(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】一次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 6/12 20060101AFI20241107BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20241107BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241107BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20241107BHJP
H01M 6/48 20060101ALI20241107BHJP
H01M 4/46 20060101ALN20241107BHJP
【FI】
H01M6/12 Z
H01M4/60
H01M4/38 Z
H01M4/66 A
H01M6/48
H01M4/46
(21)【出願番号】P 2023520692
(86)(22)【出願日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2021018248
(87)【国際公開番号】W WO2022239197
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】野原 正也
(72)【発明者】
【氏名】岩田 三佳誉
(72)【発明者】
【氏名】田口 博章
(72)【発明者】
【氏名】小松 武志
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-65028(JP,A)
【文献】特表2016-514897(JP,A)
【文献】国際公開第2007/032443(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/138377(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102683744(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 6/52
H01M10/00-10/39
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンを含む正極と、
マグネシウムまたはアルミニウムを含む負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された水系電解液と、を備える
一次電池。
【請求項2】
前記正極及び前記負極は、銅、鉄およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1つを含むシート状集電体に形成される
請求項1に記載の一次電池。
【請求項3】
バイポーラ型のスタック構造を有する
請求項1または2に記載の一次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小型デバイス、センサ、モバイル機器等に、使い捨ての一次電池及び、充電可能な二次電池としてアルカリ電池、マンガン電池、高性能なコイン型リチウム一次電池、ニカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等が広く使用されている。また、近年のIoT(Internet of Things)の発展において、土壌や森の中等自然界の至る所に設置して用いるばらまき型センサの開発も進んでいる。
【0003】
現在一般に用いられている電池は、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトなどのレアメタルで構成されている場合が多く、資源枯渇の問題がある。
【0004】
また、低環境負荷な空気電池の検討がされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の電池原理は空気電池であり、空気中の酸素を正極活物質として利用するため、電池に空気取り込み口が必須となる。そのため、空気電池には、上記空気取り込み口から電解液が揮発し、長期保存には不向きという欠点が存在する。したがって、密閉系での電池反応が可能な、新しい低環境負荷な電池が求められている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低環境負荷で、長期保存が可能な一次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の一次電池は、2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンを含む正極と、マグネシウムまたはアルミニウムを含む負極と、前記正極と前記負極との間に配置された水系電解液と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低環境負荷で、長期保存が可能な一次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態の一次電池の基本的な概略図である。
【
図2】
図2は、コイン型一次電池の構造を示す概略断面図である。
【
図3A】
図3Aは、バイポーラ型のスタック一次電池の構成例を示す構成図である。
【
図3B】
図3Bは、バイポーラ型のスタック一次電池の構成例を示す平面図である。
【
図4】実施例1の一次電池の放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0012】
[一次電池の構成]
図1は、本発明の実施の形態における一次電池の構成を示す構成図である。この一次電池は、2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン(2,5-Dimethoxy-1,4-benzoquinone)を含む正極101と、マグネシウムまたはアルミニウムを含む負極103と、正極101と負極103との間に配置された電解質102と、を備える。2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンは、2,5-位にメトキシ基を有する有機化合物である。電解質102として、水系電解液102を用いることが好ましい。以下に説明する本実施形態では、電解質102に水系電解液102を用いた場合を一例として説明するが、これに限定されない。
【0013】
具体的には、正極101は、活物質として2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンを用いて構成される。負極103は、活物質としてマグネシウムまたはアルミニウムを用いて構成される。水系電解液(電解質)102は、正極101および負極103と接するように配置される。このように、本実施形態の一次電池は、正極101に2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンの活物質を含み、負極103にマグネシウムまたはアルミニウムの活物質を含むことを特徴とする。
【0014】
正極101での放電反応は、次のように表すことができる。下記に一例として、負極103にマグネシウム(Mg)を用いた反応を示す。
【0015】
【0016】
後述するマグネシウムイオン(Mg2+)と正極101とが反応することにより、2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンにマグネシウムイオン(Mg2+)が挿入される。
【0017】
負極103での放電反応は次のように表すことができる。
【0018】
Mg→Mg2++2e-・・・(2)
上式中のマグネシウムイオン(Mg2+)は、負極103から電気化学還元により水系電解液102中に溶解し、水系電解液102中を正極101の表面まで移動する。
【0019】
これら式(1)~(2)の反応により、放電が可能であり、全反応は、次のように表すことができる。
【0020】
【0021】
負極103にアルミニウム(Al)を用いた正極101での放電反応は、次のように表すことができる。
【0022】
【0023】
後述するアルミニウムイオン(Al3+)と正極101とが反応することにより、2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンにアルミニウムイオン(Al3+)が挿入される。
【0024】
負極103での放電反応は次のように表すことができる。
【0025】
Al→Al3++3e-・・・(5)
上式中のアルミニウムイオン(Al3+)は、負極103から電気化学還元により水系電解液102中に溶解し、水系電解液102中を正極101の表面まで移動する。
【0026】
これら式(4)~(5)の反応により、放電が可能であり、全反応は、次のように表すことができる。
【0027】
【0028】
また、理論起電力は約3V(正極活物質に2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン及び負極活物質にMg使用時)と、約2V(正極活物質に2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン及び負極活物質にAl使用時)となっている。
【0029】
本実施形態の一次電池は、正極活物質に2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンを使用し、負極活物質にマグネシウムまたはアルミニウムを使用し、電解質に水系電解液を用いることで、安価な材料で構成される、低環境負荷な電池として期待できる。
【0030】
正極101は、正極活物質及び導電助剤を構成要素に含むことができる。また、正極101には、前記材料を一体化するための結着剤を含むことが好ましい。
【0031】
負極103は、負極活物質及び導電助剤を構成要素に含むことができる。また、負極103には、前記材料を一体化するための結着剤を含むことが好ましい。
【0032】
以下に上記の各構成要素について説明する。
【0033】
(1)正極
正極は、正極活物質を少なくとも含み、必要に応じて導電助剤、結着剤等の添加物を含むことができる。正極は、銅、鉄およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1つを含むシート状集電体に形成されてもよい。
【0034】
(1-1)正極活物質
本実施形態の正極活物質は、少なくとも2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンを含む。
【0035】
また正極活物質の粒子径は、0.3μm~10μmが好ましく、0.5μm~5μmがより好適である。
【0036】
これは、粒子径が小さいほど、反応するサイトが増加し、出力性能が向上する一方、電解液中への溶出が促進され、放電容量が低下してしまうためである。
【0037】
2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンは、例えば市販品として、又は公知の合成により入手することが可能である。
【0038】
(1-2)導電助剤
本実施形態では、正極に導電助剤を含んでもよい。導電助剤には、例えばカーボンなどを用いることができる。具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック類、活性炭類、グラファイト類、カーボン繊維類などを挙げることができる。正極中で反応部位を十分確保するために、カーボンは粒子が小さいものが適している。具体的には、粒子径が1μm以下のものが望ましい。これらのカーボンは、例えば市販品として、又は公知の合成により入手することが可能である。
【0039】
正極活物質に直接カーボンをコーティングしても良い。コーティングする手法には、蒸着、スパッタリング、遊星ボールミルといった物理的手法、有機物をコーティングした後に熱処理するといった化学的手法、又は公知の手法によりコーティングが可能である。
【0040】
(1-3)結着剤
正極は、結着剤を含んでもよい。結着剤は、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、天然ゴムなどを例として挙げることができる。環境負荷及び廃棄物処理の観点から、フッ素が使用されていないスチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、天然ゴムがより好ましい。
【0041】
これらの結着剤は、粉末として又は分散液として用いることができる。
【0042】
本実施形態の正極における上記正極活物質、導電助剤及び結着剤の含有量は、正極全体の重量を基準として、正極活物質が0重量%より大きく99%以下、好ましくは70~95重量%であり、導電助剤が0~90重量%、好ましくは1~30重量%であり、結着剤が0~50重量%、好ましくは1~30重量%である。
【0043】
(1-4)正極の調製
正極は以下のように調製することができる。正極活物質である2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン粉末、カーボン粉末、及び必要に応じて、スチレンブタジエンゴムのような分散液を混合し、この混合物を集電体に塗布し乾燥することにより、正極を形成することができる。
【0044】
集電体は、特に限定されないが、例えば、銅、鉄、チタン、ニッケルおよびカーボンからなる群より選択される少なくとも1つ(1つの元素)を用いたシート状またはメッシュ状の集電体を使用することができる。
【0045】
後述するバイポーラ型のスタック構造に電池を組み立てるためには、集電体は、シート状であることが好ましい。また、環境負荷及び廃棄の観点から、銅、鉄およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1つを含むシート状集電体がより好ましい。このように正極は、銅、鉄およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1つを含むシート状集電体に塗布されることが好ましい。
【0046】
電極の強度を高めるために、乾燥後の電極に冷間プレスまたはホットプレスを適用することによって、より安定性に優れた正極を作製することができる。
【0047】
以上のように、正極活物質である2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンを含む正極を作製することで、充電反応及び放電反応に対して高活性な正極を得ることができる。更に、上記のような構成の一次電池の正極を作製することにより、正極活物質である2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンのポテンシャルを十分引き出すことが可能である。
【0048】
(2)負極
負極は、負極活物質を少なくとも含み、必要に応じて導電助剤、結着剤等の添加物を含むことができる。負極は、銅、鉄およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1つを含むシート状集電体に形成されてもよい。
【0049】
(2-1)負極活物質
本実施形態の負極活物質は、少なくともマグネシウム(Mg)またはアルミニウム(Al)を含む。
【0050】
負極活物質は、主成分としてマグネシウム(Mg)またはアルミニウム(Al)を含めばよく、他にも、亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)、リチウム(Li)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、錫(Sn)、カーボン(C)からなら群から選ばれる少なくとの1つの成分を含む合金であっても良い。
【0051】
負極活物質は、マグネシウム(Mg)箔またはアルミニウム(Al)箔を所定の形状に成形することで作製することが可能である。
【0052】
マグネシウム(Mg)またはアルミニウム(Al)を粉末で使用してもよい。ただし、粉末で使用すると、反応するサイトが増加し、出力性能が向上する一方、マグネシウム(Mg)またはアルミニウム(Al)の酸化及び電解液による腐食の進行が加速してしまう。このため、マグネシウム(Mg)またはアルミニウム(Al)は、箔状またはバルク状で使用することが好ましい。
【0053】
(2-2)導電助剤
負極活物質を粉末で使用する場合、負極は導電助剤を含んでもよい。導電助剤には、例えばカーボンなどを用いることができる。具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック類、活性炭類、グラファイト類、カーボン繊維類などを挙げることができる。負極中で反応部位を十分確保するために、カーボンは粒子が小さいものが適している。具体的には、粒子径が1μm以下のものが望ましい。これらのカーボンは、例えば市販品として、または公知の合成により入手することが可能である。
【0054】
負極活物質に直接カーボンをコーティングしても良い。コーティングする手法には、蒸着、スパッタリング、遊星ボールミルといった物理的手法、有機物をコーティングした後に熱処理するといった化学的手法、または公知の手法によりコーティングが可能である。
【0055】
(2-3)結着剤
負極活物質を粉末で使用する場合、負極は結着剤を含んでもよい。結着剤は、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、天然ゴムなどを例として挙げることができる。環境負荷及び廃棄物処理の観点から、フッ素が使用されていないスチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、天然ゴムがより好ましい。これらの結着剤は、粉末として又は分散液として用いることができる。
【0056】
負極活物質を粉末で使用する場合、上記負極活物質、導電助剤及び結着剤の含有量は、負極全体の重量を基準として、負極活物質が0重量%より大きく99%以下、好ましくは70~95重量%であり、導電助剤が0~90重量%、好ましくは1~30重量%であり、結着剤が0~50重量%、好ましくは1~30重量%である。
【0057】
(2-4)負極の調製
負極は、以下のように調製することができる。マグネシウム(Mg)またはアルミニウム(Al)を所定の形状に加工し、この負極活物質を集電体に溶接等で張り付けることにより、負極を形成することができる。
【0058】
集電体は、特に限定されないが、例えば、銅、鉄、チタン、ニッケルおよびカーボンからなる群より選択される少なくとも1つ(1つの元素)を用いたシート状またはメッシュ状の集電体を使用することができる。
【0059】
後述するバイポーラ型のスタック構造に電池を組み立てるためには、集電体は、シート状であることが好ましい。また、環境負荷及び廃棄の観点から、銅、鉄およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1つを含むシート状集電体がより好ましい。このように負極は、銅、鉄およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1つを含むシート状集電体に形成されることが好ましい。
【0060】
また、負極活物質を粉末で使用する場合は以下のように調製することができる。負極活物質であるマグネシウム(Mg)粉末またはアルミニウム(Al)粉末、カーボン粉末、及び必要に応じて、スチレンブタジエンゴムのような分散液を混合し、この混合物を集電体に塗布し乾燥することにより、負極を形成することができる。
【0061】
電極の強度を高めるために、乾燥後の電極を冷間プレスやホットプレスを適用することによって、より安定性に優れた負極を作製することができる。
【0062】
以上のように、負極活物質であるマグネシウム(Mg)またはアルミニウム(Al)を含む負極を作製することで、高活性な負極を得ることができる。更に、上記のような構成の一次電池の負極を作製することにより、負極活物質であるマグネシウム(Mg)またはアルミニウム(Al)のポテンシャルを十分引き出すことが可能である。
【0063】
(3)水系電解液(電解質)
本実施形態の一次電池は、水系電解液を含む。この水系電解液は、マグネシウムイオン(Mg2+)またはアルミニウムイオン(Al3+)の移動が可能な電解質を含む水溶液である。水系電解液は、主溶媒として水を用い、水以外の溶媒を含んでもよい。水系電解液には、例えば、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、メタリン酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、アンモニウム塩、ギ酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、塩化物からなら群より選ばれる少なくとも1つの電解質を水に溶解させた水溶液を用いることができる。
【0064】
本実施形態では、電解質に水系電解液を用いるが、ゲル状、固体状などの固体電解質を用いてもよい。すなわち、電解質は、液状、クリーム状、ゲル状、固体状などのいずれの形態であってもよい。
【0065】
水系電解液に、酸性水溶液またはアルカリ水溶液を使用する場合は、電解液のpHは、5.8以上8.6以下であることが好ましい。通常、電解液は、強アルカリであるほど性能が向上するが、2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンを始めとする有機質はアルカリ性の耐性が弱く電解液に溶出してしまう。
【0066】
また国の法律である水質汚濁防止法では、海域以外の公共用水域に排出される排液のpH(水素イオン濃度)の許容限度は、5.8以上8.6以下と定められている。このため、環境負荷及び廃棄処理の観点からも、水系電解液のpHは、5.8以上8.6以下が好ましい。
【0067】
(4)他の要素
本実施形態の一次電池は、上記構成要素に加え、セパレータ、電池ケースなどの構造部材、その他一次電池に要求される要素を含むことができる。これらは、従来公知のものが使用できるが、環境負荷及び廃棄処理の観点から、有害物質、レアメタル、レアアース等を含まないことが好ましい。更に、これらの他の要素は、生物由来、生分解性材料であることがより好適である。
【0068】
(5)一次電池の製造方法
本実施形態の一次電池は、上述した通り、少なくとも正極、負極及び水系電解液を含み、
図1に例示されるように、正極と負極との間に、正極および負極に接するように水系電解液が配置される。このような構成の一次電池は、従来型の一次電池と同様に調製することができる。
【0069】
例えば、一次電池は、上述したような2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンを含む正極活物質、導電助剤および結着剤を含む正極と、マグネシウム(Mg)またはアルミニウム(Al)を含む負極と、正極と負極とに接すように配置された水系電解液とを、従来技術に従って各要素を組み立てればよい。
【0070】
(5-1)コイン型一次電池の製造方法
一次電池の製造方法の一実施形態として、例えばコイン型一次電池を製造することができる。
【0071】
図2は、コイン型一次電池の構造を示す概略断面図である。具体的には、まず、上記正極101を設置した正極ケース201に、図示しないセパレータを載置し、載置したセパレータに電解液102を注入する。次に、電解液102の上に負極103を設置し、負極ケース202を正極ケース201に被せる。次に、コインセルカシメ機で正極ケース201及び負極ケース202の周縁部をかしめることにより、プロピレンガスケット203を含むコイン型一次電池を作製することが可能である。
【0072】
図示するコイン型一次電池は、正極活物質として2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン粉末を利用する。そのため、正極活物質に空気中の酸素を用いる空気電池とは異なり、本実施形態の正極ケース201には空気取り込み口を設ける必要がない。すなわち、本実施形態では、密閉型の電池を作製することができる。したがって、本実施形態の一次電池は、空気取り込み口から電解液が揮発することなく、長期保存することができる。
【0073】
(5-2)バイポーラ型のスタック構造一次電池の製造方法
一次電池の製造方法の一実施形態として、例えばバイポーラ型のスタック構造を有する一次電池を製造することができる。
【0074】
図3Aは、バイポーラ型のスタック一次電池の構成例を示す構成図である。
図3Bは、バイポーラ型のスタック一次電池の構成例を示す平面図である。
【0075】
本実施形態の一次電池は、使用する電解液が水系のため、電池電圧に期待が出来ない。このため、スタック構造の一次電池とすることで、電圧を上げることが好ましい。
【0076】
具体的には、まず、銅箔等の集電体322の両面にそれぞれ、上記正極101と上記負極103とを接合し、1枚の集電体322に正極101及び負極103をそれぞれ形成する。これにより、正極及101および負極103がそれぞれ集電体322の片面に形成されたバイポーラ電極320を作製する。
【0077】
また、最外層用の各集電体303A、303Bは、片面のみの電極形成でよく、電気を取り出すためのタブ313A、313Bがあることが好ましい。図示する最外層の集電体303Aには、片面のみに正極101が形成され、タブ313Aが形成されている。最外層の集電体303Bには、片面のみに負極103が形成され、タブ313Bが形成されている。
【0078】
タブ313A、313Bは、集電体303A、303Bに突起を有する形状で加工しても良く、集電体303A、303Bに別の金属タブを超音波溶接、スポット溶接等により接合しても良い。
【0079】
正極101および負極103を形成した集電体322を、正極101及び負極103が向かい合うように重ね、正極101と負極103に接するようにセパレータ301を挿入する。正極101または負極103を形成した最外層用の各集電体303A、303Bについても、同様に、正極101及び負極103が向かい合うように重ね、正極101と負極103に接するようにセパレータ301を挿入する。
【0080】
集電体303A、303B、322およびセパレータ301を積層したら、集電体の各銅箔同士の周縁部を熱融着シート302を使用して、熱プレスすることでシールする。ただし、周縁部は後述する水系電解液を注入するために1辺(又は一辺の一部)は熱プレスを実施せずに開けておく必要がある。
【0081】
作製したスタックをアルミラミネートフィルム304等で挟み、水系電解液を各セル(各部屋)に注液後、スタックの封止していない一辺とアルミラミネートフィルムの周縁部を真空シールすることで、バイポーラ型のスタック構造一次電池を作製が可能である。
【0082】
このような一次電池は、正極活物質に空気中の酸素を用いる空気電池とは異なり、空気取り込み口が不要な、密閉型の電池である。したがって、本実施形態の一次電池は、空気取り込み口から電解液が揮発することなく、長期保存することができる。
【0083】
[実施例]
以下に本実施形態に係る一次電池の実施例を詳細に説明する。各実施例では、負極にマグネシウム(Mg)を用いた一次電池と、負極にアルミニウム(Al)を用いた一次電池とを、それぞれ作製した。なお、本発明は下記の実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0084】
<実施例1>
実施例1では、前述したコイン型の一次電池(
図2)を、以下の手順で2つ作製した。1つの一次電池では、負極活物資にはマグネシウム(Mg)箔を使用し、水系電解液には2.0 mol/Lの硫酸マグネシウム水溶液(MgSO
4)を使用した。もう1つの一次電池では、負極活物資にはアルミニウム(Al)箔を使用し、水系電解液には2.0 mol/Lの硫酸アルミニウム水溶液(Al
2(SO
4)
3)を使用した。
【0085】
(正極の調製)
2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン粉末(東京化成工業株式会社)、ケッチェンブラック粉末(EC600JD、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を、80:10:10の重量比でらいかい機を用いて十分に粉砕混合し、ロール成形して、シート状電極(厚さ:0.5mm)を作製した。このシート状電極を直径16mmの円形に切り抜き、銅メッシュ上にプレスすることにより、正極を得た。
【0086】
(負極の調製)
マグネシウム(Mg)箔(厚さ150μm、ニラコ社)、及びアルミニウム(Al)箔(厚さ150μm、ニラコ社)をそれぞれ直径16mmの円形に切り抜き、負極を得た。
【0087】
(一次電池の調製)
コイン電池用ケース(宝泉社)を使用して、
図2に示すコイン型一次電池を2つ作製した。1つの一次電池では、上記の方法で調整した正極101を設置した正極ケース201に直径18mmに切り抜いたセルロース系セパレータ(ニッポン高度紙工業社)を載置し、載置したセパレータに2.0 mol/Lの硫酸マグネシウム水溶液(MgSO
4)を水系電解液102として注入する。水系電解液102の上にマグネシウム(Mg)箔の上記負極103を設置し、負極ケース202を正極ケース201に被せ、コインセルカシメ機で正極ケース201及び負極ケース202の周縁部をかしめることにより、プロピレンガスケット203を含むコイン型一次電池を得た。
【0088】
もう1つの一次電池では、上記の方法で調整した正極101を設置した正極ケース201に直径18mmに切り抜いたセルロース系セパレータ(ニッポン高度紙工業社)を載置し、載置したセパレータに水系電解液102として2.0 mol/Lの硫酸アルミニウム水溶液(Al2(SO4)3)を注入する。水系電解液102の上にアルミニウム(Al)箔の上記負極103を設置し、負極ケース202を正極ケース201に被せ、コインセルカシメ機で正極ケース201及び負極ケース202の周縁部をかしめることにより、プロピレンガスケット203を含むコイン型一次電池を得た。
【0089】
(電池性能)
以上の手順で調整した一次電池の電池性能を測定した。電池のサイクル試験は、充放電測定システム(Bio Logic社製)を用いて、正極の有効面積当たりの電流密度で1mA/cm2を通電し、開回路電圧から電池電圧が、0.60Vに低下するまで放電電圧の測定を行った。電池の放電試験は、通常の生活環境下で行った。放電容量は正極活物質(2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン)単位重量当たりの値(mAh/g)で表した。
【0090】
図4に、負極にマグネシウム(Mg)を用いた放電曲線を示す。
図4より、2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンを正極活物質に用いたときの平均放電電圧は1.3V、放電容量は200mAh/gであることが分かる。ここで、平均放電電圧は、全放電容量の1/2の放電容量(ここでは、100mAh/g)の時の放電電圧と定義する。
【0091】
以下の表1に、負極にマグネシウム(Mg)用いた一次電池、及び、負極にアルミニウム(Al)を用いた一次電池の放電電圧及び平均放電容量を示す。このように、実施例1の各一次電池は、優れた電池性能を有していることが分かった。
【0092】
【0093】
<実施例2>
実施例2では、前述したコイン型の一次電池を以下の手順で2つ作製した。実験例2では、正極は銅のシート状集電体(銅箔)に塗布して調製し、負極は銅のシート状集電体(銅箔)に溶接して調製した。水系電解液には、実験例1と同様に、2.0 mol/Lの硫酸マグネシウム水溶液(MgSO4)と、2.0 mol/Lの硫酸アルミニウム水溶液(Al2(SO4)3)とをそれぞれ使用した。電池の作製及び評価法は、実施例1と同様にして行った。
【0094】
(正極の調製)
2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン粉末(東京化成工業株式会社)、ケッチェンブラック粉末(EC600JD、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社)、スチレンブタジエンゴム(AAポータブルパワー社)が、重量比で80:10:10になるように、混錬機(シンキー社)を使用して十分に混合し、スラリーを作製した。このスラリーを銅箔(ニラコ社)に塗布し、100℃の真空乾燥機で12時間乾燥させた。その後、120℃でプレスし、このシート状電極を直径16mmの円形に切り抜き、正極を得た。
【0095】
(負極の調製)
マグネシウム(Mg)箔(厚さ150μm、ニラコ社)、及び、アルミニウム(Al)箔(厚さ150μm、ニラコ社)を、それぞれ直径16mmの円形に切り抜き、これらをそれぞれ銅箔(ニラコ社)に超音波溶接機を使用して接合させて負極を得た。
【0096】
(電池性能)
実施例2の2つの一次電池の放電容量及び平均放電電圧を、表1に示す。表1に示すように、負極にマグネシウム(Mg)を用いた電池における実施例2の放電容量は、250mAh/gを示し、実施例1よりも大きい値であった。負極にアルミニウム(Al)を用いた電池においても、実施例2の放電容量は実施例1よりも大きい値であった。
【0097】
また、表1に示すように、実施例2の平均放電電圧は、実施例1の平均放電電圧よりも大きい。すなわち、実施例2では、実施例1よりも過電圧の減少が見られ、放電のエネルギー効率の改善を達成することができた。
【0098】
これらの特性の向上は、銅のシート状集電体に正極及び負極をそれぞれ接合して形成したため、電池の内部抵抗が減少し、電池反応がスムーズに行われたことによると考えられる。
【0099】
<実施例3>
実施例3では、前述したバイポーラ型の3スタック構造の一次電池を、以下の手順で2つ作製した。
【0100】
図3Aは、バイポーラ型の3スタック構造の一次電池の分解図である。水系電解液には、実施例1~2と同様に、2.0 mol/Lの硫酸マグネシウム水溶液(MgSO
4)と、2.0 mol/Lの硫酸アルミニウム水溶液(Al
2(SO
4)
3)とをそれぞれ使用した。
【0101】
電池の評価法は、実施例1~2と同様に行った。但し、充放電試験の測定は、放電電圧が1.00Vまで低下するまで行った。
【0102】
(正極及び負極の調製)
負極103にマグネシウム(Mg)を用いた場合、負極103として、マグネシウム(Mg)箔(厚さ150μm、ニラコ社)を2cm×2cmに切り抜き、これを銅箔(ニラコ社)に超音波溶接機を使用して接合させた。
【0103】
次に、正極101として、2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン粉末(東京化成工業株式会社)、ケッチェンブラック粉末(EC600JD、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社)、スチレンブタジエンゴム(AAポータブルパワー社)が重量比で80:10:10になるように、混錬機(シンキー社)を使用して十分に混合し、スラリーを作製した。
【0104】
このスラリーを先ほどの負極を接合させた銅箔の裏面に2cm×2cmで塗布し、100℃の真空乾燥機で12時間乾燥させた。その後、120℃でプレスし、正極及101および負極103がそれぞれ片面ずつ接合されたバイポーラ電極320を得た。
【0105】
但し、最外層の正極用電極101および負極用電極103は、前述の銅箔(集電体303A、303B)の片面のみ前述の正極101または負極103をそれぞれ接合した。調整方法は上記と同様である。この最外層の銅箔(集電体集電体303A、303B)には、タブ313A、313Bを有する形状で切り抜いたものを使用した。
【0106】
負極103にアルミニウム(Al)を用いた場合、負極103として、アルミニウム(Al)箔(厚さ150μm、ニラコ社)を2cm×2cmに切り抜き、これを銅箔(ニラコ社)に超音波溶接機を使用して接合させ、その後、負極103にマグネシウム(Mg)を用いた場合と同様に、バイポーラ電極320、最外層の正極用電極101および負極用電極103を得た。
【0107】
(一次電池の調製)
アルミラミネートフィルム304を使用して、
図3に示すバイポーラ型の3スタック構造の一次電池を2つ作製した。
【0108】
負極103にマグネシウム(Mg)を用いた一次電池については、上記の方法で調整したバイポーラ電極320を2枚、正極101及び負極103が向かい合うように重ね、バイポーラ電極320同士の間に2.2cm×2.2cmに切り抜いたセパレータ301と、中心部を切り抜いたフレーム形状の熱融着シート302とを挿入する。積層したら、各集電体322同士の周縁部3辺を180℃で熱プレスすることでシールする。
【0109】
最外層も上記と同様に、正極101及び負極103が向かい合うように最外層の負極103、正極101、セパレータ301、熱融着シート302も重ね、上記でシールした辺と同一の3辺を熱プレスすることでシールする。
【0110】
このようにして作製したスタックを、アルミラミネートフィルム304と熱融着シート302とで挟み、上記でシールした辺と同一の3辺を熱プレスすることでアルミラミネートフィルムを袋状にする。
【0111】
その後、2.0 mol/Lの硫酸マグネシウム水溶液(MgSO4)をスタック構造の各セル(部屋)に注入し、セパレータ301を十分に浸漬させた後、アルミラミネートフィルム304の封止していない一辺を真空シールし、最後に、スタックの封止していない一辺をアルミラミネートフィルム304の上から封止することで、負極103にマグネシウム(Mg)を用いたバイポーラ型のスタック一次電池を得た。
【0112】
負極103にアルミニウム(Al)を用いた一次電池についても、負極103にマグネシウム(Mg)を用いた一次電池と同様に調整してバイポーラ型のスタック一次電池を得た。ただし、この一次電池では、硫酸マグネシウム水溶液(MgSO4)の代わりに2.0 mol/Lの硫酸アルミニウム水溶液(Al2(SO4)3)をスタック構造の各セル(部屋)に注入し、セパレータ301を十分に浸漬させる。
【0113】
なお、実施例3では、3スタックであるが、3スタック以上のバイポーラ型のスタック一次電池の作製も可能で、その場合は、積層するバイポーラ電極320の積層数を増やせば良い。
【0114】
(電池性能)
本実施例の2つの一次電池の放電容量及び平均放電電圧を、表1に示す。表1に示すように、負極にマグネシウム(Mg)を用いた電池における実施例3の放電容量は、260mAh/gを示し、実施例2と同等であった。負極にアルミニウム(Al)を用いた電池においても、実施例3の放電容量は実施例2と同等であった。
【0115】
また、表1に示すように平均放電電圧は、実施例1の3倍程度であり、バイポーラ型のスタック構造一次電池にすることで、従来のリチウムイオン電池と同等の電圧を達成することができる。
【0116】
以上の結果より、本実施形態の一次電池は、正極活物質として2,5-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノンを用い、負極活物質としてマグネシウムまたはアルミニウムを用いることにより、低環境負荷で、廃棄処理を簡便化することができる。
【0117】
また、本実施形態の一次電池は、空気電池とは異なり空気取り込み口が不要な、密閉型の電池である。そのため、本実施形態の一次電池は、空気取り込み口から電解液が揮発することなく、長期保存することができる。
【0118】
電解質に水系電解液を用いることが好ましい。有機系電解液を用いた場合、燃えやすいため火災、爆発などの原因になる恐れがあり、また、漏洩時に人体や環境に対する悪影響が懸念される。これに対し、本実施形態では、水系電解液を用いることで、安全性が高く、安価な電池を作製することができる。
【0119】
水系電解液のpHは、5.8以上8.6以下であることが好ましい。これにより、環境に配慮した、廃棄処理が容易な電池を作製することができる。
【0120】
したがって、本実施形態の一次電池は、小型デバイス、センサ、モバイル機器などの様々な電子機器の新しい駆動源として有効利用することができる。
【0121】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、様々な変形および組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0122】
101:正極
102:水系電解液(電解質)
103:負極
201:正極ケース
202:負極ケース
203:プロピレンガスケット
301:セパレータ
302:熱融着シート
303A、303B:最外層集電体
304:アルミラミネートフィルム
320:バイポーラ電極
322:集電体