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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04L 41/40 20220101AFI20241106BHJP
   H04L 47/70 20220101ALI20241106BHJP
   H04L 45/76 20220101ALI20241106BHJP
   H04L 45/12 20220101ALI20241106BHJP
【FI】
H04L41/40
H04L47/70
H04L45/76
H04L45/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023543504
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2021030865
(87)【国際公開番号】W WO2023026340
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】浦田 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】原田 薫明
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮太
【審査官】漆原 孝治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/157187(WO,A1)
【文献】特開2020-127108(JP,A)
【文献】浦田賢吾 ほか,トラヒック量と再生可能エネルギーの不確かさに対するロバストなVNF割当,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2021年02月25日,第120巻, 第414号,pp. 19-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 41/40
H04L 47/70
H04L 45/76
H04L 45/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想ネットワークを物理ネットワーク上に割り当てる制御装置であって、
サービスのトラヒック量の予測値と各物理ノードの電力量の予測値と前記物理ネットワークに関する情報とに基づいて、前記物理ネットワークを構成する物理リンクの使用率の最大値を表すリンク混雑率と、前記物理ネットワークを構成する物理ノードの電力消費率の最大値を表すノード電力混雑率とを最小化するように、前記仮想ネットワークを構成する仮想ノードの物理ノードへの割当又は前記仮想ノード間の経路決定を行う制御装置。
【請求項2】
仮想ネットワークを物理ネットワーク上に割り当てる制御装置が、
サービスのトラヒック量の予測値と各物理ノードの電力量の予測値と前記物理ネットワークに関する情報とに基づいて、前記物理ネットワークを構成する物理リンクの使用率の最大値を表すリンク混雑率と、前記物理ネットワークを構成する物理ノードの電力消費率の最大値を表すノード電力混雑率とを最小化するように、前記仮想ネットワークを構成する仮想ノードの物理ノードへの割当又は前記仮想ノード間の経路決定を行う制御方法。
【請求項3】
サービス提供を実現する仮想ネットワークを物理ネットワーク上に埋め込む制御装置であって、
前記サービスのトラヒック量の予測値と、前記物理ネットワークを構成する各物理ノードが使用可能な再生可能エネルギーを含む電力量の予測値とを取得する第1の取得部と、
前記物理ネットワークに関する情報を取得する第2の取得部と、
前記トラヒック量の予測値と前記電力量の予測値と前記物理ネットワークに関する情報とに基づいて、前記物理ネットワークを構成するリンクの使用率の最大値を表すリンク混雑率と、前記物理ネットワークを構成するノードの電力消費率の最大値を表すノード電力混雑率とを最小化するように、前記仮想ネットワークを構成する仮想ノードの物理ノードへの割当と前記仮想ノード間の経路決定とに関する2-stageロバスト最適化問題の最適解を算出する解算出部と、
前記最適解が表す仮想ノードの割当と経路決定とに基づいて、前記物理ネットワークに埋め込まれた仮想ネットワークを制御する制御部と、
を有する制御装置。
【請求項4】
前記リンク混雑率は、
前記物理ネットワークを構成するリンクlに対してサービスsの仮想リンクeを埋め込む割合をy e,s、サービスsにおける前記トラヒック量の予測値をλ、前記リンクlの最大容量をφとして、前記サービスs及び前記仮想リンクeに関するλ e,sの和をφで割った値の最大値であり、
前記ノード電力混雑率は、
前記物理ネットワークを構成するノードnに対してサービスsの仮想ネットワーク機能vが埋め込まれたか否かを表す変数をx v,s、サービスsの仮想ネットワーク機能vをノードnに割り当てた場合の消費電力係数をd v,s、前記ノードnが使用できる電力量の予測値をμとして、前記サービスs及び前記仮想ネットワーク機能vに関するd v,s v,sの和をμで割った値の最大値である、請求項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記トラヒック量の予測値は、前記トラヒック量のノミナル値と該ノミナル値からの偏差とで表され、
前記電力量の予測値は、前記電力量のノミナル値と該ノミナル値からの偏差とで表される、請求項又はに記載の制御装置。
【請求項6】
前記解算出部は、
Column-and-constraint generation法に基づいて、前記2-stageロバスト最適化問題をマスタープロブレムとサブプロブレムとに分解した上で、第1段階目で前記マスタープロブレムと前記サブプロブレムとを交互に解くことで、前記仮想ノードの割当に関する最適解を算出し、第2段階目で前記サブプロブレムを解くことで、前記経路決定に関する最適解を算出する、請求項乃至の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
サービス提供を実現する仮想ネットワークを物理ネットワーク上に埋め込む制御装置が、
前記サービスのトラヒック量の予測値と、前記物理ネットワークを構成する各物理ノードが使用可能な再生可能エネルギーを含む電力量の予測値とを取得する第1の取得手順と、
前記物理ネットワークに関する情報を取得する第2の取得手順と、
前記トラヒック量の予測値と前記電力量の予測値と前記物理ネットワークに関する情報とに基づいて、前記物理ネットワークを構成するリンクの使用率の最大値を表すリンク混雑率と、前記物理ネットワークを構成するノードの電力消費率の最大値を表すノード電力混雑率とを最小化するように、前記仮想ネットワークを構成する仮想ノードの物理ノードへの割当と前記仮想ノード間の経路決定とに関する2-stageロバスト最適化問題の最適解を算出する解算出手順と、
前記最適解が表す仮想ノードの割当と経路決定とに基づいて、前記物理ネットワークに埋め込まれた仮想ネットワークを制御する制御手順と、
を実行する制御方法。
【請求項8】
コンピュータを、請求項1に記載の制御装置、又は、請求項乃至の何れか一項に記載の制御装置として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、仮想化技術であるNFV(Network Function Visualization)の発展に伴い、多種多様な仮想ネットワーク資源(VR:Virtual Resource)や仮想ネットワーク機能(VNF:Virtual Network Function)を柔軟に組み合わせることで、膨大な種類のネットワークサービスの提供が可能となっている。このようなサービスの提供を実現するためには、サービス毎にVRやVNFを物理リソースに適切に割り当てる必要がある。それに加えて、End-to-Endの経路も適切に決定し、所望の通信性能(例えば、通信遅延時間等)を保証する必要がある。また、膨大なサービスを処理すると共に突発的なトラヒック量の変動に対しても対応可能とするためには、物理ネットワークを構成する各リンクの混雑を抑制し、耐久性のある仮想ネットワークを実現する必要がある。
【0003】
ところで、近年では、環境負荷を低減するために、再生可能エネルギーを導入する動きが世界的に進められている。このことは、仮想ネットワーク環境の運用においても例外ではなく、通信ネットワークに供給される電力量も再生可能エネルギーの割合が多くなっていくことが予想される。一方で、再生可能エネルギーの供給電力量は自然環境等に左右されるため、通信ネットワークが使用可能な電力量は予測誤差を含んだ予測値として取得されると想定される。すなわち、再生可能エネルギーの電力量は不確かさが存在する情報として取得されると想定される。このため、再生可能エネルギーの電力量が突発的に変動した場合であっても電力不足が発生しないように、物理ネットワークを構成する各ノードで消費される電力量に関する混雑を抑制し、耐久性のある仮想ネットワークを実現する必要がある。
【0004】
再生可能エネルギーの電力量に関する不確かさを考慮してNFV環境下でVNF割当と経路決定を行う手法が従来から提案されている。例えば、非特許文献1では、再生可能エネルギーの電力量に加えて、サービスに関するトラヒック量にも不確かさが存在するという仮定の下で、その両者に対してロバストに、通信ネットワーク全体に関する何等かの目的関数(例えば、総消費電力量等)を最小化するVNF割当とサービス経路とを決定する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】浦田賢吾,中村亮太,原田薫明,トラヒック量と再生可能エネルギーの不確かさに対するロバストなVNF割当,信学技報, vol. 120, no. 414, IN2020-57, pp. 19-24, 2021年3月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の非特許文献1ではトラヒック量や再生可能エネルギーの電力量の突発的な変動に対する仮想ネットワークの耐久性を考慮していないため、例えば、通信性能の劣化や輻輳の発生、不足電力の購入によるコスト増加、再生可能エネルギーの利用率低下による環境負荷の増大等といった問題が発生し得ると考えられる。
【0007】
したがって、仮想ネットワークの耐久性に関する何等かの指標を定義した上で、トラヒック量と再生可能エネルギーの両者の不確かさに対するロバスト性を考慮しつつ、耐久性を向上させるVNF割当と経路決定とを行う必要があると考えられる。
【0008】
本発明の一実施形態は、上記の点に鑑みてなされたもので、トラヒック量の不確かさと再生可能エネルギーの不確かさとに対してロバストで、かつ、耐久性を向上させることが可能な仮想ネットワーク制御を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、一実施形態に係る制御装置は、サービス提供を実現する仮想ネットワークを物理ネットワーク上に埋め込む制御装置であって、前記サービスのトラヒック量の予測値と、前記物理ネットワークを構成する各物理ノードが使用可能な再生可能エネルギーを含む電力量の予測値とを取得する第1の取得部と、前記物理ネットワークに関する情報を取得する第2の取得部と、前記トラヒック量の予測値と前記電力量の予測値と前記物理ネットワークに関する情報とに基づいて、前記物理ネットワークを構成するリンクの使用率の最大値を表すリンク混雑率と、前記物理ネットワークを構成するノードの電力消費率の最大値を表すノード電力混雑率とを最小化するように、前記仮想ネットワークを構成する仮想ノードの物理ノードへの割当と前記仮想ノード間の経路決定とに関する2-stageロバスト最適化問題の最適解を算出する解算出部と、前記最適解が表す仮想ノードの割当と経路決定とに基づいて、前記物理ネットワークに埋め込まれた仮想ネットワークを制御する制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
トラヒック量の不確かさと再生可能エネルギーの不確かさとに対してロバストで、かつ、耐久性を向上させることが可能な仮想ネットワーク制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】サービスの物理ネットワークへの埋め込みの一例を説明するための図である。
図2】本実施形態に係る制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】本実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示す図である。
図4】本実施形態に係る仮想ネットワーク制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図5】本実施形態に係る制御解の算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態では、トラヒック量の不確かさと再生可能エネルギーの不確かさとに対してロバストで、かつ、耐久性を向上させることが可能な仮想ネットワーク制御(VNF割当と経路決定)を実現することが可能な制御装置10について説明する。なお、以下では、仮想ネットワークと区別するため、電力を必要とする物理サーバと物理リンクで構成されるネットワークを物理ネットワークともいう。一方で、VNFを仮想ノード、VNF間の経路を仮想リンクとしたネットワークを仮想ネットワークともいう。
【0013】
本実施形態では、仮想ネットワークの耐久性に関する2つの指標を導入する。1つは、物理ネットワークを構成するリンクの使用率の最大値であり、以下、これをリンク混雑率と呼ぶ。リンク混雑率を小さくすることは、追加で処理されるサービスのトラヒックに対する許容量を大きくすることを意味する。つまり、リンク混雑率が小さければ、例えば、突発的にトラヒックが発生したとしても通信性能の劣化や輻輳の発生が生じにくいことを意味している。もう1つは、物理ネットワークを構成するノードの電力消費率の最大値であり、以下、これをノード電力混雑率と呼ぶ。ノード電力混雑率を小さくすることは、追加可能なサービスを処理する際に発生する電力消費量の許容量を大きくすることを意味する。つまり、ノード電力混雑率が小さければ、例えば、再生可能エネルギーの電力量が突発的に減少したり、突発的にサービスが追加されたりしたとしても電力不足が生じにくいことを意味している。
【0014】
以上の2つの指標を導入した上で、本実施形態に係る制御装置10は、トラヒック量の不確かさと再生可能エネルギーの不確かさとに対してロバストにノード電力混雑率とリンク混雑率を最小化する仮想ネットワーク制御を行う。
【0015】
<理論的構成>
以下、本実施形態の理論的構成について説明する。
【0016】
始点(例えば、ユーザの所在地等)及び終点(例えば、サーバの所在地等)とサービス提供の際に利用するVNF(例えば、ファイアウォール等)との組み合わせで定義される仮想ネットワークと、この仮想ネットワークにより提供されるサービスとを同一視し、N個のサービスを物理ネットワークに埋め込む問題を考える。すなわち、N個のサービスをそれぞれ提供するN個の仮想ネットワークを物理ネットワークに埋め込む問題を考える。ここで、仮想リンクは任意の数の経路に分割が可能であり、物理ノードに接続された1つ又は複数の物理リンクに任意の割合で埋め込むことができる。
【0017】
物理ネットワークのトポロジーをg(N,L)と表記し、Nは物理ノードの集合、Lは物理リンクの集合を表すものとする。また、I⊂Lを物理ノードn∈Nに流入する物理リンクの集合、O⊂Lを物理ノードn∈Nから流出する物理リンクの集合とする。また、サービスの集合をS、VNFの種類に関する集合をVとする。なお、gやN、L、S、V等はスクリプト文字(筆記体)で表記されるが、誤解が生じない限り、明細書のテキスト中では通常の文字で表記する。同様に、OやIは黒板太字(中抜き文字)で表記されるが、誤解が生じない限り、明細書のテキスト中では通常の文字で表示する。その他の筆記体や中抜き文字についても同様である。
【0018】
このとき、各サービスをg(V,E)と表記する。ただし、V⊂Vはs番目のサービスのVNF集合、Eはs番目のサービスの仮想リンク集合である。なお、Vにはサービスの始点ノードと終点ノードも含まれるものとする。
【0019】
また、s番目のサービスの仮想リンクe∈Eを互換的に(vso,v)とも表記する。ただし、vsoは仮想リンクeの始点ノード、vは仮想リンクeの終点ノードを表す。
【0020】
サービスを物理ネットワークに埋め込んだ例を図1に示す。図1に示す例では、始点→VNF1→VNF2→VNF3→終点で構成されるs番目のサービスg(V,E)と、始点→VNF2→VNF3→VNF4→終点で構成されるs'番目のサービスg(Vs',Es')とを物理ネットワークg(N,L)に埋め込んだ場合を示している。具体的には、s番目のサービスg(V,E)は、物理ノード1→物理ノード3→物理ノード4→物理ノード2→物理ノード6に埋め込まれている。同様に、s'番目のサービスg(Vs',Es')は、物理ノード3→物理ノード5→物理ノード6→物理ノード2→物理ノード4に埋め込まれている。
【0021】
s番目のサービス(以下、「サービスs」ともいう。)で発生するトラヒック量をλとする。トラヒック量λとしては、例えば、データ転送レートbps等が挙げられる。将来のVNF割当と経路決定を行う場合、トラヒック量λは何等かの予測手法による予測値として得られることが想定される。すなわち、トラヒック量λの予測値の不確かさを踏まえて、仮想ネットワークの埋め込み問題を考える必要がある。なお、トラヒック量λの予測手法としては様々な手法が考えられるが、例えば、過去のトラヒック量の時系列データから将来のトラヒック量を予測するような自己回帰モデル等の時系列モデルを構築し、この時系列モデルから将来のトラヒック量の予測値を得る手法が挙げられる。また、他にも、例えば、過去数日間のトラヒック量の平均と分散を予測値とする手法等も考えられる。
【0022】
また、各物理ノードに供給する電力源としては、再生可能エネルギーと契約電力を想定する。再生可能エネルギーの供給電力量は自然環境等に左右されるため、その予測値には不確かさが存在する。このため、各物理ノードnが使用できると予測される最大電力量μ(以下、使用最大電力量という。)にも不確かさが存在することになる。すなわち、使用最大電力量μの不確かさも踏まえて、仮想ネットワークの埋め込み問題を考える必要がある。
【0023】
そこで、以下では、トラヒック量の不確かさと再生可能エネルギーの不確かさとに対してロバストな仮想ネットワークの埋め込み問題を定式化する。その準備として、まず、トラヒック量の不確かさと各物理ノードの使用最大電力量の不確かさとを以下の多面体集合として記述する。
【0024】
【数1】
ただし、
【0025】
【数2】
はサービスsで発生するトラヒック量のノミナル値を表し、
【0026】
【数3】
は物理ノードnの使用最大電力量のノミナル値を表す。ここで、ノミナル値とは基準となる値のことを指し、例えば、平均値や中央値等の統計的指標を用いればよい。また、Δλ∈Rはサービスsで発生するトラヒック量のノミナル値からの偏差、Δμ∈Rは物理ノードnの使用最大電力量のノミナル値からの偏差であり、それぞれ不確かさを記述するパラメータである。
【0027】
上記の不確かさ集合(1)において、パラメータγλはノミナル値からどの程度偏差が存在するかを調整するパラメータである。同様に、上記の不確かさ集合(2)において、パラメータγμはノミナル値からどの程度偏差が存在するかを調整するパラメータである。これらのパラメータγλ及びγμは、不確かさ集合の大きさを規定するパラメータということもできる。
【0028】
以上の準備の下で、上記の不確かさ集合(1)と(2)でそれぞれ記述されるトラヒック量の不確かさと物理ノードの使用最大電力量の不確かさとに対して、仮想ネットワーク全体の総コストを最小化する仮想ネットワーク埋め込み問題を以下の2-stageロバスト最適化問題として定式化する。
【0029】
【数4】
ここで、x v,sはバイナリ変数であり、サービスsのVNF v∈Vを物理ノードn∈Nに割り当てる場合は1、それ以外の場合は0を取る。また、y e,s∈R(lは小文字のL)は0以上1以下を取る連続変数であり、サービスsの仮想リンクe∈Eを物理リンクl∈Lに埋め込む割合を表す。目的関数(3a)において、f(x v,s)とf(y e,s)はそれぞれ以下で定義される関数である。
【0030】
【数5】
上記のf(x v,s)はノード電力混雑率を表しており、f(y e,s)はリンク混雑率を表している。
【0031】
不等式(3b)は物理ノードの使用最大電力量に関する制約を表し、d v,sは物理ノードnにVNF v∈Vを割り当てた場合の消費電力係数である。等式(3c)は、各サービスの各VNFは1つの物理ノードにしか割り当てできないことを表している。一方で、不等式(3d)は、1つのサービスにおいて、複数のVNFを1つの物理ノードに割り当てることはできないことを意味している。この(3d)の制約条件は一見厳しいものであり、実用上の適用範囲を狭めているように思えるが、例えば、ある物理ノードに割り当てたい2つ以上のVNFの組み合わせを新たに1つのVNFとして扱うことで、2つ以上のVNFを1つの物理ノードに割り当てることが可能となる。
【0032】
また、トラヒック量λとx v,sを固定したときに取り得るy e,sの集合y(λ,x v,s)は、
【0033】
【数6】
と記述される。ここで、不等式(5b)は物理リンクに関する容量制約であり、φ(lは小文字のL)は物理リンクl∈Lの最大容量を表す。また、不等式(5c)は各サービスsを処理するのにかかる遅延時間に関する制約であり、p e,sは遅延時間係数、Tは遅延時間上限値を表す。
【0034】
(3a)~(3e)及び(5a)~(5d)で定式化される2-stageロバスト最適化問題は、2段階に分けて解が算出される。まず、第1段階目では、トラヒック量λが未知の下、使用最大電力量μが最悪となるケースのシナリオに対してノード電力混雑率f(x v,s)を最小化するようなVNF割当x v,sを決定する。第2段階目では、トラヒック量λが既知の下、リンク混雑率f(y e,s)を最小化するような仮想リンクの埋め込み割合y e,s(つまり、経路)を決定する。これにより、トラヒック量の不確かさと再生可能エネルギーの不確かとに対してロバストに、トラヒック量と再生可能エネルギーの電力量の突発的な変動に対して耐久性を持つ制御解(つまり、VNF割当x v,sと経路決定y e,s)を得ることができる。以下、具体的な求解手順について説明する。
【0035】
(3a)~(3e)及び(5a)~(5d)で定式化される2-stageロバスト最適化問題の求解アルゴリズムをC&CG(Column-and-constraint generation)法に基づいて構築する。このC&CG法は、元の問題をマスタープロブレムとサブプロブレムに分解し、それらを交互に解くことにより元の問題の解を得るアルゴリズムである。なお、以下、(3a)~(3e)をまとめて(3)とも表記する。同様に、(5a)~(5d)をまとめて(5)とも表記する。その他の式番号についても、複数の式番号をまとめて表記する場合には同様の方法を用いるものとする。
【0036】
ステップKにおけるマスタープロブレムを以下のように定義する。
【0037】
【数7】
ここで、上記の問題において、λ(k)はステップK-1までに求めたサブプロブレム(後述)の解である。また、筆記体のKは、
【0038】
【数8】
である。以降では、マスタープロブレムの最適解をx *v,s(K),r (K)とし、元の問題(3)及び(5)の最適解に対する下界をψLB(K)とする。このとき、
【0039】
【数9】
が成り立つ。マスタープロブレムで求めたx *v,s(K)はステップKにおけるサブプロブレムで利用される。また、マスタープロブレムでは、y e,s(k)も決定変数として求解することに注意する。
【0040】
次に、ステップKにおけるサブプロブレムを以下のように定義する。
【0041】
【数10】
上記の問題では、目的関数が有限の値となるような最適値(λ (K),y *e,s(K))が存在すると仮定する。すなわち、サブプロブレム(7)は、マスタープロブレムの任意の解に対して実行可能であると仮定する。なお、マスタープロブレムのある解に対してサブプロブレム(7)が実行不可能である場合には、例えば、制御装置10が仮想ネットワークの埋め込みが不可能であることを示す情報を出力するようにしてもよい。
【0042】
上記のサブプロブレム(7)はバイレベルな最適化問題で、かつ、目的関数が線形ではないため、現在の形のまま求解することは困難である。そこで、これを回避するために、まず、最大値取得関数であるf(y e,s)を線形制約に変換することで、
【0043】
【数11】
を得る。更に、サブプロブレム(7)における内側の最小化問題を双対問題に変換し、以下の単レベルの最大化問題に帰着させる。
【0044】
【数12】
ただし、
【0045】
【数13】
である。
【0046】
上記の最大化問題(9)において、π1,l,π2,l,π3,l,ξ e,s,θ e,sはそれぞれ(8)の制約条件、(5b)、(5c)、(5d)、y e,s≦1に対する双対変数を表す。最適化問題(9)はλとπ1,lの積、λとπ2,lの積が存在するため、非線形最適化問題となる。本実施形態では、主双対内点法によって最大化問題(9)を求解する。以降では、最大化問題(9)の最適解をλ (K)とし、この最適解に対応する目的関数値をQ(K)とする。このとき、元の問題(3)の最適解の上界をψUB(K)として、
【0047】
【数14】
を得る。
【0048】
上記のマスタープロブレム(6)とサブプロブレム(9)とを交互に繰り返し解くことにより、上界と下界は元の問題(3)の最適解に漸近的に収束していくことが保証されている。
【0049】
<制御装置10のハードウェア構成>
次に、本実施形態に係る制御装置10のハードウェア構成について、図2を参照しながら説明する。図2は、本実施形態に係る制御装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0050】
図2に示すように、本実施形態に係る制御装置10は一般的なコンピュータ又はコンピュータシステムのハードウェア構成で実現され、入力装置101と、表示装置102と、外部I/F103と、通信I/F104と、プロセッサ105と、メモリ装置106とを有する。これらの各ハードウェアは、それぞれがバス107により通信可能に接続される。
【0051】
入力装置101は、例えば、キーボードやマウス、タッチパネル等である。表示装置102は、例えば、ディスプレイ等である。なお、制御装置10は、例えば、入力装置101及び表示装置102のうちの少なくとも一方を有していなくてもよい。
【0052】
外部I/F103は、記録媒体103a等の外部装置とのインタフェースである。制御装置10は、外部I/F103を介して、記録媒体103aの読み取りや書き込み等を行うことができる。なお、記録媒体103aとしては、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、SDメモリカード(Secure Digital memory card)、USB(Universal Serial Bus)メモリカード等が挙げられる。
【0053】
通信I/F104は、制御装置10を通信ネットワークに接続するためのインタフェースである。プロセッサ105は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の各種演算装置である。メモリ装置106は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の各種記憶装置である。
【0054】
本実施形態に係る制御装置10は、図2に示すハードウェア構成を有することにより、後述する仮想ネットワーク制御処理を実現することができる。なお、図2に示すハードウェア構成は一例であって、制御装置10は、他のハードウェア構成を有していてもよい。例えば、制御装置10は、複数のプロセッサ105を有していてもよいし、複数のメモリ装置106を有していてもよい。
【0055】
<制御装置10の機能構成>
次に、本実施形態に係る制御装置10の機能構成について、図3を参照しながら説明する。図3は、本実施形態に係る制御装置10の機能構成の一例を示す図である。
【0056】
図3に示すように、本実施形態に係る制御装置10は、予測値収集部201と、物理ネットワーク情報収集部202と、制御解算出部203と、制御部204とを有する。これら各部は、制御装置10にインストールされた1以上のプログラムがプロセッサ105に実行させる処理により実現される。
【0057】
予測値収集部201は、各サービスのトラヒック量の予測値と、各物理ノードにおける使用最大電力量の予測値とを収集する。すなわち、予測値収集部201は、各サービスのトラヒック量のノミナル値及びその偏差と、各物理ノードにおける使用最大電力量のノミナル値及びその偏差とを取得する。
【0058】
本実施形態では、各サービスのトラヒック量の予測値と各物理ノードにおける使用最大電力量の予測値とが時系列モデルを利用した予測アルゴリズム等によって得られることを想定する。例えば、将来の1日におけるVNF割当と経路決定のスケジューリングを行う場合、予測値収集部201は、何等かの予測アルゴリズムにより、1日先までのトラヒック量の予測値と使用最大電力量の予測値とを取得する。ここで、これらの予測値は、あるサンプリング間隔の平均値及び分散であると仮定する。この場合、ノミナル値には平均値、ノミナル値の偏差には分散を設定すればよい。なお、サンプリング間隔は、例えば、1分や1時間等、VNF割当や経路決定の制御仕様に応じて予め設定された時間間隔のことである。
【0059】
なお、予測値収集部201によって収集されたノミナル値とその偏差は制御解算出部203に渡される。
【0060】
物理ネットワーク情報収集部202は、物理ネットワークのトポロジーに関する情報や各種パラメータ(例えば、消費電力係数等)を収集する。
【0061】
なお、物理ネットワーク情報収集部202によって収集された情報や各種パラメータ等は制御解算出部203に渡される。
【0062】
制御解算出部203は、予測値収集部201によって収集された情報と物理ネットワーク情報収集部202によって収集された情報とを用いて、2-stageロバスト最適化問題(3)及び(5)を求解するアルゴリズムを実行する。すなわち、制御解算出部203は、第1段階目でマスタープロブレム(6)とサブプロブレム(9)とを交互に繰り返し解くことによりVNF割当x v,sを算出した後、第2段階目でサブプロブレム(7)を解くことで経路決定y e,sを算出する。これにより、元の問題(3)及び(5)の最適な制御解を表すVNF割当x v,sと経路決定y e,sが得られる。
【0063】
ここで、制御解算出部203には、第1の問題求解部211と、第2の問題求解部212とが含まれる。第1の問題求解部211は、マスタープロブレム(6)の解を算出すると共に、元の問題(3)及び(5)の最適解の下界を算出する。第2の問題求解部212は、サブプロブレム(9)やサブプロブレム(7)の解を算出すると共に、元の問題(3)及び(5)の最適解の上界を算出する。なお、例えば、上述したスケジューリングを行う場合、制御解算出部203は、サンプリング時間間隔毎に2-stageロバスト最適化問題(3)及び(5)を分割した上で、それぞれに関して独立に求解アルゴリズムを実行すればよい。
【0064】
制御部204は、制御解算出部203で算出された制御解により仮想ネットワークを制御する。これにより、最適な制御解が表すVNF割当と経路決定が物理ネットワークに埋め込まれる(つまり、最適なVNF割当と経路決定に変更される。)。
【0065】
なお、一例として、将来の1日におけるVNF割当と経路決定のスケジューリングを行う場合について説明したが、これは適用例の1つであって、これに限られない。例えば、最適なVNF割当と経路をリアルタイムに算出し、仮想ネットワークを動的に制御する場合にも同様に適用可能である。具体的には、サンプリング点毎に各サービスのトラヒック量の予測値と各物理ノードにおける使用最大電力量の予測値とを収集できる場合には、その収集の都度、制御解算出部203で求解アルゴリズムを実行し、制御部204でVNF割当と経路を更新してもよい。
【0066】
<仮想ネットワーク制御処理>
次に、本実施形態に係る仮想ネットワーク制御処理の流れについて、図4を参照しながら説明する。図4は、本実施形態に係る仮想ネットワーク制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、埋め込み対象のサービスg(V,E)(s=1,・・・,N)は制御装置10に予め与えられているものとする。
【0067】
まず、予測値収集部201は、各サービスのトラヒック量の予測値(ノミナル値及びその偏差)と、各物理ノードにおける使用最大電力量の予測値(ノミナル値及びその偏差)とを収集する(ステップS101)。
【0068】
次に、物理ネットワーク情報収集部202は、物理ネットワークのトポロジーに関する情報や各種パラメータ(例えば、消費電力係数等)を収集する(ステップS102)。ただし、物理ネットワークのトポロジーや各種パラメータの値が前回収集した以降に変更されていない場合、本ステップは実行されなくてもよい。
【0069】
続いて、制御解算出部203は、上記のステップS101~ステップS102で収集された情報を用いて2-stageロバスト最適化問題(3)及び(5)を求解するアルゴリズムを実行し、最適な制御解を算出する(ステップS103)。なお、本ステップの詳細については後述する。
【0070】
そして、制御部204は、上記のステップS103で算出された制御解により仮想ネットワークを制御する(ステップS104)。
【0071】
ここで、上記のステップS103における制御解の算出処理の詳細について、図5を参照しながら説明する。図5は、本実施形態に係る制御解の算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0072】
まず、制御解算出部203は、ステップK=0、ψUB(0)=∞とし、初期値λ(0)を設定する(ステップS201)。なお、初期値λ(0)はΛに属する任意の値に設定すればよい。また、このとき、第1段階目の終了条件を判定するためのパラメータε>0を有限の値に設定してもよい。
【0073】
次に、制御解算出部203は、第1の問題求解部211によりマスタープロブレム(6)を求解し、最適解x *v,s(K)及びr (K)とψLB(K)を得る(ステップS202)。
【0074】
次に、制御解算出部203は、第2の問題求解部212によりサブプロブレム(9)を求解し、最適解λ (K)とψUB(K)を得る(ステップS203)。このとき、制御解算出部203は、ψUB(K)=min(ψUB(K),ψUB(K-1))によりψUB(K)を更新する。
【0075】
次に、制御解算出部203は、予め設定されたパラメータε(又は、上記のステップS201で設定されたパラメータε)を用いて、ψUB(K)-ψLB(K)≦εを満たすか否かを判定する(ステップS204)。
【0076】
上記のステップS204でψUB(K)-ψLB(K)≦εを満たすと判定されなかった場合、制御解算出部203は、ステップKに1を加算してステップKを更新し(ステップS205)、ステップS202に戻る。これにより、ψUB(K)-ψLB(K)≦εを満たすまでステップS202~ステップS203が繰り返し実行される。
【0077】
一方で、上記のステップS204でψUB(K)-ψLB(K)≦εを満たすと判定された場合、制御解算出部203は、λ (K)を固定した上で、第2の問題求解部212によりサブプロブレム(7)を求解し、最適解y *e,sを得る(ステップS206)。
【0078】
以上により最適解x *v,s(K)とy *e,sが得られ、これが元の問題(3)及び(5)の最適な制御解(最適解)となる。なお、上記のステップS206ではサブプロブレム(7)を解く必要があるが、この最適化問題は単なるy e,sに関する線形計画問題に帰着させることができるため容易に求解することが可能である。
【0079】
<まとめ>
以上のように、本実施形態に係る制御装置10は、上述した仮想ネットワーク制御処理により、トラヒック量の不確かさと再生可能エネルギーの不確かさとに対してロバストにノード電力混雑率とリンク混雑率を最小化するようなVNF割当と経路決定とが可能となる。
【0080】
上述した仮想ネットワーク制御処理では、トラヒック量や再生可能エネルギーの電力量に関する予測に不確かさが存在することを考慮してVNF割当と経路決定とを行うため、予測誤差の影響によって発生し得る通信性能の劣化や輻輳、不足電力の購入によるコスト増加、再生可能エネルギーの利用率の低下による環境負荷の増大等をロバストに防止することができる。また、これに加えて、ノード電力混雑率とリンク混雑率とを最小化するため、突発的なトラヒック量や再生可能エネルギーの電力量の変化に対して最適な耐久性を持つ仮想ネットワークを実現することができる。
【0081】
また、本実施形態に係る仮想ネットワーク制御処理(特に、制御解の算出処理)は、2-stageロバスト最適化と呼ばれる数理最適化の理論に基づいた求解アルゴリズムである。この理論では意志決定プロセスに基づいた2段階のロバスト最適化を行っており、単なるロバスト最適化よりも保守性を低減した解が得られることが知られている。このことは、トラヒック量と再生可能エネルギーの予測に誤差が存在していたとしても、通信性能の劣化や輻輳の発生を抑制すると共に不足電力の購入コストの発生や再生可能エネルギーの利用率低下を防止しつつ、保守性の低いVNF割当と経路決定が可能であることを意味している。
【0082】
本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲の記載から逸脱することなく、種々の変形や変更、既知の技術との組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0083】
10 制御装置
101 入力装置
102 表示装置
103 外部I/F
103a 記録媒体
104 通信I/F
105 プロセッサ
106 メモリ装置
107 バス
201 予測値収集部
202 物理ネットワーク情報収集部
203 制御解算出部
204 制御部
211 第1の問題求解部
212 第2の問題求解部
図1
図2
図3
図4
図5