(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】熱硬化性組成物及びその硬化物、光融解性組成物、並びに構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 59/66 20060101AFI20241106BHJP
C08G 65/48 20060101ALI20241106BHJP
C08G 75/14 20060101ALI20241106BHJP
C08G 59/38 20060101ALI20241106BHJP
G03F 7/039 20060101ALI20241106BHJP
G03F 7/32 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C08G59/66
C08G65/48
C08G75/14
C08G59/38
G03F7/039
G03F7/32
(21)【出願番号】P 2023551534
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2022035972
(87)【国際公開番号】W WO2023054373
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2021162632
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】渡部 昌仁
(72)【発明者】
【氏名】宮本 祐樹
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-515067(JP,A)
【文献】特表2021-505735(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002534(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/107486(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/037442(WO,A1)
【文献】特開2007-031526(JP,A)
【文献】特開平11-071535(JP,A)
【文献】特開2022-064484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08G 75/00-75/32
C08G 65/00-65/48
G03F 7/039
G03F 7/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジスルフィド結合を有するポリチオール化合物と、
ポリエーテル鎖を有し、かつ2個以上の環状エーテル基を有する環状エーテル化合物と、
硬化促進剤と、
光ラジカル発生剤と、
を含有する、熱硬化性組成物。
【請求項2】
前記環状エーテル化合物として、2個の環状エーテル基を有する化合物及び3個以上の環状エーテル基を有する化合物を含有する、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項3】
前記環状エーテル基がオキシラン基である、請求項
1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性組成物の硬化物。
【請求項5】
ジスルフィド結合を有するポリチオール化合物、及び、ポリエーテル鎖を有し、かつ2個以上の環状エーテル基を有する環状エーテル化合物の反応生成物と、
光ラジカル発生剤と、
を含有する、光融解性組成物。
【請求項6】
請求項4に記載
の硬化
物からなる第1の構造体の少なくとも一部に光照射する工程と、
光照射された前記第1の構造体を水系溶剤で現像することによって、第2の構造体を得る工程と、
を備える、構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の光融解性組成物からなる第1の構造体の少なくとも一部に光照射する工程と、
光照射された前記第1の構造体を水系溶剤で現像することによって、第2の構造体を得る工程と、
を備える、構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱硬化性組成物及びその硬化物、光融解性組成物、並びに構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光照射によって融解可能な光融解性組成物は、様々な用途に用いられている。例えば、特許文献1には、光融解性組成物からなる光融解性樹脂層を有する記録部材を備える画像形成装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の光融解性組成物においては、光照射で融解して生じる樹脂成分を除去するためには、有機溶剤が必要であった。しかしながら、環境面の観点、さらには、安全性、基材ダメージ等の観点から、光融解性組成物には、光照射で融解して生じる樹脂成分を水系溶剤で除去できることが求められている。光融解性組成物がこのような性質を有することによって、より広範な用途への展開が期待できる。
【0005】
そこで、本開示は、光照射によって融解可能であり、かつ光照射で融解して生じる樹脂成分を水系溶剤で除去可能な硬化物(光融解性組成物)を形成することができる熱硬化性組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、熱硬化性組成物に関する。当該熱硬化性組成物は、ジスルフィド結合を有するポリチオール化合物と、ポリエーテル鎖を有し、かつ2個以上の環状エーテル基を有する環状エーテル化合物と、硬化促進剤と、光ラジカル発生剤とを含有する。このような熱硬化性組成物によれば、光照射によって融解可能であり、かつ光照射で融解して生じる樹脂成分を水系溶剤で除去可能な硬化物(光融解性組成物)を形成することができる。
【0007】
このような効果が発現する理由は、必ずしも定かではないが、本発明者らは、以下のように考えている。まず、熱硬化性組成物は、加熱することにより、ポリチオール化合物及び環状エーテル化合物が反応して、ジスルフィド結合を有する熱硬化性組成物の硬化物を得ることができる。次いで、得られた硬化物に対して光照射することにより、光照射された部分において光ラジカル発生剤がジスルフィド結合(-S-S-)を開裂させ、低分子量化が進行し得る。このような低分子量化の進行により、当該部分の弾性率が低下して、硬化物が融解して液体(液状)となり得る。なお、光照射で融解して生じる樹脂成分は、ポリエーテル鎖又は(環状エーテル基に由来する)水酸基を多く有し、親水性を示す傾向にあると推測されることから、水系溶剤で除去することが可能となる。
【0008】
熱硬化性組成物は、硬化時間をより短縮することができ、光融解性及び水溶性をより改善できることから、環状エーテル化合物として、2個の環状エーテル基を有する化合物及び3個以上の環状エーテル基を有する化合物を含有していてもよい。
【0009】
環状エーテル基は、反応性及び入手のし易さの観点から、オキシラン基であってよい。
【0010】
本開示の他の一側面は、熱硬化性組成物の硬化物に関する。当該熱硬化性組成物の硬化物は、光融解性組成物であり得る。このような熱硬化性組成物の硬化物によれば、光照射によって融解可能であり、かつ光照射で融解して生じる樹脂成分を水系溶剤で除去可能である。
【0011】
本開示の他の一側面は、光融解性組成物に関する。当該光融解性組成物は、ジスルフィド結合を有するポリチオール化合物、及び、ポリエーテル鎖を有し、かつ2個以上の環状エーテル基を有する環状エーテル化合物の反応生成物と、光ラジカル発生剤とを含有する。このような光融解性組成物によれば、光照射によって融解可能であり、かつ光照射で融解して生じる樹脂成分を水系溶剤で除去可能である。
【0012】
本開示の他の一側面は、構造体の製造方法に関する。当該構造体の製造方法は、上記の熱硬化性組成物の硬化物又は上記の光融解性組成物からなる第1の構造体の少なくとも一部に光照射する工程と、光照射された第1の構造体を水系溶剤で現像することによって、第2の構造体を得る工程とを備える。
【0013】
本開示は、[1]~[3]に記載の熱硬化性組成物、[4]に記載の熱硬化性組成物の硬化物、[5]に記載の光融解性組成物、及び[6]に記載の構造体の製造方法を提供する。
[1]ジスルフィド結合を有するポリチオール化合物と、ポリエーテル鎖を有し、かつ2個以上の環状エーテル基を有する環状エーテル化合物と、硬化促進剤と、光ラジカル発生剤とを含有する、熱硬化性組成物。
[2]前記環状エーテル化合物として、2個の環状エーテル基を有する化合物及び3個以上の環状エーテル基を有する化合物を含有する、[1]に記載の熱硬化性組成物。
[3]前記環状エーテル基がオキシラン基である、[1]又は[2]に記載の熱硬化性組成物。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の熱硬化性組成物の硬化物。
[5]ジスルフィド結合を有するポリチオール化合物、及び、ポリエーテル鎖を有し、かつ2個以上の環状エーテル基を有する環状エーテル化合物の反応生成物と、光ラジカル発生剤とを含有する、光融解性組成物。
[6][4]に記載の熱硬化性組成物の硬化物又は[5]に記載の光融解性組成物からなる第1の構造体の少なくとも一部に光照射する工程と、光照射された前記第1の構造体を水系溶剤で現像することによって、第2の構造体を得る工程とを備える、構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、光照射によって融解可能であり、かつ光照射で融解して生じる樹脂成分を水系溶剤で除去可能な硬化物(光融解性組成物)を形成することができる熱硬化性組成物が提供される。また、本開示によれば、光照射によって融解可能であり、かつ光照射で融解して生じる樹脂成分を水系溶剤で除去可能である熱硬化性組成物の硬化物及び光融解性組成物が提供される。さらに、本開示によれば、光融解性組成物を用いた構造体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。また、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0017】
また、本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。また、例示材料は特に断らない限り、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
また、本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、AとBとのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。
【0019】
一実施形態の熱硬化性組成物は、ジスルフィド結合を有するポリチオール化合物(以下、「(A)成分」という場合がある。)と、ポリエーテル鎖を有し、かつ2個以上の環状エーテル基を有する環状エーテル化合物(以下、「(B)成分」という場合がある。)と、硬化促進剤(以下、「(C)成分」という場合がある。)と、光ラジカル発生剤(以下、「(D)成分」という場合がある。)とを含有する。
【0020】
(A)成分:ジスルフィド結合を有するポリチオール化合物
(A)成分は、ジスルフィド結合(-S-S-)を有し、かつ2個以上のチオール基(-SH)を有する化合物である。(A)成分は、例えば、2個のチオール基(-SH)を有する化合物である、ジチオール化合物であってよい。(A)成分は、ポリマー又はオリゴマーの高分子量成分であってよい。2個のチオール基(-SH)を有する化合物は、2個のチオール基と、ジスルフィド結合を含み、当該2個のチオール基を連結する基(第1の連結基)とからなる化合物と見なすことができる。
【0021】
(A)成分の分子量又は数平均分子量は、例えば、100~10000000、200~3000000、300~1000000、400~10000、又は500~5000であってよい。なお、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0022】
(A)成分は、分子内に1個又は複数個(2個以上)のジスルフィド結合を有する。(A)成分におけるジスルフィド結合の数は、例えば、1~1000、又は4~50であってよい。
【0023】
(A)成分は、直鎖状又は分岐状の分子鎖と末端基とを有し、当該分子鎖中にジスルフィド結合を有する化合物(例えば、ポリマー又はオリゴマー)であってよい。この場合、(A)成分中の末端基はチオール基であってよい。(A)成分がこのような化合物であると、優れた光融解性を有する硬化物をより一層形成し易くなる傾向にある。(A)成分中の分子鎖は、ジスルフィド結合とポリエーテル鎖とを含んでいてよく、ジスルフィド結合とポリエーテル鎖とからなっていてよい。
【0024】
(A)成分は、例えば、式(1):HS-(X-S-S)n1-X-SHで表される化合物(化合物(1))であってよい。式中、Xは、ポリエーテル鎖を示す。複数存在するXは、互いに同一であっても異なっていてもよい。n1は、1以上の整数を示す。n1は、例えば、1以上又は4以上であってよく、1000以下であってよい。(A)成分が式(1)で表される化合物である場合、-(X-S-S)n1-X-で表される基が第1の連結基である。化合物(1)を鎖延長した化合物は、例えば、化合物(1)のMichael付加物又は化合物(1)のチオウレタン化物であってよい。
【0025】
Xとしてのポリエーテル鎖は、例えば、ポリオキシアルキレン鎖であってよい。Xとしてのポリエーテル鎖は、例えば、-X1-O-X2-O-X3-で表される基であってよい。X1~X3は、それぞれ独立に、アルキレン基であってよく、炭素数1~2のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基)であってよい。Xとしてのポリエーテル鎖としては、例えば、-CH2CH2-O-CH2-O-CH2CH2-等が挙げられる。
【0026】
(A)成分の市販品としては、例えば、チオコールLPシリーズ(ジスルフィド結合を有するジチオール、東レ・ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。(A)成分は、末端に反応性官能基(例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基)と、ジスルフィド結合とを有する化合物の反応性官能基をチオール基に変換することによって得ることもできる。末端に反応性官能基と、ジスルフィド結合とを有する化合物としては、3,3’-ジチオジプロピオン酸(東京化成工業株式会社製)、ジチオジエタノール、シスタミン等が挙げられる。
【0027】
(A)成分の含有量は、熱硬化性組成物の総量を基準として、15質量%以上、25質量%以上、又は35質量%以上であってよく、80質量%以下、70質量%以下、又は60質量%以下であってよい。
【0028】
(B)成分:ポリエーテル鎖を有し、かつ2個以上の環状エーテル基を有する環状エーテル化合物
(B)成分は、ポリエーテル鎖を有し、かつ2個以上の環状エーテル基を有する化合物である。熱硬化性組成物が(B)成分を含有することにより、光照射で融解して生じる樹脂成分は、ポリエーテル鎖又は(環状エーテル基に由来する)水酸基を多く有し、親水性を示す傾向にあることから、当該樹脂成分を水系溶剤で除去することが可能となる。(B)成分は、ポリマー又はオリゴマーの高分子量成分であってよい。
【0029】
(B)成分の環状エーテル基は、環状エーテル化合物から水素原子を1個取り除いた基であり得る。(B)成分の環状エーテル基の具体例としては、オキシラン基(オキシラニル基、エポキシ基)、オキセタン基(オキセタニル基)、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。これらの中でも、環状エーテル基は、反応性及び入手のし易さの観点から、オキシラン基であってよい。すなわち、(B)成分は、ポリエーテル鎖を有し、かつ2個以上のオキシラン基(オキシラニル基、エポキシ基)を有するオキシラン化合物(エポキシ化合物)であってよい。なお、本明細書において、環状エーテル基には、環状エーテル構造(環状エーテル基を含む構造)を有する基が含まれる。例えば、オキシラン基には、グリシジル基、グリシジルエーテル基、エポキシシクロヘキシル基等のオキシラン構造(オキシラン基(オキシラニル基、エポキシ基)を含む構造)を有する基が含まれる。
【0030】
(B)成分の分子量又は数平均分子量は、例えば、100~1000000、100~500000、100~10000、150~5000、又は200~2000であってよい。なお、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0031】
(B)成分の環状エーテル基がオキシラン基(オキシラニル基、エポキシ基)である場合、(B)成分のエポキシ当量は、50~2000g/eq、80~1500g/eq、又は100~1000g/eqであってよい。
【0032】
(B)成分は、2個の環状エーテル基を有する化合物(以下、(B1)成分という場合がある。)であっても、3個以上の環状エーテル基を有する化合物(以下、(B2)成分という場合がある。)であってもよい。(B1)成分は、2個の環状エーテル基と、ポリエーテル鎖を含み、当該2個の環状エーテル基を連結する基(第2の連結基)とからなる化合物と見なすことができる。(B2)成分は、(B1)成分において、第2の連結基の側鎖又は置換基として1個以上の環状エーテル基を有する化合物であり得る。(B)成分は、硬化時間をより短縮することができ、光融解性及び水溶性をより改善できることから、(B1)成分及び(B2)成分を含んでいてもよい。
【0033】
(B1)成分は、直鎖状の分子鎖と末端基とを有し、当該分子鎖中にポリエーテル鎖を有する化合物(例えば、ポリマー又はオリゴマー)であってよい。この場合、(B1)成分中の末端基は環状エーテル基であってよい。(B)成分が(B1)成分である場合、光照射で融解して生じる樹脂成分を水系溶剤で除去し易くなる傾向にある。分子鎖としてのポリエーテル鎖は、水酸基、水酸基を有していてもよいアルキル基等の置換基を有していてもよい。(B1)成分中の分子鎖は、ポリエーテル鎖を含んでいてもよく、ポリエーテル鎖からなっていてもよい。
【0034】
(B1)成分は、例えば、式(2):Z-(Y)n2-Zで表される化合物(化合物(2))であってよい。式中、Yは、ポリエーテル鎖を示し、Zは、環状エーテル基を示す。複数存在するZは、互いに同一であっても異なっていてもよい。n2は、1以上の整数を示す。n2は、例えば、1以上又は2以上であってよく、1000以下であってよい。(B1)成分が式(2)で表される化合物である場合、-(Y)n2-で表される基が第2の連結基である。
【0035】
Yとしてのポリエーテル鎖は、例えば、ポリオキシアルキレン鎖であってよい。Yとしてのポリエーテル鎖は、例えば、-Y1-O-Y2-O-Y3-で表される基であってよい。Y1~Y3は、それぞれ独立に、アルキレン基であってよく、炭素数1~3のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基)であってよい。Yとしてのポリエーテル鎖としては、例えば、-CH2CH2-O-CH2-CH2-O-CH2CH2-等が挙げられる。
【0036】
(B1)成分の市販品としては、例えば、デナコールEXシリーズ(EX-850、EX-851、EX-821、EX-830、EX-832、EX-841、EX-861、EX-920、ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0037】
(B2)成分は、(B1)成分において、第2の連結基(Yとしてのポリエーテル鎖)の側鎖として1個以上の環状エーテル基を有する化合物であり得る。
【0038】
(B2)成分の市販品としては、例えば、デナコールEXシリーズ(EX-614B、EX-313、EX-512、EX-521、ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0039】
(B)成分((B1)成分及び(B2)成分の合計)の含有量は、熱硬化性組成物の総量を基準として、15質量%以上、25質量%以上、又は35質量%以上であってよく、80質量%以下、70質量%以下、又は60質量%以下であってよい。
【0040】
(B)成分((B1)成分及び(B2)成分の合計)の含有量に対する(B2)成分の含有量の質量比((B2)成分の含有量(質量)/(B)成分((B1)成分及び(B2)成分の合計)の含有量(質量))は、0.01~0.40であってよい。当該質量比が0.01以上であると、熱硬化性組成物の硬化時間をより短縮することができる傾向にあり、当該質量比が0.40以下であると、光融解性及び水溶性をより改善できる傾向にある。当該質量比は、0.02以上又は0.03以上であってもよく、0.35以下、0.30以下、0.25以下、0.20以下、0.15以下、0.10以下、又は0.05以下であってもよい。
【0041】
(A)成分のチオール基に対する(B)成分の環状エーテル基の当量比((B)成分の環状エーテル基/(A)成分のチオール基)は、例えば、0.5~2.5であってよい。当該当量比が0.5以上であると、熱硬化性組成物の水溶性をより改善できる傾向にあり、当該当量比が2.5以下であると、光融解性をより改善できる傾向にある。当該当量比は、0.8以上、1.0以上、1.2以上、又は1.5以上であってもよく、2.2以下又は2.0以下であってもよい。
【0042】
(C)成分:硬化促進剤
(C)成分は、(A)成分及び(B)成分の(硬化)反応を促進するための成分であり、硬化反応の触媒として機能する成分(触媒型硬化剤)が含まれる。(C)成分としては、アミン化合物、イミダゾール誘導体、4級アンモニウム塩、有機金属塩、リン化合物等が挙げられる。
【0043】
アミン化合物としては、ジシアンジアミド、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリ-n-オクチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルミアン、ジメチル-n-オクチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、ベンジルジメチルアミン、4-メチル-N,N-ジメチルベンジルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、4-ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
【0044】
イミダゾール誘導体としては、1-(1-シアノメチル)-2-エチル-4-メチル-1H-イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4,5-トリフェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-イミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール等が挙げられる。
【0045】
4級アンモニウム塩としては、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ベンジルトリブチルアンモニウムヨージド等が挙げられる。
【0046】
有機金属塩としては、ビス(2,4-ペンタンジオナト)亜鉛(II)、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、アセチルアセトン鉄、オクチル酸ニッケル、オクチル酸マンガン等の有機金属塩類などが挙げられる。
【0047】
リン化合物としては、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリス(4-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン、テトラフェニルホスホニウムジシアナミド、テトラフェニルホスホニウムテトラ(4-メチルフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0048】
(C)成分の含有量は、熱硬化性組成物の総量を基準として、0.01質量%以上、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上であってよく、10質量%以下、5質量%以下、又は2質量%以下であってよい。
【0049】
(D)成分:光ラジカル発生剤
(D)成分は、熱硬化性組成物の硬化物において、光照射によって、ラジカルを発生する成分である。(D)成分としては、光照射によって他の分子から水素を引き抜いてラジカルを生成する水素引き抜き型光ラジカル重合開始剤、光照射によってその物自体が光開裂して2つのラジカルを生成する分子内開裂型光ラジカル重合開始剤等が挙げられる。(D)成分は、(光融解)反応が進行し易いことから、分子内開裂型光ラジカル重合開始剤であってよい。
【0050】
水素引き抜き型光ラジカル発生剤としては、例えば、ヘキサアリールビスイミダゾール(HABI)化合物、ベンゾフェノン化合物、チオキサントン化合物、フルオレノン化合物、α-ジケトン化合物等が挙げられる。
【0051】
HABI化合物としては、2,2’-ビス(o-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニルビイミダゾール(例えば、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1、2’-ビイミダゾール)、2,2’-ビス(o-ブロモフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニルビイミダゾール、2,2’-ビス(o,p-ジクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニルビイミダゾール、2,2’-ビス(o-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラ(m-メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2’-ビス(o,o’-ジクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニルビイミダゾール、2,2’-ビス(o-ニトロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニルビイミダゾール、2,2’-ビス(o-メチルフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0052】
ベンゾフェノン化合物としては、4、4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4、4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0053】
チオキサントン化合物としては、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ドデシルチオキサントン、2-シクロヘキシルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、1-フェノキシチオキサントン、1-メトキシカルボニルチオキサントン、2-エトキシカルボニルチオキサントン、3-(2-メトキシエトキシカルボニル)-チオキサントン、4-ブトキシカルボニルチオキサントン、3-ブトキシカルボニル-7-メチルチオキサントン、3,4-ジ-[2-(2-メトキシエトキシ)-エトキシカルボニル]-チオキサントン、2-クロロチオキサントン、1-エトキシカルボニル-3-エトキシチオキサントン、1-エトキシカルボニル-3-クロロチオキサントン、1-クロロ-4-n-プロポキシチオキサントン、2-メチル-6-ジメトキシメチル-チオキサントン、2-メチル-6-(1,1-ジメトキシベンジル)-チオキサントン、6-エトキシカルボニル-2-メトキシ-チオキサントン、6-エトキシカルボニル-2-メチルチオキサントン、1-エトキシカルボニル-3-(1-メチル-1-モルホリノエチル)-チオキサントン、2-モルホリノメチルチオキサントン、2-メチル-6-モルホリノメチルチオキサントン、チオキサントン-2-カルボン酸ポリエチレングリコールエステル等が挙げられる。
【0054】
フルオレノン化合物としては、9-フルオレノン、3,4-ベンゾ-9-フルオレノン、2-ジメチルアミノ-9-フルオレノン、2-メトキシ-9-フルオレノン、2-クロロ-9-フルオレノン、2,7-ジクロロ-9-フルオレノン、2-ブロモ-9-フルオレノン、2,7-ジブロモ-9-フルオレノン、2-ニトロ-9-フルオレノン、2-アセトキ-9-フルオレノン等が挙げられる。
【0055】
α-ジケトン化合物としては、ベンジル(ジフェニルエタンジオン又はジベンゾイルとも称される化合物)等が挙げられる。
【0056】
分子内開裂型光ラジカル発生剤としては、ベンジルケタール系光ラジカル発生剤、α-アミノアルキルフェノン系光ラジカル発生剤、α-ヒドロキシアルキルフェノン系光ラジカル発生剤、α-ヒドロキシアセトフェノン系光ラジカル発生剤、アシルホスフィンオキシド系光ラジカル発生剤等が挙げられる。
【0057】
ベンジルケタール系光ラジカル発生剤としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(Omnirad651)等が挙げられる。
【0058】
α-アミノアルキルフェノン系光ラジカル発生剤としては、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1(Omnirad369)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(Omnirad907)、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モリフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン(Omnirad379EG)等が挙げられる。
【0059】
α-ヒドロキシアルキルフェノン系光ラジカル発生剤としては、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(Omnirad184)等が挙げられる。
【0060】
α-ヒドロキシアセトフェノン系光ラジカル発生剤としては、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(Omnirad127)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(Omnirad1173)等が挙げられる。
【0061】
アシルホスフィンオキシド系光ラジカル発生剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(OmniradTPO H)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(Omnirad819)等が挙げられる。
【0062】
(D)成分の含有量は、熱硬化性組成物の総量を基準として、1質量%以上、5質量%以上、又は10質量%以上であってよく、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってよい。
【0063】
熱硬化性組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分以外のその他の成分をさらに含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、可塑剤、タッキファイヤなどの粘着性付与剤、酸化防止剤、ロイコ染料、増感剤、カップリング剤等の密着性向上剤、重合禁止剤、光安定剤、消泡剤、フィラー、連鎖移動剤、チキソトロピー付与剤、難燃剤、離型剤、界面活性剤、滑剤、帯電防止剤などの添加剤が挙げられる。これらの添加剤は、公知のものを使用することができる。その他の成分の含有量は、熱硬化性組成物の総量を基準として、0~95質量%、0.01~50質量%、又は0.1~10質量%であってよい。
【0064】
熱硬化性組成物は、溶剤で希釈された熱硬化性組成物のワニスとして用いてもよい。溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、p-シメン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;メチルシクロヘキサン等の環状アルカン;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の環状エーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミドなどが挙げられる。ワニス中の固形分の含有量、つまり、ワニス中の溶剤以外の合計含有量は、ワニスの総量を基準として、10~95質量%、又は15~70質量%、又は20~50質量%であってよい。
【0065】
熱硬化性組成物は、例えば、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分、並びに必要に応じて添加されるその他の成分を混合又は混練する工程を備える方法によって調製することができる。混合及び混練は、通常の撹拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル、ビーズミル等の分散機を適宜、組み合わせて行うことができる。
【0066】
熱硬化性組成物は、加熱によって、熱硬化性組成物の硬化物を形成することができる。熱硬化性組成物を加熱することによって、(A)成分及び(B)成分(例えば、環状エーテル基として、グリシジルエーテル基を有する化合物)との(硬化)反応が進行する。この際に、(C)成分が反応を促進し得る。(A)成分及び(B)成分の反応生成物は、例えば、下記式で表される構造を含む化合物(重合体)であり得る。一方、(D)成分は、当該(硬化)反応に対する関与は低く、硬化物は、(A)成分及び(B)成分の反応生成物と、(D)成分とを含有し得る。
【0067】
【0068】
式中、Xは、第1の連結基を示し、Yは、第2の連結基を示す。mは1以上の整数を示す。mは、例えば、50以上、100以上、500以上、又は1000以上であってよい。*は、結合手を示す。
【0069】
熱硬化性組成物の加熱温度は、例えば、0~200℃であってよく、30~150℃又は60~100℃であってもよい。熱硬化性組成物の加熱時間は、例えば、0.1~168時間であってよく、72時間以下、24時間以下、12時間以下、6時間以下、4時間以下、3時間以下、又は2時間以下であってもよい。
【0070】
熱硬化性組成物の硬化物は、種々の形状に形成することができる。例えば、膜状(フィルム状)に形成された硬化物は、フィルムとして用いることができる。ブロック状に形成された硬化物は、ブロックとして用いることができる。膜状(フィルム状)又はブロック状の硬化物を形成する方法は、特に制限されず、公知の方法を適用することができる。
【0071】
熱硬化性組成物の硬化物は、光照射によって融解する性質を有している。光照射する際の光は、例えば、波長365nmの光を含む光であってよい。このような光を照射することによって、硬化物を融解させることができる。光照射の露光量は、例えば、1000mJ/cm2以上であってよい。本明細書において、露光量は、照度(mW/cm2)と照射時間(秒)との積を意味する。光の照射は、照射する対象に対して直接行ってもよく、ガラス等を介して行ってもよい。光照射に用いられる光源は、特に限定されず、例えば、LEDランプ、水銀ランプ(低圧、高圧、超高圧等)、メタルハライドランプ、エキシマランプ、キセノンランプ等が挙げられる。これらの中でも、光照射に用いられる光源は、LEDランプ、水銀ランプ、又はメタルハライドランプであってよい。
【0072】
熱硬化性組成物の硬化物に対して光照射することにより、硬化物中の(D)成分が、(A)成分及び(B)成分の反応生成物中のジスルフィド結合(-S-S-)を開裂させる。これによって、(A)成分及び(B)成分の反応生成物が低分子量化して、液体(液状)となり得る。熱硬化性組成物の硬化物は、光照射によって融解することから、光融解性組成物ということもできる。当該光融解性組成物は、(A)成分及び(B)成分の反応生成物と、(D)成分とを含有し得る。
【0073】
熱硬化性組成物の硬化物(光融解性組成物)に対して光照射することにより融解して生じる樹脂成分は、ポリエーテル鎖又は水酸基を多く有し、親水性を示す傾向にあることから、当該樹脂成分を水系溶剤で除去することが可能となる。水系溶剤としては、水、水と親水性有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。水と親水性有機溶媒との混合溶媒において、水の割合は、例えば、80質量%以上とすることができる。水系溶剤は、例えば、pH調整剤が添加されていてもよい。
【0074】
水としては、例えば、水道水、天然水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水(Milli-Q水等)等が挙げられる。なお、Milli-Q水とは、メルクミリポア(メルク社)のMilli-Q水製造装置により得られる超純水を意味する。水は、不純物が低減されていることから、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、又は超純水でああってよい。
【0075】
親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1,2-プロパンジオール等のアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル等が挙げられる。
【0076】
pH調整剤としては、無機酸、無機塩基、有機酸、有機塩基等が挙げられる。無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アクリル酸、安息香酸、ピコリン酸等が挙げられる。有機塩基としては、1級アミン、2級アミン、3級アミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、イミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0077】
本実施形態の熱硬化性組成物は、仮固定接着剤、医療用接着剤、易解体接着剤、リフローシート用材料、フォトレジスト用材料(アルカリレスで現像可能なフォトレジスト)、3Dプリンター用材料等の用途に用いることができる。
【0078】
一実施形態の構造体の製造方法は、上記の熱硬化性組成物の硬化物又は上記の光融解性組成物からなる第1の構造体の少なくとも一部に光照射する工程と、光照射された第1の構造体を水系溶剤で現像することによって、第2の構造体を得る工程とを備える。構造体の製造方法は、第2の構造体の製造方法である。第2の構造体は、第1の構造体から光照射された部分(一部)の熱硬化性組成物の硬化物又は光融解性組成物が除去された構造体であり、所望の形状の凹部を有する構造体であり得る。
【0079】
第1の構造体は、上記の熱硬化性組成物の硬化物又は上記の光融解性組成物を種々の形状に形成したものである。第1の構造体は、膜状(フィルム状)、ブロック状等の形状を有していてもよく、フィルム、ブロック等であってよい。第1の構造体を形成する方法は、特に制限されず、公知の方法を適用することができる。
【0080】
第1の構造体に対して光照射する際の光の種類、光照射の露光量、光の照射、光照射に用いられる光源等は、上記と同様であってよい。
【0081】
熱硬化性組成物の硬化物又は光融解性組成物においては、ポジ型のフォトレジストと同様に、現像により光照射された箇所が水系溶剤で除去され、光照射されなかった箇所が残存することから、所望の形状の凹部を形成することができる。第1の構造体に対して光照射する場合、例えば、フォトマスク等を用いることによって、所定の箇所(凹部形成箇所)に選択的に光照射することができる。
【0082】
光照射された第1の構造体を水系溶剤で現像することによって、第1の構造体から光照射された部分(一部)の熱硬化性組成物の硬化物又は光融解性組成物が除去された第2の構造体を得ることができる。水系溶剤は、上記と同様であってよい。
【0083】
第2の構造体は、所望の形状の凹部を有するフィルム、ブロック等であり得る。第2の構造体の具体例としては、半導体レジストのパターン、培養基材等が挙げられる。
【実施例】
【0084】
以下、本開示について実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0085】
下記に示す化合物を準備した。
(A)成分:
(A-1)チオコールLP-3(ジチオール化合物、東レ・ファインケミカル株式会社製)
(B)成分:
(B1)成分:
(B1-1)デナコールEX-841(オキシラン化合物、オキシラン基数:2、ナガセケムテックス株式会社製、エポキシ当量:372g/eq)
(B2)成分:
(B2-1)デナコールEX-512(オキシラン化合物、オキシラン基数:4、ナガセケムテックス株式会社製、エポキシ当量:168g/eq)
(C)成分:
(C-1)DMP-30(2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール)
(D)成分:
(D-1)Omnirad651(2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(IGM Resins B.V.社製)
【0086】
(実施例1~4及び比較例1)
[熱硬化性組成物の調製]
35mLの軟膏壺に表1に記載の成分及び量(単位:質量部)の(A)成分及び(D)成分を加え、自公転撹拌機(株式会社シンキー製、商品名:泡とり錬太郎ARE-310)を用いて2000回転/分で90秒間混合した後、90℃で15分間加熱した。冷却後、(B)成分及び(C)成分を加え、自公転撹拌機を用いて2000回転/分で90秒間撹拌して、実施例1~4及び比較例1の熱硬化性組成物を得た。
【0087】
[硬化性試験]
調製した熱硬化性組成物を90℃の恒温槽(エスペック株式会社製、商品名:STH-120)に入れ、1時間おきにスパチュラを用いて熱硬化性組成物の表面を軽くつついた。その際、スパチュラに熱硬化性組成物が付着しなくなったときから1時間後を硬化時間として、熱硬化性組成物の硬化性を評価した。結果を表1に示す。
【0088】
[フィルムの作製]
厚さ0.5mmのシリコーン製スペーサーを、離型処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム(離型PET、中本パックス株式会社製、商品名:NS-38+A-500、厚さ70μm)及びガラス板で挟んだ型枠に、調製した熱硬化性組成物を注入した。熱硬化性組成物が注入された型枠を90℃の恒温槽に入れて上記硬化性試験で求められた硬化時間(表1に記載の硬化時間)で加熱し、熱硬化性組成物の硬化物からなるフィルムを得た。
【0089】
[光融解性試験]
上記で作製したフィルムに対して、LED(メイン波長:365nm、照度:1000mW/cm2)を用いて表1に記載の露光量となるように光を照射した。照射後、離型PETを剥がし、目視による観察及びスパチュラによる触診により、光照射部位の液状化の有無を確認した。光照射部位が全て液状で固形物が全く存在しなかった場合を「A」、光照射部位がほぼ液状であったが、一部固形物残存していた場合を「B」と評価した。なお、比較例1は、光照射部位が液状化せず、固形物のままであった。結果を表1に示す。
【0090】
[光融解後の水溶性]
サンプル瓶に光融解性試験にて光照射した部位の液状部分(樹脂成分)を0.05g量りとり、純水5gをさらに加えて軽く振り混ぜた。樹脂成分が純水に溶解し濁りなく透明であった場合を「A」、わずかに濁りがあった場合を「B」と評価した。結果を表1に示す。
【0091】
【0092】
表1に示すとおり、実施例1~4の熱硬化性組成物は、光融解性を示し、また、樹脂成分の水溶性に優れていた。以上より、本開示の熱硬化性組成物は、光照射によって融解可能であり、かつ光照射で融解して生じる樹脂成分を水系溶剤で除去可能な硬化物(光融解性組成物)を形成することができることが確認された。