(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】絶縁電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20241106BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/00
(21)【出願番号】P 2021032218
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花輪 秀仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 卓也
(72)【発明者】
【氏名】王 鯤
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-076314(JP,U)
【文献】特開2018-101507(JP,A)
【文献】実開昭54-164480(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0362139(US,A1)
【文献】特開2018-110075(JP,A)
【文献】特開2001-155552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の素線を撚り合わせてなる導体と、
前記導体の直上に設けられた編組と、
前記編組の周囲に設けられた絶縁体と、を有し、
前後に並ぶ鉄道車両に跨って配策される絶縁電線であって、
前記編組が複数本の綿糸またはスフ糸によって編まれており、
前記編組は、複数本の前記綿糸または前記スフ糸を含む糸束を格子状に編み合わせてなる、絶縁電線。
【請求項2】
前記編組の編組密度が90%以上である、請求項1に記載の絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導体と、導体の周囲に設けられた絶縁体と、を有する絶縁電線が知られている。このような絶縁電線は、例えば渡り線として利用されている。
【0003】
渡り線は、離れた電気回路間や制御回路間などを電気的に繋ぐための電線であり、曲げや捻じれが加わる環境で使用されることが多い。渡り線は、例えば、連結された2つの鉄道車両に跨って配策され、それぞれの鉄道車両が備える制御回路同士や電源回路同士を電気的に接続する。
【0004】
尚、連結された2つの鉄道車両に跨って配策される電線である点で渡り線と共通するジャンパ線が特許文献1に記載されている。もっとも、特許文献1に記載されているジャンパ線は、複数本の絶縁電線を芯線とする複合ケーブルである点で渡り線とは異なる。
【0005】
曲げや捻じれが加わる環境で使用されることが多い渡り線には、高い屈曲性が求められる。そこで、渡り線として利用される絶縁電線の導体は、撚り合わされた複数本の素線によって構成されることがある。つまり、絶縁電線の導体が撚り線によって構成されることがある。この場合、導体としての撚り線にセパレータテープが巻かれ、セパレータテープの周囲に絶縁体が設けられる。絶縁体は、溶融させた樹脂をセパレータテープの周囲に押し出すことによって形成される。セパレータテープは、上記のようにして絶縁体が形成されるときに、撚り線を構成している素線間に溶融樹脂が入り込むことを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セパレータテープは、導体としての撚り線の上に所定方向に巻かれている。つまり、セパレータテープには巻き方向がある。このため、セパレータテープの巻き方向と同方向の捻れが絶縁電線に加わった場合、セパレータテープが巻締まり、導体が締め付けられる。この結果、セパレータテープの巻き方向と同方向の捻れを伴う曲げに対して絶縁電線の屈曲性が低下する虞がある。
本発明の目的は、絶縁電線の屈曲性をさらに向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の絶縁電線は、複数本の素線を撚り合わせてなる導体と、前記導体の周囲に設けられた編組と、前記編組の周囲に設けられた絶縁体と、を有する。さらに、前記編組は複数本の綿糸またはスフ糸によって編まれている。
本発明の一態様では、前記編組は、複数本の前記綿糸または前記スフ糸を含む糸束を格子状に編み合わせてなる。
本発明の他の一態様では、前記編組の編組密度が90%以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、屈曲性がさらに向上した絶縁電線が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明が適用された絶縁電線の一例を示す断面図である。
【
図2】
図1に示されている編組の詳細を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。尚、実施形態を説明するための全図において、同一または実質的に同一の機能を有する部材などには同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
本実施形態に係る絶縁電線は、前後に並ぶ鉄道車両に跨って配策される渡り線としての利用に適しているが、その用途は特に限定されない。
【0012】
図1に示されるように、本実施形態に係る絶縁電線1は、導体10と、導体10の周囲に設けられた編組20と、編組20の周囲に設けられた絶縁体30と、を有する。絶縁電線1の外径D1は13.6mmであり、導体10の外径D2は10.2mmである。
【0013】
導体10は、複数本の素線11を撚り合わせて構成されている。本実施形態における素線11は、直径0.26mmの銅線であり、表面に錫,ニッケル,銀などのメッキが施されている。具体的には、導体10は、複合撚りされた950本の銅線11によって構成されている。より具体的には、導体10は、50本の銅線11が撚り合わされた撚り線(子撚り線10a)が19本(19ユニット)撚り合わされた撚り線(親撚り線10b)である。
【0014】
図2は、導体10の周囲に設けられ、導体10を覆っている編組20の詳細を示す模式図である。編組20は、複数本の糸21によって編まれている。本実施形態の編組20を構成している糸21は、スフ糸(ステープルファイバ)である。
【0015】
編組20は、複数本のスフ糸21を含む糸束22を格子状に編み合わせてなる。導体10を覆っている編組20は、導体10の周囲に絶縁体30を形成するときに、導体10の周囲に押し出された絶縁体30の材料(以下、“樹脂材料”と呼ぶ。)が導体10を構成している銅線11の間に入り込むことを防止する役割を有する。
【0016】
編組20の上記役割に鑑みると、編組20の編組密度はある程度大きいことが好ましい。編組20の編組密度がある程度大きくないと、樹脂材料が編組20の編み目にめり込みやすくなるからである。言い換えると、編組20の編組密度が小さいと、導体10と樹脂材料とを隔てるセパレータとしての機能が十分に得られなくなるからである。具体的には、編組20の編組密度は90%以上であることが好ましい。ここで、編組密度とは、編組20が覆っている全面積と絶縁電線1の表面積との比の百分率であり、次の数式によって求められる。
K:編組密度
N:持 数(1つの糸束に含まれる糸の本数)
C:打 数(編組を構成する糸束の数)
D:編組下径+編組厚[mm]
P:編組ピッチ[mm](それぞれの糸束の巻きピッチ)
d:糸径[mm]
【0017】
本実施形態では、
図1に示されている導体10の外径D2が編組下径に相当する。導体10の外径D2(編組下径)が10.2mmの場合、例えば、持数(N)を5,打数(C)を24,編組ピッチ(P)を21mmとした上で、編組密度(K)が90%以上となるようにその他の条件を調整することが好ましい。また、
図2に示されている角度(θ)は、75度~85度の範囲内とすることがさらに好ましい。尚、角度(θ)は、糸束22の角度であり、編組20の外径および編組ピッチ(P)から正弦定理によって求めることができる。
【0018】
別の見方をすると、編組20の編組密度(K)が90%以上となるように、持数(N),打数(C),編組ピッチ(P)等の条件を調整すれば、絶縁電線1の製造時に樹脂材料が銅線11の間に入り込むことを十分に防止することができ、かつ、製造された絶縁電線1の屈曲性に悪影響を与えることもない。
【0019】
再び
図1を参照する。図示されている絶縁体30は、導体10を覆っている編組20の周囲に、溶融させた樹脂材料を押し出して形成したものである。本実施形態の絶縁体30は、塩素化ポリエチレンとエチレン酢酸ビニルとをブレンドした樹脂組成物によって形成されているが、樹脂材料の他の一例としては、エチレンプロピレンゴムやPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などが挙げられる。
【0020】
本実施形態に係る絶縁電線1の導体10は編組20によって覆われている。編み物である編組20は、従来の絶縁電線の導体を覆っていたセパレータテープに比べて柔軟性や伸縮性に優れている。したがって、本実施形態の絶縁電線1に捻れが加わったとしても、編組20によって導体10が締め付けられることはない。この結果、本実施形態の絶縁電線1は、通常の曲げに対してだけでなく、捻れを伴う曲げに対しても優れた屈曲性を示す。
【0021】
尚、
図1では、導体10と編組20との間に隙間が存在している。しかし、かかる隙間は作図上の都合によるものである。編組20が柔軟性や伸縮性に優れていることは既述のとおりであり、実際の編組20は導体10の外周面の凹凸に追従している。
【0022】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、導体を構成する素線は銅線に限られない。導体を構成する素線の一例としては、アルミニウム線が挙げられる。また、導体を構成する素線の本数,直径,撚り方などは、本明細書に記載されている本数など限定されるものではない。尚、導体を構成する素線の本数などに応じて導体の外径が増減することがあり、導体の外径の増減に応じて絶縁電線の外径も増減することもがある。
また、編組を構成する糸はスフ糸に限られず、例えば、綿糸によって編組を構成してもよい。
【符号の説明】
【0023】
1…絶縁電線、10…導体、11…素線(銅線)、10a…子撚り線、10b…親撚り線、20…編組、21…糸(スフ糸)、22…糸束、30…絶縁体