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特許7580308流量診断装置、流量診断方法、及び、流量診断装置用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】流量診断装置、流量診断方法、及び、流量診断装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01F 25/17 20220101AFI20241101BHJP
   G01F 1/34 20060101ALI20241101BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
G01F25/17 Z
G01F1/34 A
G05B23/02 T
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021037613
(22)【出願日】2021-03-09
(65)【公開番号】P2021144030
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020042456
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】堀之内 修
(72)【発明者】
【氏名】今村 耕治
(72)【発明者】
【氏名】小林 正樹
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-87318(JP,A)
【文献】特開2012-32983(JP,A)
【文献】特開2014-63348(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0083159(US,A1)
【文献】特開2018-98208(JP,A)
【文献】特開2019-20781(JP,A)
【文献】森岡敏博、中尾晨一、高本正樹,気体小流量PVTtシステムの開発(実験技術),日本機械学会年次大会講演論文集,2009.7巻,日本,一般社団法人日本機械学会,2009年09月12日,pp.49-50,https://doi.org/10.1299/jsmemecjo.2009.7.0_49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/00,1/34-1/54,25/00-25/17
G05B 23/02
G05D 7/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側に流量センサ又は流量制御装置である診断対象が設けられ、下流側に所定の容量を有するタンクが設けられたメインラインと、
前記メインラインにおいて前記タンクの上流側から分岐する分岐ラインと、
前記分岐ライン上に設けられた第1開閉バルブと、
前記メインライン上において前記分岐ラインの分岐点と前記タンクの間に設けられた第2開閉バルブと、
前記メインライン及び前記分岐ラインにおいて前記診断対象を上流端とし、前記第1開閉バルブ及び前記第2開閉バルブを下流端として規定される容積であるデッドボリュームと、
前記第1開閉バルブを開放し、かつ、前記第2開閉バルブが閉止して、前記タンクに流体を流入させない準備モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第1設定圧力で保たれるように前記分岐ラインを流れる流体を制御する第1圧力制御機構と、
前記準備モードが実施された後で、第1開閉バルブを閉止し、かつ、前記第2開閉バルブを開放して、前記タンクに流体を流入させる流入モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第2設定圧力で保たれるように前記メインラインを流れる流体を制御する第2圧力制御機構と、
前記流入モードが開始されてから前記第2バルブが閉止されて前記流入モードが終了するまでの間に前記タンクに流入した流体によって生じる圧力変化に基づいて、前記タンクに流入した流体の流量である基準流量を算出する基準流量算出部と、を備えていることを特徴とする流量診断装置。
【請求項2】
前記基準流量算出部が、前記流入モードが開始されてから終了するまでの経過時間Δtと、前記流入モードが開始された時点の初期圧力と前記流入モードが終了してから所定時間経過後の安定後圧力との差圧ΔPと、に基づいて基準流量を算出する請求項1記載の流量診断装置。
【請求項3】
前記第1圧力制御機構が、
前記分岐ライン上において前記第1開閉バルブよりも下流側に設けられた、又は、前記デッドボリュームに設けられた第1圧力センサと、
前記分岐ライン上に設けられた第1制御バルブと、
前記第1設定圧力と前記第1圧力センサで測定される第1測定圧力との偏差に基づいて前記第1制御バルブを制御する第1圧力制御器と、を備えた請求項1又は2記載の流量診断装置。
【請求項4】
前記第2圧力制御機構が、
前記メインライン上において前記第2開閉バルブよりも下流側に設けられた、又は、前記デッドボリュームに設けられた第2圧力センサと、
前記分岐ライン上に設けられた第2制御バルブと、
前記第2設定圧力と前記第2圧力センサで測定される第2測定圧力との偏差に基づいて前記第2制御バルブを制御する第2圧力制御器と、を備えた請求項3記載の流量診断装置。
【請求項5】
前記第1圧力センサ及び前記第2圧力センサが、前記デッドボリュームに設けられた同一の圧力センサである請求項4記載の流量診断装置。
【請求項6】
前記第2設定圧力が、前記流入モードが開始された時点で前記第2圧力センサにより測定される初期圧力である請求項4又は5記載の流量診断装置。
【請求項7】
前記基準流量算出部が、前記経過時間Δtと、前記差圧ΔPと、気体の状態方程式に基づいて算出される補正前流量を、前記流入モード中における最大圧力又はその近傍の圧力と前記安定後圧力に基づいて補正して基準流量を算出する請求項2記載の流量診断装置。
【請求項8】
前記メインラインに流される流量が所定値以上の場合には、前記第2圧力制御機構は、前記流入モード中に前記デッドボリュームにおける流体の圧力制御を行わないように構成された請求項1乃至7いずれかに記載の流量診断装置。
【請求項9】
前記流入モードが、前記タンク内の圧力が所定圧力となった時点で終了するように設定されており、
前記流入モードが開始されてから終了するまでの経過時間Δtが規定時間以下となる場合には、前記第2圧力制御機構は、前記流入モード中に前記デッドボリュームにおける流体の圧力制御を行わないように構成された請求項1乃至8いずれかに記載の流量診断装置。
【請求項10】
前記規定時間が、前記第2圧力制御機構の圧力制御によって前記流入モードが開始されてから前記デッドボリュームの圧力が前記第2設定圧力で安定するまでにかかる安定化時間に基づいて設定される請求項9記載の流量診断装置。
【請求項11】
上流側に流量センサ又は流量制御装置である診断対象が設けられ、下流側に所定の容量を有するタンクが設けられたメインラインと、前記メインラインにおいて前記タンクの上流側から分岐する分岐ラインと、前記分岐ライン上に設けられた第1開閉バルブと、前記メインライン上において前記分岐ラインの分岐点と前記タンクの間に設けられた第2開閉バルブと、前記メインライン及び前記分岐ラインにおいて前記診断対象を上流端とし、前記第1開閉バルブ及び前記第2開閉バルブを下流端として規定される容積であるデッドボリュームと、を備えた流量診断装置を用いた流量診断方法であって、
前記第1開閉バルブを開放し、かつ、前記第2開閉バルブが閉止して、前記タンクに流体を流入させない準備モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第1設定圧力で保たれるように前記分岐ラインを流れる流体を制御することと、
前記準備モードが実施された後で、第1開閉バルブを閉止し、かつ、前記第2開閉バルブを開放して、前記タンクに流体を流入させる流入モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第2設定圧力で保たれるように前記メインラインを流れる流体を制御することと、
前記流入モードが開始されてから前記第2バルブが閉止されて前記流入モードが終了するまでの間に前記タンクに流入した流体によって生じる圧力変化に基づいて、前記タンクに流入した流体の流量である基準流量を算出すること、を備えていることを特徴とする流量診断方法。
【請求項12】
上流側に流量センサ又は流量制御装置である診断対象が設けられ、下流側に所定の容量を有するタンクが設けられたメインラインと、前記メインラインにおいて前記タンクの上流側から分岐する分岐ラインと、前記分岐ライン上に設けられた第1開閉バルブと、前記メインライン上において前記分岐ラインの分岐点と前記タンクの間に設けられた第2開閉バルブと、前記メインライン及び前記分岐ラインにおいて前記診断対象を上流端とし、前記第1開閉バルブ及び前記第2開閉バルブを下流端として規定される容積であるデッドボリュームと、を備えた流量診断装置を用いられるプログラムであって、
前記第1開閉バルブを開放し、かつ、前記第2開閉バルブが閉止して、前記タンクに流体を流入させない準備モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第1設定圧力で保たれるように前記分岐ラインを流れる流体を制御する第1圧力制御器と、
前記準備モードが実施された後で、第1開閉バルブを閉止し、かつ、前記第2開閉バルブを開放して、前記タンクに流体を流入させる流入モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第2設定圧力で保たれるように前記メインラインを流れる流体を制御する第2圧力制御器と、
前記流入モードが開始されてから前記第2バルブが閉止されて前記流入モードが終了するまでの間に前記タンクに流入した流体によって生じる圧力変化に基づいて、前記タンクに流入した流体の流量である基準流量を算出する基準流量算出部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする流量診断装置用プログラム。
【請求項13】
上流側に流量センサ又は流量制御装置である診断対象が設けられ、下流側に所定の容量を有するタンクが設けられたメインラインと、
前記メインラインにおいて前記タンクの上流側から分岐する分岐ラインと、
前記分岐ライン上に設けられた第1開閉バルブと、
前記メインライン上において前記分岐ラインの分岐点と前記タンクの間に設けられた第2開閉バルブと、
前記メインライン及び前記分岐ラインにおいて前記診断対象を上流端とし、前記第1開閉バルブ及び前記第2開閉バルブを下流端として規定される容積であるデッドボリュームと、
前記第1開閉バルブを開放し、かつ、前記第2開閉バルブが閉止して、前記タンクに流体を流入させない準備モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第1設定圧力で保たれるように前記分岐ラインを流れる流体を制御する第1圧力制御機構と、
前記準備モードが実施された後で、第1開閉バルブを閉止し、かつ、前記第2開閉バルブを開放して、前記タンクに流体を流入させる流入モードが開始されてから前記第2バルブが閉止されて前記流入モードが終了するまでの間に前記タンクに流入した流体によって生じる圧力変化と、前記流入モードが開始されてから終了するまでの経過時間Δtに基づいて、前記タンクに流入した流体の流量である基準流量を算出する基準流量算出部と、を備え、
前記基準流量算出部が、前記経過時間Δtを前記デッドボリューム内における流体の物理量の測定値、又は、前記第1開閉バルブ又は前記第2開閉バルブの実際の動作を示す値に基づいて算出するように構成されたことを特徴とする流量診断装置。
【請求項14】
前記基準流量算出部が、前記デッドボリューム内における流体の圧力の測定値に基づいて前記経過時間Δtを算出する請求項13記載の流量診断装置。
【請求項15】
前記基準流量算出部が、前記第1開閉バルブ及び前記第2開閉バルブの開閉が切り替えられてから前記デッドボリューム内の圧力が所定値以上変化した時点を前記流入モードの開始時点と判定するように構成された請求項13記載の流量診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量センサで測定される流量や流量制御装置で実現される制御流量を診断するために用いられる流量診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセス等では、流体の流量を制御するために流量センサ、制御バルブ、流量制御器がパッケージ化された流量制御装置であるマスフローコントローラが用いられる。
【0003】
ところで、マスフローコントローラは、流路の詰まりなどの経年劣化等が原因となって設定流量の通りに流体の流量を制御できなくなることがある。このため、マスフローコントローラは、定期的に設定流量通りに流量を制御できているか否かを検査する必要がある。
【0004】
このため、従来の流体供給システムには、マスフローコントローラ等の流量を診断するための構成が組み込まれたものがある。例えば特許文献1には、動的定積法(圧力上昇率(ROR)法)により、マスフローコントローラの流量を診断する流量診断装置が示されている。
【0005】
また、動的定積法よりも高精度の診断が可能であり、NISTにおいても採用されている静的な方式としてPVTt法と呼ばれる流量診断方法もある。PVTt法を実施するために用いられる流量診断装置は図13に示すようなものである。
【0006】
すなわち、この流量診断装置100は、診断対象DOであるマスフローコントローラと所定の容積を有するタンクTNとの間を接続するメインラインMLと、メインラインMLにおいて診断対象DOとタンクTNとの間から分岐する分岐ラインSLと、を備えている。メインラインML及び分岐ラインSLの下流端にはそれぞれ吸引源である真空ポンプSPと接続されている。また、メインラインML上及び分岐ラインSL上に設けられた複数の開閉バルブV1、V2、V3が設けられている。さらに、分岐ラインSL上には圧力制御機構1であるAPCが設けられている。この分岐ラインSL上に設けられたAPCによって、分岐ラインSLに流体が流される際は診断対象DOから各開閉バルブV1、V2までの空間であるデッドボリュームDVの圧力は一定に保たれる。
【0007】
PVTt法の手順は以下の通りである。まず、タンクTN内の圧力を例えばほぼ真空とした後に図13(a)に示すように分岐ラインSLに流体を流し、タンクTNには流体を流入させない準備モードが実施される。準備モードは、図14の圧力の時間変化グラフに示すようにデッドボリュームDV内の圧力が予め定められた許容範囲内で安定するまで継続される。
【0008】
デッドボリュームDV内の圧力が安定した後、図13(b)に示すように各開閉バルブV1、V2の開閉状態が切り替えられ、タンクTN内に流体を流入させる流入モードが実施される。流入モードを開始した直後はタンクTN内の圧力が真空に近いため、流体が急激にタンクTN内に流入する。このため図14のグラフに示すようにデッドボリュームDV内の圧力は急激にタンク内圧力近傍まで低下する。そして、流入モードはデッドボリュームDV内の圧力及び温度が流入モード開始時の初期圧力及び温度に戻るまで継続され、その後メインラインML上のタンクTN前の開閉バルブV2が閉止されて終了する。この流量モードが開始されてから終了するまでの経過時間Δtが基準流量を算出するために測定される。
【0009】
最後に図9に示すようにタンクTNへの流入が停止してからタンクTN内の圧力が安定するまで所定時間待機する停止モードが実施される。最終的に安定したタンクTN内の圧力と流入モード開始時の初期圧力との差圧ΔPが測定される。
【0010】
測定された経過時間Δtと差圧ΔPと、気体の状態方程式に基づいて基準流量が算出され、この基準流量とマスフローコントローラで測定されていた流量と比較することでマスフローコントローラは診断される。
【0011】
上記のような手順でPVTt法により算出される基準流量は圧力変動、温度変動等の影響が小さい分だけROR法と比較して高精度に算出でき、より確かな診断を実現できる。
【0012】
しかしながら、従来のPVTt法では図9のグラフに示すようにデッドボリュームDV内の圧力が大幅に低下した状態から元に戻るまで流入モードを長時間継続し続けなくてはならない。これはデッドボリュームDV内の圧力や温度が準備モードの状態に戻るようにタンクTN内の圧力をゆっくりと上昇させなくてはならないからである。このため診断全体にかかる時間がROR法と比べて非常に長くなってしまう。
【0013】
さらに、デッドボリュームDV内の圧力が元の状態に戻るまでタンクTN内に流体を流入させ続けなくてはならないため、タンクTNの容積はある程度以上の大きさが必要となってしまう。この結果、PVTt法を実施するのに必要な流体の量もROR法と比較すると大きくなってしまう。さらに、設備のフットプリントの制約等からタンクTNの大きさにも上限があるため、マスフローコントローラに大流量を流して診断することも難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平11-87318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、PVTt法でありながら、流量の診断に必要となる時間を従来よりも短縮でき、タンクの小型化や大流量での診断も可能となる流量診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、本発明に係る流量診断装置は、上流側に流量センサ又は流量制御装置である診断対象が設けられ、下流側に所定の容量を有するタンクが設けられたメインラインと、前記メインラインにおいて前記タンクの上流側から分岐する分岐ラインと、前記分岐ライン上に設けられた第1開閉バルブと、前記メインライン上において前記分岐ラインの分岐点と前記タンクの間に設けられた第2開閉バルブと、前記メインライン及び前記分岐ラインにおいて前記診断対象を上流端とし、前記第1開閉バルブ及び前記第2開閉バルブを下流端として規定される容積であるデッドボリュームと、前記第1開閉バルブを開放し、かつ、前記第2開閉バルブが閉止して、前記タンクに流体を流入させない準備モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第1設定圧力で保たれるように前記分岐ラインを流れる流体を制御する第1圧力制御機構と、前記準備モードが実施された後で、第1開閉バルブを閉止し、かつ、前記第2開閉バルブを開放して、前記タンクに流体を流入させる流入モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第2設定圧力で保たれるように前記メインラインを流れる流体を制御する第2圧力制御機構と、前記流入モードが開始されてから前記第2バルブが閉止されて前記流入モードが終了するまでの間に前記タンクに流入した流体によって生じる圧力変化に基づいて、前記タンクに流入した流体の流量である基準流量を算出する基準流量算出部と、を備えていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る流量診断方法は、上流側に流量センサ又は流量制御装置である診断対象が設けられ、下流側に所定の容量を有するタンクが設けられたメインラインと、前記メインラインにおいて前記タンクの上流側から分岐する分岐ラインと、前記分岐ライン上に設けられた第1開閉バルブと、前記メインライン上において前記分岐ラインの分岐点と前記タンクの間に設けられた第2開閉バルブと、前記メインライン及び前記分岐ラインにおいて前記診断対象を上流端とし、前記第1開閉バルブ及び前記第2開閉バルブを下流端として規定される容積であるデッドボリュームと、を備えた流量診断装置を用いた流量診断方法であって、前記第1開閉バルブを開放し、かつ、前記第2開閉バルブが閉止して、前記タンクに流体を流入させない準備モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第1設定圧力で保たれるように前記分岐ラインを流れる流体を制御することと、前記準備モードが実施された後で、第1開閉バルブを閉止し、かつ、前記第2開閉バルブを開放して、前記タンクに流体を流入させる流入モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第2設定圧力で保たれるように前記メインラインを流れる流体を制御することと、前記流入モードが開始されてから前記第2バルブが閉止されて前記流入モードが終了するまでの間に前記タンクに流入した流体によって生じる圧力変化に基づいて、前記タンクに流入した流体の流量である基準流量を算出すること、を備えていることを特徴とする。
【0018】
このようなものでPVTt法を実施すれば、前記流入モード開始時から前記第2圧力制御機構は前記デッドボリューム内の圧力を第2設定圧力で保たれるように動作するので、前記流入モード開始時における前記デッドボリュームの圧力低下幅を従来よりも小さくできる。このため、前記デッドボリューム内の圧力が前記流入モード開始時の初期圧力に戻るまでにかかる時間は従来よりも大幅に短縮できる。このため、従来よりもPVTt法による流量診断にかかる時間を短縮できる。
【0019】
さらに、前記流入モードを実施して短時間で前記デッドボリューム内の圧力や温度を例えば前記準備モードと同じ状態に戻せるので、前記タンク内の圧力上昇量を任意の値に設定することが可能となる。したがって、従来よりも前記タンク内の圧力上昇量を抑えることができ、必要となる流体の量を少なくできる。この結果、前記タンクの小型化や大流量での流量診断の実現が可能となる。
【0020】
前記タンク内の圧力及び温度が安定した状態で基準流量を算出して、圧力や温度の変動の影響が基準流量に現れにくくするには、前記基準流量算出部が、前記流入モードが開始されてから終了するまでの経過時間Δtと、前記流入モードが開始された時点の初期圧力と前記流入モードが終了してから所定時間経過後の安定後圧力との差圧ΔPと、に基づいて基準流量を算出するものであればよい。
【0021】
前記第1圧力制御機構の具体的な構成例としては、前記第1圧力制御機構が、前記分岐ライン上において前記第1開閉バルブよりも下流側に設けられた、又は、前記デッドボリュームに設けられた第1圧力センサと、前記分岐ライン上に設けられた第1制御バルブと、前記第1設定圧力と前記第1圧力センサで測定される第1測定圧力との偏差に基づいて前記第1制御バルブを制御する第1圧力制御器と、を備えたものが挙げられる。
【0022】
前記第2圧力制御機構の具体的な構成例としては、前記第2圧力制御機構が、前記メインライン上において前記第2開閉バルブよりも下流側に設けられた、又は、前記デッドボリュームに設けられた第2圧力センサと、前記分岐ライン上に設けられた第2制御バルブと、前記第2設定圧力と前記第2圧力センサで測定される第2測定圧力との偏差に基づいて前記第2制御バルブを制御する第2圧力制御器と、を備えたものが挙げられる。
【0023】
前記第1圧力制御機構及び前記第2圧力制御機構において使用される圧力センサを共通化して部品点数を減らしつつ、必要となる圧力制御を実現できるようにするには、前記第1圧力センサ及び前記第2圧力センサが、前記デッドボリュームに設けられた同一の圧力センサであればよい。
【0024】
前記流入モードの終了時点において前記準備モードで達成されていた前記デッドボリューム内の圧力及び温度が再現されるようにするには、実現前記第2設定圧力が、前記流入モードが開始された時点で前記第2圧力センサにより測定される初期圧力であればよい。
【0025】
前記タンク内に流入する流体の断熱圧縮による影響を補正し、さらに高精度な基準流量が得られるようにするには、前記基準流量算出部が、前記経過時間Δtと、前記差圧ΔPと、気体の状態方程式に基づいて算出される補正前流量を、前記流入モード中における最大圧力又はその近傍の圧力と前記安定後圧力に基づいて補正して基準流量を算出するものであればよい。
【0026】
例えば検査対象において検査する流量値が大きい場合には、前記第2圧力制御機構が前記デッドボリュームの圧力を第2設定圧力で維持し続けると、前記メインラインを流れる流体の流量が大きいため、前記タンク内に圧力がチャージされる速度が大きくなりすぎることがある。この結果、前記デッドボリュームの圧力が変動している間に前記タンク内の圧力が所定圧力に達して前記流入モードが終了してしまう可能性がある。そうすると、前記流入モードでは前記デッドボリュームの圧力が安定しているという前提が崩れてしまうため、本来前記タンク内に封入されているべきガスが前記デッドボリューム内に残ってしまっている、あるいは、前記デッドボリューム内にあるべきガスがタンク内に流入してしまうといった事態が発生してしまう。つまり、前記デッドボリューム内の圧力が変動していると、前記タンク内に封入されるガスの量が変動して、正しい流量を測定することが困難となる。また、前記経過時間Δtのばらつきも大きくなってしまう。これらのことから、前記基準流量算出部で算出される基準流量の精度が低下する恐れがある。
【0027】
上述したような問題を解決するには、前記メインラインに流される流量が所定値以上の場合には、前記第2圧力制御機構は、前記流入モード中に前記デッドボリュームにおける流体の圧力制御を行わないように構成されたものであればよい。このようなものであれば、前記メインラインに流される流量が所定値以上の場合には、従来のPVTt法と同じ状態を作ることができる。この結果、前記流入モードが開始されてから終了するまでの間は、前記第2圧力制御機構の応答性が前記デッドボリューム内の圧力に対して与える影響がなくなり、前記第1圧力制御機構の応答性だけが前記デッドボリューム内の圧力に対して影響を与えるようにできる。したがって、前記流入モードの継続時間が短くても、各機器の動作に余裕をもたせることができ、前記デッドボリューム内の圧力を安定させやすくなる。加えて、相対的に経過時間Δtのばらつきを小さくできるので、流量が所定値以上の場合でも精度よく基準流量を算出できるようになる。また、前記メインラインに流される流量が大きい場合には前記タンクの所定の圧力がチャージされるまでにかかる時間はそれほど長くならないので、例えば流量が小さい場合とほぼ同等の時間で基準流量を得ることも可能である。
【0028】
前記検査対象において検査される流量が大きい場合でも、基準流量を高精度に算出できる流量診断装置としては、前記流入モードが、前記タンク内の圧力が所定圧力となった時点で終了するように設定されており、前記流入モードが開始されてから終了するまでの経過時間Δtが規定時間以下となる場合には、前記第2圧力制御機構は、前記流入モード中に前記デッドボリュームにおける流体の圧力制御を行わないように構成されたものも挙げられる。
【0029】
前記規定時間が、前記第2圧力制御機構の圧力制御によって前記流入モードが開始されてから前記デッドボリュームの圧力が前記第2設定圧力で安定するまでにかかる安定化時間に基づいて設定されるものであれば、前記メインラインに流される流体の流量が小さい場合には従来よりも高速で基準流量を算出できるようにしつつ、前記メインラインに流される流体の流量が大きい場合にも、診断に係る時間はそれほど長くならないようにしつつ、高精度で基準流量を算出することが可能となる。
【0030】
既存の流量診断装置において例えばプログラムを更新することにより、本発明の流量診断装置と同様の効果を享受できるようにするには、上流側に流量センサ又は流量制御装置である診断対象が設けられ、下流側に所定の容量を有するタンクが設けられたメインラインと、前記メインラインにおいて前記タンクの上流側から分岐する分岐ラインと、前記分岐ライン上に設けられた第1開閉バルブと、前記メインライン上において前記分岐ラインの分岐点と前記タンクの間に設けられた第2開閉バルブと、前記メインライン及び前記分岐ラインにおいて前記診断対象を上流端とし、前記第1開閉バルブ及び前記第2開閉バルブを下流端として規定される容積であるデッドボリュームと、を備えた流量診断装置を用いられるプログラムであって、前記第1開閉バルブを開放し、かつ、前記第2開閉バルブが閉止して、前記タンクに流体を流入させない準備モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第1設定圧力で保たれるように前記分岐ラインを流れる流体を制御する第1圧力制御器と、前記準備モードが実施された後で、第1開閉バルブを閉止し、かつ、前記第2開閉バルブを開放して、前記タンクに流体を流入させる流入モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第2設定圧力で保たれるように前記メインラインを流れる流体を制御する第2圧力制御器と、前記流入モードが開始されてから前記第2バルブが閉止されて前記流入モードが終了するまでの間に前記タンクに流入した流体によって生じる圧力変化に基づいて、前記タンクに流入した流体の流量である基準流量を算出する基準流量算出部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする流量診断装置用プログラムを用いればよい。
【0031】
なお、流量診断装置用プログラムは電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されているものであってもよい。
【0032】
また、本発明に係る流量診断装置の別の態様としては、上流側に流量センサ又は流量制御装置である診断対象が設けられ、下流側に所定の容量を有するタンクが設けられたメインラインと、前記メインラインにおいて前記タンクの上流側から分岐する分岐ラインと、前記分岐ライン上に設けられた第1開閉バルブと、前記メインライン上において前記分岐ラインの分岐点と前記タンクの間に設けられた第2開閉バルブと、前記メインライン及び前記分岐ラインにおいて前記診断対象を上流端とし、前記第1開閉バルブ及び前記第2開閉バルブを下流端として規定される容積であるデッドボリュームと、前記第1開閉バルブを開放し、かつ、前記第2開閉バルブが閉止して、前記タンクに流体を流入させない準備モードにおいて、前記デッドボリュームにおける流体の圧力が第1設定圧力で保たれるように前記分岐ラインを流れる流体を制御する第1圧力制御機構と、前記準備モードが実施された後で、第1開閉バルブを閉止し、かつ、前記第2開閉バルブを開放して、前記タンクに流体を流入させる流入モードが開始されてから前記第2バルブが閉止されて前記流入モードが終了するまでの間に前記タンクに流入した流体によって生じる圧力変化と、前記流入モードが開始されてから終了するまでの経過時間Δtに基づいて、前記タンクに流入した流体の流量である基準流量を算出する基準流量算出部と、を備え、前記基準流量算出部が、前記経過時間Δtを前記デッドボリューム内における流体の物理量の測定値、又は、前記第1開閉バルブ又は前記第2開閉バルブの実際の動作を示す値に基づいて算出するように構成されたことを特徴とするものが挙げられる。
【0033】
このようなものであれば、前記第1開閉バルブ及び前記第2開閉バルブの切り替えによって前記デッドボリューム内の流体の圧力が実際に変化し始めた時点を前記流入モードの開始時点として正確に特定することが可能となる。したがって、前記流入モード中における圧力上昇幅ΔPを小さく設定した結果、前記経過時間Δtが短くなったとしてもΔtの測定精度を高く保ち、ひいては、高精度で基準流量を算出することが可能となる。
【0034】
前記基準流量算出部が、前記デッドボリューム内における流体の圧力の測定値に基づいて前記経過時間Δtを算出するものであれば、既存の圧力センサの出力が経過時間Δtを決定するためのトリガとして使用でき、新たなセンサ等を付加しなくてもよい。
【0035】
前記流入モードの開始時点を検出するための具体的な構成としては、前記基準流量算出部が、前記第1開閉バルブ及び前記第2開閉バルブの開閉が切り替えられてから前記デッドボリューム内の圧力が所定値以上変化した時点を前記流入モードの開始時点と判定するように構成されたものが挙げられる。
【発明の効果】
【0036】
このように本発明の流量診断装置は、前記流入モードにおいて前記デッドボリュームの圧力が一定に保たれるように制御する前記第2圧力制御機構を備えているので、前記デッドボリュームにおける大幅な圧力低下が生じないようにして流入モードが開始されてから終了するまでの時間を短縮できる。このため、PVTt法であっても流量診断にかかる時間を短くして、流量診断に必要となる流体の量も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の第1実施形態における流量診断装置の構成を示す模式図。
図2】第1実施形態における制御演算機構の構成を示す模式的ブロック図。
図3】第1実施形態におけるAPCの詳細を示す模式図。
図4】第1実施形態における準備モードと流入モードの流体の流れを示す模式図。
図5】第1実施形態における流量診断動作を示すフローチャート。
図6】従来の流量診断装置の圧力の時間変化と、第1実施形態における流量診断装置の圧力の時間変化を示すグラフ。
図7】本発明の第2実施形態における流量診断装置を示す模式図。
図8】診断する流量値が大きく設定し、第2圧力制御機構によるデッドボリューム内の圧力を制御した場合における流量診断装置の圧力の時間変化を示すグラフ。
図9】本発明の第3実施形態における流量診断装置の動作及び圧力の時間変化を示すグラフ。
図10】本発明の第4実施形態における制御演算機構の構成を示す模式的ブロック図。
図11】第4実施形態における流入モード開始時点の特定方法を示す散布図。
図12】経過時間Δtを決定するトリガー方法に対する算出される基準流量の変動の影響を示す散布図。
図13】従来の流量診断装置の構成を示す模式図。
図14】従来の流量診断装置の圧力の時間変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の第1実施形態における流量診断装置100について図1乃至図6を参照しながら説明する。
【0039】
第1実施形態の流量診断装置100は、例えば半導体製造ライン等に組み込まれて、流量制御装置であるマスフローコントローラについて流量を診断するために用いられるものである。なお、本明細書における流量の診断とは、マスフローコントローラの出力する流量が流量診断装置100の出力する基準流量に対して正しいかどうかを検定すること、あるいは、マスフローコントローラの出力する流量を流量診断装置100の出力する基準流量に基づいて校正することを含む概念である。また、第1実施形態では流体として各種ガスが流される。
【0040】
第1実施形態の流量診断装置100は、図1に示すように流路として診断対象DOであるマスフローコントローラと、所定の容積を有したタンクTNとの間を接続するメインラインMLとメインラインMLにおいて診断対象DOとタンクTNとの間から分岐する分岐ラインSLと、を備えている。この流量診断装置100は、いわゆるPVTt法に基づいて基準流量を算出する。すなわち、流量診断装置100は、分岐ラインSLに流体を所定期間流してマスフローコントローラを通過する流体の圧力や温度を安定させた後、タンクTN内に流体を流入させる。そして、タンクTN内の圧力変化に基づき、タンクTN内に流入した流体の流量が基準流量として算出される。加えて、タンクTN内に流体が流入している間に診断対象DOであるマスフローコントローラから出力される測定流量と基準流量を比較することにより、マスフローコントローラの流量が診断される。
【0041】
次に流量診断装置100のハードウェア構成について詳述する。
【0042】
メインラインML及び分岐ラインSLの下流端側には真空原であるポンプSPが接続されている。ポンプSPは例えば真空チャンバ内において真空引きをしているポンプを利用してもよい。また、メインラインML及び分岐ラインSLには、各種流路の切り替えや減圧される対象を変更するために開閉バルブが複数設けられている。具体的には分岐ラインSL上に設けられた第1開閉バルブV1と、メインラインMLにおいて分岐ラインSLの分岐点とタンクTNとの間に設けられた第2開閉バルブV2と、メインラインMLにおいてタンクTNの下流側に設けられた第3開閉バルブV3が設けられている。
【0043】
ここで、第1実施形態ではメインラインML及び分岐ラインSLにおいて診断対象DOであるマスフローコントローラを上流端、第1開閉バルブV1及び第2開閉バルブV2を下流端として規定される容積をデッドボリュームDVと定義する。また、第1実施形態ではデッドボリュームDVには、その内部の圧力を測定するためのDV圧力センサDPと、その内部の温度を測定するためのDV温度センサDTが設けられている。加えて、タンクTNには基準流量を算出するために必要となるタンクTN内の流体の圧力と温度を測定するために、タンク圧力センサTPとタンク温度センサTTが設けられている。
【0044】
さらに分岐ラインSLにおいて第1開閉バルブV1の下流側には第1圧力制御機構1である第1APC(Auto Pressure Controller)が設けられており、メインラインMLにおいて第2開閉バルブV2とタンクTNとの間には第2圧力制御機構2である第2APCが設けられている。
【0045】
第1圧力制御機構1及び第2圧力制御機構2である各APCは図2に示すように制御バルブ11、21と、圧力センサ12、22と、圧力センサ12、22で測定される測定圧力と設定されている設定圧力との偏差が小さくなるように制御バルブの開度をフィードバック制御する圧力制御器13、23と、を備え、これらの機器が1つの筐体内にパッケージ化されたものである。なお、以下の説明で第1APC及び第2APCのそれぞれの制御バルブ11、21、圧力センサ12、22、圧力制御器13、23や設定圧力を区別する必要がある場合には、第1APCに属するものには第1を付与し、第2APCに属するものには第2を付与して区別する。第1APCに設定される第1設定圧力と、第2APCに設定される第2設定圧力はそれぞれ別々の値に設定することもできるが、第1実施形態では同じ圧力が設定される。すなわち、各設定圧力は、流量診断のための動作時にデッドボリュームDVにおいて保ちたい所望の圧力に設定される。
【0046】
また、流量診断装置100は図1に示すように各機器の制御や各種演算を司る制御演算機構COMを備えている。制御演算機構COMは、ユーザからの入力やマスフローコントローラ、DV圧力センサDP、タンク圧力センサTP、タンク温度センサTTから出力される信号を受け付けるとともに、各開閉バルブ、各APCを制御するための信号を出力する。この制御演算機構COMは、例えばCPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、各種入出力手段等を備えたいわゆるコンピュータによってその機能が実現され、図3に示すように少なくとも圧力設定部3、開閉バルブ制御器4、測定データ記憶部5、基準流量算出部6、診断部7としての機能を発揮する。
【0047】
制御演算機構COMの各部について詳述する。
【0048】
圧力設定部3は、各APCに対して設定圧力を設定する。各設定圧力の初期値はユーザから入力されたユーザ設定値を圧力設定部3は設定する。また、圧力設定部3はDV圧力センサDPにおいて後述する所定のタイミングで測定されるデッドボリュームDV内の圧力とユーザ設定値との誤差に応じて設定圧力を変更する。例えば所定のタイミングで測定されたデッドボリュームDV内の圧力とユーザ設定値との間に誤差がある場合には、圧力設定部3は、誤差分あるいは誤差に対して所定倍率を乗じた値をユーザ設定値に加えて、設定圧力としてAPCに設定する。
【0049】
開閉バルブ制御器4は、各開閉バルブV1、V2、V3の開閉状態を制御して、少なくとも排気モード、準備モード、流入モード、停止モードのいずれかの状態を実現する。第1実施形態では開閉バルブ制御器4は、DV圧力センサDP、DV温度センサDT、タンク圧力センサTP、タンク温度センサTTの測定値をトリガとして、各モードを順番に切り替える。排気モードでは、第2開閉バルブV2が閉止され、かつ、第3開閉バルブV3が開放され、タンクTN内が真空排気される。また、準備モード、流入モード、停止モードでは第3開閉バルブV3は閉止された状態に保たれる。排気モードによってタンク圧力センサTPの測定圧力がほぼ真空に近い圧力となった場合には、開閉バルブ制御器4は排気モードを終了して、次の準備モードを開始する。
【0050】
準備モードでは、第1開閉バルブV1が開放され、かつ、第2開閉バルブV2が閉止され、マスフローコントローラから分岐ラインSLに対して流体が流される。この準備モードは、マスフローコントローラを通過する流体の圧力及び温度が安定するまで維持される。第1実施形態では流体の状態はDV圧力センサDPの測定圧力及びDV温度センサDTに基づいて判定される。具体的には第1圧力制御機構1である第1APCの動作によって、DV圧力センサDPで測定される圧力及びDV温度センサDTで測定される温度がそれぞれ所定時間以上安定し、デッドボリュームDV内の圧力及び温度が安定していると判断できる場合に、開閉バルブ制御器4は、準備モードを終了して次の流入モードを開始する。
【0051】
流入モードでは、第1開閉バルブV1が閉止され、かつ、第2開閉バルブV2が開放され、マスフローコントローラからメインラインMLを介してタンクTN内に流体が流入する。この流入モードは、デッドボリュームDV内の流体の圧力及び温度が流入モード開始時点の値でほぼ安定した後、タンクTN内の圧力が所定圧力に上昇するまで継続される。具体的には第2圧力制御機構2である第2APCの動作によってデッドボリュームDV内の圧力が設定圧力で維持され、温度も安定した後にタンク圧力センサTPで測定されるタンクTN内の圧力がユーザにより設定された圧力まで上昇した時点で開閉バルブ制御器4は、流入モードを終了し、次の停止モードを開始する。
【0052】
停止モードでは、第1開閉バルブV1及び第2開閉バルブV2が閉止される。この状態は短くともタンクTN内の圧力及び温度が安定するまで継続される。
【0053】
測定データ記憶部5は、流量診断中においてタンク圧力センサTP、及び、タンク温度センサTTで測定される測定値を例えば時系列データの形式で記憶する。本実施形態では少なくとも流入モード中、及び、停止モード中に測定されたタンクTN内の圧力及び温度が測定データ記憶部5に記憶される。
【0054】
基準流量算出部6は、測定データ記憶部5に記憶されているデータに基づいて流入モード中にタンクTN内に流入した流体の流量を算出する。基準流量は、流入モードにおいてタンクTN内に生じる圧力変化に基づいて算出される。より具体的には、流入モードが開始されてから終了するまでの経過時間Δtと、流入モード開始時における初期圧力と、停止モードにおいて安定した後のタンクTN内の圧力である安定後圧力との差圧ΔPと、流入モード中のタンクTN内の平均温度Taveと、気体の状態方程式に基づいて基準流量は算出される。すなわち、以下のような式で基準流量は算出される。
【0055】
Qs=(ΔP/Δt)*22.4*V/(RTave
【0056】
ここで、Qsは基準流量、VはタンクTNの容積、Rはガス定数である。また、係数として乗じている22.4は理想気体のモル体積L/molである。この係数についてはガス種に応じて数%程度変動する値であるので、実際に流されるガス種に応じて補正された値を用いてもよい。
【0057】
診断部7は流入モード中にマスフローコントローラで測定されていた流量と、基準流量算出部6により算出された基準流量とを比較してマスフローコントローラの流量を診断する。
【0058】
次にこのように構成された第1実施形態の流量診断装置100による基準流量の算出動作について図4の模式図と、図5のフローチャートを参照しながら説明する。なお、図5のフローチャートでは、タンクTN内の圧力及び温度の時系列データについては逐次、測定データ記憶部5に記憶され続けているものとして、ステップとしては記載しない。
【0059】
まず、開閉バルブ制御器4は第2開閉バルブV2を閉止し、第3開閉バルブV3を開放して、排気モードを開始する(ステップS1)。この結果、タンクTN内の減圧が開始される。次に開閉バルブ制御器4は、タンク圧力センサTPで測定される圧力がほぼ真空となったかどうかを判定する(ステップS2)。
【0060】
タンクTN内の圧力がほぼ真空となった時点で開閉バルブ制御器4は、排気モードを終了する。そして、開閉バルブ制御器4は、第1バルブを開放し、第2バルブ及び第3バルブを閉止して準備モードを開始する(ステップS3)。この結果、図4(a)に示すようにマスフローコントローラを通過する流体は分岐ラインSLを流れ、タンクTN内には流体が導入されない状態となる。次に開閉バルブ制御器4は、図5に示すようにDV圧力センサDPで測定される圧力が、第1APCに設定されている設定圧力の近傍で所定時間以上維持されているかどうかを判定する(ステップS4)。すなわち、ステップS4ではDV圧力センサDPの出力に基づいて、デッドボリュームDV内の圧力及び温度が安定したかどうかが判定される。
【0061】
デッドボリュームDV内の圧力及び温度が安定していると判定された場合には、開閉バルブ制御器4は準備モードを終了する。そして、開閉バルブ制御器4は、第1開閉バルブV1を閉止し、第2開閉バルブV2を開放して流入モードを開始する(ステップS5)。この結果、図4(b)に示すようにタンクTN内への流体の流入が始まる。次に開閉バルブ制御器4は、図5に示すようにDV圧力センサDPで測定される圧力が流入モード開始時の圧力の近傍で安定しているかどうかを判定し(ステップS6)、さらにタンク圧力センサTPで測定される圧力がユーザによって予め設定された目標圧力に到達したかどうかを判定する(ステップS7)。ここで、第2APCの動作により準備モードから流入モードに切り替え時に多少の圧力降下は生じるものの短時間で流入モード開始時の圧力近傍に回復する。したがって、実質的にはステップS7の判定基準により流入モードが継続されることになる。
【0062】
タンクTN内の圧力が目標圧力に到達した時点で、開閉バルブ制御器4は流入モードを終了する。そして、開閉バルブ制御器4は第2バルブを閉止して停止モードを開始する。また、流入モードが終了した時点で確定された流入モードの経過時間Δtを基準流量算出部6は取得する(ステップS8)。また、基準流量算出部6は、タンク圧力センサTPで測定される圧力の変動幅が所定値以内の状態が所定時間以上継続されたかどうかを判定する。すなわち、基準流量算出部6はタンクTN内の圧力及び温度が安定しているかどうかをタンク圧力センサTPの測定圧力の変動から判定する(ステップS9)。
【0063】
タンクTN内の圧力及び温度が安定した場合には、基準流量算出部6はその時点でタンク圧力センサTPが測定している圧力を安定後圧力として取得し、流入モード開始時の初期圧力との差圧ΔPを算出する(ステップS10)。さらに基準流量算出部6はステップS8で得られたΔtとステップS10で得られたΔPに基づき、基準流量を算出する(ステップS11)。
【0064】
このように構成された第1実施形態の流量診断装置100によれば、メインラインMLに第2圧力制御機構2である第2APCが設けられているので、図6のグラフに示すように準備モードから流入モードに切り替えられても従来のようにデッドボリュームDV内の圧力が急激に低下するのを防ぎ、準備モードで安定していた圧力でほぼ一定に保つことができる。したがって、従来のPVTt法の手順であればデッドボリュームDV内の圧力及び温度が十分に安定するまで時間をかけてタンクTN内の圧力を上昇させる必要があったのに対して、第1実施形態の流量診断装置100によるPVTt法ではデッドボリュームDVの圧力及び温度の安定をほとんど待つ必要がない。このため、ユーザが設定した任意の目標圧力となった時点で流入モードを停止することができる。例えば図6のグラフに示すように目標圧力を小さく設定し、従来よりも低い圧力で流入モードを終了させることができるので、流入モードが継続される時間は従来と比較して大幅に短縮できる。この結果、流量診断全体に必要となる時間も短くできる。
【0065】
また、タンクTN内の圧力をそれほど高圧力になるまで昇圧しなくてもよいので、流量診断のために必要となる流体の量を従来よりも大幅に低減できる。加えて、短時間でデッドボリュームDV内の圧力及び温度を安定させることができるので、流入モードにおいてタンクTNに流入する流体の流量を大きくし、大流量での流量診断も実現できる。
【0066】
次に第2実施形態の流量診断装置100について図7を参照しながら説明する。なお、第1実施形態において説明した部材と対応する部材には同じ符号を付すこととする。
【0067】
第2実施形態の流量診断装置100は、第1実施形態と比較して第1圧力制御機構1及び第2圧力制御機構2の構成が異なっている。すなわち、各圧力制御機構はAPCのようにパッケージ化されたものではなく、各機器がそれぞればらばらに設けられている。
【0068】
具体的には第1圧力制御機構1は、第1圧力センサ12に相当するデッドボリュームDVに設けられたDV圧力センサDPと、分岐ラインSLに設けられた第1制御バルブ11と、DV圧力センサDPの測定圧力と第1設定圧力の偏差に基づいて第1制御バルブ11の開度をフィードバック制御する第1圧力制御器13と、を備えている。
【0069】
また、第2圧力制御機構2は、第2圧力センサ22に相当し、第1圧力制御機構1と共用されるDV圧力センサDPと、メインラインMLにおいて、第2開閉バルブV2とタンクTNとの間に設けられた第2制御バルブ21と、DV圧力センサDPの測定圧力と第2設定圧力の偏差に基づいて第2制御バルブ21の開度をフィードバック制御する第2圧力制御器23とを備えている。
【0070】
このような第2実施形態の流量診断装置100であっても、分岐ラインSLに流体を流す準備モードからタンクTNに流体を流入させる流入モードに切り替えられた場合でも第2圧力制御機構2によって、デッドボリュームDV内における大幅な圧力降下が発生するのを防ぐことができる。したがって、流入モードが終了する条件であるデッドボリュームDV内の圧力及び温度が安定するまでにかかる時間を短縮できる。この結果、流量診断に必要となる流体の量を低減しつつ、流量診断全体にかかる時間も短くできる。
【0071】
次に第3実施形態の流量診断装置100について図8図9を参照しながら説明する。なお、第1実施形態において説明した部材と対応する部材には同じ符号を付すこととする。
【0072】
第3実施形態の流量診断装置100は、図1で示した第1実施形態の流量診断装置とほぼ同じ構成を備えているが、診断対象で診断される流量に応じて動作が変化する点で第1実施形態の流量診断装置100と異なっている。具体的には校正される流量が所定値以上となる場合、すなわち、メインラインMLに流される流体の流量が所定値以上となる場合には、流入モード中において第2圧力制御機構2によるデッドボリュームDV内の流体の圧力制御が行われないように構成されている。なお、メインラインMLに流される流体の流量が所定値よりも小さい場合には、第1実施形態と同様に流入モードでは第2圧力制御機構2によるデッドボリュームDV内の圧力制御が行われる。
【0073】
校正する流量値が所定値以上の場合において、第2圧力制御機構2により流入モード中のデッドボリュームDV内の圧力を第2設定圧力で保たれるようにすると、図8に示すように流入モードが開始されてから終了するまでの時間である経過時間Δtが短い場合にはデッドボリュームDV内の圧力が不安定な状態のままになってしまうことがある。これは、短時間で第1圧力制御機構1及び第2圧力制御機構2の両方が圧力制御と開閉制御が実施されると、第2圧力制御機構2の応答性ではデッドボリュームDV内の圧力を安定させて一定値に保てないことに起因する。
【0074】
そこで、第3実施形態の流量診断装置100は、校正される流量の大きさによらず、算出される基準流量の精度をほぼ一定に保てるようにしている。具体的には診断対象において校正する流量が所定値よりも小さい場合には、図9(a)に示すように流入モードにおいては第2圧力制御機構2である第2APCによってデッドボリュームDV内の圧力が第2設定圧力で保たれるように圧力制御が行われる。すなわち、第1実施形態と同様の制御動作が第2APC内の制御バルブ21の開度が制御される。一方、寝台対象において校正する流量が所定値以上の場合には、図9(b)に示すように流入モードにおいては第2圧力制御機構2である第2APCでは圧力制御は行われず、タンクTNへの流体の流入による圧力の自然上昇が発生するようにしている。すなわち、第2APCは制御バルブ21を全開に維持して、流路抵抗とならないように動作する。
【0075】
このような第2圧力制御機構2である第2APCにおける制御の切り替えは、例えば第2APCに第2設定圧力を設定する圧力設定部3により実現される。具体的には、メインラインMLに流される流量である校正対象となる流量値に関する情報が圧力設定部3に入力され、その値と予め設定された閾値との比較により、第2APCに圧力制御を行わせるための第2設定圧力を設定するか、制御バルブ21を全開で維持するための全開指令を設定するかが決定される。
【0076】
このように構成された第3実施形態の流量診断装置100であれば、診断対象で診断される流量値が所定値以上の場合には、従来と同じPVTt法により基準流量を算出し、診断対象で診断される流量値が所定値より小さい場合には、第1実施形態の流量診断装置100と同じく改良されたPVTt法により基準流量を算出できる。この結果、メインラインMLを流れる流量が大きく、流入モードが実施される期間の長さである経過時間Δtが短い場合には、第2圧力制御機構2の制御動作が行われないようにして、第2圧力制御機構2の応答性がデッドボリュームDV内の圧力に影響を与えて不安定な状態になるのを防ぐことができる。したがって、大流量の校正を行う場合でも、デッドボリュームDVからタンクTNに流入するガスの流量の再現性も高め、基準流量の精度良く算出できる。
【0077】
また、基準流量を算出するのに必要となる時間については流量が大きい場合には従来と同じPVTt法を用いたとしても、タンクTNの圧力上昇にかかる時間は短いので、例えばメインラインを流れる流体の流量が小さい場合とほぼ同等の時間長さにできる。
【0078】
なお、第3実施形態において第2圧力制御機構2が流入モードにおいて圧力制御を行うかどうかを決定するための閾値となる流量値については、第2圧力制御機構2で圧力制御を行った場合に実現される経過時間Δtの長さに基づいて設定してもよいし、その他の方法で設定してもよい。例えば、第2圧力制御機構2でデッドボリュームDVの圧力を制御した場合に第2圧力設定値に対してオーバーシュート又はアンダーシュートが発生し、第2圧力設定値に対して許容値内で安定しない期間よりも経過時間Δtが長くなるように流量値の閾値を設定すればよい。
【0079】
次に第4実施形態の流量診断装置100について図10図11図12を参照しながら説明する。なお、第1実施形態において説明した部材と対応する部材には同じ符号を付すこととする。
【0080】
第4実施形態の流量診断装置100は、流入モードが開始されてから終了するまでの経過時間Δtを取得するための構成が第1実施形態とは異なっている。具体的には制御演算機構COMにおいて、第1実施形態では開閉バルブ制御器4の各開閉バルブV1、V2の切り替え指令に基づいて流入モードの開始点を検知するように構成されている。これに対して、第4実施形態ではデッドボリュームDV内における流体の物理量の変化に基づいて流入モードの開始点を決定している。すなわち、図10の第4実施形態の制御演算機構COMに示すように基準流量算出部6は、DV圧力センサDPで測定される圧力に基づいて経過時間Δtの開始時点を設定するように構成されている。
【0081】
より具体的には、図11に示すように開閉バルブV1、V2の開閉を切り替えるための信号が出力されたゼロの時点からしばらくの間は、DV圧力センサDPで測定されるデッドボリュームDV内の圧力はほとんど変化しない。これは開閉指令信号の出力に対して、開閉バルブV1、V2の実際の動作は若干の時間遅れが存在していることに起因する。このため、開閉バルブV1、V2の開閉指令信号をトリガとして流入モードの開始時点を決定すると、実際には開閉バルブV1、V2が動いていない時間からタンクTNへの流体の流入が開始されていると判定していることになる。この開始時点のズレはごく短い時間であるが、例えば圧力上昇量ΔPを小さくして流量診断に係る時間を短くしたり、校正する流量の値が大きく、経過時間Δtが短くなったりする場合には、経過時間Δtに含まれる誤差の割合としては無視できない量となる。
【0082】
第4実施形態では図10に示すように開閉バルブV1及びV2の開閉指令信号が出力されてからDV圧力センサDPで測定される圧力が所定量以上変化した時点、すなわち、圧力が安定している状態から圧力が跳ね上がったことをトリガとして基準流量算出部6は経過時間Δtの開始時点を決定する。また、基準流量算出部6は経過時間Δtの終了時点については第1実施形態と同様にタンクTN内の圧力が所定値に到達したことをトリガとして決定する。
【0083】
このように構成された第4実施形態の流量診断装置100によって、デッドボリュームDVの圧力変化に基づいて経過時間Δtを決定した場合と、開閉バルブV1、V2の開閉指令信号を基準として経過時間Δtを決定した場合とで算出される基準流量のばらつきについて比較した実験結果を図11に示す。図11から明らかなように圧力変化に基づいて経過時間Δtを決定することにより、最終的に算出される基準流量のばらつきを小さくできることがわかる。したがって、第4実施形態の流量診断装置100であればさらに信頼性の高い校正や検定等を行う事が可能となる。
【0084】
ここで、第4実施形態の変形例について説明する。経過時間Δtの開始時点についてはDV圧力センサDPで測定される圧力に限られるものではなく、その他のセンサで測定される流体の物理量であっても構わない。すなわち、各開閉バルブV1、V2の実際の動作を示す温度等の物理量の変化をトリガとして経過時間Δtの開始時点を決定するようにしてもよい。また、第2開閉バルブV2に開度センサを組み込んでおき、開度センサが弁座から弁体が離間するのを検出したことをトリガとして、経過時間Δtの開始時点を決定するようにしてもよい。
【0085】
また、第4実施形態において説明した、経過時間Δtの開始時点の決め方は流入モードにおいてデッドボリュームDV内の圧力を制御しない従来のPVTt法に適用可能であるし、本発明のように流入モードにおいてデッドボリュームDV内の圧力を制御するように改良されたPVTt法にも適用可能である。
【0086】
その他の実施形態について説明する。
【0087】
診断対象は流量制御装置に限られるものではなく、例えば、流量センサ単体であっても構わない。
【0088】
分岐ラインはメインラインから分岐した後にタンクの下流側で合流するように構成してもよい。すなわち、分岐ラインはタンクを迂回するバイパス流路として構成してもよい。このようなものであれば必要となるポンプを1つにまとめることができる。
【0089】
各実施形態ではデッドボリュームにおける流体の圧力及び温度が安定しているかどうかはDV圧力センサの測定値だけに基づいて判定していたが、デッドボリュームにさらにDP温度センサを設けておき、DV圧力センサとDP温度センサの双方の出力が安定することを各モードの切り替えのための判定条件としてもよい。
【0090】
基準流量算出部による基準流量の算出手法は前述したものに限られない。例えば基準流量算出部が、経過時間Δtと、差圧ΔPと、気体の状態方程式に基づいて算出される補正前流量を、流入モード中における最大圧力又はその近傍の圧力と安定後圧力に基づいて補正して基準流量を算出するようにしてもよい。より具体的には、補正前流量に対して最大圧力と安定後圧力の比の値を乗じて補正し、基準流量としてもよい。ここで、最大圧力は例えば図6に示すように流入モードが終了する時点でタンク圧力センサにより測定される圧力であり、安定後圧力は停止モードが開始されてから所定時間経過後にタンク圧力センサにより測定される圧力である。なお、最大圧力の近傍の圧力とは、流入モード中又は停止モード中において前述した最大圧力の前後に測定される圧力であり、安定後圧力よりも高い圧力を含む概念である。
【0091】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や、各実施形態の一部同士を組み合わせても構わない。
【符号の説明】
【0092】
100・・・流量診断装置
ML ・・・メインライン
SL ・・・分岐ライン
DV ・・・デッドボリューム
V1 ・・・第1開閉バルブ
V2 ・・・第2開閉バルブ
V3 ・・・第3開閉バルブ
1 ・・・第1圧力制御機構
2 ・・・第2圧力制御機構
3 ・・・圧力設定部
4 ・・・開閉バルブ制御器
5 ・・・測定データ記憶部
6 ・・・基準流量算出部
7 ・・・診断部
図1
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