(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】水処理方法および装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/76 20230101AFI20241106BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20241106BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20241106BHJP
【FI】
C02F1/76 C
C02F1/44 A
C02F1/44 D
C02F1/50 531M
(21)【出願番号】P 2020170650
(22)【出願日】2020-10-08
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067839
【氏名又は名称】柳原 成
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】依田 勝郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 基樹
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-176594(JP,A)
【文献】特開2010-234240(JP,A)
【文献】米国特許第4366064(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/76
C02F 1/44
C02F 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して不連続点塩素処理を行う塩素処理工程と、
塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)および/または酸化還元電位(ORP)を測定する水質測定工程と、
塩素処理水の全塩素と遊離塩素および/またはORPの測定値から塩素系酸化剤の添加量を制御する制御工程と、
塩素処理水の残留塩素を除去する残留塩素除去工程と、
残留塩素除去水を分離膜により膜分離する膜分離工程とを含み、
前記制御工程は次の制御1~4のいずれかの制御をする工程であり、
制御1は、(T-Cl)≒(F-Cl)となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
制御2は、(T-Cl)≒(F-Cl)であって、(T-Cl)もしくは(F-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
制御3は、(ORP)が基準値以上であって、(T-Cl)もしくは(F-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
制御4は、(ORP)が基準値以上、(T-Cl)≒(F-Cl)であって、(F-Cl)もしくは(T-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
前記(T-Cl)≒(F-Cl)における(T-Cl)と(F-Cl)の差は0.1~0.5mg(Cl
2
)/Lであり、
前記許容値は、残留する被酸化性物質の酸化に許容される(T-Cl)または(F-Cl)の量
であって、0.1~1.5mg(Cl
2
)/Lに含まれる値であり、
前記基準値は、(T-Cl)≒(F-Cl)の領域における塩素処理水の(ORP)値
であって、500~650mVから選ばれる値であることを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記制御工程は、不連続点を超える領域における塩素系酸化剤の添加量を制御するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の水処理方法。
【請求項3】
アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して不連続点塩素処理を行う塩素処理装置と、
塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)および/または酸化還元電位(ORP)を測定する水質測定装置と、
塩素処理水の全塩素と遊離塩素および/またはORPの測定値から塩素系酸化剤の添加量を制御する制御装置と、
塩素処理水の残留塩素を除去する残留塩素除去装置と、
残留塩素除去水を分離膜により膜分離する膜分離装置とを含み、
前記制御装置は次の制御1~4のいずれかの制御をする装置であり、
制御1は、(T-Cl)≒(F-Cl)となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
制御2は、(T-Cl)≒(F-Cl)であって、(T-Cl)もしくは(F-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
制御3は、(ORP)が基準値以上であって、(T-Cl)もしくは(F-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
制御4は、(ORP)が基準値以上、(T-Cl)≒(F-Cl)であって、(F-Cl)もしくは(T-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
前記(T-Cl)≒(F-Cl)における(T-Cl)と(F-Cl)の差は0.1~0.5mg(Cl
2
)/Lであり、
前記許容値は、残留する被酸化性物質の酸化に許容される(T-Cl)または(F-Cl)の量
であって、0.1~1.5mg(Cl
2
)/Lに含まれる値であり、
前記基準値は、(T-Cl)≒(F-Cl)の領域における塩素処理水の(ORP)値
であって、500~650mVから選ばれる値であることを特徴とする水処理装置。
【請求項4】
前記制御装置は、不連続点を超える領域における塩素系酸化剤の添加量を制御するように構成されていることを特徴とする請求項3記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して塩素処理を行う水処理方法および装置に関し、さらに詳細にはアンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して塩素処理し、塩素処理水の残留塩素を除去して膜分離を行う水処理方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
用水・排水処理において、系内の殺菌や酸化を目的として、原水に次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系酸化剤を添加する処理が行われている。特許文献1(特開平1-104310号)には、RO膜用の殺菌剤として遊離塩素剤を添加して殺菌を行った後、アンモニウムイオンを添加してクロラミンを生成させる方法が提案されている。これは広く用いられている塩素、次亜塩素酸ナトリウム等の遊離塩素剤が、酸化剤としてRO膜を劣化させ性能低下させるので、酸化性を緩和させる目的でアンモニウムイオンを添加し、結合塩素剤(クロラミン)として酸化性が低い形でRO膜と接触させるようにしている。
【0003】
特許文献2(WO2011/125764)には、被処理水を遊離塩素の存在下に前処理方法として、遊離または結合塩素剤を添加して凝集、固液分離、活性炭処理等の前処理を行い、亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤を添加して遊離または結合塩素剤を除去した後、新たに結合塩素剤を添加してRO膜処理する方法が記載されている。前処理に際して遊離または結合塩素剤を添加するのは、前処理工程におけるスライム障害を防止する目的であり、還元剤を添加するのは残留する遊離または結合塩素を除去した後、膜処理に適したスライム防止剤を適正量添加する目的であるとされている。
【0004】
特許文献3(WO2012/133620)には、被処理水に遊離塩素剤を添加して殺菌した後、遊離塩素を含有する被処理水にスルファミン酸、結合塩素型スルファミン酸およびそれらの塩から選ばれる1種以上のスルファミン酸系化合物を添加して、被処理水に含まれる遊離塩素を結合塩素に転換した後、被処理水にさらに還元剤を添加し、遊離塩素濃度を低下させた後、膜分離装置に供給して膜分離する方法が記載されている。ここではスルファミン酸系化合物添加後の被処理水の遊離塩素濃度を測定し、被処理水の遊離塩素濃度が0.4mg/L以下になるように、スルファミン酸系化合物および/または還元剤の添加量を調整する方法が記載されている。
【0005】
しかるに前処理に際して結合塩素剤を添加する場合、あるいは遊離塩素剤を添加する場合でも原水中にアンモニア性窒素が含まれている場合には、クロラミン等の結合塩素が形成されて酸化力が弱くなるので、殺菌や酸化を十分に行えない場合が生じる。また地下水を原水とし、鉄、マンガン等を酸化除去するために遊離塩素剤を添加する場合でも、原水中にアンモニア性窒素が含まれていると、結合塩素が形成されて酸化力が弱くなるため、鉄、マンガン等の酸化を十分に行えない場合が生じる。さらに塩素測定において結合塩素が過剰に存在すると、塩素の分析の妨害物質となり、正確に塩素が測定できない場合が生じる。さらに還元剤を添加する際、結合塩素が存在すると、結合塩素をゼロにするための還元剤添加量の制御が困難である。またアンモニア性窒素と塩素が結合した結合塩素は分離膜に悪影響を与えやすいなどの問題点があった。
【0006】
このように原水にアンモニア性窒素が含まれている場合、そのようなアンモニア性窒素を除去する方法として不連続点塩素処理方法が知られている。この方法では、アンモニア性窒素を含む原水に添加する塩素系酸化剤の添加量を増加していくと結合塩素の生成量が増加しいったん極大値を示すが、さらに塩素剤の添加量を増加すると結合塩素の量が低下して極小点に達し、さらに添加量を増加すると遊離残留塩素が増加する。上記の極小値が不連続点(ブレークポイント)であり、不連続点を超える領域の塩素濃度となるように、塩素系酸化剤を添加してアンモニア性窒素を除去する処理方法が不連続点塩素処理であるとされている。
【0007】
ところがこのような不連続点塩素処理では、不連続点を少し超える領域の塩素濃度となるように塩素系酸化剤の添加量を制御することが求められるが、不連続点の検出は困難であり、また不連続点を超える領域でも結合塩素が検出される場合があり、結合塩素が残留すると還元剤添加量の制御が困難である。一般に塩素系酸化剤や還元剤の添加量は、全塩素(T-Cl)、遊離塩素(F-Cl)、酸化還元電位(ORP)などを測定して制御することが行われているが、これらをそれぞれ単独で指標としても、不連続点の検出は困難であるなどの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平1-104310号
【文献】WO2011/125764
【文献】WO2012/133620
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、前記のような従来の問題点を解決するため、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して処理する際、塩素系酸化剤を適正に添加してアンモニア性窒素を除去し、さらに残留する被酸化性物質の酸化処理を行うことができる水処理方法および装置を提案することある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は次の水処理方法および装置である。
(1) アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して不連続点塩素処理を行う塩素処理工程と、
塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)および/または酸化還元電位(ORP)を測定する水質測定工程と、
塩素処理水の全塩素と遊離塩素および/またはORPの測定値から塩素系酸化剤の添加量を制御する制御工程と、
塩素処理水の残留塩素を除去する残留塩素除去工程と、
残留塩素除去水を分離膜により膜分離する膜分離工程とを含み、
前記制御工程は次の制御1~4のいずれかの制御をする工程であり、
制御1は、(T-Cl)≒(F-Cl)となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
制御2は、(T-Cl)≒(F-Cl)であって、(T-Cl)もしくは(F-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
制御3は、(ORP)が基準値以上であって、(T-Cl)もしくは(F-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
制御4は、(ORP)が基準値以上、(T-Cl)≒(F-Cl)であって、(F-Cl)もしくは(T-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
前記(T-Cl)≒(F-Cl)における(T-Cl)と(F-Cl)の差は0.1~0.5mg(Cl
2
)/Lであり、
前記許容値は、残留する被酸化性物質の酸化に許容される(T-Cl)または(F-Cl)の量であって、0.1~1.5mg(Cl
2
)/Lに含まれる値であり、
前記基準値は、(T-Cl)≒(F-Cl)の領域における塩素処理水の(ORP)値であって、500~650mVから選ばれる値であることを特徴とする水処理方法。
(2) 前記制御工程は、不連続点を超える領域における塩素系酸化剤の添加量を制御するように構成されていることを特徴とする上記(1)記載の水処理方法。
(3) アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して不連続点塩素処理を行う塩素処理装置と、
塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)および/または酸化還元電位(ORP)を測定する水質測定装置と、
塩素処理水の全塩素と遊離塩素および/またはORPの測定値から塩素系酸化剤の添加量を制御する制御装置と、
塩素処理水の残留塩素を除去する残留塩素除去装置と、
残留塩素除去水を分離膜により膜分離する膜分離装置とを含み、
前記制御装置は次の制御1~4のいずれかの制御をする装置であり、
制御1は、(T-Cl)≒(F-Cl)となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
制御2は、(T-Cl)≒(F-Cl)であって、(T-Cl)もしくは(F-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
制御3は、(ORP)が基準値以上であって、(T-Cl)もしくは(F-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
制御4は、(ORP)が基準値以上、(T-Cl)≒(F-Cl)であって、(F-Cl)もしくは(T-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御するものであり、
前記(T-Cl)≒(F-Cl)における(T-Cl)と(F-Cl)の差は0.1~0.5mg(Cl
2
)/Lであり、
前記許容値は、残留する被酸化性物質の酸化に許容される(T-Cl)または(F-Cl)の量であって、0.1~1.5mg(Cl
2
)/Lに含まれる値であり、
前記基準値は、(T-Cl)≒(F-Cl)の領域における塩素処理水の(ORP)値であって、500~650mVから選ばれる値であることを特徴とする水処理装置。
(4) 前記制御装置は、不連続点を超える領域における塩素系酸化剤の添加量を制御するように構成されていることを特徴とする上記(3)記載の水処理装置。
【0011】
本発明の水処理方法および装置に供給して処理するアンモニア性窒素含有原水は、アンモニア性窒素を含有する原水である。このようなアンモニア性窒素含有原水としては、アンモニア性窒素を含有する河川水、地下水等の天然水、工業用水、排水、排水処理水など、一般的なアンモニア性窒素含有水があげられる。このようなアンモニア性窒素含有原水としては、循環冷却水系、循環洗浄水系など、稼働中の処理系に含まれる原水であってもよい。またアンモニア性窒素含有原水のアンモニア性窒素の含有量は特に制限されない。さらに当初の原水にはアンモニア性窒素が含まれていなくても、途中からアンモニア性窒素が混入するような系の原水であってもよい。
【0012】
塩素処理工程は、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して不連続点塩素処理を行う工程である。このような塩素処理工程は、塩素処理のための専用の工程としても、あるいは前処理工程において行われてもよい。この前処理工程としては、原水の凝集、ろ過、活性炭処理等の不純物除去のための前処理や、鉄、マンガン等の被酸化性物質の酸化除去のための前処理など、塩素処理に悪影響を与えないものが好ましい。
【0013】
塩素系酸化剤としては、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸またはその塩、トリクロロイソシアヌル酸、電解塩素など、一般に殺菌剤、消毒剤、酸化剤などとして用いられているものがあげられる。アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して塩素処理を行うと、アンモニア性窒素と塩素系酸化剤が結合してクロラミンのような結合塩素が形成される。特許文献1~3ではこのような結合塩素が形成される程度の塩素系酸化剤の添加量で塩素処理が行われているが、結合塩素が形成されると酸化力が弱くなり、菌類の殺菌や鉄、マンガン等の酸化を十分に行えない場合が生じる。これに対して本発明では、高い塩素系酸化剤添加量で不連続点塩素処理を行い、これにより結合塩素を分解してアンモニア性窒素を除去することができる。
【0014】
塩素処理方法において、アンモニア性窒素含有原水に添加する塩素系酸化剤の添加量を増加していくと、結合塩素の生成量が増加しいったん極大値を示すが、さらに塩素剤の添加量を増加すると結合塩素の量が低下して極小点に達する。さらに添加量を増加すると遊離塩素が増加して全塩素が増加する。上記の極小値が不連続点(ブレークポイント)であり、一般に不連続点塩素処理では、上記不連続点を少し超えた残留塩素濃度となるように、塩素系酸化剤の添加量を制御して処理が行われている。ところが不連続点の検出は困難であり、不連続点を超える領域でも結合塩素が検出される場合があり、塩素系酸化剤添加量の制御は困難である。
【0015】
不連続点塩素処理方法では、アンモニア性窒素含有原水に添加する塩素系酸化剤の添加量を増加していくと、結合塩素(C-Cl)は極大値に至るまでは増加するが、塩素系酸化剤の添加量をさらに増加すると、結合塩素は分解されて極小値の不連続点に達する。この間遊離塩素(F-Cl)はゼロに近い値を示し、さらに添加量を増加すると遊離塩素(F-Cl)は増加するが、結合塩素(C-Cl)は極小値を維持するか、あるいはさらに低下すると考えられていた。ところが不連続点を超える領域でも結合塩素が検出される場合があり、結合塩素濃度の不安定な状態が続くことが分かった。従って全塩素(T-Cl)、遊離塩素(F-Cl)のどちらか一方を測定するだけでは不連続点を正確に測定することはできない。
【0016】
本発明では不連続点塩素処理を行うために、塩素処理工程においてアンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して不連続点塩素処理を行い、不連続点を超える領域において結合塩素濃度が実質的にゼロとなるように塩素系酸化剤の添加量を制御してアンモニア性窒素を分解するように構成される。このためには水質測定工程において塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)および/または酸化還元電位(ORP)を測定し、制御工程において塩素処理水の全塩素と遊離塩素および/またはORPの測定値から塩素系酸化剤の添加量を制御する。本発明における全塩素(T-Cl)、遊離塩素(F-Cl)および結合塩素(C-Cl)は、JIS K 0400-33-10:1999により測定され、Cl2として示される値である。全塩素(T-Cl)は(遊離塩素(F-Cl)+結合塩素(C-Cl))の合計量として測定される。酸化還元電位(ORP)の測定方法としては、特に限定されず、例えば電位差測定法、電位差滴定法等が例示され、簡易な装置で測定できる電位差測定法を好適に用いることができる。
【0017】
前記制御工程では、次の制御1~4に示すいずれかの制御を行う。
制御1:(T-Cl)≒(F-Cl)となるように塩素系酸化剤の添加量を制御する。
制御2:(T-Cl)≒(F-Cl)であって、(T-Cl)もしくは(F-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御する。
制御3:(ORP)が基準値以上であって、(T-Cl)もしくは(F-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御する。
制御4:(ORP)が基準値以上、(T-Cl)≒(F-Cl)であって、(F-Cl)もしくは(T-Cl)が許容値となるように塩素系酸化剤の添加量を制御する。
ここで前記許容値は、残留する被酸化性物質の酸化に許容される(T-Cl)または(F-Cl)の量であり、前記基準値は(T-Cl)≒(F-Cl)の領域における塩素処理水の(ORP)値である。
【0018】
全塩素(T-Cl)は(遊離塩素(F-Cl)+結合塩素(C-Cl))であるので、塩素系酸化剤の添加量を増加していくと、全塩素(T-Cl)は増加し、極大値からは減少して不連続点(極小値)に至り、さらに塩素系酸化剤の添加量を増加すると全塩素(T-Cl)は増加する。これに対し遊離塩素(F-Cl)は、結合塩素が存在する状態では、塩素系酸化剤を添加し添加量を増加してもゼロに近い値を示すが、結合塩素が分解されて不連続点に近づくと、遊離塩素(F-Cl)は増加し始める。不連続点を超える領域でも結合塩素が検出される場合があるので、結合塩素が実質的にゼロとなるように塩素系酸化剤の添加量を制御する。「(T-Cl)≒(F-Cl)」は全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)がほぼ等しい値を示すことを意味し、結合塩素が実質的にゼロであることを示す。「(T-Cl)≒(F-Cl)」における(T-Cl)と(F-Cl)の差は、0.1~0.5mg(Cl2)/L、好適には0.1~0.3mg(Cl2)/Lの濃度差である。
【0019】
上記(T-Cl)または(F-Cl)の許容値は、不連続点を超える領域に残留する被酸化性物質を酸化するために許容される(T-Cl)または(F-Cl)の量であり、結合塩素を構成するアンモニア性窒素や、塩素処理水に残留する菌類の殺菌や、鉄、マンガン等の他の被酸化性物質を酸化するために許容される(T-Cl)または(F-Cl)の量である。このような許容値はアンモニア性窒素含有原水の水質、性状や処理系の構成、操作等により変わり得るが、一般的には0.1~1.5mg/L、好適には0.3~1.0mg/Lに含まれる値とすることができる。また後述の実施例の
図2、
図3に示すように、対象となる処理系のデータからその許容値を設定することができる。
【0020】
上記ORPの基準値は、(T-Cl)≒(F-Cl)の領域における塩素処理水の(ORP)値である。すなわち(T-Cl)と(F-Cl)の差が(T-Cl)≒(F-Cl)の範囲内である場合の(ORP)値とすることができるが、好適にはこのような領域の下限の塩素処理水の(ORP)値とすることができる。このような基準値(ORP)はアンモニア性窒素含有原水の水質、性状や処理系の構成、操作等により変わり得るが、一般的には500~650mV、好適には550~650mVから選ばれる値とすることができ、特にこの領域の下限の値とすることが好適である。
【0021】
前記制御1は、水質測定工程では塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)を測定し、制御工程では(T-Cl)≒(F-Cl)となるように、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加するよう指令を出す。ここでは(T-Cl)と(F-Cl)の差は、0.1~0.5mg(Cl2)/L、好適には0.1~0.3mg(Cl2)/Lの濃度差となるように、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加するよう指令を出すことができる。このとき(T-Cl)と(F-Cl)の差が0.5mg(Cl2)/L以上の場合は塩素が不足しているので、塩素系酸化剤の添加量を増加する。また(T-Cl)と(F-Cl)の差が0.1mg(Cl2)/L以下の場合は塩素が過剰となっているので、塩素系酸化剤の添加量を減少する。(T-Cl)と(F-Cl)の差0.1~0.5mg(Cl2)/Lの領域における塩素系酸化剤添加量の変動幅は広いが、その変動幅における最小の塩素系酸化剤添加量に制御できれば効率的な処理ができる。このためにはその変動幅内にある時でも、添加量を減少するように制御すれば、可能な限り最小の塩素系酸化剤添加量に維持することができるが、他の手段でもよい。
【0022】
前記制御2では、水質測定工程では塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)を測定し、制御工程では(T-Cl)≒(F-Cl)を判定したときに、(F-Cl)が上記許容値すなわち0.1~1.5mg/L、好適には0.3~1.0mg/Lとなるように、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加するよう指令を出す。このとき(T-Cl)>(F-Cl)+0.1(好適には0.3)mg/Lの場合は塩素が不足しているので、塩素系酸化剤の添加量を増加する。また(T-Cl)≒(F-Cl)で(T-Cl)が1.5(好適には1.0)mg/Lを超えている場合は塩素が過剰となっているので、塩素系酸化剤の添加量を減少する。
【0023】
前記制御3では、水質測定工程では塩素処理水の全塩素(T-Cl)と酸化還元電位(ORP)を測定し、制御工程では(ORP)が基準値以上を判定したときに、(T-Cl)が上記許容値すなわち0.1~1.5mg/L、好適には0.3~1.0mg/Lとなるように、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加するよう指令を出す。(ORP)の基準値は、あらかじめ全塩素と遊離塩素を測定し、制御工程で(T-Cl)≒(F-Cl)を判定したときの(ORP)の値から基準値を定めておき、(ORP)の測定値を基準値と比較して(ORP)の基準値以上を判定することができる。
【0024】
前記制御4では、水質測定工程では塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)と酸化還元電位(ORP)を測定し、制御工程では(ORP)が基準値以上を判定したときに、(T-Cl)または(F-Cl)が上記許容値すなわち0.1~1.5mg/L、好適には0.3~1.0mg/Lとなるように、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加するよう指令を出す。この場合も(ORP)の基準値は、あらかじめ全塩素と遊離塩素を測定し、制御工程で(T-Cl)≒(F-Cl)を判定したときの(ORP)の値から基準値を定めておき、(ORP)の測定値を基準値と比較して(ORP)の基準値以上を判定することができる。
【0025】
前記制御工程では、制御1~4のいずれかの制御を行ってもよいが、これらの制御と他の制御を組み合わせて制御することも可能である。制御2は制御1の(T-Cl)≒(F-Cl)のほかに、(T-Cl)もしくは(F-Cl)の許容値によっても制御するため、制御1よりも精度の高い制御を行うことができる。また制御4は全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)と酸化還元電位(ORP)の3項目を測定し、これらにより制御を行うので、さらに精度の高い制御を行うことができ好ましい。制御1~4に示すいずれの制御の場合でも、(T-Cl)と(F-Cl)の差が好適な範囲である0.1~0.3mg(Cl2)/Lとし、許容値が好適な範囲である0.3~1.0mg/Lに含まれる値とし、基準値が好適な範囲である550~650mVから選ばれる値にすると、さらに精度の高い制御を行うことができる。
【0026】
残留塩素除去工程では、塩素処理工程から得られる塩素処理水の残留塩素を除去する。塩素処理水に含まれる残留塩素は膜分離工程で用いる分離膜の劣化原因になるので、残留塩素を除去した後の塩素処理水を膜分離工程へ送る。残留塩素を除去するには、活性炭処理、還元剤添加などがあるが、還元剤添加が好ましい。還元剤としては、重亜硫酸、チオ硫酸、亜硫酸、チオグリコール酸、エリソルビン酸、アスコルビン酸、それらの塩類があげられるが、ナトリウム塩等の水溶性塩が好ましい。
【0027】
膜分離工程では、残留塩素除去工程から送られる残留塩素除去水を分離膜により膜分離する。分離膜としては、UF膜、MF膜、RO膜等の膜分離により溶液を透過させる膜があげられるが、特にRO膜、なかでもポリアミド、アラミド系等の窒素含有基を有する高分子膜からなり塩素により劣化しやすいRO膜が適している。残留塩素除去水は残留塩素が除去されているので、分離膜の劣化原因は除かれているが、スライム障害が発生しやすい状況にあるので、スライム防止剤を添加して膜分離するのが好ましい。スライム防止剤としては、スルファミン酸(塩)に塩素が結合した結合塩素剤、イソチアゾリン系殺菌剤、有機臭素系殺菌剤などがあげられる。
【0028】
本発明の水処理装置は、上記水処理方法における各工程の操作を行うための装置の組合せにより構成される。まず塩素処理装置は、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して塩素処理を行うように、アンモニア性窒素含有原水が導入されあるいは通過する反応部と、その反応槽、流路等に塩素系酸化剤を添加するための薬剤槽、注入路、注入ポンプ、制御弁等を備えた薬注部を有するものが採用できる。このような塩素処理装置としては、前処理装置やその他の装置などを兼ねることができる。前処理装置としては、原水の凝集、ろ過、活性炭処理等の不純物除去のための前処理装置や、鉄、マンガン等の被酸化性物質の酸化除去のための前処理装置などがあげられ、このような前処理装置に薬注部を組み合わせることにより塩素処理装置として利用することができる。
【0029】
水質測定装置は、塩素処理装置による塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)および/または酸化還元電位(ORP)を測定する測定器であり、DPD法による比色方式や電極式のものなどが用いられ、塩素処理装置と残留塩素除去装置の間に設けられる。前記制御工程における制御1の場合は全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)の測定、制御2の場合は全塩素(T-Cl)と酸化還元電位(ORP)の測定、制御3の場合は全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)と酸化還元電位(ORP)の測定ができるように設けられる。
【0030】
制御装置は、水質測定装置で測定された塩素処理水の全塩素と遊離塩素および/またはORPの測定値から塩素系酸化剤の添加量を制御するように設けられた装置であり、演算により添加量の制御信号を出すコンピュータ等の演算装置を含み、制御信号により薬注部の注入ポンプの送液量や制御弁の開度等を制御するように構成される。制御装置は前記制御1~4の制御を選択的に行えるように構成される。
【0031】
残留塩素除去装置は、塩素処理装置から得られる塩素処理水の残留塩素を除去するように構成される。残留塩素を除去する装置としては、活性炭処理装置、還元剤添加還元装置などがあげられる。活性炭処理装置は塩素処理水が活性炭層を通過することにより残留塩素を除去するように構成される。還元剤添加還元装置は、塩素処理水に還元剤を添加することにより残留塩素を還元して除去するように構成され、残留塩素を高い精度で除去することができるので、好ましい。この場合還元剤の添加量は、水質測定装置で測定された全塩素(T-Cl)および遊離塩素(F-Cl)から算出することができる。
【0032】
膜分離装置は分離膜を備え、残留塩素除去装置から送られる残留塩素除去水を膜分離するように構成される。分離膜としては、UF膜、MF膜、RO膜等の膜分離により溶液を透過させる膜があげられるが、特にRO膜、なかでもポリアミド、アラミド系等の窒素含有基を有する高分子膜からなるRO膜が適している。残留塩素除去水は残留塩素が除去されているので、分離膜の劣化原因は除かれているが、スライム障害が発生しやすい状況にある場合は、スライム防止剤を添加する薬注部を設けるのが好ましい。スライム防止剤としては、前述のものがあげられるが、スルファミン酸(塩)に塩素が結合した結合塩素剤が好ましい。
【0033】
上記の水処理装置は、上記水処理方法における各工程に従ってアンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して塩素処理を行う。このとき水質測定装置により塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)および/または酸化還元電位(ORP)を測定し、制御装置では、水質測定装置で測定された塩素処理水の全塩素と遊離塩素および/またはORPの測定値から塩素系酸化剤の添加量を制御する。これにより原水中のアンモニア性窒素を除去することができ、これにより酸化力を高め、残留する菌類の殺菌や、鉄、マンガンなど被酸化性物質の酸化除去などを行うことができる。
【0034】
塩素処理装置から得られる塩素処理水は、残留塩素除去装置において残留塩素を除去され、残留塩素除去装置から送られる残留塩素除去水は膜分離装置において分離膜により膜分離されて処理水となる。残留塩素除去装置が還元剤添加還元装置である場合は、塩素処理水は還元剤を添加することにより残留塩素が還元除去され、膜分離装置に送られて膜分離される。膜分離装置においてスライム防止剤を添加して膜分離する場合は、薬注部からスライム防止剤を添加して膜分離することにより、分離膜のスライム防止を行い、膜分離効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明では、アンモニア性窒素含有原水の不連続点塩素処理が可能であり、塩素系酸化剤を適正に添加してアンモニア性窒素を酸化除去することができ、殺菌や鉄、マンガン等の他の被酸化性物質の酸化除去が可能であり、さらにこのようなアンモニア性窒素ほかの被酸化性物質を酸化除去するための塩素系酸化剤添加量を容易かつ正確に制御できるなどの効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】発明の実施形態による水処理方法および装置を示すフロー図である。
【
図2】実施例の試験例1における30分後の測定値を示すグラフである。
【
図3】実施例の試験例1における60分後の測定値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は本発明の実施形態による水処理方法および装置を示し、1は塩素処理装置、2は残留塩素除去装置、3は保安フィルタ、4はRO膜分離装置、5は塩素系酸化剤槽、6は還元剤槽、7はスライム防止剤槽、8は制御装置である。塩素処理装置1はアンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して塩素処理を行うように構成されている。残留塩素除去装置2は塩素処理水に還元剤を添加して残留塩素を除去するように構成されている。RO膜分離装置4はRO膜モジュール4aにより濃縮液室4bと透過液室4cに区画され、RO膜分離するように構成されている。制御装置8は、検出器C1の遊離/全塩素検出信号D1および検出器C2のORP信号D2から得られる制御信号S1によりポンプP1を制御し、検出器C1の遊離/全塩素検出信号D1から得られる制御信号S2によりポンプP2を制御し、検出器C3のスライム防止剤信号D3から得られる制御信号S3によりポンプP3を制御するように構成されている。
【0038】
上記の装置による水処理方法は以下のように行われる。まずアンモニア性窒素含有原水を原水路L1より塩素処理装置1へ供給する際、制御装置8からの制御信号S1によりポンプP1を制御し、塩素系酸化剤槽5からラインL7を通して塩素系酸化剤を添加して塩素処理装置1へ供給する。これにより塩素処理装置1では、塩素処理工程としてアンモニア性窒素含有原水の塩素処理(クロリネーション)が行われ、原水中のアンモニア性窒素を含む被酸化性物質が酸化分解される。塩素処理装置1は塩素処理専用のものでもよいが、凝集、ろ過、活性炭処理等の前処理装置を兼ねているのが好ましく、この場合は前処理と塩素処理を同時に行うことができる。
【0039】
塩素処理装置1の塩素処理水は、経路L2を通して残留塩素除去装置2へ送られる際、制御装置8からの制御信号S2によりポンプP2を制御し、還元剤槽6から経路L8を通して還元剤を添加して残留塩素除去装置2へ送られ、ここで残留塩素は還元剤と反応して除去される。残留塩素除去水は経路L3から保安フィルタ3へ送られる過程で、スライム防止剤槽7から経路L9を通してスライム防止剤を添加し、さらに経路L4からRO膜分離装置4に供給される過程で、検出器C3のスライム防止剤信号D3から得られる制御信号S3によりポンプP3を制御してスライム防止剤の添加量が制御される。RO膜分離装置4では、スライム防止剤添加水は濃縮液室4bに入り、溶媒はRO膜モジュール4aを透過して膜分離され、透過液は経路L5から取り出され、濃縮液室4bに残る濃縮液は経路L6から排出される。
【0040】
塩素処理装置1における塩素処理工程では、アンモニア性窒素含有原水の塩素処理が行われ、原水中のアンモニア性窒素を含む被酸化性物質が酸化分解されるが、酸化されやすい物質から順次分解される。本発明では不連続点塩素処理を行うことにより、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加してアンモニア性窒素を酸化分解し、さらに殺菌や鉄、マンガン等の酸化分解をも行うように塩素処理が行われる。水質測定工程において塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)および/または酸化還元電位(ORP)を測定し、制御工程において塩素処理水の全塩素と遊離塩素および/またはORPの測定値から塩素系酸化剤の添加量を制御する。全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)は検出器C1により測定され、遊離/全塩素検出信号D1が制御装置8へ送られ、酸化還元電位(ORP)は検出器C2により測定され、ORP信号D2が制御装置8へ送られる。
【0041】
制御装置8による塩素系酸化剤添加量の制御は、検出器C1の遊離/全塩素検出信号D1および検出器C2のORP信号D2から得られる制御信号S1により、ポンプP1を制御することにより行われる。この場合、前述の制御1~4に示すいずれかの制御を行ってもよいが、制御4では全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)と酸化還元電位(ORP)の3項目を測定し、これらにより制御を行うので、精度の高い制御を行うことができ好ましい。
【0042】
前記制御1では、検出器C1により塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)を測定して、遊離/全塩素検出信号D1を制御装置8に送り、制御装置8は(T-Cl)≒(F-Cl)となるように制御信号S1をポンプP1に送り、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加するよう制御する。このとき(T-Cl)と(F-Cl)の差を、0.1~0.5mg(Cl2)/L、好適には0.1~0.3mg(Cl2)/Lの濃度差となるように、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加するよう指令を出す。この場合、(T-Cl)と(F-Cl)の差が0.5mg(Cl2)/L以上の場合は塩素が不足しているので、塩素系酸化剤の添加量を増加する。また(T-Cl)と(F-Cl)の差が0.1mg(Cl2)/L以下の場合は塩素が過剰となっているので、塩素系酸化剤の添加量を減少する。
【0043】
前記制御2では、(T-Cl)≒(F-Cl)を判定したときに、(F-Cl)が上記許容値すなわち0.1~1.5mg/L、好適には0.3~1.0mg/Lとなるように制御信号S1をポンプP1に送り、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加するよう制御する。このとき(T-Cl)>(F-Cl)+0.1(好適には0.3)mg/Lの場合は塩素が不足しているので、塩素系酸化剤の添加量を増加する。また(T-Cl)≒(F-Cl)で(T-Cl)が1.5(好適には1.0)mg/Lを超えている場合は塩素が過剰となっているので、塩素系酸化剤の添加量を減少する。添加量を増減する場合は、制御信号S1によりポンプP1の送液量を増減する。
【0044】
前記制御3では、検出器C1により塩素処理水の全塩素(T-Cl)を測定し、検出器C2により酸化還元電位(ORP)を測定し、遊離/全塩素検出信号D1およびORP信号D2を制御装置8に送り、制御装置8では(ORP)が基準値以上を判定したときに、(T-Cl)が上記許容値すなわち0.1~1.5mg/L、好適には0.3~1.0mg/Lとなるように、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加するように制御する。(ORP)の基準値は、あらかじめ全塩素と遊離塩素を測定し、制御工程で(T-Cl)≒(F-Cl)を判定したときの(ORP)の値から基準値を定めておき、(ORP)の測定値を基準値と比較して(ORP)の基準値以上を判定することができる。このとき(ORP)が500~650mVから選ばれる値以上、好適には550~650mVから選ばれる値以上であり、(T-Cl)が0.1~1.5mg/L、好適には0.3~1.0mg/Lとなるように、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加するように制御する。このとき(ORP)が500(好適には550)mV未満の場合、ならびに(T-Cl)が0.1(好適には0.3)mg/L未満の場合は塩素が不足しているので、塩素系酸化剤の添加量を増加する。また(ORP)が650mVを超えている場合、ならびに(T-Cl)が1.5(好適には1.0)mg/Lを超えている場合は塩素が過剰となっているので、塩素系酸化剤の添加量を減少する。添加量を増減する場合は、制御信号S1によりポンプP1の送液量を増減する。
【0045】
前記制御4では、検出器C1により塩素処理水の全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)を測定して遊離/全塩素検出信号D1を制御装置8に送り、検出器C2により酸化還元電位(ORP)を測定してORP信号D2を制御装置8に送り、制御装置8では(ORP)が基準値以上を判定したときに、(T-Cl)または(F-Cl)が上記許容値すなわち0.1~1.5mg/L、好適には0.3~1.0mg/Lとなるように、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加するように制御する。この場合も(ORP)の基準値は、あらかじめ全塩素と遊離塩素を測定し、制御工程で(T-Cl)≒(F-Cl)を判定したときの(ORP)の値から基準値を定めておき、(ORP)の測定値を基準値と比較して(ORP)の基準値以上を判定することができる。このとき(ORP)が500~650mVから選ばれる値以上、好適には550~650mV以上であって、(T-Cl)≒(F-Cl)を判定したときに、(T-Cl)または(F-Cl)が0.1~1.5mg/L、好適には0.3~1.0mg/Lとなるように、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加するように制御する。このとき(ORP)が500(好適には550)mV未満の場合、ならびに(T-Cl)または(F-Cl)が0.1(好適には0.3)mg/L未満の場合は塩素が不足しているので、塩素系酸化剤の添加量を増加する。また(ORP)が650mVを超えている場合、ならびに(T-Cl)または(F-Cl)が1.5(好適には1.0)mg/Lを超えている場合は塩素が過剰となっているので、塩素系酸化剤の添加量を減少する。添加量を増減する場合は、制御信号S1によりポンプP1の送液量を増減する。
【0046】
還元剤槽6から残留塩素除去装置2へ還元剤を送るポンプP2の制御は、検出器C1の遊離/全塩素検出信号D1が制御装置8に送られた段階で、制御装置8は塩素処理水中の残留塩素を還元するのに必要な還元剤量を演算し、これを制御信号S2としてポンプP2へ送り、還元剤の送液量を制御する。これにより塩素処理水から残留塩素が除去される。スライム防止剤槽7から残留塩素除去水へスライム防止剤を送るポンプP3の制御は、検出器C3のスライム防止剤信号D3が制御装置8に送られた段階で、制御装置8はスライム防止剤添加水のスライム防止剤量が所定値を維持するように制御信号S3によりポンプP3を制御してスライム防止剤の添加量が制御される。
【0047】
このように制御装置8による塩素系酸化剤添加量の制御において、検出器C1の遊離/全塩素検出信号D1および検出器C2のORP信号D2から得られる制御信号S1により、ポンプP1を制御する際、前記制御1~4に示す制御を行うことにより、不連続点塩素処理を行うことができ、塩素系酸化剤を適正に添加しアンモニア性窒素を除去して酸化処理を行うことができるとともに、殺菌や鉄、マンガン等の酸化除去が可能になる。また塩素処理水のアンモニア性窒素が除去され、全塩素(T-Cl)および遊離塩素(F-Cl)が少ない状態で残留塩素除去を行うので、還元剤量の算出は容易かつ正確であり、効率よく残留塩素除去を行うことができる。さらに残留塩素が少ない状態でRO膜分離を行えるので、RO膜の劣化を防止して効率よく膜分離を行うことができる。
【0048】
このように制御1~4の制御を行うことにより、アンモニア性窒素含有原水の不連続点塩素処理が可能であり、塩素系酸化剤を適正に添加してアンモニア性窒素を酸化除去することができ、殺菌や鉄、マンガン等の他の被酸化性物質の酸化除去が可能であり、さらにこのようなアンモニア性窒素ほかの被酸化性物質を酸化除去するための塩素系酸化剤添加量を容易かつ正確に制御できる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例、比較例について説明する。各例中、%は質量%である。
【0050】
〔試験例1〕:
(1)試料の調製
1)硫酸アンモニウム0.184%溶液:硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)を0.368g計り取り、純水200gに溶解して、硫酸アンモニウム0.184%溶液を200ml調製した。
2)次亜塩素酸ナトリウム0.1(Cl2)%溶液:約12%の次亜塩素酸ナトリウムを100倍希釈し、さらに100倍希釈し、塩素濃度を測定して有効塩素濃度を測定し、この有効塩素濃度に合せて、0.1(Cl2)%溶液を調製した。この0.1(Cl2)%溶液は0.5ml/500mlで(Cl2)1mg/Lとなる。
3)ベース水:水道水を活性炭処理して脱塩素しベース水とした。
【0051】
(2)試験方法
ベース水を(499-A)mL注入した500mLビーカーに、硫酸アンモニウム0.184%溶液を1mL添加して1分撹拌し、さらに次亜塩素酸ナトリウム0.1(Cl
2)%溶液をAmL添加して撹拌した(Aは、表1および表2の(Cl
2)添加量に相当する単位のない数値である)。次亜塩素酸ナトリウム0.1(Cl
2)%溶液添加30分後、および60分後の全塩素(T-Cl)、遊離塩素(F-Cl)、酸化還元電位(ORP)、アンモニア性窒素(NH
4-N)およびpHを測定した。30分後の結果を表1および
図2に示し、60分後の結果を表2および
図3に示す。
図2および
図3において、縦方向の破線は不連続点処理における制御目標値を示す。NH
4-NはJIS K0102インドフェノール青法により測定した。
【0052】
【0053】
【0054】
上記の結果より、アンモニア性窒素含有原水に添加する塩素系酸化剤の添加量を増加していくことにより結合塩素((T-Cl)-(F-Cl))は増加する。全塩素(T-Cl)が極大値を示すまでの間は、アンモニア性窒素は実質的に変動しない状態を維持するが、極大値を超える領域では全塩素(T-Cl)が低下して極小点(不連続点)に達するまでの間にアンモニア性窒素は減少する。不連続点ではアンモニア性窒素は実質的にゼロになり、遊離塩素(F-Cl)が増加し始めるが、不連続点を超える領域でもアンモニア性窒素が検出され、結合塩素が形成されている。この領域では全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)の差は大きく、塩素処理水に被酸化性物質が存在することが分かる。さらに塩素剤の添加量を増すことにより、(T-Cl)≒(F-Cl)の状態になり、被酸化性物質が分解されることがわかる。従って(T-Cl)≒(F-Cl)の状態になるように塩素系酸化剤の添加量を制御すると、残留するアンモニア性窒素その他の被酸化性物質の分解を完全に行うことができる。
【0055】
(T-Cl)≒(F-Cl)により制御する場合は、全塩素(T-Cl)または遊離塩素(F-Cl)が低い添加量となるように制御するのが好ましいが、このためには全塩素(T-Cl)または遊離塩素(F-Cl)が許容値となるように制御するのが好ましいことが分かる。またこの許容値に代わりに、ORPの基準値により同様に制御できることがわかる。さらにこの許容値とともにORPの基準値により制御することにより、さらに精度の高い制御が可能であることがわかる。(T-Cl)≒(F-Cl)における全塩素(T-Cl)と遊離塩素(F-Cl)の差、全塩素(T-Cl)または遊離塩素(F-Cl)の許容値、ORPの基準値が前記値であることが好ましいことは、表1、表2、
図1、
図2等の結果から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、アンモニア性窒素含有原水に塩素系酸化剤を添加して塩素処理し、塩素処理水の残留塩素を除去して膜分離を行う水処理方法および装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 塩素処理装置、2 残留塩素除去装置、3 保安フィルタ、4 RO膜分離装置、4a RO膜モジュール、4b 濃縮液室、4c 透過液室、5 塩素系酸化剤槽、6 還元剤槽、7 スライム防止剤槽、8 制御装置、P1、P2、P3 ポンプ、C1、C2、C3 検出器、S1、S2、S3 制御信号、D1 遊離/全塩素検出信号、D2 ORP信号、D3 スライム防止剤信号。