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特許7580704中空無機粒子の製造方法及び連鎖状中空無機粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】中空無機粒子の製造方法及び連鎖状中空無機粒子
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20241105BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021000825
(22)【出願日】2021-01-06
(65)【公開番号】P2022106093
(43)【公開日】2022-07-19
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】藤 正督
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ ジシエン
(72)【発明者】
【氏名】藤本 恭一
(72)【発明者】
【氏名】高井 千加
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-142945(JP,A)
【文献】国際公開第2010/071010(WO,A1)
【文献】特開2012-188323(JP,A)
【文献】国際公開第2004/099074(WO,A1)
【文献】特開2020-142944(JP,A)
【文献】特開2018-035031(JP,A)
【文献】特開2017-206571(JP,A)
【文献】特開2020-040858(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0059971(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1931718(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 -33/193
B82Y 5/00 -99/00
B01J 13/02 -13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリル酸と、前記ポリアクリル酸に存在するカルボキシ基の当量以上のアンモニアと、を含む水溶液にアルコールを添加して混合水溶液とする第1工程と、
前記混合水溶液と、エタノール及び/又はメタノールと、を混合してエマルジョンとする第2工程と、
前記エマルジョン中に存在する分散粒子の表面にゾルゲル法で無機皮膜を形成させる第3工程と、
前記無機皮膜が形成された分散粒子に内包されている溶液を溶出させる第4工程と、を備える中空無機粒子の製造方法であって、
前記第1工程において、前記アルコールの種類、前記アルコールの混合割合、及びポリアクリル酸の分子量を制御することにより、中空無機粒子どうしが結合した連鎖状中空無機粒子とする中空無機粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程において用いられるアルコールは多価アルコールである請求項1に記載の中空無機粒子の製造方法。
【請求項3】
前記多価アルコールはエチレングリコール、グリセリン及びポリビニルアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の中空無機粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ポリアクリル酸の数平均分子量は1000以上50000以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の中空無機粒子の製造方法。
【請求項5】
前記無機皮膜はSiO2,TiO2,及びZrO2のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至のいずれかである中空無機粒子の製造方法。
【請求項6】
ポリアクリル酸と、該ポリアクリル酸に存在するカルボキシ基の当量以上のアンモニアとを含み、アルコールを含まない水溶液を調製する第1工程と、
前記水溶液と、エタノールに多価アルコールが添加されたアルコール混合液と、を混合してエマルジョンとする第2工程と、
前記エマルジョン中に存在する分散粒子の表面にゾルゲル法で無機皮膜を形成させる第3工程と、
前記無機皮膜が形成された分散粒子に内包されている溶液を溶出させる第4工程と、を備えることを特徴とする中空無機粒子の製造方法。
【請求項7】
前記無機皮膜はSiO2,TiO2,及びZrO2のいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の中空無機粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中空無機粒子の製造方法及び連鎖状中空無機粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
中空無機粒子は中実無機粒子と比較して高比表面積、低密度、低熱伝導率といった特性を有するため、これらの特性を利用した機能性材料として断熱材等に用いられている。中空無機粒子の製造方法の一種としてエマルジョンテンプレート法が知られている(例えば特許文献1参照)。この方法では、1)高分子電解質を含む粒子が分散したエマルジョンを調製し、2)エマルジョンの分散粒子の表面にゾルゲル法を用いて無機皮膜を形成させた後、3)水に投入することにより無機皮膜の内部に存在する高分子電解質を抽出除去し、乾燥させることにより中空無機粒子を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-40858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のエマルジョンテンプレート法では、中空無機粒子の形状を制御することが困難であった。このため、中空無機粒子どうしが結合して連鎖状態とされている連鎖状中空無機粒子としたり、中空無機粒子が独立して分散した中空無機粒子としたりすることを制御することはできなかった。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、中空無機粒子どうしが結合して連鎖状態とされている連鎖状中空無機粒子としたり、単一の中空無機粒子が連結せずに独立して分散した中空無機粒子としたりすることを制御できる中空無機粒子の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。また、中空無機粒子どうしが結合して連鎖状態とされている連鎖状中空無機粒子を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、従来のエマルジョンテンプレート法において、ポリアクリル酸と、ポリアクリル酸に存在するカルボキシ基の当量以上のアンモニアとを含む水溶液にアルコールを添加しておけば、上記従来の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、第1発明の中空無機粒子の製造方法は、ポリアクリル酸と、前記該ポリアクリル酸に存在するカルボキシ基の当量以上のアンモニアと、を含む水溶液にアルコールを添加して混合水溶液とする第1工程と、前記混合水溶液と、エタノール及び/又はメタノールと、を混合してエマルジョンとする第2工程と、前記エマルジョン中に存在する分散粒子の表面にゾルゲル法で無機皮膜を形成させる第3工程と、前記無機皮膜が形成された分散粒子に内包されている溶液を溶出させる第4工程とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の中空無機粒子の製造方法では、まず第1工程としてポリアクリル酸と該ポリアクリル酸に存在するカルボキシ基の当量以上のアンモニアとを含む水溶液にアルコールを添加して混合水溶液とする。この混合水溶液は均一な溶液であってエマルジョンは形成されていない。次に第2工程として、この混合水溶液と、エタノール及び/又はメタノールと、を混合してエマルジョンを形成させる。さらに第3工程としてエマルジョン中に存在する分散粒子の表面にゾルゲル法で無機皮膜を形成させる。最後に第4工程として無機皮膜が形成された分散粒子に内包されている溶液を溶出させる。
こうして得られた中空無機粒子は、第1工程において用いるアルコールの種類やその添加量割合を制御したり、ポリアクリル酸の分子量や添加量を制御したりすることにより、次の1)~3)に示す中空無粒子を製造することができる。
1)中空無機粒子どうしが結合して連鎖状態とされている連鎖状中空無機粒子。2)隣接する中空無機粒子の中空部分が連通してチューブ状になった連鎖状中空無機粒子。
3)単一の中空無機粒子が連結せずに独立して分散した中空無機粒子。
【0008】
第1発明における第1工程において添加されるアルコールは、多価アルコールとすることができる。発明者らの試験結果によれば、多価アルコールを用いることによって、得られる中空無機粒子の形状の制御がし易くなり、中空無機粒子どうしが結合して連鎖状態とされている連鎖状中空無機粒子を容易に調製することができる。また、さらに中空無機粒子の形状を制御し易くするという観点から、多価アルコールはエチレングリコール、グリセリン及びポリビニルアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましく、最も好ましいのはエチレングリコールである。
【0009】
ポリアクリル酸の数平均分子量は1000以上50000以下であることが好ましい。発明者らの試験結果によれば、ポリアクリル酸の数平均分子量が1000以上50000以下の範囲であれば、容易に中空無機粒子の形状を制御できる。特に好ましいのは5000以上25000以下の範囲である。
【0010】
また、無機皮膜はSiO2,TiO2,及びZrO2のいずれかとすることができる。これらの無機皮膜はゾルゲル法により、容易に形成させることができる。
【0011】
第2発明の中空無機粒子の製造方法は、ポリアクリル酸と該ポリアクリル酸のモル数以上のアンモニアとを含む水溶液を調製する第1工程と、前記水溶液と、エタノールに多価アルコールが添加されたアルコール混合液と、を混合してエマルジョンとする第2工程と、前記エマルジョン中に存在する分散粒子の表面にゾルゲル法で無機皮膜を形成させる第3工程と、前記無機皮膜が形成された分散粒子に内包されている溶液を溶出させる第4工程と、を備えることを特徴とすると。
【0012】
第2発明の中空無機粒子の製造方法では、まず第1工程としてポリアクリル酸と、該ポリアクリル酸に存在するカルボキシ基の当量以上のアンモニアと、を含む水溶液を調製する。この水溶液は均一な溶液であってエマルジョンは形成されていない。次に第2工程として、この水溶液と、エタノールに多価アルコールが添加されたアルコール混合液とを混合してエマルジョンを形成させる。さらに第3工程としてエマルジョン中に存在する分散粒子の表面にゾルゲル法で無機皮膜を形成させる。最後に第4工程として無機皮膜が形成された分散粒子に内包されている溶液を溶出させる。
こうして得られた中空無機粒子は、第2工程において用いた多価アルコールの割合を制御することにより、中空無機粒子どうしが結合することなく独立して分散した中空無機粒子とすることができる。
【0013】
また、第2発明においても、無機皮膜はSiO2,TiO2,及びZrO2のいずれかとすることができる。これらの無機皮膜はゾルゲル法により、容易に形成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1発明の中空無機粒子の製造方法を示した工程図である。
図2】第1発明おいて中空無機粒子が形成される過程を示した模式図である。
図3】中空部分が連通状態とはなっていない連鎖状中空無機粒子(a)、中空部分が連通状態となった連鎖状中空無機粒子(b)、及び中空無機粒子どうしが結合せず独立して分散した中空無機粒子(c)を示す断面模式図である。
図4】第2発明の中空無機粒子の製造方法を示した工程図である。
図5】第2発明おいて中空無機粒子が形成される過程を示した模式図である。
図6】第1発明の中空シリカ粒子の製造方法においてエチレングリコールの添加量を変化させた場合の中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図7】第1発明の中空シリカ粒子の製造方法においてエチレングリコールの添加量を変化させた場合の中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真(右側)及びその模式図(左側)である。
図8】第1発明の中空シリカ粒子の製造方法においてエタノールの添加量を変化させた場合の中空無機粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図9】中空シリカ粒子同士が連鎖状態となった実施例11の連鎖状中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図10】第1発明の中空シリカ粒子の製造方法においてグリセリンの添加量を変化させた場合の中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図11】中空シリカ粒子同士が連鎖状態となった実施例15の連鎖状中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図12】第1発明の中空シリカ粒子の製造方法においてメタノールの添加量を変化させた場合の中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図13】中空シリカ粒子同士が連鎖状態となった実施例18の連鎖状中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図14】第1発明の中空シリカ粒子の製造方法においてポリアクリル酸の添加量を変化させた場合の中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図15】第1発明の中空シリカ粒子の製造方法においてエチレングリコールの添加量を変化させた場合の中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図16】第1発明の中空シリカ粒子の製造方法においてポリビニルアルコールの添加量を変化させた場合の中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図17】第1発明の中空シリカ粒子の製造方法において第2工程において用いる分散媒としてエタノールの替わりにメタノールを用いた場合の中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
図18】第2発明の中空シリカ粒子の製造方法において調製された中空シリカ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面を参照しつつ説明する。
<第1発明の中空無機粒子の製造方法>
・第1工程S1
図1は、第1発明の中空無機粒子の製造方法の工程図である。まず、第1工程S1としてポリアクリル酸水溶液にアンモニア水を加える。アンモニア水の添加量はポリアクリル酸に存在するカルボキシ基の当量以上とする。すなわち、水溶液はアンモニアがカルボキシ基に比べて過剰となっており、アルカリ性の水溶液となる。
【0016】
・第2工程S2
次に第2工程S2として、第1工程S1で得た混合水溶液とエタノールとを混合する。この混合液は図2(a)に示すようにポリアクリル酸に対して貧溶媒となるエタノール1中に、ポリアクリル酸2を含む水溶液が微小の液滴3となって分散されたエマルジョン状態となる。液滴3の表面はアンモニウムイオンによって表面電荷がプラス側の荷電コロイドとなって、コロイド分散を安定化していると推定される。
【0017】
・第3工程S3
さらに第3工程S3として、エマルジョン中に存在する分散粒子の表面にゾルゲル法で無機皮膜4を形成させる(図2(b)参照)。ゾルゲル法とは、ケイ素やチタンやジルコニウムのアルコキシドを加水分解し、重合させることにより、分散粒子表面にSiO2やTiO2やZrO2の無機酸化皮膜を形成させる技術をいう。図1ではテトラエトキシシラン(TEOS)を用いて分散粒子表面にSiO2皮膜を形成しているが、TEOSの代わりに別のアルコキシシランを用いてもよい。また、チタン酸テトライソプロポキシド等のチタンのアルコキシドを用いてTiO2皮膜を形成させたり、ジルコニウムテトラプロポキシド等のジルコニウムのアルコキシドを用いてZrO2皮膜を形成させたりすることもできる。
【0018】
・第4工程S4
最後に第4工程S4として無機皮膜4が形成された分散粒子に内包されている溶液を溶出させて中空部5を有する無機粒子6を得る(図2(c)参照)。無機粒子6に内包されている溶液を溶出させる方法としては、遠心分離したり、放置して沈殿させたりした後、多量の水7の中に入れればよい。また、さらに無機粒子6の分離回収、水7への投入を繰り返すことにより、無機粒子6に内包されている溶液の溶出を確実に行うことができる。
【0019】
上記の中空無機粒子の製造方法では、第1工程において用いたアルコールの種類や混合割合やポリアクリル酸の分子量を制御することにより、中空無機粒子どうしが結合して連鎖状態とされている連鎖状中空無機粒子としたり(図3(a)参照)、さらに、その連鎖状中空無機粒子の中空部分が連通してチューブ状となったり(図3(b)参照)、中空無機粒子どうしが結合せず独立して分散した中空無機粒子としたり(図3(c)参照)することが可能となる。第1発明において連鎖状中空無機粒子が形成されるメカニズムについては、明確にはなっていないが、次のように推定される。
第2工程S2として混合水溶液とエタノールとを混合した場合、図2(a)に示すように、ポリアクリル酸に対して貧溶媒となるエタノール1中に、ポリアクリル酸2を含む水溶液が微小の液滴3となって分散されたエマルジョン状態となる。この液滴3中には第1工程において添加したアルコールも含まれているため、液滴3の表面張力が添加されたアルコールによって低下する。このため、液滴3どうしが接合し易くなり、連鎖状に連結する。
【0020】
第1発明における第1工程において添加されるアルコールは、多価アルコールとすることができる。発明者らの試験結果によれば、多価アルコールを用いることによって、得られる中空無機粒子の形状を制御しやすくなり、中空無機粒子どうしが結合して連鎖状態とされている連鎖状中空無機粒子を容易に調製することができる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、グリセリン及びポリビニルアルコールからなる群より選ばれた少なくとも1種以上をもちいることができるが、最も好ましいのはエチレングリコールである。
【0021】
<第2発明の中空無機粒子の製造方法>
・第1工程S5
第2発明の中空無機粒子の製造方法の工程図を図4に示す。まず、第1工程S5としてポリアクリル酸にアンモニア水を加える。アンモニア水の添加量はポリアクリル酸に存在するカルボキシ基の当量以上とする。すなわち、水溶液はアンモニアがカルボキシ基に比べて過剰となっており、アルカリ性の水溶液となる。ただし、前述した第1発明とは異なり、第1工程S5においてアルコールを添加することはない。
【0022】
・第2工程S6
次に第2工程S6として、エタノール(あるいはメタノール)に多価アルコール(例えばエチレングリコールやグリセリン)を添加した混合溶液を用意し、この混合溶液と第1工程で調整したポリアクリル酸とアンモニアの混合水溶液とを混合する。これにより、図5(a)に示すように、混合液はポリアクリル酸に対して貧溶媒となるエタノール及び多価アルコールの混合溶液11中にポリアクリル酸12を含む水溶液が微小の液滴13となって分散されたエマルジョン状態となる。液滴13の表面はアンモニウムイオンによって表面電荷がプラス側の荷電コロイドとなって、コロイド分散を安定化していると考えられる。
【0023】
・第3工程S7
さらに第3工程S7として、エマルジョン中に存在する分散粒子の表面にゾルゲル法で無機皮膜14を形成させる(図5(b)参照)。
【0024】
・第4工程S8
最後に第4工程S8として無機皮膜14が形成された分散粒子に内包されている溶液を溶出させて中空部15を有する無機粒子16を得る(図5(c)参照)。分散粒子に内包されている溶液を溶出させる方法としては、無機粒子16を遠心分離したり、放置して沈殿させたりして回収した後、多量の水17の中に入れればよい。こうして得られた中空無機粒子16は、第2工程S6において用いた多価アルコールの種類や混合割合等を制御することにより、独立して分散した中空無機粒子とすることが可能となる(図3(c)参照)。そのメカニズムについては、明確にはなっていないが、次のように推定される。
第1工程S5において調製されたポリアクリル酸とアンモニアとの水溶液は、第2工程S6においてエタノール及び多価アルコールとの混合溶液中に分散させてエマルジョンとした場合、図5(a)に示すように、ポリアクリル酸に対して貧溶媒となるエタノール1中に、ポリアクリル酸2を含む水溶液が微小の液滴3となって分散されたエマルジョン状態となる。ただし、第1発明の場合とは異なり、多価アルコールは液滴3中ではなく、液滴3を取り囲みポリアクリル酸に対して貧溶媒となる混合溶液11中に存在することとなる。この時、混合溶液11中の多価アルコールが液滴3に吸着して保護コロイドの役割を果たし、その結果、独立して分散した中空無機粒子となるのである。
【実施例
【0025】
以下、本発明を具体化した実施例について、詳細に説明する。
<第1発明に関する実施例>
(実施例1~8)
・第1工程
0.12gのポリアクリル酸(PAA) 25重量%水溶液(富士フィルム和光純薬株式会社製 数平均分子量M=25,000)を2.0mlの25%アンモニア水溶液と混合し、24時間撹拌してポリアクリル酸/アンモニア水混合溶液を調製した後、エチレングリコール(富士フィルム和光純薬株式会社製)を所定量(実施例1では0.2ml,実施例2では0.5ml,実施例3では1.0ml,実施例4では1.5ml, 実施例5では2.0ml,実施例6では3.0ml,実施例7では1.0ml,実施例8では5.0ml)添加し、2分撹拌してポリアクリル酸/アンモニア水/エチレングリコール混合溶液を調製した。なお比較例1ではエチレングリコールを添加しなかった。その他については実施例1~8と同様であり、説明を省略する。
【0026】
・第2工程
第1工程で得られたポリアクリル酸/アンモニア水/エチレングリコール混合溶液を35mlのエタノール中に添加し、撹拌することにより,エマルジョンを得た。
・第3工程
第2工程で得られたエマルジョンを2分間撹拌後,2mlのテトラエトキシシラン(TEOS)(富士フィルム和光純薬株式会社製)を40 μL/minの速度で添加し,一日撹拌した。
・第4工程
第3工程で得られたエマルジョンを得られた溶液を10分間15,000rpmで冷却/高速遠心機(H-9R,株式会社コクサン)を用いて固液分離し、粉体を得た。この粉末を水で洗浄した後,180℃で24時間乾燥させた粉末を走査型電子顕微鏡によって観察した。
【0027】
結果を図6及び図7に示す。これらの図から、エチレングリコールの添加量が0mlでは中空シリカ粒子が単独で分散しているが(比較例1)、エチレングリコールの添加量を多くしていくと、徐々に中空シリカ粒子同士が連鎖状態となった連鎖状中空シリカ粒子となり(実施例2~4)、さらにエチレングリコールの添加量を多くしていくと、隣接する中空シリカ粒子の中空部分が連通したチューブ状の連鎖状中空シリカ粒子(実施例5~8)となることが分かった(図7の左側に示した模式図参照)。
【0028】
(実施例9~13)
実施例9~13では、実施例1~8における第1工程で添加したエチレングリコールに替えてエタノールを添加した。エタノールの添加量は実施例9では0.5ml,実施例10では0.9ml,実施例11では1.0ml,実施例12では1.2ml, 実施例13では2.0mlとした。なお比較例2ではエタノールを添加しなかった。その他については実施例1~8と同様であり説明を省略する。
【0029】
結果を図8及び図9に示す。これらの図から、エタノールを添加しなかった比較例2では中空シリカ粒子が単独で分散しているが、エタノールの添加量を多くしていくと、徐々に中空シリカ粒子同士が連鎖状態となった連鎖状中空シリカ粒子となり(実施例9~12)、さらにエタノールの添加量を多くしていくと、再び中空シリカ粒子が単独で分散している状態となる(ただし、中空シリカ粒子の壁厚は厚くなり、中空部分の径は小さくなる)ことが分かった(実施例13)。
【0030】
(実施例14~16)
実施例14~16では、実施例1~8における第1工程で添加したエチレングリコールに替えてグリセリンを添加した。グリセリンの添加量は実施例14では0.5ml,実施例15では1.0ml,実施例16では3.0mlとした。なお、比較例3ではグリセリンを添加しなかった。その他については実施例1~8と同様であり説明を省略する。
【0031】
結果を図10及び図11に示す。これらの図から、グリセリンを添加しなかった比較例3では中空シリカ粒子が単独で分散しているが、グリセリンの添加量を多くしていくと、徐々に中空シリカ粒子同士が連鎖状態となった連鎖状中空シリカ粒子となった(実施例14~16)。ただし、グリセリンの添加量が3.0mlと最も多い実施例16では、連鎖状中空シリカ粒子の壁厚は厚くなり、中空部分の径は小さくなった(実施例16参照)。
【0032】
(実施例17~20)
実施例17~20では、実施例1~8における第1工程で添加したエチレングリコールに替えてメタノールを添加した。メタノールの添加量は実施例17では0.5ml,実施例18では1.0ml,実施例19では2.0ml,実施例20では3.0mlとした。なお、比較例4ではメタノールを添加しなかった。その他については実施例1~8と同様であり説明を省略する。
【0033】
結果を図12及び図13に示す。これらの図から、メタノールを添加しなかった比較例4では中空シリカ粒子が単独で分散しているが、メタノールの添加量を多くしていくと、徐々に中空シリカ粒子同士が連鎖状態となった連鎖状中空シリカ粒子となり(実施例17、18)、さらにメタノールの添加量を多くしていくと、連鎖状から単独の分散した粒径の大きな中空シリカ粒となることが分かった(実施例19、20参照)。
【0034】
(実施例21~23)
実施例21~23では、ポリアクリル酸(PAA) 25重量%水溶液(富士フィルム和光純薬株式会社製 数平均分子量M=25,000)の添加量を変化させ(実施例21では0.04g、実施例22では0.06g、実施例23では0.08g)、その他の条件は実施例11と同様(すなわち第1工程においてエタノール1.0mlを添加)とした。
【0035】
結果を図14に示す。この図から、第1工程においてポリアクリル酸(PAA)の添加量が0.04g~0.08gの範囲において、中空シリカ粒子同士が連鎖状態となった連鎖状中空シリカ粒子となることが分かった。
【0036】
(実施例24~27)
実施例24~27では、ポリアクリル酸(PAA)の数平均分子量を5,000のものを使用し、第1工程において添加するアルコールをエチレングリコールとした。エチレングリコールの添加量は実施例24では2.0ml、実施例25では4.0ml、実施例26では7.0ml、実施例27では10.0mlとした。その他の条件は実施例1~8と同様であり説明を省略する。
【0037】
結果を図15に示す。図15中に記載された形状の欄における「チェーン状」とは、中空シリカ粒子どうしが結合して連鎖状態とされている連鎖状中空シリカ粒子であることを示す。また「チューブ状」とは、隣接する中空シリカ粒子の中空部分が連通している連鎖状中空無機粒子であることを示す。この図から、ポリアクリル酸(PAA)の数平均分子量について、実施例1~8で用いた25,000よりも小さい5,000のものを用いても、中空シリカ粒子同士が連鎖状態となった連鎖状中空シリカ粒子となることが分かった。また、エチレングリコールの添加量を増やしていくと、隣接する中空シリカ粒子の中空部分が連通している連鎖状中空シリカ粒子となることが分かった。
【0038】
(実施例28~30)
実施例28~30では、第1工程で添加するアルコールを数平均分子量5,000のポリビニルアルコール(PVA)(富士フィルム和光純薬株式会社製)とし、添加量は実施例28では2 ml、実施例29では3 ml、実施例30では4 ml、とした。その他については実施例1~8と同様であり説明を省略する。
【0039】
結果を図16に示す。これらの図から、第1工程において用いるアルコールとしてPVAを用いた場合、添加量が少ない実施例28において中空シリカ粒子同士が連鎖状態となった連鎖状中空シリカ粒子となることが分かった。ただし、PVAの添加量を増やした場合には、粒子径の大きな単独の中空シリカ粒子となり、その膜厚も厚いものとなった(図16における実施例29、30参照)。
【0040】
(実施例31~34)
実施例31~34では、第2工程において用いるエマルジョンの分散媒としてメタノールを用いた。また、第1工程で添加するアルコールはエチレングリコール2mlとし、撹拌時間を実施例31では1分間、実施例32では2分間、実施例33では5分間、実施例34では10分間とした。その他については実施例1~8と同様であり説明を省略する。
【0041】
結果を図17に示す。これらの図から、第2工程において用いる分散媒としてエタノールの替わりにメタノールを用いても、中空シリカ粒子同士が連鎖状態となったチューブ状の連鎖状中空シリカ粒子となることが分かった。
<第2発明に関する実施例>
(実施例35~37)
・第1工程
0.12gのポリアクリル酸(PAA) 25重量%水溶液(富士フィルム和光純薬株式会社製 数平均分子量M=5,000)を2.0mlの25%アンモニア水溶液と混合し、24時間撹拌してポリアクリル酸/ンモニア水混合溶液を調製した。
・第2工程
35mlのエタノールにエチレングリコールを所定量(実施例35では1ml、実施例36では2ml、実施例37では10ml)添加し,一日撹拌してエタノール/エチレングリコール混合溶液とした。このエタノール/エチレングリコール混合溶液に第1工程で調製したポリアクリル酸/アンモニア水混合溶液を添加し撹拌することにより、エマルジョンを得た。
・第3工程
第2工程で得られたエマルジョンを2分間撹拌後,2mlのテトラエトキシシラン(TEOS)(富士フィルム和光純薬株式会社製)を40μL/minの速度で添加し,一日撹拌した。
・第4工程
第3工程で得られた反応液を10分間15,000rpmで冷却/高速遠心機(H-9R,株式会社コクサン)を用いて固液分離し、粉体を得た。この粉末を水で洗浄した後,180℃で24時間乾燥させた粉末を走査型電子顕微鏡によって観察した。
【0042】
結果を図18に示す。これらの図から、エチレングリコールの添加量が増加していくにつれて、中空シリカ粒子どうしが凝集することなく互いに離れて単独で分散することが分かった。
【0043】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の中空無機粒子の製造方法を用いれば、中空無機粒子どうしが結合して連鎖状態とされている連鎖状中空無機粒子を製造することができる。中空無機粒子は中実粒子とは異なる断熱性、誘電率、光学的特性を有するが、これが連鎖状態となった連鎖状中空無機粒子であれば、これらの特性に加え異方性を付与することができる。このため、LED用の導光板、放熱異方性材料、電気的な異方性材料等、機能的な異方性材料を提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…エタノール,2…ポリアクリル酸,3…液滴,4…無機皮膜
5…中空部,6…無機粒子,7…水
11…混合溶液,12…ポリアクリル酸,13…液滴,14…無機皮膜,
15…中空部,16…無機粒子,17…水
S1,S5…第1工程
S2,S6…第2工程
S3,S7…第3工程
S4,S8…第4工程
図1
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