(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ガス穴の設計方法、ガス穴の設計装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/31 20060101AFI20241106BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01L21/31 B
C23C16/455
(21)【出願番号】P 2021066447
(22)【出願日】2021-04-09
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 宏之
(72)【発明者】
【氏名】竹永 裕一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寿
(72)【発明者】
【氏名】大槻 志門
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-101626(JP,A)
【文献】特開2008-038200(JP,A)
【文献】特開2012-084598(JP,A)
【文献】特開2010-034474(JP,A)
【文献】特開2018-078233(JP,A)
【文献】特開平08-055905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造装置の処理容器内にガスを供給するガス穴の設計方法であって、
前記ガス穴の配置と、前記ガス穴の配置で前記ガス穴からガスを供給して実際に成膜された成膜結果とを対応させた複数のデータセットに基づいて、膜質の評価のためのモデルを生成する工程と、
前記モデルを使用して前記ガス穴の配置における膜質の評価値を算出し、前記ガス穴の配置を最適化する工程と、
を有するガス穴の設計方法。
【請求項2】
前記モデルを生成する工程では、前記ガス穴から供給されるガスで形成される膜厚モデルを、少なくとも前記ガス穴の長手方向の1つ以上の穴ごとに最適化し、
前記モデルは最適化された前記膜厚モデルを用いて前記膜質の評価値を出力する請求項1に記載のガス穴の設計方法。
【請求項3】
前記モデルは、最適化された前記膜厚モデルを前記ガス穴ごとに足し合わせることで、前記膜質に関する情報として、前記長手方向の膜厚分布を出力する請求項2に記載のガス穴の設計方法。
【請求項4】
前記モデルを生成する工程では、ブラックボックス最適化により、前記膜厚モデルを最適化する請求項2又は3に記載のガス穴の設計方法。
【請求項5】
前記ブラックボックス最適化では、前記膜厚モデルを評価する第1の目的関数を入力とし、
前記第1の目的関数は、前記ガス穴の配置、前記配置の前記ガス穴で成膜された場合の膜厚、及び、前記膜厚モデルを用いた膜厚分布の計算方法を入力とし、最適化された前記膜厚モデルを出力する請求項4に記載のガス穴の設計方法。
【請求項6】
前記第1の目的関数は、更に、ガスの種類、処理容器内の圧力、基板を載置するステージの温度、プラズマ出力、成膜時間、及び回転テーブルの回転速度の少なくとも1つを含むプロセス条件を入力とする請求項5に記載のガス穴の設計方法。
【請求項7】
前記膜厚モデルは、前記ガス穴の中心で最も膜厚が大きく、前記ガス穴の中心から離れるほど膜厚が小さくなる形状を有し、
前記第1の目的関数は前記膜厚モデルの大きさ、広がり、及び、歪度の少なくとも1つを出力する請求項6に記載のガス穴の設計方法。
【請求項8】
前記半導体製造装置は、成膜されるウエハを公転させる回転テーブルを有し、
前記ブラックボックス最適化では、更に、前記膜厚モデルの大きさ、広がり、又は、歪度の定義域及び初期値を入力とし、
前記定義域では、前記膜厚モデルの大きさが回転テーブルの半径方向に対し一定の勾配で変化することが定義されている請求項7に記載のガス穴の設計方法。
【請求項9】
前記ガス穴の配置を最適化する工程では、木構造探索手法により、前記ガス穴の配置を変えて、前記モデルが出力する前記膜質の評価値の算出を繰り返すことで、前記ガス穴の配置を最適化する請求項6に記載のガス穴の設計方法。
【請求項10】
前記木構造探索手法では、前記ガス穴の配置を評価する第2の目的関数を入力とし、
前記第2の目的関数は、最適化された前記膜厚モデルを使用して、前記モデルが出力する前記膜質の評価値を出力し、
前記ガス穴の配置を最適化する工程では前記評価値がより高い前記ガス穴のパターンを探索することで、最適化された前記ガス穴の配置を決定する請求項9に記載のガス穴の設計方法。
【請求項11】
前記設計方法は、前記半導体製造装置に用いられるシャワーヘッドが有する複数の前記ガス穴の形状を決定する請求項1~10のいずれか1項に記載のガス穴の設計方法。
【請求項12】
前記ガス穴の配置を最適化する工程では、
(a) 最適化の起点となる前記ガス穴の配置の基準パターンを設定する工程、
(b) 基準パターンから開閉状態を1穴のみ変更したパターンを全ての穴に関して想定し、前記モデルが前記膜質の評価値を算出する工程
(c) 前記膜質の評価値に基づいて探索を継続するN個のパターンを選択する工程
を有し、木構造探索の深さが予め定められている上限に達するまで(b)(c)の工程を繰り返して、木構造の階層を深くし、更に、
(d) 最も深い階層から階層ごとに最も高い評価値を基準パターンまで伝播させる工程
(e) 最も高い評価値が得られたパターンにつながる変更を1つ選択し、前記基準パターンを更新する工程、を有し、
(a)~(e)の工程を繰り返すことで、最適な前記ガス穴の配置を決定する請求項10又は11に記載のガス穴の設計方法。
【請求項13】
半導体製造装置の処理容器内にガスを供給するガス穴の設計装置であって、
前記ガス穴の配置と、前記ガス穴の配置で前記ガス穴からガスを供給して実際に成膜された成膜結果とを対応させた複数のデータセットに基づいて、膜質の評価のためのモデルを生成するモデル生成部と、
前記モデルを使用して前記ガス穴の配置における膜質の評価値を算出し、前記ガス穴の配置を最適化するガス穴最適化部と、
を有するガス穴の設計装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス穴の設計方法、及び、ガス穴の設計装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置がウエハ等の基板上にシリコン酸化膜等の薄膜の成膜を行う方法の一つとして、複数種類の処理ガスをウエハの表面に順番に供給し、反応生成物を堆積させるCVD(Chemical Vapor Deposition)法やALD(Atomic Layer Deposition)法等が知られている。このような半導体製造装置は、ガス供給用のシャワーヘッドを有している場合がある(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、原料ガス供給手段と、補助ガス供給手段とを有する半導体製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ガス穴の配置を効率的に設計するガス穴の設計方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み、半導体製造装置の処理容器内にガスを供給するガス穴の設計方法であって、前記ガス穴の配置と、前記ガス穴の配置で前記ガス穴からガスを供給して実際に成膜された成膜結果とを対応させた複数のデータセットに基づいて、膜質の評価のためのモデルを生成する工程と、前記モデルを使用して前記ガス穴の配置における膜質の評価値を算出し、前記ガス穴の配置を最適化する工程と、を有する。
、を有する。
【発明の効果】
【0006】
ガス穴の配置を効率的に設計するガス穴の設計方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態の半導体製造装置の構成例を示す断面図
【
図3】
図1の半導体製造装置の回転テーブルの同心円に沿った断面図
【
図4】シャワーヘッドの設計装置の一例のハードウェア構成図
【
図5】シャワーヘッドの設計方法の全体的な流れを説明する一例のフローチャート図
【
図7】シャワーヘッドの設計装置が有する機能をブロックに分けて説明する一例の機能ブロック図
【
図8】カーネルとカーネルの形状を説明する一例の説明図
【
図9】ウエハにおいて評価される膜厚の場所の一例の説明図
【
図10】カーネルを用いた膜厚の推定を説明する一例の模式図
【
図12】カーネル形状決定部がブラックボックス最適化手法を使ってカーネルの形状を最適化する手順を示すフローチャート図の一例
【
図13】内部パラメータがカーネルの目的関数に及ぼす影響を示す図
【
図14】調整後に得られたカーネルの形状をシャワーヘッドのYライン上の位置に対応付けて示す図
【
図16】木構造探索による穴レイアウトの決定を説明する一例の説明図
【
図17】ガス穴最適化部が穴レイアウトを最適化する手順を示す一例のフローチャート図
【
図18】穴レイアウトの最適化手法を説明する一例の模式図
【
図20】最適化された穴レイアウトを用いて設計装置が算出した成膜結果を示す図
【
図21】半導体製造装置が最適化された穴レイアウトのシャワーヘッドで成膜した場合の実際の成膜結果(一例)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の限定的でない例示の実施形態について説明する。添付の全図面中、同一又は対応する部材又は部品については、同一又は対応する参照符号を付し、重複する説明を省略する。
【0009】
[シャワーヘッドを有する半導体製造装置の構成例]
まず、
図1~
図3を参照して、シャワーヘッドを備えた半導体製造装置の一例を説明する。
図1の半導体製造装置1は、本開示の回転テーブルの制御方法を実行する処理装置の一例である。
【0010】
本開示の半導体製造装置1は、略円形の平面形状を有するチャンバ1と、チャンバ1内に設けられ、チャンバ1の中心に回転中心を有する回転テーブル2とを有する。チャンバ1は、有底の円筒形状を有する容器本体12と、容器本体12の上面に対して、例えばOリング等のシール部材13を介して気密に着脱可能に配置される天板11とを有している。
【0011】
回転テーブル2は、中心部にて円筒形状のコア部21に固定され、コア部21は、鉛直方向に伸びる回転軸22の上端に固定されて回転可能に設けられている。回転軸22は、チャンバ1の底部14を貫通し、その下端が回転軸22を鉛直軸回りに回転させる駆動部23に取り付けられている。回転軸22及び駆動部23は、上面が開口した筒状のケース体20内に収納されている。容器本体12の底部14とケース体20の間には、ベローズ16が設けられている。これにより、ケース体20は、チャンバ1の底部14の下面に気密に取り付けられており、ケース体20の内部雰囲気が外部雰囲気から隔離される。駆動部23は、モータであってもよい。
【0012】
また、ベローズ16の外側には、回転テーブル2を昇降させ、回転テーブル2の高さを変更可能な昇降機構17が設けられている。かかる昇降機構17により、回転テーブル2を昇降させ、回転テーブル2の昇降に対応して、天井面45とウエハWとの間の距離を変更可能に構成される。なお、昇降機構17は、回転テーブル2を昇降可能であれば、種々の構成により実現されてよいが、例えば、ギア等により、回転軸22の長さを伸縮させる構造であってもよい。
【0013】
チャンバ1内の外縁部には、第1の排気口610が設けられ、排気管630に連通している。排気管630は、圧力調整器650を介して、真空ポンプ640に接続され、チャンバ1内が、第1の排気口610から排気可能に構成されている。
【0014】
図2は、チャンバ1内の構造を説明するための図であり、実施形態に係る半導体製造装置1を上から見たときに、天板11の図示を省略してチャンバ1内の構造を示している。回転テーブル2の表面には、
図2に示すように回転方向(周方向)に沿って複数(図示の例では5枚)の半導体ウエハ(以下「基板」あるいは「ウエハ」という)Wを載置するための円形状の凹部24が設けられている。なお、
図2では1個の凹部24にウエハWを示す。この凹部24は、ウエハWの直径(例えば300mm)よりも僅かに(例えば2mm)大きい内径と、ウエハWの厚さにほぼ等しい深さとを有しており、ウエハWを載置可能な載置部である。したがって、ウエハWを凹部24に載置すると、ウエハWの表面と回転テーブル2の表面(ウエハWが載置されない領域)とが同じ高さになる。凹部24の底面には、ウエハWの裏面を支えてウエハWを昇降させるための例えば3本の昇降ピンが貫通する貫通孔(いずれも図示せず)が形成されている。搬送口15は、外部の搬送アーム10と回転テーブル2との間でウエハWの受け渡しを行う。
【0015】
回転テーブル2の上方には、各々例えば石英からなる反応ガスノズル31、反応ガスノズル32、及び分離ガスノズル41,42が配置されている。図示の例では、チャンバ1の周方向に間隔をおいて、搬送口15から時計回り(矢印9で示す回転テーブル2の回転方向)に分離ガスノズル41、反応ガスノズル31、分離ガスノズル42、及び反応ガスノズル32の順に配列されている。これらのノズル41、31、42、32は、それぞれの基端部であるガス導入ポート41a、31a、42a、32aを容器本体12の外周壁に固定する。これにより、チャンバ1の外周壁からチャンバ1内に導入され、容器本体12の半径方向に沿って回転テーブル2に対して平行に伸びるように取り付けられている。
【0016】
反応ガスノズル31には、第1の反応ガスが貯留される第1の反応ガス供給源が開閉バルブや流量調整器(ともに不図示)を介して接続されている。反応ガスノズル32には、第1の反応ガスと反応する第2の反応ガスが貯留される第2の反応ガス供給源が開閉バルブや流量調整器(ともに不図示)を介して接続されている。
【0017】
ここで、第1の反応ガスは、半導体元素又は金属元素を含むガスであることが好ましく、酸化物又は窒化物となったときに、酸化膜又は窒化膜として用いられ得るものが選択される。第2の反応ガスは、半導体元素又は金属元素と反応して、半導体酸化物又は半導体窒化物、若しくは金属酸化物又は金属窒化物を生成し得る酸化ガス又は窒化ガスが選択される。具体的には、第1の反応ガスは、半導体元素又は金属元素を含む有機半導体ガス又は有機金属ガスであることが好ましい。また、第1の反応ガスとしては、ウエハWの表面に対して吸着性を有するガスであることが好ましい。第2の反応ガスとしては、ウエハWの表面に吸着する第1の反応ガスと酸化反応又は窒化反応が可能であり、反応化合物をウエハWの表面に堆積させ得る酸化ガス又は窒化ガスであることが好ましい。
【0018】
具体的には、例えば、第1の反応ガスは、シリコンを含む反応ガスであり、酸化膜としてSiO2を形成あるいは窒化膜としてSiNを形成するジイソプロピルアミノシラン、ビスターシャルブチルアミノシラン(BTBAS)等の有機アミノシランである。あるいは、第1の反応ガスは、ハフニウムを含む反応ガスであり、酸化膜としてHfOを形成するテトラキスジメチルアミノハフニウム(以下、「TDMAH」と称す。)である。あるいは、第1の反応ガスは、チタンを含む反応ガスであり、窒化膜としてTiNを形成するTiCl4等である。また、第2の反応ガスは、例えばオゾンガス(O3)、酸素ガス(O2)等の酸化ガスである。あるいは、第2の反応ガスは、例えばアンモニアガス(NH3)等の窒化ガスである。
【0019】
また、分離ガスノズル41、42には、ArやHe等の希ガスや窒素(N2)ガス等の不活性ガスの供給源が開閉バルブや流量調整器(ともに不図示)を介して接続されている。分離ガスノズル41、42から供給される不活性ガスを分離ガスともいう。実施形態においては、不活性ガスとして例えばN2ガスが使用される。
【0020】
また、反応ガスノズル31には、第1の反応ガス供給源の他、第2の反応ガス供給源、ArやHe等の希ガスや窒素(N2)ガス等の分離ガスとしても用いられる不活性ガスの供給源が接続される。切り替え部(不図示)の動作でいずれのガスを供給するか切り替え可能に設けられている。反応ガスノズル32には、第2の反応ガス供給源の他、第1の反応ガス供給源、分離ガスとしても用いられる不活性ガスの供給源が接続されて、切り替え部(不図示)の動作でいずれのガスを供給するか切り替え可能に設けられている。
【0021】
反応ガスノズル31の下方に区画された領域は、第1の反応ガスをウエハWに吸着させるための第1の処理領域P1となる。反応ガスノズル32の下方に区画され領域は、第1の処理領域P1においてウエハWに吸着された第1の反応ガスを酸化又は窒化させる第2の処理領域P2となる。
【0022】
チャンバ1内には2つの凸状部4が、回転テーブル2に向かって突出するように天板11の裏面に取り付けられている。凸状部4は、分離ガスノズル41、42と共に分離領域Dを構成する。すなわち、分離ガスノズル41、42の下方領域は、第1の処理領域P1と第2の処理領域P2とを分離し、第1の反応ガスと第2の反応ガスとの混合を防止する分離領域Dとなる。凸状部4は、頂部が円弧状に切断された略扇型の平面形状を有し、本開示においては、内円弧が天井面45よりも突出する突出部5(
図1参照)に連結し、外円弧がチャンバ1の容器本体12の内周面に沿うように配置されている。
図1に示すように、突出部5は、回転テーブル2を固定するコア部21の外周を囲むように設けられている。
【0023】
図2に示す凸状部4は、天板11の裏面に取り付けられている。このため、凸状部4の下面は、この下面の周方向両側に位置する天井面45よりも低くなっている。
【0024】
凸状部4のそれぞれには、周方向中央において溝部(図示せず)が形成され、分離ガスノズル41、42が収容されている。分離ガスノズル41、42にはガス吐出孔が形成されている。
【0025】
反応ガスノズル31、32は、天井面45から離間してウエハWの近傍に設けられている。分離ガスノズル42から供給されるN2ガスは、第1の処理領域P1からの第1の反応ガスと、第2の処理領域P2からの第2の反応ガス(酸化ガス又は窒化ガス)とに対するカウンターフローとして働く。したがって、第1の処理領域P1からの第1の反応ガスと、第2の処理領域P2からの第2の反応ガスとが、凸状部4及びN2ガスにより分離される。よって、チャンバ1内において第1の反応ガスと第2の反応ガスとが混合して反応することが抑制される。
【0026】
回転テーブル2と容器本体12の内周面との間において、第1の排気口610と第2の排気口620とが形成されている。第1の排気口610と
図1に示す真空ポンプ640との間の排気管630には圧力調整器(APC、Auto Pressure Controller)650が設けられている。第2の排気口620も同様に、圧力調整器が設けられた排気管を介して真空ポンプ(それぞれ不図示)に接続されている。第1の排気口610と第2の排気口620の排気圧力が、各々独立して制御可能に構成されている。
【0027】
図1に示すように、回転テーブル2とチャンバ1の底部14との間の空間には、加熱手段であるヒータユニット7が設けられている。回転テーブル2の下方に設けられたヒータユニット7は、回転テーブル2を介して回転テーブル2上のウエハWが、プロセスレシピで決められた温度(例えば450℃)に加熱される。
【0028】
ケース体20にはパージガスであるN2ガスを供給してパージするためのパージガス供給管72が設けられている。更に、チャンバ1の底部14には、ヒータユニット7の下方において周方向に所定の角度間隔で、ヒータユニット7の配置空間をパージするための複数のパージガス供給管73が設けられている。回転テーブル2の周縁付近の下方側にはリング状のカバー部材71が設けられ、ヒータユニット7と回転テーブル2との間には、ヒータユニット7を覆う蓋部材7aが設けられている。蓋部材7aは例えば石英で作製することができる。これにより、ヒータユニット7が設けられた領域へのガスの侵入を抑える。
【0029】
パージガス供給管72及びパージガス供給管73からN2ガスを供給することで、これらN2ガスの流れにより、チャンバ1の中央下方の空間と、回転テーブル2の下方の空間とを通じて、
図2に示す空間481及び空間482内のガスが混合するのを抑制できる。
【0030】
また、チャンバ1の天板11の中心部には分離ガス供給管47が接続されていて、天板11とコア部21との間の空間481に分離ガスであるN2ガスを供給するように構成されている。空間481に供給された分離ガスは、突出部5と回転テーブル2との狭い空間46を介して回転テーブル2のウエハ載置領域側の表面に沿って周縁に向けて吐出される。空間46は分離ガスにより空間481及び空間482よりも高い圧力に維持され得る。したがって、空間46により、第1の処理領域P1に供給される第1の反応ガスと、第2の処理領域P2に供給される第2の反応ガスとが、空間48を通って混合することが抑制される。
【0031】
半導体製造装置1には、半導体製造装置1の動作を制御する制御部90が設けられている。半導体製造装置1には、各種センサが設置されている。各種センサの一例として回転テーブル2の温度を測定する温度センサ60が設置されている。温度センサ60は、例えば、回転テーブル2の上方に設けられ、回転テーブル2とウエハWとの材質の違いを利用して載置部に載置されたウエハWの脱離を判定したり、回転テーブル2の温度を測定したりするための放射温度計であってもよい。温度センサ60は、回転テーブル2に接触又は非接触に配置され、回転テーブル2の温度を測定する。
【0032】
温度センサ60が放射温度計の場合、例えば放射温度計をチャンバ1の外部の窓上に設け、物体から放射される赤外線や可視光線の強度を測定して物体の温度を測定する。温度センサ60に放射温度計を用いることにより、回転テーブル2の温度測定を高速かつ非接触で行うことができる。温度センサ60は、測定した温度を制御部90に送信する。制御部90は温度センサ60が測定した温度を取得し、回転テーブル2の昇降制御に使用する。
【0033】
図3は、
図1の半導体製造装置1の回転テーブル2の同心円に沿った断面図であり、分離領域Dから第1の処理領域P1を経て分離領域Dまでの断面図である。
【0034】
分離領域Dにおける天板11には、概略扇形の凸状部4が設けられている。凸状部4は、天板11の裏面に取り付けられている。天板11の下方の空間には、凸状部4の下面である平坦な低い天井面(以下「第1の天井面44」という。)と、第1の天井面44の周方向の両側に位置する、第1の天井面44よりも高い天井面(以下「第2の天井面45」という。)と、が形成される。
【0035】
第1の天井面44を形成する凸状部4は、
図3に示されるように、頂部が円弧状に切断された扇型の平面形状を有している。凸状部4には、周方向の中央において、半径方向に伸びるように溝部43が形成されている。溝部43内には、分離ガスノズル41、42が収容される。なお、凸状部4の周縁は、各処理ガス同士の混合を阻止するために、回転テーブル2の外端面に対向すると共に容器本体12に対して僅かに離間するように、L字型に屈曲している。
【0036】
反応ガスノズル31の上方側には、第1の処理ガスをウエハWに沿って通流させるために、且つ、分離ガスがウエハWの近傍を避けて天板11側を通流するように、ノズルカバー230が設けられている。ノズルカバー230は、
図3に示されるように、カバー体231と、整流板232とを備える。カバー体231は、反応ガスノズル31を収納するために下面側が開口する概略箱形を有する。整流板232は、カバー体231の下面側開口端における回転テーブル2の回転方向上流側及び下流側に各々接続された板状体である。回転テーブル2の回転中心側におけるカバー体231の側壁面は、反応ガスノズル31の先端部に対向するように回転テーブル2に向かって伸び出している。また、回転テーブル2の外縁側におけるカバー体231の側壁面は、反応ガスノズル31に干渉しないように切り欠かれている。なお、ノズルカバー230は、必須ではなく、必要に応じて設けられてよい。
【0037】
[シャワーヘッドの設計装置の構成例]
図4は、シャワーヘッドの設計装置50のハードウェア構成の一例を示す図である。シャワーヘッドの設計装置50は一般的なコンピュータの構成を有している。シャワーヘッドの設計装置50は、CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、及び、RAM(Random Access Memory)503を有する。
【0038】
また、シャワーヘッドの設計装置50は、補助記憶装置504、操作装置505、表示装置506、I/F(Interface)装置507、及び、ドライブ装置508を有する。なお、シャワーヘッドの設計装置50の各ハードウェアは、バス509を介して相互に接続される。
【0039】
CPU501は、補助記憶装置504にインストールされた各種プログラムを実行する。
【0040】
ROM502は、不揮発性メモリであり、主記憶装置として機能する。ROM502は、補助記憶装置504にインストールされた各種プログラムをCPU501が実行するために必要な各種プログラム、データ等を格納する。
【0041】
RAM503は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)等の揮発性メモリであり、主記憶装置として機能する。RAM503は、補助記憶装置504にインストールされた各種プログラムがCPU501によって実行される際に展開される、作業領域を提供する。
【0042】
補助記憶装置504は、各種プログラムを格納する不揮発性の大容量記憶装置である。補助記憶装置504は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)など、不揮発性の大容量記憶媒体であればよい。各種プログラムは、シャワーヘッド36のガス穴の配置(以下、単に穴レイアウトという)を最適化するプログラムを含む。
【0043】
操作装置505は、管理者がシャワーヘッドの設計装置50に対して各種指示を入力する際に用いる入力デバイスである。表示装置506は、シャワーヘッドの設計装置50の内部情報及び外部から取得した情報を表示する表示デバイスである。
【0044】
I/F装置507は、通信回線に接続し、群管理コントローラ40と通信するための接続デバイスである。
【0045】
ドライブ装置508は記録媒体をセットするためのデバイスである。記録媒体には、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等のように情報を光学的、電気的あるいは磁気的に記録する媒体が含まれる。また、記録媒体には、ROM、フラッシュメモリ等のように情報を電気的に記録する半導体メモリ等が含まれていてもよい。
【0046】
なお、補助記憶装置504にインストールされる各種プログラムは、例えば、配布された記録媒体がドライブ装置508にセットされ、該記録媒体に記録された各種プログラムがドライブ装置508により読み出されることでインストールされる。あるいは、補助記憶装置504にインストールされる各種プログラムは所定のサーバからダウンロードされることでインストールされてもよい。
【0047】
また、シャワーヘッドの設計装置50は、GPU(Graphics Processing Unit)を有していてもよい。GPUは、グラフィック処理を行うために使われるプロセッサーであるが、並列な大量の演算を行うことができ、機械学習に必要な演算を高速に行うことができる。
【0048】
[作業の全体的な流れ]
ところで、シャワーヘッドには、数百個から数千個のガスの吹出穴が存在するが、シャワーヘッド36の穴レイアウトが、ウエハ上のガスの濃度分布、及びガスの流速分布に影響し、ひいては膜の品質(膜質)に影響する場合がある。
【0049】
シャワーヘッド36の穴レイアウトの調整は、熟練プロセスエンジニアの経験に基づき行われることが多かった。しかし、シャワーヘッドの穴の数は数百個から数千個と多く、一つ一つの穴が成膜結果に及ぼす影響を把握したうえで、調整する穴数や、位置を的確に決定するのは熟練エンジニアでも難しかった。また、穴レイアウトの調整のためには、予め複数のシャワーヘッドを用意したり、治具を開いて穴を塞いだりする必要があり、どちらの場合も多くの工数を要していた。そのため、レイアウト調整においては、良い膜質を目指すだけではなく、調整の回数を少なくすることも求められていた。
【0050】
そこで、
図5を参照して、調整回数(工数)を減らし、かつ最適な穴レイアウトの調整が可能な、本開示のシャワーヘッド36の設計方法の全体的な流れについて説明する。
図5はシャワーヘッド36の設計方法の全体的な流れを説明するフローチャート図の一例である。
【0051】
開発者が調整用シャワーヘッドを製造する(S101)。調整用シャワーヘッドとは、様々な穴レイアウトを実現するためにテスト用のガス穴(以下、単に穴という)が開いているシャワーヘッドである(
図6参照)。
【0052】
次に、開発者が複数の異なる穴レイアウトの調整用シャワーヘッドを半導体製造装置1に装着し、実際に成膜を行う(S102)。この成膜結果は後述するデータセットに使用される。本開示では例えば7つの穴レイアウトで実際に成膜が行われるが、穴レイアウトの種類は1つもでよい。しかし、実際に成膜する穴レイアウトの種類はある程度多い方が、成膜の品質(膜質)が良い穴レイアウトが得られやすいと考えられる。膜質とは、例えば、膜厚分布の均一さ、膜の反射率、又は、成膜の密度など、成膜の評価で使用される成膜の属性である。
【0053】
そして、本開示では2ステップで設計装置50が穴レイアウトを決定する。ステップ1は、成膜結果を使用して任意の穴レイアウトにおける成膜の評価値(膜厚分布を出力してもよい)を出力するモデルを生成するステップである。なお、評価値は膜厚分布の均一度を数値化したものである。ステップ2は、木構造探索などの最適化手法でこのモデルを使用しながら評価値を出力し、穴レイアウトを最適化するステップである。
【0054】
したがって、まず、ステップ1として、設計装置50が成膜結果を使用してモデルを生成する(S103)。
【0055】
次に、ステップ2として、設計装置50がモデルを使用しながら評価値を出力し、穴レイアウトを最適化する(S104)。
【0056】
開発者は、最適化された穴レイアウトを調整用シャワーヘッド又は実際のシャワーヘッドで再現し、半導体製造装置1で成膜を行う(S105)。
【0057】
開発者は、予想された(期待する)膜厚分布と、実際の膜厚分布を比較して、その予実差が許容範囲内かどうか、つまり、予想された膜厚分布と、実際の膜厚分布との差が予め設定された許容範囲内かを判断する(S106)。
【0058】
予想された膜厚分布と、実際の膜厚分布の差が許容範囲内でなければ、再度、モデルを生成するため、最適化された穴レイアウトを基準にした複数の穴レイアウトの調整用シャワーヘッドを半導体製造装置1に装着し、実際に、成膜を行う(S107)。以降は、ステップS103から、再度、実行される。最適化された穴レイアウトを基準にした複数の穴レイアウトの調整用シャワーヘッドとは、S105にて最適化された穴レイアウトを基準にして、1又は複数の穴の開閉状態を変えたものである。
【0059】
予想された膜厚分布と、実際の膜厚分布の差が許容範囲内であれば、開発者は、最適化された穴レイアウトを実機に採用すると決定する(S108)。
【0060】
以下では、
図5で説明した主にステップ1、2(ステップS103とS104)について詳細に説明する。
【0061】
[シャワーヘッドの一例]
図6は、シャワーヘッド36の平面図を示す。
図6ではウエハWに並行な面から見たシャワーヘッド36が有する穴61を示す。シャワーヘッド36には多数の穴61が配置されている。なお、
図6(a)では作図の都合上、穴61の数は少ないが実際には数百から数千の穴が配置されている。このシャワーヘッド36の全体でウエハWの全長をカバーする。したがって、ウエハWの直径が300mmの場合、シャワーヘッド36の長手方向の長さも約300mmである。短手方向の長さは適宜決定されてよい。
【0062】
図6(a)では、シャワーヘッド36の穴61の大きさと形状は1種類だが、
図6(b)に示すように、穴61の大きさや形状にバリエーションがあってもよい。
図6(b)では、上から4行目までは丸い穴であり、穴61の大きさが1行目<2行目=3行目<4行目のように設計されている。また、5行目の穴は四角い穴62である。四角い穴62はどの行に存在してもよいし、丸い穴61と四角い穴62が1行に混在してもよい。また、行ごとに四角い穴62の大きさが異なっていてもよい。また、穴62の形状は、三角形や菱形などでもよい。したがって、本開示では穴61の形状も最適化できる。
【0063】
本開示の設計方法では、開発者が、調整用のシャワーヘッド36の穴61,62をテープ、治具、又は、開閉機構等を使い選択的に塞ぐことにより、複数の穴レイアウトを実現する。穴レイアウトとは、穴の配置である。
【0064】
[機能について]
図7は、シャワーヘッド36の設計装置50が有する機能をブロックに分けて説明する機能ブロック図の一例である。シャワーヘッド36の設計装置50はガス穴の設計装置の一例である。シャワーヘッド36の設計装置50は、カーネル形状決定部51、モデル生成部52、膜厚推定部53、及び、ガス穴最適化部54を有している。シャワーヘッド36の設計装置50が有するこれら機能は、補助記憶装置504からRAM503に展開されたプログラムをCPU501が実行することで実現される機能又は手段である。
【0065】
カーネル形状決定部51とモデル生成部52は主に上記のステップ1で使用され、膜厚推定部53とガス穴最適化部54は主にステップ2で使用される。
【0066】
詳細は後述するが、カーネル形状決定部51はカーネル(シャワーヘッド36の穴が膜厚に与える影響)をブラックボックス最適化などの手法で決定する。モデル生成部52はこのカーネルを使用して膜厚を生成した場合の評価値を出力するモデルを生成する。評価値は、例えば膜厚の均一さを数値化したものである。モデルは、膜厚分布を出力する機能を備えている。
【0067】
膜厚推定部53は生成されたモデルを使用して任意の穴レイアウトで成膜した場合の、膜厚の評価値を出力する。ガス穴最適化部54は、膜厚推定部53が出力する膜厚の評価値に基づいて、例えば木構造探索などの最適化手法(探索アルゴリズム)を使って、シャワーヘッド36の穴レイアウトを最適化する。詳細は後述する。
【0068】
[カーネルについて]
まず、
図8を参照して、カーネルについて説明する。
図8は、カーネル63とカーネル63の形状を説明する図である。カーネル63とは、シャワーヘッド36の1つ(又は複数でもよい)の穴が膜厚に与える影響を一次元の形状で表したものである。すなわち、1つの穴の膜厚モデルともいえる。
【0069】
図8のX軸はシャワーヘッド36の長手方向の位置に対応し、X=0が穴の中心に対応する。
図8のY軸は膜厚に対応する。シャワーヘッド36の長手方向は、シャワーヘッド36が回転テーブル2に装着されたと仮定して、回転テーブル2の半径方向である(
図9(a)参照)。カーネル63は穴の中心ほど膜厚が大きく(厚く)、穴の中心から離れるほど膜厚が小さく(薄く)なる。
【0070】
しかしながら、シャワーヘッド36の各穴61が膜厚にどのような影響を与えるかを経験則だけで推定することは困難である。そこで、本開示では、カーネル形状決定部51がブラックボックス最適化という手法で、シャワーヘッド36の穴61ごとにカーネル63の形状を決定する。
【0071】
カーネル63の標準形は例えば正規分布でよい。
図8では、形状が異なる3つのカーネル63が示されている。
図8の後述するκ(カッパ)はカーネル63の形状を定める内部パラメータの1つであり、Y軸方向の大きさ(膜厚の厚さ)に相関する。σはカーネル63の形状を定める内部パラメータの1つであり、X軸方向の広がりに相関する。また、内部パラメータには歪度λ(形状が正規分布からどれだけ歪んでいるかを表す統計量)も含まれる。カーネル63の形状は図示する3つに限られるものではなく、任意の形状を取り得る。
【0072】
[評価される膜厚について]
図9は、ウエハWにおいて評価される膜厚の場所を説明する図である。
図9(a)は
図2を簡略化した図であり、
図9(b)は、回転テーブル2に載置された1つのウエハWを拡大して示す。矢印65で示す場所の膜厚が、実機で成膜された膜厚においては実測される膜厚である。また、ステップ2でモデルが評価値を出力するフェーズでは、成膜の評価のために推定される膜厚である。以下、矢印65で示すウエハW上の場所をYラインという。ウエハWがシャワーヘッド36の下を通過する状態では、Yラインはシャワーヘッド36の長手方向とほぼ平行である。
【0073】
ウエハWは回転テーブル2で公転されるが、Yラインのうち回転の軸に近い側をIN側とし、回転の軸に遠い側をOUT側という。また、IN側の端部を0mmとして、Yライン以上の位置を表す。ウエハWの直径が300mmの場合、OUT側の端部が300mmである。
【0074】
図10は、カーネル63を用いた膜厚の推定を模式的に示す図である。
図10(a)は、膜厚を知りたい任意の穴レイアウトである。なお、
図10では、穴61の配置を四角で表すが、これは穴61の形状を表しているわけではなく、単にシャワーヘッド36の長手方向と短手方向に並んだ穴61を示している。また、斜線が付された穴61は開いていることを示し、そうでない穴61は閉じていることを示す。
【0075】
図10(b)は、シャワーヘッド36で開いている穴の数と同じ数のカーネル63の形状を列ごとに示す図である。このカーネル63は、カーネル形状決定部51により最適化されたものである。
【0076】
したがって、このカーネル63を列ごとに足し合わせれば、Yライン方向の膜厚分布を推定できる。
図10(c)は、膜厚推定部53がカーネルを足し合わせて推定したYラインの膜厚分布を示す。
図10(c)に示すように、Yライン上の任意の位置で膜厚が得られている。
【0077】
このように、カーネル63という物理的な仮定を置くことで、シャワーヘッド36が有する穴61の個数に比べて少数のデータでモデルが膜厚を出力できる。
【0078】
本開示ではカーネル63を足し合わせてYラインの膜厚分布及び膜厚の評価値を出力する機能をモデルと称している。モデル生成部52は、このモデルを生成する。モデル生成部52は、カーネル形状決定部51が決定したカーネル63の形状を用いて、任意の穴レイアウトを有するシャワーヘッド36で成膜した場合の膜厚の評価値を推定するモデルを生成する。
【0079】
モデルは、各穴について決定されたカーネル63で生成される膜厚モデル(カーネル63の形状そのもの)をシャワーヘッド36の穴の列ごとに加算する。すなわち、モデルは、穴レイアウトの入力に対し膜厚分布を推定し、推定した膜厚分布の評価を数値化し、膜厚の評価値を出力する。
【0080】
[ブラックボックス最適化によるカーネルの形状の決定(ステップ1)]
以上を踏まえてカーネルの最適化について詳細に説明する。
【0081】
図11は、ブラックボックス最適化の模式図である。ブラックボックス最適化の入力は、例えば以下の2つである。
(1) カーネル63の目的関数(第1の目的関数の一例)
(2) 内部パラメータの条件
(1) カーネル63の目的関数は、カーネル63の妥当性を評価するための関数である。カーネル63の目的関数は、カーネル63の妥当性を数値で出力する。妥当性は、例えば、カーネルで求めた膜厚分布とデータセットの膜厚の相違を数値化したものである。
【0082】
また、カーネル63の目的関数は、「データセット」と「モデルの骨組みの情報」を利用する。
・データセットは「穴レイアウト」と対応する「膜厚分布」の組である。
図5で説明したように、開発者が調整用シャワーヘッドを使用して好ましくは複数の穴レイアウトで実際に成膜を行う。開発者はYラインの膜厚を測定して膜厚分布を作成する。これがデータセットである。
【0083】
データセットは、半導体製造装置1が実行するプロセス条件に関する情報を含んでもよい。プロセス条件に関する情報は、ガスの種類、処理容器内の圧力、ウエハWを載置するステージの温度、プラズマ出力、成膜時間、及び回転テーブルの回転速度の少なくとも1つを含んでもよい。
・モデルの骨組みの情報は、「穴レイアウト」と「カーネル」を使ってどのように「膜厚分布」を計算するかの情報である。膜厚分布の計算方法については
図10にて説明した。
【0084】
(2) 内部パラメータの条件は、カーネル63の内部パラメータの定義域や初期値である。内部パラメータとは上記の、大きさ、広がり、及び歪度等に関係する係数である。本開示では以下の4つ(a、b、σ、λ)が内部パラメータである。
【0085】
κ:穴の周囲の膜厚への影響度 (κ= a * r + b)。κは膜厚の厚さ(大きさ)に影響する。
【0086】
a:位置が膜厚への影響度に及ぼす影響 (傾き)。
【0087】
b:位置によらない膜厚への影響度 (切片)。
【0088】
σ:カーネル63の幅。
【0089】
λ:カーネル63の歪み。
【0090】
なお、rはYラインの0mmからの距離である(内部パラメータではない。)。つまり、κの内部パラメータaは、Yラインに対し、一定の勾配でカーネル63の大きさが変化するように定義されている。これは、回転テーブル2のOUT側ほど、ウエハWがシャワーヘッド36の下の通過する速度が早いことが膜厚に与える影響を再現するためである。
【0091】
カーネル形状決定部51は(1)(2)をブラックボックス最適化の入力として、試行錯誤(学習)を行い、カーネル63の内部パラメータを決定する。つまり、ブラックボックス最適化の出力は、最適化されたカーネル63(カーネル63の内部パラメータの値)である。カーネル63の値は、全ての穴ごとに出力される。あるいは、行の違いは無視してYライン方向の1列ごとに出力されてもよい。また、カーネル形状決定部51は、最適化されたカーネル63の目的関数の値(妥当性)を出力することもある。
【0092】
図12は、カーネル形状決定部51がブラックボックス最適化手法を使ってカーネル63の形状を最適化する手順を示すフローチャート図の一例である。カーネル形状決定部51は、シャワーヘッド36の長手方向の1つ以上の穴ごとにカーネル63の形状を最適化する。
【0093】
まず、カーネル形状決定部51は、データセットの穴レイアウトで、各カーネル63が膜厚に与える影響をモデルの骨組みの情報に基づいて足し合わせることで膜厚を算出する(S11)。カーネル形状決定部51は得られている全てのデータセットで同じ処理を行う。
【0094】
次に、カーネル形状決定部51は、データセットで得られている穴レイアウトの膜厚と、算出した膜厚を、カーネル63を目的関数に入れてカーネル63の妥当性を判断する(S12)。
【0095】
カーネル形状決定部51は、全てのデータセットの妥当性が良好、又は、内部パラメータを変更したときの妥当性の改善幅が一定値以下か、どうかを判断する(S13)。あるいは、ステップS11、S12を一定回数、繰り返した場合に処理を終了する。
【0096】
ステップS13の判断がNoの場合、カーネル形状決定部51は、内部パラメータの(2)条件に含まれる定義域の範囲でカーネル63のパラメータを少しずつ変更する(S14)。パラメータの変更の方法としてベイズ最適化という手法が知られている。
【0097】
ベイズ最適化は、評価に大きな計算コストのかかる目的関数の代わりに獲得関数(Acquisition function)と呼ばれる代理関数を最適化することで次の探索点(本開示では内部パラメータ)を選択する。この獲得関数を構築するためにガウス過程が使われることが多い。ベイズ最適化については説明を省略する。
【0098】
ステップS3の判断がYesの場合、カーネル形状決定部51は、最終的に得られた内部パラメータの値を最適化されたカーネル63の形状とする。
【0099】
図13は、内部パラメータがカーネル63の目的関数に及ぼす影響の一例である。
図13では4つの内部パラメータのうち、bとσがカーネルの目的関数に与える影響を示す。
図13の等高線図は、カーネルで求めた膜厚分布とデータセットの膜厚の相違(二乗和)の大きさを表すものであり、色が同じ領域は相違の大きさが同程度である。
図13からは、等高線で最も低い領域66に対応するbとσが最適な内部パラメータであるということが言える。
図13は作図の都合上、白黒であるが、妥当性の高低が色により示されている。
【0100】
また、
図14は、調整後に得られたカーネル63の形状をシャワーヘッド36のYライン上の位置に対応付けて示す図である。
図14では、0mm、150mm、及び、300mmの位置の3つの穴61のカーネル63の形状が示されているが、実際には穴61の数だけカーネル63の形状が求められている。
【0101】
図14に示すように、Yラインの300mm側に近いほど(回転テーブル2のOUT側ほど)、カーネル63の影響度が小さくなるように内部パラメータが調整されている。これは、回転テーブル2の外側ほどガス濃度が薄くなることを意味しており、物理的にも妥当である。また、カーネル63の目的関数の選び方によっては、カーネル63の内部パラメータが最適化されたときに、一部のカーネルの値がマイナスになることもある。データセットの膜厚をうまく再現するためにはこのような物理的妥当性が説明しづらいことも起こりうる。
【0102】
図15は、モデルの精度を説明する図である。
図15は、横軸がYラインの位置を示し、縦軸が膜厚を示す。
図15に示された各グラフは以下のとおりである。
・グラフ1は、データセットに使用された、実際に成膜及び実測された膜厚である。
図15では7つの成膜結果のうちの1つを示す。
・グラフ2は、ある穴レイアウトのもとで実際に成膜した膜厚の実測値である。
・グラフ3は、グラフ2と同じ穴レイアウトをモデルへ入力した際にモデルが出力した膜厚の推定値である。
【0103】
グラフ2,3を比較すると、推定値と実測値に大きな違いがなく、ブラックボックス最適化で生成されたカーネルの形状が有効であることが分かる。
【0104】
[木構造探索による穴レイアウトの決定(ステップ2)]
以上で、最適化されたカーネル63で膜厚分布を出力するモデルが生成されたので、ガス穴最適化部54が最適な穴レイアウトを決定できる。
【0105】
図16は、木構造探索による穴レイアウトの決定を説明する図である。木構造探索の入力は、例えば以下の2つである。
(1) 穴レイアウトの目的関数(第2の目的関数の一例)
(2) 穴レイアウトの条件
(1) 穴レイアウトの目的関数は、膜厚分布を評価するための関数である。穴レイアウトの目的関数は、モデルを使用する。このモデルは、ステップ1でモデル生成部52が生成したモデルである。評価値は、例えばYライン上の一定間隔の位置の膜厚の標準偏差等でよい。
【0106】
(2) 穴レイアウトの条件は、穴レイアウトの定義域や初期値である。定義域は、例えば、シャワーヘッド36に何個まで穴を開けてよいか等である。初期値は、木構造探索を行う初期状態の穴レイアウトである。
【0107】
ガス穴最適化部54は(1)(2)を木構造探索の入力として、試行錯誤を行い、穴レイアウトを決定する。つまり、木構造探索の出力は、最適化された穴レイアウトである。また、ガス穴最適化部54は、最適化された穴レイアウトの目的関数の値(例えば、モデルが出力する評価値等)を出力することもある。
【0108】
図17は、ガス穴最適化部54が穴レイアウトを最適化する手順を示すフローチャート図の一例である。
図18は、穴レイアウトの最適化手法を模式的に示す図であり、
図18には対応する
図17のステップ番号が記載されている。なお、
図17,
図18のような木構造探索手法をモンテカルロ木探索という。
【0109】
まず、ガス穴最適化部54は、最適化の起点となる穴レイアウトの基準パターンを設定する(S21)。基準パターンは何らかの知見に基づいて決定されてもよいし、開状態の穴が均一に配置されたものでもよいし、開閉状態が無作為に決定されたものでもよい。ただし、(2) 穴レイアウトの条件の定義域と同様の制限は考慮されている。
【0110】
次に、ガス穴最適化部54は、基準パターンから開閉状態を1穴のみ変更したパターンを全ての穴に関して想定し、膜厚推定部53がモデルで評価値を算出する(S22)。すなわち、モデル生成部52が生成したモデルを使用して、膜厚推定部53が膜厚を推定し、更に評価値を算出する。
図18に示すように、現在のパターン(ここでは基準パターン)に対し開閉状態が1つだけ異なる開閉状態のパターン110,111,112それぞれで評価値が得られる。パターン110は例えば基準パターンからある穴を空けたパターン(基準パターンでこの穴は閉じていた)、パターン111は例えば基準パターンから別のある穴を閉じたパターン(基準パターンでこの穴は開いていた)、パターン112は例えば基準パターンから更に別のある穴を空けたパターン(基準パターンでこの穴は閉じていた)である。
【0111】
次に、ガス穴最適化部54は、算出した評価値に基づいて探索を継続するN個のパターンを選択する(S23)。ガス穴最適化部54は、例えば、評価値が高い順にN個のパターンを選択する。
図18では斜線の丸が選ばれたパターンを意味する。
【0112】
ガス穴最適化部54は、ステップS23で残したパターンを元にしてステップS22、S23を繰り返す。これにより、パターンの探索の深さが1サイクルごとに1つずつ深くなる。また、各階層ごとにN個のパターンが選択される。ガス穴最適化部54は、予め定められている深さの上限に達するまで、ステップS22、S23を繰り返す(S24)。例えば、
図18では深さ3まで示されているが作図の都合に過ぎず、上限の深さは設計装置50の計算速度や許容できる時間などによって変わってよい。
図18では、ステップS23において各階層で選択されたパターンが斜線で示されている。
【0113】
予め定められている深さの上限に達した場合(S24のYes)、ガス穴最適化部54は、最も深い位置にあるパターンから階層ごとに最も高い評価値を基準パターンまで伝播させる(S25)。
図18を参照して補足する。まず、
図18の左側の枝67について説明する。
【0114】
「深さ4から伝播した評価値 1.5 < 深さ4から伝播した評価値の値1.7」
→ 1.7を深さ2に伝播する
「深さ3から伝播した評価値 1.1 < 深さ3から伝播した評価値の値1.7」
→ 1.7を深さ1に伝播する
次に、
図18の右側の枝68について説明する。
【0115】
「深さ4から伝播した評価値 1.2 < 深さ4から伝播した評価値の値1.4」
→ 1.4を深さ2に伝播する
「深さ3から伝播した評価値 1.4 < 深さ3から伝播した評価値の値1.5」
→ 1.5を深さ1に伝播する
以上で、深さ1の2つの評価値1.7と1.5が決まるので、1.7が基準パターンに伝播する。
【0116】
ガス穴最適化部54は、最も高い評価値が得られたパターンにつながる変更を1つ選択し、基準パターンを更新する(S26)。
図18の例では1.7を伝播したパターン110が次の基準パターンである。
【0117】
ガス穴最適化部54は、ステップS22~S26を繰り返し、基準パターンを一定回数更新した場合(S27)、探索を終了する。したがって、ガス穴最適化部54は、評価値が最も高いパターンを木構造で選択することを繰り返し、最適な穴レイアウトを決定できる。
【0118】
図19は、最適化された穴レイアウトの一例を示す。
図19ではシャワーヘッド36の一部を示す。
図19(a)は最適化前の穴レイアウトであり、
図19(b)は最適化後の穴レイアウトである。最適化前の穴レイアウトは開状態と閉状態が比較的偏ったパターンであるが、
図19(b)ではより複雑なパターンが得られている。このように、本開示のシャワーヘッドの設計方法によれば、人間では調整しにくいパターンの穴レイアウトが得られる。
【0119】
なお、最適な穴レイアウトはガス流量、サセプタ温度、プラズマ出力(例えば不図示のプラズマ源の印加電圧)、及び、ガス種等、並びに成膜レシピ等の要因で変わりうるものであり、これらの要因ごとに穴レイアウトが最適化されるとなおよい。
【0120】
図20は、最適化された穴レイアウトを用いて設計装置50が算出した成膜結果を示す図の一例である。コンピュータで算出した成膜結果とは、最適化された穴レイアウトに基づいてモデルが出力した膜厚分布である。
図20の横軸はYライン上の位置であり、縦軸は膜厚である。各グラフの内容は以下のとおりである。
・グラフ101は、最適化された穴レイアウトにおける成膜結果の推定値である。
・点線のグラフ102はデータセットに使用された膜厚である。
【0121】
最適化前の7つの成膜結果(点線)のうち、最もばらつきが少ない成膜結果と比較して、グラフ101(成膜結果の推定値)はYラインにおける膜厚のばらつきが減っている。標準偏差としては、半分以下のばらつきであることが確認されている。このように、コンピュータ上では膜厚分布が改善される最適な穴レイアウトを得ることができる。
【0122】
図21は、半導体製造装置1が最適化された穴レイアウトのシャワーヘッド36で成膜した場合の実際の成膜結果を示す。なお、
図21ではシャワーヘッド36の全ての穴のうち、Yラインの0mmに近い側の3割程度の部分のみで穴レイアウトが最適化されている。
【0123】
図21の横軸はYライン上の位置であり、縦軸は膜厚である。各グラフの内容は以下のとおりである。
・グラフ103は最適化前の穴レイアウトによる実際の成膜結果である。
・グラフ104は、最適化された穴レイアウトによる実際の成膜結果である。
【0124】
グラフ103,104を比較すると、Yライン上の位置が約70mm以下で、膜厚のばらつきが改善されている。したがって、穴レイアウトを最適化することで実機において膜厚分布を改善することができた。
【0125】
[主な効果]
以上説明したように、本開示の半導体製造装置1のシャワーヘッドの設計方法は、実際の成膜データを用いた統計的なモデルを利用するため、一般的なシミュレーションでは再現できないような物理現象も踏まえることができ、高い精度で穴レイアウトを決定できる。
【0126】
また、ガスの拡がりや吸着といった物理現象を踏まえて設計したモデルを用いることにより、カーネルの最適化に必要な実験サンプル数を少なくすることができる。
【0127】
また、カーネルの形状と穴レイアウトの決定に最適化アルゴリズムを利用することにより、コンピュータ上で沢山の試行錯誤ができるため、人手で最適化を行っていた場合に比べ、良い穴レイアウトを発見しやすい。
【0128】
また、本開示を、ガス流量、サセプタ温度、又は、プラズマ出力(例えばプラズマ源の印加電圧)といった制御可能な要素を最適化する従来の手法と組み合わせて用いることにより、今までに比べて広い探索空間で最適化を行うことができる。例えば、カーネルの形状の最適化においてこれらの要素を探索空間に含めて探索することもできる。これによって、より良い成膜結果が得られるような要素の値と穴レイアウトの組を発見しやすくなることが期待される。
【0129】
[その他]
実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0130】
例えば、本開示では主に膜厚の均一化のために穴レイアウトを最適化したが、例えば、膜の反射率や成膜の密度など好ましい膜質の膜を得るために穴レイアウトを最適化してもよい。
【0131】
また、本開示では、反応ガスノズル31がガスを供給するシャワーヘッド36について穴レイアウトを最適化したが、分離ガスノズル42、及び、反応ガスノズル32がガスを供給するシャワーヘッドがあれば最適化できる。
【0132】
また、本開示ではステップ1ではブラックボックス最適化手法を説明し、ステップS2では木構造探索手法を説明したが、カーネルの形状や穴レイアウトの最適化においては、これらから派生した最適化手法や異なる最適化手法が利用されてもよい。
【0133】
本開示の半導体製造装置1は、Atomic Layer Deposition(ALD)装置、Capacitively Coupled Plasma(CCP)、Inductively Coupled Plasma(ICP)、Radial Line Slot Antenna(RLSA)、Electron Cyclotron Resonance Plasma(ECR)、Helicon Wave Plasma(HWP)のいずれのタイプの装置でも適用可能である。この他、シャワーヘッドを用いて成膜する半導体製造装置であれば適用できる。
【符号の説明】
【0134】
1 半導体製造装置
2 回転テーブル
36 シャワーヘッド
51 カーネル形状決定部
52 モデル生成部
53 膜厚推定部
54 ガス穴最適化部