IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-伝送空間再現方法及び伝送空間再現装置 図1
  • 特許-伝送空間再現方法及び伝送空間再現装置 図2
  • 特許-伝送空間再現方法及び伝送空間再現装置 図3
  • 特許-伝送空間再現方法及び伝送空間再現装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】伝送空間再現方法及び伝送空間再現装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/14 20150101AFI20241106BHJP
【FI】
H04B17/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023539400
(86)(22)【出願日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2021028657
(87)【国際公開番号】W WO2023012876
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 諒太郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】小川 智明
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0252318(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0337738(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0084601(US,A1)
【文献】FAN Wei et al.,A Step Toward 5G in 2020:Low-cost OTA performance evaluation of massive MIMO base stations.,IEEE Antennas and Propagation Magazine(Volume:59, Issue:1, Feb. 2017),IEEE,2016年12月26日,pp.38-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝搬特性を再現するために用いる反響室内のパラメータを順次に変更しながらシミュレーションを行うことによって前記反響室内の伝搬特性を算出する伝搬特性算出工程と、
算出したパラメータに対し、実際に測定された伝搬特性及びパラメータを用いて機械学習を行うことによって学習モデルを作成する機械学習工程と、
作成した学習モデルを用いて、再現すべき伝搬特性に対応するパラメータを生成するパラメータ生成工程と、
生成したパラメータに基づいてチャネルエミュレータを制御することにより、前記反響室内に再現すべき伝搬特性を備えた伝送空間を形成する処理を実行する再現実行工程と
を含むことを特徴とする伝送空間再現方法。
【請求項2】
前記伝搬特性算出工程では、
前記反響室内に備えられた電波を反射させるときに到来波の位相を制御可能な動的反射板のパラメータをさらに変更しながらシミュレーションを行うことによって前記反響室内の伝搬特性を算出すること
を特徴とする請求項1に記載の伝送空間再現方法。
【請求項3】
伝搬特性を再現するために用いる反響室内のパラメータを順次に変更しながらシミュレーションを行うことによって前記反響室内の伝搬特性を算出する伝搬特性算出部と、
前記伝搬特性算出部が算出したパラメータに対し、実際に測定された伝搬特性及びパラメータを用いて機械学習を行うことによって学習モデルを作成する機械学習部と、
前記機械学習部が作成した学習モデルを用いて、再現すべき伝搬特性に対応するパラメータを生成するパラメータ生成部と、
前記パラメータ生成部が生成したパラメータに基づいてチャネルエミュレータを制御することにより、前記反響室内に再現すべき伝搬特性を備えた伝送空間を形成する処理を実行する再現実行部と
を有することを特徴とする伝送空間再現装置。
【請求項4】
前記伝搬特性算出部は、
前記反響室内に備えられた電波を反射させるときに到来波の位相を制御可能な動的反射板のパラメータをさらに変更しながらシミュレーションを行うことによって前記反響室内の伝搬特性を算出すること
を特徴とする請求項3に記載の伝送空間再現装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送空間再現方法及び伝送空間再現装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線端末の特性を評価する場合には、有線ケーブルを用いて部品が個別に評価されてきた。例えば、アンテナ素子の特性評価を行う場合には、アンテナ素子を有線結合していた。
【0003】
しかし、無線端末は、ミリ波帯の電波を用いたり、高周波化してきており、小型化・一体化してきている。また、アンテナ素子などは、小型化して適合するコネクタが存在しないことがあり、有線結合による評価が困難となっている。また、有線結合による試験ができる場合にも、煩雑で時間がかかるなどの問題がある。
【0004】
また、Massive MIMOが適用される場合などには、複数のアンテナを並べて伝搬環境を再現することが考えられるが、使用するアンテナ数が非常に多くなるため、理想的な構成を実現しようとするとコストがかかってしまうという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、無線端末の特性評価を行う空間となる反響室内に反射物を設置し、統計的な伝搬モデルを再現することが検討されている。
【0006】
例えば、非特許文献1には、モバイルステーションのパフォーマンス評価方法として、MPAC(Multiple-Probe Anechoic Chamber Method)や、RC(Reverberation Chamber Methods)が開示されている。
【0007】
MPACでは、複数のアンテナを並べることにより、伝搬環境を再現するが、使用するアンテナ数が非常に多く、理想的な構成にはコストがかかる。RCでは、電波が反響する空間(反響室)に撹拌板などの反射物を設置することにより、統計的な伝搬モデルを再現する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Ya Jing, Hongwei Kong, Moray Rumney, “MIMO OTA test for a mobile station performance evaluation”, IEEE Instrumentation & Measurement Magazine, Volume: 19, Issue: 3, June 2016, pp.43-50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来は、マルチパス環境を再現して、レイリーフェージングのような統計的な伝搬モデルを再現することはできても、周辺にも無線セルが存在するような環境を模擬したクラスタモデルなどの任意の方向から電波が到来するような環境を再現することはできないという問題があった。
【0010】
本発明は、上述した課題を鑑みてなされたものであり、伝送空間を容易に再現することを可能にする伝送空間再現方法及び伝送空間再現装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態にかかる伝送空間再現方法は、伝搬特性を再現するために用いる反響室内のパラメータを順次に変更しながらシミュレーションを行うことによって前記反響室内の伝搬特性を算出する伝搬特性算出工程と、算出したパラメータに対し、実際に測定された伝搬特性及びパラメータを用いて機械学習を行うことによって学習モデルを作成する機械学習工程と、作成した学習モデルを用いて、再現すべき伝搬特性に対応するパラメータを生成するパラメータ生成工程と、生成したパラメータに基づいてチャネルエミュレータを制御することにより、前記反響室内に再現すべき伝搬特性を備えた伝送空間を形成する処理を実行する再現実行工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一実施形態にかかる伝送空間再現装置は、伝搬特性を再現するために用いる反響室内のパラメータを順次に変更しながらシミュレーションを行うことによって前記反響室内の伝搬特性を算出する伝搬特性算出部と、前記伝搬特性算出部が算出したパラメータに対し、実際に測定された伝搬特性及びパラメータを用いて機械学習を行うことによって学習モデルを作成する機械学習部と、前記機械学習部が作成した学習モデルを用いて、再現すべき伝搬特性に対応するパラメータを生成するパラメータ生成部と、前記パラメータ生成部が生成したパラメータに基づいてチャネルエミュレータを制御することにより、前記反響室内に再現すべき伝搬特性を備えた伝送空間を形成する処理を実行する再現実行部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、伝送空間を容易に再現することを可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態にかかる伝送空間再現装置の構成例を示す図である。
図2】制御サーバが有する機能を例示する機能ブロック図である。
図3】反響室内に所定の再現すべき電波伝搬特性を備えた伝送空間を再現して被測定物の特性を評価する方法を示す図である。
図4】制御サーバのハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を用いて伝送空間再現方法及び伝送空間再現装置の一実施形態を説明する。図1は、一実施形態にかかる伝送空間再現装置1の構成例を示す図である。図1に示すように、伝送空間再現装置1は、反響室2、チャネルエミュレータ3、及び制御サーバ4を有する。
【0016】
反響室2は、電波を反響させる空間を構成し、サイズ及び形状を変更可能にされている。例えば、反響室2は、直方体、球体、n面体、n角形柱、又はn角錐などの形状に形成可能にされている。
【0017】
また、反響室2は、内部の空間中に被測定物20が例えば載置台21の上に置かれている。載置台21は、反響室2内における被測定物20の位置及び高さを変更することができるように構成されている。
【0018】
また、反響室2内には、例えば壁面に複数の送信アンテナ22が配置されている。送信アンテナ22は、反響室2内において、数、位置、及び種類を変更可能にされている。
【0019】
また、反響室2の壁面には、反射板23が配置されている。反射板23は、単に電波を反射させるものであってもよいし、電波を反射させるときに到来波の位相を制御可能な動的反射板(IRS:Intelligent Reflecting Surfaceなど)であってもよく、種類を変更可能にされている。また、反射板23は、電波の反射量を抑える(又は0にする)電波吸収体としての機能を備えていてもよい。
【0020】
チャネルエミュレータ3は、送信アンテナ22それぞれから電波を送信することにより、マルチパスや干渉波などを伴う電波の伝送空間を反響室2内に形成する。
【0021】
制御サーバ4は、プロセッサ及びメモリを備えたコンピュータなどであり、伝送空間再現装置1を構成する各部を制御する。
【0022】
図2は、制御サーバ4が有する機能を例示する機能ブロック図である。図2に示すように、制御サーバ4は、例えば伝搬特性算出部40、機械学習部41、パラメータ生成部42、及び再現実行部43を有する。
【0023】
伝搬特性算出部40は、例えば伝送空間再現装置1によって伝搬特性を再現するために用いる反響室2内のパラメータを順次に変更しながら、レイトレーシング法又はFDTD法(Finite-difference time-domain method)などを用いてシミュレーションを行うことにより、反響室2内の伝搬特性を算出する。
【0024】
レイトレーシング法には、レイラウンチング法及びイメージング法がある。レイラウンチング法は、送信アンテナから所定の角度ごとに離散的にレイを放射し、その軌跡を遂次追跡して、受信点付近を通過したレイを当該受信点に到達したレイとみなす手法である。イメージング法は、送受信点間を結ぶレイの反射透過経路を、反射面に対する鏡映点を求めて決定する手法である。FDTD法は、時間領域のマクスウェルの方程式を用いて電磁界解析を行う方法である。
【0025】
そして、伝搬特性算出部40は、伝搬特性と、伝搬特性を再現するために用いるパラメータを機械学習部41に対して出力する。例えば、伝搬特性は、受信電力、XPR(入射界の偏波比)、遅延時間、到来方向(水平/垂直)、遅延広がり、角度広がり、及びクラスタ数などによって示される。
【0026】
また、伝搬特性を再現するために用いる反響室2内のパラメータは、例えば反響室2の形状・大きさ・材質、送信アンテナ22による送信場所・送信信号・送信ビームの向き、及び、被測定物20による受信場所・受信信号などである。
【0027】
また、伝搬特性算出部40は、反響室2内に備えられた動的反射板である反射板23のパラメータを変更しながらシミュレーションを行うことによって反響室2内の伝搬特性を算出してもよい。
【0028】
機械学習部41は、伝搬特性算出部40から入力された伝搬特性及びパラメータに対し、実際に測定された伝搬特性及びパラメータを用いて機械学習を行うことによって学習モデルを作成し、作成した学習モデルをパラメータ生成部42に対して出力する。
【0029】
パラメータ生成部42は、再現すべき伝搬特性が入力されると、機械学習部41から入力された学習モデルを用いて、再現すべき伝搬特性に対応する各パラメータを生成し、再現実行部43に対して出力する。
【0030】
再現実行部43は、パラメータ生成部42から入力されたパラメータに基づいてチャネルエミュレータ3を制御することにより、反響室2内に再現すべき伝搬特性を備えた伝送空間を形成する処理を実行する。
【0031】
次に、反響室2内に所定の再現すべき電波伝搬特性を備えた伝送空間を再現して被測定物20の特性を評価する方法について説明する。図3は、反響室2内に所定の再現すべき電波伝搬特性を備えた伝送空間を再現して被測定物20の特性を評価する方法を示す図である。
【0032】
図3に示すように、ステップ100(S100)において、伝搬特性算出部40は、シミュレーションにより伝搬特性を算出する。
【0033】
ステップ102(S102)において、機械学習部41は、伝搬特性算出部40から入力された伝搬特性及びパラメータに対し、実際に測定された伝搬特性及びパラメータを用いて機械学習を行うことによって学習モデルを作成する。
【0034】
ステップ104(S104)において、パラメータ生成部42は、再現すべき伝搬特性が入力されると、機械学習部41から入力された学習モデルを用いて、再現すべき伝搬特性に対応する各パラメータを生成する。
【0035】
ステップ106(S106)において、再現実行部43は、パラメータ生成部42から入力されたパラメータに基づいてチャネルエミュレータ3を制御することにより、反響室2内に再現すべき伝搬特性を備えた伝送空間を形成(疑似的な伝搬環境を再現)する処理を実行する。
【0036】
つまり、S100~S106の処理が実行されることにより、所望の伝送空間を再現することができる。
【0037】
そして、ステップ108(S108)において、伝搬特性を再現された反響室2内で被測定物20の特性評価を行う。
【0038】
このように、伝送空間再現装置1によれば、反響室2内に疑似的な伝搬環境を再現することができる。すなわち、伝送空間再現装置1は、伝送空間を容易に再現することを可能にしている。
【0039】
例えば、伝送空間再現装置1は、実環境の電波の到来方向等の伝搬特性を機械学習して、反響室2内の反射板23などの設置場所を決定することにより、反響室2内に実環境を再現することを可能にしている。
【0040】
なお、チャネルエミュレータ3及び制御サーバ4それぞれが有する各機能は、それぞれ一部又は全部がPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアによって構成されてもよいし、CPU等のプロセッサが実行するプログラムとして構成されてもよい。
【0041】
例えば、チャネルエミュレータ3及び制御サーバ4は、コンピュータとプログラムを用いて実現することができ、プログラムを記憶媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0042】
図4は、制御サーバ4のハードウェア構成例を示す図である。図4に示すように、例えば制御サーバ4は、入力部800、出力部810、通信部820、CPU830、メモリ840及びHDD850がバス860を介して接続され、コンピュータとしての機能を備える。また、制御サーバ4は、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体870との間でデータを入出力することができるようにされている。
【0043】
入力部800は、例えばキーボード及びマウス等である。出力部810は、例えばディスプレイなどの表示装置である。通信部820は、例えばネットワークインターフェースなどである。
【0044】
CPU830は、制御サーバ4を構成する各部を制御し、所定の処理等を行う。メモリ840及びHDD850は、データ等を記憶する記憶部である。
【0045】
記憶媒体870は、制御サーバ4が有する機能を実行させるプログラム等を記憶可能にされている。なお、制御サーバ4を構成するアーキテクチャは図4に示した例に限定されない。
【符号の説明】
【0046】
1・・・伝送空間再現装置、2・・・反響室、3・・・チャネルエミュレータ、4・・・制御サーバ、20・・・被測定物、21・・・載置台、22・・・送信アンテナ、23・・・反射板、40・・・伝搬特性算出部、41・・・機械学習部、42・・・パラメータ生成部、43・・・再現実行部、800・・・入力部、810・・・出力部、820・・・通信部、830・・・CPU、840・・・メモリ、850・・・HDD、860・・・バス、870・・・記憶媒体
図1
図2
図3
図4