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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ポリクロロプレンラテックス組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 11/02 20060101AFI20241106BHJP
   C08K 5/03 20060101ALI20241106BHJP
   C09J 111/02 20060101ALI20241106BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20241106BHJP
   A41D 19/04 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C08L11/02
C08K5/03
C09J111/02
C09J11/06
A41D19/04 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022573103
(86)(22)【出願日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2021048751
(87)【国際公開番号】W WO2022145448
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2020219651
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾川 展子
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 彰
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-173890(JP,A)
【文献】特開2009-173891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン(共)重合体(A)、および炭素数7~10の芳香族化合物(B)を含むポリクロロプレンラテックス組成物であって、
前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)は、芳香環に結合する水素原子の1つ以上が、塩素原子、または、塩素原子を含む置換基で置換されている化合物であり、
前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)の割合が、前記ポリクロロプレンラテックス組成物の固形分量を100質量部としたときに、0.0012~0.15質量部である、ポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項2】
前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)が2置換の芳香族化合物である請求項1に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項3】
前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)の分子量が100~200である請求項1または2に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項4】
前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)として4-クロロビニルベンゼンを含む請求項1~のいずれか1項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項5】
前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)として2-メチルベンジルクロリドおよび、3-メチルベンジルクロリドの少なくとも一種を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項6】
前記クロロプレン(共)重合体(A)の割合は、ポリクロロプレンラテックス組成物の固形分量を100質量部としたときに、40~99.9質量部である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項7】
前記ポリクロロプレンラテックス組成物が、さらに加硫促進剤、金属酸化物、および酸化防止剤を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項8】
前記ポリクロロプレンラテックス組成物が、さらに粘着付与剤を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物を浸漬法により成形し、硬化させた浸漬製品。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物を含む粘着剤。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物を含む接着剤。
【請求項12】
第1の被着体と、前記第1の被着体の一部に付着した請求項1~のいずれか1項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物の固形分の層と、前記固形分の層に積層された第2の被着体とを含む接着製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)の重合体もしくは2-クロロ-1,3-ブタジエンとコモノマーとの共重合体を主成分とするラテックス組成物、および該ラテックス組成物から得られる成形物、特に浸漬製品に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴム(以下、「CR」と略記することがある。)は、一般ゴム物性、耐候性、耐熱性、耐薬品性などの特性が良好であるため、手袋などの浸漬製品用途、粘着剤用途、接着剤用途、弾性アスファルト(改質アスファルト)、弾性セメントなどの土木・建築用途などで広く使用されている。中でも、医療用使い捨て手袋用途、特に手術用手袋用途では、クロロプレンゴムの柔軟性および機械的特性が天然ゴムに比較的近いこと、ならびにクロロプレンゴムが比較的安価に製造可能であることから、天然ゴムのアレルギーによるショック症状(アナフィラキシー)を防止するために、クロロプレンゴムが使用されている。クロロプレンゴムを材料として製造した手袋には、使用者が天然ゴムに近い良好なフィット感(快適性)を得ることができること、および手袋が使用者の指先の細かい動きに良好に追随する(追随性)ことなどの優れた特長がある。しかし、クロロプレン重合体は低温下で結晶化して硬度が高くなるため、クロロプレンゴムを材料として製造した手袋は、低温下では使用感が悪くなるのが問題であった。
【0003】
クロロプレン重合体の結晶化は、クロロプレンラテックス中に不純物が存在すると妨げられる可能性がある。不純物を含むクロロプレンラテックスの例として、クロロプレン二量体を含むクロロプレンラテックス(例えば、特許文献1、2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5525684号公報
【文献】特開平3-203609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、クロロプレンラテックスの臭気対策のために、クロロプレンラテックスの製造時にクロロプレン二量体の生成量を抑制するための方法を提供するものであり、不純物を含む成形物による柔軟性などの評価は行われていない。特許文献2では、押し出し成形したポリクロロプレンから二量体などの不純物を除去する方法が提案されているが、特許文献2も臭気対策に関する文献であり、クロロプレンゴムから得られる成形物の機能に関する記載はない。さらに、クロロプレン重合体の結晶化を抑制する技術は知られていない。このため、低温下でのクロロプレン重合体の結晶化を妨げることは現状では困難であり、低温下でも柔軟性を保つことのできるクロロプレンゴムはいまだに得られていない。このように、従来のクロロプレンゴムでは低温下でクロロプレン重合体の結晶化が進むことにより硬くなるため、従来のクロロプレンゴムから製造された手袋、糸ゴム等は低温下で使用感が悪くなるという問題点がある。
【0006】
本発明は、低温下(例えば、-10℃)での柔軟性が維持でき、低温下であっても、例えば手袋、糸ゴム等として好適に使用することができる成形物、およびそのような成形物の製造に使用可能なラテックス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、この問題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の物質を含有するポリクロロプレンラテックス組成物から製造したクロロプレンゴムは、低温下でも硬化せず、使用感を損なわない成形物となることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記のポリクロロプレンラテックス組成物に関する。
【0009】
[1]クロロプレン(共)重合体(A)、および炭素数7~10の芳香族化合物(B)を含むポリクロロプレンラテックス組成物であって、
前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)の割合が、前記ポリクロロプレンラテックス組成物の固形分量を100質量部としたときに、0.0012~0.15質量部である、ポリクロロプレンラテックス組成物。
【0010】
[2] 前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)は、芳香環に結合する水素原子の1つ以上が、塩素原子、または、塩素原子を含む置換基で置換されている化合物である、[1]に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【0011】
[3] 前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)が2置換の芳香族化合物である[1]または[2]に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【0012】
[4] 前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)の分子量が100~200である[1]~[3]のいずれかに記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【0013】
[5] 前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)として4-クロロビニルベンゼンを含む[1]~[4]のいずれかに記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【0014】
[6] 前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)として2-メチルベンジルクロリドおよび、3-メチルベンジルクロリドの少なくとも一種を含む、[1]~[5]のいずれかに記載のポリクロロプレンラテックス組成物
【0015】
[7] 前記クロロプレン(共)重合体(A)の割合は、ポリクロロプレンラテックス組成物の固形分量を100質量部としたときに、40~99.9質量部である、[1]~[6]のいずれかに記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【0016】
[8] 前記ポリクロロプレンラテックス組成物が、さらに加硫促進剤、金属酸化物、および酸化防止剤を含む、[1]~[7]のいずれかに記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【0017】
[9] 前記ポリクロロプレンラテックス組成物が、さらに粘着付与剤を含む、[1]~[8]のいずれかに記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【0018】
[10] [1]~[8]のいずれかに記載のポリクロロプレンラテックス組成物を浸漬法により成形し、硬化させた浸漬製品。
【0019】
[11] [1]~[9]のいずれかに記載のポリクロロプレンラテックス組成物を含む粘着剤。
【0020】
[12] [1]~[9]のいずれかに記載のポリクロロプレンラテックス組成物を含む接着剤。
【0021】
[13] 第1の被着体と、前記第1の被着体の一部に付着した[1]~[9]のいずれかに記載のポリクロロプレンラテックス組成物の固形分の層と、前記固形分の層に積層された第2の被着体とを含む接着製品。
【発明の効果】
【0022】
低温下での柔軟性が維持でき、例えば手袋、糸ゴム等で好適に使用する成形物、およびそのような成形物の製造に使用可能なラテックス組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は下記の実施形態の構成に限定されるものではない。なお、特許請求の範囲および本明細書の記載において、数値範囲を規定する「~」は、その下限値の数値以上、上限値の数値以下を意味する。
【0024】
≪ポリクロロプレンラテックス組成物≫
本発明のポリクロロプレンラテックス組成物は、少なくとも、クロロプレン(共)重合体(A)および炭素数7~10の芳香族化合物(B)を含む。ここで、炭素数7~10の芳香族化合物(B)の割合は、前記ポリクロロプレンラテックス組成物の固形分量を100質量部としたときに、0.0012~0.15質量部である。以下の記載では、前記炭素数7~10の芳香族化合物(B)を単に「芳香族化合物(B)」と記載する場合がある。ポリクロロプレンラテックス組成物は、ポリクロロプレンラテックスに芳香族化合物(B)を添加して製造されてもよい。また、ポリクロロプレンラテックス組成物は、芳香族化合物(B)が副生成物として生成する条件下でクロロプレン(共)重合体(A)を構成するモノマーを乳化重合することにより製造されてもよい。
なお、本明細書では、ポリクロロプレンラテックスのみまたは、芳香族化合物(B)が添加されたポリクロロプレンラテックスを「ポリクロロプレンラテックス組成物a」とする。一方、粘着付与剤、界面活性剤(クロロプレン(共)重合体(A)の重合時に使用するもの以外)、加硫促進剤、酸化亜鉛分散体などの金属酸化物、受酸剤、酸化防止剤、充填剤、顔料、着色剤、湿潤剤、消泡剤、増粘剤等の少なくとも1つが添加されたものを「ポリクロロプレンラテックス組成物b」とする。
【0025】
[ポリクロロプレンラテックス]
ポリクロロプレンラテックスは、水などの分散媒中にクロロプレン(共)重合体(A)が分散しているラテックスである。クロロプレン(共)重合体(A)は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(以下『クロロプレン』ともいう)を主要なモノマー成分とする重合体であり、具体的には、
(1)2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)単独重合体、
(2)2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)との共重合体
(3)2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)と、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)と、後述するモノマー(A-3)との共重合体、および
(4)2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)と後述するモノマー(A-3)との共重合体
のいずれかであってもよく、また、前記(1)~(4)の2種類以上の混合物であってもよい。本発明において、「ポリクロロプレンラテックス」は、前記(1)から(4)の(共)重合体のいずれか1つ以上が分散媒に分散しているラテックスを意味する。
【0026】
前記クロロプレン(共)重合体(A)では、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)に由来する構造(モノマー単位)の質量と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)に由来するモノマー単位の質量との比((A-1)由来のモノマー単位の質量:(A-2)由来のモノマー単位の質量)が、好ましくは100:0~70:30であり、より好ましくは100:0~75:25であり、さらに好ましくは100:0~80:20である。
2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)に由来するモノマー単位と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)に由来するモノマー単位の合計を100質量部とした場合に、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)由来のモノマー単位の量が70質量部以上であると、成形物の引張強度が良好であり好ましい。
【0027】
前記クロロプレン(共)重合体(A)は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)に由来するモノマー単位と、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)に由来するモノマー単位とを含むことが好ましい。クロロプレン(共)重合体(A)が2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)に由来するモノマー単位を含む場合、室温(25℃)での柔軟性に優れるので好ましい。
前記クロロプレン(共)重合体(A)が2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)に由来するモノマー単位を含む場合、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)に由来するモノマー単位と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)に由来するモノマー単位の合計を100質量部とした場合に、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)に由来するモノマー単位の量は好ましくは0.01質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上である。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)に由来するモノマー単位の量が30質量部以下であると、成形物が柔軟性に優れるので好ましい。なお、成形物の柔軟性の目安は、後述する実施例のデュロメータ硬さAによって得られており、デュロメータ硬さAが好ましくは20~65、より好ましくは20~60であると、成形物が柔軟性に優れる。
【0028】
前記クロロプレン(共)重合体(A)は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)に由来するモノマー単位と任意に2、3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)に由来するモノマー単位とに加えて、モノマー(A-3)に由来するモノマー単位を含むことができる。ここで、モノマー(A-3)とは、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)および2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)以外のモノマーであって、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)の少なくとも一方と共重合可能なモノマーである。モノマー(A-3)は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)および2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)の両方と共重合可能なモノマーであってもよい。ただし、モノマー(A-3)は、後述する芳香族化合物(B)に該当する化合物を含まないものとする。モノマー(A-3)としては、例えば、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸及びそのエステル類、メタクリル酸及びそのエステル類等が挙げられる。前記クロロプレン(共)重合体(A)は、必要に応じてモノマー(A-3)に由来する構造として、2種類以上のモノマーに由来する構造を含んでいても構わない。
【0029】
前記クロロプレン(共)重合体(A)では、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)に由来するモノマー単位の質量と、モノマー(A-3)に由来するモノマー単位の質量との比((A-1)由来のモノマー単位の質量:(A-3)由来のモノマー単位の質量)は、好ましくは100:0~90:10であり、より好ましくは100:0~92:8であり、さらに好ましくは100:0~94:6である。
前記クロロプレン(共)重合体(A)がモノマー(A-3)に由来するモノマー単位を含む場合、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)に由来するモノマー単位とモノマー(A-3)に由来するモノマー単位の合計を100質量部とすると、モノマー(A-3)に由来するモノマー単位の量は0.01質量部以上である。モノマー(A-3)に由来するモノマー単位の割合が10質量部以下であると、成形物の引張強度および伸びが良好であり、成形物の柔軟性の経時安定性が良好である。
【0030】
<ポリクロロプレンラテックスの製造方法>
前記ポリクロロプレンラテックスの製造方法は、水性乳化液中でモノマーをラジカル重合する方法が好ましい。この方法では、クロロプレン(共)重合体(A)の粒子が水などの分散媒中に分散したポリクロロプレンラテックスが得られる。
【0031】
乳化重合法における乳化剤としては、アニオン系界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤としては、例えば、ロジン酸石鹸、ナフタレンスルホン酸縮合物のナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩、ドデシル硫酸のナトリウム塩などが挙げられる。浸漬製品用途向けに、特に凝固操作の簡便性から通常のロジン酸石鹸を用いることができる。特に、着色安定性の観点から、不均化ロジン酸のナトリウムまたはカリウム塩を使用することが好ましい。
【0032】
乳化剤の使用量は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)、および、モノマー(A-3)の全モノマーの合計を100質量部としたとき、1~30質量部が好ましい。乳化剤の使用量が1質量部以上では、乳化不良が生じにくく、重合による発熱を制御することができる上、凝集物の生成が抑制され、ポリクロロプレンラテックスから得られた成形物の外観が良好になりやすい。乳化剤の使用量が30質量部以下の場合、ポリクロロプレンラテックスに残留した乳化剤に起因したクロロプレン(共)重合体(A)の粘着が起こりにくく、成形物を得るために使用する鋳型(フォーマー)からの剥離不良および成形物の表面の粘着が起こりにくいので、加工性および操作性の悪化が起こりにくい上、製品の色調の悪化も起こりにくいため、好ましい。なお、乳化剤である界面活性剤は、適宜、2種以上使用してもよい。
【0033】
連鎖移動剤としては、特に限定されるものではないが、キサントゲンジスルフィドおよびアルキルメルカプタンを使用できる。アルキルメルカプタンとしては、n-ドデシルメルカプタン、n-デシルメルカプタン、オクチルメルカプタンもしくはtert-ドデシルメルカプタン等が挙げられる。キサントゲンジスルフィドとしては、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド等が挙げられる。
連鎖移動剤の使用量は、連鎖移動剤の種類、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)の使用量、重合転化率、重合温度の影響により変動するので一概には言えないが、例えばn-ドデシルメルカプタンを使用する場合は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)、およびモノマー(A-3)の全モノマーの合計を100質量部としたとき、0.03~0.2質量部の範囲が好ましく、0.06~0.15質量部の範囲がより好ましい。
【0034】
ポリクロロプレンラテックスを製造する際、重合転化率は、80~100%であることが好ましい。重合転化率が80%以上であると、ポリクロロプレンラテックスの固形分量が充分であるため、フィルム化などの成形処理が容易であり、成形物にピンホールおよびクラックが発生しにくくなるので好ましい。ここで、ポリクロロプレンラテックスの固形分とは、ポリクロロプレンラテックスから水などの分散媒を除去して得られる成分であり、ポリクロロプレンラテックスを141℃のオーブン中に30分間静置することにより乾燥させて得られる成分である。
芳香族化合物(B)を、後述するようにクロロプレン(共)重合体(A)の副生成物として乳化重合と同時に生成する場合、重合転化率が90%以上であると芳香族化合物(B)が生成しやすくなるのでより好ましい。
【0035】
重合開始剤としては、一般的なラジカル重合開始剤を使用可能であり、特に制限はない。乳化重合の場合には過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の有機あるいは無機の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が好ましい。重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記クロロプレン(共)重合体(A)の重合の際には、重合開始剤と共に、所望により助触媒を使用してもよい。重合開始剤と共に使用可能な助触媒は、特に限定されるものではなく、一般的な助触媒を使用することができる。例えば、アントラキノンスルホン酸塩、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウムなどの助触媒を適時併用することができる。助触媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記クロロプレン(共)重合体(A)の重合温度は、30~55℃が好ましく、35~50℃の温度範囲にすることがより好ましい。重合温度が30℃以上であれば、クロロプレン(共)重合体(A)の副生成物として、芳香族化合物(B)が生成しやすい傾向がある。なお、芳香族化合物(B)が生成する際の反応については後述する。重合温度が55℃以下であれば、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)の蒸気圧が適正であるため重合操作が容易となり、また、クロロプレン(共)重合体(A)を成形して得られる成形物の引張強度などの機械的特性が良好になりやすい。乳化重合の際の重合時間は好ましくは5~25時間である。乳化重合の際の重合温度と重合時間が上記の範囲にあると、所望の重合転化率となるため好ましい。
【0038】
通常、ポリクロロプレンラテックスの製造では所望の分子量および分子量分布のクロロプレン(共)重合体(A)を得る目的で、所定の重合転化率に到達した時点で重合停止剤を添加し、反応を停止させることが好ましい。本発明の実施形態においても、重合停止剤を使用してもよい。使用可能な重合停止剤には特に制限が無く、通常用いられる停止剤、例えばフェノチアジン、パラ-t-ブチルカテコール、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジエチルヒドロキシルアミン等を用いることができる。重合停止剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
[炭素数7~10の芳香族化合物(B)]
本発明のポリクロロプレンラテックス組成物は、炭素数7~10の芳香族化合物(B)の少なくとも一種を含む。芳香族化合物(B)としては、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、ビニルベンゼン、2-エチルトルエン、3-エチルトルエン、4-エチルトルエン、クメン、2-プロピルトルエン、3-プロピルトルエン、4-プロピルトルエン、1,2-ジエチルベンゼン、1,3-ジエチルベンゼン、1,4-ジエチルベンゼン等が挙げられるが、これらの水素原子の1つ以上がハロゲン(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子)、水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボニル基、カルボキシル基、イソシアナト基等に置換されていてもよい。また、芳香族化合物(B)には、サリチル酸やアセトフェノンのように、炭素原子を含む置換基で置換される前の芳香族化合物の炭素数が6である化合物も含まれる。
【0040】
炭素数7~10の芳香族化合物(B)は、芳香環に結合する1つ以上の水素原子が塩素原子または塩素原子を含む置換基で置換された化合物であることが好ましく、1つ以上の水素原子が塩素原子または塩素原子を含む置換基で置換された二置換の化合物であることがより好ましく、塩素原子または塩素原子を含む置換基で置換されたキシレン誘導体であることがさらに好ましく、4-クロロビニルベンゼン、2-メチルベンジルクロリド、3-メチルベンジルクロリド、4-メチルベンジルクロリドのいずれかであることが特に好ましく、4-クロロビニルベンゼンであることが殊更好ましい。
クロロプレン(共)重合体(A)との相溶性が良好である点から、芳香族化合物(B)の分子量は、好ましくは100~200であり、より好ましくは120~180であり、さらに好ましくは130~150である。
【0041】
ポリクロロプレンラテックス組成物a中の芳香族化合物(B)の量は、ポリクロロプレンラテックス組成物aの固形分量100質量部に対して、0.0012~0.15質量部であり、好ましくは0.002~0.12質量部であり、より好ましくは0.05~0.1質量部である。芳香族化合物(B)の量が0.0012質量部以上であると、ポリクロロプレンラテックス組成物から製造された成形物中で芳香族化合物(B)がクロロプレン(共)重合体(A)の結晶化を妨げることができるため、低温下においても成形物の硬度上昇が抑制される。
ここで、ポリクロロプレンラテックス組成物aの固形分量は、ポリクロロプレンラテックス自体または芳香族化合物(B)が添加されているときは、芳香族化合物(B)が添加されたポリクロロプレンラテックス(ポリクロロプレンラテックス組成物a)の質量に対して、後述する実施例に記載の方法により求めた固形分率を乗じて得られる値である。したがって、ポリクロロプレンラテックス組成物aの固形分量の計算時には、粘着付与剤、界面活性剤(クロロプレン(共)重合体(A)の重合時に使用するもの以外)、加硫促進剤、酸化亜鉛分散体などの金属酸化物、受酸剤、酸化防止剤、充填剤、顔料、着色剤、湿潤剤、消泡剤、増粘剤等の含有量は用いない。
【0042】
芳香族化合物(B)を添加する場合、芳香族化合物(B)は、クロロプレン(共)重合体(A)の重合前に、ポリクロロプレンラテックスを製造するための出発物質に添加され得る。また、芳香族化合物(B)はクロロプレン(共)重合体(A)の重合後にポリクロロプレンラテックスに添加され得る。なお、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)、もしくはモノマー(A-3)と共重合可能な基を有する芳香族化合物(B)に限っては、芳香族化合物(B)がクロロプレン(共)重合体(A)中に重合されることを防ぐために、クロロプレン(共)重合体(A)の重合後にポリクロロプレンラテックスに添加される。
また、芳香族化合物(B)は、クロロプレン(共)重合体(A)の重合を、所定の条件下で行った場合の副反応として、クロロプレン(共)重合体(A)の重合に使用するモノマー等を原料として、副生され得る。
【0043】
[粘着剤、接着剤、および、接着製品]
このようにして得られた本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物は、後述するように手袋、糸ゴム、呼吸袋、血圧計ブラダー等の浸漬製品の製造に利用されるだけでなく、粘・接着剤としても利用され得る。なお粘・接着剤とは、粘着剤および接着剤を指す。
さらに、前記ポリクロロプレンラテックス組成物を被着体の表面の一部または全体に塗布し、前記ポリクロロプレンラテックス組成物を被着体の表面上で乾燥させて前記ポリクロロプレンラテックス組成物の固形分の層を形成することにより、接着層付きの被着体が得られる。被着体としては、ウレタンフォーム、発泡体、シート、フィルム、帆布、ガラス等、前記ポリクロロプレンラテックス組成物を塗布可能な任意のものが挙げられる。
前記ポリクロロプレンラテックス組成物を介して複数の被着体を積層することにより、接着製品を製造することもできる。ここで、複数の被着体は、双方が同じ種類の被着体であってもよく、一方の被着体(以下、「第1の被着体」ともいう)が他方の被着体(以下、「第2の被着体」ともいう)と異なる種類の被着体であってもよい。接着製品を製造する際には、積層する一方の被着体を、その被着体の表面に接着層を製造することにより接着層付きの被着体とし、その後、積層する他方の被着体を積層することができる。また、接着する複数の被着体の双方に接着層を設けたのち、被着体の接着層を積層させて接着を行うことにより、接着製品が製造されてもよい。接着製品としては、例えば、家具、靴などが挙げられる。
【0044】
[組成物に含まれ得る他の成分]
本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物が粘着剤もしくは接着剤として用いられる場合、前記ポリクロロプレンラテックス組成物に粘着付与剤を添加することができる。なお、粘着付与剤が添加されていないポリクロロプレンラテックス組成物aであっても、粘着剤、接着剤として用いることができるが、粘着付与剤を添加することによって、ポリクロロプレンラテックス組成物の粘着力を向上させて、高粘着力の粘・接着剤とすることができる。
【0045】
粘着付与剤の種類は特に限定されるものではないが、粘着付与剤としてはフェノール系樹脂、テルペン樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系炭化水素等が使用可能であり、具体例としては、水添ロジン、水添ロジンのペンタエリスリトールエステル、重合ロジン、ロジンを主成分とするロジン変性樹脂、アルキルフェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、天然テルペン樹脂が挙げられる。粘着付与剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
粘着付与剤の添加量は、後述する実施例に記載した方法で求めた固形分率とポリクロロプレンラテックスの質量から求めたポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して、通常10~60質量部であり、好ましくは20~40質量部である。粘着付与剤の添加量が上記範囲内であれば、ポリクロロプレンラテックス組成物の粘着性が十分確保され、ポリクロロプレンラテックス組成物の接着力が十分に向上される。粘着付与剤の添加方法は特に限定されるものではないが、粘着付与剤を乳化分散したエマルジョンの形態としてポリクロロプレンラテックス組成物に添加してもよい。
【0047】
また、本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物aに、さらに必要に応じて、界面活性剤、加硫促進剤、酸化亜鉛分散体などの金属酸化物、受酸剤、酸化防止剤、充填剤、顔料、着色剤、湿潤剤、消泡剤、増粘剤等を適宜添加することで、粘・接着剤を得ることができる。
なお、前記ポリクロロプレンラテックス組成物aに粘着付与剤、界面活性剤など上記の添加可能な物質が添加されるか否かに関わらず、ポリクロロプレンラテックス組成物a中の前記クロロプレン(共)重合体(A)の割合は、ポリクロロプレンラテックス組成物aの固形分量を100質量部としたときに、好ましくは30~99.9質量部であり、より好ましくは40~98質量部であり、特に好ましくは50~95質量部である。ここで、ポリクロロプレンラテックス組成物aの固形分とは、ポリクロロプレンラテックス組成物aを141℃のオーブン中に30分間静置することにより乾燥させて得られる成分であり、ポリクロロプレンラテックス組成物から水などの分散媒を除去して得られる成分である。
【0048】
[成形物]
実施形態に係るポリクロロプレンラテックス組成物bから浸漬加工法により浸漬製品を得ることができる。すなわち、本発明に係るポリクロロプレンラテックス組成物bに成形用の型を沈め、成形用の型の表面に前記ポリクロロプレンラテックス組成物bの固形分を析出させることにより成形し、成形した固形分を乾燥させた後に硬化させることにより成形物を得ることができる。なお、ポリクロロプレンラテックス組成物bに沈める型の表面には、凝固剤を付着させておくことが好ましい。また、成形した固形分の乾燥は、例えば、25~80℃のオーブン中に5分~24時間静置することにより行うことができる。
浸漬加工の前に、本実施形態に係るポリクロロプレンラテックス組成物bは、所定の条件で熟成され得る。熟成の温度条件は、好ましくは15~40℃であり、熟成時間は好ましくは15~72時間であり、例えば、23℃にて20時間熟成する条件が用いられ得る。なお、芳香族化合物(B)がポリクロロプレンラテックスの製造後に添加される場合、熟成の開始点は、ポリクロロプレンラテックス、芳香族化合物(B)、および、任意の加硫促進剤などの配合される全ての物質を混合したときである。一方、芳香族化合物(B)がポリクロロプレンラテックスの製造前に添加される場合、および芳香族化合物(B)がクロロプレン(共)重合体(A)の副生成物として生成する場合では、熟成の開始点は、ポリクロロプレンラテックスの重合を停止したときと、任意の加硫促進剤などを含むポリクロロプレンラテックス組成物に配合される全ての物質を混合したときとのうちのいずれか遅い方である。
熟成後、浸漬・凝固処理、乾燥、加硫処理(硬化)の各工程をこの順に行うことによって、フィルム状の成形物が得られる。
【0049】
浸漬・凝固処理は、凝固剤を塗布したプレートもしくは型をポリクロロプレンラテックス組成物bに所定期間沈め、クロロプレン(共)重合体(A)などのポリクロロプレンラテックス組成物b中の固形分を、プレートもしくは型の表面に堆積させることにより行うことができる。これは、ポリクロロプレンラテックス中では、界面活性を有する乳化剤などの膜に覆われた微粒子が形成されているが、プレートもしくは型の表面に付着した凝固剤の作用により微粒子の膜が崩壊することにより、微粒子中のクロロプレン(共)重合体(A)などがプレートもしくは型の表面に付着するためである、と推測される。凝固剤としては、金属塩が使用でき、例えば金属硝酸塩を使用することができる。
成形物の外観の問題、例えばブリスター、ピンホール等の生成を回避する目的で、加硫処理の前に予め65℃以上100℃以下の比較的低温で乾燥工程(粗乾燥工程)を行ってもよい。粗乾燥工程の有無にかかわらず、加硫処理の前に乾燥工程が行われる。
【0050】
加硫処理における加硫温度は、例えば110~140℃とすることができる。例えば空気下にて130℃で、浸漬・凝固処理によって堆積されたポリクロロプレンラテックス組成物b中の固形分を加硫処理することができる。上記加硫温度範囲での加硫時間は、例えば15~90分とすることができるが、成形物の引張強度および引張伸び率が悪化しない範囲内で十分に加硫処理を行うことが好ましい。
例えば、プレートもしくは型の表面に堆積した固形分を上記の条件で加硫処理することにより、成形物を得ることができる。
【0051】
本発明に係るポリクロロプレンラテックス組成物bから得られた成形物は、低温下でも、芳香族化合物(B)がクロロプレン(共)重合体(A)の結晶化を妨げるので、クロロプレン(共)重合体(A)を含む成形物の硬度上昇が抑制される。これは、芳香族化合物(B)がクロロプレン(共)重合体(A)の結晶の規則性を乱すためと推測される。このため、本発明に係るポリクロロプレンラテックス組成物から得られた成形物は、低温下でも柔軟性を維持することができる。その結果、前記成形物が手袋である場合、低温下においても使用者の付け心地が悪化しない。また、前記成形物が、血圧計ブラダー、呼吸袋、糸ゴムなどである場合も、低温下においても使用者の使用感が良好になる。
【0052】
[成形物の用途]
成形物は、特に医療用使い捨て手袋などの手袋、血圧計ブラダー、呼吸袋、糸ゴム等として好適に用いることができる。成形物の500%伸張時のモデュラス(M500)、引張強度、破断時伸び、および低温下でのデュロメータ硬さAは、後述する実施例で採用された方法により測定することができる。
【0053】
成形物の500%伸張時のモデュラスは、手袋等に使用時の使用感の点から、好ましくは1.0~5.0MPaであり、より好ましくは2.0~4.0MPaである。
成形物の引張強度は、破断しにくい点から、好ましくは15~40MPaであり、より好ましくは17~30MPaである。
成形物の破断時伸びは、破断しにくい点から、好ましくは500~1500%であり、より好ましくは700~1200%である。
成形物の低温下(-10℃)でのデュロメータ硬さAの経時変化は、低温下での脆化の点から、好ましくは10~30であり、より好ましくは15~25である。
【実施例
【0054】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を説明するが、以下の例により本発明は何ら限定されるものではない。まず、ポリクロロプレンラテックスおよびポリクロロプレンラテックス組成物の物性の測定方法および計算方法について説明した後、個々の実施例について述べる。
【0055】
<重合転化率の算出方法>
クロロプレン(共)重合体(A)の重合開始後の乳化物を採取し、141℃のオーブンに30分間静置することにより乾燥させて乾固物を得た。乾燥処理により得られた乾固物には、クロロプレン(共)重合体(A)とクロロプレン(共)重合体(A)以外の固形分が含まれている。そこで、乳化重合に使用する各種成分の中から141℃では揮発しない成分を、重合原料仕込み量から算出して、クロロプレン(共)重合体(A)以外の固形分の質量とした。また、重合開始後の乳化物の乾燥で得られた乾固物の質量からクロロプレン(共)重合体(A)以外の固形分の質量を差し引いた値を「クロロプレン(共)重合体(A)の生成量」として、式(1)により重合転化率を算出した。
重合転化率(%)=[(クロロプレン(共)重合体(A)の生成量)/(全モノマーの仕込み質量)]×100・・・(1)
なお、式(1)の「全モノマーの仕込み質量」は、乾固物を得るために採取した量の乳化物に含まれる2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)の仕込み量と、任意に2、3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)およびモノマー(A-3)の仕込み量との合計である。
【0056】
<ポリクロロプレンラテックス(ポリクロロプレンラテックス組成物a)の固形分率(測定による)>
ポリクロロプレンラテックス(あるいは、ポリクロロプレンラテックス組成物a、以下同様)を所定量採集し、採取したポリクロロプレンラテックスの質量を秤量した。その後、秤量したポリクロロプレンラテックスを141℃のオーブンに30分間静置することにより乾燥させて乾固物を得た。乾燥前のラテックスの質量と乾燥後に得られた固形分の質量から、式(2)に従って固形分率を求めた。
固形分率(質量%)
=[(乾燥後の固形分質量)/(乾燥前のラテックス質量)]×100 ・・・(2)
【0057】
<ポリクロロプレンラテックス組成物中の芳香族化合物(B)の含有量>
ポリクロロプレンラテックス組成物2mL(約2.1~2.2g)を、20mLのヘッドスペースバイアルに採取し、密栓後に振とうしながら60分間にわたって100℃に加熱した。その後、得られたアウトガスを、オートサンプラーを用いて、GCMSにより測定した。測定条件は以下の通りである。
{測定条件}
GC: Agilent 6890N
MS: JEOL AutomassII
カラム:Agilent Technologies DB-624 320μm×30m (膜厚)1.8μm
移動相:He 2.2ml/分 コンスタントフロー
注入量:1.0mL
注入口温度:250℃
注入方法:スプリット注入法 (スプリット比5:1)
分析時間:60分間
インターフェース温度:250℃
イオン源温度:200℃
カラム温度条件:40℃(20分)→240℃(20分)(このときの昇温条件は+10℃/分)
測定モード:SCAN (m/z=35-300)
イオン化法:EI
加速電圧:70eV
検出器電圧:500V
イオン化電流:300μA
【0058】
[実施例1]
〈ポリクロロプレンラテックス(A1)の調製と芳香族化合物(B)の添加〉
内容積5リットルのガラス製反応器に、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)2.0kg(100質量部)(東京化成工業株式会社製)、純水1.6kg(80質量部)、ロジン酸(荒川化学工業株式会社製、R-300)80g(4質量部)、n-ドデシルメルカプタン(東京化成工業株式会社製)2g(0.1質量部)、20質量%水酸化カリウム水溶液(和光純薬株式会社製、特級品)100g(5質量部)、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製)16g(0.8質量部)を仕込んだ。反応器に仕込んだ出発物質を乳化させ、ロジン酸をロジン酸石鹸に変換した。
【0059】
なお、2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)は、クロロプレン重合体の原料モノマーとして配合し、純水は乳化重合の分散媒として配合した。また、n-ドデシルメルカプタンは連鎖移動剤として配合し、ロジン酸および水酸化カリウムは乳化剤の原料として配合し、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩は乳化剤として配合した。ただし、水酸化カリウムの配合量は、20質量%の水溶液として100g(5質量部)であるので、水酸化カリウムとしては20g(1質量部)である。
【0060】
出発物質を乳化して得られた乳化物に、重合開始剤として過硫酸カリウム(和光純薬株式会社製一級品)を添加し、窒素ガス雰囲気下、温度40℃で7時間重合を行った。モノマーの重合転化率が88%であることを確認したところで重合を停止した。次いで、未反応のモノマーを水蒸気蒸留にて除去した。反応器に仕込んだ2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)を100質量部としたときに、4-クロロビニルベンゼン(東京化成株式会社製)0.005質量部と、2-メチルベンジルクロリド(東京化成株式会社製)0.005質量部とを、得られたポリクロロプレンラテックス(A1)に添加することにより、ポリクロロプレンラテックス組成物(A1a)を得た。すなわち、ポリクロロプレンラテックス組成物(A1a)には、4-クロロビニルベンゼンと2-メチルベンジルクロリドとが、それぞれ0.10gずつ添加されている。ポリクロロプレンラテックス(A1a)の実測による固形分率は、49.2質量%であった。
【0061】
上記方法で得られたポリクロロプレンラテックス組成物(A1a)をGCMSにより分析したところ、基準となるS(保持時間:1分34秒)のピークの面積と4-クロロビニルベンゼン(保持時間:31分48秒)のピークの面積との比が0.028、基準となるSのピークの面積と2-メチルベンジルクロリド(保持時間:33分46秒)のピークの面積との比が0.118だった。得られたピーク面積比を表1に示す。
【0062】
ポリクロロプレンラテックス組成物(A1a)の固形分に対する、芳香族化合物(B)の含有割合は、前記測定方法によるポリクロロプレンラテックス組成物(A1a)の固形分率と4-クロロビニルベンゼン、2-メチルベンジルクロリドの添加量とに基づいて算出した。ポリクロロプレンラテックス組成物(A1a)の固形分100質量部に対する、4-クロロビニルベンゼンの割合は0.0053質量部、2-メチルベンジルクロリドの割合は0.0053質量部であった。
【0063】
〈クロロプレン共重合体ラテックス組成物bの調製〉
スリーワンモーター付きの撹拌槽に、以下に示す分量で、ポリクロロプレンラテックス組成物(A1a)、界面活性剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、フェノール系酸化防止剤分散体、を仕込み、30分撹拌した。以下、得られた組成物をポリクロロプレンラテックス組成物(A1b)とする。
ポリクロロプレンラテックス組成物(A1a)の固形分 100質量部
界面活性剤 1) 1質量部
加硫促進剤 2) 1質量部
加硫促進剤 3) 1質量部
酸化亜鉛分散体 4) 5質量部
フェノール系酸化防止剤分散体 5) 2質量部
ここで、界面活性剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、フェノール系酸化防止剤分散体、として用いた物質は以下の通りである。
界面活性剤 1):RT Vanderbilt(株)製、ナトリウムアルキルスルフェート、Darvan WAQ
加硫促進剤 2)ノクセラー(登録商標)C、N,N'-ジフェニルチオ尿素、大内新興化学工業(株)製
加硫促進剤 3)ノクセラー(登録商標)D、1,3-ジフェニルグアニジン、大内新興化学工業(株)製
酸化亜鉛分散体 4)大崎工業(株)製、ZnO、AZ-SW
フェノール系酸化防止剤分散体 5)中京油脂(株)製、オリゴマー型ヒンダードフェノール(DCPD とp-クレゾールのブチル化反応物)、K-840 (Wingstay L 分散体)
【0064】
なお、酸化亜鉛AZ-SWおよびフェノール系酸化防止剤K-840は、有効成分である酸化亜鉛、酸化防止剤を液状媒体に分散させた分散体の形態であるので、上記した酸化亜鉛AZ-SWおよびフェノール系酸化防止剤K-840の仕込み量は、仕込んだ酸化亜鉛AZ-SW、K-840のうち有効成分のみの量である。
【0065】
ポリクロロプレンラテックス組成物(A1b)では、ポリクロロプレンラテックス組成物(A1a)の固形分100質量部に対して、界面活性剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、フェノール系酸化防止剤が合計で10質量部配合されており、固形分量の合計は110質量部になっている。このため、ポリクロロプレンラテックス組成物(A1b)中の芳香族化合物(B)の割合は、ポリクロロプレンラテックス組成物(A1a)中の芳香族化合物(B)の割合の1.1分の1になっているものとして計算した。ポリクロロプレンラテックス組成物(A1b)での4-クロロビニルベンゼンの割合は、ポリクロロプレンラテックス組成物(A1b)の固形分100質量部に対して、0.0048質量部である。同様に、2-メチルベンジルクロリドの割合も、ポリクロロプレンラテックス組成物(A1b)の固形分100質量部に対して、0.0048質量部である。ポリクロロプレンラテックス組成物(A1b)中の芳香族化合物(B)の割合を表1に示す。
【0066】
〈フィルムの作製〉
まず、クロロプレン(共)重合体のフィルムの型として、縦200mm、横100mm、厚さ5mmのセラミック製の板を用意した。この型を、30質量%硝酸カルシウム水溶液に浸漬した後に引き上げ、40℃のオーブンで5分間乾燥させることにより、凝固剤である硝酸カルシウムを型の表面に付着させた。
【0067】
さらに、乾燥した型を、前記ポリクロロプレンラテックス組成物(A1b)に浸漬し、ポリクロロプレンラテックス組成物(A1b)の固形分を型の表面に堆積させた。クロロプレン共重合体ラテックス組成物から型を引き上げたら、70℃のオーブンで30分乾燥させた。
その後、2分間リーチング(浸出)を行うことにより、堆積したポリクロロプレンラテックス組成物(A1b)の固形分から水溶性成分を除去し、さらに、70℃のオーブンで、30分乾燥させた。
【0068】
次に、表面に固形分が堆積している型をオーブンにて130℃で60分間加熱して、型の表面に堆積しているポリクロロプレンラテックス組成物(A1b)の固形分を加硫処理することにより、硬化させた。大気下で放冷した後に、型の表面に硬化された成形物を所望の形状および大きさに切り出すことにより、加硫処理した成形物としてのフィルムを得た。
【0069】
<加硫処理で得られた成形物の引張試験>
JIS-K6301―1995に準じ、加硫後のフィルムを試験用のダンベルとなるように切断して、試験片を得た。フィルム試験片について、引張試験をJIS-K6301―1995に準じた方法で行うことで、室温(23℃)における500%伸張時のモデュラス(M500)、引張強さ、破断時伸びを測定した。結果を表1に示す。
【0070】
<加硫処理で得られた成形物の硬度測定>
試験片を-10℃の低温槽に入れ、試験片を入れた直後と24時間静置後のそれぞれについて、JISK6253-2012に準じた方法で、試験片の硬度を表面硬度デュロメータ硬さAを用いて測定した。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例2]
実施例1と同条件でクロロプレン(共)重合体(A)の重合を開始させ、7時間で重合反応を停止した。モノマーの重合転化率は88%であった。未反応のモノマーを水蒸気蒸留にて除去して、ポリクロロプレンラテックス(A2)を得た。反応器に仕込んだ2-クロロ-1,3-ブタジエン(A-1)を100質量部としたときに、2-メチルベンジルクロリド(東京化成株式会社製)0.005質量部と、3-メチルベンジルクロリド(東京化成株式会社製)0.005質量部とを、得られたポリクロロプレンラテックス(A2)に配合することにより、ポリクロロプレンラテックス組成物(A2a)を得た。すなわち、ポリクロロプレンラテックス組成物(A2a)には、2-メチルベンジルクロリドと3-メチルベンジルクロリドとが、それぞれ0.10gずつ添加されている。このため、ポリクロロプレンラテックス組成物(A2a)の固形分を100質量部としたときの2-メチルベンジルクロリドの割合、および3-メチルベンジルクロリドの割合は、いずれも0.0053質量部である。
【0072】
上記方法で得られたポリクロロプレンラテックス組成物(A2a)を実施例1と同様の条件でGCMSにより分析したところ、基準となるS(保持時間:1分34秒)のピークの面積と2-メチルベンジルクロリド(保持時間:33分46秒)のピークの面積との比が0.117、基準となるSのピークの面積と3-メチルベンジルクロリド(保持時間:34分05秒)のピークの面積との比が0.031だった。
【0073】
上記方法で得られたポリクロロプレンラテックス組成物(A2a)に実施例1と同様の配合で界面活性剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、およびフェノール系酸化防止剤分散体を添加し、実施例1と同様の方法でポリクロロプレンラテックス組成物(A2b)を調製した。さらに、ポリクロロプレンラテックス組成物(A2b)を用いて、フィルムおよび試験片を、実施例1と同様に製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。なお、2-メチルベンジルクロリド、および3-メチルベンジルクロリドの割合を実施例1と同様に計算すると、2-メチルベンジルクロリド、および3-メチルベンジルクロリドのいずれもポリクロロプレンラテックス組成物(A1b)の固形分100質量部に対して0.0048質量部である。
【0074】
[実施例3]
出発物質の配合、乳化、重合開始剤の添加は実施例1と同じ条件で行った。窒素ガス雰囲気下、温度45℃で24時間にわたってクロロプレン(共)重合体(A)の重合を行った後に、重合を停止した。重合停止時の重合転化率は、95%であった。次いで、実施例1と同様に水蒸気蒸留を行うことにより、ポリクロロプレンラテックス(A3)を得た。
【0075】
ポリクロロプレンラテックス(A3)を実施例1と同様の条件でGCMSにより分析したところ、基準となるS(保持時間:1分34秒)のピークの面積と4-クロロビニルベンゼン(保持時間:31分48秒)のピークの面積との比が0.031であった。また、基準となるSのピークの面積と2-メチルベンジルクロリド(保持時間:33分46秒)のピークの面積との比が0.131、基準となるSのピークの面積と3-メチルベンジルクロリド(保持時間:34分05秒)のピークの面積との比が0.035だった。
この結果から、ポリクロロプレンラテックス(A3)にはクロロプレン(共)重合体(A)の重合中に副生成物として生成した4-クロロビニルベンゼン(分子量140.6g/mol)、2-メチルベンジルクロリド(分子量140.6g/mol)、および、3-メチルベンジルクロリド(分子量140.61g/mol)が芳香族化合物(B)として共存しているので、ポリクロロプレンラテックス(A3)はポリクロロプレンラテックス組成物であるともいえる。すなわち、ポリクロロプレンラテックス(A3)は、ポリクロロプレンラテックス組成物(A3a)でもある。
【0076】
芳香族化合物(B)に由来するピークのピーク面積と標準試料S由来のピークのピーク面積との比が芳香族化合物(B)の含有量に比例すると考えると、芳香族化合物(B)の添加量が既知である実施例1、2での結果と、GCMS分析結果とから、ポリクロロプレンラテックス(A3)中の芳香族化合物(B)の含有量を以下のように計算できる。なお、以下の式では、4-クロロビニルベンゼンと2-メチルベンジルクロリドについては実施例1でのピーク面積比と添加量とを用いて含有量を計算し、3-メチルベンジルクロリドについては実施例2でのピーク面積比と添加量とを用いて含有量を計算している。
4-クロロビニルベンゼン含有量
=(実施例3での標準試料Sとのピーク面積比)/(実施例1での標準試料Sとのピーク面積比)×(実施例1での添加量)
=0.031/0.028×0.1=0.111(g)
2-メチルベンジルクロリド含有量
=0.131/0.118×0.1=0.111(g)
3-メチルベンジルクロリド含有量
=(実施例3での標準試料Sとのピーク面積比)/(実施例2での標準試料Sとのピーク面積比)×(実施例2での添加量)
=0.035/0.031×0.1=0.113(g)
これらの値を用いて実施例1と同様に、ポリクロロプレンラテックス(A3)での芳香族化合物(B)の含有割合を計算すると、ポリクロロプレンラテックス(A3)の固形分を100質量部としたときの各物質の割合は以下のようになる。
4-クロロビニルベンゼンの割合 :0.0055質量部
2-メチルベンジルクロリドの割合 :0.0055質量部
3-メチルベンジルクロリドの割合 :0.0056質量部
【0077】
上記方法で得られたポリクロロプレンラテックス(A3)に実施例1と同様の配合で界面活性剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、および、フェノール系酸化防止剤分散体を添加し、実施例1と同様の方法でポリクロロプレンラテックス組成物(A3b)を調製した。さらに、ポリクロロプレンラテックス組成物(A3b)を用いて、フィルムおよび試験片を、実施例1と同様に製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。ポリクロロプレンラテックス(A3)での芳香族化合物(B)の含有割合から、実施例1と同様にポリクロロプレンラテックス組成物(A3b)での芳香族化合物(B)の割合を計算した。ポリクロロプレンラテックス組成物(A3b)の固形分を100質量部としたときに、芳香族化合物(B)の割合は以下の通りである。
4-クロロビニルベンゼンの割合 :0.0050質量部
2-メチルベンジルクロリドの割合 :0.0050質量部
3-メチルベンジルクロリドの割合 :0.0051質量部
【0078】
[比較例1]
実施例1と同条件でクロロプレン(共)重合体(A)の重合を開始させ、7時間で重合を停止した。モノマーの重合転化率は88%であった。未反応のモノマーを水蒸気蒸留にて除去し、ポリクロロプレンラテックス(CA1)を得た。
【0079】
ポリクロロプレンラテックス(CA1)を実施例1と同様の条件でGCMSにより分析したところ、基準となるS(保持時間:1分34秒)のピークの面積と4-クロロビニルベンゼン(保持時間:31分48秒)のピークの面積との比が0.002であった。また、基準となるSのピークの面積と2-メチルベンジルクロリド(保持時間:33分46秒)ピークの面積との比が0.005、基準となるSのピークの面積と3-メチルベンジルクロリド(保持時間:34分05秒)ピークの面積との比が0.003だった。
【0080】
ポリクロロプレンラテックス(CA1)のGCMS分析結果を用いて、実施例3での計算と同様の計算により、ポリクロロプレンラテックス(CA1)での芳香族化合物(B)の含有量を計算したところ、以下の値が得られた。
4-クロロビニルベンゼンの含有量 :0.0071g
2-メチルベンジルクロリドの含有量 :0.0042g
3-メチルベンジルクロリドの含有量 :0.0097g
これらの値から、計算すると、ポリクロプレンラテックス(CA1)の固形分100質量部に対する芳香族化合物(B)の含有量は、それぞれ以下の通りになる。
4-クロロビニルベンゼンの割合 :3.8×10-4質量部
2-メチルベンジルクロリドの割合 :2.2×10-4質量部
3-メチルベンジルクロリドの割合 :5.2×10-4質量部
【0081】
上記方法で得られたポリクロロプレンラテックス(CA1)に実施例1と同様の配合で界面活性剤、加硫促進剤、酸化亜鉛、およびフェノール系酸化防止剤分散体を添加し、実施例1と同様の方法でポリクロロプレンラテックス組成物(CA1b)を調製した。さらに、ポリクロロプレンラテックス組成物(CA1b)を用いて、フィルムおよび試験片を、実施例1と同様に製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
ポリクロロプレンラテックス(CA1)での芳香族化合物(B)の含有割合から、実施例1と同様に、ポリクロロプレンラテックス組成物(CA1b)での芳香族化合物(B)の割合を計算した。ポリクロロプレンラテックス組成物(CA1b)の固形分を100質量部としたときに、芳香族化合物(B)の割合は以下の通りである。
4-クロロビニルベンゼンの割合 :3.5×10-4質量部
2-メチルベンジルクロリドの割合 :2.0×10-4質量部
3-メチルベンジルクロリドの割合 :4.7×10-4質量部
【0082】
【表1】
【0083】
実施例1~3から明らかなように、ポリクロロプレンラテックス組成物中に芳香族化合物(B)が含まれている場合、低温下(-10℃)での硬度上昇を抑えることができる。このため、本発明のポリクロロプレンラテックス組成物を成形して手袋にした場合、寒冷地で使用しても硬くならず快適な使用感が得られる。また、手袋を低温下で保管しても常温に取り出した後、柔らかくなるまで待たずに直ちに装着できる。