(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-31
(45)【発行日】2024-11-11
(54)【発明の名称】クリーム系ソース用乳化液及びクリーム系ソース
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20241101BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20241101BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20241101BHJP
A23L 29/238 20160101ALI20241101BHJP
【FI】
A23D7/00 504
A23L23/00
A23L29/269
A23L29/238
(21)【出願番号】P 2021574146
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2021003218
(87)【国際公開番号】W WO2021153726
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2020012820
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒林 玄軌
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 武紀
(72)【発明者】
【氏名】久代 可南子
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-220065(JP,A)
【文献】特開平08-332025(JP,A)
【文献】国際公開第2019/240239(WO,A1)
【文献】特開2019-201648(JP,A)
【文献】特開2014-113071(JP,A)
【文献】特開2008-029311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳脂肪分を含まず、且つ水、植物油脂及び増粘多糖類を含有し、油滴の平均粒径が5~50μmであ
り、該植物油脂の含有量が20~70質量%である、クリーム系ソース用乳化液。
【請求項2】
乳脂肪分を含まず、且つ水、植物油脂及び増粘多糖類を含有し、油滴の平均粒径が5~50μmであり、該植物油脂中の飽和脂肪酸の含有量が50質量%未満である、クリーム系ソース用乳化液。
【請求項3】
乳蛋白質を更に含有する、請求項1
又は2に記載のクリーム系ソース用乳化液。
【請求項4】
前記乳蛋白質の含有量が0.05~3質量%である、請求項
3に記載のクリーム系ソース用乳化液。
【請求項5】
乳化剤を更に含有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載のクリーム系ソース用乳化液。
【請求項6】
前記乳化剤の含有量が0.005~3質量%である、請求項
5に記載のクリーム系ソース用乳化液。
【請求項7】
前記増粘多糖類の含有量が0.005~1質量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載のクリーム系ソース用乳化液。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のクリーム系ソース用乳化液を5~40質量%含有する、クリーム系ソース。
【請求項9】
乳脂肪分を含まず、且つ水、植物油脂及び増粘多糖類を含有する混合液を乳化させて、油滴の平均粒径が5~50μmであ
り、該植物油脂の含有量が20~70質量%である、クリーム系ソース用乳化液を調製し、次いで、
前記乳化液を用いてクリーム系ソースを製造する、クリーム系ソースの製造方法。
【請求項10】
乳脂肪分を含まず、且つ水、植物油脂及び増粘多糖類を含有する混合液を乳化させて、油滴の平均粒径が5~50μmであり、該植物油脂中の飽和脂肪酸の含有量が50質量%未満である、クリーム系ソース用乳化液を調製し、次いで、
前記乳化液を用いてクリーム系ソースを製造する、クリーム系ソースの製造方法。
【請求項11】
前記混合液を25~70℃の品温で乳化させて前記乳化液を調製する、請求項
9又は10に記載のクリーム系ソースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーミーな風味及び滑らかな食感を有するクリーム系ソース用乳化液及びクリーム系ソースに関する。
【背景技術】
【0002】
クリーム系ソースは、他の食材にかけて食されるソースの一種であり、一般に、牛乳などの乳原料を含む原料を適度に加熱しながら製造される。クリーム系ソースの典型的なものは、ベシャメルソースに生クリームを加えたものであり、生クリームに味付けして煮詰めたものなどもある。ベシャメルソースは、小麦粉、バター及び牛乳をベースとしたソースであり、ホワイトソースとも呼ばれる。
【0003】
クリーム系ソースはコクのあるクリーム感と、滑らかな舌触りが特徴であるが、そのような特徴あるクリーム系ソースを得るために、従来は原料として生クリームを用いて製造されている。しかし、生クリームを含有するクリーム系ソースは、生クリームに由来する乳脂肪を多量に含むため、カロリーが高く、健康志向の高まりとともに敬遠される傾向がある。また、生クリームを含有するクリーム系ソースは、これを冷凍保存した場合に、脂肪分と他の成分とに分離しやすく、冷凍したものを解凍すると離水したり、ざらつき等といった食感の悪化が生じたりするという問題がある。
【0004】
上述した問題を解決することに関して、特許文献1には、加熱工程後に冷却せず、高圧ホモジナイザー処理しその後冷凍することを特徴とする冷凍クリームソース類の製造方法が記載されている。また特許文献2には、ホワイトソースの原料である小麦粉の代わりに、活性グルテンと加工澱粉とを用いてクリームソースを製造する方法が記載されている。また特許文献3には、クリームソース等のソースにおからペーストを0.1質量%以上10質量%以下で含有させた液状食品が記載されている。また特許文献4には、冷凍前の冷却工程において植物油を添加する直前のソースの温度が5℃以上30℃以下となったときに植物油を添加し乳化する冷凍クリームソース類の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-189913号公報
【文献】特開2010-51242号公報
【文献】特開2011-45289号公報
【文献】特開2012-244972号公報
【発明の概要】
【0006】
しかし、特許文献1~4のクリームソースは、いずれも乳脂肪分を多く含むものであり、健康志向の高まりの観点から敬遠され得るものである。これに加えて、特許文献1~4のクリームソースは、製造後及び冷凍保存後の食感について、改善の余地があった。
【0007】
したがって、本発明は、乳脂肪分を低減しながらも、クリーミーな風味及び滑らかな食感を有し、しかも冷凍保存後にも食感を維持することができるクリーム系ソースを製造可能な乳化液を提供することである。
【0008】
本発明は、乳脂肪分を含まず、水、植物油脂、増粘多糖類を含有し、油滴の平均粒径が5~50μmであるクリーム系ソース用乳化液に関する。
【0009】
また本発明は、乳脂肪分を含まず、且つ水、植物油脂及び増粘多糖類を含有する混合液を乳化させて、油滴の平均粒径が5~50μmであるクリーム系ソース用乳化液を調製し、次いで、
前記乳化液を用いてクリーム系ソースを製造する、クリーム系ソースの製造方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。以下の説明では、「X~Y[Z]」(X及びYは任意の数字であり、[Z]は単位である。)と記載した場合、特に断らない限り「X[Z]以上Y[Z]以下」を意味する。
【0011】
本発明のクリーム系ソース用乳化液(以下、特に断りのない限り、これを単に「乳化液」とも言う。)は、乳脂肪分を含まず、且つ水、植物油脂及び増粘多糖類を含有し、特定の平均粒径を有する油滴が形成されているものである。本発明の乳化液は、後述する実施例に示すように、好ましくは水中油型(O/W型)の乳化形態を有する液である。この乳化液は、クリーム系ソースの製造原料として好適に用いられる。
【0012】
本発明における「クリーム系ソース」とは、チーズ、バター、牛乳、クリーム、生クリーム、全粉乳、脱脂粉乳及びクリームパウダーなどの乳原料を用いて製造される、常温常圧で乳化した液状食品である。本発明のクリーム系ソースには、ベシャメルソースに生クリームを加えた狭義のクリームソースのみならず、狭義のクリームソースに類似する、いわゆるクリームソース風食品が包含される。このクリームソース風食品は、狭義のクリームソースをベースとして製造されるもので、厳密に言えば、狭義のクリームソースの範疇からは外れるものの、依然として、狭義のクリームソースのイメージを有している食品を意味し、例えば、生クリームを用いずに常法に従って製造されたクリームソースが該当する。
【0013】
上述のとおり、本発明の乳化液は、乳脂肪分を含んでいない。ここで「乳脂肪分」とは、牛乳に含まれる脂肪分を指し、典型的には、牛乳の他、チーズ、バター、ヨーグルト、クリーム、クリームパウダー及び全粉乳等の牛乳を原料として生産される乳製品に含まれるものである。したがって、牛乳及び上述した乳製品は、本発明の乳化液の原料から除外される。
また「乳脂肪分を含まない」とは、本発明の乳化液に乳脂肪分を意図的に添加することを排除する趣旨であり、原料等の不純物や他の工程から不可避的に混入する微量の乳脂肪分の存在は許容される。「微量」とは、乳化液中の乳脂肪分の含有量が、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは0質量%である。
本発明の乳化液が乳脂肪分を含んでいないことによって、乳化液中の油滴を後述する平均粒径に調製する際に、油脂が分離することなく十分に乳化させることができ、また、この乳化液を用いたクリーム系ソースは、製造直後及び冷凍保存後のいずれの場合でもクリーミーな風味と滑らかな食感とを有する。これに加えて、カロリーが高い乳脂肪分を含まないので、本発明の乳化液を用いることによって、消費者の健康志向にマッチしたクリーム系ソースを生産性高く提供することができる。
【0014】
本発明の乳化液は、水を含む。乳化液に含まれる水は、食用に用いられる清水を特に制限なく利用することができる。
乳化液における水の含有量は、好ましくは15~90質量%、より好ましくは30~80質量%、更に好ましくは40~75質量%である。このような割合となっていることによって、後述する平均粒径を有する油滴を効率よく形成させることができ、その結果、この乳化液を用いたクリーム系ソースは、製造直後及び冷凍保存後のいずれの場合でもクリーミーな風味と滑らかな食感とが十分に発現する。
【0015】
本発明の乳化液は、植物油脂を含む。乳化液に含まれる植物油脂は、植物に由来する油脂を特に限定せず用いることができる。具体的には、植物油脂としては、例えば大豆油、コーン油、綿実油、落花生油、オリーブ油、菜種油、ゴマ油、エゴマ油、アマニ油及びヤシ油等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上混合して用いることができる。植物油脂を用いることによって、カロリーを低減して、消費者の健康志向に合致したクリーム系ソースを生産性高く製造することができる。
また、消費者の健康志向に合致したクリーム系ソースを得る観点から、乳化液は、牛脂や豚脂等の動物油脂を非含有とすることも好ましい。
乳化液における植物油脂の含有量は、クリーミーな風味と滑らかな食感とを発現し、健康志向に合致したクリーム系ソースを得る観点から、好ましくは20~70質量%、より好ましくは25~60質量%、更に好ましくは30~50質量%である。
【0016】
植物油脂は、その構成脂肪酸の飽和脂肪酸比率が低いことが好ましい。具体的には、植物油脂中の飽和脂肪酸の含有量は、好ましくは50質量%未満、より好ましくは40質量%以下である。また、乳化液中の油脂成分を構成する脂肪酸における飽和脂肪酸の含有量は、好ましくは50質量%未満、より好ましくは40質量%以下である。
飽和脂肪酸の含有量を上述の範囲とすることによって、高い融点を有する飽和脂肪酸の含有量が少ない乳化液を安定的に調製することができ、またこの乳化液を含むクリーム系ソースを低温で喫食する場合に、ざらつきが低減され、食感が良好なソースとなる。飽和脂肪酸の含有量は、例えば、ナトリウムメソキサイド法により、測定対象となる油脂から脂肪酸の遊離とメチルエステル化を行い、得られた脂肪酸メチルエステルをガスクロマトグラフィー法により定量分析する方法で測定することができる。また、飽和脂肪酸の含有量が少ない植物油脂としては、例えば大豆油、コーン油、綿実油、落花生油、オリーブ油及び菜種油等が挙げられる。
【0017】
本発明の乳化液は、増粘多糖類を含む。乳化液に含まれる増粘多糖類は、本技術分野において通常用いられるものを用いることができ、例えばペクチン、カラギナン、キサンタンガム、ジェランガム、グアガム、メチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上混合して用いることができる。
乳化液における増粘多糖類の含有量は、乳化液中の油滴を後述する平均粒径に安定に維持させて、ソースの食感の向上を図る観点から、好ましくは0.005~1質量%、より好ましくは0.01~0.5質量%、更に好ましくは0.02~0.1質量%である。
【0018】
本発明の乳化液は、その油滴の平均粒径が好ましくは5~50μmであることを特徴の一つとしている。
一般に、クリーム系ソースの原料として用いられる牛乳の乳脂肪の油滴の粒径は、0.2~1.5μmの範囲に均質化処理されており、また牛乳を原料として製造された生クリームの油滴の平均粒径は2.5μm程度である。したがって、一般的なクリーム系ソースの原料である牛乳や生クリームは、本発明の乳化液における油滴よりも微細な粒径を有する油滴が乳脂肪分として既に存在しており、このような油滴の粒径及び形成状態に起因して、製造直後において滑らかな食感を有するソースとなる。しかし、ソースを製造した後、流通時に冷凍処理したり、喫食時に加熱処理したりすると、油滴の形成が不安定となり、油滴どうしが結合して油と水に分離してしまい、その結果、ソースの滑らかさが失われ、食感や風味等の品質が悪化してしまう場合があった。
この点に関して、本発明者が鋭意検討したところ、油滴の平均粒径を一般的なクリーム系ソースにおけるものよりも大きくした乳化液を、クリーム系ソースの原料の一部又は全部として用いることによって、滑らかな食感、並びにクリーム感及びコク等の良好な風味を兼ね備えながらも、油っぽさが低減され、且つ冷凍保存後及び加熱後も良好な食感及び風味を発現できるクリーム系ソースを製造できることを見出した。特に、乳化液における油滴の平均粒径が5μm未満であると、この乳化液を用いて製造されたクリーム系ソースのクリーム感及びコクが低下し、風味に劣るソースとなり得る。また油滴の平均粒径が50μmを超えると、クリーム系ソースの滑らかさが低下し、油っぽく感じられるようになり、食感が劣るソースとなり得る。
【0019】
製造されるソースの食感及び風味を更に向上させる観点から、本発明の乳化液における油滴の平均粒径は、より好ましくは8~42μm、更に好ましくは12~38μmである。このような粒径を有する油滴とするためには、例えば後述するように、所定の温度に加熱しながら、乳化処理を行えばよい。
【0020】
なお本発明の平均粒径は、測定対象物である乳化液を目開き0.5mmの篩を通過させて固形物を除去した液体成分を篩の通過物として得て、その液体成分を5質量%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液で10倍に希釈したものを、レーザー回折式粒度分布計(例えばマルバーン・パナリティカル社製、マスターサイザー)を用いて粒度分布を測定した結果から算出された、体積平均径(MV)を指す。
【0021】
油滴の安定性を高めて、製造直後及び冷凍保存後もクリーミーな風味と滑らかな食感とを有するクリーム系ソースを得やすくする観点から、本発明の乳化液は、更に乳蛋白質を含有させることが好ましい。
乳蛋白質としては、本技術分野において通常用いられるものを用いることができ、例えばカゼインやホエイプロテイン等を挙げることができる。これらは単独で又は二種以上混合して用いることができる。
乳化液における乳蛋白質の含有量は、油滴の安定性を更に高める観点から、好ましくは0.05~3質量%、より好ましくは0.1~2質量%、更に好ましくは0.2~1質量%である。
【0022】
油滴の形成容易性と安定性とを両立して高めて、製造直後及び冷凍保存後もクリーミーな風味と滑らかな食感とを有するクリーム系ソースを生産性高く得る観点から、本発明の乳化液は、更に乳化剤を含有させることが好ましい。
乳化剤としては、本技術分野において通常用いられるものを用いることができ、例えばグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、サポニン、及びレシチンを挙げることができる。これらは単独で又は二種以上混合して用いることができる。
乳化液における乳化剤の含有量は、油滴の安定性を更に高める観点から、好ましくは0.005~3質量%、より好ましくは0.05~2質量%、更に好ましくは0.1~1質量%である。
【0023】
本発明のクリーム系ソース用乳化液の製造方法は、一般的な水中油型乳化物の製造方法を利用することができる。本製造方法としては、乳脂肪分を非含有とし、水、植物油脂及び増粘多糖類、並びに必要に応じて乳蛋白質及び乳化剤を混合した混合液を乳化させて、本発明の乳化液とすることができる。
より詳細には、まず、植物油脂と増粘多糖類と、必要に応じて乳蛋白質とを混合し、次いで、水を混合して、また必要に応じて乳化剤を更に混合して混合液とする。そして該混合液を均質化処理して乳化させる方法を挙げることができる。本製造方法では、製造開始から終了まで乳脂肪分を非含有とする。
【0024】
乳化処理における温度は、混合液の品温を好ましくは25~70℃、より好ましくは35~65℃、更に好ましくは45~60℃として、乳化液を調製する。また、乳化開始から乳化終了まで、混合液を撹拌しながら上述の温度となるように加熱することも好ましい。
本発明の乳化液は、クリーム系ソースの原料として一般的に用いられる牛乳や生クリームなどの微細な油滴が予め存在している原料を用いていないので、このような温度範囲で乳化を行うことによって、所定の平均粒径を有する油滴が安定的に形成された乳化液を生産性高く製造することができ、また、冷凍及び加熱による該油滴の水と油との分離が少なくなる。
【0025】
乳化処理としては、高圧乳化機や高圧ホモジナイザーを用いると、上述した粒径を有する油滴を得られにくいので、ブレンダーやホモミキサーを用いるのが好ましい。ブレンダーやホモミキサーを用いる場合の回転数は、上述した平均粒径を有する油滴を効率よく形成させる観点から、好ましくは1500~9000rpm、より好ましくは3000~7500rpm、更に好ましくは4000~6500rpmとする。
また、乳化処理の時間は、上述した温度範囲及び回転数の範囲を条件として、好ましくは1~30分、より好ましくは2~20分、更に好ましくは5~15分とする。
【0026】
以上の方法を経て得られた本発明のクリーム系ソース用乳化液は、クリーム系ソースの製造原料として好適に用いることができる。本発明の乳化液を用いることによって、目的とするクリーム系ソースにクリーミーな風味と滑らかな食感とを簡便に発現させることができ、更に生クリーム等の乳脂肪分を用いずとも、乳脂肪分を用いたようなクリーミーな風味と滑らかな食感とを有するクリーム系ソースを製造することができる。
【0027】
乳化液を含むクリーム系ソースの製造方法としては、例えば一般的なクリーム系ソースの製造に用いられる牛乳や生クリーム等の乳原料の一部又は全部を、本発明の乳化液に置き換えればよく、その他の製造手順はこの分野で通常採用される方法を適宜組み合わせて行うことができる。乳化液を乳原料の一部と置換して用いる場合、乳化液は乳原料と同時に添加してもよく、一方を他方に添加してもよい。いずれの製造手順であっても、得られたクリーム系ソースは、冷凍保存しても風味、食感及び品質の低下が少ないため、冷凍保存されたソースの喫食時に良好な食感を有するクリーム系ソースとすることができる。
【0028】
本発明のクリーム系ソースにおいて、クリーム系ソース用乳化液の含有量は、該ソースの全質量に対して、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは7~35質量%、更に好ましくは9~30質量%である。クリーム系ソース中の乳化液の含有量をこのような範囲にすることによって、得られるクリーム系ソースのクリーム感及びコクが良好となりつつ、油っぽさが低減され、且つ滑らかな食感を有するソースとなる。
【0029】
本発明のクリーム系ソースに用い得る、クリーム系ソース用乳化液以外の原料は特に限定されない。例えば、小麦粉及び米粉等の穀粉類、澱粉及び加工澱粉等の澱粉類、チーズ、バター、牛乳、クリーム、全粉乳、脱脂粉乳及びクリームパウダーなどの乳原料、糖類、卵類、調味料、色素、増粘剤、及び乳化剤などが挙げられ、製造対象となるクリーム系ソースの種類などに応じて一種以上を適宜選択すればよい。
また本発明のクリーム系ソースは、クリーム系ソース用乳化液以外の原料として固形具材を含有していてもよい。固形具材としては、例えば、肉類、魚介類、野菜類、及びキノコ類が挙げられ、これらの一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のクリーム系ソースにおけるクリーム系ソース用乳化液以外の他の原料の含有量は通常、該ソースの全質量に対して30~95質量%程度である。
【0030】
本発明のクリーム系ソースは、常温(25℃)で流動性を有し、水分が主体の液状物又は流動物である。本発明のクリーム系ソースには、パスタソースやディップソースなどの、ソース以外の他の食材又は料理にかけたり、ソース以外の他の食材又は料理とからめたりすることによって、他の食材又は料理とともに喫食される「ソース」と、それ自体の喫食が目的とされる「スープ」とが包含される。
【0031】
上述した「ソース」としてのクリーム系ソースの具体例としては、ホワイトルーをベースとしたホワイトクリームソースやカルボナーラソース、トマトソースをベースとしたトマトクリームソース、白ワインをベースとしたヴァンブランソースなどが挙げられる。
また、「スープ」としてのクリーム系ソースの具体例としては、ホワイトクリームスープ、ポタージュスープ、キノコクリームスープ、トマトクリームスープ、かにクリームスープ、ほたてクリームスープ、コーンクリームスープ、クラムチャウダーなどが挙げられる。
特に本発明の乳化液は、pHが比較的低い状態でも油滴の形成状態を安定的に維持できるため、例えばトマト等の酸を有する野菜や果物を含む原料を用いたクリーム系ソースを製造した場合であっても、クリーミーな風味と滑らかな食感とを高いレベルで維持しつつ、冷凍保存後及び加熱後も風味、食感及び品質が維持されたソースとなる。
【0032】
本発明のクリーム系ソースは、例えば、シチュー、ハンバーグ、パスタ、グラタン等の食品に適用できる。本発明のクリーム系ソースは、製造後にそのまま喫食することもできるし、製造後に密封して殺菌するか又は冷蔵若しくは冷凍して低温状態とした上で保存あるいは流通させることもできる。本発明のクリーム系ソースは、冷凍後に電子レンジ等の加熱調理器で再加熱しても、ソースのクリーム感及びコクが良好に維持され、且つ滑らかな食感を有しており、風味の良い状態で喫食することができる。
本発明のクリーム系ソースを冷凍する場合、冷凍の条件は常法で行うことができ、急速凍結法や緩慢凍結法のいずれも採用できる。凍結後は-20℃以下の冷凍庫等で長期間保管可能である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の表中、空欄は「非含有」を示す。
【0034】
〔実施例1~8及び比較例1~10〕
以下の表1及び表2に示す配合で、クリーム系ソース用乳化液を製造した。具体的には、まず植物油脂と増粘多糖類とを混合して撹拌し、次いで清水を加えて撹拌して混合液とした。そして、前記混合液を品温が55℃となるように加熱し、その温度を維持した状態で、ホモミキサー(プライミクス社製、T.K.ホモミキサー)を用いて、5000rpm、10分間で均質化処理して乳化させ、水中油型の乳化液を調製した。乳蛋白質を含有させる場合、乳蛋白質は増粘多糖類と共に混合した。乳化剤を含有させる場合、乳化剤はホモミキサーによる処理を行う直前に混合した。なお、乳化液の製造にあたり、乳脂肪分はいずれも非含有とした。
【0035】
続いて、得られたクリーム系ソース用乳化液を用いて、実施例及び比較例のクリーム系ソースをそれぞれ製造した。具体的には、以下に示す常法のクリーム系ソースの製造方法において、生クリーム400gのうち半量である200gを、実施例又は比較例のクリーム系ソース用乳化液に置き換えて、クリーム系ソースを製造した。
また、常法のクリーム系ソースの製造方法によって製造したソースを「参考例1」とし、常法のクリーム系ソースの製造方法において、生クリームを200gに減量し、その減量分を小麦粉と牛乳との混合物で補って製造したソースを「参考例2」とした。
【0036】
<クリーム系ソースの製造方法>
(1)薄力小麦粉50gと牛乳800mLとを混合・撹拌して、小麦粉と牛乳との混合物を調製した。
(2)鍋を火にかけ、バター40gを溶かし、溶かしバターに小麦粉と牛乳との混合物560gを加えて、沸騰しないようにかき混ぜながら10分間加熱した。
(3)前記(2)の混合物に、更に生クリーム400gを火にかけながら少量ずつ加えて混合し、全体に均一になったら更に20分間加熱し、清水を加えて全量を1000gとして、クリーム系ソースとした。
【0037】
〔乳化液の油滴の平均粒径〕
各実施例又は比較例のクリーム系ソース用乳化液について、体積平均径(MV)を上述した条件で測定し、油滴の平均粒径(μm)とした。その結果を表1及び表2に示す。
【0038】
〔クリーム系ソースの風味及び食感の評価〕
実施例、比較例及び参考例のクリーム系ソースを製造直後に1食当たり80gずつプラスチック製のトレイに分け、その後、該ソースを10名の専門パネラーに喫食してもらい、以下の評価基準に従って、風味及び食感を評価してもらった。
またこれとは別に、実施例、比較例及び参考例のクリーム系ソースを1食当たり80gずつプラスチック製のトレイに分け、冷凍庫(-20℃)にて7日間凍結保存した。その後、冷凍したクリーム系ソースを、電子レンジで500W、2分間再加熱し、加熱後のソースを10名の専門パネラーに食してもらい、以下の評価基準に従って、風味及び食感を評価してもらった。
上述の各評価結果を10名の評価点の算術平均値として、以下の表1及び表2に示す。
【0039】
<ソース風味の評価基準>
5点:濃厚なクリームのコクが十分にあり、非常に良好な風味である。
4点:濃厚なクリームのコクがあり、良好な風味である。
3点:クリームのコクがやや物足りないか、わずかに油っぽいが、問題のない風味である。
2点:クリームのコクが物足りないか、油っぽく、風味が不良である。
1点:クリームのコクが感じられないか、非常に油っぽく、風味が非常に不良である。
<ソース食感の評価基準>
5点:ソース全体に滑らかなクリームの舌触りがあり、非常に良好な食感である。
4点:ソース全体がほぼムラなく滑らかなクリームの舌触りがあり、良好な食感である。
3点:ソースの一部にわずかにざらつきが感じられるが、問題のない食感である。
2点:ソースが全体にざらついており、食感が不良である。
1点:ソースが全体にざらついており、一部に油分の分離があり、食感が非常に不良である。
【0040】
【0041】
【0042】
表1及び表2に示すように、実施例のクリーム系ソース用乳化液を用いて製造されたクリーム系ソースは、製造直後及び冷凍再加熱後のいずれにおいても、比較例と比較して、風味及び食感がともに良好な評価であった。また、比較例のクリーム系ソース用乳化液を用いて製造されたクリーム系ソースは、製造直後の風味及び食感の評価はともに低く、冷凍再加熱後には一層低評価となった。
【0043】
〔実施例9~39〕
植物油脂(実施例9~16)、増粘多糖類(実施例17~23)、乳蛋白質(実施例24~31)又は乳化剤(実施例32~39)の各含有量を変更した以外は、以下の表3~表6に示す配合割合で、実施例1と同様にクリーム系ソース用乳化液を製造し、また油滴の平均粒径を測定した。
また実施例1と同様の方法で、得られた乳化液を用いてクリーム系ソースを製造し、該ソースの風味及び食感を上述の方法と同様に評価した。結果を以下の表3~表6に示す。なお、表5及び表6には、実施例7の結果を再掲する。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
表3~表6に示すように、実施例のクリーム系ソース用乳化液を用いて製造されたクリーム系ソースは、製造直後及び冷凍再加熱後のいずれにおいても、ソースの風味及び食感がともに良好な評価であった。特に、植物油脂、増粘多糖類、乳蛋白質及び乳化剤のうち少なくとも一種の含有量を好適な範囲に変更した実施例は、製造直後及び冷凍再加熱後のいずれにおいても、風味及び食感が更に良好なソースであることがわかる。
【0049】
〔実施例40~46、比較例11〕
ホモミキサーを用いて乳化処理を行う際の品温を以下の表7に示すように変更した以外は、実施例1と同様にクリーム系ソース用乳化液を製造し、また油滴の平均粒径を測定した。
また実施例1と同様の方法で、得られた乳化液を用いてクリーム系ソースを製造し、該ソースの風味及び食感を上述の方法と同様に評価した。結果を以下の表7に示す。
なお、表7には、実施例1の結果を再掲する。
【0050】
【0051】
表7に示すように、実施例のクリーム系ソース用乳化液を用いて製造されたクリーム系ソースは、製造直後及び冷凍再加熱後のいずれにおいても、比較例と比較して、風味及び食感がともに良好な評価であった。特に、乳化液の調製を所定の品温の範囲で行うことによって、製造直後及び冷凍再加熱後のいずれにおいても、ソースの風味及び食感が更に良好なものとなることがわかる。所定の品温でない範囲でソースの風味及び食感が劣ってしまう理由としては、品温が低い場合には、植物油脂の流動性が低く液中で分散しづらいので十分に乳化されず、また乳化されたとしても油滴の安定性に劣るためであると考えられる。また、品温が高い場合には、植物油脂の流動性が高くなることに起因して、特に冷凍再加熱後において油滴どうしが結合しやすく、その結果、油滴の安定性に劣ってしまうためと考えられる。
【0052】
〔製造例1~7〕
製造例1~7では、実施例1と同様の組成及び方法にて調製した乳化液を、以下の表8に示す割合で用いて、クリーム系ソースを製造した。また実施例1と同様の方法で、製造したソースの風味及び食感を上述の方法と同様に評価した。結果を以下の表8に示す。
なお、表8には、実施例1の結果を再掲する。
【0053】
【0054】
表8に示すように、実施例のクリーム系ソース用乳化液を用いて製造されたクリーム系ソースは、製造直後及び冷凍再加熱後のいずれにおいても、風味及び食感がともに良好な評価であった。特に、乳化液の含有量(生クリームの置換量)を好適な範囲とすることによって、製造直後及び冷凍再加熱後のいずれにおいても、ソースの風味及び食感が更に良好なものとなることがわかる。このことは、風味及び食感が良好に維持されながら、生クリーム等のカロリーが高い乳脂肪分の使用量を低減することができるので、消費者の健康志向にマッチしたクリーム系ソースを提供できることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、乳脂肪分を低減しながらも、クリーミーな風味及び滑らかな食感を有し、しかも冷凍保存後にも該風味及び食感を維持することができるクリーム系ソースを製造可能なクリーム系ソース用乳化液を提供することができる。また、前記乳化液を用いて、動物性の乳脂肪である生クリームを植物油脂に置き換えることで、健康志向にマッチしたクリーム系ソースを提供することができる。