(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ミキサ回路
(51)【国際特許分類】
H03D 7/12 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
H03D7/12 Z
H03D7/12 C
(21)【出願番号】P 2023529368
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2021023952
(87)【国際公開番号】W WO2022269860
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】徐 照男
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-240705(JP,A)
【文献】特開昭61-276404(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0019305(US,A1)
【文献】特開2016-116198(JP,A)
【文献】特開2014-116697(JP,A)
【文献】国際公開第2017/216839(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03D 7/00-9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LO信号を等振幅・等位相でN分配(Nは2以上の整数)するように構成された電力分配器と、
IF信号が入力されるIFポートとグラウンドとの間に直列に接続されたN個の伝送線路と、
IF信号入力端子が前記N個の伝送線路のそれぞれの終端に接続されたN個の単位ミキサと、
前記電力分配器のN個の出力端子と前記N個の単位ミキサのLO信号入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の遅延回路と、
前記N個の単位ミキサから出力されるN個のRF信号を等振幅・等位相で合成するように構成された電力合成器とを備え、
前記N個の伝送線路のそれぞれの、IF信号に対する位相遅延量をΔθ
IFとしたときに、前記IFポート側から数えてk番目(kは1~Nの整数)の前記遅延回路によるLO信号の位相遅延量がθ
1-kΔθ
IF、またはθ
1+kΔθ
IF(θ
1は任意の位相)に設定されていることを特徴とするミキサ回路。
【請求項2】
請求項1記載のミキサ回路において、
前記電力分配器のN個の出力端子と前記N個の遅延回路の入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の第1の増幅器と、
前記N個の遅延回路の出力端子と前記N個の単位ミキサのLO信号入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の第2の増幅器とをさらに備えることを特徴とするミキサ回路。
【請求項3】
請求項1または2記載のミキサ回路において、
前記N個の単位ミキサのRF信号出力端子と前記電力合成器のN個の入力端子との間にそれぞれ挿入された第3の増幅器をさらに備えることを特徴とするミキサ回路。
【請求項4】
LO信号を等振幅・等位相でN分配(Nは2以上の整数)するように構成された第1の電力分配器と、
RF信号を等振幅・等位相でN分配するように構成された第2の電力分配器と、
IF信号が出力されるIFポートとグラウンドとの間に直列に接続されたN個の伝送線路と、
RF信号入力端子が前記第2の電力分配器のN個の出力端子のそれぞれに接続され、IF信号出力端子が前記N個の伝送線路のそれぞれの終端に接続されたN個の単位ミキサと、
前記第1の電力分配器のN個の出力端子と前記N個の単位ミキサのLO信号入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の遅延回路とを備え、
前記N個の伝送線路のそれぞれの、IF信号に対する位相遅延量をΔθ
IFとしたときに、前記IFポート側から数えてk番目(kは1~Nの整数)の前記遅延回路によるLO信号の位相遅延量がθ
1-(N-k+1)Δθ
IF、またはθ
1+(N-k+1)Δθ
IF(θ
1は任意の位相)に設定されていることを特徴とするミキサ回路。
【請求項5】
請求項4記載のミキサ回路において、
前記第1の電力分配器のN個の出力端子と前記N個の遅延回路の入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の第1の増幅器と、
前記N個の遅延回路の出力端子と前記N個の単位ミキサのLO信号入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の第2の増幅器とをさらに備えることを特徴とするミキサ回路。
【請求項6】
請求項4または5記載のミキサ回路において、
前記第2の電力分配器のN個の出力端子と前記N個の単位ミキサのRF信号入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の第3の増幅器をさらに備えることを特徴とするミキサ回路。
【請求項7】
LO信号を等振幅・等位相でN分配(Nは2以上の整数)するように構成された電力分配器と、
ソースがグラウンドに接続されたN個のトランジスタと、
前記電力分配器のN個の出力端子と前記N個のトランジスタのゲートとの間にそれぞれ挿入されたN個の遅延回路と、
前記N個のトランジスタのドレインから出力されたN個のRF信号を等振幅・等位相で合成するように構成された電力合成器と、
IF信号が入力されるIFポートとグラウンドとの間に直列に接続された2N個の第1の伝送線路と、
前記IFポート側から数えて2k-1番目(kは1~Nの整数)の前記第1の伝送線路と2k番目の前記第1の伝送線路との接続点と、前記IFポート側から数えてk番目の前記トランジスタのゲートとの間に挿入された、LO信号の周波数における四分の一波長の長さのN個の第2の伝送線路と、
一端が前記2k-1番目の第1の伝送線路と前記2k番目の第1の伝送線路との接続点に接続され他端が開放された、LO信号の周波数における四分の一波長の長さのN個の第3の伝送線路とを備え、
前記2k-1番目の第1の伝送線路と前記2k番目の第1の伝送線路の、IF信号に対する合計の位相遅延量をΔθ
IFとしたときに、前記IFポート側から数えてk番目の前記遅延回路によるLO信号の位相遅延量がθ
1-kΔθ
IF、またはθ
1+kΔθ
IF(θ
1は任意の位相)に設定されていることを特徴とするミキサ回路。
【請求項8】
LO信号を等振幅・等位相でN分配(Nは2以上の整数)するように構成された電力分配器と、
ソースがグラウンドに接続されたN個のトランジスタと、
前記電力分配器のN個の出力端子と前記N個のトランジスタのゲートとの間にそれぞれ挿入されたN個の遅延回路と、
前記N個のトランジスタのドレインから出力されるN個のRF信号を等振幅・等位相で合成するように構成された電力合成器と、
IF信号が入力されるIFポートとグラウンドとの間に直列に接続された、RF信号の周波数における四分の一波長の長さの2N+1個の第1の伝送線路と、
前記IFポート側から数えて2k-1番目(kは1~Nの整数)の前記第1の伝送線路の終端と2k番目の前記第1の伝送線路の入力端との間、および2N+1番目の前記第1の伝送線路の終端とグラウンドとの間に挿入されたN+1個の第2の伝送線路と、
一端が前記IFポート側から数えて2i-1(iは1~N+1の整数)番目の前記第1の伝送線路とi番目の前記第2の伝送線路との接続点に接続され他端が開放された、RF信号の周波数における四分の一波長の長さのN+1個の第3の伝送線路と、
一端が前記IFポート側から数えて2k番目の前記第1の伝送線路とk番目の前記第2の伝送線路との接続点に接続され他端が開放された、RF信号の周波数における四分の一波長の長さのN個の第4の伝送線路とを備え、
前記2k-1番目の第1の伝送線路と前記2k番目の第1の伝送線路と前記k番目の第2の伝送線路の、IF信号に対する合計の位相遅延量をΔθ
IFとしたときに、前記IFポート側から数えてk番目の前記遅延回路によるLO信号の位相遅延量がθ
1-kΔθ
IF、またはθ
1+kΔθ
IF(θ
1は任意の位相)に設定されていることを特徴とするミキサ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電気信号を扱う回路技術、特に周波数変換機能を有するミキサ回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
広帯域なTHz波(300GHz~30THzの電磁波)は、次世代無線通信(beyond 5G)等の超高速無線通信への応用が考えられている。特に300GHz帯は、THz帯の中では大気伝搬中の吸収減衰が少なく、またCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、SiGe、InP等からなる電子デバイスによって送信機(TX)および受信機(RX)が実現可能な周波数帯であるため、活発に研究開発が進められている(例えば非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0003】
なかでも高周波特性に優れるInPは、300GHzにおいても20dB程度の高い利得の増幅器を実現可能な半導体材料であるため、高性能なTXおよび受信機実現のための有望な材料であるといえる(例えば非特許文献3参照)。
【0004】
図13に、一般的なTXの構成を示す。TXは、増幅器100と、ミキサ101と、電力増幅器(PA:Power Amplifier)102とから構成される。ミキサ101は、中間周波信号(IF(Intermediate Frequency)信号)を局部発振信号(LO(Local Oscillator)信号)と乗算することにより、所望の周波数帯の高周波信号(RF(Radio Frequency)信号)を生成する。PA102は、RF信号を電力増幅して出力する。
【0005】
TXは、無線通信距離の長延化および通信の信号対雑音比(SNR:Signal to Noise ratio)確保のために、出力電力を大きくすることが重要となる。さらに、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)等の多値変調を行う場合を考えると、ミキサから出力されたRF信号を歪みなく増幅する線形性が重要となる。線形性の指標として、利得が小信号利得から1dB低下する点の出力である1dB利得抑圧点出力(OP1dB)と、利得が小信号利得から1dB低下する点の入力である1dB利得抑圧点入力(IP1dB)が用いられる。
【0006】
高線形化のために、
図14に示すように、一般に、PA102においては、同相分配器1020と、複数の増幅器1021と、同相合成器1022とを用いた電力合成技術が用いられる。電力合成技術を用いると、電力合成数をN(N=1,2,・・・)としたとき、電力合成される個々の増幅器1021の性能が同じであれば、理想的にはOP1dBをN倍大きくすることができる。このように、PAの高線形化は従来技術で確立されている。
【0007】
次に、300GHz帯のような超高周波帯では、PAだけでなくミキサの高線形化が重要となることを以下で説明する。
300GHz帯のように極めて高い周波数帯においては、トランジスタ一つ当たりの利得が小さいため、PAの利得を低周波帯のように大きくとることが難しい。典型的には、300GHz帯におけるPAの利得は10dB程度である。
【0008】
同様の理由で、ミキサも変換利得(入力IF信号に対する出力RF信号の比)を大きくとることが難しい。300GHz帯での典型的な変換利得は-20dB程度である。したがって、典型的なTXの変換利得は、-20+10=-10dB程度にとどまる。変換利得が-10dBのTXから0dBmのRF線形出力信号を得たい場合、ミキサへの入力IF信号を10dBmの高い値に設定する必要がある。したがって、ミキサは10dBmの入力IF信号に対して線形性を確保しなければならなくなる。通常、ミキサのIP1dBは0dBm以下である。このため、10dBmの入力IF信号に対して線形性を確保することは困難である。
【0009】
典型的には、100GHz以下の周波数帯でのPAの利得は20dB、ミキサの変換利得は-10dBである。そこで、PAの利得を20dB、ミキサの変換利得を-10dBとした時を考えると、TXの変換利得は20-10=10dBである。このため、TXから0dBmのRF線形出力信号を得たい場合、ミキサへの入力IF信号は-10dBmの小信号で済む。よって、ミキサは高々-10dBmの信号に対して線形性が担保されていればよい。この性能は、通常の典型的なミキサで十分達成可能な値である。
【0010】
以上から、PAおよびミキサの利得が低下する300GHz帯においては、ミキサの高線形化が重要となることが分かった。
図13に示したミキサ101についても、電力合成技術を用いれば原理的には高線形化することができる。例えば
図15のミキサ101は、LO信号用の同相分配器1010と、IF信号用の同相分配器1011と、複数のミキサ1012と、同相合成器1013とから構成される。すなわち、同一性能のミキサ1012をN個並列配置して、個々のミキサ1012のLO信号、IF信号、RF信号それぞれにおいて電力合成を施すことで、線形性をN倍高くすることができる。
【0011】
しかしながら、
図15に示した構成を、トランジスタ等を用いた集積回路技術で実現することは難しい。具体的には、LO信号の経路およびRF信号の経路と交差する方向に配置されるIF信号用の同相分配器1011を、平面上に回路を形成する集積回路技術で実現することは困難である。この実現困難性は、ミキサ1012が、PAのような2ポート素子ではなく、3ポート素子であるということに起因する。
【0012】
以上述べたように、300GHzのような高い周波数では、ミキサの高線形化が重要であるが、ミキサが3ポート素子であるため、電力合成による高線形化が困難であるという課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】S.Lee et al.,“An 80-Gb/s 300-GHz-Band Single-Chip CMOS Transceiver”,IEEE Journal of Solid-State Circuits (JSSC),vol.54,no.12,pp.3577-3588,Oct.2019
【文献】P.Rodriguez-Vazquez et al.,“A 16-QAM 100-Gb/s 1-M wireless link with an EVM of 17% at 230 GHz in an SiGe technology”,IEEE Microwave and Wireless Components Letters (MWCL),vol.29,no.4,pp.297-299,Apr.2019
【文献】H.Hamada et al.,“300-GHz-band 120-Gb/s Wireless Ftont-End Based on InP-HEMT PAs and Mixers”,IEEE Journal of Solid-State Circuits (JSSC),vol.55,no.9,2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、ミキサ回路を高線形化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のミキサ回路は、LO信号を等振幅・等位相でN分配(Nは2以上の整数)するように構成された電力分配器と、IF信号が入力されるIFポートとグラウンドとの間に直列に接続されたN個の伝送線路と、IF信号入力端子が前記N個の伝送線路のそれぞれの終端に接続されたN個の単位ミキサと、前記電力分配器のN個の出力端子と前記N個の単位ミキサのLO信号入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の遅延回路と、前記N個の単位ミキサから出力されるN個のRF信号を等振幅・等位相で合成するように構成された電力合成器とを備え、前記N個の伝送線路のそれぞれの、IF信号に対する位相遅延量をΔθIFとしたときに、前記IFポート側から数えてk番目(kは1~Nの整数)の前記遅延回路によるLO信号の位相遅延量がθ1-kΔθIF、またはθ1+kΔθIF(θ1は任意の位相)に設定されていることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明のミキサ回路の1構成例は、前記電力分配器のN個の出力端子と前記N個の遅延回路の入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の第1の増幅器と、前記N個の遅延回路の出力端子と前記N個の単位ミキサのLO信号入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の第2の増幅器とをさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明のミキサ回路の1構成例は、前記N個の単位ミキサのRF信号出力端子と前記電力合成器のN個の入力端子との間にそれぞれ挿入された第3の増幅器をさらに備えることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明のミキサ回路は、LO信号を等振幅・等位相でN分配(Nは2以上の整数)するように構成された第1の電力分配器と、RF信号を等振幅・等位相でN分配するように構成された第2の電力分配器と、IF信号が出力されるIFポートとグラウンドとの間に直列に接続されたN個の伝送線路と、RF信号入力端子が前記第2の電力分配器のN個の出力端子のそれぞれに接続され、IF信号出力端子が前記N個の伝送線路のそれぞれの終端に接続されたN個の単位ミキサと、前記第1の電力分配器のN個の出力端子と前記N個の単位ミキサのLO信号入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の遅延回路とを備え、前記N個の伝送線路のそれぞれの、IF信号に対する位相遅延量をΔθIFとしたときに、前記IFポート側から数えてk番目(kは1~Nの整数)の前記遅延回路によるLO信号の位相遅延量がθ1-(N-k+1)ΔθIF、またはθ1+(N-k+1)ΔθIF(θ1は任意の位相)に設定されていることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明のミキサ回路の1構成例は、前記第1の電力分配器のN個の出力端子と前記N個の遅延回路の入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の第1の増幅器と、前記N個の遅延回路の出力端子と前記N個の単位ミキサのLO信号入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の第2の増幅器とをさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明のミキサ回路の1構成例は、前記第2の電力分配器のN個の出力端子と前記N個の単位ミキサのRF信号入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の第3の増幅器をさらに備えることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明のミキサ回路は、LO信号を等振幅・等位相でN分配(Nは2以上の整数)するように構成された電力分配器と、ソースがグラウンドに接続されたN個のトランジスタと、前記電力分配器のN個の出力端子と前記N個のトランジスタのゲートとの間にそれぞれ挿入されたN個の遅延回路と、前記N個のトランジスタのドレインから出力されたN個のRF信号を等振幅・等位相で合成するように構成された電力合成器と、IF信号が入力されるIFポートとグラウンドとの間に直列に接続された2N個の第1の伝送線路と、前記IFポート側から数えて2k-1番目(kは1~Nの整数)の前記第1の伝送線路と2k番目の前記第1の伝送線路との接続点と、前記IFポート側から数えてk番目の前記トランジスタのゲートとの間に挿入された、LO信号の周波数における四分の一波長の長さのN個の第2の伝送線路と、一端が前記2k-1番目の第1の伝送線路と前記2k番目の第1の伝送線路との接続点に接続され他端が開放された、LO信号の周波数における四分の一波長の長さのN個の第3の伝送線路とを備え、前記2k-1番目の第1の伝送線路と前記2k番目の第1の伝送線路の、IF信号に対する合計の位相遅延量をΔθIFとしたときに、前記IFポート側から数えてk番目の前記遅延回路によるLO信号の位相遅延量がθ1-kΔθIF、またはθ1+kΔθIF(θ1は任意の位相)に設定されていることを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明のミキサ回路は、LO信号を等振幅・等位相でN分配(Nは2以上の整数)するように構成された電力分配器と、ソースがグラウンドに接続されたN個のトランジスタと、前記電力分配器のN個の出力端子と前記N個のトランジスタのゲートとの間にそれぞれ挿入されたN個の遅延回路と、前記N個のトランジスタのドレインから出力されるN個のRF信号を等振幅・等位相で合成するように構成された電力合成器と、IF信号が入力されるIFポートとグラウンドとの間に直列に接続された、RF信号の周波数における四分の一波長の長さの2N+1個の第1の伝送線路と、前記IFポート側から数えて2k-1番目(kは1~Nの整数)の前記第1の伝送線路の終端と2k番目の前記第1の伝送線路の入力端との間、および2N+1番目の前記第1の伝送線路の終端とグラウンドとの間に挿入されたN+1個の第2の伝送線路と、一端が前記IFポート側から数えて2i-1(iは1~N+1の整数)番目の前記第1の伝送線路とi番目の前記第2の伝送線路との接続点に接続され他端が開放された、RF信号の周波数における四分の一波長の長さのN+1個の第3の伝送線路と、一端が前記IFポート側から数えて2k番目の前記第1の伝送線路とk番目の前記第2の伝送線路との接続点に接続され他端が開放された、RF信号の周波数における四分の一波長の長さのN個の第4の伝送線路とを備え、前記2k-1番目の第1の伝送線路と前記2k番目の第1の伝送線路と前記k番目の第2の伝送線路の、IF信号に対する合計の位相遅延量をΔθIFとしたときに、前記IFポート側から数えてk番目の前記遅延回路によるLO信号の位相遅延量がθ1-kΔθIF、またはθ1+kΔθIF(θ1は任意の位相)に設定されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電力合成が可能となるように遅延回路によるLO信号の位相遅延量を設定することにより、ミキサ回路の線形性を個々の単位ミキサのN倍とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施例に係るミキサ回路の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、一般的な分布ミキサの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施例に係るミキサ回路の別の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2の実施例に係るミキサ回路の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の実施例に係るミキサ回路の別の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、本発明の第3の実施例に係るミキサ回路の構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、本発明の第3の実施例に係るミキサ回路の別の構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、本発明の第4の実施例に係るミキサ回路の構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、ゲートミキサの概要を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の第5の実施例に係るミキサ回路の構成を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、レジスティブミキサの概要を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の第6の実施例に係るミキサ回路の構成を示すブロック図である。
【
図13】
図13は、従来の送信機の構成を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、電力合成技術を用いた電力増幅器の構成を示すブロック図である。
【
図15】
図15は、電力合成技術を用いたミキサの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1は本実施例に係るミキサ回路の構成を示すブロック図である。ミキサ回路は、LO信号を等振幅・等位相でN分配(Nは2以上の整数)する電力分配器1と、N個の遅延回路2-1~2-Nと、N個の単位ミキサ3-1~3-Nと、IF信号が入力されるIFポート41とグラウンドとの間に直列に接続され、それぞれの終端が単位ミキサ3-1~3-NのIF信号入力端子と接続されたN個の伝送線路4-1~4-Nと、終段の伝送線路4-Nの終端とグラウンドとを接続する終端抵抗5と、単位ミキサ3-1~3-Nから出力されるN個のRF信号を等振幅・等位相で合成する電力合成器6とから構成される。40はLO信号が入力されるLOポート、42はRF信号が出力されるRFポートである。
【0024】
本実施例では、IF信号の電力合成を平面回路内で実現するために、分布整合技術を用いている。分布整合技術とは、N個配置された伝送線路4-1~4-Nの各々が持つインダクタンスと、同様にN個配置された単位ミキサ3-1~3-Nの各々が持つ寄生容量とによってN段のラダー型の疑似伝送線路を形成することで、広帯域なインピーダンス整合を実現する手法である。
【0025】
一般に、分布整合が施されたミキサ回路は分布ミキサと呼称される。分布ミキサにおいては、通常、IF信号、LO信号、RF信号すべてについて分布整合回路を形成する。一般的な分布ミキサの構成を
図2に示す。7-1~7-N,8-1~8-Nは伝送線路、9,10は終端抵抗である。
【0026】
分布ミキサによれば、IF信号、LO信号、RF信号の帯域を広く確保することができるが、N個の単位ミキサ3-1~3-Nを配置した分布ミキサを設計しても、線形性をN倍にすることはできない。線形性をN倍にできない理由は、LO信号の分布整合に由来する。すなわち、
図2の構成において、入力されたLO信号は、伝送線路7-1~7-Nを伝搬しながら減衰するため、IFポート41側から数えて1番目の単位ミキサ3-1を駆動するLO信号の電力とN番目の単位ミキサ3-Nを駆動するLO信号の電力は大きく異なる。
【0027】
一般に、単位ミキサ3-1~3-Nにおいては、LO信号の電力と線形性とに正の相関がある。ミキサ回路の線形性を確保するためには十分なLO信号の電力を単位ミキサ3-1~3-Nに供給しなければならない。ところが、N個の単位ミキサ3-1~3-Nの全てに十分なLO信号の電力を供給することは、前述の伝送線路7-1~7-Nの損失から困難である。つまり、N個の単位ミキサ3-1~3-Nのそれぞれが、異なる線形性(IP1dB)を有することになる。したがって、N個の単位ミキサ3-1~3-Nを使用した分布ミキサ全体としての線形性は、単位ミキサを1個使用した場合のN倍にはならない。
【0028】
一般には、分布ミキサの線形性は、最も大きいLO信号が供給される1番目の単位ミキサ3-1の線形性とほぼ等しいか、やや大きくなる程度である。また、伝送線路8-1~8-Nと終端抵抗10とからなるRF分布整合回路によるRF信号に対する損失も大きいため、分布ミキサの変換利得およびOP1dBは、単位ミキサ1個を使用した場合よりも小さくなってしまうのが普通である。
【0029】
そこで、本実施例では、
図1に示したように、IF信号については伝送線路4-1~4-Nと終端抵抗5とからなるIF分布整合回路を用いるが、LO信号とRF信号については分布整合回路を使用しない。LO分布整合回路とRF分布整合回路を使用しない理由は、全ての単位ミキサ3-1~3-Nに同一の電力のLO信号を供給するためである。
【0030】
ただし、LO分布整合回路とRF分布整合回路を使用しない場合に問題となるのが、ミキサの位相整合である。
図2に示した分布ミキサでは、RF信号、LO信号、IF信号の全てが位相整合するが、
図1に示した本実施例の構成では位相整合しない可能性がある。すなわち、単位ミキサ3-1~3-Nから出力されるRF信号の位相がばらばらになる可能性があり、N入力1出力の電力合成器6を使用したとしてもN倍の電力合成を実現できない。
【0031】
本実施例では、個々の単位ミキサ3-1~3-Nから出力されるRF信号の位相を揃えるために、
図1に示すように、電力分配器1によって分配されたN個のLO信号に遅延回路2-1~2-Nを適用する。遅延回路2-1~2-Nは、電力分配器1のN個の出力端子とN個の単位ミキサ3-1~3-NのLO信号入力端子との間にそれぞれ挿入される。遅延回路2-1~2-Nは、伝送線路等で実現できる。
【0032】
一般に、単位ミキサでのLO信号とIF信号の乗算において、RF信号の位相θRFは次のように表記される。
θRF=θLO+θIF ・・・(1)
θRF=θLO―θIF ・・・(2)
【0033】
式(1)はRF信号の周波数がLO信号の周波数とIF信号の周波数の和となる場合、すなわちRF信号として上側波帯を使用する場合を示している。式(2)はRF信号の周波数がLO信号の周波数とIF信号の周波数の差となる場合、すなわちRF信号として下側波帯を使用する場合を示している。
【0034】
したがって、RF信号として上側波帯を使用する場合、IFポート41側から数えてk番目(kは1~Nの整数)の遅延回路2-kによるLO信号の位相遅延量をθ1-kΔθIFに設定しておけば、N個の単位ミキサ3-1~3-Nから出力されるRF信号の位相を、全て同一の値θ1(θ1は任意の位相)に揃えることができる。伝送線路4-1~4-Nのそれぞれの、IF信号に対する位相遅延量は同一の値ΔθIFに設定されている。
【0035】
また、RF信号として下側波帯を使用する本実施例のミキサ回路の構成を
図3に示す。RF信号として下側波帯を使用する場合には、IFポート41側から数えてk番目の遅延回路2a-kによるLO信号の位相遅延量をθ
1+kΔθ
IFに設定しておけば、N個の単位ミキサ3-1~3-Nから出力されるRF信号の位相を、全て同一の値θ
1に揃えることができる。
【0036】
一般に300GHz帯でミキサ回路を実現する場合、LO信号の周波数は250GHz以上、IF信号の周波数は25GHz程度で、LO信号とIF信号の周波数が十倍程度異なる。IF信号と同一の位相遅延量を得るために必要な遅延回路2-1~2-N,2a-1~2a-Nの長さは、IF信号の伝送線路の長さの1/10で済む。LO信号の遅延回路2-1~2-N,2a-1~2a-Nの長さが短い点も
図2の分布ミキサとは大きく異なる。
【0037】
図2に示した分布ミキサでは、通常、IF信号、LO信号、RF信号の伝送線路4-1~4-N,7-1~7-N,8-1~8-Nはほぼ同じ物理長を持つ。そのため、周波数が高いLO信号やRF信号はどうしても損失が大きくなる。本実施例では、LO信号の遅延回路2-1~2-N,2a-1~2a-Nが短いため、遅延回路2-1~2-N,2a-1~2a-Nによる損失は問題とならない。
【0038】
なお、伝送線路4-1~4-Nと終端抵抗5とからなるIF分布整合回路の設計方法であるが、単位ミキサ3-1~3-Nの容量と伝送線路4-1~4-Nのインダクタンスとからなる疑似伝送線路の特性インピーダンスが所望の値(通常は50Ω)となるように伝送線路4-1~4-Nの物理パラメータ(幅、長さ)を決めればよい。
【0039】
伝送線路4-1~4-Nの物理パラメータが決まれば、伝送線路4-1~4-Nのそれぞれの位相遅延量ΔθIFが決まるので、LO信号の遅延回路2-1~2-N,2a-1~2a-Nの物理パラメータを決定することが可能となる。また、分布整合の原理から、IFポート41の終端部には終端抵抗5として、50Ωの抵抗を配置した方が広帯域なミキサ特性が得られる。
【0040】
以上により、本実施例は、N個の単位ミキサ3-1~3-Nを同一の電力のLO信号で駆動し、かつ同一位相のRF信号を出力する構成であるから、ミキサ回路の線形性を個々の単位ミキサのN倍とすることができる。
【0041】
[第2の実施例]
第1の実施例では、遅延回路2-1~2-N,2a-1~2a-Nによる僅かな損失や、単位ミキサ3-1~3-NからLO信号側を見込んだインピーダンスの変化がミキサ回路の全体動作に影響を及ぼすことが考えられるため、より実用的な構成として
図4の構成を示す。
【0042】
本実施例のミキサ回路は、第1の実施例のミキサ回路において、電力分配器1のN個の出力端子とN個の遅延回路2-1~2-Nの入力端子との間にそれぞれLO信号を増幅する増幅器11-1~11-Nを挿入し、N個の遅延回路2-1~2-Nの出力端子とN個の単位ミキサ3-1~3-NのLO信号入力端子との間にそれぞれLO信号を増幅する増幅器12-1~12-Nを挿入したものである。
【0043】
各増幅器11-1~11-N,12-1~12-Nが飽和動作するように設計しておけば、遅延回路2-1~2-Nの損失に多少のばらつきがあっても、N個の単位ミキサ3-1~3-Nを完全に同一の電力(増幅器11-1~11-N,12-1~12-Nの飽和電力)のLO信号で駆動することができる。また、増幅器11-1~11-N,12-1~12-Nには、一般に逆方向アイソレーションがある。このため、単位ミキサ3-1~3-Nから見たときのインピーダンスは、遅延回路2-1~2-Nの影響を受けなくなる。
【0044】
さらに、
図5に示すように、N個の単位ミキサ3-1~3-NのRF信号出力端子と電力合成器6のN個の入力端子との間にそれぞれRF信号を増幅する増幅器13-1~13-Nを挿入すれば、電力合成器6の過剰損失の影響を受けずに、単位ミキサ3-1~3-Nの出力を増幅することができ、本実施例のミキサ回路の変換利得をさらに向上させることができる。
【0045】
図4、
図5の例では、遅延回路2-1~2-Nを使用しているが、
図4、
図5において遅延回路2-1~2-Nの代わりに遅延回路2a-1~2a-Nを設けるようにすれば、RF信号として下側波帯を使用する構成を実現できる。
【0046】
さらに、本発明の付随効果として、イメージ除去機能を挙げることができる。一般に、無線通信においては、RF信号として、上側波帯および下側波帯のどちらかのみを使用する。上側波帯および下側波帯のどちらかのみを使用するのは、帯域の有効活用という理由と、SNR向上のためという理由がある。
【0047】
例えば、上側波帯をRF信号に使用する場合、下側波帯はイメージ信号と称される不要波として扱われる。したがって、TXにおいて、イメージ信号を除去する機能を具備することが望ましい場合がある。イメージ信号を除去する機能を備えたミキサは、一般には、イメージリジェクションミキサと呼称される。
【0048】
本発明では、上側波帯をRF信号に使用する場合の遅延回路2-1~2-Nと下側波帯をRF信号に使用する場合の遅延回路2a-1~2a-Nの設計が異なる。遅延回路2-1~2-N,2a-1~2a-Nは、N個の単位ミキサ3-1~3-Nの出力において上側波帯、下側波帯のどちらかの位相を揃えるよう設計されている。単位ミキサ3-1~3-Nの出力の位相を揃えるように設計しないと、電力合成器6によりN個のRF信号の電力合成ができないからである。
【0049】
換言すると、イメージ信号については、単位ミキサ3-1~3-Nの出力で位相が一致しない。このため、電力合成器6による電力合成は効率的には行われず、イメージ信号への変換利得はRF信号への変換利得に比べて低下する。したがって、本発明のミキサ回路は、本質的にイメージ除去機能を備えている。
【0050】
[第3の実施例]
第1、第2の実施例では、TXに用いるアップコンバージョンミキサの例で説明しているが、本発明はRXに用いるダウンコンバージョンミキサに適用することも可能である。ただし、この場合もLO信号の遅延量を適切に設計する必要がある。
【0051】
図6は本実施例に係るミキサ回路の構成を示すブロック図である。本実施例のミキサ回路は、電力分配器1と、単位ミキサ3-1~3-Nと、伝送線路4-1~4-Nと、終端抵抗5と、電力分配器1のN個の出力端子とN個の単位ミキサ3-1~3-NのLO信号入力端子との間にそれぞれ挿入されたN個の遅延回路14-1~14-Nと、RF信号を等振幅・等位相で分配してN個の単位ミキサ3-1~3-NのRF信号入力端子に入力する電力分配器15とから構成される。なお、本実施例のミキサ回路はダウンコンバージョンミキサなので、IFポート41はIF信号を出力するポートとなり、RFポート42はRF信号が入力されるポートとなる。
【0052】
RF信号として上側波帯を使用する場合、IFポート41側から数えてk番目(kは1~Nの整数)の遅延回路14-kによるLO信号の位相遅延量をθ1-(N-k+1)ΔθIFに設定する。k番目の単位ミキサ3-kに入力されるLO信号の位相は、θ1-(N-k+1)ΔθIFである。k番目の単位ミキサ3-kに入力されるRF信号の位相は、θRFである。θRFはkに依存しない一定の値である。
【0053】
k番目の単位ミキサ3-kから出力されるIF信号の位相は、θRF-[θ1-(N-k+1)ΔθIF]である。k番目の単位ミキサ3-kから出力されたIF信号のIFポート41での位相は、k個の伝送線路4-k~4-1を通過することから、θRF-[θ1-(N-k+1)ΔθIF]+kΔθIF=θRF-[θ1-(N+1)ΔθIF]となる。つまり、IF信号のIFポート41での位相はkに依存しなくなる。したがって、N個の単位ミキサ3-1~3-Nから出力されたIF信号がIFポート41において同位相合成される。
【0054】
また、RF信号として下側波帯を使用する本実施例のミキサ回路の構成を
図7に示す。RF信号として下側波帯を使用する場合には、IFポート41側から数えてk番目の遅延回路14a-kによるLO信号の位相遅延量をθ
1+(N-k+1)Δθ
IFに設定すればよい。
【0055】
[第4の実施例]
第3の実施例の、より実用的な構成として
図8の構成を示す。本実施例のミキサ回路は、第3の実施例のミキサ回路において、電力分配器1のN個の出力端子とN個の遅延回路14-1~14-Nの入力端子との間にそれぞれLO信号を増幅する増幅器16-1~16-Nを挿入し、N個の遅延回路14-1~14-Nの出力端子とN個の単位ミキサ3-1~3-NのLO信号入力端子との間にそれぞれLO信号を増幅する増幅器17-1~17-Nを挿入したものである。さらに、本実施例では、RFポート42と電力分配器15の入力端子との間にRF信号を増幅する前置増幅器18を挿入し、電力分配器15のN個の出力端子とN個の単位ミキサ3-1~3-NのRF信号入力端子との間にそれぞれRF信号を増幅する増幅器19-1~19-Nを挿入している。
【0056】
RXにおいては初段のRF損失が雑音指数(NF:Noise Figure)に大きく影響する。そこで、電力分配器15の損失によるNF劣化を回避するために、
図8では、電力分配器15の前段に前置増幅器18を設けている。
【0057】
図8の例では、遅延回路14-1~14-Nを使用しているが、
図8において遅延回路14-1~14-Nの代わりに遅延回路14a-1~14a-Nを設けるようにすれば、RF信号として下側波帯を使用する構成を実現できる。
【0058】
[第5の実施例]
次に、本発明の第5の実施例について説明する。本実施例では、単位ミキサとしてゲートミキサを使用する場合について説明する。ゲートミキサは、
図9に示すように、ソース接地FET(Field Effect Transistor)20のゲートGにIF信号およびLO信号を入力し、RF信号をFET20のドレインDから取り出す構成である。
【0059】
図10は本実施例に係るミキサ回路の構成を示すブロック図である。本実施例のミキサ回路は、電力分配器1と、遅延回路2-1~2-Nと、電力合成器6と、増幅器11-1~11-N,12-1~12-Nと、ゲートGが増幅器12-1~12-Nの出力端子に接続され、ドレインDが電力合成器6の入力端子に接続され、ソースSがグラウンドに接続されたN個のFET20-1~20-Nと、IFポート41とグラウンドとの間に直列に接続された2N個の伝送線路21-1~21-2Nと、伝送線路21-2Nの終端とグラウンドとを接続する50Ωの終端抵抗22と、IFポート41側から数えて2k-1番目(kは1~Nの整数)の伝送線路21-(2k-1)と2k番目の伝送線路21-2kとの接続点と、k番目(kは1~Nの整数)のFET20-kのゲートGとの間に挿入された、LO信号の周波数における四分の一波長の長さのN個の伝送線路23-1~23-Nと、一端が伝送線路21-(2k-1)と伝送線路21-2kとの接続点に接続され他端が開放された、LO信号の周波数における四分の一波長の長さのN個の伝送線路24-1~24-Nとから構成される。
【0060】
IF分布整合回路を構成する伝送線路21-1~21-2Nのそれぞれの、IF信号に対する位相遅延量は全て同一の値に設定されている。そして、隣り合う2つの伝送線路21-(2k-1),21-2kの、IF信号に対する合計の位相遅延量は、ΔθIFに設定されている。
【0061】
図9のゲートミキサでは、IF信号からRF信号へのアップコンバージョンは可能であるが、RF信号からIF信号へのダウンコンバージョンを行うことができない。したがって、必然的に、本実施例のミキサ回路はアップコンバージョンミキサとなる。
本実施例の構成により、通常のゲートミキサの線形性がN倍された高線形特性が得られる。
【0062】
ここで留意すべき点として、LO信号とIF信号のアイソレーションがある。
図9に示した集中定数型のゲートミキサでは、LO整合回路200とIF整合回路201によりLO信号とIF信号のアイソレーションを実現できる。しかしながら、本実施例では、伝送線路21-1~21-2Nと終端抵抗22とからなるIF分布整合回路を用いるため、集中定数型のゲートミキサとは異なる手法でアイソレーションを確保する必要がある。
【0063】
そこで、本実施例では、伝送線路23-1~23-N,24-1~24-Nを用いる。伝送線路24-1~24-Nはオープンスタブである。したがって、IF分布整合回路と伝送線路24-1~24-Nとの接続点(伝送線路21-(2k-1)と伝送線路21-2kとの接続点)のインピーダンスは、LO信号の周波数において0(短絡)となる。
【0064】
IF分布整合回路と伝送線路24-1~24-Nとの接続点における信号位相を伝送線路23-1~23-Nによって回転させることで、LO信号の周波数においてFET20-1~20-NのゲートGからIF分布整合回路を見込んだインピーダンスを無限大(開放)とすることができる。
【0065】
なお、前述のように300GHz帯においてはLO信号とIF信号の周波数が10倍程度異なるため、IF信号にとって伝送線路23-1~23-N,24-1~24-Nは十分短い。このため、伝送線路23-1~23-N,24-1~24-NがIF分布整合回路の特性に悪影響を及ぼすことはないと考えてよい。
【0066】
以上により、本実施例では、単位ミキサとしてゲートミキサを使用する場合のLO信号とIF信号のアイソレーションを確保することができる。
なお、本実施例において増幅器11-1~11-N,12-1~12-Nは必須の構成ではなく、第1の実施例と同様に、電力分配器1のN個の出力端子とN個の遅延回路2-1~2-Nの入力端子とを接続し、N個の遅延回路2-1~2-Nの出力端子とN個のFET20-1~20-NのゲートGとを接続するようにしてもよい。
【0067】
また、第2の実施例と同様に、N個のFET20-1~20-NのドレインDと電力合成器6のN個の入力端子との間にそれぞれRF信号を増幅する増幅器を挿入するようにしてもよい。
【0068】
また、
図10の構成はRF信号として上側波帯を使用する場合を示しているが、RF信号として下側波帯を使用する場合には、遅延回路2-1~2-Nの代わりに遅延回路2a-1~2a-Nを設けるようにすればよい。
【0069】
[第6の実施例]
次に、本発明の第6の実施例について説明する。本実施例では、単位ミキサとしてレジスティブミキサを使用する場合について説明する。レジスティブミキサは、
図11に示すように、ソース接地FET25のゲートGにLO信号を入力し、FET25のドレインDにIF信号を入力し、RF信号をドレインDから取り出すか、またはドレインDにRF信号を入力し、IF信号をドレインDから取り出す構成である。
【0070】
図11のレジスティブミキサでは、アップコンバージョン、ダウンコンバージョン共に可能である。したがって、本実施例では、アップコンバージョンミキサ、ダウンコンバージョンのいずれも実現可能である。
【0071】
図12は本実施例に係るミキサ回路の構成を示すブロック図である。本実施例のミキサ回路は、電力分配器1と、遅延回路2-1~2-Nと、電力合成器6と、増幅器11-1~11-N,12-1~12-Nと、ゲートGが増幅器12-1~12-Nの出力端子に接続され、ドレインDが電力合成器6の入力端子に接続され、ソースSがグラウンドに接続されたN個のFET25-1~25-Nと、IFポート41とグラウンドとの間に直列に接続された、RF信号の周波数における四分の一波長の長さの2N+1個の伝送線路26-1~26-(2N+1)と、IFポート41側から数えて2k-1番目(kは1~Nの整数)の伝送線路26-(2k-1)と2k番目の伝送線路26-2kとの間、および2N+1番目の伝送線路26-(2N+1)とグラウンドとの間に挿入されたN+1個の伝送線路27-1~27-(N+1)と、伝送線路27-(N+1)の終端とグラウンドとを接続する終端抵抗28と、一端がIFポート41側から数えて2i-1(iは1~N+1の整数)番目の伝送線路26-(2i-1)とi番目の伝送線路27-iとの接続点に接続され他端が開放された、RF信号の周波数における四分の一波長の長さのN+1個の伝送線路29-1~29-(N+1)と、一端がIFポート41側から数えて2k番目の伝送線路26-2kとk番目の伝送線路27-kとの接続点に接続され他端が開放された、RF信号の周波数における四分の一波長の長さのN個の伝送線路30-1~30-Nとから構成される。
【0072】
伝送線路26-1~26-(2N+1)のそれぞれの、IF信号に対する位相遅延量は全て同一の値に設定されている。同様に、伝送線路27-1~27-(N+1)のそれぞれの、IF信号に対する位相遅延量は全て同一の値に設定されている。そして、3つの伝送線路26-(2k-1),26-2k,27-kの、IF信号に対する合計の位相遅延量は、Δθ
IFに設定されている。
図12の構成はアップコンバージョンミキサの例を示している。
本実施例の構成により、レジスティブミキサ1個当たりの線形性をN倍した線形性が得られる。
【0073】
第5の実施例と同様に、留意すべき点として、RF信号とIF信号のアイソレーションがある。
図11に示した集中定数型のレジスティブミキサでは、RF整合回路202とIF整合回路201によりRF信号とIF信号のアイソレーションを実現できる。しかしながら、本実施例では、伝送線路26-1~26-(2N+1),27-1~27-(N+1)と終端抵抗28とからなるIF分布整合回路を用いるため、集中定数型のレジスティブミキサとは異なる手法でアイソレーションを確保する必要がある。
【0074】
そこで、本実施例では、RF信号の周波数における四分の一波長の長さの伝送線路26-1~26-(2N+1),29-1~29-(N+1),30-1~30-Nを用いる。伝送線路29-1~29-(N+1),30-1~30-Nはオープンスタブである。したがって、IF分布整合回路と伝送線路29-1~29-(N+1),30-1~30-Nとの接続点(伝送線路26-(2i-1)と伝送線路27-iとの接続点、伝送線路26-2kと伝送線路27-kとの接続点)のインピーダンスは、RF信号の周波数において0(短絡)となる。
【0075】
IF分布整合回路と伝送線路29-1~29-(N+1),30-1~30-Nとの接続点における信号位相を伝送線路26-1~26-(2N+1)によって回転させることで、RF信号の周波数においてFET25-1~25-NのドレインDからIF分布整合回路を見込んだインピーダンスを無限大(開放)とすることができる。
【0076】
FET25-1~25-NのドレインDにとっては、IF分布整合回路が2分岐配置されているため、どちらの分岐のインピーダンスもRF信号の周波数において無限大とするために、伝送線路26-1~26-(2N+1),29-1~29-(N+1),30-1~30-Nが必要となる。
【0077】
なお、前述のように300GHz帯においてはRF信号とIF信号の周波数が10倍程度異なるため、IF信号にとって伝送線路26-1~26-(2N+1),29-1~29-(N+1),30-1~30-Nは十分短い。このため、伝送線路26-1~26-(2N+1),29-1~29-(N+1),30-1~30-NがIF分布整合回路の特性に悪影響を及ぼすことはないと考えてよい。
【0078】
以上により、本実施例では、単位ミキサとしてレジスティブミキサを使用する場合のRF信号とIF信号のアイソレーションを確保することができる。
なお、本実施例において増幅器11-1~11-N,12-1~12-Nは必須の構成ではなく、第1の実施例と同様に、電力分配器1のN個の出力端子とN個の遅延回路2-1~2-Nの入力端子とを接続し、N個の遅延回路2-1~2-Nの出力端子とN個のFET25-1~25-NのゲートGとを接続するようにしてもよい。
【0079】
また、
図12の構成はRF信号として上側波帯を使用する場合を示しているが、RF信号として下側波帯を使用する場合には、遅延回路2-1~2-Nの代わりに遅延回路2a-1~2a-Nを設けるようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、信号の周波数変換を行うミキサ回路に適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1,15…電力分配器、2-1~2-N,2a-1~2a-N,14-1~14-N,14a-1~14a-N…遅延回路、3-1~3-N…単位ミキサ、4-1~4-N,21-1~21-2N,26-1~26-(2N+1),27-1~27-(N+1)…伝送線路、5,22,28…終端抵抗、6…電力合成器、11-1~11-N,12-1~12-N,13-1~13-N,16-1~16-N,17-1~17-N,19-1~19-N…増幅器、18…前置増幅器、20-1~20-N,25-1~25-N…FET、23-1~23-N,24-1~24-N,29-1~29-(N+1),30-1~30-N…伝送線路。