(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】触媒及びその製造方法、並びに不飽和炭化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/755 20060101AFI20241106BHJP
B01J 35/77 20240101ALI20241106BHJP
C07C 5/333 20060101ALI20241106BHJP
C07C 11/09 20060101ALI20241106BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
B01J23/755 Z
B01J35/77
C07C5/333
C07C11/09
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021556132
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2020042127
(87)【国際公開番号】W WO2021095782
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2019206232
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020159945
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】二宮 航
(72)【発明者】
【氏名】杉山 茂
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0136191(US,A1)
【文献】特表2013-509290(JP,A)
【文献】国際公開第2018/102394(WO,A1)
【文献】特開昭58-076129(JP,A)
【文献】特開2019-025378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属と炭素が担体に担持され、前記炭素が繊維状炭素を含んでいる触媒であって、
前記触媒がアルカン脱水素用触媒であり、
前記遷移金属がNiであり、
前記遷移金属に対する前記炭素の量が1000質量%以上2500質量%以下であることを特徴とする触媒。
【請求項2】
前記遷移金属に対する前記炭素の量が1000質量%以上2300質量%以下である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記担体が、シリカ、アルミナ、ジルコニア、及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記担体が、γ-アルミナである、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項5】
遷移金属化合物を含む溶液と担体を混合し、加熱して溶媒を除去して、触媒前駆体を得る工程と、
前記触媒前駆体に、炭素含有ガスを接触させ、遷移金属と炭素が担持された触媒を形成する工程と、
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の触媒を製造する方法であって、
前記触媒が、アルカン及び二酸化炭素を含む混合ガスを該触媒に接触させて、前記アルカンから不飽和炭化水素を製造する不飽和炭化水素製造用触媒であり、
前記触媒を形成する工程において、前記触媒前駆体に、炭素含有ガスを接触させることで、繊維状炭素を形成し、該繊維状炭素を含む前記炭素と前記遷移金属が担持された触媒を形成する、触媒の製造方法。
【請求項6】
前記触媒前駆体を得る工程は、遷移金属化合物を溶解した溶液と担体を混合し、加熱して溶媒を蒸発して固体を得る工程と、該固体を粉砕して、粉末状の触媒前駆体を得る工程を含む、請求項5に記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
前記炭素含有ガスが炭化水素を含む、請求項5又は6に記載の触媒の製造方法。
【請求項8】
前記炭化水素が、炭素数2~5のアルカンである、請求項7に記載の触媒の製造方法。
【請求項9】
前記炭化水素がイソブタンである、請求項7に記載の触媒の製造方法。
【請求項10】
前記炭素含有ガスに対する前記炭化水素の体積比率が1容量%以上30容量%以下である、請求項7から9のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項11】
前記触媒前駆体に前記炭素含有ガスを接触させる際の温度が300℃以上1000℃以下である、請求項5から10のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項12】
前記触媒前駆体に前記炭素含有ガスを接触させる際の炭素含有ガスの供給速度に対する触媒前駆体量の比(W/F)が0.03g・min/ml以上0.5g・min/ml以下である、請求項5から11のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項13】
前記触媒前駆体に、前記炭素含有ガスを接触させる代わりに、炭素含有ガスを含まない水素を含むガスを接触させることにより水素還元処理を行った後の前記触媒前駆体上の遷移金属の結晶子径に対する、前記触媒に担持された遷移金属の結晶子径の比が0.80以下である、請求項5から12のいずれか一項に記載の触媒の製造方法。
【請求項14】
前記水素還元処理において、
炭素含有ガスを含まない水素を含む前記ガスが、ヘリウム80体積%と水素20体積%を含むガスであり、
前記触媒前駆体に前記ガスを接触させる際の前記ガスの供給速度に対する触媒前駆体量の比(W/F)が0.0042g・min/mlであり、
前記ガスの流通時間が5時間である、請求項13に記載の触媒の製造方法。
【請求項15】
請求項1から4のいずれか一項に記載の触媒に、アルカン及び二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、前記アルカンから不飽和炭化水素を製造する、不飽和炭化水素の製造方法。
【請求項16】
前記混合ガスにおいて、前記アルカンに対する前記二酸化炭素のモル比が0.1以上1.9以下である、請求項
15に記載の不飽和炭化水素の製造方法。
【請求項17】
前記アルカンが炭素数2~5のアルカンである、請求項
15又は
16に記載の不飽和炭化水素の製造方法。
【請求項18】
前記アルカンがイソブタンである、請求項
15又は
16に記載の不飽和炭化水素の製造方法。
【請求項19】
前記触媒に前記混合ガスを接触させる際の温度が300℃以上1000℃以下である、請求項
15から
18のいずれか一項に記載の不飽和炭化水素の製造方法。
【請求項20】
前記触媒に前記混合ガスを接触させる際の混合ガスの供給速度に対する触媒量の比(W/F)が0.001g・min/ml以上1000g・min/ml以下である、請求項
15から
19のいずれか一項に記載の不飽和炭化水素の製造方法。
【請求項21】
請求項5から
14のいずれか一項に記載の製造方法によって触媒を製造し、引き続き、得られた触媒に、アルカン及び二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、前記アルカンから不飽和炭化水素を製造する、不飽和炭化水素の製造方法。
【請求項22】
遷移金属化合物が担体に担持された触媒前駆体に、炭素含有ガスを接触させて、前記触媒前駆体に繊維状炭素を含む炭素を担持させ、遷移金属と繊維状炭素を含む炭素が担持された、請求項1から4のいずれか一項に記載の触媒を形成する工程と、
得られた触媒に、アルカン及び二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、前記アルカンから不飽和炭化水素を製造する工程を含む、不飽和炭化水素の製造方法。
【請求項23】
前記混合ガスにおいて、前記アルカンに対する前記二酸化炭素のモル比が0.1以上1.9以下である、請求項
21又は
22に記載の不飽和炭化水素の製造方法。
【請求項24】
前記触媒前駆体に前記炭素含有ガスを接触させる際の温度が300℃以上1000℃以下である、請求項
22又は
23に記載の不飽和炭化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒及びその製造方法、並びに不飽和炭化水素の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカンを脱水素化してアルケンを製造する方法は一般に知られており、この脱水素化のための種々の触媒が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定のγ-アルミナ担体に特定量の酸化亜鉛を担持してなる複合担体に、ニッケル及びスズが担持されている脱水素触媒が記載されている。そして、この脱水素触媒を用いて、イソブタンを脱水素してイソブチレン(イソブテン)を製造する例が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、特定のゼオライト担体上に、亜鉛及び周期律表第VIIIA属金属が担持された触媒が記載されている。そしてこの触媒の存在下で、炭化水素を脱水素して不飽和炭化水素を製造する方法が記載されている。実施例として、この触媒を用いて、n-ブタンを脱水素してブテン(1-ブテン、2-ブテン、イソブテン)を製造する例が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、水中にケイ酸塩を分散させる工程(a)と、クロム元素を添加する工程(b)と、工程(a)又は工程(b)の後に、界面活性剤を添加し、50~150℃の温度で1~20時間熱処理する工程(c)と、200~700℃の温度で1~10時間熱処理する工程(d)と、を含む酸化脱水素触媒の製造方法が記載されている。そして、得られた触媒を、アルカン及び酸素を特定の混合比で含む混合ガスに接触させて、アルカンからアルケンを製造する方法が記載されている。実施例として、この触媒を用いて、イソブタンからイソブチレン(イソブテン)を製造する例が記載されている。
【0006】
また、特許文献4には、炭化水素転換プロセスにおいて、遷移金属が担体に担持された触媒に対して、前処理を行うことが記載されているが、その前処理の時間は30分から90分間と短いもので、遷移金属の凝集を抑制できるものではなく、高い選択率を実現できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-75732号公報
【文献】特開2013-163647号公報
【文献】特開2014-140827号公報
【文献】特表2018-520858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アルカンの脱水素により不飽和炭化水素を製造する方法において、生産性が高いことが望ましく、そのためにはより高い選択率で得ることが求められる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記事情に鑑みた課題を解決することにあり、すなわち、アルカンの脱水素において高い選択率で不飽和炭化水素を製造することができる触媒及びその製造方法、並びに不飽和炭化水素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、遷移金属と炭素が担体に担持され、前記炭素が繊維状炭素を含んでいることを特徴とする触媒が提供される。
【0011】
本発明の他の態様によれば、
遷移金属化合物を含む溶液と担体を混合し、加熱して溶媒を除去して、触媒前駆体を得る工程と、
前記触媒前駆体に、炭素含有ガスを接触させ、遷移金属と炭素が担持された触媒を形成する工程と、
を含む、触媒の製造方法であって、
前記触媒を形成する工程において、前記触媒前駆体に、炭素含有ガスを接触させることで、繊維状炭素を形成し、担持する、触媒の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の他の態様によれば、
上記の触媒を、アルカン及び二酸化炭素を含む混合ガスに接触させて、前記アルカンから不飽和炭化水素を製造する、不飽和炭化水素の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の他の態様によれば、
上記の触媒の製造方法によって触媒を製造し、引き続き、得られた触媒に、アルカン及び二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、前記アルカンから不飽和炭化水素を製造する、不飽和炭化水素の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の他の態様によれば、
遷移金属化合物が担体に担持された触媒前駆体に、炭素含有ガスを接触させて、前記触媒前駆体に繊維状炭素を含む炭素を担持させ、遷移金属と繊維状炭素を含む炭素が担持された触媒を形成する工程と、
得られた触媒に、アルカン及び二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、前記アルカンから不飽和炭化水素を製造する、不飽和炭化水素の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アルカンの脱水素において高い選択率で不飽和炭化水素を製造することができる触媒及びその製造方法、並びに不飽和炭化水素の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例2の触媒のSEM画像である。
【
図2】
図1のSEM画像に格子状の分割線を示したSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態による触媒及びその製造方法、並びにアルカンから不飽和炭化水素(好ましくはアルケン)を製造する方法について詳細に説明する。
【0018】
(触媒)
本発明の実施形態による触媒は、遷移金属が担持された担体に炭素が担持された触媒である。
この触媒は、アルカンの脱水素により不飽和炭化水素を形成する反応において触媒活性を有する固体触媒である。後述のアルカンから不飽和炭化水素を製造する方法において、アルカンの脱水素により不飽和炭化水素(好ましくはアルケン)を形成する反応の触媒として好適である。
【0019】
この触媒において、遷移金属と炭素が担持される担体としては、特段の制限はなく、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でもアルミナが好ましく、特にγ-アルミナが好ましい。
【0020】
担体の粒径は適宜選択できるが、得られた触媒を充填した反応器(例えば反応管)の触媒層での圧力損失が過度に大きくならないように粒径を調整することが好ましい。触媒層での圧力損失を抑えながら、触媒の表面積を確保する点から、担体の粒径はできるだけ小さいことが好ましく、日本産業規格(JIS)によるメッシュを用いた場合、3.5メッシュ(目開き5.6mm)以上であることが好ましく、8.6メッシュ(目開き2.0mm)以上であることが特に好ましい。一方、微粒分は取り扱いが難しく、また反応器に充填した際の圧力損失の増加による反応性への影響の観点から、635メッシュ(目開き20μm)以下であることが好ましく、280メッシュ(目開き53μm)以下であることが特に好ましい。
【0021】
本発明の実施形態による触媒は、粉末状態で反応器(例えば反応管)へ充填することができる。その際、触媒層での圧力損失が過度に大きくならないように粒径を調整することが好ましい。触媒層での圧力損失を抑えながら、触媒の表面積を確保する点から、触媒の粒径はできるだけ小さいことが好ましい。また、触媒層での圧力損失を抑える点から、触媒を他の材料と混合してもよいし、成形した後に充填してもよい。他の材料としては、触媒に不活性で且つ触媒性能を劣化させない充填剤(シリカボール、アルミナボール)を用いることができる。また、成形は、得られた触媒に、その触媒性能を劣化させないバインダーを添加、混練し、加熱して燒結することができる。バインダー(燒結剤)としては、シリカ系、アルミナ系、ジルコニア系、珪藻土系が挙げられる。また成形後の形状は、タブレットや、ペレット、球状、押し出し状が挙げられる。成形することにより、強度と取り扱い性を高めることができる。
【0022】
担体に担持する遷移金属としては、モリブデン、タングステン、クロム、ニッケル、鉄、貴金属(Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)、バナジウム、マンガン、亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることができ、複数種を用いてもよい。これらの中でも、コスト及び触媒性能の点から、ニッケル(Ni)が好ましい。
【0023】
担体に担持する遷移金属の量は、触媒として良好な活性を発現する観点から、担体に対して1.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましい。担体に担持する遷移金属の量を1.0質量%以上とすることにより、活性点として存在する遷移金属粒子が担体表面に保持されやすくなるので、アルカンの転化率を高めることができる。また、担体に担持する遷移金属の量を30.0質量%以下とすることにより、担体に担持された遷移金属粒子が凝集するのをより抑制することができ、活性点の表面積を大きく維持でき、アルカンの転化率及び該アルカンに対応するアルケンの選択率を高めることができる。上記のなかでも、担体に担持する遷移金属の量は、3.0質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以上であることがさらに好ましく、10.0質量%以上であることが特に好ましく、15.0質量%以上であることが最も好ましく、一方、28.0質量%以下であることがより好ましく、25.0質量%以下であることがさらに好ましく、23.0質量%以下であることが特に好ましい。なお、本発明において担体に担持される遷移金属の量は蛍光X線分析測定により測定することができる。
【0024】
本実施形態の触媒は、上述の通り、遷移金属に加えて、さらに繊維状炭素を含む炭素を担持している。触媒が、繊維状炭素を含む炭素を担持することによりアルカンの脱水素反応においてアルカンの転化率及び該アルカンに対応するアルケンの選択率を向上することができる。この理由は明らかではないが、下記の理由が考えられる。
【0025】
通常の金属担持触媒では、一般的に担体上の金属粒子が反応の進行とともに、凝集し粗大粒子となることで活性点の表面積低下による反応性の低下、及び活性点の構造変化による選択率低下が引き起こされる。しかしながら、遷移金属に加えて、予め特定量の繊維状炭素を含む炭素を担持させておくことにより、繊維状炭素を含む炭素の存在により反応中に熱や振動による遷移金属どうしの凝集を抑制することができるため、良好な活性点を保持することができ、アルカンの選択率及び該アルカンに対応するアルケンの選択率、さらに不飽和炭化水素の選択率が向上するものと思われる。なお、本発明において、走査電子顕微鏡(SEM)により観察した際に、繊維状に伸びた炭素(いわゆる細長い形状に存在する炭素)を繊維状炭素と称すものとする。繊維状に伸びた炭素の断面形状(長手方向に垂直な断面の形状)は、円形、楕円形、三角形、四角形、多角形等のいずれでもよく、不定形であってもよく、薄い板状になっていてもよい。また、断面の平均直径に対する繊維状炭素の長さの比も特に制限はない。また、繊維状炭素は、屈曲していてもよく直線的に伸びていてもよく、枝分れしていてもよい。
【0026】
担体に担持される繊維状炭素を含む炭素の量は、担持されている遷移金属に対して510質量%以上であることが好ましく、2500質量%以下であることが好ましい。担体に担持される繊維状炭素を含む炭素の量が担持されている遷移金属に対して550質量%以上であれば、遷移金属粒子を固定化させる効果が得やすくなるために反応中に遷移金属粒子が凝集するのを抑制できやすくなる。その結果、アルカンの転化率及び該アルカンに対応するアルケンの選択率を高めることができる。担体に担持されている炭素には繊維状炭素が含まれていればよく、繊維状炭素を含む炭素の量がこのような範囲にあれば、より十分な上記効果を得ることができる。担体に担持された炭素に繊維状炭素が含まれていること(担体に担持された繊維状炭素が存在していること)は、走査電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。SEMにより得られた観察画像を均等な格子で12分割し、各格子内に繊維状炭素の存在が確認できる程度に担体上に繊維状炭素が形成されていることが好ましい。
一方、担体に担持される繊維状炭素を含む炭素の量が担持されている遷移金属に対して2500質量%以下であれば、遷移金属粒子が過剰量の炭素に被覆され触媒活性を妨げることをより防ぐことができ、アルカンの転化率及び該アルカンに対応するアルケンの選択率を高めることができる。
上記のなかでも、担体に担持される繊維状炭素を含む炭素の量は、担持されている遷移金属に対して700質量%以上であることがさらに好ましく、1000質量%以上であることが特に好ましく、一方、2300質量%以下であることがさらに好ましく、2000質量%以下であることが特に好ましい。
なお、本発明において、担体に担持される繊維状炭素を含む炭素の量は、熱重量・示差熱同時測定(TG-DTA)を用いて1000℃まで昇温し、その際の重量減少から担持されている炭素量の測定を行うことができる。なお、後述の実施例においては、200℃まで加熱した際の重量減少は吸着した水の脱離によるものであるため、200℃から1000℃までの昇温過程での重量減少量を担持した繊維状炭素を含む炭素によるものとして計算した。
【0027】
遷移金属が担持された担体に担持された繊維状炭素は、繊維状炭素の平均直径が20nm以上100nm以下であることが好ましい。繊維状炭素の平均直径が20nm以上であれば、反応中、遷移金属粒子の凝集をより防ぐことができ、アルカンの転化率及び該アルカンに対応するアルケンの選択率をより向上させることができる。一方、繊維状炭素の平均直径が100nm以下であれば、繊維状炭素による遷移金属粒子の被覆をより抑制でき、触媒活性の低下を防ぎやすくなる傾向がある。なかでも、繊維状炭素の平均直径は、25nm以上であることがさらに好ましく、30nm以上であることが特に好ましく、一方、95nm以下であることがさらに好ましく、90nm以下であることが特に好ましい。
なお、本発明において繊維状炭素の平均直径とは、走査電子顕微鏡(SEM)により得られた観察画像を均等な格子で12分割し、各格子内から、その繊維状炭素の最も直径が大きい箇所と、最も直径が小さい箇所を選び、直径代表値とし、繊維状炭素の直径代表値の平均値を繊維状炭素の平均直径とする。
【0028】
(触媒の製造方法)
本発明の実施形態による触媒の製造方法は、遷移金属化合物を含む溶液と担体を混合し、加熱して溶媒を除去して、触媒前駆体を得る工程と、この触媒前駆体に、炭素含有ガスを接触させ、遷移金属と炭素が担持された触媒を形成する工程を有する。前記触媒前駆体に、炭素含有ガスを接触させることで、繊維状炭素を形成でき、担持することができる。
【0029】
前記触媒前駆体を得る工程は、遷移金属化合物を溶解した溶液と担体を混合し、加熱して溶媒を蒸発して固体を得る工程と、該固体を粉砕して、粉末状の触媒前駆体を得る工程を含むことができる。
【0030】
触媒前駆体を得る工程では、担持する遷移金属を含む遷移金属化合物を溶媒に溶解させて溶液を調製し、この溶液中へ担体を添加して、遷移金属化合物と担体を含む混合液を得ることができる。なお、本発明において添加は混合の1種であるが、添加後にさらに混合しても良いことを意味するものとする。
【0031】
触媒前駆体を得る工程に用いる担体としては、前述の、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの中でもアルミナが好ましく、特にγ-アルミナが好ましい。
【0032】
続いて、遷移金属化合物と担体を含む混合液を加熱して溶媒を蒸発して、遷移金属が担体に担持された触媒前駆体を固体として得ることができる。得られた触媒前駆体(固体)を粉砕することで、粉末状の触媒前駆体を得ることができる。
【0033】
得られた触媒前駆体は、例えば20℃以上200℃以下で、例えば1時間以上20時間以下の乾燥処理を行うことができる。この乾燥処理の温度は、60℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましく、一方、120℃以下がより好ましい。この乾燥処理の時間は、5時間以上がより好ましく、一方、15時間以下がより好ましい。
【0034】
また、得られた触媒前駆体は、例えば300℃以上1000℃以下の高温下で、例えば2時間以上30時間以下の熱処理(焼成)を行ってもよい。この熱処理(焼成)の温度は、400℃以上がより好ましく、一方、800℃以下がより好ましい。この熱処理(焼成)の時間は、3時間以上がより好ましく、一方、12時間以下がより好ましい。
【0035】
得られた粉末状の触媒前駆体は、粉末状態で反応器(例えば反応管)へ充填することができる。その際、触媒前駆体相での圧力損失が過度に大きくならないように粒径を調整することが好ましい。触媒前駆体相での圧力損失を抑えながら、触媒前駆体の表面積を確保する点から、触媒前駆体の粒径はできるだけ小さいことが好ましい。
また、触媒前駆体相での圧力損失を抑える点から、触媒前駆体を他の材料と混合してもよいし、成形した後に充填してもよい。他の材料としては、触媒に不活性で且つ触媒性能を劣化させない充填剤(シリカボール、アルミナボール)を用いることができる。また、成形は、触媒前駆体に、最終的に得られた触媒の性能を劣化させないバインダーを添加、混練し、加熱して燒結することができる。バインダー(燒結剤)としては、シリカ系、アルミナ系、ジルコニア系、珪藻土系が挙げられる。また成形後の形状は、タブレットや、ペレット、球状、押し出し状が挙げられる。成形することにより、強度と取り扱い性を高めることができる。
【0036】
次に、得られた触媒前駆体に、炭素含有ガスを接触させる。これにより、炭素含有ガスの酸化反応により炭素化される。また、それと同時に、触媒前駆体上に酸化状態で存在する遷移金属(遷移金属酸化物)を還元することで、遷移金属酸化物の還元と同時に炭素が担持され、遷移金属と炭素が担持された触媒(アルカン脱水素用触媒)を形成することができる。この際、遷移金属酸化物の還元と炭素の担持を同時に行うことができるため、遷移金属酸化物の還元の際、遷移金属酸化物間に炭素が生成し、遷移金属結晶子の凝集が抑制できる。
【0037】
触媒(の担体)上に担持した遷移金属の結晶子径は、炭素含有ガスを接触させない場合の結晶子径に対する、炭素含有ガスの接触後の遷移金属の結晶子径の比として、あるいは担体に担持された炭素が繊維状炭素を含んでいない場合の前記担体に担持された遷移金属の結晶粒子径に対する、前記繊維状炭素を含んでいる場合の前記遷移金属の結晶子径の比として、0.80以下であることが好ましく、さらに0.00を超え、0.60以下であることが好ましく、0.20以上、0.50以下であることがさらに好ましい。この範囲に入るよう、以下に示す条件を適宜調整することが可能である。
また、担体上に担持した遷移金属結晶子径の測定においては、触媒の粉末X線解析測定を行い、得られた結果から遷移金属結晶子に帰属されるピークを用いてシェラーの式から算出することが可能である。本発明においては、粉末X線解析測定はSmartLab/R/INP/DX(株式会社リガク製)を用いた。測定条件は、X線源としてCu-Kα線を用い、管電圧45kV、管電流150mAで行った。また、例えば、遷移金属としてNiが使われる場合は、2θ=44°の(112)面に帰属されるピークを用いて算出することが可能である。
触媒(の担体)に担持された遷移金属の結晶子径の比の基準は、前述の通り、触媒前駆体に炭素含有ガスを接触させない場合の遷移金属の結晶子径、あるいは担持された炭素が繊維状炭素を含んでいない場合の前記担体に担持された遷移金属の結晶粒子径とすることができる。このような基準とする結晶子径は、触媒前駆体に水素還元処理(炭素含有ガスを含まない水素を含む前処理ガスに接触)を行った場合の遷移金属の結晶子径とすることが好ましい。特に後述の比較例3の条件で触媒前駆体に水素還元処理(炭素含有ガスを含まない水素を含む前処理ガスに接触)を行った後の担体に担持された遷移金属の結晶粒子径を基準とすることが好ましい。
【0038】
この炭素含有ガスは、触媒前駆体に担持させる炭素の供給源(炭素源)として、炭化水素を含むことが好ましい。この炭化水素としては炭素数2~5のアルカンが好ましい。炭素数が2~5のアルカンとしては、エタン、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタンが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。
触媒を製造する工程と、得られた触媒を用いてアルカンを脱水素して不飽和炭化水素を製造する工程とを連続して行う場合は、炭素担持用の炭素源と、脱水素反応のアルカン原料とが異なる炭化水素であってもよいし、同じ炭化水素であってもよいが、プロセスの簡略化の観点から、同じ炭化水素であることが好ましい。この場合の炭素源およびアルカン原料としては、上記の炭素数2~5のアルカン(例えば、エタン、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン)が好ましく、イソブタンがより好ましい。
【0039】
この炭素含有ガスは、炭素源の他に、ヘリウム、窒素等の不活性ガスを含んでいてもよい。
【0040】
炭素含有ガスに含まれる炭素源(好ましくは炭化水素)の濃度(炭素含有ガスに対する炭素源の体積比率)は、1容量%以上、30容量%以下であることが好ましく、なかでも、5容量%以上であることが特に好ましく、一方、20容量%以下であることが特に好ましい。炭素源の濃度が1容量%以上であることにより、十分な量の炭素をより良好に担持することができ、不飽和炭化水素の選択率をより高めることができる。また、炭素源の濃度が30容量%以下であることにより、過剰な炭素の担持をより容易に制御でき、アルカン転化率および不飽和炭化水素の選択率の低下をより十分に抑制することができる。
【0041】
触媒前駆体に炭素を担持する工程における温度(触媒前駆体に炭素含有ガスを接触させる際の温度)は、300℃以上、1000℃以下であることが好ましく、なかでも、400℃以上であることが特に好ましく、一方、700℃以下であることがさらに好ましく、600℃以下であることが特に好ましい。この炭素担持工程の温度が300℃以上であることにより、より十分な炭素担持量を得ることができる。また、この炭素担持工程の温度が1000℃以下であることにより、炭素源のアルカンの熱分解反応による炭素担持量の低下及び触媒活性低下をより十分に抑制することができる。
【0042】
触媒前駆体に炭素を担持する工程における圧力(触媒前駆体に炭素含有ガスを接触させる際の圧力)は、使用する炭素含有ガスの種類により適宣選択することができるが、0.01MPa以上1MPa以下であることが好ましい。該圧力を0.01MPa以上とすることにより減圧下での担体上の成分脱離を抑制しやすくすることができる。また、該圧力を1MPa以下とすることにより加圧による反応性の増大をより十分に防ぐことができ、担体への炭素の担持量が過剰になるのを防ぐことができる。上記のなかでも、0.8MPa以下であることがさらに好ましく、0.5MPa以下であることが特に好ましく、一方、0.05MPa以上であることがさらに好ましい。なお、該圧力は大気圧(0.101MPa)であってもよい。
【0043】
触媒前駆体に炭素含有ガスを接触させる方法としては、触媒前駆体を充填した反応器(例えば反応管)に、炭素含有ガスを流通させる固定床流通式反応方式で行うことができる。
【0044】
触媒前駆体に炭素含有ガスを接触させる際のW/Fは、0.03g・min/ml以上0.5g・min/ml以下であることが好ましい。
なお、Wは反応管内に充填された触媒前駆体の質量(g)であり、Fは触媒前駆体が充填された反応管内へ流通させる炭素含有ガスの流通速度(ml/min)である。すなわち、W/Fは、反応器内に流れる炭素含有ガスの流通速度に対する反応管内に充填された触媒前駆体の質量であり、以下の式で表される。
【0045】
W/F=(反応管内に充填された触媒前駆体量[g])/(反応管内に流れる炭素含有ガスの流通速度[ml/min])
【0046】
W/Fを0.03g・min/ml以上とすることにより、炭素の担持量が不十分となるのを防ぐことができる。また、W/Fを0.5g・min/ml以下とすることにより炭素担持量が過剰になるのを防ぐことができる。上記のなかでも、W/Fは、0.05g・min/ml以上であることが特に好ましく、一方、0.2g・min/ml以下であることが特に好ましい。
【0047】
(アルカンから不飽和炭化水素を製造する方法)
本発明の実施形態による不飽和炭化水素の製造方法では、本発明による触媒を、アルカン及び二酸化炭素を含む混合ガス(以下適宜「反応ガス」ともいう)に接触させて、アルカンから不飽和炭化水素を製造する。
【0048】
アルカンの脱水素反応に使用するアルカン原料としては、特に制限はないが、炭素数が2~5のアルカンが好ましい。炭素数が5以下であることにより、分解反応による低炭素数の副生成物の発生を抑制することができる。炭素数が2~5のアルカンとしては、エタン、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタンが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。脱水素反応によって、エタンからはエチレンが、プロパンからはプロピレンが、n-ブタンからはブタジエンが、イソブタンからはイソブテンが、n-ペンタンからはペンテンが、イソペンタンからはイソプレンが主に生成する。
【0049】
本発明の実施形態による製造方法では、上述したアルカンの脱水素反応を行い、対応する不飽和炭化水素を製造する。この脱水素反応は、アルカン及び二酸化炭素を含む混合ガス(反応ガス)を本発明による触媒に接触させることで行う。この混合ガス(反応ガス)に含まれる、アルカンに対する二酸化炭素のモル比は0.1以上1.9以下であることが好ましく、この中でも0.25以上であることがより好ましく、一方、1.6以下であることがより好ましい。このモル比が0.1より小さい場合、二酸化炭素の濃度が低いため、反応性が低下する傾向がある。一方、このモル比が1.9より大きい場合、二酸化炭素の濃度が高いため、選択性が低下する傾向がある。
【0050】
この混合ガス(反応ガス)は、アルカン及び二酸化炭素以外に、本発明による効果を阻害しない範囲で、ヘリウム、窒素等の不活性ガスや、水蒸気(水)、メタン、水素などを含んでもよい。
【0051】
この混合ガス(反応ガス)中のアルカンの濃度は、1容量%以上30容量%以下であることが好ましく、この中でも1容量%以上がより好ましく、5容量%以上がさらに好ましく、一方、20容量%以下がより好ましい。アルカンの濃度が1容量%以上であることにより、アルカンの転化率向上による不飽和炭化水素の選択性低下をより抑制することができる。また、アルカンの濃度が30容量%以下であることにより、アルカンの転化率の低下をより抑制することができる。
【0052】
アルカンの脱水素反応の温度(触媒に前記混合ガスを接触させる際の温度)は、300℃以上1000℃以下であることが好ましく、400℃以上がより好ましく、一方、700℃以下がより好ましく、600℃以下がさらに好ましい。この脱水素反応の温度が300℃以上であることにより、より十分な触媒活性を得ることができる。また、この脱水素反応の温度が1000℃以下であることにより、アルカンの熱分解反応による不飽和炭化水素の選択率低下及び触媒活性低下をより抑制することができる。
【0053】
アルカンの脱水素反応における圧力は、反応に使用するアルカンの種類により適宣選択することができるが、通常は1MPa以下に設定でき、0.01MPa以上1MPa以下であることが好ましい。この中でも該圧力は0.8MPa以下がより好ましく、0.5MPa以下がさらに好ましく、一方、0.05MPa以上がより好ましく、0.1MPa以上がさらに好ましい。なお、該圧力は大気圧(0.101MPa)であってもよい。該圧力を0.01MPa以上とすることで、反応中、触媒上の活性点とアルカンの接触がより適切に行われ、アルカンの選択率が向上しやすくなる。また、該圧力を1MPa以下とすることにより、反応ガス中のアルカン及び生成した不飽和炭化水素が触媒上の活性点と過剰に接触することにより引き起こされる暴走反応をより抑制できるとともに、対応するアルケンの選択率を高めることができる。
【0054】
本発明の実施形態による不飽和炭化水素の製造方法で用いられる反応形式は、特に限定されず、触媒反応に使用されている通常の形式を採用することができる。例えば、固定床、移動床、流動床などの反応形式が挙げられる。これらのなかでも、装置が比較的簡便でプロセス設計も容易である点から、固定床方式を好適に採用することができる。すなわち、本発明の実施形態による不飽和炭化水素の製造方法において、アルカンの脱水素反応は、本発明による触媒を充填した反応器(例えば反応管)に、原料のアルカン、二酸化炭素等を含む混合ガス(反応ガス)を流通させる固定床流通式反応方式で行うことができる。
【0055】
アルカンの脱水素反応におけるW/Fは、0.001g・min/ml以上1000g・min/ml以下であることが好ましい。該W/Fは、0.01g・min/ml以上がより好ましく、一方、100g・min/ml以下であることがより好ましい。
なお、Wは反応管内に充填された触媒質量(g)であり、Fは触媒が充填された反応管内へ流通させるアルカン及び二酸化炭素を含む混合ガス(反応ガス)の流通速度(ml/min)である。すなわち、W/Fは、反応管内に流れる混合ガス(反応ガス)の流通速度に対する反応管内に充填された触媒質量であり、以下の式で表される。
【0056】
W/F=(反応管内に充填された触媒量[g])/(反応管内に流れる混合ガスの流通速度[ml/min])
【0057】
該W/Fが0.001g・min/ml以上であることにより、触媒に対するアルカンの反応時間をより確保することができ、アルカンの転化率を向上することができる。また、該W/Fが1000g・min/ml以下であることにより、触媒に対するアルカンの反応時間が過剰になることをより防ぐことができ、さらに生成したアルケンが触媒上で反応し、二酸化炭素になることによる選択率の低下をより防ぐことができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
まず、次のようにして、触媒(Ni-C/γ-Al2O3触媒)を作製した。
γ-Al2O3に対するNiの仕込み量が20質量%となるように、水15質量部に、硝酸ニッケル・6水和物(和光純薬工業株式会社)を3.89質量部加え溶解させて水溶液を得た。
その後、この水溶液に、γ-Al2O3(日本軽金属株式会社)を4質量部加えて混合した。次いで、この混合物を加熱し、水を蒸発させ固体を得た。得られた固体を粉砕し、110℃で12時間真空乾燥した。
粉砕後の固体を、さらに550℃で1時間焼成(昇温速度1℃/分)を行った。得られた固体を再度、粉砕し、粉末状の触媒前駆体1(ニッケルが担持されたγ-Al2O3)を得た。
【0060】
得られた触媒前駆体1を、固定床流通式の反応装置に設置された、直径9mm、長さが35mmの石英製の反応管内に詰め、ヘリウムを流通させながら550℃まで加熱した。その後、ヘリウム85.8体積%、イソブタン14.2体積%を含む前処理ガスをW/Fが0.12g・min/mlとなるように各条件を設定した。このようにして、前処理ガスを反応管内に3時間流通し、触媒前駆体1に炭素が担持されたNi-C/γ-Al2O3触媒を得た。
また、得られた触媒(Ni-C/γ-Al2O3触媒)の粉末X線解析測定を行った。X線解析測定は、SmartLab/R/INP/DX(株式会社リガク製)を用いた。測定条件は、X線源としてCu-Kα線を用い、管電圧45kV、管電流150mAで行った。Niの結晶子径算出には、2θ=44°の(112)面に帰属されるピークを用いて算出した。
【0061】
次に、この触媒を用いて、以下のようにしてイソブタンからイソブテンを製造した。
上記のようにして得られた触媒をそのまま反応管に充填した状態で、ヘリウム73.7体積%、イソブタン14.2体積%、二酸化炭素12.1体積%に調整した反応ガスを流通した。その際、W/Fが0.017g・min/mlとなるように各条件を設定した。
反応ガスの流通を開始して6時間後の反応管出口ガスをガスクロマトグラフィーで測定し、イソブタン転化率、イソブテン選択率およびイソブテン収率を求めた。結果を表1に示す。
【0062】
なお、「W/F」は以下の式で表される。
W/F=反応管に充填された触媒前駆体もしくは触媒の量(g)/反応管内へ供給される炭素含有ガスもしくは反応ガスの供給速度(ml/min)
【0063】
また、イソブタン転化率、イソブテン選択率およびイソブテン収率は以下の式で表される。
イソブタン転化率(%)=(反応したイソブタンのモル数)/(供給したイソブタンのモル数)
イソブテン選択率(%)=(製造したイソブテンのモル数)/(反応したイソブタンのモル数)
イソブテン収率(%)=(製造したイソブテンのモル数)/(供給したイソブタンのモル数)
【0064】
(実施例2)
前処理ガスの流通時間を5時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で触媒(Ni-C/γ-Al
2O
3触媒)を作製し、続いて実施例1と同様の方法によりイソブテンの製造を行った。
また、得られた触媒(Ni-C/γ-Al
2O
3触媒)を熱重量・示差熱同時測定(TG-DTA)を用いて1000℃まで昇温し、その際の重量減少から担持されている炭素量の測定を行った。なお、この際の重量変化では、200℃まで加熱した際の重量減少は吸着した水の脱離によるものであったため、200℃から1000℃までの昇温過程での重量減少量を担持した炭素によるものとして計算した。続いて、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて触媒の炭素は繊維状炭素となっていることを確認した(
図1及び
図2にSEM画像を示す)。繊維状炭素の平均直径は、41.9nmであった。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例3)
前処理ガスの流通時間を7時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法で触媒(Ni-C/γ-Al2O3触媒)を作製し、続いて実施例1と同様の方法によりイソブテンの製造を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
前処理ガスを流通させなかったこと以外は、実施例1と同様の方法によりNi/γ-Al2O3触媒を作製し、続いて実施例1と同様の方法によりイソブテンの製造を行った。結果を表1に示す。
【0067】
(比較例2)
前処理ガスをヘリウム80.0体積%、水素20.0体積%を含むガスに変更し、W/Fを0.0042g・min/mlとし、前処理ガスの流通時間を1時間となるように各条件を変更した以外は、実施例1と同様の方法によりNi/γ-Al2O3触媒を作製し、続いて実施例1と同様の方法でイソブテンの製造を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(比較例3)
前処理ガスの流通時間を5時間に変更した以外は、比較例2と同様の方法によりNi/γ-Al2O3触媒を作製し、続いて実施例1と同様の方法でイソブテンの製造を行った。
結果を表1に示す。
【0069】
(比較例4)
前処理ガスの流通時間を1時間に変更した以外は、実施例1と同様の方法によりNi/γ-Al2O3触媒を作製し、続いて実施例1と同様の方法でイソブテンの製造を行った。
結果を表1に示す。
【0070】