(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集個人曝露測定用サンプラー
(51)【国際特許分類】
G01N 1/22 20060101AFI20241106BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20241106BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20241106BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20241106BHJP
C01B 32/30 20170101ALI20241106BHJP
【FI】
G01N1/22 L
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
B01J20/34 C
C01B32/30
(21)【出願番号】P 2021017506
(22)【出願日】2021-02-05
【審査請求日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2020023802
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】山下 信義
(72)【発明者】
【氏名】谷保 佐知
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼阪 務
(72)【発明者】
【氏名】横井 誠
(72)【発明者】
【氏名】堀 千春
(72)【発明者】
【氏名】島村 紘大
(72)【発明者】
【氏名】浅野 拓也
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-035386(JP,A)
【文献】米国特許第05783756(US,A)
【文献】特開2013-170129(JP,A)
【文献】特表2009-543793(JP,A)
【文献】特開2010-269241(JP,A)
【文献】特開2005-246259(JP,A)
【文献】特開2008-116280(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116858(WO,A1)
【文献】特開2019-098324(JP,A)
【文献】実開昭63-094527(JP,U)
【文献】特開2001-004609(JP,A)
【文献】特開2016-210631(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107843463(CN,A)
【文献】国際公開第2019/040979(WO,A1)
【文献】特開平11-226393(JP,A)
【文献】国際公開第2021/033595(WO,A1)
【文献】特開2002-012565(JP,A)
【文献】特開2008-136935(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106110766(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/22
B01J 20/20
B01J 20/28
B01J 20/34
C01B 32/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭を主たる吸着剤とする活性炭フィルター部を備えた個人曝露量の測定のための携帯可能なペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーであって、
前記活性炭のBET比表面積が900m
2/g以上であ
り、
前記活性炭の1nm以下のミクロ孔容積の和(V
mic
)が0.35cm
3
/g以上であり、
前記活性炭の2~60nm以下のメソ孔容積の和(V
met
)が0.03cm
3
/g以上であり、
前記活性炭フィルター部における風速0.5m/sec条件下における圧力損失が6kPa未満である
ことを特徴とする個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラー。
【請求項2】
前記活性炭の下記の(i)式に規定する前記ミクロ孔容積の和(V
mic)と前記メソ孔容積の和(V
met)との容積差(V
s)が0.35以上である請求項
1に記載の個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラー。
【数1】
【請求項3】
前記活性炭の表面酸化物量が0.10meq/g以上である請求項
1又は2に記載の個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラー。
【請求項4】
前記活性炭が繊維状活性炭である請求項1ないし
3のいずれか1項に記載の個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラー。
【請求項5】
前記活性炭が粒状活性炭である請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラー。
【請求項6】
前記活性炭フィルター部がディスク型カートリッジに収載され、前記
ディスク型カートリッジが着脱可能に備えられている請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラー。
【請求項7】
ウレタンフォームよりなるウレタンフォームフィルター部が前記活性炭フィルター部の前段に配置されてなる請求項1ないし
6のいずれか1項に記載の個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するペル及びポリフルオロアルキル化合物捕集サンプラーであって、特には個人曝露量を測定するための携帯可能な個人用サンプラーに関する。
【背景技術】
【0002】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、高い熱安定性、高い化学的安定性、高い表面活性を有するフッ素化された脂肪族化合物類である。ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、前記特性を生かし塗料や包装材、液体消火剤等の工業用途及び化学用途等幅広く使用されている。
【0003】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物の一部は、非常に安定性の高い化学物質であることから、環境中に放出後、自然条件下では分解されにくい。このため、近年では、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は残留性有機汚染物質(POPs)として認識され、2010年より残留性有機物汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)において、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホン酸)の製造や使用が規制されることとなった。
【0004】
なお、ペルフルオロアルキル化合物は完全にフッ素化された直鎖アルキル基を有しており、化学式(ii)で示される物質である。例えば、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフロオロオクタン酸)等がある。
【0005】
【0006】
ポリフルオロアルキル化合物はアルキル基の水素の一部がフッ素に置き換わったものを示し、化学式(iii)で示される物質である。例えば、フルオロテロマーアルコール等がある。
【0007】
【0008】
このように、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は自然界(水中、土壌中、大気中)に残存し続けることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量試験方法の確立が検討されている。定量試験方法の検討の課題は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の高い捕集、吸着及び脱離性能を有するサンプラーの開発である。微量なペル及びポリフルオロアルキル化合物を含有する試料である空気を通気させ、試料空気中に含まれる様々な形態(粒子吸着性、半揮発性、揮発性)のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集ないし吸着し、捕集剤や吸着剤から該化合物を抽出工程によって抽出液中に脱離させ、濃縮する。濃縮後、LC-MS/MSやGC-MS/MS等の測定装置で定量測定し、試料中に含まれるペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度測定を行うことが可能となる。
【0009】
大気中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の測定には、ハイボリュームエアサンプラーを用いる方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。この方法においては、ハイボリュームエアサンプラー内部に石英繊維ろ紙等の微細繊維からなるろ紙等を装着し、該サンプラーに一定時間通気させ、大気中浮遊粒子を採取することで大気中浮遊粒子中に含まれるPFOSを測定する。
【0010】
しかし、ろ紙に通気することで捕集される物質は、大気中浮遊粒子に吸着するペルフルオロアルキル化合物であるPFOS、PFOA等の不揮発性のイオン性化合物に限定される。該サンプラーで捕集ができないペル及びポリフルオロアルキル化合物は、揮発性のものが挙げられる。揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物は、ろ紙を通過してしまうため定量測定を行うことができない。
【0011】
このため、該サンプラーでは捕集できない大気中浮遊粒子に含有されない揮発性のポリフルオロアルキル化合物等、他の形態で存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集可能なサンプラーが所望されていた。
【0012】
また、揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集剤としては、シリカゲル系捕集剤等が使用されている。例えば、シクロデキストリンポリマーからなる有機フッ素系化合物吸着剤が提案されている(特許文献1)。この吸着剤は、吸着のみに特化し、該化合物の脱離はできないことから定量測定に用いられる捕集材として使用には適していない。また、シクロデキストリンポリマーは粉状又は微粒子状であり、ハンドリングが悪く、通液ないし通気時の抵抗が高く微粉末の2次側への流出リスク等の問題がある。このように、既存の吸着剤では揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物を十分に捕集することができず、正確に定量測定ができないという問題があった。
【0013】
さらに、現在、日本国内では労働者の健康障害を防止するため、労働安全衛生法の規定に基づき、作業環境中の有害物質や粉塵の濃度測定及びその結果の評価を行っている。作業環境測定は単位作業場所ごとに等間隔で測定点を設定したりして測定をする、いわゆるA測定及びB測定により行われている。
【0014】
リスクアセスメントの実施にあたり、該測定方法により測定された作業地点の化学物質等の気中濃度等を作業者の曝露限界と比較する方法が望ましいとされているところ、個人用サンプラーを用いた個人曝露測定の検討が進められている。
【0015】
個人用サンプラーを使用する利点は、有害物質の発生源が移動する場合や、有害物質の発生源と作業者との間に測定点を置くことが困難な場合においても正確な測定が可能である点が挙げられる。他にも、有害性が高い物質を取り扱う場合などには、作業者の呼吸域付近にサンプラーを設置して正確な測定を可能とすることができる点も挙げられる。
【0016】
個人曝露測定は、パッシブサンプリング法とアクティブサンプリング法の2つに大別される。パッシブサンプリング法は、作業者の呼吸域に捕集材からなるバッチ形状等の測定器具を装着し、分子拡散を利用して対象物質を捕集し、該測定器具中の捕集材から対象物質を抽出し測定することで作業者の曝露量を測定する。アクティブサンプリング法は、作業者が対象物質捕集フィルター及び吸引ポンプからなるサンプラーを装着して作業を行い、作業後にサンプラー内の捕集フィルターによって捕集された対象物質量の測定を行う。
【0017】
アクティブサンプリング法においては、個人用サンプラーを取り付けたまま作業を行うため、持ち運び性や作業員の負荷低減の観点から小型の吸引ポンプを使用することが望ましいが、捕集フィルターによる圧力損失が課題となっていた。捕集フィルターは捕集性能を十分に発揮するために、捕集材料を必要量備えることが必須であることから、吸引ポンプの大型化は避けられず、持ち運び性の低下を招くとともに作業者の負荷増大という問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【非特許文献】
【0019】
【文献】小谷野道子ほか著、「都市大気中のペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)濃度の週間変化」大気環境学会誌 第45巻 第6号 2010年11月10日、p.279-282
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、作業環境等における大気中に存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物を、効率よく脱離可能に捕集することができ、かつ携帯可能で取り回しの良い個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
すなわち、第1の発明は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭を主たる吸着剤とする活性炭フィルター部を備えた個人曝露量の測定のための携帯可能なペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーであって、前記活性炭のBET比表面積が900m2/g以上であり、前記活性炭の1nm以下のミクロ孔容積の和(V
mic
)が0.35cm
3
/g以上であり、前記活性炭の2~60nm以下のメソ孔容積の和(V
met
)が0.03cm
3
/g以上であり、前記活性炭フィルター部における風速0.5m/sec条件下における圧力損失が6kPa未満であることを特徴とする個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーに係る。
【0022】
第2の発明は、第1の発明において、前記活性炭の下記の(i)式に規定する前記ミクロ孔容積の和(Vmic)と前記メソ孔容積の和(Vmet)との容積差(Vs)が0.35以上である個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーに係る。
【0023】
【0024】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記活性炭の表面酸化物量が0.10meq/g以上である個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーに係る。
【0025】
第4の発明は、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記活性炭が繊維状活性炭である個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーに係る。
【0026】
第5の発明は、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記活性炭が粒状活性炭である個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーに係る。
【0027】
第6の発明は、第1ないし5の発明のいずれかにおいて、前記活性炭フィルター部がディスク型カートリッジに収載され、前記ディスク型カートリッジが着脱可能に備えられている個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーに係る。
【0028】
第7の発明は、第1ないし6の発明のいずれかにおいて、ウレタンフォームよりなるウレタンフォームフィルター部が前記活性炭フィルター部の前段に配置されてなる個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーに係る。
【発明の効果】
【0029】
第1の発明に係る個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーによると、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭を主たる吸着剤とする活性炭フィルター部を備えた個人曝露量の測定のための携帯可能なペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーであって、前記活性炭のBET比表面積が900m2/g以上であり、前記活性炭の1nm以下のミクロ孔容積の和(V
mic
)が0.35cm
3
/g以上であり、前記活性炭の2~60nm以下のメソ孔容積の和(V
met
)が0.03cm
3
/g以上であり、前記活性炭フィルター部における風速0.5m/sec条件下における圧力損失が6kPa未満であるため、作業環境等における大気中に存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物を、効率よく脱離可能に捕集することができるとともに該化合物の定量分析の精度を上げることができ、かつ携帯可能であり取り回しが良い。
【0030】
第2の発明に係る個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーによると、第1の発明において、前記活性炭の上記の(i)式に規定する前記ミクロ孔容積の和(Vmic)と前記メソ孔容積の和(Vmet)との容積差(Vs)が0.35以上であるため、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率よく脱離可能に捕集することができ、該化合物の定量分析の精度を上げることができる。
【0031】
第3の発明に係る個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーによると、第1又は2の発明において、前記活性炭の表面酸化物量が0.10meq/g以上であるため、活性炭の細孔による吸着性能だけでなく、化学的な吸着能力も備え、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能をより向上させることができ、該化合物の定量分析の精度を上げることができる。
【0032】
第4の発明に係る個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーによると、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記活性炭が繊維状活性炭であることから、フィルター部の通気性を確保しつつ、ペル及びポリフルオロアルキル化合物との接触効率が上がり、吸着性能を向上させることができる。
【0033】
第5の発明に係る個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーによると、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記活性炭が粒状活性炭であることから、使用形態等が適宜決定可能となり取り回しが良く、さらに入手が容易で経済性が高い。
【0034】
第6の発明に係る個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーによると、第1ないし5の発明のいずれかにおいて、前記活性炭フィルター部がディスク型カートリッジに収載され、前記ディスク型カートリッジが着脱可能に備えられていることから、該カートリッジをサンプラーから取り外してすぐに分析が可能となるとともに、交換が容易であり連続使用が可能で取り回しがよい。
【0035】
第7の発明に係る個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーによると、第1ないし6の発明のいずれかにおいて、ウレタンフォームよりなるウレタンフォームフィルター部が前記活性炭フィルター部の前段に配置されてなることから、様々な形態で大気中に存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物を、形態別に選択的捕集を行うことができ、効率よく総合的に捕集可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーに備えられるディスク型カートリッジを示す概要図である。
【
図2】
図1のディスク型カートリッジの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーは、作業環境中における作業者等の個人のペル及びポリフルオロアルキル化合物曝露量を測定するために用いられる。携帯して使用される個人用サンプラーは、通常、フィルター部を有する本体部の一側に空気を吸引するポンプが接続され、フィルター部を介した他側吸気開口部から作業環境中の試料大気を吸引し、該サンプル中の測定対象物を捕集する。本発明のサンプラーも同様の構成とされる。
【0038】
個人用サンプラーを装着した作業者から一定時間経過した後のフィルター部を回収し、該フィルター部により捕集された測定対象物量を分析することにより、その作業環境中における個人曝露量の測定が可能となる。
【0039】
本発明のサンプラーの捕集対象は、大気中に存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物である。大気中に存在するペル及びポリフルオロアルキル化合物は、おおよそ3つに分類される。
【0040】
一つは、大気中に浮遊する微小粒子(例えば、花粉や土壌粒子のような粉塵等)の表面に付着した粒子吸着性ペル及びポリフルオロアルキル化合物であり、その多くはイオン性化合物である。
【0041】
二つ目は、N-エチルペルフルオロオクタンスルホン酸アミドエタノール(以降「N-EtFOSE」と表記する。)やN-メチルペルフルオロオクタンスルホン酸アミドエタノール(以降、「N-MeFOSE」と表記する。)等の半揮発性ペルフルオロアルキル化合物である。半揮発性有機化合物は、世界保健機関(WHO)の定義によれば、沸点260~380℃の化合物をいう。半揮発性ペルフルオロアルキル化合物が分解することによってPFOSやPFOAが生じることが知られている。N-EtFOSEは以下の化学式(iv)に、N-MeFOSEは化学式(v)に表される物質である。
【0042】
【0043】
【0044】
そして、三つ目は、前出の化学式(iii)に示されるようなフルオロテロマーアルコール(以降「FTOHs」と表記する。)に代表される大気中に気体として存在する揮発性ペル及びポリフルオロアルキル化合物である。揮発性有機化合物は、世界保健機関(WHO)の定義によれば、沸点50~160℃の化合物をいう。
【0045】
本発明の測定対象物であるペル及びポリフルオロアルキル化合物は、前述の通り3つの形態で大気中に存在している。本発明のサンプラーは、活性炭フィルター部において、揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集を主な目的とし、さらには、活性炭フィルター部の前段にウレタンフォームフィルター部を配置することにより、半揮発性のペルフルオロアルキル化合物をも捕集することが可能となる。
【0046】
本発明のサンプラーは、試料大気が導入されて吸引される吸気開口部と活性炭を吸着剤とする活性炭フィルター部とを備えたシリンジ型ないしディスク型カートリッジと該カートリッジを介して試料大気を吸引するポンプよりなる。さらに、測定対象物たるペル及びポリフルオロアルキル化合物のうち、該化合物の形態によっては、カートリッジの吸気部側にウレタンフォームよりなるウレタンフォームフィルター部を備えたカートリッジも装着されることが可能である。
【0047】
まず、上流側に配置されるウレタンフォームフィルター部のウレタンフォーム(PUF)は、半揮発性のペルフルオロアルキル化合物の捕集が可能である。さらには、ウレタンフォームフィルター部の上流側に、公知の微粒子捕集用のサンプラーを装着してもよい。微粒子捕集用のサンプラーは、慣性インパクターやろ紙によるろ過装置等適宜選択可能である。
【0048】
そして、活性炭フィルター部は主に揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集を目的とする。活性炭フィルター部の活性炭の吸着性能は、後述の実施例により導き出されるように、比表面積を900m2/g以上とすることにより発揮される。活性炭の細孔が一定以上形成されることにより、該化合物の吸着性能が確保される。
【0049】
活性炭は細孔の孔径によっても規定される。活性炭のような吸着材の場合、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔のいずれの細孔も存在している。その中で、いずれの範囲の細孔をより多く発達させるかにより、活性炭の吸着対象、性能は変化する。本発明において活性炭に所望される性能は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分子を効果的にかつ脱離可能に吸着することである。
【0050】
半揮発性のペルフルオロアルキル化合物を、活性炭フィルター部よりも前段に配置されるウレタンフォームフィルター部で捕集することによって、活性炭のミクロ孔が塞がれることを防止し、吸着性能の劣化の低減が期待できる。また、ウレタンフォームフィルター部や、ウレタンフォームフィルター部の前段にさらに微粒子捕集用のフィルターを装着するによって、活性炭フィルター部の前段で微粒子を除去することができるため、活性炭の性能劣化はさらに抑制されることが期待できる。なお、個人曝露測定用のサンプラーは、長時間の使用はあまり想定されないことから、ウレタンフォームフィルター部等を装着しなくとも、十分に測定対象物のサンプリングは可能である。
【0051】
このように、粒子(に吸着したペル及びポリフルオロアルキル化合物)、半揮発性のペルフルオロアルキル化合物、揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物を包括的に捕集することが可能であるため、作業環境における大気中のペル及びポリフルオロアルキル化合物による個人曝露量の包括的かつ高精度な測定が可能となる。特に、従来では困難であった揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物の個人曝露量の測定が可能となる。
【0052】
なお、本発明のサンプラーは個人曝露測定用として使用されることから携帯可能に構成されるため、採用される吸気動力源としてはサンプラー使用者(作業者)の取り回しの良さの観点から小型のポンプが望ましい。小型ポンプは吸引力が大きくないため、ポンプに掛かる負荷を低下させる必要がある。これらのことから、フィルター部における圧力損失が小さいことが望ましく、風速0.5m/sec条件下における圧力損失が6kPa未満とするのがよい。
【0053】
そして、ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭は、繊維状活性炭又は粒状活性炭よりなる。繊維状活性炭は、適宜の繊維を炭化し賦活して得た活性炭であり、例えばフェノール樹脂系、アクリル樹脂系、セルロース系、石炭ピッチ系等がある。繊維長や断面径等は適宜である。繊維断面径が大きすぎる場合は、表面積が少なくなり接触効率が低下するため、吸着能力向上の点から繊維断面径は30μm以下とすることが好ましい。
【0054】
繊維状活性炭は、フェルト状に成形されて活性炭フィルター部とされることができる。フェルト状に成形されることにより、通気性が向上される。繊維状活性炭を使用した活性炭フィルター部は表面積が大きいため吸着速度が高い傾向にある。これらのことから、通気性を向上させつつ吸着性能を高めることができる。
【0055】
粒状活性炭の原料としては、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、籾殻、椰子殻、樹皮、果物の実等の原料がある。これらの天然由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなる。また廃棄物の二次的利用であるため安価に調達可能である。他にもタイヤ、石油ピッチ、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂由来の焼成物、さらには、石炭等も原料として使用することができる。活性炭の粒径が小さいとフィルター体とした時の密度は高くなり、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着量が向上する。一方で、粒径が大きくなるとフィルター体とした時の密度は小さくなり、通気性が向上する。これらのことから、粒状活性炭の平均粒子径は200μm以上の範囲とすると、通気性を確保することができる。
【0056】
なお、本発明は個人曝露量のサンプラーであるため、搭載される活性炭の吸着性能の限界までペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着させることは考えにくい。このため、特に平均粒子径の上限は規定されない。しかしながら、通気性を上げすぎると対象物質のリークが生ずるおそれがあることから吸着性能については物性により担保するとともに、フィルター部の厚みを任意に調整することによりリークの生ずる可能性を小さくすることができる。
【0057】
活性炭フィルター部は、
図1及び
図2に示されるようなディスク型カートリッジ10に収容され、着脱可能にサンプラーに装着されるのがよい。該カートリッジに活性炭フィルター部20が収容されることで、該カートリッジをサンプラーから取り外してすぐに分析が可能となる。ディスク型カートリッジ10は、試料大気が吸気開口部11から本体部12にかけて広がって通気するため、吸着効率が向上すると考えられる。活性炭フィルター部20は、
図2に示されるような、例えばフェルト状フィルター部21に形成されたりすると取り回しがよい。また、着脱が容易であるため、交換が容易であり連続使用が可能で取り回しがよい。
【0058】
活性炭原料は、必要に応じて200℃~600℃の温度域で加熱炭化されることにより微細孔が形成される。続いて、活性炭原料は600℃~1200℃の温度域で水蒸気、炭酸ガスに曝露されて賦活処理される。この結果、各種の細孔が発達した活性炭は出来上がる。なお、賦活に際しては、他に塩化亜鉛賦活等もある。また、逐次の洗浄も行われる。
【0059】
ここで、前述したように、活性炭自体の物性を規定する指標も加えられる。この規定は前述の賦活条件により制御される。当該活性炭の比表面積は900m2/g以上とされる。本明細書中、各試作例の比表面積はBET法(Brunauer,Emmett及びTeller法)による測定である。比表面積900m2/gを下回る場合、細孔容積が小さくなり、単一の活性炭により吸着できる物質種が限られることとなる。このことから本発明に係るペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭において、前記の比表面積の範囲値が適切として導き出される。
【0060】
そして、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着においては、活性炭に形成された細孔分布も寄与することがわかった。本明細書において、ミクロ孔は細孔直径が1nm以下の細孔を指し、後述の実施例により導き出されるように、ミクロ孔の細孔容積(Vmic)の合計が0.35cm3/g以上とすると、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能が向上する。なお、本明細書中、各試作例の1nm以下のミクロ孔容積はMP法(Micropore法)による測定である。ミクロ孔が一定以上形成されることにより、該化合物が細孔中に捕集されやすくなると考えられる。
【0061】
また、本明細書において、メソ孔は細孔直径が2~60nmの範囲である細孔を指し、後述の実施例により導き出されるように、メソ孔の細孔容積(Vmet)の合計が0.03cm3/g以上とすると、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能が向上する。なお、本明細書中、各試作例の2~60nmの範囲のメソ孔容積はDH法(Dollimore-Heal法)による測定である。DH法の測定によるため、測定対象は2.43~59.72nmの細孔とした。メソ孔が一定以上形成されることにより、該化合物がミクロ孔にまで容易に侵入可能となると考えられる。
【0062】
加えて、ミクロ孔の細孔容積とメソ孔の細孔容積の差も効率的なペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着に寄与していると考えられる。後述の実施例により導き出されるように、ミクロ孔容積の和(Vmic)とメソ孔容積の和(Vmet)との容積差(Vs)を0.35以上とすることにより、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率的に脱離可能に吸着することができる。メソ孔を発達させすぎないことに加え、ミクロ孔を良好に発達させた活性炭とすることにより、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を向上させつつ、後の抽出操作時において、該化合物がスムーズに脱離可能とされることにより、定量測定が良好に行われることができると考えられる。
【0063】
また、こうして出来上がる活性炭においても、活性炭の表面に酸性官能基が存在する。活性炭の表面酸化により増加する酸性官能基は、主にカルボキシル基、フェノール性水酸基等の親水性基である。活性炭表面の酸性官能基は、捕集能力に影響を与える。これらの酸性官能基量については、表面酸化物量として把握することができる。活性炭の表面酸化物量が増加すると、活性炭表面の親水性が高まり、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の中でも、特に親水性のフルオロテロマー化合物類の捕集性能が向上すると考えられる。
【0064】
活性炭の表面酸化物を増加させる手法としては、以下の手法が挙げられる。一つは、再度加熱工程を経ることで表面残基の酸化を促進させ、酸性官能基を増加させる手法である。すなわち空気または酸素雰囲気化における酸化である。あるいは、同時に空気雰囲気下にて温度25~40℃、湿度60~90%の空気も導入される。そこで、150~900℃にて1~10時間かけて加熱され、本発明の吸着活性炭が完成する。湿潤な空気を伴った加熱により活性炭表面に存在したアルキル基等の炭化水素基が酸化されたり、水の水酸基が表面に導入されたりして酸性官能基は増加すると考えられる。
【0065】
他には、酸化剤によって活性炭の表面を酸化させ、表面酸化物を増加させる手法である。酸化剤は、次亜塩素酸、過酸化水素等が挙げられる。これらの酸化剤を含む液に活性炭を浸漬後、乾燥することで、表面酸化物量を増加させた活性炭を得ることができる。
【0066】
当該活性炭の表面における酸性官能基の量は後記の各試作例のとおり、表面酸化物量として測定可能である。具体的には、表面酸化物量は0.10meq/g以上とするのが良い。0.10meq/gを下回る場合、活性炭の疎水性が高くなり、捕集対象のペル及びポリフルオロアルキル化合物のうち、特にフルオロテロマー化合物類の捕集性能が低下するきらいがある。表面酸化物量は0.10meq/g以上とすることにより、活性炭表面の親水性を高め、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率的に吸着することができる。
【実施例】
【0067】
〔吸着性能及び通気性能の検討〕
発明者らは、個人曝露測定用サンプラーを作成するため、サンプラーに備えられる試作例1~19のフィルター部を作成し、吸着試験及び通気試験を行った。
【0068】
[使用活性炭]
発明者らは、試作例のフィルター部作成に際し、下記の原料を使用した。
・繊維状活性炭
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3010」(平均繊維径:15μm)
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3012」(平均繊維径:15μm)
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3015」(平均繊維径:15μm)
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3018」(平均繊維径:15μm)
・粒状活性炭
フタムラ化学株式会社製:粒状活性炭「CW240SZ」(平均粒子径:620μm)
フタムラ化学株式会社製:粒状活性炭「CW480SZ」(平均粒子径:260μm)
フタムラ化学株式会社製:粒状活性炭「CW8150SZ」(平均粒子径:200μm)
フタムラ化学株式会社製:粒状活性炭「SZ100M」(平均粒子径:100μm)
【0069】
[活性炭の調製]
<活性炭C1>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3010」と同原料であるフェノール樹脂繊維を600℃で炭化した繊維状の炭化物10gを過酸化水素濃度4.0%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させた繊維状炭化物を活性炭C1とした。
【0070】
<活性炭C2>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3010」10gを過酸化水素濃度4.0%溶液500mlに浸漬させ、150時間静置後、取り出して乾燥させた繊維状活性炭を活性炭C2とした。
【0071】
<活性炭C3>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3012」10gを過酸化水素濃度4.0%溶液500mlに浸漬させ、150時間静置後、取り出して乾燥させた繊維状活性炭を活性炭C3とした。
【0072】
<活性炭C4>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」を活性炭C4とした。
【0073】
<活性炭C5>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」10gを過酸化水素濃度1.5%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させた繊維状活性炭を活性炭C5とした。
【0074】
<活性炭C6>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」10gを過酸化水素濃度4.0%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させた繊維状活性炭を活性炭C6とした。
【0075】
<活性炭C7>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」10gを過酸化水素濃度14.0%溶液500mlに浸漬させ、350時間静置後、取り出して乾燥させた繊維状活性炭を活性炭C7とした。
【0076】
<活性炭C8>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」10gを過酸化水素濃度18.9%溶液500mlに浸漬させ、480時間静置後、取り出して乾燥させた繊維状活性炭を活性炭C8とした。
【0077】
<活性炭C9>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」10gを過酸化水素濃度4.0%溶液500mlに浸漬させ、50時間静置後、取り出して乾燥させた繊維状活性炭を活性炭C9とした。
【0078】
<活性炭C10>
フタムラ化学粒状活性炭「CW240SZ」10gを過酸化水素濃度4.0%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させた粒状活性炭を活性炭C10とした。
【0079】
<活性炭C11>
フタムラ化学粒状活性炭「CW480SZ」10gを過酸化水素濃度4.0%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させた粒状活性炭を活性炭C11とした。
【0080】
<活性炭C12>
フタムラ化学粒状活性炭「CW8150SZ」10gを過酸化水素濃度4.0%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させた粒状活性炭を活性炭C12とした。
【0081】
<活性炭C13>
フタムラ化学粒状活性炭「SZ100M」10gを過酸化水素濃度4.0%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させた粒状活性炭を活性炭C13とした。
【0082】
[活性炭の物性の測定]
比表面積(m2/g)は、マイクロトラック・ベル株式会社製、自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP-miniII」を使用して77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、BET法により求めた(BET比表面積)。
【0083】
表面酸化物量(meq/g)は、Boehmの方法を適用し、0.05N水酸化ナトリウム水溶液中において各例の吸着活性炭を振とうした後に濾過し、その濾液を0.05N塩酸で中和滴定した際の水酸化ナトリウム量とした。
【0084】
平均細孔直径(nm)は、細孔の形状を円筒形と仮定し、前述の測定から得た細孔容積(ml/g)及び比表面積(m2/g)の値を用いて数式(vi)より求めた。
【0085】
【0086】
〔ミクロ孔容積〕
細孔容積については、自動比表面積/細孔分布測定装置(「BELSORP-miniII」、マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用し、窒素吸着により測定した。活性炭C1~C13の細孔直径1nm以下の範囲の細孔容積であるミクロ孔容積の和(Vmic)(cm3/g)は、細孔直径1nm以下の範囲におけるdV/dDの値を窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法により解析して求めた。
【0087】
〔メソ孔容積〕
細孔直径が2~60nmの範囲におけるdV/dDの値は、窒素ガスの吸着等温線からDH法により解析した。なお、解析ソフトにおける細孔直径2~60nmの直径範囲は2.43~59.72nmである。この解析結果より、活性炭C1~C13の細孔直径2~60nmの範囲の細孔容積であるメソ孔容積の和(Vmet)(cm3/g)を求めた。
【0088】
〔容積差〕
活性炭C1~C13の容積差(Vs)は、ミクロ孔容積の和(Vmic)(cm3/g)からメソ孔容積の和(Vmet)(cm3/g)を引いた値であって、上記(i)式から算出した。
【0089】
活性炭C1~C13の物性は表1~3のとおりである。表1~3の上から順に、BET比表面積(m2/g)、表面酸化物量(meq/g)、平均細孔直径(nm)、ミクロ孔容積(Vmic)(cm3/g)、メソ孔容積(Vmet)(cm3/g)、容積差(Vs)(cm3/g)である。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
[フィルター部の作成]
吸着性能を評価するために、試作例1~10を用いて吸着試験を行った。また、通気性能を評価するために、試作例11~19を用いて通気試験を行った。
【0094】
<試作例1>
活性炭C1を主原料とする繊維状炭化物フェルト(厚み2.0mm、直径25mm、重量110mg)を作成し、試作例1のフィルター部とした。該フィルター部は、内直径25mmのポリプロピレン製ディスク型カートリッジ内にセットした。
【0095】
<試作例2>
活性炭C2を主原料とする繊維状活性炭フェルト(厚み2.0mm、直径25mm、重量110mg)を作成し、試作例2のフィルター部とした。該フィルター部は、内直径25mmのポリプロピレン製ディスク型カートリッジ内にセットした。
【0096】
<試作例3>
活性炭C3を主原料とする繊維状活性炭フェルト(厚み2.0mm、直径25mm、重量100mg)を作成し、試作例3のフィルター部とした。該フィルター部は、内直径25mmのポリプロピレン製ディスク内型カートリッジにセットした。
【0097】
<試作例4>
活性炭C4を主原料とする繊維状活性炭フェルト(厚み2.0mm、直径25mm、重量90mg)を作成し、試作例4のフィルター部とした。該フィルター部は、内直径25mmのポリプロピレン製ディスク内型カートリッジにセットした。
【0098】
<試作例5>
活性炭C5を主原料とする繊維状活性炭フェルト(厚み2.0mm、直径25mm、重量90mg)を作成し、試作例5のフィルター部とした。該フィルター部は、内直径25mmのポリプロピレン製ディスク型カートリッジにセットした。
【0099】
<試作例6>
活性炭C6を主原料とする繊維状活性炭フェルト(厚み2.0mm、直径25mm、重量90mg)を作成し、試作例6のフィルター部とした。該フィルター部は、内直径25mmのポリプロピレン製ディスク型カートリッジにセットした。
【0100】
<試作例7>
活性炭C7を主原料とする繊維状活性炭フェルト(厚み2.0mm、直径25mm、重量90mg)を作成し、試作例7のフィルター部とした。該フィルター部は、内直径25mmのポリプロピレン製ディスク型カートリッジにセットした。
【0101】
<試作例8>
活性炭C8を主原料とする繊維状活性炭フェルト(厚み2.0mm、直径25mm、重量90mg)を作成し、試作例8のフィルター部とした。該フィルター部は、内直径25mmのポリプロピレン製ディスク型カートリッジにセットした。
【0102】
<試作例9>
活性炭C9を主原料とする繊維状活性炭フェルト(厚み2.0mm、直径25mm、重量70mg)を作成し、試作例9のフィルター部とした。該フィルター部は、内直径25mmのポリプロピレン製ディスク型カートリッジにセットした。
【0103】
<試作例10>
活性炭C11を2mm厚の充填層のフィルター部となるように12mlシリンジに150mg充填して、試作例10のフィルター部とした。該充填層の前後には10μm以上の粒子が通過できない焼結ポリエチレンシート(Dikma社製、以下同じ。)を配置して活性炭を固定した。
【0104】
<試作例11>
活性炭C1を2mm厚の充填層のフィルター部となるよう6mlシリンジに32mg充填して、試作例11のフィルター部とした。該フィルター部(充填層)の前後には平均気孔径10μmの焼結ポリエチレンシートを配置して活性炭を固定した。
【0105】
<試作例12>
活性炭C2を2mm厚の充填層のフィルター部となるよう6mlシリンジに30mg充填して、試作例12のフィルター部とした。該フィルター部(充填層)の前後には平均気孔径10μmの焼結ポリエチレンシートを配置して活性炭を固定した。
【0106】
<試作例13>
活性炭C3を2mm厚の充填層のフィルター部となるよう6mlシリンジに28mg充填して試作例13のフィルター部とした。該フィルター部(充填層)の前後には平均気孔径10μmの焼結ポリエチレンシートを配置して活性炭を固定した。
【0107】
<試作例14>
活性炭C6を2mm厚の充填層のフィルター部となるよう6mlシリンジに24mg充填して試作例14のフィルター部とした。該フィルター部(充填層)の前後には平均気孔径10μmの焼結ポリエチレンシートを配置して活性炭を固定した。
【0108】
<試作例15>
活性炭C9を2mm厚の充填層のフィルター部となるよう6mlシリンジに20mg充填して試作例15のフィルター部とした。該フィルター部(充填層)の前後には平均気孔径10μmの焼結ポリエチレンシートを配置して活性炭を固定した。
【0109】
<試作例16>
活性炭C10を2mm厚の充填層のフィルター部となるよう6mlシリンジに150mg充填して試作例16のフィルター部とした。なお、充填する際には、活性炭面が水平となるように疎充填を行った。該フィルター部(充填層)の前後には平均気孔径10μmの焼結ポリエチレンシートを配置して活性炭を固定した。
【0110】
<試作例17>
活性炭C11を2mm厚の充填層のフィルター部となるよう6mlシリンジ型カートリッジに180mg充填して試作例17のフィルター部とした。なお、充填する際には、活性炭面が水平となるように疎充填を行った。該フィルター部(充填層)の前後には平均気孔径10μmの焼結ポリエチレンシートを配置して活性炭を固定した。
【0111】
<試作例18>
活性炭C12を2mm厚の充填層のフィルター部となるよう6mlシリンジ型カートリッジに200mg充填して試作例18のフィルター部とした。なお、充填する際には、活性炭面が水平となるように疎充填を行った。該フィルター部(充填層)の前後には平均気孔径10μmの焼結ポリエチレンシートを配置して活性炭を固定した。
【0112】
<試作例19>
活性炭C13を2mm厚の充填層のフィルター部となるよう6mlシリンジ型カートリッジに230mg充填して試作例19のフィルター部とした。なお、充填する際には、活性炭面が水平となるように疎充填を行った。該フィルター部(充填層)の前後には平均気孔径10μmの焼結ポリエチレンシートを配置して活性炭を固定した。
【0113】
[吸着性能の測定]
試作例1~試作例10を用いて、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集効率の測定を行った。ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、今回はフルオロテロマーアルコール(以降「FTOHs」と表記する。)、ヨウ化フッ素化合物及び臭化フッ素化合物を用いて評価を行った。FTOHsは上記した化学式(iii)に表される物質であって、炭素数によって物質名が異なる。例えば、C8F17CH2CH2OHの場合は、8:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロ-1-デカノール)と命名される。N-EtFOSAは以下の化学式(vii)に表される物質である。
【0114】
【0115】
試作例1~試作例10のフィルター部が備えられたカートリッジの前段に、ポリウレタンフォーム(PUF)(柴田科学株式会社製、直径20mm、長さ50mm)が充填された20mlのシリンジ(アズワン株式会社製、直径20mm)を直結した。また、それぞれのカートリッジの後段には、サンプリングポンプ(柴田科学株式会社製、『MP-Σ500N II』)をポリプロピレンチューブを介してリークがないようにビニルテープを使用して接続した。
【0116】
各標準物質をメタノールで100ppbに希釈したものをポリウレタンフォーム(PUF)に100μl添加し、2.0L/minの速度で25℃の空気を8時間通気した。通気後、それぞれのカートリッジに15mlのジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒を用いて1滴/秒の速度で通液し、抽出液を採取した。
【0117】
該抽出液を、GC-MS/MS(「GCMS-TQ8050」、株式会社島津製作所製)を用いてMRMモードで定量測定を行い、捕集性能を確認した。
【0118】
表4~8に、試作例1~試作例10について標準物質ごとにフルオロテロマーアルコール(FTOH)に加えて、ヨウ化フッ素化合物及び臭化フッ素化合物の回収率(%)を示した。対象物質は、4:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサノール)、6:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタノール)、8:2FTOH、10:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12-ヘンイコサフルオロ-1-ドデカノール)、6:2FTI(IUPAC名:1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロ-8-ヨードオクタン)、8:2FTI(IUPAC名:1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8-ヘプタデカフルオロ-12-ヨードドデカン)、10:2FTI(IUPAC名:1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10-ヘンイコサフルオロ-12-ヨードドデカン)、PFDeI(IUPAC名:1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10-ヘンイコサフルオロ-10-ヨードドデカン)、PFDoI(IUPAC名:1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12-ペンタコサフルオロ-12-ヨードドデカン)、PFBuDiI(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4-オクタフルオロ-1,4-ジヨードブタン)、PFHxDiI(IUPAC名:IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロ-1,6-ジヨードヘキサン)、PFoDiI(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8-ヘキサデカフルオロ-1,8-ジヨードオクタン)、C8H3BrF6(IUPAC名:1-ブロモ-3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)である。
【0119】
ヨウ化フッ素化合物(FTI)は以下の化学式(viii)、PFDeI及びPFDoIは化学式(ix)、PFBuDiI、PFHxDiI及びPFoDiIは化学式(x)、臭化フッ素化合物(C8H3BrF6)は化学式(xi)に表される物質である。
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
各標準物質の回収率の評価について、回収率が70%以上のものを「◎」、70%未満かつ50%以上のものを「〇」、50%未満かつ40%以上のものを「△」、40%未満のものを「×」とした。総合評価として、各標準物質の回収率の評価のうち「〇」が7個(半数)以下、「△」ないし「×」が一つもないものを「A」、「×」が一つもないものを「B」、「×」が一つでもあるものは「C」とした。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
なお、表中、「ND」とは、検出限界以下であることを示している。
【0131】
また、PUF中に添加した各標準物質が揮発せずに残っていないかを確かめるため、PUF中の残存率(%)についても計測した。PUF中残存率が10%以下であれば、それぞれの試作例に揮発した標準物質が十分に接触したことが確認できる。
【0132】
さらに、表9~11に、半揮発性の対象物質として、エチルペルフルオロオクタンスルホアミド(IUPAC名:N-エチル-1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホアミド)(以降「N-EtFOSA」と表記する。)、N-メチルペルフルオロオクタンスルホンアミド(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロ-N-メチル-1-オクタンスルホンアミド)(以降、「N-MeFOSA」と表記する。)、N-メチルペルフルオロオクタンスルホンアミドエタノール(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロ-N-(2-ヒドロキシエチル)-N-メチル-1-オクタンスルホンアミド)(以降、「N-MeFOSE」と表記する。)及びN-エチルペルフルオロオクタンスルホンアミドエタノール(IUPAC名:N-エチル-1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロ-N-(2-ヒドロキシエチル)-1-オクタンスルホンアミド)(以降、「N-EtFOSE」と表記する。)を用いて試作例1~10の前段に装着したウレタンフォームフィルター部における回収率(%)を計測した。
【0133】
N-EtFOSAは前述の化学式(vii)、N-MeFOSAは以下の化学式(xii)に表される物質である。
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
[結果と考察]
試作例3~10については、いずれの標準物質の回収率においても良好な結果であった。試作例1及び試作例2では、検出限界以下又は非常に低い回収率であって、吸着ができておらず、十分な捕集性能を備えていないことがわかった。試作例1及び試作例2は、捕集をする為に必要な比表面積を有していないため、捕集性能が十分に発揮されなかったと推察される。
【0139】
試作例3~10については、すべての標準物質の回収率について良好な捕集結果を示し、優れた捕集性能を有していた。比表面積が900m2/g以上とすると対象物質の吸着が可能であることが示された。
【0140】
また、活性炭原料を同一とする試作例4と表面酸化物量を増加させた試作例5~8とを比較すると、試作例5~8の方が対象物質の吸着性能がより良好になることが示された。活性炭の表面酸化物量を向上させることにより、親水性基を有するFTOHとの親和性が向上し、FTOHの吸着性能が向上することが理解される。
【0141】
ウレタンフォームフィルター部について、半揮発性の対象物質について、安定して良好な回収率であることが示された。そして、すべてのフルオロテロマーアルコール類が検出限界以下であることを鑑みれば、半揮発性のペルフルオロアルキル化合物を選択的に捕集することが可能であることが示された。
【0142】
[通気性能の測定]
続いて、発明者らは、試作例11~19のフィルター部を用いて通気試験を行った。なお、充填層を2mm厚に設定したのは、充填層が2mm以下となると、カートリッジ内に均一に充填することが難しく、十分に対象物質と接触できない箇所が生じかねず、ショートパスの恐れが生ずるためである。
【0143】
試作例11~試作例19のカートリッジの前後の圧力差を計測し、圧力損失を測定することによって通気性能の評価を行った。各試作例のカートリッジの前後には差圧計の測定用ポリプロピレンチューブをリークがないようにビニルテープを使用して接続した。サンプリングポンプ(柴田科学株式会社製、『SIP-32L型』)により風量を1.0、2.0、3.0、4.0及び5.0L/minの5段階の風量で、25℃の空気を通気して各試作例のカートリッジの前後の差圧を計測した。
【0144】
表12及び表13に試作例11~試作例19のカートリッジと、焼結ポリエチレンシート2枚のみを充填し、活性炭フィルター部を備えないカートリッジを「BLANK」として、カートリッジの前後の差圧(kPa)を示した。なお、表中において、各試作例は6mlシリンジに充填されているため、5段階の風量はそれぞれ表中右欄の風速に換算される。圧力損失は風速におおよそ比例することから、それぞれの試作例のカートリッジにおいて、0.5m/secの風速における圧力損失を基準として評価した。そして、表14及び表15には、各試作例における圧力損失と「BLANK」における圧力損失との差を示し、各試作例の活性炭フィルター部における圧力損失を算出した。活性炭フィルター部における圧力損失が5kPa未満のものを「〇」、5kPa以上6kPa未満のものを「△」、6kPa以上のものを「×」として評価した。
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
[結果と考察]
試作例19においては、吸着剤である活性炭の粒子径が小さすぎて圧力損失が大きくなり、吸引ポンプの風量を4.0L/min(風速0.5m/sec)以上とすると負荷が大きくなりすぎて安全に作動することができなくなったため「-(計測不可)」となった。試作例18のカートリッジにおいては、一般の小型ポンプの性能上、問題なく稼働させることが可能な程度の圧力損失となったため、吸着剤を粒状活性炭とした場合では、平均粒子径を200μm以上とすることが望ましい。
【0150】
繊維状活性炭や平均粒子径が200μmよりも大きい粒子状活性炭を使用した試作例11~16においては、ショートパス等を考慮した十分なフィルター層の厚みであっても圧力損失がほとんどなく、小型ポンプを吸引動力源とした場合においても十分に対象物質の測定が可能であるといえる。
【0151】
[実環境下でのペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験]
上記試作例5の活性炭フィルター部を用いて、実環境下におけるペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験を行った。試作例5のフィルター部が備えられたカートリッジの前段に、ポリウレタンフォーム(PUF)(柴田科学株式会社製、直径20mm、長さ50mm)が充填された20mlのシリンジ(アズワン株式会社製、直径20mm)を直結した。また、それぞれのカートリッジの後段には、サンプリングポンプ(柴田科学株式会社製、『MP-Σ500N II』)をポリプロピレンチューブを介してリークがないようにビニルテープを使用して接続した。
【0152】
上記構成のサンプラーを発明者宅(2020年1月)のリビング及び寝室に設置した。実際の使用状況を鑑み、人の呼吸域の高さに近づけるべく、床から約140cmの高さにそれぞれ設置した。なお、本実験において、測定感度の向上のために、通気量10.0ml/minで11時間通気した。なお、発明者宅リビングの気温は12.9~23.0℃(平均22℃)、寝室の気温は12.9~23.0℃(平均22℃)の条件下であった。
【0153】
試作例5の活性炭フィルター部においては、ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、フルオロテロマーアルコール類(FTOHs)としての4:2FTOH,6:2FTOH,8:2FTOH,10:2FTOHを、ヨウ化フッ素化合物としての6:2FTI,8:2FTI,10:2FTI、PFDeI、PFDoI、PFBuDi、PFHxDiI、PFoDiIを、臭化フッ素化合物としてのC8H3BrF6の計測を行った。FTIは前出の化学式(viii)に表される物質である。なお、サロゲートとして4:2FTOH,6:2FTOH,8:2FTOH,10:2FTOHを用い、回収率(%)の測定も行った。
【0154】
ポリウレタンフォーム(PUF)よりなるウレタンフォームフィルター部においては、ペルフルオロオクタン酸類としてのN-MeFOSA、N-EtFOSA、ペルフルオロオクタンスルホン酸類としてのN-MeFOSE、N-EtFOSEを用い、回収率(%)の測定を行った。なお、サロゲートとしてN-MeFOSA、N-EtFOSA、N-MeFOSE、N-EtFOSEを用い、回収率(%)の測定も行った。
【0155】
通気後のフィルター部について、それぞれのカートリッジ及びウレタンフォームフィルター部に15mlのジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒を用いて1滴/秒の速度で通液し、抽出液を採取した。 該抽出液を、GC-MS/MS(「GCMS-TQ8050」、株式会社島津製作所製)を用いてMRMモードで定量測定を行った。
【0156】
表16に活性炭フィルター部、表17にウレタンフォームフィルター部における試料大気に対するペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度(pg/m3)を示す。ペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度は、捕集されたペル及びポリフルオロアルキル化合物(対象物質)の捕集量(pg)をサンプラーを通気した積算流量(m3)で除して求めた値であって、下記の数式(xiii)より求めた。なお、表中「BLANK」は、実験を行う前の活性炭フィルター部、ウレタンフォームフィルター部に同様の測定を行い検出された数値であり、「LOQ」は、測定装置の各物質の定量測定が可能な下限値を示す。「-」は、定量下限値以下であることを示し、「ND」は、検出限界以下であることを示している。
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
[実環境下でのペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験の結果と考察]
表16に示される活性炭フィルター部の実験結果において、開発者宅のリビング及び寝室の両場所にあっては、フルオロテロマーアルコール(FTOHs)のうち、6:2FTOH,8:2FTOH,10:2FTOHの3種が検出された。該FTOHsは、カーペットや衣類、室内装飾品に使用されていることが知られており、様々な家具が設置されたリビングや寝室において、該FTOHsが検出されたことは妥当な結果であると考えられる。また、リビングと寝室では検出された対象物質は同種であったものの、濃度に明確な差異が確認されるとともにサロゲートの回収率も良好であることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の測定に用いられるサンプラーとしての有意性が示されたということができる。さらに、10.0ml/minで11時間の通気条件下においても、高度な分析が可能であることも示された。
【0161】
表17に示されるウレタンフォームフィルター部の実験結果においては、リビング及び寝室において対象物質が検出されない結果となったが、サロゲートの回収率が良好であるため、半揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物のサンプラーとしての精度としては良好であり、測定対象のリビング及び寝室においては半揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物はほとんど存在しないと考えられる。
【0162】
以上述べたように、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する物性を有する活性炭を用いることにより、大気中の該化合物を効率良く捕集することが可能なフィルターである活性炭フィルター部を得ることができた。また、該活性炭を吸着剤とし、一定の通気性を有するフィルターを形成することにより、携帯可能で高精度の測定が可能な個人曝露測定用のペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーとすることが可能である。
【0163】
また、活性炭フィルター部の前段にウレタンフォームフィルター部が配置されることにより、半揮発性のペルフルオロアルキル化合物をウレタンフォームフィルター部において捕集し、揮発性のペル及びポリフルオロアルキル化合物を活性炭フィルター部で捕集するという分別捕集を可能にする。そして、吸着剤である活性炭の吸着性能の劣化の低減を図ることもできる。さらには、ウレタンフォームフィルター部の前段に粒子を捕集する慣性インパクター等を配置することにより、形態ごとのペル及びポリフルオロアルキル化合物のサンプリングも可能となり、包括的にペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集、測定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明の個人曝露測定用ペル及びポリフルオロアルキル化合物サンプラーは、携帯性が高いことから個人への装着を可能とし、作業環境中におけるペル及びポリフルオロアルキル化合物を、効率よく脱離可能に捕集することができるため、既存のサンプラーでは不可能であった該化合物の個人曝露量の測定を可能とした。このことから、規制対象である環境残留性有機汚染物質による作業者等の曝露量を効果的に効率よく定量評価が可能となり有意に作業者の健康障害を防止することができる。
【符号の説明】
【0165】
10 ディスク型カートリッジ
11 吸気開口部
12 本体部
20 活性炭フィルター部
21 フェルト状フィルター部