(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】音響システム
(51)【国際特許分類】
H04R 1/40 20060101AFI20241106BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20241106BHJP
G10K 11/178 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H04R1/40 310
H04R3/00 310
G10K11/178
(21)【出願番号】P 2022147528
(22)【出願日】2022-09-16
(62)【分割の表示】P 2021133104の分割
【原出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】福井 勝宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 和則
【審査官】川▲崎▼ 博章
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-051698(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0233747(US,A1)
【文献】特開2006-270409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/40
H04R 3/00
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の音源の音響信号に基づく音を放音するスピーカユニット(以下、正のスピーカユニットという)と前記音響信号と逆位相の音響信号に基づく音を放音するスピーカユニット(以下、負のスピーカユニットという)とを含むスピーカユニットペアを少なくとも1つ含むスピーカシステム
を含む音響システムであって、
前記スピーカユニットペアの正のスピーカユニットと負のスピーカユニットは、いずれもスピーカボックスに収納されて
おらず、
前記スピーカユニットペアには、前記スピーカユニットペアの正のスピーカユニットと負のスピーカユニットからユーザと対向する方向と逆方向に放音された音を吸収するための部材が取り付けられており、
前記スピーカユニットペアがユーザと対向する方向をユーザ方向とし、
前記スピーカユニットペアの正のスピーカユニットと負のスピーカユニットは、当該正のスピーカユニットから前記ユーザ方向と逆方向に放音される音と当該負のスピーカユニットから前記ユーザ方向と逆方向に放音される音が回り込みにより前記ユーザ方向に伝わるように配置され、
前記スピーカユニットペアの近傍でのみ前記スピーカユニットペアの正のスピーカユニットと負のスピーカユニットから放音された音を聴きとることが可能となる
音響システム。
【請求項2】
所定の音源の音響信号に基づく音を放音するスピーカユニット(以下、正のスピーカユニットという)と前記音響信号と逆位相の音響信号に基づく音を放音するスピーカユニット(以下、負のスピーカユニットという)とを含むスピーカユニットペアを少なくとも1つ含むスピーカシステム
を含む音響システムであって、
前記スピーカユニットペアの正のスピーカユニットの正面と負のスピーカユニットの正面は、略同一平面上に配置されて
おり、
前記スピーカユニットペアには、前記スピーカユニットペアの正のスピーカユニットと負のスピーカユニットからユーザと対向する方向と逆方向に放音された音を吸収するための部材が取り付けられており、
前記スピーカユニットペアがユーザと対向する方向をユーザ方向とし、
前記スピーカユニットペアの正のスピーカユニットと負のスピーカユニットは、当該正のスピーカユニットから前記ユーザ方向と逆方向に放音される音と当該負のスピーカユニットから前記ユーザ方向と逆方向に放音される音が回り込みにより前記ユーザ方向に伝わるように配置され、
前記スピーカユニットペアの近傍でのみ前記スピーカユニットペアの正のスピーカユニットと負のスピーカユニットから放音された音を聴きとることが可能となる
音響システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の音響システムであって、
前記スピーカユニットペアは、ユーザの頭部に近い箇所に設置される
ことを特徴とする音響システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の音響システムであって、
前記スピーカユニットペアには、前記スピーカユニットペアの正のスピーカユニットと負のスピーカユニットからユーザと対向する方向と逆方向に放音された音が前記ユーザと対向する方向に回り込んでくる音の経路が長くなるようにするための部材が取り付けられている
ことを特徴とする音響システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機や自動車などの座席に設置されるオーディオシステムで利用することができる、音の再生技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ユーザは、航空機内で映画や音楽を視聴するために、イヤホンやヘッドホンを利用していた(非特許文献1参照)。これは、スピーカを用いると、ユーザの周辺にまで再生音が届き、他のユーザの迷惑になるためである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】機内エンターテインメント/JALファーストクラス, [online],[令和2年3月10日検索],インターネット <URL: https://www.jal.co.jp/jp/ja/inter/service/first/entertainment/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、イヤホンやヘッドホンの装着は、ユーザにとってわずらわしさがある。また、髪型が乱れることなどを理由に、装着を好まないユーザもいる。装着による耳への圧迫を嫌うユーザもいる。さらには、イヤホンやヘッドホンの長時間の装着は、ユーザに聴き疲れを感じさせることもある。
【0005】
イヤホンやヘッドホンの装着を不要とするため、波面合成技術を用いて仮想の音場を合成することも考えられるが、この場合、大規模なスピーカアレイを準備する必要があり、現実的ではない。
【0006】
そこで本発明では、イヤホンやヘッドホンを用いることなく周囲のユーザに聴きとれない音を再生する、航空機や自動車などの座席を利用するユーザのための音響システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、所定の音源の音響信号に基づく音を放音するスピーカユニット(以下、正のスピーカユニットという)と前記音響信号と逆位相の音響信号に基づく音を放音するスピーカユニット(以下、負のスピーカユニットという)とを含むスピーカユニットペアを少なくとも1つ含むスピーカシステムを含む音響システムであって、前記スピーカユニットペアの正のスピーカユニットと負のスピーカユニットは、いずれもスピーカボックスに収納されていない。
【0008】
本発明の一態様は、所定の音源の音響信号に基づく音を放音するスピーカユニット(以下、正のスピーカユニットという)と前記音響信号と逆位相の音響信号に基づく音を放音するスピーカユニット(以下、負のスピーカユニットという)とを含むスピーカユニットペアを少なくとも1つ含むスピーカシステムを含む音響システムであって、前記スピーカユニットペアの正のスピーカユニットの正面と負のスピーカユニットの正面は、略同一平面上に配置されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ごく限られた狭い範囲でのみ聴きとることができる音を再生することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】スピーカから放音される音の指向性を説明するための図である。
【
図2】スピーカユニットから放音される音の指向性を説明するための図である。
【
図3】スピーカユニットペアから放音される音を説明するための図である。
【
図4】スピーカユニットペアから放音される音の指向性を説明するための図である。
【
図5】実験の様子(スピーカとマイクの位置関係)を示す図である。
【
図6】実験の様子(スピーカユニットとマイクの位置関係)を示す図である。
【
図7】実験の様子(スピーカユニットペアとマイクの位置関係)を示す図である。
【
図8】実験の様子(その他の測定位置)を示す図である。
【
図13】航空機の座席に設置された音響システムの一例を示す図である。
【
図14】音響システム100の構成の一例を示すブロック図である。
【
図15】音響システム102の構成の一例を示すブロック図である。
【
図16】部材1222を取り付けたスピーカユニットペア122の構成の一例を示す図である。
【
図17】音響システム104の構成の一例を示すブロック図である。
【
図18】音響システム200の構成の一例を示すブロック図である。
【
図19】音響システム300の構成の一例を示すブロック図である。
【
図20】音響システム106の構成の一例を示すブロック図である。
【
図21】部材1224を取り付けたスピーカユニットペア122の構成の一例を示す図である。
【
図22】音響システム108の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【0012】
<技術的背景>
まず、スピーカから放音される音の指向性について説明する。次に、本願発明のスピーカユニットペアから放音される音の指向性について説明する。最後に、本願発明のスピーカユニットペアの効果を確認する実験の結果について説明する。
【0013】
《1:スピーカから放音される音の指向性》
通常、スピーカは、スピーカユニットとスピーカボックスで構成される。スピーカユニットとは、電気信号である音響信号を空気の振動に変換する(つまり、音波を生成する)振動板を含む構成部である。また、スピーカボックスとは、スピーカユニットを収納する構成部である。
【0014】
音響信号がスピーカに入力されると、スピーカユニットの振動板が振動し、振動板が振動する両方向に音波が放射される。ここで、スピーカボックスの外側(つまり、スピーカユニットの正面方向)に放射される音波を正の音波、スピーカボックスの内側(つまり、スピーカユニットの背面方向)に放射される音波を負の音波という。負の音波は、正の音波の位相と逆の位相の音波である。
図1は、スピーカから放音される音の指向性を説明するための図である。
図1に示すように、正の音波はスピーカから全方位に放射されることになる一方、負の音波はスピーカボックスの外に出ることはない。その結果、スピーカから放音される音は広い範囲で聴こえることになる。
【0015】
《2:スピーカユニットペアから放音される音の指向性》
ここでは、まず、裸のスピーカであるスピーカユニットから放音される音の指向性について説明する。
図2は、スピーカユニットから放音される音の指向性を説明するための図である。スピーカユニットのみの場合、スピーカの場合と異なり、スピーカボックスの中に隠れているスピーカユニットの背面から負の音波が放射される。そのため、
図2に示すように、スピーカユニットから放音される音は、双指向性という特性を有する。
【0016】
本願発明では、この双指向性を利用する。以下、具体的に説明する。まず、
図3にあるように、スピーカユニットを2つ並べ、スピーカユニットペアを作る。このスピーカユニットペアに正負が逆の関係にある音響信号をそれぞれ入力すると、2つのスピーカユニットの振動板がそれぞれ振動し、これら2つの音響信号に基づく音を放音する。すると、
図4に示すように、スピーカユニットペアの近傍を除き、全方位の音が消去される。つまり、音が消去されるのは、スピーカユニットペアから十分に離れた位置のみであり、スピーカユニットペアの近傍では音は消去されない。スピーカユニットペアの近傍で音が消去されないのは、スピーカユニットペアの近傍ではスピーカユニットの正面から放射される音波と背面から回り込んでくる音波の位相がそろわないためである。
【0017】
つまり、スピーカユニットペアを構成する一つのスピーカユニットに所定の音響信号を、もう一つのスピーカユニットに当該所定の音響信号と逆位相の音響信号を入力すると、スピーカユニットペアの近傍でのみ音が聴こえるという性質を利用すると、スピーカユニットペアの近傍にいるユーザにのみ音が聴こえ、それ以外のユーザには音が聴こえないという状況を作り出すことが可能となる。
【0018】
《3:実験結果》
ここでは、スピーカ、スピーカユニット、スピーカユニットペアの周波数特性を測定する実験の結果について説明する。実験では、スピーカ、スピーカユニット、スピーカユニットペアとして、直径が4.5cmの振動板を有するスピーカ(
図5参照)、当該スピーカからスピーカボックスを外しスピーカユニットのみとしたもの(
図6参照)、当該スピーカユニットを2つ並べたもの(
図7参照)を用いた。また、スピーカ、スピーカユニット、スピーカユニットペアの近傍の周波数特性を測定するために、以下の4つの条件でマイクを設置した。
【0019】
(条件1)スピーカの正面から5cmの位置
(条件2)スピーカユニットの正面から5cmの位置
(条件3)スピーカユニットの正面から2cmの位置
(条件4)スピーカユニットペアの正面から2cmの位置
また、いずれの条件についても、比較のために、スピーカ、スピーカユニット、スピーカユニットペアの正面、背面、側面からそれぞれ100cmの位置にもマイクを設置した(
図8参照)。
【0020】
以下、実験結果について説明する。
図9、
図10、
図11、
図12は、実験結果を示す図であり、それぞれ条件1、条件2、条件3、条件4での周波数と減衰の関係を示す図である。いずれの図も4つの曲線が示されており、そのうち、矢印で指した1つの曲線が正面から5cmまたは2cmの位置にあるマイクで収音したものであり、それ以外の3つの曲線が正面、背面、側面から100cmの位置にあるマイクで収音したものとなっている。なお、正面から5cmまたは2cmの位置の曲線は、スピーカ等の近傍に位置するため、ゲインが非常に大きいものとなる。そこで、見やすくするため、正面から5cmの位置の曲線については、100cmの位置の3つの曲線より-25dBしてプロットしている。同様に、正面から2cmの位置の曲線については、-32dBしてプロットしている。
図9と
図10を比べてみると、スピーカを用いた場合、4つの曲線の間でほとんど差がない一方、スピーカユニットを用いた場合、正面から5cmの位置の曲線とそれ以外の3つの曲線の間では差があることがわかる。この差は低域であるほど著しい。また、
図11と
図12を比べてみると、スピーカユニットペアの方が、スピーカユニットより、正面から2cmの位置の曲線とそれ以外の3つの曲線の間での差が大きいこともわかる。
【0021】
以上、実験により、本願発明のスピーカユニットペアから放音される音はスピーカユニットペアの近傍でのみ聴こえることが確認された。
【0022】
<第1実施形態>
再生対象物に基づいて得られる音響信号を再生するシステムを音響システムという。音響システムは、音響信号を音(以下、この音のことを音響信号に基づく音という)として放音するためにスピーカシステムを含む。ここで、スピーカシステムは、アナログ信号である音響信号を音に変換する装置である。また、再生対象物とは、例えば、CD、DVD、レコードに記録されたデータや、インターネットにより受信されたデータや、ラジオ放送、テレビ放送により受信された信号のように、所定の処理により音響信号を得ることができるデータや信号のことである。
【0023】
ここでは、スピーカシステムの近傍にいるユーザにのみ再生対象物から得られる音響信号に基づく音が聴きとれるように再生する音響システムについて説明する。つまり、音響システムの再生音は、スピーカシステムの近傍にいるユーザ以外のユーザには聴きとれない。このような音響システムを、例えば、航空機の座席を利用するユーザのための音響システムとして利用すると、当該座席を利用するユーザのみ再生音を聴きとることができるシステムを提供することができる。
図13は、航空機の座席に設置された音響システムの一例を示す図である。
図13の音響システムは、着席したユーザの頭部を挟むように座席に設置されており、2つのスピーカユニットペアが左右の耳の近傍にくるように配置されている。なお、このような音響システムは、自動車、電車などの航空機の以外の乗り物や、リクライニングチェアなどにも設置することができるし、肩に乗せるなどウェアラブルな形態でも設置することができる。また、ヘッドホンやイヤホンの左右の各ユニットに、上記スピーカユニットペアに相当する、ドライバユニットを2つ並べたドライバユニットペアを設置することとしてもよい。ヘッドホンは、一般に開放型(オープンエア型)と密閉型(クローズド型)の2つに大別されるが、特に音漏れの心配がある開放型について上記技術を適用すると、音漏れが低減することが期待される。
【0024】
以下、
図14を参照して音響システム100を説明する。
図14は、音響システム100の構成を示すブロック図である。
図14に示すように音響システム100は、再生装置110と、スピーカシステム120を含む。再生装置110は、N個(ただし、Nは1以上の整数)の再生部112(つまり、第1再生部112、…、第N再生部112)を含む。また、スピーカシステム120は、N個のスピーカユニットペア122(つまり、第1スピーカユニットペア122、…、第Nスピーカユニットペア122)を含む。スピーカユニットペア122は、2つのスピーカユニット(つまり、正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221)を含む。負のスピーカユニット1221には、正のスピーカユニット1221に入力される音響信号と逆位相の音響信号が入力される。スピーカシステム120は、座席を利用するユーザの頭部に近い箇所に設置される。
【0025】
なお、第nスピーカユニットペア122がユーザと対向する方向を第nユーザ方向(n=1, …, N)とし、第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221は、当該正のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音される音と当該負のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音される音が回り込みにより第nユーザ方向に伝わるように配置されるようにする。ここで、第nユーザ方向とは、第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221の正面方向のことである。また、第nユーザ方向と逆方向とは、第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221の背面方向のことである。
【0026】
また、第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221は、当該正のスピーカユニット1221から放音される音と当該負のスピーカユニット1221から放音される音が他の座席を利用するユーザには聴きとれないように互いに消去される位置関係で配置されるようにする。
【0027】
以下、
図14に従い音響システム100の動作について説明する。
【0028】
再生装置110は、再生対象物に基づいて得られる音響信号である第1音響信号、第3音響信号、…、第2N-1音響信号を入力とし、第1音響信号、第2音響信号、…、第2N音響信号を出力する。より具体的には、第n再生部112(n=1, …, N)は、第2n-1音響信号を入力とし、第2n-1音響信号から第2n-1音響信号と逆位相の音響信号である第2n音響信号を生成し、第2n-1音響信号と第2n音響信号を出力する。第2n-1音響信号、第2n音響信号は、それぞれ第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221に入力される。
【0029】
スピーカシステム120は、再生装置110が出力した第1音響信号、第2音響信号、…、第2N音響信号を入力とし、第1音響信号に基づく音、第2音響信号に基づく音、…、第2N音響信号に基づく音を放音する。より具体的には、第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)は、第2n-1音響信号と第2n音響信号を入力とし、第2n-1音響信号に基づく音を正のスピーカユニット1221から放音し、第2n音響信号に基づく音を負のスピーカユニット1221から放音する。第2n-1音響信号と第2n音響信号は、互いに逆位相の関係にあるため、<技術的背景>で説明したように、スピーカシステム120が設置された座席の近傍でのみ音が聴こえる。例えば、N=2の場合において、第1音響信号、第3音響信号をそれぞれある音源の右チャネルの音響信号、左チャネルの音響信号とすると、スピーカシステム120が設置された座席の近傍でのみステレオの音が聴くことができる。
【0030】
なお、第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221から第nユーザ方向に放音された音と第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音された音は、互いに逆位相の関係となる。同様に、第nスピーカユニットペア122の負のスピーカユニット1221から第nユーザ方向に放音された音と第nスピーカユニットペア122の負のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音された音は、互いに逆位相の関係となる。
【0031】
本発明の実施形態によれば、スピーカシステムの近傍というごく限られた狭い範囲でのみ聴きとることができる音を再生することが可能となる。
【0032】
<第2実施形態>
第1実施形態の音響システム100は、放音された音が聴こえる範囲、いわゆるスイートスポットが狭い。ここでは、スイートスポットを大きくする構造を有する音響システムについて説明する。
【0033】
以下、
図15を参照して音響システム102を説明する。
図15は、音響システム102の構成を示すブロック図である。
図15に示すように音響システム102は、音響システム100と同様、再生装置110と、スピーカシステム120を含む。しかし、音響システム102は、スピーカユニットペア122に部材1222が取り付けられている点において、音響システム100と異なる。
【0034】
以下、
図15に従い第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)の構造について説明する。
【0035】
第nスピーカユニットペア122には、第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音された音がユーザ方向に回り込んでくる音の経路が長くなるようにするための部材1222が取り付けられている(
図16参照)。部材1222は、例えば、スピーカユニットの背面からの音の回り込みを防ぐ仕切り板のような部材でよい。この部材1222は、音の回り込みを防ぐのではなく、背面から回り込む音と正面からの音との位相差が大きくなるようにする、つまり、回り込んでくる音の経路が長くなるようにするために取り付けられるものである。
【0036】
部材1222が取り付けられた第nスピーカユニットペア122は、第1実施形態の第nスピーカユニットペア122に比べて、スイートスポットが大きくなる。
【0037】
本発明の実施形態によれば、スピーカシステムの近傍というごく限られた狭い範囲でのみ聴きとることができる音を再生することが可能となる。
【0038】
<第3実施形態>
高域の音は波長が短いため、背面から回り込む音と正面からの音の位相がそろいにくい。そのため、高域の音は、低域の音に比べてスピーカユニットの近傍でも近傍以外の比較的離れた場所でも消去されにくいという特徴がある。第1実施形態の音響システム100を構成するスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221は、いずれもスピーカボックスに収納されていないため、上記特徴により、高域の音が聴こえる範囲が広く、音漏れとなることもある。そこで、ここでは、高域の音がスピーカシステムの近傍以外に漏れにくい構造を有する音響システムについて説明する。
【0039】
以下、
図17を参照して音響システム104を説明する。
図17は、音響システム104の構成を示すブロック図である。
図17に示すように音響システム104は、音響システム100と同様、再生装置110と、スピーカシステム120を含む。しかし、音響システム104は、スピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221の各々にツイータ1223が付属する点において、音響システム100と異なる。ここで、ツイータとは、高域の信号を再生するためのスピーカユニットである。なお、ツイータ1223は、スピーカボックスに収納されているかのごとく、背面からの音が漏れない形で、正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221に付属しているものとする。
【0040】
以下、
図17に従いスピーカシステム120の動作について説明する。
【0041】
スピーカシステム120は、再生装置110が出力した第1音響信号、第2音響信号、…、第2N音響信号を入力とし、第1音響信号に基づく音、第2音響信号に基づく音、…、第2N音響信号に基づく音を放音する。より具体的には、第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)は、第2n-1音響信号と第2n音響信号を入力とし、第2n-1音響信号に基づく音を正のスピーカユニット1221と正のスピーカユニット1221に付属するツイータ1223から放音し、第2n音響信号に基づく音を負のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221に付属するツイータ1223から放音する。
【0042】
高域の音ほど直進性が高いという性質があるが、ツイータ1223の背面からの音が漏れない形になっているため、ツイータ1223から放音される高域の音は、全方位に音が漏れることを防ぐことができる。
【0043】
本発明の実施形態によれば、スピーカシステムの近傍というごく限られた狭い範囲でのみ聴きとることができる音を再生することが可能となる。
【0044】
<第4実施形態>
ツイータは、高域の信号を再生するためのスピーカユニットである。そこで、帯域分割処理により、高域の信号のみツイータに入力するようにしてもよい。そこで、ここでは、帯域分割処理を行う音響システムについて説明する。
【0045】
以下、
図18を参照して音響システム200を説明する。
図18は、音響システム200の構成を示すブロック図である。
図18に示すように音響システム200は、再生装置110と、帯域分割装置210と、スピーカシステム120を含む。帯域分割装置210は、N個の帯域分割部212(つまり、第1帯域分割部212、…、第N帯域分割部212)を含む。音響システム200は、帯域分割装置210を含む点において、音響システム104と異なる。
【0046】
以下、
図18に従い帯域分割装置210、スピーカシステム120の動作について説明する。
【0047】
帯域分割装置210は、再生装置110が出力した第1音響信号、第2音響信号、…、第2N音響信号を入力とし、第1音響信号の高域の信号である第1高域信号と低域の信号である第1低域信号、第2音響信号の高域の信号である第2高域信号と低域の信号である第2低域信号、…、第2N音響信号の高域の信号である第2N高域信号と低域の信号である第2N低域信号を出力する。より具体的には、第n帯域分割部212(n=1, …, N)は、第2n-1音響信号と第2n音響信号を入力とし、第2n-1音響信号の高域の信号である第2n-1高域信号と低域の信号である第2n-1低域信号を生成し、第2n音響信号の高域の信号である第2n高域信号と低域の信号である第2n低域信号を生成し、第2n-1高域信号、第2n-1低域信号、第2n高域信号、第2n低域信号を出力する。
【0048】
スピーカシステム120は、帯域分割装置210が出力した第1高域信号、第1低域信号、第2高域信号、第2低域信号、…、第2N高域信号、第2N低域信号を入力とし、第1高域信号に基づく音、第1低域信号に基づく音、第2高域信号に基づく音、第2低域信号に基づく音、…、第2N高域信号に基づく音、第2N低域信号に基づく音を放音する。より具体的には、第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)は、第2n-1高域信号、第2n-1低域信号、第2n高域信号、第2n低域信号を入力とし、第2n-1低域信号に基づく音、第2n-1高域信号に基づく音をそれぞれ正のスピーカユニット1221、正のスピーカユニット1221に付属するツイータ1223から放音し、第2n低域信号に基づく音、第2n高域信号に基づく音をそれぞれ負のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221に付属するツイータ1223から放音する。
【0049】
本発明の実施形態によれば、スピーカシステムの近傍というごく限られた狭い範囲でのみ聴きとることができる音を再生することが可能となる。
【0050】
<第5実施形態>
第4実施形態の音響システム200では、正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221に、ツイータ1223が付属するスピーカユニットを用いた。ここでは、ツイータが付属するスピーカユニットを2つ含むスピーカユニットペアを用いる代わりに、2つのスピーカユニットと1つのツイータを含むスピーカユニットペアを用いる音響システムについて説明する。
【0051】
以下、
図19を参照して音響システム300を説明する。
図19は、音響システム300の構成を示すブロック図である。
図19に示すように音響システム300は、再生装置110と、帯域分割装置310と、スピーカシステム320を含む。帯域分割装置310は、N個の帯域分割部312(つまり、第1帯域分割部312、…、第N帯域分割部312)を含む。また、スピーカシステム320は、N個のスピーカユニットペア322(つまり、第1スピーカユニットペア322、…、第Nスピーカユニットペア322)を含む。スピーカユニットペア322は、2つのスピーカユニット(つまり、正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221)とツイータ3221を含む。音響システム300は、帯域分割装置210、スピーカシステム120の代わりに帯域分割装置310、スピーカシステム320を含む点において、音響システム200と異なる。
【0052】
ツイータ3221は、背面からの音が漏れないように、スピーカボックスに収納されているのが好ましい。また、スピーカシステム320は、座席を利用するユーザの頭部に近い箇所に設置される。
【0053】
なお、第nスピーカユニットペア322がユーザと対向する方向を第nユーザ方向(n=1, …, N)とし、第nスピーカユニットペア322(n=1, …, N)の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221は、当該正のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音される音と当該負のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音される音が回り込みにより第nユーザ方向に伝わるように配置されるようにする。ここで、第nユーザ方向とは、第nスピーカユニットペア322の正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221、ツイータ3221の正面方向のことである。また、第nユーザ方向と逆方向とは、第nスピーカユニットペア322の正のスピーカユニット1221、負のスピーカユニット1221、ツイータ3221の背面方向のことである。
【0054】
また、第nスピーカユニットペア322(n=1, …, N)の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221は、当該正のスピーカユニット1221から放音される音と当該負のスピーカユニット1221から放音される音が他の座席を利用するユーザには聴きとれないように互いに消去される位置関係で配置されるようにする。
【0055】
以下、
図19に従い帯域分割装置310、スピーカシステム320の動作について説明する。
【0056】
帯域分割装置310は、再生装置110が出力した第1音響信号、第2音響信号、…、第2N音響信号を入力とし、第1音響信号の高域の信号である第1高域信号と低域の信号である第1低域信号、第2音響信号の低域の信号である第2低域信号、…、第2N-1音響信号の高域の信号である第2N-1高域信号と低域の信号である第2N-1低域信号、第2N音響信号の低域の信号である第2N低域信号を出力する。より具体的には、第n帯域分割部312(n=1, …, N)は、第2n-1音響信号と第2n音響信号を入力とし、第2n-1音響信号の高域の信号である第2n-1高域信号と低域の信号である第2n-1低域信号を生成し、第2n音響信号の低域の信号である第2n低域信号を生成し、第2n-1高域信号、第2n-1低域信号、第2n低域信号を出力する。
【0057】
スピーカシステム320は、帯域分割装置310が出力した第1高域信号、第1低域信号、第2低域信号、…、第2N-1高域信号、第2N-1低域信号、第2N低域信号を入力とし、第1高域信号に基づく音、第1低域信号に基づく音、第2低域信号に基づく音、…、第2N-1高域信号に基づく音、第2N-1低域信号に基づく音、第2N低域信号に基づく音を放音する。より具体的には、第nスピーカユニットペア322(n=1, …, N)は、第2n-1高域信号、第2n-1低域信号、第2n低域信号を入力とし、第2n-1高域信号に基づく音をツイータ3221から放音し、第2n-1低域信号に基づく音を正のスピーカユニット1221から放音し、第2n低域信号に基づく音を負のスピーカユニット1221から放音する。
【0058】
本発明の実施形態によれば、スピーカシステムの近傍というごく限られた狭い範囲でのみ聴きとることができる音を再生することが可能となる。
【0059】
<第6実施形態>
第3実施形態の音響システム104は、ツイータ1223が付属するスピーカユニット1221を用いることで、高域の音が漏れにくいシステムとなった。ここでは、ツイータが付属するスピーカユニットを用いる代わりに、吸音特性がある部材を用いた、高域の音が漏れにくい音響システムについて説明する。
【0060】
以下、
図20を参照して音響システム106を説明する。
図20は、音響システム106の構成を示すブロック図である。
図20に示すように音響システム106は、音響システム104と同様、再生装置110と、スピーカシステム120を含む。しかし、音響システム106は、ツイータ1223が付属するスピーカユニット1221の代わりに、ツイータ1223が付属しないスピーカユニット1221を用いる点、スピーカユニットペア122に部材1224が取り付けられている点において、音響システム104と異なる。
【0061】
以下、
図20に従い第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)の構造について説明する。
【0062】
第nスピーカユニットペア122には、第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221から第nユーザ方向と逆方向に放音された音を吸収するための部材1224が取り付けられている(
図21参照)。部材1224は、高域の音が背面で放射されることを防ぐことができる部材であればどのようなものでもよい。なお、部材1224をスピーカユニットペア122の背面のみに設置する代わりに、部材1224をスピーカユニットペア122の正面以外を取り囲むように設置してもよい。
【0063】
本発明の実施形態によれば、スピーカシステムの近傍というごく限られた狭い範囲でのみ聴きとることができる音を再生することが可能となる。
【0064】
<第7実施形態>
第6実施形態の音響システム106は、部材1224が取り付けられたスピーカユニット1221を用いることで、高域の音が漏れにくいシステムとなった。ここでは、吸音材が取り付けられたスピーカユニットペアを用いる代わりに、スピーカユニットペアのスピーカユニットの各々を穴のあいたスピーカボックスに収納することで、高域の音がもれにくい音響システムについて説明する。
【0065】
以下、
図22を参照して音響システム108を説明する。
図22は、音響システム108の構成を示すブロック図である。
図22に示すように音響システム108は、音響システム106と同様、再生装置110と、スピーカシステム120を含む。音響システム108は、部材1224が取り付けられたスピーカユニットペア122の代わりに、スピーカボックス1225に収納されたスピーカユニット1221を含むスピーカユニットペア122を含む点において、音響システム106と異なる。
【0066】
以下、
図22に従い第nスピーカユニットペア122(n=1, …, N)の構造について説明する。
【0067】
第nスピーカユニットペア122の正のスピーカユニット1221と負のスピーカユニット1221は、それぞれスピーカボックス1225に収納されている。なお、スピーカボックス1225には、多数の穴があけられている。
【0068】
本発明の実施形態によれば、スピーカシステムの近傍というごく限られた狭い範囲でのみ聴きとることができる音を再生することが可能となる。
【0069】
<補記>
上述の本発明の実施形態の記載は、例証と記載の目的で提示されたものである。網羅的であるという意思はなく、開示された厳密な形式に発明を限定する意思もない。変形やバリエーションは上述の教示から可能である。実施形態は、本発明の原理の最も良い例証を提供するために、そして、この分野の当業者が、熟考された実際の使用に適するように本発明を色々な実施形態で、また、色々な変形を付加して利用できるようにするために、選ばれて表現されたものである。すべてのそのような変形やバリエーションは、公正に合法的に公平に与えられる幅にしたがって解釈された添付の請求項によって定められた本発明のスコープ内である。