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特許7580961マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法及びマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉
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  • 特許-マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法及びマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法及びマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/34 20060101AFI20241105BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
H01F1/34 180
C01G51/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020127712
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2022024885
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】山地 秀宜
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌大
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-250823(JP,A)
【文献】特開平11-354972(JP,A)
【文献】特開2006-137653(JP,A)
【文献】特開昭61-136923(JP,A)
【文献】特開平02-033723(JP,A)
【文献】国際公開第2014/163079(WO,A1)
【文献】特開2003-228811(JP,A)
【文献】特開平08-026731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/34
C01G 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法であって、
鉄、バリウム、金属元素B1、金属元素B2及び金属塩化物を含む原料粉末を混合して原料混合物を得る原料混合工程と、
前記原料混合物を焼成して焼成品を得る焼成工程と、
前記焼成品を粉砕して前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を得る粉砕工程と、を含み、
前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は組成式BaFe(12-x)(B10.5B20.519で表され、前記金属元素B1はTi及びZrからなる群より選択される1種又は2種であり、前記金属元素B2はCo、Mn、Cu、Mg、Zn及びNiからなる群より選択される1種又は2種以上であり、前記組成式における組成比xは0.1~2.6であり、
前記焼成工程において、前記原料混合を充填する焼成用容器に蓋をしてから焼成することを特徴とするマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項2】
前記組成比xは1.0~1.4である、請求項1に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程において、ガス滞留空間における単位体積当たりのClの質量が5.0g/L以上である、請求項1又は2に記載の、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法により得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉と樹脂とを混練した後に成形することを特徴とする、電波吸収体の製造方法。
【請求項5】
組成式BaFe(12-x)(B10.5B20.519で表され、
金属元素B1はTi及びZrからなる群より選択される1種又は2種であり、
金属元素B2はCo、Mn、Cu、Mg、Zn及びNiからなる群より選択される1種又は2種以上であり、
前記組成式における組成比xは1.0~1.4であり、
結晶子径が120nm以上であることを特徴とする、
マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【請求項6】
請求項5に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉と樹脂とを含む、電波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法及びそれにより得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信技術の高度化に伴い、GHz帯域の電波が種々の用途で使用されるようになってきた。このような高周波技術を用いる用途としては、例えば携帯電話、無線LAN、衛星放送、高度道路交通システム、ノンストップ自動料金徴収システム(ETC)、自動車走行支援道路システム(AHS)などが挙げられる。このように高周波域での電波利用形態が多様化すると、電子部品同士の干渉による故障、誤動作、機能不全などが懸念され、そのEMC対策が重要となってくる。その1つとして、電波吸収体を用いて不要な電波を吸収し、電波の反射および侵入を防ぐ方法が有効である。
【0003】
特許文献1にはAFe(12-x)(B10.5B20.519で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライトを用いた電波吸収体において、15GHz等で吸収ピークを有する電波吸収体が開示されている。また同文献には、電波吸収体の厚さに依らない電波吸収特性が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-137653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、様々な用途に応じて周波数帯が割り振られ、各周波数帯に対応する電波吸収体が開発されている。また、特に最近において第5世代移動通信システム(5G)では、数十ギガHzの高周波帯域を通じて通信が行われるようになり、スマートフォンなど携帯用機器で利用され始めている。そして、新たな利用帯域については、これまで利用されていない周波数帯の電波を活用することが必須となり、その中には28GHz帯域の周波数帯があり、対応する電波吸収体の開発も同時に検討されている。しかしながら、既存の素材と同様の製法で作製された素材では所望の特性が得られず、これまでに28GHz帯の周波数において十分な電波吸収能を有する素材は得られていなかった。
【0006】
したがって、本発明はこのような従来の問題点に対し、28GHz帯域の電波吸収能に優れた電波吸収体の材料として使用するのに適したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法及びそれにより得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した。そして、電波吸収体の共鳴周波数は組成に固有の値であり、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉においても、各置換元素及び置換割合により異なる共鳴周波数を示すところ、BaFe(12-x)(B10.5B20.519で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉において、焼成時に金属塩化物を添加した場合に28GHz帯に共鳴周波数を持つことを確認した。また、このようにして製造したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は結晶子径を大きくすることができるために、同組成においても28GHz帯で優れた電波吸収能が実現できることを確認した。すなわち本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0008】
(1)マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法であって、
鉄、バリウム、金属元素B1、金属元素B2及び金属塩化物を含む原料粉末を混合して原料混合物を得る原料混合工程と、
前記原料混合物を焼成して焼成品を得る焼成工程と、
前記焼成品を粉砕して前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を得る粉砕工程と、を含み、
前記マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は組成式BaFe(12-x)(B10.5B20.519で表され、前記金属元素B1はTi及びZrからなる群より選択される1種又は2種であり、前記金属元素B2はCo、Mn、Cu、Mg、Zn及びNiからなる群より選択される1種又は2種以上であり、前記組成式における組成比xは0.1~2.6であることを特徴とするマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【0009】
(2)前記組成比xは1.0~1.4である、前記(1)に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【0010】
(3)前記焼成工程において、ガス滞留空間における単位体積当たりのClの質量が5.0g/L以上である、前記(1)又は(2)に記載の、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【0011】
(4)前記(1)~(3)のいずれか一項に記載の製造方法により得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉と樹脂とを混練した後に成形することを特徴とする、電波吸収体の製造方法。
【0012】
(5)組成式BaFe(12-x)(B10.5B20.519で表され、
金属元素B1はTi及びZrからなる群より選択される1種又は2種であり、
金属元素B2はCo、Mn、Cu、Mg、Zn及びNiからなる群より選択される1種又は2種以上であり、
前記組成式における組成比xは0.1~2.6であり、
結晶子径が100nm以上であることを特徴とする、
マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0013】
(6)前記組成比xが1.0~1.4である、前記(4)に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0014】
(7)前記結晶子径が120nm以上である、前記(5)又は(6)に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉。
【0015】
(8)前記(5)~(7)のいずれか一項に記載のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉と樹脂とを含む、電波吸収体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、28GHz帯域の電波吸収能に優れた電波吸収体の材料として使用するのに適したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態による製造フローを説明する図である。
図2A】本発明の一実施形態による焼成工程における、焼成用容器の蓋をしていない場合のガス滞留空間の状況を示した図である。
図2B】本発明の一実施形態による焼成工程における、焼成用容器の蓋をした場合のガス滞留空間の状況を示した図である。
図3】実施例1~4の27GHz~30GHzの周波数領域における透過減衰量S21を示したプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書における結晶子径とは、X線回折測定により求めることができる結晶子径Dxであり、後述の実施例においてもX線回折測定を採用した。なお、結晶子径Dxはマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の組織内において単結晶の大きさを示し、粒子の大きさを示す粒子径とは異なる。また、得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の組成比は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法により決定した。
【0019】
図1を参照しつつ、本発明に従うマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の製造方法を説明する。この製造方法は鉄、バリウム、金属元素B1、金属元素B2及び金属塩化物をそれぞれ含む原料粉末を混合して原料混合物を得る原料混合工程と、原料混合物を焼成炉で焼成して焼成品を得る焼成工程と、を少なくとも含む。以下、各構成及び各工程の詳細を順次説明する。
【0020】
(原料混合工程)
まず、原料混合工程としては、組成式BaFe(12-x)(B10.5B20.519で表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の原料として、鉄、バリウム、金属元素B1、金属元素B2及び金属塩化物を含む原料粉末を混合して原料混合物を得る。原料粉末は特に限定されないが、BaCO、Fe、TiO、ZrO、MnO、CuO、NiO、MgO、Co及びZnO等の粉末を用いることができ、金属塩化物としてはBaCl又はBaCl・2HO等の粉末を用いることができる。また、原料粉末を混合する方法は特に限定されず、ヘンシェルミキサー等の公知の混合装置により混合を実施することができる。
【0021】
また、得られた原料混合物を造粒して成形体を得る工程を設けても良い。造粒方法は特に限定されず、任意の方法によりペレット状に成形することができる。造粒した成形体が水分を含んでいる場合は、その後にさらに乾燥工程を設けても良い。
【0022】
(焼成工程)
次いで、得られた原料混合物を、任意の焼成炉で1150~1400℃の温度で焼成する。このとき、原料混合物中のClの含有量を、原料混合物が接触する雰囲気中のCl濃度が0.5g/L以上となるような量にして焼成するのが好ましく、5.0g/L~10.0g/Lとなるような量にして焼成するのがさらに好ましい。ここで図2Aを参照する。例えば箱型焼成炉20を用いる場合においては、焼成用容器10に原料を充填することができる。また、図2Bを参照すると焼成用容器10に蓋12をすることで焼成時のガス滞留空間を焼成用容器10の焼成用容器内空間15とすることができる。また、焼成炉内に直接原料を投入する場合においては、炉内空間がガス滞留空間となる。焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸化性雰囲気としては、大気、酸素、酸素および窒素の混合ガス、酸素および希ガスの混合ガス等の雰囲気とすることが好ましい。
【0023】
(粉砕工程)
次に、得られた焼成品を粉砕工程において焼成品を粉砕して、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を得る。粉砕工程では、粗粉砕及び微粉砕を行ってもよい。ここで粗粉砕とは焼成品を解砕することであり、ハンマーミルによる衝撃粉砕など任意の粉砕方法を用いることができる。また、微粉砕とは粗粉砕後の焼成品をさらに微細な状態にすることであり、アトライターによる湿式粉砕など任意の方法を用いることができる。湿式粉砕後のスラリーは任意の方法で固液分離及び乾燥をすることにより、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を得ることができる。
【0024】
また、粉砕工程で得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉に対し、任意にアニール処理を行ってもよく、任意の熱処理方法で大気中において900℃~1000℃の温度で熱処理することができる。
【0025】
ここで、本実施形態において、金属塩化物を添加して焼成することの技術的意義について、図2A及び図2Bを参照しつつ詳細を説明する。
【0026】
<金属塩化物の添加>
本実施形態による製造方法では混合工程において、原料粉末に金属塩化物を添加する。金属塩化物を添加することの理論的背景が解明された訳ではなく、また、本発明は理論に束縛されるものではないものの、本発明者らは本発明の作用効果を以下の理由であると考えている。すなわち、原料に金属塩化物として例えばBaClを添加して焼成すると、焼成工程で原料混合物からBaClが気化し、原料混合物が接触する雰囲気中のCl濃度が高くなる。また、気化と液化とは平衡反応であるため、雰囲気中のCl濃度が高くなれば、固体のBaClがそれ以上気化(揮発)し難くなり、揮発せずに原料混合物中に残存するBaClの量が多くなると考えられる。そして、このBaClが原料混合物中において溶液(フラックス)として有効に機能することにより、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の結晶が成長して結晶子径Dxが大きくなると考えられる。なお、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の原料粉末中の金属塩化物(例えばBaCl・2HO)粉末の含有量は、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の結晶成長の観点から、(BaCl・2HO粉末の場合はBaCl換算で)0.1質量%以上であるのが好ましい。一方、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の原料粉末中の金属塩化物粉末の含有量が高過ぎると、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉中にClが残存してしまうため好ましくない。したがって、原料粉末中の金属塩化物の含有量は20質量%以下であるのが好ましく、0.5~10質量%であるのがさらに好ましい。また、金属塩化物としては、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の2価金属サイトに入りうる元素という観点から、Ba、Sr、Pbの任意の塩化物を用いることができる。
【0027】
<ガス滞留空間>
上述のように、本発明においては、焼成工程における焼成雰囲気が本発明の特徴部分である。そして焼成工程においてガス滞留空間とは、焼成時に原料混合物が存在する空間において、実質的に外部と直接ガス交換することのない空間を指す。焼成時に反応に影響するガスが発生する場合、このガス滞留空間の大きさにより、実質的に原料混合物が暴露される雰囲気のガス濃度が変化することになる。すなわち、同じガス発生量においても、ガス滞留空間が大きければガス濃度は小さくなり、逆にガス滞留空間が小さければ、ガス濃度は大きくなる。したがって図2Aで説明する本実施形態においては、焼成用容器10に蓋12をせずに原料混合物を造粒して得られた成形体30を充填して箱型焼成炉20で焼成した場合は、箱型焼成炉内空間25がガス滞留空間となり、図2Bのように蓋12をして焼成した場合は焼成用容器10の焼成用容器内空間15がガス滞留空間となる。また、ガス滞留空間を制限することで、成形体30中の金属塩化物の含有量を変えずに、ガス滞留空間におけるCl量を上げることができる。このため、ガス滞留空間を小さくすることは原料粉末中の金属塩化物含有量が高いと好ましくない場合において特に有効な手段である。なお、ガス滞留空間は、大気開放されず焼成時に塩化物雰囲気で熱処理することが出来る空間であればよいため、焼成工程で用いる炉の形状や熱処理方式及び原料混合物の充填方法は特に限定されない。例えば、大型の焼成炉を用いて原料混合物を炉内に直接充填する場合には、炉内空間をガス滞留空間ということができる。
【0028】
こうして得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は、28GHz帯域のミリ波の電波吸収体の材料として優れた電波吸収能を有する。
【0029】
(電波吸収体の作製)
また、得られたマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は、樹脂と混練することにより電波吸収体を製造することができる。この電波吸収体は、用途に応じて様々な形状にすることができるが、シート状の電波吸収体(電波吸収体シート)を作製する場合には、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を樹脂と混練して得られる電波吸収体素材(混練物)を圧延ロールなどにより所望の厚さ(好ましくは0.1~4.0mm、さらに好ましくは0.2~2.5mm)に圧延すればよい。
【0030】
次に、上記製造方法により得られるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉について説明する。
【0031】
本発明によるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉は、組成式BaFe(12-x)(B10.5B20.519で表され、金属元素B1はTi及びZrからなる群より選択される1種又は2種であり、金属元素B2はCo、Mn、Cu、Mg、Zn及びNiからなる群より選択される1種又は2種以上であり、組成式における組成比xは0.1~2.6であり、結晶子径が100nm以上である。
【0032】
<粒径及び結晶子径>
本発明によるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の結晶子径は、X線回折測定により求めることができることは先に述べたとおりである。ここで結晶子径Dxは100nm以上であり、120nm~150nmであることが好ましい。またマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができ、体積基準の累積50%粒径(D50)の指標では5.5μm以下であるのが好ましい。マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を使用した電波吸収体シートの薄層化を図ることもできるため、体積基準の累積50%粒径(D50)を1.0μm~5.2μmの範囲であるのがさらに好ましく、1.0μm~5.0μmの範囲であるのが最も好ましい。
【0033】
このマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉のBET比表面積は、2.0m/g以下であるのが好ましく、0.5m/g~2.0m/gであるのがさらに好ましい。また、BET比表面積と体積基準の累積50%粒径(D50)との積(BET×D50)は5.0μm・m/g以下であるのが好ましく、4.5μm・m/g以下であるのがさらに好ましく、1.0μm・m/g~4.5μm・m/gであるのが最も好ましい。この積(BET×D50)が5.0μm・m/g以下であれば、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の保磁力Hcを高く維持しながら、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を使用した電波吸収体シートの透過減衰量を高く(電波吸収能を高く)することができる。また、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の粒度分布において(最も頻度の高い粒径である)ピーク粒径が10.0μm以下であるのが好ましく、8.0μm以下であるのがさらに好ましく、1.0μm~7.0μmであるのが最も好ましい。
【0034】
(電波吸収体の作製及び評価)
また、上述した実施の形態のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を樹脂と混練することにより、電波吸収体を製造することができる。この電波吸収体は、用途に応じて様々な形状にすることができるが、シート状の電波吸収体(電波吸収体シート)を作製する場合には、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を樹脂と混練して得られる電波吸収体素材(混練物)を圧延ロールなどにより所望の厚さ(好ましくは0.1~4.0mm、さらに好ましくは0.2~2.5mm)に圧延すればよい。また、電波吸収体素材(混練物)中のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉の含有量は、28GHz帯域の電波吸収能に優れた電波吸収体を得るために、70~95質量%であるのが好ましい。また、電波吸収体素材(混練物)中の樹脂の含有量は、電波吸収体素材(混練物)中にマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉を十分に分散させるために、5~30質量%であるのが好ましい。また、電波吸収体素材(混練物)中のマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉と樹脂の合計の含有量は99質量%以上であるのが好ましい。ここで、電波吸収体として優れた電波吸収能というには、該当周波数における透過減衰量が、10dB以上であることが好ましく、12dB以上であることがさらに好ましい。
【実施例
【0035】
以下、本発明によるマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0036】
[実施例1]
まず、原料粉末として純度99質量%のBaCOを1484gと、純度99質量%のFeを6491gと、純度99.9質量%のTiOを358gと、純度99.9質量%のCo180gと、純度99.9質量%のZnOを182gと、純度99質量%のBaCl・2HOを222g秤量した。次に秤量した原料粉末全てをヘンシェルミキサーで混合し、その後さらに振動ミルを用いて乾式法で混合した。なお、この原料粉末中のClの質量は64gである。このようにして得られた原料混合物をペレット状に造粒して成形体を得た後、幅:310mm、奥行き:310mm、高さ:100mm、内部の底面積:300mm×300mm=900cmで、内容積:300mm×300mm×100mm=9000cmの焼成用容器を用意し、得られた成形体9000gを焼成用容器に充填した。用意した焼成用容器に蓋をして、常温大気中で幅:500mm、奥行き:530mm、高さ:720mmで内容積191Lの箱型焼成炉内に入れ、1279℃で4時間保持して焼成して、焼成品を得た。ここで、焼成用容器に充填した成形体中の塩化物中のCl量として換算したCl質量は64gであり、ガス滞留空間におけるCl量は、焼成用容器の内容積(L)に対する成形体中のClの質量(g)であり、7.17g/Lである。そして、この焼成品をハンマーミルで粉砕した後、得られた粗粉を、溶媒として水を使用したアトライターにより10分間湿式粉砕した。得られたスラリーを固液分離し、得られたケーキを乾燥させ、解砕してマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉(以下、単に「磁性粉」という)を得た。なお、得られた磁性粉がマグネトプランバイト型六方晶フェライトであることは、後述するとおり粉末X線回折装置により確認した。
【0037】
このようにして得られた磁性粉について、BET比表面積、粒度分布及びX線回折(XRD)測定による結晶子径Dxを求めた。
【0038】
磁性粉のBET比表面積は、比表面積測定装置(株式会社マウンテック製のMacsorb model-1210)を用いて、BET1点法で測定した。その結果、磁性粉のBET比表面積は0.87m/gであった。
【0039】
磁性粉の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日本電子株式会社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS))を用いて、分散圧1.7barで乾式分散させて測定した。平均粒径として体積基準の累積50%粒子径(D50)を求めたところ、4.99μmであった。また、BET比表面積と体積基準の累積50%粒子径(D50)との積は4.35μm・m/gであった。
【0040】
磁性粉のX線回折測定は、粉末X線回折装置(株式会社リガク製の水平型多目的X線回折装置Ultima IV)を使用して、線源をCuKα線、管電圧を40kV、管電流を40mA、測定範囲を2θ=10°~75°として、粉末X線回折法(XRD)により行った。このX線回折測定の結果、得られた磁性粉は、マグネトプランバイト型六方晶フェライトであることが確認された。
【0041】
また、得られた磁性粉の組成は、任意の方法により測定することができるが、本発明においては誘導結合プラズマ発光分光分析装置(アジレントテクノロジー製ICP-720ES)により組成分析を行った。得られた組成比は仕込み量の割合から推定される量とも整合する値であり、組成式BaFe(12-x)(Ti0.5Co0.25Zn0.25)xO19(x=1.20)で表される組成であった。この結果は、以下に説明する実施例2~4でも同様であった。
【0042】
ここで、磁性粉の結晶子径Dxは、Scherrerの式(Dx=Kλ/βcosθ)によって求めた。この式中、Dxは結晶子径の大きさ(オングストローム)、λは測定X線の波長(オングストローム)、βは結晶子の大きさによる回折線の広がり(rad)(半価幅を用いて表す)、θは回折角のブラッグ角(rad)、KはScherrer定数(K=0.94とした)である。なお、計算には回折角2θ=34.0°~34.8°における(114)面のピークデータを使用した。その結果、磁性粉の(114)面から求まる結晶子径Dxは123.3nmであった。
【0043】
また、磁性粉の磁気特性は、振動試料型磁力計(VSM)(東英工業株式会社製のVSM-7P)を使用して、印加磁場1193kA/m(15kOe)でB-H曲線を測定し、保磁力Hc、飽和磁化σs、角形比SQの評価を行った。その結果、保磁力Hcは31kA/m(393Oe)、飽和磁化σsは63.9Am/kg、角形比SQは0.186であった。
【0044】
(電波吸収特性の評価)
こうして得られた磁性粉をその含有量が80質量%となるように高分子基材としてニトリルゴム(NBR、JRS製のN215SL)を用いて混練して、電波吸収体素材(混練物)を作製した。さらにこの電波吸収体素材を圧延ロールにより厚さ2mmに圧延して、電波吸収体シートを得た。
【0045】
得られた電波吸収体シートについて、自由空間測定装置(キーコム株式会社製)とベクトルネットワークアナライザ(アンリツ株式会社製のME7838A)を用いて、電波吸収特性を測定した。その結果、自由空間法による、S21パラメータによって透過する電磁波の強度を電磁吸収特性として測定したところ、28GHzの周波数において透過減衰量は13.1dBとなり、30GHzの周波数における透過減衰量は、12.4dBとなった。
【0046】
[実施例2]
実施例1で得られた磁性粉をさらに950℃の温度で1時間アニールした以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。評価結果を表2に示す。
【0047】
[実施例3]
実施例1に記載の、原料混合物を造粒して得られた成形体2000gを焼成用容器に充填して、蓋をしないで焼成した以外は、実施例1と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。したがって、ここでは焼成用容器に充填した成形体中の塩化物中のCl量として換算したCl質量は14gであり、ガス滞留空間におけるCl量は、焼成炉の内容積(L)に対する成形体中のClの質量(g)であり、0.08g/Lである。評価結果を表2に示す。
【0048】
[実施例4]
実施例3で得られた磁性粉をさらに950℃の温度で1時間アニールした以外は、実施例3と同じ条件で磁性粉を作製し、実施例1と同じ条件で評価した。評価結果を表2に示す。
【0049】
これらの実施例で得られた磁性粉の製造条件及び特性と電波吸収体シートの特性を表1及び表2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表2及び図3の結果から、実施例1~実施例4において、28GHz、30GHzいずれの透過減衰量においても10dB以上の優れた電波吸収特性を有していることが分かる。また、焼成工程において蓋をしなかった実施例3及び4に比べて、蓋をして焼成した実施例1及び2の方が、28GHz~30GHzにおける透過減衰量が大きいが、これは結晶子径の傾向と併せて考えると、実施例1及び2では、蓋をして焼成をしたことにより、ガス滞留空間中のCl量が大きくなることにより結晶子径が大きくなり、減衰量が大きくなったと考えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、28GHz帯域の電波吸収能に優れた電波吸収体の材料として使用するのに適したマグネトプランバイト型六方晶フェライト磁性粉及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 焼成用容器
12 蓋
15 焼成用容器内空間
20 箱型焼成炉
25 箱型焼成炉内空間
30 成形体
図1
図2A
図2B
図3