(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】配糖体の分解方法及びアグリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 311/30 20060101AFI20241106BHJP
C07D 311/40 20060101ALI20241106BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20241106BHJP
A61K 8/49 20060101ALN20241106BHJP
A61K 31/352 20060101ALN20241106BHJP
A61P 3/10 20060101ALN20241106BHJP
A61P 17/18 20060101ALN20241106BHJP
A61P 31/04 20060101ALN20241106BHJP
A61P 31/12 20060101ALN20241106BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20241106BHJP
A61P 37/08 20060101ALN20241106BHJP
A61P 39/06 20060101ALN20241106BHJP
A61Q 19/00 20060101ALN20241106BHJP
A61Q 19/02 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C07D311/30
C07D311/40
A23L33/105
A61K8/49
A61K31/352
A61P3/10
A61P17/18
A61P31/04
A61P31/12
A61P35/00
A61P37/08
A61P39/06
A61Q19/00
A61Q19/02
(21)【出願番号】P 2020012985
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小須田 勝利
(72)【発明者】
【氏名】有福 征宏
(72)【発明者】
【氏名】西木 成志
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104286370(CN,A)
【文献】特開2011-153084(JP,A)
【文献】特開2009-153449(JP,A)
【文献】国際公開第2008/155890(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61Q
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配糖体を含む原料及び水を含む反応液を水熱処理することで、前記配糖体をアグリコンに分解する分解工程を有し、
前記反応液のpHが4.5以上であり、
前記配糖体が、スダチチン配糖体、デメトキシスダチチン配糖体及びケルセチン配糖体からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記水熱処理の時間が、0.5~20時間である、配糖体の分解方法。
【請求項2】
前記反応液中の前記配糖体の含有量が、反応液全量を基準として、0.05
質量%以上である、請求項1に記載の分解方法。
【請求項3】
前記水熱処理は、温度110~300℃の条件で行われる、請求項1又は2に記載の分解方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法により配糖体を分解する分解工程と、
前記分解工程で得られた分解生成物からアグリコンを抽出する抽出工程と、
を含む、アグリコンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配糖体の分解方法及びアグリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配糖体は、糖と、非糖部となるアグリコンとがグリコシド結合により結合した有機化合物であるが、配糖体及びアグリコンは、天然に存在する有機化合物群であり、柑橘類及び豆類をはじめとして、様々な植物の花、葉、根、茎、果実、種子等に含まれている。アグリコンは、種類によって特徴及び作用が異なるが、アグリコンの中でもポリフェノールは、一般的にその多くが強い抗酸化作用を有している。例えば、柑橘類に含まれるポリフェノールの一種であるポリメトキシフラボンは、抗酸化作用、発ガン抑制作用、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗アレルギー作用、メラニン生成抑制作用、血糖値抑制作用等を有することが知られており、医薬品、健康食品、化粧品等の様々な用途への応用が期待されている。
【0003】
柑橘類からポリフェノールの一種であるフラボノイドを製造する方法としては、例えば、柑橘類の果皮等からエタノール水溶液でフラボノイドを抽出し、抽出されたフラボノイドを溶液中から回収する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のポリフェノールの製造方法では、ポリフェノールの収率が低いという問題がある。そのため、ポリフェノールの収率を向上できる製造方法の開発が求められている。
【0006】
例えば柑橘類の果皮には、ポリフェノールの一種であるフラボノイドの他に、それよりも多量のフラボノイド配糖体が含まれているが、これをフラボノイドとして回収できれば、フラボノイドの収率を向上させることが可能である。配糖体は、加水分解することで糖とアグリコンとに分解されるが、フラボノイド配糖体をフラボノイドに分解する方法としては、フラボノイド配糖体を塩酸等の酸と反応させる方法が挙げられる。しかしながら、この方法では、使用した酸が残存して製品中に混入するおそれがあること、酸とフラボノイドとの副反応生成物が生じる恐れがあるという問題がある。
【0007】
その他の手法として、配糖体を含む水溶液を亜臨界状態となるまで水熱処理することで、配糖体を分解する方法が挙げられる。この場合、酸等の添加が無いため、上記の問題が発生しない。
【0008】
ここで、フラボノイド及びフラボノイド配糖体は、フラボノイドを含む柑橘類や海藻類等の天然物から熱したエタノール水溶液等を用いて抽出されるが、水熱処理を行う配糖体を含む水溶液としては、天然物の抽出物を含むエタノール水溶液、又はこれを乾燥した固形物を再度、所定濃度で水に溶かした水溶液が用いられる。
【0009】
一方、フラボノイドを抽出する天然物にはフラボノイド及びフラボノイド配糖体以外にも糖、水溶性食物繊維、並びにアミノ酸、タンパク質、クエン酸及びアルギン酸等の有機酸などが含まれており、フラボノイド及びフラボノイド配糖体を抽出する際に同時に抽出される。このため、上記の配糖体を含む水溶液にも糖、水溶性食物繊維及び有機酸等が含まれるため、酸や亜臨界水領域での配糖体分解を行う際に、副反応として水溶性食物繊維から糖が、また、タンパク質からアミノ酸が生成する。次いで、糖が脱水縮合するカラメル反応と、糖及びアミノ酸が反応するメイラード反応が同時に進行する。この際、有機酸は、これら2つの反応に対して触媒として作用し、反応を促進する。
【0010】
一般に糖及びアミノ酸は、水に可溶、有機溶剤に不溶であるが、カラメル反応及びメイラード反応によって分子量が増えることで疎水性が強くなり、有機溶剤に可溶になり、最終的に水にも有機溶剤にも溶けない巨大分子となる。水に可溶な配糖体を酸又は亜臨界水条件で分解する際、フラボノイドは水にほぼ不溶なため、溶液から析出してくる。このため、配糖体分解後の処理液を濾過や遠心分離で固液分離すると、フラボノイドと、カラメル反応及びメイラード反応で生成した化合物とが含まれる固体の分解物が得られる。
【0011】
得られた固体の分解物から、フラボノイドが可溶な有機溶剤を用いてフラボノイドを抽出し、その後乾燥を行う場合、得られる固体の抽出物は、柑橘類の果皮等から熱したエタノール水溶液等を用いてフラボノイドを抽出し、それを乾燥した一次抽出物より高濃度のフラボノイドを含む。
【0012】
しかし、原料として天然物から抽出されたフラボノイドを含む水溶液を用いた場合、当該水溶液には有機酸も含まれているため、水溶液中の天然物から抽出されたフラボノイドの濃度が高くなると酸性が強くなる。その場合、カラメル反応及びメイラード反応が促進され、これらの反応により生成する化合物も多くなる。そのため、有機溶剤抽出後に乾燥した固体の抽出物中のフラボノイドの濃度が低下する問題、カラメル反応及びメイラード反応により生成した、水及び有機溶剤に不溶の化合物にフラボノイドが取り囲まれ、有機溶剤により抽出されにくくなり、フラボノイドの収率が大きく低下する問題が発生する。
【0013】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、配糖体を効率的にアグリコンに分解できる配糖体の分解方法、及び、アグリコンを高い収率で、不純物が少なく製造できるアグリコンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、配糖体を含む原料及び水を含む反応液を水熱処理することで、配糖体をアグリコンに分解する分解工程を有し、反応液のpHが4.5以上である、配糖体の分解方法を提供する。
【0015】
上記方法によれば、配糖体を効率的にアグリコンに分解することができる。また、この方法を用いることで、アグリコンを高い収率で、不純物が少なく製造することが可能となる。
【0016】
上記方法において、上記反応液中の上記配糖体の含有量が、反応液全量を基準として、0.05重量%以上であってよい。上記配糖体の質量割合が0.05質量%以上であることにより、配糖体を特に効率的に分解することができる。
【0017】
上記方法において、上記配糖体は、スダチチン配糖体及び/又はデメトキシスダチチン配糖体を含んでいてもよい。上記方法によれば、スダチチン配糖体及びデメトキシスダチチン配糖体を特に効率的に分解することができる。
【0018】
また、上記方法において、上記配糖体は、ケルセチン配糖体を含んでいてもよい。上記方法によれば、ケルセチン配糖体を特に効率的に分解することができる。
【0019】
上記方法において、上記水熱処理は、110~300℃の条件で行われてもよい。上記範囲内の温度であると、配糖体の分解をより促進することができる。
【0020】
本発明はまた、上記本発明の方法により配糖体を分解する分解工程と、上記分解工程で得られた分解生成物からアグリコンを抽出する抽出工程と、を含む、アグリコンの製造方法を提供する。かかる製造方法によれば、アグリコンを高い収率で、不純物が少なく、低コスト且つ効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、酸を用いなくても配糖体を効率的にアグリコンに分解できる配糖体の分解方法、及び、アグリコンを高い収率で、不純物が少なく製造できるアグリコンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
(配糖体の分解方法)
本実施形態に係る配糖体の分解方法は、配糖体を含む原料及び水を含む反応液を水熱処理することで、配糖体をアグリコンに分解する分解工程を有し、反応液のpHが4.5以上である。
【0025】
配糖体は、アグリコンと糖がグリコシド結合により結合した親水性の化合物である。本発明に供される配糖体は、フェノール配糖体、クマリン配糖体、フラボノイド配糖体、カルコン配糖体、アントシアニジン配糖体、アントラキノン配糖体、インドール配糖体、及びスフィンゴ糖脂質等に適応できるが、これらに限定されない。
【0026】
また、本実施形態に係る配糖体の分解方法は、酸無水物や分子中にエステル結合を有する分子の酸加水分解にも適応することができる。
【0027】
フラボノイド配糖体の元となるフラボノイド(アグリコン)は、フェニルクロマン骨格を基本構造とする芳香族化合物であり、フラボン類、フラボノール類、フラバノン類、フラバノノール類、イソフラボン類、アントシアニン類、フラバノール類、カルコン類、オーロン類等が挙げられる。これらの中でも、フラボノイドは、フラボン類であるポリメトキシフラボン、フラボノ-ル類であるケルセチン又はフラバノン類であるヘスペリチン(ヘスペリジンのアグリコン)であってもよい。
【0028】
ポリメトキシフラボンとしては、スダチチン、デメトキシスダチチン、ノビレチン、タンゲレチン、ペンタメトキシフラボン、テトラメトキシフラボン、ヘプタメトキシフラボン等が挙げられる。これらの中でも、ポリメトキシフラボンは、スダチチン、又は、デメトキシスダチチンであってもよい。
【0029】
スフィンゴ糖脂質は、糖とスフィンゴシンとがグリコシド結合により結合している。スフィンゴ糖脂質としては、例えば、グルコシルセラミドが挙げられる。
【0030】
配糖体の元となる糖としては特に限定されず、アグリコンとグリコシド結合により結合して上述した配糖体を形成することができる公知の糖が挙げられる。
【0031】
配糖体分解処理に処する原料は、配糖体以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、アグリコン、水溶性食物繊維、難溶性食物繊維、糖類、タンパク質、有機酸等が挙げられる。原料における配糖体の含有量は、原料の固形分全量を基準として、0.1質量%以上であることが好ましく、0.25~30質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることが更に好ましい。原料がアグリコンを更に含む場合、配糖体の含有量は、アグリコンの含有量1質量部に対して、0.25質量部以上であることが好ましく、0.5~100質量部であることがより好ましく、5~50質量部であることが更に好ましい。
【0032】
原料として具体的には、植物及び海草の花、葉、根、茎、果実、種子等を用いることができる。特に果皮はポリメトキシフラボン、及びそれらの配糖体を多く含有するため、柑橘果実の搾汁残渣を好適に用いることができる。また、原料は、柑橘類から得られた乾燥粉末であってもよく、柑橘類の果皮から得られた乾燥粉末であってもよい。柑橘類としては、スダチ、温州みかん、ポンカン、シークワサー等が挙げられる。柑橘類は、スダチチン及びデメトキシスダチチン等のポリメトキシフラボン、及びそれらの配糖体を多く含有するスダチであってもよい。
【0033】
水熱処理は、原料を水と共に耐圧性の密閉容器内に封入し、密閉したまま100℃を超える温度で加熱することで行うことができる。上記原料及び水を含む反応液が密閉容器内で加熱されることで、密閉容器内が加熱及び加圧環境となり、水熱処理(水熱合成)が行われる。水熱処理は、反応液を撹拌しながら行ってもよい。耐圧性の密閉容器としては、水熱処理に使用可能な公知の容器を特に制限なく用いることができる。密閉容器における反応液の充填率は、高い分解効率を得る観点から、密閉容器の容積を基準として20体積%以上であることが好ましく、40~80体積%であることがより好ましい。
【0034】
反応液中の配糖体の含有量は、特に限定されないが、反応液全量を基準として、例えば、0.05質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。反応液中の配糖体の含有量が上記範囲内であると、配糖体の分解を効率的に行うことができる。
【0035】
水熱処理の反応条件は特に限定されないが、例えば、110~300℃で0.5~20時間とすることができる。反応温度は、120~190℃であることが好ましく、140~185℃であることがより好ましい。反応温度が110℃以上であると、水熱反応がより良好に発生しやすい傾向があり、300℃以下であると、原料及びアグリコンの炭化が進行しにくく、収率がより向上する傾向がある。反応時間は、0.5~20時間であることが好ましく、1~10時間であることがより好ましい。反応時間が0.5時間以上であると、反応がより進みやすくなる傾向があり、20時間以下であると、反応の進行とコストとのバランスがとりやすくなる傾向がある。
【0036】
水熱処理時の容器内の圧力は、上記反応温度に対応する飽和水蒸気圧又はそれ以上であればよいが、装置の耐圧性の観点から、飽和水蒸気圧であることが好ましい。
【0037】
上記反応液のpHは、4.5以上であり、配糖体分解物に含まれる不純物の量を低減することから、6.0以上とすることが好ましく、8.0以上であることがより好ましく、11.0以上であることがより好ましい。反応液のpHの調整は、所定の配糖体を含む原料紛の水溶液に酸、塩基を溶解させることで可能となる。使用する酸、塩基には食品添加物として認められている物質を使用することが好ましく、クエン酸、水酸化ナトリウムを用いることができる。
【0038】
また、pHの調整は原料紛の濃度によっても影響を受け、特に酸を含んだ原料紛を用いる場合、濃度が高くなるとpHが低下し、4.5以下となる場合があるが、その場合でも塩基によってpHを4.5以上に調整することで高い収率で高い濃度のアグリコン含有粉末を得ることが可能となる。
【0039】
上記条件で水熱処理を行うことで、配糖体をアグリコンに、効率的に分解することができる。
【0040】
(アグリコンの製造方法)
本実施形態に係るアグリコンの製造方法は、配糖体を分解する分解工程と、分解工程で得られた分解生成物からアグリコンを抽出する抽出工程と、を含む。分解工程は、上述した本実施形態に係る配糖体の分解方法により配糖体を分解する工程である。
【0041】
抽出工程では、分解工程で得られた分解生成物からアグリコンを抽出する。分解生成物には、アグリコンの他に、糖、分解させずに残った配糖体、水溶性及び難溶性セルロース並びにその分解物等が含まれている。ここで、アグリコンは疎水性であるのに対し、糖、配糖体、水溶性セルロース及びその分解物は親水性である。そのため、水熱処理後の水溶液に不溶な成分にはアグリコンが高濃度で含まれており、水熱処理後に水溶液と不溶分とを分離することで、アグリコンを濃縮することができる。また、さらに水不溶分を、アグリコンを溶解する溶媒、例えばエタノール、酢酸エチル、ヘキサン、トルエン等、及び、それらの混合溶媒に溶解し、不溶物をろ過等により除去することで、アグリコンをさらに抽出・精製することができる。その後、ろ液を乾燥させることにより、高濃度のアグリコンを得ることができる。
【0042】
上記方法により、アグリコンを高い収率で、不純物が少なく効率的に製造することができる。本実施形態の製造方法で製造されるアグリコンは、ポリメトキシフラボンであってもよく、スダチチン及び/又はデメトキシスダチチンであってもよい。本実施形態の製造方法は、ポリメトキシフラボン、特にスダチチン及びデメトキシスダチチンの製造に好適であり、その収率を大きく向上させることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
スダチチン含有量1000質量ppm、配糖体由来スダチチン含有量9000質量ppmであるスダチ果皮エキス粉(池田薬草株式会社製)2gを超純水50gに溶解/分散させ、更に水酸化ナトリウム水溶液粉末(和光純薬(株)製)を加え、反応液を得た。得られた反応液のpHをpHメータで測定したところ、5.0であった。この反応液を容量100mlのテフロン(登録商標)容器に入れ、次いで、槽内容積2m3の熱風循環式オートクレーブ(株式会社芦田製作所製)に収容し、180℃で1時間、溶液を配糖体分解処理した。分解処理は、ボイラーからオートクレーブの槽(圧力容器)内に180℃の飽和水蒸気を供給し、槽内圧力が180℃の水の飽和水蒸気圧である1MPaになるように水蒸気の供給量及び圧力弁を調整しながら行った。分解処理後の槽内の圧力は、圧力0.9MPa、槽内の温度は180℃であった。槽内の圧力が0.7MPa、槽内の温度が165℃となるまで、オートクレーブを10分間自然冷却した。自然冷却後、バルブを開き、装置に取り付けられているコンプレッサーを用いて、圧力1MPaの圧縮空気を槽内に送り込んだ。圧縮空気を送り込んだ直後の槽内の圧力は、1MPaを超えていたため、排気弁の開閉を手動で行うことにより、0.75MPaを下回らない圧力を維持しながら、圧縮空気を槽内に導入し、圧縮空気による冷却を開始した。冷却中、適宜、その時点での飽和水蒸気圧を下回らないよう槽内圧力を低下させながら冷却を行った。圧縮空気による冷却開始から2時間後に、溶液の温度が100℃を下回った(水分散液の飽和水蒸気圧が常圧(0.1MPa)を下回った)ため、槽の蓋を開けて容器を取り出し、常温(25℃)まで自然冷却した。冷却後、容器内面に析出・付着した配糖体分解物を、薬さじを用いて取り出した。
【0045】
次に、容器内の溶液及び固形分を目開き0.2μmの親水化PTFE製メンブレンフィラルター(Omnipore 0.2μm JG(メルク-ミリポア社、商品名))を用いて、ダイアフラムポンプを用いて減圧濾過した。得られた固形物を、オーブンで120℃にて5時間乾燥して、粉末状の配糖体分解物を得た。次いで配糖体分解物をエタノールにて5%分散液になるよう調整し、還流下60℃で1時間処理し、目開き0.2μmの親水化PTFE製メンブレンフィラルター(Omnipore 0.2μm JG(メルク-ミリポア社、商品名))を用いて、ダイアフラムポンプを用いて減圧濾過した。得られた溶液を60℃加温下でダイアフラムポンプを用いて真空乾燥し、粉末状のフラボノイド濃縮粉末1を0.16g得た。
【0046】
(実施例2)
水酸化ナトリウム粉末の添加量を変更し、pHが7.0の反応液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末状のフラボノイド濃縮粉末2を0.15g得た。
【0047】
(実施例3)
水酸化ナトリウム粉末の添加量を変更し、pHが10.0の反応液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末状のフラボノイド濃縮粉末3を0.12g得た。
【0048】
(実施例4)
水酸化ナトリウム粉末の添加量を変更し、pHが13.5の反応液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末状のフラボノイド濃縮粉末4を0.08g得た。
【0049】
(実施例5)
玉ねぎ皮粉(淡路島産玉ねぎ粉末、自然健康社製)を超純水とエタノールとの混合溶液(混合比は、超純水:エタノール=50:50)に対して濃度が5重量%になるように分散させ、玉ねぎ皮粉の分散液を得た。得られた分散液を60℃で3時間加熱し、玉ねぎ皮粉に含まれるケルセチンアグリコン及びケルセチン配糖体を抽出した。抽出後、遠心分離機で10000rpm 10分で固液分離し、上澄み液を分取してオーブンで乾燥し、乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末をメノウ乳鉢で粉砕してケルセチンアグリコン7質量%及びケルセチン配糖体1質量%を含む玉ねぎ皮抽出粉末を得た。
【0050】
得られた玉ねぎ皮抽出粉末1gを超純水50gに溶解/分散させ、更に、水酸化ナトリウム粉末を添加した溶液を反応液として用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末状のフラボノイド濃縮粉末5を0.25g得た。反応液のpHは、5.0であった。
【0051】
(実施例6)
大豆由来グルコシルセラミド粉(和光純薬製)0.2gを超純水50gに溶解/分散させ、更に水酸化ナトリウム粉末を添加した溶液を反応液として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、粉末状のセラミド濃縮粉末6を0.18g得た。反応液のpHは、6.0であった。
【0052】
(比較例1)
スダチ果皮エキス粉2gを超純水50gに溶解/分散させたものをそのまま反応液として用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末状の配糖体分解サンプル7を0.15g得た。反応液のpHは、3.9であった。
【0053】
<アグリコン濃度の測定>
各実施例及び比較例で得られた濃縮粉末中のスダチチン、ケルセチン又はセラミドアグリコンの濃度は、以下の方法で測定した。まず、サンプル0.1gを希釈倍率が500倍となるように、エタノールに溶解/分散させ、孔径0.1μmのPTFEフィルターでろ過して、エタノール溶液を得た。このエタノール溶液について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により成分分析を行った。標準物質に市販の各フラボノイド標準精製試料及びセラミドアグリコン標準精製試料を用いてそれぞれ検量線を作成し、それを用いて濃縮粉末中のスダチチン濃度、ケルセチン濃度及びセラミドアグリコン濃度を概算した。HPLC装置には、日立ハイテク製「クロムマスター」を用いた。結果は表1にまとめて示した。
【0054】
【0055】
表1に示すとおり、実施例1~6で得られた濃縮粉末中のアグリコン濃度は、全て、原料粉末と比較して高い値となっており、また、pHが3.9である比較例1と比較しても、高い値となった。