(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20241106BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20241106BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20241106BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20241106BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F3/00 F
C22C28/00 A
C22C38/00 303D
C22C38/00 304
(21)【出願番号】P 2021049197
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】野澤 宣介
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/020181(WO,A1)
【文献】特開2015-057820(JP,A)
【文献】特開2007-194599(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093174(WO,A1)
【文献】特開2012-248827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057、41/02
B22F 3/00
C22C 28/00、38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系焼結磁石素材(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、TはFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、必ずFeを含む。)を準備する工程と、
前記R-T-B系焼結磁石素材の表面の少なくとも一部に、RL-RH-C-M系合金(RLは軽希土類元素のうちの少なくとも1つであり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、RHは、Tb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1つであり、Cはカーボンであり、Mは、Cu、Ga、Fe、Co、Ni、Al、Ag、Zn、Si、Snからなる群から選択された少なくとも1つである。)の少なくとも一部を付着させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程と、を含み、
前記R-T-B系焼結磁石素材は、Bに対するTのmol比[T]/[B]が14.0超15.0以下であり、
前記RL-RH-C-M系合金における、RLの含有量は50mass%以上95mass%以下であり、RHの含有量は45mass%以下(0mass%を含む)であり、Cの含有量は0.10mass%以上0.50mass%以下であり、Mの含有量は4mass%以上49.9mass%以下である、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記R-T-B系焼結磁石素材における、Bに対するTのmol比[T]/[B]が14.0超15.0以下である、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はR-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素であり、Tは主にFeであり、Bは硼素である)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。R-T-B系焼結磁石は、各種モータ等の小型、軽量化を通じて、省エネルギー、環境負荷低減に貢献している。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は、主としてR2T14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるR2T14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料であり、R-T-B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
R-T-B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という)が低下するため不可逆熱減磁が起こるという問題がある。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR-T-B系焼結磁石では、高温下でも高いHcJを有する、すなわち室温においてより高いHcJを有することが要求されている。
【0005】
R2T14B型化合物相中の軽希土類元素(主にNd、Pr)を重希土類元素(主にDy、Tb)で置換すると、HcJが向上することが知られている。しかし、HcJが向上する一方、R2T14B型化合物相の飽和磁化が低下するために残留磁束密度Br(以下、単に「Br」という)が低下してしまうという問題がある。
【0006】
特許文献1には、R-T-B系合金の焼結磁石の表面にDy等の重希土類元素を供給しつつ、重希土類元素RHを焼結磁石の内部に拡散させることが記載されている。特許文献1に記載の方法は、R-T-B系焼結磁石の表面から内部にDyを拡散させてHcJ向上に効果的な主相結晶粒の外殻部にのみDyを濃化させることにより、Brの低下を抑制しつつ、高いHcJを得ることができる。
【0007】
特許文献2には、R-T-B系焼結体の表面に特定組成のR-Ga-Cu合金を接触させて熱処理を行うことにより、R-T-B系焼結磁石中の粒界相の組成および厚さを制御してHcJを向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2007/102391号
【文献】国際公開第2016/133071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、近年特に電気自動車用モータなどにおいて高価な重希土類元素の使用量を低減しつつ、更にBrとHcJのバランスに優れた(Brの低下を抑制しつつ、高いHcJの)R-T-B系焼結磁石を得ることが求められている。
【0010】
本開示の様々な実施形態は、重希土類元素の使用量を低減しつつ、BrとHcJのバランスに優れたR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、例示的な実施形態において、R-T-B系焼結磁石素材(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、TはFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、必ずFeを含む。)を準備する工程と、前記R-T-B系焼結磁石素材の表面の少なくとも一部に、RL-RH-C-M系合金(RLは軽希土類元素のうちの少なくとも1つであり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、RHは、Tb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1つであり、Cはカーボンであり、Mは、Cu、Ga、Fe、Co、Ni、Al、Ag、Zn、Si、Snからなる群から選択された少なくとも1つである。)の少なくとも一部を付着させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程と、を含み、前記R-T-B系焼結磁石素材は、Bに対するTのmol比[T]/[B]が14.0超15.0以下であり、前記RL-RH-C-M系合金における、RLの含有量は50mass%以上95mass%以下であり、RHの含有量は45mass%以下(0mass%を含む)であり、Cの含有量は0.10mass%以上0.50mass%以下であり、Mの含有量は4mass%以上49.9mass%以下である。
【0012】
ある実施形態において、前記R-T-B系焼結磁石素材における、Bに対するTのmol比[T]/[B]が14.0超15.0以下である。
【発明の効果】
【0013】
本開示の実施形態によれば、重希土類元素の使用量を低減しつつ、BrとHcJのバランスに優れたR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】R-T-B系焼結磁石の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図1B】
図1Aの破線矩形領域内を更に拡大して模式的に示す断面図である。
【
図2】本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法における工程の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本開示によるR-T-B系焼結磁石の基本構造について説明をする。R-T-B系焼結磁石は、原料合金の粉末粒子が焼結によって結合した構造を有しており、主としてR2T14B化合物粒子からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。
【0016】
図1Aは、R-T-B系焼結磁石の一部を拡大して模式的に示す断面図であり、
図1Bは
図1Aの破線矩形領域内を更に拡大して模式的に示す断面図である。
図1Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。
図1Aおよび
図1Bに示されるように、R-T-B系焼結磁石は、主としてR
2T
14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。また、粒界相14は、
図1Bに示されるように、2つのR
2T
14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つのR
2T
14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。典型的な主相結晶粒径は磁石断面の円相当径の平均値で3μm以上10μm以下である。主相12であるR
2T
14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料である。したがって、R-T-B系焼結磁石では、主相12であるR
2T
14B化合物の存在比率を高めることによってB
rを向上させることができる。R
2T
14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R
2T
14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。なお、R
2T
14B化合物のBの一部はCで置換することが可能である。
また、主相であるR
2T
14B化合物のRの一部をDy、Tb、Hoなどの重希土類元素で置換することによって飽和磁化を下げつつ、主相の異方性磁界を高められることが知られている。特に二粒子粒界相と接する主相外殻は磁化反転の起点となりやすいため、主相外殻に優先的に重希土類元素を置換できる重希土類拡散技術は、飽和磁化の低下を抑制しつつ効率的に高いH
cJが得られる。
一方、二粒子粒界相14aの磁性を制御することによっても、高いH
cJが得られることが知られている。具体的には二粒子粒界相中の磁性元素(Fe、Co、Ni等)の濃度を下げることによって、二粒子粒界相を非磁性に近づけることで、主相同士の磁気的な結合を弱めて磁化反転を抑制することができる。
【0017】
本発明者は検討の結果、特許文献2に記載の方法は、重希土類元素の使用量を低減しつつ、高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石が得られるものの、拡散によるBrの低下が起こる場合があることがわかった。このBrの低下は、拡散により磁石表面付近のR量(特にRL)が多くなることで、磁石表面付近における主相の体積比率が低下するためだと考えられる。こられの知見をもとに本発明者はさらに検討の結果、R-T-B系焼結磁石素材表面から粒界を通じて磁石素材内部へ、狭い特定範囲のCを特定範囲のRLおよびMとともに拡散させることで、磁石表面付近の主相の体積比率の低下を抑制することが可能になることを見出した。これにより拡散によるBrの低下を抑制させることができるため、重希土類元素の使用量を低減しつつ、BrとHcJのバランスに優れたR-T-B系焼結磁石を得ることができる。これは、磁石表面付近の粒界に存在するFeと拡散によって導入されたRLが、同じく拡散によって導入されたC(Bと置換可能なC)により主相を形成するからだと考えられる。
【0018】
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、
図2に示すように、R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程S10とRL-RH-C-M系合金を準備する工程S20とを含む。R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程S10とRL-RH-C-M系合金を準備する工程S20との順序は任意である。
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、
図2に示すように、更に、R-T-B系焼結磁石素材表面の少なくとも一部にRL-RH-C-M系合金の少なくとも一部を付着させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程S30を含む。
【0019】
なお、本開示において、拡散工程前および拡散工程中のR-T-B系焼結磁石を「R-T-B系焼結磁石素材」と称し、拡散工程後のR-T-B系焼結磁石を単に「R-T-B系焼結磁石」と称する。
【0020】
(R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程)
R-T-B系焼結磁石素材において、Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、TはFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、必ずFeを含む。Rの含有量は、例えば、R-T-B系焼結磁石素材全体の27mass%以上35mass%以下である。T全体に対するFeの含有量が80mass%以上であることが好ましい。
Rが27mass%未満では焼結過程で液相が十分に生成せず、焼結体を充分に緻密化することが困難になる可能性がある。一方、Rが35mass%を超えると焼結時に粒成長が起こり、HcJが低下する可能性がある。Rは28mass%以上33mass%以下であることが好ましい。
【0021】
R-T-B系焼結磁石素材は例えば、以下の組成範囲を有する。
R:27~35mass%、
B:0.80~1.20mass%、
Ga:0~1.0mass%、
X:0~2mass%(XはCu、Nb、Zrの少なくとも一種)、
T:60mass%以上を含有する。
【0022】
好ましくは、R-T-B系焼結磁石素材において、Bに対するTのmol比[T]/[B]が14.0超15.0以下である。より高いHcJを得ることができる。本開示における[T]/[B]とは、Tを構成する各元素(Fe、Co、Al、MnおよびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、Tは必ずFeを含み、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上)の分析値(mass%)をそれぞれの元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの[T]と、Bの分析値(mass%)をBの原子量で除したもの[B]との比である。mol比[T]/[B]が14.0を超えるという条件は、主相(R2T14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が少ないことを示している。mol比[T]/[B]は14.3以上15.0以下であることがさらに好ましい。さらに高いHcJを得ることができる。Bの含有量はR-T-B系焼結体全体の0.9mass%以上1.0mass%未満が好ましい。
【0023】
R-T-B系焼結磁石素材は、Nd-Fe-B系焼結磁石に代表される一般的なR-T-B系焼結磁石の製造方法を用いて準備することができる。一例を挙げると、ストリップキャスト法等で作製された原料合金を、ジェットミルなどを用いて粒径D50が2.0μm以上5.0μm以下に粉砕した後、磁界中で成形し、900℃以上1100℃以下の温度で焼結することにより焼結体を作製して準備することができる。粒径D50が2.0μm以上5μm以下に粉砕することにより、高い磁気特性を得ることができる。好ましくは、粒径D50は、2.5μm以上4.0μm以下である。生産性の悪化を抑制した上で貴重なRHを削減しつつ、よりBrとHcJのバランスに優れたR-T-B系焼結磁石を得ることができる。なお、前記D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られる粒度分布において、小径側からの積算粒度分布(体積基準)が50%になる粒径である。また、D50は、例えば、Sympatec社製の粒度分布計測装置「HELOS&RODOS」を用いて、分散圧:4bar、測定レンジ:R2、計測モード:HRLDの条件にて測定することができる。
【0024】
(RL-RH-C-M系合金を準備する工程)
前記RL-RH-C-M系合金において、RLは軽希土類元素のうちの少なくとも1つであり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、RHは、Tb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1つであり、Cはカーボンであり、Mは、Cu、Ga、Fe、Co、Ni、Al、Ag、Zn、Si、Snからなる群から選択された少なくとも1つである。RLの含有量は、RL-RH-C-M系合金全体の50mass%以上95mass%以下である。軽希土類元素は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Euなどが挙げられる。RHの含有量は、RL-RH-C-M系合金全体の45mass%以下(0mass%を含む)である。すわなち、RHは含有しなくてもよい。Cの含有量は、RL-RH-C-M系合金全体の0.10mass%以上0.50mass%以下である。Mの含有量は、RL-RH-C-M系合金全体の4mass%以上49.9mass%以下である。RL-RH-C-M系合金の典型例は、TbNdPrCCu合金、TbNdCePCCu合金、TbNdPrCCuFe合金、TbNdCGa合金、TbNdPrCGaCu合金、TbNdCGaCuFe合金、NdPrTbCCuGaAl合金などである。上記元素の他にMn、O、N等の不可避不純物等の元素を少量含有してもよい。
【0025】
RL+RHが50mass%未満であると、RH、CおよびMがR-T-B系焼結磁石素材内部に導入されにくくなり、HcJが低下する可能性があり、95mass%を超えるとRL-RH-C-M系合金の製造工程中における合金粉末が非常に活性になる。その結果、合金粉末の著しい酸化や発火などを生じる可能性がある。好ましくは、RL+RHの含有量はRL-RH-C-M系合金全体の70mass%以上80mass%以下である。より高いHcJを得ることができる。
【0026】
RHが45mass%を超えると希少元素である重希土類元素の使用量を低減しつつ、BrとHcJのバランスに優れたR-T-B系焼結磁石を得ることができない。好ましくは、RHの含有量は、RL-RH-C-M系合金全体の20mass%以下である。また、RL-RH-C-M系合金における前記RLおよび前記RHの合計含有量は、RL-RH-C-M系合金全体の55mass%以上であることが好ましい。これにより、高いHcJを得ることができる。また、RL-RH-C-M系合金におけるRLの含有量(mass%)を[RL]、RHの含有量を[RH]とするとき、[RL]>1.5×[RH]の関係を満足することが好ましい。これにより、より重希土類元素の使用量を低減しつつ、BrとHcJのバランスに優れたR-T-B系焼結磁石を得ることができる。
【0027】
Cが0.10mass%未満であると、磁石表面付近の磁石表面付近の主相の体積比率の低下を抑制できない可能性があり、0.50mass%を超えると、RLおよびBによるHcJ向上効果が低下する可能性がある。好ましくは、Cの含有量は、RL-RH-C-M系合金全体の0.20mass%以上0.50mass%以下である。よりBrとHcJのバランスに優れたR-T-B系焼結磁石を得ることができる。
【0028】
Mが4mass%未満であるとRL、BおよびRHが二粒子粒界相に導入されにくくなり、HcJが十分に向上しない可能性があり、49.9mass%を超えるとRLおよびBの含有量が低下しHcJが十分に向上しない可能性がある。好ましくは、Mの含有量は、RL-RH-C-M系合金全体の7mass%以上15mass%以下である。より高いHcJを得ることができる。好ましくは、前記RL-RH-C-M系合金のMは、Cu、Ga、Feの少なくとも1つを必ず含み、M中のCu、Ga、Feの含有割合は80%以上であると、より高いHcJを得ることができる。
【0029】
RL-RH-C-M系合金の作製方法は、特に限定されない。ロール急冷法によって作製してもよいし、鋳造法で作製してもよい。また、これらの合金を粉砕して合金粉末にしてもよい。遠心アトマイズ法、回転電極法、ガスアトマイズ法、プラズマアトマイズ法などの公知のアトマイズ法で作製してもよい。
【0030】
(拡散工程)
前述のように準備したR-T-B系焼結磁石素材の表面の少なくとも一部に、準備したRL-RH-C-M系合金の少なくとも一部を付着させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程を行う。これにより、RL-RH-C-M系合金からRL、C、(RH)およびMを含む液相が生成し、その液相がR-T-B系焼結磁石素材中の粒界を経由して焼結素材表面から内部に拡散導入される。また、RL-RH-C-M系合金によるR-T-B系焼結磁石素材への付着量は1mass%以上8mass%以下が好ましく、1mass%以上5mass%以下がさらに好ましい。この範囲にすることにより、より確実に重希土類元素の使用量を低減しつつ、高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることができる。
【0031】
拡散工程における加熱する温度が700℃未満であると、高いHcJを得ることができない可能性がある。一方、1100℃を超えるとHcJが大幅に低下する可能性がある。好ましくは、拡散工程における加熱する温度は800℃以上1000℃以下である。より高いHcJを得ることができる。また、好ましくは、拡散工程(700℃以上1100℃以下)が実施されたR-T-B系焼結磁石に対し、拡散工程を実施した温度から15℃/分以上の冷却速度で300℃まで冷却した方が好ましい。より高いHcJを得ることができる。
【0032】
拡散工程は、R-T-B系焼結磁石素材表面に、任意形状のRL-RH-C-M系合金を配置し、公知の熱処理装置を用いて行うことができる。例えば、R-T-B系焼結磁石素材表面をRL-RH-C-M系合金の粉末層で覆い、拡散工程を行うことができる。例えば、塗布対象の表面に粘着剤を塗布する塗布工程と、粘着剤を塗布した領域にRL-RH-C-M系合金を付着させる工程を行ってもよい。粘着剤としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、PVP(ポリビニルピロリドン)などが挙げられる。粘着剤が水系の粘着剤の場合、塗布の前にR-T-B系焼結磁石素材を予備的に加熱してもよい。予備加熱の目的は余分な溶媒を除去し粘着力をコントロールすること、及び、均一に粘着剤を付着させることである。加熱温度は60~200℃が好ましい。揮発性の高い有機溶媒系の粘着剤の場合はこの工程は省略してもよい。また、例えばRL-RH-C-M系合金を分散媒中に分散させたスラリーをR-T-B系焼結磁石素材表面に塗布した後、分散媒を蒸発させRL-RH-C-M系合金とR-T-B系焼結磁石素材とを付着させてもよい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、アルデヒドおよびケトンを例示できる。
また、RL-RH-C-M系合金の少なくとも一部がR-T-B系焼結磁石素材の少なくとも一部に付着していれば、その配置位置は特に問わない。
【0033】
(熱処理工程)
好ましくは、
図2に示すように、拡散工程が実施されたR-T-B系焼結磁石に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、400℃以上900℃以下で、かつ、前記拡散工程で実施した温度よりも低い温度で熱処理を行う。熱処理は複数回行ってもよい。熱処理を行うことにより、より高いH
cJを得ることができる。
【0034】
(R-T-B系焼結磁石)
本開示の製造方法により得られたR-T-B系焼結磁石は、R(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含む。)、T(TはFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、必ずFeを含む)、BおよびCを含有し、さらに、Cu、Ga、Ni、Ag、Zn、Snからなる群から選択された少なくとも1つを含有する。
【0035】
本開示のR-T-B系焼結磁石は、例えば、下記の組成を有し得る。
【0036】
R:26.8mass%以上31.5mass%以下、
B:0.90mass%以上0.97mass%以下、
C:0.08mass%以上0.30mass%以下、
M:0.05mass%以上1.0mass%以下(Mは、Ga、Cu、ZnおよびSiからなる群から選択された少なくとも1種である)、
M1:0mass%以上2.0mass%以下(M1は、Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種)
残部T(TはFe又はFeとCo)、および不可避的不純物からなる。
本開示は、重希土類元素の使用量を低減しつつ、BrとHcJのバランスに優れたR-T-B系焼結磁石を有することができる。そのため、特にTbは、R-T-B系焼結磁石全体の5mass%以下(0mass%を含む)が好ましく、さらに1mass%以下が好ましく、さらに0.5mass%以下が好ましい。
【0037】
また、本開示のR-T-B系焼結磁石は磁石表面から磁石内部に向かってRH(例えばTb)濃度が漸減する部分を含んでもよい。磁石表面から磁石内部に向かってRH濃度が漸減する部分をR-T-B系焼結磁石は含むということは、RHの少なくとも一方が磁石表面から磁石内部に拡散された状態にあることを意味している。
【実施例】
【0038】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0039】
実験例1
[R-T-B系焼結磁石素材(磁石素材)を準備する工程]
表1の符号1-Aに示す磁石素材の組成となるように、各元素を秤量しストリップキャスト法により鋳造し、厚み0.2~0.4mmのフレーク状の原料合金を得た。得られたフレーク状の原料合金を水素粉砕した後、550℃まで真空中で加熱後冷却する脱水素処理を施し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉を気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて粉砕し、粒径D50が3μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。なお、粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積中心値(体積基準メジアン径)である。
【0040】
前記微粉砕粉を磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0041】
得られた成形体を、真空中で4時間焼結(サンプル毎に焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)した後急冷し、磁石素材を得た。得られた磁石素材の密度は7.5Mg/m3 以上であった。得られた磁石素材の成分の結果を表1に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。なお、磁石素材の酸素量をガス融解-赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.2mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼-赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。表1における「[T]/[B]」は、Tを構成する各元素(ここではFe、Al、Si、Mn)に対し、分析値(mass%)をその元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの(a)と、Bの分析値(mass%)をBの原子量で除したもの(b)との比(a/b)である。以下の全ての表も同様である。なお、表1の各組成および酸素量、炭素量を合計しても100mass%にはならない。これは、表に記載された元素以外の不純物元素を含むためである。その他表についても同様である。
【0042】
【0043】
[RL-RH-C-M系合金を準備する工程]
表2の符号1-a~1-eに示すRL-RH-C-M系合金の組成となるように、各元素を秤量しそれらの原料を溶解して、単ロール超急冷法(メルトスピニング法)によりリボンまたはフレーク状の合金を得た。得られた合金を乳鉢を用いてアルゴン雰囲気中で粉砕しRL-RH-C-M系合金を準備した。得られたRL-RH-C-M系合金の組成を表2に示す。
【0044】
【0045】
[拡散工程]
表1の符号1-AのR-T-B系焼結磁石素材を切断、切削加工し、7.2mm×7.2mm×7.2mmの立方体とした。次に、R-T-B系焼結磁石素材にディッピング法により糖アルコール類を含有する粘着剤をR-T-B系焼結磁石素材の全面に塗布した。粘着剤を塗布したR-T-B系焼結磁石素材にRL-RH-C-M系合金粉末をR-T-B系焼結磁石素材の質量に対し3mass%付着させた。次に、真空熱処理炉を用いて900℃で10時間の条件で前記RL-RH-C-M系合金及び前記R-T-B系焼結磁石素材を加熱して拡散工程を実施した後、冷却した。その後、真空熱処理炉を用いて470℃以上530℃以下で3時間の条件で熱処理を実施した後、冷却した。
【0046】
[サンプル評価]
R-T-B系焼結磁石素材および得られたサンプル(熱処理後のR-T-B系焼結磁石)を、B-Hトレーサによって各試料のBr及びHcJを測定した。R-T-B系焼結磁石のBrおよびHcJの測定結果、及び、R-T-B系焼結磁石のBr値(拡散後のBr)からR-T-B系焼結磁石素材のBr値(拡散前のBr)を差し引いた値を△Brとして表3に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した結果を表4に示す。表3の通りR-T-B系焼結磁石素材であるサンプルNo.1-1を用いてRL-RH-C-M系合金を拡散させたサンプルNo.1-3~1-4の実施例は、いずれも拡散工程で高いHcJが得られているだけでなく、Brの低下が少ないことが分かる。よって、BrとHcJのバランスに優れた(Brの低下を抑制しつつ、高いHcJの)R-T-B系焼結磁石が得られている。一方、C量が適正範囲以下のRL-RH-C-M系合金を拡散させたサンプルNo.1-2の比較例は拡散工程で高いHcJが得られているもののBrが大きく低下していることが分かる。また、C量が適正範囲以上のRL-RH-C-M系合金を拡散させたサンプルNo.1-5および1-6の比較例はBrの低下は少ないが、十分なHcJが得られていないことが分かる。
【0047】
【0048】
【0049】
実験例2
[R-T-B系焼結磁石素材(磁石素材)を準備する工程]
表5の符号2-A~2-Bに示す磁石素材の組成となるように、各元素を秤量しストリップキャスト法により鋳造し、厚み0.2~0.4mmのフレーク状の原料合金を得た。得られたフレーク状の原料合金を水素粉砕した後、550℃まで真空中で加熱後冷却する脱水素処理を施し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉を気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて粉砕し、粒径D50が3μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。なお、粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積中心値(体積基準メジアン径)である。
【0050】
前記微粉砕粉を磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0051】
得られた成形体を、真空中、1000℃以上1050℃以下(サンプル毎に焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)で10時間焼結した後急冷し、磁石素材を得た。得られた磁石素材の密度は7.5Mg/m3 以上であった。得られた磁石素材の成分の結果を表5に示す。なお、表5における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。なお、磁石素材の酸素量をガス融解-赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.2mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼-赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。
【0052】
【0053】
[RL-RH-C-M系合金を準備する工程]
表6の符号2-a~2-eに示すRL-RH-C-M系合金の組成およびBを含まない合金の組成となるように、各元素を秤量しそれらの原料を溶解して、単ロール超急冷法(メルトスピニング法)によりリボンまたはフレーク状の合金を得た。得られた合金を乳鉢を用いてアルゴン雰囲気中で粉砕しRL-RH-C-M系合金を準備した。得られたRL-RH-C-M系合金の組成を表6に示す。
【0054】
【0055】
[拡散工程]
表5の符号2-A~2-BのR-T-B系焼結磁石素材を切断、切削加工し、7.2mm×7.2mm×7.2mmの立方体とした。次に、R-T-B系焼結磁石素材にディッピング法により糖アルコール類を含有する粘着剤をR-T-B系焼結磁石素材の全面に塗布した。粘着剤を塗布したR-T-B系焼結磁石素材にRL-RH-C-M系合金粉末をR-T-B系焼結磁石素材の質量に対し3mass%付着させた。次に、真空熱処理炉を用いて900℃で10時間の条件で前記RL-RH-C-M系合金及び前記R-T-B系焼結磁石素材を加熱して拡散工程を実施した後、冷却した。その後、真空熱処理炉を用いて470℃以上530℃以下で1時間の条件で熱処理を実施した後、冷却した。
【0056】
[サンプル評価]
R-T-B系焼結磁石素材および得られたサンプル(熱処理後のR-T-B系焼結磁石)を、B-Hトレーサによって各試料のBr及びHcJを測定した。R-T-B系焼結磁石のBrおよびHcJの測定結果、及び、R-T-B系焼結磁石のBr値(拡散後のBr)からR-T-B系焼結磁石素材のBr値(拡散前のBr)を差し引いた値を△Brとして表7に示す。表7の通りR-T-B系焼結磁石素材であるサンプルNo.2-1、サンプルNo.2-7を用いてRL-RH-C-M系合金を拡散させたサンプルNo.2-3~2-5、サンプルNo.2-9~2-10の実施例は、いずれも拡散工程で高いHcJが得られているだけでなく、Brの低下が少ないことが分かる。よって、BrとHcJのバランスに優れたR-T-B系焼結磁石が得られている。一方、C量が適正範囲以下のRL-RH-C-M系合金を拡散させたサンプルNo.2-2、No.2-8の比較例は拡散工程で高いHcJが得られているもののBrが大きく低下しており、また、サンプルNo.2-6、サンプルNo.2-11の比較例は、Brの低下は少ないが、十分なHcJが得られていないことが分かる。
【0057】
【0058】
12 R2T14B化合物からなる主相
14 粒界相
14a 二粒子粒界相
14b 粒界三重点