(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】秘密ページランク計算システム、その方法、秘密計算装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G09C 1/00 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
G09C1/00 650Z
(21)【出願番号】P 2022581081
(86)(22)【出願日】2021-02-10
(86)【国際出願番号】 JP2021004980
(87)【国際公開番号】W WO2022172363
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慧
(72)【発明者】
【氏名】森田 哲之
(72)【発明者】
【氏名】瀧野 修
【審査官】児玉 崇晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-135114(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0027404(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の秘密計算装置を含む秘密ページランク計算システムであって、
各秘密計算装置は、
複数の取引主体のページランクの暗号文を記憶するページランク記憶部と、
複数のデータソースそれぞれからトランザクション割合の暗号文を受信するトランザクション割合受信部と、
計算対象の取引主体に関する前記トランザクション割合の暗号文と、前記計算対象の取引主体とトランザクションを行った取引主体である取引相手のページランクの暗号文とを用いて、復号すると前記計算対象の取引主体のページランクとなる暗号文を秘密計算するページランク計算部と、
を含み、
前記トランザクション割合は、前記取引主体の組み合わせごとに、その取引主体の組み合わせで行われたトランザクションが、前記データソースが保持するトランザクション履歴全体に占める割合を表す、
秘密ページランク計算システム。
【請求項2】
請求項1に記載の秘密ページランク計算システムであって、
[・]は値・の暗号文を表し、iは前記計算対象の取引主体を表す番号であり、jは前記取引相手を表す番号であり、V
iは前記取引相手の集合であり、PR
jは取引相手jのページランクであり、Nは前記データソースの数であり、α
1, α
2, …, α
Nはα
1+α
2+…+α
N=1を満たす重みであり、k
n
j→i(n=1, 2, …, N)はn番目のデータソースから受信した取引主体iと取引相手jに関するトランザクション割合であり、
前記ページランク計算部は、次式により取引主体iのページランクの暗号文を計算する、
【数2】
秘密ページランク計算システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の秘密ページランク計算システムであって、
前記秘密ページランク計算システムは、前記複数のデータソースのいずれかまたは前記複数のデータソースとは異なる計算要求装置を含み、
前記計算要求装置は、
各秘密計算装置から受信した前記計算対象の取引主体のページランクの暗号文を復号するページランク復号部と、
前記計算対象の取引主体のページランクが収束したか否かを判定する収束判定部と、
を含み、
各秘密計算装置は、
前記計算対象の取引主体のページランクの暗号文を前記計算要求装置へ送信するページランク送信部と、
前記計算対象の取引主体のページランクが収束していないとき、前記ページランク記憶部に記憶されている前記計算対象の取引主体のページランクの暗号文を更新するページランク更新部と、
をさらに含む秘密ページランク計算システム。
【請求項4】
請求項3に記載の秘密ページランク計算システムであって、
前記秘密ページランク計算システムは、前記データソースのうち前記計算要求装置ではない初期化装置を含み、
前記初期化装置は、
ランダムに生成した前記取引相手のページランクの初期値を暗号化し、その暗号文を各秘密計算装置へ送信するページランク初期値登録部を含む、
秘密ページランク計算システム。
【請求項5】
複数の秘密計算装置を含む秘密ページランク計算システムが実行する秘密ページランク計算方法であって、
各秘密計算装置のページランク記憶部に、複数の取引主体のページランクの暗号文が記憶されており、
各秘密計算装置のトランザクション割合受信部が、前記複数のデータソースそれぞれからトランザクション割合の暗号文を受信し、
各秘密計算装置のページランク計算部が、計算対象の取引主体に関する前記トランザクション割合の暗号文と、前記計算対象の取引主体とトランザクションを行った取引主体である取引相手のページランクの暗号文とを用いて、復号すると前記計算対象の取引主体のページランクとなる暗号文を秘密計算し、
前記トランザクション割合は、前記取引主体の組み合わせごとに、その取引主体の組み合わせで行われたトランザクションが、前記データソースが保持するトランザクション履歴全体に占める割合を表す、
秘密ページランク計算方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の秘密ページランク計算システムで用いられる前記秘密計算装置。
【請求項7】
請求項5に記載の秘密ページランク計算方法の各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、秘密計算技術に関し、特に、信頼度の算定を目的としたページランクを秘密計算する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ページランクはWebページのリンク関係などを用いてWebページの重要度を決定する仕組みである(非特許文献1参照)。この仕組みを応用して、企業間の商流等のトランザクションデータからページランクを算出し、各企業の信頼度の指数として利用することも可能である(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】L. Page, S. Brin, R. Motwani and T. Winograd, "The PageRank citation ranking: Bring order to the Web," Technical Report of the Stanford Digital Library Technologies Project (1998).
【文献】大西立顕,高安秀樹,高安美佐子,“企業間取引ネットワークのページランク”,情報処理学会研究報告,Vol. 2010-MPS-81,No. 1,2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、昨今では複数のデータ流通プラットフォーマーが独自に企業間のトランザクションデータを蓄積しているため、単一のデータソースからページランクを算出したのでは、情報の偏りが発生する可能性がある。一方、これらのトランザクションデータは各企業の機密情報を含むため、複数のデータソースを単純に統合するとデータ漏洩等のセキュリティ上の問題が生じるという課題がある。
【0005】
この発明の目的は、このような技術的課題に鑑みて、複数のデータソースが保持するトランザクションデータを入力とし、各データソースのトランザクションデータを秘匿したまま、高精度なページランクの算出を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一態様の秘密ページランク計算システムは、複数の秘密計算装置を含む秘密ページランク計算システムであって、各秘密計算装置は、複数の取引主体のページランクの暗号文を記憶するページランク記憶部と、複数のデータソースそれぞれからトランザクション割合の暗号文を受信するトランザクション割合受信部と、計算対象の取引主体に関するトランザクション割合の暗号文と、計算対象の取引主体とトランザクションを行った取引主体である取引相手のページランクの暗号文とを用いて、復号すると計算対象の取引主体のページランクとなる暗号文を秘密計算するページランク計算部と、を含み、トランザクション割合は、取引主体の組み合わせごとに、その取引主体の組み合わせで行われたトランザクションが、データソースが保持するトランザクション履歴全体に占める割合を表す。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、複数のデータソースが保持するトランザクションデータを入力とし、各データソースのトランザクションデータを秘匿したまま、高精度なページランクの算出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は秘密ページランク計算システムの機能構成を例示する図である。
【
図2】
図2はデータソース装置の機能構成を例示する図である。
【
図3】
図3は秘密計算装置の機能構成を例示する図である。
【
図4】
図4は秘密ページランク計算方法の処理手順を例示する図である。
【
図7】
図7はコンピュータの機能構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、図面中において同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【0010】
[実施形態]
この発明の実施形態は、複数のデータソースから入力されるトランザクションデータの暗号文を用いて、そのトランザクションデータを秘匿したままページランクを生成する秘密ページランク計算システムおよび方法である。
【0011】
ページランクを用いて企業間の信頼度を測定する際に、1つのデータソースだけでページランクを算出する場合には、本来信頼度が低い企業に対しても信頼度が高いと判断してしまう可能性がある。そこで、複数のデータソースを用いてページランクを算出すれば、その信頼度の精度が向上することが見込まれる。しかしながら、複数のデータソースを用いたページランクの生成では、各データソースの持つ情報を他のデータソースに漏洩しないようにする技術的な工夫が必要となる。特に、データ流通プラットフォームのようなデータの収集および活用を目的とする主体は、蓄積したデータそのものがその価値となるため、それらのデータを容易に他の主体に提供することは困難である。
【0012】
そこで、実施形態の秘密ページランク計算システムでは、複数のデータソースを入力とするページランク計算式を秘密計算することで、各データソースからの入力データを秘匿したままページランクを求めることで、上記の課題を解決する。
【0013】
図1に示すように、実施形態の秘密ページランク計算システム100は、N(≧2)台のデータソース装置1
1, …, 1
Nと、K(≧1)台の秘密計算装置2
1, …, 2
Kとを含む。データソース装置1
1, …, 1
Nおよび秘密計算装置2
1, …, 2
Kはそれぞれ通信網9へ接続される。通信網9は、接続される各装置が相互に通信可能なように構成された回線交換方式もしくはパケット交換方式の通信網であり、例えばインターネットやLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等を用いることができる。
【0014】
データソース装置11, …, 1Nのうちいずれか1台は、ページランクの計算を要求する役割を担う(以下、「計算要求装置」とも呼ぶ)。また、データソース装置11, …, 1Nのうち計算要求装置とは異なるいずれか1台は、ページランクの初期値を登録する役割を担う(以下、「初期化装置」とも呼ぶ)。
【0015】
秘密計算装置2が複数台の場合(すなわち、K≧2の場合)、秘密計算装置2k(k∈{1, …, K})は例えばシャミア秘密分散や複製秘密分散等の秘密分散に基づく秘密計算方式を用いて他の秘密計算装置2k'(k'∈{1, …, K}かつk≠k')と協調しながらページランクを計算する。秘密計算装置2が1台の場合(すなわち、K=1の場合)、秘密計算装置2は例えば準同型暗号等の暗号方式に基づく秘密計算方式を用いてページランクを計算する。
【0016】
データソース装置1
n(n=1, …, N)は、例えば、
図2に示すように、トランザクション履歴記憶部10、トランザクション割合計算部12、およびトランザクション割合送信部13を備える。計算要求装置であるデータソース装置は、
図2において一点鎖線で表したページランク復号部14および収束判定部15をさらに備える。初期化装置であるデータソース装置は、
図2において破線で表したページランク初期値登録部11をさらに備える。秘密計算装置2
k(k=1, …, K)は、例えば、
図3に示すように、ページランク記憶部20、トランザクション割合受信部21、ページランク計算部22、ページランク送信部23、およびページランク更新部24を備える。これらのデータソース装置1
1, …, 1
Nおよび秘密計算装置2
1, …, 2
Kが協調しながら、
図4に示す各ステップの処理を行うことにより実施形態の秘密ページランク計算方法が実現される。
【0017】
データソース装置1nおよび秘密計算装置2kは、例えば、中央演算処理装置(CPU: Central Processing Unit)、主記憶装置(RAM: Random Access Memory)等を有する公知又は専用のコンピュータに特別なプログラムが読み込まれて構成された特別な装置である。データソース装置1nおよび秘密計算装置2kは、例えば、中央演算処理装置の制御のもとで各処理を実行する。データソース装置1nおよび秘密計算装置2kに入力されたデータや各処理で得られたデータは、例えば、主記憶装置に格納され、主記憶装置に格納されたデータは必要に応じて中央演算処理装置へ読み出されて他の処理に利用される。データソース装置1nおよび秘密計算装置2kの各処理部は、少なくとも一部が集積回路等のハードウェアによって構成されていてもよい。データソース装置1nおよび秘密計算装置2kが備える各記憶部は、例えば、RAM(Random Access Memory)などの主記憶装置、ハードディスクや光ディスクもしくはフラッシュメモリ(Flash Memory)のような半導体メモリ素子により構成される補助記憶装置、またはリレーショナルデータベースやキーバリューストアなどのミドルウェアにより構成することができる。
【0018】
図4を参照して、実施形態の秘密ページランク計算システム100が実行する秘密ページランク計算方法の処理手続きを説明する。なお、
図4の例では、秘密ページランク計算システム100には、2台のデータソース装置1
1,1
2が含まれ、データソース装置1
1が計算要求装置であり、データソース装置1
2が初期化装置であるものとする。
【0019】
各データソース装置1nのトランザクション履歴記憶部10には、そのデータソース装置1nが取り扱った、二つの取引主体の間で行われたトランザクションの内容を表すトランザクション履歴が記憶されている。
【0020】
ステップS11において、データソース装置12のページランク初期値登録部11は、トランザクション履歴記憶部10に記憶されたトランザクション履歴に含まれる各トランザクションに関係する各取引主体i(i=1, …, Iであり、Iは取引主体の総数)のページランクPRiの初期値をランダムに生成する。次に、ページランク初期値登録部11は、各取引主体iのページランクPRiの初期値を暗号化し、その暗号文[PRi]を各秘密計算装置21, …, 2Kへ送信する。なお、[・]は値・の暗号文を表し、暗号化が秘密分散により行われた場合は値・の分散値を表す。暗号化が秘密分散により行われた場合には、各取引主体iのページランクPRiの初期値の分散値[PRi]を、1台の秘密計算装置2kが1つのシェア[PRi]kを保持するように、各秘密計算装置21, …, 2Kへ分配する。
【0021】
ステップS20において、各秘密計算装置2kは、データソース装置12から受信した各取引主体iのページランクPRiの初期値の暗号文[PRi]を、ページランク記憶部20へ記憶する。
【0022】
ステップS12において、各データソース装置1nのトランザクション割合計算部12は、トランザクション履歴記憶部10に記憶されているトランザクション履歴から、取引主体の組み合わせ(i, j)(j∈Viであり、Viは取引主体iとトランザクションを行った取引主体である取引相手の集合)ごとにトランザクション割合kn
j→iを計算する。なお、kn
j→iはn番目のデータソース装置1nが保持する取引主体iと取引相手jに関するトランザクション割合を表す。トランザクション割合は、ある取引主体の組み合わせで行われたトランザクションがトランザクション履歴全体に占める割合を表す。例えば、データソースが銀行であり、トランザクションが振込であれば、その銀行が取り扱ったある企業から他の企業への振込金額の総和を、トランザクション履歴に記録された振込金額の総和で除算した値が、ある企業と他の企業に関するトランザクション割合である。このトランザクション割合をトランザクション履歴に記録されたすべての取引主体の組み合わせで計算する。トランザクション割合計算部12は、計算したトランザクション割合kn
j→iをトランザクション割合送信部13へ出力する。
【0023】
ステップS13において、各データソース装置1nのトランザクション割合送信部13は、入力されたトランザクション割合kn
j→iと予め定められた重みαnとの積αnkn
j→iを暗号化し、その暗号文[αnkn
j→i]を各秘密計算装置21, …, 2Kへ送信する。暗号化が秘密分散により行われた場合には、トランザクション割合の分散値[αnkn
j→i]を、1台の秘密計算装置2kが1つのシェア[αnkn
j→i]kを保持するように、各秘密計算装置21, …, 2Kへ分配する。各データソース装置11, …, 1Nが保持する重みα1, …, αNはα1+ …+ αN=1を満たすように、予め各データソース装置11, …, 1Nに設定されているものとする。
【0024】
ステップS21において、各秘密計算装置2kのトランザクション割合受信部21は、各データソース装置11, …, 1Nからトランザクション割合の暗号文[α1k1
j→i], …, [αNkN
j→i]を受信する。
【0025】
ステップS22において、各秘密計算装置2kのページランク計算部22は、計算対象の取引主体i(∈{1, …, I})に関するトランザクション割合の暗号文[α1k1
j→i], …, [αNkN
j→i]と、その取引主体iとトランザクションを行った取引相手j(j∈Vi)のページランクPRjの暗号文[PRj]とを用いて、復号するとその取引主体iのページランクPRiとなる暗号文[PRi]を秘密計算する。なお、計算対象の取引主体は、1つである必要はなく、すべての取引主体についてページランクを計算してもよいし、任意に選択した複数の取引主体についてページランクを計算してもよい。ページランク計算部22は、取引主体iのページランクPRiの暗号文[PRi]をページランク送信部23へ出力する。
【0026】
具体的には、ページランク計算部22は、次式を計算することで、取引主体iのページランクPRiの暗号文[PRi]を求める。
【0027】
【0028】
ステップS23において、各秘密計算装置2kのページランク送信部23は、入力された取引主体iのページランクPRiの暗号文[PRi]を、計算要求装置であるデータソース装置11へ送信する。
【0029】
ステップS14において、データソース装置11のページランク復号部14は、各秘密計算装置21, …, 2Kから受信した取引主体iのページランクPRiの暗号文[PRi]を復号し、取引主体iのページランクPRiを得る。
【0030】
ステップS15において、データソース装置11の収束判定部15は、取引主体iのページランクPRiが収束したか否かを判定する。収束したか否かの判定は、計算前のページランクと計算後のページランクとの差分と所定の閾値とを比較することで行えばよい。収束判定部15は、すべての計算対象の取引主体のページランクが収束したと判定した場合は、処理を完了する。いずれかの計算対象の取引主体のページランクが収束していないと判定した場合は、計算後のページランクPRiを暗号化して、その暗号文[PRi]を各秘密計算装置21, …, 2Kへ送信する。
【0031】
ステップS24において、各秘密計算装置2kのページランク更新部25は、計算要求装置であるデータソース装置11から計算後のページランクPRiの暗号文[PRi]を受信すると、そのページランクの暗号文で、ページランク記憶部10に記憶されているページランクPRiの暗号文[PRi]を更新する。その後、ステップS22へ処理を戻す。これにより、ページランクの計算と収束判定が再度実行される。
【0032】
[変形例1]
実施形態の秘密ページランク計算システム100では、複数のデータソース装置1
nのうちのいずれか1台が計算要求装置の役割を担うように構成した。しかしながら、計算要求装置は、いずれのデータソース装置1
nとも異なる単独の装置として構成してもよい。この場合、秘密ページランク計算システム100は、
図1において破線で表した計算要求装置3をさらに含む。計算要求装置3は、実施形態の秘密ページランク計算システム100において計算要求装置であるデータソース装置1
1が備えていたページランク復号部14および収束判定部15を備える。変形例1の秘密ページランク計算システムは、各秘密計算装置2
1, …, 2
Kのページランク送信部23が計算後のページランクの暗号文を送信する先が、計算要求装置であるデータソース装置1
1ではなく、計算要求装置3となる点のみが、実施形態の秘密ページランク計算システム100と異なる。
【0033】
[変形例2]
実施形態の秘密ページランク計算システム100では、重みαnがデータソース装置1nに予め設定されており、トランザクション割合送信部13がトランザクション割合kn
j→iと重みαnとの積を計算する構成とした。しかしながら、重みα1, …, αNは、データソース装置1nには設定せず、秘密計算装置21, …, 2Kに予め設定しておいてもよい。この場合、データソース装置1nのトランザクション割合送信部13は、トランザクション割合kn
j→iの暗号文[kn
j→i]を各秘密計算装置21, …, 2Kへ送信する。各秘密計算装置21, …, 2Kのページランク計算部22は、データソース装置1nから受信したトランザクション割合kn
j→iの暗号文[kn
j→i]に重みαnを秘密計算により乗じた上で、ページランク計算式を秘密計算する。
【0034】
[変形例3]
実施形態の秘密ページランク計算システム100では、計算要求装置であるデータソース装置11の収束判定部15が、いずれかの計算対象の取引主体のページランクが収束していないと判定した場合、計算後のページランクPRiの暗号文[PRi]を各秘密計算装置21, …, 2Kへ送信し、各秘密計算装置2kのページランク更新部25が、受信したページランクPRiの暗号文[PRi]でページランク記憶部10に記憶されているページランクPRiの暗号文[PRi]を更新する構成とした。しかしながら、データソース装置11の収束判定部15は、いずれかの計算対象の取引主体のページランクが収束していないと判定した場合、計算継続を指示する信号のみを各秘密計算装置21, …, 2Kへ送信し、各秘密計算装置2kのページランク更新部25は、計算継続を指示する信号を受信したときに、ページランク計算部22が計算したページランクPRiの暗号文[PRi]でページランク記憶部10に記憶されているページランクPRiの暗号文[PRi]を更新する構成としてもよい。
【0035】
[実施例1]
実施例1は、実施形態の秘密ページランク計算システムを、銀行の与信判定に応用した実施例である。
図5に示すように、実施例1の秘密ページランク計算システムは、銀行Aと銀行Bと秘密計算システムとからなる。秘密計算システムには複数の秘密計算装置が含まれる。銀行Aと銀行Bは、それぞれ自身の顧客企業間のトランザクション履歴を保持している。
図5の例では、企業α, β, γ, δ, εが各銀行の顧客企業である。
図5において各企業間を結んでいる矢印は銀行振込(トランザクション)を表す。矢印近傍に記載された金額は振込金額である。例えば、銀行Aのトランザクション履歴には、企業αから企業γへ100円の振込が行われたトランザクションが記録されている。すなわち、銀行Aと銀行Bはデータソース装置に相当する。
【0036】
銀行Aは、与信判定のために顧客企業のページランクの計算を秘密計算システムに要求する。すなわち、銀行Aは計算要求装置に相当する。これに先立ち、銀行Bが各企業のページランクの初期値を秘密計算システムへ登録する(step 0)。すなわち、銀行Bは初期化装置に相当する。銀行Bはページランクの初期値をランダムに生成し、そのランダム値を秘密分散により暗号化して、その分散値を秘密計算システムへ登録する。計算要求を行わない銀行Bがページランクの初期値を登録するのは、銀行Bの持つトランザクションに関する情報が計算要求を行う銀行Aに漏洩することを防ぐためである。
【0037】
銀行Aと銀行Bは、自身が保持しているトランザクション履歴から各企業の組み合わせごとに振込金額を集計し、トランザクション履歴全体に占める割合(以下、「振込金額割合」と呼ぶ)を求める。銀行Aと銀行Bは、求めた振込金額割合を秘密分散により暗号化して、その分散値を秘密計算システムへ登録する(step 1)。銀行Bはstep 0とstep 1を同時に実行してもよく、振込金額割合の分散値とページランクの初期値の分散値とを同時に秘密計算システムに登録してもよい。
【0038】
秘密計算システムは、銀行Aからの計算要求に応じて、登録されている振込金額割合の分散値とページランクの分散値を用いて、企業ごとにページランクを秘密計算する(step 2)。秘密計算システムは、計算した各企業のページランクの分散値を、計算要求を行った銀行Aに送信する。
【0039】
銀行Aは、秘密計算システムから受信した各企業のページランクの分散値を復元し、平文のページランクを得る。そして、得られたページランクが収束したか否かを判定する。銀行Aは、各企業のページランクが収束していないと判定した場合には、秘密計算システムへページランクの分散値を送信する。秘密計算システムは、受信した各企業のページランクの分散値で、保持している各企業のページランクの分散値を更新し(step 3)、再度ページランクの計算を行う(step 2)。銀行Aは、各企業のページランクが収束したと判定した場合には、収束したページランクを用いて、企業の与信判定を行う。
【0040】
[実施例2]
実施例2は、変形例1の秘密ページランク計算システムを、外部組織への与信結果の提供に応用した実施例である。この外部組織は、各銀行のトランザクション履歴に含まれる企業と新たな取引を行う際に与信判定を行うために、ページランクの計算を要求する。
図6に示すように、実施例2の秘密ページランク計算システムは、銀行Aと銀行Bと秘密計算システムに加え、外部組織Xを含む。秘密計算システムは、計算したページランクの分散値を外部組織Xへ送信し、外部組織Xがページランクの収束を判定する(step 3)。外部組織Xは、ページランクが収束したと判定した場合に、収束したページランクを用いて、企業の与信判定を行う。その他の処理については、実施例1と同様である。
【0041】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計の変更等があっても、この発明に含まれることはいうまでもない。実施の形態において説明した各種の処理は、記載の順に従って時系列に実行されるのみならず、処理を実行する装置の処理能力あるいは必要に応じて並列的にあるいは個別に実行されてもよい。
【0042】
[プログラム、記録媒体]
上記実施形態で説明した各装置における各種の処理機能をコンピュータによって実現する場合、各装置が有すべき機能の処理内容はプログラムによって記述される。そして、このプログラムを
図7に示すコンピュータの記憶部1020に読み込ませ、演算処理部1010、入力部1030、出力部1040などに動作させることにより、上記各装置における各種の処理機能がコンピュータ上で実現される。
【0043】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体は、例えば、非一時的な記録媒体であり、磁気記録装置、光ディスク等である。
【0044】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0045】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の非一時的な記憶装置である補助記録部1050に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の非一時的な記憶装置である補助記録部1050に格納されたプログラムを一時的な記憶装置である記憶部1020に読み込み、読み込んだプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み込み、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0046】
また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、本装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。