(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-01
(45)【発行日】2024-11-12
(54)【発明の名称】ホエイ加工食品
(51)【国際特許分類】
A23C 21/06 20060101AFI20241105BHJP
A23C 19/00 20060101ALI20241105BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
A23C21/06
A23C19/00
A23G3/34 101
(21)【出願番号】P 2024509263
(86)(22)【出願日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2023011849
(87)【国際公開番号】W WO2023182501
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2022050934
(32)【優先日】2022-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 淳美
(72)【発明者】
【氏名】出口 千尋
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0084364(US,A1)
【文献】特表平11-508124(JP,A)
【文献】特開2016-063822(JP,A)
【文献】特開平07-039300(JP,A)
【文献】特開平08-298927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C、A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳糖を20質量%以上の割合で含有するホエイ加工食品であって、
ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合が3~5%であり、且つ
ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める、粗大乳糖結晶の割合が10%以下、微細乳糖結晶の割合が70%以上である、ホエイ加工食品;
ここで、前記乳糖結晶の割合は、X線回折装置で測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される乳糖一水和物結晶(標準品)のメインピークの面積を基準として、被験ホエイ加工食品について得られる該当位置におけるピークの面積から求められる割合であり、
前記粗大乳糖結晶及び前記微細乳糖結晶とは、ホエイ加工食品を位相差顕微鏡で観察した際に認められる粒子(乳糖結晶の粒子)の水平投影面積から求められる円相当径が、それぞれ30μm以上及び10μm以下である結晶であり、
前記乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合は、位相差顕微鏡観察により求められる、被験ホエイ加工食品中の乳糖結晶粒子の総面積100%に対する粗大乳糖結晶粒子の総面積の割合及び微細乳糖結晶粒子の総面積の割合である。
【請求項2】
ホエイ加工食品が、ブラウンホエイチーズ、イェトスト、又はキャラメルである、請求項1に記載するホエイ加工食品。
【請求項3】
乳糖を20質量%以上の割合で含有するホエイ加工食品について、舌触りを滑らかに、且つ、噛んだときに歯への付着性を少なくする方法であって、
前記方法が、ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合を3~5%に、且つ
ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める、粗大乳糖結晶の割合を10%以下、微細乳糖結晶の割合を70%以上にすることを特徴とする、前記方法;
ここで、前記乳糖結晶の割合は、X線回折装置で測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される乳糖一水和物結晶(標準品)のメインピークの面積を基準として、被験ホエイ加工食品について得られる該当位置におけるピークの面積から求められる割合であり、
前記粗大乳糖結晶及び前記微細乳糖結晶とは、ホエイ加工食品を位相差顕微鏡で観察した際に認められる粒子(乳糖結晶の粒子)の水平投影面積から求められる円相当径が、それぞれ30μm以上及び10μm以下である結晶であり、
前記乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合は、位相差顕微鏡観察により求められる、被験ホエイ加工食品中の乳糖結晶粒子の総面積100%に対する粗大乳糖結晶粒子の総面積の割合及び微細乳糖結晶粒子の総面積の割合である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホエイを原料として製造されるホエイ加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
生乳は加工技術によって、牛乳、チーズ、ヨーグルト、バター、又はクリームなど、多彩な乳製品へと加工され、人々に食されている。しかし、チーズの製造工程において、生乳からチーズになるのは約10%のみであり、残りの約90%がホエイ(乳清)として排出される。ホエイは、チーズの製造工程における副生物であるため、各種の必須アミノ酸、たんぱく質、ビタミン類、及び糖類を多量に含んでおり、栄養学的に優れた食品素材でもある。しかしながら、ホエイは変質しやすく保存性が低いことや、特有の風味を有することから、食品分野で十分に利用されていない。このため、工業利用されているホエイは世界中で排出されるホエイ全体の59%に留まり、残り41%は家畜飼料や農業肥料として利用されるか、若しくは産業廃棄物として処理されているのが実情である。このため、ホエイの有効活用や活用先の拡大を図ることは、未利用乳資源の有効利用、廃棄物を減少して環境保全を図るなど、サステナブルな社会の実現を目指すうえで、特に乳製品を製造する会社の責務として重要な課題である。
【0003】
ホエイの変質の一つとして、ホエイに含まれる乳糖の変質が挙げられる。一般に、乳糖濃度の高い飲食物中では、乳糖の結晶が生成し、巨大化することで、舌にザラツキを感じ、滑らかな食感を失うことが知られている。この現象は、乳糖濃度が高くなるほど顕著に発生する。乳糖濃度が高いホエイ加工食品の一つであるブラウンホエイチーズについても、乳糖結晶が食感に及ぼす影響が指摘されており、理想的な結晶サイズは20-30μmであること、結晶サイズが100μmを超えると舌にザラツキを感じるようになることが知られている(非特許文献1)。このため、乳糖を多く含むホエイを食品素材として有効利用するためには、ホエイに含まれる乳糖の結晶化やその巨大化を防止し、良好な食感を保つことが求められる。
【0004】
ホエイ中の乳糖の結晶化を抑制する方法として、ホエイをナノフィルトレーションにより脱塩処理し、のち乳糖分解酵素で乳糖分解処理をする方法が知られている(特許文献1)。この方法によると、脱塩することで風味がよく、乳糖を分解することで濃縮した場合も粘度が低く、また濃縮液の輸送時等に乳糖の結晶化が惹起されないという特徴を有する乳糖分解脱塩ホエイを得ることができる。また、乳糖の結晶化抑制方法ではないものの、マンニトールの結晶化抑制方法として、非結晶性糖質を結晶析出調整剤として用いることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-129579号公報
【文献】特開2007-215450号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Siv Skeie, Roger K. Abrahamsen, “Chapter 45: Brown Whey Cheese”, Cheese 4th edition: Chemistry, Physics and Microbiologys
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ホエイの有効活用や活用先の拡大を図るために、食感が良好なホエイ加工食品を提供することを課題とする。より詳細には、本発明は、舌でのザラツキが少なく舌触りが滑らかで、且つ、噛んだときに歯への付着性が少なく歯切れ感が良好なホエイ加工食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねていたところ、乳糖を20質量%以上もの高濃度で含むホエイ加工食品において、乳糖結晶の含有量を低減するとザラつきを感じず舌触りが滑らかになる一方で、噛んだ際に歯への付着性が高く、歯切れが悪いという問題があることを知見した。このため、滑らかさと歯切れの良さを両立した、食感良好なホエイ加工食品を得るべく、さらに研究を重ねた。その結果、乳糖結晶の含有割合を3~5%まで低減するとともに、乳糖結晶に占める粗大結晶の割合と微細結晶の割合を適当量に調整することで、これを実現できることを見出した。
【0009】
本発明は、かかる知見と更なる研究に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
項1:乳糖を20質量%以上の割合で含有するホエイ加工食品であって、
ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合が3~5%であり、且つ
ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める、粗大乳糖結晶の割合が10%以下、微細乳糖結晶の割合が70%以上である、ホエイ加工食品;
ここで、前記乳糖結晶の割合は、X線回折装置で測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される乳糖一水和物結晶(標準品)のメインピークの面積を基準として、被験ホエイ加工食品について得られる該当位置におけるピークの面積から求められる割合であり、
前記乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合は、位相差顕微鏡観察により求められる、被験ホエイ加工食品中の乳糖結晶粒子の総面積100%に対する粗大乳糖結晶粒子の総面積の割合及び微細乳糖結晶粒子の総面積の割合である。
項2:ホエイ加工食品が、ブラウンホエイチーズ、ブラウンチーズ、イェトスト、ブルノスト、又はキャラメルである、項1に記載するホエイ加工食品。
項3:乳糖を20質量%以上の割合で含有するホエイ加工食品について、舌触りを滑らかに、且つ、噛んだときの歯への付着性を少なくする方法であって、
前記方法が、ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合を3~5%に、且つ
ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める、粗大乳糖結晶の割合を10%以下、微細乳糖結晶の割合を70%以上にすることを特徴とする、前記方法;
ここで、前記乳糖結晶の割合は、X線回折装置で測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される乳糖一水和物結晶(標準品)のメインピークの面積を基準として、被験ホエイ加工食品について得られる該当位置におけるピークの面積から求められる割合であり、
前記乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合は、位相差顕微鏡観察により求められる、被験ホエイ加工食品中の乳糖結晶粒子の総面積100%に対する粗大乳糖結晶粒子の総面積の割合及び微細乳糖結晶粒子の総面積の割合である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、舌でのザラツキが少なく舌触りが滑らかで、且つ、噛んだときに歯への付着性が少なく歯切れ感が良好なホエイ加工食品を提供することができる。本発明によれば、従来、栄養学的に優れながらも有効活用できていなかったホエイの問題を解決することにより、ホエイを食品素材として有効活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実験例1で調製したホエイ加工食品A~EのX線回折像を示す。2θ=19.9~20.4°の範囲に検出されるメインピークを乳糖結晶の割合の算出に用いた。
【
図2】実験例1で調製したホエイ加工食品Iをスライスした物の断面組織を位相差顕微鏡(対物倍率×10)で観察した画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(I)ホエイ加工食品
本発明のホエイ加工食品(以下、「本食品」とも称する。)は、ホエイを原料として製造される食品である。
ホエイは、哺乳動物の乳から脂肪及びカゼインがほぼ除去されたものであって、チーズ製造の際に副生物として生じるものである。ホエイには、甘性ホエイ、酸性ホエイ、及びこれらのホエイを濃縮したホエイ濃縮液、またこれらのホエイを乾燥し粉末にしたホエイ粉などが含まれる。乳の由来となる哺乳動物としては、牛、水牛、山羊、及び羊等が例示されるが、好ましくは牛、特に乳用牛である。
【0013】
本食品は、前述するホエイを原料として製造されるものであって、且つ、下記の特性を有することを特徴とする:
(1)乳糖の含有量:20質量%以上、
(2)乳糖結晶の割合:3~5%、
(3)ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶の割合:10%以下
ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める微細乳糖結晶の割合:70%以上。
【0014】
以下、これらの特性について説明する。
なお、本明細書において「固形分」とは水分を除いた成分を意味する。本明細書において「固形分濃度」とは、対象物(例えば、ホエイ加工食品)に含まれる固形分の割合を意味し、対象物の総量(湿質量)を100質量%とした場合に、当該総量に占める固形分の割合(質量%)で示される。また、本明細書において、成分の「固形分換算量」とは、対象物(例えば、ホエイ加工食品)中の該当成分の固形分換算による含有量を意味する。具体的には、対象物の固形分の総量(乾質量)を100質量%とした場合に、当該固形分の総量に占める該当成分の割合(質量%)を意味する。
【0015】
(1)乳糖の含有量
ホエイ加工食品中の乳糖の含有量は、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定することができる。詳細な測定方法や条件は、後述する実験例にて説明する。
ホエイ加工食品の乳糖の含有量は、20質量%以上であればよい。下限値としては、制限されないものの、例えば30質量%、35質量%、39質量%、又は40質量%を例示することができる。その上限値は、制限されないものの、例えば60質量%程度、51質量%、又は49質量%を例示することができる。ホエイ加工食品の乳糖の含有量は、20~60質量%の範囲で適宜設定することができる。制限されないものの、好ましくは20~51質量%、より好ましくは30~51質量%、さらに好ましくは35~51質量%、特に好ましくは39~49質量%の範囲である。
【0016】
前記乳糖の含有量は、固形分換算量として27質量%以上であることができる。好ましくは、29~67質量%、より好ましくは40~64質量%、より好ましくは47~54質量%の範囲である。本食品における乳糖の固形分換算量は、本食品中の乳糖含量及び後述する常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0017】
(2)乳糖結晶の割合
本発明でいうホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合は、X線回折装置で測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される乳糖一水和物結晶(α型)(標準品)のメインピークの面積を基準として、対象とするホエイ加工食品について同方法により得られる、前記メインピークに該当する位置におけるピークの面積から求められる割合である。その測定及び算出方法の詳細は、後述する実験例1にて説明する。
【0018】
測定に供する被験試料(測定試料)の調製方法としては、固形分濃度が例えば80質量%以上の硬い固形状のホエイ加工食品については実験例1と同様に厚さ0.5mmにスライスすることで調製することができる。一方、固形分濃度が例えば80質量%未満の半固形状又は柔らかい固形状のホエイ加工食品については、粉末X線回折測定法に用いられる試料調製法のうち、フロンド・ローディング法に従って調製することができる。具体的には、深さ0.5mm、底面20mm×20mmの正方形柱状のくぼみ(試料充填部)を有するガラス製試料ホルダーの当該試料充填部に、被験試料を充填し、別のガラス板の縁を用いて表面を擦り切ることで、X線回折に供する被験試料の表面を面一に(平滑に、均一に)仕上げた後、5℃で冷却することで調製することができる。
ホエイ加工食品の乳糖結晶の割合は3~5%であることが好ましく、この範囲で適宜設定することができる。
【0019】
(3)ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合
本発明でいうホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合は、位相差顕微鏡観察により求められる。具体的には、位相差顕微鏡観察により求められる、ホエイ加工食品に含まれる乳糖結晶粒子の総面積100%に対する粗大乳糖結晶粒子の総面積の割合及び微細乳糖結晶粒子の総面積の割合である。その測定及び算出方法の詳細は、測定に供する被験試料(測定試料)の調製方法も含めて、後述する実験例1にて説明する。
【0020】
本発明において、粗大乳糖結晶とは、ホエイ加工食品を位相差顕微鏡で観察した際に認められる粒子(乳糖結晶の粒子)の水平投影面積から求められる円相当径が30μm以上である結晶をいう。また微細乳糖結晶とは、同様にホエイ加工食品を位相差顕微鏡で観察した際に認められる粒子(乳糖結晶の粒子)の水平投影面積から求められる円相当径が10μm以下である結晶をいう。位相差顕微鏡による粒子の水平投影面積の測定方法、及び円相当径の算出方法の詳細も、後述する実験例1にて説明する。
【0021】
乳糖結晶全体に占める粗大乳糖結晶の割合は、それぞれに該当する結晶粒子の総面積換算で10%以下である。10%以下であれば特に制限されないものの、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下、特に好ましくは3%以下、さらに好ましくは0%である。
【0022】
乳糖結晶全体に占める微細乳糖結晶の割合は、それぞれに該当する結晶粒子の総面積換算で70%以上である。70%以上であれば特に制限されないものの、好ましくは72%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0023】
本発明のホエイ加工食品の製造方法は、ホエイを原料として用いて、上記特性を有するホエイ加工食品が製造できる方法であればよく、これを限度として特に制限されない。例えば、先行特許として挙げた特許文献1に記載する乳糖分解酵素を用いて乳糖分解処理を行うことで、乳糖の結晶生成を抑制して、乳糖結晶の割合、並びに乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合(以下、これらを総称して「乳糖結晶の特性」ともいう)が前述する本発明の範囲になるように調整する方法を用いることもできる。また、同様に特許文献2に記載する結晶析出調整剤を用いて、乳糖の結晶生成を抑制することで前述する乳糖結晶の特性を備えるように調整することもできる。結晶析出調整剤としては、特許文献2に記載されている水飴、還元水飴、還元麦芽糖水飴、カップンリングシュガー、オリゴ糖、及び多糖類等を用いることもできるが、高いガラス転移温度と氷結晶成長抑制効果を有するトレハロースを用いることもできる。好ましくは後述する実験例に示すようにトレハロースである。
【0024】
結晶析出調整剤としてトレハロースを用いて本発明のホエイ加工食品を製造する方法の詳細は実験例に記載の通りである。そこで説明するように、トレハロースの配合割合を調整し、またホエイとトレハロースを含む組成物の混合条件(撹拌回転数、温度、圧力)を調整することで、前述する乳糖結晶の特性を有する本発明のホエイ加工食品を調製することができる。一例を挙げると、少なくともホエイ、トレハロース及び水を含む乳糖含量20質量%以上のホエイ調合液を、撹拌加熱しながら固形分が75質量%以上になるまで減圧濃縮した後、加圧加熱処理し、次いで、加熱条件下で二軸混錬機を用いて連続的にせん断をかけ(混錬処理)、その後エクストルーダーにより押し出し成形する方法(エクストルーダー処理)を挙げることができる。なお、前述する乳糖結晶の特性を有する本発明のホエイ加工食品が製造できる方法であればよく、本発明はその製造方法によって限定されるものではない。
本発明のホエイ加工食品が得られているか否かは、前述する方法でホエイ加工食品中の乳糖含量や乳糖結晶の割合、並びに乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合を測定することで確認することができる。
【0025】
本発明のホエイ加工食品は、前述する特性を有する固形状又は半固形状の食品であればよく、その限りにおいて、ホエイ以外の原料成分として、他の成分を配合して調製されるものであってもよい。他の成分としては、生乳、牛乳または乳製品(脱脂乳、濃縮乳、還元乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリーム、バター、バターオイル、カゼイン等の乳蛋白質等)、山羊乳、還元糖、ゼラチン、安定剤などを例示することができる。
【0026】
本発明において固形状とは、25℃、大気圧の条件下に、少なくとも24時間そのまま静置した場合であっても自重によって変形しない形状をいう。また半固形状とは、前記の場合に自重によって変形するか、形状をいう。本発明のホエイ加工食品は、固形濃度が55質量%以上であるものであればよく、これらには、ペースト状(半流動状、非成形状)のもの、柔らかい固形状のもの、及び硬い固形状のものが含まれる。なお、制限されないものの、ペースト状、柔らかい固形状、及び硬い固形状のホエイ加工食品の固形分濃度としては、それぞれ55~75質量%未満程度、75~80質量%未満程度、及び80~90質量%程度を例示することができる。
【0027】
なお、被験試料(ホエイ加工食品)の固形分濃度は常圧加熱乾燥法(混砂法)により求めることができる。具体的には、秤量皿に海砂及びガラス棒を入れた状態で恒量を求めたのち、これに被験試料及び蒸留水を加え、99℃で4時間、乾燥器内で乾燥させる。その後、被験試料の乾燥前後の重量差から被験試料中の水分含量を求める。斯くして測定した水分含量から、被験試料(乾燥前)に含まれている固形分の質量を求め、それから固形分濃度を算出することができる。
【0028】
本食品において、乳糖以外の成分として含まれるたんぱく質の含有量は、制限されないものの、固形分換算量として、7~12質量%の範囲、好ましくは7質量%以上10質量%未満の範囲を挙げることができる。より好ましくは8~9質量%の範囲を挙げることができる。
本食品中に含まれるたんぱく質の総量は、ケルダール法を用いて測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。本食品におけるたんぱく質の固形分換算量は、本食品中のたんぱく質総含量及び前述する常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0029】
また、本発明のホエイ加工食品には、前述する乳糖含量及び乳糖結晶の特性を損なわないことを限度として、乳糖及びホエイ以外の成分として、脂質を配合することもできる。脂質の含有量としては、制限されないものの、固形分換算量として、9質量%以上の範囲から適宜選択することができる。好ましくは22~41質量%、より好ましくは26~29質量%の範囲を挙げることができる。
本食品中の脂質含量は、レーゼゴットリーブ法により測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。本食品における脂質の固形分換算量は、本食品中の脂質含量及び前述する常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0030】
本発明が対象とするホエイ加工食品には、制限されないものの、下記に記載するブラウンホエイチーズ、イェトスト、及びキャラメル等が含まれる。制限されないものの、これらのホエイ加工食品は以下の食品であることが知られている。
【0031】
ブラウンホエイチーズ:ホエイにミルク、クリームを加えて、加熱濃縮して得られる、固形分濃度70~85質量%、脂質含量10~30質量%の食品。なお、ブラウンホエイチーズは、国や地域によっては、ブラウンチーズやブルノストといった名称で呼称されるが、いずれも同じホエイ加工食品である。
【0032】
イェトスト:ホエイにミルク、クリームを加えて、加熱濃縮して得られる、固形分濃度70~85質量%、脂質含量10~30質量%の食品であって、使用する乳の全部または一部が山羊乳由来である食品。
【0033】
キャラメル:乳原料を使用し、乳感のある風味付けのなされたソフトキャンデ―様構造物であって、乳原料の一部にホエイ加工食品を使用した食品。
【0034】
また、ホエイにミルク又は乳脂肪を加えた物品で濃縮又は乾燥をして得たものもの含まれ、これらには、下記の特性を有するものが含まれる:
(a)乳脂肪分が全乾燥重量の5質量%以上である(固形分換算量)、
(b)固形分の含有量が全重量の70質量%以上85質量%以下である(固形分濃度)、
(c)成型されたもの又は成型が可能なものである。
【0035】
(II)ホエイ加工食品の食感改善方法
本発明は、乳糖を20質量%以上の割合で含有するホエイ加工食品について、舌触りを滑らかに、且つ、噛んだときに歯への付着性が少なくする方法を提供するものでもある。この方法は、前述するように、乳糖を20質量%以上の割合で含有するホエイ加工食品について、乳糖結晶の割合を下記のように調整することで実施することができる:
(1)乳糖結晶の割合:3~5%、
(2)ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶の割合:10%以下
ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める微細乳糖結晶の割合:70%以上。
これらの好適な範囲は、(I)に記載する通りであり、いずれもここに援用することができる。またここに記載する各用語の説明、並びに乳糖含量、及び各種乳糖結晶の割合の調整方法も、(I)に記載する通りであり、いずれもここに援用することができる。
【0036】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【0037】
(持続可能な開発目標(SDGs)への寄与)
本発明は、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための手段として活用し得る。本発明を利用することにより、持続可能な開発目標(SDGs)とターゲットの達成に寄与することができる。
【0038】
具体的には、持続可能な開発目標(SDGs)は以下のとおりである(「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」、外務省、インターネット〈URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101402.pdf〉)。
目標1.あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる。
目標2.飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する。
目標3.あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する。
目標4.すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する。
目標5.ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児のエンパワーメントを行う。
目標6.すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する。
目標7.すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する。
目標8.包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する。
目標9.強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る。
目標10.各国内及び各国間の不平等を是正する。
目標11.包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する。
目標12.持続可能な生産消費形態を確保する。
目標13.気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる。
目標14.持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する。
目標15.陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する。
目標16.持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する。
目標17.持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する。
【0039】
本発明は、特に、目標2(飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する)および目標3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)の達成に寄与できる。すなわち、各種の必須アミノ酸、たんぱく質、ビタミン類、糖類を多量に含んでおり、栄養学的に優れた食品素材であるホエイをホエイ加工食品として提供することにより、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者を含むすべての人々に安全で十分な食料を供給することに寄与できる。
【0040】
また、本発明は、特に、目標9(強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る)の達成に寄与できる。すなわち、ホエイの変質を抑える本技術により、ホエイの付加価値を新たに創出したことにより、産業の多様化や商品への付加価値創造などの技術開発、研究及びイノベーションを促進させることで、資源利用効率を向上させたり、産業プロセスの拡大や効率を向上させしたりして、持続可能かつ強靱(レジリエント)に、イノベーションを促進させることができる。
【0041】
また、本発明は、特に、目標12(持続可能な生産消費形態を確保する)の達成に寄与できる。すなわち、チーズ製造メーカがチーズの製造工程において廃棄されることが多くあったホエイをホエイ加工食品として有効活用することにより、生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させることができる。また、食料の廃棄を半減させるなどして、持続可能な開発及び自然と調和した開発を行うことにより、持続可能な生産消費形態を確保することができる。
【0042】
さらに、本発明は、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されているそれぞれの目標に付随するターゲットの達成にも寄与できる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0044】
実験例1
9種類のホエイ加工食品A~Iを製造して、各ホエイ加工食品の乳糖含量(質量%)、乳糖結晶の割合(%)、及び結晶サイズ(μm)を測定した。また、これらのホエイ加工食品A~Iの食感(舌触り、歯切れ感)を評価した。
【0045】
なお、ホエイ加工食品の製造に使用した原料は以下の通りである:
ホエイ粉:ホエイを乾燥した粉(ホエイ100%)、乳糖含量80%、たんぱく質含量12%、株式会社 明治製、
クリーム:株式会社 明治製、脂肪分含量47%、乳糖含量3%
なお、クリームは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)の規定「生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したもの」に該当する。
トレハロース:株式会社林原製。
また、乳糖含量、及び乳糖結晶の割合の測定に使用した標準品は以下の通りである:
乳糖一水和物結晶(α型):ラクトース一水和物(100%)、富士フイルム和光純薬工業株式会社製。以下、「乳糖結晶(標準品)」と称する。
【0046】
(1)ホエイ加工食品A~Iの製造
表1に記載する割合で各原料を混合してホエイ調合液A~Eを調製した。ホエイ調合液中の乳糖含量は29%である。
【0047】
【0048】
得られたホエイ調合液を、連続加熱式バキュームクッカー装置(株式会社ミハマ製)にて、20~60rpm、回転半径0.175m、0.37~1.1m/sで撹拌しながら60~70℃に加熱し、真空(減圧)圧力(前記装置のゲージ圧力[相対圧力]:-20kPa~-50kPa、絶対圧力:約80kpa~50kpa)の条件下で、固形分80%になるまで5~60分間減圧濃縮した。固形分濃度80%まで濃縮した後、加圧条件下(前記装置のゲージ圧力[相対圧力]:10kPa~20kPa、絶対圧力:約110kpa~120kpa)で110~120℃に加熱し、ホエイ調合濃縮物が褐変化するまで処理した。その後、エクストルーダーにより押し出し成形し、4℃以下に冷却して、固形分濃度84%の固形状のホエイ加工食品A~Eを得た。
【0049】
また、別途、ホエイ調合液C(トレハロース添加率5%)について、上記一連の処理工程のうち加圧加熱処理まで実施して褐変化した4℃冷却前の調製物について、60~80℃の温度条件下で二軸混錬機(株式会社入江商会製、直径60mm、軸間距離50mm、ねじれ角60°の羽根をもつ。回転方向は同方向)にて混錬処理を行った(回転条件;ホエイ加工食品F:0rpm、G:10rpm、H:50rpm、I:100rpm)。そして、エクストルーダーにより押し出し成形し、固形状のホエイ加工食品品F~I(固形分濃度84%)を得た。
【0050】
(2)ホエイ加工食品中の乳糖含量(質量%)の測定
ホエイ加工食品(100%)中の乳糖含量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。
前記で製造したホエイ加工食品A~IをミリQ水で10%溶液に調製し、0.2μmメッシュのフィルターに通液した後、さらにミリQ水で10倍希釈したものを被験試料として、下記条件のHPLCに供した。
【0051】
[HPLC条件]
HPLC装置:agilent1200(agilent社製)
固定相:SUPELCO apHeraTM NH2 HPLC Column
移動相:68%アセトニトリル
溶出速度:1.0 ml/min
検出器:RI検出器。
【0052】
乳糖結晶(標準品)を用いて予め作製しておいた検量線(乳糖量とそのピーク面積との相関関係を示した検量線)に基づいて、被験試料について得られた乳糖のピークの面積から、被験試料中の乳糖含量を求め、それからホエイ加工食品A~I中の乳糖含量を算出した。
【0053】
(3)ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合(%)
前記で製造したホエイ加工食品A~Iを厚さ0.5mmにスライスしたものを被験試料として、X線回折測定装置(SmartLab X-ray DIFFRACTOMETER、リガク製)を用いて乳糖結晶量を求めた。
【0054】
具体的には、前記被験試料(1片)の厚さ0.5mmが上下になるように、前記装置付属のガラスセルに乗せ、当該X線回折測定装置でX線回折像を測定した。なお、X線回折測定装置で、乳糖結晶(標準品)のX線回折像を測定すると、2θ=19.9~20.4°の範囲に乳糖結晶に由来するピークが複数検出されるが、そのうち、最も大きいピークをメインピークとして設定する。次いで、被験試料について得られたX線回折像について、平滑化処理とベース部分を差し引く処理をした後、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出されるピークのうち、乳糖結晶(標準品)の前記メインピークに相当するピークを対象として、その面積値を求めた。
【0055】
次いで、下式に従って、乳糖結晶(標準品)について同様に測定した上記メインピークの面積値を基準として、各ホエイ加工食品A~Iについて得られた前記ピークの面積値の割合をもとめ、各ホエイ加工食品中に含まれる乳糖結晶の割合(%)を算出した。
【0056】
[式1]
ホエイ加工食品中に含まれる乳糖結晶の割合(%)
= B/A × 100
A:乳糖結晶(標準品)の2θ=19.9~20.4°のメインピークの面積値
B:ホエイ加工食品(被験試料)について前記メインピークに相当するピークの面積値
【0057】
(4)ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合
前記で製造したホエイ加工食品を厚さ0.5mmにスライスしたものを被験試料として、その1mg程度をスライドガラス上に載せて、カバーガラスで試料を押しつぶすようにして作製した(押し潰し法)プレパラートを、位相差顕微鏡(対物倍率×10、総合倍率10倍)により15視野を観察した(視野数15)。15視野の観察により取得した画像を2値化により背景と粒子(乳糖結晶の粒子)とに区分した後、粒子の総数を数えた。次いで、各粒子(各乳糖結晶)の水平投影面積を計測し、それぞれについて円相当径を算出した。円相当径が30μm以上である粒子を粗大乳糖結晶、10μm以下である粒子を微細乳糖結晶として、各粒子を分類し、粗大乳糖結晶の粒子数、及び微細乳糖結晶の粒子数を求めた。
【0058】
次いで、観察視野に含まれる全ての粒子(乳糖結晶)について各粒子の水平投影面積を積算することで、乳糖結晶粒子すべての総面積を求めた。これを本発明では「乳糖結晶総面積」とも称する。また、観察視野に含まれる全ての粒子(乳糖結晶)のうち粗大乳糖結晶に該当する粒子について各粒子の水平投影面積を積算することで、粗大乳糖結晶粒子の総面積を求めた。これを本発明では「粗大乳糖結晶総面積」とも称する。さらに、観察視野に含まれる全ての粒子(乳糖結晶)のうち微細乳糖結晶に該当する粒子について各粒子の水平投影面積を積算することで、微細乳糖結晶粒子の総面積を求めた。これを本発明では「微細乳糖結晶総面積」とも称する。
【0059】
乳糖結晶総面積を100%(基準)として、それに対する粗大乳糖結晶総面積の割合(%)及び微細乳糖結晶総面積の割合(%)を算出し、それぞれを乳糖結晶中に占める粗大乳糖結晶の割合(%)及び微細乳糖結晶の割合(%)とした。
【0060】
(5)ホエイ加工食品中のたんぱく質含量:ケルダール法
前記で製造したホエイ加工食品約1.5gを精秤して、温湯にて希釈または溶解した後、100ml容メスフラスコへ移し、冷却後に水で定容した。この希釈液20mlを分解フラスコに入れた。これに分解促進剤(ケルタブC)と硫酸12mlを徐々に加え混合した後、過酸化水素8mlを入れ混合した。次いで、分解装置で加熱分解して窒素をアンモニアに変換した。分解フラスコ中の液が透明となり、硫酸銅による青色を呈した後、冷却後、水50mlを徐々に加えて希釈した。その後、ケルダール蒸留装置で蒸留した。
【0061】
具体的には、上記の分解液((NH4)2SO4を含むH2SO4)に、過剰量の水酸化ナトリウムを加えてアルカリ性にしてから蒸気で加熱して再びアンモニアを放出させ、遊離したアンモニアを水蒸気蒸留してホウ酸水溶液に捕集した。得られたアンモニア捕集液を硫酸標準溶液で滴定して窒素量を求め、窒素たんぱく質換算係数(6.38)を乗じてたんぱく質量を算出した。
【0062】
(6)ホエイ加工食品中の脂質含量:レーゼゴットリーブ法
前記で製造したホエイ加工食品約1gをアンモニア水2mlに分散させ、次いでエタノールを10ml添加した後、ジエチルエーテル25mlと石油エーテル25mlで抽出した。2回目の抽出として、ジエチルエーテル15mlと石油エーテル15mlで抽出した。回収した抽出液を乾燥乾固させて、乾固物の重量を測定し、これを被験試料中の脂質含量とした。
【0063】
(7)ホエイ加工食品の食感評価
社内で訓練した4名の分析型官能評価専門パネル(訓練期間:5~15年間)を用いて、前記で製造したホエイ加工食品A~Iについて、「舌触り」と「歯付き感」を評価した。なお、ホエイ加工食品A~Iは、食感評価に供する前に温度10℃、湿度50%の恒温恒湿条件下に1時間保存したものを使用した。
【0064】
ホエイ加工食品について、「舌触り」と「歯切れ」を下記の基準に基づいて評価した。
(i)舌触り:喫食時において、舌のうえで感じるザラつきの有無や滑らかさ
下記の5段階評価により評価
5(最良):まったくザラつきはなく、非常に滑らか
4(良):ほとんどザラつきはなく、とても滑らか
3(佳):ややザラつきはあるが、滑らか
2(悪):ザラつきを感じ、滑らかでない
1(最悪):著しくザラつきが多く、まったく滑らかでない。
【0065】
(ii)歯切れ:噛んだ際に歯に付着することにより感じる歯切れ抵抗感
5(最良):まったく歯に付着せず、歯切れ抵抗感がない(歯切れ感が非常によい)
4(良):ほとんど歯に付着せず、歯切れ抵抗感がほとんどない(歯切れ感が良好)
3(佳):やや歯に付着するものの、歯切れ抵抗感がほとんどない(歯切れ感が良好)
2(悪):歯に付着して、歯切れ抵抗感がある(歯切れ感が悪い)
1(最悪):著しく歯に付着して、歯切れ抵抗感が強くある(歯切れ感が非常に悪い)。
【0066】
なお、食感評価を実施するにあたり、パネル全体で、各評価項目の特性について摺り合わせを行って、各パネルが共通認識を持つようにした。各評価は、各パネル毎に行い、次いでその結果をもとにパネル全体で話し合い、その結果をパネル全体の総合評価として、最終結果とした。
【0067】
また、舌触りと歯切れの両方の結果から、下記の基準で総合評価を行った。
[総合評価]
◎:舌触りは5、歯切れは4以上
○:舌触りと歯切れの両方とも4
△:舌触りと歯切れの少なくともいずれか一方に3以下の評価がある
×:舌触りと歯切れの少なくともいずれか一方に2以下の評価がある
【0068】
(7)実験結果
ホエイ加工食品A~Eについて、X線回折像を測定した結果を
図1に示す(上からA~Eを示す)。また、乳糖含量(%)、乳糖結晶の割合(%)、乳糖結晶における粗大結晶の割合及び微細結晶の割合(%)、及び食感評価の結果を表2に示す。ホエイ加工食品A~Eの乳糖含量は39~49%の範囲であった。
【0069】
【0070】
次に、ホエイ加工食品F~Iについて、乳糖含量(%)、乳糖結晶の割合(%)、並びに乳糖結晶における粗大結晶の割合及び微細結晶の割合(%)を測定し、食感を評価した。これらの結果を表3に示す。なお、これらのホエイ加工食品の固形分100質量%中の、乳糖含量は54%(固形分換算量)、たんぱく質含量は9%(固形分換算量)、脂質含量は26%(固形分換算量)であった。
【0071】
【0072】
表2に示すように、ホエイ加工食品に含まれる乳糖結晶の割合が低いと舌の上で感じるザラつきが改善され滑らかになる傾向があるものの、極端に低くなると、滑らかではあるが、歯で噛んだ際に歯に付着しやすくなり、歯切れが悪くなることがわかった(ホエイ加工食品D及びEの結果参照)。表2及び3の結果から、ホエイ加工食品に含まれる乳糖結晶の割合を3~5%程度に調整することで、滑らかさと歯切れの良さを両立させることができることが確認された。
【0073】
また表3の結果から、ホエイ加工食品に含まれる乳糖結晶の割合を3~5%程度に調整し、且つ、位相差顕微鏡観察による前述する乳糖結晶サイズが30μm以上の粗大乳糖結晶及び10μm以下の微細乳糖結晶の含有比率が、乳糖結晶の全量に対して、それぞれ総面積換算で10%以下及び70%以上であるホエイ加工食品は、歯切れが良好であるとともに、舌触りが極めて滑らかさであり、滑らかさと歯切れの良さを両立した最良のホエイ加工食品であることが確認された(ホエイ加工食品H及びIの結果参照)。ホエイ加工食品Iの組織を位相差顕微鏡(対物倍率×10、総合倍率10倍)で観察した画像を
図2に示す。
【0074】
前記実験例1では、乳糖含量が39~49質量%のホエイ加工食品、特に乳糖含量が45質量%のホエイ加工食品に関して、ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合、並びにその乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合と、食感(滑らかさと歯切れの良さ)との関係を示したが、乳糖含量が20~51質量%のホエイ加工食品についても同様に、ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合が3~5%であり、その乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶の割合が10%以下、及び微細乳糖結晶の割合が70%以上であると、滑らかさで歯切れの良い、良好な食感が得られる傾向が認められた。
【0075】
前記実験例1では、脂質含量が18~25質量%のホエイ加工食品(クリーム配合率35%のホエイ加工食品)に関して、ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合、並びにその乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合と、食感(滑らかさと歯切れの良さ)との関係を示したが、脂質含量が8~30質量%のホエイ加工食品についても同様に、ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合が3~5%であり、その乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶の割合が10%以下、及び微細乳糖結晶の割合が70%以上であると、滑らかさで歯切れの良い、良好な食感が得られる傾向が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための手段として利用することができ、持続可能な開発目標(SDGs)とターゲットの達成に寄与することができる。本発明は、持続可能な開発目標のうち、特に目標2および目標3の達成に寄与できる。すなわち、各種の必須アミノ酸、たんぱく質、ビタミン類、糖類を多量に含んでおり、栄養学的に優れた食品素材であるホエイをホエイ加工食品として提供することにより、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者を含むすべての人々に安全で十分な食料を供給することに寄与できる。また、本発明は、持続可能な開発目標のうち、特に目標9の達成に寄与できる。すなわち、ホエイの変質を抑える本技術により、ホエイの付加価値を新たに創出したことにより、産業の多様化や商品への付加価値創造などの技術開発、研究及びイノベーションを促進させることで、資源利用効率を向上させたり、産業プロセスの拡大や効率を向上させしたりして、持続可能かつ強靱(レジリエント)に、イノベーションを促進させることができる。また、本発明は、持続可能な開発目標のうち、特に目標12の達成に寄与できる。すなわち、チーズ製造メーカがチーズの製造工程において廃棄されることが多くあったホエイをホエイ加工食品として有効活用することにより、生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させることができる。また、食料の廃棄を半減させるなどして、持続可能な開発及び自然と調和した開発を行うことにより、持続可能な生産消費形態を確保することができる。