(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】マルチコアファイバの評価方法及び評価装置
(51)【国際特許分類】
G01M 11/00 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
G01M11/00 G
(21)【出願番号】P 2022568027
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2020046406
(87)【国際公開番号】W WO2022123791
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-05-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、『マルチコアファイバの実用化加速に向けた研究開発』委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】半澤 信智
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】寒河江 悠途
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-041078(JP,A)
【文献】特開2013-029758(JP,A)
【文献】半澤 信智,4コアファイバの接続特性に関する検討,電子情報通信学会 2020年総合大会 講演論文集 通信講演論文集2,2020年03月17日,p.322 (B-13-22)
【文献】半澤 信智,4コアファイバの軸ずれに対する損失特性に関する検討,電子情報通信学会 2019年総合大会 講演論文集 通信講演論文集2,2019年03月19日,p.319 (B-13-27)
【文献】境目 賢義,4コアマルチコアファイバ用光コネクタの接続損失要因検討,電子情報通信学会技術研究報告,2018年08月,Vol.118 No.201,pp.43-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00-11/08
G02B 6/00-6/54
G01B 11/00-11/30
G01N 21/84-21/958
JSTPlus/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面においてN個(Nは3以上の整数)のコアが間隔ΛでN角形状に配置されるマルチコアファイバの評価方法であって、
カメラで前記マルチコアファイバの断面観察を行うこと、
前記断面観察したときの前記マルチコアファイバのクラッドを円で近似すること、
前記円の中心座標を原点とし、前記クラッド内にある前記コアそれぞれの中心座標を計測すること、及び
前記原点と前記コアの前記中心座標とを結ぶそれぞれの線分の長さR
i(iは前記コアの番号であり、N以下の自然数である。)が
r
s-r
d≦Ri≦r
s+r
d
の範囲にあり、且つ
隣接する前記コアの前記線分がなす角θ
i-j(jは、番号iの前記コアに隣接する前記コアの番号であり、N以下の自然数である。)が
θ
s-θ
d≦θ
i-j≦θ
s+θ
d
の範囲にあるときに、所望の接続損失特性を得られると判定すること、
を特徴とするマルチコアファイバの評価方法。
ただし、
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
dは接続相手の前記マルチコアファイバとの軸ずれ量であり、
W
iは所望の波長での番号iの前記コアのモードフィールド直径(MFD)である。
【請求項2】
断面においてN個(Nは3以上の整数)のコアが間隔ΛでN角形状に配置されるマルチコアファイバの評価方法であって、
カメラで前記マルチコアファイバの断面観察を行うこと、
前記断面観察したときの前記マルチコアファイバのクラッドを円で近似すること、
前記円の中心座標を原点とし、前記クラッド内にある前記コアそれぞれの中心座標を計測すること、及び
数6で計算される、設計上の前記コアの中心座標である設計中心座標と計測した前記中心座標とのずれ量δΛ
xが
δΛ
x≦r
d
を満たすとき、所望の接続損失特性を得られると判定すること、
を特徴とするマルチコアファイバの評価方法。
【数6】
ただし、
r=R
i-r
s、
θ=θ
i-j-θ
s
R
iは、前記原点と前記コアの前記中心座標とを結ぶそれぞれの線分の長さ(iは前記コアの番号であり、N以下の自然数である。)、
θ
i-jは、隣接する前記コアの前記線分がなす角(jは、番号iの前記コアに隣接する前記コアの番号であり、N以下の自然数である。)である。
ここで、
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
dは接続相手の前記マルチコアファイバとの軸ずれ量であり、
W
i
は所望の波長での番号iの前記コアのモードフィールド直径(MFD)である。
【請求項3】
前記マルチコアファイバの断面観察を行う前記カメラと、
請求項1又は2に記載のマルチコアファイバの評価方法を行うプロセッサと、
を備え、前記マルチコアファイバが所望の接続損失特性を有するか否かを判定する評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチコアファイバの構造を評価する評価方法及び評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のシングルモードファイバやマルチモードファイバにおいて、相互接続性を担保するために光学特性および幾何学構造パラメータが標準化されている(例えば、非特許文献1、2を参照。)。これらに開示される光ファイバは、クラッド中心にコアがあるシングルコアファイバである。このような光ファイバについて、クラッド中心とコア中心とのずれ量を評価する試験方法も開示されている(例えば、非特許文献3、4を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】ITU-T G.652, “Characteristics of a single-mode fibre and cable,” 2016.
【文献】ITU-T G.651.1,“Characteristics of a 50/125μm multimode graded index optical fibre cable for the optical access network,” 2018.
【文献】ITU-T G.650.1, “Definitions and test methods for linear, deterministic attributes of single-mode fibre and cable,” 2018.
【文献】JIS-C 6822,“光ファイバ構造パラメータ試験方法-寸法特性,” 2009.
【文献】T. Matsui et. al., 「118.5 Tbit/s Transmission over 316 km-Long Multi-Core Fiber with Standard Cladding Diameter」, OECC2017, 2-s2892, 2017.
【文献】ITU-T L.12, “Construction, installation and protection of cables and other elements of outside plant,” 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クラッド内に複数のコアを有するマルチコアファイバ(MCF:Multi Core Fiber)の光学特性については、非特許文献3に示される方法でコアごとに評価することができる。一方、非特許文献3、4に示される方法は、クラッドに対してコアが1つでありコアがクラッド中心に配置されることが前提であり、構造パラメータについてはクラッド中心とコア中心とのずれ量の評価に限定される。このため、非特許文献3、4に示される方法は、非特許文献5に開示されるようなMCFに適用することはできない。このため、クラッド中心にコアを持たないMCFの相互接続を実現するには、MCFの構造パラメータの評価方法が必要になる。
【0005】
光ファイバは、クラッド直径に公差を持っている。例えば直径が125μmのクラッドに隣接コアの間隔が40μmで4つのコアが形成された4コアファイバを考える。コアの配置が理想的であっても、クラッド直径の変化に応じ、断面ごとに計測されるコア間隔は40μmから相似形で変化する。そのため、MCFの接続時において、ファイバの設計値から算出される各コアの中心座標をもとにコア間隔を算出し、コアの中心座標をクラッド直径に合わせて相似形で変化させ、接続損失が所望値(仕様)を満たすか否かを判断する必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、MCFの構造パラメータが所望の接続損失値(仕様)を満たすか否かを簡易的に判定する評価方法及び評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る評価方法は、MCFの断面においてコア中心座標が所望の接続損失から得られた所定領域内にあるか否かで判断することとした。
【0008】
具体的には、本発明に係る第1の評価方法は、断面においてN個(Nは3以上の整数)のコアが間隔ΛでN角形状に配置されるマルチコアファイバの評価方法であって、
カメラで前記マルチコアファイバの断面観察を行うこと、
前記断面観察したときの前記マルチコアファイバのクラッドを円で近似すること、
前記円の中心座標を原点とし、前記クラッド内にある前記コアそれぞれの中心座標を計測すること、及び
前記原点と前記コアの前記中心座標とを結ぶそれぞれの線分の長さR
i(iは前記コアの番号であり、N以下の自然数である。)が
r
s-r
d≦Ri≦r
s+r
d
の範囲にあり、且つ
隣接する前記コアの前記線分がなす角θ
i-j(jは、番号iの前記コアに隣接する前記コアの番号であり、N以下の自然数である。)が
θ
s-θ
d≦θ
i-j≦θ
s+θ
d
の範囲にあるときに、所望の接続損失特性を得られると判定すること、
を特徴とする。
ただし、
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
W
iは所望の波長での番号iの前記コアのモードフィールド直径(MFD)である。
【0009】
また、本発明に係る第2の評価方法は、断面においてN個(Nは3以上の整数)のコアが間隔ΛでN角形状に配置されるマルチコアファイバの評価方法であって、
カメラで前記マルチコアファイバの断面観察を行うこと、
前記断面観察したときの前記マルチコアファイバのクラッドを円で近似すること、
前記円の中心座標を原点とし、前記クラッド内にある前記コアそれぞれの中心座標を計測すること、及び
数6で計算される、設計上の前記コアの中心座標である設計中心座標と計測した前記中心座標とのずれ量δΛ
xが
δΛ
x≦r
d
を満たすとき、所望の接続損失特性を得られると判定すること、
を特徴とする。
【数6】
ただし、
r=R
i-r
s、
θ=θ
i-j-θ
s
R
iは、前記原点と前記コアの前記中心座標とを結ぶそれぞれの線分の長さ(iは前記コアの番号であり、N以下の自然数である。)、
θ
i-jは、隣接する前記コアの前記線分がなす角(jは、番号iの前記コアに隣接する前記コアの番号であり、N以下の自然数である。)である。
【0010】
さらに、本発明に係る評価装置は、
前記マルチコアファイバの断面観察を行う前記カメラと、
前述のマルチコアファイバの評価方法を行うプロセッサと、
を備え、前記マルチコアファイバが所望の接続損失特性を有するか否かを判定する。
【0011】
本発明に係るMCFの評価方法は、クラッドの外径を円で近似し、そのクラッド中心座標を原点とし、クラッド内にある複数のコアそれぞれの中心座標が、設計されたコア間隔の座標から所望の範囲にあるかどうかで判定する。このため、MCFの断面からMCF同士の接続時に所望の接続損失に抑えられるか否かを簡易的に判断できる。
【0012】
従って、本発明は、MCFの構造パラメータが所望の接続損失値(仕様)を満たすか否かを簡易的に判定する評価方法及び評価装置を提供することができる。
【0013】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、MCFの構造パラメータが所望の接続損失値(仕様)を満たすか否かを簡易的に判定する評価方法及び評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】光ファイバの断面を説明する図である。(a)はシングルコアファイバ、(b)はマルチコアファイバである。
【
図2】光ファイバの断面を説明する図である。(a)は4コアファイバのコア配置を説明し、(b)はコア位置のずれδΛxを説明する。
【
図3】4コアファイバの接続損失の分布(接続損失特性)を説明する図である。
【
図4】4コアファイバにおいて、コアのずれに対する平均損失と最大損失0.2dB以下の発生確率を計算した結果である。
【
図5】本発明に係るマルチコアファイバの評価方法を説明するフローチャートである。
【
図6】光ファイバの断面を説明する図である。(a)は周方向のコアの位置ずれを説明し、(b)は半径方向のコアの位置ずれを説明する。
【
図7】4コアファイバの接続損失の分布(接続損失特性)を説明する図である。
【
図8】本発明に係るマルチコアファイバの評価方法を説明するフローチャートである。
【
図9】光ファイバの断面においてコア位置のずれδΛxを説明する図である。
【
図10】本発明に係るマルチコアファイバの評価装置を説明する図である。
【
図11】本発明に係るマルチコアファイバの評価装置の光ファイバ把持部を説明する図である。(a)は上面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0017】
各実施形態を説明する前に、MCFの構造について説明する。コア間隔ΛでN個のコアを有するMCFでは、クラッド中心と隣接する2つのコアによりなされる角度θs[度]は式(1)で決定される。
【数1】
また、クラッド中心から外周コアのコア中心までの距離rsは式(2)で決定される。
【数2】
【0018】
図1(a)は、現在用いられているシングルコアファイバ(SCF)の断面図である。
図1(a)に示すように、SCFはクラッド11内にコア12が1つだけ存在し、且つクラッド11の中心Cにコア12が配置される構造である。一方、MCFは
図1(b)に示すようにクラッド11内に複数のコア12が配置されている。クラッド11の中心Cにコア12が配置される場合もあるが、本実施形態では中心Cにはコア12が配置されないMCFを説明する。また、MCFにおけるコアの光学特性は非特許文献1に記載されているG.652.Dに準拠していると仮定する。
【0019】
図2(a)は、クラッド11内に4つのコア(12-1~12-4)が間隔Λで配置されている4CF(4 Core Fiber)を説明する図である。低接続損失で4CF同士を接続するためには、4つのコア(12-1~12-4)が互いの4CF間で概ね一致する位置にあることが必要である。しかしながら、
図2(b)に示すように、製造上のばらつきなどにより各コア(12-1~12-4)の位置は設計位置(13-1~13-4)との位置ずれ量δΛ
x;xは1から4のいずれか)を持つようになる。
【0020】
ここで、コア間隔Λを40μmとして設計した4CFにおいてコアの位置ずれ量から生じる接続損失を算出する。接続損失の算出においては、式(3)により軸ずれ量d(μm)に対する結合効率ηを算出し、損失を計算した。また、各コアには、位置ずれ量δΛ
x(μm)として、設計上のコア位置からの最大位置ずれ量δmaxを設定し、δmax以内の値をランダムに与えることとした。
【数3】
ここで、W
1及びW
2は接続する4CFそれぞれのモードフィールド半径である。つまり、接続する4CFを光ファイバ1と光ファイバ2としたとき、光ファイバ1の各コア(12-1から12-4)のモードフィールド径がW
1、光ファイバ2の各コア(12-1から12-4)のモードフィールド径がW
2である。
【0021】
図3は、計算した接続損失の分布(接続損失特性)を説明する図である。計算に使用したパラメータは次の通りである。両光ファイバのクラッド径がともに125μmの場合(公差なしの場合)と、一方の光ファイバのクラッド径が125μm、他方が125μm±1.0μmの場合(クラッド径が相違する場合)において、δmaxを1.0μmとし、10,000回のランダムな位置ずれを与えて計算を行った。横軸に示した大きさの接続損失(最大損失)(dB)の発生確率(%)で接続損失特性を示している。
公差なしの場合、各コアの位置ずれδΛ
xの差に応じた損失特性である。クラッド径が相違する場合、各コアの位置ずれδΛ
xの差に加え、クラッド直径のランダムなずれを含んだ損失特性である。
【0022】
ここで、非特許文献1に準拠している標準的なSMFの融着接続においては、平均損失0.1dB以下、且つ最大損失0.2dB以下となる発生確率が97%という規格が非特許文献6に示されている。
図3のように、クラッド径が相違する場合も公差なしの場合も、平均損失と最大損失のいずれも上記規格を満たしていない。
【0023】
図4は、δmaxに対する平均損失と最大損失0.2dB以下の発生確率の計算結果を説明する図である。横軸はδmax(μm)、第1縦軸は平均損失(dB)、第2縦軸は最大損失0.2dB以下の発生確率(%)である。実線は公差なしの場合の結果であり、破線はクラッド径が相違する場合の結果である。
図4より、公差がない場合にはδmaxが0.7μm以下で平均損失と最大損失のいずれの規格も満たし、クラッド径が相違する場合(相違量1.0μm)であればδmaxが0.65μm以下で平均損失と最大損失のいずれの規格も満たすことが確認できる。
【0024】
以上から、MCF同士を非特許文献6に示されるような損失規格で接続するためには、各コアの中心座標からの偏差を評価することが有効であることがわかる。
【0025】
(実施形態1)
図5は、本実施形態のMCFの評価方法を説明するフローチャートである。本評価方法は、断面においてN個(Nは3以上の整数)のコアが間隔ΛでN角形状に配置されるマルチコアファイバの評価方法であって、
カメラで前記マルチコアファイバの断面観察を行うこと(ステップS01~S03)、
前記断面観察したときの前記マルチコアファイバのクラッドを円で近似すること(ステップS04)、
前記円の中心座標を原点とし、前記クラッド内にある前記コアそれぞれの中心座標を計測すること(ステップS05)、及び
前記原点と前記コアの前記中心座標とを結ぶそれぞれの線分の長さR
i(iは前記コアの番号であり、N以下の自然数である。)が
r
s-r
d≦R
i≦r
s+r
d
の範囲にあり、且つ
隣接する前記コアの前記線分がなす角θ
i-j(jは、番号iの前記コアに隣接する前記コアの番号であり、N以下の自然数である。)が
θ
s-θ
d≦θ
i-j≦θ
s+θ
d
の範囲にあるときに、所望の接続損失特性を得られると判定すること(ステップS06~S11)、
を特徴とする。
【0026】
本実施形態の方法は、クラッド直径の変化によらず基準の接続損失特性を実現できるコア間隔であるか否かを判定する方法である。
本方法は、まず、MCFの構造パラメータを計測する工程を行う。MCFをファイバカッタなどで切断し、断面を研磨して水平面(長手方向に対しての垂直面)を形成する(ステップS01)。続いてカメラで前記水平面全体の画像(クラッドの画像)を取得し(ステップS02)、さらにクラッド内のコア画像を取得する(ステップS03)。次に、クラッドの画像からクラッド外周を円で近似し、その中心座標とクラッド直径を算出する(ステップS04)。また、各コアも円で近似し、それぞれの中心座標を算出する(ステップS05)。なお、クラッド中心および各コアの中心位置は、例えば、非特許文献3や4に示されるような測定方法で得ることが可能である。
計測工程はステップS05で終了する。
【0027】
本方法は、続いて、計測したMCFの構造パラメータが基準内であるか否かを判定する工程を行う。まず、クラッド直径が基準内であるか判定する(ステップS06)。クラッド直径が基準外(ステップS06で“No”)であれば不良判定とする(ステップS11)。クラッド直径が基準内(ステップS06で“Yes”)であれば、クラッド中心座標を原点(0,0)として、計測した各コアの端面画像上の中心座標をクラッド中心を原点とした座標に変換する(ステップS07)。本ステップは次の理由による。ステップS02で取得したMCFの端面画像が画像全体の中心、あるいは当該画面の4隅のいずれかを原点としている場合があるため、本判定工程のためにクラッド中心を原点とするように各コアの座標位置をシフトさせる。
【0028】
次に、画像から取得したクラッド中心と各コアの中心との線分の長さR
i(μm)が、設計上のクラッド中心と各コアの中心との線分の長さr
s(μm)に対し、所定の範囲r
d(μm)以内であるか否かを判定する(ステップS08、r
sとr
dについては
図6(b)参照。)。長さR
iが範囲外(ステップS08で“No”)であれば不良判定とする(ステップS11)。
【0029】
長さR
iが範囲内(ステップS08で“Yes”)であれば次の判定を行う(ステップS09)。コアiと原点とを結ぶ線分を第1線分、前記コアiに隣接するコアjと原点とを結ぶ線分を第2線分とする。画像から取得した第1線分と第2線分とが成す角度をθ
i-j[度]とする。角度θ
i-jが、設計上の第1線分と第2線分とが成す角度θ
s[度]に対し、所定の範囲θ
d[度]以内にあるか否かを判定する(ステップS09、θ
sとにθ
dついては
図6(a)を参照。)。角度θ
i-jが範囲内(ステップS09で“Yes”)であれば良好な構造と判定して終了する(ステップS10)。一方、角度θ
i-jが範囲外(ステップS09で“No”)であれば不良判定とする(ステップS11)。
判定工程はステップS10又はS11で終了する。
【0030】
ステップS08及びS09で用いる公差r
dと角度の公差θ
dは、式(4)と(5)で決定する。
【数4】
【数5】
W
iは所望の波長での番号iのコアのモードフィールド直径(MFD)である。ηは式(3)に記載した結合効率と同じであり、所望の接続損失値(線形値)を代入する。
【0031】
図7は、上述した評価方法で良好と選別したMCF同士を接続した時の接続損失の分布(接続損失特性)を説明する図である。
本接続損失特性は、MCFがΛ=40μmの4コアファイバであり、各コアのMFDをW
1=W
2=8.6μm、r
s=28.3μm、θ
s=90度、r
d=0.6μm、θ
d=2.0度、δmax=0.8μmとし、10,000回のランダムな位置ずれをコアに与えるという条件の下、計算した結果である。横軸と縦軸の意味は
図3と同じである。
【0032】
図7の結果から、
図5の判定フローを用いてMCFを選別すれば、非特許文献6に示される損失規格を満たすことがわかる。つまり、本発明の判定方法を用いることで良好な接続特性を満たすMCFを選別できる。
なお、ここでは非特許文献3、4に記載される接続損失条件を満足するよう端面構造の判定を行う例を示したが、他の接続損失条件に対しても、
図4のように必要なコア偏心量を求めることで同じ手順で判定できる。
【0033】
(実施形態2)
図8は、本実施形態のMCFの評価方法を説明するフローチャートである。本評価方法は、ステップS07まで
図5で説明した手順と同じである。従って、本実施形態では実施形態1と異なる部分のみ説明する。
本評価方法は、ステップS07の後に、数6で計算される、設計上の前記コアの中心座標である設計中心座標と計測した前記中心座標とのずれ量δΛ
xが
δΛ
x≦r
d
を満たすとき、所望の接続損失特性を得られると判定すること(ステップS18~S21、S10、S11)、
を特徴とする。
【0034】
本実施形態の方法は、所望の接続損失特性を満たすMCFであるか否かを、測定したコア中心位置が設計上のコア中心位置に対して許容位置ずれ量以内であるかで判定する方法である。
図9は、MCFの設計上のコア中心位置と測定したコア中心位置とのずれ量δΛ
xを説明する図である。ずれ量δΛ
xは次式で表現できる。
【数6】
ただし、r=R
i-r
s、θ=θ
i-j-θ
sであり、それぞれ半径方向、周方向における測定結果の設計位置に対するずれ量を表す。
【0035】
本方法の判定工程は、まず、画像から取得したクラッド中心と各コアの中心との線分の長さRi(μm)から設計上のクラッド中心と各コアの中心との線分の長さrs(μm)を減算し、各コアについて半径方向のずれ量rを計算する(ステップS18)。続いて、画像から取得した第1線分と第2線分とが成す角度をθi-j[度]から設計上の第1線分と第2線分とが成す角度θs[度]を減算し、各コアについて周方向のずれ量θ[度]を計算する(ステップS19)。さらに、式(6)で各コア毎にずれ量δΛxを計算する(ステップS20)。
【0036】
続いて、ずれ量δΛxが許容損失から求まるrd(式(4)参照。)以内であるか否かを判定する(ステップS21)。ずれ量δΛxがrd以内(ステップS21で“Yes”)であれば良好な構造と判定して終了する(ステップS10)。一方、ずれ量δΛxがrdより大きい場合(ステップS21で“No”)であれば不良判定とする(ステップS11)。
判定工程はステップS10又はS11で終了する。
【0037】
本実施形態の評価方法は、半径方向および周方向の2つのずれ量を同時に考慮して判定でき、好ましい。
【0038】
(実施形態3)
図10は、本実施形態の評価装置301を説明する図である。評価装置301は、
マルチコアファイバ50の断面観察を行うカメラ31と、
実施形態1又は2で説明した評価方法を行うプロセッサ32と、
を備え、マルチコアファイバ50が所望の接続損失特性を有するか否かを判定する。
【0039】
図10を用いて、さらに評価装置301を説明する。評価装置301は、光源30、光ファイバ把持部32、及び対物レンズ33をさらに備える。カメラ31は、画像撮影器31a、光画像撮影器31b、および光軸Laxに対してこれらの撮影器を移動させる切替部34を備える。光源30は、ハロゲンランプ等の白色光源であり、MCF50のクラッド全体を照射可能であれば、レンズ等により集光しても良い。光ファイバ把持部32は、MCF50を水平に設置し、MCF50が動かないように抑える。例えば、光ファイバ把持部32は、
図11に示すようにV溝32aを有しており、V溝32aにMCF50を水平に設置し、MCF50が動かないように、上からMCF50を抑えるクランプ(不図示)を有する。
【0040】
対物レンズ33は、MCF50のクラッド全体が撮影できる倍率、あるいは、1部しか撮影できない倍率であっても切替部34で画像撮影器31a又は光画像撮影器31bを同時に動かし、MCF50のクラッド全体を撮影できる構成であっても良い。
【0041】
画像撮影器31aと光画像撮影器31bは、対物レンズ33の視野を十分に満たす範囲を撮影できるものである。画像撮影器31aは、MCF50の端面全体を撮影できる。光画像撮影器31bは、MCF50のコア部から出射される近赤外光の強度分布を撮影できる。
【0042】
画像撮影器31aと光画像撮影器31bは、切替器34で移動可能であり、それぞれ、光源31、MCF50、及び対物レンズ33と光軸が揃うように直線状に配置可能である。切替器34は、例えば、レールやレボルバである。つまり、切替器34で画像撮影器31aと光画像撮影器31bとを切り替えることで2種類の端面画像(MCF50の端面全体の画像とコア部から出射される近赤外光の強度分布の画像)を撮影できる。カメラ31とプロセッサ32とが接続されており、カメラ31が取得した2種類の端面画像はプロセッサ32へ送られる。
【0043】
プロセッサ32は、前記2種類の端面画像を合成して、光ファイバのクラッド直径および各コアの中心座標を計測し、
図5または
図8に記載の判定フローに基づいて評価を行う。従って、評価装置301は、検査するMCF50が所望の接続損失特性を有するか否かを容易に判断することができる。
【0044】
なお、プロセッサ32の動作はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0045】
(他の実施形態)
上述した実施形態では、4CFで説明したが、評価できるMCFのコア数は4に限らない。コア数が3以上のMCFであれば評価可能である。また、上述した実施形態では、光ファイバの中心にコアがないMCFで説明したが、光ファイバの中心にコアがあるMCFの評価も可能である。さらに、コアが多角形でなく、円環状に配列されているMCFも評価可能である。
コアが六方最密状に配置されているMCFも、最外周のコアを利用して評価可能である。
【符号の説明】
【0046】
11:クラッド
12、12-1、12-2、12-3、12-4:コア
13、13-1、13-2、13-3、13-4:設計上のコア位置
30:光源
31:カメラ
31a:画像撮影器
31b:光画像撮影器
32:光ファイバ把持部
32a:V溝
33:対物レンズ
34:切替部
35:プロセッサ
50:マルチコアファイバ
301:評価装置