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  • 特許-ニッケル酸化鉱石の製錬方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20241106BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B5/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021016871
(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公開番号】P2022119615
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】丹 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
(72)【発明者】
【氏名】山内 逸平
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-097665(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107022678(CN,A)
【文献】特開2017-197813(JP,A)
【文献】特開2020-097771(JP,A)
【文献】特開2003-089823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00 - 23/06
C22B 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石と、炭素質還元剤と、を混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を成型してブリケットを得る成型工程と、
前記ブリケットに還元処理を施す還元工程と、を有し、
前記ニッケル酸化鉱石は、平均粒子径が30μm以上100μm以下の範囲にある第1のニッケル酸化鉱石と、平均粒子径が200μm以上800μm以下の範囲にある第2のニッケル酸化鉱石と、のみからなり
前記第1のニッケル酸化鉱石は、前記ニッケル酸化鉱石全量中10質量%以上40質量%以下の割合で含有する
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記炭素質還元剤の平均粒径は、30μm以上500μm以下である
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
前記混合物中の前記炭素質還元剤の含有量を、前記ニッケル酸化鉱石を還元するために必要な化学当量100質量%に対して10質量%以上50質量%以下の割合とする
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石と、還元剤とから製造されるブリケットを、還元炉にて高温下で還元加熱することによって製錬し、フェロニッケル等の還元物を得る製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱の製錬方法として、熔錬炉を使用して硫黄とともに硫化焙焼してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用して炭素質還元剤を用いて還元し鉄-ニッケル合金(以下、「フェロニッケル」ともいう)を製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して硫酸でニッケルやコバルトを浸出して得た浸出液に硫化剤を添加して混合硫化物(ミックスサルファイド)を製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
上述した種々の製錬方法の中で、炭素源とともに還元してニッケル酸化鉱を製錬する場合、先ず、その原料鉱石を塊状物化やスラリー化等するための前処理が行われる。具体的に、ニッケル酸化鉱を塊状物化、すなわち粉状や微粒状から塊状にする際には、そのニッケル酸化鉱を、バインダーや還元剤等と混合し、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば10mm~30mm程度の塊状物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ブリケット」という)とするのが一般的である。
【0004】
このブリケットには、含有する水分を「飛ばす」ために、ある程度の通気性が必要となる。また、ブリケット内で均一に還元が進まないと、得られる還元物の組成が不均一になり、メタルが分散したり偏在したりする等の不都合が生じるため、混合物を均一に混合し、またブリケットを還元処理する際には可能な限り均一な温度を維持することが重要となる。
【0005】
加えて、還元されて生成したフェロニッケルを粗大化させることも重要である。これは、生成したフェロニッケルが、例えば数10μm~数100μm以下の細かな大きさであった場合、同時に生成したスラグと分離することが困難となり、フェロニッケルとしての回収率(収率)が大きく低下してしまうためである。このため、還元後のフェロニッケルを粗大化する処理も必要となる。
【0006】
また、製錬コストを如何に低く抑えることができるかについても工業的な観点からは重要なことであり、コンパクトな設備で操業できる連続処理が望まれている。
【0007】
例えば、特許文献1には、金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床上に供給して加熱し、金属酸化物を還元溶融させる粒状金属の製造方法において、塊成物同士の距離を0としたときの塊成物の炉床への最大投影面積率に対する、塊成物の炉床への投影面積率の相対値を敷密度としたとき、平均直径が19.5mm以上32mm以下の塊成物を、敷密度が0.5以上0.8以下になるように炉床上に供給して加熱する方法が開示されている。この方法では、塊成物の敷密度と平均直径とを併せて制御することで、粒状金属鉄の生産性を高められることが記載されている。
【0008】
しかし、特許文献1に開示されている方法は、塊成物の外側で起こる反応を制御するための技術であり、還元反応において最も重要な因子である、塊成物の内部で起きる反応の制御については着目していない。他方で、塊成物の内部で起きる反応を制御することで、反応効率を高め、還元反応をより均一に進めることで、より高品質のメタル(金属、合金)を得ることが求められていた。
【0009】
また、特許文献1にあるような、特定の直径を有するものを塊成物として用いる方法は、特定の直径を有しないものを取り除く必要があるため、塊成物を作製する際にメタル回収率が低い課題があった。さらに、特許文献1の方法では、塊成物の敷密度を0.5以上0.8以下に調整する必要があり、塊成物を積層させることもできないため、生産性が低くなる課題もある。これらの理由により、特許文献1にある方法は、製造コストが高くなる課題もあった。
【0010】
このように、酸化鉱石を混合及び還元して金属や合金を製造する技術には、生産性を高め、製造コストを低減させ、メタルの品質を高める点で、多くの課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2011-256414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、効率よく、かつ高品質のメタルを製造することができるニッケル酸化鉱石の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、平均粒径が異なる複数のニッケル酸化鉱石を所定の割合で混合することで混合物を得て、その混合物のブリケットに還元処理を施すことで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
(1)ニッケル酸化鉱石と、炭素質還元剤と、を混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を成型してブリケットを得る成型工程と、前記ブリケットに還元処理を施す還元工程と、を有し、前記ニッケル酸化鉱石は、平均粒子径が30μm以上100μm以下の範囲にある第1のニッケル酸化鉱石と、平均粒子径が200μm以上800μm以下の範囲にある第2のニッケル酸化鉱石と、を含有し、前記第1のニッケル酸化鉱石は、前記ニッケル酸化鉱石全量中10質量%以上40質量%以下の割合で含有するニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記炭素質還元剤の平均粒径は、30μm以上500μm以下であるニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0016】
(3)本発明の第3は、第1又は第2の発明において、前記混合物中の前記炭素質還元剤の含有量を、前記ニッケル酸化鉱石を還元するために必要な化学当量100質量%に対して10質量%以上50質量%以下の割合とするニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、効率よく、かつ高品質のメタルを製造することができるニッケル酸化鉱石の製錬方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
図2】還元炉の構成の一例を示す模式図であり、その還元炉における還元処理の様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
≪1.本発明の概要≫
本発明は、ニッケル酸化鉱石を原料として、そのニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して得られる混合物を還元することによって、還元物であるメタルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0021】
具体的に、本発明に係る酸化鉱石の製錬方法は、平均粒子径が30μm以上100μm以下の範囲にある第1のニッケル酸化鉱石と、平均粒子径が200μm以上800μm以下の範囲にある第2のニッケル酸化鉱石と、を含有するニッケル酸化鉱石と、炭素質還元剤と、を混合して混合物を得て、その混合物のブリケットに還元処理を施すことを特徴としている。
【0022】
このような方法によれば、強度と成型性とを両立させたブリケットに還元処理を施すことにより、ニッケルの回収率を向上させることができるとともに、ブリケットに安定的に還元処理を施すことが可能となって得られるメタルの品位を高めることができる。
【0023】
≪2.ニッケル酸化鉱石の製錬方法≫
以下では、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)として、原料鉱石にニッケル酸化鉱石を用い、そのニッケル酸化鉱石を還元することで、ニッケル酸化鉱石に含まれるニッケル(酸化ニッケル)と鉄(酸化鉄)とをメタル化して鉄-ニッケル合金(フェロニッケル)を生成させる製錬方法を例に挙げて説明する。
【0024】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、図1に示すように、ニッケル酸化鉱石と、還元剤と、を混合して混合物を得る混合工程S1と、得られる混合物を所定の形状に成形してブリケットを得る成型工程S2と、得られたブリケットを乾燥する乾燥工程S3と、ブリケットに還元処理を施す還元工程S4と、得られた還元物からメタルを回収する回収工程S5と、を有する。
【0025】
<2-1.混合工程>
混合工程S1は、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る。具体的に、混合工程S1では、まず、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に、炭素質還元剤を添加して混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の粉末を添加して混合し、混合物を得る。なお、混合処理は、混合機等を用いて行うことができる。
【0026】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、酸化ニッケル(NiO)と、酸化鉄(Fe)とを少なくとも含有する。
【0027】
ここで、ニッケル酸化鉱石としては、少なくとも、平均粒子径が30μm以上100μm以下の範囲にある第1のニッケル酸化鉱石と、平均粒子径が200μm以上800μm以下の範囲にある第2のニッケル酸化鉱石と、を混合したものを用いる。また、混合比率として、第1のニッケル酸化鉱石を、ニッケル酸化鉱石全量中10質量%以上40質量%以下の割合で含有させるようにする。
【0028】
ニッケル酸化鉱石の製錬では、ニッケル酸化鉱石と、炭素質還元剤と、を含有する混合物を所定の形状に成形したブリケットに還元処理を施すことがあるが、例えば、平均粒子径の大きい1種類のニッケル酸化鉱石を炭素質還元剤等とともに混合して混合物を得てブリケットを成型しても、そのブリケットの強度は低いものとなる。強度の低いブリケットに還元処理を施した場合、還元処理の途中でブリケットが破裂することがある。すると、破裂して形状や大きさが異なるブリケットやその破片が発生することでニッケルの回収率が低下し、さらにブリケットに安定的に還元処理を施すことが困難となって、得られるメタルの品位が低下する。
【0029】
一方、平均粒子径の小さい1種類のニッケル酸化鉱石を炭素質還元剤等とともに混合して混合物を得てブリケットを成型しても、ブリケットの強度は向上するが、ブリケットの成型性が低下する。すると、得られたブリケットに割れや欠けなどが発生し、還元処理を施すブリケットとして使用できなくなる。また、ブリケットとして使用できるものであったとしても金型に張り付いたブリケットが損失分となってニッケルの回収率が低下する。さらに、ブリケットの成型性が低下することで所望の形状のブリケットが得られず、ブリケットに安定的に還元処理を施すことが困難となって、得られるメタルの品位が低下する。このように1種類の平均粒径のニッケル酸化鉱石を混合したものでは、ブリケットの強度と成型性を両立させることは困難であった。
【0030】
そこで、平均粒径が異なる複数のニッケル酸化鉱石を所定の割合で含有する混合物を得てブリケットを成型することで、ブリケットの強度と成型性を両立することが可能となることが本発明者らの研究により見出された。このようなブリケットに還元処理を施すことによりニッケルの回収率を向上させることができるとともに、ブリケットに安定的に還元処理を施すことが可能となって得られるメタルの品位を高めることができる。
【0031】
なお、それぞれ特定の範囲の粒径を有する、第1のニッケル酸化鉱石と、第2のニッケル酸化鉱石と、を得る方法は、粉砕装置を用いてそれぞれ所望の平均粒径になるようにニッケル酸化鉱石を粉砕して得る方法や、粉砕されたニッケル酸化鉱石に対して所定の直径の篩を用いて篩処理を行うことによって、第1のニッケル酸化鉱石と第2のニッケル酸化鉱石と分離するような方法であってもよい。
【0032】
また、第1のニッケル酸化鉱石と第2のニッケル酸化鉱石との混合比率に関しては、第1のニッケル酸化鉱石がニッケル酸化鉱石全量中で10質量%以上40質量%以下の割合となるように混合する。第1のニッケル酸化鉱石の混合比率をこのような範囲として混合することで、得られるブリケットの強度を高めることができるとともに、ブリケットに成型したときの成型性が向上する。
【0033】
なお、ニッケル酸化鉱石は、平均粒子径が30μm以上100μm以下の範囲にある第1のニッケル酸化鉱石と、平均粒子径が200μm以上800μm以下の範囲にある第2のニッケル酸化鉱石を含んでいれば、さらに粒径の異なるニッケル酸化鉱石が含まれていてもよい。
【0034】
ニッケル酸化鉱石とともに混合される炭素質還元剤としては、石炭やコークスなどの化石燃料を挙げることができる。炭素質還元剤の平均粒径は特に限定されないが、30μm以上500μm以下が好ましく、30μm以上150μm以下がより好ましい。炭素質還元剤の平均粒径を30μm以上500μm以下とすることにより平均粒径が異なる複数のニッケル酸化鉱石を所定の割合で含有するニッケル酸化鉱石と均一に混合することが可能となって、還元処理に際しての均一性を向上できる。
【0035】
炭素質還元剤の混合量としては、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量を100質量%としたとき、50質量%以下の割合とすることが好ましく、40質量%以下とすることがより好ましい。また、炭素質還元剤の混合量の下限値としては、特に限定されないが、化学当量の合計値100質量%に対して10質量%以上の割合とすることが好ましく、15質量%以上の割合とすることがより好ましい。
【0036】
なお、酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量とは、酸化ニッケルの全量をニッケルメタルに還元するのに必要な化学当量と、酸化鉄を鉄メタルに還元するのに必要な化学当量との合計値(以下、「化学当量の合計値」ともいう)と言い換えることができる。
【0037】
任意成分の添加剤である鉄鉱石としては、特に限定されないが、例えば、鉄品位が50質量%程度以上の鉄鉱石や、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。
【0038】
鉱石と炭素質還元剤を混合した後、ペレットやブリケットに成形してよい。この際、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。
【0039】
下記表1に、混合工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(重量%)の一例を示す。なお、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0040】
【表1】
【0041】
<2-2.成型工程>
成型工程S2は、得られる混合物を所定の形状に成形してブリケット(ペレット)とする。本実施の形態においては、平均粒径の異なる複数種類のニッケル酸化鉱石を所定の割合で混合して混合物とし、その混合物を成型してブリケットを得るようにしているため、ブリケットの強度が高まるとともに成型性を向上させることが可能となる。
【0042】
ブリケット(ペレット)の形状としては、還元炉の炉床に積層できる形状であればよいが、例えば、球状、直方体状、立方体状、円柱状等の形状であることが好ましい。混合物をこのような形状に成形することで、混合物の成形が容易になるため、成形にかかるコストを抑えることができる。また、成形する形状が複雑でないため、成形不良のペレットの発生を低減することができる。
【0043】
成型工程S2では、例えば、ブリケット(ペレット)成形装置を用いて混合物を成形することができる。ペレット成形装置としては、特に限定されないが、高圧、高せん断力で混合物を混練して成形できるものであることが好ましい。高圧、高せん断で混合物を混練することにより、原料粉の混合物の凝集を解くことができ、また効果的に混練することができるうえ、得られるブリケット(ペレット)の強度を高めることができる。
【0044】
また、ブリケットプレスを用いて成形することも可能である。設備やペレット強度、回収率等を考慮して適宜、装置選定を行えばよい。
【0045】
<2-3.乾燥工程>
乾燥工程S3は、成型工程S2で得られたブリケットを乾燥する。乾燥工程は必須の工程ではないが、先述した混合工程S1や成型工程S2での混練やブリケットの成形等において混合物を多量の水とともに混合した場合には、ブリケットに乾燥処理を施すことで、還元炉内の雰囲気気体に含まれる水分量を減らすことができる。そして、成型工程S2で得られたブリケットを乾燥することにより、ブリケットの強度をさらに向上させることが可能となる。また、還元炉内の雰囲気気体に含まれる水分量をより効果的に減らすことができ、ブリケットに含まれるメタルの酸化をより効果的に抑制することができる。
【0046】
塊状物を乾燥する方法は、特に限定されず、ブリケットを所定の乾燥温度(例えば、300℃以上400℃以下)に保持する方法や所定の乾燥温度の熱風をブリケットに対して吹き付けて乾燥させる方法等、従来公知の手段を用いることができる。このような乾燥処理により、例えば、ブリケットの固形分が70質量%程度で、水分が30質量%程度となるようにする。なお、この乾燥処理時におけるブリケット自身の温度としては、100℃未満とすることが好ましく、これにより水分の突沸等によるブリケットの破裂を抑制することができる。
【0047】
なお、この乾燥工程は、後述する還元炉の外で行ってもよいし、後述する還元炉内に塊状物を装入して還元炉内で乾燥処理を施してもよい。
【0048】
ここで、特に体積の大きなブリケットを乾燥させる場合、乾燥前や乾燥後のブリケットにひびや割れが入っていてもよい。ブリケットの体積が大きい場合には、還元時にブリケットが熔融して収縮するため、ひびや割れが生じることが多い。しかしながら、ブリケットの体積が大きい場合には、ひびや割れによって生じる表面積の増加等の影響は僅かであるため、大きな問題は生じ難い。そのため、還元前のブリケットにひびや割れがあってもよい。
【0049】
また、乾燥処理は連続して一度に行ってもよいし複数回に分けて行ってもよい。乾燥処理を複数回に分けて行うことによりブリケットの破裂をより効果的に抑制することができる。なお、乾燥処理を複数回に分けて行った場合において、2回目以降の乾燥温度としては、150℃以上400℃以下が好ましい。この範囲で乾燥することにより、還元反応が進むことなく乾燥することが可能となる。
【0050】
下記表2に、乾燥処理後の塊状物(混合物)における固形分中組成(質量部)の一例を示す。なお、塊状物(混合物)の組成としては、これに限定されるものではない。
【0051】
【表2】
【0052】
<2-4.還元工程>
還元工程S4は、乾燥工程を経たブリケットに還元処理を施す。具体的には、ブリケットを還元炉に装入し、ブリケットに加熱還元処理を施す。還元工程S4における加熱還元処理により、混合物中の炭素質還元剤に基づいて製錬反応(還元反応)が進行して、混合物(ブリケット)中では、フェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」という)と、フェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」という)とが分かれて生成する。
【0053】
ここで、本実施の形態では、平均粒径の異なる複数種類のニッケル酸化鉱石を所定の割合で含有する混合物を調製し、その混合物からブリケットを成型しているため、強度と成型性を両立されたブリケットを得ることができる。そして、このようなブリケットに還元処理を施すことにより、ニッケルの回収率を向上させることができるとともに、ブリケットに安定的に還元処理を施すことが可能となって得られるメタルの品位を高めることができる。
【0054】
還元処理における温度(還元温度)としては、特に限定されないが、1200℃以上1450℃以下の範囲とすることが好ましく、1300℃以上1400℃以下の範囲とすることがより好ましい。このような温度範囲で還元することによって、均一に還元反応を生じさせることができ、品質のばらつきを抑制したフェロニッケルを生成させることができる。また、より好ましくは1300℃以上1400℃以下の範囲の還元温度で還元することで、比較的短時間で所望の還元反応を生じさせることができる。
【0055】
還元炉において還元加熱処理を行う時間は、還元炉の温度に応じて設定されるが、10分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましい。他方で、還元加熱処理を行う時間の上限は、製造コストの上昇を抑える観点から、50分以下としてもよく、40分以下としてもよい。
【0056】
なお、還元温度(℃)と還元時間(分)の数値を乗じた値を還元に要した熱量は、20000(℃×分)以上40000(℃×分)以下の範囲であることが好ましい。高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【0057】
加熱還元処理では、例えば1分程度のわずかな時間で、先ず還元反応の進みやすい混合物の表面近傍において混合物中の酸化ニッケル及び酸化鉄が還元されメタル化してフェロニッケルとなり、殻(シェル)を形成する。一方で、殻の中では、その殻の形成に伴ってスラグ成分が徐々に熔融して液相のスラグが生成する。そして、処理時間が10分程度経過すると、還元反応に関与しない余剰の還元剤がメタルに取り込まれて融点を低下させて、メタルも液相となる。
【0058】
このメタルとスラグとは混ざり合うことがなく、その後の冷却によってメタル固相とスラグ固相との別相として混在する混在物となる。これらの混在物の体積は、還元炉に挿入前のブリケットと比較すると、50体積%~60体積%程度の体積に収縮している。
【0059】
還元炉としては、固定炉床であってもよいが、移動式炉床炉を用いることが好ましい。このような還元炉として移動炉床炉を使用することにより、ブリケットをより効率的に処理することができる。また、移動炉床炉を用いることで、連続的に還元反応が進行し、一つの設備で反応を完結させることができ、各工程における処理を別々の炉を用いて行うよりも処理温度の制御を的確に行うことができる。さらに、各処理間でのヒートロスを低減して、より効率的な操業が可能となる。以下、移動炉床炉の一例として、回転炉床炉の構成について、図2を用いて説明する。
【0060】
図2は、炉床が回転する回転炉床炉の構成例を示す図(平面図)である。図2に示すように、円形状であって複数の処理室20a~20dに区分けされた回転炉床炉2を用いることができる。回転炉床炉2では、所定の方向に回転しながら、各領域においてそれぞれの処理を行う。この回転炉床炉では、各領域を通過する際の時間(移動時間、回転時間)を制御することで、それぞれの領域での処理温度を調整することができ、回転炉床炉が1回転する毎にブリケット1が製錬処理される。ここで、回転炉床炉2は、炉外に予熱室が設けられていてもよい。また、回転炉床炉2は、炉外に冷却室が設けられていてもよい。なお、移動炉床炉としては、ローラーハースキルン等であってもよい。
【0061】
還元炉の加熱手段は、特に制限はされないが、バーナーであっても、電気等を用いたものであってもよい。短時間で混合物に有効に加熱還元処理を施すことができることからバーナーであることが好ましい。また、バーナーを有する還元炉を用いる場合、燃料としては、例えばLPG、LNG、石炭、コークス、微粉炭等が用いられる。これらの燃料のコストは非常に安価であり、設備費やメンテナンス費に関しても電気炉等と比較して格段に安価に抑えることができる。
【0062】
<2-5.回収工程>
回収工程S5は、還元工程S4で得られた還元物からメタルを回収する。具体的には、加熱還元処理によって得られた、メタル相とスラグ相とを含む還元物を冷却し、必要に応じて粉砕して粉末化して、メタル(メタル粉末粒子)を分離して回収する。
【0063】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0064】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、先述した還元工程S4によって得られる大きな混在物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させ、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を付与することで、その混在物から、メタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【0065】
このようにしてメタル相とスラグ相とを分離することによって、メタル相を回収する。
【実施例
【0066】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0067】
[混合工程]
各試料について原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(微粉炭)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。ニッケル酸化鉱石はそれぞれの試料について2種類の粒径のニッケル酸化鉱石(第1のニッケル酸化鉱石及び第2のニッケル酸化鉱石)を混合して使用した。微粉炭は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe)とを過不足なく還元するのに必要な量を100質量%としたときに、28.0質量%の割合となる量で含有させた。なお、微粉炭(炭素質還元剤)の平均粒径は150μmであった。各試料に用いたニッケル酸化鉱石(第1のニッケル酸化鉱石及び第2のニッケル酸化鉱石)と平均粒径と混合割合は表4のとおりである。
【0068】
[成型工程]
それぞれの試料についてブリケット成形装置を用いて、幅25mm×長さ35mm×高さ15mm(角部は割れ、欠けが発生しづらいように丸みのある曲線状になっている)の形状に成形した。成形後、割れ、欠けのないブリケットを良品として回収率を算出した。その結果を表5に示す(表5中、「ブリケット回収率」と表記。)。
【0069】
[乾燥工程]
次に、試料の各々に対して、固形分が70重量%程度、水分が10重量%程度となるように、200℃~250℃の熱風を吹き付けて乾燥処理を施した。下記表3に、乾燥処理後のブリケットの固形分組成(炭素を除く)を示す。
【0070】
【表3】
【0071】
[還元工程]
乾燥処理後の試料のブリケットを、実質的に酸素を含まない窒素雰囲気にした還元炉に各々装入した。なお、還元炉内の装入時の温度条件は、500±20℃とした。
次に、表5に示す温度及び時間で、混合物のブリケットに対して還元加熱処理を施した。還元処理後は、窒素雰囲気中で速やかに室温まで冷却して、試料を大気中へ取り出した。
【0072】
還元加熱処理後の各試料について、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率を、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100型)により分析して算出した。
【0073】
ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率は、以下の式により算出した。
ニッケルメタル化率=混合物中のメタル化したNi量÷(混合物中の全てのNi量)×100(%)
メタル中のニッケル含有率= 混合物中のメタル化したNi量÷(混合物中のメタルしたNiとFeの合計量)×100(%)
【0074】
また、還元加熱処理後の各試料について、湿式処理よる粉砕後、磁力選別によってメタルを回収した。そして、還元炉に装入したブリケットにおけるニッケル酸化鉱の含有量と、ニッケル酸化鉱石におけるニッケル含有率と、そして回収されたニッケル量から、ニッケルメタル回収率を算出した。
ニッケルメタル回収率は、以下の式により算出した。
ニッケルメタル回収率= 回収されたNi量÷(装入した酸化鉱石の量×酸化鉱石中のNi含有率)×100(%)
【0075】
下記表4に、それぞれの試料における、ニッケルメタルの平均粒径、ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率、ニッケルメタル回収率を示す。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
【0078】
表4、表5から分かるように、平均粒子径が30μm以上100μm以下の範囲にある第1のニッケル酸化鉱石と、平均粒子径が200μm以上800μm以下の範囲にある第2のニッケル酸化鉱石と、を含有するニッケル酸化鉱石と、炭素質還元剤と、を混合して混合物を得て、その混合物のブリケットに還元処理を施した実施例1~12では、ブリケット回収率が高いものであった。
【0079】
さらに、実施例1~12では、ニッケルメタル化率、及びメタル中ニッケル含有率において良好な結果が得られた。このことから、本発明に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、ブリケットの強度と成型性を両立することで、ニッケルの回収率を向上させることができるとともに、ブリケットに安定的に還元処理を施すことが可能となって得られるメタルの品位を高めることができることが分かる。
【0080】
一方、第1のニッケル酸化鉱石の平均粒子径が30μm未満100μm超である比較例1、2や、第2のニッケル酸化鉱石の平均粒子径が200μm未満800μm超である比較例3、4や、第1のニッケル酸化鉱石がニッケル酸化鉱石全量中10質量%未満40質量%超の割合で含有する比較例5、6や、平均粒子径が200μm以上800μm以下の範囲にある第2のニッケル酸化鉱石と、を含有しない比較例7や、平均粒子径が30μm以上100μm以下の範囲にある第1のニッケル酸化鉱石を含有せず、且つ第2のニッケル酸化鉱石の平均粒子径が800μm超である比較例8では、ブリケット回収率が低いものであり、且つブリケットの強度と成型性を両立することができていないことから、高品質なメタルを効率的に製造することができなかった。
【符号の説明】
【0081】
1 ブリケット
2 回転炉床炉
20a~20d 処理室
21 予熱室
40 冷却室
図1
図2