(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】無線通信システムおよび通信方法
(51)【国際特許分類】
H04L 27/26 20060101AFI20241106BHJP
H04B 7/0413 20170101ALI20241106BHJP
【FI】
H04L27/26 411
H04B7/0413
(21)【出願番号】P 2023534476
(86)(22)【出願日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2021026305
(87)【国際公開番号】W WO2023286158
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】増野 淳
(72)【発明者】
【氏名】李 斗煥
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】笹木 裕文
(72)【発明者】
【氏名】八木 康徳
(72)【発明者】
【氏名】景山 知哉
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/030243(WO,A1)
【文献】特表2020-537455(JP,A)
【文献】竹内 知明 他,空間分割多重MIMO-OFDMにおける高周波数分解能空間フィルタによる長遅延マルチパス等化,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.114 No.295,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2014年11月05日,p.103-106
【文献】MIYANAGA Yoshikazu et al.,Development of High Performance RF Modules Used in Real-time FHD Video Communication over 8X8 MIMO-O,2018 International Symposium on Intelligent Signal Processing and Communication Systems (ISACS),IEEE,2018年11月30日,pp.107-110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/26
H04B 7/0413
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信装置と受信装置とを備え、MIMO通信を行う無線通信システムであって、
前記送信装置は、無線通信の信号を前記受信装置に送信し、
前記受信装置は、前記送信装置のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタの最大値を示す情報を取得して、前記送信装置の前記ジッタの最大値と、前記受信装置の前記ジッタの最大値とに基づいて、前記送信装置から送信された前記信号の復調または信号等化に用いるFFT区間を決定する、
無線通信システム。
【請求項2】
前記送信装置は、前記信号の無線フレームにおいて、特定のMIMOチャンネルに同期信号を多重して、各MIMOチャンネルのデータ信号に巡回プレフィックスを付加し、
前記受信装置は、前記送信装置の前記ジッタの最大値Δ
Txと、前記受信装置の前記ジッタの最大値Δ
Rxとに基づいて、前記同期信号により同定された巡回プレフィックスの終点から少なくとも2(Δ
Tx+Δ
Rx)サンプル以上前方の前記巡回プレフィックスのサンプル点を前記FFT区間の始点とする、
請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記送信装置は、前記受信装置から前記受信装置のジッタの最大値Δ
Rxを示す情報を取得して、前記巡回プレフィックスの長さを少なくとも2(Δ
Tx+Δ
Rx)サンプル以上とする、
請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記送信装置は、前記信号の無線フレームにおいて、各MIMOチャンネルに同期信号を多重し、前記各MIMOチャンネルのデータ信号に巡回プレフィックスを付加し、
前記受信装置は、前記各MIMOチャンネルの無線フレームのサンプル位置を前記同期信号により検出し、最も早着となるMIMOチャンネルの前記巡回プレフィックスの終点を前記FFT区間の始点とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記無線通信システムは、複数の送信装置を備え、
前記複数の送信装置のそれぞれは、前記信号の無線フレームにおいて、各MIMOチャンネルのデータ信号に巡回プレフィックスを付加し、前記ジッタの最大値を示す情報を前記受信装置に送信し、
前記受信装置は、前記複数の送信装置のそれぞれから前記ジッタの最大値を示す情報を受信して、受信したそれぞれの送信装置の前記ジッタの最大値Δ
MAXを導出し、前記受信装置の前記ジッタの最大値Δ
Rxに基づいて、前記巡回プレフィックスの終点から少なくとも2×(Δ
MAX+Δ
Rx)サンプル以上前方を前記FFT区間の始点とする、
請求項1から4のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記送信装置は、前記信号の無線フレームにおいて、特定のMIMOチャンネルに同期信号を多重して、各MIMOチャンネルのデータ信号に巡回プレフィックスおよび巡回ポストフィックスを付加し、
前記受信装置は、前記同期信号により同定された前記巡回プレフィックスの終点を前記FFT区間の始点とする、
請求項1から4のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記送信装置は、前記信号の無線フレームにおいて、特定のMIMOチャンネルに同期信号を多重して、各MIMOチャンネルのデータ信号に巡回プレフィックスを付加し、前記送信装置の前記ジッタの最大値Δ
Txに基づいて、少なくとも2×Δ
Txサンプル以上の長さの巡回ポストフィックスを付加し、
前記受信装置は、前記同期信号により同定された前記巡回プレフィックスの終点から少なくとも2×Δ
Rxサンプル以上前方を前記FFT区間の始点とする、
請求項1から4のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項8】
送信装置と受信装置とを備える無線通信システムにおける通信方法であって、
前記送信装置が、無線通信の信号を前記受信装置に送信するステップと、
前記受信装置が、前記送信装置のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタの最大値を示す情報を取得して、前記送信装置の前記ジッタの最大値と、前記受信装置の前記ジッタの最大値とに基づいて、前記送信装置から送信された前記信号の復調または信号等化に用いるFFT区間を決定するステップと、を備える、
通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線信号を空間多重伝送する技術に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信の需要の高まりに対してさまざまな高速化手段が検討されている。有効な手段の1つは空間多重により通信路を等価的に増やす手法が挙げられ、複数のアンテナ構成を用いたMIMO通信、特にOFDM(Orthogonal Frequency Domain Multiplexing)変調と組み合わせたOFDM-MIMO方式は無線LANやLTE/5Gといった無線通信システムにおいて実用化されている(非特許文献1)。
【0003】
MIMO通信では、一般にアンテナポート間の時間同期を前提とした空間多重送受信が行われる。すなわち送信アンテナポート♯1-♯Nのサンプリングタイミングは一致しており、無線フレーム等の規則に従い、空間多重対象の信号は各アンテナポートで同一のサンプル範囲に重畳され、受信側ではMIMO検出処理を行う(非特許文献2)。
【0004】
高速化に有効なもう1つの手段として広帯域化が挙げられるが、使用可能な電波資源のひっ迫に伴い、広帯域が使用可能なRF周波数帯は高周波数化の一途にある。ベースバンド信号を実際に送信するRF周波数までアップコンバートするにあたり、IF周波数を経由したスーパーヘテロダイン方式などの伝統的手法ではアナログデバイスを多く含む。低周波数帯に比べ高周波数帯アナログデバイスは高価であることから、一般的に無線機コストは高まり、無線通信システムや特に端末装置の普及を阻害する要因となる。
【0005】
近年では、低廉な高周波数無線機の実現手段として、デジタル信号処理においてベースバンド信号をオーバーサンプリングした際に出現するエイリアス成分を適当なBPF(Band-pass filter)で抽出し、RF周波数帯の信号として送信(またその逆で受信)を行う無線機も出現している。一方、そのような低廉な無線機構成では、GSa/sクラスの高速サンプリングのDAC動作が前提となり、MIMOアンテナ構成のように複数アンテナポートからの送信(受信)を行う場合、アンテナポート間のサンプルレベルの同期が難しくなる。例えば、非特許文献3の無線機の事例では、アンテナポート間で最大±1サンプルのずれが発生する仕様となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「MIMOワイヤレス通信」,東京電機大学出版局,1.5-1.6章,2009年
【文献】S. Yang and L. Hanzo, "Fifty Years of MIMO Detection: The Road to Large-Scale MIMOs," in IEEE Communications Surveys & Tutorials, vol. 17, no. 4, pp. 1941-1988, Fourthquarter 2015, doi: 10.1109/COMST.2015.2475242.
【文献】XILINX, Zynq UltraScale+ RFSoC Data Sheet:DC and AC Switching Characteristics, DS926 (v1.8) April 6, 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、原理的にはMIMO通信において、空間フィルタリング等の信号処理により空間多重された信号を分離することができるが、アンテナポート間でサンプルレベルの同期が難しい場合、分離性能の特性劣化を招く問題がある。
【0008】
開示の技術は、アンテナポート間のサンプルレベルの同期性能を向上し、空間多重信号を適切に分離することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
開示の技術は、送信装置と受信装置とを備え、MIMO通信を行う無線通信システムであって、前記送信装置は、無線通信の信号を前記受信装置に送信し、前記受信装置は、前記送信装置のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタの最大値を示す情報を取得して、前記送信装置の前記ジッタの最大値と、前記受信装置の前記ジッタの最大値とに基づいて、前記送信装置から送信された前記信号の復調または信号等化に用いるFFT区間を決定する無線通信システムである。
【発明の効果】
【0010】
アンテナポート間のサンプルレベルの同期性能を向上し、空間多重信号を適切に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態における通信システムの構成図である。
【
図2】アンテナポート間のサンプルレベルの同期について説明するための図である。
【
図3】シンボル間干渉の発生状況について説明するための第一の図である。
【
図4】シンボル間干渉の発生状況について説明するための第二の図である。
【
図5】実施例1に係るFFT区間のオフセット方法について説明するための図である。
【
図6】実施例1に係る送信装置の構成例を示す図である。
【
図7】実施例1に係る受信装置の構成例を示す図である。
【
図8】実施例2に係る送信装置の構成例を示す図である。
【
図9】実施例2に係る受信装置の構成例を示す図である。
【
図10】実施例2に係るFFT区間のオフセット方法について説明するための図である。
【
図11】上りリンクマルチユーザMIMOにおけるFFT区間のオフセット方法について説明するための図である。
【
図12】実施例3に係る無線通信システムの構成例を示す図である。
【
図13】実施例4に係る送信装置の構成例を示す図である。
【
図14】実施例4に係るFFT区間のオフセット方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限られるわけではない。
【0013】
(システム構成)
図1は、本発明の実施の形態における通信システムの構成図である。
図1に示すように、本実施の形態における無線通信システムは、送信装置100と受信装置200を有する。
【0014】
次に、本実施形態に係るアンテナポート間のサンプルレベルの同期について、実施例1から実施例5までの例を用いて説明する。
【0015】
図2は、アンテナポート間のサンプルレベルの同期について説明するための図である。例えば、
図2に示すように各チャネルのアンテナポート間で完全に同期されている場合、特定のアンテナポート(図ではch1)に多重された時間同期用のSYNC信号(同期信号)を元に受信機側で同期をとることで、各アンテナポートの受信信号に適用するFFT(Fast Fourier Transform)区間には自シンボルのみが含まれている状況となり、すなわちシンボル間干渉は発生しない。FFT区間は、信号の復調または信号等化に用いられる区間である。なお、移動無線通信を想定したOFDM方式の場合、遅延波に起因するシンボル間干渉を抑圧するために、DATA部(データ信号)の信号波形の末尾を複製した巡回プレフィックス(CyclicPrefix)(以下、CPrefixとする)をDATA部の前に付加し、受信側でこれらを除去した上でFFTを行いサブキャリア毎の変調シンボルを取得するのが一般的である。しかし、MIMO-OFDMにおいてアンテナポート間のサンプルレベルの同期がとれていない場合、MIMOチャンネルごとにCPrefixのサンプル位置がずれるため、シンボル間干渉を引き起こす要因となる。
【0016】
図3は、シンボル間干渉の発生状況について説明するための第一の図である。
図2と同様に、特定のアンテナポート(図ではch1)にSYNC信号が多重され、受信機はこれを検出して、後続するCPrefixの始点、終点、DATA部の始点、終点を同定する。受信機は、通常動作として、CPrefixの終点をFFTの始点、すなわちDATA部の始点から終点までをFFT区間としてOFDM復調する。アンテナポート間でサンプルレベルの同期がとれていない場合、基準となる特定のアンテナポートの受信信号に比べて他のアンテナポートの受信信号が前方にシフトしていると、シンボル間干渉が発生する。
【0017】
このとき、送信機側のジッタを±ΔTx、受信機側のジッタを±ΔRxとすると、最大2(ΔTx+ΔRx)サンプルのシフトが生じる可能性がある。
【0018】
図4は、シンボル間干渉の発生状況について説明するための第二の図である。
図4に示すように、基準となるアンテナポート(ch1)が最も後方となるケースが最も厳しいシンボル間干渉が発生するケースである。
【0019】
(実施例1に係るFFT区間のオフセット方法)
図5は、実施例1に係るFFT区間のオフセット方法について説明するための図である。本実施例では、送信装置100が、アンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタの最大値を事前に把握しておく。受信装置200は送信装置100から当該情報を取得する。このとき、送信装置100側のジッタを±Δ
Tx、受信装置200側のジッタを±Δ
Rxとする。
【0020】
受信装置200は、特定のアンテナポートの同期信号等により遅延波対策用に送信装置100が挿入するCPrefixの終点を決定し、そこから少なくとも2(ΔTx+ΔRx)サンプル以上前方のCPrefixのサンプル点をFFT区間の始点として、伝送路推定、等化およびOFDM復調を行う。なお、CPrefixはDATA部の巡回シフト信号のため、位相回転はするが、シンボル間干渉(ISI:Inter Symbol Interference)が無い状態でOFDM復調可能となる。前記位相回転の影響は伝送路推定によって補償される。
【0021】
(実施例1に係る送信装置の構成例)
図6は、実施例1に係る送信装置の構成例を示す図である。送信装置100は、ビット分配回路110と、複数の送信回路120と、を備える。送信装置100が備える送信回路120の数は、送信信号の空間多重レイヤ数に対応している。各送信回路120は、伝送路推定用信号付加回路121と、m-QAM変調回路122と、周波数多重回路123と、IFFT回路124と、CyclicPrefix付加回路125と、同期信号多重回路126と、送信側同期能力情報送出回路127と、無線フレーム構成回路128と、周波数変換回路129と、を備える。
【0022】
ビット分配回路110は、入力ビットを空間多重用のn個のMIMOチャンネルに分配する。各MIMOチャンネルのm-QAM変調回路122は、サブキャリア毎のシンボルマッピングを行う。
【0023】
本実施例では、16QAMや64QAMなどの振幅多値のIQ直交変調を想定しているが、QPSK(4QAM)やBPSKなど他の変調方式でも良い。これらのデータサブキャリアのほかに、特定サブキャリアには伝送路推定用信号付加回路121より出力される伝送路推定用信号が周波数多重回路123で多重された上で、OFDM変調用のIFFT回路124が時間領域データ信号を生成する。
【0024】
続いてCyclicPrefix付加回路125は、時間領域データ信号の後半部を複写したCPrefixを時間領域データ信号の先頭に連結する。CPrefixの長さは一般的に遅延波によるシンボル間干渉対策として固定的なパラメータとして扱ってもよいが、別途制御する手段を設けても良い。
【0025】
続いて、無線フレーム構成回路128は、送信側同期能力情報送出回路127により送出される制御情報を制御情報チャネル等に埋め込む。制御情報は、送信装置100のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタの最大値(±ΔTx)を示す情報を含む。なお、ジッタの最大値(±ΔTx)を示す情報は、無線機固有の値であるため、送信装置100は、MIMO通信を実施する前の初期接続段階において1回のみ報知するようにしても良い。
【0026】
また、特定のMIMOチャンネル(たとえばch1)については同期信号多重回路126から送出される同期信号(たとえばM系列を元に生成される変調波)が無線フレームの先頭に時間多重等される。なお、前述の伝送路推定用信号を時間領域で設計する場合は、無線フレーム構成回路128が適当な場所に伝送路推定用信号を多重しても良い。
【0027】
各MIMOチャンネルの信号は、周波数変換回路129を経て、それぞれのアンテナポートから送出される。周波数変換手段としては、ベースバンド信号をオーバーサンプリングした際に出現するエイリアス成分を適当なBPFで抽出し、RF周波数帯の信号として送信する低廉な構成も取りえる。
【0028】
(実施例1に係る受信装置の構成例)
図7は、実施例1に係る受信装置の構成例を示す図である。受信装置200は、ビット混合回路210と、複数のm-QAM復調回路220と、MIMO等化回路230と、複数の受信回路240と、を備える。受信装置200が備える受信回路240の数は、受信信号の空間多重レイヤ数に対応している。各受信回路240は、伝送路推定用信号検出回路241と、FFT区間決定回路242と、無線フレーム位置検出回路243と、送信側同期能力情報検出回路244と、同期信号検出回路245と、FFT回路246と、周波数多重分離回路247と、を備える。
【0029】
同期信号が多重された特定のMIMOチャンネル(たとえばch1)の受信信号に対し、同期信号検出回路245は、スライディング相関等により既知の同期信号(たとえばM系列を元に生成される変調波)を検出する。無線フレーム位置検出回路243は、無線フレームの位置、すなわち各OFDMシンボルのCPrefixの始点・終点およびDATA部の始点・終点を決定する。
【0030】
送信側同期能力情報検出回路244は、送信装置100のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタの最大値±ΔTxを示す情報を取得する。無線フレーム位置検出回路243は、受信装置200内で共有するため、これらの情報を他のMIMOチャンネルの受信回路240に送信する。
【0031】
続いて、FFT区間決定回路242は、同定したCPrefixの終点から少なくとも2(ΔTx+ΔRx)サンプル以上前方のCPrefixのサンプル点をFFT区間の始点として、そこからFFTサイズ(2048FFTなら2048サンプル)相当のサンプル区間をFFT区間に決定する。FFT回路246は、決定されたFFT区間に基づいて、FFTを行い、サブキャリアに分解する。
【0032】
周波数多重分離回路247は、伝送路推定用信号を分離する。伝送路推定用信号検出回路241は、伝送路を示す情報を推定する。ここで、伝送路を示す情報は、空間伝搬における振幅変化・位相回転に加え、前述のFFT開始点を前方へオフセットしたことによる位相回転量も含む。
【0033】
MIMO等化回路230は、周波数多重分離回路247によって分離された各MIMOチャンネルのデータサブキャリアに、伝送路情報を用いてMIMO干渉除去・等化を行う。干渉除去・等化の方法としては、周波数領域におけるZeroForcingなどが良く知られるが、他の方法でも良い。
【0034】
また、受信装置200が備えるm-QAM復調回路220の数は、MIMO等化回路230による等化後の受信信号のMIMOチャンネルの数に相当する。各m-QAM復調回路220は、等化後の各MIMOチャンネルの信号を、ビットに変換する。ビット混合回路210は、各空間多重に分配されたビットをまとめて、出力する。
【0035】
なお、送信装置100は、受信装置200から送信装置100へのフィードバックリンクにおいて、受信装置200のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタの最大値±ΔRxを入手した上で、2(ΔTx+ΔRx)サンプル以上となるようにCPrefixを可変制御しても良く、その際は遅延波耐力も考慮した制御とすることが望ましい。すなわち、想定される遅延波の最長遅延がCpサンプルだとすれば、送信装置100は、たとえばCPrefixの長さをCp+2(ΔTx+ΔRx)サンプルとしても良い。
【0036】
本実施例では、OFDM-MIMOを想定した通信を事例に挙げたが、そのほかのブロック型の周波数領域信号処理を前提としたMIMO伝送方式にも適用可能である。たとえば、DFT-s-OFDM(DFT-spreading-OFDM)、SC-FDE(Single Carrier-Frequency Domain Equalization)などが考えられる。また、前方誤り訂正符号を組合せても良い。
【0037】
本実施例に係る各実施例では送信装置100、受信装置200ともに、n本のアンテナを用いてn空間多重を実現するn×nのMIMOを想定したが、特にこれに限らない。k本の送信アンテナ、n本の受信アンテナによるk×nのMIMOアンテナ構成にも適用可能であるし、あるいは、MIMOの一様態として考えられるUCAアンテナを用いたOAM無線多重にも適用可能である。
【0038】
ジッタの最大値±ΔTx、±ΔRxは、送信装置100および受信装置200のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すものとしたが、そのほかの要因による影響を加味した値としても良い。たとえば前述のSC-FDEでは周波数利用効率を高めるために低ロールオフ率のraised-cosine filterを帯域制限フィルタとして組み合わせる場合があるが、時間応答が長いために、後続OFDMシンボルからのシンボル間干渉が生じるようなケースでは、ジッタの前方方向の絶対値を大きくとっても良い。
【0039】
また、ジッタの最大値±ΔTx(±ΔRx)を制御情報として通知することとしているが、既知の情報として送信装置100および受信装置200が予め記憶しておいても良い。
【0040】
(実施例2)
以下に図面を参照して、実施例2について説明する。実施例2は、各MIMOチャンネルに同期信号を多重し、受信装置200が特定のアンテナポートに対する各アンテナポートの同期ずれ量を直接検出する点が、実施例1と相違する。よって、以下の実施例2の説明では、実施例1との相違点を中心に説明し、実施例1と同様の機能構成を有するものには、実施例1の説明で用いた符号と同様の符号を付与し、その説明を省略する。
【0041】
(実施例2に係る送信装置の構成例)
図8は、実施例2に係る送信装置の構成例を示す図である。本実施例に係る送信装置100の各送信回路120は、実施例1に係る送信回路120から送信側同期能力情報送出回路127を削除した構成である。
【0042】
本実施例に係る送信装置100は、各MIMOチャンネルにおいて同期信号多重回路126から送出される同期信号を無線フレームの先頭に多重する。送信装置100は、無線フレームごとに同期信号を多重するMIMOチャンネルを変える時分割処理によって単一の同期信号を各MIMOチャンネルで使いまわしても良いし、自己相関特性だけでなく相互相関特性にも優れた複数の同期信号(たとえばZadoff-Chu系列を元に生成した変調波)を各MIMOチャンネルに空間多重しても良い。
【0043】
(実施例2に係る受信装置の構成例)
図9は、実施例2に係る受信装置の構成例を示す図である。
【0044】
本実施例に係る受信装置200は、各MIMOチャンネルの無線フレーム位置検出回路243で同定した同期情報から、特定のMIMOチャンネル(たとえばch1)に対する各MIMOチャンネルのサンプルずれΔi(i=2,…,N)を算出する。FFT区間決定回路242は、最も早いタイミングで受信されたMIMOチャンネルのCPrefixの終点を、各MIMOチャンネルのFFT区間の始点として、そこからFFTサイズ(2048FFTなら2048サンプル)相当のサンプル区間をFFT区間に決定する。FFT回路246は、決定されたFFT区間に基づいて、FFTを行い、サブキャリアに分解する。
【0045】
図10は、実施例2に係るFFT区間のオフセット方法について説明するための図である。送信装置100は、各MIMOチャンネルに相互相関特性の良好な同期信号を多重する。受信装置200は、各MIMOチャンネルの無線フレームのサンプル位置を前記同期信号により検出する。これによって、最も早着となるMIMOチャンネルのCPrefixの終点をFFT区間の始点としてOFDM復調することができる。
【0046】
(実施例3)
以下に図面を参照して、実施例3について説明する。実施例3は、送信装置100が個別にジッタの最大値を受信装置200に送信する点が、実施例1と相違する。よって、以下の実施例3の説明では、実施例1との相違点を中心に説明し、実施例1と同様の機能構成を有するものには、実施例1の説明で用いた符号と同様の符号を付与し、その説明を省略する。
【0047】
本実施例に係る無線通信システムによれば、複数の端末局(送信装置100の一例)から1台の基地局(受信装置200の一例)に対する上りリンクマルチユーザMIMOに対応することができる。
【0048】
図11は、上りリンクマルチユーザMIMOにおけるFFT区間のオフセット方法について説明するための図である。セルラ型無線通信システムにおける上りリンクマルチユーザMIMOでは、原則下りリンクで同期信号の検出を行う一方で、上りリンクの同期実現のためには伝送遅延を考慮した送信タイミング制御を行うが、前述の通りアンテナポート間のサンプルレベルの同期が困難となる可能性はある。さらに、ユーザ毎に端末設計が異なるとアンテナポート間ジッタΔ
Txもユーザ毎に異なる値Δ
Tx_UEiを持つ可能性がある。
【0049】
そこで、送信装置100および受信装置200は、非MIMO通信時の制御チャネルなどを用いて、ΔTx_UEiを示す情報を共有する。
【0050】
図12は、実施例3に係る無線通信システムの構成例を示す図である。前提として、能力の異なる無線機(送信装置100の一例)が混在する場合、無線機によってアンテナポート間のサンプルずれ量(ジッタの大きさ)が異なることが考えられる。そこで、各端末局(送信局)(送信装置100の一例)から基地局(受信局)(受信装置200の一例)に対し、個別に送信装置100のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタの最大値±Δ
Tx_UEi(i=1,…,n)を通知する。なお、セルラ型無線通信システムにおいて同期信号の検出は下りリンクのみで実施し、上りリンクの同期は下りリンクの同期情報を元に送信タイミング制御により確立する設計の場合、上りリンクにおける送信装置100(端末局)は、同期信号多重回路126を備えていなくて良い。
【0051】
受信装置200は、ΔTx_UEi(i=1,…,n)の最大値、すなわちmax{ΔTx_UEi(i=1,…,n)}=ΔMAXを導出する。また、受信装置200自体のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタ±ΔRxも事前に把握しておく。FFT区間決定回路242は、特定のMIMOチャンネル(たとえばch1)で同定したCPrefixの終点に対し、少なくとも2×(ΔMAX+ΔRx)サンプル以上前方を各MIMOチャンネルのFFT区間の始点として、そこからFFTサイズ(2048FFTなら2048サンプル)相当のサンプル区間をFFT区間に決定する。FFT回路246は、決定されたFFT区間に基づいて、FFTを行い、サブキャリアに分解する。
【0052】
(実施例4)
以下に図面を参照して、実施例4について説明する。実施例4は、送信装置100がCPrefixに加えて、CyclicPostfix(CPostfix)の付加も行う点が、実施例1と相違する。よって、以下の実施例4の説明では、実施例1との相違点を中心に説明し、実施例1と同様の機能構成を有するものには、実施例1の説明で用いた符号と同様の符号を付与し、その説明を省略する。
【0053】
図13は、実施例4に係る送信装置の構成例を示す図である。本実施例に係る送信装置100の各送信回路120は、実施例1に係る各送信回路120の構成のCyclicPrefix付加回路125に代えて、CyclicPrefix/Postfix付加回路1251を備える。
【0054】
CyclicPrefix/Postfix付加回路1251は、時間領域データ信号の先頭にCPrefixを連結するのに加えて、時間領域データ信号の最後に巡回ポストフィックス(CyclicPostfix)(以下、CPostfixとする)を連結する。CyclicPrefix/Postfix付加回路1251は、受信装置200から送信装置100へのフィードバックリンクにおいて、受信装置200のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタの最大値±ΔRxを示す情報を取得した上で、CPostfixが2(ΔTx+ΔRx)サンプル以上となるよう設定または可変制御を行う。
【0055】
図14は、実施例4に係るFFT区間のオフセット方法について説明するための図である。本実施例に係るFFT区間決定回路242は、同期信号により同定したCPrefixの終点をそのままFFT区間の始点として、そこからFFTサイズ(2048FFTなら2048サンプル)相当のサンプル区間をFFT区間に決定する。FFT回路2216は、決定されたFFT区間に基づいて、FFTを行い、サブキャリアに分解する。
【0056】
本実施例ではCyclicPrefix/Postfix付加回路1251がCPrefixに加え、CPostfixの付加も行う。これによって、アンテナポート間のサンプルずれのうち、前方オフセットはCPrefixで吸収する一方で、後方オフセットはCPostfixで吸収することができる。
【0057】
また、本実施例では、受信装置200は、送信側同期能力情報検出回路244が不要である。すなわち、受信装置200は、送信装置100のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタの最大値±ΔTxを示す情報を取得しなくても良い。これは、データ信号に十分な長さのCPostfixが付加されていることによって、シンボル間干渉を回避できるためである。
【0058】
なお、実施例1から実施例4は適宜組み合わせても良い。例えば、実施例1と実施例4とを組み合わせても良い。
【0059】
この場合、送信装置100は、送信装置100のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタ±ΔTxによるシンボル間干渉を回避するため、少なくとも2ΔTxサンプルのCPostfixを付加する。一方、受信装置200は、受信装置200のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタ±ΔRxによるシンボル間干渉を回避するため、同期信号を検出する特定のMIMOチャンネルにおいて、同定したCPrefixの終点より少なくとも2ΔRxサンプル前方のサンプル点をFFT区間の始点とし、OFDM復調する。
【0060】
これによって、受信装置200から送信装置100へのフィードバックリンクで±ΔRxを示す情報を通知する処理が不要となる。なお、これはΔRxよりもCPrefixのサンプル長が十分長いことを前提としている。
【0061】
(実施の形態のまとめ)
本明細書には、少なくとも下記の各項に記載した無線通信システムおよび通信方法が記載されている。
(第1項)
送信装置と受信装置とを備え、MIMO通信を行う無線通信システムであって、
前記送信装置は、無線通信の信号を前記受信装置に送信し、
前記受信装置は、前記送信装置のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタの最大値を示す情報を取得して、前記送信装置の前記ジッタの最大値と、前記受信装置の前記ジッタの最大値とに基づいて、前記送信装置から送信された前記信号の復調または信号等化に用いるFFT区間を決定する、
無線通信システム。
(第2項)
前記送信装置は、前記信号の無線フレームにおいて、特定のMIMOチャンネルに同期信号を多重して、各MIMOチャンネルのデータ信号に巡回プレフィックスを付加し、
前記受信装置は、前記送信装置の前記ジッタの最大値ΔTxと、前記受信装置の前記ジッタの最大値ΔRxとに基づいて、前記同期信号により同定された巡回プレフィックスの終点から少なくとも2(ΔTx+ΔRx)サンプル以上前方の前記巡回プレフィックスのサンプル点を前記FFT区間の始点とする、
第1項に記載の無線通信システム。
(第3項)
前記送信装置は、前記受信装置から前記受信装置のジッタの最大値ΔRxを示す情報を取得して、前記巡回プレフィックスの長さを少なくとも2(ΔTx+ΔRx)サンプル以上とする、
第2項に記載の無線通信システム。
(第4項)
前記送信装置は、前記信号の無線フレームにおいて、各MIMOチャンネルに同期信号を多重し、前記各MIMOチャンネルのデータ信号に巡回プレフィックスを付加し、
前記受信装置は、前記各MIMOチャンネルの無線フレームのサンプル位置を前記同期信号により検出し、最も早着となるMIMOチャンネルの前記巡回プレフィックスの終点を前記FFT区間の始点とする、
第1項から第3項のいずれか1項に記載の無線通信システム。
(第5項)
前記無線通信システムは、複数の送信装置を備え、
前記複数の送信装置のそれぞれは、前記信号の無線フレームにおいて、各MIMOチャンネルのデータ信号に巡回プレフィックスを付加し、前記ジッタの最大値を示す情報を前記受信装置に送信し、
前記受信装置は、前記複数の送信装置のそれぞれから前記ジッタの最大値を示す情報を受信して、受信したそれぞれの送信装置の前記ジッタの最大値ΔMAXを導出し、前記受信装置の前記ジッタの最大値ΔRxに基づいて、前記巡回プレフィックスの終点から少なくとも2×(ΔMAX+ΔRx)サンプル以上前方を前記FFT区間の始点とする、
第1項から第4項のいずれか1項に記載の無線通信システム。
(第6項)
前記送信装置は、前記信号の無線フレームにおいて、特定のMIMOチャンネルに同期信号を多重して、各MIMOチャンネルのデータ信号に巡回プレフィックスおよび巡回ポストフィックスを付加し、
前記受信装置は、前記同期信号により同定された前記巡回プレフィックスの終点を前記FFT区間の始点とする、
第1項から第4項のいずれか1項に記載の無線通信システム。
(第7項)
前記送信装置は、前記信号の無線フレームにおいて、特定のMIMOチャンネルに同期信号を多重して、各MIMOチャンネルのデータ信号に巡回プレフィックスを付加し、前記送信装置の前記ジッタの最大値ΔTxに基づいて、少なくとも2×ΔTxサンプル以上の長さの巡回ポストフィックスを付加し、
前記受信装置は、前記同期信号により同定された前記巡回プレフィックスの終点から少なくとも2×ΔRxサンプル以上前方を前記FFT区間の始点とする、
第1項から第4項のいずれか1項に記載の無線通信システム。
(第8項)
送信装置と受信装置とを備える無線通信システムにおける通信方法であって、
前記送信装置が、無線通信の信号を前記受信装置に送信するステップと、
前記受信装置が、前記送信装置のアンテナポート間のサンプル同期能力を示すジッタの最大値を示す情報を取得して、前記送信装置の前記ジッタの最大値と、前記受信装置の前記ジッタの最大値とに基づいて、前記送信装置から送信された前記信号の復調または信号等化に用いるFFT区間を決定するステップと、を備える、
通信方法。
【0062】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
100 送信装置
110 ビット分配回路
120 送信回路
121 伝送路推定用信号付加回路
122 m-QAM変調回路
123 周波数多重回路
124 IFFT回路
125 CyclicPrefix付加回路
1251 CyclicPrefix/Postfix付加回路
126 同期信号多重回路
127 送信側同期能力情報送出回路
128 無線フレーム構成回路
129 周波数変換回路
200 受信装置
210 ビット混合回路
220 m-QAM復調回路
230 MIMO等化回路
240 受信回路
241 伝送路推定用信号検出回路
242 FFT区間決定回路
243 無線フレーム位置検出回路
244 送信側同期能力情報検出回路
245 同期信号検出回路
246 FFT回路
247 周波数多重分離回路