(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】無線通信システム、無線通信制御方法、制御装置、及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 72/0453 20230101AFI20241106BHJP
H04W 72/0446 20230101ALI20241106BHJP
H04W 8/22 20090101ALI20241106BHJP
【FI】
H04W72/0453
H04W72/0446
H04W8/22
(21)【出願番号】P 2023536268
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2021027182
(87)【国際公開番号】W WO2023002576
(87)【国際公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 笑子
(72)【発明者】
【氏名】淺井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 泰司
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】山田 知之
(72)【発明者】
【氏名】清水 芳孝
【審査官】石原 由晴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0255660(US,A1)
【文献】特開2014-011541(JP,A)
【文献】特表2007-536601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24-7/26
H04W 4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信ネットワークを構成する複数の無線通信装置と、
前記複数の無線通信装置を制御する1又は複数の制御装置と
を備え、
前記複数の無線通信装置は、基地局、第1無線端末、及び第2無線端末を含み、
前記基地局と前記第1無線端末の各々は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行うN個(Nは2以上の整数)のネットワークインタフェースコントローラを備え、
前記第2無線端末は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行うM個(MはN未満の整数)のネットワークインタフェースコントローラを備え、
前記1又は複数の制御装置は、前記基地局及び前記第1無線端末の各々において前記N個のネットワークインタフェースコントローラの使用状態を切り替えるチャネル切替処理を実行し、
前記1又は複数の制御装置は、前記基地局及び前記第1無線端末が同じチャネルのネットワークインタフェースコントローラを同じ期間に使用するように制御し、
前記第2無線端末の前記M個のネットワークインタフェースコントローラのいずれも前記同じチャネルに対応していない期間において、前記1又は複数の制御装置は、下りフレーム全般あるいは応答フレーム以外の下りフレームを前記基地局に要求しないように前記第2無線端末を制御する
無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムであって、
前記N個のネットワークインタフェースコントローラは、第1チャネルで無線通信を行う第1ネットワークインタフェースコントローラと、前記第1チャネルと異なる第2チャネルで無線通信を行う第2ネットワークインタフェースコントローラとを含み、
前記M個のネットワークインタフェースコントローラは、前記第1チャネルで無線通信を行う第1ネットワークインタフェースコントローラを含み、前記第2チャネルで無線通信を行う第2ネットワークインタフェースコントローラを含まず、
前記1又は複数の制御装置は、前記基地局及び前記第1無線端末の各々において、前記第1ネットワークインタフェースコントローラを使用する第1モードと、前記第2ネットワークインタフェースコントローラを使用する第2モードを交互に行い、
前記1又は複数の制御装置は、前記第2無線端末が前記第1ネットワークインタフェースコントローラを使用して前記基地局と通信するよう制御し、且つ、前記第2モードの期間においては前記下りフレーム全般あるいは前記応答フレーム以外の前記下りフレームを前記基地局に要求しないように前記第2無線端末を制御する
無線通信システム。
【請求項3】
請求項2に記載の無線通信システムであって、
前記1又は複数の制御装置は、前記使用するネットワークインタフェースコントローラ以外のネットワークインタフェースコントローラからの信号送信を禁止し、
前記1又は複数の制御装置は、前記第2モードの期間において前記下りフレーム全般を前記基地局に要求しないように前記第2無線端末を制御する
無線通信システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記1又は複数の制御装置は、前記使用するネットワークインタフェースコントローラ以外のネットワークインタフェースコントローラへのパケット転送を停止するよう前記基地局及び前記第1無線端末の各々を制御する
無線通信システム。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の無線通信システムであって、
前記1又は複数の制御装置は、スリープ機能あるいはアクセス制限機能に基づいて、前記使用するネットワークインタフェースコントローラ以外のネットワークインタフェースコントローラに対して送信禁止期間を設定するよう前記基地局及び前記第1無線端末の各々を制御する
無線通信システム。
【請求項6】
無線通信ネットワークを構成する複数の無線通信装置を制御する無線通信制御方法であって、
前記複数の無線通信装置は、基地局、第1無線端末、及び第2無線端末を含み、
前記基地局と前記第1無線端末の各々は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行うN個(Nは2以上の整数)のネットワークインタフェースコントローラを備え、
前記第2無線端末は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行うM個(MはN未満の整数)のネットワークインタフェースコントローラを備え、
前記無線通信制御方法は、
前記基地局及び前記第1無線端末の各々において前記N個のネットワークインタフェースコントローラの使用状態を切り替えるチャネル切替処理と、
前記基地局及び前記第1無線端末が同じチャネルのネットワークインタフェースコントローラを同じ期間に使用するように制御する処理と、
前記第2無線端末の前記M個のネットワークインタフェースコントローラのいずれも前記同じチャネルに対応していない期間において、下りフレーム全般あるいは応答フレーム以外の下りフレームを前記基地局に要求しないように前記第2無線端末を制御する処理と
を含む
無線通信制御方法。
【請求項7】
無線通信ネットワークを構成する複数の無線通信装置を制御する制御装置であって、
前記複数の無線通信装置は、基地局、第1無線端末、及び第2無線端末を含み、
前記基地局と前記第1無線端末の各々は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行うN個(Nは2以上の整数)のネットワークインタフェースコントローラを備え、
前記第2無線端末は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行うM個(MはN未満の整数)のネットワークインタフェースコントローラを備え、
前記制御装置は、プロセッサを備え、
前記プロセッサは、前記基地局及び前記第1無線端末の各々において前記N個のネットワークインタフェースコントローラの使用状態を切り替えるチャネル切替処理を実行し、
前記プロセッサは、前記基地局及び前記第1無線端末が同じチャネルのネットワークインタフェースコントローラを同じ期間に使用するように制御し、
前記第2無線端末の前記M個のネットワークインタフェースコントローラのいずれも前記同じチャネルに対応していない期間において、前記プロセッサは、下りフレーム全般あるいは応答フレーム以外の下りフレームを前記基地局に要求しないように前記第2無線端末を制御する
制御装置。
【請求項8】
コンピュータによって実行され、請求項7に記載の制御装置を前記コンピュータに実現させる制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のチャネルを切り替えて無線通信を行う無線通信システムを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
基地局及び無線端末により構成される無線通信システムが知られている。無線通信システムの代表的な例として、公衆用途の無線LAN(Local Area Network)が挙げられる。公衆用途の無線LANでは、例えば、基地局からコンピュータ端末やスマートフォン端末といった無線端末にデータを送信するユースケースが想定される。更に、近年のIoT(Internet of Things)端末の普及に伴い、無線端末側から基地局にデータを送信するユースケースが増加している。
【0003】
IoT用の無線通信に関連して、アンライセンスのSub-1GHz帯の利用が世界各国で制度化されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。日本では、920MHz帯が電子タグシステムの周波数帯として割り当てられている。例えば、アクティブ電子タグシステムとして、LoRa(登録商標)やWiSUN(登録商標)といったLPWA(Low Power Wide Area)の無線通信システムが知られている。また、無線LAN規格の一つであるIEEE 802.11ahの利用も検討されている。
【0004】
920MHz帯では周波数チャネルの数が限られているため、使用するチャネルを変更しながら無線通信を行うケースも考えられる。
【0005】
例えば、国内では、920MHz帯利用時の総送信時間に制限が設けられており、1時間あたりの総送信時間は360秒以内である必要がある。無線通信装置はこの総送信時間制限を順守するようにデータ送信を制限するため、スループットも制限される。但し、重複しない2つのチャネルを切り替えて使用する無線通信装置の筐体に対しては、1時間当たり各チャネル毎に360秒、合計で720秒までの総送信時間が許容されている。よって、スループットを向上させるために、無線通信装置の筐体が使用するチャネルを変更しながら無線通信を行うことが考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「920MHz帯テレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備 標準規格」, 一般社団法人 電波産業会, ARIB STD-T108 1.3版, 2019年4月12日
【文献】“IEEE Standard for Information technology - Telecommunications and information exchange between systems Local and metropolitan area networks - Specific requirements, Part 11: Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications, Amendment 2: Sub 1 GHz License Exempt Operation,” IEEE Computer Society, IEEE Std 802.11ah TM-2016, 7 December 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複数のチャネルを切り替えて無線通信を行う場合、チャネル切替時に無線通信装置の再起動が必要になることが多い。無線通信装置の再起動が行われる間のパケットロスや通信断は、サービス品質の低下を招く。
【0008】
本開示の1つの目的は、無線通信装置の再起動を行うことなく、複数のチャネルを切り替えて無線通信を行うことができる技術を提供することにある。
本開示の他の目的は、ネットワークインタフェースコントローラ環境が異なる複数種類の無線端末が混在する混在環境を実現することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の観点は、無線通信システムに関連する。
無線通信システムは、
無線通信ネットワークを構成する複数の無線通信装置と、
複数の無線通信装置を制御する1又は複数の制御装置と
を備える。
複数の無線通信装置は、基地局、第1無線端末、及び第2無線端末を含む。
基地局と第1無線端末の各々は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行うN個(Nは2以上の整数)のネットワークインタフェースコントローラを備える。
第2無線端末は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行うM個(MはN未満の整数)のネットワークインタフェースコントローラを備える。
1又は複数の制御装置は、基地局及び第1無線端末の各々においてN個のネットワークインタフェースコントローラの使用状態を切り替えるチャネル切替処理を実行する。
1又は複数の制御装置は、基地局及び第1無線端末が同じチャネルのネットワークインタフェースコントローラを同じ期間に使用するように制御する。
第2無線端末のM個のネットワークインタフェースコントローラのいずれも前記同じチャネルに対応していない期間において、1又は複数の制御装置は、下りフレーム全般あるいは応答フレーム以外の下りフレームを基地局に要求しないように第2無線端末を制御する。
【0010】
第2の観点は、無線通信ネットワークを構成する複数の無線通信装置を制御する無線通信制御方法に関連する。
複数の無線通信装置は、基地局、第1無線端末、及び第2無線端末を含む。
基地局と第1無線端末の各々は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行うN個(Nは2以上の整数)のネットワークインタフェースコントローラを備える。
第2無線端末は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行うM個(MはN未満の整数)のネットワークインタフェースコントローラを備える。
無線通信制御方法は、
基地局及び第1無線端末の各々においてN個のネットワークインタフェースコントローラの使用状態を切り替えるチャネル切替処理と、
基地局及び第1無線端末が同じチャネルのネットワークインタフェースコントローラを同じ期間に使用するように制御する処理と、
第2無線端末のM個のネットワークインタフェースコントローラのいずれも前記同じチャネルに対応していない期間において、下りフレーム全般あるいは応答フレーム以外の下りフレームを基地局に要求しないように第2無線端末を制御する処理と
を含む。
【0011】
第3の観点は、無線通信ネットワークを構成する複数の無線通信装置を制御する制御装置に関連する。
複数の無線通信装置は、基地局、第1無線端末、及び第2無線端末を含む。
基地局と第1無線端末の各々は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行うN個(Nは2以上の整数)のネットワークインタフェースコントローラを備える。
第2無線端末は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行うM個(MはN未満の整数)のネットワークインタフェースコントローラを備える。
制御装置は、プロセッサを備える。
プロセッサは、基地局及び第1無線端末の各々においてN個のネットワークインタフェースコントローラの使用状態を切り替えるチャネル切替処理を実行する。
プロセッサは、基地局及び第1無線端末が同じチャネルのネットワークインタフェースコントローラを同じ期間に使用するように制御する。
第2無線端末のM個のネットワークインタフェースコントローラのいずれも前記同じチャネルに対応していない期間において、プロセッサは、下りフレーム全般あるいは応答フレーム以外の下りフレームを基地局に要求しないように第2無線端末を制御する。
【0012】
第4の観点は、コンピュータによって実行される制御プログラムに関連する。制御プログラムは、上記第2の観点に係る無線通信制御方法をコンピュータに実行させる。あるいは、制御プログラムは、上記第3の観点に係る制御装置をコンピュータに実現させる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、無線通信装置の再起動を行うことなく、複数のチャネルを切り替えて無線通信を行うことが可能となる。無線通信装置の再起動が不要であるため、チャネル切替に要する時間、すなわち、通信再開までの時間が短縮される。これにより、パケットロスや通信断時間が削減され、スループットが増加する。また、サービス品質の低下も防止される。
更に、本開示によれば、ネットワークインタフェースコントローラ環境が異なる第1無線端末と第2無線端末が混在する混在環境を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の実施の形態に係る無線通信システムの構成例を概略的に示すブロック図である。
【
図2】本開示の実施の形態に係る無線通信システムにおけるチャネル切替処理(NIC切替処理)の一例を説明するための概念図である。
【
図3】本開示の実施の形態に係る無線通信装置の構成例を示すブロック図である。
【
図4】本開示の実施の形態に係る制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】本開示の実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)の第1の例を説明するためのフローチャートである。
【
図6】本開示の実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)の第1の例を説明するためのフローチャートである。
【
図7】本開示の実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)の第2の例を説明するためのフローチャートである。
【
図8】本開示の実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)の第2の例を説明するためのフローチャートである。
【
図9】本開示の実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)の第3の例を説明するためのフローチャートである。
【
図10】本開示の実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)の第3の例を説明するためのフローチャートである。
【
図11】本開示の実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)の第4の例を説明するためのフローチャートである。
【
図12】本開示の実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)の第4の例を説明するためのフローチャートである。
【
図13】本開示の実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)の第5の例を説明するためのフローチャートである。
【
図14】本開示の実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)の第5の例を説明するためのフローチャートである。
【
図15】本開示の実施の形態に係る無線通信システムにおける接続情報共有処理の一例を示すフローチャートである。
【
図16】一般的な接続処理を示すフローチャートである。
【
図17】本開示の実施の形態に係る接続処理の一例を示すフローチャートである。
【
図18】本開示の実施の形態に係る無線通信システムの他の構成例を概略的に示すブロック図である。
【
図19】本開示の実施の形態に係る無線通信システムにおけるチャネル切替処理(NIC切替処理)及び限定通信処理の一例を説明するための概念図である。
【
図20】本開示の実施の形態に係る限定通信処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付図面を参照して、本開示の実施の形態を説明する。
【0016】
1.無線通信システムの概要
図1は、本実施の形態に係る無線通信システム1の構成例を概略的に示すブロック図である。無線通信システム1は、無線通信ネットワークを構成する複数の無線通信装置10を含んでいる。
【0017】
例えば、複数の無線通信装置10は、基地局(親機)と1以上の無線端末を含んでいる。基地局と1以上の無線端末は、無線通信ネットワークを構成し、互いに無線通信を行う。例えば、無線通信システム1は無線LANシステムであり、基地局は無線LANのアクセスポイントである。アクセスポイントと1以上の無線端末とで構成されるセルは、BSS(Basic Service Set)と呼ばれる。尚、以下の説明では、簡単のため、基地局を「AP」と呼び、無線端末を「STA」と呼ぶ。
【0018】
無線通信システム1は、例えば、アンライセンスのSub-1GHz帯を利用して無線通信を行う。例えば、無線通信システム1は、920MHz帯を利用して無線通信を行う。
【0019】
本実施の形態に係る無線通信システム1は、複数のチャネル(周波数チャネル)を切り替えて無線通信を行うことができる。つまり、無線通信装置10は、複数のチャネルを切り替えて無線通信を行うことができる。無線通信装置10において使用するチャネルを切り替える処理を、以下、「チャネル切替処理」と呼ぶ。
【0020】
本実施の形態によれば、チャネル切替処理に、複数のネットワークインタフェースコントローラー(ネットワークインタフェースカード)が利用される。以下の説明では、簡単のため、ネットワークインタフェースコントローラを「NIC」と呼ぶ。複数のNICを区別するために、「NIC-i」といった枝番が用いられる。
【0021】
図1に示される例では、各無線通信装置10(AP、STA)が複数のNIC-1~NIC-Nを備えている。ここで、Nは、2以上の整数である。例えば、Nは2である。複数のNIC-1~NIC-Nは、互いに重複しない異なるチャネルCH-1~CH-Nで無線通信を行うように設定されている。よって、複数のNIC-1~NIC-Nの使用状態を切り替えることによって、無線通信に使用されるチャネルを切り替えることができる。言い換えれば、複数のNIC-1~NIC-Nのうち使用するNICを切り替えることによって、無線通信に使用されるチャネルを切り替えることができる。複数のNIC-1~NIC-Nのうち選択的に使用されるNICを、以下、「選択NIC」と呼ぶ。「選択NIC」を「使用NIC」、「アクティブNIC」、等と言い換えることもできる。チャネル切替処理は、複数のNIC-1~NIC-Nの間で選択NICを切り替える「NIC切替処理」であると言うこともできる。
【0022】
本実施の形態に係る無線通信システム1は、更に、複数の無線通信装置10(AP、STA)を制御する1又は複数の制御装置100を含んでいる。特に、1又は複数の制御装置100は、上記のチャネル切替処理(NIC切替処理)の管理及び制御を行う。
【0023】
図1に示される例では、複数の無線通信装置10のそれぞれに複数の制御装置100が接続されている。例えば、複数の制御装置100は、互いに同期して、複数の無線通信装置10のそれぞれを制御する。また、複数の制御装置100が複数の無線通信装置10のそれぞれを制御するだけでなく、単一の制御装置100が複数の無線通信装置10全体を制御することも可能である。例えば、APに接続された制御装置100が、APと各STAを制御してもよい。
【0024】
制御装置100は、必ずしも無線通信装置10の外部に接続されている必要はない。制御装置100の機能は、各無線通信装置10内に含まれていてもよい。例えば、各無線通信装置10が制御プログラムを実行することにより、制御装置100の機能が実現される。その場合は、制御プログラムを実行する無線通信装置10が制御装置100に相当する。
【0025】
以下の説明では、チャネル切替処理の管理及び制御を行う1又は複数の制御装置100や制御プログラムをまとめて「制御装置100」あるいは「制御機能」と呼ぶ。
【0026】
本実施の形態に係る制御装置100(制御機能)は、複数の無線通信装置10の各々において複数のNIC-1~NIC-Nの使用状態を切り替えるチャネル切替処理を実行する。言い換えれば、制御装置100(制御機能)は、複数の無線通信装置10の各々における選択NICを複数のNIC-1~NIC-Nの間で切り替えるチャネル切替処理を実行する。更に、制御装置100は、複数の無線通信装置10が同じチャネルの選択NICを同じ期間に使用するように、複数の無線通信装置10を一括して制御する。複数の無線通信装置10を一括して制御することにより、チャネル切替処理を効率的に実行することが可能である。
【0027】
図2は、本実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)の一例を説明するための概念図である。APは、第1チャネルCH-1で無線通信を行うNIC-1と、第1チャネルCH-1と異なる第2チャネルCH-2で無線通信を行うNIC-2を備えている。STAも同様に、第1チャネルCH-1で無線通信を行うNIC-1と、第1チャネルCH-1と異なる第2チャネルCH-2で無線通信を行うNIC-2を備えている。
【0028】
時刻t1s~時刻t1eの第1期間において、制御装置100は、第1モードの設定を行う。具体的には、制御装置100は、APとSTAの各々においてNIC-1を選択NICとして設定する。APとSTAは、BSS-1を構成し、共にNIC-1を用いて無線通信を行う。また、制御装置100は、APとSTAの各々において、選択NIC(NIC-1)以外のNIC-2を使用したデータ送信を原則的に禁止する。つまり、選択NIC以外のNIC-2にとって、時刻t1s~時刻t1eの第1期間は「送信禁止期間」となる。送信禁止期間では、データ受信は可能であるが、データ送信が禁止される。変形例として、送信禁止期間においても、特定の無線フレーム(例:上りフレームの受信に応答する応答フレーム(ACK))の送信だけは許容されてもよい。
【0029】
時刻t2s~時刻t2eの第2期間において、制御装置100は、第2モードの設定を行う。具体的には、制御装置100は、APとSTAの各々においてNIC-2を選択NICとして設定する。APとSTAは、BSS-2を構成し、共にNIC-2を用いて無線通信を行う。また、制御装置100は、APとSTAの各々において、選択NIC(NIC-2)以外のNIC-1を使用したデータ送信を原則的に禁止する。つまり、選択NIC以外のNIC-1にとって、時刻t2s~時刻t2eの第2期間は「送信禁止期間」となる。送信禁止期間では、データ受信は可能であるが、データ送信が禁止される。変形例として、送信禁止期間においても、特定の無線フレーム(例:上りフレームの受信に応答する応答フレーム(ACK))の送信だけは許容されてもよい。
【0030】
尚、第1モードと第2モードとの間の期間(時刻t1e~時刻t2s)では、モジュールスイッチイング等が行われる。
【0031】
制御装置100は、第1モードの設定と第2モードの設定を交互に行い、それにより選択NIC(使用チャネル)を切り替える。言い換えれば、制御装置100は、データ送信時間が重複しないようにNIC-1とNIC-2を切り替える。制御装置100は、データ送信時間が重複しないようにBSS-1とBSS-2を切り替えているということもできる。
【0032】
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、複数の無線通信装置10の各々は、互いに重複しない異なるチャネルで無線通信を行う複数のNIC-1~NIC-Nを備える。制御装置100は、各無線通信装置10における選択NICを複数のNIC-1~NIC-Nの間で切り替えるチャネル切替処理を実行する。更に、制御装置100は、複数の無線通信装置10が同じチャネルの選択NICを同じ期間に使用するように制御する。
【0033】
NICの切り替えに、無線通信装置10の再起動は不要である。従って、無線通信装置10の再起動を行うことなく、複数のチャネルを切り替えて無線通信を行うことが可能となる。無線通信装置10の再起動が不要であるため、チャネル切替に要する時間、すなわち、通信再開までの時間が短縮される。これにより、パケットロスや通信断時間が削減され、スループットが増加する。また、サービス品質の低下も防止される。
【0034】
尚、上位レイヤ間の通信としては、例えば、マルチパスTCPのような複数通信路の仮想化技術を複数NICに適用することが考えられる。トランスポート層においてパケットロスの補完が可能であり、サービス品質を維持することが可能である。
【0035】
2.構成例
図3は、本実施の形態に係る無線通信装置10(AP、STA)の構成例を示すブロック図である。無線通信装置10は、1又は複数のプロセッサ11、1又は複数の記憶装置12、有線NIC、及び複数の無線NIC(NIC-1~NIC-N)を備えている。
【0036】
プロセッサ11は、各種情報処理を行う。例えば、プロセッサ11は、CPU(Central Processing Unit)を含んでいる。記憶装置12は、プロセッサ11による処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置12としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、等が例示される。
【0037】
制御プログラム13は、プロセッサ11(コンピュータ)によって実行されるコンピュータプログラムである。プロセッサ11が制御プログラム13を実行することにより、無線通信装置10の機能が実現される。制御プログラム13は、記憶装置12に格納される。制御プログラム13は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。制御プログラム13は、ネットワーク経由で無線通信装置10に提供されてもよい。尚、制御プログラム13を実行するプロセッサ11は、無線通信装置10を制御する制御装置100に相当する。
【0038】
管理情報14は、少なくとも、上述のチャネル切替処理の管理及び制御に用いられる情報を含む。例えば、管理情報14は、各NICに関する、ネットワーク識別子(BSSID)、チャネル、切替タイミング、等を含む。管理情報14は、NIC毎の総送信時間を含んでいてもよい。管理情報14は、記憶装置12に格納される。
【0039】
更に、無線通信装置10は、外部から操作するためのインタフェース15を備えていてもよい。例えば、インタフェース15は、外部の制御装置100と接続される。インタフェース15は、ユーザインタフェースを含んでいてもよい。
【0040】
更に、無線通信装置10は、チャネル切替(NIC切替)のタイミングを管理するためのタイマ16を備えていてもよい。
【0041】
図4は、本実施の形態に係る制御装置100の構成例を示すブロック図である。制御装置100は、1又は複数のプロセッサ110及び1又は複数の記憶装置120を備えている。
【0042】
プロセッサ110は、各種情報処理を行う。例えば、プロセッサ110は、CPUを含んでいる。記憶装置120は、プロセッサ110による処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置120としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD、SSD、等が例示される。
【0043】
制御プログラム130は、プロセッサ110(コンピュータ)によって実行されるコンピュータプログラムである。プロセッサ110が制御プログラム130を実行することにより、制御装置100の機能が実現される。制御プログラム130は、記憶装置120に格納される。制御プログラム130は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。制御プログラム130は、ネットワーク経由で制御装置100に提供されてもよい。
【0044】
管理情報140は、上述のチャネル切替処理の管理及び制御に用いられる情報を含む。例えば、管理情報140は、各無線通信装置10の各NICに関する、ネットワーク識別子(BSSID)、チャネル、切替タイミング、等を含む。管理情報140は、NIC毎の総送信時間を含んでいてもよい。管理情報140は、記憶装置120に格納される。
【0045】
更に、制御装置100は、インタフェース150を備えていてもよい。例えば、インタフェース150は、無線通信装置10と接続される。インタフェース150は、ユーザインタフェースを含んでいてもよい。
【0046】
更に、制御装置100は、チャネル切替(NIC切替)のタイミングを管理するためのタイマ160を備えていてもよい。
【0047】
3.チャネル切替処理の様々な例
以下、本実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)の様々な例について説明する。
【0048】
3-1.第1の例
チャネル切替処理の第1の例では、制御装置100は、上位レイヤから選択NIC以外のNICへのパケット転送を停止するよう各無線通信装置10(AP,STA)を制御する。以下、
図5及び
図6を参照して、チャネル切替処理の第1の例を説明する。
【0049】
図5は、制御装置100(制御機能)による処理フローを示している。
【0050】
ステップS110において、制御装置100(例:AP側の制御装置100)は、管理情報140に基づいてNIC切替タイミングを認識する。NIC切替タイミングにおいて、制御装置100は、NIC切替指示(チャネル切替指示)をAP及び各STAに送信する。NIC切替指示は、少なくとも、「休止対象NIC」へのパケット転送を停止するよう指示する。ここで、休止対象NICは、NIC切替タイミングの前に使用されていた選択NICであり、NIC切替タイミング後には送信禁止期間に入る。
【0051】
ステップS111において、制御装置100は、NIC切替指示に対する応答を全ての無線通信装置10から受信したか否かを判定する。ステップS112において、制御装置100は、まだ応答を受信していない無線通信装置10に対してNIC切替指示を再度送信する。
【0052】
尚、STAの台数が非常に多い場合は、全てのSTAへの指示(通知)完了までの時間を考慮して、前もってNIC切替指示を発出してもよい。あるいは、STAの台数が非常に多い場合には、NIC切替タイミングを予め決めておき、BSSの立ち上げ時にNIC切替タイミングを予め通知してもよい。
【0053】
図6は、各無線通信装置10(AP,STA)による処理フローを示している。
【0054】
ステップS10において、無線通信装置10は、制御装置100からNIC切替指示を受信する。NIC切替指示に応答して、無線通信装置10は、上位レイヤから休止対象NICへのパケット転送を停止する。ここで、上位レイヤは、NICよりも上位のレイヤであり、トランスポート層やアプリケーション層が例示される。そのような上位レイヤからの宛先を制御することによって、休止対象NICへのパケット転送を停止することができる。他の例として、無線LANコントローラに備わっているTime Fairnessを制御する機能を応用して、休止対象NICに割り当てられるパケットを制限してもよい。
【0055】
ステップS11において、APは、休止対象NICからのビーコンフレームの送信を停止する。通常、ビーコンフレームは、上位レイヤからのパケット転送が無い場合にも送信される。本例では、送信禁止期間の間は、そのようなビーコンフレームの送信も停止させる。例えば、ビーコン送信間隔の設定値が十分に大きな値に設定される。
【0056】
ステップS12において、無線通信装置10は、制御装置100に応答を返す。
【0057】
ステップS13において、無線通信装置10は、休止対象NICの無線モジュールの送信キュー内に残っているパケットを送信するために、設定時間だけ待機する。例えば、送信キューが200パケット分の容量を有し、1パケットの送信時間が10msである場合、待機時間は2秒に設定される。残存パケット量が送信キュー容量未満である場合、待機時間はより短い時間に設定されてもよい。
【0058】
但し、一部のSTAのパケット通信のために全てのSTAが待機すると、全体の通信効率が低下する。また、送信キュー内の状況をリアルタイムで正確に把握することは困難である。よって、設定時間経過後、無線通信装置10は、休止対象NICの送信キュー内の残存パケットを破棄する(ステップS14)。
【0059】
ステップS15において、無線通信装置10は、上位レイヤから次に使用される選択NICへのパケット転送を開始する。そして、無線通信装置10は、選択NICを用いて通信を開始する。
【0060】
尚、STAは、最初にAPにassociationした状態を維持する。そのために、STAは、BSSMaxIdlePeriod(BSS不在により接続関係をタイムアウトしない時間)を、送信禁止期間よりも十分長い時間に設定する。例えば、30分に一回NIC切り替えが行われる場合、十分長い時間は数時間である。これにより、BSSでの通信が長時間なくても、APとの接続関係を維持することができる。定期的なチャネル切替ではない場合には、BSSMaxIdlePeriodを長期(例えば数年)に設定してもよい。IEEE 802.11ahではUSF(Unified Scaling Factor)が存在し、長期(最大数年)の接続関係維持が可能である。
【0061】
3-2.第2の例
チャネル切替処理の第2の例では、制御装置100は、選択NIC以外のNICの動作を停止させるよう各無線通信装置10(AP,STA)を制御する。以下、
図7及び
図8を参照して、チャネル切替処理の第2の例を説明する。
【0062】
図7は、制御装置100(制御機能)による処理フローを示している。
【0063】
ステップS120において、制御装置100(例:AP側の制御装置100)は、管理情報140に基づいてNIC切替タイミングを認識する。NIC切替タイミングにおいて、制御装置100は、NIC切替指示(チャネル切替指示)をAP及び各STAに送信する。このステップS120は、第1の例におけるステップS110と同様である。
【0064】
ステップS121において、制御装置100は、NIC切替指示に対する応答を全ての無線通信装置10から受信したか否かを判定する。ステップS122において、制御装置100は、まだ応答を受信していない無線通信装置10に対してNIC切替指示を再度送信する。
【0065】
図8は、各無線通信装置10(AP,STA)による処理フローを示している。
【0066】
ステップS20において、無線通信装置10は、制御装置100からNIC切替指示を受信する。NIC切替指示に応答して、無線通信装置10は、上位レイヤから休止対象NICへのパケット転送を停止する。このステップS20は、第1の例におけるステップS10と同様である。
【0067】
ステップS21において、無線通信装置10は、制御装置100に応答を返す。
【0068】
ステップS22において、無線通信装置10は、休止対象NICの無線モジュールの送信キュー内に残っているパケットを送信するために、設定時間だけ待機する。このステップS22は、第1の例におけるステップS13と同様である。
【0069】
設定時間経過後、無線通信装置10は、休止対象NICの動作を停止させる(ステップS23)。停止状態は、一時的なスリープ状態でもよいし、完全なOFF状態でもよい。
【0070】
ステップS24において、無線通信装置10は、次に使用される予定のNICを起動する。起動されたNICが選択NICである。
【0071】
ステップS25において、AP及びSTAは、新しいチャネルで互いに接続処理を行う。そして、AP及びSTAは、上位レイヤから選択NICへのパケット転送を開始し、選択NICを用いて通信を開始する。
【0072】
3-3.第3の例
チャネル切替処理の第3の例は、上記の第2の例の変形例である。第3の例では、次のチャネルへの接続タイミングが明示的に指定される。以下、
図9及び
図10を参照して、チャネル切替処理の第3の例を説明する。
【0073】
図9は、制御装置100(制御機能)による処理フローを示している。
【0074】
ステップS130において、制御装置100(例:AP側の制御装置100)は、管理情報140に基づいてNIC切替タイミングを認識する。NIC切替タイミングにおいて、制御装置100は、NIC切替指示(チャネル切替指示)をAP及び各STAに送信する。更に、制御装置100は、次のチャネルへの接続タイミングのスケジュールをAP及び各STAに通知する。
【0075】
ステップS131において、制御装置100は、NIC切替指示に対する応答を全ての無線通信装置10から受信したか否かを判定する。ステップS132において、制御装置100は、まだ応答を受信していない無線通信装置10に対してNIC切替指示を再度送信する。
【0076】
図10は、各無線通信装置10(AP,STA)による処理フローを示している。
【0077】
ステップS30において、無線通信装置10は、制御装置100からNIC切替指示を受信する。NIC切替指示に応答して、無線通信装置10は、上位レイヤから休止対象NICへのパケット転送を停止する。このステップS20は、第1の例におけるステップS10と同様である。
【0078】
ステップS31において、無線通信装置10は、制御装置100に応答を返す。
【0079】
ステップS32において、無線通信装置10は、休止対象NICの無線モジュールの送信キュー内に残っているパケットを送信するために、設定時間だけ待機する。このステップS32は、第1の例におけるステップS13と同様である。
【0080】
設定時間経過後、無線通信装置10は、休止対象NICの動作を停止させる(ステップS33)。停止状態は、一時的なスリープ状態でもよいし、完全なOFF状態でもよい。
【0081】
ステップS34において、無線通信装置10は、次に使用される予定のNICを起動する。起動されたNICが選択NICである。このとき、APは、次に使用される予定のNICをステルスモードで起動する。ステルスモードでは、APは自身のBSSIDをビーコンフレームで周辺に通知しない。ステルスモードを利用することによって、フレーム間衝突を軽減し、また、予定にないSTAからの接続を回避することができる。
【0082】
ステップS35において、STAは、制御装置100から通知された接続タイミングで、APに対する接続処理を開始する。
【0083】
全てのスケジュールされた接続処理が完了すると、APはステルスモードを解除する。そして、AP及びSTAは、上位レイヤから選択NICへのパケット転送を開始し、選択NICを用いて通信を開始する(ステップS36)。
【0084】
3-4.第4の例
チャネル切替処理の第4の例では、TWT(Target Wake Time)が利用される。TWTは、APとSTAとの間でスリープ期間をあらかじめ交渉しておき、そのスリープ期間では通信を停止する技術であり、それにより省電力化やフレーム衝突回避が期待できる。制御装置100は、TWTに基づいて、選択NIC以外のNICに対してスリープ期間(送信禁止期間)を設定するよう各無線通信装置10(AP,STA)を制御することができる。
【0085】
TWTには、Implicit TWTとExplicit TWTの二種類がある。Implicit TWTは、スケジュールがあらかじめ決まっている方式である。一方、Explict TWTは、都度スケジュールを通知する方式である。第4の例では、Implicit TWTが利用される。以下、
図11及び
図12を参照して、チャネル切替処理の第4の例を説明する。
【0086】
図11は、制御装置100(制御機能)による処理フローを示している。
【0087】
AP起動時、制御装置100(例:AP側の制御装置100)は、予め決められたチャネル切替スケジュールに基づいて、各チャネルのNICに対するスリープ期間を決定する(ステップS140)。そして、制御装置100は、決定した各NICのスリープ期間をAPに通知する(ステップS141)。
【0088】
図12は、各無線通信装置10(AP,STA)による処理フローを示している。
【0089】
ステップS40において、APは、制御装置100から受信した通知に基づいて、各チャネル(NIC)の送信時間が重複しないようにImplicit TWT期間を設定する。また、APは、Implicit TWT期間を各STAに通知する。TWT期間の通知方法(AP-STA間の交渉方法)としては、個別の端末毎の交渉とブロードキャストで交渉する方法があり、いずれか対応可能な方法が用いられる。
【0090】
ステップS41において、各STAは、APから受信した通知に基づいて、各チャネルのNICに対してImplicit TWT期間を設定する。
【0091】
ステップS42において、APは、スリープ期間に入るNICからのビーコンフレームの送信を停止するよう設定する。例えば、ビーコン送信間隔の設定値が十分に大きな値に設定される。
【0092】
ステップS43において、APは、スリープ期間にSTAが誤って送信要求を送ってきた場合に拒否応答を返すよう設定する。
【0093】
尚、利用可能な機能はTWTに限られない。他のスリープ機能や、RAW(Restricted Access Window)等のアクセス制限機能が利用されてもよい。一般化すれば、制御装置100は、無線通信システム1のスリープ機能あるいはアクセス制限機能に基づいて、選択NIC以外のNICに対して送信禁止期間を設定するよう各無線通信装置10(AP,STA)を制御する。
【0094】
3-5.第5の例
チャネル切替処理の第5の例では、Explicit TWTが利用される。以下、
図13及び
図14を参照して、チャネル切替処理の第5の例について説明する。
【0095】
図13は、制御装置100(制御機能)による処理フローを示している。
【0096】
ステップS150において、制御装置100(例:AP側の制御装置100)は、管理情報140に基づいてNIC切替タイミングを認識する。NIC切替タイミングにおいて、制御装置100は、NIC切替指示(チャネル切替指示)をAP及び各STAに送信する。更に、制御装置100は、休止対象NICのスリープ期間を決定し、休止対象NICのスリープ期間をAPに通知する。
【0097】
ステップS151において、制御装置100は、NIC切替指示に対する応答を全ての無線通信装置10から受信したか否かを判定する。ステップS152において、制御装置100は、まだ応答を受信していない無線通信装置10に対してNIC切替指示を再度送信する。
【0098】
図14は、各無線通信装置10(AP,STA)による処理フローを示している。
【0099】
ステップS50において、無線通信装置10は、制御装置100からNIC切替指示を受信する。NIC切替指示に応答して、無線通信装置10は、上位レイヤから休止対象NICへのパケット転送を停止する。このステップS50は、第1の例におけるステップS10と同様である。
【0100】
ステップS51において、無線通信装置10は、制御装置100に応答を返す。
【0101】
ステップS52において、APは、制御装置100から受信した通知に基づいて、各チャネル(NIC)の送信時間が重複しないようにExplicit TWT期間を設定する。また、APは、Explicit TWT期間を各STAに通知する。TWT期間の通知方法(AP-STA間の交渉方法)としては、個別の端末毎の交渉とブロードキャストで交渉する方法があり、いずれか対応可能な方法が用いられる。
【0102】
ステップS53において、各STAは、APから受信した通知に基づいて、各チャネルのNICに対してExplicit TWT期間を設定する。
【0103】
ステップS54において、APは、スリープ期間に入るNICからのビーコンフレームの送信を停止するよう設定する。例えば、ビーコン送信間隔の設定値が十分に大きな値に設定される。
【0104】
ステップS55において、APは、スリープ期間にSTAが誤って送信要求を送ってきた場合に拒否応答を返すよう設定する。
【0105】
4.チャネル切替処理に伴う接続処理時間の短縮
以下、チャネル切替処理に伴う接続処理時間を短縮するための方法を説明する。
【0106】
チャネル切替処理の前に、制御装置100は、「接続情報共有処理」を実行するよう複数の無線通信装置10を制御する。より詳細には、制御装置100は、複数のNICの各々に関する接続情報を予め共有するよう複数の無線通信装置10を制御する。例えば、各NICに関する接続情報は、当該NICの切替タイミング、ネットワーク識別子(例:BSSID)、割り当てられているチャネルを含む。そして、複数の無線通信装置10は、予め取得した接続情報に基づいて、選択NICを介して互いに接続する接続処理を実行する。
【0107】
このように、各NICに関する接続情報がチャネル切替処理の前に共有されるため、チャネル切替時の接続処理に要する時間が短縮される。特に、あるSTAがAPに初めて接続した後、そのSTAにおいて初めてチャネル切替処理が行われる際の接続処理に要する時間が短縮される。その結果、チャネル切替に要する時間が短縮され、サービス品質が向上する。
【0108】
図15は、接続情報共有処理の一例を示すフローチャートである。
【0109】
APに初めて接続する新STAについて考える。APに初めて接続する新STAについては、まず、通常の接続手順が実施される(ステップS60)。このとき、APが現在使用している選択NICと同じチャネルのNICが選択NICとして使用される。
【0110】
接続処理の完了後、APは、新STAに問い合わせ通信を行う。この問い合わせ通信時、APは、新STAのNIC環境の情報を取得する(ステップS61)。NIC環境は、STAが備えているNICの数を含んでいる。NIC環境は、STAが本実施の形態に係るチャネル切替処理に対応しているか否かを含んでいてもよい。例えば、STAが組み込みLinux(登録商標)のような汎用ネットワークコマンドを使用可能な場合、ifconfigなどのコマンドを用いることによってNIC環境を取得することができる。他の例として、新STAが、APからの問い合わせに応答して、自身のNIC環境の情報を作成し、APに返してもよい。
【0111】
続くステップS62において、APは、新STAのNIC数がAPのNIC数以上か否かを判定する。言い換えれば、APは、新STAのNIC数がAPのNIC数に対して不足しているか否かを判定する。新STAのNIC数がAPのNIC数以上である場合、つまり、新STAのNIC数がAPのNIC数に対して不足していない場合(ステップS62;Yes)、処理は、ステップS63に進む。一方、新STAのNIC数がAPのNIC数に対して不足している場合(ステップS62;No)、処理は、ステップS64に進む。
【0112】
ステップS63において、APは、APが備える各NICに関する接続情報を新STAに通知する。例えば、各NICに関する接続情報は、当該NICの切替タイミング、ネットワーク識別子(例:BSSID)、割り当てられているチャネルを含む。
【0113】
ステップS64において、APは、不足がある旨を示すエラーメッセージを制御装置100に送信する。
【0114】
尚、ステップS62及びステップS64は省略されてもよい。
【0115】
図16は、比較例として、一般的な接続処理を示している。まず、STAは、接続先APのSSIDを含むビーコンを検出するまで、全てのチャネルをスキャンする(ステップS1)。その後、APとSTAは、Probe Request/Responseフレームを交換し(ステップS2)、Association Request/Responseフレームを交換し(ステップS3)、Authentication Request/Responseフレームを交換する(ステップS4)。更に、通信保護のため、APとSTAは、Extensible Authentication Protocolによりセキュリティ情報を交換する(ステップS5)。その後、DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)によりIPアドレスを割り当てて、通信可能な状態にする(ステップS6)。
【0116】
図17は、本実施の形態に係る接続処理の一例を示すフローチャートである。例えば、接続情報が次に使用されるNICのチャネル情報を含む場合、チャネルのスキャンは不要であり、ステップS1を省略することができる。また、NICが同じ場合、Probe情報の交換は不要であり、ステップS2を省略することができる。セキュリティ情報を予め交換することにより、ステップS5を省略することもできる。
【0117】
Association Request/Responseフレームの内容を予め交換することによって、ステップS3を省略し、接続処理を更に早めることもできる。
【0118】
また、
図16で示された比較例の場合、接続処理の段階ではまだ伝送レートの調整ができないため、無線フレームの伝送速度としては最も低いレートが使用される。一方、本実施の形態によれば、最適なレートを予め通知することによって、接続処理における情報伝送時間を短縮することもできる。
【0119】
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、各NICに関する接続情報がチャネル切替処理の前に共有されるため、チャネル切替時の接続処理に要する時間が短縮される。特に、あるSTAがAPに初めて接続した後、そのSTAにおいて初めてチャネル切替処理が行われる際の接続処理に要する時間が短縮される。その結果、チャネル切替に要する時間が短縮され、サービス品質が向上する。
【0120】
5.混在環境への対処
全てのSTAが本実施の形態に係るチャネル切替処理(NIC切替処理)に対応できるとは限らない。例えば、あるSTAのNIC数がAPのNIC数に対して不足している場合、そのNICはチャネル切替処理に常に追従することができるとは限らない。
【0121】
本実施の形態に係るチャネル切替処理に完全に対応することができる無線端末(第1無線端末)を、以下、「STA-X」と呼ぶ。一方、本実施の形態に係るチャネル切替処理に必ずしも対応することができない無線端末(第2無線端末)を、以下、「STA-Y」と呼ぶ。以下、無線通信システム1がSTA-XとSTA-Yの両方を含む混在環境の場合の処理について説明する。
【0122】
図18は、混在環境の場合の無線通信システム1の構成例を概略的に示すブロック図である。既出の
図1と重複する説明は適宜省略する。無線通信システム1は、無線通信ネットワークを構成する複数の無線通信装置10を含んでいる。複数の無線通信装置10は、AP、1以上のSTA-X、及び1以上のSTA-Yを含んでいる。AP及びSTA-Xは、NIC-1~NIC-Nを備えている。ここで、Nは、2以上の整数である。一方、STA-Yは、NIC-1~NIC-Mを備えている。ここで、Mは、N未満の整数である(M<N)。例えば、Nが2であり、Mが1である場合、STA-Xは複数チャネル無線端末であり、STA-Yは単一チャネル無線端末である。
【0123】
図19は、混在環境の場合のチャネル切替処理の一例を説明するための概念図である。既出の
図2と重複する説明は適宜省略する。APとSTA-Xは、第1チャネルCH-1で無線通信を行うNIC-1と、第1チャネルCH-1と異なる第2チャネルCH-2で無線通信を行うNIC-2を備えている。一方、STA-Yは、第1チャネルCH-1で無線通信を行うNIC-1は備えているが、第2チャネルCH-2で無線通信を行うNIC-2を備えていない。
【0124】
APとSTA-Xに対しては、上述のチャネル切替処理(セクション1、セクション3参照)が実施される。
【0125】
時刻t1s~時刻t1eの第1期間において、制御装置100は、第1モードの設定を行う。具体的には、制御装置100は、APとSTA-Xの各々において、NIC-1を選択NICとして設定する。NIC-2は、送信禁止期間に入る。
【0126】
時刻t2s~時刻t2eの第2期間において、制御装置100は、第2モードの設定を行う。具体的には、制御装置100は、APとSTA-Xの各々において、NIC-2を選択NICとして設定する。NIC-1は、送信禁止期間に入る。
【0127】
尚、送信禁止期間では、データ受信は可能であるが、データ送信が禁止される。変形例として、送信禁止期間においても、特定の無線フレーム(例:上りフレームの受信に応答する応答フレーム(ACK))の送信だけは許容されてもよい。例えば、総送信時間の制限の中にACK送信時間が含まれない場合、ACKの送信が許容されてもよい。
【0128】
一方、STA-Yについては次の通りである。
【0129】
制御装置100は、STA-YがNIC-1を使用してAPと通信するよう制御する。言い換えれば、制御装置100は、NIC-1をSTA-Yの選択NICとして設定する。時刻t1s~時刻t1eの第1期間では、APもNIC-1を選択NICとして使用しているため、APとSTA-Yは第1チャネルCH-1で互いに通信を行うことができる。
【0130】
しかしながら、時刻t2s~時刻t2eの第2期間において通信に使用されるチャネルは、第2チャネルCH-2である。STA-Yは、第2チャネルCH-2のNIC-2を備えていないため、第2チャネルCH-2で通信を行うことができない。かといって、第2期間においてSTA-Yの通信を完全に停止させると、通信効率が低下する。
【0131】
そこで、本実施の形態によれば、制御装置100は、第2期間において「限定通信処理」を実行するようSTA-Yを制御する。具体的には、制御装置100は、第2期間においてもNIC-1を使用してデータ送信を継続するようSTA-Yを制御する。但し、第2期間は、AP側のNIC-1の送信禁止期間に相当する。よって、制御装置100は、第2期間においては下りフレーム全般をAPに要求しないようにSTA-Yを制御する。例えば、STA-Yは、“NO ACK”のポリシーで上りフレームをAPに送信する。
【0132】
あるいは、送信禁止期間においてもACKの送信が許容されている場合、制御装置100は、ACKは要求するがACK以外の下りフレームをAPに要求しないようにSTA-Yを制御してもよい。
【0133】
一般化すれば、STA-Yが備えるNIC-1~NIC-MのいずれもAPにおける選択NICと同じチャネルに対応していない期間において、制御装置100は、限定通信処理を実行するようSTA-Yを制御する。限定通信処理において、STA-Yは、下りフレーム全般あるいはACK以外の下りフレームをAPに要求しない。
【0134】
図20は、限定通信処理を説明するためのフローチャートである。制御装置100は、NIC切替指示をSTA-Yを含む各STAに送信するとする(セクション3、
図5、
図7、
図9、
図13参照)。STA-Yは、制御装置100からNIC切替指示を受信する(ステップS70)。STA-Yが対応していないNICへの切替指示の場合、STA-Yは、使用するNICを切り替えない。その代わり、STA-Yは、下りフレーム全般あるいはACK以外の下りフレームをAPに要求しないよう設定する(ステップS71)。そして、STA-Yは、制御装置100に応答を返す(ステップS72)。
【0135】
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、STA-XとSTA-Yが混在する混在環境を実現することが可能となる。また、AP側のNICが送信禁止期間に入っていても、STA-Yに限定通信処理を実行させることによって、STA-Yの通信を継続し、通信効率を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0136】
1…無線通信システム, 10…無線通信装置, 11…プロセッサ, 12…記憶装置, 13…制御プログラム, 14…管理情報, 15…インタフェース, 16…タイマ, 100…制御装置, 110…プロセッサ, 120…記憶装置, 130…制御プログラム, 140…管理情報, 150…インタフェース, 160…タイマ, AP…基地局, NIC…ネットワークインタフェースコントローラ, STA…無線端末, STA-X…第1無線端末, STA-Y…第2無線端末