(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】レーザ加工方法及び回路基板製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/00 20060101AFI20241105BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20241105BHJP
B23K 26/066 20140101ALI20241105BHJP
【FI】
H05K3/00 N
H05K3/46 N
B23K26/066
(21)【出願番号】P 2022532883
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2020025655
(87)【国際公開番号】W WO2022003819
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】300073919
【氏名又は名称】ギガフォトン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 輝
(72)【発明者】
【氏名】柿▲崎▼ 弘司
(72)【発明者】
【氏名】小林 正和
(72)【発明者】
【氏名】藤本 准一
(72)【発明者】
【氏名】川筋 康文
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-196194(JP,A)
【文献】特開2010-226147(JP,A)
【文献】特開2004-209505(JP,A)
【文献】特開2009-099649(JP,A)
【文献】特開2018-136522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/00
H05K 3/46
B23K 26/066
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体層と、絶縁層と、犠牲層とがこの順に積層された積層構造を備える被加工物の前記犠牲層の側から紫外線のパルスレーザ光を照射することにより、前記犠牲層内でレーザアブレーションの加工モードの変化を生じさせて前記犠牲層に貫通穴を形成することと、
前記貫通穴を通じて前記絶縁層に前記パルスレーザ光を照射することにより、前記絶縁層に開口を形成することと、
前記開口を形成した後に、前記犠牲層を除去することと、
を含むレーザ加工方法
であって、
支持体層と、前記犠牲層と、前記絶縁層とがこの順に積層された第1の積層構造物を準備することと、
前記導体層を備える回路基板に対して、前記導体層を覆うように前記絶縁層を前記導体層の側に向けて前記第1の積層構造物を重ね合わせることにより、前記回路基板と、前記導体層と、前記絶縁層と、前記犠牲層と、前記支持体層とがこの順に積層された第2の積層構造物を形成することと、
前記第2の積層構造物から前記支持体層を除去して前記犠牲層を露出させることにより前記被加工物を得ることと、
を含むレーザ加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記犠牲層の厚さが5.7μm~40μmである、レーザ加工方法。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光のフルーエンスが600mJ/cm
2~1000mJ/cm
2である、レーザ加工方法。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光のパルス幅が10ns~60nsである、レーザ加工方法。
【請求項5】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の波長が193nm、248nm、又は308nmである、レーザ加工方法。
【請求項6】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の繰り返し周波数が400Hz~6000Hzである、レーザ加工方法。
【請求項7】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記開口の加工径が3μm~20μmである、レーザ加工方法。
【請求項8】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記犠牲層に前記貫通穴を形成するために前記犠牲層に照射される前記パルスレーザ光のパルス数が10パルス以上である、レーザ加工方法。
【請求項9】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記犠牲層内で前記加工モードが表面加工モードから内部加工モードに変化する、レーザ加工方法。
【請求項10】
請求項
1に記載のレーザ加工方法であって、
前記支持体層の厚さは、前記犠牲層の厚さよりも厚い、レーザ加工方法。
【請求項11】
請求項
1に記載のレーザ加工方法であって、
前記支持体層と前記犠牲層とは、ポリエチレンテレフタレートで構成されている、レーザ加工方法。
【請求項12】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記犠牲層は、ポリエチレンテレフタレートである、レーザ加工方法。
【請求項13】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記絶縁層は、エポキシ樹脂を含む、レーザ加工方法。
【請求項14】
導体層と、絶縁層と、犠牲層とがこの順に積層された積層構造を備える被加工物の前記犠牲層の側から紫外線のパルスレーザ光を照射することにより、前記犠牲層内でレーザアブレーションの加工モードの変化を生じさせて前記犠牲層に貫通穴を形成することと、
前記貫通穴を通じて前記絶縁層に前記パルスレーザ光を照射することにより、前記絶縁層に開口を形成することと、
前記開口を形成した後に、前記犠牲層を除去することと、
を含むレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の光路上に、前記開口に対応するマスクパターンを有するマスクと、前記マスクの像を前記被加工物に投影する投影光学系とを備えるレーザ加工装置を用い、
前記投影光学系を介して前記マスクの像を転写して前記パルスレーザ光を前記被加工物に照射することにより前記開口を形成し、
前記投影光学系を介して照射される前記パルスレーザ光の結像位置は、前記犠牲層の表面と、前記犠牲層と前記絶縁層との界面との間であり、
前記絶縁層に形成する目標の穴直径と、前記犠牲層の厚さに応じた加工径のシフト量と、前記投影光学系の倍率とに基づいて、前記マスクパターンの光の透過直径が補正された前記マスクが用いられる、レーザ加工方法。
【請求項15】
請求項14に記載のレーザ加工方法であって、
前記犠牲層の厚さが5.7μm~40μmである、レーザ加工方法。
【請求項16】
請求項14に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光のフルーエンスが600mJ/cm
2
~1000mJ/cm
2
である、レーザ加工方法。
【請求項17】
請求項14に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光のパルス幅が10ns~60nsである、レーザ加工方法。
【請求項18】
請求項14に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の波長が193nm、248nm、又は308nmである、レーザ加工方法。
【請求項19】
請求項14に記載のレーザ加工方法であって、
前記パルスレーザ光の繰り返し周波数が400Hz~6000Hzである、レーザ加工方法。
【請求項20】
請求項14に記載のレーザ加工方法であって、
前記開口の加工径が3μm~20μmである、レーザ加工方法。
【請求項21】
請求項14に記載のレーザ加工方法であって、
前記犠牲層に前記貫通穴を形成するために前記犠牲層に照射される前記パルスレーザ光のパルス数が10パルス以上である、レーザ加工方法。
【請求項22】
請求項14に記載のレーザ加工方法であって、
前記犠牲層内で前記加工モードが表面加工モードから内部加工モードに変化する、レーザ加工方法。
【請求項23】
請求項
14に記載のレーザ加工方法であって、
前記目標の穴直径をDt、前記シフト量をΔD、前記投影光学系の倍率をM、前記マスクパターンの光の透過直径をDrとすると、
Dr=(Dt+ΔD)/M
の関係に基づいて、前記透過直径が補正されており、
ΔDは、前記犠牲層の厚さに応じて0.8μm~3.3μmの範囲で定められる、
レーザ加工方法。
【請求項24】
請求項
14に記載のレーザ加工方法であって、
前記犠牲層は、ポリエチレンテレフタレートである、レーザ加工方法。
【請求項25】
請求項
14に記載のレーザ加工方法であって、
前記絶縁層は、エポキシ樹脂を含む、レーザ加工方法。
【請求項26】
回路基板の主面に、第1の導体層と、第1の絶縁層と、第1の犠牲層とがこの順に積層された積層構造を備える前記回路基板の前記第1の犠牲層の側から紫外線のパルスレーザ光を照射することにより、前記第1の犠牲層内でレーザアブレーションの加工モードの変化を生じさせて前記第1の犠牲層に第1の貫通穴を形成することと、
前記第1の貫通穴を通じて前記第1の絶縁層に前記パルスレーザ光を照射することにより、前記第1の絶縁層に第1のビアホールを形成することと、
前記第1のビアホールを形成した後に、前記第1の犠牲層を除去することと、
を含む回路基板製造方法
であって、
支持体層と、前記第1の犠牲層と、前記第1の絶縁層とがこの順に積層された第1の積層構造物を準備することと、
前記第1の導体層を備える前記回路基板に対して、前記第1の導体層を覆うように前記第1の絶縁層を前記第1の導体層の側に向けて前記第1の積層構造物を重ね合わせることにより、前記回路基板に、前記第1の導体層と、前記第1の絶縁層と、前記第1の犠牲層と、前記支持体層とがこの順に積層された第2の積層構造物を形成することと、
前記第2の積層構造物から前記支持体層を除去して前記第1の犠牲層を露出させることにより、前記回路基板の主面に、前記第1の導体層と、前記第1の絶縁層と、前記第1の犠牲層とがこの順に積層された前記積層構造を備える前記回路基板を得ることと、
を含む回路基板製造方法。
【請求項27】
請求項
26に記載の回路基板製造方法であって、
前記第1の犠牲層を除去した後に、前記第1の絶縁層に重ねて第2の導体層と、第2の絶縁層と、第2の犠牲層とをこの順に積層することと、
前記第2の犠牲層の側から前記パルスレーザ光を照射することにより、前記第2の犠牲層内でレーザアブレーションの加工モードの変化を生じさせて前記第2の犠牲層に第2の貫通穴を形成することと、
前記第2の貫通穴を通じて前記第2の絶縁層に前記パルスレーザ光を照射することにより、前記第2の絶縁層に第2のビアホールを形成することと、
前記第2のビアホールを形成した後に、前記第2の犠牲層を除去することと、
を含む回路基板製造方法。
【請求項28】
回路基板の主面に、第1の導体層と、第1の絶縁層と、第1の犠牲層とがこの順に積層された積層構造を備える前記回路基板の前記第1の犠牲層の側から紫外線のパルスレーザ光を照射することにより、前記第1の犠牲層内でレーザアブレーションの加工モードの変化を生じさせて前記第1の犠牲層に第1の貫通穴を形成することと、
前記第1の貫通穴を通じて前記第1の絶縁層に前記パルスレーザ光を照射することにより、前記第1の絶縁層に第1のビアホールを形成することと、
前記第1のビアホールを形成した後に、前記第1の犠牲層を除去することと、
を含む回路基板製造方法であって、
前記パルスレーザ光の光路上に、前記第1のビアホールに対応するマスクパターンを有するマスクと、前記マスクの像を前記回路基板に投影する投影光学系とを備えるレーザ加工装置を用い、
前記投影光学系を介して前記マスクの像を転写して前記パルスレーザ光を前記回路基板に照射することにより前記第1のビアホールを形成し、
前記投影光学系を介して照射される前記パルスレーザ光の結像位置は、前記第1の犠牲層の表面と、前記第1の犠牲層と前記第1の絶縁層との界面との間であり、
前記第1の絶縁層に形成する目標の穴直径と、前記第1の犠牲層の厚さに応じた加工径のシフト量と、前記投影光学系の倍率とに基づいて、前記マスクパターンの光の透過直径が補正された前記マスクが用いられる、
回路基板製造方法。
【請求項29】
請求項28に記載の回路基板製造方法であって、
前記第1の犠牲層を除去した後に、前記第1の絶縁層に重ねて第2の導体層と、第2の絶縁層と、第2の犠牲層とをこの順に積層することと、
前記第2の犠牲層の側から前記パルスレーザ光を照射することにより、前記第2の犠牲層内でレーザアブレーションの加工モードの変化を生じさせて前記第2の犠牲層に第2の貫通穴を形成することと、
前記第2の貫通穴を通じて前記第2の絶縁層に前記パルスレーザ光を照射することにより、前記第2の絶縁層に第2のビアホールを形成することと、
前記第2のビアホールを形成した後に、前記第2の犠牲層を除去することと、
を含む回路基板製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工方法及び回路基板製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器に広く使用されている回路基板は、電子機器の小型化、高機能化のために、回路配線の微細化、高密度化が求められている。回路基板の製造技術としては、内層基板に絶縁層と導体層とを交互に積み重ねるビルドアップ方式による製造方法が知られている。ビルドアップ方式による製造方法において、絶縁層は、例えば支持体と該支持体上に設けられた樹脂組成物層とを含む接着層等を用いて樹脂組成物層を内層基板に積層し、樹脂組成物層を熱硬化させることにより形成される。次いで、形成された絶縁層にレーザ光を照射して、導体層を接続するためのビアホールを形成する。
【0003】
回路配線の更なる高密度化を達成するにあたって、ビアホールの小径化が望まれている。ビアホールは、一般にレーザによる穴あけ加工により形成され、レーザとしては、穿穴速度が高く製造コスト面で有利である炭酸ガスレーザが現在主に使用されている。
【0004】
しかし、ビアホールの小径化には限界があり、例えば、炭酸ガスレーザによっては開口径25μm以下のビアホールを形成するのが困難な状況である。
【0005】
ビアホールの更なる微細化のために、炭酸ガスレーザに替わってエキシマレーザ(Excited Dimer Laserの略称)の使用が検討されている。
【0006】
エキシマレーザ光はパルス幅が約数十nsであって、波長は例えば、248.4nm又は193.4nmと短いことから、高分子材料やガラス材料等の直接加工に用いられることがある。
【0007】
高分子材料に対しては、結合エネルギよりも高いフォトンエネルギをもつエキシマレーザ光によって、高分子材料の結合を切断できる。そのため、非加熱加工が可能となり、加工形状が綺麗になることが知られている。
【0008】
エキシマレーザは一般に強い紫外領域のレーザ光が得られるため、炭酸ガスレーザなどの赤外線レーザと異なり、熱が発生しない。そのため、より微細な加工が可能であり、ビアホールの小径化に寄与することが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6413654号
【文献】特許第5532924号
【文献】特許第5975011号
【文献】特許第6337927号
【概要】
【0010】
本開示の1つの観点に係るレーザ加工方法は、導体層と、絶縁層と、犠牲層とがこの順に積層された積層構造を備える被加工物の犠牲層の側から紫外線のパルスレーザ光を照射することにより、犠牲層内でレーザアブレーションの加工モードの変化を生じさせて犠牲層に貫通穴を形成することと、貫通穴を通じて絶縁層にパルスレーザ光を照射することにより、絶縁層に開口を形成することと、開口を形成した後に、犠牲層を除去することとを含む。
【0011】
本開示の他の1つの観点に係る回路基板製造方法は、回路基板の主面に、第1の導体層と、第1の絶縁層と、第1の犠牲層とがこの順に積層された積層構造を備える回路基板の第1の犠牲層の側から紫外線のパルスレーザ光を照射することにより、第1の犠牲層内でレーザアブレーションの加工モードの変化を生じさせて第1の犠牲層に第1の貫通穴を形成することと、第1の貫通穴を通じて第1の絶縁層にパルスレーザ光を照射することにより、第1の絶縁層に第1のビアホールを形成することと、第1のビアホールを形成した後に、第1の犠牲層を除去することとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本開示のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。
【
図1】
図1は、レーザアブレーション加工の説明図である。
【
図2】
図2は、レーザアブレーションによりビアホール加工された電気絶縁材料層を含む回路基板の例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、ビアホールの側壁のテーパ角を説明するための断面図である。
【
図4】
図4は、例示的なレーザ加工システムの構成を概略的に示す。
【
図5】
図5は、マスクを照明する矩形ビームの例を示す。
【
図6】
図6は、加工前の回路基板の状態を概略的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、
図6の状態から高分子化合物層を除去した状態を示す断面図である。
【
図8】
図8は、層間絶縁層にビアホール加工を行う際の様子を示す。
【
図9】
図9は、レーザ加工システムの制御例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、レーザ加工条件パラメータの読込処理の例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、レーザ装置の調整発振を行う際の処理内容の例を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、レーザ加工装置の制御パラメータの計算と設定の処理内容の例を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、集束イオンビーム装置を用いてビアホールの加工表面と断面とを観察した画像である。
【
図15】
図15は、断面画像から計測されたビアホール底面でのテーパ角θaと、表面SEM像から算出されたテーパ角θbとのそれぞれの数値の例を示す図表である。
【
図16】
図16は、被加工物としての回路基板の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図17】
図17は、紫外線パルスレーザ光によるレーザアブレーション加工の様子を示す断面図である。
【
図18】
図18は、レーザアブレーション加工後に犠牲層が除去された様子を示す断面図である。
【
図19】
図19は、比較例に係るレーザ加工方法によるビアホールの加工結果と実施形態1に係るレーザ加工方法によるビアホールの加工結果とを示す図表である。
【
図20】
図20は、実施形態1に係るレーザ加工方法におけるフルーエンスとテーパ角との関係を示すグラフである。
【
図21】
図21は、比較例に係るレーザ加工方法におけるフルーエンスとテーパ角との関係を示すグラフである。
【
図22】
図22は、実施形態1に係るレーザ加工方法におけるフォーカス位置とテーパ角との関係を示すグラフである。
【
図23】
図23は、比較例に係るレーザ加工方法におけるフォーカス位置とテーパ角との関係を示すグラフである。
【
図24】
図24は、実施形態1に係るレーザ加工方法におけるフォーカス位置とビアホール径との関係を示すグラフである。
【
図25】
図25は、比較例に係るレーザ加工方法におけるフォーカス位置とビアホール径との関係を示すグラフである。
【
図26】
図26は、実施形態1に係るレーザ加工方法における加工ステップ1の様子を模式的に示す断面図である。
【
図27】
図27は、実施形態1に係るレーザ加工方法における加工ステップ2の様子を模式的に示す断面図である。
【
図28】
図28は、実施形態1に係るレーザ加工方法における加工ステップ3の様子を模式的に示す断面図である。
【
図29】
図29は、犠牲層なしで層間絶縁層にパルスレーザ光を照射してビアホール加工を実施した場合の断面SEM像である。
【
図30】
図30は、実施形態1に係るレーザ加工方法における加工状態を模式的に示す断面図である。
【
図31】
図31は、目標穴直径Dtと結像ビーム直径Diとの関係を示すグラフである。
【
図33】
図33は、実施形態2において使用される層間絶縁層の構成例を模式的に示す断面図である。
【
図34】
図34は、ビアホール加工前の回路基板の構造を例示的に示す断面図である。
【
図35】
図35は、
図34に示す状態から第1の高分子化合物層が除去された状態を示す断面図である。
【
図36】
図36は、紫外線パルスレーザ光によるレーザアブレーション加工の様子を示す断面図である。
【
図37】
図37は、レーザアブレーション加工後に第2の高分子化合物層が除去された様子を示す断面図である。
【
図38】
図38は、第1のビアホール形成工程の一例を示す断面図である。
【
図39】
図39は、シード層形成工程の一例を示す断面図である。
【
図40】
図40は、レジスト形成工程の一例を示す断面図である。
【
図41】
図41は、導体層形成工程の一例を示す断面図である。
【
図42】
図42は、第1のランド形成工程の一例を示す断面図である。
【
図43】
図43は、第2の層間絶縁層及び犠牲層形成工程の一例を示す断面図である。
【
図44】
図44は、第2のビアホール形成及び犠牲層除去工程の一例を示す断面図である。
【
図45】
図45は、第2のランド形成工程の一例を示す断面図である。
【
図46】
図46は、ビルドアップ基板の表面の段差のイメージを模式的に示す断面図である。
【
図47】
図47は、犠牲層なしの状態でレーザ加工を実施した場合の加工イメージを模式的に示す断面図である。
【
図48】
図48は、比較例に係るレーザ加工方法によるフォーカス位置とビアホール径との関係を示すグラフである。
【
図49】
図49は、犠牲層有りの状態でレーザ加工を実施した場合の加工イメージを模式的に示す断面図である。
【
図50】
図50は、実施形態3に係るレーザ加工方法によるフォーカス位置とビアホール径との関係を示すグラフである。
【
図51】
図51は、実施形態4に係るレーザ加工システムに用いられるマスクのマスクパターンの例を示す平面図である。
【実施形態】
【0013】
-目次-
1.用語の説明
1.1 レーザアブレーション加工とデブリ
1.2 ビアホール加工とテーパ角の定義
2.レーザ加工システムの概要
2.1 構成
2.2 動作
2.2.1 ビアホール加工の例
2.2.2 レーザ加工システムの動作概要
2.2.3 レーザ加工システムの制御例
2.3 課題
3.実施形態1
3.1 構成
3.2 動作
3.3 加工結果の例
3.4 効果
3.5 推定原理
3.6 犠牲層の厚さについて
3.7 加工径のシフト量について
4.実施形態2
4.1 構成
4.2 動作
4.3 効果
5.実施形態3
5.1 構成
5.2 動作
5.3 効果
5.4 変形例
6.実施形態4
6.1 構成
6.2 動作
6.3 効果
7.層間絶縁層の材料の例
8.犠牲層の材料の例
9.パルスレーザ光の照射条件の例
10.回路基板製造方法について
11.その他
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。以下に説明される実施形態は、本開示のいくつかの例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0014】
1.用語の説明
1.1 レーザアブレーション加工とデブリ
図1は、レーザアブレーション加工の説明図である。
図1では、非加熱加工の一例として、高分子有機材料2に紫外線のパルスレーザ光PLを照射する場合の例が示されている。
図1に示すように、高分子有機材料2にパルスレーザ光PLを照射した場合、材料表面2Aが瞬時的に溶融、蒸発し、イオン、原子、ラジカル、分子、クラスタ、固体片などが放出される。この現象を広くレーザアブレーションという。レーザアブレーションにより材料表面2Aから飛散した物質がデブリ4と呼ばれる微粒子となって材料表面2Aに再付着し、加工部周辺を汚してしまうことがある。なお、デブリ4は、微粒子及びガスを含む。
【0015】
1.2 ビアホール加工とテーパ角の定義
図2は、レーザアブレーションによりビアホール加工された電気絶縁材料層8を含む回路基板6の例を模式的に示す断面図である。ここでは内層基板(コア基板)としての回路基板6に導体層7と電気絶縁材料層8とが積層されている構造の例が示されている。導体層7は、例えば、銅(Cu)であってよい。電気絶縁材料層8に紫外線のパルスレーザ光PLが照射されると、レーザアブレーションによりビアホール加工される。この加工された側壁9のプロファイルに対応するパラメータとして、
図2に示すように導体層7の主面7Aとビアホールの側壁9とのなす角度をテーパ角θと定義する。一般にビアホール加工のテーパ角θは90°に近いほどよいとされている。
【0016】
ビアホールの側壁9のプロファイルは、
図3に示すように、加工表面の開口の直径Dtopと、底面での直径Dbtmとから勾配比Grで評価してもよい。
【0017】
勾配比Grは次式(1)で表される。
【0018】
Gr={(Dtop/2)-(Dbtm/2)}/h (1)
hは電気絶縁材料層8の厚さである。
【0019】
勾配比Grと勾配αとの関係は次式(2)で表される。
【0020】
α=tan-1{Gr} (2)
勾配αとテーパ角θとの関係は式(3)となる。
【0021】
θ=90°-α (3)
ビアホールの加工表面の直径Dtopを「トップ径」といい、ビアホール底面での直径Dbotmを「ボトム径(底径)」という場合がある。なお、ビアホールに限らず、一般的な貫通穴の加工に関しても、上記同様の定義による「テーパ角」という用語を用いる。
【0022】
「絶縁層」は電気絶縁材料層と同義である。
【0023】
2.レーザ加工システムの概要
2.1 構成
図4に、例示的なレーザ加工システム10の構成を概略的に示す。レーザ加工システム10は、レーザ装置12と、光路管13と、レーザ加工装置14とを含む。レーザ装置12は、紫外線のパルスレーザ光を出力するレーザ装置である。例えば、レーザ装置12は、F
2、ArF、KrF、XeCl、又はXeFをレーザ媒質とする放電励起式レーザ装置であってよい。レーザ装置12は、発振器20と、モニタモジュール24と、シャッタ26と、レーザ制御部28とを含む。
【0024】
発振器20は、チャンバ30と、光共振器32と、充電器36と、パルスパワーモジュル(PPM)38とを含む。チャンバ30には、エキシマレーザガスが封入される。チャンバ30は、一対の電極43、44と、絶縁部材45と、ウインドウ47、48とを含む。
【0025】
光共振器32は、リアミラー33と出力結合ミラー(Output Coupler:OC)34とを含む。リアミラー33と出力結合ミラー34とのそれぞれは、平面基板に高反射膜と部分反射膜とがコートされる。チャンバ30は、光共振器32の光路上に配置される。
【0026】
PPM38は、スイッチ39と図示しない充電コンデンサとを含む。スイッチ39は、レーザ制御部28からのスイッチ39の制御信号を伝送する信号ラインと接続される。
【0027】
充電器36は、PPM38の充電コンデンサと接続される。充電器36は、レーザ制御部28から充電電圧のデータを受信し、PPM38の充電コンデンサを充電する。
【0028】
モニタモジュール24は、ビームスプリッタ50と、光センサ52とを含む。
【0029】
シャッタ26は、モニタモジュール24から出力されるパルスレーザ光の光路上に配置される。パルスレーザ光の光路は、図示しない筐体及び光路管によってシールされ、N2ガスでパージされていてもよい。
【0030】
レーザ加工装置14は、照射光学システム70と、フレーム72と、XYZステージ74と、テーブル76と、レーザ加工制御部100とを含む。
【0031】
照射光学システム70は、高反射ミラー111及び高反射ミラー112と、アッテネータ120と、照明光学系130と、マスク140と、投影光学系142と、ウインドウ146と、筐体150とを含む。
【0032】
高反射ミラー111は、光路管13を通過したパルスレーザ光がアッテネータ120を通過して高反射ミラー112に入射するように配置される。
【0033】
アッテネータ120は、高反射ミラー111と高反射ミラー112との間の光路上に配置される。アッテネータ120は、2枚の部分反射ミラー121、122とそれぞれのミラーへの入射角を可変とする回転ステージ123、124とを含む。
【0034】
高反射ミラー112は、アッテネータ120を通過したレーザ光が照明光学系130に入射するように配置される。
【0035】
照明光学系130は、高反射ミラー133と、フライアイレンズ134と、コンデンサレンズ136とを含む。照明光学系130は、マスク140を矩形状のビームでケーラー照明するように配置される。ビーム内の光強度分布が略均一の矩形状のビームを「矩形ビーム」という。
【0036】
照明光学系130の高反射ミラー133は、入射したパルスレーザ光がフライアイレンズ134に入射するように配置される。
【0037】
フライアイレンズ134は、例えば、フライアイレンズ134の焦点面とコンデンサレンズ136の前側焦点面とが一致するように配置される。コンデンサレンズ136は、コンデンサレンズ136の後側焦点面とマスク140の位置とが一致するように配置される。
【0038】
照明光学系130は、マスク140上にレーザ光が均一照明されるように配置される。
【0039】
図5は、マスク140を照明する矩形ビームRBの例を示す。例えば、矩形ビームRBの長辺は、Y軸方向と平行であり、矩形ビームRBの短辺はX軸方向と平行であってよい。矩形ビームRBのY軸方向のビーム幅がBy、X軸方向のビーム幅がBxであってよい(Bx<By)。
【0040】
マスク140は、例えば、紫外光を透過する合成石英基板に、金属又は誘電体多層膜のパターンが形成されたフォトマスクである。例えば、プリント基板等のビアホール加工の場合は、直径5μm~30μmの穴を加工するためのパターンがマスク140に形成されている。投影光学系142の倍率をMとすると、マスク140には加工寸法の1/M倍のパターンが形成される。
【0041】
投影光学系142は、ウインドウ146を介して、マスク140の像が被加工物160の表面で結像するように配置される。投影光学系142は、複数のレンズ143、144の組合せレンズであって、縮小投影光学系であってもよい。
【0042】
ウインドウ146は、投影光学系142と、被加工物160との間のレーザ光路上に配置される。ウインドウ146は、筐体150に設けられた穴に、図示しないOリング等を介して配置される。ウインドウ146は、エキシマレーザ光を透過するCaF2結晶や、合成石英基板であって、両面に反射抑制膜がコートされていてもよい。
【0043】
筐体150には、N2ガスの入口152と出口154とが配置されている。入口152には、図示しない配管を介してN2ガス供給源が接続される。筐体150は、筐体150内に外気が混入するのを抑制するようにOリング等によってシールされていてもよい。
【0044】
フレーム72に、照射光学システム70とXYZステージ74とが固定される。XYZステージ74の上にテーブル76が固定される。被加工物160は、テーブル76上に固定される。テーブル76は被加工物160を載置する載置台の一例である。
【0045】
被加工物160は、例えば、LSI(Large‐scale integrated circuit)チップとメインのプリント基板との間で中継するインターポーザ基板やフレキシブルなプリント基板であってもよい。例えば、この基板の電気絶縁材料としては、高分子材料、ガラスエポキシ材料、ガラス材料などがある。
【0046】
レーザ加工制御部100は、レーザ装置12、アッテネータ120及びXYZステージ74の動作を制御する。
【0047】
レーザ加工制御部100、レーザ制御部28及びその他の各制御部として機能する制御装置は、1台又は複数台のコンピュータのハードウェア及びソフトウェアの組み合わせによって実現することが可能である。ソフトウェアはプログラムと同義である。プログラマブルコントローラはコンピュータの概念に含まれる。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)及びメモリなどの記憶装置を含んで構成され得る。CPUはプロセッサの一例である。
【0048】
記憶装置は、有体物たる非一時的なコンピュータ可読媒体であり、例えば、主記憶装置であるメモリ及び補助記憶装置であるストレージを含む。コンピュータ可読媒体は、例えば、半導体メモリ、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)装置、若しくはソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)装置又はこれらの複数の組み合わせであってよい。プロセッサが実行するプログラムはコンピュータ可読媒体に記憶されている。プロセッサはコンピュータ可読媒体を含む構成であってもよい。
【0049】
また、制御装置の処理機能の一部又は全部は、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)に代表される集積回路を用いて実現してもよい。
【0050】
また、複数の制御装置の機能を1台の制御装置で実現することも可能である。さらに本開示において、制御装置は、ローカルエリアネットワークやインターネットといった通信ネットワークを介して互いに接続されてもよい。分散コンピューティング環境において、プログラムユニットは、ローカル及びリモート両方のメモリストレージデバイスに保存されてもよい。レーザ加工制御部100、レーザ制御部28など、本開示の制御装置として用いられるプロセッサは、制御プログラムが記憶された記憶装置と、制御プログラムを実行するCPUとを含む処理装置である。プロセッサは本開示に含まれる各種処理を実行するために特別に構成又はプログラムされている。
【0051】
2.2 動作
2.2.1 ビアホール加工の例
図6から
図8に例示的な回路基板170を示し、レーザ加工システム10を用いた比較例に係るレーザ加工方法について説明する。本開示の比較例とは、出願人のみによって知られていると出願人が認識している形態であって、出願人が自認している公知例ではない。
【0052】
レーザ加工システム10を用いてビアホール加工を実施する際には、まず、回路基板170を準備する。
図6は、加工前の回路基板170の状態を概略的に示す断面図である。
図6に示すように、この回路基板170には両面を貫通するスルーホール171が形成されており、このスルーホール171の内壁とその周辺には、基板両面を導通させるための導体層172が形成されている。導体層172は回路基板170の主面の一部を覆うように形成される。また、導体層172と回路基板170とを覆うように層間絶縁層173が形成され、さらに層間絶縁層173を覆うように高分子化合物層174が形成されている。このような導体層172、層間絶縁層173及び高分子化合物層174がこの順で積層された積層構造は回路基板170の両面に形成されている。また、スルーホール171の内側には絶縁層175が形成されている。
【0053】
層間絶縁層173は、例えば、味の素ビルドアップフィルム(ABF)であってもよい。「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」は味の素株式会社の登録商標である。高分子化合物層174は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)層であってよい。
【0054】
図6に示すように、高分子化合物層174に覆われた回路基板170の層間絶縁層173にビアホール加工を行う場合、レーザ光を照射する面の高分子化合物層174を除去し、層間絶縁層173を露出させる。
【0055】
図7は、高分子化合物層174を除去した状態を示している。レーザ加工を実施する前に、
図7のように高分子化合物層174を除去する。例えば、
図6に示す状態から高分子化合物層174を剥離することにより、高分子化合物層174を除去してもよい。
図7に示すように、回路基板170は、層間絶縁層173を露出させた状態でレーザ加工装置14のテーブル76上に被加工物160としてセットされる。この露出した層間絶縁層173上にパルスレーザ光PLを照射して、層間絶縁層173にビアホール加工を行う。
【0056】
図8は、層間絶縁層173にビアホール加工を行う際の様子を示している。層間絶縁層173上にパルスレーザ光PLを照射することにより、層間絶縁層173にビアホール加工が行われ、導体層172に到達するビアホール177が形成される。レーザ加工システム10の動作について以下に説明する。
【0057】
2.2.2 レーザ加工システムの動作概要
レーザ加工制御部100は、レーザ加工時の照射条件パラメータを読み込む。具体的には、レーザ加工を行う際の被加工物160上でのフルーエンスFiと、照射パルス数Niと、繰り返し周波数fiとを読み込む。
【0058】
その後、レーザ加工制御部100は、レーザ装置12に調整発振をさせる。調整発振は次のような手順で行われる。
【0059】
レーザ装置12のレーザ制御部28は、目標パルスエネルギEtをレーザ加工制御部100から受信する。レーザ制御部28は、目標パルスエネルギEtを受信すると、シャッタ26を閉じ、発振器20のパルスエネルギが目標パルスエネルギEtとなるように充電器36を制御する。
【0060】
レーザ制御部28は、図示しない内部トリガ信号によって、PPM38のスイッチ39にトリガ信号を与える。その結果、発振器20は自然発振する。
【0061】
発振器20から出力されたパルスレーザ光は、モニタモジュール24のビームスプリッタ50によってサンプルされ、光センサ52を用いてパルスエネルギEが計測される。
【0062】
レーザ制御部28は、パルスエネルギEと目標パルスエネルギEtとの差ΔEが0に近づくように充電器36の充電電圧を制御する。
【0063】
レーザ制御部28は、ΔEが許容範囲となったら、レーザ加工制御部100に外部トリガOK信号を送信し、シャッタ26を開ける。こうして、調整発振が完了し、レーザ加工が可能な状態になる。
【0064】
次に、レーザ加工制御部100は、被加工物160上において最初にレーザ照射を行う加工領域にレーザ光が照射されるように、XYZステージ74をX軸方向及びY軸方向に制御する。
【0065】
また、レーザ加工制御部100はマスク140の像が被加工物160の表面の位置に結像するようにXYZステージ74をZ軸方向に制御する。
【0066】
レーザ加工制御部100は、被加工物160の表面位置(マスク140の像の位置)でのフルーエンスが目標のフルーエンスFiとなるように、アッテネータ120の透過率Tを計算する。
【0067】
続いて、レーザ加工制御部100は、アッテネータ120の透過率がTとなるように、2つの部分反射ミラー121、122の入射角度を、それぞれの回転ステージ123、124によって制御する。
【0068】
こうして、レーザ照射の準備ができたら、レーザ加工制御部100は、繰り返し周波数fi及び照射パルス数Niの発光トリガ信号Trをレーザ制御部28に送信する。
【0069】
その結果、発光トリガ信号Trに同期して、モニタモジュール24のビームスプリッタ50を透過したパルスレーザ光は、光路管13を介してレーザ加工装置14に入射する。
【0070】
レーザ加工装置14に入射したパルスレーザ光は、高反射ミラー111によって反射され、アッテネータ120を通過して減光された後、高反射ミラー112によって反射される。
【0071】
高反射ミラー112で反射されたパルスレーザ光は、照明光学系130によって、光強度が空間的に均一化されて、矩形ビームに整形される。照明光学系130から出力された矩形ビームはマスク140に入射する。
【0072】
マスク140を透過したパルスレーザ光は、投影光学系142によって被加工物160の表面にマスク140の像として縮小投影される。
【0073】
パルスレーザ光は、投影光学系142を通過して、転写結像した領域の被加工面の層間絶縁層173に、フルーエンスFi、繰り返し周波数fi及び照射パルス数Niで照射される。
【0074】
その結果、層間絶縁層173の表面でパルスレーザ光が照射された部分がアブレーションし、底面に導体層172が露出した筒状の微小開口が形成される。この微小開口はビアホール177と呼ばれる(
図8参照)。
【0075】
マスク140上に照射された矩形ビームは、マスク140の像が層間絶縁層173上においては縮小投影される。
【0076】
レーザ加工条件(照射条件)であるフルーエンスFi、繰り返し周波数fi及び照射パルス数Niでパルスレーザ光が層間絶縁層173上に照射される。
【0077】
その後、被加工物160の次の領域にレーザ光が照射されるように、XYZステージ74をX軸方向及びY軸方向に制御する。
【0078】
被加工物160における加工対象の領域がなくなるまで、上述のXYZステージ74の制御、アッテネータ120の制御、及び発光トリガ信号Trに同期したパルスレーザ光の照射を繰り返す。
【0079】
以上のように、レーザ加工システム10は、加工対象領域ごとに矩形ビームを移動させてパルスレーザ光の照射を行うことにより、レーザ加工を行う。そして、加工対象領域を順次変更し、ビームスキャン方式によりレーザ加工を行う。
【0080】
2.2.3 レーザ加工システムの制御例
図9は、レーザ加工システム10の制御例を示すフローチャートである。ステップS11において、被加工物160がXYZステージ74のテーブル76上にセットされる。被加工物160は、図示しないワーク搬送ロボットやその他の自動搬送装置によってテーブル76にセットされてよい。被加工物160がテーブル76上にセットされた後は、図示しないアライメント光学系によりテーブル76上で被加工物160の位置が決定され、加工位置との整合を図ることが可能とする。
【0081】
ステップS12において、レーザ加工制御部100は、レーザ加工条件パラメータの読込みを行う。レーザ加工条件パラメータは、レーザ加工時のレーザ照射条件パラメータであり、例えば、フルーエンスFi、照射パルス数Ni及び繰り返し周波数fiを含む。
【0082】
ステップS13において、レーザ加工制御部100は、レーザ装置12に調整発振を実施させる。レーザ加工制御部100は、繰り返し周波数fiで、レーザ装置12が目標パルスエネルギEtのパルスレーザ光を出力するように調整発振させる。
【0083】
ステップS14において、レーザ加工制御部100は、レーザ加工エリアが最初の加工エリアとなるように、XYZステージ74をX軸方向及びY軸方向に制御する。
【0084】
ステップS15において、レーザ加工制御部100は、マスク140の像が被加工物160の表面に結像するように、XYZステージ74をZ軸方向に制御する。
【0085】
ステップS16において、レーザ加工制御部100は、レーザ加工装置14の制御パラメータの計算と設定の処理を行う。レーザ加工装置14の制御パラメータには、レーザ加工時の制御パラメータが含まれる。具体的には、レーザ加工制御部100は、被加工物160上においてフルーエンスFiとなるように、アッテネータ120の透過率Tを計算し、求めた透過率Tを設定する。また、レーザ加工制御部100は、繰り返し周波数fiと照射パルス数Niとを設定する。
【0086】
ステップS17において、レーザ加工制御部100は、レーザ加工を実施させる制御を行う。レーザ加工時には、ステップS16にて設定された繰り返し周波数fiと照射パルス数Niの発光トリガ信号Trをレーザ加工装置14からレーザ装置12に送信することによって、繰り返し周波数fi、フルーエンスFi及び照射パルス数Niで被加工物160にパルスレーザ光が照射される。
【0087】
ステップS18において、レーザ加工制御部100は、レーザ加工のための加工対象の全てのエリアの加工を終了したか否かを判定する。
【0088】
ステップS18の判定結果がNo判定である場合、レーザ加工制御部100は、ステップS19に進む。ステップS19において、レーザ加工制御部100は、レーザ加工エリアが次の加工エリアとなるようにXYZステージ74をX軸方向及びY軸方向に制御して、ステップS17に戻る。
【0089】
レーザ加工制御部100は、加工対象の全てのエリアの加工を終了するまで、ステップS17~ステップS19を繰り返す。加工対象の全てのエリアの加工が終了し、ステップS18の判定結果がYes判定になった場合、レーザ加工制御部100は
図9のフローチャートを終了する。
【0090】
図10は、レーザ加工条件パラメータの読込処理の例を示すフローチャートである。
図10に示すフローチャートは、
図9のステップS12に適用される。
【0091】
図10のステップS31において、レーザ加工制御部100は、レーザ加工を行う際の被加工物160上でのフルーエンスFiと、照射パルス数Niと、繰り返し周波数fiとを読み込む。ここで照射パルス数Niは、2以上の整数とする。ステップS31の後、レーザ加工制御部100は
図10のフローチャートを終了して
図9のメインフローに復帰する。
【0092】
図11は、レーザ装置12の調整発振を行う際の処理内容の例を示すフローチャートである。
図11に示すフローチャートは、
図9のステップS13に適用される。
【0093】
図11のステップS41において、レーザ加工制御部100は、目標パルスエネルギEtと繰り返し周波数fiのデータをレーザ制御部28に送信する。この場合の目標パルスエネルギEtと繰り返し周波数fiは、レーザ装置12が安定して動作し得る定格のデータであることが好ましい。例えば、目標パルスエネルギEtは30mJ~100mJの範囲内の値であってよい。また、繰り返し周波数fiは、100Hz~6000Hzの範囲内の値であってよい。レーザ加工制御部100は、レーザ装置12の定格のパルスエネルギを目標パルスエネルギEtとして予め記憶している。
【0094】
ステップS42において、レーザ加工制御部100は、レーザ制御部28からパルスエネルギOK信号を受信したか否かを判定する。ステップS42の判定処理は、レーザ装置12から出力されるパルスレーザ光のパルスエネルギEと目標パルスエネルギEtとの差が許容範囲に収まっているか否かの判定に相当する。
【0095】
レーザ加工制御部100は、ステップS42の判定結果がYes判定となるまで、ステップS42を繰り返す。ステップS42の判定結果がYes判定となった場合は、レーザ加工制御部100は
図11のフローチャートを終了して、
図9のメインフローに復帰する。
【0096】
図12は、レーザ加工装置14の制御パラメータの計算と設定の処理内容の例を示すフローチャートである。
図12に示すフローチャートは、
図9のステップS16に適用される。
図12のステップS51において、レーザ加工制御部100は、レーザ加工条件時のフルーエンスFiとなるアッテネータ120の透過率Tiを計算する。
【0097】
被加工物表面のフルーエンスは以下の式(4)で表される。
【0098】
F=M-2(T・Tp・Et)/(Bx・By) (4)
式中のMは、投影光学系142の倍率を表す。Mは、例えば1/2から1/4の範囲の値であってよい。
【0099】
式中のTpは、アッテネータ120が最大透過率時のレーザ装置12から出力されたパルスレーザ光が、被加工物160に到達するまでの光学系の透過率を表す。
【0100】
式(4)からアッテネータ120の透過率Tiは、次の式(5)のように求められる。
【0101】
Ti=(M2/Tp)(Fi/Et)(Bx・By)(5)
ステップS52において、レーザ加工制御部100は、アッテネータ120の透過率TをTiに設定する。すなわち、レーザ加工制御部100は、アッテネータ120の透過率TがTiとなるように、部分反射ミラー121、122の角度を制御する。
【0102】
次に、ステップS53において、レーザ加工制御部100は、被加工物160に照射するレーザ光の条件としての繰り返し周波数fiと、照射パルス数Niとを設定する。レーザ加工制御部100は、レーザ装置12に発光トリガ信号Trを送信することによって繰り返し周波数fi、照射パルス数Niのパルスレーザ光を出力可能なように設定する。
【0103】
ステップS53の後、レーザ加工制御部100は
図12のフローチャートを終了して、
図9のメインフローに復帰する。
【0104】
2.3 課題
上述のようにレーザ加工システム10を用いて、層間絶縁層173の表面にマスク140の像を転写して、KrFエキシマレーザ光(波長248nm)でアブレーション加工したところ、次のような課題が発生した。
【0105】
図13は、高分子化合物層174なしでレーザ加工した場合のビアホール177の加工表面と断面とを観察したSEM(Scanning Electron Microscope)画像である。
図13の上段に示す画像IM1は、レーザ加工した場合のビアホール177を上面から観察した表面SEM像である。一方、
図13の下段に示す画像IM2は、集束イオンビーム(Focused Ion Beam :FIB)装置を用いてビアホール177の断面を観察した断面SEM像である。
【0106】
画像IM2における最上層に配置された保護膜179は、層間絶縁層173の切断によってビアホール177の開口形状が悪化しないようにするために、予め層間絶縁層173の表面に形成しておいた保護膜である。保護膜179は、断面観察の必要のためにレーザ加工の後に、層間絶縁層173の上に付加されたものであり、レーザ加工の際に保護膜179は存在していない。
図13の上段に示す画像IM1においては、観察対象物を切断しないため保護膜179は無い。
【0107】
図13に示すビアホール加工の場合は、層間絶縁層173の加工表面の開口の直径Dtopと層間絶縁層173底面での直径Dbtmと、層間絶縁層173の厚さhとから算出したテーパ角θbは87.0°となり、理想的な90°に対して悪化している。
【0108】
図14は、
図13に示すビアホール177の側壁の拡大図である。
図14において、層間絶縁層173底面でのテーパ角θaは、層間絶縁層173の底面からビアホール177の側壁の傾斜に沿った直線を引いて、この直線とビアホール177の底面(導体層172の主面)とのなす角度として、断面画像から計測された角度である。この断面画像から計測されたテーパ角θaの側壁傾斜角度を「角度A」という。
【0109】
その一方、
図14におけるテーパ角θbは、
図13に示したトップ径Dtopとボトム径Dbtmとから算出した角度である。テーパ角θbの側壁傾斜角度を「角度B」という。
【0110】
図15に、断面画像から計測された底面でのテーパ角θaと、表面SEM像から算出されたテーパ角θbとのそれぞれの数値の例を示す。底面でのテーパ角θaは89.1°であるのに対し、トップ径Dtopとボトム径Dbtmとから算出したテーパ角θbは87.0°であった。
【0111】
底面でのテーパ角θaと、トップ径Dtopとボトム径Dbtmとから算出したテーパ角θbとは、θa>θbの関係である。
図14から把握されるとおり、レーザ光を照射する側の層間絶縁層173の表面付近の「だれ」の影響によって、テーパ角θb(角度B)が悪化している。
【0112】
高分子化合物層174を除去した状態で層間絶縁層173にエキシマレーザ光を照射すると、ビアホール177内でレーザアブレーションの加工モードが変化する。
図14に示すように、層間絶縁層173表面付近の加工範囲は表面加工モード領域181と定義され、この部分が「だれ」の原因となる。導体層172付近の加工範囲は内部加工モード領域183と定義され、この部分はテーパ角が比較的大きくなる。表面加工モード領域181と内部加工モード領域183の間の加工範囲は加工モード変局領域182と定義される。表面加工モード領域181と加工モード変局領域182との境界位置を「変局点」という。変局点を境にして上側(表面側)と下側(底面側)とでビアホール177の側壁の勾配が大きく変わる。
【0113】
図6から
図14で説明した比較例に係るレーザ加工方法では、ビアホール177内で表面加工モード領域が発生するため角度Bは悪化する。
【0114】
3.実施形態1
3.1 構成
実施形態1に係るレーザ加工方法を実施するレーザ加工システム10の構成は、
図1に示す構成と同様であってよい。
【0115】
3.2 動作
図16から
図18を用いて実施形態1に係るレーザ加工方法を説明する。
図16は、被加工物160としての回路基板190の構成例を模式的に示す断面図である。回路基板190には導体層172、層間絶縁層173及び犠牲層176がラミネート又はコートされている。回路基板190は内層基板であり、導体層172は回路基板190の主面の一部を覆うように回路基板190上に形成される。犠牲層176は、高分子化合物層174であってもよい。層間絶縁層173の厚さは、例えば20μmであってよい。犠牲層176の厚さは、例えば40μmであってよい。
【0116】
図17は、紫外線パルスレーザ光PLによるレーザアブレーション加工の様子を示す断面図である。回路基板190の上に、導体層172と、層間絶縁層173と、犠牲層176とがこの順に積層された積層構造を備える被加工物160の犠牲層176がラミネート又はコートされている側から、犠牲層176を残したまま投影光学系142によってマスク140の像を転写して、パルスレーザ光PLを照射する。マスク140の転写像の結像位置は、犠牲層176の表面(露出している表面)と、犠牲層176と層間絶縁層173との界面との間であることが好ましく、犠牲層176と層間絶縁層173との境界付近であることがさらに好ましい。
【0117】
レーザアブレーション加工によって導体層172が露出し、層間絶縁層173にビアホール177と呼ばれる筒状の微小開口が形成されるまでパルスレーザ光PLを高繰り返し周波数で犠牲層176と層間絶縁層173とに照射する。犠牲層176へのパルスレーザ光PLの照射により犠牲層176に貫通穴178が形成され、貫通穴178を通して層間絶縁層173にパルスレーザ光PLが照射されることにより、ビアホール177が形成される。
【0118】
犠牲層176の表面から導体層172に向かって穴加工が進行する際に、犠牲層176内でレーザアブレーションの加工モードが変化する。犠牲層176に形成される貫通穴178には、表面加工モード領域201と加工モード変局領域202と内部加工モード領域203とが形成される。一方、層間絶縁層173のビアホール177には内部加工モード領域204が形成される。犠牲層176は本開示における「第1の犠牲層」の一例である。貫通穴178は本開示における「第1の貫通穴」の一例である。層間絶縁層173は本開示における「絶縁層」及び「第1の絶縁層」の一例である。ビアホール177は本開示における「開口」及び「第1のビアホール」の一例である。
【0119】
図18は、レーザアブレーション加工後に犠牲層176が除去された様子を示す断面図である。層間絶縁層173の上にラミネート又はコートされていた犠牲層176は、
図17で説明したレーザアブレーション加工の後に除去される。除去方法としては、犠牲層176を剥離してもよいし、又はエッチングしてもよい。
【0120】
実施形態1に係るレーザ加工方法の工程をまとめると以下のとおりである。
【0121】
工程1:
図16のような積層構造を持つ被加工物160を準備する。
【0122】
工程2:
図17に示すように、層間絶縁層173が犠牲層176で被覆された状態で犠牲層176の上からパルスレーザ光PLを照射してアブレーション加工を行う。
【0123】
工程3:レーザアブレーション加工の後に、
図18に示すように、犠牲層176を除去する。
【0124】
3.3 加工結果の例
層間絶縁層173の表面近傍にマスク140の像を結像させてKrFエキシマレーザ光を照射し、ビアホールを形成した。
【0125】
図19は、比較例に係るレーザ加工方法によるビアホールの加工結果と、実施形態1に係るレーザ加工方法によるビアホールの加工結果とをまとめた図表である。
図19の左側に比較例に係るレーザ加工方法による加工結果を示し、右側に実施形態1に係るレーザ加工方法による加工結果を示す。
【0126】
比較例に係るレーザ加工方法は、高分子化合物層174が無い状態、つまり犠牲層が無い状態で層間絶縁層173にパルスレーザ光を照射する加工方法である。
【0127】
比較例に係るレーザ加工方法によるビアホールの表面SEM像と断面SEM像とは
図13に示した画像IM1と画像IM2である。
【0128】
これに対し、実施形態1に係るレーザ加工方法によれば、レーザ照射後に除去される犠牲層176の表面付近において「だれ」が発生し得るものの、層間絶縁層173は内部加工モード領域204となる。
【0129】
その結果、ビアホールの表面直径(トップ径)と底の直径(ボトム径)とから求めたテーパ角θbは、比較例の87.0°から実施形態1において87.9°に改善された。
【0130】
図20は、実施形態1に係るレーザ加工方法におけるフルーエンスとテーパ角との関係を示すグラフである。
図21は、比較例に係るレーザ加工方法におけるフルーエンスとテーパ角との関係を示すグラフである。ここでは、パルスレーザ光のフルーエンスを600mJ/cm
2、800mJ/cm
2、1000mJ/cm
2にそれぞれ設定した場合に加工されたビアホールのテーパ角がプロットされている。それぞれのグラフには、目安としてテーパ角87°のラインが表示されている。
【0131】
図20と
図21とを比較すると明らかなように、
図20に示す実施形態1に係るレーザ加工方法の場合、パルスレーザ光のフルーエンスを低減しても、比較例(
図21)よりも大きなテーパ角が実現できている。特に、実施形態1においては、フルーエンスを800mJ/cm
2にしても、87°を超えるテーパ角が実現されており、フルーエンスを600mJ/cm
2に落としても、86.5°のテーパ角が実現されている。実施形態1によれば、フルーエンスの低減効果がある。実施形態1に係るレーザ加工方法において、加工時のパルスレーザ光のフルーエンスの好ましい範囲は、例えば、600mJ/cm
2~1000mJ/cm
2であり、より好ましくは、800mJ/cm
2~1000mJ/cm
2である。
【0132】
図22は、実施形態1に係るレーザ加工方法におけるフォーカス位置とテーパ角との関係を示すグラフである。
図23は、比較例に係るレーザ加工方法におけるフォーカス位置とテーパ角との関係を示すグラフである。
図22及び
図23において横軸はZ軸方向のフォーカス位置を表している。横軸の原点は層間絶縁層173の上表面である。
【0133】
図22と
図23とを比較すると明らかなように、実施形態1に係るレーザ加工方法によれば、焦点深度の変動に対してテーパ角の変動を抑制する効果がある。
【0134】
図24は、実施形態1に係るレーザ加工方法におけるフォーカス位置とビアホール径との関係を示すグラフである。
図25は、比較例に係るレーザ加工方法におけるフォーカス位置とビアホール径との関係を示すグラフである。
図24及び
図25においてはトップ径及びボトム径のそれぞれについてフォーカス位置との関係がプロットされている。図中の「TOP」はトップ径を表し、「BTM」はボトム径を表す。
図25に示す比較例に係るレーザ加工方法の場合、トップ径はフォーカス変動に対して変動が大きい。これに対し、トップ径以外、例えばボトム径などはフォーカス変動に対して変動が小さい。既述した
図23に示したように、比較例においてフォーカス変動に対してテーパ角が悪化するのは、主にトップ径の変動が原因と考えられる。
【0135】
これに対し、
図24に示すように、実施形態1に係るレーザ加工方法によれば、トップ径及びボトム径ともにフォーカス変動に対して変動が小さい。
【0136】
図24と
図25とを比較すると、実施形態1に係るレーザ加工方法によれば、フォーカス変動に対してトップ径の変動が比較例よりも小さくなる。すなわち、
図25に示す比較例の場合、フォーカスが0におけるトップ径を基準にトップ径の径マージンを0.5μmに設定した際の焦点深度はフォーカスマージンは±10μmであるのに対し、
図24に示す実施形態1の場合、同様にトップ径の径マージンを0.5μmに設定した際のフォーカスマージンは±30μmであり、実施形態1の方がフォーカスマージンが3倍大きく、加工精度が高い。
【0137】
また、実施形態1によれば、同じマスク140を使用した場合、比較例よりも加工直径(加工径)が小さくなる。層間絶縁層173の上表面におけるマスク140の転写像の直径Diは21.5μmであるのに対し、加工表面の直径Dmは18.2μmとなる。加工による変化量ΔDをΔD=Di-Dmとすると、実施形態1の場合の加工による変化量ΔDは21.5-18.2=3.3である。このような加工による変化量ΔDを見越して、目標とする加工径(目標穴直径)を実現するように、マスクパターンを設計すればよい。
【0138】
実施形態1に係るレーザ加工方法によって形成されるビアホール177の加工径は、例えば、3μm~20μmの範囲であってよい。
【0139】
3.4 効果
実施形態1に係るレーザ加工方法によれば、比較例に係るレーザ加工方法と比べて、以下の点が改善された。
【0140】
[1]ビアホールの表面直径(トップ径)と底の直径(ボトム径)とから求めたテーパ角θbは、比較例の87.0°から実施形態1において87.9°に改善された。
【0141】
[2]ビアホール加工の加工閾値が低減した。すなわち、加工に要するフルーエンスの低減効果がある。
【0142】
[3]実施形態1のように犠牲層176を有する状態でレーザ加工する場合は、レーザ加工後に犠牲層176を除去するため、犠牲層176に付着したデブリが犠牲層176とともに除去され、ビアホール周辺へのデブリの付着を抑制できる。
【0143】
[4]焦点深度の変動に対してテーパ角の変動を抑制する効果がある。
【0144】
3.5 推定原理
実施形態1に係るレーザ加工方法においては、次のような加工ステップ1~3でプロセスが進行すると考えられる。
【0145】
[加工ステップ1]
図26は、実施形態1に係るレーザ加工方法における加工ステップ1の様子を模式的に示す断面図である。加工ステップ1は、被加工物160にラミネート又はコートされた犠牲層176の表面付近でレーザアブレーション加工によりテーパ角の小さなテーパ(だれ)部を形成する過程である。
【0146】
犠牲層176の厚さHpは、少なくともテーパ角の小さなテーパ(だれ)部を形成する厚さHd以上であること(Hd≦Hp)が好ましい。
【0147】
犠牲層176の加工閾値のフルーエンスFpは、層間絶縁層173の加工閾値のフルーエンスFa以下であること(Fp≦Fa)が好ましい。
【0148】
[加工ステップ2]
図27は、実施形態1に係るレーザ加工方法における加工ステップ2の様子を模式的に示す断面図である。加工ステップ2は、犠牲層176においてパルスレーザ光PLの自己収束によるレーザアブレーション加工が行われる過程である。
【0149】
犠牲層176に加工される貫通穴178の側壁部からのパルスレーザ光PLの反射によりパルスレーザ光PLの自己収束が起こると考えられる。この自己収束の作用により、貫通穴加工中のフルーエンスが増加する。
【0150】
[加工ステップ3]
図28は、実施形態1に係るレーザ加工方法における加工ステップ3の様子を模式的に示す断面図である。加工ステップ3は、収束したパルスレーザ光PLによる層間絶縁層173のレーザアブレーション加工の過程である。
【0151】
犠牲層176の上表面に転写されるマスク140の転写像の直径(結像ビーム径)Diに比べて層間絶縁層173の入射側の加工径(トップ径)Dtopは小さくなり、Di>Dtopの関係となる。結像ビーム径Diと加工径Dtopとの差(Di-Dtop)が加工による変化量ΔDである。
【0152】
3.6 犠牲層の厚さについて
犠牲層176の厚さは、表面加工モード領域181の厚さ以上であることが好ましい。犠牲層176の必要膜厚を検討する上で、
図29に示す断面SEM像を考察する。
図29は、犠牲層なしで層間絶縁層173にパルスレーザ光を照射してビアホール加工を実施した場合の断面SEM像である。
図29に示す断面SEM像の層間絶縁層173の厚さは20μmであり、層間絶縁層173の表面から、表面加工モード領域181と加工モード変局領域182との境界の変局点Psまでの距離dsは5.7μmと算出される。この値は、SEM像上で変局点Psの位置を特定し、層間絶縁層173の表面から変局点Psまでの距離dsを断面SEM像上で計測して得られたものである。
【0153】
犠牲層176として層間絶縁層173と類似する加工現象の振る舞いを示す材料が用いられる場合、犠牲層176の必要膜厚は約5.7μmと考えられる。犠牲層176の必要膜厚は、犠牲層176の表面から貫通穴178における側壁の変局点Psまでの距離以上である。
【0154】
犠牲層176の厚さは、例えば5.7μm~40μmの範囲であってよく、好ましくは7μm~20μmの範囲である。
【0155】
3.7 加工径のシフト量について
図30は、実施形態1に係るレーザ加工方法における加工状態を模式的に示す断面図である。例えば、犠牲層176の厚さHp=40μm、だれ部の厚さHd=5.7μmとする場合、パルスレーザ光のフルーエンスが1000mJ/cm
2の照射条件では、結像ビーム径はDi=21.5μm、トップ径はDtop=18.2μmとなる。この場合の加工による変化量(シフト量)はΔD=Di-Dtop=21.5-18.2=3.3μmである。
【0156】
目標とするビアホールの穴径をDtopとし、加工による変化量ΔDを一定とすると、結像ビーム径Diは以下の式で表される。
【0157】
Di=Dtop+ΔD (6)
犠牲層176の厚さHpが40μmの場合、ΔD=3.3μmとなる。
【0158】
加工による変化量ΔDは、以下の式で表される。
【0159】
ΔD=(Di-Dm)+(Dm-Dtop)=3.3 (7)
Dm-Dtopは、式(1)より、次式(8)で表される。
【0160】
Dm-Dtop=2(Hp-Hd)/tanθb (8)
Hd=5.7μm、Hp=40μm、θb=87.9°を式(8)に代入すると、次のように計算される。
【0161】
Dm-Dtop=2(40-5.7)/tan(87.9°)=2.5
この値を式(7)に代入すると、式(9)となる。
【0162】
ΔD=(Di-Dm)+2.5=3.3 (9)
仮に、犠牲層176の厚さHdが5.7μmである場合、Dm-Dtopは0となるので、式(7)からΔD=Di-Dm=3.3-2.5=0.8μmとなる。
【0163】
図31は、目標穴直径Dtと結像ビーム直径Diとの関係を示すグラフである。
図32は、
図31に示すグラフの元データを示す図表である。ここでは、犠牲層176の厚さを5.7μmとした場合と、40μmとした場合とのデータが示されている。
図32に示す値の単位はマイクロメートル[μm]である。
【0164】
図31に示すとおり、犠牲層176の厚さが5.7μmである場合のDiとDtとの関係は、Di=Dt+0.8の式で表される。犠牲層176の厚さが40μmである場合のDiとDtの関係は、Di=Dt+3.3の式で表される。
【0165】
犠牲層176の厚さが5.7μmから40μmの範囲である場合、加工による変化量ΔDを考慮した結像ビーム直径Diの補正量は全て、これら2本の直線グラフの間に挟まれる領域に入ることになる。加工による変化量ΔDは、犠牲層176の厚さに依存する。
図31のようなグラフから目標穴直径Dtに対応する結像ビーム直径Diを求めることができる。
【0166】
4.実施形態2
4.1 構成
実施形態2に係るレーザ加工方法を使用するレーザ加工システム10の構成は、
図1に示す構成と同様であってよい。
【0167】
4.2 動作
図33から
図37を参照して実施形態2に係るレーザ加工方法を説明する。これらの図面において
図16から
図18で説明した構成と同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0168】
図33は、実施形態2において使用される層間絶縁層173の構成例を模式的に示す断面図である。犠牲層176の厚さは薄い方がパルスレーザ光の照射パルス数が少なくて済むが、薄いと平坦性が悪化したり、回路基板190へのラミネートが困難になる等の問題が生じる。
【0169】
実施形態2では、層間絶縁層173と重ねる高分子化合物層220を2層化する。すなわち、高分子化合物層220を第1の高分子化合物層221と第2の高分子化合物層222とを含む積層構造にしておき、レーザ照射時に第1の高分子化合物層221を除去する構成とする。
【0170】
図33に示すように、第1の高分子化合物層221を基材として、これを覆うように第2の高分子化合物層222と層間絶縁層173とをラミネート又はコートする。第1の高分子化合物層221及び第2の高分子化合物層222は、例えば両者ともにPET層であってよい。第2の高分子化合物層222は第1の高分子化合物層221よりも薄い構成であってよい。すなわち、第1の高分子化合物層221は、層間絶縁層173の平坦性を確保したり、取り扱い性を容易にするなどの観点から、第2の高分子化合物層222よりも厚い構成としてよい。本開示における「支持体層」の一例である。第2の高分子化合物層222は本開示における「犠牲層」及び「第1の犠牲層」の一例である。
図33に示す積層構造物は本開示における「第1の積層構造物」の一例である。
【0171】
図34は、ビアホール加工前の回路基板190の構造を例示的に示す断面図である。
図34に示すように、回路基板190上に導体層172を形成し、この導体層172を覆うように、
図33で説明した積層構造物の上下を反転させて、層間絶縁層173を導体層172の上にラミネート又はコートする。
図34に示す積層構造物は本開示における「第2の積層構造物」の一例である。
【0172】
図35は、
図34に示す状態から第1の高分子化合物層221が除去された状態を示す断面図である。
図34に示す状態から第1の高分子化合物層221を除去し、
図35に示すように、第2の高分子化合物層222を露出させる。
【0173】
図36は、紫外線パルスレーザ光PLによるレーザアブレーション加工の様子を示す断面図である。第2の高分子化合物層222がラミネート又はコートされている側から、投影光学系142によってマスク140の像を転写して、パルスレーザ光PLを照射する。マスク140の転写像の結像位置は、第2の高分子化合物層222と層間絶縁層173との境界付近が好ましい。
【0174】
図37は、レーザアブレーション加工後に第2の高分子化合物層222が除去された様子を示す断面図である。層間絶縁層173の上にラミネート又はコートされていた第2の高分子化合物層222は、
図36で説明したレーザアブレーション加工の後に除去される。第2の高分子化合物層222は剥離によって除去されてもよいし、エッチングによって除去されてもよい。
【0175】
4.3 効果
実施形態2によれば、高分子化合物層220を回路基板190へラミネートする際には、高分子化合物層220が2層構造であり、レーザ照射時は第2の高分子化合物層222の1層になる。これにより、パルスレーザ光PLの照射パルス数を抑制しつつ、取り扱い性も向上する。
【0176】
5.実施形態3
5.1 構成
実施形態3に係るレーザ加工方法を使用するレーザ加工システム10の構成は、
図1に示す構成と同様であってよい。
【0177】
5.2 動作
図38から
図45を参照して実施形態2に係るレーザ加工方法を説明する。これらの図面において
図16から
図18で説明した構成と同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。実施形態3では多層回路基板の製造方法を例示する。
【0178】
多層回路基板の製造方法は、第1のビアホール形成工程と、シード層形成工程と、レジスト形成工程と、導体層形成工程と、第1のランド形成工程と、第2の層間絶縁層及び犠牲層形成工程と、第2のビアホール形成及び犠牲層除去工程と、第2のランド形成工程とを含む。
【0179】
図38は、第1のビアホール形成工程の一例を示す断面図である。回路基板190には両面を貫通するスルーホール171が形成されており、このスルーホール171の内壁とその周辺には、両面を導通させるための第1の導体層302が形成されている。さらに、第1の導体層302と回路基板190とを覆うように第1の層間絶縁層303が形成されている。第1の導体層302及び第1の層間絶縁層303は、既述した導体層172及び層間絶縁層173に相当する要素である。第1の層間絶縁層303は本開示における「絶縁層」及び「第1の絶縁層」の一例である。
【0180】
実施形態1に係るレーザ加工方法と同様の方法を実施することによって第1の層間絶縁層303に第1のビアホール311を形成する。すなわち、図示しない犠牲層の上から紫外線パルスレーザ光を照射することにより、第1のビアホール311が形成される。第1のビアホール311は、既述したビアホール177に相当する。
図38は、ビアホール加工後に犠牲層が除去された状態を示している。
【0181】
ここでは、回路基板190の上面と下面とのそれぞれに第1の層間絶縁層303が形成され、それぞれの第1の層間絶縁層303に第1のビアホール311が形成された様子が示されているが、加工プロセスとしては、片面ずつレーザ加工が実施される。後述する他の工程(
図39~
図45)においても、同様に片面ずつ処理が実施される。
【0182】
図39は、シード層形成工程の一例を示す断面図である。第1のビアホール311を形成後、後の工程のメッキ処理における導体層(
図41中の第2の導体層324)の下地となるシード層320を形成する。
【0183】
図40は、レジスト形成工程の一例を示す断面図である。シード層320を形成後、レジスト322を全面に塗布してからマスク露光による現像を行い、所定箇所にレジスト322を残存させる。
図40には、所定箇所に残存させたレジスト322が示されている。
【0184】
図41は、導体層形成工程の一例を示す断面図である。所定箇所にレジスト322を形成後、メッキ処理によってシード層320の上に第2の導体層324を形成する。第2の導体層324は、例えばCuであってよい。
【0185】
図42は、第1のランド形成工程の一例を示す断面図である。第2の導体層324を形成後、レジスト322とシード層320とを除去し、第1の層間絶縁層303の上に独立した導体層325を形成する。この独立した導体層325のうち、ビアホール周囲に形成される導体層は「ランド」と呼ばれる。
図42に示す導体層325のランドを「第1のランド」と呼ぶ。
【0186】
図43は、第2の層間絶縁層及び犠牲層形成工程の一例を示す断面図である。第1のランドを形成後、第1の層間絶縁層303と導体層325とを覆うように第2の層間絶縁層332と犠牲層333とをラミネート又はコートする。第2の層間絶縁層332は第1の層間絶縁層303と同じ材料であってよい。第2の層間絶縁層332は本開示における「絶縁層」及び「第2の絶縁層」の一例である。犠牲層333は本開示における「第2の犠牲層」の一例である。
【0187】
図44は、第2のビアホール形成及び犠牲層除去工程の一例を示す断面図である。
図43に示す積層構造に対して、犠牲層333を残存させた状態でパルスレーザ光を照射して、第1のランドの一部が露出する第2のビアホール342を形成する。なお、
図44には示さないが犠牲層333にパルスレーザ光が照射されることにより、犠牲層333に第2の貫通穴が形成され、第2の貫通穴を通じて第2の層間絶縁層332にパルスレーザ光が照射される。第2の層間絶縁層332に第2のビアホール342が形成された後、犠牲層333を除去する。
図44には、犠牲層333が除去された状態が示されている。第2のビアホール342の穴径は、第1のビアホール311の穴径よりも小さい。
【0188】
図45は、第2のランド形成工程の一例を示す断面図である。第2のビアホール342を形成後、上述したシード層形成工程、レジスト形成工程、導体層形成工程及び第1のランド形成工程と同様の工程を実施し、第2の層間絶縁層332の上に第2のランドを有する導体層345を残存形成させる。
【0189】
5.3 効果
一般に多層回路基板の場合、各層で求められるビアホールの径は、回路基板からの距離に反比例して小さくなる傾向にある。また、積層が進むと焦点深度も変動するため、回路基板から遠い上層に形成されるビアホールほどテーパ角が悪化していく傾向にある。
【0190】
この点、実施形態3に係る方法によって製造される多層回路基板では、各層のビアホールの形成に際して常に犠牲層で層間絶縁層を被覆した状態でレーザを照射するため、何れの層にも良好なテーパ角のビアホールを形成することができる。
【0191】
図46から
図50の例を示しながら比較例と対比して実施形態3による効果を更に説明する。
図46は、ビルドアップ基板の表面の段差のイメージを模式的に示す断面図である。コアとなる回路基板190の上に複数の層を積み重ねて多層化していくと加工物360の表面がうねってくる。それにより、表面でのフォーカス位置が変動する。
【0192】
図47及び
図48は、比較例に係るレーザ加工方法を実施した場合の加工結果を示している。
図47は、犠牲層なしの状態でレーザ加工を実施した場合の加工イメージを模式的に示す断面図である。
図48は、比較例に係るレーザ加工方法によるフォーカス位置とビアホールの径との関係を示すグラフである。
【0193】
積層が進んで層間絶縁層の表面のうねりが大きくなると、ベストフォーカス位置から大きくずれた距離に表面位置を有する層間絶縁層に対してビアホールを形成しなければならない場合が生ずる。このような状態で、比較例に係るレーザ加工方法によって(犠牲層なしの状態で)層間絶縁層にレーザ光を照射すると、ベストフォーカス位置からずれた距離の絶対値に大きく依存して変動するトップ径のビアホールが形成されてしまう。
【0194】
図47において、ベストフォーカス位置でレーザ光が照射される場合に得られるビアホールのトップ径をDtop(0)、ボトム径をDbtm(0)として示す。
図47において、ベストフォーカス位置よりも上方(+Z軸方向)に表面位置がある場合に形成されるビアホールのトップ径をDtop(+)、ボトム径をDbtm(+)として示す。
図47において、ベストフォーカス位置よりも下方(-Z軸方向)に表面位置がある場合に形成されるビアホールのトップ径をDtop(-)、ボトム径をDbtm(-)として示す。
【0195】
図47に示すように、層間絶縁層の表面がZ軸方向にうねると、表面でのフォーカスずれが発生し、このフォーカスずれによりビアホールの径寸法、特にトップ径の寸法が大きくなる。
【0196】
図48に示すように、フォーカス位置の変化に対してビアホールのボトム径の変動は比較的小さいが、トップ径の変動は比較的大きいため、ビアホールのテーパ角θは悪化する。
【0197】
図49及び
図50は、実施形態3に係るレーザ加工方法を実施した場合の加工結果を示している。
図49は、犠牲層有りの状態でレーザ加工を実施した場合の加工イメージを模式的に示す断面図である。
図50は、実施形態3に係るレーザ加工方法によるフォーカス位置とビアホールの径との関係を示すグラフである。フォーカスずれが発生してもトップ径の寸法がほぼ一定である。また、フォーカス位置(表面位置)がベストフォーカス位置からずれてもボトム径の寸法はほぼ一定である。このように、犠牲層有りの状態でビアホール加工を行うことにより、フォーカス位置のずれに対するマージンが大きくなる。
【0198】
すなわち、犠牲層を残してレーザ光を照射した場合、ベストフォーカス位置からのズレ距離に依存性の小さいトップ径が形成される。同時にビアホールのボトム径の変動は小さいため、積層数が多い場合の回路基板190でも良好なテーパ角θ(形状)のビアホールを形成することができる。
【0199】
5.4 変形例
実施形態3では、第1のビアホール311と第2のビアホール342とを形成する例を説明したが、同様の工程を繰り返してさらに多層化してもよい。また、実施形態3では、内層基板となる回路基板190の両面に層間絶縁層を積層する例を説明したが、回路基板190の片面のみに層間絶縁層を積層する形態も可能である。
【0200】
6.実施形態4
6.1 構成
図51は、実施形態4に係るレーザ加工システム10に用いられるマスク140のマスクパターンの例を示す平面図である。
図52は、
図51に示すマスク140の側面図である。マスク140は、合成石英基板440に遮光膜442が積層された構造である。遮光膜442には、ビアホール加工のための光透過部に対応したマスクパターンが形成されている。遮光膜442は、例えばアルミ膜であってよく、アルミ膜に重ねて、図示しない保護膜をコートしてもよい。
【0201】
図53は、
図51中の四角形で囲んだA領域の拡大図である。
図54は、
図53の54-54線における断面図である。目標の穴直径Dtでビアホール加工するためには、マスク140からレーザ光が透過する穴径(透過直径)Drを補正する。
【0202】
投影光学系の倍率をMとすると、マスクパターンの穴径Drは以下の式で与えられる。
【0203】
Dr・M=Di (10)
また、既述の式(6)から次式(11)の関係がある。
【0204】
Dt≒Dtop=Di-ΔD (11)
式(10)と式(11)とから、次式(12)となる。
【0205】
Dr=(Dt+ΔD)/M (12)
よって、マスクパターンの穴径Drは、式(12)の径となるように製作することが好ましい。
図31の例によれば、ΔDは、犠牲層の厚さに応じて0.8μm~3.3μmの範囲で定められる値である。
【0206】
なお、マスクパターンの光の透過直径の中心位置は、補正なしでよく、投影光学系の倍率がMである場合、1/M倍でマスクパターンの光の透過直径の中心位置とする。
【0207】
6.2 動作
実施形態4に係るレーザ加工システム10の動作は、実施形態1で説明した動作と同様である。
【0208】
6.3 効果
マスクパターンの穴径を補正したマスク140で加工することにより、所望のビアホールの穴径で加工することが可能となる。
【0209】
7.層間絶縁層の材料の例
層間絶縁層としては、回路基板に適するものであれば、特に制限なく使用でき、例えば、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド-トリアジン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ビニルベンジル樹脂等の熱硬化性樹脂にその硬化剤を少なくとも配合した組成物が使用される。当該組成物は熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を含有する組成物が好ましく、例えば、エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂及び硬化剤を含有する組成物が好ましい。また、味の素ビルドアップフィルム(登録商標)でもよい。
【0210】
8.犠牲層の材料の例
犠牲層に適用される材料としては、特に限定はされないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC)、アクリル(PMMA)、環状ポリオレフィン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルサルファイド(PES)、ポリエーテルケトン、ポリイミドなどが挙げられる。中でも、ポリエチレンテレフタレート層、ポリエチレンナフタレート層等のポリエステル層が好ましく、特に安価なポリエチレンテレフタレート層が好ましい。犠牲層は、マッド処理、コロナ処理を施してあってもよい。
【0211】
また、犠牲層には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロアルキルビニルエーテルとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー(EPE)、テトラフルオロエチレンとエチレンまたはプロピレンとのコポリマー(ETFE)、フッ素系樹脂(例えば、フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)、フッ化ビニル系樹脂(PVF)等)の層を用いることができる。
【0212】
9.パルスレーザ光の照射条件の例
実施形態1~4ではKrFエキシマレーザ光(波長248nm)を用いる例を説明したが、パルスレーザ光はこの例に限らず、他の紫外線波長のレーザ光であってもよい。例えば、波長193nmのArFエキシマレーザ光、又は波長308nmのXeClエキシマレーザ光などを用いてもよい。
【0213】
パルスレーザ光の照射条件は、被加工物160に応じて適宜決定される。パルスレーザ光の繰り返し周波数に関して、
図19では4000Hzを例示したが、繰り返し周波数はこの例に限らない。繰り返し周波数の好ましい範囲は、例えば400Hz~6000Hzである。
【0214】
パルスレーザ光のパルス幅に関して、
図19では20nsを例示したが、パルス幅はこの例に限らない。パルス幅の好ましい範囲は、例えば10ns~60nsである。
【0215】
照射パルス数に関して、
図19では180パルス[pls]を例示したが、照射パルス数はこの例に限らない。例えば、厚さ5.7μmのPETの犠牲層176に貫通穴を形成する場合、フルーエンス1000mJ/cm
2での照射パルス数は10パルスである。犠牲層176の厚さが5.7μm以上である場合、犠牲層176に貫通穴を形成するために犠牲層176に照射されるパルスレーザ光のパルス数は10パルス以上となる。
【0216】
10.回路基板製造方法について
実施形態1~4で説明したレーザ加工方法によって被加工物160にビアホールを形成した後、複数の工程を経ることで回路基板を製造でき、さらに回路基板を含む電子デバイスを製造できる。また、実施形態1~4で説明したレーザ加工方法は、回路基板のビアホール加工に限らず、様々な用途の穴加工に応用できる。なお、ビアホールの代わりに形成される穴は貫通穴に限らず、有底穴であってもよい。
【0217】
11.その他
上記の説明は、制限ではなく単なる例示を意図している。したがって、特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかである。また、本開示の実施形態を組み合わせて使用することも当業者には明らかである。
【0218】
本明細書及び特許請求の範囲全体で使用される用語は、明記が無い限り「限定的でない」用語と解釈されるべきである。例えば、「含む」、「有する」、「備える」、「具備する」などの用語は、「記載されたもの以外の構成要素の存在を除外しない」と解釈されるべきである。また、修飾語「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。また、「A、B及びCの少なくとも1つ」という用語は、「A」「B」「C」「A+B」「A+C」「B+C」又は「A+B+C」と解釈されるべきである。さらに、それらと「A」「B」「C」以外のものとの組み合わせも含むと解釈されるべきである。