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特許7581713インク組成物、硬化物、光変換層、及びカラーフィルタ
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  • 特許-インク組成物、硬化物、光変換層、及びカラーフィルタ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】インク組成物、硬化物、光変換層、及びカラーフィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20241106BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241106BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20241106BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20241106BHJP
   C09K 11/70 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
G02B5/20
B41M5/00 120
G02B5/20 101
C09D11/326
C09K11/08 G
C09K11/70
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020150389
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2022044970
(43)【公開日】2022-03-18
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】三木 崇之
(72)【発明者】
【氏名】乙木 栄志
(72)【発明者】
【氏名】利光 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博友
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-522591(JP,A)
【文献】特開2020-129034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
B41M 5/00
C09D 11/326
C09K 11/08
C09K 11/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光性ナノ結晶粒子と、前記発光性ナノ結晶粒子の表面に結合可能な有機リガンドと、光重合性化合物と、を含有し、
前記発光性ナノ結晶粒子の含有量が、インク組成物の不揮発分の質量100質量部に対して20質量部以上である、
前記有機リガンドが、2個以上の炭素-炭素二重結合を有する有機リガンドを含む、インク組成物。
【請求項2】
前記2個以上の炭素-炭素二重結合を有する有機リガンドの含有量が、前記発光性ナノ結晶粒子100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記2個以上の炭素-炭素二重結合を有する有機リガンドが、カルボキシル基を更に有する、請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
インクジェット方式で光変換層を形成するために用いられる、請求項1~3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のインク組成物の硬化物。
【請求項6】
複数の画素部と、当該複数の画素部間に設けられた遮光部と、を備え、
前記複数の画素部は、請求項1~4のいずれか一項に記載のインク組成物の硬化物を含む発光性画素部を有する、光変換層。
【請求項7】
前記発光性画素部として、
420~480nmの範囲の波長の光を吸収し605~665nmの範囲に発光ピーク波長を有する光を発する発光性ナノ結晶粒子を含有する、第1の発光性画素部と、
420~480nmの範囲の波長の光を吸収し500~560nmの範囲に発光ピーク波長を有する光を発する発光性ナノ結晶粒子を含有する、第2の発光性画素部と、
を備える、請求項6に記載の光変換層。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の光変換層を備える、カラーフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、硬化物、光変換層、及びカラーフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置等のディスプレイにおける画素部(カラーフィルタ画素部)は、例えば、赤色有機顔料粒子又は緑色有機顔料粒子と、アルカリ可溶性樹脂及び/又はアクリル系単量体とを含有する硬化性レジスト材料を用いて、フォトリソグラフィ法により製造されてきた。
【0003】
近年、ディスプレイの低消費電力化が強く求められるようになり、上記赤色有機顔料粒子又は緑色有機顔料粒子に代えて、例えば量子ドット、量子ロッド、その他の無機蛍光体粒子等の発光性ナノ結晶粒子を用いて、赤色画素、緑色画素といった画素部を形成させる方法が、活発に研究されている。
【0004】
ところで、上記フォトリソグラフィ法でのカラーフィルタの製造方法では、その製造方法の特徴から、比較的高価な発光性ナノ結晶粒子を含めた画素部以外のレジスト材料が無駄になるという欠点があった。このような状況下、上記のようなレジスト材料の無駄をなくすため、インクジェット法(インクジェット方式)により、硬化性のインク組成物を用いて、光変換層を形成することが検討され始めている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-21033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インク組成物中で発光性ナノ結晶粒子を良好に分散させるため手段として、特許文献1にも開示されているように、発光性ナノ結晶粒子の表面に結合(配位)可能な有機リガンドを用いることが知られている。しかし、本発明者らの検討によれば、有機リガンドを発光性ナノ結晶粒子の表面に好適に結合させるためには、有機リガンドの種類に制約があるが、その制約のもとでは、有機リガンドに起因してインク組成物の粘度が高くなる傾向にある。とりわけ特許文献1記載の(ポリ)アルキレンオキシ基を含む有機リガンドは広く用いられているものの、インク組成物の粘度増大を招きやすい。インク組成物の粘度上昇は、特にインクジェット方式により光変換層を形成する場合に望ましくない。
【0007】
そこで、本発明の一側面は、有機リガンドに起因するインク組成物の粘度上昇を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの検討によれば、2個以上の炭素-炭素二重結合を有する有機リガンドを用いることにより、有機リガンドに起因するインク組成物の粘度上昇を抑制できることが判明した。
【0009】
本発明の一側面は、発光性ナノ結晶粒子と、発光性ナノ結晶粒子の表面に結合可能な有機リガンドと、光重合性化合物と、を含有し、有機リガンドが、2個以上の炭素-炭素二重結合を有する有機リガンドを含む、インク組成物である。
【0010】
2個以上の炭素-炭素二重結合を有する有機リガンドの含有量は、発光性ナノ結晶粒子100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であってよい。2個以上の炭素-炭素二重結合を有する有機リガンドは、カルボキシル基を更に有してよい。
【0011】
インク組成物は、インクジェット方式で光変換層を形成するために用いられてよい。
【0012】
本発明の他の一側面は、上記のインク組成物の硬化物である。
【0013】
本発明の他の一側面は、複数の画素部と、当該複数の画素部間に設けられた遮光部と、を備え、複数の画素部は、上記のインク組成物の硬化物を含む発光性画素部を有する、光変換層である。
【0014】
光変換層は、発光性画素部として、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し605~665nmの範囲に発光ピーク波長を有する光を発する発光性ナノ結晶粒子を含有する、第1の発光性画素部と、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し500~560nmの範囲に発光ピーク波長を有する光を発する発光性ナノ結晶粒子を含有する、第2の発光性画素部と、を備えてよい。
【0015】
本発明の他の一側面は、上記の光変換層を備えるカラーフィルタである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一側面によれば、有機リガンドに起因するインク組成物の粘度上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態のカラーフィルタの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本明細書において「インク組成物の硬化物」とは、インク組成物(インク組成物が溶剤成分を含む場合には、乾燥後のインク組成物)中の硬化性成分を硬化させて得られるものである。よって、インク組成物の硬化物中には有機溶剤が含まれていないことが好ましいが、乾燥しきれなかった有機溶媒が一部残存していてもよい。また、本明細書において、「インク組成物の不揮発分」とは、インク組成物に含まれる有機溶剤以外の成分を意味する。すなわち、「インク組成物の不揮発分」は、インク組成物の硬化物に含有させるべき硬化前の成分と言い換えてもよい。
【0019】
<インク組成物>
一実施形態のインク組成物は、発光性ナノ結晶粒子と、有機リガンドと、光重合性化合物と、を含有する。
【0020】
上記インク組成物は、例えば、カラーフィルタ等が有する光変換層(光変換層の画素部)を形成するために用いられる、光変換層形成用(例えばカラーフィルタ画素部の形成用)のインク組成物である。このインク組成物は、一実施形態において、インクジェット方式に用いられる組成物(インクジェットインク)である。一実施形態のインク組成物は、高額である発光性ナノ結晶粒子、インクジェットヘッド等を無駄に消費せずに、画素部(光変換層)を形成できる点において、フォトリソグラフィ方式用に対して、インクジェット方式を低コストなプロセスに仕上げることに貢献できる。以下では、インクジェット方式で光変換層を形成するために用いられるインク組成物を例に挙げて、インク組成物の実施形態について説明する。
【0021】
[発光性ナノ結晶粒子]
発光性ナノ結晶粒子は、励起光を吸収して蛍光又は燐光を発光するナノサイズの結晶体であり、例えば、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定される最大粒子径が100nm以下である結晶体である。
【0022】
発光性ナノ結晶粒子は、例えば、所定の波長の光を吸収することにより、吸収した波長とは異なる波長の光(蛍光又は燐光)を発することができる。発光性ナノ結晶粒子は、605~665nmの範囲に発光ピーク波長を有する光(赤色光)を発する、赤色発光性のナノ結晶粒子(赤色発光性ナノ結晶粒子)であってよく、500~560nmの範囲に発光ピーク波長を有する光(緑色光)を発する、緑色発光性のナノ結晶粒子(緑色発光性ナノ結晶粒子)であってよく、420~480nmの範囲に発光ピーク波長を有する光(青色光)を発する、青色発光性のナノ結晶粒子(青色発光性ナノ結晶粒子)であってもよい。本実施形態では、インク組成物がこれらの発光性ナノ結晶粒子のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。また、発光性ナノ結晶粒子が吸収する光は、例えば、400nm以上500nm未満の範囲(特に、420~480nmの範囲の波長の光)の波長の光(青色光)、又は、200nm~400nmの範囲の波長の光(紫外光)であってよい。なお、発光性ナノ結晶粒子の発光ピーク波長は、例えば、分光蛍光光度計を用いて測定される蛍光スペクトル又は燐光スペクトルにおいて確認することができる。
【0023】
赤色発光性のナノ結晶粒子は、665nm以下、663nm以下、660nm以下、658nm以下、655nm以下、653nm以下、651nm以下、650nm以下、647nm以下、645nm以下、643nm以下、640nm以下、637nm以下、635nm以下、632nm以下又は630nm以下に発光ピーク波長を有することが好ましく、628nm以上、625nm以上、623nm以上、620nm以上、615nm以上、610nm以上、607nm以上又は605nm以上に発光ピーク波長を有することが好ましい。これらの上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。なお、以下の同様の記載においても、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0024】
緑色発光性のナノ結晶粒子は、560nm以下、557nm以下、555nm以下、550nm以下、547nm以下、545nm以下、543nm以下、540nm以下、537nm以下、535nm以下、532nm以下又は530nm以下に発光ピーク波長を有することが好ましく、528nm以上、525nm以上、523nm以上、520nm以上、515nm以上、510nm以上、507nm以上、505nm以上、503nm以上又は500nm以上に発光ピーク波長を有することが好ましい。
【0025】
青色発光性のナノ結晶粒子は、480nm以下、477nm以下、475nm以下、470nm以下、467nm以下、465nm以下、463nm以下、460nm以下、457nm以下、455nm以下、452nm以下又は450nm以下に発光ピーク波長を有することが好ましく、450nm以上、445nm以上、440nm以上、435nm以上、430nm以上、428nm以上、425nm以上、422nm以上又は420nm以上に発光ピーク波長を有することが好ましい。
【0026】
発光性ナノ結晶粒子が発する光の波長(発光色)は、井戸型ポテンシャルモデルのシュレディンガー波動方程式の解によれば、発光性ナノ結晶粒子のサイズ(例えば粒子径)に依存するが、発光性ナノ結晶粒子が有するエネルギーギャップにも依存する。そのため、使用する発光性ナノ結晶粒子の構成材料及びサイズを変更することにより、発光色を選択することができる。
【0027】
発光性ナノ結晶粒子は、半導体材料を含む発光性ナノ結晶粒子(発光性半導体ナノ結晶粒子)であってよい。発光性半導体ナノ結晶粒子としては、量子ドット、量子ロッド等が挙げられる。これらの中でも、発光スペクトルの制御が容易であり、信頼性を確保した上で、生産コストを低減し、量産性を向上させることができる観点から、量子ドットが好ましい。
【0028】
発光性半導体ナノ結晶粒子は、第一の半導体材料を含むコアのみからなっていてよく、第一の半導体材料を含むコアと、第一の半導体材料とは異なる第二の半導体材料を含み、上記コアの少なくとも一部を被覆するシェルと、を有していてもよい。換言すれば、発光性半導体ナノ結晶粒子の構造は、コアのみからなる構造(コア構造)であってよく、コアとシェルからなる構造(コア/シェル構造)であってもよい。また、発光性半導体ナノ結晶粒子は、第二の半導体材料を含むシェル(第一のシェル)の他に、第一及び第二の半導体材料とは異なる第三の半導体材料を含み、上記コアの少なくとも一部を被覆するシェル(第二のシェル)を更に有していてもよい。換言すれば、発光性半導体ナノ結晶粒子の構造は、コアと第一のシェルと第二のシェルとからなる構造(コア/シェル/シェル構造)であってもよい。コア及びシェルのそれぞれは、2種以上の半導体材料を含む混晶(例えば、CdSe+CdS、CIS+ZnS等)であってよい。
【0029】
発光性ナノ結晶粒子は、半導体材料として、II-VI族半導体、III-V族半導体、I-III-VI族半導体、IV族半導体及びI-II-IV-VI族半導体からなる群より選択される少なくとも1種の半導体材料を含むことが好ましい。
【0030】
具体的な半導体材料としては、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnO、HgS、HgSe、HgTe、CdSeS、CdSeTe、CdSTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnSTe、HgSeS、HgSeTe、HgSTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、HgZnS、HgZnSe、CdHgZnTe、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdHgSeS、CdHgSeTe、CdHgSTe、HgZnSeS、HgZnSeTe、HgZnSTe;GaN、GaP、GaAs、GaSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InN、InP、InAs、InSb、GaNP、GaNAs、GaNSb、GaPAs、GaPSb、AlNP、AlNAs、AlNSb、AlPAs、AlPSb、InNP、InNAs、InNSb、InPAs、InPSb、GaAlNP、GaAlNAs、GaAlNSb、GaAlPAs、GaAlPSb、GaInNP、GaInNAs、GaInNSb、GaInPAs、GaInPSb、InAlNP、InAlNAs、InAlNSb、InAlPAs、InAlPSb;SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、PbTe、SnSeS、SnSeTe、SnSTe、PbSeS、PbSeTe、PbSTe、SnPbS、SnPbSe、SnPbTe、SnPbSSe、SnPbSeTe、SnPbSTe;Si、Ge、SiC、SiGe、AgInSe、CuGaSe、CuInS、CuGaS、CuInSe、AgInS、AgGaSe、AgGaS、C、Si及びGeが挙げられる。発光性半導体ナノ結晶粒子は、発光スペクトルの制御が容易であり、信頼性を確保した上で、生産コストを低減し、量産性を向上させることができる観点から、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnO、HgS、HgSe、HgTe、InP、InAs、InSb、GaP、GaAs、GaSb、AgInS、AgInSe、AgInTe、AgGaS、AgGaSe、AgGaTe、CuInS、CuInSe、CuInTe、CuGaS、CuGaSe、CuGaTe、Si、C、Ge及びCuZnSnSからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0031】
赤色発光性の半導体ナノ結晶粒子としては、例えば、CdSeのナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がCdSであり内側のコア部がCdSeであるナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がCdSであり内側のコア部がZnSeであるナノ結晶粒子、CdSeとZnSとの混晶のナノ結晶粒子、InPのナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSであり内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSとZnSeとの混晶であり内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、CdSeとCdSとの混晶のナノ結晶粒子、ZnSeとCdSとの混晶のナノ結晶粒子、コア/シェル/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、第一のシェル部分がZnSeであり、第二のシェル部分がZnSであり、内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、第一のシェル部分がZnSとZnSeとの混晶であり、第二のシェル部分がZnSであり、内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子等が挙げられる。
【0032】
緑色発光性の半導体ナノ結晶粒子としては、例えば、CdSeのナノ結晶粒子、CdSeとZnSとの混晶のナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSであり内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSとZnSeとの混晶であり内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、第一のシェル部分がZnSeであり、第二のシェル部分がZnSであり、内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、第一のシェル部分がZnSとZnSeとの混晶であり、第二のシェル部分がZnSであり、内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子等が挙げられる。
【0033】
青色発光性の半導体ナノ結晶粒子としては、例えば、ZnSeのナノ結晶粒子、ZnSのナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSeであり内側のコア部がZnSであるナノ結晶粒子、CdSのナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSであり内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、当該シェル部分がZnSとZnSeとの混晶であり内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、第一のシェル部分がZnSeであり、第二のシェル部分がZnSであり、内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子、コア/シェル/シェル構造を備えたナノ結晶粒子であって、第一のシェル部分がZnSとZnSeとの混晶であり、第二のシェル部分がZnSであり、内側のコア部がInPであるナノ結晶粒子等が挙げられる。
【0034】
半導体ナノ結晶粒子は、同一の化学組成で、それ自体の平均粒子径を変えることにより、当該粒子から発光させるべき色を赤色にも緑色にも変えることができる。また、半導体ナノ結晶粒子は、それ自体として、人体等に対する悪影響が極力低いものを用いることが好ましい。カドミウム、セレン等を含有する半導体ナノ結晶粒子を発光性ナノ結晶粒子として用いる場合は、上記元素(カドミウム、セレン等)が極力含まれない半導体ナノ結晶粒子を選択して単独で用いるか、上記元素が極力少なくなるようにその他の発光性ナノ結晶粒子と組み合わせて用いることが好ましい。
【0035】
発光性ナノ結晶粒子の形状は特に限定されず、任意の幾何学的形状であってもよく、任意の不規則な形状であってもよい。発光性ナノ結晶粒子の形状は、例えば、球状、楕円体状、角錐形状、ディスク状、枝状、網状、ロッド状等であってもよい。しかしながら、発光性ナノ結晶粒子としては、粒子形状として方向性の少ない粒子(例えば、球状、正四面体状等の粒子)を用いることが、インク組成物の均一性及び流動性をより高められる点で好ましい。
【0036】
発光性ナノ結晶粒子の平均粒子径(体積平均径)は、所望の波長の発光が得られやすい観点、並びに、分散性及び保存安定性に優れる観点から、1nm以上であってよく、1.5nm以上であってよく、2nm以上であってもよい。所望の発光波長が得られやすい観点から、40nm以下であってよく、30nm以下であってよく、20nm以下であってもよい。発光性ナノ結晶粒子の平均粒子径(体積平均径)は、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡により測定し、体積平均径を算出することにより得られる。
【0037】
発光性ナノ結晶粒子としては、有機溶剤、光重合性化合物等の中にコロイド形態で分散しているものを用いることができる。有機溶剤中で分散状態にある発光性ナノ結晶粒子の表面は、上述の有機リガンドによってパッシベーションされていることが好ましい。有機溶剤としては、インク組成物に含有される後述の有機溶剤が用いられる。
【0038】
発光性ナノ結晶粒子としては、市販品を用いることができる。発光性ナノ結晶粒子の市販品としては、例えば、NN-ラボズ社の、インジウムリン/硫化亜鉛、D-ドット、CuInS/ZnS、アルドリッチ社の、InP/ZnS等が挙げられる。
【0039】
発光性ナノ結晶粒子の含有量は、画素部の外部量子効率が向上する観点から、インク組成物の不揮発分の質量100質量部に対して、20質量部以上であり、同様の効果が更に得られやすくなる観点から、好ましくは23質量部以上、より好ましくは25質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。本発明では、発光性ナノ結晶粒子の含有量を高めながらも優れたインクジェットプロセスへの適合性を発現できる点は特筆すべき事項である。一方、発光性ナノ結晶粒子の含有量は、吐出安定性及び画素部の外部量子効率がより向上する観点から、インク組成物の不揮発分の質量100質量部に対して、好ましくは、50質量部以下、45質量部以下、又は40質量部以下である。本明細書において、発光性ナノ結晶粒子の含有量は、発光性ナノ結晶粒子それ自体のみの含有量を意味し、発光性ナノ結晶粒子が有機リガンドを有する場合であっても、有機リガンドの含有量は含まない。
【0040】
インク組成物は、発光性ナノ結晶粒子として、赤色発光性ナノ結晶粒子、緑色発光性ナノ結晶粒子及び青色発光性ナノ結晶粒子のうちの2種以上を含んでいてもよいが、好ましくはこれらの粒子のうちの1種のみを含む。インク組成物が赤色発光性ナノ結晶粒子を含む場合、緑色発光性ナノ結晶粒子の含有量及び青色発光性ナノ結晶粒子の含有量は、発光性ナノ結晶粒子の全質量を基準として、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。インク組成物が緑色発光性ナノ結晶粒子を含む場合、赤色発光性ナノ結晶粒子の含有量及び青色発光性ナノ結晶粒子の含有量は、発光性ナノ結晶粒子の全質量を基準として、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。
【0041】
[有機リガンド]
有機リガンドは、発光性ナノ結晶粒子の表面に結合可能な有機リガンドである。有機リガンドは、例えば、発光性ナノ結晶粒子の表面に配位結合していてよい。換言すれば、発光性ナノ結晶粒子の表面は、有機リガンドによってパッシベーションされていてよい。インク組成物は、例えば、発光性ナノ結晶粒子の表面に配位結合している有機リガンドに加えて、発光性ナノ結晶粒子の表面に配位結合していない(例えば遊離している)有機リガンドを含んでもよい。
【0042】
有機リガンドは、2個以上の炭素-炭素二重結合を有する有機リガンド(以下「有機リガンドA」ともいう)の1種又は2種以上を含む。有機リガンドAにおける炭素-炭素二重結合の数は、3個以上であることが好ましく、6個以下、5個以下、又は4個以下であることが好ましい。とりわけ3個であることが好ましい。
【0043】
有機リガンドAは、好ましくは、カルボキシル基を更に有する。有機リガンドAにおけるカルボキシル基の数は、1個又は2個以上であってよく、好ましくは1個である。
【0044】
有機リガンドAは、一実施形態において、2個以上の炭素-炭素二重結合(不飽和結合)と、1個のカルボキシル基とを有する不飽和脂肪酸であってよい。2個の炭素-炭素二重結合(不飽和結合)を有する不飽和脂肪酸(ジ不飽和脂肪酸)としては、リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸等が挙げられる。3個の炭素-炭素二重結合(不飽和結合)を有する不飽和脂肪酸(トリ不飽和脂肪酸)としては、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、ピノレン酸、α-エレオステアリン酸、β-エレオステアリン酸、ミード酸、ジホモ-γ-リノレン酸、エイコサトリエン酸等が挙げられる。4個の炭素-炭素二重結合(不飽和結合)を有する不飽和脂肪酸(テトラ不飽和脂肪酸)としては、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸等が挙げられる。5個の炭素-炭素二重結合(不飽和結合)を有する不飽和脂肪酸(ペンタ不飽和脂肪酸)としては、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、オズボンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸等が挙げられる。6個の炭素-炭素二重結合(不飽和結合)を有する不飽和脂肪酸(ヘキサ不飽和脂肪酸)としては、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等が挙げられる。
【0045】
有機リガンドAの含有量は、発光性ナノ結晶粒子100質量部に対して、重合性化合物との相溶性を向上させる観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、特に好ましくは7質量部以上である。有機リガンドAの含有量は、発光性ナノ結晶粒子100質量部に対して、インク組成物の粘度上昇を更に抑制する観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下、更に好ましくは20質量部以下、特に好ましくは15質量部以下である。
【0046】
有機リガンドは、有機リガンドAに加えて、その他の有機リガンド(以下「有機リガンドB」ともいう)の1種又は2種以上を更に含んでもよい。有機リガンドBは、例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン基、ホスフィンオキサイド基、及びアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有している。有機リガンドBは、1個の炭素-炭素二重結合を更に有していてもよい。有機リガンドBは、一実施形態において、カルボキシル基と、1個の炭素-炭素二重結合とを有していてよく、1個のカルボキシル基と、1個の炭素-炭素二重結合とを有していてよい。
【0047】
有機リガンドBとしては、例えば、ヘキサン酸、ラウリン酸、オレイン酸、オレイルアミン、ドデカンチオール、n-トリオクチルホスフィン、n-トリオクチルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0048】
有機リガンドBの含有量は、発光性ナノ結晶粒子100質量部に対して、発光性ナノ結晶粒子の分散安定性の観点及び発光特性維持の観点から、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは7質量部以上、特に好ましくは10質量部以上である。有機リガンドBの含有量は、発光性ナノ結晶粒子100質量部に対して、インク組成物の粘度上昇を更に抑制する観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは30質量部以下、特に好ましくは25質量部以下である。
【0049】
有機リガンドが有機リガンドA及び有機リガンドBを含む場合、有機リガンドの合計含有量は、発光性ナノ結晶粒子100質量部に対して、発光性ナノ結晶粒子の分散安定性の観点及び発光特性維持の観点から、15質量部以上、20質量部以上、25質量部以上、30質量部以上、35質量部以上、又は40質量部以上であってよく、インク組成物の粘度上昇を更に抑制する観点から、50質量部以下、45質量部以下、40質量部以下、又は30質量部以下であってよい。
【0050】
[光重合性化合物]
光重合性化合物は、光の照射によって重合する化合物であり、例えば、光ラジカル重合性化合物であってよい。光重合性化合物は、光重合性のモノマー又はオリゴマーであってよい。光重合性化合物は、光重合開始剤と共に用いられる。光ラジカル重合性化合物は、光ラジカル重合開始剤と共に用いられる。言い換えれば、インク組成物は、光重合性化合物及び光重合開始剤を含む光重合性成分を含有していてよく、光ラジカル重合性化合物及び光ラジカル重合開始剤を含む光ラジカル重合性成分を含有していてもよい。インク組成物は、光重合性化合物を1種含有してもよく、2種以上含有してもよく、好ましくは2種以上含有する。
【0051】
光ラジカル重合性化合物としては、例えば、エチレン性不飽和基を有するモノマー(以下、「エチレン性不飽和モノマー」ともいう。)、イソシアネート基を有するモノマー等が挙げられる。ここで、エチレン性不飽和モノマーとは、エチレン性不飽和結合(炭素-炭素二重結合)を有するモノマーを意味する。エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、ビニル基、ビニレン基、ビニリデン基等のエチレン性不飽和基を有するモノマーが挙げられる。これらの基を有するモノマーは、「ビニルモノマー」と称される場合がある。
【0052】
エチレン性不飽和モノマーにおけるエチレン性不飽和結合の数(例えばエチレン性不飽和基の数)は、例えば、1~3である。エチレン性不飽和モノマーは1種を単独で用いてよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。光重合性化合物は、優れた吐出安定性と優れた硬化性を両立することが容易となる観点、及び、外部量子効率がより向上する観点から、エチレン性不飽和基を1個有するモノマー(単官能モノマー)と、エチレン性不飽和基を2個以上有するモノマー(多官能モノマー)とを含んでいてよく、単官能モノマーと、エチレン性不飽和基を2個有するモノマー(二官能モノマー)及びエチレン性不飽和基を3個有するモノマー(三官能モノマー)からなる群より選択される少なくとも1種とを含んでいてよい。
【0053】
エチレン性不飽和基は、ビニル基、ビニレン基、ビニリデン基、(メタ)アクリロイル基等であってよく、好ましくは(メタ)アクリロイル基である。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」とは、「アクリロイル基」及びそれに対応する「メタクリロイル基」を意味する。「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリルアミド」との表現についても同様である。
【0054】
光重合性化合物は、エチレン性不飽和基として、好ましくは(メタ)アクリロイル基を有する化合物の少なくとも1種を含み、より好ましくは(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1種を含む、更に好ましくは(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含み、特に好ましくは炭素数8以上の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含む。光重合性化合物は、優れた吐出安定性と優れた硬化性を両立することが容易となる観点、及び、外部量子効率がより向上する観点から、好ましくは、(メタ)アクリレートを2種以上含み、より好ましくは、(メタ)アクリロイル基を1個有する(メタ)アクリレート(単官能(メタ)アクリレート)と、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する(メタ)アクリレート(多官能(メタ)アクリレート)とを含み、更に好ましくは、単官能(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリロイル基を2個有する(メタ)アクリレート(二官能(メタ)アクリレート)及び(メタ)アクリロイル基を3個有する(メタ)アクリレート(三官能(メタ)アクリレート)からなる群より選択される少なくとも1種とを含む。
【0055】
単官能モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルベンジル(メタ)アクリレート、コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、コハク酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)、N-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]フタルイミド、N-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]テトラヒドロフタルイミド、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、4-アクリロイルモルホリン、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-ヒドロキシメチルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-tert-オクチルアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N-フェニルアクリルアミド、N-ドデシルアクリルアミド等が挙げられる。
【0056】
エチレン性不飽和基を2個有するモノマー(二官能モノマー)の具体例としては、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルヒドロキシピバリン酸エステルジアクリレ-ト、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得られるジオールの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得られるジオールの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得られるトリオールの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得られるジオールの2個の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基によって置換されたジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-エチレンビスアクリルアミドなどが挙げられる。
【0057】
エチレン性不飽和基を3個有するモノマー(三官能モノマー)の具体例としては、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0058】
光重合性化合物は、好ましくは、3.3以下のLogP値を有する重合性化合物を含む。この場合、光重合性化合物の極性の高さ(分子間力の大きさ)に起因して、インク組成物の揮発を抑制できる。一方、光重合性化合物の極性が高い場合、インク組成物の粘度が上昇しやすい傾向にあるが、本実施形態のインク組成物では、上述した有機リガンドAが用いられていることにより、極性が高い重合性化合物に起因する粘度上昇が抑制される。
【0059】
光重合性化合物のLogP値は、汎用の化学構造式描画ソフト(例えば、ChemDraw)を用いて算出することができる。ソフト上でLogP値を算出したい光重合性化合物の化学構造を描画し、ソフト上でChemical Propertiesを確認することにより、描画した光重合性化合物のLogP値が得られる。
【0060】
3.3以下のLogP値を有する重合性化合物としては、好ましくは、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレ-ト、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレ-ト、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリリレート、及びEO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0061】
重合性化合物は、3.3以下のLogP値を有する光重合性化合物に加えて、3.3を超えるLogP値を有する光重合性化合物を更に含んでもよい。3.3を超えるLogP値を有する光重合性化合物としては、好ましくは、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、及び1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0062】
光重合性化合物は、信頼性に優れる画素部(インク組成物の硬化物)が得られやすい観点から、アルカリ不溶性であってよい。本明細書中、光重合性化合物がアルカリ不溶性であるとは、1質量%の水酸化カリウム水溶液に対する25℃における光重合性化合物の溶解量が、光重合性化合物の全質量を基準として、30質量%以下であることを意味する。光重合性化合物の上記溶解量は、好ましくは、10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。
【0063】
光重合性化合物の含有量は、インクジェットインクとして適正な粘度が得られやすい観点、インク組成物の硬化性が良好となる観点、並びに、画素部(インク組成物の硬化物)の耐溶剤性及び耐磨耗性が向上する観点から、インク組成物の不揮発性分の質量100質量部に対して、10質量部以上であってもよく、15質量部以上であってもよく、20質量部以上であってもよい。光重合性化合物の含有量は、インクジェットインクとして適正な粘度が得られやすい観点、及び、より優れた光学特性(例えば外部量子効率)が得られる観点から、インク組成物の不揮発性分の質量100質量部に対して、60質量部以下であってよく、50質量部以下であってもよく、40質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよい。
【0064】
[光散乱性粒子]
インク組成物は、光散乱性粒子を更に含有してよい。光散乱性粒子は、例えば、光学的に不活性な無機微粒子である。インク組成物が光散乱性粒子を含有する場合、画素部に照射された光源からの光を散乱させることができるため、優れた光学特性(例えば外部量子効率)を得ることができる。
【0065】
光散乱性粒子を構成する材料としては、例えば、タングステン、ジルコニウム、チタン、白金、ビスマス、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、プラチナ、金等の単体金属;シリカ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナホワイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、次炭酸ビスマス、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩;水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等の複合酸化物、次硝酸ビスマス等の金属塩などが挙げられる。光散乱性粒子は、吐出安定性に優れる観点及び外部量子効率の向上効果により優れる観点から、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、チタン酸バリウム及びシリカからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛及びチタン酸バリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0066】
光散乱性粒子の形状は、球状、フィラメント状、不定形状等であってよい。しかしながら、光散乱性粒子としては、粒子形状として方向性の少ない粒子(例えば、球状、正四面体状等の粒子)を用いることが、インク組成物の均一性、流動性及び光散乱性をより高めることができ、優れた吐出安定性を得ることができる点で好ましい。
【0067】
インク組成物中での光散乱性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、吐出安定性に優れる観点及び外部量子効率の向上効果により優れる観点から、50nm以上であってよく、200nm以上であってもよく、300nm以上であってもよい。インク組成物中での光散乱性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、吐出安定性に優れる観点から、1000nm以下であってもよく、600nm以下であってもよく、400nm以下であってもよい。このような平均粒子径(体積平均径)が得られやすい観点から、使用する光散乱性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、50nm以上であってよく、1000nm以下であってもよい。本明細書中、インク組成物中での光散乱性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、動的光散乱式ナノトラック粒度分布計により測定し、体積平均径を算出することにより得られる。また、使用する光散乱性粒子の平均粒子径(体積平均径)は、例えば透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡により各粒子の粒子径を測定し、体積平均径を算出することにより得られる。
【0068】
光散乱性粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点から、インク組成物の不揮発性分の質量100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以上、2質量部以上、又は3質量部以上であってもよい。光散乱性粒子の含有量は、インクジェットプロセスへの適合性と光学特性及びその再現性の点で優れる観点から、インク組成物の不揮発性分の質量100質量部に対して、10質量部未満であり、当該効果が更に得られやすい観点から、9質量部以下、7質量部以下、又は5質量部以下であってもよい。
【0069】
発光性ナノ結晶粒子の含有量に対する光散乱性粒子の含有量の質量比(光散乱性粒子/発光性ナノ結晶粒子)は、外部量子効率の向上効果に優れる観点から、好ましくは、0.05以上、0.07以上、0.1以上、0.13以上、又は0.15以上である。当該質量比(光散乱性粒子/発光性ナノ結晶粒子)は、インクジェットプロセスへの適合性と光学特性及びその再現性の点で更に優れる観点から、好ましくは、0.2以下、0.19以下、0.18以下、0.17以下、又は0.16以下である。
【0070】
インク組成物における発光性ナノ結晶粒子と光散乱性粒子の合計量は、インクジェットインクとして適正な粘度が得られやすい観点から、インク組成物の不揮発性分の質量100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは25質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。インク組成物における発光性ナノ結晶粒子と光散乱性粒子の合計量は、インクジェットインクとして適正な粘度が得られやすい観点から、インク組成物の不揮発性分の質量100質量部に対して、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。
【0071】
[光重合開始剤]
インク組成物は、光重合開始剤を更に含有してよい。光重合開始剤は、例えば光ラジカル重合開始剤又は光カチオン重合開始剤である。光ラジカル重合開始剤としては、分子開裂型又は水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤が好適である。
【0072】
分子開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾインイソブチルエーテル、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)エトキシフェニルホスフィンオキシド等が好適に用いられる。これら以外の分子開裂型の光ラジカル重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン及び2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンを併用してもよい。
【0073】
水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルスルフィド等が挙げられる。分子開裂型の光ラジカル重合開始剤と水素引き抜き型の光ラジカル重合開始剤とを併用してもよい。
【0074】
光カチオン重合開始剤として市販品を用いることもできる。市販品としては、サンアプロ社製の「CPI-100P」等のスルホニウム塩系光カチオン重合開始剤、BASF社製の「Lucirin TPO」等のアシルフォスフィンオキサイド化合物、BASF社製の「Irgacure 907」、「Irgacure 819」、「Irgacure 379EG」「、Irgacure 184」及び「Irgacure PAG290」などが挙げられる。
【0075】
光重合開始剤の含有量は、インク組成物の硬化性の観点から、光重合性化合物100質量部に対して、0.1質量部以上であってよく、0.5質量部以上であってもよく、1質量部以上であってもよく、3質量部以上であってもよく、5質量部以上であってもよい。光重合開始剤の含有量は、画素部(インク組成物の硬化物)の経時安定性の観点から、光重合性化合物100質量部に対して、40質量部以下であってよく、30質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよく、10質量部以下であってもよい。
【0076】
[高分子分散剤]
インク組成物は、高分子分散剤を更に含有してよい。高分子分散剤は、750以上の重量平均分子量を有し、かつ、光散乱性粒子に対し親和性を有する官能基を有する高分子化合物である。高分子分散剤は、光散乱性粒子を分散させる機能を有する。高分子分散剤は、光散乱性粒子に対し親和性を有する官能基を介して光散乱性粒子に吸着し、高分子分散剤同士の静電反発及び/又は立体反発により、光散乱性粒子をインク組成物中に分散させる。インク組成物が高分子分散剤を含む場合、光散乱性粒子の含有量を比較的多くした場合(例えば60質量%程度とした場合)であっても光散乱性粒子を良好に分散させることができる。高分子分散剤は、光散乱性粒子の表面と結合して光散乱性粒子に吸着していることが好ましいが、発光性ナノ結晶粒子の表面に結合して発光性ナノ粒子に吸着していてもよく、インク組成物中に遊離していてもよい。
【0077】
光散乱性粒子に対し親和性を有する官能基としては、酸性官能基、塩基性官能基及び非イオン性官能基が挙げられる。酸性官能基は解離性のプロトンを有しており、アミン、水酸化物イオン等の塩基により中和されていてもよく、塩基性官能基は有機酸、無機酸等の酸により中和されていてもよい。
【0078】
酸性官能基としては、カルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、硫酸基(-OSOH)、ホスホン酸基(-PO(OH))、リン酸基(-OPO(OH))、ホスフィン酸基(-PO(OH)-)、メルカプト基(-SH)、が挙げられる。
【0079】
塩基性官能基としては、一級、二級及び三級アミノ基、アンモニウム基、イミノ基、並びに、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、イミダゾール、トリアゾール等の含窒素ヘテロ環基等が挙げられる。
【0080】
非イオン性官能基としては、ヒドロキシ基、エーテル基、チオエーテル基、スルフィニル基(-SO-)、スルホニル基(-SO-)、カルボニル基、ホルミル基、エステル基、炭酸エステル基、アミド基、カルバモイル基、ウレイド基、チオアミド基、チオウレイド基、スルファモイル基、シアノ基、アルケニル基、アルキニル基、ホスフィンオキサイド基、ホスフィンスルフィド基が挙げられる。
【0081】
高分子分散剤は、単一のモノマーの重合体(ホモポリマー)であってよく、複数種のモノマーの共重合体(コポリマー)であってもよい。また、高分子分散剤は、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、高分子分散剤がグラフト共重合体である場合、くし形のグラフト共重合体であってよく、星形のグラフト共重合体であってもよい。高分子分散剤は、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレア樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンイミン及びポリアリルアミン等のポリアミン、ポリイミドなどであってよい。
【0082】
高分子分散剤として、市販品を使用することも可能であり、市販品としては、味の素ファインテクノ株式会社製のアジスパーPBシリーズ、BYK社製のDISPERBYKシリーズ並びにBYK-シリーズ、BASF社製のEfkaシリーズ等を使用することができる。
【0083】
[有機溶剤]
インク組成物は有機溶剤を更に含有してよい。有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテル、アジピン酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、1,4-ブタンジオールジアセテート、グリセリルトリアセテート等が挙げられる。
【0084】
有機溶剤の沸点は、インクジェットインクの連続吐出安定性の観点から、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは180℃以上である。また、画素部の形成時には、インク組成物の硬化前にインク組成物から溶剤を除去する必要があるため、有機溶剤を除去しやすい観点から、有機溶剤の沸点は好ましくは300℃以下である。
【0085】
有機溶剤は、好ましくは、沸点が150℃以上のアセテート化合物を含む。この場合、発光性ナノ結晶粒子と溶剤との間の親和性が向上し、発光性ナノ結晶粒子が優れた発光特性を発揮し得る。沸点が150℃以上のアセテート化合物の具体例としては、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のモノアセテート化合物、1,4-ブタンジオールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート等のジアセテート化合物、グリセリルトリアセテート等のトリアセテート化合物などが挙げられる。
【0086】
本実施形態のインク組成物では光重合性化合物が分散媒としても機能するため、無溶剤で光散乱性粒子及び発光性ナノ結晶粒子を分散させることが可能である。この場合、画素部を形成する際に溶剤を乾燥により除去する工程が不要となる利点を有する。
【0087】
インク組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上述した成分以外の成分(例えば、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤(硬化触媒)、重合禁止剤、連鎖移動剤、酸化防止剤等)を更に含有していてもよい。
【0088】
以上説明したインク組成物のインクジェット印刷時のインク温度における粘度は、例えば、インクジェット印刷時の吐出安定性の観点から、2mPa・s以上であってよく、5mPa・s以上であってもよく、7mPa・s以上であってもよい。インク組成物のインクジェット印刷時のインク温度における粘度は、20mPa・s以下であってよく、15mPa・s以下であってもよく、12mPa・s以下であってもよい。本明細書中、インク組成物の粘度は、例えば、E型粘度計によって測定される粘度であり、25℃で測定されたものを言う。
【0089】
インク組成物のインクジェット印刷時のインク温度における粘度が2mPa・s以上でである場合、吐出ヘッドのインク吐出孔の先端におけるインクジェットインクのメニスカス形状が安定するため、インクジェットインクの吐出制御(例えば、吐出量及び吐出のタイミングの制御)が容易となる。一方、インク組成物のインクジェット印刷時のインク温度における粘度が20mPa・s以下である場合、インク吐出孔からインクジェットインクを円滑に吐出させることができる。
【0090】
インク組成物の表面張力は、インクジェット方式に適した表面張力であることが好ましく、具体的には、20~40mN/mの範囲であることが好ましく、25~35mN/mであることがより好ましい。表面張力を当該範囲とすることで吐出制御(例えば、吐出量及び吐出のタイミングの制御)が容易になると共に、飛行曲がりの発生を抑制することができる。なお、飛行曲がりとは、インク組成物をインク吐出孔から吐出させたとき、インク組成物の着弾位置が目標位置に対して30μm以上のずれを生じることをいう。表面張力が40mN/m以下である場合、インク吐出孔の先端におけるメニスカス形状が安定するため、インク組成物の吐出制御(例えば、吐出量及び吐出のタイミングの制御)が容易となる。一方、表面張力が20mN/m以上である場合、インク吐出孔周辺部がインクジェットインクで汚染することが防げるため、飛行曲がりの発生を抑制できる。すなわち、着弾すべき画素部形成領域に正確に着弾されずにインク組成物の充填が不充分な画素部が生じたり、着弾すべき画素部形成領域に隣接する画素部形成領域(又は画素部)にインク組成物が着弾し、色再現性が低下したりすることがない。なお、本願明細書記載の表面張力は、23℃で測定された表面張力をいい、リング法(輪環法ともいう)で測定されたものをいう。
【0091】
本実施形態のインク組成物をインクジェット方式用のインク組成物として用いる場合には、圧電素子を用いた機械的吐出機構による、ピエゾジェット方式のインクジェット記録装置に適用することが好ましい。ピエゾジェット方式では、吐出に当たり、インク組成物が瞬間的に高温に晒されることがない。そのため、発光性ナノ結晶粒子の変質が起こり難く、画素部(光変換層)において、期待した通りの発光特性がより容易に得られやすい。
【0092】
以上、インクジェット用インク組成物の一実施形態について説明したが、上述した実施形態のインクジェット用インク組成物は、インクジェット方式の他に、例えば、フォトリソグラフィ方式で用いることもできる。この場合、インク組成物は、バインダーポリマーとしてアルカリ可溶性樹脂を含有する。
【0093】
インク組成物をフォトリソグラフィ方式で用いる場合、まず、インク組成物を基材上に塗布し、さらにインク組成物を乾燥させて塗布膜を形成する。このようにして得られる塗布膜は、アルカリ現像液に可溶性であり、アルカリ現像液で処理されることでパターニングされる。この際、アルカリ現像液は、現像液の廃液処理の容易さ等の観点から、水溶液であることが大半を占めるため、インク組成物の塗布膜は水溶液で処理されることとなる。一方、発光性ナノ結晶粒子(量子ドット等)を用いたインク組成物の場合、発光性ナノ結晶粒子が水に対して不安定であり、発光性(例えば蛍光性)が水分により損なわれる。このため本実施形態においては、アルカリ現像液(水溶液)で処理する必要のない、インクジェット方式が好ましい。
【0094】
また、インク組成物の塗布膜に対してアルカリ現像液による処理を行わない場合でも、インク組成物がアルカリ可溶性である場合、インク組成物の塗布膜が大気中の水分を吸収しやすくなるため、時間が経過するにつれて発光性ナノ結晶粒子(量子ドット等)の発光性(例えば蛍光性)が損なわれてゆく。この観点から、本実施形態においては、インク組成物の塗布膜はアルカリ不溶性であることが好ましい。すなわち、本実施形態のインク組成物は、アルカリ不溶性の塗布膜を形成可能なインク組成物であることが好ましい。このようなインク組成物は、光重合性化合物として、アルカリ不溶性の光重合性化合物を用いることにより得ることができる。インク組成物の塗布膜がアルカリ不溶性であるとは、1質量%の水酸化カリウム水溶液に対する25℃におけるインク組成物の塗布膜の溶解量が、インク組成物の塗布膜の全質量を基準として、30質量%以下であることを意味する。インク組成物の塗布膜の上記溶解量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。なお、インク組成物がアルカリ不溶性の塗布膜を形成可能なインク組成物であることは、インク組成物を基材上に塗布した後、80℃、3分の条件で乾燥して得られる厚さ1μmの塗布膜の、上記溶解量を測定することにより確認できる。
【0095】
本発明の他の一実施形態は、上記インク組成物の硬化物(硬化膜)であり、このインク組成物の硬化物(硬化膜)が、アルカリ不溶性であるということもできる。これにより、信頼性に優れる画素部が得られやすくなる。インク組成物の硬化物がアルカリ不溶性であるとは、上記と同様に、1質量%の水酸化カリウム水溶液に対する25℃におけるインク組成物の硬化物の溶解量が、インク組成物の硬化物の全質量を基準として、30質量%以下であることを意味する。インク組成物の硬化物の上記溶解量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下である。
【0096】
<インク組成物の製造方法>
上述した実施形態のインク組成物は、例えば、発光性ナノ結晶粒子を用意する第1の工程と、発光性ナノ結晶粒子、有機リガンドA及び光重合性化合物(更には必要に応じてその他の成分)を混合する第2の工程を備える製造方法により製造される。
【0097】
第1の工程では、一実施形態において、表面に有機リガンドが結合した発光性ナノ結晶粒子を用意する。当該有機リガンドは、上述した有機リガンドA及び有機リガンドBの一方又は両方であってよく、好ましくは有機リガンドBである。有機リガンドは、公知の方法により発光性ナノ結晶粒子の表面に結合させることができる。あるいは、有機リガンドが結合した発光性ナノ結晶粒子を購入することもできる。
【0098】
第2の工程では、上記の各成分をすべて同時に混合してもよく、例えば、有機リガンドBが結合した発光性ナノ結晶粒子と、有機リガンドAとをまず混合した後で、残りの成分を更に混合してもよい。溶媒からモノマーに分散媒を置換する際は、有機リガンドBが結合した発光性ナノ結晶粒子分散体の溶媒を乾燥もしくはデカンテーション等の手法にて除去し、そこに有機リガンドAと必要なモノマーを添加した上で、再分散させる方法、もしくは、有機リガンドBが結合した発光性ナノ結晶粒子分散体に有機リガンドAと必要なモノマーを添加した後、エバポレーターや薄膜蒸留により、有機溶媒を除去することで、モノマー分散体を得る方法が好ましい。
【0099】
第2の工程では、例えば、混合に加えて分散処理を実施してもよい。分散処理は、例えば、ビーズミル、ペイントコンディショナー、遊星攪拌機、ジェットミル等の分散装置を用いて行ってよい。発光性ナノ結晶粒子の分散性が良好となり、発光性ナノ結晶粒子の平均粒子径を所望の範囲に調整しやすい観点から、ビーズミル、ペイントコンディショナー又はジェットミルを用いることが好ましい。この方法によれば、発光性ナノ結晶粒子を充分に分散させることができる。そのため、画素部の光学特性(例えば外部量子効率)を向上させることができると共に、吐出安定性に優れるインク組成物を容易に得ることができる。
【0100】
発光性ナノ粒子は合成の都合上、低極性溶媒中で合成することが一般的であるため、第1の工程にて合成直後に発光性ナノ粒子に結合さている有機リガンドBの極性も低いことが一般的である。この場合、第2の工程において、有機リガンドBが結合した発光性ナノ結晶粒子と重合性化合物(特に3.3以下のLogP値を有する極性の高い重合性化合物)とを混合する際に、粘度の上昇(更には発光性ナノ結晶粒子の凝集)が生じやすくなることが判明した。これに対し、本発明者らは、有機リガンドAを用いることにより、粘度の上昇(更には発光性ナノ結晶粒子の凝集)を抑制できることを見出した。
【0101】
<インク組成物セット>
一実施形態のインク組成物セットは、上述した実施形態のインク組成物を備える。インク組成物セットは、上述した実施形態のインク組成物(発光性インク組成物)に加えて、発光性ナノ結晶粒子を含有しないインク組成物(非発光性インク組成物)を備えていてよい。非発光性インク組成物は、例えば、硬化性のインク組成物である。非発光性インク組成物は、従来公知のインク組成物であってよく、発光性ナノ結晶粒子を含まないこと以外は、上述した実施形態のインク組成物(発光性インク組成物)と同様の組成であってもよい。
【0102】
非発光性インク組成物は、発光性ナノ結晶粒子を含有しないため、非発光性インク組成物により形成される画素部(非発光性インク組成物の硬化物を含む画素部)に光を入射させた場合に画素部から出射する光は、入射光と略同一の波長を有する。したがって、非発光性インク組成物は、光源からの光と同色の画素部を形成するために好適に用いられる。例えば、光源からの光が420~480nmの範囲の波長を有する光(青色光)である場合、非発光性インク組成物により形成される画素部は青色画素部となり得る。
【0103】
非発光性インク組成物は、好ましくは光散乱性粒子を含有する。非発光性インク組成物が光散乱性粒子を含有する場合、当該非発光性インク組成物により形成される画素部によれば、画素部に入射した光を散乱させることができ、これにより、画素部からの出射光の、視野角における光強度差を低減することができる。
【0104】
<光変換層及びカラーフィルタ>
以下、上述した実施形態のインク組成物セットを用いて得られる光変換層及びカラーフィルタの詳細について、図面を参照しつつ説明する。ただし、以下の実施形態は、インク組成物が光散乱性粒子を含有する場合の実施形態である。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0105】
図1は、一実施形態のカラーフィルタの模式断面図である。図1に示すように、カラーフィルタ100は、基材40と、基材40上に設けられた光変換層30と、を備える。光変換層30は、複数の画素部10と、遮光部20と、を備えている。
【0106】
光変換層30は、画素部10として、第1の画素部10aと、第2の画素部10bと、第3の画素部10cとを有している。第1の画素部10aと、第2の画素部10bと、第3の画素部10cとは、この順に繰り返すように格子状に配列されている。遮光部20は、隣り合う画素部の間、すなわち、第1の画素部10aと第2の画素部10bとの間、第2の画素部10bと第3の画素部10cとの間、第3の画素部10cと第1の画素部10aとの間に設けられている。言い換えれば、これらの隣り合う画素部同士は、遮光部20によって離間されている。
【0107】
第1の画素部10a及び第2の画素部10bは、それぞれ上述した実施形態のインク組成物の硬化物を含む発光性の画素部(発光性画素部)である。図1に示す硬化物は、発光性ナノ結晶粒子と、有機リガンドと、硬化成分と、光散乱性粒子と、を含有する。第1の画素部10aは、第1の硬化成分13aと、第1の硬化成分13a中にそれぞれ分散された第1の発光性ナノ結晶粒子11a及び第1の光散乱性粒子12aとを含む。同様に、第2の画素部10bは、第2の硬化成分13bと、第2の硬化成分13b中にそれぞれ分散された第2の発光性ナノ結晶粒子11b及び第2の光散乱性粒子12bとを含む。硬化成分は、光重合性化合物の重合によって得られる成分であり、光重合性化合物の重合体を含む。硬化成分には、上記重合体の他、インク組成物に含まれていた有機溶剤以外の成分(高分子分散剤、未反応の重合性化合物等)が含まれていてよい。第1の画素部10a及び第2の画素部10bにおいて、第1の硬化成分13aと第2の硬化成分13bとは同一であっても異なっていてもよく、第1の光散乱性粒子12aと第2の光散乱性粒子12bとは同一であっても異なっていてもよい。
【0108】
第1の発光性ナノ結晶粒子11aは、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し605~665nmの範囲に発光ピーク波長を有する光を発する、赤色発光性のナノ結晶粒子である。すなわち、第1の画素部10aは、青色光を赤色光に変換するための赤色画素部と言い換えてよい。また、第2の発光性ナノ結晶粒子11bは、420~480nmの範囲の波長の光を吸収し500~560nmの範囲に発光ピーク波長を有する光を発する、緑色発光性のナノ結晶粒子である。すなわち、第2の画素部10bは、青色光を緑色光に変換するための緑色画素部と言い換えてよい。
【0109】
発光性画素部における発光性ナノ結晶粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点及び優れた発光強度が得られる観点から、発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、好ましくは5質量%以上であり、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上又は30質量%以上であってもよい。発光性ナノ結晶粒子の含有量は、画素部の信頼性に優れる観点及び優れた発光強度が得られる観点から、発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、好ましくは80質量%以下であり、75質量%以下、70質量%以下又は60質量%以下であってもよい。
【0110】
発光性画素部における光散乱性粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点から、発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、0.1質量%以上、1質量%以上又は3質量%以上であってもよい。光散乱性粒子の含有量は、外部量子効率の向上効果により優れる観点及び画素部の信頼性に優れる観点から、発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、25質量部%以下、20質量部%以下又は15質量%以下であってもよい。
【0111】
第3の画素部10cは、上述した非発光性インク組成物の硬化物を含む非発光性の画素部(非発光性画素部)である。硬化物は、発光性ナノ結晶粒子を含有せず、光散乱性粒子と、硬化成分とを含有する。すなわち、第3の画素部10cは、第3の硬化成分13cと、第3の硬化成分13c中に分散された第3の光散乱性粒子12cとを含む。第3の硬化成分13cは、例えば、重合性化合物の重合によって得られる成分であり、重合性化合物の重合体を含む。第3の光散乱性粒子12cは、第1の光散乱性粒子12a及び第2の光散乱性粒子12bと同一であっても異なっていてもよい。
【0112】
第3の画素部10cは、例えば、420~480nmの範囲の波長の光に対し30%以上の透過率を有する。そのため、第3の画素部10cは、420~480nmの範囲の波長の光を発する光源を用いる場合に、青色画素部として機能する。なお、第3の画素部10cの透過率は、顕微分光装置により測定することができる。
【0113】
非発光性画素部における光散乱性粒子の含有量は、視野角における光強度差をより低減することができる観点から、非発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、1質量%以上であってよく、5質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよい。光散乱性粒子の含有量は、光反射をより低減することができる観点から、非発光性インク組成物の硬化物の全質量を基準として、80質量%以下であってよく、75質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよい。
【0114】
画素部(第1の画素部10a、第2の画素部10b及び第3の画素部10c)の厚さは、例えば、1μm以上であってよく、2μm以上であってもよく、3μm以上であってもよい。画素部(第1の画素部10a、第2の画素部10b及び第3の画素部10c)の厚さは、例えば、30μm以下であってよく、20μm以下であってもよく、15μm以下であってもよい。
【0115】
遮光部20は、隣り合う画素部を離間して混色を防ぐ目的及び光源からの光の漏れを防ぐ目的で設けられる、いわゆるブラックマトリックスである。遮光部20を構成する材料は、特に限定されず、クロム等の金属の他、バインダーポリマーにカーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料等の遮光性粒子を含有させた樹脂組成物の硬化物等を用いることができる。ここで用いられるバインダーポリマーとしては、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、セルロース等の樹脂を1種又は2種以上混合したもの、感光性樹脂、O/Wエマルジョン型の樹脂組成物(例えば、反応性シリコーンをエマルジョン化したもの)などを用いることができる。遮光部20の厚さは、例えば、0.5μm以上であってよく、10μm以下であってよい。
【0116】
基材40は、光透過性を有する透明基材であり、例えば、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、合成石英板等の透明なガラス基板、透明樹脂フィルム、光学用樹脂フィルム等の透明なフレキシブル基材などを用いることができる。これらの中でも、ガラス中にアルカリ成分を含まない無アルカリガラスからなるガラス基板を用いることが好ましい。具体的には、コーニング社製の「7059ガラス」、「1737ガラス」、「イーグル200」及び「イーグルXG」、旭硝子社製の「AN100」、日本電気硝子社製の「OA-10G」及び「OA-11」が好適である。これらは、熱膨脹率の小さい素材であり寸法安定性及び高温加熱処理における作業性に優れる。
【0117】
以上の光変換層30を備えるカラーフィルタ100は、420~480nmの範囲の波長の光を発する光源を用いる場合に好適に用いられる。
【0118】
カラーフィルタ100は、例えば、基材40上に遮光部20をパターン状に形成した後、基材40上の遮光部20によって区画された画素部形成領域に画素部10を形成することにより製造できる。画素部10は、インク組成物(インクジェットインク)をインクジェット方式により基材40上の画素部形成領域に選択的に付着させる工程と、乾燥によりインク組成物から有機溶剤を除去する工程と、乾燥後のインク組成物に対して活性エネルギー線(例えば紫外線)を照射し、インク組成物を硬化させて発光性画素部を得る工程と、を備える方法により形成することができる。インク組成物として上述した発光性インク組成物を用いることで発光性画素部が得られ、非発光性インク組成物を用いることで非発光性画素部が得られる。
【0119】
遮光部20を形成させる方法は、基材40の一面側の複数の画素部間の境界となる領域に、クロム等の金属薄膜、又は、遮光性粒子を含有させた樹脂組成物の薄膜を形成し、この薄膜をパターニングする方法等が挙げられる。金属薄膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により形成することができ、遮光性粒子を含有させた樹脂組成物の薄膜は、例えば、塗布、印刷等の方法により形成することができる。パターニングを行う方法としては、フォトリソグラフィ法等が挙げられる。
【0120】
インクジェット方式としては、エネルギー発生素子として電気熱変換体を用いたバブルジェット(登録商標)方式、或いは圧電素子を用いたピエゾジェット方式等が挙げられる。
【0121】
インク組成物の乾燥では、有機溶剤の少なくとも一部が除去されればよく、有機溶剤の全てが除去されることが好ましい。インク組成物の乾燥方法は、減圧による乾燥(減圧乾燥)であることが好ましい。減圧乾燥は、通常、インク組成物の組成を制御する観点から、1.0~500Paの圧力下、20~30℃で3~30分間行う。
【0122】
インク組成物の硬化は、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、LED等を用いてよい。照射する光の波長は、例えば、200nm以上であってよく、440nm以下であってよい。露光量は、例えば、10mJ/cm以上であってよく、4000mJ/cm以下であってよい。
【0123】
以上、カラーフィルタ及び光変換層、並びにこれらの製造方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0124】
例えば、光変換層は、第3の画素部10cに代えて又は第3の画素部10cに加えて、青色発光性のナノ結晶粒子を含有する発光性インク組成物の硬化物を含む画素部(青色画素部)を備えていてもよい。また、光変換層は、赤、緑、青以外の他の色の光を発するナノ結晶粒子を含有する発光性インク組成物の硬化物を含む画素部(例えば黄色画素部)を備えていてもよい。これらの場合、光変換層の各画素部に含有される発光性ナノ結晶粒子のそれぞれは、同一の波長域に吸収極大波長を有することが好ましい。
【0125】
また、光変換層の画素部の少なくとも一部は、発光性ナノ結晶粒子以外の顔料を含有する組成物の硬化物を含むものであってもよい。
【0126】
また、カラーフィルタは、遮光部のパターン上に、遮光部よりも幅の狭い撥インク性を持つ材料からなる撥インク層を備えていてもよい。また、撥インク層を設けるのではなく、画素部形成領域を含む領域に、濡れ性可変層としての光触媒含有層をベタ塗り状に形成した後、当該光触媒含有層にフォトマスクを介して光を照射して露光を行い、画素部形成領域の親インク性を選択的に増大させてもよい。光触媒としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0127】
また、カラーフィルタは、基材と画素部との間に、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ゼラチン等を含むインク受容層を備えていてもよい。
【0128】
また、カラーフィルタは、画素部上に保護層を備えていてもよい。この保護層は、カラーフィルタを平坦化すると共に、画素部に含有される成分、又は、画素部に含有される成分及び光触媒含有層に含有される成分の液晶層への溶出を防止するために設けられるものである。保護層を構成する材料は、公知のカラーフィルタ用保護層として使用されているものを使用できる。
【0129】
また、カラーフィルタ及び光変換層の製造では、インクジェット方式ではなく、フォトリソグラフィ方式で画素部を形成してもよい。この場合、まず、基材にインク組成物を層状に塗工し、インク組成物層を形成する。次いで、インク組成物層をパターン状に露光した後、現像液を用いて現像する。このようにして、インク組成物の硬化物からなる画素部が形成される。現像液は、通常アルカリ性であるため、インク組成物の材料としてはアルカリ可溶性の材料が用いられる。ただし、材料の使用効率の観点では、インクジェット方式がフォトリソグラフィ方式よりも優れている。これはフォトリソグラフィ方式では、その原理上、材料のほぼ2/3以上を除去することとなり、材料が無駄になるからである。このため、本実施形態では、インクジェットインクを用い、インクジェット方式により画素部を形成することが好ましい。
【0130】
また、本実施形態の光変換層の画素部には、上記した発光性ナノ結晶粒子に加えて、発光性ナノ結晶粒子の発光色と概ね同色の顔料を更に含有させてもよい。顔料を画素部に含有させるため、インク組成物に顔料を含有させてもよい。
【0131】
また、本実施形態の光変換層中の赤色画素部(R)、緑色画素部(G)、及び青色画素部(B)のうち、1種又は2種の発光性画素部を、発光性ナノ結晶粒子を含有させずに色材を含有させた画素部としてもよい。ここで使用し得る色材としては、公知の色材を使用することができ、例えば、赤色画素部(R)に用いる色材としては、ジケトピロロピロール顔料及び/又はアニオン性赤色有機染料が挙げられる。緑色画素部(G)に用いる色材としては、ハロゲン化銅フタロシアニン顔料、フタロシアニン系緑色染料、フタロシアニン系青色染料とアゾ系黄色有機染料との混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。青色画素部(B)に用いる色材としては、ε型銅フタロシアニン顔料及び/又はカチオン性青色有機染料が挙げられる。これらの色材の使用量は、光変換層に含有させる場合には、透過率の低下を防止できる観点から、画素部(インク組成物の硬化物)の全質量を基準として、1~5質量%であることが好ましい。
【実施例
【0132】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例で用いた材料は全て、アルゴンガスを導入して溶存酸素をアルゴンガスに置換したものを用いた。酸化チタンについては、混合前に、1mmHgの減圧下、4時間、175℃で加熱し、アルゴンガス雰囲気下で放冷したものを用いた。実施例で用いた液状の材料は、混合前にあらかじめ、モレキュラーシーブス3Aで48時間以上脱水して用いた。
【0133】
[実施例1]
<QD粉体の作製>
Nanosys社製のInPナノ結晶分散体(InP QD in Heptane Red InP QD、QD粒子(発光性ナノ結晶粒子)濃度30%、有機リガンド:オレイン酸)を、エバポレーターを用いて乾燥させ、QD粉体(QD粒子/有機リガンド=84質量%/16質量%)を得た。
【0134】
<光散乱性粒子分散体の準備>
アルゴンガスで満たした容器内で、酸化チタン(商品名:CR-60-2、石原産業株式会社製、平均粒子径(体積平均径):210nm)4.0gと、高分子分散剤(商品名:PB-821、味の素ファインテクノ株式会社製)0.4gと、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(商品名:MiramerM200、Miwon社製)5.6gと、を混合した。その後、得られた混合物にジルコニアビーズ(直径:1.25mm)を加え、ペイントコンディショナーを用いて2時間振とうさせることで、混合物を分散処理した。次いで、ポリエステルメッシュフィルターにて混合物からジルコニアビーズを除去することで、光散乱性粒子分散体を得た。
【0135】
<インク組成物の調製>
上記で得られたQD粉体3.1gと、リノレン酸(有機リガンド)0.31gと、ジシクロペンタニルアクリレート(LogP値:2.93、商品名:FA-513M、日立化成株式会社)3.82gとを混合し、マグネティックスターラーにより、2時間攪拌することで、QDモノマー溶液を得た。そこに、光重合開始剤としてOmnirad TPO-H(IGM Resin社製)0.50g、及びOmnirad 819(IGM Resin社製)0.01gと、酸化防止剤としてIrganox1010(BASFジャパン社製)0.10gとを添加して攪拌した。さらに、上記で得られた光散乱性粒子分散体1.0gを添加した。最後に、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(LogP値:3.13、商品名:ビスコート#230、大阪有機化学工業株式会社製)0.53gと、ドデシルメタクリレート(LogP値:5.64、商品名:ライトエステルL、共栄社化学社製)0.55gとを添加した後、継続して30分間攪拌することで、インク組成物を得た。
【0136】
[比較例1]
<インク組成物の調製>
上記で得られたQD粉体3.1gと、ジシクロペンタニルアクリレート(LogP値:2.93、商品名:FA-513M、日立化成株式会社)4.02gとを混合し、マグネティックスターラーにより、2時間攪拌することで、QDモノマー溶液を得た。そこに、光重合開始剤としてOmnirad TPO-H(IGM Resin社製)0.50g、及びOmnirad 819(IGM Resin社製)0.01gと、酸化防止剤としてIrganox1010(BASFジャパン社製)0.10gとを添加して攪拌した。さらに、上記で得られた光散乱性粒子分散体を1.0g添加した。最後に、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(LogP値:3.13、商品名:ビスコート#230、大阪有機化学工業株式会社製)0.59gと、ドデシルメタクリレート(LogP値:5.64、商品名:ライトエステルL、共栄社化学社製)0.58gとを添加した後、継続して30分間攪拌することで、インク組成物を得た。
【0137】
[比較例2]
<比較用有機リガンドの合成>
ポリエチレングリコール(Mn350)(Sigma-Aldrich社製)をフラスコに投入した後、窒素ガス環境にて攪拌しながら、そこにポリエチレングリコール(Mn350)と等モル量の無水コハク酸(Sigma-Aldrich社製)を添加した。フラスコの内温を80℃に昇温し、8時間攪拌することにより、淡い黄色の粘稠な油状物として下記式(A)で表される比較用有機リガンドを得た。
【化1】
【0138】
<インク組成物の調製>
リノレン酸(有機リガンド)の代わりに、上記で合成した比較用有機リガンドを用いた以外は、実施例1と同じ方法にてインク組成物を得た。
【0139】
[インク組成物の粘度の測定]
実施例及び比較例のインク組成物の40℃における粘度を、E型粘度計を用いて測定した。結果を以下に示す。
実施例1:14.2cP
比較例1:測定不可(インク組成物中の発光性ナノ結晶粒子が凝集したため)
比較例2:19.7cP
【符号の説明】
【0140】
10…画素部、10a…第1の画素部、10b…第2の画素部、10c…第3の画素部、11a…第1の発光性ナノ結晶粒子、11b…第2の発光性ナノ結晶粒子、12a…第1の光散乱性粒子、12b…第2の光散乱性粒子、12c…第3の光散乱性粒子、20…遮光部、30…光変換層、40…基材、100…カラーフィルタ。
図1