(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】半導体パッケージ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20241106BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L21/52 E
(21)【出願番号】P 2022565313
(86)(22)【出願日】2021-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2021042716
(87)【国際公開番号】W WO2022113921
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2020194843
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 謙一
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】北沢 啓太
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-218603(JP,A)
【文献】特開平11-111897(JP,A)
【文献】特開2008-244238(JP,A)
【文献】特開2011-035320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップと冷却部材との間に、熱伝導層を有する半導体パッケージであって、
熱伝導層が硬度及び接着強度が異なる部分を有し、熱伝導層中心部の硬度及び接着強度が、熱伝導層周辺部の硬度及び接着強度よりも小さく、
熱伝導層中心部の硬度が、AskerC硬度で50以下であり、
熱伝導層最外周辺部の接着強度が2.0MPa以上であり、
前記熱伝導層が、半導体チップ上に、熱伝導性充填材を配合した2種以上の液状の熱伝導性材料を敷設し、この液状の熱伝導性材料を硬化させた硬化物である、
半導体パッケージ。
【請求項2】
半導体チップ上に、半導体チップ中心部から周辺部に2種以上の熱伝導性材料を敷設し、熱伝導層中心部を構成する熱伝導性材料を硬化した場合の硬度及び接着強度(熱伝導層中心部の硬度及び接着強度)が、熱伝導層周辺部を構成する熱伝導性材料を硬化した場合の硬度及び接着強度(熱伝導層周辺部の硬度及び接着強度)よりも小さい、請求項1記載の半導体パッケージ。
【請求項3】
熱伝導層中心部の圧縮後の最小厚みが、熱伝導層周辺部の圧縮後の最小厚みよりも薄い請求項1又は2記載の半導体パッケージ。
【請求項4】
熱伝導層中心部の圧縮後の最小厚みと、熱伝導層最外周辺部の圧縮後の最小厚みとの差が10μm以上である請求項3記載の半導体パッケージ。
【請求項5】
液状の熱伝導性材料が、
(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
(B)熱伝導性充填材
(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び
(D)白金系触媒
を含有する硬化性組成物である請求項1~4のいずれか1項記載の半導体パッケージ。
【請求項6】
半導体チップ上に、半導体チップ中心部から周辺部に2種以上の熱伝導性材料を敷設する工程と、敷設された熱伝導性材料の上に冷却部材を重ねる工程と、
熱伝導性材料を硬化させる工程とを有する、請求項1~
5いずれか1項記載の半導体パッケージを製造する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体パッケージ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CPUやGPU等のICチップは、使用中の発熱及びそれに伴う性能の低下が広く知られており、これを解決するための手段として様々な放熱技術が用いられている。例えば、発熱部の付近にヒートシンク等の冷却用途の部材を配置し、両者を密接させることで冷却部材へと効率的な伝熱を促した上で、冷却部材を冷却することにより、発熱部の放熱を効率的に行うことが知られている。その際、発熱部材と冷却部材との間に隙間があると、熱伝導性の低い空気が介在することにより伝熱が効率的でなくなるため、発熱部材の温度が十分に下がらなくなってしまう。
【0003】
このような問題を解決するため、発熱部材と冷却部材の間に隙間を埋めることのできる熱伝導材料を用いることが一般的である。半導体チップ(ICチップ)が実際に稼働する際には、半導体チップの“そり”が発生して熱伝導層が、冷却部材又は発熱素子から剥離してしまうことがある。このような現象が発生すると、冷却部材と発熱素子との間の熱伝導が十分でなくなってしまう。このような課題を解決するために種々検討がなされている。
【0004】
特開2014-090135号公報(特許文献1)では、剥離が発生しないように熱伝導性材料の接着強度を高めている。しかしながら、熱伝導性材料の弾性率が高いためにチップを破壊したり、チップ表面を傷つけるという懸念があった。また、特許第4395753号公報(特許文献2)では、周辺部にスキン硬化層を形成しているが、スキン硬化層とチップとの接着強度が十分でなく、特に大きなチップにおいて熱伝導性材料がチップや冷却部材から剥離してしまうという懸念があった。これらはいずれも1種類の熱伝導材料を発熱部位と冷却部材の間に敷設して使用するという方法であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-090135号公報
【文献】特許第4395753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、素子が稼働した際に、半導体チップを傷つけることなく、半導体チップの熱伝導層が追従でき、高い信頼性を有する半導体パッケージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、半導体チップと冷却部材との間に、2種以上の熱伝導性材料を半導体チップ上に敷設した特定の熱伝導層を用いることで、上記課題を解決できることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は下記発明を提供する。
1.半導体チップと冷却部材との間に、熱伝導層を有する半導体パッケージであって、
熱伝導層が硬度及び接着強度が異なる部分を有し、熱伝導層中心部の硬度及び接着強度が、熱伝導層周辺部の硬度及び接着強度よりも小さいことを特徴とする半導体パッケージ。
2.半導体チップ上に、半導体チップ中心部から周辺部に2種以上の熱伝導性材料を敷設し、熱伝導層中心部を構成する熱伝導性材料を硬化した場合の硬度及び接着強度(熱伝導層中心部の硬度及び接着強度)が、熱伝導層周辺部を構成する熱伝導性材料を硬化した場合の硬度及び接着強度(熱伝導層周辺部の硬度及び接着強度)よりも小さい、1記載の半導体パッケージ。
3.熱伝導層中心部の圧縮後の最小厚みが、熱伝導層周辺部の圧縮後の最小厚みよりも薄い1又は2記載の半導体パッケージ。
4.熱伝導層中心部の圧縮後の最小厚みと、熱伝導層最外周辺部の圧縮後の最小厚みとの差が10μm以上である3記載の半導体パッケージ。
5.熱伝導層中心部の硬度が、AskerC硬度で50以下である1~4のいずれかに記載の半導体パッケージ。
6.熱伝導層最外周辺部の接着強度が2.0MPa以上である1~5のいずれかに記載の半導体パッケージ。
7.半導体チップ上に、半導体チップ中心部から周辺部に2種以上の熱伝導性材料を敷設する工程と、敷設された熱伝導性材料の上に冷却部材を重ねる工程を有する、1~6のいずれかに記載の半導体パッケージを製造する製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、素子が稼働した際に、半導体チップを傷つけることなく、剥離が少なく半導体チップの熱伝導層が追従でき、高い信頼性を有する半導体パッケージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る熱伝導材料の配置を示す平面図である。
【
図2】本発明の実施例に係る、2種類の熱伝導材料のみを使用する場合の熱伝導材料の配置を示す平面図である。
【
図3】本発明の実施例に係る、3種類の熱伝導材料を使用する場合の熱伝導材料の配置を示す平面図である。
【
図4】本発明の実施例に係る、4種類の熱伝導材料を使用する場合の熱伝導材料の配置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の半導体パッケージは、熱伝導層を有する半導体パッケージであって、熱伝導層が硬度及び接着強度が異なる部分を有し、熱伝導層中心部の硬度及び接着強度が、熱伝導層周辺部の硬度及び接着強度よりも小さいことを特徴とする半導体パッケージである。具体的には、半導体チップと冷却部材との間に、熱伝導層を有する半導体パッケージであって、熱伝導層が、半導体チップ上に、半導体チップ中心部から周辺部に2種以上の熱伝導性材料を敷設し、熱伝導層中心部を構成する熱伝導性材料の硬化物の硬度及び接着強度が、熱伝導層周辺部を構成する熱伝導性材料の硬化物の硬度及び接着強度よりも小さいことを特徴とするものである。
【0012】
[半導体チップと冷却部材]
半導体チップと冷却部材との間に、熱伝導層を有する半導体パッケージである。
[熱伝導層]
熱伝導層は、半導体チップを上からみて、熱伝導層中心部の硬度及び接着強度が、熱伝導層周辺部の硬度及び接着強度よりも小さいものであり、半導体チップ中心部から周辺部に、2種以上の熱伝導性材料を半導体チップ上に敷設し、熱伝導層中心部を構成する熱伝導性材料を硬化した場合の硬度及び接着強度が、熱伝導層周辺部を構成する熱伝導性材料を硬化した場合の硬度及び接着強度よりも小さいものである。熱伝導性材料は特に限定されず、公知のものを用いることができるが、液状の材料を塗布してもよく、液状の材料を加熱や湿気、UV等で硬化させてもよく、熱伝導性パッド・シート、フェイズチェンジマテリアル、熱伝導性接着テープ等の成型物を敷設してもよく、液状の材料と成型物を併用してもよく、液状の材料を硬化させた後に成型物を敷設したり、成型物を配置した後に液状材料を硬化させた硬化物でもよく、これに限定されるものではない。
【0013】
また、熱伝導性材料としてはシリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等と熱伝導性充填剤を配合した物が挙げられるが、これに限定されるものではない。熱伝導性充填剤としては、アルミニウム粉末、銅粉末、銀粉末、鉄粉末、ニッケル粉末、金粉末、錫粉末、金属ケイ素粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化ホウ素粉末、酸化アルミニウム(アルミナ)粉末、酸化チタン粉末、酸化マグネシウム粉末、ダイヤモンド粉末、カーボン粉末、インジウム粉末、ガリウム粉末、酸化亜鉛粉末等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0014】
本発明の熱伝導性層を構成する熱伝導性材料の例としては、
(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
(B)熱伝導性充填材
(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び
(D)白金系触媒
を含有するものが挙げられる。
【0015】
[(A)成分]
本発明を構成する(A)成分のオルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に直結したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するもので、下記平均組成式(1)
R1
aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、R1は互いに同一又は異種の炭素数1~10、好ましくは1~8の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.5~2.8、好ましくは1.8~2.5、より好ましくは1.95~2.05の正数である。)
で示されるものを用いることができる。
【0016】
ここで、上記R1で示されるケイ素原子に結合した非置換又は置換の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられるが、全R1の90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0017】
また、全R1のうち少なくとも2個はアルケニル基(炭素数2~8のものが好ましく、2~6のものがより好ましく、ビニル基のものがさらに好ましい。)であることが必要である。なお、アルケニル基の含有量は、オルガノポリシロキサン中2.0×10-5~1.0×10-2mol/gとすることが好ましい。このアルケニル基は、分子鎖末端のケイ素原子に結合していても、分子鎖途中のケイ素原子に結合していても、両者に結合していてもよい。このオルガノポリシロキサンの構造は、通常、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状構造を有するが、部分的には分岐状の構造、環状構造などであってもよい。
【0018】
(A)成分の25℃における動粘度は100~100,000mm2/sが好ましく、200~100,000mm2/sがより好ましく、200~10,000mm2/sがさらに好ましい。
【0019】
(A)成分の例としては、両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ジメチルポリシロキサン等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
[(B)成分]
(B)成分の熱伝導率を有する熱伝導性充填材としては、その充填材のもつ熱伝導率が10W/m・℃より小さいと、シリコーングリース組成物の熱伝導率そのものが小さくなるため、充填材の熱伝導率は10W/m・℃以上が好ましく、10~5,000W/m・℃であることがより好ましい。このような熱伝導性充填材としては、無機化合物粉末を用いることができる。(B)成分で使用する無機化合物粉末は、アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末、酸化マグネシウム粉末、アルミナ粉末、水酸化アルミニウム粉末、窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末、ダイヤモンド粉末、金粉末、銀粉末、銅粉末、カーボン粉末、ニッケル粉末、インジウム粉末、ガリウム粉末、金属ケイ素粉末、二酸化ケイ素粉末の中から選択される1種又は2種以上を使用することができる。なお、本発明において熱伝導率は、熱伝導率測定装置、例えば、京都電子工業(株)製QTM-500により測定した値である。
【0021】
(B)成分で用いられる無機化合物粉末の平均粒径は、0.5~200μm、好ましくは1~150μmの範囲である。なお、本発明において、平均粒径は、レーザー回折・散乱法、例えば、日装機(株)製マイクロトラックMT330OEXにより測定できる体積基準の体積平均径[MV]である。また、本発明に用いられる無機化合物粉末は、必要ならばオルガノシラン、オルガノシラザン、オルガノポリシロキサン、有機フッ素化合物等で疎水化処理を施してもよく、疎水化処理法としては、一般公知の方法でよく、例えば無機化合物粉末とオルガノシランあるいはその部分加水分解物をトリミックス、ツウィンミックス、プラネタリミキサー(いずれも井上製作所(株)製混合機の登録商標)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機にて混合する方法が挙げられる。必要ならば50~100℃に加熱してもよい。なお、混合にはトルエン、キシレン、石油エーテル、ミネラルスピリット、イソパラフィン、イソプロピルアルコール、エタノール等の溶剤を用いてもよく、その場合は、混合後溶剤を、真空装置等を用いて除去することが好ましい。また、希釈溶剤として、本発明の液体成分である(A)成分のオルガノポリシロキサンを使用することも可能である。この方法で製造された組成物も本発明の範囲内である。
【0022】
(B)熱伝導性充填材(無機化合物粉末)の配合量は、(A)成分100質量部に対し、500~4,000質量部が好ましく、1,000~4,000質量部がより好ましい。
【0023】
[(C)成分]
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、例えば、下記平均組成式(3)
R3
cHdSiO(4-c-d)/2 (3)
(式中、R3は炭素数1~12、好ましくは1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基である。また、cは0.7~2.1、好ましくは0.8~2.05、dは0.001~1.0、好ましくは0.005~1.0であり、かつc+dは0.8~3.0、好ましくは1.0~2.5を満足する正数である。)
で示されるものを用いることができる。
【0024】
ケイ素原子に結合する残余の有機基R3としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基等のアラルキル基、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換などの置換炭化水素基、また2-グリシドキシエチル基、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基等のエポキシ環含有有機基(グリシジル基又はグリシジルオキシ基置換アルキル基)も例として挙げられる。かかるSi-H基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、またこれらの混合物であってもよい。
【0025】
(C)成分の配合量は、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基1個に対して、(C)成分中のケイ素原子結合水素原子(Si-H/Si-アルケニル基)が0.3~2.5個となる量が好ましく、0.5~2.0個となる量がより好ましい。
【0026】
[(D)成分]
(D)成分の白金及び白金化合物から選択される触媒は、(A)成分のアルケニル基と(C)成分のSi-H基との間の付加反応の促進成分である。この(D)成分は、例えば白金の単体、塩化白金酸、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金配位化合物等が挙げられる。(F)成分の配合量は、(A)成分の質量に対し、白金原子として0.1ppmより小さくても触媒としての効果がなく、5,000ppmを超えても効果が増大することがなく、不経済であるので0.1~5,000ppmの範囲である。
【0027】
[その他の成分]
また、本発明には上記した(A)~(D)成分以外に、必要に応じて、(E)反応制御剤を使用してもよい。該反応制御剤は、付加硬化型シリコーン組成物に使用される従来公知の反応制御剤を使用することができる。例えば、アセチレンアルコール類(例えば、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール)等のアセチレン化合物、トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の各種窒素化合物、トリフェニルホスフィン等の有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。その他、接着助剤、酸化防止剤等を入れてもよい。
【0028】
[製造方法]
本発明の熱伝導性組成物を製造するには、(A)~(D)成分、及び必要に応じてその他の成分をトリミックス、ツウィンミックス、プラネタリミキサー(いずれも井上製作所(株)製混合機の登録商標)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機にて混合する方法を採用することができる。
【0029】
なお、熱伝導層(全体)の熱伝導率は特に限定されないが、半導体チップからの発熱を十分に逃がす点から、1.5(W/m・℃)以上が好ましく、1.8(W/m・℃)以上がより好ましく、1.8~500(W/m・℃)がさらに好ましい。なお、熱伝導層の熱伝導率はISO22007-2に準拠した方法で測定する。
【0030】
異なる2種以上の熱伝導性材料は、3種以上でも、4種以上でもよく、それ以上の種類の材料を使用してもよい。1種の熱伝導性材料で構成される最も中心部を中心部とし、それ以外は周辺部とし、3種以上の熱伝導性材料を用いた場合は、最外の周辺部を最外周辺部とする。1種類のみの材料を使用した場合、半導体チップの中心部を傷つけないように柔らかい材料を使用すると、接着強度が十分でないため半導体チップの周辺部で剥離が発生してしまう。一方、剥離が発生しないように接着強度の高い材料を用いると、材料が硬くなってしまうため、中心部でチップ表面を傷つけるおそれがある。
【0031】
本発明は、熱伝導層が硬度及び接着強度が異なる部分を有し、熱伝導層中心部の硬度及び接着強度が、熱伝導層周辺部の硬度及び接着強度よりも小さくなればよい。例えば、2種以上の熱伝導性材料は、半導体チップを上からみて、半導体チップ中心部から周辺部に敷設され、硬化させた場合、硬化物となる。この時、熱伝導層中心部を構成する熱伝導性材料の硬化物の硬度及び接着強度(熱伝導層中心部の硬度及び接着強度)が、熱伝導層周辺部を構成する熱伝導性材料の硬化物の硬度及び接着強度(熱伝導層周辺部の硬度及び接着強度)よりも小さくなるように、中心部から順に敷設される。なお、3種以上用いる場合は、一番中心部の層と、一番外周層が上記を満たせはよく、4層の場合は、順番に上記を満たすことが好ましい。
【0032】
中心部に柔らかい材料、周辺部に硬い材料を用いると、半導体チップの傷つきや剥離の発生を防止できる。中心部に硬い材料、周辺部に柔らかい材料を用いると、中心部では半導体チップが傷ついてしまうし、周辺部では剥離が発生してしまう。中心部に接着強度が小さいもの、周辺部に接着強度が大きいものを用いると、熱伝導層の剥離を防止できる。以下、熱伝導層中心部、熱伝導層周辺部等の熱伝導層の硬度、接着強度、熱伝導率、圧縮後の最小厚みは下記及び詳細には実施例に記載の方法で測定したものである。
【0033】
中心部の硬度は、素子稼働時に半導体チップにそりが発生しても、半導体チップに傷をつけない点から、AskerC硬度で50以下が好ましく、40以下が好ましい。下限は特に限定されないが、1以上から選択できる。最外周辺部の硬度は、ShoreA硬度で40以上が好ましく、40~90がより好ましい。
中心部の接着強度は、0.01MPa以上が好ましく、0.01MPa以上2.0MPa未満がより好ましい。最外周辺部の接着強度は、2.0MPa以上が好ましく、2.5MPa以上がより好ましく、2.5~20MPaがさらに好ましい。
【0034】
熱伝導層中心部、熱伝導層周辺部等の熱伝導層の硬度は、調製した熱伝導性材料を150℃×90分で硬化させた、硬度測定用の試験片を作製して硬度を測定する。なお、AskerC、ShoreAによる硬度は、JIS K6249、6253に基づき測定した値である。なお、ShoreAが20以下の場合は、AskerCで測定する。
【0035】
接着強度は、半導体チップ(Siウェハ)と冷却部材(Niメッキ銅板)の間に、熱伝導材料を挟み、150℃・90分で硬化させた試験片について、垂直方向の引張強度を測定する。
【0036】
上記硬度は、熱伝導性層の調製に用いるジメチルポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの種類、量により調整することができる。接着強度は、熱伝導性層の調製に用いるジメチルポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの種類、量により調整することができる。
【0037】
半導体チップは熱伝導材料を敷設する前の工程で、中心部が上側に凸になっているため、チップと冷却部材との距離は中心部が薄く、周辺部が厚くなる構造となっている。そのため、熱伝導層の厚みについては中心部が薄く、周辺部が厚い方が好ましい。具体的には、パッケージのそりによる厚みの差を十分に吸収できる点から、熱伝導層中心部の圧縮後の最小厚みと、熱伝導層最外周辺部の圧縮後の最小厚みとの差は10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、20~100μmがさらに好ましい。なお、熱伝導層中心部、熱伝導層最外周辺部等の圧縮後の最小厚みは、半導体チップと冷却部材の間に熱伝導性材料を挟みこみ、圧力0.2(MPa)で、150℃で90分間加熱硬化させた試験片の値を測定する。半導体チップの大きさは特に限定されず、熱伝導層の中心部(第1部)の長径(X1)は、半導体チップの長径(Z)の20~80%が好ましく30~80%がより好ましい。
【0038】
[冷却部材]
冷却部材としては、半導体パッケージによって適宜選定されるが、Niメッキ銅板、アルミダイキャスト、熱伝導性エポキシ樹脂、樹脂基板等が挙げられる。
【0039】
[製造方法]
本発明の半導体パッケージの製造方法は特に限定されないが、例えば、半導体チップ上に、半導体チップ中心部から周辺部に2種以上の熱伝導性材料を敷設する工程と、敷設された熱伝導性材料の上に冷却部材を重ねる工程を有するものが挙げられる。硬化させる場合は、敷設された熱伝導性材料を硬化させる工程をさらに有するものが挙げられる。具体的には、下記工程を有する者が挙げられる。
(I)基板の上に半導体チップを固定する工程、
(II)半導体チップ中心部から周辺部に、2種以上の熱伝導性材料を半導体チップ上に敷設する工程、
(III)熱伝導性材料の上に冷却部材を重ねて、基板と冷却部材を固定する工程、
(IV)固定後、上記熱伝導性材料を硬化させる工程。
上記(IV)において、硬化条件は熱伝導性材料が硬化する条件であれば特に限定されないが、熱硬化の場合は、80~200℃で30分~1時間加熱すればよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0041】
[実施例、比較例]
[熱伝導性材料の調製]
本発明組成物を形成する以下の各成分を用意した。
[(A)成分]
A-1:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における動粘度が600mm2/sのジメチルポリシロキサン(ビニル価0.015mol/100g)
A-2:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における動粘度が400mm2/sのジメチルポリシロキサン(ビニル価0.0185mol/100g)
【0042】
[(B)成分]
下記のアルミニウム粉末と酸化亜鉛粉末を、5リットルプラネタリーミキサー(井上製作所(株)製)を用いて下記表1の混合比で室温にて15分間混合し、B-1からB-5を得た。
平均粒径2.0μmのアルミニウム粉末(熱伝導率:237W/m・℃)
平均粒径10.0μmのアルミニウム粉末(熱伝導率:237W/m・℃)
平均粒径15.0μmのアルミニウム粉末(熱伝導率:237W/m・℃)
平均粒径25.0μmのアルミニウム粉末(熱伝導率:237W/m・℃)
平均粒径1.0μmの酸化亜鉛粉末(熱伝導率:25W/m・℃)
【0043】
【0044】
[(C)成分]
下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(各シロキサン単位の結合順序は、下記に制限されるものではない。)
C-1:
【化1】
C-2:
【化2】
C-3:
【化3】
[(D)成分]
D-1:白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のA-1溶液、白金原子として1質量%含有
【0045】
[(E)成分]
E-1:1-エチニル-1-シクロヘキサノール
【0046】
【0047】
下表に示す量(質量部)で熱伝導性材料の調製を行った。なお、Si-H/Si-Viの値は、(A)成分中のケイ素原子結合ビニル基1個に対する(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の数を表す。
【0048】
【0049】
【0050】
得られた熱伝導性材料について、下記評価を行った。結果を表2,3中に併記する。
[硬度の測定方法]
熱伝導性材料を150℃で90分間加熱硬化させた、硬度測定用の試験片について、AskerC硬度)を測定した。一部についてShoreA硬度を測定した(硬度測定は、JIS K6249、6253に準拠)。
【0051】
[接着強度の測定方法]
熱伝導性材料0.1gを、10mm×10mmのSiウェハと冷却部材20mm×20mmのNiメッキ銅板の間に挟み、150℃で90分間加熱硬化させた試験片について、垂直方向の引張強度を測定し、接着強度を算出した。
【0052】
[熱伝導率の測定方法]
硬度測定用の試験片について、ISO22007-2に準拠した方法で測定した。
【0053】
[圧縮後の最小厚み]
圧縮後の最小厚みは、10mm×10mmのSiウェハと10mm×10mmのNiメッキ銅板の間に熱伝導材料0.1gを挟みこみ、圧力0.2(MPa)、150℃で90分間加熱硬化させた試験片について測定した。
【0054】
[半導体パッケージの作製方法]
上記熱伝導性材料を用いて、下記方法で熱伝導層を有する半導体パッケージ試験片を作製した。
有機樹脂基板の上に20mm×20mmのSiウェハ(半導体チップ)を接着剤で固定した。その上に第1部、第2部、第3部、第4部が所定の面積になるように熱伝導材料を敷設した。それぞれの熱伝導材料の塗布面積・形状については
図1のように規定した。その後、Siウェハを囲うように樹脂基板上に接着剤を塗布した。上からNiメッキ銅板を重ねてから加熱することで樹脂基板と固定した。さらに、熱伝導材料を150℃×90分間加熱して硬化させ、熱伝導層を形成させた。実施例、比較例においては第1部の熱伝導材料をT1、第2部の熱伝導材料をT2、第3部の熱伝導材料をT3、第4部の熱伝導材料をT4とした。また、2種類の熱伝導材料のみを使用する場合はT1とT4に各熱伝導材料の特性を記載し、T2とT3には無と記載した。3種類の熱伝導材料を使用する場合はT1、T2、T4に各熱伝導材料の下記方法で特性を記載し、T3には無と記載した。4種類の熱伝導材料を使用する場合は、上記測定で得られた、T1、T2、T3、T4に各熱伝導材料の特性を記載した。
得られた半導体パッケージ試験片について、下記方法で「熱伝導層の剥離」、「半導体チップ中心部の傷」について評価した。
図1に上からみた熱伝導材料の配置を示す。
図2は2種類の熱伝導材料のみを使用する場合、
図3は3種類の熱伝導材料を使用する場合、
図4は4種類の熱伝導材料を使用する場合を示す。
【0055】
[熱伝導層の剥離、半導体チップ中心部の傷]
上記で作製した半導体パッケージ試験片を、-55℃⇔150℃のヒートサイクル試験機に投入し、1,000サイクル試験を行った。ヒートサイクル試験後に樹脂基板とNiメッキ銅板間の接着剤を除去し、赤色のインクの中に試験片を浸漬させてからNiメッキ銅板を剥がすことで熱伝導層の半導体チップからの剥離の有無を確認した。赤色のインクが内部まで侵入していた場合には剥離があると判断した。結果を(剥離)有、(剥離)無で示した。
その後に、熱伝導層を剥がして半導体チップの中心部の表面の傷の有無について顕微鏡を用いて確認を行った。結果を(傷)有、(傷)無で示した。
【0056】
【0057】