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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】アンモニアの燃焼排ガスの処理システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20241105BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20241105BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20241105BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20241105BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20241105BHJP
【FI】
F01N3/08 B
F01N3/28 301D
F01N3/24 N
B01D53/94 228
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 222
B01J35/57 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024098087
(22)【出願日】2024-06-18
【審査請求日】2024-06-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213551
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】若山 涼
(72)【発明者】
【氏名】服部 望
(72)【発明者】
【氏名】牧野 貴明
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-183044(JP,A)
【文献】特開2019-035340(JP,A)
【文献】国際公開第2012/120942(WO,A1)
【文献】特開2023-119889(JP,A)
【文献】特開2013-170518(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118777(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
F01N 3/28
F01N 3/24
B01D 53/94
B01J 35/57
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを主燃料とする船舶用エンジンの燃焼排ガスを処理するアンモニアの燃焼排ガスの処理システムであり、
前記燃焼排ガスの排ガス中のNOxを処理するSCR触媒が配置され、
該SCR触媒の下流側にスリップNHを処理するASCが配置され、
スリップNH処理後のNH濃度と、前記スリップNH処理時に生成されるNO濃度とが、所定濃度以下になるように前記排ガスに接触する前記SCR触媒の体積と前記ASCとの体積の比率調整され、
前記SCR触媒の体積と前記ASCの体積の比率が、SCR触媒の体積とASCの体積の総和を1としたとき、
前記ASCの体積の下限は、前記燃焼排ガスのNH濃度と、スリップNH処理後のNH濃度の目標値と、前記ASCの触媒性能と、前記SCR触媒の触媒性能と、前記SCR触媒及び前記ASCに対する排ガスの空間速度SV(1/時間)から算出された値であり、
前記ASCの体積の上限は、前記燃焼排ガスのNH濃度と、スリップNH処理後のNH濃度の目標値と、前記ASCの触媒性能と、前記SCR触媒の触媒性能と、前記SCR触媒及び前記ASCに対する排ガスの空間速度SV(1/時間)から算出された値であることすることを特徴とするアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
【請求項2】
アンモニアを主燃料とする船舶用エンジンの燃焼排ガスを処理するアンモニアの燃焼排ガスの処理システムであり、
前記燃焼排ガスの排ガス中のNOxを処理するSCR触媒が配置され、
該SCR触媒の下流側にスリップNHを処理するASCが配置され、
スリップNH処理後のNH濃度と、前記スリップNH処理時に生成されるNO濃度とが、所定濃度以下になるように前記排ガスに接触する前記SCR触媒の体積と前記ASCとの体積の比率調整され、
前記SCR触媒の体積と前記ASCの体積の比率が、SCR触媒の体積とASCの体積の総和を1としたとき、
前記ASCの体積の比率(r)が、前記燃焼排ガスのNH濃度([NH3]in_scr)と、
スリップNH処理後のNH濃度の目標値([NH3]_target)と、スリップNH処理後のNO濃度の目標値([N2O]_target)と、前記ASCのNO生成に係る比例定数(α)と、前記ASCのNH分解に係る反応速度定数(ka)と、前記SCR触媒のNH分解に係る反応速度定数(ks)と、前記SCR触媒及び前記ASCに対する排ガスの空間速度SV(1/時間)を用いた下記式を満たすことを特徴とするアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
【数1】
【請求項3】
前記SCR触媒の体積と前記ASCとの体積の比率が、SCR触媒の体積とASCの体積の総和を1としたとき、前記ASCの体積が0.1以上0.6未満であることを特徴とする請求項1又は2記載のアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
【請求項4】
前記SCR触媒及びASCに対する排ガスの空間速度SV(1/時間)が、5,000以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
【請求項5】
前記ASCは、スリップNH酸化触媒に、SCR触媒を含むことを特徴とする請求項1又は2記載のアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
【請求項6】
前記排ガスのガス組成が変化した際に、前記ガス組成に対して望ましい触媒比となるようにガス流路を調整する構成を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載のアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの燃焼排ガスの処理システムに関し、詳しくは、N2Oの発生を抑制すると共にASCの体積を削減できるアンモニアの燃焼排ガスの処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、排気中のNHスリップは、アンモニアスリップ触媒(ASC)を使用することで抑制でき、NOxは選択触媒還元(SCR)触媒を用いて低減できることを開示し、更に特許文献1は以下のように記載する。即ち、ASCはSCR触媒の下流に配置されると記載し、SCR触媒においては、NOxとNHが反応してNOxを除去していると記載する。更に続けて、何らかの理由でSCR触媒の後にNHが存在する場合、これはNHを除去するASCで酸化される、ASCは、SCRと同様にガス全量を処理すると記載する。このためASCを大型の2ストローク内燃機関に搭載する場合、排気ガスの全量を処理する必要があるため、ASCのサイズはSCR触媒と同様となると記載する。
【0003】
従って、特許文献1では、SCR触媒は非常に体積の大きい装置であるため、体積が著しくかさばるASC装置をもう一つ追加することは問題であると指摘している。
【0004】
また、特許文献1では、NOがASCでのNH酸化の副生成物となりうることも問題である旨指摘している。NOの除去効果を発揮するには400℃を超える温度が必要である旨開示し、これは、高効率の船舶用機関では容易に達成できない排ガス温度であることを開示している。
【0005】
このような観点から、特許文献1は、SCR触媒によって処理される排ガス中のNHとNOxを当モル反応になるようにモル比を高度に調整して、反応後の過剰あるいは未反応のNHの存在を少なくしてアンモニアスリップを抑制する手法を開示している。
しかし、この手法の考え方は優れたものと思われるが、実装置において成功を収めるには、例えば、NOxを船に積載させる場合、洋上で製造する場合等、いずれの場合であっても装置構成が大きくなってしまうという課題があり、更に、各種ガスセンサなどの高精度化、制御シーケンスにおけるタイムラグの解消など種々の検討すべき課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2024-52583号公報
【文献】特開2023-182938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2には、NOに対する分解触媒が活性化するには、約500℃が必要である点に着目し、排気レシーバの上流側に第1処理部を配置して、600℃~800℃の温度でNOの分解率が60%~73%まで向上することを確認している(実施例の表1参照)。
【0008】
この技術は、アンモニア燃料の排ガス処理におけるNOの処理を実現した点で貴重なものである。
【0009】
本発明者は、特許文献1の排ガス中のNHとNOxのモル比の高度な制御を行うことなく、NOの分解に高温条件を設けることなく、スリップアンモニア(以下、必要に応じて、「スリップNH」ともいう。)の低減について検討したところ、排ガス中のNO濃度は処理を要するほどの濃度ではないことがわかったが、スリップアンモニアの低減とNOの副生とがトレードオフの関係にあるため、そのスリップNHの低減により排出されるアンモニアを減らしつつ、NOの副生を抑制し排出されるNOを最小限に抑える手法を検討した結果、本発明に至った。
【0010】
そこで、本発明の課題は、スリップNHの低減と、NOの副生の抑制との両立ができるアンモニアの燃焼排ガスの処理システムを提供することにある。
【0011】
さらに本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0013】
1.
アンモニアを主燃料とする船舶用エンジンの燃焼排ガスを処理するアンモニアの燃焼排ガスの処理システムであり、
前記燃焼排ガスの排ガス中のNOxを処理するSCR触媒が配置され、
該SCR触媒の下流側にスリップNHを処理するASCが配置され、
スリップNH処理後のNH濃度と、前記スリップNH処理時に生成されるNO濃度とが、所定濃度以下になるように前記排ガスに接触する前記SCR触媒の体積と前記ASCとの体積の比率調整され、
前記SCR触媒の体積と前記ASCの体積の比率が、SCR触媒の体積とASCの体積の総和を1としたとき、
前記ASCの体積の下限は、前記燃焼排ガスのNH濃度と、スリップNH処理後のNH濃度の目標値と、前記ASCの触媒性能と、前記SCR触媒の触媒性能と、前記SCR触媒及び前記ASCに対する排ガスの空間速度SV(1/時間)から算出された値であり、
前記ASCの体積の上限は、前記燃焼排ガスのNH濃度と、スリップNH処理後のNH濃度の目標値と、前記ASCの触媒性能と、前記SCR触媒の触媒性能と、前記SCR触媒及び前記ASCに対する排ガスの空間速度SV(1/時間)から算出された値であることすることを特徴とするアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
2.
アンモニアを主燃料とする船舶用エンジンの燃焼排ガスを処理するアンモニアの燃焼排ガスの処理システムであり、
前記燃焼排ガスの排ガス中のNOxを処理するSCR触媒が配置され、
該SCR触媒の下流側にスリップNHを処理するASCが配置され、
スリップNH処理後のNH濃度と、前記スリップNH処理時に生成されるNO濃度とが、所定濃度以下になるように前記排ガスに接触する前記SCR触媒の体積と前記ASCとの体積の比率調整され、
前記SCR触媒の体積と前記ASCの体積の比率が、SCR触媒の体積とASCの体積の総和を1としたとき、
前記ASCの体積の比率(r)が、前記燃焼排ガスのNH濃度([NH3]in_scr)と、
スリップNH処理後のNH濃度の目標値([NH3]_target)と、スリップNH処理後のNO濃度の目標値([N2O]_target)と、前記ASCのNO生成に係る比例定数(α)と、前記ASCのNH分解に係る反応速度定数(ka)と、前記SCR触媒のNH分解に係る反応速度定数(ks)と、前記SCR触媒及び前記ASCに対する排ガスの空間速度SV(1/時間)を用いた下記式を満たすことを特徴とするアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
【数1】
3.
前記SCR触媒の体積と前記ASCとの体積の比率が、SCR触媒の体積とASCの体積の総和を1としたとき、前記ASCの体積が0.1以上0.6未満であることを特徴とする前記1又は2記載のアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
4.
前記SCR触媒及びASCに対する排ガスの空間速度SV(1/時間)が、5,000以上であることを特徴とする前記1又は2記載のアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
5.
前記ASCは、スリップNH酸化触媒に、SCR触媒を含むことを特徴とする前記1又は2記載のアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
6.
前記排ガスのガス組成が変化した際に、前記ガス組成に対して望ましい触媒比となるようにガス流路を調整する構成を備えていることを特徴とする前記1又は2記載のアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スリップNHの低減と、NOの副生の抑制との両立ができるアンモニアの燃焼排ガスの処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(A)は、アンモニアを主燃料とする船舶用エンジンの燃焼排ガスを処理するアンモニアの燃焼排ガスの処理システムの一例を示すブロック図、図1(B)は、他の一例を示すブロック図
図2】実験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について好ましい実施の形態について説明する。
図1(A)は、アンモニアを主燃料とする船舶用エンジンの燃焼排ガスを処理するアンモニアの燃焼排ガスの処理システムの一例を示すブロック図である。
図1において、例えばターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関1(以下、単に「エンジン機関」又は「機関」という)は、アンモニア(NH)を主燃料とする。NHはエンジンに、液相NH及び又は気相NHの形で供給されてもよい。
【0017】
この機関1は、少なくとも1つのアンモニアモードを有しておればよく、アンモニアモード以外に従来燃料モードを有することもできる。アンモニアモードにおいては、機関1はアンモニア燃料を使用して運転され、又は、アンモニアベースの燃料の他に、着火や燃焼温度を上げるためのパイロット燃料を使用して運転される。従来燃料モードにおいては、従来の燃料、例えば燃料油(船舶用ディーゼル燃料)や重油で運転される。
【0018】
この実施形態におけるエンジン機関は、2ストローク(2st)型エンジンであり、各エンジンのシリンダについて、例えばシリンダライナの下部領域に掃気ポートが設けられ、シリンダライナの頂部中央には排気弁が設けられてもよい。
本実施形態においては、4ストローク(4st)型エンジンも使用できるが、2st型エンジンは、4st型エンジンと比べて、回転数が低く燃焼時間を長く取れ、空気を圧縮してから燃料を噴霧するので、アンモニアスリップやNOの排出濃度が低くなる傾向があるので、2st型エンジンを用いることが好ましい。
【0019】
エンジン機関1からの排気は、第1の排気管2を介して選択触媒還元(SCR)触媒3に送られ、その後、第2の排気管4を通り、アンモニアスリップ触媒(ASC)5に送られ、処理後の排ガスが第3の配管6から系外に排出される。
本実施形態においては、図1(B)のように、第2の排気管4を省略し、SCR触媒3とASC5を同一のケーシング内に収納して処理してもよく、これらに限定されない。
【0020】
NH燃焼では、機関1からの排気ガスにNOxとNHの両方が含まれる可能性がある。化石燃料の燃焼による排気ガスにNHが含まることは通常ないであろう。これに対してNH燃焼では、従来の燃料に対して、排気ガスにNHがより多く含まれる可能性がある。つまり、スリップNHの量がより多くなる可能性がある。
【0021】
SCR触媒3は、排気ガスからNOx成分であるNOとNOの両方を除去するNOx除去触媒としての役割を果たす。
また、SCR触媒3は、NOx除去触媒として機能すると共に、NH除去触媒としても機能する。
NHが過剰である場合は、全てのNOxがNHと反応し、余剰のNHがスリップNHとしてSCR触媒から排出されることを考慮しなければならない。
外気に排出される排ガス中に許容されるスリップNHは低い。本発明では、上限25ppmが許容値であると考えている。
【0022】
SCR触媒としては、格別限定されないが、例えば、TiOあるいはSiO-TiO、WO-TiO、Al-SiOなどの二元系複合酸化物、あるいは、WO-SiO-TiO、Mo-SiO-TiOなどの三元系複合酸化物などの担体に、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Ni、Cu、Ag、Au、Pd、Y、Ce、Nd、W、In、Ir、Nbなどの活性成分を担持してなるハニカム構造を有し、NH(還元剤)の存在下で、NOxを還元して窒素ガスに変換して浄化する触媒が用いられることが好ましい。
アンモニアスリップ触媒(ASC)は、例えばハニカム担体に活性成分を担持させた触媒態様の場合には、活性成分として、Pt、Fe、Cu又はPdなどの金属を用いることができる。
【0023】
本実施形態において、ASCは、2次的なNOx形成を抑制する役割を担保するために、ASCの機能であるスリップNHを酸化除去するNH酸化触媒に加えて、SCR触媒の機能を果たす触媒を含んで構成してもよい。この場合、ASCの材料は、チタニア、バナジアの少なくとも一つを含むSCR触媒と、アンモニア酸化能力が高い活性物であるPt、Fe、Cuの何れかを同時に含むことが好ましい。
【0024】
ASCに貴金属を含む場合には、触媒体積を増やすと環境負荷も増大するので、ASCの体積を可能な限り小さくすることは好ましいことである。このため、本発明における触媒の体積比率を調整し、最適化することにより、触媒全体での貴金属使用量を減らすことができる。
【0025】
本実施形態では、図1に示すように、第1の排気管2内の排ガス中のNOxを処理するSCR触媒3は、ASC5の上流側に配置される。すなわち、SCR触媒の下流側にスリップNHを処理するASCを配置している。
【0026】
本実施の形態では、NO生成の抑制後のNO濃度が、所定濃度(例えば25ppm)以下になるように排ガスに接触するSCR触媒の体積とASCとの体積の比率を調整している。
ここで、SCR触媒の体積及びASCの体積とは、SCR触媒、ASCを所定のケーシングに充填したときのケーシングの体積であると推定される。触媒の量自体は、触媒の形状、充填時の疎密の影響などで変動したとしても、同じケーシング(空間)に充填するのであれば、各触媒の体積は一定と考えられるからである。
【0027】
かかる体積比率の調整によって、スリップNH濃度の低減と、スリップNHの処理時に生成されるNOの抑制との両立に貢献することが実験によって確認されている。
【0028】
実験は、図1に示す装置を用い、SCR触媒3の体積+ASC5の体積=触媒全体の体積として、触媒全体の体積1とした場合の排ガスに接触するSCR触媒の体積とASCとの体積の比率を変化させた。
本実験において、体積比率の算出式は、ASC率=ASC/(SCR+ASC)である。
体積比率変化の態様は、以下の(1)~(5)の5通りとした。
【0029】
(1)ASC率0となる体積比
SCR触媒3の体積+ASC5の体積=触媒全体の体積として、触媒全体の体積1とした時、ASCの体積が0であるので、SCRの体積は1.0である。
【0030】
(2)ASC率0.4となる体積比
ASCの体積が0.4であるため、SCRの体積は0.6である。
【0031】
(3)ASC率0.5となる体積比
ASCの体積が0.5であるため、SCRの体積は0.5である。
【0032】
(4)ASC率0.6となる体積比
ASCの体積が0.6であるため、SCRの体積は0.4である。
【0033】
(5)ASC率1.0となる体積比
ASCの体積を1.0であるため、SCRの体積は0である。
【0034】
本発明において好ましい実施形態としては、体積比率は、触媒全体の体積(SCR触媒3の体積+ASC5の体積)を1としたとき、ASC5の体積が0.1以上0.6未満であることが好ましい。より好ましくは、触媒全体の体積(SCR触媒3の体積+ASC5の体積)を1としたとき、ASC5の体積が0.1以上0.55以下である。これにより、スリップNHを低減すると共に、NOの生成を抑制することができる。
また、SCR触媒3及びASC5に対する排ガスの空間速度SV(1/時間)は、5,000以上であることが好ましい。これにより、空間速度を維持しつつ、スリップNHを低減すると共に、スリップNHの低減に伴うNOの生成を抑制することができる。
【0035】
実験手法としては、排ガス中のNH濃度が1000ppmで、NOが600ppmの場合に、図1のような触媒配置でNH燃焼排ガスの処理を行い、下記表のような空間速度で排ガスを流し、ASC5(後述する表において、ASC率0の場合はSCR触媒3)の出口におけるスリップNHの濃度を求め、更にNOの生成量を求めた。
【0036】
その際に、SCR触媒の体積とASCの体積との比率を変化させた。上記の実験の結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
次に、表1において、空間速度に対する触媒温度が250℃以上におけるスリップNHの濃度とNOの生成量の最大値を抽出し、スリップNHの濃度とNOの生成量が共に25ppmとなるようなSVを求めた。
その結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
更に表2のデータに基づき、グラフ化したのが図2の曲線である。
図2において、ASCの割合が0から1までの範囲で描かれた一方の曲線は、NHを25ppm以下にできる境界線である。つまり、この曲線より空間速度SVが低ければ、NHを25ppm以下にできることが示されている。
また、図2において、ASCの割合が0~0.6の範囲で他方の曲線のような形の放物線に囲まれる領域が、NOが25ppm以下となる領域である。つまり、この領域内における空間速度SVであれば、NOを25ppm以下にできることを示している。
【0041】
一方の曲線と他方の曲線との領域範囲が重なる部分が、触媒全体の体積(SCR触媒3の体積+ASC5の体積)を1としたとき、ASC5の体積が0.1以上0.6未満の範囲であり、この領域範囲であれば、スリップNHの低減と、NOの副生の抑制との両立ができる。さらに、本実施形態においては、空間速度SV(1/時間)が5000以上の範囲が好ましい範囲である。
【0042】
本発明において、排ガスのガス組成が変化した際に、前記ガス組成に応じた望ましい触媒比となるようにガス流路を調整する構成を備えていることは好ましい。
【0043】
次に、本発明では、ASC通過後のNO生成量の関係式を、以下のようにあらわすことができる。
【0044】
【数2】
【0045】
数2において、 [N2O]はASC通過後のNO生成量(ppm)であり、αはASCに固有の比例定数であり、ASCの触媒性能を示すパラメータである。Δ[NH3]_ascは、ASC通過時のNH分解量(ppm)である。
【0046】
またASC通過時のNH分解量の関係式は、以下の式で表すことができる。
【0047】
【数3】
【0048】
数3において、[NH3]in_ascはASC通過前のNH濃度(ppm)であり、SVは空間速度(1/時間)であり、EXPはネイピア数を底とする指数関数であり、kaはASCに固有の反応速度定数であり、ASCの触媒性能を示すパラメータである。また、rは、SCR触媒の体積とASCの体積の総和を1としたときのASCの体積比率である。
【0049】
次に、SCR触媒通過時のNH分解量の関係式は、以下の式で表すことができる。
【0050】
【数4】
【0051】
数4において、Δ[NH3]_scrはSCR通過時のNH分解量であり、[NH3]in_scrはSCR通過前のNH濃度(ppm)である。またksはSCR触媒に固有の反応速度定数であり、SCR通過前のNH濃度およびNOx濃度に依存する。SCR触媒のNHとNOxとの反応によるNH分解に係る触媒固有の反応速度定数ksは、SCR触媒固有の性能を示すパラメータであるため、触媒ごとにも異なるが、排ガス条件([NH3]in_scr、[NOx]in_scr、排ガス温度)が定められることにより、その排ガス条件に応じたksを求めることができる。
【0052】
これらの式から、上流側にSCR触媒を配置し、下流側にASCを配置したときの、スリップNH処理後のNH濃度と、NO濃度は以下の数5のように表すことができる。
【0053】
【数5】
【0054】
スリップNH処理後のNH濃度の目標値を[NH3]_target、NOの目標値を[N2O]_targetとすると、目標値を達成できるようなASCの体積比率rは以下の数6で表すことができる。
【0055】
【数6】
【0056】
上記数6を、rについて整理すると以下の式のようになる。
【0057】
【数7】
【0058】
数7において、LNは自然対数関数である。
【0059】
本実験において、以下の表3に示されたデータを採用し、上記数7に基づきASCの範囲を算出した。
【0060】
【表3】
【0061】
表3に示すデータを採用すると、数7において、導出過程でka>>ksであることからks/(ka-ks)→0と近似し、(1-EXP(-(ka・r)/SV))→1と近似することができる。
【0062】
またα、ka、ksは温度に依存する値であるが、例えば、想定される燃焼排ガス温度範囲の中で最もNO生成量が多い温度における値を採用することが好ましい。最も生成量が多い温度データを採用することで、より安全性を担保することができる。
またksは、[NH3]in_scrおよびSCR通過前のNOx濃度[NOx]in_scrに依存する値であるが、例えば、想定される燃焼排ガス中の最大のNH濃度を[NH3]in_scrに選ぶことが好ましく、想定される燃焼排ガス中の最小のNOx濃度を[NOx]in_scrに選ぶことが好ましい。
【0063】
例えば、上記表3のデータを採用した場合には、数7に基づくと、ASCの体積比率rの範囲は 0.19<r<0.52であると算出することができる。
【0064】
次に、以下の表4に示されたデータを採用し、上記数7に基づきASCの範囲を算出した。
【0065】
【表4】
【0066】
表4に示すデータを採用すると、数7において、表3の場合と同様に、導出過程でka>>ksであることからks/(ka-ks)→0と近似し、(1-EXP(-(ka・r)/SV))→1と近似することができる。
【0067】
また、表3の場合と同様に、α、ka、ksは温度に依存する値であるが、例えば、想定される燃焼排ガス温度範囲の中で最もNO生成量が多い温度における値を採用することが好ましい。最も生成量が多い温度データを採用することで、より安全性を担保することができる。
またksは、[NH3]in_scrおよびSCR通過前のNOx濃度[NOx]in_scrに依存する値であるが、例えば、想定される燃焼排ガス中の最大のNH濃度を[NH3]in_scrに選ぶことが好ましく、想定される燃焼排ガス中の最小のNOx濃度を[NOx]in_scrに選ぶことが好ましい。
【0068】
例えば、表4のデータを採用した場合、数7に基づくと、ASCの体積比率rの範囲は 0.04<r<0.27であると算出することができる。
【0069】
上記の表3及び表4のデータに基づけば、排ガス条件においてNOx濃度だけが異なった場合、NOx濃度に依存するSCR触媒に固有の反応速度定数ksが変化し、その結果、ASCの体積比率rの範囲も変化することがわかる。
【0070】
実験の結果、rの下限値は、燃焼排ガスのNH濃度と、スリップNH処理後のNH濃度の目標値と、ASCの触媒性能と、SCR触媒の触媒性能と、空間速度SVから算出することができ、またrの上限値は、燃焼排ガスのNH濃度と、スリップNH処理後のNO濃度の目標値と、ASCの触媒性能と、SCR触媒の触媒性能と、空間速度SVから算出することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 エンジン機関
2 第1の排気管
3 SCR触媒
4 第2の排気管
5 ASC
6 第3の配管
【要約】
【課題】スリップNHの低減と、NOの副生の抑制との両立ができるアンモニアの燃焼排ガスの処理システムを提供すること。
【解決手段】アンモニアを主燃料とする船舶用エンジンの燃焼排ガスを処理するアンモニアの燃焼排ガスの処理システムであり、燃焼排ガスの排ガス中のNOxを処理するSCR触媒3を配置し、SCR触媒3の下流側にスリップNHを処理するASC5を配置し、スリップNH処理後のNH濃度と、スリップNH処理時に生成されるNO濃度とが、所定濃度以下になるように排ガスに接触するSCR触媒3の体積とASC5との体積の比率を調整することを特徴とするアンモニアの燃焼排ガスの処理システム。
【選択図】図1
図1
図2