる探索方向を示す。
【請求項11】
前記運動解析部は、
前記粒子法により前記筋粒子に加わる弾性力と、前記筋粒子に加わる人工ポテンシャル力と、前記筋粒子に加わる粘性力と、を少なくとも解析し、
前記弾性力を解析する際に、前記筋粒子への前記収縮応力の付与として、下記の(8)式で表す第2ピオラ‐キルヒホッフ(Piola‐Kirchhoff)応力テンソルを含めて解析する、
請求項1~10のいずれか1項に記載の嚥下シミュレーション装置。
【数8】
…(8)
S
passiveは
、他の粒子の移動により受ける受動的な応力である受動的応力を表す。
S
activeは、前記筋線維方向に基づく能動的な収縮応力である能動的収縮応力を表し、前記動的三次元頭頸部粒子モデルの嚥下時に、筋種mにおける筋粒子iの前記収縮応力の時間的変化を示す筋活動率と、筋種mの筋粒子iに設定した初期時刻0の筋線維方向と、を含んだ演算式により算出される。
【請求項12】
複数の頭頸部器官が筋種ごとに三次元画像内で筋線維方向を特定した複数の筋粒子によりモデル化され、かつ、嚥下時における前記筋線維方向に基づく収縮応力が筋活動率により前記筋粒子に与えられる動的三次元頭頸部粒子モデルを記憶する記憶ステップと、
筋種ごとに設定されている前記筋活動率の値を変更する筋活動率変更ステップと、
前記筋活動率の値を変更した前記動的三次元頭頸部粒子モデルを用い、嚥下時における前記頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて前記三次元画像で解析する運動解析ステップと、
前記運動解析ステップによって粒子法により解析された、嚥下時における前記頭頸部器官の運動の解析結果を基に、前記筋活動率を評価する評価関数を算出し、前記評価関数に基づいて前記筋活動率を解析する筋活動率解析ステップと、
を備える、嚥下シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下シミュレーション装置及び嚥下シミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
嚥下時の食品物性と頭頸部器官の運動との関係は複雑であり、現象そのものを正確に把握することは非常に困難である。ここで、嚥下とは、口腔内に取り込まれた食品(飲料を含む)を、咽頭・食道を経て胃に送り込む運動である。嚥下時には、口腔、咽頭、喉頭、食道の筋が、短時間のうちに決められた順序で活動し、複雑な運動を遂行している。
【0003】
従来、嚥下時の食塊の挙動を模擬するために、コンピュータを用いた嚥下シミュレーション装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この嚥下シミュレーション装置では、口腔器官の運動や、飲食品等の物性値を設定し、三次元画像において、粒子法を用いて飲食品の挙動を解析することができる。このような嚥下シミュレーション装置は、嚥下に関する実現象を近似的に再現でき、嚥下現象を可視化することが可能であり、例えば、誤嚥を抑制し得る食品や医薬品、飲料等の経口摂取品を開発する際に役立てることができると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、誤嚥を抑制し得る経口摂取品の開発や、誤嚥のメカニズム解明による効果的な診断、治療法の確立を目指すには、特許文献1に示すような嚥下現象の単なる可視化では不十分であり、擬似経口摂取品の嚥下時における頭頸部器官の運動や、擬似経口摂取品の挙動などを従来よりも一段と正確に再現することが望まれている。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、嚥下時における頭頸部器官の運動を従来よりも一段と正確に再現することができる嚥下シミュレーション装置及び嚥下シミュレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る嚥下シミュレーション装置は、複数の頭頸部器官が筋種ごとに三次元画像内で筋線維方向を特定した複数の筋粒子によりモデル化され、かつ、嚥下時における前記筋線維方向に基づく収縮応力が筋活動率により前記筋粒子に与えられる動的三次元頭頸部粒子モデルを記憶する記憶部と、筋種ごとに設定されている前記筋活動率の値を変更する筋活動率変更部と、前記筋活動率の値を変更した前記動的三次元頭頸部粒子モデルを用い、嚥下時における前記頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて前記三次元画像で解析する運動解析部と、前記運動解析部によって粒子法により解析された、嚥下時における前記頭頸部器官の運動の解析結果を基に、前記筋活動率を評価する評価関数を算出し、前記評価関数に基づいて前記筋活動率を解析する筋活動率解析部と、を備える。
【0008】
また、本発明に係る嚥下シミュレーション方法は、複数の頭頸部器官が筋種ごとに三次元画像内で筋線維方向を特定した複数の筋粒子によりモデル化され、かつ、嚥下時における前記筋線維方向に基づく収縮応力が筋活動率により前記筋粒子に与えられる動的三次元頭頸部粒子モデルを記憶する記憶ステップと、筋種ごとに設定されている前記筋活動率の値を変更する筋活動率変更ステップと、前記筋活動率の値を変更した前記動的三次元頭頸部粒子モデルを用い、嚥下時における前記頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて前記三次元画像で解析する運動解析ステップと、前記運動解析ステップによって粒子法により解析された、嚥下時における前記頭頸部器官の運動の解析結果を基に、前記筋活動率を評価する評価関数を算出し、前記評価関数に基づいて前記筋活動率を解析する筋活動率解析ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、筋種ごとに筋粒子に筋活動率が設定された動的三次元頭頸部粒子モデルを用いて、筋活動率の値を変更しながら、嚥下時における頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて解析し、この解析結果に基づいて筋活動率を評価する評価関数を算出するようにした。これにより、本発明では、筋活動率の値を変更するごとに算出した評価関数に基づいて、筋活動率の値を決めることができ、嚥下時における頭頸部器官の運動を従来よりも一段と正確に再現することができる嚥下シミュレーション装置及び嚥下シミュレーション方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】嚥下シミュレーション装置の回路構成を示すブロック図である。
【
図2】動的三次元頭頸部粒子モデルの構成を示す概略図である。
【
図3】
図2に示した動的三次元頭頸部粒子モデルの正中面における断面構成を示した断面図である。
【
図4】嚥下時における動的三次元頭頸部粒子モデルの状態変化を示した概略図である。
【
図5】筋粒子について説明するための概略図である。
【
図6】筋粒子の筋線維方向を説明するための概略図である。
【
図7】上咽頭収縮筋舌咽頭部、中咽頭収縮筋小角咽頭上部、中咽頭収縮筋小角咽頭下部、中咽頭収縮筋大角咽頭上部、中咽頭収縮筋大角咽頭下部、下咽頭収縮筋甲状咽頭上部、下咽頭収縮筋甲状咽頭下部及び下咽頭収縮筋輪状咽頭部における嚥下時の各筋活動率の時間的変化を示したグラフである。
【
図8】動的三次元頭頸部粒子モデルにおける筋粒子に加わる接触力を説明するための概略図である。
【
図9】ハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)を用いて動的三次元頭頸部粒子モデルで嚥下シミュレーションを行う際の演算処理手順を示すフローチャートである。
【
図10】他の実施形態の演算処理手順を示すフローチャートである。
【
図11】簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデルの構成を示す概略図である。
【
図12】
図11に示した動的三次元頭頸部粒子モデルの嚥下時における状態変化を示した概略図である。
【
図13】第1の手法による筋活動率解析処理手順を示すフローチャートである。
【
図14】筋種ごとに筋活動率α
tの任意の値を手動で設定するときの動的三次元頭頸部粒子モデルの様子を示す概略図である。
【
図15】手動設定処理手順を示すフローチャートである。
【
図16】手動設定処理によって設定した筋活動率を説明するための表である。
【
図17A】静的最適化処理手順(1)を示すフローチャートである。
【
図17B】静的最適化処理手順(2)を示すフローチャートである。
【
図18】静的最適化処理手順によって、最終的に得られた筋活動率α
m
tの一例を示した表である。
【
図19】第2の手法による筋活動率解析処理手順を示すフローチャートである。
【
図20】動的最適化処理手順を示すフローチャートである。
【
図21】最適化対象時間を説明するための概略図である。
【
図22A】解析処理手順(1)を示すフローチャートである。
【
図22B】解析処理手順(2)を示すフローチャートである。
【
図23】最適化対象時間で行われる、粒子法による1演算処理を説明するための概略図である。
【
図24】緩和処理を行う他の実施形態の動的最適化処理手順によって、最終的に得られた筋活動率α
m
tの一例を示した表である。
【
図25】他の実施形態の動的最適化処理手順を示すフローチャートである。
【
図26】他の実施形態における最適化対象時間を説明するための概略図である。
【
図27】緩和処理が行われる解析処理手順を示すフローチャートである。
【
図28A】緩和度合βが1のときの筋活動率の時間的変化を示したグラフである。
【
図28B】緩和度合βが10のときの筋活動率の時間的変化を示したグラフである。
【
図28C】緩和度合βが100のときの筋活動率の時間的変化を示したグラフである。
【
図28D】緩和度合βが1000のときの筋活動率の時間的変化を示したグラフである。
【
図28E】緩和度合βが10000のときの筋活動率の時間的変化を示したグラフである。
【
図29A】緩和度合βが1のときの舌骨の軌跡を示したグラフである。
【
図29B】緩和度合βが10のときの舌骨の軌跡を示したグラフである。
【
図29C】緩和度合βが100のときの舌骨の軌跡を示したグラフである。
【
図29D】緩和度合βが1000のときの舌骨の軌跡を示したグラフである。
【
図29E】緩和度合βが10000のときの舌骨の軌跡を示したグラフである。
【
図30】最適化計算回数と評価関数との一例を示した表である。
【
図31】筋種と筋活動率との関係を示した表である。
【
図32】検証試験で用いた簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデルであって、左右の茎突舌骨筋に対してそれぞれ別々に筋活動率を設定した動的三次元頭頸部粒子モデルの構成と、左右の茎突舌骨筋に対して同じ筋活動率を設定した動的三次元頭頸部粒子モデルの構成と、を示した概略図である。
【
図33】静的最適化処理により最適な筋活動率を設定した動的三次元頭頸部粒子モデルにおいて、嚥下時における舌骨の重心座標を示したグラフである。
【
図34】静的最適化処理により最適な筋活動率を設定した動的三次元頭頸部粒子モデルにおいて、嚥下時における舌骨の重心のずれと、基準配置からの変位とを示したグラフである。
【
図35】静的最適化処理により最適な筋活動率を設定した動的三次元頭頸部粒子モデルにおいて、嚥下時における舌骨の評価関数と、基準配置からの変位とを示したグラフである。
【
図36】左右の茎突舌骨筋に対して別々に筋活動率を設定した動的三次元頭頸部粒子モデルにおいて、静的最適化処理により最適化した嚥下時の各筋種の筋活動率と、嚥下時の舌骨の変位とを示したグラフである。
【
図37】左右の茎突舌骨筋に対して同じ筋活動率を設定した動的三次元頭頸部粒子モデルにおいて、静的最適化処理により最適化した嚥下時の各筋種の筋活動率と、嚥下時の舌骨の変位とを示したグラフである。
【
図38】検証試験に用いた動的三次元頭頸部粒子モデルの構成を示す概略図である。
【
図39A】検証試験により得られた最適化計算開始時の動的三次元頭頸部粒子モデルの様子を示す概略図である。
【
図39B】検証試験により得られた最適化計算終了時の動的三次元頭頸部粒子モデルの様子を示す概略図である。
【
図40】検証試験により算出した評価関数を示す表である。
【
図41】検証試験により得られた動的三次元頭頸部粒子モデルの全体像と、最適化した筋種のみを表示した像と、筋粒子を非表示にして舌骨を拡大表示した像とについて、嚥下時における動作(1)を示した概略図である。
【
図42】検証試験により得られた動的三次元頭頸部粒子モデルの全体像と、最適化した筋種のみを表示した像と、筋粒子を非表示にして舌骨を拡大表示した像とについて、嚥下時における動作(2)を示した概略図である。
【
図43A】w
u-=0.0としたときの嚥下シミュレーション時の舌骨の重心の軌跡を示したグラフである。
【
図43B】w
u-=0.1としたときの嚥下シミュレーション時の舌骨の重心の軌跡を示したグラフである。
【
図43C】w
u-=0.5としたときの嚥下シミュレーション時の舌骨の重心の軌跡を示したグラフである。
【
図44】γ=1.0、0.75、0.5としたときの各嚥下シミュレーション時の舌骨の重心の軌跡を示したグラフである。
【
図45A】γ=1.0としたときの嚥下シミュレーション時の茎突舌骨筋(StyH)、オトガイ舌骨筋(GH)及び胸骨舌骨筋(SteH)のそれぞれの筋活動率αの経時変化を示したグラフである。
【
図45B】γ=0.75としたときの嚥下シミュレーション時の茎突舌骨筋(StyH)、オトガイ舌骨筋(GH)及び胸骨舌骨筋(SteH)のそれぞれの筋活動率αの経時変化を示したグラフである。
【
図45C】γ=0.5としたときの嚥下シミュレーション時の茎突舌骨筋(StyH)、オトガイ舌骨筋(GH)及び胸骨舌骨筋(SteH)のそれぞれの筋活動率αの経時変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
(1)<本発明の概略について>
図1は本発明の嚥下シミュレーション装置1の全体構成を示したブロック図である。嚥下シミュレーション装置1は、パーソナルコンピュータ(PCとも称する)2と、入力部81と、表示部4と、記憶部83とを備えている。入力部81は、マウス、キーボード等の入力機器であり、開発者からの操作命令をパーソナルコンピュータ2に出力し、パーソナルコンピュータ2において操作命令に応じた各種演算処理を実行させる。記憶部83は、パーソナルコンピュータ2にて形成した粒子表示の動的三次元頭頸部粒子モデル(
図2において後述する)や、頭頸部器官を簡略化した粒子表示の動的三次元頭頸部粒子モデル(
図11において後述する)、設定条件、解析結果、後述する評価関数、筋活動率等を記憶する。
【0013】
パーソナルコンピュータ2は、例えば、頭頸部器官からなる動的三次元頭頸部粒子モデル(
図2において後述する)を三次元画像により形成し、経口摂取品を三次元画像内で擬似経口摂取品としてモデル化する。パーソナルコンピュータ2は、動的三次元頭頸部粒子モデルにおける各頭頸部器官の運動と、擬似経口摂取品の嚥下時の挙動とを、粒子法を用いて三次元画像内で解析することができる。
【0014】
また、パーソナルコンピュータ2は、擬似経口摂取品を三次元画像内に設けずに、動的三次元頭頸部粒子モデルにおける嚥下時の各頭頸部器官の運動のみを粒子法を用いて三次元画像内で解析することもできる。
【0015】
このような動的三次元頭頸部粒子モデルは、例えば、誤嚥をし易い嚥下障害者の頭頸部、又は、誤嚥をし難い健常者の頭頸部等を模倣して形成する。例えば、誤嚥をし易い嚥下障害者の頭頸部をモデル化した動的三次元頭頸部粒子モデルでは、嚥下障害者の嚥下時における各頭頸部器官の運動や、擬似経口摂取品の嚥下時の挙動を解析することができる。一方、誤嚥をし難い健常者の頭頸部をモデル化した動的三次元頭頸部粒子モデルでは、健常者の嚥下時における各頭頸部器官の運動や、擬似経口摂取品の嚥下時の挙動を解析することができる。
【0016】
パーソナルコンピュータ2で得られた解析結果は、表示部4に出力され、表示部4の表示画面に表示される。表示部4は、例えばディスプレイ等であり、パーソナルコンピュータ2から出力された動的三次元頭頸部粒子モデルの三次元画像や、擬似経口摂取品、解析結果、算出した評価関数、筋種ごとの筋活動率等を表示画面に表示する。これにより、表示部4は、動的三次元頭頸部粒子モデルにおける各頭頸部器官の運動や、擬似経口摂取品の嚥下時の挙動、解析結果、評価関数、筋種ごとの筋活動率等を、開発者に対し視認させることができる。なお、本実施形態で三次元画像とは、動的三次元頭頸部粒子モデルを仮想三次元空間に表現した動画像、及び、動画像を構成するフレーム画像を示す。
【0017】
嚥下シミュレーション装置1では、擬似経口摂取品の食塊量や粘度、比重等の物性値を変えて、動的三次元頭頸部粒子モデルによる嚥下シミュレーションを行うことができ、動的三次元頭頸部粒子モデルによる誤嚥の有無等も確認することができる。また、嚥下シミュレーション装置1では、三次元画像内に擬似経口摂取品を設定しない場合でも、動的三次元頭頸部粒子モデルによる嚥下シミュレーションを行うことができ、嚥下時における動的三次元頭頸部粒子モデルの各頭頸部器官の運動を解析することができる。
【0018】
本実施形態では、液面の変形や飛沫等の表現が可能な解析方法として、解析対象の液体や固体を粒子として扱う粒子法を用い、この粒子法によって、動的三次元頭頸部粒子モデルにおける頭頸部器官の運動(動作)や、経口摂取品の挙動を、三次元画像内に表して嚥下シミュレーションを行う。粒子法としては、特にMPS(Moving Particle Semi-implicit)法(Koshizuka et al,Comput.Fluid Dynamics J,4,29-46,1995)を適用することが望ましい。嚥下シミュレーションによって嚥下時における擬似経口摂取品の挙動を解析する際の粒子法としては、MPS法又はハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法:HMPS法)を適用することが望ましい。
【0019】
また、嚥下シミュレーションによって動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける各粒子の運動を解析する際の粒子法としては、ハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)を適用することが望ましい。本実施形態では、嚥下シミュレーションによって動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける各粒子の運動を解析する粒子法として、ハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)を適用した場合について以下説明する。
【0020】
本実施形態の粒子法では、擬似経口摂取品を粒子に置き換えるだけでなく、動的三次元頭頸部粒子モデルにおける頭頸部器官についても粒子に置き換え、粒子ごとに物理量を計算する。その結果、動的三次元頭頸部粒子モデルにおける頭頸部器官や、擬似経口摂取品の嚥下時における微妙な変化の解析が可能となる。なお、本実施形態では、このような動的三次元頭頸部粒子モデルを用いて行われる、粒子法による演算処理を、嚥下シミュレーションとも称する。
【0021】
ここで、本実施形態における嚥下シミュレーション装置1では、動的三次元頭頸部粒子モデルにおける頭頸部器官について粒子に置き換えるだけでなく、さらに、口腔、咽頭部、喉頭部等の頭頸部器官を形成する粒子には、医学的知見に基づいて頭頸部器官の筋種ごとに三次元画像内で筋線維方向が特定され、かつ筋線維方向に基づく収縮応力が与えられている。
【0022】
本実施形態では、このように頭頸部器官の筋種ごとに三次元画像内で筋線維方向が特定され、かつ筋線維方向に基づく収縮応力が与えられる粒子を筋粒子と称する。そして、嚥下シミュレーション装置1では、筋種ごとに設定した筋粒子の嚥下時における挙動(筋線維方向に与えられる収縮応力の時間的変化)を、筋活動率(後述する)の値の時間的変化を調整することで再現している。
【0023】
ここで、筋活動率は、嚥下時に筋線維方向に基づく収縮応力が与えられる筋粒子に関し、筋種ごとに設定される、嚥下時における筋粒子の収縮応力の時間的変化を示すものである。嚥下シミュレーション装置1では、嚥下時に時系列に変化する筋活動率の値を筋種ごとに変更することで、筋種ごとに嚥下時における筋粒子の挙動を変えることができる。従って、筋種ごとに筋活動率の値を最適な値に調整することで、嚥下時における各頭頸部器官の理想的な動きを実現することができる。
【0024】
嚥下シミュレーション装置1では、所定の値の筋活動率を筋種ごとに設定した動的三次元頭頸部粒子モデルを用いて嚥下シミュレーション(粒子法による演算処理)を行い、嚥下時の筋粒子の挙動に関する解析結果(筋粒子の位置と速度)を得る。嚥下シミュレーション装置1は、筋種ごとに嚥下時の理想的な筋粒子の挙動(筋粒子の位置と速度)を示す、目標値(筋粒子の目標位置及び目標速度)が、記憶部83に予め記憶されており、嚥下シミュレーションにより得られた解析結果と、目標値とを基に、嚥下シミュレーション時に設定していた筋活動率の値を評価する評価関数(後述する)を算出する。
【0025】
評価関数は、筋活動率に基づいて運動する筋粒子の挙動が、嚥下時における理想的な筋粒子の挙動と一致しているかを判断する指標となるものである。本実施形態の嚥下シミュレーション装置1では、動的三次元頭頸部粒子モデルを用いた嚥下シミュレーション時に行われる、粒子法による1サイクルの演算処理(
図9及び
図10にて後述する)の結果を、嚥下シミュレーションの解析結果として用いて評価関数を算出する。そして、嚥下シミュレーション装置1では、評価関数の解析結果を基に、筋種ごとに最適な値に筋活動率の値を変更してゆき、筋活動率を変更した動的三次元頭頸部粒子モデルを用いて再び嚥下シミュレーションを行う。
【0026】
このようにして、嚥下シミュレーション装置1では、筋活動率の値の変更と、筋活動率の値を変更した動的三次元頭頸部粒子モデルを用いて行われる粒子法による1サイクルの演算処理と、この粒子法による1サイクルの演算処理結果を用いた評価関数の算出と、を繰り返し行ってゆき、得られた複数の評価関数を比較してゆくことで、最終的に、筋活動率の最適な値を決定することができる。
【0027】
嚥下シミュレーション装置1では、このようにして嚥下時における各頭頸部器官の理想的な動きを、評価関数の解析結果を基に筋活動率の値を適宜調整することで実現し得、嚥下時における頭頸部器官の運動や、擬似経口摂取品の挙動を、従来よりも一段と正確に再現することができる。
【0028】
(2)<嚥下シミュレーション装置におけるパーソナルコンピュータの回路構成>
次に、嚥下シミュレーション装置1のパーソナルコンピュータ2について以下説明する。
図1に示すように、パーソナルコンピュータ2は、頭頸部モデリング部10、器官運動設定部30、経口摂取品物性設定部40、運動解析部50、物性特定部70及び制御部90に加えて、筋活動率変更部80及び筋活動率解析部91を備えている。頭頸部モデリング部10は、例えば、(i)
図2及び
図3に示すように、頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデル10cや、(ii)
図11に示すように、頭頸部器官を簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50a、
図38に示すような動的三次元頭頸部粒子モデル10gを、三次元画像により形成する。
【0029】
なお、後述する
図38は、
図2及び
図3と同様、頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデル10gを示しており、検証試験のために作製したものである。
図2及び
図3の動的三次元頭頸部粒子モデル10cと、
図38の動的三次元頭頸部粒子モデル10gとは、いずれも各頭頸部器官を忠実に再現したモデルである。ここでは、
図2及び
図3の動的三次元頭頸部粒子モデル10cを用いて、「頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデル」について以下説明する。
【0030】
ここでは、
図2及び
図3に示すように、頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデル10cについて先ずは説明し、その後、
図11に示すように、頭頸部器官を簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aについて説明する。
【0031】
また、ここでは、
図2及び
図3に示すような粒子表示の動的三次元頭頸部粒子モデル10cを用いて説明するが、本発明はこれに限らず、例えば、粒子表示の動的三次元頭頸部粒子モデル10cからマーチングキューブ法などを用いて作製され、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの各粒子の設定情報はそのままに、粒子1つ1つを表示せずに、単に頭頸部器官の表面を表示した動的三次元頭頸部モデルを適用してもよい。
【0032】
三次元画像内に形成する擬似経口摂取品についても、表示部4に表示させる際には、擬似経口摂取品を形成している粒子1つ1つは表示させずに、マーチングキューブ法等により生成した、擬似経口摂取品の表面形状のみを表示させるようにしてもよい。
【0033】
器官運動設定部30は、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける各頭頸部器官の運動を設定する。本実施形態における器官運動設定部30は、強制運動設定部31と、筋収縮運動設定部32とを備える。強制運動設定部31は、動的三次元頭頸部粒子モデル10cによる擬似経口摂取品の嚥下時に、頭頸部器官で強制的に移動する粒子を強制移動粒子(後述する)として設定し、これら複数の強制移動粒子の運動を設定する。筋収縮運動設定部32は、医学的知見に基づき頭頸部器官の筋種ごとに三次元画像内で筋線維方向が特定され、かつ筋線維方向に基づく収縮応力が与えられる粒子を筋粒子として設定し、擬似経口摂取品の嚥下時における当該収縮応力に基づいて筋粒子の運動を設定する。
【0034】
これにより、動的三次元頭頸部粒子モデル10cを形成する粒子は、強制移動粒子と、筋粒子と、これら強制移動粒子及び筋粒子以外の粒子と、の3種類のいずれかに定義される。動的三次元頭頸部粒子モデル10cは、器官運動設定部30による設定状態を基に、各頭頸部器官が動いた嚥下シミュレーションを実行することができる。なお、強制移動粒子と、筋粒子と、これら強制移動粒子及び筋粒子以外の粒子とについて、特に区別する必要がない場合には、以下、強制移動粒子と、筋粒子と、これら強制移動粒子及び筋粒子以外の粒子と、の3種の粒子をまとめて、単に粒子と称する。
【0035】
経口摂取品物性設定部40は、解析対象としての飲食品、医薬品又は医薬部外品等の経口摂取品の物性値を設定し、経口摂取品をモデル化した擬似経口摂取品を三次元画像内に形成する。なお、経口摂取品物性設定部40は、解析対象として異なる物性の液体、半固体又は固体の複数の擬似経口摂取品を設定することができる。なお、半固体としては例えばゼリー等を含み、固体としては例えば錠剤等も含む。
【0036】
本実施形態の場合、経口摂取品物性設定部40は、経口摂取品の物性値として、例えば、経口摂取品となる食塊の密度[g/mL]と、動的三次元頭頸部粒子モデル10cに嚥下させる食塊量[mL]と、表面張力[N/m]と、各頭頸部器官における接触角と、各頭頸部器官におけるスリップ係数と、を設定する。なお、ここでスリップ係数とは、生体表面と食塊(経口摂取品)の表面の濡れ性、撥水性を制御するパラメータであり、接触面における見かけの粘度として考えることができる。スリップ係数が大きい場合は界面での摩擦が大きくなり、結果的に食塊の動きにブレーキをかける効果がある。スリップ係数が小さい場合は界面での摩擦が小さくなり、0の場合は鏡面のような状態となる。スリップ係数1は流体の粘度と同等程度の摩擦効果を界面に与えることを意味する。スリップ係数は、想定する経口摂取品が有する濡れ性や撥水性等を解析して決定する。
【0037】
経口摂取品物性設定部40は、各頭頸部器官における接触角として、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける咽頭、喉頭、舌、軟口蓋での接触角をそれぞれ設定する。また、経口摂取品物性設定部40は、各頭頸部器官におけるスリップ係数として、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの咽頭、喉頭、舌、軟口蓋でのスリップ係数をそれぞれ設定する。
【0038】
なお、本実施形態においては、経口摂取品の物性値として上述した物性値のみだけでなく、例えば、経口摂取品が液体のときは、液量・粘度・表面張力・比重・熱伝導率・比熱等の物性値を設定するようにしてもよい。また、経口摂取品が固体のときには、形状・寸法・弾性係数・引っ張り強さ・降伏点・降伏応力・粘度のずり速度依存性・動的粘弾性・静的粘弾性・圧縮応力・破断応力・破断ひずみ・硬度・付着性・凝集性・熱伝導率・比熱等の物性値を設定するようにしてもよい。さらに、経口摂取品が半固体(可塑性があるが、流動性はない)であるときには、量・粘度・比重・降伏点・降伏点応力・粘度のずり速度依存性・動的粘弾性・静的粘弾性・圧縮応力・付着性・凝集性等の物性値を設定するようにしてもよい。
【0039】
運動解析部50では、粒子法を用いた嚥下シミュレーションを行い、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの嚥下時における頭頸部器官の運動と、頭頸部器官の運動に伴う擬似経口摂取品の嚥下時の挙動と、を解析する。
【0040】
ここで、
図3は、
図2に示した動的三次元頭頸部粒子モデル10cの正中面における断面構成を示した断面図である。
図2及び
図3に示す動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおいて、粒子法による解析によって、舌12の進行波的波動運動、喉頭蓋15aの回転運動、喉頭15の往復運動、咽頭部14の筋収縮運動等の動きが再現され、頭頸部内部に投入された擬似経口摂取品(図示せず)を動かす。擬似経口摂取品の動きも粒子法により解析される。擬似経口摂取品は固体・半固体・液体のいずれでも粒子として取り扱われる。
【0041】
運動解析部50は、例えば、経口摂取品物性設定部40による擬似経口摂取品の物性値の変更や、筋活動率変更部80による筋活動率の値の変更等が行われた後、粒子法を用いた嚥下シミュレーションを行う。運動解析部50は、擬似経口摂取品の物性値が変更されると、粒子法を用いた嚥下シミュレーションによって、擬似経口摂取品が嚥下される際の経路が変化した解析結果を得ることができる。
【0042】
また、運動解析部50は、例えば、筋活動率変更部80により筋種ごとに筋活動率の値が変更されると、粒子法を用いた嚥下シミュレーションによって、舌12の進行波的波動運動や、軟口蓋13bの挙上運動、喉頭蓋15aの反転運動、喉頭15の挙上運動、声帯15cの内転運動、披裂部15bの前方運動、咽頭部14の収縮と挙上運動等の挙動が変化した解析結果を得ることができる。
【0043】
物性特定部70は、運動解析部50の解析結果を基に、誤嚥を回避できる擬似経口摂取品の食塊量、粘度及びせん断速度を推測する。このうち擬似経口摂取品の食塊量及び粘度は、経口摂取品物性設定部40により設定される物性値である。
【0044】
制御部90は、パーソナルコンピュータ2の各部を制御して、嚥下シミュレーション装置1の諸機能を実行させる。制御部90は内蔵メモリに嚥下シミュレーター(解析用ソフトウェア)を保有する。
【0045】
筋活動率変更部80は、入力部81からの操作命令に従って、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおいて、筋種ごとに設定される筋活動率の値を変更する。これにより、運動解析部50は、筋種ごとに筋活動率の値が変更された動的三次元頭頸部粒子モデル10cにより、粒子法を用いた嚥下シミュレーションを行える。
【0046】
筋活動率解析部91は、評価関数算出部92と、定常状態判定部93と、勾配算出部94と、探索方向決定部95と、直線探索処理部96と、最適化数設定部97と、緩和処理部98とを備えている。評価関数算出部92は、運動解析部50による動的三次元頭頸部粒子モデル10cの嚥下シミュレーションにより得られた解析結果と、そのときに設定されていた筋活動率の値とを用いて、当該嚥下シミュレーション時に筋種ごとに設定された筋活動率の値を評価する評価関数を算出するものである。
【0047】
定常状態判定部93は、筋種ごとに筋活動率の値を変更して行われた嚥下シミュレーションの解析結果を基に、嚥下シミュレーションごとに算出した複数の評価関数について、評価関数の値がほぼ変わらない定常状態になったか否かを判定するものである。
【0048】
勾配算出部94、探索方向決定部95及び直線探索処理部96は、評価関数及び筋活動率を利用して最適な筋活動率を探索するための演算処理を行うものである。最適化数設定部97は、筋活動率解析部91により算出する評価関数の最適化計算回数を設定するものである。
【0049】
なお、筋活動率解析部91を構成する、これら評価関数算出部92、定常状態判定部93、勾配算出部94、探索方向決定部95、直線探索処理部96、最適化数設定部97及び緩和処理部98の詳細については後述する。なお、本実施形態では、緩和処理(後述の他の実施形態で説明する)を行わないため、緩和処理部98についての説明は行わず、緩和処理を行う他の実施形態において説明する。
【0050】
(3)<頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデルの構成>
ここでは、本実施形態の特徴的構成である筋活動率変更部80及び筋活動率解析部91を説明する前に、始めに、頭頸部モデリング部10により形成される動的三次元頭頸部粒子モデル10cについて以下説明する。なお、本実施形態では、頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデル10cと、
図11に示すように、頭頸部器官を簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aとの2種類があるが、ここでは、始めに、頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデル10cについて説明し、その後に、頭頸部器官を簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aについて説明する。
【0051】
上述したように、表示部4には、例えば、
図2に示すような動的三次元頭頸部粒子モデル10c及び擬似経口摂取品(図示せず)が表示され、運動解析部50による解析結果として、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおいて擬似経口摂取品を嚥下したときの頭頸部器官の運動と、擬似経口摂取品の挙動と、が動画像により表示される。
【0052】
なお、本実施形態では、粒子表示の動的三次元頭頸部粒子モデル10c及び擬似経口摂取品を用いて、頭頸部器官の運動と、擬似経口摂取品の挙動と、を動画像により提示する場合について説明するが、本発明はこれに限らず、粒子1つ1つが表示されずに表面形状のみを表示した表面表示の動的三次元頭頸部モデル及び擬似経口摂取品を用いて、頭頸部器官の運動と、擬似経口摂取品の挙動と、を動画像により提示するようにしてもよい。
【0053】
図2及び
図3において、X軸は、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの正中面と直交する身体左右方向(正中面の面法線方向)を示し、Y軸は、X軸と直交し、かつ動的三次元頭頸部粒子モデル10cの正中面と平行な身体前後方向を示し、Z軸は、X軸及びY軸と直交する身体上下方向を示す。
【0054】
図2及び
図3に示すように、動的三次元頭頸部粒子モデル10cは、頭頸部器官として、オトガイ舌骨筋を含む舌12と、喉頭15と、声帯15cと、披裂部15bと、喉頭蓋15aと、気管16と、咽頭部14(咽頭の管壁18a、咽頭の粘膜18bを含む)と、口蓋13(硬口蓋13a及び軟口蓋13bを含む)と、食道17(食道入口部17a、食道の管壁17bを含む)とを有している。本実施形態では、主に、上述した舌12、喉頭15、声帯15c、披裂部15b、喉頭蓋15a、気管16、咽頭部14、口蓋13及び食道17等をまとめて頭頸部器官と称するが、これら1つ1つについても単に頭頸部器官とも称する。なお、
図2及び
図3では、擬似経口摂取品は図示していない。
【0055】
本実施形態では、図示しない擬似経口摂取品を粒子により表現するとともに、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける頭頸部器官(本実施形態では、舌12、喉頭15、声帯15c、披裂部15b、喉頭蓋15a、気管16、咽頭部14、口蓋13及び食道17)を粒子により表現する。
【0056】
ただし、上述したように、動的三次元頭頸部粒子モデル10cによる擬似経口摂取品の嚥下シミュレーションの解析結果を、動画像により開発者等に視認させる際には、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの頭頸部器官と、擬似経口摂取品との表面形状を表示させることが望ましい。これにより、頭頸部器官及び擬似経口摂取品を形成している粒子1つ1つを表示させる場合に比して、頭頸部器官及び擬似経口摂取品の表示形態を簡略化でき、開発者等に対して、頭頸部器官の運動や、擬似経口摂取品の挙動を容易に確認させることができる。
【0057】
(4)<動的三次元頭頸部粒子モデルの作製>
(4-1)<静的三次元頭頸部モデルの作製>
次に、粒子表示の動的三次元頭頸部粒子モデル10cの作製方法について以下説明する。まずは、医学的知見により理解されている頭頸部の構造、及び、CT(コンピュータ断層撮影:Computed Tomography)画像により大まかに読み取ることのできる口蓋13、舌12、気管16の形態から、咽頭部14と食道入口部17aの位置を推定する。舌12、口蓋13、咽頭部14、喉頭蓋15a、喉頭15、食道17の構造を、CG(コンピュータグラフィックス:Computer Graphics)用ソフトウェア(Autodesk 3ds Max等)を用いてモデリングし、嚥下に関わる頭頸部器官を三次元(立体構造)で表した静的初期形状モデル(図示せず)を作製する。
【0058】
得られた静的初期形状モデルに対して、VF(嚥下造影検査:Videofluoroscopic examination of swallowing)による嚥下時の造影画像(正面及び側面図)を重ね合わせて、立体構造を修正し、被験者の安静時における頭頸部器官の立体的形状をCGによって描画した静的三次元頭頸部モデル(図示せず)を作製する。または、嚥下中の4次元CT(Computed Tomography)画像(4DCT画像)をもとにして静的三次元頭頸部モデルを作成することもできる。このような静的三次元頭頸部モデルは、頭頸部モデリング部10により作製される。
【0059】
(4-2)<静的三次元頭頸部モデルの粒子によるモデル化>
次に、この静的三次元頭頸部モデルに基づいて、
図2及び
図3に示すような動的三次元頭頸部粒子モデル10cを作製する。以下、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの作製方法について説明する。
【0060】
この場合、CGで作製した静的三次元頭頸部モデル(図示せず)における頭頸部器官(
図2及び
図3における舌12、口蓋13、咽頭部14、喉頭蓋15a、喉頭15、食道17)の表面を特定し、
図2及び
図3に示すように、頭頸部器官の表面を境界として、頭頸部器官ごとにそれぞれの領域内に粒子を配置する。
【0061】
本実施形態における粒子は、三次元画像内で立体的形状を有した、三次元の球状粒子(本実施形態では単に粒子と称する)であり、例えば、乳児又は成人男性の平均的な大きさの頭頸部の原寸大モデルを三次元画像で作製する際には粒子の直径を0.1mm~3.0mm程度とすることが望ましく、そのうち、より好ましくは直径が0.6mm~1.5mm程度であることが望ましい。
【0062】
また、三次元画像内において作製した静的三次元頭頸部モデルにおいて、喉頭蓋の厚さ(例えば、成人では約3.0mm程度の厚さであり、乳児では約1.5mm程度の厚さである)方向に対して粒子が、少なくとも2個以上形成されることが望ましい。粒子の直径が小さすぎるとパーソナルコンピュータ2の計算処理負担が大きくなりすぎるため好ましくなく、一方、粒子の直径が大きすぎると、頭頸部器官について細かな運動を再現できないため、粒子の直径は上記の範囲とすることが望ましい。
【0063】
本実施形態においては、頭頸部器官を形成する粒子として、三次元の球状粒子を適用した場合について述べるが、本発明はこれに限らず、直方体形状の粒子、多角形状の粒子等その他種々の形状でなる粒子により頭頸部器官を形成するようにしてもよい。
【0064】
動的三次元頭頸部粒子モデル10cを作製する際は、CT画像及びVF画像に基づいてCGにより作製した静的三次元頭頸部モデル(図示せず)の各頭頸部器官(舌12、口蓋13、咽頭部14、喉頭蓋15a、喉頭15及び食道17)の表面が特定された後に、当該表面に囲まれた領域内に粒子同士が接するようにして粒子が隙間なく配置されることで、各頭頸部器官について粒子によるモデル化が行われる。
【0065】
また、動的三次元頭頸部粒子モデル10cで擬似経口摂取品を嚥下させる嚥下シミュレーションを行う場合には、擬似経口摂取品についても、CGにより作製した擬似経口摂取品の表面が特定された後に、当該表面に囲まれた領域内に粒子同士が接するように粒子が隙間なく配置されることで、擬似経口摂取品について粒子によるモデル化が行われる。
【0066】
このようにして、静的三次元頭頸部モデルの各頭頸部器官及び擬似経口摂取品を、それぞれ粒子により作製する処理は、頭頸部モデリング部10により行われる。
【0067】
ここで、本実施形態における動的三次元頭頸部粒子モデル10cでは、複数の粒子のうち、所定領域にある粒子を、擬似経口摂取品の嚥下時に頭頸部器官で強制的に移動する強制移動粒子として設定している。また、本実施形態における動的三次元頭頸部粒子モデル10cでは、複数の粒子のうち、強制移動粒子とした粒子以外で所定領域にある粒子を、筋線維方向に基づく収縮応力が与えられる筋粒子として設定している。
【0068】
なお、強制移動粒子及び筋粒子以外の粒子は、嚥下時に頭頸部器官で強制的に移動する位置(すなわち、嚥下時に三次元画像内で移動する座標)が規定されておらず、かつ、筋粒子のような筋線維方向への収縮応力についても規定されていない粒子である。このような強制移動粒子及び筋粒子以外の粒子は、動的三次元頭頸部粒子モデル10cで嚥下シミュレーションを行う際、従来の粒子法により移動位置等の解析が行われる。
【0069】
なお、強制移動粒子及び筋粒子以外の粒子の従来の嚥下シミュレーションの詳細については、文献「Kikuchi, T., Michiwaki, Y., Koshizuka, S., Kamiya, T., and Toyama Y., “Numerical simulation of interaction between organs and food bolus during swallowing and aspiration,” Computers in Biology and Medicine, 80, (2017), pp. 114‐123.」に開示されていることから、ここではその説明は省略し、以下、強制移動粒子と筋粒子とに着目して以下説明する。
【0070】
なお、次に説明する強制移動粒子に関し、粒子法を用いたシミュレーションについては、文献「Kikuchi, T., Michiwaki, Y., Kamiya, T. et al. Comp. Part. Mech. (2015) 2: 247. “Human swallowing simulation based on videofluorography images using Hamiltonian MPS method”」にも開示されている。
【0071】
(4-3)<動的三次元頭頸部粒子モデルにおける強制移動粒子の設定>
動的三次元頭頸部粒子モデル10cは、頭頸部器官を形成する粒子の中に、強制移動粒子と筋粒子とを有している。まずは、動的三次元頭頸部粒子モデルにおける強制移動粒子の設定について説明する。
【0072】
動的三次元頭頸部粒子モデル10cは、頭頸部器官の一部の粒子を強制移動粒子として設定し、この強制移動粒子によって、嚥下時に主活動筋と考えられる筋の運動をモデル化している。この場合、動的三次元頭頸部粒子モデル10cでは、舌12、口蓋13、咽頭部14、喉頭蓋15a、喉頭15及び食道17等を形成している粒子の中から、嚥下時に、剛体的な強制変位を与える粒子を選定してこれを強制移動粒子19として設定する。
【0073】
強制移動粒子19は、実際に被験者が経口摂取品を嚥下する際における頭頸部器官の筋の運動が反映されるように、解剖学的知見や、医用画像の分析研究の知見から選定する。本実施形態では、所定の経口摂取品を被験者に嚥下させたときに得られたVF画像や4DCT画像において頭頸部器官をトレースし、動的三次元頭頸部粒子モデル10c内で強制的に移動させる強制移動粒子19を選定している。
【0074】
また、所定の経口摂取品を被験者に嚥下させたときに得られたVF画像や4DCT画像に基づいて、嚥下開始から嚥下終了までの間、所定時間(例えば、0.1S)ごとに各強制移動粒子19が三次元画像内で移動する位置を決定し、各強制移動粒子19について、嚥下時における時間と位置とを設定する。
【0075】
すなわち、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおいて、例えば、嚥下開始時である0.0Sのとき、三次元画像内のX軸、Y軸及びZ軸での座標が(0.0、0.2、-0.2)にある強制移動粒子19について、嚥下開始時から0.1Sのとき座標(0.0、0.2、0.0)に移動し、0.2Sのとき座標(0.0、0.3、0.3)に移動することを設定する。
【0076】
ここで、
図2及び
図3において黒丸で示した粒子は、本実施形態における強制移動粒子19を示しており、例えば、舌12、口蓋13及び喉頭15等の一部に設定されている。本実施形態の舌12では、
図3に示すように、複数の強制移動粒子19が集まった島状の粒子群19aが、舌表面に沿って所定間隔で設定されている。口蓋13では、軟口蓋の口腔側に位置する箇所に、複数の強制移動粒子19が集まった島状の粒子群19bが設定されている。
【0077】
また、本実施形態の喉頭15では、喉頭蓋谷付近に位置する箇所に、複数の強制移動粒子19が集まった島状の粒子群19cが設定され、喉頭隆起付近に位置する箇所にも、複数の強制移動粒子19が集まった島状の粒子群19dが設定され、後輪状披裂筋付近にも、複数の強制移動粒子19が集まった粒子群19eが設定されている。さらに、食道17にも、複数の強制移動粒子19が集まった島状の粒子群19fが、気道側の管壁に沿って所定間隔に設定されている。
【0078】
ここで、
図4は、
図3に示した動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおいて、嚥下時に強制移動粒子19が移動するときの軌跡の一部を、移動軌跡線22a,22b,22c,22dで表し、移動軌跡線22a,22b,22c,22d(以下、これらをまとめて移動軌跡線22とする)に従って、強制移動粒子19を移動させたときの動的三次元頭頸部粒子モデル10c1,10c2,10c3,10c4の状態変化を示した概略図である。
【0079】
例えば、22aは、舌12に設定した強制移動粒子19の移動軌跡線を示し、22bは、口蓋13の軟口蓋に設定した強制移動粒子19の移動軌跡線を示し、22cは、喉頭15に設定した強制移動粒子19の移動軌跡線を示し、22dは、食道17の菅壁に設定した強制移動粒子19の移動軌跡線を示す。
【0080】
図4では、約12Sで所定の擬似経口摂取品を嚥下する動的三次元頭頸部粒子モデル10cを一例とし、嚥下開始時である0Sの動的三次元頭頸部粒子モデル10c1と、嚥下開始から約7S後の動的三次元頭頸部粒子モデル10c2と、嚥下開始から約9S後の動的三次元頭頸部粒子モデル10c3と、嚥下開始から約11S後の動的三次元頭頸部粒子モデル10c4とを示す。
【0081】
このように、動的三次元頭頸部粒子モデル10cでは、頭頸部器官の所定位置に強制移動粒子19を設け、各強制移動粒子19が嚥下時に移動する位置と時間とを予め設定することで、嚥下時における頭頸部器官の基本的な運動(進行波的波動運動、回転運動、上下運動、前後運動、収縮運動等)を再現させている。なお、このような動的三次元頭頸部粒子モデル10cの強制移動粒子19の運動は、器官運動設定部30の強制運動設定部31で設定する。
【0082】
(4-4)<動的三次元頭頸部粒子モデルにおける筋粒子の設定>
動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおいて嚥下時の咽頭部14等の挙動を精度よく再現するためには、嚥下時に咽頭部14等の壁面の長さが短縮する運動を再現することが望ましい。そこで、本実施形態における動的三次元頭頸部粒子モデル10cでは、咽頭部14等の粒子に対して単に剛体的な強制変位を与えるだけでなく、咽頭部14等の筋種ごとに三次元画像内で各筋粒子に筋線維方向を設定し、かつ筋線維方向に基づく最適な収縮応力を筋活動率により筋粒子に与え、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける嚥下時の挙動を精度よく再現している。なお、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおいて筋線維方向に基づく収縮応力を与える粒子を筋粒子と称する。
【0083】
動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおいて、例えば、舌12を形成する粒子20aの中から筋粒子を設定する場合、
図5に示すように、解剖学的知見やVF画像、4DCT画像等に基づき、嚥下時に舌12が伸縮する筋体領域ER
1,ER
2等を三次元画像内で特定し、各筋体領域ER
1,ER
2内に存在している粒子20aを探索する。例えば、筋体領域ER
1内にある粒子20aを、舌12の筋粒子とし、三次元画像の仮想空間内において、筋粒子ごとに筋線維方向を定義する。
【0084】
筋粒子に設定する筋線維方向の詳細については後述するが、解剖学的知見やVF画像、4DCT画像等に基づき、舌12の筋体領域ER1内の空間内に、嚥下時に筋収縮が生じている方向を線分Aとして複数設定し、筋粒子ごとに、近傍にある各線分Aの方向の重み付け平均を筋線維方向としている。本実施形態においては、例えば、筋粒子から最も近い第1線分と、筋粒子に対して2番目に近い第2線分との2つの線分を特定し、筋粒子から第1線分までの距離と、筋粒子から第2線分までの距離とについて、筋粒子からの距離の近さに応じた重みを付けて第1線分の方向と第2線分の方向とを平均して筋線維方向を求めている。ただし、筋線維方向の求め方は、この手法である必要はなく、例えば、筋体領域ER1内に定義した全線分を用いて、放射基底関数(Radial Basis Function)補間を行うことでも、より滑らかに空間分布する、筋線維方向を得ることができる。
【0085】
また、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおいて、擬似経口摂取品を嚥下させたときに、頭頸部器官の収縮筋の筋種ごとに生じる、筋粒子の収縮応力の時間的変化を、筋活動率として設定し、筋活動率により嚥下時の収縮応力の大きさを設定している。なお、本実施形態の嚥下シミュレーション装置1は、後述する筋活動率解析処理によって評価関数を算出し、当該評価関数に基づいてこの筋活動率の値を決定することができる。
【0086】
ここでは、始めに、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける咽頭部14に着目し、咽頭部14における筋種ごとに設定する筋線維方向について以下説明する。
図6の左図は、静的三次元頭頸部モデル10bに、咽頭部14の収縮筋が走行する方向Aa,Ab,Ac,Ad,Ae,Af,Ag,Ahを示した筋線維モデル10dの概略図である。
図6の右図は、左図の筋線維モデル10dに示した咽頭収縮筋が走行する方向Aa,Ab,Ac,Ad,Ae,Af,Ag,Ahを基に、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける咽頭部14において筋粒子1つ1つの筋線維方向を示した動的三次元頭頸部粒子モデル10eの概略図である。
【0087】
本実施形態では、筋線維モデル10d及び動的三次元頭頸部粒子モデル10eに示すように、解剖学的知見に基づき、上咽頭収縮筋舌咽頭部14aと、中咽頭収縮筋小角咽頭上部14bと、中咽頭収縮筋小角咽頭下部14cと、中咽頭収縮筋大角咽頭上部14dと、中咽頭収縮筋大角咽頭下部14eと、下咽頭収縮筋甲状咽頭上部14fと、下咽頭収縮筋甲状咽頭下部14gと、下咽頭収縮筋輪状咽頭部14hとに、咽頭部14を区分けしている。
【0088】
上咽頭収縮筋舌咽頭部14aと、中咽頭収縮筋小角咽頭上部14bと、中咽頭収縮筋小角咽頭下部14cと、中咽頭収縮筋大角咽頭上部14dと、中咽頭収縮筋大角咽頭下部14eと、下咽頭収縮筋甲状咽頭上部14fと、下咽頭収縮筋甲状咽頭下部14gと、下咽頭収縮筋輪状咽頭部14hとについては、それぞれの領域内に筋粒子となる粒子が隙間なく配置され、粒子によるモデル化が行われている。
【0089】
そして、これら上咽頭収縮筋舌咽頭部14aと、中咽頭収縮筋小角咽頭上部14bと、中咽頭収縮筋小角咽頭下部14cと、中咽頭収縮筋大角咽頭上部14dと、中咽頭収縮筋大角咽頭下部14eと、下咽頭収縮筋甲状咽頭上部14fと、下咽頭収縮筋甲状咽頭下部14gと、下咽頭収縮筋輪状咽頭部14hとについて、それぞれ収縮筋が走行する方向Aa,Ab,Ac,Ad,Ae,Af,Ag,Ahは、解剖学的知見やVF画像等に基づき、嚥下時に、各筋収縮筋の部位ごとにそれぞれ生じる細かな筋収縮方向を線分として設定した後、筋粒子ごとに、近傍にある各線分の方向の重み付け平均をして求めたものである。なお、
図6の左側に示した、収縮筋が走行する方向Aa,Ab,Ac,Ad,Ae,Af,Ag,Ahは、説明の便宜上、筋線維方向のおおよその方向を示したものである。咽頭部14の各筋粒子1つ1つは、このような収縮筋が走行する方向Aa,Ab,Ac,Ad,Ae,Af,Ag,Ahに従って筋線維方向を定義している。
【0090】
上述した上咽頭収縮筋舌咽頭部14aと、中咽頭収縮筋小角咽頭上部14bと、中咽頭収縮筋小角咽頭下部14cと、中咽頭収縮筋大角咽頭上部14dと、中咽頭収縮筋大角咽頭下部14eと、下咽頭収縮筋甲状咽頭上部14fと、下咽頭収縮筋甲状咽頭下部14gと、下咽頭収縮筋輪状咽頭部14hと設けられた各筋粒子には、例えば、
図7に示すように、それぞれ嚥下時の時間経過に合わせて筋活動率αが設定されている。
【0091】
ここで、
図7は、本実施形態における嚥下シミュレーション装置1において筋活動率解析処理によって最終的に特定される筋活動率αの例を示す。本実施形態における嚥下シミュレーション装置1は、
図7に示すような、筋種ごとに設定する筋活動率αの値を、筋活動率解析処理を行うことにより、嚥下時の頭頸部器官の運動を正確に再現できる最適な値に設定できる点に特徴点を有する。本実施形態における嚥下シミュレーション装置1は、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける筋活動率αの値を変更しながら嚥下シミュレーションを繰り返し行い、嚥下シミュレーションを行うたびに評価関数を算出して、その都度算出した評価関数を解析することで最適な筋活動率αを決定している。
【0092】
(5)<動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>
筋活動率解析処理について説明する前に、まずは、筋活動率処理時に行われる、動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法について以下説明する。動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法には、2通りがあり、(i)内力及び外力を組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法と、(ii)内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法とがある。以下、順に説明する。
【0093】
なお、内力とは、粒子法により筋粒子に加わる弾性力fi,elasticと、筋粒子に加わる人工ポテンシャル力fi,artificialと、筋粒子に加わる粘性力fi,viscousとを言う。外力とは、筋粒子が他の筋粒子と接触した際に筋粒子に加わる接触力fi,contactと、筋粒子に加わる擬似経口摂取品からの流体力fi,interactionとを言う。
【0094】
(5-1)<内力及び外力を組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>
(5-1-1)<内力及び外力を組み込んだときの支配方程式>
この場合、嚥下シミュレーション装置1では、擬似経口摂取品を動的三次元頭頸部粒子モデル10cで嚥下させたときの各頭頸部器官の運動と、擬似経口摂取品の嚥下時の挙動と、を粒子法に基づいて三次元画像でシミュレーション解析することができる。
【0095】
本実施形態では、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける頭頸部器官の動作や、擬似経口摂取品の挙動を三次元画像内に表して嚥下シミュレーションを行う際、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける頭頸部器官の筋粒子を、ムーニー・リブリン(Mooney‐Rivlin)体として粒子法(例えば、ハミルトニアン粒子法:Hamiltonian MPS法)により運動解析部50で解析する。なお、ここでは、動的三次元頭頸部粒子モデル10cを形成する粒子のうち、主に筋粒子に着目して以下説明する。
【0096】
この際、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける各筋粒子の運動を決定する支配方程式は次の(1)式となる。
【数1】
…(1)
【0097】
ρは、筋粒子iの密度、viは、筋粒子iの速度ベクトル、添え字のiは、筋粒子iを識別するための識別子、tは時間、∂vi/∂tは、現在時刻における筋粒子iの加速度である。
【0098】
fi,elasticは、粒子法により筋粒子iに加わる弾性力である。fi,artificialは、筋粒子iに加わる人工ポテンシャル力である。fi,viscousは、筋粒子iに加わる粘性力である。fi,contactは、筋粒子iが他の筋粒子と接触した際に筋粒子iに加わる接触力である。fi,interactionは、筋粒子iに加わる擬似経口摂取品からの流体力である。以下、これらについて順番に説明する。なお、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの各筋粒子は、嚥下シミュレーション時、上記の(1)式から、各筋粒子の三次元画像内の位置や速度が求められ、得られた位置や速度に基づいて移動する。すなわち、各筋粒子は、嚥下シミュレーション時、単に筋線維方向に移動するわけではなく、上記の(1)式に基づいて求められた位置や速度に従って三次元画像内を移動する。
【0099】
<筋粒子iに加わる弾性力f
i,elastic>
ここで、ハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)では、筋粒子i及び他の筋粒子j間の現在時刻における相対位置ベクトルをr
ijとし、筋粒子i及び筋粒子j間の初期時刻0における相対位置ベクトルをr
0
i,jとした場合、相対位置ベクトルをr
ij、r
0
i,jを用いて、筋粒子iの変形勾配テンソルF
iを次の(2)式で求めることができる。なお、初期時刻0とは嚥下シミュレーションの開始時である0Sを示す。
【数2】
…(2)
【0100】
上記の円の中に×を設けた記号はテンソル積を示し、w
0
ijは、筋粒子i及び筋粒子j間の初期時刻0における重み関数である。A
iは、下記の(3)式で表される。
【数3】
…(3)
【0101】
また、筋粒子iに加わる弾性力f
i,elasticは、弾性ひずみポテンシャルエネルギーの総和W=Π:Fを微分することで求めることができ、下記の(4)式で表される。
【数4】
…(4)
【0102】
すなわち、筋粒子iに加わる弾性力f
i,elasticは下記の(5)式で表される。
【数5】
…(5)
【0103】
上記の(4)式のΠjは、筋粒子jにおける第1ピオラ‐キルヒホッフ(Piola‐Kirchhoff)応力テンソルである。Fjは、筋粒子jの変形勾配テンソルである。Ajは、筋粒子jに関する上記の(3)式である。
【0104】
S
iは、筋粒子iにおける第2ピオラ‐キルヒホッフ(Piola‐Kirchhoff)応力テンソルであり、筋粒子iに与えられる応力を示す。なお、S
jは、筋粒子jにおける第2ピオラ‐キルヒホッフ(Piola‐Kirchhoff)応力テンソルである。ここで、第2ピオラ‐キルヒホッフ応力テンソルSは下記の(6)式で表される。
【数6】
…(6)
【0105】
Spassiveは、他の筋粒子及び強制移動粒子の移動により受ける受動的な応力である受動的応力を表し、Sactiveは、筋線維方向に基づく能動的な収縮応力である能動的収縮応力を表す。
【0106】
S
i,activeは、筋粒子iにおける能動的収縮応力S
activeを示しており、下記の(7)式で表される。
【数7】
…(7)
【0107】
S
i,mは、下記の(8)式の演算式で表される。添え字のiは、筋粒子iを識別する識別子、添え字のmは、頭頸部器官の収縮筋の筋種を識別するために筋種ごとに規定された識別子である。本実施形態における頭頸部器官の収縮筋の筋種とは、咽頭部14における筋種であり、添え字のmは、上咽頭収縮筋舌咽頭部14aと、中咽頭収縮筋小角咽頭上部14bと、中咽頭収縮筋小角咽頭下部14cと、中咽頭収縮筋大角咽頭上部14dと、中咽頭収縮筋大角咽頭下部14eと、下咽頭収縮筋甲状咽頭上部14fと、下咽頭収縮筋甲状咽頭下部14gと、下咽頭収縮筋輪状咽頭部14hとのうちいずれかを示す。
【数8】
…(8)
【0108】
αmは、動的三次元頭頸部粒子モデル10cによる擬似経口摂取品の嚥下時に、筋種mにおける筋粒子の収縮応力の時間的変化を示した筋活動率を示す。本実施形態では、筋活動率変更部80によって値を適宜変更した筋活動率αmが設定される。
【0109】
なお、本実施形態では、筋活動率を示す符号として、その都度、着目する項目に応じて、α、αm、αt、αm
t、αk,0等の表記を適宜使い分けている。しかしながら、これら筋活動率α、筋活動率αm、筋活動率αt、筋活動率αm
t、筋活動率αk,0等で示す数値としては同じものを示す。
【0110】
fmaxは、筋活動率αmが最大値のときの最大の能動的収縮応力であり、flは、現在時刻における筋線維長に基づく能動的収縮応力の補正係数である。a0
i,mは、筋種mの筋粒子iに設定した初期時刻0の筋線維方向を示す。
【0111】
本実施形態では、筋活動率変更部80によって変更可能な筋活動率α
mは0≦α
m≦1とし、最大の能動的収縮応力f
maxは、α
m=1のときf
max=700kPaとしている。補正係数f
lは下記の(9)式により表される。
【数9】
…(9)
【0112】
なお、上記の(9)式において、I
4は下記の(10)式で表され、I
4
0は至適長状態を示す定数である。なお、C
iは筋粒子iの右コーシー・グリーン(Cauchy‐Green)変形テンソルである。
【数10】
…(10)
【0113】
次に受動的応力S
passiveについて説明する。受動的応力S
passiveは次の(11)式で表される。
【数11】
…(11)
【0114】
Wは下記の(12)式で表される。Cは、右コーシー・グリーン(Cauchy‐Green)変形テンソルであり、C=F
TFで表される。Fは変形勾配テンソルであり、F
TはFの転置行列を示す。
【数12】
…(12)
【0115】
上記の(12)式において、C1、C2及びD1はムーニー・リブリン(Mooney‐Rivlin)体の材料定数であり、I-
1はCの第1低減不変量であり、Jは、J=det Fである。
【0116】
<筋粒子iに加わる人工ポテンシャル力f
i,artificial>
筋粒子iの人工ポテンシャル力f
i,artificialは、ハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)による特異性のある変位モードとそれによる振動を抑制するものであり、変形勾配テンソルFの誤差を打ち消す方向に働くものである。この筋粒子iの人工ポテンシャル力f
i,artificialは下記の(13)式で表される。この(13)式のC
i
artは下記の(14)式で表される。
【数13】
…(13)
【数14】
…(14)
【0117】
なお、この人工ポテンシャル力fi,artificialの計算方法の詳細は、文献「Kikuchi, T., Michiwaki, Y., Koshizuka, S., Kamiya, T., and Toyama Y., “Numerical simulation of interaction between organs and food bolus during swallowing and aspiration,” Computers in Biology and Medicine, 80, (2017), pp. 114‐123.」と、文献「Kikuchi, T., Michiwaki, Y., Kamiya, T. et al. Comp. Part. Mech. (2015) 2: 247. “Human swallowing simulation based on videofluorography images using Hamiltonian MPS method”」とに開示されていることから、ここではその説明は省略する。
【0118】
<筋粒子iに加わる粘性力f
i,viscous>
筋粒子iに加わる粘性力f
i,viscousは、筋粒子iの速度を減衰させ、計算を安定化させるものであり、下記の(15)式で表される。
【数15】
…(15)
【0119】
ρは、筋粒子iの密度である。νelaは弾性体の粘度である。dは次元数である。λ及びn0はハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)の定数である。
【0120】
この粘性力fi,viscousの計算方法の詳細は、上記と同様の文献「Kikuchi, T., Michiwaki, Y., Koshizuka, S., Kamiya, T., and Toyama Y., “Numerical simulation of interaction between organs and food bolus during swallowing and aspiration,” Computers in Biology and Medicine, 80, (2017), pp. 114‐123.」に開示されていることから、ここではその説明は省略する。
【0121】
<筋粒子iに加わる接触力f
i,contact>
筋粒子iに加わる接触力f
i,contactは、筋粒子同士の接触力であり、垂直抗力f
i,norと摩擦力f
i,tanとを合わせたものとなる。ここでは、ペナルティ法によって壁面(接触する他の筋粒子jから決定した壁面)にめり込んだ筋粒子iに接触力を与える。他の物体との接触境界条件として適用されるペナルティ法では、他の物体に接触した筋粒子iに対してペナルティ力、すなわち反発力として下記の(16)式で表される垂直抗力f
i,norが筋粒子iに与えられる。
【数16】
…(16)
【0122】
kは、ペナルティ係数であり、pは、めり込み量であり、nは、垂直抗力f
i,norの単位方向ベクトルである。
図8に示すように、垂直抗力f
i,norは、壁面とめり込み量pに比例した大きさの力を、壁面の法線ベクトルnの方向へ与えるものである。
【0123】
また、摩擦力f
i,tanは、下記の(17)式で表される。
【数17】
…(17)
【0124】
ρiは、筋粒子iの密度であり、μtanは、摩擦係数であり、viw,tanは、筋粒子iと壁面の相対速度のうち、壁面の法線ベクトルnに垂直な成分である。
【0125】
このような接触力fi,contactの計算方法の詳細は、文献「菊地貴博, 道脇幸博, 越塚誠一, 神谷哲, 長田尭, 神野暢子, 外山義雄. 壁境界条件としてペナルティ法を導入したHamiltonian MPS 法による超弾性体モデルの単軸圧縮シミュレーション. 日本計算工学会論文集, 2014:20140010, 2014」に開示されていることから、ここではその説明は省略する。
【0126】
<筋粒子iに加わる擬似経口摂取品からの流体力fi,interaction>
ここでは、構造粒子(筋粒子)を壁粒子として流体解析を行い、構造粒子が流体粒子(擬似経口摂取品の粒子)に与える力の反作用力を、筋粒子iが流体粒子から受ける流体力fi,interactionとして与える。非圧縮性流体の支配方程式は、下記の(18)式で表すことができる。ここでは、嚥下させる擬似経口摂取品はニュートン流体としてE-MPS法(Explicit MPS法)を用いて解析する。
【0127】
筋粒子iに加わる擬似経口摂取品からの流体力f
i,interactionの支配方程式は下記の(18)式となる。
【数18】
…(18)
【0128】
ここで、上記の(18)式の右辺第1項は圧力勾配項であり、右辺第2項は粘性項であり、右辺第3項は重力項であり、右辺第4項は表面張力項である。
【0129】
vは流体(擬似経口摂取品)の速度、ρは流体の密度、Pは流体の圧力、νは流体の動粘性係数、gは重力加速度、fsurface tensionは表面張力である。上記の(18)式の右辺の重力加速度以外の各項は、流体粒子が壁粒子から受ける壁境界条件の影響を含んだ形で定式化されている。
【0130】
このような非圧縮性流体の支配方程式に関する計算方法の詳細は、その詳細については、文献「大地雅俊, 越塚誠一, 酒井幹夫. 自由表面流れ解析のためのMPS 陽的アルゴリズムの開発. 日本計算工学会論文集, 2010:20100013, 2010.」や、文献「鈴木幸人. 粒子法の高精度化とマルチフィジクスシミュレータに関する研究. 博士論文, 2007.」、文献「近藤雅裕, 越塚誠一, 滝本正人. MPS 法における粒子間ポテンシャル力を用いた表面張力モデル. 日本計算工学会論文集, 2007:20070021, 2007.」に開示されていることから、ここではその説明は省略する。
【0131】
なお、上記の(18)式の流体の圧力Pについて、流体から筋粒子iに加わる圧力P
iは下記の(19)式で表される。
【数19】
…(19)
【0132】
cは流体の音速、n
iは筋粒子iに対して他の全ての筋粒子及び流体粒子との間で重み関数の和をとったもので筋粒子iの粒子数密度と称するものである。n
0は筋粒子iの初期時刻0での粒子数密度である。▽P
iは下記の(20)式で表される。P
jは流体から筋粒子jに加わる圧力である。
【数20】
…(20)
【0133】
表面張力f
surface tensionは、下記の(21)式で表される。
【数21】
…(21)
【0134】
C
ST
ijはポテンシャル力の係数である。φは下記の(22)で表される。
【数22】
…(22)
【0135】
l0は初期最近接粒子間距離であり、reはポテンシャル力の影響半径である。
【0136】
(5-1-2)<内力及び外力を組み込んだ際のハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)による演算処理手順>
本実施形態における嚥下シミュレーション装置1では、上述した「(5-1-1)<内力及び外力を組み込んだときの支配方程式>」で説明した各式が、運動解析部50に記憶されている。嚥下シミュレーション装置1は、経口摂取品物性設定部40によって擬似経口摂取品の物性値が設定され、さらに、筋活動率変更部80によって筋活動率αmが設定されると、運動解析部50に記憶されている各式に基づいて動的三次元頭頸部粒子モデル10cの筋粒子の運動(筋粒子が移動する位置r及び速度v)や、擬似経口摂取品の挙動を算出することができる。
【0137】
嚥下シミュレーション装置1は、このような算出結果に基づいて、動的三次元頭頸部粒子モデル10cや動的三次元頭頸部粒子モデル10cが擬似経口摂取品を嚥下する嚥下シミュレーションを動画像により提示することができる。
【0138】
また、本実施形態では、各式に基づいて動的三次元頭頸部粒子モデル10cの筋粒子の運動(筋粒子が移動する位置rt´及び速度vt´(後述する))が算出されると、これらを用いて筋活動率αmを評価する評価関数を算出することができる。嚥下シミュレーション装置1を操作する開発者等は、筋活動率αmの値の変更と、各式に基づいた動的三次元頭頸部粒子モデル10cの筋粒子の運動(筋粒子が移動する位置rt´及び速度vt´)と、を利用して評価関数を算出し、得られた評価関数を解析することで、嚥下時における頭頸部器官の運動を正確に再現できる、筋活動率αmの値を特定している。
【0139】
まずは、上述した各式に基づいて、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの筋粒子の運動(筋粒子が移動する位置rt´及び速度vt´)を算出する嚥下シミュレーション時の演算処理手順について説明する。
【0140】
ここで、
図9は、ハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)を用いて動的三次元頭頸部粒子モデル10cで嚥下シミュレーションを行う際の演算処理手順を示したフローチャートである。なお、ここでは、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの所定の筋粒子iに着目して以下説明するが、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの各筋粒子に対してそれぞれ以下の演算処理が行われる。
【0141】
なお、動的三次元頭頸部粒子モデル10cに設定した強制移動粒子については、嚥下開始から嚥下終了までの間に移動する位置(三次元画像内の座標)が予め決められていることから、嚥下シミュレーション時における強制移動粒子の三次元画像内での移動は、下記の演算処理では特定されない。
【0142】
しかしながら、強制移動粒子についても下記の演算処理は行われる。その理由は、強制移動粒子において算出した応力等が、筋粒子や、他の粒子(強制移動粒子及び筋粒子以外の粒子)に影響を与えるためである。すなわち、強制移動粒子において算出した第2ピオラ‐キルヒホッフ応力テンソルが、例えば、筋粒子iの演算処理を行う際に、ステップS3の弾性力(上記の(5)式)の算出に影響を与える。また、強制移動粒子において算出した変形勾配テンソルが、例えば、筋粒子iの演算処理を行う際に、ステップS3の人工ポテンシャル力(上記の(13)式)の算出、及び、ステップS4の接触力の解析(上記の(16)式と(17)式)に影響を与える。
【0143】
また、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける、強制移動粒子及び筋粒子以外の粒子についても、下記の演算処理が行われるが、この際は、筋粒子で演算が行われる能動的収縮応力Sactiveの演算は行われない。すなわち、強制移動粒子及び筋粒子以外の粒子では、ステップS3において「弾性力」を求める際に、上述した能動的収縮応力Sactiveが存在しない演算が行われる。
【0144】
動的三次元頭頸部粒子モデル10cの筋粒子iの場合、始めに、ステップS1において、運動解析部50は、タイムステップ(時刻)tにおける動的三次元頭頸部粒子モデル10cの筋粒子iの位置rtと、速度vtとを仮定し、次のステップS2に移る。初期のステップS1では、位置rt=r0となり、これは動的三次元頭頸部粒子モデル10cの初期形状そのものであり、速度vt=v0は0となる。なお、ステップS10から戻った2回目以降のステップS1は、前のステップS9で求めた位置rt´と速度vt´を、位置rt及び速度vtとして用いる。
【0145】
ステップS2において、運動解析部50は、筋粒子iに加わる擬似経口摂取品からの流体力fi,interactionについて、上記の(18)式における右辺第2項の粘性項と、右辺第3項の重力項と、右辺第4項の表面張力項とを求め、次のステップS3に移る。なお、本運動解析は上記の(18)式の右辺を同時に求めず、ステップS2とステップS7に分離して求める解法であるため、上記の(18)式における右辺第1項の勾配圧力項はステップS7において求める。
【0146】
ステップS3において、運動解析部50は、構造解析として、筋粒子iに加わる弾性力fi,elasticを上記の(5)式に基づき算出し、筋粒子iに加わる人工ポテンシャル力fi,artificialを上記の(13)式に基づき算出し、筋粒子iに加わる粘性力fi,viscousを上記の(15)式に基づき算出して、次のステップS4に移る。
【0147】
ここで、本実施形態では、筋粒子iに加わる弾性力fi,elasticを算出する際に、上記の(6)式に基づいて受動的応力Spassiveと、筋線維方向に基づく能動的な収縮応力である能動的収縮応力Sactiveとを筋粒子iに反映させることができ、擬似経口摂取品の嚥下時における頭頸部器官の筋粒子iの運動を従来よりも一段と正確に再現することができる。
【0148】
ステップS4において、運動解析部50は、接触解析として、筋粒子iに加わる接触力fi,contactを上記の(16)式及び(17)式に基づき算出し、次のステップS5に移る。
【0149】
ステップS5において、運動解析部50は、筋粒子iに加わる弾性力fi,elasticと、筋粒子iに加わる人工ポテンシャル力fi,artificialと、筋粒子iに加わる粘性力fi,viscousと、筋粒子iに加わる接触力fi,contactと、さらに、筋粒子iに加わる擬似経口摂取品からの流体力fi,interactionのうち(18)式の右辺第2項の粘性項と、右辺第3項の重力項と、右辺第4項の表面張力項と、から、上記の(1)式を基に筋粒子iの仮の加速度∂vi/∂t´を算出し、得られた算出結果から筋粒子iの仮の位置r´と速度v´とを求め、次のステップS6に移る。
【0150】
ステップS6において、運動解析部50は、仮の位置r´を利用して上記の(19)式から圧力Piを求め、次のステップS7に移る。ステップS7において、運動解析部50は、ステップS6で求めた圧力Pi及び上記の(20)式を用いて、上記の(18)式における右辺第1項の勾配圧力項を求め、次のステップS8に移る。
【0151】
これにより、運動解析部50は、ステップS7で上記の(18)式における右辺第1項の勾配圧力項を用いることで、上記の(18)式で表された、筋粒子iに加わる擬似経口摂取品からの流体力fi,interactionを求めることができる。
【0152】
ステップS8において、運動解析部50は、剛体計算として、筋粒子iに加わる弾性力fi,elasticと、筋粒子iに加わる人工ポテンシャル力fi,artificialと、筋粒子iに加わる粘性力fi,viscousと、筋粒子iに加わる接触力fi,contactと、筋粒子iに加わる擬似経口摂取品からの流体力fi,interactionとを用い、上記の(1)式から筋粒子iの加速度∂vi/∂tを算出し、次のステップS9に移る。
【0153】
ステップS9において、運動解析部50は、上記の(1)式から算出した筋粒子iの加速度∂vi/∂tを基に、筋粒子iの位置rt´と速度vt´を算出し、ステップS5で算出した仮の位置r´と速度v´とを、このステップS9で算出した位置rt´と速度vt´とに修正して、次のステップS10に移る。
【0154】
ステップS10において、運動解析部50は、タイムステップtを進めt=t+1(t←t+1)として再びステップS1に戻り、上述したステップS1~ステップS9の処理を行い、次の時刻であるタイムステップ(t+1)のときの筋粒子iの位置rt+1´と速度vt+1´とをステップS9で求める。このようにして、嚥下シミュレーション装置1では、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける各頭頸部器官の運動と、擬似経口摂取品の嚥下に係る挙動とを、粒子法を用いて三次元画像内で解析することができ、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける嚥下の様子を表示部4の表示画面に動画像として提示できる。
【0155】
運動解析部50は、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの嚥下開始から嚥下終了までの嚥下シミュレーションを行う場合、嚥下開始から嚥下終了までの時刻で上述したステップS1~S10を繰り返し行う。なお、このうち、後述する筋活動率解析部91で評価関数を算出するための嚥下シミュレーションの解析結果とは、ステップS1~S10が繰り返し行われる演算処理サイクルで得られる結果のうち、ステップS1~S9の1サイクルの演算処理SRaで得らえる結果(ステップS9で算出した位置rt´と速度vt´)を言う。
【0156】
(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>
(5-2-1)<内力のみを組み込んだときの支配方程式>
次に、内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法について以下説明する。この場合、嚥下シミュレーション装置1では、三次元画像内に擬似経口摂取品を設定せずに、動的三次元頭頸部粒子モデル10cでの嚥下時の各頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて三次元画像でシミュレーション解析する。嚥下シミュレーション装置1では、三次元画像内に擬似経口摂取品が設定されていないため、擬似経口摂取品の挙動を、視覚を介して解析できないが、各頭頸部器官の嚥下時の運動については小さな計算処理負担で比較的高速に解析することができる。
【0157】
本実施形態でも、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける頭頸部器官の動作を三次元画像内に表して嚥下シミュレーションを行う際、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける頭頸部器官の筋粒子を、ムーニー・リブリン(Mooney‐Rivlin)体として粒子法(例えば、ハミルトニアン粒子法:Hamiltonian MPS法)により運動解析部50で解析する。
【0158】
この際、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける各筋粒子の運動を決定する支配方程式は下記の(23)式となる。
【数23】
…(23)
【0159】
すなわち、三次元画像内に擬似経口摂取品を設定せずに、動的三次元頭頸部粒子モデル10cでの嚥下時の各頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて三次元画像でシミュレーション解析する際は、接触力fi,contactと流体力fi,interactionの外力の演算項(上述した(1)式参照)を設けずに、弾性力fi,elasticと人工ポテンシャル力fi,artificialと粘性力fi,viscousの内力の演算項のみで、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける各筋粒子の運動を決定する。
【0160】
なお、上記の(23)式における弾性力fi,elasticと人工ポテンシャル力fi,artificialと粘性力fi,viscousは、上述した「(5-1-1)<内力及び外力を組み込んだときの支配方程式>」において、それぞれ説明した内容となるため、ここでは重複説明を避けるため、その説明は省略する。
【0161】
(5-2-2)<内力のみを組み込んだ際のハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)による演算処理手順>
次に、上記の(23)式を用いて行われる、ハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)による演算処理手順について以下説明する。本実施形態における嚥下シミュレーション装置1では、上述した「(5-2-1)<内力のみを組み込んだときの支配方程式>」で説明した各式が、運動解析部50に記憶されている。
【0162】
嚥下シミュレーション装置1は、筋活動率変更部80によって筋活動率αmが設定されると、運動解析部50に記憶されている各式に基づいて動的三次元頭頸部粒子モデル10cの筋粒子の運動(筋粒子が移動する位置rt´及び速度vt´)を算出することができる。嚥下シミュレーション装置1は、このような算出結果に基づいて、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの嚥下シミュレーションを動画像により提示することができる。
【0163】
また、本実施形態でも、各式に基づいて動的三次元頭頸部粒子モデル10cの筋粒子の運動(筋粒子が移動する位置rt´及び速度vt´)が算出されると、これらを用いて筋活動率αmを評価する評価関数を算出することができる。本実施形態では、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける筋活動率αの値の変更と、各式に基づいた動的三次元頭頸部粒子モデル10cの筋粒子の運動(筋粒子が移動する位置rt´及び速度vt´)と、を利用して評価関数を算出し、得られた評価関数を解析することで、嚥下時における頭頸部器官の運動を正確に再現できる、筋活動率αmの値を特定している。
【0164】
ここで、
図9との対応部分に同一符号を示す
図10は、上記の(23)式を利用し、ハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)を用いて動的三次元頭頸部粒子モデル10cで嚥下シミュレーションを行う際の演算処理手順を示したフローチャートである。
【0165】
なお、ここでは、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの所定の筋粒子iに着目して以下説明するが、強制移動粒子や、他の粒子(強制移動粒子及び筋粒子以外の粒子)については、上述した「(5-1-2)<内力及び外力を組み込んだ際のハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)による演算処理手順>」にて説明した内容と同じであるため、その説明は省略する。
【0166】
動的三次元頭頸部粒子モデル10cの筋粒子iの場合、始めに、ステップS1において、運動解析部50は、タイムステップ(時刻)tにおける動的三次元頭頸部粒子モデル10cの筋粒子iの位置rtと、速度vtとを仮定し、次のステップS3に移る。初期のステップS1では、位置rt=r0となり、これは動的三次元頭頸部粒子モデル10cの初期形状そのものであり、速度vt=v0は0となる。
【0167】
次に、ステップS3において、運動解析部50は、構造解析として、筋粒子iに加わる弾性力fi,elasticを上記の(5)式に基づき算出し、筋粒子iに加わる人工ポテンシャル力fi,artificialを上記の(13)式に基づき算出し、筋粒子iに加わる粘性力fi,viscousを上記の(15)式に基づき算出して、次のステップS8に移る。
【0168】
ステップS8において、運動解析部50は、剛体計算として、筋粒子iに加わる弾性力fi,elasticと、筋粒子iに加わる人工ポテンシャル力fi,artificialと、筋粒子iに加わる粘性力fi,viscousとを用い、上記の(23)式から筋粒子iの加速度∂vi/∂tを算出し、次のステップS9に移る。
【0169】
ステップS9において、運動解析部50は、上記の(23)式から算出した筋粒子iの加速度∂vi/∂tを基に、筋粒子iの位置rt´と速度vt´を算出し、ステップS1の筋粒子iの位置rtと速度vtとを、このステップS9で算出した位置rt´と速度vt´とに修正して、次のステップS10に移る。
【0170】
ステップS10において、運動解析部50は、タイムステップtを進めtをt+1(t←t+1)として再びステップS1に戻り、上述したステップS1、S3、S8、S9の処理を行い、次の時刻であるタイムステップ(t+1)のときの筋粒子iの位置rt+1´と速度vt+1´をステップS9で求める。このようにして、嚥下シミュレーション装置1では、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける各頭頸部器官の運動と、擬似経口摂取品の嚥下に係る挙動とを、粒子法を用いて三次元画像内で解析することができ、動的三次元頭頸部粒子モデル10cにおける嚥下の様子を表示部4の表示画面に動画像として提示できる。
【0171】
運動解析部50は、動的三次元頭頸部粒子モデル10cの嚥下開始から嚥下終了までの嚥下シミュレーションを行う場合、嚥下開始から嚥下終了までの時刻で上述したステップS1~S10を繰り返し行う。この「(5-2-2)<内力のみを組み込んだ際のハミルトニアン粒子法(Hamiltonian MPS法)による演算処理手順>」を用いる場合、このうち、後述する筋活動率解析部91で評価関数を算出する際に使用する嚥下シミュレーションの解析結果とは、繰り返し行われるステップS1、S3、S8~S10のサイクルのうち、ステップS1、S3、S8~S10の1サイクルの演算処理SRbで得らえる結果(ステップS9で算出した位置rt´と速度vt´)を言う。
【0172】
(6)<頭頸部器官を簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル>
上述した実施形態においては、嚥下シミュレーションを行う動的三次元頭頸部粒子モデルとして、頭頸部器官の形状や相対的な大きさ等を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデル10cを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、
図11に示すように、頭頸部器官を簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aを適用してもよい。
【0173】
図11に示すような簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aでは、例えば、舌、口蓋及び喉頭等の複雑な頭頸部器官の描画を省略しており、嚥下時の舌骨52の挙動を解析するために、頭蓋骨51a,51bと、舌骨52と、下顎骨53と、胸骨54と、茎突舌骨筋56a,56bと、オトガイ舌骨筋57と、胸骨舌骨筋58とから構成されている。
【0174】
また、簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aでは、頭蓋骨51a,51bと、舌骨52と、下顎骨53と、胸骨54と、茎突舌骨筋56a,56bと、オトガイ舌骨筋57と、胸骨舌骨筋58とについても、それぞれの形状や相対的な大きさを忠実に再現しておらず、単なる直方体や線状体などの単純な幾何学的図形により形成されている。
【0175】
これにより、動的三次元頭頸部粒子モデル50aでは、頭蓋骨51a,51b、舌骨52及び下顎骨53の嚥下時の挙動や、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の嚥下時の伸縮運動などを一段と容易に確認することができる。
【0176】
なお、本実施形態では、嚥下時の舌骨52の挙動を解析するため、嚥下時に舌骨52の挙動に影響を与える、頭蓋骨51a,51bと、下顎骨53と、胸骨54と、茎突舌骨筋56a,56bと、オトガイ舌骨筋57と、胸骨舌骨筋58とを設けたが、本発明はこれに限らない。例えば、嚥下時の喉頭蓋又は甲状軟骨等の他の頭頸部器官の挙動を解析してもよく、この場合には、喉頭蓋又は甲状軟骨等の挙動に影響を与える頭頸部器官を設けることで、嚥下時の喉頭蓋又は甲状軟骨等の挙動を、単純な幾何学的図形の挙動により解析することができる。
【0177】
図11に示した動的三次元頭頸部粒子モデル50aでは、三次元画像内に複数の固定粒子により胸骨54が直方体状に形成されており、当該胸骨54が三次元画像内の下方所定位置に固定された状態で配置されている。頭蓋骨51a,51bは、三次元画像内に複数の強制移動粒子により直方体状に形成されており、三次元画像内の上方所定位置で、動的三次元頭頸部粒子モデル50aの身体左右方向(X軸方向)に並んで配置されている。下顎骨53は、三次元画像内に複数の強制移動粒子により直方体状に形成されており、三次元画像内において、胸骨54及び頭蓋骨51a,51bの間であって、動的三次元頭頸部粒子モデル50aの身体前後方向(Y軸方向)においてこれら胸骨54及び頭蓋骨51a,51bよりも身体前方側に配置されている。
【0178】
舌骨52は、三次元画像内に複数の粒子(強制移動粒子及び筋粒子以外の粒子)により直方体状に形成されており、三次元画像内において、頭蓋骨51a,51b及び下顎骨53間と、頭蓋骨51a,51b及び胸骨54間と、下顎骨53及び胸骨54間とにそれぞれ位置するように配置され、嚥下開始時に動的三次元頭頸部粒子モデル50aのほぼ中心的位置に配置されている。また、舌骨52は、動的三次元頭頸部粒子モデル50cの身体左右方向(X軸方向)に長手方向を有しており、長手方向の長さが、頭蓋骨51a,51b間の距離よりも短く選定されている。
【0179】
茎突舌骨筋56a,56bは、三次元画像内に複数の筋粒子により線状・棒状に形成されており、茎突舌骨筋56aは、舌骨52の一方の端部と一方の頭蓋骨51aとを連接し、茎突舌骨筋56bは、舌骨52の他方の端部と他方の頭蓋骨51bとを連接する。
【0180】
オトガイ舌骨筋57は、三次元画像内に複数の筋粒子により線状・棒状に形成されており、舌骨52と下顎骨53とを連接する。胸骨舌骨筋58は、三次元画像内に複数の筋粒子により線状・棒状に形成されており、舌骨52と胸骨54とを連接する。
【0181】
動的三次元頭頸部粒子モデル50aにおいても、嚥下時の舌骨52等の挙動を精度よく再現するためには、嚥下時に茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の長さが短縮する運動を再現することが望ましい。そこで、本実施形態における動的三次元頭頸部粒子モデル50aでは、頭蓋骨51a,51b及び下顎骨53の強制移動粒子に対して単に剛体的な強制変位を与えるだけでなく、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の筋種ごとに三次元画像内で各筋粒子に筋線維方向を設定し、かつ筋線維方向に基づく最適な収縮応力を筋活動率により筋粒子に与え、動的三次元頭頸部粒子モデル50aにおける嚥下時の舌骨52等の挙動を精度よく再現している。
【0182】
なお、このような動的三次元頭頸部粒子モデル50aは以下の手順により作製することができる。動的三次元頭頸部粒子モデル50aは、例えば、解剖学的知見やVF画像、4DCT画像等に基づき、直方体状の頭蓋骨51a,51b、舌骨52、下顎骨53及び胸骨54の位置を三次元画像内で決定する。そして、これら頭蓋骨51a,51b、舌骨52、下顎骨53及び胸骨54の位置から、嚥下時に伸縮する線状・棒状の茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の三次元画像内での位置を決定し、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の線状・棒状の領域内に存在している粒子を探索する。
【0183】
茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の領域内にある粒子を筋粒子とし、三次元画像の仮想空間内において、筋種ごとに筋粒子に筋線維方向を定義する。なお、筋粒子に設定する筋線維方向については、上述した実施形態と同様に、解剖学的知見やVF画像、4DCT画像等に基づき、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の領域内の空間内に、嚥下時に筋収縮が生じている方向を線分として複数設定し、筋粒子ごとに、近傍にある各線分の方向の重み付け平均を筋線維方向としている。
【0184】
ただし、筋線維方向の求め方は、この手法である必要はなく、例えば、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の領域内に定義した全線分を用いて、放射基底関数(Radial Basis Function)補間を行うことでも、より滑らかに空間分布する、筋線維方向を得ることができる。
【0185】
また、動的三次元頭頸部粒子モデル50aにおいても、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の筋種ごとに生じる、筋粒子の収縮応力の時間的変化を、筋活動率として設定し、筋活動率により嚥下時の収縮応力の大きさを設定している。なお、本実施形態の嚥下シミュレーション装置1は、後述する筋活動率解析処理によって評価関数を算出し、当該評価関数に基づいてこの筋活動率の値を決定することができる。
【0186】
ここで、
図12は、
図11に示した動的三次元頭頸部粒子モデル50aにおいて、頭蓋骨51a,51b及び下顎骨53の強制移動粒子に対して嚥下時の挙動を設定し、また、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の筋粒子に対して最適な筋活動率を設定したときの動的三次元頭頸部粒子モデル50aの状態変化を示した概略図である。
【0187】
図12では、嚥下開始から約0.70S後の動的三次元頭頸部粒子モデル50a1と、嚥下開始から約1.40S後の動的三次元頭頸部粒子モデル50a2と、嚥下開始から約1.90S後の動的三次元頭頸部粒子モデル50a3と、嚥下開始から約2.37S後の動的三次元頭頸部粒子モデル50a4とを示す。
【0188】
このように、動的三次元頭頸部粒子モデル50aでは、頭蓋骨51a,51b及び下顎骨53の強制移動粒子に対する嚥下時の挙動の設定と、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の筋粒子に対する筋活動率αの最適な設定と、を行うことで、嚥下時における舌骨52等の正確な挙動を再現させることができる。
【0189】
(7)<筋活動率解析処理>
次に、本実施形態における特徴的事項である、評価関数を利用して筋活動率を解析する筋活動率解析処理について以下説明する。なお、ここでは、
図11に示した簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aを一例に、当該動的三次元頭頸部粒子モデル50aにおいて嚥下時の舌骨52の挙動を正確に再現する際の筋活動率解析処理について説明する。
【0190】
嚥下シミュレーション装置1では、上述した動的三次元頭頸部粒子モデル50aを三次元画像内に作製した後に、動的三次元頭頸部粒子モデル50aにおける舌骨52の嚥下時の挙動を正確に再現するために、筋種ごとに筋粒子の筋活動率を最適な値に設定する必要がある。
【0191】
嚥下シミュレーション装置1では、このような筋活動率の値を決定するために、筋種ごとに所定の値の筋活動率を設定した後、当該筋活動率を設定した動的三次元頭頸部粒子モデル50aで、嚥下シミュレーション時の、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行い、得られた演算処理結果を、嚥下シミュレーションの解析結果として利用して評価関数を算出する。
【0192】
なお、頭頸部器官を簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50cでは、擬似経口摂取品が通過する各頭頸部器官内の経路についても簡略化している。そのため、頭頸部器官を簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50cを用いて嚥下シミュレーションを行う場合には、三次元画像内に擬似経口摂取品を設定せずに、嚥下時の各頭頸部器官の運動のみを粒子法に基づいて三次元画像でシミュレーション解析することになる。そのため、動的三次元頭頸部粒子モデル50aでは、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従った嚥下シミュレーションが行われる。
【0193】
嚥下シミュレーション装置1では、変更した筋活動率の値と、筋活動率の値を変更した動的三次元頭頸部粒子モデル50aで行われる、粒子法による1サイクルの演算処理SRb(
図10)の結果(1サイクルの演算処理結果)と、に基づいて評価関数を算出し、得られた評価関数を解析することで、嚥下時における舌骨52の挙動を正確に再現できる筋活動率を特定している。
【0194】
ここで、動的三次元頭頸部粒子モデル50aの筋活動率を解析する筋活動率解析処理には、2つの手法がある。第1の手法による筋活動率解析処理は、動的三次元頭頸部粒子モデル50aを使用した嚥下シミュレーション時の経過時間及び筋粒子の速度を考慮せずに、嚥下シミュレーション時の三次元画像内の筋粒子の位置に基づいて評価関数を算出し、この評価関数の解析結果から、筋種ごとに最適な筋活動率を求めるものである。
【0195】
一方、第2の手法による筋活動率解析処理は、動的三次元頭頸部粒子モデル50aを使用した嚥下シミュレーション時の三次元画像内での筋粒子の位置に加えて、嚥下シミュレーション時の経過時間及び筋粒子の速度についても考慮して評価関数を算出し、この評価関数の解析結果から、筋種ごとに筋粒子の最適な筋活動率を求めるものである。以下、第1の手法による筋活動率解析処理と、第2の手法による筋活動率解析処理とについて順に説明する。
【0196】
(7-1)<第1の手法による筋活動率解析処理>
図13は、上述した第1の手法による筋活動率解析処理手順を示したフローチャートである。この場合、嚥下シミュレーション装置1では、
図13に示すように、開始ステップからサブルーチンSR1に移り、手動設定処理を行った後、次のサブルーチンSR2に移る。嚥下シミュレーション装置1では、サブルーチンSR2で静的最適化処理を行い、最終的に、筋種ごとに最適な筋活動率を特定することができる。以下、サブルーチンSR1の手動設定処理と、サブルーチンSR2の静的最適化処理とについて順に説明する。
【0197】
(7-1-1)<手動設定処理>
この場合、嚥下シミュレーション装置1では、先ず動的三次元頭頸部粒子モデル50aの筋種ごとに、嚥下シミュレーション時に経時変化する筋活動率αt(tは、嚥下シミュレーションの開始からの時刻を示す)の最適な初期値が、開発者等による推測や経験から手動により設定される。
【0198】
嚥下シミュレーション装置1では、手動設定処理により開発者等によって最適な筋活動率αtが初期値として動的三次元頭頸部粒子モデル50aに設定されると、運動解析部50によって粒子法による解析が行われ、解析結果として、嚥下開始から嚥下終了までの動的三次元頭頸部粒子モデル50aの各頭頸部器官の運動を再現した嚥下シミュレーションが生成される。これにより、嚥下シミュレーション装置1では、嚥下開始から嚥下終了までの嚥下シミュレーションとして、頭蓋骨51a,51b、舌骨52、下顎骨53、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の大まかな基本的運動を再現した動画像を得ることができる。
【0199】
なお、この実施形態では、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従って、嚥下開始から嚥下終了までの間、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを繰り返し行い、嚥下開始から嚥下終了までの動的三次元頭頸部粒子モデル50aの運動を再現する処理することを、単に、嚥下開始から嚥下終了までの嚥下シミュレーションと称する。ここで、嚥下開始から嚥下終了までの嚥下シミュレーションの解析結果として得られる動画像は、嚥下開始から嚥下終了までの間、時系列に並ぶ複数のフレーム画像(三次元画像とも称する)から構成されている。
【0200】
図14は、筋種ごとに筋活動率α
tの任意の値を手動で設定するときの動的三次元頭頸部粒子モデル50b1,50b2,50b3を示した概略図である。
【0201】
図14における「50b1」は、生成した動画像のうち、嚥下シミュレーションを開始してから0.27S後に得られる8フレーム目のフレーム画像内に写る動的三次元頭頸部粒子モデルである。「50b2」は、生成した動画像のうち、嚥下シミュレーションを開始してから1.33S後に得られる40フレーム目のフレーム画像内に写る動的三次元頭頸部粒子モデルである。「50b3」は、生成した動画像のうち、嚥下シミュレーションを開始してから2.10S後に得られる63フレーム目のフレーム画像内に写る動的三次元頭頸部粒子モデルである。なお、このようなフレーム画像は、仮想三次元空間内において静止している動的三次元頭頸部粒子モデル50b1,50b2,50b3が写っており、画像内の視点を変えることで様々な角度から動的三次元頭頸部粒子モデル50b1,50b2,50b3を表示させることができる。
【0202】
嚥下シミュレーション装置1は、手動設定処理時、先ずは、開発者が入力部81を介して入力する操作命令に従い、動画像の中から複数のフレーム画像を所定間隔で任意に抽出してゆく。嚥下シミュレーション装置1は、各フレーム画像内でそれぞれ理想的な舌骨の位置を、被験者の嚥下時に得たVF画像や4DCT画像を基に特定し、各フレーム画像内でそれぞれ特定した理想的な舌骨の位置に、ターゲット像52aをそれぞれ描画する。なお、このような各フレーム画像内へのターゲット像52aの描画は、頭頸部モデリング部10により行われる。
【0203】
例えば、
図14に示した8フレーム目のフレーム画像、40フレーム目のフレーム画像及び63フレーム目のフレーム画像では、いずれも舌骨52の位置がターゲット像52aの位置とずれており、嚥下シミュレーションによる舌骨52の挙動が、実際に被験者が嚥下を行った際の舌骨の挙動とは異なっていることを示唆している。
【0204】
ここで、嚥下シミュレーション装置1では、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58にそれぞれ設定されている筋活動率αtの値を変更することで、嚥下シミュレーション時、これら茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の挙動が変わり、フレーム画像内の仮想三次元空間で舌骨52の位置を修正することができる。
【0205】
そこで、開発者は、動画像から抽出したフレーム画像ごとに、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58にそれぞれ設定されている筋活動率αtの値を変更してゆき、各フレーム画像において舌骨52の位置がターゲット像52aの位置に近づくようにする。
【0206】
例えば、嚥下シミュレーション開始から時刻0.27S後に得られる8フレーム目のフレーム画像において、舌骨52の位置をターゲット像52aの位置に近づかせる場合には、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58にそれぞれ個別に設定されている筋活動率α0.27(嚥下シミュレーション開始から時刻0.27S後での筋活動率)の値を変更する。
【0207】
そして、嚥下シミュレーション装置1において、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58のそれぞれの筋活動率α
0.27の値を変更した動的三次元頭頸部粒子モデル50aを用いて、嚥下シミュレーション開始から時刻0.27S後での嚥下シミュレーション(粒子法による解析)を行う。具体的には、嚥下シミュレーション開始から時刻0.27S後での、粒子法による1サイクルの演算処理SRb(
図10)を行い、嚥下シミュレーション開始から時刻0.27S後における茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の各位置を算出する。これにより、8フレーム目のフレーム画像内における舌骨52の位置は、嚥下シミュレーション開始から時刻0.27S後における茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の各位置に応じた位置に移動する。
【0208】
開発者は、ターゲット像52aを描画した8フレーム目のフレーム画像に基づいて、舌骨52の位置がターゲット像52aの位置とずれているか否かを判断する。このようにして、開発者は、8フレーム目のフレーム画像において舌骨52の位置がターゲット像52aの位置に近づくまで、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の筋活動率α
0.27の値の変更と、当該筋活動率α
0.27の値を変更した動的三次元頭頸部粒子モデル50aを用いた、嚥下シミュレーション開始から時刻0.27S後での、粒子法による1サイクルの演算処理SRb(
図10)とを、舌骨52の位置がターゲット像52aの位置に近づくまで繰り返し行う。
【0209】
なお、このような処理は、例えば、動画像から抽出した、嚥下シミュレーション開始から時刻1.33S後の40フレーム目のフレーム画像や、嚥下シミュレーション開始から時刻2.10S後の63フレーム目のフレーム画像等においても行われる。
【0210】
その後、動画像から抽出したフレーム画像毎に、手動設定処理によって筋活動率αtの値が設定されると、手動設定処理により筋活動率αtの値を設定したフレーム画像間にある、筋活動率αtの値を変更していない他のフレーム画像について、線形補間によって筋活動率αtの値を算出する。
【0211】
例えば、8フレーム目のフレーム画像においてオトガイ舌骨筋57の筋活動率α0.27(嚥下シミュレーション開始から時刻0.27Sでの筋活動率)の値を手動設定処理により設定し、40フレーム目のフレーム画像においてオトガイ舌骨筋57の筋活動率α1.33(嚥下シミュレーション開始から時刻1.33Sでの筋活動率)の値を手動設定処理により設定した場合、8フレーム目から40フレーム目までの間にある9フレーム目から39フレーム目までの他のフレーム画像の筋活動率αtは、筋活動率α0.27と筋活動率α1.33との値から線形補間により算出した値が設定される。
【0212】
但し、このような手動設定処理では、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の筋活動率αtの値を、開発者による直観と推察を基に設定していることから、舌骨52とターゲット像52aとを完全に一致させることは困難であり、そのため、開発者は、舌骨52がターゲット像52aにある程度近づけた状態まで手動設定処理を行う。
【0213】
次に、上述した手動設定処理について
図15に示したフローチャートを用いて説明する。
図15は、
図13のサブルーチンSR1の手動設定処理手順を示したフローチャートである。この場合、嚥下シミュレーション装置1は、筋種(ここでは、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58)ごとに筋活動率α
tに初期値が設定された動的三次元頭頸部粒子モデル50aを用いて嚥下シミュレーションが行われ、嚥下開始から嚥下終了までの嚥下シミュレーションの解析結果である動画像が生成されると、ステップS11において、動画像を構成する複数のフレーム画像の中から所定のタイミングで1つのフレーム画像を抽出し、次のステップS12に移る。
【0214】
ステップS12において、嚥下シミュレーション装置1は、被験者に嚥下させたときに得られた頭頸部器官のVF画像や4DCT画像を表示部4に表示し、被験者の嚥下時における舌骨の位置を開発者に提示する。ステップS12において、嚥下シミュレーション装置1は、これらVF画像や4DCT画像に基づいて、ステップS11で抽出したフレーム画像内で理想的な舌骨の位置を開発者に特定させ、開発者に対して、理想的な舌骨の位置を示すターゲット像52aをフレーム画像に描画させ、次のステップS13に移る。なお、このような各フレーム画像内へのターゲット像52aの描画は、頭頸部モデリング部10により行われる。
【0215】
ステップS13において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS11で抽出したフレーム画像のタイミングで、動的三次元頭頸部粒子モデル50aの筋種(ここでは、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58)ごとに設定されている筋活動率αtを開発者により変更させ、次のサブルーチンSR5に移る。
【0216】
なお、この際、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS11で抽出した各フレーム画像のタイミングで筋種ごとに設定されている筋活動率αtの値を表示部4に表示させ、開発者に対して筋活動率αtの値を確認させる。筋活動率αtの値の変更は、開発者が入力部81を操作して所定の数値が入力され、筋活動率変更部80により変更される。
【0217】
サブルーチンSR5において、嚥下シミュレーション装置1は、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、ステップS1で抽出したフレーム画像のタイムステップ(時刻)tでの、粒子法による1サイクルの演算処理SRb(
図10)を、運動解析部50によって行い、次のステップS14に移る。
【0218】
これにより、嚥下シミュレーション装置1では、サブルーチンSR5において、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行うことで、筋粒子iの位置r
t´と、速度v
t´(
図10におけるステップS9)とを求めることができる。
【0219】
ステップS14では、サブルーチンSR5を行うことで動的三次元頭頸部粒子モデル50aの粒子(ここでは、筋粒子と、強制粒子と、それ以外の粒子)が動く際、これら全粒子の移動量が小さいか否かを開発者等による目視により確認し、再び、サブルーチンSR5に示す、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行うか否かを判断する。
【0220】
動的三次元頭頸部粒子モデル50aを構成する全粒子の移動量が大きいと開発者等が判断した場合には、粒子法による1サイクルの演算処理SRbが必要であるとし、次のステップS15に移る。ステップS15において、嚥下シミュレーション装置1は、次に行うサブルーチンSR5でタイムステップ(時刻)tで仮定する筋粒子iの位置r
tと速度v
t(
図10のステップS1)を、前のサブルーチンSR5で算出した筋粒子iの位置r
t´と速度v
t´とに置き換え(以下、更新とも称する)、再びサブルーチンSR5に移る。
【0221】
このようにして、開発者等の主観によって、動的三次元頭頸部粒子モデル50aを構成する全粒子の移動量が小さくなったと、開発者等が判断するまで、上述したサブルーチンSR5、ステップS14、ステップS15の処理を繰り返す。開発者等の主観によって、動的三次元頭頸部粒子モデル50aを構成する全粒子の移動量が小さくなったと開発者等が判断すると、粒子法による1サイクルの演算処理SRbは必要ないとして、次のステップS16に移る。
【0222】
ステップS16において、開発者には、嚥下シミュレーション装置1により、粒子法による1サイクルの演算処理SRbの結果として、筋活動率αtの値を変更したことで舌骨52の位置が移動したフレーム画像が提示される。これにより、ステップS16において、開発者は、ターゲット像52aを描画したフレーム画像内で、舌骨52の位置とターゲット像52aの位置とが近似しているかを目視により確認し、筋活動率αtの最適化設定がされているか否かを判断する。
【0223】
ステップS16において否定結果が得られると、このことは、ターゲット像52aを描画したフレーム画像において、舌骨52の位置とターゲット像52aの位置とが大きくずれていることを示しており、この場合、フレーム画像において舌骨52の位置がターゲット像52aの位置に近づくまで、上述したステップS13、サブルーチンSR5及びステップS14~ステップS16の処理を繰り返す。
【0224】
一方、ステップS16において肯定結果が得られると、このことは、フレーム画像において舌骨52の位置がターゲット像52aの位置にある程度近づいた状態となったことを示しており、このとき、上述した手動設定処理手順を終了する。このような手動設定処理手順は、動画像から抽出したフレーム画像ごとに行われる。そして、動画像から所定のタイミングで抽出した全てのフレーム画像に対して手動設定処理が行われると、動画像から抽出していない他のフレーム画像の筋活動率αtについて、手動設定処理で特定した筋活動率αtを利用して線形補間が行われる。
【0225】
例えば、
図16は、上述した手動設定処理により最適化した、筋活動率α
m
t(ここでの表記は、mは筋種を示し、tは時刻を示す)の一例を示した表である。ここでは、筋種として筋1と筋2との2つの筋種を一例として示しており、嚥下シミュレーションの解析結果である動画像から抽出したフレーム画像を「キーフレーム」としている。
図16中、キーフレーム「1.」は嚥下シミュレーションの開始から0.1S後のフレーム画像であり、キーフレーム「2.」は嚥下シミュレーションの開始から0.4S後のフレーム画像であり、キーフレーム「3.」は嚥下シミュレーションの開始から0.7S後のフレーム画像を示す。例えば、0.1Sと0.4Sとの間の筋活動率α
tは、例えば、0.1Sのα
1
0.1と、0.4Sのα
1
0.4との線形補間により求められる。
【0226】
(7-1-2)<静的最適化処理>
次に、
図13に示した筋活動率解析処理手順におけるサブルーチンSR2の静的最適化処理について以下説明する。静的最適化処理では、始めに、手動設定処理によって所定のフレーム画像の動的三次元頭頸部粒子モデル50aに設定した筋活動率αを使用する。ここでは、説明の便宜上、上述した手動設定処理によって、あるフレーム画像の動的三次元頭頸部粒子モデル50aに対して、手入力により最適化された筋活動率を、下記の(24)式で表すこととする。
【数24】
…(24)
【0227】
筋活動率α
1
k,0,…,α
n
k,0の下付きの1~nは、頭頸部器官の筋種mを識別する識別子である(m=1,2,…,n)。上記の(24)式では、n種の筋種についてそれぞれ筋活動率α
1
k,0,…,α
n
k,0が設定されていることを示す。なお、
図11に示す動的三次元頭頸部粒子モデル50aの場合、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の4種の筋種が設定されていることから、上記の(24)式の筋活動率は、筋活動率α
1
k,0,…,α
4
k,0となる。
【0228】
筋活動率αk,0の上付き文字のkは、筋活動率解析部91により算出する評価関数の最適化計算回数(後述する)を示す。また、筋活動率αk,0の上付きの0は、筋種ごとに設定する筋活動率の値の変更状態を識別する識別子であり、0の表記は、筋活動率の値を変更していない初期値の状態であることを示す。
【0229】
静的最適化処理は、上記の(24)式に示す筋活動率α
k,0が、被験者の嚥下時における頭頸部器官の挙動を忠実に再現できているかを、下記の(25)式に示す評価関数により評価する。
【数25】
…(25)
【0230】
ek,0は評価関数を示す。(25)式の上付き文字のkは、筋活動率解析部91により算出する評価関数の最適化計算回数(後述する)を示し、k=1,2,…,kmaxと表記される。上付きの0は、筋種ごとに筋粒子に設定する筋活動率の値に変更が加えられていない初期値の状態での評価関数であることを示す。
Osは、動的三次元頭頸部粒子モデル50aにおいて筋活動率を設定した複数の頭頸部器官の集合を示す。
Ojは、筋活動率を設定した複数の頭頸部器官のうち、評価関数を算出する頭頸部器官を示す。なお、Σi∈Oj1は頭頸部器官Ojの粒子数である。
wP,Ojは、前記評価関数を算出する前記頭頸部器官(Oj)において位置ri
k,0に関して重み付けを行う定数を示す。この定数wP,Ojは、経験則で定めており、例えば、105~107が望ましい。
【0231】
ri
k,0は、最適化計算回数がk回目の評価関数を算出する際に求めた、運動解析部50での粒子法による解析結果であって、嚥下中の所定時刻における三次元画像内での筋粒子iの位置を示す。下付き文字のiは、筋粒子iを識別する識別子である。上付きの0は、筋種ごとに筋粒子に設定する筋活動率の値に変更が加えられていない初期値の状態での筋粒子iであることを示す。
【0232】
siは、嚥下中の所定時刻における、筋粒子iの三次元画像内での目標位置を示す。このような筋粒子iの目標位置は、解剖学的知見や、被験者が嚥下を行ったときのVF画像、4DCT画像等に基づき予め特定されており、記憶部83に記憶されている。
【0233】
被験者が嚥下を行ったときのVF画像、4DCT画像等からの筋粒子iの目標位置siの特定は、例えば、ターゲットとなる頭頸部器官をトレースし、当該頭頸部器官の運動を解析する。筋粒子iは、ターゲットとした頭頸部器官の一部であるため、筋粒子iの目標位置siは、頭頸部器官の運動から定めることができる。なお、医学的知見のみから頭頸部器官の運動を定めて頭頸部器官の運動から筋粒子iの目標位置siを定めても良い。
【0234】
wαは、筋活動率に対して重み付けを行う定数を示す。この定数wαは、経験則で定めており、例えば、0~wP,Oj×10-8が望ましい。
【0235】
αm
k,0は、最適化計算回数がk回目の評価関数を算出する際に用いる、筋種mにおける筋粒子iの筋活動率を示す。下付き文字のmは、頭頸部器官の筋種を識別するために筋種ごとに規定された識別子であり、上記の(24)式中の1~nとなる。
【0236】
最適化計算回数kは、後述する探索方向yakの決定及び直線探索まで行われて最終的な評価関数を決定した回数であり、嚥下シミュレーション装置1の最適化数設定部97で予め設定されている。本実施形態では、手動設定処理が終了した後に、始めて行われる静的最適化処理の最適化計算回数kの初回を1とし、予め設定されている最適化計算回数kの最大回数をkmaxと表記し、k=1,…,kmaxとする。
【0237】
この筋粒子iの位置r
i
k,0は、時刻tでの粒子法による1サイクルの演算処理SRb(
図10)により求めることができ、
図10においてステップS9で求められる位置r
t´に対応するものである。なお、本実施形態では、筋粒子iの位置を示す符号として、その都度、着目する項目に応じて、r
i
k,0、r
t´等の表記を適宜使い分けている。しかしながら、これら筋粒子iの位置r
i
k,0、筋粒子iの位置r
t´等で示す数値としては同じものを示し、例えば、r
i
k,0=r
t´となる。
【0238】
嚥下シミュレーション装置1の評価関数算出部92は、最適化計算回数kが1回目であるk=1のとき、定数wP,Ojと、定数wαと、筋粒子iの目標位置siと、手動設定処理で求めた筋活動率αk,0(k=1、α1,0)とを記憶部83から取得するとともに、運動解析部50から1サイクルの演算処理結果として、筋活動率αk,0のときの筋粒子iの三次元画像内での位置ri
k,0を取得し、上記の(25)式に基づいて評価関数ek,0を算出する。
【0239】
なお、静的最適化処理で用いる、上記の評価関数e
k,0の一般式は、下記の(26)の式となる。
【数26】
…(26)
【0240】
上付き文字のPhは、所定の筋種ごとに筋粒子iに設定する筋活動率の値を変えながら評価関数を算出してゆく際の、筋活動率の変更状態を識別するための識別子である。例えば、筋活動率の値が変更されていない初期値の状態のときには、「Ph」は「0」となり、ek,0、ri
k,0、αm
k,0となる。所定の筋種mの筋活動率における値が変更されている状態のときには、「Ph」は「▽;m」(mは筋種を示し、1~n)となり、ek,▽;m、ri
k,▽;m、αm
k,▽;mとなる。また、後述する探索方向yakの決定及び直線探索を行っている状態のときは、「Ph」は「p」となり、ek,p、ri
k,p、αm
k,pとなる。さらに、探索方向yakの決定及び直線探索が行われて、最適化計算回数k回目で最終的に筋活動率が最適化された状態のときには、「Ph」は「pend」となり、ek,pend、ri
k,pend、αm
k,pendとなる。なお、「k」が最大回数「kmax」のときは、ekmax,pend、ri
kmax,pend、αm
kmax,pendとなる。
【0241】
次に、上述した(25)式及び(26)式を用いた静的最適化処理について、
図17A及び
図17Bに示したフローチャートを用いて説明する。
図17A及び
図17Bは、
図13のサブルーチンSR2の静的最適化処理手順を示したフローチャートである。この場合、嚥下シミュレーション装置1は、手動設定処理が終了すると、手動設定処理で筋活動率を最適化した複数のフレーム画像の中から1つのフレーム画像を選択する。本実施形態の静的最適化処理は、手動設定処理で動画像から抽出した全てのフレーム画像に対して行われるが、まずは、1つのフレーム画像に着目して以下説明する。
【0242】
嚥下シミュレーション装置1は、ステップS21において、(i)選択したフレーム画像で手動設定処理により設定された筋活動率αk,0を記憶部83から読み出し、静的最適化処理を行う筋活動率として当該筋活動率αk,0を設定し、次のサブルーチンSR6に移る。
【0243】
最初のサブルーチンSR6では、フレーム画像のタイムステップ(時刻)tにおける動的三次元頭頸部粒子モデル50cで仮定した筋粒子iの位置r
tと、速度v
t(
図10のステップS1)と、ステップS21で設定した筋活動率α
k,0とを用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS22に移る。
【0244】
これにより、嚥下シミュレーション装置1では、サブルーチンSR6において、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行うことで、筋粒子iの位置r
t´と、速度v
t´(
図10におけるステップS9)とを求めることができる。ここでは、サブルーチンSR6にて求めた筋粒子iの位置r
t´はr
i
k,0と表記し、同じくサブルーチンSR6にて求めた筋粒子iの速度v
t´はv
i
k,0と表記する。
【0245】
ステップS22において、嚥下シミュレーション装置1は、(i)ステップS21で設定した筋活動率αk,0と、(ii)最初のサブルーチンSR6において筋活動率αk,0の動的三次元頭頸部粒子モデル50aから粒子法による1サイクルの演算処理SRbより求めた位置ri
k,0と、を用いて、上記の(25)式より評価関数ek,0を算出し、次のステップS23に移る。
【0246】
ステップS23において、嚥下シミュレーション装置1は、サブルーチンSR6で求めた筋粒子iの速度vi
k,0と、ステップS22で求めた評価関数ek,0とに基づいて、定常状態となったか否かを判断する。
【0247】
具体的に、嚥下シミュレーション装置1は、定常状態判定部93によって、(i)サブルーチンSR6で求めた、全ての筋粒子iの速度vi
k,0が閾値以下(例えば、5.0mm/s以下、好ましくは0.1mm/s)であって、かつ(ii)評価関数ek,0の変化量(変化の割合)が閾値以下(例えば、1%以下、好ましくは0.01%以下)であると判断すると、定常状態であると判断する。
【0248】
ここで、評価関数ek,0の変化量が閾値以下であるか否かの判断は、今回のステップS22で求めた最新の評価関数ek,0と、1つ前のステップS22で求めた過去の評価関数ek,0との変化量を基に判断がなされる。例えば、今回のステップS22で求めた最新の評価関数ek,0を「e_current」と表記し、1つ前のステップS22で求めた過去の評価関数ek,0を「e_previous」と表記した場合、評価関数ek,0の変化量は、下記の式で求めることができる。
(e_current - e_previous)/e_previous
【0249】
この場合、嚥下シミュレーション装置1は、上記の式に基づいて算出した評価関数ek,0の変化量が閾値以下であるか否かを判断する。従って、今回のステップS22での評価関数ek,0の算出が1回目である場合には、ステップS23において、評価関数ek,0の変化量が算出できないため、ステップS24に移ることとなる。
【0250】
なお、本実施形態の場合、(i)筋粒子iの速度vi
k,0と、(ii)評価関数ek,0とを用いて定常状態であるか否かを判断しているが、本発明はこれに限らず、例えば、(ii)評価関数ek,0のみを用いて、定常状態であるか否かを判断してもよい。なお、後述するその他の「定常状態の判断」についても同様である。
【0251】
ステップS23において否定結果が得られると、このことは、定常状態に至っていないこと、或いは、今回のステップS22での評価関数e
k,0の算出が1回目であり評価関数e
k,0の変化量を算出できないこと、を表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS24に移る。ステップS24において、嚥下シミュレーション装置1は、次に行うサブルーチンSR6でタイムステップ(時刻)tで仮定する筋粒子iの位置r
tと速度v
t(
図10のステップS1)を、サブルーチンSR6で算出した筋粒子iの位置r
i
k,0と速度v
i
k,0とに置き換え(以下、更新とも称する)、再びサブルーチンSR6に移る。
【0252】
サブルーチンSR6では、ステップS24で更新した筋粒子iの位置r
i
k,0と、速度v
i
k,0と、ステップS21で設定した筋活動率α
k,0とを用いて、再び、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS22に移る。
【0253】
なお、2回目のサブルーチンSR6において粒子法による1サイクルの演算処理SRbより新たに算出した位置r
i
k,0は、
図10のステップS1で仮定する筋粒子iの位置r
tと速度v
tを、1回目のサブルーチンSR6で算出した位置r
i
k,0と速度v
i
k,0とに置き換えて当該演算処理SRbを行っているため、1回目のサブルーチンSR6で算出された位置r
i
k,0とは異なる値となる。
【0254】
ステップS22において、嚥下シミュレーション装置1では、(i)ステップS21で設定した筋活動率α
k,0と、(ii)2回目のサブルーチンSR6において粒子法による1サイクルの演算処理SRbより新たに算出した位置r
i
k,0((
図10におけるステップS9の位置r
t´)とを用いて、上記の(25)式より再び評価関数e
k,0を算出し、次のステップS23に移る。
【0255】
このようにして、嚥下シミュレーション装置1では、ステップS23において定常状態の判断が得られるまで、サブルーチンSR6の粒子法による1サイクルの演算処理SRbで使用する筋粒子iの位置r
t速度v
t(
図10のステップS1)を、サブルーチンSR6で新たに算出した位置r
i
k,0と速度v
i
k,0にその都度更新しながら、上述したサブルーチンSR6、ステップS22~S24の処理を繰り返し行う。
【0256】
ステップS23において肯定結果が得らえると、このことは定常状態となったことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS30に移る。
【0257】
ステップS30において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS21で設定した筋活動率α
k,0の値を変えた筋活動率α
k,▽;mに設定し、次のサブルーチンSR7に移る。ここで、初期値である筋活動率α
k,0の値を変えた筋活動率α
k,▽;mは、下記の(27)式に示すような筋活動率α
k,▽;mとする。上付きの▽;mは、値を変更した筋種mを示す識別子である。
【数27】
…(27)
【0258】
筋活動率αk,▽;mは、例えば、上記の(27)式に示すように、所定の筋種mの筋活動率αm
k,0に対してhを加算して値を変更したものである。hは、予め設定されている数値でもよく、開発者がその都度設定する数値でもよいが、例えば、0.0001~0.01のように小さな数値であることが望ましい。
【0259】
hを加算する筋活動率αm
k,0は、例えば、筋活動率α1
k,0,…,αn
k,0のうち、いずれか1つの筋種mの筋活動率αm
k,0にhを加算する。ここでは、始めに、m=1とし、筋活動率α1
k,0にhを加算した筋活動率αk,▽;1(α1
k,0+h,α2
k,0,…,αn
k,0)が用いられる。このような筋活動率αk,▽;mの値の変更は、筋活動率変更部80により行われる。
【0260】
最初のサブルーチンSR7においては、始めに、ステップS23で定常状態であると判断した際の筋粒子iの位置r
i
k,0と、速度v
i
k,0と、ステップS30で変更した筋活動率α
k,▽;m(m=1のときは筋活動率α
k,▽;1)とを用いて、再び、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS31に移る。
【0261】
これにより、嚥下シミュレーション装置1では、サブルーチンSR7において、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行うことで、筋活動率α
k,▽;mにしたときの筋粒子iの位置r
t´と、速度v
t´(
図10におけるステップS9)とを求めることができる。ここでは、サブルーチンSR7にて求めた筋粒子iの位置r
t´はr
i
k,▽;m(m=1のときは位置r
k,▽;1)と表記し、同じくサブルーチンSR7にて求めた筋粒子iの速度v
t´はv
i
k,▽;m(m=1のときは速度v
k,▽;1)と表記する。
【0262】
ステップS31において、嚥下シミュレーション装置1は、(i)ステップS30で変更した筋活動率αk,▽;m(m=1のときは筋活動率αk,▽;1)と、(ii)サブルーチンSR7において筋活動率αk,▽;mの動的三次元頭頸部粒子モデル50aから粒子法による1サイクルの演算処理SRbより求めた位置ri
k,▽;m(m=1のときは位置ri
k,▽;1)と、を用いて、上記の(26)式より評価関数ek,▽;m(m=1のときは評価関数ek,▽;1)を算出し、次のステップS32に移る。
【0263】
ステップS32において、嚥下シミュレーション装置1は、サブルーチンSR7で求めた筋粒子iの速度vi
k,▽;m(m=1のときは速度vk,▽;1)と、ステップS31で求めた評価関数ek,▽;m(m=1のときは評価関数ek,▽;1)とに基づいて、定常状態となったか否かを判断する。ステップS32における定常状態であるか否かの判断は、上述したステップS23と同様の判断であり、定常状態判定部93によって、(i)サブルーチンSR7で求めた、全ての筋粒子iの速度vi
k,▽;mが閾値以下(例えば、5.0mm/s以下、好ましくは0.1mm/s)であって、かつ(ii)評価関数ek,▽;mの変化量が閾値以下(例えば、1%以下、好ましくは0.01%以下)であると判断すると、定常状態であると判断する。
【0264】
なお、ステップS32における定常状態の判断は、上述したように、ステップS23と同様の判断手法になるため、今回のステップS31での評価関数ek,▽;mの算出が1回目である場合には、ステップS32において、評価関数ek,▽;mの変化量が算出できないため、ステップS33に移ることとなる。
【0265】
ステップS32において否定結果が得られると、このことは、定常状態に至っていないこと、或いは、今回のステップS31での評価関数e
k,▽;mの算出が1回目であり評価関数e
k,▽;mの変化量を算出できないこと、を表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS33に移る。ステップS33において、嚥下シミュレーション装置1は、最初のサブルーチンSR7で初期値として用いた筋粒子iの位置r
i
k,0と速度v
i
k,0(
図10のステップS1において位置r
tと速度v
tに相当)を、最初のサブルーチンSR7で算出した筋粒子iの位置r
i
k,▽;1と速度v
i
k,▽;1とに更新し、再びサブルーチンSR7に移る。
【0266】
サブルーチンSR7では、ステップS33で更新した新たな筋粒子iの位置r
i
k,▽;1と、速度v
i
k,▽;1と、ステップS30で設定した筋活動率α
k,▽;1とを用いて、再び、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS31に移る。
【0267】
ステップS31において、嚥下シミュレーション装置1では、(i)ステップS30で設定した筋活動率α
k,▽;1と、(ii)2回目のサブルーチンSR7において粒子法による1サイクルの演算処理SRbより新たに算出した位置r
i
k,▽;1((
図10におけるステップS9の位置r
t´に相当)とを用いて、上記の(26)式より再び評価関数e
k,▽;1を算出し、次のステップS32に移る。
【0268】
このようにして、嚥下シミュレーション装置1では、ステップS32において定常状態の判断が得られるまで、サブルーチンSR7の粒子法による1サイクルの演算処理SRbで使用する筋粒子iの位置r
t速度v
t(
図10のステップS1)を、サブルーチンSR7で新たに算出した位置r
i
k,▽;1と速度v
i
k,▽;1にその都度更新しながら、上述したサブルーチンSR7、ステップS31~S33の処理を繰り返し行う。
【0269】
ステップS32において肯定結果が得らえると、このことは定常状態となったことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS34に移る。
【0270】
ステップS34において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS30での筋活動率αk,▽;mの変更が全ての筋種m(m=1,2,…,n)で行われたか否か、すなわち、m=nであるか否かを判断する。ステップS34で否定結果が得られると、このことは、ステップS30での筋活動率αk,▽;mの変更が全ての筋種mで行われていないことを表しており、このとき次のステップS35に移る。すなわち、ステップS30で筋活動率αk,▽;1が設定されている場合、他の筋活動率αk,▽;2,…,αk,▽;nについて、ステップS30で設定されていないため、ステップS34では否定結果を得る。
【0271】
ステップS35において、嚥下シミュレーション装置1は、筋活動率αk,▽;mのmをm+1として筋活動率αk,▽;m+1とし、さらにm+1をmと見なして筋活動率αk,▽;mとして(m←m+1)、再びステップS30に移る。ステップS30において、嚥下シミュレーション装置1は、例えば、既に筋活動率αk,▽;1(α1
k,0+h,α2
k,0,…,αn
k,0)が設定されている場合、mをm+1とした筋活動率αk,▽;2(α1
k,0,α2
k,0+h,…,αn
k,0)を設定し、次のサブルーチンSR7に移る。
【0272】
これにより、例えば、ステップS30で設定された筋活動率αk,▽;2についても、上述した筋活動率αk,▽;1と同様に、ステップS32において定常状態の判断が得られるまで、上述したサブルーチンSR7、ステップS31~S33の処理を繰り返し行う。
【0273】
なお、ステップS30で筋活動率α
k,▽;2を設定した場合も、上記と同様に、最初のサブルーチンSR7では、ステップS23で定常状態であると判断した際の筋粒子iの位置r
i
k,0と、速度v
i
k,0と、ステップS30で設定した筋活動率α
k,▽;2とを用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行うこととなる。
【0274】
また、ステップS30で筋活動率α
k,▽;3を設定した場合も、上記と同様に、最初のサブルーチンSR7では、ステップS23で定常状態であると判断した際の筋粒子iの位置r
i
k,0と、速度v
i
k,0と、ステップS30で設定した筋活動率α
k,▽;3とを用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行うこととなる。
【0275】
ステップS34で肯定結果が得られると、このことは、ステップS30での筋活動率α
k,▽;mの変更が全ての筋種mで行われたこと、すなわち、ステップS32において全ての筋種mについて定常状態と判断した評価関数e
k,▽;1,e
k,▽;2,…,e
k,▽;nが得られたことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、
図17Bに示すステップS40に移る。
【0276】
嚥下シミュレーション装置1は、全ての筋種mについて定常状態と判断された評価関数ek,▽;m(ek,▽;1,ek,▽;2,…,ek,▽;n)が得られると、この筋活動率αk,▽;mを用いて、探索方向yaの決定と、直線探索とを行う。
【0277】
具体的には、ステップS40において、嚥下シミュレーション装置1は、定常状態であると判断された評価関数e
k,0、e
k,▽;mを用いて、下記の(28)式及び(29)式に基づいて勾配▽e
kを算出し、次のステップS41に移る。
【数28】
…(28)
【0278】
(∂e/∂α
m)
kは、下記の(29)式となる。α
mはα
1,…,α
nであり、ここでのmは筋種を識別する識別子を示す。e
k,0は、ステップS23において定常状態であると判断された評価関数を示し、e
k,▽;m(e
k,▽;1,e
k,▽;2,…,e
k,▽;n)は、ステップS32において定常状態であると判断された評価関数を示す。
【数29】
…(29)
【0279】
なお、このような勾配▽ekの算出は、嚥下シミュレーション装置1の勾配算出部94により行われる。
【0280】
ステップS41において、嚥下シミュレーション装置1は、探索方向ya
m
k(mは筋種であり、ya
k(=ya
1
k,…,ya
n
k)とも表記する)の決定を行い、次のステップS42に移る。ここで、ステップS41において行われる探索方向ya
kの決定は、例えば共役勾配法により求めることで行うことができるが、その他、種々の方法で探索方向ya
kを決定してもよい。共役勾配法により探索方向ya
kを決定する場合には、最適化計算回数kが1回目であるk=1のときと、2回目以上であるk=2以上のときとで異なる算出手法となる。最適化計算回数k=1のとき、探索方向ya
kは下記の(30)式により決定することができる。
【数30】
…(30)
【0281】
一方、最適化計算回数k=2以上のとき、探索方向ya
kは下記の(31)式により決定することができる。すなわち、探索方向ya
kの決定及び直線探索(後述する)まで1度も行われていない場合、最適化計算回数k=1となり、上記の(30)式が用いられる。一方、既に、探索方向ya
kの決定及び直線探索(後述する)まで1度行われている場合、最適化計算回数k=2以上となり、下記の(31)式が用いられる。
【数31】
…(31)
【0282】
なお、このような探索方向yakの決定は、嚥下シミュレーション装置1の探索方向決定部95により行われる。なお、上記の(31)式で表す「βk」は、後述する緩和度合を示す「β」とは異なるものである。
【0283】
上述したようにステップS41において探索方向ya
kが決定すると、嚥下シミュレーション装置1は、次に、直線探索を行う。直線探索は、先ずは、下記の(32)式により筋活動率α
k,p(α
m
k,p(=α
1
k,p,…,α
n
k,p)とも表記する)を算出する。なお、上付き文字のpは、探索方向ya
kの決定及び直線探索を行っている状態であることを示す識別子である。なお、下記の(32)式により筋活動率α
k,0は、α
m
k,0(=α
1
k,0,…,α
n
k,0)とも表記する。
すなわち、下記の(32)式は、α
m
k,p=α
m
k,0-μ
p・ya
m
kとも表記される。
【数32】
…(32)
【0284】
μpは、ステップサイズであり、変更可能な任意の値であって、直線探索を行う際に、開発者により増加されてゆく数値である。ステップS42において、嚥下シミュレーション装置1は、上記の(32)式に所定の値であるステップサイズμpを設定し、次のステップS43に移る。ここでは、その一例として、μp=h(p+0.015p3)としている(括弧内のpは、所定の数値を示す)。なお、このようなステップサイズμpの設定は、直線探索処理部96により行われる。
【0285】
ステップS43において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS41で算出した探索方向yakと、ステップS42で設定したステップサイズμpと、筋活動率αk,0とを用いて、上記の(32)式に基づき筋活動率αk,pを算出し、次のサブルーチンSR8に移る。なお、このような筋活動率αk,pの算出は、直線探索処理部96により行われる。
【0286】
サブルーチンSR8において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS23で定常状態であると判断した際の筋粒子iの位置r
i
k,0と、速度v
i
k,0と、ステップS43で算出した筋活動率α
k,pとを用いて、再び、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS44に移る。
【0287】
ステップS44において、嚥下シミュレーション装置1は、(i)ステップS43で算出した筋活動率αk,pと、(ii)サブルーチンSR8において粒子法による1サイクルの演算処理SRbにより算出した位置ri
k,pと、を用いて、上記の(26)式より評価関数ek,pを算出し、次のステップS45に移る。
【0288】
ステップS45において、嚥下シミュレーション装置1は、サブルーチンSR8で算出した筋粒子iの速度vi
k,pと、ステップS44で求めた評価関数ek,pとに基づいて、定常状態となったか否かを判断する。ステップS45における定常状態であるか否かの判断は、上述したステップS23と同様の判断であり、定常状態判定部93によって、(i)サブルーチンSR8で算出した筋粒子iの速度vi
k,pが閾値以下(例えば、5.0mm/s以下、好ましくは0.1mm/s)であって、かつ(ii)評価関数ek,pが閾値以下(例えば、1%以下、好ましくは0.01%以下)であると判断すると、定常状態であると判断する。
【0289】
ステップS45において否定結果が得られると、このことは、定常状態に至っていないことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS46に移る。ステップS46において、嚥下シミュレーション装置1は、次に行うサブルーチンSR8でタイムステップ(時刻)tで仮定する筋粒子iの位置r
i
k,0と速度v
i
k,0(
図10のステップS1において位置r
tと速度v
tに相当)を、サブルーチンSR8で新たに算出した筋粒子iの位置r
i
k,pと速度v
i
k,pとに更新し、再びサブルーチンSR8に移る。
【0290】
サブルーチンSR8では、ステップS46で更新した新たな筋粒子iの位置r
i
k,pと、速度v
i
k,pと、ステップS43で算出した筋活動率α
k,pとを用いて、再び、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、新たな筋粒子iの位置r
i
k,pと速度v
i
k,p(
図10のステップS9において位置r
t´と速度v
t´に相当)とを算出する。
【0291】
このようにして、嚥下シミュレーション装置1では、ステップS45において定常状態の判断が得られるまで、上述したサブルーチンSR8、ステップS44~S46の処理を繰り返し行う。
【0292】
ステップS45において肯定結果が得らえると、このことは定常状態となったことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS47に移る。
【0293】
ステップS47において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS45で定常状態であると判断した評価関数ek,pが、下記の(33)式による条件を満たすか否かを判断する。なお、この判断は、定常状態判定部93により行われる。
【0294】
【0295】
上記の(33)式中にあるek,(p+1)は、評価関数ek,pを算出した後に、上記の(32)式のステップサイズμpの値を増やしてステップサイズμp+1としたときの評価関数である。具体的には、評価関数ek,pを算出した後に、ステップS48に移り、ステップサイズμpのpをp+1としてステップサイズμp+1とし、さらにp+1をpと見なしてステップサイズμpとして(p←p+1)、ステップS42に戻る。ステップS42において、嚥下シミュレーション装置1は、上記の(32)式で、ステップサイズμpの値を増やしたステップサイズμp+1をステップサイズμpとして設定し、ステップS43において上記の(32)式から筋活動率αk,(p+1)を求める。
【0296】
その後、嚥下シミュレーション装置1では、ステップS45において定常状態の判断が得られるまで、上述したサブルーチンSR8、ステップS44~S46の処理を繰り返し行い、定常状態と判断された評価関数ek,(p+1)を用いて、前に求めた評価関数ek,pが上記の(33)式による条件を満たすか否かを判断する。
【0297】
ステップS47において肯定結果が得られると、このことは、ステップS44で算出した評価関数ek,pが、上記の(33)式による条件を満たしたことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS49に移る。なお、ステップS47において、上記の(33)式の条件を満たした評価関数ek,pは、最適化計算回数kにおいて最終的に求める評価関数であり、以下、評価関数ek,pendと表記し、当該評価関数ek,pendのときの筋活動率を、筋活動率αk,pendと表記する。
【0298】
ステップS49において、嚥下シミュレーション装置1は、1つのフレーム画像に対して上述したサブルーチンSR6~ステップS47を全て行った処理の回数を示す最適化計算回数kが、最適化数設定部97で予め設定されている最大回数kmaxに達しているか否かを判断する。
【0299】
ここで、否定結果が得られると、このことは、上述したサブルーチンSR6~ステップS47を全て行った処理の回数である最適化計算回数kが最大回数kmaxに達していないことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置は、ステップS50に移る。ステップS50において、嚥下シミュレーション装置1は、上述したサブルーチンSR6~ステップS47の処理を再び行うために、筋活動率αk,pendのkをk+1(例えば、最適化計算回数k=1(1回目)のときには、次の最適化計算回数k=2(2回目))、pendを0として筋活動率αk+1,0とし(αk+1,0←αk,pend)、さらに筋活動率αk+1,0のk+1をkと見なして筋活動率αk,0とし(k←k+1)、再びサブルーチンSR6に戻る。
【0300】
具体的には、サブルーチンSR6において、ステップS47で上記の(33)式の条件を満たす評価関数e
k,pendの算出に用いた筋活動率α
k,pendを筋活動率α
k,0として設定し、この筋活動率α
k,0と、フレーム画像のタイムステップ(時刻)tにおいて初期値として仮定した筋粒子iの最初の位置r
tと、速度v
t(
図10のステップS1)とを用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS22に移る。
【0301】
なお、上述した実施形態では、ステップS50の後に行うサブルーチンSR6において、フレーム画像のタイムステップ(時刻)tにおいて初期値として仮定した筋粒子iの最初の位置rtと、速度vtを用い、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行うようにしたが、本発明はこれに限らない。
【0302】
例えば、ステップS50の後に行うサブルーチンSR6においては、後述する最適化計算回数kがk=2以上のとき、αk-1,pend(すなわち、前回の最適化計算回数kのときに、ステップS47で上記の(33)式の条件を満たす評価関数ek,pendの算出に用いた筋活動率αk,pend)で、定常状態となったときの位置と速度を用いるようにしてもよい。これにより、サブルーチンSR6の演算処理が不要となる。
【0303】
以降、上述したステップS22~ステップS47の処理を行い、最適化計算回数k(例えばk=2)の筋活動率αk,pend(例えば、筋活動率α2,pend)を求める。嚥下シミュレーション装置1は、このようなサブルーチンSR6~ステップS47の処理を、ステップS49において肯定結果が得られるまで、すなわち、最大回数kmaxに達するまで行い、最終的に評価関数ekmax,pendを得、評価関数ekmax,pendのときの筋活動率αkmax,pendを静的最適化処理の最終的な筋活動率とする。
【0304】
嚥下シミュレーション装置1は、最終的に評価関数ekmax,pendと、筋活動率αkmax,pendとを算出すると、1つのフレーム画像に対する静的最適化処理を終了する。本実施形態では、このような静的最適化処理が、手動設定処理により最適な筋活動率αk,0が設定された全てのフレーム画像に対して行われる。
【0305】
また、静的最適化処理は、嚥下シミュレーションの解析結果である動画像から抽出して手動設定処理が行われたフレーム画像ごとに行われるが、嚥下開始から嚥下終了までの嚥下シミュレーションの解析結果である動画像において、静的最適化処理が行われていないフレーム画像間については、静的最適化処理により算出した、時系列に並ぶ2つの筋活動率αkmax,pendから線形補間によって筋活動率αの値が算出されて設定される。
【0306】
これにより嚥下シミュレーション装置1では、筋種ごとに筋粒子に対して最適な筋活動率αkmax,pendを設定することができ、嚥下時における頭頸部器官の運動を従来よりも一段と正確に再現することができる。
【0307】
ここで、
図18は、上述した静的最適化処理手順によって、最終的に得られた筋活動率α
m
tの一例を示したものである。
図18は、時刻tと筋種mに着目して筋活動率α
kmax,pendを表しており、筋活動率α
kmax,pendをα
m
tで表記している。筋活動率α
m
tのmは筋種を識別する識別子であり、ここでは筋1及び筋2を識別している。また、筋活動率α
m
tを求めるタイムステップ(時刻)tは、0.1S,0.2S,0.3S,0.4Sの例を示す。
【0308】
(7-2)<第2の手法による筋活動率解析処理>
次に、第2の手法による筋活動率解析処理について以下説明する。第2の手法による筋活動率解析処理は、動的三次元頭頸部粒子モデル50aを使用した嚥下シミュレーション時における三次元画像内の筋粒子の位置だけでなく、嚥下シミュレーション時における経過時間及び筋粒子の速度についても考慮し、筋種ごとに最適な筋活動率を求めるものである。
【0309】
図19は、第2の手法による筋活動率解析処理手順を示したフローチャートである。
図19に示すように、第2の手法による筋活動率解析処理手順では、
図13に示した第1の手法による筋活動率解析処理手順と同様に、開始ステップからサブルーチンSR1に移り手動設定処理を行った後、次のサブルーチンSR2に移り静的最適化処理を行う。
【0310】
第2の手法による筋活動率解析処理手順では、さらに、サブルーチンSR2で静的最適化処理を行った後に、次のサブルーチンSR3に移り動的最適化処理を行い、最終的に、動的最適化処理で算出した筋活動率αkmax,pendを最適な筋活動率としている点で、上述した第1の手法による筋活動率解析処理手順と相違している。
【0311】
ここで、サブルーチンSR1の手動設定処理と、サブルーチンSR2の静的最適化処理とについては、上述した「(7-1)<第1の手法による筋活動率解析処理>」と同じ内容になるため、ここでは、サブルーチンSR3の動的最適化処理に着目して以下説明する。
【0312】
図20は、
図19に示した動的最適化処理手順を示したフローチャートである。
図20に示すように、嚥下シミュレーション装置1では、開始ステップからステップS60に移り、嚥下シミュレーションの解析結果である動画像から動的最適化処理を行う最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)を設定し、次のステップS61に移る。ここでは、ステップS60において、最適化開始時刻をtsとし、最適化終了時刻をts+△t
optとして設定した場合について以下説明する。なお、最適化開始時刻tsは、嚥下シミュレーションの開始から設定されてゆき、例えば、嚥下シミュレーションの開始からの時刻t(例えば、時刻1.0S)が最適化開始時刻ts(時刻1.0s)として設定される。
【0313】
ステップS61において、嚥下シミュレーション装置1は、上述した静的最適化処理により求めた筋活動率の中から、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率αts+△topt(なお、ここでは、静的最適化処理で最終的に求めた筋活動率αkmax,pendについて時刻(ts+△topt)に着目してαts+△toptと表記する(すなわち、αkmax,pend=αts+△toptとする))を特定し、次のステップS62に移る。ここでは、筋活動率αts+△toptは、最適化終了時刻(ts+△topt)を用いて表しているが、嚥下シミュレーションの開始からの時刻tで表した場合、筋活動率αt+△toptと表すこともできる。
【0314】
ステップS62において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS61で特定した、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率αts+△toptを、動的最適化処理の最適化終了時刻(ts+△topt)での初期値の筋活動率αk,0として設定し(すなわち、αts+△topt=αk,0とする)、次のサブルーチンSR10の解析処理に移る。
【0315】
サブルーチンSR10において、嚥下シミュレーション装置1は、筋活動率α
k,0を利用して解析処理を行い、最適化された新たな筋活動率α
kmax,pendを得、次のステップS64に移る。なお、最適化された筋活動率α
kmax,pendを得る解析処理については、
図22A及び
図22Bを用いて後述する。
【0316】
ステップS64において、嚥下シミュレーション装置1は、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率の初期値として設定した筋活動率αk,0を、サブルーチンSR10で得られた筋活動率αkmax,pendに更新し、次のステップS65に移る。なお、この際、嚥下シミュレーション装置1は、最適化済の最適化開始時刻tsでの筋活動率αtsと、サブルーチンSR10で得られた、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率αkmax,pendとの間を線形補間し、最適化対象時刻ts~(ts+△topt)の間の筋活動率についても算出する。なお、筋活動率αtsは、最適化開始時刻tsを用いて表しているが、嚥下シミュレーションの開始からの時刻tで表した場合、筋活動率αtと表すこともできる。
【0317】
ステップS65において、嚥下シミュレーション装置1は、
図21に示すように、嚥下シミュレーションの嚥下開示時刻から嚥下終了時刻までの間に、次の最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)を設定できる時刻があるか否かを判断する。ここで、肯定結果が得られると、このことは、嚥下シミュレーションの嚥下開示時刻から嚥下終了時刻の間に次の最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)を設定できる時刻があること、すなわち、嚥下シミュレーションの嚥下開示時刻から嚥下終了時刻まで全ての時刻に対して動的最適化処理を行っていないことを示しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は次のステップS66に移る。
【0318】
ステップS66において、嚥下シミュレーション装置1は、tsを(ts+△t
opt)とし、さらに、この(ts+△t
opt)をtsと見なして(ts←ts+△t
opt)、再びステップS60に戻り、嚥下開始時刻から嚥下終了時刻の間で、動的最適化処理を行う新たな最適化対象時刻(すなわち、
図21に示すように、新たな最適化対象時刻は、△t
optずらした(ts+△t
opt)~(ts+2△t
opt)となる)を設定し、以下、ステップS65で否定結果が得られるまで上述した処理を繰り返す。
【0319】
ステップS65で否定結果が得られると、このことは、嚥下シミュレーションの嚥下開始時刻から嚥下終了時刻の間に、次の最適化対象時刻ts~(ts+△topt)を設定できる時刻がないこと、すなわち、嚥下シミュレーションの嚥下開始時刻から嚥下終了時刻まで動的最適化処理を行ったことを示しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、動的最適化処理を終了する。
【0320】
次に、
図20のサブルーチンSR10の解析処理について以下説明する。
図22A及び
図22Bは、
図20のサブルーチンSR10の解析処理手順を示したフローチャートである。
図22Aに示すように、ステップS70において、嚥下シミュレーション装置1は、最適化済の最適化開始時刻tsでの筋活動率α
tsと、
図20のステップS62で設定した、最適化終了時刻(ts+△t
opt)での筋活動率α
k,0との間を線形補間して、最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)の間の各筋活動率を算出し、次のステップS71に移る。
【0321】
ステップS71において、嚥下シミュレーション装置1は、
図23に示すように、最適化対象時刻ts~(ts+△t)の間の最初の演算時刻(t+△t)における筋活動率α
k,0(t+△t)を特定し、これを粒子法による1サイクルの演算処理に用いる筋活動率として設定し、次のサブルーチンSR11に移る。なお、△tと△t
optは、△t<△t
optの関係を有する。
【0322】
サブルーチンSR11では、始め、1回目のサブルーチンSR10のとき、すなわち最適化対象時刻が(嚥下開始)~(嚥下開始+Δt
opt)のときは、
図17Bの静的最適化処理で最終的に算出した演算時刻(嚥下開始)での筋粒子iの位置r
t+△tと、速度v
t+△tと、ステップS71で設定した筋活動率α
k,0(t+△t)とを用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS72に移る。2回目のサブルーチンSR10のとき、すなわち最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)が、時刻(Δt
opt)~(2Δt
opt)のときは、1回目のサブルーチンSR10で最終的に算出した演算時刻Δt
optでの筋粒子iの位置r
kmax,pendと、速度v
kmax,pendを用いる。3回目以降も同様に、前回のサブルーチンSR10で最終的に算出された筋粒子iの位置r
kmax,pendと、速度v
kmax,pendを用いる。
【0323】
これにより、嚥下シミュレーション装置1では、サブルーチンSR11において、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行うことで、演算時刻(t+△t)における筋粒子iの位置r
t´と、速度v
t´(
図10におけるステップS9)とを求めることができる。ここでは、サブルーチンSR11にて求めた筋粒子iの位置r
t´はr
i
k,0(t+△t)と表記し、同じくサブルーチンSR6にて求めた筋粒子iの速度v
t´はv
i
k,0(t+△t)と表記する。
【0324】
ステップS72において、嚥下シミュレーション装置1は、サブルーチンSR11で行われた粒子法による1サイクルの演算処理SRbの演算時刻(t+△t)が、最適化終了時刻(ts+△topt)であるか否かを判断する。
【0325】
ここで、否定結果が得られると、このことは、サブルーチンSR11で行われた粒子法による1サイクルの演算処理SRbの演算時刻(t+△t)が、最適化終了時刻(ts+△topt)でないことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS73に移る。
【0326】
ステップS73において、嚥下シミュレーション装置1は、tをt+△tとして(t←t+△t)、次のステップS74に移る。例えば、演算時刻が最初の演算時刻(t+△t)のときには、ステップS73において演算時刻(t+△t)のtをt+△tにすることで、演算時刻を(t+2△t)とする。ステップS74において、嚥下シミュレーション装置1は、次に行うサブルーチンSR11で用いる筋粒子iの位置r
tと速度v
t(
図10のステップS1)を、サブルーチンSR11で算出した筋粒子iの位置r
i
k,0(t+△t)と速度v
i
k,0(t+△t)とに更新し、再びステップS71に移る。
【0327】
ステップS71において、嚥下シミュレーション装置1は、
図23に示すように、最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)の間で、ステップS73で更新した演算時刻(t+2△t)における筋活動率α
k,0(t+2△t)を特定して、これを粒子法による1サイクルの演算処理に用いる筋活動率として新たに設定し、次のサブルーチンSR11に移る。
【0328】
サブルーチンSR11では、ステップS74で更新した筋粒子iの位置r
i
k,0(t+△t)と、速度v
i
k,0(t+△t)と、ステップS71で新たに設定した筋活動率α
k,0(t+2△t)とを用いて、再び、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS72に移る。
【0329】
そして、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS72において肯定結果が得られるまで、すなわち、
図23に示すように、演算時刻(t+△t)が最適化終了時刻(ts+△t
opt)になるまで、上述したステップS71、サブルーチンSR11、ステップS72~S74の処理を繰り返し行う。
【0330】
ステップS72において肯定結果が得らえると、このことは、演算時刻(t+△t)が最適化終了時刻(ts+△topt)になったこと、すなわち、上述したステップS71、サブルーチンSR11、ステップS72~S74の処理を繰り返し行い、最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの位置ri
k,0(ts+△topt)と速度vi
k,0(ts+△topt)が算出できたことを示しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS77に移る。なお、以下では、最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの位置ri
k,0(ts+△topt)は位置ri
k,0と表記し、同じく最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの速度vi
k,0(ts+△topt)は速度vi
k,0と表記する。
【0331】
ステップS77において、嚥下シミュレーション装置1は、(i)最適化終了時刻(ts+△t
opt)における筋活動率α
k,0と、(ii)最適化終了時刻(ts+△t
opt)における筋粒子iの位置r
i
k,0と、(iii)同じく最適化終了時刻(ts+△t
opt)における筋粒子iの速度v
i
k,0と、を用いて、下記の(34)式より評価関数e
k,0を算出し、次のステップS78に移る。
【数34】
…(34)
【0332】
動的最適化処理で用いる上記の(34)式は、静的最適化処理で用いる(25)式とは、右辺第1項の括弧内に、速度に関する演算項が設けられている点で相違する。
【0333】
上記の(34)式のek,0は、動的最適化処理で用いる評価関数を示す。Os、Oj、wP,Oj、ri
k,0、si、wαは、上記の(25)式と同じであるため、ここでの説明は省略する。αm
k,0は、最適化終了時刻(ts+△topt)における筋活動率αk,0を示し、下付き文字のmは筋種を示す。ri
k,0は、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを繰り返し行うことで得られた、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋粒子iの位置を示す。
【0334】
wV,Ojは、評価関数を算出する頭頸部器官(Oj)において速度vi
k,0に関して重み付けを行う定数を示す。この定数wV,Ojは、経験則で定めており、例えば、wP,Oj×10-8~wP,Oj×10-4が望ましい。
【0335】
vi
k,0は、最適化計算回数がk回目の評価関数を算出する際に、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを繰り返し行うことで得られた、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋粒子iの速度を示す。下付き文字のiは、筋粒子iを識別する識別子である。上付きの0は、筋種ごとに筋粒子に設定する筋活動率の値に変更が加えられていない初期値の状態での筋粒子iであることを示す。
【0336】
uiは、嚥下中の所定時刻で筋粒子iの三次元画像内での目標速度(ui=△si/△topt)を示す。このような筋粒子iの目標速度は、解剖学的知見や、被験者が嚥下を行ったときのVF画像、4DCT画像等に基づき予め特定されており、記憶部83に記憶されている。
【0337】
最適化計算回数kは、後述する探索方向yakの決定及び直線探索まで行われて最終的な評価関数を決定した回数であり、嚥下シミュレーション装置1の最適化数設定部97で予め設定されている。ここでも最適化計算回数kの最大回数はkmaxと表記する。
【0338】
なお、この動的最適化処理で用いる、上記の評価関数e
k,0の一般式は、下記の(35)の式となる。
【数35】
…(35)
【0339】
上付きのPhは、所定の筋種ごとに筋粒子iに設定する筋活動率の値を変えながら評価関数を算出してゆく際の、筋活動率の変更状態を識別するための識別子を示す。例えば、筋活動率の値が変更されていない初期値の状態のときには、「Ph」は「0」となり、ek,0、ri
k,0、vi
k,0、αm
k,0となる。所定の筋種mの筋活動率における値が変更されている状態のときには、「Ph」は「▽;m」(mは筋種を示し、1~n)となり、ek,▽;m、ri
k,▽;m、vi
k,▽;m、αm
k,▽;mとなる。また、後述する探索方向yakの決定及び直線探索を行っている状態のときは、「Ph」は「p」となり、ek,p、ri
k,p、vi
k,p、αm
k,pとなる。さらに、最適化計算回数kで最終的に筋活動率が最適化された状態のときには、「Ph」は「pend」となり、ek,pend、ri
k,pend、vi
k,pend、αm
k,pendとなる。なお、「k」が最大回数「kmax」のときは、ekmax,pend、ri
kmax,pend、vi
kmax,pend、αm
kmax,pendとなる。
【0340】
ここで、既に説明した静的最適化処理に用いる(25)式及び(26)式では、上記の(34)式や(35)式で右辺第1項の括弧内に示した、速度に関する演算項を設けていないことから、頭頸部器官の筋粒子iや、頭頸部器官全体の速度が振動して解析が不安定になる恐れがある。これに対して、動的最適化処理では、上記の(34)式や(35)式に示すように、右辺第1項の括弧内に速度に関する演算項を設けることで、頭頸部器官の筋粒子iや、頭頸部器官全体の速度を安定化させ、最適な筋活動率の解析を行うことができる。
【0341】
ステップS77で評価関数ek,0を算出すると、ステップS78において、嚥下シミュレーション装置1は、筋活動率αk,0の値を変更した、上記の(27)式に示す筋活動率αk,▽;mを、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率として設定し、次のステップS79に移る。筋活動率αk,▽;mは、上述した静的最適化処理と同様に、例えば、上記の(27)式に示すように、所定の筋種mの筋活動率αm
k,0に対してhを加算して値を変更したものである。hは、予め設定されている数値でもよく、開発者がその都度設定する数値でもよいが、例えば、0.0001~0.01のように小さな数値であることが望ましい。
【0342】
hを加算する筋活動率αm
k,0は、例えば、筋活動率α1
k,0,…,αn
k,0のうち、いずれか1つの筋種mの筋活動率αm
k,0にhを加算する。ここでは、始めに、m=1とし、筋活動率α1
k,0にhを加算した筋活動率αk,▽;1(α1
k,0+h,α2
k,0,…,αn
k,0)が用いられる。このような筋活動率αk,▽;mの値の変更は、筋活動率変更部80により行われる。
【0343】
ステップS79において、嚥下シミュレーション装置1は、最適化済となる最適化開始時刻tsでの筋活動率αtsと、ステップS78で設定した、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率αk,▽;mとの間を線形補間して、最適化対象時刻ts~(ts+△topt)の間の各筋活動率を算出し、次のステップS80に移る。
【0344】
ステップS80において、嚥下シミュレーション装置1は、
図23に示すように、最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)で最初の演算時刻(t+△t)での筋活動率α
k,▽;m(t+△t)を特定し、これを粒子法による1サイクルの演算処理に用いる筋活動率として設定し、次のサブルーチンSR12に移る。
【0345】
サブルーチンSR12では、始め、1回目のサブルーチンSR10のとき、すなわち最適化対象時刻が(嚥下開始)~(嚥下開始+Δt
opt)のときは、
図17Bの静的最適化処理で最終的に算出した最適化開始時刻(嚥下開始)での筋粒子iの位置r
tと、速度v
tと、ステップS80で設定した筋活動率α
k,▽;m(t+△t)とを用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS82に移る。2回目のサブルーチンSR10のとき、すなわち最適化対象時刻が(Δt
opt)~(2Δt
opt)のときは、1回目のサブルーチンSR10で最終的に算出した演算時刻Δt
optでの筋粒子iの位置r
kmax,pendと、速度v
kmax,pendを用いる。3回目以降も同様に、前回のサブルーチンSR10の最終的に算出された筋粒子iの位置r
kmax,pendと、速度v
kmax,pendを用いる。
【0346】
これにより、嚥下シミュレーション装置1では、サブルーチンSR12において、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行うことで、筋活動率α
k,▽;m(t+△t)のときの筋粒子iの位置r
t´と、速度v
t´(
図10におけるステップS9)とを求めることができる。ここでは、サブルーチンSR12にて求めた筋粒子iの位置r
t´はr
i
k,▽;m(t+△t)と表記し、同じくサブルーチンSR12にて求めた筋粒子iの速度v
t´はv
i
k,▽;m(t+△t)と表記する。
【0347】
ステップS82において、嚥下シミュレーション装置1は、サブルーチンSR12で行われた粒子法による1サイクルの演算処理SRbの演算時刻(t+△t)が、最適化終了時刻(ts+△topt)であるか否かを判断する。
【0348】
ここで、否定結果が得られると、このことは、サブルーチンSR12で行われた粒子法による1サイクルの演算処理SRbの演算時刻(t+△t)が、最適化終了時刻(ts+△topt)でないことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS83に移る。
【0349】
ステップS83において、嚥下シミュレーション装置1は、tをt+△tとして(t←t+△t)、次のステップS84に移る。例えば、演算時刻が最初の演算時刻(t+△t)のときには、ステップS83において演算時刻(t+△t)のtをt+△tにすることで、演算時刻を(t+2△t)とする。
【0350】
ステップS84において、嚥下シミュレーション装置1は、次に行うサブルーチンSR12で用いる筋粒子iの位置r
tと速度v
t(
図10のステップS1)を、直前のサブルーチンSR12で算出した筋粒子iの位置r
i
k,▽;m(t+△t)と速度v
i
k,▽;m(t+△t)とに更新し、再びステップS80に移る。
【0351】
ステップS80において、嚥下シミュレーション装置1は、
図23に示すように、最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)の間で、ステップS83で更新した次の演算時刻(t+2△t)における筋活動率α
k,▽;m(t+2△t)を特定して、これを粒子法による1サイクルの演算処理に用いる筋活動率として新たに設定し、次のサブルーチンSR12に移る。
【0352】
サブルーチンSR12では、ステップS84で更新した筋粒子iの位置r
i
k,▽;m(t+△t)と、速度v
i
k,▽;m(t+△t)と、ステップS80で新たに設定した筋活動率α
k,▽;m(t+2△t)とを用いて、再び、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS82に移る。
【0353】
そして、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS82において肯定結果が得られるまで、すなわち、
図23に示すように、演算時刻(t+△t)が最適化終了時刻(ts+△t
opt)になるまで、上述したステップS80、サブルーチンSR12、ステップS83~S84の処理を繰り返し行う。
【0354】
ステップS82において肯定結果が得らえると、このことは、演算時刻(t+△t)が最適化終了時刻(ts+△topt)になったこと、すなわち、上述したステップS80、サブルーチンSR12、ステップS82~S84の処理を繰り返し行い、最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの位置ri
k,▽;m(ts+△topt)と速度vi
k,▽;m(ts+△topt)が算出できたことを示しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS85に移る。なお、以下では、最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの位置ri
k,▽;m(ts+△topt)は位置ri
k,▽;mと表記し、同じく最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの速度vi
k,▽;m(ts+△topt)は速度vi
k,▽;mと表記する。
【0355】
ステップS85において、嚥下シミュレーション装置1は、(i)最適化終了時刻(ts+△topt)における筋活動率αk,▽;mと、(ii)最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの位置ri
k,▽;mと、(iii)同じく最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの速度vi
k,▽;mと、を用いて、上記の(35)式より評価関数ek,▽;mを算出し、次のステップS86に移る。
【0356】
ステップS86において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS78での筋活動率αk,▽;mの変更が全ての筋種m(m=1,2,…,n)で行われたか否か、すなわち、m=nであるか否かを判断する。ステップS86で否定結果が得られると、このことは、ステップS78での筋活動率αk,▽;mの変更が全ての筋種mで行われていないことを表しており、このとき次のステップS89に移る。
【0357】
ステップS89において、嚥下シミュレーション装置1は、筋活動率αk,▽;mのmをm+1として筋活動率αk,▽;m+1とし、さらにm+1をmと見なして(m←m+1)、再びステップS78に移る。ステップS78において、嚥下シミュレーション装置1は、例えば、既に筋活動率αk,▽;1(α1
k,0+h,α2
k,0,…,αn
k,0)が設定されている場合、mをm+1とした筋活動率αk,▽;2(α1
k,0,α2
k,0+h,…,αn
k,0)を筋活動率αk,▽;mとして設定し、次のサブルーチンSR12に移る。
【0358】
これにより、例えば、ステップS78で新たに設定された筋活動率αk,▽;2についても、筋活動率αk,▽;1と同様に、ステップS82において肯定結果が得られるまで、上述したステップS80、サブルーチンSR12、ステップS82~S84の処理を繰り返し行う。
【0359】
ステップS86で肯定結果が得られると、このことは、ステップS78での筋活動率α
k,▽;mの変更が全ての筋種mで行われたこと、すなわち、ステップS85において全ての筋種mについて最適化終了時刻(ts+△t
opt)における評価関数e
k,▽;m(e
k,▽;1,e
k,▽;2,…,e
k,▽;n)が得られたことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、
図22Bに示すステップS40に移る。
【0360】
ステップS40~ステップS43までは上述した静的最適化処理と同じ処理であり、ステップS40で、嚥下シミュレーション装置1は、評価関数ek,0、ek,▽;mを用いて、上記の(28)式及び(29)式に基づいて勾配▽ekを算出し、次のステップS41に移る。
【0361】
嚥下シミュレーション装置1は、ステップS41において、上記の(30)式又は(31)式を用いて探索方向yakの決定を行い、次のステップS42に移り、ステップS42において、上記の(32)式に所定の値であるステップサイズμpを設定し、次のステップS43に移る。
【0362】
ステップS43において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS41で算出した探索方向yakと、ステップS42で設定したステップサイズμpと、筋活動率αk,0とを用いて、上記の(32)式に基づき筋活動率αk,pを算出し、次のステップS90に移る。
【0363】
ステップS90において、嚥下シミュレーション装置1は、筋活動率αk,pを、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率として設定し、次のステップS91に移る。ステップS91において、嚥下シミュレーション装置1は、最適化済である最適化開始時刻tsでの筋活動率αtsと、ステップS90で設定した、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率αk,pとの間を線形補間して、最適化対象時刻ts~(ts+△topt)の間の各筋活動率を算出し、次のステップS92に移る。
【0364】
ステップS92において、嚥下シミュレーション装置1は、
図23に示すように、最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)で最初の演算時刻(t+△t)での筋活動率α
k,p(t+△t)を特定し、これを粒子法による1サイクルの演算処理に用いる筋活動率として設定し、次のサブルーチンSR13に移る。
【0365】
サブルーチンSR13では、始め、1回目のサブルーチンSR10のときすなわち最適化対象時刻が(嚥下開始)~(嚥下開始+Δt
opt)のときは、
図17Bの静的最適化処理で最終的に算出した最適化開始時刻(嚥下開始)での筋粒子iの位置r
tと、速度v
tと、ステップS92で設定した筋活動率α
k,p(t+△t)と、を用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS93に移る。2回目のサブルーチンSR10のとき、すなわち最適化対象時刻が(Δt
opt)~(2Δt
opt)のときは、1回目のサブルーチンSR10で最終的に算出した演算時刻Δt
optでの筋粒子iの位置r
kmax,pendと、速度v
kmax,pendを用いる。3回目以降も同様に、前回のサブルーチンSR10の最終的に算出された筋粒子iの位置r
kmax,pendと、速度v
kmax,pendを用いる。
【0366】
これにより、嚥下シミュレーション装置1では、サブルーチンSR13において、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行うことで、筋活動率α
k,p(t+△t)のときの筋粒子iの位置r
t´と、速度v
t´(
図10におけるステップS9)とを求めることができる。ここでは、サブルーチンSR13にて求めた筋粒子iの位置r
t´はr
i
k,p(t+△t)と表記し、同じくサブルーチンSR13にて求めた筋粒子iの速度v
t´はv
i
k,p(t+△t)と表記する。
【0367】
ステップS93において、嚥下シミュレーション装置1は、サブルーチンSR13で行われた粒子法による1サイクルの演算処理SRbの演算時刻(t+△t)が、最適化終了時刻(ts+△topt)であるか否かを判断する。
【0368】
ここで、否定結果が得られると、このことは、サブルーチンSR13で行われた粒子法による1サイクルの演算処理SRbの演算時刻(t+△t)が、最適化終了時刻(ts+△topt)でないことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS94に移る。
【0369】
ステップS94において、嚥下シミュレーション装置1は、tをt+△tとして(t←t+△t)、次のステップS95に移る。例えば、演算時刻が最初の演算時刻(t+△t)のときには、ステップS94において演算時刻(t+△t)のtをt+△tにすることで、演算時刻を(t+2△t)とする。ステップS95において、嚥下シミュレーション装置1は、次に行うサブルーチンSR13で用いる筋粒子iの位置r
tと速度v
t(
図10のステップS1)を、直前のサブルーチンSR13で算出した筋粒子iの位置r
i
k,p(t+△t)と速度v
i
k,p(t+△t)とに更新し、再びステップS92に移る。
【0370】
ステップS92において、嚥下シミュレーション装置1は、
図23に示すように、最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)の間で、ステップS94で更新した演算時刻(t+2△t)での筋活動率α
k,p(t+2△t)を特定して、これを粒子法による1サイクルの演算処理に用いる筋活動率として設定し、次のサブルーチンSR13に移る。
【0371】
サブルーチンSR13では、ステップS95で更新した筋粒子iの位置r
i
k,p(t+△t)と、速度v
i
k,p(t+△t)と、ステップS92で設定した筋活動率α
k,p(t+2△t)とを用いて、再び、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS93に移る。
【0372】
そして、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS93において肯定結果が得られるまで、すなわち、
図23に示すように、演算時刻(t+△t)が最適化終了時刻(ts+△t
opt)になるまで、上述したステップS92、サブルーチンSR13、ステップS93~S95の処理を繰り返し行う。
【0373】
ステップS93において肯定結果が得らえると、このことは、演算時刻(t+△t)が最適化終了時刻(ts+△topt)になったこと、すなわち、上述したステップS92、サブルーチンSR13、ステップS93~S95の処理を繰り返し行い、最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの位置ri
k,p(ts+△topt)と速度vi
k,p(ts+△topt)が算出できたことを示しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS96に移る。なお、以下では、最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの位置ri
k,p(ts+△topt)は位置ri
k,pと表記し、同じく最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの速度vi
k,p(ts+△topt)は速度vi
k,pと表記する。
【0374】
ステップS96において、嚥下シミュレーション装置1は、(i)最適化終了時刻(ts+△topt)における筋活動率αk,pと、(ii)最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの位置ri
k,pと、(iii)同じく最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの速度vi
k,pと、を用いて、上記の(35)式より評価関数ek,pを算出し、次のステップS97に移る。
【0375】
ステップS97において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS96で算出した評価関数ek,pが、上記の(33)式による条件を満たすか否かを判断する。上述したように、上記の(33)式中にあるek,(p+1)は、評価関数ek,pを算出した後に、上記の(32)式のステップサイズμpの値を増やしてステップサイズμp+1としたときの評価関数である。具体的には、評価関数ek,pを算出した後に、ステップS98に移り、ステップサイズμpのpをp+1としてステップサイズμp+1とし、さらにp+1をpと見なしてステップサイズμpとして(p←p+1)、ステップS42に戻る。ステップS42において、嚥下シミュレーション装置1は、上記の(32)式で、ステップサイズμpの値を増やしたステップサイズμp+1をステップサイズμpとして設定し、ステップS43において上記の(32)式から筋活動率αk,(p+1)を求める。
【0376】
その後、嚥下シミュレーション装置1では、ステップS93において肯定結果が得られるまで、上述したステップS92、サブルーチンSR13、ステップS93~S95の処理を繰り返し行い、ステップS96で算出された評価関数ek,(p+1)を用いて、前に求めた評価関数ek,pが上記の(33)式による条件を満たすか否かを判断する。
【0377】
ステップS97において肯定結果が得られると、このことは、ステップS96で算出した評価関数ek,pが、上記の(33)式による条件を満たしたことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS99に移る。なお、ステップS97において、上記の(33)式の条件を満たした評価関数ek,pは、最適化計算回数kにおいて最終的に求める評価関数であり、以下、評価関数ek,pendと表記し、当該評価関数ek,pendのときの筋活動率を、筋活動率αk,pendと表記する。
【0378】
ステップS99において、嚥下シミュレーション装置1は、上述したステップS70~ステップS97を全て行った処理の回数を示す最適化計算回数kが、最適化数設定部97で予め設定されている最大回数kmaxに達しているか否かを判断する。
【0379】
ここで、否定結果が得られると、このことは、上述したステップS70~ステップS97を全て行った処理の回数である最適化計算回数kが最大回数kmaxに達していないことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置は、ステップS100に移る。ステップS100において、嚥下シミュレーション装置1は、上述したステップS70~ステップS97の処理を行うために、筋活動率αk,pendのkをk+1(例えば、最適化計算回数k=1(1回目)のときには、次の最適化計算回数k=2(2回目))、pendを0として筋活動率αk+1,0とし(αk+1,0←αk,pend)、さらに筋活動率αk+1,0のk+1をkと見なして筋活動率αk,0とし(k←k+1)、再びステップS70に戻る。
【0380】
具体的には、ステップS97で上記の(33)式の条件を満たした評価関数ek,pendを算出する際に用いた筋活動率αk,pendを、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率αk,0として設定し、ステップS70において、嚥下シミュレーション装置1は、最適化済の最適化開始時刻tsでの筋活動率αtsと、新たに設定した最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率αk,0との間を線形補間して、最適化対象時刻ts~(ts+△topt)の間の各筋活動率を算出して、次のステップS71に移る。
【0381】
以降、上述したステップS71~ステップS97の処理を行い、最適化計算回数kの筋活動率αk,pendを求める。嚥下シミュレーション装置1は、このようなステップS70~ステップS97の処理を、ステップS99において肯定結果が得られるまで、すなわち、最大回数kmaxに達するまで行い、最終的に評価関数ekmax,pendを得、評価関数ekmax,pendのときの筋活動率αkmax,pendを動的最適化処理の最終的な筋活動率とする。
【0382】
嚥下シミュレーション装置1は、最終的に評価関数e
kmax,pendと、筋活動率α
kmax,pendとを算出すると、最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)の解析処理を終了し、
図20に示すステップS64に移る。
【0383】
(7-3)<緩和処理を行う他の実施形態の動的最適化処理>
次に、
図20に示した動的最適化処理手順とは異なる手法であって、緩和処理を行う他の実施形態の動的最適化処理手順について以下説明する。
【0384】
図24は、緩和処理を行う他の実施形態の動的最適化処理手順によって、最終的に得られた筋活動率α
m
tの一例を示したものである。
図24中、時刻0.10000Sの「解α
1
0.10000」と「解α
2
0.10000」は、静的最適化処理により求めた筋活動率を示している。
【0385】
緩和処理を行う他の実施形態の動的最適化処理では、嚥下シミュレーションの初期時刻t
1(ここでは、t
1=0.10000S)での筋活動率α
m
t1(
図24中、「解α
1
0.10000」と「解α
2
0.10000」)のみを静的最適化処理により算出し、これを初期値としてその後の時刻t
2,t
3,…の筋活動率α
m
t2,α
m
t3,…(
図24においては、時刻t
2で「α
1
0.10005、α
2
0.10005」、時刻t
3で「α
1
0.10010、α
2
0.10010」)は、後述する動的最適化処理により算出する。よって、嚥下シミュレーション装置1は、静的最適化処理によって、複数のフレーム画像全てからそれぞれ筋活動率を算出する必要がなく、その分、処理負担を軽減できる。
【0386】
また、緩和処理を行う他の実施形態の動的最適化処理は、動的最適化処理を行う際に設定する最適化対象時刻の間隔が極めて小さく(
図24の△t
optは、0.0005S)、また、緩和度合βを用いた緩和処理を行うことに特徴を有している。この他の実施形態の場合、
図1に示すように、筋活動率解析部91には、緩和処理部98が設けられており、この緩和処理部98によって緩和処理が行われる。
【0387】
ここで、
図25は、緩和処理を行う他の実施形態の動的最適化処理手順を示したフローチャートである。
図25に示すように、嚥下シミュレーション装置1では、開始ステップからステップS110に移り、
図26に示すように、嚥下シミュレーションの嚥下開始から嚥下終了までの間に、動的最適化処理を行う最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)を設定し、次のステップS111に移る。ここでは、ステップS110において、△t
optとして、例えば、0.00001~0.00050Sの極めて小さい微小時刻が設定される。
【0388】
この場合、嚥下シミュレーション装置1では、例えば、始めの最適化対象時刻ts~(ts+△topt)である初期時刻t1の筋活動率αt1のみが静的最適化処理により算出されている。従って、ステップS111においては、始めに、最適化開始時刻tsにおける筋活動率αtsとして、静的最適化処理により算出された、初期時刻t1における筋活動率αt1を特定し、次のステップS112に移る。
【0389】
ステップS112において、嚥下シミュレーション装置1は、最適化開始時刻tsの筋活動率α
ts(ここでは初期時刻t
1のときは筋活動率α
t1とも表記する)を、最適化終了時刻(ts+△t
opt)の筋活動率α
k,0として設定し、次のサブルーチンSR15に移る。なお、サブルーチンSR15の解析処理については、
図27のフローチャートを用いて後述する。
【0390】
サブルーチンSR15において、嚥下シミュレーション装置1は、最適化終了時刻(ts+△topt)に設定した筋活動率αk,0を利用して解析処理を行い、最適化された筋活動率αkmax,pend(β)を算出し、次のステップS113に移る。なお、ここで、上付きの(β)は緩和処理を行ったことを示す識別子である。
【0391】
ステップS113において、嚥下シミュレーション装置1は、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率として設定した筋活動率αk,0を、サブルーチンSR15で得られた筋活動率αkmax,pend(β)に更新し、次のステップS114に移る。
【0392】
ステップS114において、嚥下シミュレーション装置1は、
図26に示すように、嚥下シミュレーションの嚥下開示時刻から嚥下終了時刻までの間に、次の最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)を設定できる時刻であるか否かを判断する。
【0393】
ここで、肯定結果が得られると、このことは、嚥下シミュレーションの嚥下開示時刻から嚥下終了時刻の間に次の最適化対象時刻ts~(ts+△topt)を設定できる時刻があること、すなわち、嚥下シミュレーションの嚥下開示時刻から嚥下終了時刻まで全ての時刻に対して動的最適化処理を行っていないことを示しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は次のステップS115に移る。
【0394】
ステップS115において、嚥下シミュレーション装置1は、tsを(ts+△t
opt)とし、さらに、この(ts+△t
opt)をtsと見なして(ts←ts+△t
opt)、再びステップS110に戻り、嚥下シミュレーションの嚥下開始時刻から嚥下終了時刻の間で、動的最適化処理を行う次の最適化対象時刻(すなわち、
図26では、新たな最適化対象時刻は、△t
optずらした(ts+△t
opt)~(ts+2△t
opt)となる)を設定し、以下、ステップS114で否定結果が得られるまで上述した処理を繰り返す。
【0395】
ステップS114で否定結果が得られると、このことは、嚥下シミュレーションの嚥下開始時刻から嚥下終了時刻の間に次の最適化対象時刻ts~(ts+△topt)を設定できる時刻がないこと、すなわち、嚥下シミュレーションの嚥下開始時刻から嚥下終了時刻まで動的最適化処理を行ったことを示しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、動的最適化処理を終了する。
【0396】
次に、
図25のサブルーチンSR15の解析処理について以下説明する。
図27は、
図25のサブルーチンSR15の解析処理手順を示したフローチャートである。
図27に示すように、嚥下シミュレーション装置1は、開始ステップからサブルーチンSR16に移る。
【0397】
サブルーチンSR16では、1回目のサブルーチンSR15(
図25)のとき、すなわち最適化対象時刻が(嚥下開始)~(嚥下開始+Δt
opt)のとき、
図17Bの静的最適化処理で最終的に算出した最適化開始時刻(嚥下開始)での筋粒子iの位置r
tと、速度v
tと、
図25のステップS112で設定した最適化終了時刻(ts+△t
opt)の筋活動率α
k,0とを用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS120に移る。
【0398】
ここで、既に1回目のサブルーチンSR15の解析処理が行われている場合、2回目のサブルーチンSR15の解析処理で行われるサブルーチンSR16は以下のようになる。この場合、2回目の最適化対象時刻は(ts+△topt)~(ts+2△topt)となる。ここでは、2回目の最適化開始時刻(ts+△topt)を単にt2と表記し、同じく2回目の最適化終了時刻(ts+2△topt)を単に(t2+Δtopt)と表記する。なお、1回目のサブルーチンSR15の最適化開始時刻(嚥下開始)をt1とし、1回目のサブルーチンSR15の最適化終了時刻を(t1+Δtopt)とした場合、2回目のサブルーチンSR15の最適化開始時刻t2は、1回目のサブルーチンSR15の最適化終了時刻(t1+Δtopt)と同じ時刻であり、t2=(t1+Δtopt)の関係を有する。
【0399】
2回目のサブルーチンSR15(
図25)のとき、すなわち2回目の最適化対象時刻(t
2)~(t
2+Δt
opt)のとき、サブルーチンSR16では、1回目のサブルーチンSR15の解析処理で筋活動率α
kmax,pend(β)を用いて求めた、1回目のサブルーチンSR15の最適化終了時刻(t
1+△t
opt)((t
1+Δt
opt)=t
2)における筋粒子iの位置r
kmax,pend(β)と、速度v
kmax,pend(β)と、ステップS112で設定した筋活動率α
k,0と、を用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行う。なお、ここでは、後述するサブルーチンSR20にて求めた筋粒子iの位置をr
kmax,pend(β)と表記し、同じくサブルーチンSR20にて求めた筋粒子iの速度をv
kmax,pend(β)と表記する。
【0400】
すなわち、2回目以降のサブルーチンSR15で行われるサブルーチンSR16では、直前のサブルーチンSR15で得られたα
kmax,pend(β)を用いて、直前のサブルーチンSR15で粒子法による1サイクルの演算処理(後述するサブルーチンSR20)を行った結果得られた、筋粒子iの位置r
kmax,pend(β)と、速度v
kmax,pend(β)とを、今回のサブルーチンSR16での筋粒子iの位置r
tと速度v
tの初期値として用いて、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行う。
【0401】
これにより、嚥下シミュレーション装置1では、サブルーチンSR16において、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行うことで、最適化終了時刻(ts+△t
opt)における筋粒子iの位置r
t´と、速度v
t´(
図10のステップS9)とを求めることができる。ここでは、サブルーチンSR16にて求めた筋粒子iの位置r
t´はr
i
k,0と表記し、同じくサブルーチンSR16にて求めた筋粒子iの速度v
t´はv
i
k,0と表記する。
【0402】
ステップS120において、嚥下シミュレーション装置1は、(i)最適化終了時刻(ts+△topt)の筋活動率αk,0と、(ii)サブルーチンSR16で算出した筋粒子iの位置ri
k,0と、(iii)同じくサブルーチンSR16で算出した筋粒子iの速度vi
k,0と、を用いて、上記の(34)式より評価関数ek,0を算出し、次のステップS121に移る。
【0403】
ステップS121において、嚥下シミュレーション装置1は、筋活動率αk,0の値を変更した、上記の(27)式に示す筋活動率αk,▽;mを、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率として設定し、次のサブルーチンSR17に移る。なお、筋活動率αk,▽;mは、上述した静的最適化処理と同様に、例えば、上記の(27)式に示すように、所定の筋種mの筋活動率αm
k,0に対してhを加算して変更する。hは、予め設定されている数値でもよく、開発者がその都度設定する数値でもよいが、例えば、0.0001~0.01のように小さな数値であることが望ましい。
【0404】
hを加算する筋活動率αm
k,0は、例えば、筋活動率α1
k,0,…,αn
k,0のうち、いずれか1つの筋種mの筋活動率αm
k,0にhを加算する。ここでは、始めに、m=1とし、筋活動率α1
k,0にhを加算した筋活動率αk,▽;1(α1
k,0+h,α2
k,0,…,αn
k,0)が用いられる。このような筋活動率αk,▽;mの値の変更は、筋活動率変更部80により行われる。
【0405】
サブルーチンSR17では、1回目のサブルーチンSR15のとき、すなわち最適化対象時刻が(嚥下開始)~(嚥下開始+Δt
opt)のとき、
図17Bの静的最適化処理で最終的に算出した最適化開始時刻(嚥下開始)での筋粒子iの位置r
tと、速度v
tと、ステップS121で新たに設定した最適化終了時刻(ts+△t
opt)での筋活動率α
k,▽;mとを用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS122に移る。
【0406】
なお、上述したように、2回目のサブルーチンSR15(
図25)のとき、すなわち2回目の最適化対象時刻(t
2)~(t
2+Δt
opt)のとき、サブルーチンSR17では、1回目のサブルーチンSR15で筋活動率α
kmax,pend(β)を用いて求めた、1回目のサブルーチンSR15の最適化終了時刻(t
1+△t
opt)における筋粒子iの位置r
kmax,pend(β)と、速度v
kmax,pend(β)と、ステップS121で新たに設定した筋活動率α
k,▽;mと、を用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行う。
【0407】
すなわち、2回目以降のサブルーチンSR15で行われるサブルーチンSR17では、直前のサブルーチンSR15で得られたα
kmax,pend(β)を用いて、直前のサブルーチンSR15で粒子法による1サイクルの演算処理(後述するサブルーチンSR20)を行った結果得られた、筋粒子iの位置r
kmax,pend(β)と、速度v
kmax,pend(β)とを、今回のサブルーチンSR17での筋粒子iの位置r
tと速度v
tの初期値として用いて、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行う。
【0408】
これにより、嚥下シミュレーション装置1では、サブルーチンSR17において、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行うことで、最適化終了時刻(ts+△t
opt)における筋粒子iの位置r
t´と、速度v
t´(
図10におけるステップS9)とを求めることができる。ここでは、サブルーチンSR17にて求めた筋粒子iの位置r
t´はr
i
k,▽;mと表記し、同じくサブルーチンSR17にて求めた筋粒子iの速度v
t´はv
i
k,▽;mと表記する。
【0409】
ステップS122において、嚥下シミュレーション装置1は、(i)最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率αk,▽;mと、(ii)サブルーチンSR17で算出した筋粒子iの位置ri
k,▽;mと、(iii)同じくサブルーチンSR17で算出した筋粒子iの速度vi
k,▽;mと、を用いて、上記の(35)式より評価関数ek,▽;mを算出し、次のステップS123に移る。
【0410】
ステップS123において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS121での筋活動率αk,▽;mの変更が全ての筋種m(m=1,2,…,n)で行われたか否か、すなわち、m=nであるか否かを判断する。ステップS123で否定結果が得られると、このことは、ステップS121での筋活動率αk,▽;mの変更が全ての筋種mで行われていないことを表しており、このとき次のステップS124に移る。
【0411】
ステップS124において、嚥下シミュレーション装置1は、筋活動率αk,▽;mのmをm+1として(m←m+1)、再びステップS121に移る。例えば、1回目のステップS121において筋活動率αk,▽;1(α1
k,0+h,α2
k,0,…,αn
k,0)が設定されている場合、2回目のステップS121では、mをm+1とした筋活動率αk,▽;2(α1
k,0,α2
k,0+h,…,αn
k,0)を設定し、次のサブルーチンSR17に移る。
【0412】
これにより、例えば、ステップS121で新たに設定された筋活動率αk,▽;2についても、筋活動率αk,▽;1と同様に、上述したサブルーチンSR17及びステップS122の処理を行う。
【0413】
ステップS123で肯定結果が得られると、このことは、ステップS121での筋活動率αk,▽;mの変更が全ての筋種mで行われたこと、すなわち、ステップS122において全ての筋種mについて評価関数ek,▽;m(ek,▽;1,ek,▽;2,…,ek,▽;n)が得られたことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS40に移る。
【0414】
ステップS40~ステップS43は上述した静的最適化処理と同じ処理であり、ステップS40で、嚥下シミュレーション装置1は、評価関数ek,0、ek,▽;mを用いて、上記の(28)式及び(29)式に基づいて勾配▽ekを算出し、次のステップS41に移る。
【0415】
嚥下シミュレーション装置1は、ステップS41において、上記の(30)式又は(31)式を用いて探索方向yakの決定を行い、次のステップS42に移り、ステップS42において、上記の(32)式に所定の値であるステップサイズμpを設定し、次のステップS43に移る。
【0416】
ステップS43において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS41で算出した探索方向yakと、ステップS42で設定したステップサイズμpと、筋活動率αk,0とを用いて、上記の(32)式に基づき筋活動率αk,pを算出し、次のステップS126に移る。
【0417】
ステップS126において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS43で算出した筋活動率αk,pを、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率αk,pとして設定し、次のサブルーチンSR18に移る。
【0418】
サブルーチンSR18では、1回目のサブルーチンSR15のとき、すなわち最適化対象時刻が(嚥下開始)~(嚥下開始+Δt
opt)のとき、
図17Bの静的最適化処理で最終的に算出した最適化開始時刻(嚥下開始)での筋粒子iの位置r
tと、速度v
tと、ステップS43で新たに設定した最適化終了時刻(ts+△t
opt)の筋活動率α
k,pとを用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS127に移る。
【0419】
なお、上述したように、2回目のサブルーチンSR15(
図25)のとき、すなわち2回目の最適化対象時刻(t
2)~(t
2+Δt
opt)のとき、サブルーチンSR18では、1回目のサブルーチンSR15で筋活動率α
kmax,pend(β)を用いて求めた、1回目のサブルーチンSR15の最適化終了時刻(t
1+△t
opt)における筋粒子iの位置r
kmax,pend(β)と、速度v
kmax,pend(β)と、ステップS43で新たに設定した筋活動率α
k,pと、を用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行う。
【0420】
すなわち、2回目以降のサブルーチンSR15で行われるサブルーチンSR18では、直前のサブルーチンSR15で得られたα
kmax,pend(β)を用いて、直前のサブルーチンSR15で粒子法による1サイクルの演算処理(後述するサブルーチンSR20)を行った結果得られた、筋粒子iの位置r
kmax,pend(β)と、速度v
kmax,pend(β)とを、今回のサブルーチンSR18での筋粒子iの位置r
tと速度v
tの初期値として用いて、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行う。
【0421】
これにより、嚥下シミュレーション装置1では、サブルーチンSR18において、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行うことで、最適化終了時刻(ts+△t
opt)における筋粒子iの位置r
t´と、速度v
t´(
図10におけるステップS9)とを求めることができる。ここでは、サブルーチンSR18にて求めた筋粒子iの位置r
t´はr
i
k,pと表記し、同じくサブルーチンSR17にて求めた筋粒子iの速度v
t´はv
i
k,pと表記する。
【0422】
ステップS127において、嚥下シミュレーション装置1は、(i)最適化終了時刻(ts+△topt)の筋活動率αk,pと、(ii)サブルーチンSR18で算出した筋粒子iの位置ri
k,pと、(iii)同じくサブルーチンSR18で算出した筋粒子iの速度vi
k,pと、を用いて、上記の(35)式より評価関数ek,pを算出し、次のステップS128に移る。
【0423】
ステップS128において、嚥下シミュレーション装置1は、ステップS127で算出した評価関数ek,pが、上記の(33)式による条件を満たすか否かを判断する。上述したように、上記の(33)式中にあるek,(p+1)は、評価関数ek,pを算出した後に、上記の(32)式のステップサイズμpの値を増やしてステップサイズμp+1としたときの評価関数である。具体的には、評価関数ek,pを算出した後に、ステップS129に移り、pをp+1として(p←p+1)、ステップS42に戻る。ステップS42において、嚥下シミュレーション装置1は、上記の(32)式のステップサイズμpの値を増やしてステップサイズμp+1とし、ステップS43において上記の(32)式から筋活動率αk,(p+1)を求める。
【0424】
その後、嚥下シミュレーション装置1では、ステップS128において肯定結果が得られるまで、上述したステップS129、ステップS42、ステップS43、ステップS126、サブルーチンSR18、ステップS127、ステップS128の処理を繰り返し行い、ステップS127で算出された評価関数ek,(p+1)を用いて、前に求めた評価関数ek,pが上記の(33)式による条件を満たすか否かを判断する。
【0425】
ステップS128において肯定結果が得られると、このことは、ステップS127で算出した評価関数ek,pが、上記の(33)式による条件を満たしたことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置1は、次のステップS130に移る。なお、ステップS128において、上記の(33)式の条件を満たした評価関数ek,pは、最適化計算回数kにおいて最終的に求める評価関数であり、以下、評価関数ek,pendと表記し、当該評価関数ek,pendのときの筋活動率を、筋活動率αk,pendと表記する。
【0426】
ステップS130において、嚥下シミュレーション装置1は、上述したサブルーチンSR16~ステップS128を全て行った処理の回数を示す最適化計算回数kが、最適化数設定部97で予め設定されている最大回数kmaxに達しているか否かを判断する。
【0427】
ここで、否定結果が得られると、このことは、上述したサブルーチンSR16~ステップS128を全て行った処理の回数である最適化計算回数kが最大回数kmaxに達していないことを表しており、このとき、嚥下シミュレーション装置は、ステップS131に移る。ステップS131において、嚥下シミュレーション装置1は、上述したサブルーチンSR16~ステップS128の処理を行うために、筋活動率αk,pendのkをk+1(例えば、最適化計算回数k=1(1回目)のときには、次の最適化計算回数k=2(2回目))、pendを0として筋活動率αk+1,0とし(αk+1,0←αk,pend)、さらに筋活動率αk+1,0のk+1をkと見なして筋活動率αk,0とし(k←k+1)、再びサブルーチンSR16に戻る。
【0428】
具体的には、ステップS128で上記の(33)式の条件を満たした評価関数ek,pendを算出する際に用いた筋活動率αk,pendを、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率αk,0として設定する。
【0429】
ステップS131から移ったサブルーチンSR16では、1回目のサブルーチンSR15のとき、すなわち最適化対象時刻が(嚥下開始)~(嚥下開始+Δt
opt)のとき、
図17Bの静的最適化処理で最終的に算出した演算時刻(嚥下開始)での筋粒子iの位置r
t+△tと、速度v
t+△tと、ステップS131で新たに設定した筋活動率α
k,0とを用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、次のステップS120に移る。
【0430】
なお、上述したように、2回目以降のサブルーチンSR15で行われるサブルーチンSR16では、ここでも直前のサブルーチンSR15で得られたα
kmax,pend(β)を用いて、粒子法による1サイクルの演算処理(後述するサブルーチンSR20)を行った結果得られた、前回のサブルーチンSR15での筋粒子iの位置r
kmax,pend(β)と、速度v
kmax,pend(β)とを、今回のサブルーチンSR16での筋粒子iの位置r
tと速度v
tの初期値として用いて、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行う。
【0431】
以降、上述したステップS120~ステップS130の処理を行い、k←k+1としたときの最適化計算回数kの筋活動率αk,pendを求める。嚥下シミュレーション装置1は、このような処理を、ステップS130において肯定結果が得られるまで、すなわち、最大回数kmaxに達するまで行い、最終的に得られた評価関数を評価関数ekmax,pendとし、評価関数ekmax,pendのときの筋活動率を筋活動率αkmax,pendとする。
【0432】
ステップS132において、嚥下シミュレーション装置1は、下記の(36)式に基づいて、緩和度合βを用いた緩和処理を行って新たに筋活動率α
kmax,pend(β)を算出し、次のサブルーチンSR20に移る。ここで、筋活動率α
kmax,pend(β)の上付きの(β)は、緩和処理を行ったことを示す識別子である。その後、上述した
図25のステップS113において、ステップS110で設定した最適化終了時刻(ts+△t
opt)の筋活動率α
k,0を、ステップS132で算出した筋活動率α
kmax,pend(β)に更新する。
【数36】
…(36)
【0433】
なお、緩和度合βは定数であり、予め設定されているものである。緩和度合βは、例えば、1超10000未満であることが望ましいが、10000以上の数値であってもよい。上記の(36)式のα
tsは、最適化開始時刻tsにおける筋活動率であり、
図25のステップS111で特定したものである。なお、最適化開始時刻tsの筋活動率α
tsは、最適化開始時刻tsが嚥下シミュレーションの開始から時刻tであるとした場合、筋活動率α
tと表記することもできる。
【0434】
サブルーチンSR20では、1回目のサブルーチンSR15のとき、すなわち最適化対象時刻が(嚥下開始)~(嚥下開始+Δt
opt)のとき、
図17Bの静的最適化処理で最終的に算出した最適化開始時刻(嚥下開始)での筋粒子iの位置r
tと、速度v
tと、ステップS132で得られた筋活動率α
kmax,pend(β)と、を用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを、運動解析部50によって行い、上述した解析処理を終了する。
【0435】
ここで、2回目のサブルーチンSR15(
図25)のとき、すなわち2回目の最適化対象時刻(t
2)~(t
2+Δt
opt)のとき、サブルーチンSR20では、1回目のサブルーチンSR15でそのときの筋活動率α
kmax,pend(β)を用いて求めた、1回目のサブルーチンSR15での筋粒子iの位置r
kmax,pend(β)と、速度v
kmax,pend(β)と、ステップS132で新たに設定した筋活動率α
kmax,pend(β)と、を用いて、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従い、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行う。
【0436】
すなわち、2回目以降のサブルーチンSR15で行われるサブルーチンSR20では、直前のサブルーチンSR15で得られた筋活動率α
kmax,pend(β)を用いて、直前のサブルーチンSR15で粒子法による1サイクルの演算処理(後述するサブルーチンSR20)を行った結果得られた、筋粒子iの位置r
kmax,pend(β)と、速度v
kmax,pend(β)とを、今回のサブルーチンSR20での筋粒子iの位置r
tと速度v
tの初期値として用いて、
図10に示した粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行う。
【0437】
これにより、嚥下シミュレーション装置1では、サブルーチンSR20において、粒子法による1サイクルの演算処理SRbを行うことで、筋活動率α
kmax,pend(β)を用いて、最適化終了時刻(ts+△t
opt)における筋粒子iの位置r
t´と、速度v
t´(
図10のステップS9)とを求めることができる。ここでは、サブルーチンSR20にて求めた筋粒子iの位置r
t´はr
kmax,pend(β)と表記し、同じくサブルーチンSR20にて求めた筋粒子iの速度v
t´はv
kmax,pend(β)と表記する。
【0438】
そして、サブルーチンSR20で筋活動率αkmax,pend(β)を用いて求めた、最適化終了時刻(ts+△topt)における筋粒子iの位置rkmax,pend(β)と、速度vkmax,pend(β)は、次のサブルーチンSR15の解析処理で初期値として設定される。
【0439】
ここで、緩和度合βの数値を変えてゆき、嚥下シミュレーション時における筋活動率の時間的変化を調べる検証試験を行った。その結果、
図28A~
図28Eに示すような結果が得られた。ここでは、
図11に示した動的三次元頭頸部粒子モデル50aを用いて、
図25に示した動的最適化処理を行った。そして、緩和度合βを1、10、100、1000、10000と変えてゆき、筋活動率(なお、ここでは単に筋活動率αとする)の変化を確認した。
【0440】
ここで、筋電測定による研究では、筋活動率の時間的変化は比較的滑らかであることが知られている(参考:「Electromyography of Swallowing with Fine Wire Intramuscular Electrodes in Healthy Human: Activation Sequence of Selected Hyoid Muscles」https://www.semanticscholar.org/paper/Electromyography-of-Swallowing-with-Fine-Wire-in-of-Inokuchi-Gonz%C3%A1lez-Fern%C3%A1ndez/e443e2f91d0a9473ed619e2f4b080d8eac2ca09e)。
【0441】
図28Aに示すように、上記の(36)式で緩和度合β=1とした場合には、嚥下シミュレーション時、筋活動率αが細かく振動してしまっており、筋活動率αの時間的変化を滑らかにする必要があることが確認できた。
【0442】
図28B~
図28Eに示すように、緩和度合βを大きくしてゆくことで、筋活動率αの細かな振動が抑制されることが確認できた。但し、緩和度合β=10000とした場合には、筋活動率αの波形が当初の波形と若干異なってくるため、本実施形態では、緩和度合βは1超10000未満が望ましく、特に10~1000程度であることが望しいことが確認できた。
【0443】
次に、同じく緩和度合βを1、10、100、1000、10000と変えてゆき、嚥下シミュレーション時における動的三次元頭頸部粒子モデル50aの舌骨52の挙動を調べたところ、
図29A~
図29Eに示すような結果が得られた。なお、
図29A~
図29Eの目標値とは、被験者が嚥下を行ったときのVF画像、4DCT画像等に基づき被験者の舌骨をトレースしたものである。
【0444】
図29A~
図29Dの結果から、緩和度合βを1、10、100、1000とした場合には、舌骨52の挙動が目標値に近いことが確認できた。但し、
図29Eに示すように、緩和度合βを10000とした場合には、舌骨52の挙動が目標値から比較的大きく外れてしまっていることが確認でき、この点からも緩和度合βは1超10000未満が望ましいことが確認できた。
【0445】
以上の構成において、筋活動率解析部91では、動的三次元頭頸部粒子モデル50aで頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて三次元画像で解析する嚥下開始から嚥下終了までの時刻の中から、評価関数ek,pを用いて筋活動率αkmax,pendを特定する最適化対象時刻ts~(ts+△topt)を設定し、この最適化対象時刻ts~(ts+△topt)の最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率αkmax,pendを評価関数ek,pに基づいて特定するようにした。
【0446】
そして、筋活動率解析部91では、最適化対象時刻ts~(ts+△topt)の最適化開始時刻tsでの筋活動率αts(最適化開始時刻tsが嚥下シミュレーションの開始から時刻tであるとした場合、時刻tを用いて表すと、筋活動率αt)と、最適化終了時刻(ts+△topt)での筋活動率αkmax,pendと、緩和度合βとを用いて、上記の(36)式より、緩和処理を行った筋活動率αkmax,pend(β)を算出するようにした。これにより、本実施形態では、嚥下時における筋活動率αkmax,pend(β)の時間的変化を滑らかにすることができ、嚥下時における頭頸部器官の運動を従来よりも一段と正確に再現することができる。
【0447】
(8)<その他の検証結果>
(8-1)<手動設定処理及び静的最適化処理における評価関数と筋活動率の算出>
次に、
図11に示す簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aを用いて、手動設定処理及び静的最適化処理を実際に行った。なお、以下説明する検証試験では、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従って粒子法による演算処理(すなわち、嚥下シミュレーション)を行った。ここでは、嚥下シミュレーションの解析結果として得られる動画像を構成するフレーム画像の中から、嚥下シミュレーションの開始から39フレーム目のフレーム画像を選択し、このフレーム画像に関して手動設定処理及び静的最適化処理を行った。その結果、
図30に示すような結果が得られた。
【0448】
図30において、「ite:k」は、最適化計算回数kを示すものであり、「ite」が「0」は手動設定処理の項目を示す(すなわち、評価関数e
0,0は手動設定処理時の評価関数を示す)。静的最適化処理において最適化計算回数kの最大回数k
maxは4回となっており、「ite」には、最適化計算回数1回目開始時の「1」、最適化計算回数2回目開始時の「2」、最適化計算回数3回目開始時の「3」、最適化計算回数4回目開始時の「4」、最適化計算回数4回目終了後の「end」の項目が設けられている。
【0449】
最適化計算回数4回目終了後の「end」の評価関数e
k,0にある「0.003704」が、上述した評価関数e
kmax,pendに対応するものである。39フレーム目のフレーム画像において、この評価関数e
kmax,pendが得らえたときの筋種ごとの筋活動率αは、
図31に示すような結果となり、筋活動率αは比較的小さな値となることが確認できた。
【0450】
(8-2)<手動設定処理及び静的最適化処理における舌骨の挙動>
次に、
図32に示すように、左右の茎突舌骨筋56a,56bを左右別々に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50cと、左右の茎突舌骨筋56a,56bを左右一体的に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50dとを準備し、上述した検証試験と同様に、手動設定処理及び静的最適化処理を行い、筋活動率αを決定した。そして、そのときの動的三次元頭頸部粒子モデル50c,50dの舌骨52の挙動の違いを確認したところ、
図33に示すような結果が得られた。
【0451】
図33では、嚥下シミュレーション時に得られる動画像について9フレームごとに、手動設定処理及び静的最適化処理を行い、茎突舌骨筋56a,56bと、オトガイ舌骨筋57と、胸骨舌骨筋58の各筋活動率αを決定し、最終的に決定した筋活動率αを設定した動的三次元頭頸部粒子モデル50c,50dを用いて嚥下シミュレーションを行い、三次元画像内での舌骨52の重心座標を確認した。
【0452】
図33では、左右の茎突舌骨筋56a,56bを左右別々に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50cから得られた結果を「十」で示し、左右の茎突舌骨筋56a,56bを左右一体的に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50dから得られた結果を「×」で示している。また、
図33では、被験者に嚥下させたときに得られたVF画像や4DCT画像を基に特定した舌骨の位置を目標値として「●」で示している。
【0453】
図33から、左右の茎突舌骨筋56a,56bを左右別々に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50cと、左右の茎突舌骨筋56a,56bを左右一体的に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50dとのいずれにおいても目標値に近い挙動となることが確認できた。また、茎突舌骨筋56a,56bを左右別々に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50cの方が、茎突舌骨筋56a,56bを左右一体的に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50dよりも、目標値に近い挙動となることが確認できた。
【0454】
図34は、9フレームごとに手動設定処理及び静的最適化処理を行った上述の検証試験から得られた結果をまとめたものであり、舌骨52の重心のずれと、時刻(フレーム数)と、基準配置からの変位との関係を示している。
【0455】
図34中、「結果1重心のずれ」とは、茎突舌骨筋56a,56bを左右別々に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50cの舌骨52の重心について、目標位置からのずれを示している。「結果2重心のずれ」とは、茎突舌骨筋56a,56bを左右一体的に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50dの舌骨52の重心について、目標位置からのずれを示している。
【0456】
「CTでの基準配置からの舌骨変位」とは、被験者に嚥下させたときに得られたVF画像や4DCT画像を基に、嚥下開始前の舌骨の位置を「基準配置」と、嚥下時の舌骨の移動位置とを特定して、嚥下時の舌骨の「基準配置」からの変位を示している。
【0457】
図34から、茎突舌骨筋56a,56bを左右別々に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50cの方が、茎突舌骨筋56a,56bを左右一体的に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50dよりも、比較的、舌骨52の重心ずれが小さいことが分かる。
【0458】
また、
図35は、9フレームごとに手動設定処理及び静的最適化処理を行った上述の検証試験から得られた結果をまとめたものであり、評価関数eと、時刻(フレーム数)と、基準配置からの変位との関係を示している。
図35から、「評価関数e」と、「基準配置からの変位」とには特に相関がないと推測できる。
【0459】
次に、9フレームごとに手動設定処理及び静的最適化処理を行った上述の検証試験において、茎突舌骨筋56a,56bを左右別々に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50cから得られた検証結果(以下、最適化結果1とも称する)について、
図36に示した。
図36では、最適化結果1に関し、筋種ごとの筋活動率αと、時刻(フレーム数)と、舌骨52の変位とについてまとめている。
【0460】
また、9フレームごとに手動設定処理及び静的最適化処理を行った上述の検証試験において、茎突舌骨筋56a,56bを左右一体的に挙動させる動的三次元頭頸部粒子モデル50dから得られた検証結果(以下、最適化結果2とも称する)について、
図37に示した。
図37では、最適化結果2に関し、筋種ごとの筋活動率αと、時刻(フレーム数)と、舌骨52の変位とについてまとめている。
【0461】
図36及び
図37中、「GenHyo」は「オトガイ舌骨筋57」、「StyHyoL」は「左の茎突舌骨筋56b」、「StyHyoR」は「右の茎突舌骨筋56a」、「SteThy」は「胸骨舌骨筋58」を示す。
【0462】
図36及び
図37から、最適化結果1及び最適化結果2でほぼ同じような結果が得られることが確認できた。また、茎突舌骨筋56a,56b、オトガイ舌骨筋57及び胸骨舌骨筋58の各筋活動率αについて、嚥下シミュレーション時の変化タイミング等が異なり、各筋活動率αの挙動が重要であることが確認できた。
【0463】
(8-3)<頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデルを用いた、手動設定処理及び静的最適化処理>
次に、
図38に示すように、頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデル10gを作製して、手動設定処理及び静的最適化処理を行った。なお、
図34の「10h」は、動的三次元頭頸部粒子モデル10gの正中面における断面構成を示した断面図である。このような動的三次元頭頸部粒子モデル10g,10hの作製手法は、上述した「(4)<動的三次元頭頸部粒子モデルの作製>」に従って作製した。
【0464】
ここでは、嚥下開始から57フレーム目のフレーム画像について手動設定処理によって、「オトガイ舌筋の後端部分(GenGlo6/6)61」、「舌骨舌筋(HyoGlo)」、「顎二腹筋前腹(AntDig)63」、「オトガイ舌骨筋(GenHyo)57」、「顎舌骨筋(MylHyo)64」、「顎二腹筋後腹(PosDig)65」、「茎突舌骨筋(StyHyo)56」の7種の筋種にそれぞれ筋活動率αを設定したときの解析結果を、
図39Aに示す。
【0465】
図39Aの左側「10j1」は、57フレーム目における動的三次元頭頸部粒子モデルの全体像を示し、右側「10J11」は、動的三次元頭頸部粒子モデル10j1の舌骨付近の正中断面を示している。
【0466】
次に、嚥下開始から57フレーム目のフレーム画像について手動設定処理によって、上記同様に7種の筋種にそれぞれ筋活動率αを設定した後に、静的最適化処理によって、上記同様に7種の筋種にそれぞれ筋活動率αを修正したときの解析結果を、
図39Bに示す。
【0467】
図39Bの左側「10j2」は、674フレーム目における動的三次元頭頸部粒子モデルの全体像を示し、右側「10J21」は、動的三次元頭頸部粒子モデル10j2の舌骨付近の正中断面を示している。
【0468】
なお、
図40は、嚥下開始から57フレーム目のフレーム画像について手動設定処理及び静的最適化処理を行ったときの評価関数e
k,0を示している。
図40において、「ite:k」は、最適化計算回数kを示すものであるが、「ite:k」が「0」は手動設定処理の項目を示す(すなわち、評価関数e
0,0は手動設定処理時の評価関数を示す)。ここでは、静的最適化処理において最適化計算回数kの最大回数k
maxは4回となっており、「ite:k」には、最適化計算回数1回目開始時の「1」、最適化計算回数2回目開始時の「2」、最適化計算回数3回目開始時の「3」、最適化計算回数4回目開始時の「4」、最適化計算回数4回目の終了時の「end」の項目が設けられており、それぞれ最終的に求めた評価関数e
kmax,pendを示している。
【0469】
図39A、
図39B及び
図40から、頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデル10gであっても、手動設定処理及び静的最適化処理により、筋種ごとに筋活動率αを設定できることが確認できた。
【0470】
(8-4)<頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデルを用いた、動的最適化処理>
次に、頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデルを作製して、手動設定処理及び静的最適化処理を行った後に、さらに、動的最適化処理を行った。
図41及び
図42は、頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデルを用いて手動設定処理、静的最適化処理及び動的最適化処理を行い、7種の筋種ごとに筋活動率αを決定し、この筋活動率αを設定した動的三次元頭頸部粒子モデルを用いて嚥下シミュレーションを行ったときの解析結果を示す。
【0471】
なお、手動設定処理、静的最適化処理及び動的最適化処理によって最適な筋活動率αを求める7種の筋種は、上述した「(8-3)<頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデルを用いた、手動設定処理及び静的最適化処理>」と同じである。
【0472】
また、この検証試験では、動的最適化処理として、上述した「(7-3)<緩和処理を行う他の実施形態の動的最適化処理>」で説明した動的最適化処理を行い、そのときの緩和度合βを10とした。
【0473】
図41及び
図42では、全体像の動的三次元頭頸部粒子モデル10k1,10k2,10k3,10k4と、動的最適化処理を行った7種の筋種のみを表示した動的三次元頭頸部粒子モデル10l1,10l2,10l3,10l4と、筋を非表示にして舌骨付近を拡大した動的三次元頭頸部粒子モデル10m1,10m2,10m3,10m4とを示す。
【0474】
図41において、全体像の動的三次元頭頸部粒子モデル10k1と、一部表示の動的三次元頭頸部粒子モデル10l1と、舌骨付近を拡大した動的三次元頭頸部粒子モデル10m1とについては、嚥下シミュレーションの開始から0.133S後の状態を示す。
【0475】
また、
図41において、全体像の動的三次元頭頸部粒子モデル10k2と、一部表示の動的三次元頭頸部粒子モデル10l2と、舌骨付近を拡大した動的三次元頭頸部粒子モデル10m2とについては、嚥下シミュレーションの開始から1.133S後の状態を示す。
【0476】
図42において、全体像の動的三次元頭頸部粒子モデル10k3と、一部表示の動的三次元頭頸部粒子モデル10l3と、舌骨付近を拡大した動的三次元頭頸部粒子モデル10m3とについては、嚥下シミュレーションの開始から1.900S後の状態を示す。
【0477】
また、
図42において、全体像の動的三次元頭頸部粒子モデル10k4と、一部表示の動的三次元頭頸部粒子モデル10l4と、舌骨付近を拡大した動的三次元頭頸部粒子モデル10m4とについては、嚥下シミュレーションの開始から2.500S後の状態を示す。
【0478】
図41及び
図42から、頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデル10k1~10k4であっても、手動設定処理、静的最適化処理及び動的最適化処理により、筋種ごとに最適な筋活動率αを設定できることが確認できた。
【0479】
なお、頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデル10k1~10k4では、
図11に示すような簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aに比べて、筋活動率αの振動が少ないことが確認できた。よって、緩和度合βの設定は、簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aで一段と有効であることが分かった。
【0480】
(9)<作用及び効果>
以上の構成において、嚥下シミュレーション装置1では、複数の粒子によって複数の頭頸部器官が三次元画像でモデル化され、かつ、複数の頭頸部器官が筋種mごとに三次元画像内で筋線維方向を特定した複数の筋粒子により作製された動的三次元頭頸部粒子モデルを、記憶部83に記憶する。
【0481】
そして、嚥下シミュレーション装置1では、筋粒子に設定される収縮応力の時間的変化を示す筋活動率αmの値を、筋活動率変更部80により変更しながら、筋活動率を変更した動的三次元頭頸部粒子モデルを用いて粒子法に基づき、嚥下時における頭頸部器官の運動を三次元画像で解析する。
【0482】
この際、本実施形態では、頭頸部器官の収縮筋の筋種mごとに設定した筋活動率αmの時間的変化を反映させて、粒子法により、嚥下時における動的三次元頭頸部粒子モデル10c,50aの各筋粒子iの運動を、三次元画像で解析する。これにより、嚥下シミュレーション装置1では、筋活動率αm
k,Phを最適な値に設定することで、嚥下時における時間経過に応じて活発的に動く収縮筋を再現することができ、嚥下時における頭頸部器官の運動などを従来よりも一段と正確に再現することができる。
【0483】
また、嚥下シミュレーション装置1では、運動解析部50により、筋活動率α
m
k,Phを変更したときの嚥下時の頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて解析し、この解析結果から筋粒子の位置r
i
k,Phを算出する。ここで、筋活動率α
m
k,Phの値を変更した動的三次元頭頸部粒子モデル10c,50aを用い、嚥下時における頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて三次元画像で行う解析とは、
図9及び
図10に示すような、粒子法による1サイクルの演算処理SRa,SRbのことであり、この演算処理結果から筋粒子の位置rを算出する。
【0484】
嚥下シミュレーション装置1は、頭頸部器官の運動を解析する嚥下シミュレーションを行った際の筋活動率αm
k,Phと、粒子法による解析結果である筋粒子の位置ri
k,Phと、に基づいて、上記の(26)式から評価関数ek,Phを算出する。嚥下シミュレーション装置1は、得られた評価関数ek,Phに基づいて嚥下時における筋活動率を解析することができる。
【0485】
なお、嚥下シミュレーション装置1は、運動解析部50により三次元画像で解析された、嚥下開始から嚥下終了までの頭頸部器官の運動の解析結果を、動画像で表示する。
【0486】
以上により、嚥下シミュレーション装置1では、筋活動率αm
k,Phの値を変更するごとに算出した評価関数ek,Phに基づいて、筋活動率αm
k,Phの値を決めることができ、嚥下時における頭頸部器官の運動を従来よりも一段と正確に再現することができる。
【0487】
また、嚥下シミュレーション装置1は、頭頸部器官の運動を解析する嚥下シミュレーションを行った際の筋活動率αm
k,Phと、粒子法による解析結果である筋粒子の位置ri
k,Phと、同じく粒子法による解析結果である筋粒子の速度vi
k,Phとに基づいて、上記の(35)式から評価関数ek,Phを算出する。これにより、嚥下シミュレーション装置1は、得られた評価関数ek,Phに基づいて、筋粒子の速度vi
k,Phを考慮して嚥下時における筋活動率αm
k,Phを解析することができる。
【0488】
(10)<他の実施形態>
上述した実施形態においては、嚥下障害者又は健常者の頭頸部器官を再現した動的三次元頭頸部粒子モデル10c,50aを三次元画像により形成する他にも、例えば、乳幼児又は高齢者等の頭頸部器官を再現した動的三次元頭頸部粒子モデルを三次元画像により形成してもよい。
【0489】
また、上述した実施形態においては、粒子法として、本実施形態で採用したMPS法以外に、SPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法などを適用してもよい。
【0490】
また、上述した実施形態においては、上記に(8)式の演算式を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、上記の(8)式の演算式における補正係数flは常に1としてもよい。また、例えば、筋線維長の変化速度に応じた補正係数fvを、上記の(8)式の演算式にさらに掛け算で追加してもよい。
【0491】
また、動的三次元頭頸部粒子モデルにおいて、頭頸部器官の筋種として、例えば、その他、咽頭挙筋群や、舌筋、軟口蓋の筋、舌骨上筋群、舌骨下筋群、喉頭の筋、等に筋粒子を設定し、嚥下時に、三次元画像内で特定した筋活動率に基づいて当該筋粒子を運動させるようにしてもよい。これにより、これら筋種の筋活動率についても評価関数を基に最適化することができる。
【0492】
また、上述した実施形態においては、手動設定処理と静的最適化処理とを行う第1の手法と、手動設定処理と静的最適化処理と動的最適化処理とを行う第2の手法とについて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、手動設定処理の後に動的最適化処理を行ってもよく、また、手動設定処理を行わずに、静的最適化処理及び動的最適化処理を行ってもよい。
【0493】
また、上述した実施形態においては、受動的応力Spassiveとして、等方性材料であるムーニー・リブリン体の超弾性体での応力算出の方法を利用し、上記の(11)式に基づいて受動的応力Spassiveを求める場合について述べたが、本発明はこれに限らない。他の受動的応力Spassiveの算出方法としては、例えば、ムーニー・リブリン体の代わりにオグデン(Ogden)体という超弾性体構成則を適用したり、或いは、等方性材料の構成則だけでなく、筋線維による異方性材料の構成則を適用することもできる。
【0494】
なお、上述した「(7)<筋活動率解析処理>」から「(8)<その他の検証結果>」で説明する、粒子法による演算処理(嚥下シミュレーション)は、上述した「(5-2)<内力のみを組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従って演算処理を行う場合について説明しているが、本発明はこれに限らない。上述した「(7)<筋活動率解析処理>」では、例えば、
図2及び
図3に示すように、頭頸部器官を忠実に再現した動的三次元頭頸部粒子モデル10cと、粒子によりモデル化した擬似経口摂取品とを用い、上述した「(5-1)<内力及び外力を組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従って演算処理を行うことも可能である。
【0495】
上述した「(5-1)<内力及び外力を組み込んだ動的三次元頭頸部粒子モデルの構造解析手法>」に従って演算処理を行う場合には、
図15のサブルーチンSR5、
図17AのサブルーチンSR6、SR7、
図17BのサブルーチンSR8、
図22AのサブルーチンSR11、SR12、
図22BのサブルーチンSR13、
図27のサブルーチンSR16、SR17、SR18における「粒子法による1サイクルの演算処理」として、
図9に示したステップS1~S9までの「粒子法による1サイクルの演算処理SRa」を適用することができる。
【0496】
(11)他の評価関数を用いた実施形態
(11-1)概要
上述した実施形態においては、動的最適化処理で用いる評価関数e
k,Phの一般式として、上記の(35)式を用いたが、本発明はこれに限らず、下記の(37)式を適用してもよい。
【数37】
…(37)
【0497】
上記の(37)式において、ek,Phは評価関数を示す。上付き文字のkは、筋活動率解析部91により算出する前記評価関数の最適化計算回数を示し、上付き文字のPhは、筋種ごとに筋活動率の値を変えながら評価関数を算出してゆく際の、筋活動率の変更状態を識別するための識別子を示す。
Osは、動的三次元頭頸部粒子モデルにおける複数の頭頸部器官の集合を示す。
Ojは、複数の頭頸部器官のうち、評価関数を算出する頭頸部器官を示す。
wV,Ojは、評価関数を算出する頭頸部器官(Oj)に対して重み付けを行う定数を示す。
vi
k,Phは、最適化計算回数がk回目の評価関数を算出する際に求めた、運動解析部50での粒子法による解析結果であって、嚥下中の所定時刻における三次元画像内での筋粒子iの速度を示す。
ui
*は、筋粒子iの目標速度であり、下付き文字のiは、筋粒子iを識別する識別子である。ui
*は、下記の(38)式に示すように、後述する参照速度u-
iと目標速度uiとの重み付け平均により定める。
wαは、筋活動率に対して重み付けを行う定数を示す。
αm
k,Phは、最適化計算回数がk回目の評価関数を算出する際に用いる、筋種mにおける筋粒子iの筋活動率を示す。下付き文字のmは、頭頸部器官の筋種ごとに規定された識別子である。
【0498】
なお、上述した実施形態においては、筋粒子iの目標速度u
i
*を、下記の(38)式を基に算出する場合について述べるが、本発明はこれに限らず、筋粒子iの目標速度u
i
*については種々の演算式から求めるようにしてもよい。
【数38】
…(38)
【0499】
u
iは、嚥下中の所定時刻で目標となる、筋粒子iの三次元画像内での目標速度を示す。u
iは、例えば、被験者に嚥下させたときに得られた4DCT画像(被験者の嚥下を解析するのに用いる解析画像)と一致するように筋粒子iを移動させたときの筋粒子iの速度である。
u
-
iは、筋粒子iの参照速度であり、下記の(39)式から算出する。
w
u-は、筋粒子iの参照速度であるu
-
iと、三次元画像内での筋粒子iの目標速度であるu
iと、に対して重み付けを行う定数を示す。w
u-は、0<w
u-<1の範囲で決められる数値であるが、動的三次元頭頸部粒子モデルで、より自然な嚥下の動作を再現する観点から、0.05≦w
u-≦0.3の範囲内の数値が特に望ましいことが、嚥下シミュレーションによる解析結果で確認されている。
【数39】
…(39)
【0500】
siは、嚥下中の所定時刻で目標となる、筋粒子iの三次元画像内での目標位置を示す。siは、例えば、被験者に嚥下させたときに得られた4DCT画像と一致するように筋粒子iを移動させたときの筋粒子iの位置(座標)である。
△toptは、嚥下開始から嚥下終了までを所定間隔で区切る時刻を示し、嚥下開始から嚥下終了までを時刻△toptで周期的に区切るものである。なお、この△toptは制御周期とも称する。
ri
tsは、動的三次元頭頸部粒子モデルで頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて三次元画像で解析する、嚥下開始から嚥下終了までの時刻の中から、評価関数を用いて筋活動率を特定する最適化対象時刻ts~(ts+△topt)を設定した際の、最適化対象時刻ts~(ts+△topt)における運動解析部50での粒子法による解析結果であって、最適化開始時刻tsにおける三次元画像内での筋粒子iの位置を示す。
vi
tsは、動的三次元頭頸部粒子モデルで頭頸部器官の運動を粒子法に基づいて三次元画像で解析する嚥下開始から嚥下終了までの時刻の中から、評価関数を用いて筋活動率を特定する最適化対象時刻ts~(ts+△topt)を設定した際の、最適化対象時刻ts~(ts+△topt)における運動解析部50での粒子法による解析結果であって、最適化開始時刻tsにおける三次元画像内での筋粒子iの速度を示す。
【0501】
なお、上記の(39)式は、下記の(40)式から導かれている。
【数40】
…(40)
【0502】
上記の(40)式は、最適化開始時刻tsにおいて座標ri
tsに位置していた筋粒子iを、時刻△topt後に、座標siに移動させることを意図しており、その間の速度の近似値として、u-
iとvi
tsとの平均を用いている。
【0503】
上記の(37)式の右辺の第1項は、被験者に嚥下させたときに得られた4DCT画像に対して粒子法解析で生じた筋粒子iの位置と速度の誤差を示す。上記の(37)式の右辺の第2項は、筋粒子iの運動に無関係の筋や拮抗する筋同士の活動を抑制するために設けた項である。これらの項の比率を、重み付けの定数wV,Oj及びwαが決定するが、例えば、wV,Oj=1やwα=10-6等、適宜調整を行う。
【0504】
ここでは、動的三次元頭頸部粒子モデルで、より自然な嚥下の動作を再現するために、wV,Ojの数値を、10-2~102の範囲に設定し、wαの数値を、0~wV,Ojの範囲に設定することが望ましい。
【0505】
また、上記の(38)式におけるwu-は、(38)式において、第1項である座標の誤差と、第2項である速度の誤差と、の比率を定めるものであり、wu-の値を大きくするほど座標の誤差に対して大きなフィードバックが加わることになる。
【0506】
この場合、嚥下シミュレーション装置1は、上述した「(7-3)<緩和処理を行う他の実施形態の動的最適化処理>」と同様に、嚥下シミュレーションの初期時刻t
1での筋活動率α
m
t1のみを静的最適化処理により算出し、これを初期値としてその後の時刻t
2,t
3,…の筋活動率α
m
t2,α
m
t3,…を、
図25に従って算出することが望ましい。ただし、本実施形態では、△t
optを、例えば、0.1S以上と大きくし、緩和処理を不要としている点で相違しており、
図25のサブルーチンSR15の解析処理として、
図22A及び
図22Bに示した解析処理を行うことが望ましい。
【0507】
より具体的には、上述した「(7-3)<緩和処理を行う他の実施形態の動的最適化処理>」では、△toptを、例えば、0.00001~0.000500Sと極めて小さい微小時刻を設定しているが、ここでは、△toptを、0.01S以上0.2S以下に設定することが望ましい。△toptは、0.1S未満に設定すると、評価関数を算出する頭頸部器官から離れた筋の活動を考慮できなくなり、一方、0.2S超に設定すると、制御周期が粗くなることで嚥下の運動を再現できなくなるため、0.01S以上0.2S以下に設定することが望ましい。
【0508】
このように、ここでは、嚥下開始から嚥下終了までを所定間隔で区切る時刻△t
optを大きくしており、その結果、
図23に示すように、最適化対象時刻ts~(ts+△t
opt)で最初の演算時刻(t+△t)での筋活動率α
k,p(t+△t)を特定し、これを粒子法による1サイクルの演算処理に用いる筋活動率として設定し、以後、演算時刻(t+△t)が最適化終了時刻(ts+△t
opt)になるまで、
図22Bに示したステップS92、サブルーチンSR13、ステップS93~S95の処理を繰り返し行う。
【0509】
なお、本実施形態では、
図25のフローチャート中のサブルーチンSR15を
図22A及び
図22Bに示す解析処理に置き換え、緩和処理を不要としているため、
図25における筋活動率α
kmax,pend(β)は筋活動率α
kmax,pendと表すことになる。また、この際、
図25のステップS111における初期解の設定としてγ・α
tsとすることが望ましい。
【0510】
γは0<γ<1であることが望ましく、より好ましくは、0.5≦γ≦0.75が望ましい。γを0に近い値にすると、最適化計算回数kの最大回数kmaxまでに適切な解に到達しない可能性が生じるため、γ<0とすることが望ましい。一方、γを1に近い値にすると、動的三次元頭頸部粒子モデルによる嚥下シミュレーション時、嚥下後に筋活動率が低下すべき筋において、嚥下後にも活動率が低下しない問題が生じることがあるため、γ<1とすることが望ましい。
【0511】
なお、
図25に示す動的最適化処理手順と、それに用いる
図22A及び
図22Bの解析処理との詳細説明については説明の重複になるため、ここでは省略するが、当該処理の概要としては下記となる。
【0512】
この場合、初期解をγ・αtsに設定した後、数値微分により勾配▽ekを求め、次いで、探索方向yakを決定する。ここでも、筋種mの数だけ、嚥下の開始時刻から終了時刻までの粒子法解析を行い、上記の(29)式に示す(∂e/∂αm)kを求める。次いで、上述した直線探索を行い、解を更新する。具体的には、ステップサイズμpを徐々に増加させ、その度に嚥下の開始時刻から終了時刻までの粒子法解析を行って、上記の(37)式より評価関数ek,Phを算出する。そして、この評価関数ek,Phが極小となるステップサイズμpを算出する。このような、勾配▽ekの算出と直線探索の処理とを、評価関数ek,Phが減少しなくなるか、又は、予め指定した回数だけ繰り返すことで、筋活動率について局所的最適解を得る。
【0513】
以上の構成において、本実施形態に係る筋活動率解析部91は、運動解析部50での粒子法による解析結果であって嚥下中の所定時刻における三次元画像内での筋粒子iの位置及び速度と、嚥下中の所定時刻で目標となる、筋粒子iの三次元画像内での目標位置及び目標速度と、運動解析部50によって粒子法により筋粒子iの運動を解析したときに用いた筋活動率αと、に基づいて、上記の(37)式より評価関数ek,Phを算出する。そして、筋活動率解析部91では、得られた評価関数ek,Phの算出結果に基づいて筋活動率αm
k,Phを特定してゆく。
【0514】
これにより、この他の実施形態に係る嚥下シミュレーション装置1でも、筋活動率αm
k,Phを最適な値に設定することができる。よって、嚥下シミュレーション装置1では、嚥下時における時間経過に応じて活発的に動く収縮筋を再現することができ、嚥下時における頭頸部器官の運動などを従来よりも一段と正確に再現することができる。
【0515】
なお、この他の実施形態においては、
図25の動的最適化処理を用い、かつ、
図25のサブルーチンSR15の解析処理として、
図22A及び
図22Bに示した解析処理を行い、この際に用いる評価関数として、上述した(37)式を用いる場合について説明したが、本発明はこれに限らず、当該(37)式に替えて上記の(35)式を用いるようにしてもよい。
【0516】
(11-2)検証試験
ここで、重み付けの定数w
u-の数値を変えてゆき、嚥下シミュレーション時における舌骨52(
図11)の重心の軌跡を調べる検証試験を行った。その結果、
図43A~
図43Cに示すような結果が得られた。ここでは、
図11に示す、簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aを用いて、
図25に示した動的最適化処理を行った。但し、ここでは、上述したように、サブルーチンSR15として緩和処理を行わない、
図22A及び
図22Bに示した解析処理を行った。粒子法解析の時間刻みΔtを、△t=5×10
-5[s]とし、最適化計算を行う筋活動率の制御周期△t
optを、△t
opt=0.1[s]とした。
【0517】
重み付けの定数w
u-の値を、0.0、0.1、0.5とし、このときの各嚥下シミュレーション時における舌骨52(
図11)の重心の挙動を確認したところ、
図43A~
図43Cに示すような結果が得られた。
図43A~
図43Cにおいて、横軸は、動的三次元頭頸部粒子モデル50aの正中面と平行な身体前後方向となるy軸での位置を示す。縦軸は、動的三次元頭頸部粒子モデル50aの身体上下方向となるz軸での位置を示す。なお、
図43A~
図43C中の「4DCT」は目標値を示しており、被験者が嚥下を行ったときの4DCT画像に基づき被験者の舌骨の重心をトレースしたものである。
【0518】
w
u-=0.0のとき、舌骨52の軌跡は目標値と概ね類似した形になったが、誤差が最適化解析の評価関数に考慮されないため蓄積し、時刻1.5[s]以降は座標が下方へずれたままになった。w
u-=0.5のときは、舌骨52の重心の座標の誤差に対するフィードバックが強すぎることでオーバーシュートが生じ、その結果、
図43Cのように舌骨52は振動するような挙動を示した。
【0519】
wu-=0.1のときは、嚥下シミュレーション中の誤差(目標値からのずれ)の平均は1.3[mm]であり、舌骨52の運動をよく再現できることが確認できた。以上より、0<wu-<1の範囲において、特に、0.0<wu-<0.5の範囲、さらには、0.05≦wu-≦0.3の範囲とすることが望ましいことが確認できた。
【0520】
次に、初期値に設定するγの値を、1.0、0.75、0.5とし、このときの各嚥下シミュレーション時における舌骨52(
図11)の重心の挙動を確認したところ、
図44に示すような結果が得られた。
図44に示すように、簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aでは、γの値を変更しても、舌骨52の挙動に大きな違いは確認できなかった。
【0521】
次に、初期値に設定するγの値を、1.0、0.75、0.5とし、このときの各嚥下シミュレーション時における、茎突舌骨筋56a,56bと、オトガイ舌骨筋57と、胸骨舌骨筋58と、の各筋活動率についてそれぞれ算出したところ、
図45A~
図45Cに示すような結果が得られた。
【0522】
なお、
図45A~
図45Cにおいては、茎突舌骨筋56a,56bの筋活動率の経時変化をStyHで示し、オトガイ舌骨筋57の筋活動率の経時変化をGHで示し、胸骨舌骨筋58の筋活動率の経時変化をSteHで示す。
【0523】
初期値を減少させない、γ=1.0のときは、簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aにおいて、嚥下後(Time=2.5[s]以後)に拮抗筋同士が筋力を発揮したままとなり、嚥下動作としては不自然な結果となった。一方、初期値を減少させた、γ=0.75、0.5のときは、簡略化した動的三次元頭頸部粒子モデル50aにおいて、嚥下後(Time=2.5[s]以後)に筋力が減少しており、嚥下動作として良好な結果が得られた。以上より、γは0<γ<1であることが望ましく、より好ましくは、0.5≦γ≦0.75が望ましいことが確認できた。
【符号の説明】
【0524】
1 嚥下シミュレーション装置
4 表示部
10c,50a 動的三次元頭頸部粒子モデル
10 頭頸部モデリング部
30 器官運動設定部
31 強制運動設定部
32 筋収縮運動設定部
50 運動解析部
80 筋活動率変更部
91 筋活動率解析部