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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】評価装置、評価方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/04 20230101AFI20241105BHJP
   G06Q 10/20 20230101ALI20241105BHJP
【FI】
G06Q10/04
G06Q10/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021156459
(22)【出願日】2021-09-27
(65)【公開番号】P2023047509
(43)【公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】安田 宜仁
(72)【発明者】
【氏名】西野 正彬
(72)【発明者】
【氏名】川原 純
(72)【発明者】
【氏名】湊 真一
【審査官】渡邉 加寿磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-206031(JP,A)
【文献】特開2019-33619(JP,A)
【文献】西野 正彬,”コミュニケーション科学のさらなる深化 二分決定グラフを用いたネットワーク信頼性最適化法”,NTT技術ジャーナル,日本,一般社団法人電気通信協会,2018年09月01日,第30巻第9号,p.16-19,ISSN:0915-2318
【文献】伊藤 華 ,”ZDDのトップダウン構築における変数順序付け法の実験と考察”,FIT2015 第14回情報科学技術フォーラム 講演論文集 第1分冊 査読付き論文・一般論文 モデル・アルゴリズム・プログラミング ソフトウェア ハードウェア・アーキテクチャ Forum on Information Technology 2015,日本,一般社団法人情報処理学会、一般社団法人電子情報通信学会,2015年08月24日,p.115-116
【文献】鈴木 浩史,”頂点誘導部分グラフを列挙索引化するフロンティア法”,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2015年04月16日,第115巻第15号,p.15-20,ISSN:0913-5685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給元から所定の経路を介して供給先へ資源を供給するための供給ネットワークの可用性を評価する評価装置であって、
ゼロサプレス型二分決定グラフにおいて、前記供給元を根ノード、前記供給先を所定のノード、及び前記所定の経路を所定のリンクとし、
前記ゼロサプレス型二分決定グラフにおいて制約条件を満たす全ての組合せを表現したゼロサプレス型二分決定グラフを示す第1の情報、及び前記制約条件を満たす前記供給ネットワークの内容を示す供給ネットワーク情報に基づいて、所定数のノードが前記根ノードと連結するような全てのリンクの選び方を表現したゼロサプレス型二分決定グラフを示す第2の情報を計算すると共に、前記第1の情報及び前記第2の情報の共同集合を表現したゼロサプレス型二分決定グラフを示す第3の情報を計算する指定被覆数列挙手段と、
前記第3の情報に基づき、当該第3の情報に係るゼロサプレス型二分決定グラフ内の各組合せについて、当該組合せに含まれていないリンクの全てを任意とした組合せを表現したゼロサプレス型二分決定グラフを示す第4の情報を計算する指定被覆包含列挙手段と、
前記第4の情報、及び前記所定のリンクの故障確率に基づいて、前記第4の情報に係るゼロサプレス型二分決定グラフ中の前記根ノードから前記供給先に係る前記所定のノードまでのパスが少なくとも一本存在する確率を計算する確率計算手段と、
充足数1から総ノード数までにつき、前記第3の情報、前記第4の情報、及び前記確率を示す情報を用いて、前記供給ネットワークにおける需要の充足率を計算する充足率計算手段と、
を有することを特徴とする評価装置。
【請求項2】
指定被覆数列挙手段は、フロンティア法を用いて、前記第2の情報を計算することを特徴とする請求項に記載の評価装置。
【請求項3】
指定被覆包含列挙手段は、前記ゼロサプレス型二分決定グラフの標準演算として備わるRestrict演算を用いて、前記第4の情報を計算することを特徴とする請求項に記載の評価装置。
【請求項4】
前記確率計算手段は、前記所定のノードに対応する値を1に初期化し、前記根ノードに向かって下から順に各ノードに対応する値を2つの子ノードに対応する値から自ノードの値を更新する動的計画法を用いて、前記確率を計算することを特徴とする請求項に記載の評価装置。
【請求項5】
前記制約条件は、前記供給ネットワーク内で前記資源が供給されない経路の存在を示すことを特徴とする請求項に記載の評価装置。
【請求項6】
供給元から所定の経路を介して供給先へ資源を供給するための供給ネットワークの可用性を評価する評価装置が実行する評価方法であって、
ゼロサプレス型二分決定グラフにおいて、前記供給元を根ノード、前記供給先を所定のノード、及び前記所定の経路を所定のリンクとし、
前記ゼロサプレス型二分決定グラフにおいて制約条件を満たす全ての組合せを表現したゼロサプレス型二分決定グラフを示す第1の情報、及び前記制約条件を満たす前記供給ネットワークの内容を示す供給ネットワーク情報に基づいて、所定数のノードが前記根ノードと連結するような全てのリンクの選び方を表現したゼロサプレス型二分決定グラフを示す第2の情報を計算すると共に、前記第1の情報及び前記第2の情報の共同集合を表現したゼロサプレス型二分決定グラフを示す第3の情報を計算する指定被覆数列挙処理と、
前記第3の情報に基づき、当該第3の情報に係るゼロサプレス型二分決定グラフ内の各組合せについて、当該組合せに含まれていないリンクの全てを任意とした組合せを表現したゼロサプレス型二分決定グラフを示す第4の情報を計算する指定被覆包含列挙処理と、
前記第4の情報、及び前記所定のリンクの故障確率に基づいて、前記第4の情報に係るゼロサプレス型二分決定グラフ中の前記根ノードから前記供給先に係る前記所定のノードまでのパスが少なくとも一本存在する確率を計算する確率計算処理と、
充足数1から総ノード数までにつき、前記第3の情報、前記第4の情報、及び前記確率を示す情報を用いて、前記供給ネットワークにおける需要の充足率を計算する充足率計算処理と、
を含む評価方法。
【請求項7】
コンピュータに、請求項6に記載の方法を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示内容は、評価装置、評価方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力配電網や水道管網等の供給ネットワークでは、通常時であれば供給元(変電所や浄水場)から全ての需要者である供給先(家庭や事業者)に途中で途切れることなく接続され運用されている。そして、電線の切断や水道管の破損等が発生した障害発生時の場合、即座に障害発生個所を修復できないときには、運用者は障害箇所を迂回するよう供給の経路を変更し、なるべく多くの需要を満たすことが求められる。どれほどの需要を満たせるかどうかは障害箇所と、迂回路の性質に依存する。例えば、構築されている設備では多くの需要者が供給先まで唯一の経路しか持たないような場合、設備の構成をどう変更したとしても需要をあまり満たせないことが想定される。そこで、現在構築されている設備が障害に対してどれくらいの需要を満たすことが期待できるかを示す充足率を評価する必要がある。このような期待される需要の充足率(どれだけの需要を満たすことができているか)を都市計画等に利用すれば、通常時から充足率を上げるような設備の増改築を行うことで、障害発生時にできるだけ多くの需要を満たすことができる。
【0003】
ところで、一般に、電力配電網や水道管網などの供給ネットワークは、複数の点(ノード)を結ぶ線(リンク)からなる抽象的なネットワーク(グラフ)として表現することができる。例えば、実世界の供給ネットワークが電力配電網の場合、ノードに電力配電網における切替器(及び需要者)を対応させると共に、リンクを電線に対応させることができる。また、実世界の供給ネットワークが水道管網の場合、ノードに水道管の分岐点を対応させると共に、リンクに水道管を対応させることができる。この場合、需要者はノードの重み(重要度)又はリンクの重み(重要度)としてとらえることができる。
【0004】
また、一般的に供給方法は、電力配電網や水道管網等の設備ごとに制約があり、供給元からの任意の接続方法が許容されるわけではない。例えば、電力配電網の場合には、変電所から供給された電力が元の変電所に戻るようなループを含まない供給方法が実行される(言い換えると、供給元を根とする森になっている)のが通例である。
【0005】
そこで、各ノード又はリンクに需要者を持つような抽象的なネットワークを用い、リンク障害が一定の確率下で起きると仮定した場合に、満たすべき制約を守りながら、なるべく多くの需要を満たす努力をした場合の充足率を計算することが求められている。
【0006】
具体的には、以下の4つの事象を考慮することで、充足率を求めることができる。
(1)計算上の抽象的なネットワークは、実世界の設備全体である供給ネットワークに対応する。
(2)抽象的なネットワークのうち、制約を満たすような部分ネットワークの選び方は、制約を満たす供給方法に対応する。
(3)計算上のリンクごとの故障確率は、実世界の電線が切れる確率又は水道管が破損する確率に対応する。なお、故障確率は、1本の電線毎及び1管の水道管毎に独立である。
(4)ノードの重み又はリンクの重みは、需要の大きさに対応する。
【0007】
また、充足率の評価方法として、二分決定グラフ(Binary Decision Diagram; BDD)や後述のゼロサプレス型二分決定グラフ(Zero-suppressed Decision Diagram; ZDD)と呼ばれるデータ構造を用いることが考えられる(非特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】今井浩: "ネットワークシステムの信頼性の定量的評価法 : 枝故障に対する連結性保持の信頼度計算法", オペレーションズ・リサーチ: 経営の科学, Jul, 48-7, pp 467 - 471, 日本オペレーションズ・リサーチ学会, 2003
【文献】西野正彬, 井上武, 安田宜仁, 湊真一, 永田昌明: "二分決定グラフを用いたネットワーク信頼性最適化法", NTT技術ジャーナル, Sep., 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、故障は複数個所で同時に発生することもあり、故障の発生パターンは、抽象的なネットワーク中のリンク数に対して指数的に大きくなる。更に、制約を満たす全ての供給方法も指数的な数が存在するため、これらを明示的に個別に計算することは、実存する計算機で実用的な時間内では行えないという課題があった。
【0010】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、実存する計算機を用いたとしても現実的な時間で需要の充足率を計算することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、供給元から所定の経路を介して供給先へ資源を供給するための供給ネットワークの可用性を評価する評価装置であって、ゼロサプレス型二分決定グラフにおいて、前記供給元を根ノード、前記供給先を所定のノード、及び前記所定の経路を所定のリンクとし、前記ゼロサプレス型二分決定グラフにおいて制約条件を満たす全ての組合せを表現したゼロサプレス型二分決定グラフを示す第1の情報、及び前記制約条件を満たす前記供給ネットワークの内容を示す供給ネットワーク情報に基づいて、所定数のノードが前記根ノードと連結するような全てのリンクの選び方を表現したゼロサプレス型二分決定グラフを示す第2の情報を計算すると共に、前記第1の情報及び前記第2の情報の共同集合を表現したゼロサプレス型二分決定グラフを示す第3の情報を計算する指定被覆数列挙手段と、前記第3の情報に基づき、当該第3の情報に係るゼロサプレス型二分決定グラフ内の各組合せについて、当該組合せに含まれていないリンクの全てを任意とした組合せを表現したゼロサプレス型二分決定グラフを示す第4の情報を計算する指定被覆包含列挙手段と、前記第4の情報、及び前記所定のリンクの故障確率に基づいて、前記第4の情報に係るゼロサプレス型二分決定グラフ中の前記根ノードから前記供給先に係る前記所定のノードまでのパスが少なくとも一本存在する確率を計算する確率計算手段と、充足数1から総ノード数までにつき、前記第3の情報、前記第4の情報、及び前記確率を示す情報を用いて、前記供給ネットワークにおける需要の充足率を計算する充足率計算手段と、を有することを特徴とする評価装置である。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、膨大な故障パターンをコンパクトに表現したデータ構造を用いて、個別の故障パターンについての明示的な計算を行うことなく充足率の計算を行うことができるため、実存する計算機を用いたとしても大きなネットワークに対して現実的な時間で充足率を計算することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の評価装置の電気的なハードウェア構成図である。
図2】評価装置の機能ブロック図である。
図3】リンク故障確率のデータを示す概念図である。
図4】実世界の供給ネットワークにおける需要の充足率を計算する処理を示す図である。
図5】疑似コードを示した図である。
図6】実世界の供給ネットワークをノード及びリンクによって表した抽象的なネットワークを示す図である。
図7】実世界の供給ネットワークにおいて実際の運用を行う場合において、ノード及びリンクによって表した抽象的なネットワークを示す図である。
図8】リンクの使用の可否を示す現実的な組み合わせを示した図である。
図9図7に示す運用状態をゼロサプレス型二分決定グラフで示した図である。
図10図9のゼロサプレス型二分決定グラフにおいて特定の経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
【0015】
〔実施形態の概略〕
まず、本実施形態の評価装置の概略について説明する。
【0016】
本実施形態の評価装置5は、電力配電網や水道管網等のような実世界の供給ネットワークの可用性を評価する。電力配電網は、変電所等の供給元から電線を介して家庭等の各供給先に電力を供給するための供給ネットワークである。また、水道管網は、浄水場等の供給元から水道管網を介して家庭等の各供給先に水を供給するための供給ネットワークである。
【0017】
特に、本実施形態の評価装置5は、ゼロサプレス型二分決定グラフ(以下、「ZDD」と示す)を用いて、電線の切断や水道管の破損等の障害発生時にであっても、供給元から接続されている範囲においては供給が可能な供給ネットワークの可用性を評価する。
【0018】
〔評価装置のハードウェア構成〕
次に、図1を用いて、評価装置5の電気的なハードウェア構成を説明する。図1は、本実施形態の評価装置の電気的なハードウェア構成図である。
【0019】
評価装置5は、PC(パーソナルコンピュータ)として、図1に示されているように、CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、RAM(Random Access Memory)503、SSD(Solid State Drive)504、ディスプレイ505、キーボード506、外部機器I/F507、ネットワークI/F508、メディアI/F509、及びバスライン510を備えている。
【0020】
これらのうち、CPU501は、評価装置5全体の動作を制御する。ROM502は、IPL(Initial Program Loader)等のCPU501の駆動に用いられるプログラムを記憶する。RAM503は、CPU501のワークエリアとして使用される。
【0021】
SSD504は、CPU501の制御にしたがって、評価装置5のプログラム等の各種データの読み出し又は書き込みを行う記憶装置である。なお、SSDではなく、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であってもよい。
【0022】
ディスプレイ505は、文字や画像等を表示する液晶や有機EL(Electro Luminescence)などの表示手段の一種である。
【0023】
キーボード506は、文字、数値、各種指示などの入力のための複数のキーを備えた入力手段の一種である。
【0024】
外部機器I/F507は、各種の外部機器を接続するためのインターフェースである。この場合の外部機器は、表示手段の一例としての外付けのディスプレイ、入力手段の一例としてのマウス、外付けのキーボード、又はマイク、及び出力手段の一例としてのプリンタ又はスピーカ、記憶手段の一例としてのUSB(Universal Serial Bus)メモリ等である。
【0025】
ネットワークI/F508は、インターネットを介して、他の評価装置とデータ等を送受信するための回路である。
【0026】
メディアI/F509は、フラッシュメモリ等の記録メディア509mに対するデータの読み出し又は書き込み(記憶)を制御する。記録メディア509mには、DVD(Digital Versatile Disc)やBlu-ray Disc(登録商標)等も含まれる。
【0027】
バスライン510は、図1に示されているCPU501等の各構成要素を電気的に接続するためのアドレスバスやデータバス等である。
【0028】
〔評価装置の機能構成〕
続いて、図2及び図3を用いて、評価装置5の機能構成について説明する。図2は、評価装置の機能ブロック図である。図2に示されているように、評価装置5は、充足率計算部50、指定被覆数列挙部51、指定被覆包含列挙部52、及び確率計算部53を有する。これら各部は、プログラムに基づき図1のCPU501による命令によって実現される機能である。
【0029】
これらのうち、充足率計算部50は、全体として大きなループ処理の役割を果たし、指定被覆数列挙部51、指定被覆包含列挙部52、及び確率計算部53に対して、供給元から供給先までのノード数n(n:整数)を送ると共に、指定被覆数列挙部51、指定被覆包含列挙部52及び確率計算部53から各処理結果を受け取る。即ち、充足率計算部50がメインルーチンの処理を行い、指定被覆数列挙部51、指定被覆包含列挙部52、及び確率計算部53がサブルーチンの処理を行う。例えば、充足率計算部50は、充足数1からZDD0で示される総ノード数までにつき、確率計算部53によって計算された確率を用いて供給ネットワークにおける需要の充足率を計算する。
【0030】
指定被覆数列挙部51は、外部から入力データとして、評価対象である特定の供給ネットワーク(以下、「NW」と示す)を示す情報、最初のゼロサプレス型二分決定グラフであるZDD0を取得し、更に充足率計算部50からノード数nを取得する。特定の供給ネットワーク(以下、「NW」と示す)を示す情報には、NWにおける各ノードを特定する情報及び各ノード間をつなぐリンクを特定する情報が含まれている。この各ノードを特定する情報には、供給元ノードを特定する供給元ノード特定情報も含まれている。例えば、NWを示す情報は、隣接行列によってノードの数だけの正方行列で示され、つながっているノードは「1」で示され、つながっていないノードは「0」で示される。更に、NWを示す情報には、供給元ノードを特定するための供給元ノード特定情報も含まれている。
【0031】
また、指定被覆数列挙部51は、取得したデータに基づいて、「制約条件を満たし、かつ、NW中のノードを丁度n個含むような組合せ」を全て列挙したZDD_F(n)を構築して出力する。ここで、整数nは充足することができるノード数に対応する。例えば、供給ネットワークが電力配電網の場合には、平常時には電力配電網として使用されないが、電線が切れたときに迂回路として使用される部分経路が含まれているため、制約条件は、このような部分経路を列挙対象から除くための情報を示す。
【0032】
指定被覆包含列挙部52は、充足率計算部50から取得したノード数n、及び指定被覆数列挙部51から取得したZDD_F(n)に基づいて、ZDD_F(n)内の各組合せについて、組合せに含まれていないアイテム(NWのリンク)を全て任意の組合せ、即ち、あってもなくても良いような全ての組合せを表現したZDDとして、ZDD_G(n)を構築する。これは、元のNWで見たときには、少なくともn個の供給先に供給可能な全ての構成を列挙していることに相当する。
【0033】
確率計算部53は、充足率計算部50から取得したノード数n、指定被覆包含列挙部52から取得したZDD_G(n)、及び外部からの入力データとして取得したアイテム(NWのリンク)ごとのリンク故障確率を示す情報に基づいて、ZDD_G(n)中の根ノードから、あり(真)の終端ノードまでのパスが少なくとも一本存在する確率p(n)を計算する。これは、ZDD_G(n)中の少なくとも1つの組合せが成立するかを意味しており、評価装置5全体に入力された制約条件において、n点以上の需要点を充足するような方法がある確率を計算することに相当する。図3は、リンク故障確率を示すデータの概念図である。ここでは、リンク毎に、故障確率(%)が示されている。
【0034】
なお、ZDD_G(n)自体は、従来から知られた方法を用いることができる。具体的には、確率計算部53は、あり(真)の終端ノードに対応する値を1に初期化し、根ノードに向かって下から順に各ノードに対応する値を2つの子ノードに対応する値から自ノードの値を更新する動的計画法により計算可能である。具体的な例としては、例えば、参考文献1に開示された方法などがある。
【0035】
参考文献1:https://github.com/takemaru/graphillion/wiki/Example-codes 中network reliability の節 (2021年3月28日取得)
〔実施形態の処理又は動作〕
続いて、図4乃至図10を用いて、本実施形態の処理又は動作について説明する。
【0036】
<評価方法>
まずは、図4及び図5を用いて、評価装置5が実行する評価方法について説明する。図4は、実世界の供給ネットワークにおける需要の充足率を計算する処理を示す図である。
【0037】
図4に示されているように、まず、指定被覆数列挙部51は、外部データとして、NW(供給元ノードを特定する供給元ノード特定情報を含む)の情報、及び制約条件を満たす全ての組合せを表現したZDD0を示す第1の情報を取得すると共に、充足率計算部50から、ノード数nを取得し、これらに基づいて、所定数のノードnが根ノードと連結するような全てのリンクの選び方を表現したZDD_Kを構築する(S11)。ZDD_Kを示す情報は、第2の情報である。より具体的には、指定被覆数列挙部51は、供給元ノードを1つ以上含み(供給元ノードが1つのみの場合は必ずそのノードを含み)、n個のノードがいずれかの供給元ノードと連結であるような全てのリンクの選び方を表現したZDDとしてZDD_K(n)を構築する。これは既存の手法を用いることができる。例えば、当業者に広く知られている「フロンティア法」と呼ばれる方法を用いて構築可能である。
【0038】
更に、指定被覆数列挙部51は、ZDD0を示す第1の情報、ZDD_K(n)を示す第2の情報の共通集合を表現したZDDとしてZDD_F(n)を計算する(S12)。ZDD_F(n)を示す情報は第3の情報である。そして、指定被覆数列挙部51は、このZDD_F(n)を示す第3の情報を充足率計算部50及び指定被覆包含列挙部52に対して出力する。共通集合の計算は、ZDDが標準演算として備える機能である。
【0039】
なお、本実施形態では、簡単のために、全てのノードが重み1(需要がそれぞれ1)として記述されているが、ノードの重みが整数値、又は、ノードではなくリンクの重みとする場合もほぼ同様な(当業者には対応可能な)変更で対応可能である。但し、重みが浮動小数点数である場合には、なんらかの離散化(たとえば全体を10000倍して小数点以下は無視するなど)が必要である。その場合、評価装置5より出力された値は小数点以下を無視するので厳密な期待充足率は算出できない。
【0040】
次に、指定被覆包含列挙部52は、充足率計算部50から取得したノード数nに基づき、NW中の全てのリンクを全て任意とした(べき集合を表現した)ZDDを構築する(S13)。これをZDD_Pとする。
【0041】
更に、指定被覆包含列挙部52は、ZDD_F(n)を示す第3の情報に対し、ZDDの標準演算として備わる「Restrict演算」を用いて、ZDD_P.Restrict(ZDD_F(n))を計算する(S14)。そして、指定被覆包含列挙部52は、このステップS14の結果を、ZDD_G(n)とし、このZDD_G(n)を示す第4の情報を充足率計算部50及び確率計算部53に対して出力する。なお、F.Restrict(G)は,Fに含まれる組合せのうち、G中の組合せを少なくとも1つ包含するような項だけから構成されるような全ての組合せを求める演算である。
【0042】
次に、確率計算部53は、充足率計算部50から取得したノード数n、指定被覆包含列挙部52から取得したZDD_G(n)を示す第4の情報、及び外部からの入力データとして取得したアイテム(NWのリンク)ごとの故障確率を示す情報に基づいて、ZDD_G(n)中の根ノードから、あり(真)の終端ノードまでのパスが少なくとも一本存在する確率を計算する(S15)。
【0043】
次に、充足率計算部50は、充足数1から総ノード数N(NWの総ノード数)までについて、指定被覆数列挙部51、指定被覆包含列挙部52、及び確率計算部53の各処理結果を用いて、「各値以上に供給できる確率」p(n)を求め、それらを用いて、充足率計算を行う(S16)。
【0044】
ここで、図5を用いて、ステップS16の処理を更に詳細に説明する。図5は、疑似コードを示した図である。なお、図5において、破線の矢印は、入力を意味する。
【0045】
ここで、破線の矢印で示されているように、充足率計算部50は、Cには0、for nには1 to N、ZDD_F(n)には指定被覆数列挙部51の処理結果、ZDD_G(n)には指定被覆包含列挙部52の処理結果p(n)には確率計算部53の処理結果をそれぞれ入力する。充足率計算部50は、こうして充足率を計算する(S16)。
【0046】
<具体例>
続いて、図6乃至図10を用いて、評価方法の具体例について説明する。
【0047】
図6は、実世界の供給ネットワークをノード及びリンクによって抽象的なネットワークを示す図である。図7は、実世界の供給ネットワークにおいて実際の運用を行う場合において、ノード及びリンクによって表した抽象的なネットワークを示す図である。
【0048】
図6において、リンクの使用の可否を示す潜在的な組み合わせは16通り(2通り)ある。即ち、リンクがつながっているか切れているかの2通りが4つのリンクで考えられる。
【0049】
しかし、現実的には、例えば変電所から各電線を介して再び変電所に電気が戻って来る訳ではないため、図7に示されているように、ループが発生しない。よって、リンクの使用の可否を示す現実的な組み合わせは、図8に示されているように11通りある。
【0050】
図8は、リンクの使用の可否を示す現実的な組み合わせを示した図である。図8において、例えば、最初である第1のパターンは、全てのリンクA,B,C,Dを利用した場合を示している。また、最後である第11のパターンは、いずれのリンクも利用しない場合を示している。この第11のパターンの場合を、現実の電力供給で説明すると、ノード1である東京都内の或る地域の変電所から、ノード2である霞が関(の家庭)、ノード4である赤坂(の家庭)、ノード3である六本木(の家庭)のいずれにも電力が供給されず、変電所が設置された地域内だけで電力が供給される場合が該当する。なお、霞が関、赤坂、及び六本木は、いずれも東京都内の地域名である。
【0051】
これに対して、本実施形態では、ZDDを用いることで、図9に示されているように、リンクの使用の可否を示す計算上の組み合わせを8通りに絞ることができる。なお、図9は、図7に示す運用状態をゼロサプレス型二分決定グラフで示した図である。
【0052】
ここで、ZDDについて更に詳細に説明する。
【0053】
本実施形態の入力として受け取る制約を満たす全ての構成を表現したデータ構造は、ZDDと呼ばれるデータ構造を用いる(参考文献2,3)。
【0054】
参考文献2:https://en.wikipedia.org/wiki/Zero-suppressed_decision_diagram (2021年3月28日取得)
参考文献3:『超高速グラフ列挙アルゴリズム』 ERATO 湊離散構造処理系プロジェクト (著), 湊真一 (編集), 森北出版, ISBN4627852614
ZDDは、組合せ集合(集合族;集合の集合)をコンパクトに表現できることが知られているデータ構造であり、有向非巡回グラフ(Directed Acyclic Graph: DAG)の形で表される。2つの終端ノードを除く全てのノード(「内部ノード」と呼ぶ)は、0-枝と1-枝の2つの枝を持つ。2つの終端ノードは、あり(真)となし(偽)のノードである。内部ノードは組み合わせ集合に含まれるいずれかのアイテムに対応づけられた変数番号を持つ。ZDDは、ただ一つの入力を持たないノードを持ち、これを親ノードと呼ぶ。親ノードから、あり(真)の終端ノードまでの経路は集合の存在を表現している。
【0055】
経路中、1-枝を通る場合は、その出元のノードに対応するアイテム(NWのリンク)が集合に含まれることを示し、0-枝を通る場合は含まれないことを示す。例として、図9はアイテムA,B,C,Dを用いて、図8に示される11個の組合せを表現したZDDを示している。図9において、丸は内部ノード、四角は終端ノード、丸内の値は対応するアイテムを示し、四角内の値は終端の種類を示す。破線は0-枝、実線は1-枝を示す。根ノードから終端へ向かう2本の経路がそれぞれ集合を表現している。
【0056】
ここで用いるZDDの条件としては、入力の抽象的なネットワークのリンクに対応するZDDのアイテムが存在する必要がある。ZDDのアイテムの種類は多くてもかまわない。
【0057】
図9では、例えば、リンクAから出ている実線の矢印はリンクAが使用可(例えば、電線がつながっている)の状態を示し、リンクAから出ている破線の矢印はリンクAが使用不可(例えば、電線が切れている)の状態を示している。
【0058】
図10は、図9のゼロサプレス型二分決定グラフにおいて特定の経路を示す図である。この場合の特定の経路は、図10では太字で示され、図8では第5の経路{A,C,D}及び第6の経路{A,C}である。図8の第5の経路{A,C,D}の場合、図10では、リンクAがつながっているとしてリンクAから右下のリンクBに進み、リンクBが切れているとして右下のリンクCに進み、リンクCがつながっているとしてリンクDに進み、リンクDがつながっているとして「あり(真)」に進む。また、図8の第6の経路{A,C}の場合、図10では、リンクAがつながっているとしてリンクAから右下のリンクBに進み、リンクBが切れているとして右下のリンクCに進み、リンクCがつながっているとしてリンクDに進み、リンクDが切れているとして「あり(真)」に進む。
【0059】
以上のように、リンクの使用の可否を示す潜在的な組み合わせは、ループしないという制約条件を考慮すると11通り考えられるが、本実施形態のように、ZDDを用いることで、8通り(8ノード)の評価まで絞り込むことができる。なお、この例では、簡単に説明したために、11通りから8通りになったに過ぎないが、現実には、図7のように4つのノード1,2,3,4ではなく、非常に多くのノードが存在する。そして、故障は複数個所で同時に発生することもあり、故障の発生パターンは、供給ネットワーク中のリンク数に対して指数的に大きくなる。更に、制約を満たす全ての供給方法も指数的な数が存在する。そのため、これらを明示的に個別に計算することは、実存する計算機で実用的な時間内では行えない。しかし、本実施形態のように、ZDDを用いることで、実存する計算機を用いたとしても現実的な時間で需要の充足率を計算することが可能である。
【0060】
また、従来の方法では、図7において、例えば、変電所としてのノード1から、六本木のノード3に電力を供給する場合、ノード3に供給できたか又は供給できなかったかの2値の評価しかできなかった。これに対して、本実施形態では、ノード3の六本木には電力を供給できなくても、ノード1から霞が関のノード2までは供給できた、又はノード1から赤坂のノード4までは供給できた等のように、ノード1からどこのノードまで供給できるか(つながっているか)を示す多値の信頼性評価を行うことができる。
【0061】
〔実施形態の主な効果〕
本実施形態によれば、膨大な故障パターンをコンパクトに表現したデータ構造を用いて、個別の故障パターンについての明示的な計算を行うことなく充足率の計算を行うことができるため、実存する計算機を用いたとしても大きなネットワークに対して現実的な時間で充足率を計算することが可能となる。
【0062】
また、本実施形態によれば、供給元のノード1らどこのノードまで供給できるか(つながっているか)を示す多値の信頼性評価を行うことができる。
【0063】
〔補足〕
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すような構成又は処理(動作)であってもよい。
(1)本発明の評価装置5はコンピュータとプログラムによっても実現できるが、このプログラムを記録媒体に記録することも、通信ネットワークを通して提供することも可能である。
(2)上記実施形態では、評価装置5としてPCが示されているが、PCは、デスクトップパソコン又はノートパソコンでもよい。また、評価装置は、タブレット端末、又はスマートウォッチ等であってもよい。
(3)各CPU501は、単一だけでなく、複数であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
5 評価装置
50 充足率計算部(充足率計算手段の一例)
51 指定被覆数列挙部(指定被覆数列挙手段の一例)
52 指定被覆包含列挙部(指定被覆包含列挙手段の一例)
53 確率計算部(確率計算手段の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10