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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】熱伝導シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
H01L23/36 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024053966
(22)【出願日】2024-03-28
【審査請求日】2024-03-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100230891
【弁理士】
【氏名又は名称】里見 紗弥子
(72)【発明者】
【氏名】松下 みずき
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-005595(JP,A)
【文献】特開2018-067695(JP,A)
【文献】特開2023-104942(JP,A)
【文献】国際公開第2021/085383(WO,A1)
【文献】特開2010-132856(JP,A)
【文献】特開2017-043655(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145957(WO,A1)
【文献】特開2020-140982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/29、23/34-23/473
B26D 1/02
B29D 7/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂及び熱伝導性充填材を含む条片が並列接合されてなる熱伝導シートであって、
前記熱伝導性充填材が前記熱伝導シートの厚み方向に配向し、
平均厚みが15μm以上90μm以下であり、
深さが前記熱伝導シートの平均厚みの20%以上、幅100μm以上、長さ1000μm以上の傷の密度が5個/10000mm以下である、
熱伝導シート(ただし、表面粗さSzが3.5μm以下である熱伝導シートを除く)
【請求項2】
前記熱伝導シートの引張強度が0.10MPa以上である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
樹脂及び熱伝導性充填材を含むブロック体を、スライド面によってスライド可能に支持すると共に、前記スライド面から刃先が突出するように配置した切断刃を支持した状態で、前記ブロック体を前記スライド面上でスライドさせて、前記ブロック体を前記切断刃によってスライスして熱伝導シートを得る工程を含む、熱伝導シートの製造方法であって、
前記切断刃は、
逃げ面と、
前記逃げ面に対して交差し、且つ、第一すくい角を有する第一すくい面と、
該第一すくい面に隣接し、且つ、第二すくい角を有する第二すくい面と、
前記逃げ面と前記第一すくい面との交差角部よりなる刃先と、
を備え、
前記第二すくい角は前記第一すくい角よりも大きく、
前記切断刃の逃げ角を3°以上15°以下に設定して前記ブロック体をスライスする、
熱伝導シートの製造方法。
【請求項4】
前記第一すくい面のスライス方向に沿う長さが0.1mm以上である、請求項3に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
前記切断刃の前記逃げ面は、
前記第一すくい面に対して交差し、且つ、第一逃げ角を有する第一逃げ面と、
該第一逃げ面に隣接し、且つ、第二逃げ角を有する第二逃げ面と、
を備え、
前記第二逃げ角は前記第一逃げ角よりも大きく、
前記第一逃げ角が、前記切断刃の前記逃げ角に対応する、
請求項3又は4に記載の熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、熱伝導性を有するシート状の部材(熱伝導シート)が用いられている。例えば、特許文献1には、樹脂及び粒子状フィラーを含むブロック体をスライド面によってスライド可能に支持すると共に、スライド面から先端部が突出された刃を支持した状態で、ブロック体をスライド面に押圧しながらスライドさせて、ブロック体を刃によってスライスする工程を含む、熱伝導シートの製造方法であって、刃が一定以上の長さ及び一定以下の表面粗さの第1おもて面でブロック体と接触する、熱伝導シートの製造方法が開示されている。そして、特許文献1によれば、上述した方法により得られる熱伝導シートは、両主面が平滑であり、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-140982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、熱伝導シートには、より優れた熱伝導性を発揮することが求められている。そのためには、熱伝導シートを薄膜化することで熱伝導シート自体の熱抵抗値を低下させられる。
しかし、上記従来の手法では、製造される熱伝導シートの傷の数を低減しつつ、薄膜化することが困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、厚みが小さく、熱抵抗値の小さい熱伝導シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、樹脂及び熱伝導性充填材を含む条片が並列接合されてなり、熱伝導性充填材が熱伝導シートの厚み方向に配向する熱伝導シートについて、平均厚みを所定の範囲内とするとともに、所定の傷の密度を一定値以下とすることによって、厚みが小さく、熱抵抗値の小さい熱伝導シートを得られることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明は、[1]樹脂及び熱伝導性充填材を含む条片が並列接合されてなる熱伝導シートであって、前記熱伝導性充填材が前記熱伝導シートの厚み方向に配向し、平均厚みが15μm以上90μm以下であり、深さが前記熱伝導シートの平均厚みの20%以上、幅100μm以上、長さ1000μm以上の傷の密度が5個/10000mm以下である、熱伝導シートである。上記の熱伝導シートは、厚み及び熱抵抗値が十分に小さい。
なお、熱伝導シートの平均厚み及び傷の密度は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0009】
[2]ここで、上記[1]の熱伝導シートは、引張強度が0.10MPa以上であることが好ましい。引張強度が上記下限値以上であれば、熱伝導シートは破断しにくく、取り扱い性に優れる。
なお、本明細書において、熱伝導シートの引張強度は、熱伝導シートの厚さが300μmであると仮定した場合の引張強度をいい、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。本発明の熱伝導シートよりも厚みの大きい熱伝導体試料について引張強度を測定することで、熱伝導シート自体の厚み、ひいては、熱伝導シート上の傷の密度及び深さに依存せず、熱伝導シートの組成に由来する強度を測定することができる。
【0010】
[3]また、本発明は、樹脂及び熱伝導性充填材を含むブロック体を、スライド面によってスライド可能に支持すると共に、前記スライド面から刃先が突出するように配置した切断刃を支持した状態で、前記ブロック体を前記スライド面上でスライドさせて、前記ブロック体を前記切断刃によってスライスして熱伝導シートを得る工程を含む、熱伝導シートの製造方法であって、前記切断刃は、逃げ面と、前記逃げ面に対して交差し、且つ、第一すくい角を有する第一すくい面と、該第一すくい面に隣接し、且つ、第二すくい角を有する第二すくい面と、前記逃げ面と前記第一すくい面との交差角部よりなる刃先とを備え、前記第二すくい角は前記第一すくい角よりも大きく、前記切断刃の逃げ角を3°以上15°以下に設定して前記ブロック体をスライスする、熱伝導シートの製造方法である。
上記製造方法によれば、厚み及び熱抵抗値が十分に小さい熱伝導シートを得ることができる。
なお、本明細書において、ブロック体は、樹脂及び熱伝導性充填材を含む一次シートを厚み方向に複数枚積層してなる積層物を指す。
【0011】
[4]上記[3]の熱伝導シートの製造方法において、前記第一すくい面のスライス方向に沿う長さが0.1mm以上であることが好ましい。第一すくい面のスライス方向に沿う長さが上記下限値以上であれば、ブロック体のスライス時に熱伝導シートがすくい面に擦れることによる、傷の発生を低減することができる。
【0012】
[5]また、上記[1]又は[2]の熱伝導シートの製造方法において、前記切断刃の前記逃げ面は、前記第一すくい面に対して交差し、且つ、第一逃げ角を有する第一逃げ面と、該第一逃げ面に隣接し、且つ、第二逃げ角を有する第二逃げ面と、を備え、前記第二逃げ角は前記第一逃げ角よりも大きく、前記第一逃げ角が、前記切断刃の前記逃げ角に対応することが好ましい。切断刃の逃げ面が上記を満たすものであれば、一層厚みの小さい熱伝導シートを得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、厚みが小さく、熱抵抗値の小さい熱伝導シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の熱伝導シートの製造方法において使用され得るスライス装置の一例を示す図である。
図2】本発明の熱伝導シートの製造方法における、ブロック体のスライス方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートは、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。
そして、本発明の熱伝導シートは、例えば、本発明の熱伝導シートの製造方法に従って製造することができる。
【0016】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、樹脂及び熱伝導性充填材を含む条片が並列接合されてなる熱伝導シートであって、熱伝導性充填材が熱伝導シートの厚み方向に配向した熱伝導シートである。また、本発明の熱伝導シートは、平均厚みが15μm以上90μm以下であり、深さが熱伝導シートの平均厚みの20%以上、幅100μm以上、長さ1000μm以上の傷の密度が5個/10000mm以下である。上記の熱伝導シートは、厚みが小さく、熱抵抗値が小さい。
【0017】
<熱伝導シートの組成>
<<樹脂>>
熱伝導シートに含まれる樹脂としては、特に限定されず、任意の樹脂を用いることができる。例えば、樹脂としては、液状樹脂及び固体樹脂の何れも用いることができる。なお、樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、熱伝導シートは、液状樹脂及び固体樹脂の少なくとも一方を含むことができるが、熱伝導シートの厚み及び熱抵抗値を一層小さくする観点から、熱伝導シートは、液状樹脂と固体樹脂の双方を含むことが好ましい。
【0018】
[液状樹脂]
そして、液状樹脂としては、常温常圧下で液体である限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を用いることができる。
なお、本発明において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0019】
液状樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、液状樹脂としては、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂が好ましく、フッ素樹脂がより好ましい。液状樹脂として、シリコーン樹脂とフッ素樹脂の少なくとも一方を用いれば、熱伝導シートの難燃性を向上させることができる。また、液状樹脂としてフッ素樹脂を用いれば、得られる熱伝導シートの耐熱性、耐油性、及び耐薬品性を向上させることができる。さらに、液状樹脂としてアクリル樹脂を用いれば、熱伝導シートの金属に対する密着性がより高まり、電子部品パッケージや電子機器の変形時等においても熱伝導シートと放熱対等の金属製部材との接触を十分に確保可能とすることができる。
【0020】
[固体樹脂]
固体樹脂としては、常温常圧下で液体でない限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂、常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0021】
{常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂}
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸又はそのエステル、ポリアクリル酸又はそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体又はその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、ゴムは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0022】
{常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂}
常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
[樹脂の含有割合]
熱伝導シート中の樹脂の含有割合は、特に限定されないが、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることが更に好ましい。樹脂の含有割合が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの形成が容易になる。一方、樹脂の含有割合が上記上限値以下であれば、熱伝導シートの熱抵抗値を一層小さくすることができる。
【0024】
[液状樹脂の含有割合]
また、樹脂中における液状樹脂の含有割合(換言すると、固形樹脂と液状樹脂の合計中に占める液状樹脂の割合)は、特に限定されないが、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることが更に好ましい。樹脂中に占める液状樹脂の含有割合が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、熱伝導シートの厚み及び熱抵抗値を一層小さくすることができる一方、樹脂中に占める液状樹脂の含有割合が上記上限値以下であれば、1次シートに適した強度を付与するため、ブロック体をスライスしやすくなり、得られる熱伝導シートの厚みの均一性を更に向上させることができる。また、シートの引張強度を高めることができる。
【0025】
<<熱伝導性充填材>>
熱伝導性充填材は、本発明の熱伝導シートに優れた熱伝導性を付与する。そして、熱伝導性充填材としては、特に限定されることなく、金属製充填材や炭素製充填材などの既知の熱伝導性充填材を用いることができる。中でも、熱伝導性充填材としては、粒子状炭素材料及び繊維状炭素材料などの炭素材料を用いることが好ましく、粒子状炭素材料を用いることがより好ましい。
【0026】
[粒子状炭素材料]
粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
上述した中でも、粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。膨張化黒鉛を用いることで、熱伝導シートの熱抵抗値を一層小さくすることができる。ここで、膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0028】
粒子状炭素材料は、体積平均粒子径が、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることが更に好ましく、60μm以下であることが特に好ましい。粒子状炭素材料の体積平均粒子径が上記下限値以上であれば、熱伝導シート中で粒子状炭素材料の伝熱パスが良好に形成可能であるためと推察されるが、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まる。結果として、熱伝導シートの熱抵抗値を一層小さくすることができる。一方、粒子状炭素材料の体積平均粒子径が上記上限値以下であれば、熱伝導シートの厚みを更に小さくすることができる。
なお、本発明において「体積平均粒子径」は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて、レーザー回折法を用いて測定された粒子径分布において、小径側から計算した累積体積が50%となるときの粒子径(D50)として求めることができる。
【0029】
また、粒子状炭素材料は、アスペクト比(長径/短径)が、1超10以下であることが好ましく、1超5以下であることがより好ましい。粒子状炭素材料のアスペクト比が上記範囲内であれば、熱伝導シート中で粒子状炭素材料が厚み方向に良好に配向し易くなるためと推察されるが、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まる。結果として、熱伝導シートの熱抵抗値を一層小さくすることができる。
なお、本発明において、「アスペクト比」は、粒子状炭素材料をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状炭素材料について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0030】
[熱伝導性充填材の含有割合]
熱伝導シート中の熱伝導性充填材の含有割合は、特に限定されないが、熱伝導シート全体に対して、30体積%以上であることが好ましく、35体積%以上であることがより好ましく、38体積%以上であることが特に好ましく、55体積%以下であることが好ましく、50体積%以下であることがより好ましく、45体積%以下であることが更に好ましく、43体積%以下であることが特に好ましい。熱伝導性充填材の含有割合が上記下限値以上であれば、熱伝導性充填材の厚み方向の熱伝導率が高まり、熱伝導シートの熱抵抗値を一層小さくすることができる。
一方、熱伝導性充填材の含有割合が上記上限値以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、熱伝導シートの厚みの均一性を更に向上させることができる。
【0031】
また、熱伝導シート中の熱伝導性充填材の含有割合は、特に限定されないが、熱伝導シート全体に対して、35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることが特に好ましく、65質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。熱伝導性充填材の含有割合が上記下限値以上であれば、熱伝導性充填材の厚み方向の熱伝導率が高まり、熱伝導シートの熱抵抗値を一層小さくすることができる。一方、熱伝導性充填材の含有割合が上記上限値以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、熱伝導シートの厚みの均一性を更に向上させることができる。
【0032】
加えて、熱伝導シート中の熱伝導性充填材の含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部当たり、60質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることが特に好ましく、220質量部以下であることが好ましく、210質量部以下であることがより好ましく、200質量部以下であることが特に好ましい。樹脂100質量部当たりの熱伝導性充填材の含有量が上記下限値以上であれば、熱伝導性充填材の厚み方向の熱伝導率が高まり、熱伝導シートの熱抵抗値を一層小さくすることができる。一方、樹脂100質量部当たりの熱伝導性充填材の含有量が上記上限値以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、熱伝導シートの厚みの均一性を更に向上させることができる。
【0033】
<添加剤>
本発明の熱伝導シートには、必要に応じて、熱伝導シートの形成に使用され得る既知の添加剤を更に配合することができる。そして、熱伝導シートに配合し得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、セバシン酸エステルといった脂肪酸エステルなどの可塑剤;赤リン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤などの難燃剤;ウレタンアクリレートなどの靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの濡れ性向上剤;無機イオン交換体などのイオントラップ剤、フェノール系酸化防止剤などの老化防止剤;等が挙げられる。なお、添加剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
そして、熱伝導シートが添加剤を更に含む場合は、添加剤の配合量は、例えば、上述した樹脂100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下とすることができ、10質量部以下とすることが好ましい。
【0035】
<熱伝導シートの性状>
本発明の熱伝導シートは、樹脂及び熱伝導性充填材を含む条片が並列接合されてなる。このような熱伝導シートであれば、熱伝導シートの厚み方向に熱伝導性充填材を配向させやすいので、熱伝導シートの熱伝導性を向上できる。
【0036】
また、熱伝導シートは、樹脂及び熱伝導性充填材を含む条片が熱伝導シートの厚み方向に対して一方の略垂直な方向(厚み方向に対する角度が略90°の方向)に並列結合された構造を有してもよい。この略垂直な方向における条片の幅は、特に限定されることなく、例えば、50μm以上2000μm以下とすることができる。上記条片の幅は後述する製造方法における1次シートの厚みに依存し得る。そのため、条片の幅が上記下限以上の熱伝導シートは、1次シートの積層数、折畳数又は捲回数がより削減されている。その結果、このような熱伝導シートは、後述するブロック体(積層体)形成速度が向上され、生産性が向上されている。一方、条片の幅が上記上限以下の熱伝導シートは、熱伝導シート中において熱伝導性充填材が厚み方向に良好に配向しているため、熱伝導性が向上されており、熱伝導シートの熱抵抗値を一層小さくすることができる。
【0037】
熱伝導シートにおいて、熱伝導性充填材が熱伝導シートの厚み方向に配向していることが好ましい。ここで、熱伝導シート中の熱伝導性充填材の配向角度は、熱伝導シートの厚み方向に平行な方向を90°として、60°以上であることが好ましく、90°以下であることが好ましい。熱伝導性充填材の配向角度が、上記範囲内であれば、熱伝導シート中において熱伝導性充填材が厚み方向に良好に配向しているため、熱伝導性が向上され、熱伝導シートの熱抵抗値を一層小さくすることができる。
なお、熱伝導性充填材が1超のアスペクト比(長径/短径)を有するものである場合は、熱伝導性充填材の長軸(長径)が、上記の配向角度で熱伝導シートの厚み方向に配向していることが好ましい。
【0038】
熱伝導シートは、平均厚みが、15μm以上であることが必要であり、20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、90μm以下であることが必要であり、80μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましい。熱伝導シートの厚みが上記下限値以上であれば、熱伝導シートの強度を向上できる。一方、熱伝導シートの厚みが上記上限値以下であれば、熱伝導シートの熱抵抗値を一層小さくすることができる。
【0039】
また、熱伝導シートは、厚みの標準偏差が、3.5μm以下であることが好ましく、3.0μm以下であることがより好ましく、2.7μm以下であることが更に好ましい。厚みの標準偏差が上記上限値以下であれば、厚みの均一性が良好な熱伝導シートを得ることができる。熱伝導シートの厚みの標準偏差の値の下限は、特に限定されないが、例えば、1μm以上である。なお、厚みの標準偏差とは、同一の製造方法によって製造した複数枚の熱伝導シートの平均厚みの標準偏差を指す。
熱伝導シートの厚みの標準偏差は、熱伝導シートの製造に用いる材料(樹脂、熱伝導充填材等)の種類及び含有割合、並びに熱伝導シートの製造条件等を変更することにより調整することができる。例えば、後述する本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて熱伝導シートを製造することで、熱伝導シートの厚みの標準偏差を低下させることができる。より具体的には、本発明の熱伝導シートの製造方法において、液状樹脂の含有割合、並びに切断刃の形状、逃げ角及びすくい角などを変更することで、熱伝導シートの厚みの標準偏差を低下させることができる。
【0040】
熱伝導シートは、深さが熱伝導シートの平均厚みの20%以上、幅100μm以上、長さ1000μm以上の傷の密度が、5個/10000mm以下であることが必要であり、4個/mm以下であることが好ましく、3個/mm以下であることがより好ましい。上記の傷の密度が上記上限値以下であれば、破断しにくく、取り扱い性(ハンドリング性)に優れる熱伝導シートを得ることができる。熱伝導シートの傷の密度は、0個/mmであってもよい。
なお、熱伝導シートの傷の密度は、本発明の熱伝導シートの製造方法において、熱伝導シートの製造に用いる材料(樹脂、熱伝導充填材等)の種類及び含有割合、並びに切断刃の第一及び第二すくい角、第一すくい面のスライス方向に沿う長さ等を変更することにより調節することができる。
【0041】
熱伝導シートは、引張強度が0.10MPa以上であることが好ましく、0.11MPa以上であることがより好ましく、0.12MPa以上であることが更に好ましく、0.50MPa以下であることが好ましい。引張強度が上記下限値以上であれば、破断しにくく、取り扱い性(ハンドリング性)に優れる熱伝導シートを得ることができる。また、引張強度が上記上限値以下であれば、ブロック体をスライスしやすくなり、熱伝導シートの厚みを一層小さくすることができる。
熱伝導シートの引張強度は、熱伝導シートの製造に用いる材料(樹脂、熱伝導充填材等)の種類及び含有割合、並びに熱伝導シートの製造条件等を変更することにより調整することができる。
【0042】
なお、本発明において、熱伝導シートの引張強度とは、後述する本願の熱伝導シートの製造方法における、樹脂及び熱伝導性充填材を含むブロック体のスライス方向と直交する方向(熱伝導シート内で並列接合した条片の短手方向)の、引張強度を指す。なお、引張強度はシート厚みに高依存の属性であるため、厚みの種々異なるシート間で単純比較することができない。そこで、本発明においては、引張強度を、本明細書の実施例に記載したように、本発明の熱伝導シートの原料となる組成物から、本発明の熱伝導シートよりも厚みの大きい(例えば、厚み300μm)熱伝導体試料を作製し、該熱伝導体試料について、一般的な引張試験機等を使用して測定した。
本発明の熱伝導シートよりも厚みの大きい熱伝導体試料について引張強度を測定することで、熱伝導シート自体の厚み、ひいては、熱伝導シート上の傷の密度及び深さに依存せず、熱伝導シートの組成に由来する強度を測定することができる。具体的には、熱伝導シートの組成は、熱伝導性充填材の含有量及び樹脂組成(液状樹脂と固体樹脂との比率)などを意味し、これらを変更することによって熱伝導シートの組成に由来する強度を制御することができる。
【0043】
(熱伝導シートの製造方法)
上述した本発明の熱伝導シートは、例えば、本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて製造することができる。ここで、本発明の熱伝導シートの製造方法は、樹脂及び熱伝導性充填材を含むブロック体を、スライド面によってスライド可能に支持すると共に、スライド面から刃先が突出するように配置した切断刃を支持した状態で、ブロック体をスライド面上でスライドさせて、ブロック体を切断刃によってスライスして熱伝導シートを得る工程(以下、スライス工程とも称する)を、少なくとも含む。
そして、本発明の熱伝導シートの製造方法によれば、厚みが小さく、熱抵抗値の小さい熱伝導シートを得ることができる。
【0044】
図1は本発明の一例にかかる製造方法を実施するためのスライス装置である。なお、図示にかかるスライス装置は一例であり、本発明の製造方法に用いるスライス装置は何ら図示の態様に限定されるものではなく、各構成部の寸法の大小や相対的位置についても一例にすぎず、図示の態様に限定されるものではない。
スライス装置は、ブロック体(10)をスライド可能に支持するスライド面(20)を有するスライド台に取り付けられた、切断刃(30)を有する。図1では、スライス装置及びブロック体(10)を、図示面に対して並行な面で切断した断面図として示す。切断刃(30)は、逃げ面(31)と、逃げ面(31)に対して交差し、且つ、第一すくい角(θa1)を有する第一すくい面(32a)と、該第一すくい面(32a)に隣接し、且つ、第二すくい角(θa2)を有する第二すくい面(32b)と、逃げ面(31)と第一すくい面(32a)との交差角部よりなる刃先(33)とを備える。ここで、第二すくい角(θa2)は第一すくい角(θa1)よりも大きい。切断刃の逃げ角(θb)は3°以上15°以下に設定する。切断刃の逃げ面(31)は、第一すくい面(32a)に対して交差し、且つ、第一逃げ角(θb1)を有する第一逃げ面(31a)に加えて、該第一逃げ面に隣接し、且つ、第二逃げ角(θb2)を有する第二逃げ面(31b)を備えることが好ましい。そして、第二逃げ角(θb2)が第一逃げ角(θb1)よりも大きいことが好ましい。この場合、第一逃げ角(θb1)が、上記の切断刃の逃げ角(θb)に対応する。
【0045】
<スライス工程>
スライス工程では、上述の通り、ブロック体を、スライド面によってスライド可能に支持すると共に、スライド面から刃先が突出するように配置した切断刃を支持した状態で、ブロック体をスライド面上でスライドさせて、ブロック体を切断刃によってスライスすることで、ブロック体から熱伝導シートを切り出す。
【0046】
<<ブロック体>>
ブロック体は、樹脂及び熱伝導性充填材を含み、任意に添加剤を更に含み得る。ブロック体は、特に限定されないが、後述する積層体であることが好ましい。
【0047】
[樹脂、熱伝導性充填材、及び添加剤]
ブロック体に含まれる樹脂及び熱伝導性充填材、並びに、任意に含まれる添加剤の好適な種類、性状及び含有割合は、本発明の熱伝導シートについて上述した好適な種類、性状及び含有割合と同様とすることができる。
【0048】
<<切断刃>>
上述したブロック体のスライスに用いる切断刃は、延在方向一端側に刃先が位置し、通常、切断刃の延在方向がスライス方向となるように使用される。切断刃は、逃げ面と、逃げ面に対して交差し、且つ、第一すくい角を有する第一すくい面と、該第一すくい面に隣接し、且つ、第二すくい角を有する第二すくい面と、逃げ面と第一すくい面との交差角部よりなる刃先とを備え、第二すくい角は第一すくい角よりも大きい。切断刃が、上記の関係を有する第一すくい面及び第二すくい面を有することによって、ブロック体のスライス時に、スライスされた熱伝導シートがすくい面に擦れることによる、傷の発生を低減することができる。
【0049】
切断刃の第一すくい角は、40°以上であることが好ましく、55°以上であることがより好ましく、75°以下であることが好ましく、65°以下であることがより好ましい。
第一すくい角が上記下限値以上であれば、ブロック体のスライス時に、スライスされた熱伝導シートがすくい面に擦れることによる、傷の発生を低減することができる。また、第一すくい角が上記上限値以下であれば、切断刃の逃げ角が小さくなりすぎるのを防ぎ、ブロック体のスライス時にブロック体が切断刃に乗り上げるのを防ぐことによって、スライスによって厚みの小さい熱伝導シートを得ることができる。
【0050】
第一すくい面と第二すくい面のなす角度は、1°以上であることが好ましく、5°以上であることがより好ましい。第一すくい面と第二すくい面のなす角度の上限は特に制限されないが、一般に20°以下であることが好ましい。
【0051】
切断刃は、第一すくい面のスライス方向に沿う長さが0.1mm以上であることが好ましく、5.0mm以下であることが好ましく、3.0mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることが更に好ましく、1.0mm以下であることが特に好ましい。第一すくい面のスライス方向に沿う長さが上記範囲内であれば、ブロック体のスライス時に熱伝導シートがすくい面に擦れることによる、傷の発生を低減することができる。
【0052】
また、スライス工程を行う際、切断刃は、逃げ角を3°以上15°以下に設定する。逃げ角は4°以上であることが好ましく、5°以上であることがより好ましく、13°以下であることが好ましく、10°以下であることがより好ましい。
逃げ角が上記下限値以上であれば、ブロック体のスライス時にブロック体が切断刃に乗り上げるのを防ぎ、スライスによって厚みの小さい熱伝導シートを得ることができる。また、逃げ角が上記上限値以下であれば、切断刃のすくい角が小さくなりすぎるのを防ぎ、ブロック体のスライス時に、スライスされた熱伝導シートがすくい面に擦れることによる、傷の発生を低減することができる。
【0053】
さらに、切断刃の逃げ面は、第一すくい面に対して交差し、且つ、第一逃げ角を有する第一逃げ面と、該第一逃げ面に隣接し、且つ、第二逃げ角を有する第二逃げ面とを備えることが好ましく、第二逃げ角が第一逃げ角よりも大きいことが好ましい。ここで、第一逃げ角が、上記の切断刃の逃げ角に対応する。切断刃が、上記の関係を有する第一逃げ面及び第二逃げ面を有することによって、スライスによって厚みの一層小さい熱伝導シートを得ることができる。
なお、本発明において、第一すくい面及び第二すくい面、並びに第一逃げ面及び第二逃げ面の両方を備える切断刃を「両刃」と称し、第一すくい面及び第二すくい面、又は第一逃げ面及び第二逃げ面のいずれか一方のみを備える切断刃を「片刃」と称することがある。
【0054】
第一逃げ面と第二逃げ面のなす角度は、0.5°以上であることが好ましく、1°以上であることがより好ましい。第一逃げ面と第二逃げ面のなす角度の上限は特に制限されないが、一般に10°以下であることが好ましい。
【0055】
また、切断刃の刃角(第1すくい面と逃げ面とがなす角)は、特に制限されることなく、例えば、10°以上35°以下とすることができる。
【0056】
切断刃の材質は特に限定されないが、熱伝導シートの厚みを小さくするとともに、厚みの均一性を向上させる観点からは、セラミック、超硬合金、高速度工具鋼(ハイス鋼)、スチール等の金属製であることが好ましく、刃物自体の硬度のバランス、刃物の加工しやすさの問題から超硬合金がより好ましい。
【0057】
<<スライス>>
上述した切断刃を用いた樹脂ブロックのスライスは、特に限定されることなく、樹脂ブロックに対して圧力を負荷しながら行うことが好ましく、0.1MPa以上1.0MPa以下の圧力を負荷しながら行うことがより好ましい。
【0058】
また、樹脂ブロックを容易にスライスする観点からは、スライスする際の樹脂ブロックの温度は、-20℃以上40℃以下とすることが好ましい。
【0059】
更に、樹脂ブロックのスライス速度は、特に限定されることなく、50mm/秒以上とすることが好ましく、60mm/秒以上とすることがより好ましく、70mm/秒以上とすることが更に好ましい。スライス速度を上記下限値以上にすれば、樹脂シートの生産性を高めることができると共に、得られる樹脂シートの厚みの均一性を更に向上させることができる。なお、樹脂ブロックのスライス速度は、通常、600mm/秒以下である。スライス速度を上記上限値以下にすれば、ブロック体のスライス時に、ブロック体が切断刃に乗り上げるのを防ぐことによって、スライスによってより一層厚みの小さい熱伝導シートを得ることができる。
【0060】
<その他の工程>
本発明の熱伝導シートの製造方法が、任意に含み得るその他の工程は、特に限定されない。
例えば、本発明の熱伝導シートの製造方法においては、上述したスライス工程の前に、樹脂及び熱伝導性充填材を含む1次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、この1次シートを折畳又は捲回してブロック体を得る工程(積層工程)を実施することができる。
また、本発明の熱伝導シートの製造方法においては、上述したスライス工程の前に、ブロック体を加熱する工程(加熱工程)を実施することができる。
以下、その他の工程としての積層工程及び加熱工程について、詳述する。
【0061】
<<積層工程>>
上述した通り、積層工程では、1次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、この1次シートを折畳又は捲回して、積層体であるブロック体を得る。積層工程を経て製造された熱伝導シートは、積層体を構成していた1次シートのスライス片が並列接合されてなる構成を有しており、熱伝導性充填材が厚み方向に配向するため、厚み方向の熱伝導率に優れる。
【0062】
[1次シート]
1次シートは、樹脂及び熱伝導性充填材を含み、任意に添加剤を更に含み得る。
【0063】
1次シートに含まれる樹脂及び熱伝導性充填材、並びに、任意に含まれる添加剤の好適な種類、性状及び含有割合は、ブロック体、及び本発明の熱伝導シートについて上述した好適な種類、性状及び含有割合と同様とすることができる。
【0064】
1次シートの厚み(平均厚み)は、特に限定されることなく、例えば、50μm以上2000μm以下とすることができる。
なお、1次シートの「厚み(平均厚み)」は、熱伝導シートの「平均厚み」と同様にして測定することができる。
【0065】
1次シートの調製方法は、特に限定されない。1次シートは、例えば、樹脂及び熱伝導性充填材、並びに、任意に用いられる添加剤を含む組成物を、プレス成形、圧延成形又は押し出し成形などの既知の成形方法で成形することにより得ることができる。このように、1次シートの製造に際して、シート面方向にプレスする操作を経ることにより、1次シート内において、熱伝導性充填材がシート厚み方向とは直交する方向(すなわち、シートの面方向)に配向した構造を形成することができる。
【0066】
[積層等によるブロック体の形成]
1次シートの積層等によるブロック体の形成は、特に限定されることなく、積層装置を用いて行ってもよく、手作業にて行ってもよい。また、熱伝導シートの折り畳みによるブロック体の形成は、特に限定されることなく、折り畳み機を用いて1次シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。さらに、1次シートの捲き回しによるブロック体の形成は、特に限定されることなく1次シートの短手方向又は長手方向に平行な軸の回りに1次シートを捲き回すことにより行うことができる。
【0067】
<<加熱工程>>
ここで、例えば上述の積層工程を経て得られたブロック体は、そのままスライス工程に供してもよいが、当該ブロック体を更に加熱した後でスライス工程に供してもよい。加熱工程における加熱温度は、例えば、50℃以上170℃以下とすることができ、加熱時間は、例えば、1分以上8時間以下とすることができる。加熱工程を経ることにより、ブロック体の積層方向の密着性を調整することができる。例えば、ブロック体が熱可塑性樹脂を含む場合、加熱工程を実施することにより、ブロック体の積層方向の密着性を大きくすることができる。
【実施例
【0068】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例及び比較例において、下記の方法で、各種の測定及び評価を行った。
【0069】
<物性測定及び評価>
<<熱伝導シートの平均厚み及び厚みの標準偏差>>
膜厚計(株式会社ミツトヨ製、商品名「デジマチックインジケーター」)を用いて、熱伝導シートの略中心点及び四隅(四角)の計五点における厚みを測定し、測定した厚みの平均値(μm)を求めた。
また、スライスした熱伝導シート100枚について、上記の通り平均厚みを測定し、その標準偏差(μm)を求めた。
【0070】
<<傷の密度>>
検査ステージ(200mm×200mmの透明アクリル板)の上に、得られた熱伝導シート(150mm×150mm×0.06mm)を設置し、熱伝導シートの表面の垂線に対し40°(熱伝導シートの表面に対し50°)の照射角度から白色LEDバー照明(型番「LDL2-275X」CCS社製;色温度7,800K;消費電力27W)を用いて光を照射した。そして、光を照射しながら、熱伝導シートの真上(すなわち、熱伝導シートの表面に対し90°の撮像角度)に設置した8KのモノクロCMOSラインカメラ(Basler社製;型番「raL8192-12gm」;8192pix×1pix)と白色LEDバー照明とを熱伝導シートの表面に対し平行に走査しながら、熱伝導シートの表面をカメラで撮影して、熱伝導シートの表面のデジタル画像を得た。その後、このデジタル画像に対して画像処理部(オリジナルソフトウェア)にて平滑化処理及びエッジ検出などの画像処理等を行うことで傷を検出し、傷個数と傷の幅、長さ、傷の位置座標を得た。
次に、検査ステージから検査した熱伝導シートを取り出し、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、製品名「VK-X2000」)のステージに設置した。上述の検査で得られた傷の位置座標にあたる個所を10倍の倍率において高さ範囲200μmで測定し、傷の深さ方向のプロファイルを得た。得られたプロファイルから傷の深さを測定した。
得られた傷の幅、長さ、及び深さから、深さが測定した熱伝導シートの平均厚みの20%以上、幅100μm以上、長さ1000μm以上の傷の個数を算出し、傷の個数を検査した熱伝導シートのサイズから10000mmあたりの傷の個数を算出し、傷の密度とした。
【0071】
<<引張強度>>
JIS K7113に準拠したダンベル2号(ダンベル型、幅3mm、長さ70mm)を用いて300μmの厚さにスライスした熱伝導シートを打ち抜き成型し、試料を作製した。引張試験機(株式会社島津製作所製、製品名「AG-IS20kN」)を用い、ロードセル:50N、チャック間距離:35mm、速度:50mm/分、温度:23℃の条件でスライス方向と直交する方向(熱伝導シート内で並列接合した条片の短手方向)に引っ張り、破断強度(引張強度)を測定した。3つの試料片の測定値の平均値を熱伝導シートの引張強度とした。
【0072】
<<バルク熱抵抗値>>
熱伝導シートの熱抵抗値は、熱抵抗試験機(株式会社日立テクノロジーアンドサービス製、製品名「樹脂材料熱抵抗測定装置」)を用いて測定した。ここで、実施例及び比較例の熱伝導シートとは別に、1cm角の略正方形に切り出した50μm、100μm、200μmの熱伝導シートを作製して試料とし、これらの試料について試料温度50℃において、0.3MPaの圧力を加えた時の熱抵抗値(℃/W)を測定した。得られた熱抵抗値から、y:熱抵抗値、x:熱伝導シートの厚みとしてy=ax+bの近似式を算出し、bを熱伝導シートの界面熱抵抗値とした。そして、実施例及び比較例の熱伝導シートについて同様に測定した熱抵抗値からbの値をひいたものをバルク熱抵抗値とした。
【0073】
<<ハンドリング性>>
得られた傷の密度と熱伝導シートの引張強度の測定結果から以下のとおりハンドリング性を評価した。なお、傷の密度が少ないものほど、ハンドリング性に優れ、引張強度が大きいほどハンドリング性に優れることを表す。
【表1】
【0074】
(実施例1)
<組成物の調製>
フッ素樹脂として常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG-101」)40部と、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、商品名「ダイニオンFC2211」)20部と、常温常圧下で液体のアクリル樹脂として重量平均分子量6000の水酸基含有液体アクリルポリマー(東亞合成株式会社製、商品名「ARUFON(登録商標)UH-2190」)40部と、熱伝導性充填材として膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-300」、体積平均粒子径:50μm)90部とを、ホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM-5LVT型」)を用いて5分間攪拌混合した。得られた混合物を30分真空脱泡したものを解砕機に投入し、10秒間解砕することにより組成物を得た。
【0075】
<1次シートの形成>
次いで、得られた組成物1kgを、サンドブラスト処理した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙600μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形(一次加圧)し、厚み800μmの1次シートを得た。
【0076】
<積層工程>
得られた1次シートを縦150mm×横150mm×厚み800μmに裁断し、1次シートの厚み方向に200枚積層し、更に、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレスすることにより、高さ約160mmのブロック体(積層体)を得た。
【0077】
<熱伝導シートの形成>
その後、二次加圧されたブロック体(積層体)の側面(積層方向に沿う面)を0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、スライサーの加工空間内の温度が15℃の状態で、積層方向に対して90°の角度で(換言すれば、積層された1次シートの主面の法線と直交する方向に)、80mm/秒の速度でスライスすることにより、縦150mm×横150mm×厚み45μmの熱伝導シートを得た。なお、図2に示す通り、ブロック体(10)のスライス方向(A)は、1次シート(11)の積層方向(B)に対して直交する。スライスに用いた切断刃の第一及び第二逃げ角、第一及び第二すくい角、形状、並びに第一すくい面の長さは表2に記載する通りである。
そして、得られた熱伝導シートについて上述の方法に従って、各種測定及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0078】
(実施例2-4及び比較例1-5)
組成物を調製する際に配合する材料の種類及び量、並びに切断刃の形状、逃げ角及びすくい角を表2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、及び評価を実施した。ただし、比較例2及び4については、熱伝導シートを薄膜(厚み90μm以下)として作製することを意図してスライス工程を行ったが、ブロック体が切断刃に乗り上げて上記厚みではスライスすることができなかったため、熱伝導シートについての測定及び評価を行うことができなかった。結果を表2に示す。
【0079】
なお、変性ニトリルゴムとしては、常温常圧下で固体のアクリロニトリル-ブタジエンゴム(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 1072J」)を、液状ニトリルゴムとしては、常温常圧下で液体のアクリロニトリル-ブタジエンゴム(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 1312」)を、エポキシ樹脂としては常温常圧下で液体のビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱ケミカル株式会社製、商品名「jER」)を、老化防止剤としては芳香族第二級アミン系酸化防止剤(大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクラックCD」)とベンズイミダゾール系酸化防止剤(大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクラックMBZ」)を併用して使用した。
また、切断刃が第二すくい面を有しないものである場合には、第一すくい面と第二すくい面のなす角度は0°として記載した。
【0080】
【表2】
【0081】
表2より、平均厚みが15μm以上90μm以下であり、所定の傷の密度が5個/10000mm以下である実施例1-4の熱伝導シートは、比較例1-5の熱伝導シートと比較して、厚み及び熱抵抗値が小さいことがわかる。また、実施例1-4の熱伝導シートは、比較例1-5の熱伝導シートと比較して傷が少ない、あるいは引張強度が大きいことから、ハンドリング性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、厚みが小さく、熱抵抗値の小さい熱伝導シートを提供できる。
【符号の説明】
【0083】
10 ブロック体
11 1次シート
20 スライド面
30 切断刃
31 逃げ面
31a 第一逃げ面
31b 第二逃げ面
32a 第一すくい面
32b 第二すくい面
33 刃先
θa1 第一すくい角
θa2 第二すくい角
θb1 第一逃げ角
θb2 第二逃げ角
A ブロック体のスライス方向
B 1次シートの積層方向
C 熱伝導性充填材の配向方向
【要約】
【課題】本発明は、厚みが小さく、熱抵抗値の小さい熱伝導シートの提供を目的とする。
【解決手段】樹脂及び熱伝導性充填材を含む条片が並列接合されてなる熱伝導シートであって、熱伝導性充填材が熱伝導シートの厚み方向に配向し、平均厚みが15μm以上90μm以下であり、深さが熱伝導シートの平均厚みの20%以上、幅100μm以上、長さ1000μm以上の傷の密度が5個/10000mm以下である、熱伝導シート。
【選択図】図1
図1
図2