(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】ディジタル・アナログ変換回路
(51)【国際特許分類】
H03M 1/78 20060101AFI20241107BHJP
H03K 19/18 20060101ALI20241107BHJP
H03K 17/90 20060101ALI20241107BHJP
H10N 52/00 20230101ALI20241107BHJP
H01L 21/338 20060101ALI20241107BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20241107BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
H03M1/78
H03K19/18
H03K17/90
H10N52/00 A
H01L29/80 H
(21)【出願番号】P 2023542060
(86)(22)【出願日】2021-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2021030030
(87)【国際公開番号】W WO2023021576
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋坂 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】熊田 倫雄
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-120946(JP,A)
【文献】特開2014-120949(JP,A)
【文献】特開2015-65651(JP,A)
【文献】特表2004-526269(JP,A)
【文献】特開昭62-227224(JP,A)
【文献】特開平7-79032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/78
H03K 19/18
H03K 17/90
H10N 52/00
H01L 21/338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の抵抗値を有する第1の素子と、
第1の抵抗値と異なる第2の抵抗値を有する第2の素子と、
前記第1の素子と前記第2の素子との間のノードに接続される第3の素子と、
前記第3の素子の前記ノードと接続される側の端子と異なる端子に、値の異なる複数の電圧のいずれかを供給するスイッチ素子と、を含み、
前記第1の素子、前記第2の素子、前記第3の素子及び前記スイッチ素子の少なくとも一部が、磁場を印加することによって抵抗値が量子化される量子ホール素子であることを特徴とする、ディジタル・アナログ変換回路。
【請求項2】
前記第2の素子は、前記第1の素子を複数直列に接続して構成されることを特徴とする、請求項1に記載のディジタル・アナログ変換回路。
【請求項3】
前記量子ホール素子が複数設けられ、複数の前記量子ホール素子は、それぞれが、半導体基板と、前記半導体基板の一方の主面の側に形成されて、前記半導体基板との間に電子が蓄積される半導体の層と、によって二次元電子系を構成し、前記二次元電子系と接触する電極を含み、前記半導体基板は同一の半導体ウェハから切り出されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のディジタル・アナログ変換回路。
【請求項4】
前記スイッチ素子の少なくとも一部が前記量子ホール素子であり、前記スイッチ素子は、前記二次元電子系における半導体の前記層上にゲート電極を備え、前記ゲート電極に電圧を印加することによって前記ゲート電極下を絶縁化、または導電化することを特徴とする、請求項3に記載のディジタル・アナログ変換回路。
【請求項5】
前記スイッチ素子は、前記ゲート電極に電圧を印加することによって前記ゲート電極下を絶縁化、または導電化し、電流が流れる前記電極を変更することによって前記量子ホール素子に印加される電圧を切り替えることを特徴とする、請求項4に記載のディジタル・アナログ変換回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル・アナログ変換回路に関する。
【背景技術】
【0002】
ディジタル信号をアナログ信号に、またはアナログ信号をディジタル信号に変換するデータ変換器が電子回路に様々な分野で使用されている。データ変換器については、例えば、非特許文献1に記載されている。非特許文献1には、ディジタル・アナログ変換回路の例として、スマートフォンにおけるタッチや音声のアナログ信号をディジタル化して処理し、これを再びアナログ信号に変換して基地局等に送信する例が記載されている。このような処理のディジタル・アナログ変換に関しては、変換後のアナログ信号によって表すことができるディジタル信号の最小値、すなわち分解能が高いほどスマートフォンの操作精度、あるいは音声の再現性を高めることができるので好ましい。
【0003】
ディジタル・アナログ変換回路として、比較的小面積で製造し易いという利点を有するR-2Rラダー回路がある。R-2Rラダー回路は、抵抗値Rの複数の抵抗素子及び抵抗値2Rの複数の抵抗素子を規則的に配置し、スイッチに接続された端子が入力電圧Vまたは接地(電圧0)のいずれかに接続される。すなわち、R-2Rラダー回路は、ディジタル信号D0、D1、・・・Dn-1をnビットのアナログ電圧信号へ変換する。R-2Rラダー回路は、実用上は出力端子にオペアンプなどによるバッファ回路を接続し、十分な電流を出力できるようにして使用されることが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】和保孝夫著「ディジタル/アナログ変換入門」コロナ社
【発明の概要】
【0005】
R-2Rラダー回路の分解能は、回路に含まれる抵抗素子の抵抗値(回路定数)の相対的な精度(比精度)によって決定する。R-2Rラダー回路の分解能を高めるためには、スイッチや配線の寄生抵抗の寄与も含めた抵抗素子の抵抗値(R及び2R)を正確に揃えることで、高分解能のディジタル・アナログ変換回路を実現できる。しかしながら、抵抗素子の抵抗値のばらつきは、抵抗素子製造時のプロセスの条件等により充分小さくすることが難しく、R-2Rラダー回路における上記抵抗値の比精度にはさらなる高精度化が望まれている。本開示は、このような点に鑑みてなされたものであり、さらに高分解能のディジタル・アナログ変換回路を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するために本開示の一形態のディジタル・アナログ変換回路は、第1の抵抗値を有する第1の素子と、第1の抵抗値と異なる第2の抵抗値を有する第2の素子と、前記第1の素子と前記第2の素子との間のノードに接続される第3の素子と、前記第3の素子の前記ノードと接続される側の端子と異なる端子に、値の異なる複数の電圧のいずれかを供給するスイッチ素子と、を含み、前記第1の素子、前記第2の素子、前記第3の素子及び前記スイッチ素子の少なくとも一部が、磁場を印加することによって抵抗値が量子化される量子ホール素子であることを特徴とする。
【0007】
以上の形態によれば、さらに高分解能のディジタル・アナログ変換回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一般的な量子ホール素子の試料を例示する断面図である。
【
図2】公知のnビットのR-2Rラダー回路を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態のR-2Rラダー回路を説明するための図である。
【
図4】
図3に示す量子ホール素子をより詳細に説明するための斜視図である。
【
図5】第2の実施形態のR-2Rラダー回路を説明するための図である。
【
図6】量子ホール素子をより詳細に説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施形態、第2の実施形態は、R-2Rラダー回路のディジタル・アナログ回路に量子ホール効果、または異常量子ホール効果を利用して比精度を高め、高分解能を実現する。ここで、量子ホール効果は、二次元的に電子が分布する試料(二次元電子系)に垂直に磁場を印加したとき、二次元電子系のホール伝導度が量子化する現象をいう。磁場印加は、電磁石を用いてもよいし、永久磁石を用いてもよい。異常量子ホール効果は、磁性を持つ二次元電子系において、無磁場でホール伝導度の量子化が起こる現象である。量子ホール効果を発現させる二次元電子系試料の例としては、半導体ヘテロ界面、グラフェンなどの原子層物質、化合物の表面等、様々なものが公知になっている。本明細書では、量子ホール効果と異常量子ホール効果をまとめて量子ホール効果と記し、量子ホール効果状態にある素子を量子ホール素子と記す。
【0010】
ここで、第1の実施形態に先立って、量子ホール素子について説明する。
図1は、一般的な量子ホール素子の試料を例示する断面図である。
図1に例示した量子ホール素子は、ガリウム砒素(GaAs)の基板140と、アルミニウムガリウム砒素層150(Al
xGa
1-xAs、xはガリウムをアルミニウムで置換した割合を表し、典型的にはx=0.3程度である)と、を有している。基板140とアルミニウムガリウム砒素層150とのヘテロ界面130の部分に電子が蓄積される。本明細書では、電子が蓄積される基板と層の界面のみならず、電子が蓄積される界面及び界面を構成する基板及び半導体の層を「二次元電子系」と記す。
図1の試料においては、この二次元電子系に2つの金属電極170を接触させて電極端子とする。金属電極170の一方に電圧を印加し、他方の金属電極170において電流を測定すると、二次元電子系の電気抵抗を測定することができる。
【0011】
このような試料は、
図1中に示す方向の垂直磁場Bが印加された場合、量子ホール効果が生じ、2つの電極端子の間の電気抵抗が量子化する。なお、
図1で示しているように、アルミニウムガリウム砒素層150に金属のゲート電極160を取り付けることができる。ゲート電極160とアルミニウムガリウム砒素層150はショットキー障壁によって絶縁されるため、ゲート電極160を備えた試料では、ゲート電圧の印加が可能である。ゲート電極160としては金を用いることが多いが、ショットキー障壁が生じる材料であれば原理的にはどのような金属であってもよい。二次元電子系を構成する電子は負の電荷を持つため、ゲート電圧を負に印加すると、電子とゲート電極の間に反発力が生じ、結果としてゲート電極直下の二次元電子系の電子密度が減少する。さらに大きな負のゲート電圧を印加すると、直下の二次元電子系の電子密度をゼロにして絶縁化させる(空乏層を形成する)ことができる。
【0012】
なお、以上の説明は、GaAsとAlxGa1-xAsのヘテロ界面の二次元電子系についてのものであるが、量子ホール効果は原理的にどのような二次元電子系であっても生じる現象である。このため、本開示の量子ホール素子は、GaAsの半導体の基板とAlxGa1-xAs層のヘテロ界面を備える構成に限定されるものではない。量子ホール素子に用いられる半導体材料としては、例えば、インジウム砒素(InAs)、インジウムアンチモン(InSb)が挙げられる。また、量子ホール素子のゲート電極160、金属電極170の材料及び素子構造は、選択された二次元電子系材料に合わせて適切に選択する必要がある。例えば、InAs層を基板上に形成して量子ホール素子を製造する場合、アルミナ等の絶縁層を設けてから金属電極170が設けられる。グラフェン等の原子層物質の場合も、二次元電子系が剥き出しになっているため、絶縁層を設ける必要が生じる。
【0013】
(第1の実施形態)
図2は、公知のnビットのR-2Rラダー回路100を示す図である。R-2Rラダー回路100は、抵抗素子110、120a、120bと、複数のスイッチD
0からスイッチD
n-1とを含んでいる。抵抗素子110の抵抗値をR、抵抗素子120a、120bの抵抗値を2Rとする。R-2Rラダー回路は、参照電圧VをR-2Rの抵抗値で分圧し、それぞれの重みを付加した電流を出力する回路である。R-2Rラダー回路100は、接地電圧と入力電圧Vとの間に抵抗素子110、120aを接続し、抵抗素子110と抵抗素子120aとの間に抵抗素子120bを接続し、この抵抗素子120bをスイッチD
0からD
n―1によって接地電圧及び入力電圧Vの一方に接続するように構成されている。
【0014】
図3は、本発明の第1の実施形態のR-2Rラダー回路1を説明するための図である。第1の実施形態のR-2Rラダー回路1は、
図1の抵抗素子110、120a、120bに代えて、量子ホール素子31を用いている。
図3に示す量子ホール素子31は、
図1の抵抗素子110に対応し、2つの量子ホール素子31によって構成される量子ホール素子対32aは、抵抗素子120aに対応し、量子ホール素子対32bは、抵抗素子120bに対応する。すなわち、R-2Rラダー回路1は、量子ホール素子31を直列に接続して量子ホール素子31の抵抗値の2倍の抵抗値を有する量子ホール素子対32a、32bを有する。量子ホール素子31と量子ホール素子対32aは直列に接続される。また、量子ホール素子31においては、量子ホール素子対32aと接続される端子と反対側の端子が他の複数の量子ホール素子31と順次直列に接続される。量子ホール素子対32と量子ホール素子31との間、及び量子ホール素子31同士の間のノードN
1のそれぞれには量子ホール素子対32bが接続される。量子ホール素子対32bのノードN
1に接続された側の反対の側にはスイッチ33が接続される。複数個所あるノードN
1の各々にはそれぞれ1つのスイッチ33が接続され、R-2Rラダー回路1全体においては複数のスイッチ33
0からスイッチ33
n―1が設けられる。スイッチ33
0からスイッチ33
n―1について、区別する必要がない場合には単にスイッチ33と記す。
【0015】
上記の構成において、量子ホール素子31は第1の素子に、量子ホール素子対32aは第2の素子に、量子ホール素子31と量子ホール素子対32aとの間に接続される互いに並列な量子ホール素子32bは第3の素子にそれぞれ対応する。また、スイッチ33は、スイッチ素子に対応する。
【0016】
さらに、R-2Rラダー回路1は、接地電圧が印加されるノードN2と、入力電圧Vが印加されるノードN3とを含む。スイッチ33は、互いに並列に接続された量子ホール素子対32bが接地電圧、または参照電圧のいずれか一方に接続されるように切り替えられる。このような構成において、各スイッチ33bに二進ディジタル信号(0または1)を入力し、0入力を接地、1入力を入力電圧Vへの接続に対応させると、二進ディジタル信号D0、D1、・・・Dn-1によって出力電圧VO=V×(D0×20+D1×21+・・・+Dn-1×2n1)/2nが出力される。
【0017】
図4は、
図3に示す量子ホール素子31をより詳細に説明するための斜視図である。
図4に示す量子ホール素子31は、二次元電子系13と、二次元電子系13の両端に設けられる金属電極12と、を備えている。量子ホール素子31には垂直磁場Bが印加されていて、金属電極12間の抵抗が量子化した状態になっている。垂直磁場の印加は、例えば、磁石から発生する磁力線中に量子ホール素子31がセットされるステージを配置し、磁力線が量子ホール素子31の主面を垂直に通過するように量子ホール素子31をセットすることによって可能になる。磁石は、永久磁石であってもよいし、電磁石であってもよい。
【0018】
図4に示す例は、ゲート電極を持たない構成の量子ホール素子である。第1の実施形態においては、二次元電子系13を、例えば、GaAs基板の一方の主面の側にAlGaAs層を形成して構成することができる。二次元電子系13の内部(バルク)は絶縁体であり、電流は二次元電子系13の外縁部に生じる1次元1方向性の伝導チャネル(エッジチャネル)Eに沿って流れる。量子ホール素子31の電気伝導度は、主に二次元電子系13の端部を並走するエッジチャネルEの本数nによって決まり、金属電極間(第1の実施形態では金属電極12、12間)である二端子抵抗は、フォンクリッツィング定数RkをエッジチャネルEの本数nで除算した(R
K/n)によって決まる。二端子抵抗は極めて正確に量子化するため、電気抵抗標準として利用されることが公知である(PHYSICAL MEASUREMENT LABORATORY,https://physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value?rk(2021年8月6日アクセス))。
【0019】
なおエッジチャネルの本数nは、二次元電子系の電子密度(単位面積当たりの電子の数)と、磁場の強さ(単位面積当たりの磁束量子の数)の比(ランダウ準位充填率n)によって決定する。このため、第1の実施形態は、GaAs基板やAlGaAs層といった半導体材料や金属電極12への印加電圧及び垂直磁場Bの強さを調整することによって量子ホール素子抵抗の値を変更することができる。
【0020】
次に、量子ホール素子31を用いて
図3に示すR-2Rラダー回路1を構成することにより、R-2Rラダー回路1における比精度が高まることについて説明する。
【0021】
量子ホール素子31の二端子抵抗RQHは、以下の式によって表される。
【0022】
RQH=(RK/n)+RC ・・・式(1)
式(1)において、RCは金属電極12が二次元電子系を構成する層と接触する接触抵抗の値である。一般的に、RCは(RK/n)よりも十分に小さい値であり、二端子抵抗は正確な(RK/n)の値が支配的になる。ただし、接触抵抗の値RCには製造プロセス上のばらつきが生じ、これをなくすことは困難である。R-2Rラダー回路1の複数の量子ホール素子31の二端子抵抗をより高い精度で一定の値にするためには、同一の半導体ウェハ上に形成された量子ホール素子31を使ってR-2Rラダー回路1を形成することが考えられる。
【0023】
すなわち、半導体素子の多くは、一枚の半導体ウェハ上に複数の素子領域を画定し、素子領域の各々に、素子に必要な部材を作り込み、素子の完成後に半導体ウェハを分割してチップ化することによって形成される。このようなプロセスにおいて、同一の半導体ウェハで形成された量子ホール素子31は、二次元電子系13の基板由来の接触抵抗のばらつきをなくし、二端子抵抗を高い精度で一定にすることができる。また、金属電極12は、ウェハ上に形成された単一の金属層をエッチングにより除去して形成されるため、複数の量子ホール素子31の金属電極12が同一の金属層によって形成されることになる。同一の金属層によって形成された金属電極12を持つ複数の量子ホール素子31は、接触抵抗の値RCに金属層の厚みや組成に由来するばらつきが少なく、高い精度で値RCを一定にすることができる。
【0024】
さらに、第1の実施形態は、上記の二端子抵抗の比精度が高い量子ホール素子31のみを使ってR-2Rラダー回路1内に抵抗値の異なる素子を形成している。すなわち、第1の実施形態は、量子ホール素子31を2つ直列に接続して1つの量子ホール素子対32を構成するため、複数の量子ホール素子対32における比精度をも高めることができる。そして、R-2Rラダー回路1に含まれる量子ホール素子全体の比精度を高め、高分解能のディジタル・アナログ回路を構成することが可能になる。ただし、第1の実施形態は、このような構成に限定されるものでなく、比精度の許容する範囲において適宜量子ホール素子以外の素子を抵抗素子に用いることができる。
【0025】
以上説明したように、第1の実施形態は、極めて正確、かつ高再現性の電気伝導度を持つ量子ホール素子31を抵抗体として用いることで、従来よりも高分解能のディジタル・アナログ変換回路を実現できる。さらに、1つのR-2Rラダー回路内で同一の基板上に形成された複数の量子ホール素子を用いることにより、プロセスに起因する素子特性のばらつきを抑え、ディジタル・アナログ回路の比精度を高め、分解能をいっそう高めることができる。
【0026】
さらに、第1の実施形態は、量子ホール素子31及び2つの量子ホール素子31によって構成される量子ホール素子対32a、32bによってR-2Rラダー回路を構成することに限定されるものではない。第1の実施形態は、さらに多数の量子ホール素子31を接続し、R-2Rラダー回路とは異なるディジタル・アナログ変換回路を形成してもよい。
【0027】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態のR-2Rラダー回路2を説明するための図である。R-2Rラダー回路2は、第1の実施形態のR-2Rラダー回路1のスイッチ33に代えて、ゲート電極を有する量子ホール素子4を設けた回路である。スイッチ素子として機能する量子ホール素子4は、ゲート電極に電圧を印加することによってゲート電極下を絶縁化、または導電化する。
【0028】
R-2Rラダー回路2においては、量子ホール素子対32と量子ホール素子31aとが複数、かつ直列に接続され、量子ホール素子対32と量子ホール素子31aとの間のノードN1に量子ホール素子31bが接続され、量子ホール素子31bにゲート電極41を有する量子ホール素子4が接続される。量子ホール素子対32と量子ホール素子31aとの間のノードN1は複数個所あって、量子ホール素子31b及び量子ホール素子4は、複数個所の各々に互いに直列に接続され、量子ホール素子31b同士、及び量子ホール素子4同士は互いに並列になっている。
【0029】
図6は、量子ホール素子4をより詳細に説明するための斜視図である。量子ホール素子4は、二次元電子系13a、13b、13cと、二次元電子系13c上に形成されたゲート電極41と、二次元電子系13aに設けられた金属電極12a、12b、二次元電子系13bに設けられた金属電極12cを有している。金属電極12aは、量子ホール素子31bに接続され、接地電圧(図中でV
Aと記す)が印加される。金属電極12bには、ノードN2を介して接地電圧が印加される。金属電極12cには、ノードN3を介して入力電圧Vが印加される。ゲート電極41にはゲート電圧V
Gが印加される。量子ホール素子4は、電流が流れる電極を変更することによって量子ホール素子に印加される電圧を切り替えている。
【0030】
第2の実施形態では、
図1において説明したように、ゲート電極41に負のゲート電圧を印加してゲート電極41下の界面に空乏層を形成して絶縁化する。このようにすることにより、量子ホール素子4においては、ゲート電圧V
Gが印加されない場合、界面は導電化し、エッジチャネルE1、E2、E3を通って二次元電子系13a、13b間に電圧V
Aと入力電圧Vとの電位差に応じた電流が流れる。このような状態は、
図3に示すスイッチ33が入力電圧の側に接続された状態に対応する。また、ゲート電極41にゲート電圧V
Gを印加すると、二次元電子系13cが絶縁化し、二次元電子系13aと二次元電子系13bとの間を電流が流れなくなる。このとき、電流は、エッジチャネルE1と、不図示のエッジチャネルE1と平行に、金属電極12bから金属電極12aに向かうエッジチャネルを通って流れる。このような状態は、
図3に示すスイッチ33が接地電圧の側に接続された状態に対応する。
【0031】
以上説明したように、第2の実施形態のディジタル・アナログ回路は、公知のR-2Rラダー回路における抵抗素子に加えてスイッチまでも量子ホール素子によって構成した。このような第2の実施形態のディジタル・アナログ回路は、スイッチに起因する規制抵抗のばらつきを抑えて素子の比精度をいっそう高め、さらに高分解能なディジタル・アナログ回路を構成することができる。
【0032】
さらに、ゲート電極を有する量子ホール素子を備えた第2の実施形態は、半導体材料や垂直磁場Bと共に、ゲー電圧を利用して界面の電子密度を変更し、エッジチャネルの本数を制御することができる。
【符号の説明】
【0033】
1、2、100 ラダー回路
4、31、32、31a、31b、32a、32b 量子ホール素子
12、12a、12b、12c、170 金属電極
13、13a、13b、13c 二次元電子系
33 スイッチ
41、160 ゲート電極
110、120 抵抗素子
130 ヘテロ界面
140 基板
150 アルミニウムガリウム砒素層