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特許7581476セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/13 20060101AFI20241105BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
H01L23/12 C
H05K3/38 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023500804
(86)(22)【出願日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2022005407
(87)【国際公開番号】W WO2022176777
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2021023071
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】那波 隆之
(72)【発明者】
【氏名】矢野 圭一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛正
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-5404(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056360(WO,A1)
【文献】特開平6-48851(JP,A)
【文献】特開平6-48852(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094213(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/021472(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/221174(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/209175(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/02
H01L 21/768
H01L 23/12―23/15
H01L 23/28―23/30
H01L 25/07
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と金属板とを接合層を介して接合したセラミックス回路基板において、
前記金属板がCu、Al、およびそれら金属を含む合金のいずれか1種であり、
前記セラミックス回路基板を、前記セラミックス回路基板の厚さ方向と側方向からなる断面で観察した場合、
前記金属板の側面は傾斜形状を有し、
前記接合層は前記金属板の側面と接合層が接する端部から20[μm]以上150[μm]以下はみ出た接合層はみ出し部を有し、
前記端部を点Aとし、その点Aから内側に前記側方向の距離で20[μm]離れた前記金属板の側面を点Bとし、前記点Aから外側に前記側方向の距離で20[μm]離れた前記接合層はみ出し部の表面を点Cとしたとき、角度∠BACが110[°]以上であり、
前記点Bを通る前記側方向の線と前記金属板および前記接合層の界面との間の領域の10か所のビッカース硬度の平均値をHmとし、前記接合層内の10か所のビッカース硬度の平均値をHbとした場合、300>Hm>Hb、かつHm/Hb<2であり、
前記領域内における前記金属板の成分以外の前記接合層の成分が存在する面積の割合Rが5[%]以上20[%]以下であることを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項2】
前記接合層はみ出し部の長さが20[μm]以上80[μm]以下の範囲内であることを請求項1に記載のセラミックス回路基板。
【請求項3】
前記金属板の厚さが0.3[mm]以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】
前記領域M内における前記金属板の成分以外の前記接合層の成分は、Ag、Ti、Sn、In、Zr、Al、Si、C、Mgから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項5】
前記セラミックス基板が、熱伝導率80[W/mK]以上の窒化珪素基板であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項6】
前記接合層のビッカース硬さHbが90以上200以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項7】
前記金属板の表面において単位面積1[mm]×1[mm]における金属結晶粒子同士の3重点の数が20個以上150個以下の範囲内であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項8】
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板に半導体素子を実装したことを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
樹脂またはゲルによりモールドされていることを特徴とする請求項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
後述する実施形態は、おおむね、セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス回路基板は、半導体素子を実装する回路基板として用いられている。セラミックス基板としては、アルミナ基板、アルジル基板、窒化アルミニウム基板、窒化珪素基板などが用いられている。また、セラミックス基板に接合される金属板としては銅板やアルミニウム板が用いられている。半導体素子の高性能化に伴い、ジャンクション温度が高くなっている。このため、セラミックス回路基板はTCT特性(耐熱サイクル特性)を向上させることが求められている。
【0003】
例えば、国際公開第2017/056360号公報(特許文献1)では、銅板側面に傾斜構造を設けること、および接合層のはみ出し部のサイズの最適化が記載されている。特許文献1では、優れたTCT特性を得ている。特に、接合層のはみ出し部のサイズを最適化することが好ましいとされている。特許文献1では、優れたTCT特性が得られていた。
【0004】
セラミックス回路基板は金属板上に半導体素子を実装して半導体装置になる。半導体素子を実装しない側の金属板はヒートシンクベースに接合される。また、必要に応じ、ワイヤーボンディングやリードを接合している。また、半導体素子を保護するために樹脂によりモールドしている。樹脂によるモールドには、ポッティング方式やトランスファーモールド方式などの方法が用いられている。樹脂によりモールドされたモールド樹脂は、樹脂を固めて成形され、半導体素子を保護する役目を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/056360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のセラミックス回路基板を使った半導体装置に樹脂をモールドしたところ、樹脂はがれの現象が観察される場合があった。半導体素子の高性能化に伴い発熱量が増えている。これに伴いモールド樹脂とセラミックス回路基板の接触面に樹脂はがれが起き易くなることが判明した。
【0007】
本発明は、このような問題に対応するためのものであり、モールド樹脂の樹脂はがれを抑制できるセラミックス回路基板を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る、セラミックス基板と金属板とを接合層を介して接合したセラミックス回路基板は、セラミックス回路基板を、セラミックス回路基板の厚さ方向と側方向からなる断面で観察した場合に、次のような特徴を備える。
(1)金属板の側面は傾斜形状を有する。
(2)接合層は金属板の側面と接合層が接する端部から20[μm]以上150[μm]以下はみ出た接合層はみ出し部を有する。
(3)端部を点Aとし、その点Aから内側に側方向の距離で20[μm]離れた金属板の側面を点Bとし、点Aから外側に側方向の距離で20[μm]離れた接合層はみ出し部の表面を点Cとしたとき、角度∠BACが110[°]以上である。
(4)点Bを通る側方向の線と金属板および接合層の界面との間の領域の10か所のビッカース硬度の平均値はHmである。
(5)接合層内の10か所のビッカース硬度の平均値をHbとした場合、300>Hm>Hb、かつHm/Hb<2である。
(6)領域内における金属板の成分以外の接合層の成分が存在する面積の割合Rが5[%]以上20[%]以下である。
【0009】
すなわち、セラミックス回路基板の厚さ方向と各側方向からなる断面(セラミックス回路基板の平面の形状が矩形の場合には各側方向は、直交する2つの側方向の各側方向)において上記特徴(1)~(6)の要件を満たすことが好適である。なお、セラミックス回路基板の表面のみに金属板が接合されている場合は、表面の金属板および接合層のみが上記特徴(1)~(6)の要件を満たせばよいし、セラミックス回路基板の両面に金属板が接合されている場合は、両面の金属板および接合層が上記特徴(1)~(6)の要件を満たせばよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るセラミックス回路基板の第1例を示すI-I断面図。
図2】(A)は、実施形態に係るセラミックス回路基板の概要を示す側面図、(B)は、実施形態に係るセラミックス回路基板の概要を示す上面図。
図3】実施形態に係る半導体装置の一例を示す側面図。
図4】耐電圧特性の測定を説明するための側面図。
図5】実施形態に係るセラミックス回路基板の第2例を示すI-I断面図。
図6】実施形態に係るセラミックス回路基板の第3例を示すI-I断面図。
【実施形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
実施形態に係る、セラミックス基板と金属板とを接合層を介して接合したセラミックス回路基板は、セラミックス回路基板を、セラミックス回路基板の厚さ方向と側方向からなる断面で観察した場合に、次のような特徴を備える。
(1)金属板の側面は傾斜形状を有する。
(2)接合層は金属板の側面と接合層が接する端部から20[μm]以上150[μm]以下はみ出た接合層はみ出し部を有する。
(3)端部を点Aとし、その点Aから内側に側方向の距離で20[μm]離れた金属板の側面を点Bとし、点Aから外側に側方向の距離で20[μm]離れた接合層はみ出し部の表面を点Cとしたとき、角度∠BACが110[°]以上である。
(4)点Bを通る側方向の線と金属板および接合層の界面との間の領域の10か所のビッカース硬度の平均値はHmである。
(5)接合層内の10か所のビッカース硬度の平均値をHbとした場合、300>Hm>Hb、かつHm/Hb<2である。
(6)領域内における金属板の成分以外の接合層の成分が存在する面積の割合Rが5[%]以上20[%]以下である。
【0013】
すなわち、セラミックス回路基板の厚さ方向と各側方向からなる断面(セラミックス回路基板の平面の形状が矩形の場合には各側方向は、直交する2つの側方向の各側方向)において上記特徴(1)~(6)の要件を満たすことが好適である。なお、セラミックス回路基板の表面のみに金属板が接合されている場合は、表面の金属板および接合層のみが上記特徴(1)~(6)の要件を満たせばよいし、セラミックス回路基板の両面に金属板が接合されている場合は、両面の金属板および接合層が上記特徴(1)~(6)の要件を満たせばよい。
【0014】
図1図2(A),(B)に実施形態に係るセラミックス回路基板の詳細を断面図で示す。図中、1はセラミックス回路基板、2はセラミックス基板、3は金属板、4は接合層、5は領域M、6は金属板、である。なお、図1図2(B)のI-I断面図であるが、図1において、セラミックス回路基板2の裏側の接合層4と裏金属板6との表示を省略する。また、セラミックス基板2の側方向をx軸方向及びy軸方向と定義し、セラミックス基板2の深さ方向をz軸方向と定義する。
【0015】
図1は、セラミックス回路基板1の表側の金属板3(裏側の金属板6については図示省略)の側面形状を例示したものである。また、図2(A),(B)は、表側に金属板3を2つ、裏側に金属板6を1つ設けたセラミックス回路基板1の構造を示す。表側の金属板3を回路として用いるため表金属板と呼ぶこともある。また、裏側の金属板6を放熱板として用いるため裏金属板と呼ぶこともある。実施形態に係るセラミックス回路基板1は、このような構造に限定されるものではない。例えば、表金属板3は3つ以上存在していてもよい。また、裏金属板6に回路形状を具備させてもよいものである。以下、セラミックス回路基板1の両側に金属板3,6が接合される場合を例示して説明する。
【0016】
まず、セラミックス基板2は、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、アルジル基板から選ばれる1種が好ましい。なお、アルジル基板とはアルミナとジルコニアを混合したセラミックス焼結体を用いたものである。
【0017】
セラミックス基板2が窒化珪素基板である場合、窒化珪素基板の3点曲げ強度が600[MPa]以上のものであることが好ましい。また、窒化珪素基板の熱伝導率は80[W/m・K]以上のものであることが好ましい。窒化珪素基板の強度を上げることにより、基板厚さを薄くすることができる。このため、窒化珪素基板は3点曲げ強度は600[MPa]以上、さらには700[MPa]以上が好ましい。窒化珪素基板は基板厚さを0.40[mm]以下、さらには0.30[mm]以下と薄くできる。
【0018】
また、セラミックス基板2が窒化アルミニウム基板である場合、窒化アルミニウム基板の3点曲げ強度は300~450[MPa]程度である。その一方、窒化アルミニウム基板の熱伝導率は160[W/m・K]以上である。窒化アルミニウム基板は強度が低いため、基板厚さは0.60[mm]以上が好ましい。
【0019】
また、セラミックス基板2が酸化アルミニウム基板である場合、酸化アルミニウム基板の3点曲げ強度は300~450[MPa]程度であるが、安価である。また、セラミックス基板2がアルジル基板である場合、アルジル基板の3点曲げ強度が550[MPa]程度と高いが熱伝導率は30~50[W/m・K]程度である。
【0020】
なお、セラミックス基板2としては窒化珪素基板であることが好ましい。窒化珪素基板は強度が高いため、薄型化できる。
【0021】
また、金属板3,6は、銅板、銅合金板、アルミニウム板、アルミニウム合金板から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。金属板3,6としては銅板が好ましい。また、金属板3,6は無酸素銅板であることが好ましい。無酸素銅はJIS-H-3100に示されているように銅純度99.96[質量%]以上である。銅の熱伝導率は約400[W/m・K]、アルミニウムの熱伝導率は約240[W/m・K]である。アルミニウムよりも銅は熱伝導率が高いため、放熱性が向上する。また、アルミニウム板は純アルミニウムであることが好ましい。純アルミニウムはJIS-H-4000に示されている。なお、JIS-H-3100に対応するISOは、ISO1337(1980)などである。また、JIS-H-4000に対応するISOは、ISO209-1(1989)などである。
【0022】
また、金属板3,6の厚さは0.3[mm]以上であることが好ましい。金属板3,6を厚くすることにより、放熱性を向上させることができる。また、通電容量を稼ぐこともできる。このため、金属板3,6の厚さは0.3[mm]以上、さらには0.6[mm]以上が好ましい。また、金属板3,6の厚さの上限は特に限定されるものではないが5[mm]以下が好ましい。5[mm]を超えると金属板3,6の側面の傾斜形状の制御が困難となる可能性がある。また、放熱性の観点からすると、金属板3,6として、厚さ0.3[mm]以上の銅板を用いることが好ましい。また、表金属板3としての表銅板と裏金属板6としての裏銅板とは共に厚さ0.3[mm]以上であることが好ましい。
【0023】
また、セラミックス基板2と表金属板3および裏金属板6とはそれぞれ、接合層4を介して接合されている。また、接合層4は、表金属板3の側面と接合層4が接する端部(図1に示す断面図では点)からはみ出た接合層はみ出し部4aを有している。
【0024】
接合層はみ出し部4aのはみ出し長さ(以下、単に「長さ」と呼ぶ)は20[μm]以上150[μm]以下である。接合層はみ出し部4aの長さは、セラミックス回路基板1の任意の断面を用いて測定されるものとする。断面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察する。SEM写真の倍率は500倍とする。SEM写真を用いて接合層はみ出し部4aの長さを求めるものとする。接合層はみ出し部4aの長さは、接合層4と表金属板3の接点と接合層はみ出し部4aの端部とセラミックス基板2の接点を基準に求めるものとする。また、裏金属板6についても表金属板3と同様である。接合層4と表金属板3の接点を基準1とし、接合層はみ出し部4aの端部とセラミックス基板2の接点を基準2とする。基準1および基準2から垂直線(z軸方向に延びる線)を引き、垂直線同士の水平距離(x軸方向またはy軸方向の距離)を接合層はみ出し部4aの長さとする。なお、表金属板3側面に金属被膜を有していたとしても、表金属板3自体の側面を基準に測定するものとする。金属被膜は金属メッキなどが挙げられる。
【0025】
接合層はみ出し部4aの長さは20[μm]以上150[μm]以下であると、TCT特性を向上させることができる。接合層はみ出し部4aの長さが20[μm]未満では接合端部の応力緩和効果が不足する。また、150[μm]を超えて長いと、それ以上の効果が得られない。また、接合層はみ出し部4aが長すぎると、隣り合う表金属板3同士(または裏金属板6同士)のピッチを狭くすることが困難となる可能性がある。そのため、接合層はみ出し部4aの長さは20[μm]以上150[μm]以下、さらには20[μm]以上80[μm]以下が好ましい。また、より好ましくは30[μm]以上60[μm]以下である。
また、接合層はみ出し部4aの厚さは、均一な厚さの構造であってもよいし、先端に行くに従って薄くなる構造であってもよい。
【0026】
また、表金属板3の側面と接合層4が接する端部(図1に示す断面図では点)を点Aとし、点Aから内側(すなわち、図1に示すx軸正方向)にx軸方向の距離で20[μm]離れた表金属板3の側面を点Bとし、点Aから外側(すなわち、図1に示すx軸負方向)にx軸方向の距離で20[μm]離れた接合層はみ出し部4aの表面の接点を点Cとしたとき、角度∠BACが110[°]以上、である。
【0027】
点A、点B、点Cの測定は断面のSEM写真を用いるものとする。SEM写真において、表金属板3の側面と接合層4が接する点を点Aとする。その点Aから内側にx軸方向の距離で20[μm]離れた表金属板3の側面を点Bとする。また、点Aから外側にx軸方向の距離で20[μm]離れた接合層はみ出し部4aの上面の接点を点Cとする。点Bと点Aを直線で結ぶ。同様に、点Aと点Cを直線で結ぶ。それぞれの直線で形成される角度を角度∠BACとする。点Bと点Aを直線で結んだ直線BAと、点Aと点Cを直線で結んだ直線ACが成す角度が角度∠BACとなる。また、角度∠BACとは、図1の上方側で作る角度のことである。
角度∠BACが110[°]以上であることにより、接合層はみ出し部4aに係る応力を小さくすることができる。接点Aから20[μm]という微少領域において十分な角度があることを意味している。また、樹脂をモールドした際に、表金属板3の側面とモールド樹脂8との密着性を向上させることができる。
【0028】
角度∠BACが110[°]未満であると金属板側面の角度が立っていることになる。また、接合層はみ出し部4aが外側に行くに従って厚くなると角度∠BACが小さくなる。このような形状では接合層はみ出し部4aに係る応力が大きくなる。また、表金属板3の側面とモールド樹脂8との間に隙間が生じ易くなる。
【0029】
また、角度∠BACの上限は特に限定されるものではないが、180[°]以下が好ましい。180[°]を超えて大きいと、表金属板3の側面が傾斜し過ぎて半導体素子7(図3に図示)を実装する面積が小さくなる可能性がある。また、角度∠BACが180[°]を超える場合として、接合層はみ出し部4aが長く、先端に行くに従って細くなる構造がある。接合層はみ出し部4aが長くなると隣り合う表金属板3同士(または金属板6同士)のピッチを狭くすることが困難となる可能性がある。このため、角度∠BACは110[°]以上180[°]以下、さらには130[°]以上160[°]以下が好ましい。
【0030】
また、図1に示すように、表金属板3の側面は、z軸負方向に進むに従って広くなる傾斜形状であってもよいが、図5に示すように、表金属板3の側面はz軸正方向とz軸負方向に進むに従って広くなる円弧形状であってもよい。角度∠BACを110[°]以上にした上で表金属板3の側面を円弧形状とすることにより、応力緩和と半導体素子7(図3に図示)の実装面積拡大との両立を図ることができる。また、樹脂をモールドした際にモールド樹脂の樹脂はがれを抑制することができる。図5に、金属板3,6のうち少なくとも一方の側面、例えば、表金属板3の側面が円弧形状を備える場合のセラミックス回路基板1の第2例を示す。また、図6に、表金属板3の側面と表面の接続部とがR形状を備える場合のセラミックス回路基板1の第3例を示す。なお、図5および図6図2(B)のI-I断面図であるが、図5および図6において、セラミックス回路基板2の裏側の接合層4と裏金属板6との表示を省略する。
【0031】
図5に示すように、表金属板3の側面が円弧形状を備えると、表金属板3の表面がそれぞれ、x軸方向およびy軸方向に延長されていく。これにより、表金属板3の表面に平坦面が増えるので半導体素子7の実装面積を大きくすることができる。一方、図6に示すように表金属板3の側面と表面との接続部がR形状を備えると、表金属板3の表面と裏金属板6の裏面とに平坦面が小さくなるため、実装面積を大きくすることができない。
【0032】
また、図5に示す表金属板3の側面は前述の断面SEM写真(500倍)でみたとき、微少な凹凸は存在していてもよいものとする。なお、図5に示す表金属板3の側面の上端部が外側に延長されていれば、円弧形状と呼ぶものとする。
【0033】
図1の説明に戻って、点Bを通りセラミックス基板2の平面(x-y平面)に平行する面と、表金属板3および接合層4の界面との間を領域Mと定義する。領域Mの10か所のビッカース硬度の平均値をHm、接合層4内の10か所のビッカース硬度の平均値をHb、300>Hm>Hb、かつHm/Hb<2であり、領域M内における表金属板3の成分以外の接合層4の成分が存在する面積の割合Rが5[%]以上20[%]以下であることを特徴としている。
【0034】
領域Mは点Bを通るx軸方向の線と、表金属板3および接合層4の界面との間の領域である。また、表金属板3と接合層4の界面は、表金属板3以外の成分が8質量[%]以上になった領域とする。
【0035】
例えば、表金属板3として銅板を用いたとき、銅板中の銅以外の濃度が8[質量%]になった個所を銅板と接合層4の界面とする。また、表金属板3以外の成分が2種以上あるときは合計で8[質量%]になった個所を銅板と接合層4の界面とする。表金属板3と接合層4の界面の測定にはSEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)の点分析により求めるものとする。
【0036】
また、領域Mの10か所のビッカース硬度の平均値をHm、接合層4内の10か所のビッカース硬度の平均値をHb、とする。ビッカース硬度の測定JIS-Z-2244(2009)に準じて行ものとする。試料はセラミックス回路基板1の任意の断面を用いるものとする。試料の測定面は表面粗さRaが1[μm]以下とする。必要に応じ、試料の測定面を研磨加工してよいものとする。また、試験力(F)は9.807[N]を用いるものとする。また、ビッカース硬度の測定はナノインデンテーション法で行ってもよい。ナノインデンテーション法による測定方法は特許文献1に記載の通りである。なお、JIS-Z-2244に対応するISOはISO6507である。
【0037】
領域Mの任意の10か所のビッカース硬さを測定し、その平均値をHmとする。同様に、接合層内の任意の10か所のビッカース硬度の平均値をHbとする。
【0038】
また、300>Hm>Hb、かつHm/Hb<2、であることを満たすものである。300>Hm>Hbであるということは、HmおよびHbがビッカース硬度300未満であることを示している。また、領域Mのビッカース硬度Hmよりも接合層4のビッカース硬度Hbの方が低いことを示している。また、Hm/Hb<2であるということは、領域Mのビッカース硬度Hmは接合層4のビッカース硬度Hbの2倍未満であることを示している。これは領域Mと接合層4の硬さの差が小さいことを示している。これにより、接合層はみ出し部4aに発生する応力を緩和することができる。また、樹脂によりモールドした際に樹脂はがれを抑制することができる。これはモールド樹脂8(図3に図示)の変形に伴う変形量を小さくすることができるためである。
【0039】
また、接合層4のビッカース硬さHbが90以上200以下であることが好ましい。Hbが90以上200以下の範囲内であると、HmとHbの関係を制御し易くなる。
【0040】
また、領域M内における表金属板3の成分以外の接合層4の成分は、Ag(銀)、Ti(チタン)、Sn(錫)、In(インジウム)、Zr(ジルコニウム)、Al(アルミニウム)、Si(珪素)、C(炭素)、Mg(マグネシウム)から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。領域M内における表金属板3の成分以外の接合層4の成分とは、接合層4の構成成分の中で表金属板3と異なる成分のことである。言い換えると、Ag、Ti、Sn、In、Zr、Al、Si、C、Mgから選ばれる1種または2種以上の元素を接合層4は含有していることを示す。なお、前述の角度∠BACを求める際の点Cは点Cと表記する。接合層4中の炭素はCと表記する。
【0041】
後述するように、接合層4を介してセラミックス基板2と表金属板3を接合するときは加熱接合工程を行う。加熱により接合層4の成分が表金属板3に拡散していくのである。これにより、Hm、Hbの制御を行うことができる。また、前述のように表金属板3と接合層4の界面は表金属板3以外の成分が8[質量%]になった領域である。領域MはAg、Ti、Sn、In、Zr、Al、Si、C、Mgから選ばれる1種または2種以上の元素を合計で1質量[%]以上含有していることが好ましい。
【0042】
また、領域M内における表金属板3の成分以外の接合層4の成分が存在する面積の割合Rが5[%]以上20[%]以下である。領域Mのビッカース硬度を制御するためには、領域Mの表金属板3の成分以外の接合層4の成分が存在する面積の割合を制御することが有効である。領域Mの表金属板3の成分以外の接合層4の成分とは、Ag、Ti、Sn、In、Zr、Al、Si、C、Mgから選ばれる1種または2種以上にことである。
【0043】
領域M内の割合Rの測定はSEM-EDXのエリア分析を用いるものとする。エリア分析は面分析と呼ぶこともある。セラミックス回路基板1の任意の断面において、領域Mの幅50[μm]×厚さ20[μm]を測定領域とする。幅50[μm]は領域Mの幅方向である。厚さ20[μm]は領域Mを求めたときに用いた点Bを通るx軸方向の線を基準に接合層側に20[μm]入った範囲である。
【0044】
割合Rが5[%]以上20[%]以下の範囲内であると、Hm、Hbの制御が可能となる。また、領域Mに金属板成分以外の接合層成分が分布することにより、接合の信頼性を向上させることができる。割合Rは任意の1カ所を測定すればよいものとする。言い換えると、領域Mのどこを測定したとしても割合Rは5[%]以上20[%]以下の範囲内であることが好ましい。
【0045】
以上のようなセラミックス回路基板1は、TCT特性を向上させることができる。その上で樹脂をモールドした際の樹脂はがれを抑制することができる。このため、セラミックス回路基板1に半導体素子を実装した半導体装置に好適である。
【0046】
図3に実施形態に係る半導体装置の一例を示した。図中、1はセラミックス回路基板、7は半導体素子、8はモールド樹脂、10は半導体装置、である。図3では半導体素子を一つ実装した例を示したが、2つ以上実装してもよいものである。また、図示しないが、リードフレーム、ワイヤーボンディングやねじ止め構造などを具備してもよいものである。また、半導体装置10全体に樹脂をモールドしてモールド樹脂8を成形した例を示したが、半導体素子7を実装した面だけに樹脂をモールドしてモールド樹脂8を成形してもよいものである。
【0047】
実施形態に係るセラミックス回路基板1はTCT特性に優れている。また、金属板3,6側面のモールド樹脂8の樹脂がはがれにくい。このため、モールド樹脂8を具備した半導体装置10の信頼性を向上させることができる。
【0048】
次に、実施形態に係るセラミックス回路基板1の製造方法について説明する。実施形態に係るセラミックス回路基板1は上記構成を有していればその製造方法は限定されるものではないが歩留まり良く得るための方法として次のものが挙げられる。
【0049】
まず、セラミックス基板2を用意する。セラミックス基板2は、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、アルジル基板から選ばれる1種が好ましい。
また、セラミックス基板2は、熱伝導率が80[W/m・K]以上の窒化珪素基板であることが好ましい。また、窒化珪素基板は、3点曲げ強度が600[MPa]以上のものであることが好ましい。窒化珪素基板の強度を上げることにより、基板厚さを薄くすることができる。
次に金属板3,6を用意する。金属板3,6は、銅板またはアルミニウム板が好ましい。また、銅板は無酸素銅板が好ましい。また、アルミニウム板は純アルミニウム板であることが好ましい。また、金属板3,6は厚さ0.3[mm]以上が好ましい。
【0050】
次に接合層4となるろう材を用意する。
接合層4として銅板を用いるとき、Ag(銀)またはCu(銅)を主成分としTi(チタン)を含有するろう材であることが好ましい。Tiを含むろう材は活性金属ろう材と呼ばれている。活性金属ろう材は、Tiがセラミックス基板2と反応して反応層を形成することにより、接合強度を向上させることができる。セラミックス基板2が窒化物系セラミックス基板であると反応層は窒化チタンが主成分となる。窒化物系セラミックス基板とは、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板などである。また、セラミックス基板2が酸化物系セラミックス基板であると反応層は酸化チタンが主成分となる。酸化物系セラミックス基板とは、酸化アルニウム基板、アルジル基板などである。
【0051】
また、ろう材組成は、Ag(銀)を0[質量%]以上60[質量%]以下、Cu(銅)を15[質量%]以上85[質量%]以下、Ti(チタン)またはTiH(水素化チタン)を1[質量%]以上15[質量%]以下、含有することが好ましい。また、TiとTiHの両方を用いる場合は、合計が1[質量%]以上15[質量%]以下の範囲内とする。また、AgとCuを両方用いる場合は、Agを20~60[質量%]、Cuを15~40[質量%]であることが好ましい。
【0052】
ろう材組成は、必要に応じ、Sn(錫)またはIn(インジウム)の1種または2種を1[質量%]以上50[質量%]以下、含有してもよい。また、TiまたはTiHの含有量は、1[質量%]以上15[質量%]以下、さらには1[質量%]以上6質量%以下であることが好ましい。また、必要に応じ、C(炭素)を0.1[質量%]以上2[質量%]以下、含有させても良いものとする。また、必要に応じ、Zr、Al、Si、Mgから選ばれる1種または2種以上を0.1[質量%]以上5[質量%]以下含有してもよい。
【0053】
ろう材組成の比率は、混合する原料の合計を100[質量%]で計算する。例えば、Ag、Cu、Tiの3種で構成する場合はAg+Cu+Ti=100[質量%]となる。また、Ag、Cu、TiH、Inの4種で構成する場合は、Ag+Cu+TiH+In=100[質量%]となる。また、Ag、Cu、Ti、Sn、Cの5種で構成する場合は、Ag+Cu+Ti+Sn+C=100[質量%]となる。
【0054】
また、アルミニウム板を用いるとき、Al(アルミニウム)を主成分としSi(珪素)またはMg(マグネシウム)を含有するろう材であることが好ましい。また、Siの含有量は0.1[質量%]以上20[質量%]以下の範囲内が好ましい。また、Mgの含有量は0.1[質量%]以上20[質量%]以下の範囲内が好ましい。また、SiとMgを両方含有してもよい。ろう材組成の比率は混合する原料の合計を100[質量%]で計算する。例えば、Al、Siの2種類で構成する場合はAl+Si=100[質量%]となる。また、Al、Si、Mgの3種で構成する場合はAl+Si+Mg=100[質量%]となる。
【0055】
ろう材成分を混合した後、バインダなどを添加し、ろう材ペーストを調製する。ろう材ペーストをセラミックス基板上に塗布し、表金属板3を配置する。なお、セラミックス基板2の両面にそれぞれ金属板3,6を接合する場合は、セラミックス基板2の両面にろう材ペーストを塗布した後、金属板3,6を配置する。この工程により、セラミックス基板2、ろう材ペースト、金属板3,6の積層体を調製することができる。また、積層体の状態において、セラミックス基板2と金属板3,6の縦横サイズは、ほぼ同じであることが好ましい。ほぼ同じとは±2[mm]の範囲内であることを示す。
【0056】
また、ろう材ペーストの塗布厚さは10[μm]以上60[μm]以下が好ましい。また、セラミックス基板2にろう材ペーストを塗布した後に、乾燥工程を行うことが好ましい。乾燥工程は、40[℃]以上80[℃]以下の範囲内で熱処理することである。乾燥温度が低いとバインダ成分や溶媒成分が十分に除去できない可能性がある。また、乾燥温度が高いと、ろう材が酸化される可能性がある。乾燥工程を行うことにより、ろう材成分と表金属板3の接触を均質化することができる。
【0057】
これにより、ろう材成分の拡散状態の均一性を向上させることができる。なお、乾燥工程で残存したバインダ成分は、加熱接合工程の昇温工程中にて除去すれば良いものとする。
【0058】
次に、加熱接合工程を行うものとする。加熱温度は600[℃]以上960[℃]以下の範囲内であることが好ましい。また、雰囲気は真空中または不活性ガス中が好ましい。真空中とは10-3[Pa]以下のことである。また、不活性ガスとは、窒素ガスやアルゴンガスが挙げられる。また、窒素中とは窒素含有量80[体積%]以上の雰囲気のことである。
【0059】
また、加熱接合工程は、積層体に荷重を負荷することが好ましい。荷重は500[Pa]以上2000[Pa]以下の範囲内であることが好ましい。これにより、ろう材成分が金属板に適切な量で拡散し、かつ均質化することができる。
【0060】
また、加熱接合工程後の冷却速度を5[℃/分]以上にすることが好ましい。冷却速度を早くすることにより、ろう材が固まるのを早くすることができる。これにより、接合層4のビッカース硬度を均質にすることができる。
【0061】
また、表金属板3は、単位面積1[mm]×1[mm]において金属結晶粒子同士の3重点の数が20個以上150個以下の範囲内であることが好ましい。3重点の数は表金属板3の表面を金属顕微鏡で観察するものとする。金属結晶粒子が確認し難いときは、表金属板3の表面をエッチング処理してもよいものとする。また、表金属板3が銅板であれば、銅結晶粒子同士の3重点となる。表金属板3がアルミニウム板であれば、アルミニウム結晶粒子同士の3重点となる。
【0062】
金属結晶粒子同士の3重点は、金属結晶粒子同士の2粒子間よりもろう材が拡散するルートになり易い。3重点の数を増やすことにより、ろう材が拡散するルートを複雑な迷路にすることができる。これにより、拡散量を制御することができる。なお、金属板の3重点の数は、接合後の表金属板3の3重点の数とする。加熱接合工程を行うことにより、表金属板3の結晶粒子は粒成長する。接合後の3重点の数が上記範囲内であればろう材の拡散ルートの制御を行うことができる。単位面積1[mm]×1[mm]において、金属結晶粒子同士の3重点の数が20個未満であると、3重点の数が少ないため拡散ルートがスムーズになる。拡散がスムーズになると拡散量が増加する可能性がある。また、3重点の数が150個を超えると拡散ルートが複雑になるが、拡散ルート自体が増えるので拡散量が増加する可能性がある。拡散量が増加すると、割合Rが20[%]を超える可能性が高くなる。このため、金属板3,6は、単位面積1[mm]×1[mm]において金属結晶粒子同士の3重点の数が20個以上150個以下、さらには30個以上100個以下の範囲内であることが好ましい。
【0063】
以上の工程により、セラミックス基板2と表金属板3の接合体が作製される。次に表金属板3に回路形状を付与する工程を行う。回路形状の付与はエッチング工程を用いることが好ましい。エッチング工程は、表金属板3のエッチング工程や接合層のエッチング工程がある。表金属板3のエッチング工程により、回路形状や表金属板3側面形状の制御を行うことができる。また、接合層4のエッチング工程により、接合層はみ出し部4aのサイズを制御することができる。回路形状を付与する工程は、レーザー加工や、ホーニング加工も有効である。
【0064】
以上の工程により、金属板3,6(または、表金属板3のみ)を備えるセラミックス回路基板1を製造することができる。さらに、セラミックス回路基板1に半導体素子7を実装することにより半導体装置10となる。また、必要に応じ、セラミックス回路基板1に対してリードフレームやワイヤボンディングの接合を行うものとする。
【0065】
また、必要に応じ、樹脂またはゲルによるモールド工程を行うものとする。樹脂によるモールドとは、樹脂を固化して封止することである。また、ゲルによるモールドとは、ゼリー状の樹脂で封止することである。本実施形態では、樹脂によるモールドを採用するものとして説明するが、樹脂によるモールドに代え、ゲルによるモールドを採用してもよい。樹脂によりモールドされたモールド樹脂8は、半導体素子や配線を保護する役割がある。また、モールド樹脂8は金属板同士の間、表裏金属板間の通電・放電を抑制することができる。一方、半導体素子7の高性能化に伴いジャンクション温度が高くなっている。これに伴い金属板3,6に伝わる熱量が増加している。セラミックス基板2、接合層はみ出し部4a、金属板3,6で熱膨張率に差がある。このため、熱膨張差による応力は接合層はみ出し部近傍で大きくなる。実施形態に係るセラミックス回路基板1は、角度∠BACなどを制御しているため樹脂はがれを防ぐことができる。言い換えると、樹脂によりモールドされるセラミックス回路基板1に好適である。
【0066】
また、樹脂によるモールド工程で行われる方法としては、樹脂を使った方法やゲルを使った方法が挙げられる。樹脂としてはエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。また、モールド方法としては、トランスファーモールド法、コンプレッションモールド法などが挙げられる。
【0067】
(実施例)
(実施例1~10、比較例1~4)
実施例1~10に係るセラミックス基板2と、比較例1~4に係るセラミックス基板として、窒化珪素基板とアルジル基板を用意した。窒化珪素基板は、熱伝導率90[W/m・K]、3点曲げ強度650[MPa]のものを用意した。また、アルジル基板は熱伝導率25[W/m・K]、3点曲げ強度550[MPa]のものを用意した。
金属板として、無酸素銅板(Cu)と純アルミニウム板(Al)を用意した。また、接合ろう材として表1に示したものを用意した。
【0068】
[表1]
【0069】
ろう材をペーストにし、セラミックス基板に塗布した。その上に表金属板を配置した。接合条件を表2に示した。
上記方法により、セラミックス基板の両面にそれぞれ表金属板および裏金属板を接合した接合体を作製した。なお、セラミックス基板と金属板の縦横サイズは同じにした。
セラミックス基板、ろう材、表金属板、裏金属板の組合せは表2に示した通りである。
【0070】
[表2]
【0071】
得られた接合体を用いてエッチング工程を行った。この工程により、接合層はみ出し部の長さ、角度∠BACを調整した。これによりセラミックス回路基板を作製した。また、表銅板と裏銅板は接合層はみ出し部長さ、角度∠BACは同じ形状とした。
【0072】
得られたセラミックス回路基板の任意の断面をSEM観察した。SEM写真により接合層はみ出し部の長さ、角度∠BACを測定した。また、ナノインデンテーション法を用いて、領域M、接合層のビッカース硬度を調べた。また、SEM-EDXを用いて割合Rを測定した。
その結果を表3に示した。
【0073】
[表3]
【0074】
表3から分かる通り、実施例1~10に係るセラミックス回路基板は、接合層はみ出し部の長さが20[μm]以上150[μm]以下である場合において、角度∠BACは110[°]以上、300>Hm>Hb、かつHm/Hb<2、割合Rが5[%]以上20[%]以下の範囲内であった。
【0075】
一方、比較例1は硬さHmが300を超えていた。また、比較例2は角度∠BACが110[°]未満であった。また、比較例2は接合層はみ出し部の長さが20[μm]未満であった。また、比較例4は割合Rが20[%]を超えていた。
【0076】
また、実施例1~10および比較例1~3は、金属板の表面は単位面積1[mm]×1[mm]において金属結晶粒子同士の3重点の数は20個以上150個以下の範囲内であった。また、比較例4は単位面積1[mm]×1[mm]において金属結晶粒子同士の3重点の数は2個以上12個以下の範囲内であった。
【0077】
次に、セラミックス回路基板のTCT特性および耐圧特性を測定した。まず、2枚の表金属板をワイヤーボンディングでショートさせた。次に、図4に示したように、表裏金属板それぞれの電位を外部で取れるようにしてトランスファーモールド法により、モールド樹脂を成形した。樹脂がモールドされたもののTCT特性を評価した。TCT条件は、-40[℃]×30分→室温×10分→250[℃]×30分→室温×10分を1サイクルとした。TCT試験は1000サイクルおよび3000サイクル実施した。
【0078】
TCT試験後、超音波探傷法(SAT)により、金属板/セラミックス間のクラック発生に伴うはがれ率を測定した。はがれ率は金属板およびモールド樹脂の樹脂はがれの両方を含むものである。
【0079】
また、AC50[Hz]・60[sec]印加による表裏銅板間の耐電圧を評価した。耐電圧は、TCT3000サイクル後のサンプルを用いた。耐電評価は、電圧500[V]の印加から評価を始めて、各電圧で耐電圧評価合格後、500[V]のステップで上昇させた。これを絶縁破壊発生するまで実施して絶縁破壊しなかった最大電圧値を耐電圧値とした。
その結果を表4に示した。
【0080】
[表4]
【0081】
表4から分かる通り、1000サイクル後では大きな差がつかなかったが、3000サイクルでは大きな差が付いた。このため、実施例1~10に係るセラミックス回路基板は樹脂モールドを具備したとしても優れた信頼性を有していることが分かった。それに対し、比較例1~4のものは、樹脂はがれが随所に確認された。
【0082】
以上説明したように、セラミックス回路基板1およびそれを用いた半導体装置10によれば、モールド樹脂8の樹脂はがれを抑制することができる。
【0083】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態はその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6