(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】極異方性リング磁石の極位置位置決め治具、極異方性リング磁石の製造装置、極異方性リング磁石の製造方法および極異方性リング磁石を用いたローターの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 13/00 20060101AFI20241106BHJP
H02K 15/03 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01F13/00 350
H02K15/03 H
(21)【出願番号】P 2021013740
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】久村 剛之
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-161784(JP,A)
【文献】特開平06-120031(JP,A)
【文献】特開平06-204035(JP,A)
【文献】特開昭63-245911(JP,A)
【文献】特開昭60-250617(JP,A)
【文献】特開昭59-219908(JP,A)
【文献】特開平08-264318(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0288483(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/02、13/00、41/02
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通する円柱状の中空部を有する非磁性基体と、複数の位置決め用磁石とを有し、
前記非磁性基体は、前記中空部の周方向に均等配置され、軸方向に貫通する複数の貫通孔と、前記複数の貫通孔の各々と前記中空部とを繋ぐスリット部とを有し、
前記複数の位置決め用磁石が、前記中空部の軸方向に極性が異なるように対をなし、複数の該対が前記中空部の周方向に
隣り合う前記位置決め用磁石の極性が異なるように前記貫通孔に挿入されていることを特徴とする極異方性リング磁石の極位置位置決め治具。
【請求項2】
請求項1に記載の極位置位置決め治具と、前記極異方性リング磁石を挿入するための円筒形の空間を有する着磁治具とを有し、
前記着磁治具の上方に、前記極位置位置決め治具が同軸かつ前記着磁治具の極位置と前記極位置位置決め治具の極位置が周方向で一致するように載置されていることを特徴とする極異方性リング磁石の製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載の製造装置を用いた極異方性リング磁石の製造方法であって、
前記極位置位置決め治具に、極異方性リング磁石素体を前記極位置位置決め治具と同軸に挿入し、前記極異方性リング磁石素体を回転させ、前記極異方性リング磁石素体の極位置と前記極位置位置決め治具の周方向の極位置を合わせる工程と、
前記極異方性リング磁石素体を、その極位置を周方向で保ったまま前記極位置位置決め治具から前記空間へ移動させ、前記着磁治具の極位置へ前記極異方性リング磁石素体の極位置を合わせて設置させる工程と、
前記着磁治具によって前記極異方性リング磁石素体を着磁する工程と
を有することを特徴とする極異方性リング磁石の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の製造装置を用いた極異方性ローターの製造方法であって、
前記極位置位置決め治具に、極異方性ローターを前記極位置位置決め治具と同軸に挿入し、前記極異方性ローターを回転させ、前記極異方性ローターの極位置と前記極位置位置決め治具の周方向の極位置を合わせる工程と、
前記極異方性ローターを、その極位置を周方向で保ったまま前記極位置位置決め治具から前記空間へ移動させ、前記着磁治具の極位置へ前記極異方性ローターの極位置を合わせて設置させる工程と、
前記着磁治具によって前記極異方性ローターを着磁する工程と
を有することを特徴とする極異方性ローターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種モータに使用される極異方性リング磁石の極位置位置決め治具、極異方性リング磁石の製造方法および極異方性リング磁石を用いたローターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、極異方性リング磁石はモータの小型化、高性能化に伴い性能の向上が図られ、小型化、多極化の方向に進みつつある。極異方性リング磁石はステッピングモータ等のローター(回転子)用磁石として広く使用されている。
【0003】
極異方性リング磁石の着磁は、当該極異方性リング磁石の極数と同じ極数となるように電磁構成した巻線部を有する着磁治具内に、極異方性リング磁石または極異方性リング磁石を用いたローターを挿入し、パルス磁場等を印加して行う。この場合、極異方性リング磁石の極位置と着磁治具の極位置がずれていると、着磁磁場によって極異方性リング磁石は着磁治具の極に倣って回転する。この時、着磁前の極異方性リング磁石の極位置と着磁治具の極位置とのずれが大きい場合には、磁石の配向方向と着磁磁界の方向が合わないために着磁が十分に行われず、磁石本来の性能を得られない場合がある。
【0004】
特許文献1ではフェライト極異方性リング磁石の極位置を着磁治具の極位置に合わせる位置決め治具となる磁気回路を着磁治具の上部に設け、当該磁気回路でフェライト極異方性リング磁石の極位置と着磁治具の極位置を合わせた後、着磁治具にて着磁する技術を公開している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
未着磁の状態の極異方性リング磁石の着磁作業を行うには、あらかじめ極異方性リング磁石の極位置の少なくとも一つを外観で判別できる様にする必要がある。
図1は従来の極異方性リング磁石の斜視図、
図2は従来の極異方性リング磁石の平面図(A)及び平面図(A)のB-B断面図(C)である。極異方性リング磁石の極位置の一つを未着磁の状態で知るために、極異方性リング磁石の成形時に成形金型の一部に凸部を設け、極異方性リング磁石1の極位置の一つに対応する位置に凹部2を設けている。
図2の破線は極異方性リング磁石1の配向方向3を模式的に示したものである。
【0007】
粉末冶金法で極異方性リング磁石の一部に凹部を有するように製造(成形)すると、磁石の凹部を起点として亀裂が発生し、磁石の合格率を低下させるという問題が発生する。また凹部を有する磁石は製造コストが上がり価格を下げにくいという問題が発生する。
このため、凹部を設けない極異方性リング磁石が求められている。
【0008】
図3に、極数が8極と4極の極異方性リング磁石1の磁極(凹部2)が、着磁治具4の磁極部5(極位置)から最大にずれてセットされた場合(D、F)と、着磁治具4の磁極部5からずれた極異方性リング磁石1が着磁治具4の磁極部5の位置へと回転した場合(E、G)の模式図を示す。仮に、極異方性リング磁石1の磁極位置を示すための凹部2を設けないものとした場合、極異方性リング磁石1の磁極を外観で判別することができないため、極異方性リング磁石1の磁極位置と着磁治具4の磁極部5を目視で合わせることはできず、最大で半極分(8極の場合は22.5°、4極の場合は45°)回転方向にずれて着磁治具4に挿入される可能性がある。このように、極数の少ない極異方性リング磁石ほど着磁治具4への位置決めのために必要な回転量が大きくなる。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、磁石の合格率向上およびコスト低減のために、極異方性リング磁石の端部に極位置を示すための凹部を設けないようにする場合など、外観で極位置が判らなくなった場合でも着磁治具の極位置に極異方性リング磁石の極位置を合わせることのできる、極位置位置決め治具、極異方性リング磁石の製造方法および極異方性リング磁石を用いたローターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る極異方性リング磁石の極位置位置決め治具は、貫通する円柱状の中空部を有する非磁性基体と、複数の位置決め用磁石とを有し、前記非磁性基体は、前記中空部の周方向に均等配置され、軸方向に貫通する複数の貫通孔と、前記複数の貫通孔の各々と前記中空部とを繋ぐスリット部とを有し、前記複数の位置決め用磁石が、前記中空部の軸方向に極性が異なるように対をなし、複数の該対が前記中空部の周方向に隣り合う前記位置決め用磁石の極性が異なるように前記貫通孔に挿入されていることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記極位置位置決め治具と、前記極異方性リング磁石を挿入するための円筒形の空間を有する着磁治具とを有し、前記着磁治具の上方に、前記極位置位置決め治具が同軸かつ前記着磁治具の極位置と前記極位置位置決め治具の極位置が周方向で一致するように載置されていることを特徴とする極異方性リング磁石の製造装置である。
【0012】
また本発明は、前記製造装置を用いた極異方性リング磁石の製造方法であって、前記極位置位置決め治具に、極異方性リング磁石素体を前記極位置位置決め治具と同軸に挿入し、前記極異方性リング磁石素体を回転させ、前記極異方性リング磁石素体の極位置と前記極位置位置決め治具の周方向の極位置を合わせる工程と、前記極異方性リング磁石素体を、その極位置を周方向で保ったまま前記極位置位置決め治具から前記空間へ移動させ、前記着磁治具の極位置へ前記極異方性リング磁石素体の極位置を合わせて設置させる工程と、前記着磁治具によって前記極異方性リング磁石素体を着磁する工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記製造装置を用いた極異方性ローターの製造方法であって、前記極位置位置決め治具に、極異方性ローターを前記極位置位置決め治具と同軸に挿入し、前記極異方性ローターを回転させ、前記極異方性ローターの極位置と前記極位置位置決め治具の周方向の極位置を合わせる工程と、前記極異方性ローターを、その極位置を周方向で保ったまま前記極位置位置決め治具から前記空間へ移動させ、前記着磁治具の極位置へ前記極異方性ローターの極位置を合わせて設置させる工程と、前記着磁治具によって前記極異方性ローターを着磁する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁石の端面から周面にかけて磁極位置を示す凹部が不要となるので、き裂などの不良発生が少なく、また金型に凸部を設ける等の加工が不要となるので、製造コストを低減することができる。また本発明によれば簡便に極異方性リング磁石の磁極位置に着磁をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】従来の極異方性リング磁石の平面図(A)及び平面図(A)のB-B断面図(C)。
【
図3】着磁治具に極異方性リング磁石を配置した平面図。
【
図4】本発明に用いる極位置位置決め治具の平面図(H)及び平面図(H)のI-I断面図(J)。
【
図5】本発明に用いる極位置位置決め治具に8極の極異方性リング磁石を配置した平面図。
【
図6】本発明に用いる極位置位置決め治具に4極の極異方性リング磁石を配置した平面図。
【
図7】本発明に用いる極位置位置決め治具の斜視図。
【
図8】
図8で示した極位置位置決め治具の回転トルクと吸引力の計算結果。
【
図9】極異方性リング磁石の製造方法を示す斜視図。
【
図10】極異方性リング磁石を用いたローターの製造方法を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0017】
<極位置位置決め治具>
図4は、本実施形態の極位置位置決め治具7の平面図(H)及びI-I断面図(J)であり、例として8極の場合を示している。
本実施形態では、貫通する円柱状の中空部を有する非磁性基体として、非磁性材の円筒体8aを示している。円筒体8aは、中空部8bの周方向に均等配置され、軸方向に貫通する複数の貫通孔10と、複数の貫通孔の各々と中空部8bとを繋ぐスリット部である溝9とを有する。溝9は貫通孔10を加工により作る際のワイヤーソーの歯の入り口となる溝である。円筒体8aは、例えば非磁性のステンレスや真鍮などからなる。
【0018】
貫通孔10は矩形形状で、極位置の位置決め用磁石11および12が挿入されており、矢印13はその磁石の極性の方向を表している(ここでは矢印先端がN極、矢印後端がS極を示す)。位置決め用磁石11、12は、貫通孔10に挿入可能な矩形形状をしており、中空部8b側に、着磁を行う極異方性リング磁石の極数分だけ、周方向に隣り合う磁石の極性が異なるように等配されている。さらに
図4(J)に示す様に、位置決め用磁石11、12は、円筒体8aの軸方向で極性の向きがそれぞれ異なるように対で配置されている。位置決め用磁石11、12の配向方向3は極位置位置決め治具7の中心軸に向かう方向又は中心軸から離れる方向に放射状となるように加工をしている。
【0019】
次に、極位置位置決め治具7による、着磁を行う極位置を示す凹部の無い極異方性リング磁石14(以下、凹部レスリング磁石と言う)の磁極の位置を特定する手順を、
図5を用いて説明する。
図5は、極位置位置決め治具7に、極数が8極の凹部レスリング磁石14を挿入した際に、凹部レスリング磁石14の磁極Pが位置決め用磁石11、12の極位置に回転する様子を示している。
始めに凹部レスリング磁石14を極位置位置決め治具7の内周面側に挿入した場合、凹部レスリング磁石14の磁極Pの位置は必ずしも位置決め用磁石11、12の周方向の位置(極位置位置決め用治具7の磁極の位置)と同じであるとは限らない(
図5K)。この様な場合、凹部レスリング磁石14は、位置決め用磁石11、12の磁力による回転トルクにより、
図5(K)の矢印15の方向(周方向)に回転し、
図5(L)の様に位置決め用磁石11、12の周方向の位置と凹部レスリング磁石14の磁極Pの位置が一致する。
このようにして、凹部レスリング磁石14の磁極Pの位置を特定し所定の位置に位置決めすることができる。
【0020】
図5で示した極数が8極の凹部レスリング磁石14の極位置が位置決め治具7の極間位置に挿入された場合、凹部レスリング磁石14の磁極Pの位置を着磁治具(極位置が位置決め治具7の下方にあるため不図示)の磁極部の位置へ合わせるために回転させなければならない回転量は最大で22.5度である。一方、
図6の極数が4極の凹部レスリング磁石14の場合、凹部レスリング磁石14の極位置を着磁治具(不図示)の磁極部の位置へ合わせるために回転させなければならない回転量は最大で45度である。この場合、4極の凹部レスリング磁石14を着磁治具の磁極部の位置へと回転により導くためには、8極の磁石よりも大きな回転トルクが必要である。
【0021】
次に、実施例と比較例について、4極の位置決め治具を例に、
図7の斜視図および
図8を用いて説明する。
図7(P)は、極位置位置決め治具7の隣り合う位置決め用磁石11の極性が異なるように中空部8bの周方向に沿って等配し、さらに中空部8bの軸方向にも極性の異なる位置決め用磁石12を配置した本発明の実施例である。
図7(O)は、極位置位置決め治具7の隣り合う位置決め用磁石11の極性が異なるように中空部8bの周方向に沿って等配し、その高さ方向には磁石が1段の場合の比較例1である。
図7(Q)は、4極の極位置位置決め治具7の隣り合う位置決め用磁石11の極性が異なるように周方向に沿って等配し、さらに中空部8bの軸方向に極性が同じ位置決め用磁石12を配置した場合の比較例2である。なお、
図7(Q)は説明の比較のために高さ方向に2段として示しているが、中空部8bの軸方向の寸法が同じ一体物の磁石でも構わない。
【0022】
図8には、
図7で示した位置決め治具7に入れた位置決め用磁石11、12が、凹部レスリング磁石14に及ぼす磁力を、トルクと吸引力とに分けた計算結果を示す。ここで、トルクは凹部レスリング磁石14を極位置位置決め治具7内で回転させる力として働き、磁極位置を合わせるためには大きい方が好ましい。吸引力は凹部レスリング磁石14を極位置位置決め治具7内に留める力として働くが、着磁後凹部レスリング磁石14を着磁治具4から降下させ取り出す必要があるため吸引力は小さい方が好ましい。
図8より、位置決め用磁石11、12を上下で極性が異なる様に配置した実施例(
図7(P))では、比較例1(
図7(O))と比べ、凹部レスリング磁石14に作用する吸引力を増やすことなくトルクが増加している。
【0023】
一般的に磁石に働く吸引力は磁石の磁化方向に対して磁界が平行に近くなるほど大きくなる。
図7(O)の場合、円筒体である凹部レスリング磁石14の配向方向3と位置決め用磁石11による磁界の方向がほぼ一致している。
図7(P)の場合、位置決め用磁石11および12による磁界の方向は主に極位置位置決め治具7の軸方向となり、周方向に隣り合う位置決め用磁石11および12への極異方的な磁束の流れよりも支配的になる。よって、位置決め用磁石の重量が増えても、円筒体に作用する吸引力が増える方向には働かない。
一方、トルクに関しては、
図7(P)の位置決め用磁石配置の方が円筒体である凹部レスリング磁石14表面の接線方向の位置決め用磁石11および12による磁界の強さが大きくなるために回転のトルクは大きくなる。よって、凹部レスリング磁石14の着磁治具4の軸方向の移動に影響を与えることなく、トルクを増すことで位置決め精度を向上させることができる。
【0024】
実施例ではトルクが増加しているため、比較例1の場合に比べて、極数が少ない磁石においても凹部レスリング磁石14の磁極Pの位置が極位置位置決め治具7の極位置と半極分近くずれた場合でも、その回転トルクの大きさによって精度良く回転、位置決めができる。また、吸引力が増加していないので、凹部レスリング磁石14が極位置位置決め治具7内に留まろうとする力が弱く、凹部レスリング磁石14を着磁治具4へと降下させやすい。
【0025】
比較例2の
図7(Q)の極位置位置決め治具7の隣り合う磁石の極性が異なるように周方向に沿って等配し、さらに等配したそれぞれの磁石の高さ方向に極性が同じ磁石を配置した場合、極異方性リング磁石に作用する吸引力とトルクの両方が実施例に対して大きい。この場合は、位置合わせのための大きなトルクが得られるが、吸引力が大きいため極位置位置決め治具7から着磁治具4への移動が困難になる場合がある。
【0026】
なお
図4から
図7では極位置位置決め治具7の磁石の周方向の個数を凹部レスリング磁石14の極数と一致させたが、必ずしも一致させる必要は無く、例えば極異方性リング磁石14の極数の約数分の磁石が配置されていれば良く、あるいは凹部レスリング磁石14の磁極位置が位置決めできる程度に磁石が配置されていればよい。なお約数分の磁石を等配した際には隣り合う磁石の極性は同極となる場合と異極となる場合があるが極位置を位置決めする磁石の極位置の磁極の向きに合わせ適宜設定する。凹部レスリング磁石14の極性は必ず異極同士が隣り合っているので、約数分の磁石を等配する際には、等配した位置における極異方性リング磁石の磁極と吸引する向きに磁石を配置すればよい。
極位置位置決め治具7に用いる磁石の高さ方向の積み重ねについては2段に限るものではなく、極性が異なる様に複数段重ねてもよい。磁石およびローターの極数や重量により適宜設計により調整が可能である。
【0027】
<極異方性リング磁石の製造装置>
極異方性リング磁石の製造装置は、極位置位置決め治具7と、凹部レスリング磁石14を挿入するための円筒形の空間を有する着磁治具4とを有し、着磁治具4の上方に、極位置位置決め治具7が同軸かつ着磁治具4の磁極部5(極位置)と極位置位置決め治具7の極位置が周方向で一致するように載置されている。
【0028】
<極異方性リング磁石の製造方法>
図9は極数が4極の凹部レスリング磁石14を例とした場合の製造方法を示す斜視図である。着磁治具4の上方に極位置位置決め治具7が同軸かつ着磁治具4の磁極部5の位置と極位置位置決め治具7の極位置が周方向で一致するように載置されている極異方性リング磁石の製造装置において、着磁治具4の円筒形空間部には非磁性材料で構成されている昇降機構(不図示)が備わっている。
図9(R)のように、昇降機構(不図示)の上端部を極位置位置決め治具7の上面位置にまで上昇させ、昇降機構の上端部に未着磁の凹部レスリング磁石14(極異方性リング磁石素体)を乗せる。この時、凹部レスリング磁石14の磁極Pが周方向のどの位置にあるのか不明のままで構わない。
【0029】
未着磁の凹部レスリング磁石14(極異方性リング磁石素体)を昇降機構の上端部に乗せた後、昇降機構を下降させることにより凹部レスリング磁石14を極位置位置決め治具7と同軸に挿入する(
図9(S))。下降の途中、凹部レスリング磁石14が極位置位置決め治具7の中を通過する際に、極位置位置決め治具7の極位置と凹部レスリング磁石14の磁極Pの位置が一致するように回転トルクが作用して凹部レスリング磁石14が回転され、極位置位置決め治具7の極位置に凹部レスリング磁石14の磁極P(極位置)が位置決めされる(極位置合わせ工程)。本発明の極位置位置決め治具7を用いれば、従来技術よりも大きな回転トルクとなるため、精度よく位置決めが可能となる。
【0030】
引き続き昇降機構の下降を続けることで、凹部レスリング磁石14の磁極Pの位置が保持されたまま着磁治具の磁極部5の位置と一致するように移動する。すなわち、凹部レスリング磁石14(極異方性リング磁石素体)を、その極位置を周方向で保ったまま極位置位置決め治具7から着磁治具4の円筒形の空間へ移動させ、着磁治具の極位置へ極異方性リング磁石素体の極位置を合わせて設置させる。
図9(T)は極位置位置決め治具7によって設定された、凹部レスリング磁石14の磁極Pの位置が、着磁治具4内でも保持され、着磁治具4の磁極部5と一致して設置される(設置工程)。ここではその位置関係を見えるようにするために、極位置位置決め治具7を便宜上、上方へと移動させた図である。
磁石重量に対して極位置位置決め治具7の磁石の移動方向に作用する吸引力が大きい場合、未着磁の磁石が極位置位置決め治具7内で吸引力によって保持されて降下しないことがある。このような場合には、昇降機構とは別に上部から磁石を着磁治具へ押し込む機構を併設してもよい。
【0031】
凹部レスリング磁石14が着磁治具4の所定の高さ位置まで降下したところで昇降機構を停止し、着磁治具4によって凹部レスリング磁石14(極異方性リング磁石素体)を着磁する。例えば、所定の着磁電流を着磁治具4に巻き回したコイルにパルス通電して着磁を行う(着磁工程)。着磁完了後、昇降機構を上昇させて凹部レスリング磁石14を取り出す。
【0032】
<極異方性リング磁石を用いたローターの製造方法>
図10は極数が4極の凹部レスリング磁石14にシャフト16を付けた極異方性ローター17(以下、凹部レスローター17とも言う)を例とした場合の製造方法を示す斜視図である。着磁治具4の上方に極位置位置決め治具7が同軸かつ着磁治具4の磁極部5の位置と極位置位置決め治具7の極位置が周方向で一致するように載置されている。着磁治具4の円筒部分内側には、非磁性材料で構成されている昇降機構(不図示)が備わっている。
図10(U)のように、昇降機構(不図示)の上端部を極位置位置決め治具7の上面位置にまで上昇させ、昇降機構の上端部に未着磁の凹部レスローター17を乗せる。この時、凹部レスローター17の磁極Pが周方向のどの位置にあるのか不明のままで構わない。
【0033】
未着磁の凹部レスローター17を昇降機構の上端部に乗せた後、昇降機構を下降させることにより凹部レスローター17を極位置位置決め治具7と同軸に挿入する(
図10(V))。下降の途中、凹部レスローター17が極位置位置決め治具7の中を通過する際に、極位置位置決め治具7の極位置と凹部レスローター17の磁極Pの位置が一致するように回転トルクが作用して凹部レスローター17が回転され、極位置位置決め治具7の極位置に凹部レスローター17の磁極P(極位置)が位置決めされる(極位置合わせ工程)。本発明の極位置位置決め治具7を用いれば、従来技術よりも大きな回転トルクとなるため、精度よく位置決めが可能となる。
【0034】
引き続き昇降機構の下降を続けることで、凹部レスローター17の磁極Pの位置が保持されたまま着磁治具4の磁極部5と一致するように移動する。
図10(W)は、極位置位置決め治具7によって設定された、凹部レスローター17の磁極Pの位置が、着磁治具4内でも保持され、着磁治具4の磁極部5と一致して設置される(設置工程)。すなわち、凹部レスローター17を、その極位置を周方向で保ったまま極位置位置決め治具7から着磁治具4の円筒形の空間へ移動させ、着磁治具4の極位置へ凹部レスローターの極位置を合わせて設置させる。ここでは、その位置関係を見えるようにするために、極位置位置決め治具7を便宜上方へと移動させた図である。
ローター重量に対して極位置位置決め治具7の磁石の移動方向に作用する吸引力が大きい場合、未着磁のローターが極位置位置決め治具7内で吸引力によって保持されて降下しないことがある。このような場合には、昇降機構とは別に上部からローターを着磁治具4へ押し込む機構を併設してもよい。
【0035】
凹部レスローター17が着磁治具4の所定の高さ位置まで降下したところで昇降機構を停止し、着磁治具4によって凹部レスローター17を着磁する。例えば、所定の着磁電流を着磁治具4に巻き回したコイルにパルス通電して着磁を行う(着磁工程)。着磁完了後、昇降機構を上昇させて凹部レスローター17を取り出す。
【0036】
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって限定されることはない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の範囲の変更はすべて含まれる。
【符号の説明】
【0037】
1 凹部の有る極異方性リング磁石
2 極位置を示す凹部
3 配向方向
4 着磁治具
5 着磁治具の磁極部(極位置)
6 着磁治具の巻き線部
7 極位置位置決め治具
8a 円筒体(被磁性基体)
8b 中空部
9 溝
10 貫通孔
11 位置決め用磁石
12 位置決め用磁石
13 磁石の極性方向を示す矢印
14 凹部の無い極異方性リング磁石(凹部レスリング磁石)
15 凹部の無い(凹部レス)極異方性リング磁石の回転の様子を示す矢印
16 シャフト
17 凹部の無い極異方性ローター(凹部レスローター)
P 極異方性リング磁石の磁極(極位置)