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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】熱間鍛造用金型
(51)【国際特許分類】
   B21J 13/14 20060101AFI20241106BHJP
   B21J 13/02 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B21J13/14 B
B21J13/02 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023038448
(22)【出願日】2023-03-13
(65)【公開番号】P2024129321
(43)【公開日】2024-09-27
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】青山 佳祐
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-172434(JP,U)
【文献】実開昭56-065741(JP,U)
【文献】実開平02-108538(JP,U)
【文献】実開平02-138037(JP,U)
【文献】特開平08-257670(JP,A)
【文献】特開平07-132342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 13/00 - 13/14
B21J 5/00 - 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造素材を成形するための上型および下型の押圧面が、該鍛造素材の押圧方向に対峙した熱間鍛造用金型において、
前記下型は、ノックアウト面が該下型の押圧面の一部を構成して、かつ、軸部が該下型の内部に挿入されて該押圧方向に可動するノックアウトピンを有し、
前記ノックアウトピンは、前記軸部の形状が前記押圧方向と対峙した段差面を有して、かつ、該段差面と前記下型の内面とが接しており、
前記段差面と接している前記下型の内面の部分が、該内面からの延長面を含んで、前記下型から分割された金型片で構成されていて、前記金型片を焼嵌めによって前記下型に組み合わせることを特徴とする、熱間鍛造用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間鍛造用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、中・大型航空機用の熱間型打鍛造製品の需要が大きく伸びている。これらの鍛造製品のうち、例えば、航空ジェットエンジンのタービンディスクやコーンシャフトは、ニッケル合金やチタン合金製であり、同心円状で直径1メートルを超える大きさがある。これらの大型鍛造品を製造するには、熱間型打鍛造中の変形荷重は150MNを超える非常に大きな加圧力を必要とする。
【0003】
このような大型鍛造品として、上記の航空ジェットエンジン用の他にも、発電用ガスタービンディスク等もある。そして、このような大型鍛造品を、変形抵抗が大きい鍛造素材から作製するときに、鍛造素材を成形するための上型および下型の押圧面が、該鍛造素材の押圧方向に対峙した熱間鍛造用金型が用いられる。そして、この熱間鍛造用金型として、例えば、その押圧面の中心に円柱状の金型片が組付けられた分割金型がある(特許文献1)。そして、この円柱状の金型片が、熱間鍛造中は押圧面の一部として機能する一方で、熱間鍛造終了後には鍛造品を金型から取り除くノックアウトピンとして機能するものがある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/147154号パンフレット
【文献】特開2015-91597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような熱間鍛造用金型を下型に用いた場合、その下型の押圧面の一部を構成する金型片にノックアウトピンの機能も付与できるところ、この金型片にも大きな荷重が掛かることとなる。そして、特に、数万トン規模の熱間鍛造であると、この金型片と下型とが接触する部分で、下型に大きな割れが生じる場合があった。これは、熱間鍛造中の金型片と下型とが接触する部分で、大きな応力が生じていることが原因と考えられる。
本発明の目的は、下型にノックアウトピンを有する熱間鍛造用金型において、大型の鍛造素材や、変形抵抗が大きい鍛造素材を押圧成形する場合でも、下型に発生する割れを抑制できる、熱間鍛造用金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、鍛造素材を成形するための上型および下型の押圧面が、該鍛造素材の押圧方向に対峙した熱間鍛造用金型において、
上記の下型は、ノックアウト面がこの押圧面の一部を構成して、かつ、軸部がこの下型の内部に挿入されて押圧方向に可動するノックアウトピンを有し、
上記のノックアウトピンは、この軸部の形状が押圧方向と対峙した段差面を有して、かつ、段差面と上記の下型の内面とが接しており、
この段差面と接している上記の下型の内面の部分が、この内面からの延長面を含んで、上記の下型から分割された金型片で構成されている、熱間鍛造用金型である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、下型にノックアウトピンを有する熱間鍛造用金型において、大型の鍛造素材や、変形抵抗が大きい鍛造素材を押圧成形する場合でも、下型に発生する割れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】熱間鍛造用金型の一例を示す断面模式図である。
図2】従来の熱間鍛造用金型について、その下型の一例を示す断面模式図である。
図3図2の下型の断面模式図について、その熱間鍛造中の応力の分布状況の一例を示す図である。
図4】本発明の熱間鍛造用金型について、その下型の一例を示す断面模式図である。
図5図4の下型の断面模式図について、その熱間鍛造中の応力の分布状況の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を、その構成要件ごとに、図面を用いて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する形態によって限定されるものではない。
(1)本発明は、「鍛造素材を成形するための上型および下型の押圧面が、該鍛造素材の押圧方向に対峙した」熱間鍛造用金型である。
このことについては、背景技術で説明した通りである。このような熱間鍛造用金型の一例として、その断面模式図を図1に示す。図1の熱間鍛造用金型0は、ディスク状の鍛造品を得るためのものである。そして、その上型1および下型2の押圧面3は、起伏を有した同心円の集合形状でなる。
なお、本発明で言う「熱間鍛造」とは、熱間や恒温でのプレス鍛造及びホットダイ鍛造も含むものである。
【0010】
(2)本発明は、上記(1)の熱間鍛造用金型の下型が、ノックアウトの機構を有している。そして、そのノックアウトの機構について、その「ノックアウト面が下型の押圧面の一部を構成して、かつ、軸部が下型の内部に挿入されて押圧方向に可動するノックアウトピンを有した」ものである。
通常、ノックアウトピンとは、鍛造素材の成形中(熱間鍛造中)は下型の内部に待機して、成形後(熱間鍛造後)には上型に向かって押圧方向に移動することでノックアウトを押して、熱間鍛造後の鍛造品を下型から離型させる金型部品のことである。本発明の場合、便宜上、このノックアウトピンを、ノックアウトを含んで「ノックアウトピン」と呼ぶ。そして、このノックアウトピンの先端をノックアウト面と呼び、このノックアウト面が下型の押圧面の一部を構成している。
このような下型の一例として、その断面模式図を図2に示す。図2の下型2では、その押圧面3の中心に円柱状の金型片が組み込まれている。そして、この円柱状の金型片が、熱間鍛造終了後には、上記のノックアウトピン4として上下に移動する一方で(図2の右図)、熱間鍛造中には、そのノックアウト面5が、押圧面(意匠面)3の一部として機能する。こうすることで、押圧面中のノックアウトが存在する位置においても、所望する鍛造品の形状を得ることができる。
【0011】
(3)本発明は、上記(2)の熱間鍛造用金型において、その「ノックアウトピンの軸部の形状が押圧方向と対峙した段差面を有して、かつ、この段差面と下型の内面とが接している」ものである。
ノックアウト面が下型の押圧面の一部を構成していることで、熱間鍛造中にはノックアウトピンも成形面として機能して、下型の成形面と共に、鍛造素材を成形する。そうすると、熱間鍛造中のノックアウトピンには、鍛造品を介して、その押圧方向(つまり、熱間鍛造後にノックアウトピンが移動する軸方向)に大きな荷重が掛かることとなる。そうすると、ノックアウトピンが、その所定の位置から軸方向にずれ下がってしまうことが懸念される。
そこで、ノックアウトピンの軸部に、言わば、その断面の輪郭が略“下に凸(とつ)”となるような、押圧方向と対峙した段差面を設けることとする。そして、熱間鍛造中にノックアウトピンが下型の内部で待機しているときには、上記の段差面を、下型の内面(ステージ面と呼ぶ)に接して保持させておくことで、このステージ面がノックアウトピンを支えて、熱間鍛造時の荷重を下型で受けることができる。
【0012】
このような下型の一例として、その断面模式図を図2に示す。図2の下型2では、そのノックアウトピン4の軸部6の輪郭に、押圧方向と対峙した段差面7が設けられている。そして、この段差面7を、下型2の内面(ステージ面8と呼ぶ)が接して支えておくことで、熱間鍛造時の荷重を下型2で受けることができる。こうすることで、熱間鍛造中のノックアウトピンを、所定の高さの位置にとどめておくことができる。そして、熱間鍛造後には、ノックアウトピンを上型に向かって押圧方向に移動させて、正しく機能させることができる。
【0013】
(4)本発明は、上記(3)の熱間鍛造用金型において、その「段差面と接している下型の内面の部分が、この内面からの延長面を含んで、下型から分割された金型片で構成されている」ものである。
図2の構成の場合、ノックアウトピン4が鍛造品から受ける力と、下型2が鍛造品から受ける力とによって、ノックアウトピン4や下型2の角部や隅部には応力が集中的に生じやすい。そして、下型2のステージ面8が受ける荷重の面圧が高いと、例えば、ステージ面8の隅部9で応力が集中的に生じて、下型2が割れることが懸念される。このときの、図2の断面模式図における応力の分布状況の一例を、図3に示す。
【0014】
そこで、本発明では、図2の構成に加えて、さらに、下型2のステージ面8の部分を、このステージ面8からの延長面を含んで、下型2から分割された金型片10で構成する、複合金型の構造とした。このような下型2の一例として、その断面模式図を図4に示す。この場合、金型片10は、例えば、ノックアウトピン4の軸部6の下方を囲んだリング形状とすることができる。この複合金型の構造としたことで、本来、下型2が担っていた上記のステージ面8の役割を、この金型片10の“新たな”ステージ面8’が担うこととなるので、ステージ面の鍛造品からの荷重を受けている面積は、金型片10の“延長された”上面の広さだけ大きくなる。よって、ステージ面のノックアウトピン4の段差面7と接している面積は変わらないものの、ステージ面が受ける荷重の面圧は下がって、本来、下型2に生じ得た応力集中部の応力を分散できて、上記の隅部9に生じていた応力も低減することができる。このときの、図4の断面模式図における応力の分布状況の一例を、図5に示す。
【0015】
なお、このとき、金型片10の“延長された”上面の広さは、下型2の断面模式図における新たなステージ面8’の長さで評価して、もとのステージ面8の長さの1.5倍以上とするのが好ましい。より好ましくは1,7倍以上、さらに好ましくは2.0倍以上である。この倍率の上限については、特段の取決めは必要なく、下型の大きさや鍛造時の強度等に応じて決定することができる。そして、例えば、4.0倍以下や、3.0倍以下にすることができる。
【0016】
本発明の熱間鍛造用金型は、これを構成する部品の一部または全部を、上記のノックアウトピンや金型片も含めて、熱間金型用鋼やNi基超耐熱合金で作製とすることができる。そして、このとき、より安価な熱間金型用鋼を用いることが、経済的である。
上記の熱間金型用鋼は、例えば、JIS-G4404で規定されるものがある。その典型的な成分範囲を示すと、質量%で、C:0.25~0.5%、N:0を超えて0.03%以下、Si:0を超えて1.2%以下、Mn:0を超えて0.9%以下、Al:0~0.5%、P:0~0.03%、S:0~0.01%、V:0~2.1%、Cr:0.8~5.5%、Ni:0~4.3%、Cu:0~0.3%、Mo:0~3.0%、W:0~9.5%、Co:0~4.5%を含み、残部はFe及び不純物でなる合金である。
【0017】
本発明の熱間鍛造用金型は、その下型における上記の内面の部分を金型片で構成するとき、その金型片を焼嵌めによって下型に組み合わせることが好ましい。焼嵌めによって、金型片が有する上記の延長面の機能を維持して、金型片と下型とを強固に一体化できる。
【0018】
本発明の熱間鍛造用金型の構造とすることで、後述する実施例で示すように、下型の隅部周辺に生じる応力を低減させることができて、下型の割れを抑制するのに効果的である。そして、このことによって、本発明の熱間鍛造用金型では、ニッケル合金の中でも、ニッケル基超耐熱合金を鍛造素材とすることができる。例えば、Udimet520相当合金(UdimetはSpecial Metals社の登録商標)、Udimet720相当合金、Waspaloy相当合金(WaspaloyはUnited Technologies社の登録商標)、Alloy718相当合金等、Al、Ti、Nb等の金属間化合物を析出強化可能な合金とすることができる。そして、大型の航空ジェットエンジンディスク、コーンシャフト、発電用ガスタービンディスク等の鍛造品を製造することができる。
【0019】
本発明の熱間鍛造用金型では、上記した下型の構造を、上型にも適用することができる。または、上記した下型の構造を、上型の構造に替えた熱間鍛造用金型とすることもできる。
【実施例
【0020】
上型1および下型2の押圧面3が図1の断面形状を有する熱間鍛造用金型0を準備した。そして、この熱間鍛造用金型0の下型2が以下の構造を有する、熱間鍛造用金型A(従来例)および熱間鍛造用金型B(本発明例)を準備した。
【0021】
<熱間鍛造用金型A>
下型2にノックアウトピン4が組み込まれており、そのノックアウト面5は押圧面3の中心に位置して、かつ、軸部の輪郭が押圧方向と対峙した段差面7を有している(つまり、断面の輪郭が略“下に凸(とつ)”である)。そして、この段差面7が、下型2の内面(ステージ面8)と接して支えられている。この断面模式図を図2に示す。
【0022】
<熱間鍛造用金型B>
熱間鍛造用金型Aに対して、このステージ面8の部分を、これの延長面を含むような金型片10に替えて、この金型片10を焼嵌めによって下型2に組み合わせた。この断面模式図を図4に示す。金型片10の上面(ステージ面8’)の広さは約36000mmであり、これを断面模式図におけるの長さで評価すると、図2のステージ面8(約24000mm)の長さの約2倍である。
【0023】
そして、熱間鍛造用金型A、Bを用いて、Waspaloy相当合金製ビレット(直径350mm×長さ860mm)の鍛造素材を、5万トンプレス機によって、その長さ方向に押圧する熱間鍛造したときの、下型2に生じる応力を、シミュレーションによって解析した。シミュレーションには、市販の有限要素法によるソフトを用いた。
【0024】
図3は、熱間鍛造用金型Aの下型について、その熱間鍛造中の図2の断面に生じ得る応力の分布状況である。熱間鍛造時の荷重が約410MNであり、ステージ面での荷重が約50MNであった。そして、応力集中部であるステージ面の隅部に生じる応力は、最大値で2400MPaを超える結果となった。
これに対して、図5は、熱間鍛造用金型Bの下型について、その熱間鍛造中の図4の断面に生じ得る応力の分布状況である。熱間鍛造時の荷重が約410MNであり、ステージ面での荷重が約50MNであった。そして、熱間鍛造用金型Aの下型では応力が集中した隅部を、熱間鍛造用金型Bの下型ではこれをなくすことで、同位置における応力が低下して、下型の割れリスクが大きく低減される結果となった。
【符号の説明】
【0025】
0 熱間鍛造用金型
1 上型
2 下型
3 押圧面
4 ノックアウトピン
5 ノックアウト面
6 ノックアウトピンの軸部
7 段差面
8、8’ ステージ面
9 隅部
10 金型片


図1
図2
図3
図4
図5