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特許7582000マルチ荷電粒子ビーム描画装置及びその調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】マルチ荷電粒子ビーム描画装置及びその調整方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20241106BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20241106BHJP
   H01J 37/153 20060101ALI20241106BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20241106BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01L21/30 541W
G03F7/20 521
G03F7/20 504
H01J37/153 B
H01J37/28 B
H01J37/22 502H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021047496
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146501
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】七尾 翼
(72)【発明者】
【氏名】松本 裕史
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-082120(JP,A)
【文献】特開平09-330680(JP,A)
【文献】特開2016-063149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチビームの焦点位置を調整する対物レンズと、
前記マルチビームの非点収差を補正する非点収差補正素子と、
描画対象の基板が載置されるステージと、
前記ステージに設けられ、前記マルチビームのうち1本のビームを通過させる検査アパーチャと、
前記検査アパーチャを通過した前記マルチビームの各ビームのビーム電流を検出する電流検出器と、
前記マルチビームを偏向し、前記マルチビームを前記検査アパーチャ上でスキャンする偏向器と、
検出されたビーム電流に基づいてビーム画像を作成するビーム画像作成部と、
前記ビーム画像の輝度を第1方向に加算して第1波形を生成し、前記第1波形から第1特徴量を算出し、前記ビーム画像の輝度を前記第1方向とは異なる第2方向に加算して第2波形を生成し、前記第2波形から第2特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記第1特徴量及び前記第2特徴量に基づいて、前記非点収差補正素子に設定する励起パラメータを算出するパラメータ算出部と、
を備えるマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記第1特徴量及び前記第2特徴量は、前記第1波形及び前記第2波形における輝度の分散、又は輝度の最大値と最小値との差分、又は波形の微分値の最大値と最小値との差分であることを特徴とする請求項1に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記対物レンズの複数の第1励起パラメータ、及び前記非点収差補正素子の複数の第2励起パラメータの各々で前記検査アパーチャをスキャンし、
前記ビーム画像作成部は、前記複数の第1励起パラメータ及び前記複数の第2励起パラメータに対応する複数のビーム画像を作成し、
前記特徴量算出部は、前記複数のビーム画像から複数の前記第1特徴量及び前記第2特徴量を算出し、
前記パラメータ算出部は、複数の前記第1特徴量及び前記第2特徴量に基づいて、前記第1特徴量が極値をとる第1励起パラメータと、前記第2特徴量が極値をとる第1励起パラメータとが一致するように、前記非点収差補正素子に設定する励起パラメータを算出することを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記特徴量算出部は、前記第1波形を用いて前記ビーム画像の輝度を重み付けし、重み付け後の前記ビーム画像の輝度を前記第2方向に加算して前記第2波形を生成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
マルチビームの焦点位置を調整する対物レンズを第1励起パラメータに設定し、ステージに設けられ前記マルチビームのうち1本のビームを通過させる検査アパーチャを前記マルチビームでスキャンし、前記検査アパーチャを通過した前記マルチビームの各ビームのビーム電流を検出し、前記ビーム電流に基づき、前記第1励起パラメータにおけるビーム画像を作成し、前記ビーム画像の輝度を第1方向に加算して第1波形を生成し、前記第1波形から第1特徴量を算出し、前記ビーム画像の輝度を前記第1方向とは異なる第2方向に加算して第2波形を生成し、前記第2波形から第2特徴量を算出する、一連の工程を、前記第1励起パラメータの設定を変更して複数の前記第1励起パラメータにおいてそれぞれ行う工程と、
複数の前記第1励起パラメータに対応する複数の前記第1特徴量から求められる前記第1励起パラメータと前記第1特徴量との相関より、前記第1特徴量が極値をとる第1励起パラメータを算出し、
複数の前記第1励起パラメータに対応する複数の前記第2特徴量から求められる前記第1励起パラメータと前記第2特徴量との相関より、前記第2特徴量が極値をとる第1励起パラメータを算出し、
前記第1特徴量が極値をとる第1励起パラメータと、前記第2特徴量が極値をとる第1励起パラメータとが一致するように、前記マルチビームの非点収差を補正する非点収差補正素子に設定する第2励起パラメータを算出する、
マルチ荷電粒子ビーム描画装置の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置及びその調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスの回路線幅はさらに微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ回路パターンを形成するための露光用マスク(ステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)を形成する方法として、優れた解像性を有する電子ビーム描画技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置として、これまでの1本のビームを偏向して基板上の必要な箇所にビームを照射するシングルビーム描画装置に代わって、マルチビームを使った描画装置の開発が進められている。マルチビームを用いることで、1本の電子ビームで描画する場合に比べて多くのビームを照射できるので、スループットを大幅に向上させることができる。マルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームを複数の穴を持ったアパーチャ部材に通してマルチビームを形成し、ブランキングアパーチャアレイで各ビームのブランキング制御を行い、遮蔽されなかったビームが光学系で縮小され、移動可能なステージ上に載置された基板に照射される。
【0004】
マルチビーム描画では、焦点合わせや非点調整等の光学系の調整が重要である。従来、対物レンズで焦点位置を変えながら、ステージ上のライン状の反射マークをスキャンして反射電子を検出し、各焦点位置で得られたプロファイルに基づいて焦点合わせを行っていた。特許文献1には、マルチビームで検査アパーチャをスキャンしてビーム画像を作成し、ビーム画像の特徴量に基づいて最適焦点位置を求め、対物レンズを制御することが記載されている。
【0005】
また、特許文献1には、ビーム画像内の個別ビームの輪郭を検出し、楕円フィッティングを行い、真円に近付くように非点補正コイルの励磁電流値を制御することが記載されている。しかし、このような手法では、ボケが大きい、非点量が大きいなどの場合に、フィッティングに失敗し、解析が困難になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-82120号公報
【文献】特開平9-330680号公報
【文献】特開2016-63149号公報
【文献】特開平11-145042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マルチビームの非点収差の補正を簡便かつ高精度に行うことができるマルチ荷電粒子ビーム描画装置及びその調整方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、マルチビームの焦点位置を調整する対物レンズと、前記マルチビームの非点収差を補正する非点収差補正素子と、描画対象の基板が載置されるステージと、前記ステージに設けられ、前記マルチビームのうち1本のビームを通過させる検査アパーチャと、前記検査アパーチャを通過した前記マルチビームの各ビームのビーム電流を検出する電流検出器と、前記マルチビームを偏向し、前記マルチビームを前記検査アパーチャ上でスキャンする偏向器と、検出されたビーム電流に基づいてビーム画像を作成するビーム画像作成部と、前記ビーム画像の輝度を第1方向に加算して第1波形を生成し、前記第1波形から第1特徴量を算出し、前記ビーム画像の輝度を前記第1方向とは異なる第2方向に加算して第2波形を生成し、前記第2波形から第2特徴量を算出する特徴量算出部と、前記第1特徴量及び前記第2特徴量に基づいて、前記非点収差補正素子に設定する励起パラメータを算出するパラメータ算出部と、を備えるものである。
【0009】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム描画装置の調整方法は、マルチビームの焦点位置を調整する対物レンズを第1励起パラメータに設定し、ステージに設けられ前記マルチビームのうち1本のビームを通過させる検査アパーチャを前記マルチビームでスキャンし、前記検査アパーチャを通過した前記マルチビームの各ビームのビーム電流を検出し、前記ビーム電流に基づき、前記第1励起パラメータにおけるビーム画像を作成し、前記ビーム画像の輝度を第1方向に加算して第1波形を生成し、前記第1波形から第1特徴量を算出し、前記ビーム画像の輝度を前記第1方向とは異なる第2方向に加算して第2波形を生成し、前記第2波形から第2特徴量を算出する、一連の工程を、前記第1励起パラメータの設定を変更して複数の前記第1励起パラメータにおいてそれぞれ行う工程と、複数の前記第1励起パラメータに対応する複数の前記第1特徴量から求められる前記第1励起パラメータと前記第1特徴量との相関より、前記第1特徴量が極値をとる第1励起パラメータを算出し、複数の前記第1励起パラメータに対応する複数の前記第2特徴量から求められる前記第1励起パラメータと前記第2特徴量との相関より、前記第2特徴量が極値をとる第1励起パラメータを算出し、前記第1特徴量が極値をとる第1励起パラメータと、前記第2特徴量が極値をとる第1励起パラメータとが一致するように、前記マルチビームの非点収差を補正する非点収差補正素子に設定する第2励起パラメータを算出するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マルチビームの非点収差の補正を簡便かつ高精度に行える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
図2】アパーチャ部材の概略図である。
図3】同実施形態に係る非点収差調整方法を説明するフローチャートである。
図4】(a)はビーム画像を示す図であり、(b)及び(c)は輝度加算波形を示す図である。
図5】(a)(b)はレンズ値と特徴量との関係の例を示すグラフである。
図6】レンズ値と特徴量との関係の例を示すグラフである。
図7】輝度加算波形を示す図である。
図8】重み付け後の輝度加算波形を示す図である。
図9】(a)(b)はレンズ値と特徴量との関係の例を示すグラフである。
図10】輝度加算方向を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は本発明の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。本実施形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の他の荷電粒子ビームでもよい。
【0014】
この描画装置は、描画対象の基板24に電子ビームを照射して所望のパターンを描画する描画部Wと、描画部Wの動作を制御する制御部Cとを備える。
【0015】
描画部Wは、電子ビーム鏡筒2及び描画室20を有している。電子ビーム鏡筒2内には、電子銃4、照明レンズ6、アパーチャ部材8、ブランキングアパーチャアレイ10、縮小レンズ12、制限アパーチャ部材14、対物レンズ16、偏向器17、及び非点補正コイル18が配置されている。
【0016】
描画室20内には、XYステージ22が配置される。XYステージ22上には、描画対象の基板24が載置されている。描画対象の基板24は、例えば、ウェーハや、ウェーハにエキシマレーザを光源としたステッパやスキャナ等の縮小投影型露光装置や極端紫外線露光装置(EUV)を用いてパターンを転写する露光用のマスクが含まれる。
【0017】
また、XYステージ22には、基板24が載置される位置とは異なる位置に、マルチビーム検査用アパーチャ40(以下、「検査アパーチャ40」と記載する)及び電流検出器50を有するマルチビーム用ビーム検査装置が配置されている。検査アパーチャ40は、調整機構(図示略)により高さが調整可能となっている。検査アパーチャ40は、基板24と同じ高さ位置に設置されることが好ましい。
【0018】
制御部Cは、制御計算機32、偏向制御回路34、レンズ制御回路36、及びコイル制御回路38を有している。偏向制御回路34は偏向器17に接続されている。レンズ制御回路36は対物レンズ16に接続されている。コイル制御回路38は非点補正コイル18に接続されている。
【0019】
制御計算機32は、描画データ処理部60、描画制御部61、ビーム画像作成部62、特徴量算出部63、及び最適コイル値算出部67(パラメータ算出部)を有する。制御計算機32の各部は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、これらの機能を実行するプログラム等のソフトウェアで構成されてもよい。ソフトウェアで構成する場合には、これらの機能を実現するプログラムを記録媒体に収納し、電気回路等を含むコンピュータに読み込ませて実行させてもよい。
【0020】
図示しない記憶装置に、設計データ(レイアウトデータ)を描画装置用のフォーマットに変換した描画データが格納されている。描画データ処理部60は、この記憶装置から描画データを読み出し、複数段のデータ変換処理を実施して、ショットデータを生成する。ショットデータは、画素毎に生成され、描画時間(照射時間)が演算される。例えば対象画素にパターンを形成しない場合、ビーム照射が無となるので、描画時間ゼロ或いはビーム照射無の識別コードが定義される。ここでは、1回のマルチビームのショットにおける最大描画時間T(最大露光時間)が予め設定される。実際に照射される各ビームの照射時間は、算出されたパターンの面積密度に比例して求めると好適である。また、最終的に算出される各ビームの照射時間は、図示しない近接効果、かぶり効果、ローディング効果等の寸法変動を引き起こす現象に対する寸法変動分を照射量によって補正した補正後の照射量に相当する時間にすると好適である。よって、実際に照射される各ビームの照射時間は、ビーム毎に異なり得る。各ビームの描画時間(照射時間)は、最大描画時間T内の値で演算される。また、描画データ処理部60は、演算された各画素の照射時間データをかかる画素を描画することになるビーム用のデータとして、マルチビームのショット毎に、マルチビームの各ビームの配列順に並べた照射時間配列データを生成する。
【0021】
偏向制御回路34は、照射時間配列データ(ショットデータ)を用いて、マルチビームを偏向する偏向量データを生成する。描画制御部61は、偏向制御回路34、及び描画部Wを駆動する制御回路(図示略)に描画処理を実施するための制御信号を出力する。描画部Wは、制御信号に基づき、マルチビームを用いて、基板24に所望のパターンを描画する。具体的には以下のように動作する。
【0022】
電子銃4から放出された電子ビーム30は、照明レンズ6によりほぼ垂直にアパーチャ部材8全体を照明する。図2は、アパーチャ部材8の構成を示す概念図である。アパーチャ部材8には、縦(y方向)m列×横(x方向)n列(m,n≧2)の開口部80が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。例えば、512列×512列の開口部80が形成される。各開口部80は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。各開口部80は、同じ径の円形であっても構わない。
【0023】
電子ビーム30は、アパーチャ部材8のすべての開口部80が含まれる領域を照明する。これらの複数の開口部80を電子ビーム30の一部がそれぞれ通過することで、図1に示すようなマルチビーム30a~30eが形成されることになる。
【0024】
ブランキングアパーチャアレイ10には、アパーチャ部材8の各開口部80の配置位置に合わせて貫通孔が形成され、各貫通孔には、対となる2つの電極からなるブランカが、それぞれ配置される。各貫通孔を通過する電子ビーム30a~30eは、それぞれ独立に、ブランカが印加する電圧によって偏向される。この偏向によって、各ビームがブランキング制御される。ブランキングアパーチャアレイ10により、アパーチャ部材8の複数の開口部80を通過したマルチビームの各ビームに対してブランキング偏向が行われる。
【0025】
ブランキングアパーチャアレイ10を通過したマルチビーム30a~30eは、縮小レンズ12によって、各々のビームサイズと配列ピッチが縮小され、制限アパーチャ部材14に形成された中心の開口に向かって進む。ブランキングアパーチャアレイ10のブランカにより偏向された電子ビームは、その軌道が変位し制限アパーチャ部材14の中心の開口から位置がはずれ、制限アパーチャ部材14によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ10のブランカによって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ部材14の中心の開口を通過する。
【0026】
制限アパーチャ部材14は、ブランキングアパーチャアレイ10のブランカによってビームOFFの状態になるように偏向された各電子ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに制限アパーチャ部材14を通過したビームが、1回分のショットの電子ビームとなる。
【0027】
制限アパーチャ部材14を通過した電子ビーム30a~30eは、対物レンズ16により焦点が合わされ、基板24上で所望の縮小率のパターン像となる。制限アパーチャ部材14を通過した各電子ビーム(マルチビーム全体)は、偏向器17によって同方向にまとめて偏向され、基板24に照射される。
【0028】
一度に照射されるマルチビームは、理想的にはアパーチャ部材8の複数の開口部80の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。この描画装置は、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。XYステージ22が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ22の移動に追従するように偏向器17によって制御される。
【0029】
このような描画装置では、描画精度を向上させるために、光学系を調整し、非点収差を補正する必要がある。本実施形態では、検査アパーチャ40及び電流検出器50を有するマルチビーム用ビーム検査装置を用いてビームを検査し、光学系を調整する。
【0030】
検査アパーチャ40は、電子ビームが一本だけ通過するように制限するものであり、例えば、中心部に貫通孔が形成されている。基板24上でのマルチビームのビームピッチをP、(1本の)ビームのサイズをSとした場合、貫通孔の径φ1はS<φ1<P-Sとすることが好ましい。S<P-Sであるため、ビームピッチPはビームサイズSの2倍より大きいものとする。
【0031】
径φ1をビームサイズSより大きくすることで、1本の電子ビームの全体が貫通孔を通過することができ、S/N比を高くすることができる。径φ1はビームを見つけやすいよう、また、異物により穴が塞がらないようなるべく大きくすることが好ましい。
【0032】
また、径φ1をP-Sより小さくすることで、マルチビームをスキャンした際に、隣り合う2本のビーム(の一部)が同時に貫通孔を通過することがない。従って、貫通孔は、マルチビームのうち、1本の電子ビームのみを通過させることができる。
【0033】
検査アパーチャ40の貫通孔を通過した1本の電子ビームは、電流検出器50に入射し、ビーム電流が検出される。電流検出器50には、例えばSSD(半導体検出器(solid-state detector))を用いることができる。電流検出器50による検出結果は制御計算機32に通知される。
【0034】
次に、図3に示すフローチャートを用いて、非点収差を調整する方法を説明する。
【0035】
XYステージ22を移動し、マルチビームを照射可能な位置に検査アパーチャ40を配置する(ステップS1)。
【0036】
コイル制御回路38が、非点収差を補正する非点補正コイル18(非点収差補正素子)の励起パラメータ(励磁電流値、非点補正コイル値)を変更・設定する(ステップS2)。後述するように、非点補正コイル値は、予め設定された範囲内の複数の値が可変に設定されることになる。まず、非点補正コイル値をE1に設定する。
【0037】
レンズ制御回路36が、対物レンズ16の励起パラメータ(励磁電流値、レンズ値)を変更・設定する(ステップS3)。後述するように、レンズ値は、予め設定された範囲内の複数の値が可変に設定されることになる。
【0038】
マルチビームを偏向器17でXY方向に偏向させて、検査アパーチャ40をスキャンし、貫通孔を通過する電子ビームを順次切り替える(ステップS4)。電流検出器50がビーム電流を検出する。スキャン方向はXY方向(ビームアレイ配列方向)に限定されず、任意の方向でよい。スキャンに使用するマルチビームは、アパーチャ部材8の開口部80を通過することで形成される全てのビームである必要はなく、一部のビームでよい。すなわち、ブランキングアパーチャアレイ10の一部のブランカをビームオンにし、その他のブランカをビームオフにして検査アパーチャ40をスキャンすればよい。
【0039】
制御計算機32は、電流検出器50により検出されたビーム電流を取得する。ビーム画像作成部62が、ビーム電流を輝度に変換し、偏向器17の偏向量に基づいてビーム画像を作成する。そして、特徴量算出部63が、ビーム画像から特徴量を算出する(ステップS5)。
【0040】
例えば、特徴量算出部63は、図4(a)に示すようなビーム画像の輝度を縦方向(y方向)に加算して図4(b)に示すような波形W1を算出する。また、特徴量算出部63は、ビーム画像の輝度を横方向(x方向)に加算して図4(c)に示すような波形W2を算出する。
【0041】
そして、特徴量算出部63は、波形W1の特徴量A1、波形W2の特徴量A2を算出する。例えば、特徴量A1,A2として輝度(輝度加算値)の分散が算出される。ビーム画像におけるビーム形状が真円に近いほど、ビーム画像の輝度のばらつきが大きくなり、特徴量としての輝度分散の値は大きくなる。
【0042】
上述した検査アパーチャ40のスキャン、ビーム画像の作成、及び特徴量の算出を、予め設定された範囲内の複数のレンズ値の全てについて行う(ステップS3~S6)。
【0043】
次に、ステップS2に戻り、非点補正コイル値をE2に変更・設定する。そして、検査アパーチャ40のスキャン、ビーム画像の作成、及び特徴量の算出を、予め設定された範囲内の複数のレンズ値の全てについて行う(ステップS3~S6)。
【0044】
図5(a)は、非点補正コイル値をE1とし、縦軸を特徴量、横軸をレンズ値とした場合の特徴量A1,A2の変化を示すグラフである。図5(b)は、非点補正コイル値をE2とし、縦軸を特徴量、横軸をレンズ値とした場合の特徴量A1,A2の変化を示すグラフである。
【0045】
非点補正コイル値にE1、E2を設定して、予め設定された範囲内の複数のレンズ値の全てについて特徴量A1,A2を算出したら(ステップS7_Yes)、最適コイル値算出部67が、以下のような手法で、最適非点補正コイル値を算出する(ステップS8)。
【0046】
図5(a)、図5(b)に示すグラフでは、特徴量A1が極値をとるレンズ値と、特徴量A2が極値をとるレンズ値とが一致せずに乖離している。図5(a)では、特徴量A1が極値をとるレンズ値と、特徴量A2が極値をとるレンズ値との差分がD1となる。図5(b)では、特徴量A1が極値をとるレンズ値と、特徴量A2が極値をとるレンズ値との差分がD2となる。極値をとるレンズ値の差分は、非点収差に起因するビーム形状の歪みによるものである。
【0047】
非点補正コイル値が最適値に近い程、ビーム形状の真円度が向上し、極値をとるレンズ値の差分は小さくなる。最適コイル値算出部67は、非点補正コイル値をE1としたときの差分D1、非点補正コイル値をE2としたときの差分D2から、図6に示すように、極値をとるレンズ値が一致し、差分が0になるコイル値(最適非点補正コイル値)を算出する。
【0048】
描画制御部61が、算出された最適非点補正コイル値を非点補正コイル18に設定することで、マルチビームの非点収差を精度良く補正し、パターンを高精度に描画できる。
【0049】
このように、本実施形態によれば、検査アパーチャ40をマルチビームでスキャンし、貫通孔を通過する電子ビームを順次切り替えることで、ビーム画像を短時間に作成することができる。非点補正コイル18の非点補正コイル値及び対物レンズ16のレンズ値を振って、非点補正コイル値及び焦点位置が異なる複数のビーム画像を作成する。各ビーム画像の輝度をx方向及びy方向に加算して波形W1、W2を生成し、波形W1、W2の特徴量A1、A2を算出し、特徴量A1が極値をとるレンズ値と特徴量A2が極値をとるレンズ値とが一致する最適非点補正コイル値を算出する。そのため、最適非点補正コイル値を短時間かつ高精度に求めることができる。
【0050】
上記実施形態では、非点補正コイル値をE1としたときの差分D1、及び非点補正コイル値をE2としたときの差分D2を求めていたが、非点補正コイル18に設定するコイル値を3以上としてもよい。
【0051】
上記実施形態では、波形(輝度加算値)の特徴量として分散を用いていたが、波形の最大値と最小値との差を特徴量としてもよい。また、波形の微分値の最大値と最小値との差を特徴量としてもよい。また、図7に示すように、ビームピッチ周期毎に最大値と最小値との差を求め、差の合計を特徴量としてもよい。
【0052】
図8に示すように、特徴量算出部63が、y方向に輝度を加算した波形W1を用いてビーム画像の輝度を重み付けし、重み付けした輝度をx方向に加算して波形W2´を算出してもよい。例えば、重み付けしていない波形W2から算出されるレンズ値毎の特徴量は図9(a)に示すような変化を示すのに対し、重み付けした波形W2´から算出されるレンズ値毎の特徴量は図9(b)に示すような変化を示し、極値をとるレンズ値が強調される。
【0053】
同様に、x方向に輝度を加算した波形W2を用いてビーム画像の輝度を重み付けし、重み付けした輝度をy方向に加算して波形W1´を算出し、波形W1´から特徴量を算出してもよい。
【0054】
上記実施形態ではビーム画像の輝度をx方向(0°)及びy方向(90°)のビームアレイ配列方向に沿って加算して波形を求めていたが、加算方向はこれに限定されず、非点調整を行う2方向であればよい。例えば、図10に示すような、直交する斜め方向(45°及び135°)にビーム画像の輝度を加算して波形を求めてもよい。光学現象として非点収差は90°方向に発生するため、直交した方向で輝度を加算して波形を求め、特徴量を算出することで、独立な成分としてみなすことができ、効率良く非点収差を補正できる。
【0055】
上記実施形態では、非点補正コイルが発生させる磁場を用いて非点収差を補正する構成について説明したが、電場により非点収差を補正するレンズや非点収差補正素子を使用しても良い。
【0056】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0057】
2 電子ビーム鏡筒
4 電子銃
6 照明レンズ
8 アパーチャ部材
10 ブランキングアパーチャアレイ
12 縮小レンズ
14 制限アパーチャ部材
16 対物レンズ
17 偏向器
18 非点補正コイル
20 描画室
22 XYステージ
32 制御計算機
34 偏向制御回路
36 レンズ制御回路
38 コイル制御回路
40 マルチビーム検査用アパーチャ(検査アパーチャ)
50 電流検出器
60 描画データ処理部
61 描画制御部
62 ビーム画像作成部
63 特徴量算出部
67 最適コイル値検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10