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特許7581279電極構造体、及びそれを含む全固体二次電池
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  • 特許-電極構造体、及びそれを含む全固体二次電池 図1
  • 特許-電極構造体、及びそれを含む全固体二次電池 図2A
  • 特許-電極構造体、及びそれを含む全固体二次電池 図2B
  • 特許-電極構造体、及びそれを含む全固体二次電池 図3
  • 特許-電極構造体、及びそれを含む全固体二次電池 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】電極構造体、及びそれを含む全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20241105BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20241105BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241105BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241105BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241105BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20241105BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241105BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241105BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241105BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20241105BHJP
   H01M 50/586 20210101ALI20241105BHJP
   H01M 50/593 20210101ALI20241105BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/133
H01M4/134
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M10/0587
H01M50/586
H01M50/593
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022076171
(22)【出願日】2022-05-02
(65)【公開番号】P2022173135
(43)【公開日】2022-11-17
【審査請求日】2022-05-02
(31)【優先権主張番号】10-2021-0058767
(32)【優先日】2021-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】金 洪廷
(72)【発明者】
【氏名】柳 永均
(72)【発明者】
【氏名】尹 在久
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲ミン▼錫
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-106154(JP,A)
【文献】特開2020-024922(JP,A)
【文献】国際公開第2006/046534(WO,A1)
【文献】特開2005-123150(JP,A)
【文献】特開2018-206469(JP,A)
【文献】特開2019-153535(JP,A)
【文献】特開2020-027742(JP,A)
【文献】国際公開第2019/103008(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152565(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562-10/0587
H01M 4/13-4/62
H01M 50/586
H01M 50/593
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層、負極層、及び前記正極層と前記負極層との間に配された固体電解質層を含む電極構造体であり、
前記正極層は、正極集電体、及び前記正極集電体の少なくとも一面に配された正極活物質層を含み、
前記負極層は、負極集電体、及び前記負極集電体の少なくとも一面に配された負極活物質層を含み、
前記固体電解質層は、幅方向の両端部に、前記固体電解質層幅の2%以下の余裕分を有し、
前記正極層、前記負極層及び前記固体電解質層を一体に取り囲む両側面に、4.0GPa超過の保存弾性係数(E’)を有する絶縁層を含み、
前記絶縁層が高分子、または高分子と無機材との複合体を含み、
前記高分子が、フッ素系高分子、セルロース系高分子、またはそれら組み合わせからなり、
前記保存弾性係数(E’)は、10mmx5mmサイズの試料における、1Hz周波数の正弦波形態を利用した動的機械分析(DMA:dynamic mechanical analysis)によって導き出したものである、電極構造体。
【請求項2】
前記絶縁層が0.5未満の損失タンジェント(tanδ)を有する、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項3】
前記絶縁層が1x10ohm/cm以上の比抵抗を有する、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項4】
前記絶縁層が少なくとも1層である、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項5】
前記高分子と無機材との複合体において、前記高分子の体積比が、複合体形成用組成物全体100体積%を基準にし、50体積%以上である、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項6】
前記無機材が金属酸化物、金属水酸化物、またはそれら組み合わせを含む、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項7】
前記正極活物質層の合剤密度が3.0g/cc以上である、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項8】
前記正極活物質層が硫化物系固体電解質を含む、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項9】
前記負極活物質層が、炭素系負極活物質、及び金属負極活物質または半金属負極活物質のうちから選択された1以上を含む、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項10】
前記炭素系負極活物質が、非晶質炭素及び結晶質炭素のうちから選択された1以上を含む、請求項9に記載の電極構造体。
【請求項11】
前記金属負極活物質または半金属負極活物質が、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群のうちから選択される1以上を含む、請求項9に記載の電極構造体。
【請求項12】
前記固体電解質層は、下記化学式1で表される硫化物系固体電解質を含む、請求項1に記載の電極構造体:
[化学式1]
Li 12-n-xn+2- 6-x
前記化学式1で、Aは、P、As、Ge、Ga、Sb、Si、Sn、Al、In、Ti、V、NbまたはTaであり、
Xは、S、SeまたはTeであり、Yは、Cl、Br、I、F、CN、OCN、SCN、またはNであり、1≦x≦5、0≦n≦2である。
【請求項13】
前記固体電解質層は、前記正極層または前記負極層との接着強度が0.2gf/mm以上である、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項14】
前記電極構造体が、ゼリーロール形態またはスタック形態である、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項15】
前記電極構造体が厚み方向に、厚みの20~30%に圧縮されるとき、前記電極構造体にクラックが生じない、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項16】
請求項1ないし15のうちいずれか1項に記載の電極構造体を含む、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極構造体、及びそれを含む全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、産業上の要求により、エネルギー密度と安全性とが高い電池の開発が活発になされている。例えば、リチウムイオン電池は、情報関連機器分野、通信機器分野だけではなく、自動車分野でも実用化されている。該自動車分野においては、生命と係わるために、特に安全性が重要視される。
【0003】
現在市販されているリチウムイオン電池は、可燃性有機溶媒を含む電解液が利用されているために、短絡が発生した場合、過熱及び火災の可能性がある。それに対し、電解液の代わりに、固体電解質を利用した全固体二次電池が提案されている。
【0004】
全固体二次電池は、可燃性有機溶媒を使用しないことにより、短絡が生じても、火災や爆発が生じる可能性を大きく低減させることができる。従って、そのような全固体二次電池は、電解液を利用するリチウムイオン電池に比べ、大きく安全性を高めることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、新たな構造の電極構造体を提供することである。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、また、前記電極構造体を含む全固体二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様により、
正極層、負極層、及び前記正極層と前記負極層との間に配された固体電解質層を含む電極構造体であり、
前記正極層は、正極集電体、及び前記正極集電体の少なくとも一面に配された正極活物質層を含み、
前記負極層は、負極集電体、及び前記負極集電体の少なくとも一面に配された負極活物質層を含み、
前記固体電解質層は、幅方向の両端部に余裕分を有さないか、あるいは前記固体電解質層幅の2%以下の余裕分を有し、
前記正極層、前記負極層及び前記固体電解質層を一体に取り囲む両側面に、4.0GPa超過の保存弾性係数(E’)を有する絶縁層を含む、電極構造体が提供される。
【0008】
前記絶縁層は、0.5未満の損失タンジェント(tanδ:loss tangent)を有しうる。
【0009】
前記絶縁層は、1x10ohm/cm以上の比抵抗を有しうる。
【0010】
前記絶縁層は、少なくとも1層でもある。
【0011】
前記絶縁層は、高分子、または高分子と無機材との複合体を含むものでもある。
【0012】
前記高分子は、フッ素系高分子、セルロース系高分子、エポキシ系樹脂、またはそれら組み合わせを含むものでもある。
【0013】
前記高分子と無機材との複合体において、前記高分子の体積比は、複合体形成用組成物全体100体積%を基準にし、50体積%以上でもある。
【0014】
前記無機材は、金属酸化物、金属水酸化物、またはそれら組み合わせを含むものでもある。
【0015】
前記正極活物質層の合剤密度は、3.0g/cc以上でもある。
【0016】
前記正極活物質層は、硫化物系固体電解質を含むものでもある。
【0017】
前記負極活物質層は、炭素系負極活物質、及び金属負極活物質または半金属負極活物質のうちから選択された1以上を含むものでもある。
【0018】
前記炭素系負極活物質は、非晶質炭素及び結晶質炭素のうちから選択された1以上を含むものでもある。
【0019】
前記金属負極活物質または半金属負極活物質は、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群のうちから選択される1以上を含むものでもある。
【0020】
前記固体電解質層は、下記化学式1で表される硫化物系固体電解質を含むものでもある:
【0021】
[化学式1]
Li 12-n-xn+2- 6-x
【0022】
前記化学式1で、Aは、P、As、Ge、Ga、Sb、Si、Sn、Al、In、Ti、V、NbまたはTaでもあり、
Xは、S、SeまたはTeであり、Yは、Cl、Br、I、F、CN、OCN、SCN、またはNでもあり、1≦x≦5、0≦n≦2でもある。
【0023】
前記固体電解質層は、前記正極層または前記負極層との接着強度(peel strength)が0.2gf/mm以上でもある。
【0024】
前記電極構造体は、ゼリーロール形態またはスタック形態でもある。
【0025】
前記電極構造体は、厚み方向に、厚みの20~30%に圧縮されるとき、前記電極構造体にクラックが生じないものであってもよい。
【0026】
他の一態様により、
前述の電極構造体を含む全固体二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0027】
一具現例による電極構造体は、正極層、負極層、及び前記正極層と前記負極層との間に配された固体電解質層を含み、前記固体電解質層は、幅方向の両端部に余裕分を有さないか、あるいは前記固体電解質層幅の2%以下の余裕分を有し、前記正極層、前記負極層及び前記固体電解質層を一体に取り囲む両側面に、4.0GPa超過の保存弾性係数(E’)を有する絶縁層を含む。
【0028】
前記電極構造体は、前記固体電解質層の幅の余裕分が非常に小さいか、あるいはない場合にも、前記絶縁層を介して短絡を抑制し、初期容量低下を最小化させながら、寿命特性が向上された全固体二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】一具現例による電極構造体の概略的な断面図である。
図2A】一具現例によるスタック形態の電極構造体を示す概略的な断面図である。
図2B図2A(点線部分)の電極構造体内部を示す概略的な断面図である。
図3】一具現例による全固体二次電池の概路図である。
図4】実施例1~3及び比較例1,2によって作製された全固体二次電池の寿命特性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付された図面を参照しながら、本発明の一具現例による電極構造体、及びそれを含む全固体二次電池について詳細に説明する。以下は、例示として提示されるものであり、それにより、本発明が制限されるものではなく、本発明は、後述される特許請求の範囲の範疇によって定義されるのみである。
【0031】
本明細書において、構成要素の前の、「少なくとも1種」、「1種以上」または「1以上」という表現は、全体構成要素のリストを補完することができ、前記記載の個別構成要素を補完しうるということを意味するものではない。本明細書において「組み合わせ」という用語は、特別に反対となる記載がない限り、混合物、合金、反応生成物などを含む。
【0032】
本明細書において「含む」という用語は、特別に反対となる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいということを意味する。
【0033】
本明細書において、「第1」、「第2」というような用語は、順序、量または重要性を示すものではなく、1つの要素を他の要素と区別するために使用される。本明細書において、取り立てて指示されるか、あるいは文脈によって明白に反駁されない限り、単数及び複数をいずれも含むものであると解釈されなければならない。「または」は、取り立てて明示しない限り、「及び/または」を意味する。
【0034】
本明細書全般にわたり、「一具現例」、「具現例」などは、実施例と係わって記述された特定要素が、本明細書に記載された少なくとも1つの実施例に含まれ、他の実施例に存在することもあり、存在しないこともあるということを意味する。また、記載された要素は、多様な実施例において、任意の適切な方式で結合されうるということが理解されなければならない。
【0035】
取り立てて定義されない限り、本明細書で使用された技術的及び科学的な用語は、本出願が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるところと同一の意味を有する。引用された全ての特許、特許出願、及びその他参考文献は、その全体が本願に参照として含まれる。しかしながら、本明細書の用語が、統合された参照の用語と矛盾したり衝突したりする場合、本明細書からの用語は、統合された参照において相反する用語より優先される。特定の実施例及び具現例が説明されたが、現在予想することができないか、あるいは予想することができない可能性がある代案、修正、変形、改善、及び実質的な均等物が、出願人または当業者に生じうる。従って、添付された特許請求の範囲及び補正対象は、そのような全ての代案、修正、変形、改善及び実質的均等物を含むものであると意図される。
【0036】
全固体二次電池は、安定性の側面においては有利であるが、電解質が固体であるので、リチウムイオン電池に比べ、柔軟性及び加工性が低い。そのような理由により、正極板、負極板及び電解質膜で構成された電極構造体は、電極板と電解質膜との間に、幅の余裕分(margin)を確保し難い。また、電極板と電解質膜との最外部のエッジ面に、バリ(burr)またはクラックが生じうる。そのような場合、全固体二次電池内部に短絡が生じ、容量及び寿命の特性が低下してしまう。本発明の発明者は、電極構造体の側面に、新たな層の設計を介し、容量及び寿命の特性が低下する問題点を解決するのである。
【0037】
以下において、例示的な具現例による電極構造体及び全固体二次電池についてさらに詳細に説明する。
【0038】
[電極構造体]
一具現例による電極構造体は、正極層、負極層、及び前記正極層と前記負極層との間に配された固体電解質層と、を含む電極構造体であり、前記正極層は、正極集電体、及び前記正極集電体の少なくとも一面に配された正極活物質層を含み、前記負極層は、負極集電体、及び前記負極集電体の少なくとも一面に配された負極活物質層を含み、前記固体電解質層は、幅方向の両端部に余裕分を有さないか、あるいは前記固体電解質層幅の2%以下の余裕分を有し、前記正極層、前記負極層及び前記固体電解質層を一体に取り囲む両側面に、4.0GPa超過の保存弾性係数(E’)を有する絶縁層を含むものでありうる。
【0039】
前記電極構造体は、前記正極層、前記負極層及び前記固体電解質層を一体に取り囲む両側面に絶縁層を含む。前記絶縁層は、4.0GPa超過の保存弾性係数(E’)を有する。一般的に、固体電解質層の保存弾性係数(E’)が1.3~4.0であるとき、前記絶縁層の保存弾性係数(E’)が高い。従って、前記電極構造体は、電池製造時、加圧で変形が起こらず、その結果、短絡が防止される。それは、固体電解質層において幅方向の両端部に余裕分がないか、あるいは前記固体電解質層幅の2%以下のように非常に小さいときにも、短絡を防止することができる。
【0040】
図1は、一具現例による電極構造体の概略的な断面図である。図2Aは、一具現例によるスタック形態の電極構造体を示す概略的な断面図である。図2Bは、図2A(点線部分)の電極構造体内部を示す概略的な断面図である。
【0041】
図1を参照すれば、電極構造体10では、正極層1、固体電解質層2及び負極層3が順に配され、正極層1、固体電解質層2及び負極層3を一体に取り囲む両側面に、絶縁層4が配されている。固体電解質層2は、幅方向の両端部に余裕分幅Wを有している。例えば、余裕分幅Wは、0.5mm以下でもある。
【0042】
図2A及び図2Bを参照すれば、電極構造体30は、スタック形態のバイセル構造である。電極構造体30は、正極集電体21の上下面に、正極活物質層22,22’が配されている正極層26,26’が位置し、正極層26,26’の一面に、固体電解質層23,23’が位置し、固体電解質層23,23’の一面に、負極活物質層25,25’及び負極集電体24,24’で構成された負極層27,27’が位置している。正極層26,26’、固体電解質層23,23’及び負極層27,27’の両側面に、絶縁層28,28’がそれぞれ配されている。
【0043】
電極構造体30は、スタック形態を例示しているが、ゼリーロール形態でもある。
【0044】
電極構造体30では、厚み方向に、厚みの20~30%に圧縮されるとき、前記電極構造体30にクラックが生じないのである。
【0045】
[絶縁層]
絶縁層28,28’は、4.0GPa超過の保存弾性係数(E’)を有しうる。そのような保存弾性係数(E’)を有する絶縁層28,28’を含む電極構造体10,30は、ゼリーロール形態またはスタック形態において、電池製造時、加圧によって変形が起こらず、短絡が防止される。
【0046】
絶縁層28,28’は、0.5未満の損失タンジェント(tanδ:loss tangent)を有しうる。該損失タンジェント(tanδ)は、保存弾性係数(E’)に対する保存非弾性(non-elastic)係数(E’’)の比、すなわち、E’’/E’である。該損失タンジェント(tanδ)は、復元力と関係がある。復元力は、電池製造時、加圧によって変形された後、本来通りに回復する力であり、電池充放電時、短絡が起こる確率を低くする。一般的に、固体電解質層の損失タンジェント(tanδ)が0.05~0.15であるとき、前記絶縁層28,28’の損失タンジェント(tanδ)が低い。従って、電極構造体10,30は、電池製造時、復元力が発揮され、加圧によって変形が起こらず、その結果、短絡が防止される。
【0047】
絶縁層28,28’の保存弾性係数(E’)及び保存非弾性係数(E’’)は、動的機械分析(DMA:dynamic mechanical analysis)を利用して得ることができる。例えば、10mmx5mmサイズの試料に、1Hz周波数の正弦波形態の外力を加え、その力によって変形される試料の変位及び相を測定することにより、保存弾性係数(E’)及び保存非弾性係数(E’’)を導き出すことができる。
【0048】
絶縁層28,28’は、1x10ohm/cm以上の比抵抗を有しうる。絶縁層28,28’は、電気的に絶縁され、電極構造体10,30内部の短絡が抑制されうる。
【0049】
絶縁層28,28’は、少なくとも1層でもある。例えば、絶縁層28,28’は、2層または3層以上でもある。絶縁層28,28’は、保存弾性係数(E’)、保存非弾性係数(E’’)及び損失タンジェント(tanδ)を満足する範囲内において、層数を調節することができる。
【0050】
絶縁層28,28’は、高分子、または高分子と無機材との複合体を含むものでもある。前記高分子の例としては、フッ素系高分子、セルロース系高分子、エポキシ系樹脂、またはそれら組み合わせを含むものであってもよい。
【0051】
前記フッ素系高分子の例としては、フッ化ビニリデン単量体のホモ重合体であるか、あるいはフッ化ビニリデン単量体と、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロビニル及びパーフルオロアルキルビニルエーテルから選択された1以上のフッ素含有単量体との共重合体でもある。具体的には、前記フッ化ビニリデン系単量体は、フッ化ビニリデンホモ重合体、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン・クロロトリフルオロエチレン共重合体などでもある。
【0052】
選択的には、前記フッ素系高分子は、極性作用基を含む単量体と、フッ化ビニリデン単量体との共重合体であるか、あるいは極性作用基を含む単量体、フッ化ビニリデン系単量体、及び前述の他のフッ素系単量体の共重合体をさらに含むものでもある。例えば、前記極性作用基含有フッ化ビニリデン系高分子は、極性作用基含有単量体・フッ化ビニリデン共重合体、極性作用基含有単量体・フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、極性作用基含有単量体・フッ化ビニリデン・クロロトリフルオロエチレン共重合体などでもある。前記極性作用基は、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基及びヒドロキシ基、及びそれらの塩のうちから選択される1以上でもあるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、極性作用基として使用されうるものであるならば、いずれも可能である。前記フッ素系高分子への極性作用基の導入は、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基及びヒドロキシ基、及びそれらの塩を含む単量体を重合させて遂行されうる。カルボン酸基を有する単量体としては、モノカルボン酸及びその誘導体、ジカルボン酸及びそれらの誘導体などを挙げることができる。モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等を有しうる。該モノカルボン酸誘導体としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α―アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸、β-ジアミノアクリル酸などを挙げることができる。該ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などを挙げることができる。ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸のようなマレイン酸;及び、マレイン酸メチルアルリル;マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルのようなマレイン酸塩;などを挙げることができる。また、加水分解によりカルボン酸基を生成する酸無水物も利用することができる。ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などを挙げることができる。また、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸ジシクロヘキシル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸ジブチルのようなα,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸のモノエステル及びジエステルを有しうる。スルホン酸基を有する単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などを挙げることができる。リン酸基を有する単量体としては、リン酸塩2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチルなどを挙げることができる。ヒドロキシ基を有する単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オールのようなエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ2-ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ4-ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ2-ヒドロキシプロピルのようなエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式CH=CR-COO-(C2nO)-H(mは、2ないし9の整数であり、nは、2ないし4の整数であり、Rは、水素またはメチル基を示す)で示されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシスクシネートのようなジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテルのようなビニルエーテル;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-4-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-6-ヒドロキシヘキシルエーテルのようなアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルのようなポリオキシアルキレングリコール(メタ)モノアリルエーテル;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル-2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシ-3-クロロプロピルエーテルのような(ポリ)アルキレングリコールのハロゲン、及びヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール(eugenol)、イソオイゲノールのような多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテル及びそのハロゲン置換体;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルチオエーテルのようなアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などを挙げることができる。前記フッ素系高分子は、電極板との結着力及び柔軟性を向上させ、向上されたエネルギー密度と寿命特性とを有する電池を提供することができる。
【0053】
前記セルロース系高分子の例としては、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ブチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートのうちから選択される1種以上を含むものでもある。前記セルロース系高分子の形態には制限がないが、例えば、ナノファイバ形態などでもある。前記セルロース系高分子は、機械的強度及び光学的透明性にすぐれる。従って、セルロース系高分子を絶縁層28,28’として含む電池は、すぐれた寿命特性及び安定性を有しうる。
【0054】
前記エポキシ系樹脂は、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型ノボラックエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、四官能性エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタンエポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、及びそれらの組み合わせから選択された1種以上でもあるが、それらに制限されるものではない。前記エポキシ系樹脂は、機械的物性及び電気絶縁性にすぐれる。
【0055】
前記高分子と無機材との複合体において、前記高分子の体積比は、複合体形成用組成物全体100体積%を基準にし、50体積%以上でもある。前記高分子の体積比範囲内において、絶縁層28,28’の保存弾性係数(E’)、保存非弾性係数(E’’)のような物性を強化させることができる。また、前記高分子と無機材との複合体において、無機材の重量の比率が増大されることにより、高分子と無機材との複合体強度及び保存弾性係数(E’)が増大されうるが、保存非弾性係数(E’’)も増大される可能性がある。従って、前記高分子と無機材との複合体において、高分子対無機材の重量比は、1:1ないし1:5でもある。前記高分子対無機材の重量比範囲内において、絶縁層28,28’の保存弾性係数(E’)、保存非弾性係数(E’’)のような物性を強化させることができる。
【0056】
前記無機材は、金属酸化物、金属水酸化物、またはそれら組み合わせを含むものでもある。前記無機材の例としては、Al、Al(OH)などを含むものでもあるが、それらに制限されるものではなく、当該全固体二次電池分野において、使用可能な全ての無機材の使用が可能である。
【0057】
[正極層]
正極層26,26’は、正極集電体21及び正極集電体21の少なくとも一面に配された正極活物質層22,22’を含む。
【0058】
正極活物質層22,22’は、例えば、正極活物質及び固体電解質を含む。正極層26,26’に含まれた固体電解質は、固体電解質層23,23’に含まれる固体電解質と同一でもあるか、あるいは異なってもいる。例えば、前記固体電解質は、硫化物系固体電解質を含むものでもある。該固体電解質に係わる詳細な内容は、固体電解質層23,23’部分を参照する。
【0059】
正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵したり(absorb)及び放出したり(desorb)することができる正極活物質である。該正極活物質は、例えば、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムニッケル酸化物(lithium nickel oxide)、リチウムニッケルコバルト酸化物(lithium nickel cobalt oxide)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)、リチウムマンガン酸化物(lithium manganate)、リチウムリン酸鉄酸化物(lithium iron phosphate)のようなリチウム遷移金属酸化物;硫化ニッケル;硫化銅;硫化リチウム;酸化鉄;または酸化バナジウム(vanadium oxide)などであるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、正極活物質として利用されるものであるならば、いずれも可能である。正極活物質は、それぞれ単独であるか、または2種以上の混合物である。
【0060】
リチウム遷移金属酸化物は例えば、Li1-bB’D’(前記化学式で、0.90≦a≦1及び0≦b≦0.5である);Li1-bB’2-cD’(前記化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiE2-bB’4-cD’(前記化学式で、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiNi1-b-cCoB’D’α(前記化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2である);LiNi1-b-cCoB’2-αF’α(前記化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cCoB’2-αF’(前記化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cMnB’D’α(前記化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2である);LiNi1-b-cMnB’2-αF’α(前記化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cMnB’2-αF’(前記化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi(前記化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0.001≦d≦0.1である);LiNiCoMn(前記化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5、0.001≦e≦0.1である);LiNiG(前記化学式で、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);LiCoG(前記化学式で、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);LiMnG(前記化学式で、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);LiMn(前記化学式で、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);QO;QS;LiQS;V;LiV;LiI’O;LiNiVO;Li(3-f)(PO(0≦f≦2);Li(3-f)Fe(PO(0≦f≦2);LiFePOの化学式のうちいずれか一つで表される化合物である。そのような化合物において、Aは、Ni、Co、Mn、またはそれらの組み合わせであり、B’は、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり、D’は、O、F、S、P、またはそれらの組み合わせであり、Eは、Co、Mn、またはそれらの組み合わせであり、F’は、F、S、P、またはそれらの組み合わせであり、Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、V、またはそれらの組み合わせであり、Qは、Ti、Mo、Mn、またはそれらの組み合わせであり、I’は、Cr、V、Fe、Sc、Y、またはそれらの組み合わせであり、Jは、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、またはそれらの組み合わせである。そのような化合物表面に、コーティング層が付加された化合物の使用も可能であり、前述の化合物と、コーティング層が付加された化合物との混合物の使用も可能である。そのような化合物の表面に付加されるコーティング層は、例えば、コーティング元素のオキシド、コーティング元素のヒドロキシド、コーティング元素のオキシヒドロキシド、コーティング元素のオキシカーボネート、またはコーティング元素のヒドロキシカーボネートのコーティング元素化合物を含む。そのようなコーティング層をなす化合物は、非晶質または結晶質である。該コーティング層に含まれるコーティング元素としては、Mg、Al、Co、K、Na、Ca、Si、Ti、V、Sn、Ge、Ga、B、As、Zr、またはそれらの混合物である。該コーティング層の形成方法は、正極活物質の物性に悪影響を与えない範囲内において選択される。該コーティング方法は、例えば、スプレーコーティング法、浸漬法などである。具体的なコーティング方法は、当該分野の当業者に十分に理解されうる内容であるので、詳細な説明は、省略する。
【0061】
正極活物質は、例えば、前述のリチウム遷移金属酸化物において、層状岩塩型(layered rock salt type)構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含む。「層状岩塩型構造」は、例えば、立方晶系岩塩型(cubic rock salt type)構造の<111>方向に、酸素原子層と金属原子層とが相互に規則的に配され、それにより、それぞれの原子層が二次元平面を形成している構造である。「立方晶系岩塩型構造」は、結晶構造の一種である塩化ナトリウム型(NaCl type)構造を示し、具体的には、陽イオン及び陰イオンがそれぞれ形成する面心立方格子(FCC:face centered cubic lattice)が互いに単位格子(unit lattice)のリッジ(ridge)の1/2ほどずれて配された構造を示す。そのような層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属酸化物は、例えば、LiNiCoAl(NCA)またはLiNiCoMn(NCM)(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1)のような三元系リチウム遷移金属酸化物である。正極活物質が層状岩塩型構造を有する三元系リチウム遷移金属酸化物を含む場合、全固体二次電池のエネルギー密度及び熱安定性がさらに向上される。
【0062】
正極活物質は、前述のように、被覆層によって覆われてもいる。該被覆層は、全固体二次電池の正極活物質の被覆層として公知されたものであるならば、いずれでもよい。該被覆層は、例えば、LiO-ZrO(LZO)などである。
【0063】
正極活物質が、例えば、LiNiCoAl(NCA)またはLiNiCoMn(NCM)(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1)のような三元系リチウム遷移金属酸化物として、ニッケル(Ni)を含む場合、全固体二次電池の容量密度を上昇させ、充電状態において、正極活物質の金属溶出の低減が可能である。結果として、全固体二次電池の充電状態におけるサイクル特性が向上される。
【0064】
正極活物質の形状は、例えば、真球形、楕円球形のような粒子形状である。該正極活物質の粒径は、特別に制限されるものではなく、従来の全固体二次電池の正極活物質に適用可能な範囲である。正極層26,26’の正極活物質の含量も、特別に制限されるものではなく、従来の全固体二次電池の正極層に適用可能な範囲である。
【0065】
正極活物質層22,22’が含む固体電解質は、固体電解質層23,23’が含む固体電解質に比べ、D50平均粒径が小さいものでもある。例えば、正極活物質層22,22’が含む固体電解質のD50平均粒径は、固体電解質層23,23’が含む固体電解質のD50平均粒径の90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下または20%以下でもある。
【0066】
D50平均粒径は、例えば、メジアン粒子直径(D50)である。メジアン粒子直径(D50)は、例えば、レーザ回折法で測定される粒子サイズ分布において、小さい粒子サイズを有する粒子側から計算し、50%累積体積に該当する粒子の大きさである。
【0067】
正極活物質層22,22’は、バインダを含むものでもある。該バインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンなどであるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において、バインダとして利用されるものであるならば、いずれも可能である。
【0068】
正極活物質層22,22’は、導電材を含むものでもある。該導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック(CB:carbon black)、アセチレンブラック(AB:acetylene black)、ケッチェンブラック(KB:Ketjen black)、炭素ファイバ、金属粉末などであるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において、導電材として利用されるものであるならば、いずれも可能である。
【0069】
正極活物質層22,22’は、前述の正極活物質、固体電解質、バインダ、導電材以外に、例えば、フィラー(filler)、コーティング剤、分散剤、イオン伝導助剤のような添加剤をさらに含むものでもある。
【0070】
正極活物質層22,22’が含むフィラー、コーティング剤、分散剤、イオン伝導助剤などとしては、一般的に、全固体二次電池の電極に使用される公知の材料を利用することができる。
【0071】
正極活物質層22,22’の合剤密度は、3.0g/cc以上でもある。
【0072】
正極集電体21としては、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレススチール、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)、またはそれらの合金からなる板状体(plate)またはホイル(foil)などを利用する。正極集電体21は、省略可能である。正極集電体21の厚みは、例えば、1μmないし100μm、1μmないし50μm、5μmないし25μm、または10μmないし20μmである。
【0073】
[固体電解質層]
図1及び図2Bを参照すれば、固体電解質層2,23,23’は、正極層1,26,26’と負極層3,27,27’との間に配された固体電解質層を含む。
【0074】
該固体電解質は、例えば、硫化物系固体電解質である。該硫化物系固体電解質は、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(Xは、ハロゲン元素である)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは、正数であり、Zは、Ge、ZnまたはGaのうち一つである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p、qは、正数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、GaInのうち一つである)、Li7-xPS6-xCl(0≦x≦2)、Li7-xPS6-xBr(0≦x≦2)、及びLi7-xPS6-x(0≦x≦2)のうちから選択された1以上である。該硫化物系固体電解質は、例えば、LiS、Pのような出発原料を、溶融急冷法や機械的ミリング(mechanical milling)法などによって処理して作製される。また、そのような処理後、熱処理を行うことができる。該固体電解質は、非晶質でもあり、結晶質でもあり、それらが混合した状態でもある。また、固体電解質は、例えば、前述の硫化物系固体電解質材料において、少なくとも構成元素として、硫黄(S)、リン(P)及びリチウム(Li)を含むものでもある。例えば、該固体電解質は、LiS-Pを含む材料でもある。該固体電解質を形成する硫化物系固体電解質材料として、LiS-Pを含むものを利用する場合、LiSとPとの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50ないし90:10ほどの範囲である。
【0075】
硫化物系固体電解質は、例えば、下記化学式1で表されるアルジロダイト型(argyrodite type)固体電解質を含むものでもある:
【0076】
[化学式1]
Li 12-n-xn+2- 6-x
【0077】
前記化学式1で、Aは、P、As、Ge、Ga、Sb、Si、Sn、Al、In、Ti、V、NbまたはTaであり、Xは、S、SeまたはTeであり、Yは、Cl、Br、I、F、CN、OCN、SCN、またはNであり、1≦x≦5、0≦n≦2である。該硫化物系固体電解質は、例えば、Li7-xPS6-xCl(0≦x≦2)、Li7-xPS6-xBr(0≦x≦2)及びLi7-xPS6-x(0≦x≦2)のうちから選択された1以上を含むアルジロダイト型の化合物でもある。該硫化物系固体電解質は、例えば、LiPSCl、LiPSBr及びLiPSIのうちから選択された1以上を含むアルジロダイト型化合物でもある。
【0078】
該アルジロダイト型の固体電解質の密度は、1.5ないし2.0g/ccでもある。該アルジロダイト型の固体電解質が1.5g/cc以上の密度を有することにより、全固体二次電池の内部抵抗が低減され、Liによる固体電解質層の貫通(penetration)を効果的に抑制することができる。
【0079】
固体電解質層2,23,23’は、例えば、バインダを含むものでもある。固体電解質層2,23,23’に含まれるバインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンなどであるが、それらに限定されるものではなく、当該技術分野において、バインダとして利用されるものであるならば、いずれも可能である。固体電解質層2,23,23’のバインダは、正極活物質層22,22’と負極活物質層25,25’とが含むバインダと同じであっても、異なっていてもよい。該バインダは、省略可能である。
【0080】
固体電解質層2,23,23’が含むバインダ含量は、固体電解質層2,23,23’全体重量に対し、0ないし10wt%、0ないし5wt%、0ないし3wt%、0ないし1wt%、0ないし0.5wt%、または0ないし0.1wt%である。
【0081】
固体電解質層2,23,23’は、正極層26,26’または負極層27,27’との接着強度(peel strength)が0.2gf/mm以上でもある。
【0082】
[負極層]
負極層27,27’は、負極集電体24,24’及び負極集電体24,24’の少なくとも一面に配された負極活物質層25,25’を含む。
【0083】
負極活物質層25,25’は、例えば、負極活物質及びバインダを含む。
【0084】
負極活物質層25,25’が含む負極活物質は、例えば、粒子形態を有する。該粒子形態を有する負極活物質の平均粒径は、例えば、4μm以下、3μm以下、2μm以下、1μm以下または900nm以下である。該粒子形態を有する負極活物質の平均粒径は、例えば、10nmないし4μm以下、10nmないし3μm以下、10nmないし2μm以下、10nmないし1μm以下、または10nmないし900nm以下である。該負極活物質がそのような範囲の平均粒径を有することにより、充放電時、リチウムの可逆的な吸蔵(absorbing)及び/または放出(desorbing)がさらに容易にもなる。該負極活物質の平均粒径は、例えば、レーザ式粒度分布計を使用して測定したメジアン(median)直径(D50)である。
【0085】
負極活物質層25,25’が含む負極活物質は、例えば、炭素系負極活物質、及び金属負極活物質または半金属負極活物質のうちから選択された1以上を含む。
【0086】
炭素系負極活物質は、非晶質炭素及び結晶質炭素のうちから選択された1以上を含むものでもある。該炭素系負極活物質は、例えば、非晶質炭素(amorphous carbon)でもある。該非晶質炭素は、例えば、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック(FB:furnace black)、ケッチェンブラック(KB)、グラフェンなどであるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、非晶質炭素に分類されるものであるならば、いずれも可能である。該非晶質炭素は、結晶性を有さないか、あるいは結晶性が非常に低い炭素であり、結晶性炭素または黒鉛系炭素と区別される。
【0087】
金属負極活物質または半金属負極活物質は、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群のうちから選択される1以上を含むが、必ずそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、リチウムと合金または化合物を形成する金属負極活物質または半金属負極活物質として利用されるものであるならば、いずれも可能である。例えば、ニッケル(Ni)は、リチウムと合金を形成しないので、金属負極活物質ではない。
【0088】
負極活物質層25,25’は、そのような負極活物質において、一種の負極活物質を含むか、あるいは複数の互いに異なる負極活物質の混合物を含む。例えば、負極活物質層25,25’は、非晶質炭素のみを含むか、あるいは金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群のうちから選択される1以上を含む。代案としては、負極活物質層25,25’は、非晶質炭素と、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群のうちから選択される1以上との混合物を含む。該非晶質炭素と金などとの混合物の混合比は、重量比として、例えば、10:1ないし1:2、5:1ないし1:1、または4:1ないし2:1であるが、必ずしもそのような範囲に限定されるものではなく、要求される全固体二次電池の特性によって選択される。該負極活物質がそのような組成を有することにより、全固体二次電池の寿命特性がさらに向上される。
【0089】
負極活物質層25,25’が含む負極活物質は、例えば、非晶質炭素からなる第1粒子と、金属または半金属からなる第2粒子との混合物を含む。該金属または該半金属は、例えば、例えば、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)などを含む。該半金属は、代案としては、半導体である。該第2粒子の含量は、混合物の総重量を基準として、8ないし60重量%、10ないし50重量%、15ないし40重量%、または20ないし30重量%である。該第2粒子がそのような範囲の含量を有することにより、例えば、全固体二次電池の寿命特性がさらに向上される。
【0090】
負極活物質層25,25’が含むバインダは、例えば、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレートなどであるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、バインダとして利用されるものであるならば、いずれも可能である。該バインダは、単独または複数の互いに異なるバインダによっても構成される。
【0091】
負極活物質層25,25’がバインダを含むことにより、負極活物質層25,25’が負極集電体24,24’上で安定化される。また、充放電過程において、負極活物質層25,25’の体積変化、及び/または相対的な位置変更にもかかわらず、負極活物質層25,25’の亀裂が抑制される。例えば、負極活物質層25,25’がバインダを含まない場合、負極活物質層25,25’が負極集電体24,24’から容易に分離されてしまう。負極集電体24,24’から負極活物質層25,25’が離脱することにより、負極集電体24,24’が露出された部分において、負極集電体24,24’が固体電解質層23,23’と接触することにより、短絡が生じる可能性が増大する。負極活物質層25,25’は、例えば、負極活物質層25,25’を構成する材料が分散されたスラリーを負極集電体24,24’上に塗布し、乾燥させて作製される。バインダを負極活物質層25,25’に含めることにより、スラリー内における負極活物質の安定した分散が可能である。例えば、スクリーン印刷法により、スラリーを負極集電体24,24’上に塗布する場合、スクリーンの詰まり(例えば、負極活物質の凝集体による詰まり)を抑制することが可能である。
【0092】
負極活物質層25,25’は、従来の全固体二次電池に使用される添加剤、例えば、フィラー、コーティング剤、分散剤、イオン伝導助剤などをさらに含むことが可能である。
【0093】
負極活物質層25,25’の厚みは、例えば、正極活物質層22,22’厚の50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下または5%以下である。負極活物質層25,25’の厚みは、例えば、1μmないし20μm、2μmないし10μm、または3μmないし7μmである。負極活物質層25,25’の厚みが過度に薄ければ、負極活物質層25,25’と負極集電体24,24’との間に形成されるリチウムデンドライトが、負極活物質層25,25’を崩壊させ、全固体二次電池の寿命特性が向上し難い。負極活物質層25,25’の厚みが過度に厚くなれば、全固体二次電池のエネルギー密度が低下され、負極活物質層25,25’による全固体二次電池の内部抵抗が増大し、全固体二次電池の寿命特性が向上し難い。
【0094】
負極活物質層25,25’の厚みが薄くなれば、例えば、負極活物質層25,25’の充電容量も低減される。負極活物質層25,25’の充電容量は、例えば、正極活物質層22,22’の充電容量に比べ、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下または2%以下である。負極活物質層25,25’の充電容量は、例えば、正極活物質層22,22’の充電容量に比べ、0.1%ないし50%、0.1%ないし40%、0.1%ないし30%、0.1%ないし20%、0.1%ないし10%、0.1%ないし5%、または0.1%ないし2%である。負極活物質層25,25’の充電容量が過度に小さければ、負極活物質層25,25’の厚みが非常に薄くなるので、反復される充放電過程において、負極活物質層25,25’と負極集電体24,24’との間に形成されるリチウムデンドライトが、負極活物質層25,25’を崩壊させ、全固体二次電池の寿命特性が向上し難い。負極活物質層25,25’の充電容量が過度に増大すれば、全固体二次電池のエネルギー密度が低下され、負極活物質層25,25’による全固体二次電池の内部抵抗が増大し、全固体二次電池の寿命特性が向上し難い。
【0095】
正極活物質層22,22’の充電容量は、正極活物質の充電容量密度(mAh/g)に、正極活物質層22,22’における正極活物質の質量を乗じて得られる。正極活物質がさまざまな種類使用される場合、正極活物質ごとに、充電容量密度×質量値を計算し、その値の和が正極活物質層22,22’の充電容量となる。負極活物質層25,25’の充電容量も、同じ方法によって計算される。すなわち、負極活物質層25,25’の充電容量は、負極活物質の充電容量密度(mAh/g)に、負極活物質層25,25’における負極活物質の質量を乗じて得られる。負極活物質がさまざまな種類使用される場合、負極活物質ごとに、充電容量密度×質量値を計算し、その値の和が負極活物質層25,25’の容量となる。ここで、該正極活物質及び該負極活物質の充電容量密度は、リチウム金属を相対電極として利用した全固体半電池(half-cell)を利用して推定された容量である。全固体半電池を利用した充電容量測定により、正極活物質層22,22’と負極活物質層25,25’との充電容量が直接測定される。測定された充電容量を、それぞれ活物質の質量で割れば、充電容量密度が得られる。代案としては、正極活物質層22,22’と負極活物質層25,25’との充電容量は、最初サイクル充電時に測定される初期充電容量でもある。
【0096】
負極集電体24,24’は、例えば、リチウムと反応しない、すなわち、合金及び化合物をいずれも形成しない材料によって構成される。負極集電体24,24’を構成する材料は、例えば、銅(Cu)、ステンレススチール、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)などであるが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、電極集電体として利用されるものであるならば、いずれも可能である。負極集電体24,24’は、前述の金属のうち1種によって構成されるか、あるいは2種以上の金属の合金または被覆材料によっても構成される。負極集電体24,24’は、例えば、板状またはホイル形態である。
【0097】
[全固体二次電池]
全固体二次電池は、前述の電極構造体10,30を含む。
【0098】
図3は、一具現例による全固体二次電池の概路図である。
【0099】
図3を参照すれば、全固体二次電池は、スタック形態である。全固体二次電池40は、正極集電体31の上下面に正極活物質層32,32’が配されている正極層36,36’が位置し、正極層36,36’の一面に固体電解質層33,33’が位置し、固体電解質層33,33’の一面に、負極活物質層34,34’及び負極集電体35,35’によって構成された負極層37,37’が位置している。正極層36,36’、固体電解質層33,33’及び負極層37,37’の両側面に、絶縁層38,38’がそれぞれ配されている。前記負極集電体35,35’の一面に、支持部材39,39’が位置している。全固体二次電池40は、上下面の支持部材39,39’に対し、静水圧(WIP:warm isostactic press)で加圧し、正極と負極との端子をそれぞれ作って製造される。
【0100】
全固体二次電池40は、正極層36,36’、固体電解質層33,33’及び負極層37,37’の両側面に絶縁層38,38’が配されることによって短絡を抑制し、初期容量低下を最小化させながら、寿命特性を向上させることができる。
【0101】
以下の実施例及び比較例を介し、本創意的思想についてさらに具体的に説明する。ただし、該実施例は、本創意的思想を例示するためのものであり、それらだけにより、本創意的思想の範囲が限定されるものではない。
【実施例
【0102】
実施例1:ポリフッ化ビニリデン(PVdF)+Al 絶縁層が配された全固体二次電池
(負極層製造)
負極集電体として、厚み10μmのSUSホイルを準備した。また、負極活物質として、一次平均粒径(D50)が35nmほどであるカーボンブラック(CB)、及び平均直径(D50)が約60nmである銀(Ag)粒子を準備した。
【0103】
カーボンブラック(CB)と銀(Ag)粒子とを3:1の重量比で混合した混合粉末4gを容器に入れ、そこに、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)バインダ(#9300(クレハ社))が7重量%を含まれたN-メチルピロリドン(NMP)溶液を4g追加し、混合溶液を準備した。次に、その混合溶液にNMPを少しずつ添加しながら混合溶液を撹拌し、スラリーを製造した。製造されたスラリーを、SUSシートに、ドクターブレード(doctor blade)を利用して塗布し、空気中において60℃で20分間乾燥させた。それによって得た積層体を、100℃で12時間真空乾燥させ、負極層を作製した。負極層が含むAg-Cナノ複合体の負極活物質層の厚みは、約7μmであった。前記Ag-Cナノ複合体においてAg体積比は、約8体積%であり、電池製造時に使用されたAg含量は、約12mg/Ahであった。
【0104】
(正極層製造)
正極活物質として、LiO-ZrO(LZO)コーティングされたLiNi0.8Co0.15Mn0.05(NCM)を準備した。LZOコーティングされた正極活物質は、大韓民国公開特許第10-2016-0064942号に開示された方法によって製造した。固体電解質として、アルジロダイト型結晶体であるLiPSCl(D50=0.5μm、結晶質)を準備した。バインダとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バインダ(テフロン(登録商標)バインダ(デュポン社))を準備した。導電材として、炭素ナノファイバ(CNF)を準備した。そのような材料を、正極活物質:固体電解質:導電材:バインダ=85:15:3:1.5の重量比で、キシレン溶媒と混合した混合物を、シート形態に成形した後、40℃で8時間真空乾燥させ、正極シートを製造した。該正極シートを、18μm厚のカーボンコーティングされたアルミニウムホイルからなる正極集電体の一面上に圧着させ、正極層を製造した。正極層厚は、約105μmであった。前記正極層のローディングレベルは、約6.8mAh/cmであった。
【0105】
(固体電解質層の製造)
アルジロダイト型結晶体であるLiPSCl固体電解質(D50=3.0μm、結晶質)に、固体電解質99重量部に対し、1重量部のアクリル系バインダを追加し、混合物を準備した。準備された混合物に、キシレン(FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation)及びイソブチルイソブチレート(Aldrich)を50:50重量比で添加し、遊星遠心ミキサ(planetary centrifugal mixer)(AR-100)を利用し、2,000rpmで6分間撹拌し、スラリーを製造した。製造されたスラリーを、75μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ドクターブレードを利用して塗布し、ホットプレート上において、50℃温度で数分間乾燥させ、積層体を得た。得られた積層体を、40℃で8時間真空乾燥させた。以上の工程により、固体電解質層を製造した。該固体電解質層の厚みは、約40μmであり、電池において加圧して約30μmにした。
【0106】
(絶縁層形成用スラリー製造)
PVdF粉末(#9300(クレハ社))とAl粉末(50nm、Sigma Aldrich社製)とを1:3の重量比で添加して混合した混合粉末40gを容器に入れ、そこにアセトン溶媒を追加し、混合溶液を準備した。次に、その混合溶液に、アセトン溶媒を少しずつ添加しながら、混合溶液を撹拌し、絶縁層形成用スラリーを製造した。
【0107】
(全固体二次電池の製造)
図3から分かるように、負極層37上に、負極活物質層34が固体電解質層33と接触するように固体電解質層33を配し、固体電解質層33上に正極層36を配し、積層体を製造した。固体電解質層33の幅余裕分(margin)は、約2%であった。
【0108】
前記製造された絶縁層形成用スラリーを、前記負極層37、前記正極層36及び前記固体電解質層33で構成された積層体の両側面に、ドクターブレードを利用して一体に塗布し、空気中で乾燥させ、絶縁層38が配された電極構造体を製造した。絶縁層38の保存弾性係数(E’)は、6.471GPaであり、損失タンジェント(tanδ)は、0.045であった。
【0109】
両側面に絶縁層38が配された電極構造体を、ラミネートバッグ(laminate bag)に入れて真空密封させた。次に、前記真空密封された電極構造体を、500MPa圧力で静水圧プレス(WIP)によって加圧させた。その後、前記電極構造体を前記ラミネートバッグから除去し、正極のAl端子と負極とNi端子とを、それぞれ超音波溶接機を利用して溶接した。次に、前述のAl端子及びNi端子が突出された電極構造体をラミネートバッグに入れ、さらに真空密封させ、全固体二次電池40を製造した。
【0110】
実施例2:セルロース+ガラスファイバ+Al(OH) 絶縁層が配された全固体二次電池
絶縁層形成用スラリー製造において、ナノセルロース(美術用紙粘土、(株)ピノキオ製造)、ガラスファイバ(直径=2.7μm、Whatman社製)、及びAl(OH)粉末(5μm、Sigma Aldrich社製)を1:1:1の重量比で添加して混合した混合粉末30gを容器に入れ、そこに精製水を追加して粉砕し、絶縁層形成用スラリーを製造した。その後、前記絶縁層形成用スラリーを100℃で12時間乾燥させ、シート形状の絶縁層を形成し、前記絶縁層を、前記負極層37、前記正極層36及び前記固体電解質層33で構成された積層体の固体電解質層33と同一サイズの内径を有するように「ロ」字形に穿孔し、別途の接着なしに、積層体の四面を取り囲むように配したことを除いては、実施例1と同一方法でもって、全固体二次電池40を製造した。絶縁層38の保存弾性係数(E’)は、19.87GPaであり、損失タンジェント(tanδ)は、0.024であった。
【0111】
実施例3:セルロース+エポキシ樹脂+セルロース3層構造の絶縁層が配された全固体二次電池
絶縁層形成用スラリー製造の代わりに、60μm厚のセルロース材質の紙2枚の間に、エポキシ接着剤(EP935、Okong社製)2gを塗布し、セルロース、エポキシ樹脂及びセルロースが順に配された3層構造の絶縁層構造体を準備し、前記負極層37、前記正極層36及び前記固体電解質層33によって構成された積層体の両側面に、前記エポキシ接着剤を利用して固定させたことを除いては、実施例1と同一方法でもって、全固体二次電池40を製造した。絶縁層38の保存弾性係数(E’)は、39.63GPaであり、損失タンジェント(tanδ)は、0.034であった。
【0112】
比較例1:ポリプロピレン(PP)+ZrO 絶縁層が配された全固体二次電池
絶縁層形成用スラリー製造の代わりに、約230μm厚のポリプロピレンジルコニアフィルム(MKP1848Cキャパシタ用材料(半製品)、Vishay社製)を準備し、前記負極層37、前記正極層36及び前記固体電解質層33で構成された積層体の固体電解質層33と同一サイズの内径を有するように「ロ」字形に穿孔し、別途の接着なしに、積層体の四面を取り囲むように配したことを除いては、実施例1と同一方法でもって、全固体二次電池40を製造した。絶縁層38の保存弾性係数(E’)は、1.491GPaであり、損失タンジェント(tanδ)は、0.098であった。
【0113】
比較例2:PMMA絶縁層が配された全固体二次電池
絶縁層形成用スラリー製造の代わりに、350μm厚の透明ポリメチルメタクリレート(PMMA)フィルム(住友化学社製)を準備し、前記負極層37、前記正極層36及び前記固体電解質層33で構成された積層体の固体電解質層33と同一サイズの内径を有するように「ロ」字形に穿孔し、別途の接着なしに、積層体の四面を取り囲むように配したことを除いては、実施例1と同一方法でもって、全固体二次電池40を製造した。絶縁層38の保存弾性係数(E’)は、2.520GPaであり、損失タンジェント(tanδ)は、0.157であった。
【0114】
比較例3:PTFE絶縁層が配された全固体二次電池
絶縁層形成用スラリー製造の代わりに、300μm厚のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム(Hypersheet、Goretech社製)を準備し、前記負極層37、前記正極層36及び前記固体電解質層33で構成された積層体の固体電解質層33と同一サイズの内径を有するように「ロ」字形に穿孔し、別途の接着なしに、積層体の四面を取り囲むように配したことを除いては、実施例1と同一方法でもって、全固体二次電池40を製造した。絶縁層38の保存弾性係数(E’)は、0.200GPaであり、損失タンジェント(tanδ)は、0.198であった。
【0115】
実施例1~3及び比較例1~3によって製造された全固体二次電池40の絶縁層を構成する材料、及びそれら材料の保存弾性係数(E’)、保存非弾性係数(E’’)及び損失タンジェント(tanδ(E’’/E’))を整理し、下記表1に示した。絶縁層材料の保存弾性係数(E’)、保存非弾性係数(E’’)は、10mmx5mmサイズの試料に、1Hz周波数の正弦波形態を利用した動的機械分析(DMS:dynamic mechanical analysis)によって導き出した。
【0116】
【表1】
【0117】
評価例1:充放電試験
実施例1~3及び比較例1~3によって製造された全固体二次電池の充放電特性を、次の充放電試験によって評価した。該充放電試験は、全固体二次電池を45℃の恒温槽に入れて行った。
【0118】
第1サイクルは、電池電圧が4.25Vになるまで0.1Cの定電流で充電した後、4.25Vに達すると、定電圧充電に変更し、充電電流が0.05Cに達するまで充電した。次に、電池電圧が2.5Vになるまで0.1Cの定電流で放電を実施した。
【0119】
その後、前記第1サイクルを反復し、50サイクルまで充放電を反復実施し、下記数式1により、容量維持率を計算した。初期容量と容量維持率との結果を、下記表2及び図4に示した。初期容量は、第1サイクルにおける放電容量である。
【0120】
[数式1]
容量維持率(%)=[50回目サイクルの放電容量/第1サイクルの放電容量]×100
【0121】
【表2】
【0122】
前記表1及び図4から分かるように、実施例1~3によって製造された全固体二次電池は、比較例1~3によって製造された全固体二次電池に比べ、初期容量が同等であるか、あるいはそれより向上され、容量維持率も向上された。
【0123】
以上より、実施例1~3によって製造された全固体二次電池は、6.471GPa以上の保存弾性係数、及び0.045未満の損失タンジェントを有する絶縁層を電極構造体の両側面に含み、初期短絡発生を防止しながら、充放電時に復元力を有し、初期容量及び容量維持率にすぐれるということが分かる。
【符号の説明】
【0124】
1,26,26’,36,36’ 正極層
2,23,23’,33,33’ 固体電解質層,
3,27,27’,37,37’ 負極層
4,28,28’,38,38’ 絶縁層
10,30 電極構造体
21,31 正極集電体
22,22’,32,32’ 正極活物質層
24,24’,35,35’ 負極集電体
25,25’,34,34’ 負極活物質層
39,39’ 支持部材
40 全固体二次電池
W 余裕分幅
図1
図2A
図2B
図3
図4