(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】シート材製造装置及びシート材製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20241107BHJP
B05C 3/18 20060101ALI20241107BHJP
B05C 11/00 20060101ALI20241107BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20241107BHJP
B05D 1/28 20060101ALI20241107BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20241107BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B29B11/16
B05C3/18
B05C11/00
B05C11/10
B05D1/28
B05D3/00 F
B05D7/24 301R
(21)【出願番号】P 2020184469
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 正昭
(72)【発明者】
【氏名】塩根 英樹
(72)【発明者】
【氏名】嘉納 達郎
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-270732(JP,A)
【文献】特開平03-214564(JP,A)
【文献】特表2020-517418(JP,A)
【文献】特開2007-185930(JP,A)
【文献】特開平02-048907(JP,A)
【文献】特開平05-000415(JP,A)
【文献】特開平11-165113(JP,A)
【文献】特開2002-248406(JP,A)
【文献】特開2001-150434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
C08J 5/04-5/10;5/24
B05C 3/18
B05C 11/00
B05C 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一キャリアフィルムに第一樹脂コンパウンドを供給する第一供給部と、
供給された前記第一樹脂コンパウンドの樹脂厚みを均一化するように塗布するための第一ドクターブレードと、
前記第一ドクターブレードを、対向配置される前記第一キャリアフィルムに対して接近又は離間させる第一駆動部と、
塗布された前記第一樹脂コンパウンドの樹脂厚みを、相対移動する前記第一キャリアフィルムに対して繰り返し計測する、少なくとも一つの第一樹脂厚み計測部と、
前記第一樹脂コンパウンドの塗布された前記第一キャリアフィルムに、補強繊維材を供給し堆積させる堆積部と、
前記補強繊維材を堆積させた前記第一キャリアフィルムに、第二樹脂コンパウンドの塗布された第二キャリアフィルムを積層して、シート材を形成するシート材形成部と、
形成される前記シート材の単位面積当たりの重量に基づいて設定される、前記第一キャリアフィルムと前記第一ドクターブレードの間隔の目標値を、前記第一樹脂厚み計測部で繰り返し取得される計測結果に基づいて修正し、修正した前記目標値を前記第一駆動部に送出して前記第一駆動部を制御する、制御部と、
を備え、
前記第一樹脂厚み計測部は、前記第一キャリアフィルムの幅方向に並ぶ複数のセンサを含み、
前記制御部における前記目標値の修正は、前記複数のセンサの計測結果に重みづけを施すことを含み、前記重みづけの際、前記複数のセンサのうち、前記第一キャリアフィルムの、幅方向中央位置から最も近い位置に配置されたセンサの計測結果に対する重み値が、他のセンサの計測結果に対する重み値よりも大きくなるように設定されることを特徴とする、シート材製造装置。
【請求項2】
前記第二キャリアフィルムに前記第二樹脂コンパウンドを供給する第二供給部と、
供給された前記第二樹脂コンパウンドの樹脂厚みを均一化するように塗布するための第二ドクターブレードと、
前記第二ドクターブレードを、対向配置される前記第二キャリアフィルムに対して接近又は離間させる第二駆動部と、
塗布された前記第二樹脂コンパウンドの樹脂厚みを、相対移動する前記第二キャリアフィルムに対して繰り返し計測する、少なくとも一つの第二樹脂厚み計測部と、を備え、
前記制御部は、形成される前記シート材の単位面積当たりの重量に基づいて設定される、前記第二キャリアフィルムと前記第二ドクターブレードの間隔の目標値を、前記第二樹脂厚み計測部で繰り返し取得される計測結果に基づいて修正し、修正した前記目標値を前記第二駆動部に送出して前記第二駆動部を制御することを特徴とする、請求項1に記載のシート材製造装置。
【請求項3】
前記第二樹脂厚み計測
部は、前記
第二キャリアフィルムの幅方向に並ぶ複数のセンサを含むことを特徴とする、請求項
2に記載のシート材製造装置。
【請求項4】
前記制御部における前記目標値の修正は、前記
第二キャリアフィルムの幅方向に並ぶ複数のセンサの計測結果に重みづけを施すことを含み、前記重みづけの際、前記
第二キャリアフィルムの幅方向に並ぶ複数のセンサのうち
、前記第二キャリアフィルムの、幅方向中央位置から最も近い位置に配置されたセンサの計測結果に対する重み値が、他のセンサの計測結果に対する重み値よりも大きくなるように設定されることを特徴とする、請求項3に記載のシート材製造装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第一樹脂コンパウンド又は前記第二樹脂コンパウンドの、温度、比重、粘度及び液溜まり量、並びに前記第一キャリアフィルム又は前記第二キャリアフィルムの移動速度、の少なくとも一つに基づいて、前記目標値を修正する、請求項1~4のいずれか一項に記載のシート材製造装置。
【請求項6】
前記シート材を押して前記補強繊維材の間に前記樹脂コンパウンドを含浸させる、含浸部と、
含浸させた後の前記シート材の厚みを計測するシート厚み計測部と、を備え、
前記シート厚み計測部の計測結果に基づいて、前記補強繊維材の堆積量と、前記含浸部で前記シート材を押す力と、の少なくとも一つを調整する、
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のシート材製造装置。
【請求項7】
第一キャリアフィルムに第一樹脂コンパウンドを供給し、第一ドクターブレードで前記第一キャリアフィルムに前記第一樹脂コンパウンドの樹脂厚みを均一化するように塗布する、前記第一樹脂コンパウンドの塗布ステップと、
塗布された前記第一樹脂コンパウンドの樹脂厚みを、相対移動する前記第一キャリアフィルムに対して繰り返し計測する、第一樹脂コンパウンドの樹脂厚み計測ステップと、
前記第一樹脂コンパウンドの塗布された前記第一キャリアフィルムに、補強繊維材を供給し堆積させる、堆積ステップと、
前記補強繊維材を堆積させた前記第一キャリアフィルムに、第二樹脂コンパウンドの塗布された第二キャリアフィルムを積層して、シート材を形成する、シート材形成ステップと、を備え、
前記第一樹脂コンパウンドの前記塗布ステップでは、形成される前記シート材の単位面積当たりの重量に基づいて、前記第一キャリアフィルムと前記第一ドクターブレードの間隔の目標値を設定し、繰り返し計測した前記第一樹脂コンパウンドの前記樹脂厚みに基づいて、前記目標値を繰り返し修正し、修正した前記目標値に従って、前記第一キャリアフィルムと前記第一ドクターブレードの間隔を調整
し、
前記第一樹脂コンパウンドの樹脂厚み計測ステップでは、前記第一キャリアフィルムの幅方向に並ぶ複数の位置でそれぞれ前記樹脂厚みを計測し、
前記第一樹脂コンパウンドの前記塗布ステップでは、前記目標値を修正する際、前記複数の位置それぞれの計測結果に重みづけを施すことを含み、前記重みづけの際、前記複数の位置での計測結果のうち、前記第一キャリアフィルムの幅方向中央から最も近い計測位置における計測結果に対する重み値が、他の計測位置における計測結果に対する重み値よりも大きくなるように設定されることを特徴とする、シート材製造方法。
【請求項8】
前記第二キャリアフィルムに前記第二樹脂コンパウンドを供給し、第二ドクターブレードで前記第二キャリアフィルムに前記第二樹脂コンパウンドの樹脂厚みを均一化するように塗布する、前記第二樹脂コンパウンドの塗布ステップと、
塗布された前記第二樹脂コンパウンドの樹脂厚みを、相対移動する前記第二キャリアフィルムに対して繰り返し計測する、前記第二樹脂コンパウンドの樹脂厚み計測ステップと、
前記第二樹脂コンパウンドの前記塗布ステップでは、形成される前記シート材の単位面積当たりの重量に基づいて、前記第二キャリアフィルムと前記第二ドクターブレードの間隔の目標値を設定し、繰り返し計測した前記第二樹脂コンパウンドの前記樹脂厚みに基づいて、前記目標値を繰り返し修正し、修正した前記目標値に従って、前記第二キャリアフィルムと前記第二ドクターブレードの間隔を調整する、ことを特徴とする、請求項7に記載のシート材製造方法。
【請求項9】
前記第二樹脂コンパウンドの樹脂厚み計測ステップでは
、前記第二キャリアフィルムの幅方向に並ぶ複数の位置でそれぞれ前記樹脂厚みを計測し、
前記第二樹脂コンパウンドの塗布ステップでは、前記目標値を修正する際、前記複数の位置それぞれの計測結果に重みづけを施すことを含み、前記重みづけの際、前記複数の位置での計測結果のうち
、前記第二キャリアフィルムの幅方向中央から最も近い計測位置における計測結果に対する重み値が、他の計測位置における計測結果に対する重み値よりも大きくなるように設定されることを特徴とする、請求項
8に記載のシート材製造方法。
【請求項10】
前記第一樹脂コンパウンド又は前記第二樹脂コンパウンドの温度、比重、粘度及び液溜まり量、並びに前記第一キャリアフィルム又は前記第二キャリアフィルムの移動速度、の少なくともいずれか一つに基づいて、前記目標値を修正する、請求項7~9のいずれか一項に記載のシート材製造方法。
【請求項11】
前記シート材を押して前記補強繊維材の間に前記樹脂コンパウンドを含浸させる、含浸ステップと、
含浸させた後の前記シート材の厚みを計測するシート厚み計測ステップと、
前記シート材の厚みの計測結果に基づいて、前記補強繊維材の堆積量と、前記含浸部で前記シート材を押す力と、の少なくともいずれか一つを調整する、シート厚み調整ステップと、を備えることを特徴とする、請求項7~10のいずれか一項に記載のシート材製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材製造装置及びシート材製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維等からなる繊維補強材に合成樹脂を混入させた複合材料は、繊維強化プラスチック(FRP)と呼ばれ、住宅設備、輸送用機器、工業製品等に幅広く使用されている。
【0003】
特許文献1には、FRPを成形するために使用される、シート状の成形材料(以下、「シート材」という。)であるSMC(シートモールディングコンパウンド)の製造方法及びその製造装置が記載されている。具体的には、キャリアフィルムの巻回されたロールから、キャリアフィルムを順に巻き出す。巻き出されて搬送部により移動されるキャリアフィルム上に、ドクターブレード(「ドクターナイフ」とも呼ばれる)を使用して、樹脂コンパウンドを所定の厚みで塗布し、塗布した樹脂コンパウンドに補強繊維材を供給し堆積させ、もう一つの、樹脂コンパウンドの塗布されたキャリアフィルムを積層してシート材を形成し、シート材を押して樹脂コンパウンドを補強繊維材に含浸させ、シート材を順次巻き取りSMCロールを製造することが、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SMCの製造規格は、SMCの、単位面積当たりの重量(以下、「単位重量」ということがある。)によって設定されている。そのため、製造したSMCロールの一部を巻き出して切り取り、切り取った試料の重量を測定することで、SMCの製造規格を満たすか否かを検査している。
【0006】
通常は、SMCロールを製造ロット単位で検査するため、ロールの切替えタイミングにおいて、SMCロールに巻き取られるシート材の下流端の一部を切りとり検査をしている。このような検査の場合、検査で不良と判定されたら、直近の巻き取られたSMCロールのシート材は、すべて不良として扱われる。
【0007】
それだけでなく、SMCロールを検査している間、次のSMCロールの生産に取り掛かっている場合には、そのSMCロールも不良扱いとなる。SMCロールを検査している間、次のSMCロールの生産を停止させる場合には、製造装置の稼働率が低下する。
【0008】
加えて、ロールで巻き取る製造方法であるため、切り取った試料によるサンプリング検査という特性上、SMCロールを構成するシート材の全長に亘る重量変動を監視することが難しい。また、ロールで巻き取る製造方法の他に、折り重ねて箱形状に梱包する製造方法もあるが、この方法においても上述した問題が同様に生じる。
【0009】
そこで、SMC等のシート材の全長に亘る品質を制御し、製造効率を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ところで、SMC等のシート材の重量は、主に、シート材を構成する、樹脂コンパウンド、補強繊維材及びキャリアフィルムの合計重量によって決定される。本発明者がシート材の単位重量が製造規格値から外れる要因を分析したところ、その最大の要因は樹脂コンパウンドの重量変動にあることがわかった。
【0011】
樹脂コンパウンドは、供給部からキャリアフィルムに供給される。そして、供給された樹脂コンパウンドは、ドクターブレードによって樹脂厚みを均一化するように塗布される。
【0012】
しかしながら、ドクターブレードを使用しても塗布した樹脂厚みの変動が収まりきらず、これにより樹脂コンパウンドの重量変動が発生していることがわかった。詳細は後述するが、本発明者は、その要因として、ドクターブレードが変形することを見出した。
【0013】
本発明者は、上記分析に基づいて、シート材の製造規格である単位重量の管理値を換算して樹脂コンパウンドの樹脂厚みの目標値を導き、樹脂コンパウンドを塗布する際に、樹脂厚みのフィードバック制御を行うことに思い至った。
【0014】
すなわち、本発明の、シート材製造装置は、
第一キャリアフィルムに第一樹脂コンパウンドを供給する第一供給部と、
供給された前記第一樹脂コンパウンドの樹脂厚みを均一化するように塗布するための第一ドクターブレードと、
前記第一ドクターブレードを、対向配置される前記第一キャリアフィルムに対して接近又は離間させる第一駆動部と、
塗布された前記第一樹脂コンパウンドの樹脂厚みを、相対移動する前記第一キャリアフィルムに対して繰り返し計測する、少なくとも一つの第一樹脂厚み計測部と、
前記第一樹脂コンパウンドの塗布された前記第一キャリアフィルムに、補強繊維材を供給し堆積させる堆積部と、
前記補強繊維材を堆積させた前記第一キャリアフィルムに、第二樹脂コンパウンドの塗布された第二キャリアフィルムを積層して、シート材を形成するシート材形成部と、
形成される前記シート材の単位面積当たりの重量に基づいて設定される、前記第一キャリアフィルムと前記第一ドクターブレードの間隔の目標値を、前記第一樹脂厚み計測部で繰り返し取得される計測結果に基づいて修正し、修正した前記目標値を前記第一駆動部に送出して前記第一駆動部を制御する、制御部と、
を備える。
【0015】
上記シート材製造装置は、形成されるシート材の製造規格である単位重量に基づいて、樹脂厚みに直結する、前記第一キャリアフィルムと前記第一ドクターブレードの間隔の目標値を設定している。これにより、形成されるシート材の単位重量の管理値(既定の数値範囲)に適合する、樹脂厚みを取得できる。
【0016】
さらに、前記第一樹脂厚み計測部で繰り返し取得される計測結果に基づいて前記目標値を修正し、修正した前記目標値を前記駆動部に送出するため、フィードバック制御により樹脂厚みの変動を抑えることができる。
【0017】
これにより、シート材の重量変動の最大要因である、シート材の全長に亘る、樹脂コンパウンドの重量変動を抑えることができる。その結果、製造規格である、製造したシート材の単位重量の適合率が向上する。よって、不良率が低下し、製造歩留まりが向上する。
【0018】
また、上述した樹脂厚みの制御は、シート材製造装置を停止させることなく行うことができるため、シート材製造装置の稼働率低下を招きにくい。
【0019】
前記シート材製造装置は、前記第二キャリアフィルムに前記第二樹脂コンパウンドを供給する第二供給部と、
供給された前記第二樹脂コンパウンドの樹脂厚みを均一化するように塗布するための第二ドクターブレードと、
前記第二ドクターブレードを、対向配置される前記第二キャリアフィルムに対して接近又は離間させる第二駆動部と、
塗布された前記第二樹脂コンパウンドの樹脂厚みを、相対移動する前記第二キャリアフィルムに対して繰り返し計測する、少なくとも一つの第二樹脂厚み計測部と、を備えても構わない。
【0020】
前記制御部は、形成される前記シート材の単位面積当たりの重量に基づいて設定される、前記第二キャリアフィルムと前記第二ドクターブレードの間隔の目標値を、前記第二樹脂厚み計測部で繰り返し取得される計測結果に基づいて修正し、修正した前記目標値を前記第二駆動部に送出して前記第二駆動部を制御しても構わない。
【0021】
前記第一樹脂厚み計測部は、前記第一キャリアフィルムの幅方向に並ぶ複数のセンサを含んでも構わない。前記第二樹脂厚み計測部は、前記第二キャリアフィルムの幅方向に並ぶ複数のセンサを含んでも構わない。これにより、キャリアフィルムの幅方向の厚みの最適化を図り、製造したシート材の製造規格適合率をさらに向上させる。
【0022】
前記制御部における前記目標値の修正は、前記複数のセンサの計測結果に重みづけを施すことを含む。前記重みづけの際、前記複数のセンサのうち、前記第一キャリアフィルム(又は前記第二キャリアフィルム)の幅方向中央位置から最も近い位置に配置されたセンサの計測結果に対する重み値が、他のセンサの計測結果に対する重み値よりも大きくなるように設定されても構わない。
【0023】
第一キャリアフィルムの幅方向中央の第一樹脂コンパウンドの厚みは、第一キャリアフィルムの幅方向端部の第一樹脂コンパウンドの厚みよりも、製造したシート材の重量に影響を与える。そのため、前記目標値を修正する際、第一キャリアフィルムの幅方向中央の樹脂コンパウンドの厚み結果の重み値を、第一キャリアフィルムの幅方向端部の第一樹脂コンパウンドの厚み結果の重み値に大きく設定する。これにより、第一キャリアフィルムの幅方向の厚みの最適化をさらに図ることができ、第一樹脂コンパウンドの重量をより最適値に近づけて、製造規格適合率をさらに向上させる。
【0024】
第二キャリアフィルムの幅方向中央の第二樹脂コンパウンドの樹脂厚みは、第二キャリアフィルムの幅方向端部の第二樹脂コンパウンドの樹脂厚みよりも、製造したシート材の重量に影響を与える。上述した第一樹脂コンパウンドの塗布制御は、第二キャリアフィルムに塗布される第二樹脂コンパウンドの塗布制御についても同様に適用される。つまり、前記目標値を修正する際、第二キャリアフィルムの幅方向中央の樹脂コンパウンドの厚み結果の重み値を、第二キャリアフィルムの幅方向端部の第二樹脂コンパウンドの厚み結果の重み値に大きく設定する。これにより、第二キャリアフィルムの幅方向の厚みの最適化をさらに図ることができ、第二樹脂コンパウンドの重量をより最適値に近づけて、製造規格適合率をさらに向上させる。
【0025】
前記制御部は、前記第一樹脂コンパウンド又は前記第二樹脂コンパウンドの、温度、比重、粘度及び液溜まり量、並びに、前記第一キャリアフィルム又は前記第二キャリアフィルムの移動速度、の少なくとも一つに基づいて、前記目標値を修正しても構わない。これにより、塗布する樹脂厚みの変化をさらに小さくして、第一樹脂コンパウンド又は第二樹脂コンパウンドの重量変動をさらに抑え、製造したシート材の製造規格適合率をさらに向上させる。
【0026】
前記シート材を押して前記補強繊維材の間に前記樹脂コンパウンドを含浸させる、含浸部と、
含浸させた後の前記シート材の厚みを計測するシート厚み計測部と、を備え、
前記シート厚み計測部の計測結果に基づいて、前記補強繊維材の堆積量と、前記含浸部で前記シート材を押す力と、の少なくとも一つを調整しても構わない。
【0027】
これにより、シート材の重量変動の要因のひとつである、補強繊維材の堆積量を調整し、製造したシート材の製造規格適合率をさらに向上させる。また、シート材を押す力を調整して、第一樹脂コンパウンド及び第二樹脂コンパウンドの補強繊維材への含浸率やエア含有量を調整し、シート材の厚み等、重量以外の製造規格適合率を向上させる。
【0028】
本発明の、シート材製造方法は、
第一キャリアフィルムに第一樹脂コンパウンドを供給し、第一ドクターブレードで前記第一キャリアフィルムに前記第一樹脂コンパウンドの樹脂厚みを均一化するように塗布する、前記第一樹脂コンパウンドの塗布ステップと、
塗布された前記第一樹脂コンパウンドの樹脂厚みを、相対移動する前記第一キャリアフィルムに対して繰り返し計測する、第一樹脂コンパウンドの樹脂厚み計測ステップと、
前記第一樹脂コンパウンドの塗布された前記第一キャリアフィルムに、補強繊維材を供給し堆積させる、堆積ステップと、
前記補強繊維材を堆積させた前記第一キャリアフィルムに、第二樹脂コンパウンドの塗布された第二キャリアフィルムを積層して、シート材を形成する、シート材形成ステップと、を備え、
前記第一樹脂コンパウンドの前記塗布ステップでは、形成される前記シート材の単位面積当たりの重量に基づいて、前記第一キャリアフィルムと前記第一ドクターブレードの間隔の目標値を設定し、繰り返し計測した前記第一樹脂コンパウンドの前記樹脂厚みに基づいて、前記目標値を繰り返し修正し、修正した前記目標値に従って、前記第一キャリアフィルムと前記第一ドクターブレードの間隔を調整する、
ことを備える。
【0029】
前記シート材製造方法は、前記第二キャリアフィルムに前記第二樹脂コンパウンドを供給し、第二ドクターブレードで前記第二キャリアフィルムに前記第二樹脂コンパウンドの樹脂厚みを均一化するように塗布する、前記第二樹脂コンパウンドの塗布ステップと、
塗布された前記第二樹脂コンパウンドの樹脂厚みを、相対移動する前記第二キャリアフィルムに対して繰り返し計測する、前記第二樹脂コンパウンドの樹脂厚み計測ステップと、
前記第二樹脂コンパウンドの前記塗布ステップでは、形成される前記シート材の単位面積当たりの重量に基づいて、前記第二キャリアフィルムと前記第二ドクターブレードの間隔の目標値を設定し、繰り返し計測した前記第二樹脂コンパウンドの前記樹脂厚みに基づいて、前記目標値を繰り返し修正し、修正した前記目標値に従って、前記第二キャリアフィルムと前記第二ドクターブレードの間隔を調整しても構わない。
【0030】
前記樹脂厚み計測ステップの少なくとも一つでは、前記第一キャリアフィルム又は前記第二キャリアフィルムの幅方向に並ぶ複数の位置でそれぞれ前記樹脂厚みを計測し、
前記塗布ステップの少なくとも一つでは、前記目標値を修正する際、前記複数の位置それぞれの計測結果に重みづけを施すことを含み、前記重みづけの際、前記複数の位置での計測結果のうち、前記第一キャリアフィルム又は前記第二キャリアフィルムの幅方向中央から最も近い計測位置における計測結果に対する重み値が、他の計測位置における計測結果に対する重み値よりも大きくなるように設定されても構わない。
【0031】
前記第一樹脂コンパウンド又は前記第二樹脂コンパウンドの温度、比重、粘度及び液溜まり量、並びに前記第一キャリアフィルム又は前記第二キャリアフィルムの移動速度、の少なくともいずれか一つに基づいて、前記目標値を修正しても構わない。
【0032】
前記シート材を押して前記補強繊維材の間に前記樹脂コンパウンドを含浸させる、含浸ステップと、
含浸させた後の前記シート材の厚みを計測するシート厚み計測ステップと、
前記シート厚み計測結果に基づいて、前記補強繊維材の堆積量と、前記含浸部で前記シート材を押す力と、の少なくともいずれか一つを調整する、シート厚み調整ステップと、を備えても構わない。
【発明の効果】
【0033】
これにより、シート材の全長に渡る品質を制御し、シート材の製造効率を高めることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】第一実施形態のシート材製造装置の概略図である。
【
図3】第一ドクターブレードとその周辺領域の拡大側面図である。
【
図4】塗布ステップにおける制御部の演算及び制御フロー図である。
【
図5】第一ドクターブレードを含む周辺領域を拡大して示す斜視図である。
【
図6】第一樹脂厚み計測部、制御部及び第一駆動部のブロック図である。
【
図8】第二実施形態のシート材製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図は模式的に示されている。各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0036】
以下において、各図面は、適宜、XYZ座標系を参照しながら説明される。XYZ座標系は、水平面をXY平面とし、重力方向を-Z方向としている。なお、本明細書において、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0037】
<第一実施形態>
[シート材製造装置とシート材製造方法の概略]
図1は、樹脂コンパウンドをガラス繊維の間に含浸させたシート材であるSMCの製造装置100の概略図である。
図1を参照しながら、シート材製造装置の一実施形態の概略を説明する。
【0038】
図1に示されるように、シート材製造装置100は、樹脂コンパウンド(4,14)をそれぞれ供給する複数の供給部(6,16)と、複数のドクターブレード(5,15)と、堆積部8と、シート材形成部21と、含浸部18と、搬送ベルト3と、を有する。樹脂コンパウンド(4,14)が塗布されるキャリアフィルム(2,12)は、ロール状に巻かれた巻出ロール(1,11)の状態で、シート材製造装置100にセットされる。そして、キャリアフィルム(2,12)は、2つの巻出ロール(1,11)を回転させながら、少しずつ引き出して使用される。
【0039】
キャリアフィルム(2,12)には、いずれも、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のような熱可塑性樹脂フィルムが使用される。キャリアフィルム(2,12)の厚みは、例えば、10~50μmである。キャリアフィルム(2,12)の幅は、例えば、0.5~1.5mである。第一キャリアフィルム2と第二キャリアフィルム12は、同じ材料でもよく、異なる材料でもよい。第一キャリアフィルム2と第二キャリアフィルム12は、同じ厚みでもよく、異なる厚みでもよい。
【0040】
搬送ベルト3は、第一キャリアフィルム2及びシート材10を下方から支持し、図中+X方向に搬送するコンベヤである。搬送ベルト3は、回転するローラ31によって駆動される。ローラ31の回転速度は後述する制御部により変更できる。これにより、第一キャリアフィルム2及びシート材10の移動速度が変更できる。環状に構成される搬送ベルト3の内側には、適宜ガイドローラが配置され、搬送ベルト3を円滑に移動させる。
【0041】
搬送ベルト3は、適宜、開口を有していたり、複数のベルトから構成されたりしても、構わない。第一キャリアフィルム2及びシート材10の搬送機構は、ベルト状のコンベヤに限定されず、様々な搬送機構が適用される。
【0042】
図1に加えて、
図2を参照しながら、シート材製造装置とシート材製造方法の一実施形態の概略を説明する。
図2は、シート材の製造方法のフロー図である。シート材製造方法は、塗布ステップS1、堆積ステップS2、シート材形成ステップS3及び含浸ステップS4を含む。
【0043】
塗布ステップS1では、供給部(6,16)から、移動するキャリアフィルム(2,12)上に、樹脂コンパウンド(4,14)を供給する。そして、ドクターブレード(5,15)を使用して、供給された樹脂コンパウンド(4,14)の樹脂厚みを均一化する。これにより、キャリアフィルム(2,12)上に、樹脂コンパウンド(4,14)が塗布される。ドクターブレード(5,15)の詳細は、後述する。
【0044】
樹脂コンパウンド(4,14)は、例えば、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分としたものに、充填剤や増粘剤、硬化用触媒、内部離型剤、低収縮化剤及び着色剤等を適宜混合して粘度を30~600ポイズ程度としたペースト状の混合物を使用するとよい。塗布する樹脂厚みは、例えば、0.5~2.0mmである。第一樹脂コンパウンド4と第二樹脂コンパウンド14は同じ成分かつ同じ成分量でも構わないし、第一樹脂コンパウンド4と第二樹脂コンパウンド14とで成分又は成分量を異ならせても構わない。
【0045】
堆積ステップS2では、堆積部8において、第一キャリアフィルム2上に塗布された第一樹脂コンパウンド4の上に、補強繊維材9を堆積させる。
図1を参照しながら詳細を説明する。補強繊維材9は、複数束のガラスストランド7を切断装置で1インチ前後の切断片に切断して形成される。そして、第一キャリアフィルム2上に塗布された第一樹脂コンパウンド4の上に、切断片である補強繊維材9を均一に分散するように振りかけて供給する。これにより、第一樹脂コンパウンド4上に補強繊維材9を堆積させる。
【0046】
シート材形成ステップS3では、シート材形成部21において、第一樹脂コンパウンド4が塗布され補強繊維材9が堆積された第一キャリアフィルム2に、もう一つの、第二樹脂コンパウンド14の塗布された第二キャリアフィルム12を、貼り合わせる。貼り合わせるとき、両キャリアフィルム(2,12)に塗布された樹脂コンパウンド(4,14)が、両キャリアフィルム(2,12)の内側に配置されるように積層する。これにより、シート材10を形成する(
図1参照)。
【0047】
含浸ステップS4では、含浸部18において、シート材10を押して、樹脂コンパウンド(4,14)を補強繊維材9の間に含浸させる。これにより、樹脂コンパウンド(4,14)を補強繊維材9の間に含浸させるとともに、シート材10に内在する気泡(エア)を排出する。含浸部18の構造については特に制限がなく、様々な形態を採用できる。含浸部18を経たシート材10は、巻取られて巻取ロール20を形成する。
【0048】
[ドクターブレード]
複数のドクターブレード(5,15)について説明する。
図3は、シート材製造装置100における、第一キャリアフィルム2に塗布するための第一ドクターブレード5とその周辺領域の一実施形態を拡大して示す側面図である。以下の説明は、第一樹脂コンパウンド4の塗布機構(すなわち、第一供給部6、第一ドクターブレード5及び第一樹脂厚み計測部(44,45))について行うが、特に言及しない限り、以下の説明は、第二樹脂コンパウンド14の塗布機構(すなわち、第二供給部16、第二ドクターブレード15及び第二樹脂厚み計測部)についても適用できる。
【0049】
図3に示されるように、第一ドクターブレード5の、第一キャリアフィルム2の移動方向に対する上流側(-X側)には、第一樹脂コンパウンド4の液溜まりが形成されている。第一キャリアフィルム2の第一ドクターブレード5に対する相対移動(
図3では、静止した第一ドクターブレード5に対する、第一キャリアフィルム2の+X方向への移動)に伴い、第一樹脂コンパウンド4が、液溜まりから第一ドクターブレード5と第一キャリアフィルム2との間隔d1を通り、+X方向に流出する。これにより、第一樹脂コンパウンド4が、間隔d1に対応する樹脂厚みで第一キャリアフィルム2の表面上に塗布される。つまり、樹脂厚みは、主に、第一ドクターブレード5と、第一キャリアフィルム2との間隔d1に大きく影響される。
【0050】
第一ドクターブレード5はX方向に厚みの薄い板形状を有する。第一ドクターブレード5の幅(Y方向の寸法)は、第一キャリアフィルム2の幅よりも長い(例えば、1m以上)。
【0051】
第一樹脂コンパウンド4を塗布する間、第一樹脂コンパウンド4の液溜まりがなるべく一定量を維持するように、第一供給部6が当該液溜まりに第一樹脂コンパウンド4を供給する。
【0052】
シート材製造装置100は、さらに、第一ドクターブレード5を第一キャリアフィルム2に対して接近又は離間させる第一駆動部43と、塗布された第一樹脂コンパウンド4の厚みを繰り返し計測する第一樹脂厚み計測部(44,45)と、制御部70と、を有する。
【0053】
[駆動部]
第一ドクターブレード5を第一キャリアフィルム2に対して接近又は離間させる第一駆動部43として、本実施形態ではACサーボモータで駆動するシリンダを使用している。しかしながら、第一駆動部43は、これに限定されず、種々の駆動源及び駆動制御方法が適用できる。第一駆動部43は、第一ドクターブレード5を、第一キャリアフィルム2の表面と平行に接近又は離間させるとよい。
【0054】
[樹脂厚み計測部]
樹脂厚み計測部の一実施形態を、
図3を参照しながら説明する。本実施形態では、第一樹脂厚み計測部(44,45)として、被検出物体までの距離を測ることのできる、レーザ測長センサが使用される。レーザ測長センサ44は第一キャリアフィルム2の第一樹脂コンパウンド4の塗布される上側(+Z側)に配置され、レーザ測長センサ45は第一樹脂コンパウンド4の塗布されない下側(-Z側)に配置される。
【0055】
上側に配置されたレーザ測長センサ44は、塗布された第一樹脂コンパウンド4の上表面に向かってレーザを投光し、当該上表面で反射したレーザを受光することで、レーザ測長センサ44から第一樹脂コンパウンド4の当該上表面までの距離を測定する。下側に配置されたレーザ測長センサ45は、搬送ベルト3(
図3では不図示)のない開口部分からレーザを投光し、第一キャリアフィルム2を透過し、その後、塗布された第一樹脂コンパウンド4の第一キャリアフィルム2との接触面(第一樹脂コンパウンド4の下表面)で反射したレーザを受光することで、レーザ測長センサ45から当該接触面までの距離を測定する。制御部70は、レーザ測長センサ(44,45)間のZ方向におけるギャップから、レーザ測長センサ(44,45)で計測された距離の和を減算して、塗布された第一樹脂コンパウンド4の樹脂厚みを求める。
【0056】
投光するレーザが第一キャリアフィルム2を透過しない場合には、制御部70は、第一キャリアフィルム2の裏面までの距離を測定する。そして、レーザ測長センサ(44,45)間のギャップから、レーザ測長センサ(44,45)でそれぞれ計測された距離の和、及び第一キャリアフィルム2の厚みを減算して、塗布された第一樹脂コンパウンド4の厚みを求める。
【0057】
レーザ測長センサ(44,45)による第一樹脂コンパウンド4の厚みの計測は、相対移動する第一キャリアフィルム2に対して、経時的に繰り返し行われる。これにより、第一キャリアフィルム2に順次塗布される樹脂厚みの変化を検出し続ける。相対移動に関して、本実施形態では、静止したレーザ測長センサ(44,45)に対する、第一キャリアフィルム2及び第一樹脂コンパウンド4の+X方向への移動を行っている。しかしながら、レーザ測長センサ(44,45)を移動させても構わない。
【0058】
[制御部]
制御部70は、第一樹脂厚み計測部(44,45)で繰り返し取得される計測結果に基づいて、樹脂厚みが一定値を保つように、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5との間隔d1の目標値を修正する。そして、制御部70は、修正した目標値に対応した指示信号を第一駆動部43に送出する。
【0059】
図4を参照しながら、塗布ステップS1における制御部70の制御の詳細を説明する。
図4は、塗布ステップS1における制御部70の演算及び制御フロー図である。以下の説明は、第一樹脂コンパウンド4の塗布機構における塗布ステップについてするが、特に言及しない限り、以下の説明は、第二樹脂コンパウンド14の塗布機構における塗布ステップについても適用できる。
【0060】
はじめに、塗布を開始する前の、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5の間隔の目標値の設定について説明する。まず、製造規格値(管理値)である、製造しようとするシート材10の単位重量を取得する(ステップS11)。管理値は、製造担当者が制御部70内に入力してもよいし、制御部70内の記憶媒体に蓄積されている製品別の管理値テーブルから、製造担当者が選択してもよい。
【0061】
次に、取得したシート材10の単位重量の管理値を換算して、第一樹脂コンパウンド4の単位重量を算出する(ステップS12)。具体的には、シート材10の単位重量(製造規格値)から、当該単位重量を構成するシート材10に含まれる、キャリアフィルム(2,12)の単位重量と、補強繊維材9の単位重量とを減算し、樹脂コンパウンド(4,14)の単位重量を算出する。算出した樹脂コンパウンド(4,14)の単位重量を、第一樹脂コンパウンド4の樹脂塗布量と第二樹脂コンパウンド14の樹脂塗布量とに、所望の割合で分配する。
【0062】
分配したそれぞれの樹脂コンパウンド(4,14)の単位重量が、塗布する目標重量である。そして、第一樹脂コンパウンド4の塗布の場合、第一ドクターブレード5と第一キャリアフィルム2の間隔の目標値を算出し、算出した目標値に従って第一駆動部43を駆動させて、両者の間隔を調整する(ステップS13)。間隔の目標値の算出について、具体的には、塗布する第一樹脂コンパウンド4の重量-体積換算係数を用いて、ステップS12で求めた第一樹脂コンパウンド4の重量を、第一樹脂コンパウンド4の体積に換算する。そして、塗布された第一樹脂コンパウンド4の平均幅(Y方向の平均寸法)と平均長さ(X方向の平均寸法)で除することで、第一樹脂コンパウンド4の単位重量の目標値を満たす、樹脂厚みを求める。このようにして、シート材の製造規格値(管理値)を換算して樹脂厚みを導き、この樹脂厚みを得るための、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5の間隔d1の目標値を設定する。
【0063】
ところで、第一樹脂コンパウンド4の重量-体積換算係数は、樹脂コンパウンド固有の密度の他に、温度膨張や、樹脂に含まれるエア含有量などによって変化し、これらは、選択される樹脂、塗布される環境温度、又は塗布速度等の様々な要因によって異なる。そのため、これら様々な要因に応じて、第一樹脂コンパウンド4の重量-体積換算係数を異ならせてもよい。
【0064】
このようにして、塗布を開始する前の、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5の間隔d1の目標値を、形成されるシート材10の製造規格値に基づいて設定すると、製造したシート材10の製造規格適合率が向上する。
【0065】
そして、塗布を開始する(ステップS14)。塗布が終了するまでの間、塗布した第一樹脂コンパウンド4の樹脂厚みを繰り返し計測する(ステップS15)。計測した樹脂厚みが、樹脂厚みの目標値との間にずれがある場合(Yである場合)には、ステップS13に戻り、第一ドクターブレード5と第一キャリアフィルム2の間隔を再び算出して目標値を修正する。そして、修正した目標値に従って第一駆動部43を駆動させて、両者の間隔を調整する。計測した樹脂厚みが、目標値との間にずれがないか、無視できるほどずれが小さい場合(Nである場合)には、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5の間隔の目標値を修正することなく、ステップS14に戻り塗布を続ける。
【0066】
制御部70は、このようにして、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5の間隔の目標値を、樹脂厚み計測部(44,45)の繰り返し得られる計測結果に基づいて繰り返し修正し、修正した目標値を第一駆動部43に繰り返し送出する。これにより、樹脂厚みの計測結果が、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5の間隔d1の目標値にフィードバックされ、樹脂厚みの変動を抑制できる。
【0067】
なお、第一樹脂厚み計測部(44,45)は、第一ドクターブレード5の下流近傍(例えば、第一ドクターブレード5から+X方向に、1m以内、好ましくは0.5m以内、さらに好ましくは0.2m以内)に配置できるので、フィードバック制御で発生する時間遅れを抑制できる。
【0068】
第一キャリアフィルム2を塗布した長さが所定値(例えば、1ロール分のシート材10の全長)を超えたら、第一樹脂コンパウンド4の塗布を終了する(ステップS16)。
【0069】
本実施形態において、上述の演算及び制御を行う制御部70に、PLC(Programmable Logic Controller)を使用している。しかしながら、制御部70に、他のシーケンサ、マイコン搭載ボード、又は汎用コンピュータを使用しても構わない。
【0070】
[キャリアフィルム幅方向の樹脂厚みの制御]
図5は、第一ドクターブレード5を含む周辺領域を拡大して示す斜視図である。ただし、第一樹脂コンパウンド4の第一供給部6は、図示を省略する。
図5に示されるように、第一キャリアフィルム2の樹脂の塗布される上側(+Z側)に、第一樹脂厚み計測部44として、3つのセンサ(44a,44b,44c)が幅方向に並んで配置される。
図5では一部しか示されていないが、第一キャリアフィルム2の樹脂の塗布されない下側(-Z側)にも、第一樹脂厚み計測部45として、3つのセンサ(45a,45b,45c)が幅方向に並んで配置される。
【0071】
図6は、第一樹脂厚み計測部(44,45)、制御部70及び第一駆動部(43a,43b)の信号伝達の流れを簡易的に示すブロック図である。
図6に示されるように、上側(+Z側)に配置される3つのセンサ(44a,44b,44c)と、下側(-Z側)に配置される3つのセンサ(45a,45b,45c)は、制御部70に接続される。6つのセンサ(44a,44b,44c,45a,45b,45c)は、受光した信号を制御部70に送出する。制御部70は、6つのセンサより、キャリアフィルムの幅方向に並ぶ三箇所におけるそれぞれの樹脂の厚みを算出し、算出した厚みに基づいて、第一ドクターブレード5の第一駆動部(43a,43b)を制御する。
【0072】
複数のセンサを幅方向に並んで配置する利点を、
図7を参照しながら説明する。
図7は、
図5のV1方向からみた模式図である。上述したように、本発明者は、第一樹脂コンパウンド4を塗布するとき、第一ドクターブレード5は変形することを見出した。
図7では、第一ドクターブレード5は、特に幅方向中央部において撓み、-Z方向に凸状に変形している。
【0073】
このような変形は、樹脂コンパウンドの温度、比重、液溜まり量及び供給位置、並びにキャリアフィルムの移動速度等に応じて生じる、第一ドクターブレード5の熱変形又は樹脂コンパウンドに押されることによる応力変形と、第一ドクターブレード5の自重による変形とによって生じる。
【0074】
図7のように第一ドクターブレード5が変形すると、幅方向中央部における、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5との間隔d2は、幅方向端部における、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5との間隔(d3,d4)に比べて、狭くなる。よって、第一ドクターブレード5により塗布される樹脂厚みについて、幅方向中央部の樹脂厚みが、幅方向中央部の樹脂厚みよりも薄くなる。
【0075】
上述したように、第一キャリアフィルム2の幅方向中央の第一樹脂コンパウンド4の厚みは、第一キャリアフィルム2の幅方向端部の第一樹脂コンパウンド4の厚みよりも、製造したシート材10の重量に影響を与える。そのため、本実施形態では、幅方向中央部における樹脂厚みを、幅方向端部における樹脂厚みより優先して調整する。
【0076】
幅方向中央部における樹脂厚みを幅方向端部における樹脂厚みより優先して調整するには、複数の位置での計測結果のそれぞれに重みづけを施した加重平均dtに基づいて前記目標値を修正する。重みづけは、前記複数の位置での計測結果のうち、第一キャリアフィルム2の幅方向中央から最も近い位置における計測結果の重み値が、他の位置における計測結果の重み値よりも大きくなるように設定する。
【0077】
例えば、幅方向中央部における第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5との間隔d2の重み値をW2とする。そして、幅方向端部における第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5との間隔d3の重み値をW3、同じく幅方向端部における第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5との間隔d4の重み値をW4とする。そして、幅方向中央部における重み値W2を、重み値(W3,W4)よりも大きな値に設定する。
【0078】
そうすると、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5全体との間隔の加重平均dtは、次のように表される。
【数1】
【0079】
加重平均dtと樹脂厚みの目標値との間のずれ量を、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5の間隔の目標値に加算して、反映させる。そして、反映させた当該目標値に従って駆動部(43a,43b)を駆動させる。
【0080】
また、幅方向端部における、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5との間隔(d3,d4)について、-Y側の間隔d3と+Y側の間隔d4との間にずれが生じている場合には、ずれを小さくするために(すなわち、第一ドクターブレード5のブレード先端が第一キャリアフィルム2に平行になるように)、-Y側の第一駆動部43bと+Y側の第一駆動部43aの駆動量を異ならせてもよい。
【0081】
<第一実施形態の変形例>
第一実施形態の変形例として、第一ドクターブレード5と第一キャリアフィルム2との間隔d1のフィードフォワード制御を説明する。以下の説明は、第一樹脂コンパウンド4の塗布ステップにおける制御について述べるが、以下の説明は、第二樹脂コンパウンド14の塗布ステップにおける制御に適用できる。
【0082】
上述したように、樹脂厚みは、主に、第一ドクターブレード5と、第一キャリアフィルム2との間隔d1に大きく影響されるが、それだけではない。つまり、樹脂厚みは、ドクターブレードの変形によっても変動する。そして、この変動は、第一樹脂コンパウンド4の温度、比重、粘度及び液溜まり量、並びに第一キャリアフィルム2の移動速度等の外乱による。なお、上述のフィードバック制御は、これら外乱による樹脂厚みの変動を、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5との間隔d1を調整することで、樹脂厚みを一定に保つことを目的としていると言える。
【0083】
本変形例では、第一樹脂コンパウンド4の温度、比重、粘度及び液溜まり量、並びに第一キャリアフィルム2の移動速度等の外乱を計測し、計測された外乱の変化に基づく樹脂厚みの変化を予測して、第一キャリアフィルム2と第一ドクターブレード5の間隔d1を予め修正する、フィードフォワード制御を行う。この予測は制御部70により行われる。制御部70は、予測するための演算アルゴリズムを記憶媒体に有している。
【0084】
このフィードフォワード制御は、上述したフィードバック制御との併用が可能である。これにより、塗布する樹脂厚みの変化をさらに小さくして、第一樹脂コンパウンド4の重量変動をさらに抑制できる。
【0085】
<第二実施形態>
図8を参照しながら、シート材製造装置の第二実施形態を説明する。以下に説明する以外の事項は、第一実施形態と同様であるため、記載を省略する。
【0086】
図8に示されるシート材製造装置200は、含浸部18の下流(+X側)に、シート厚み計測部51を有している。シート厚み計測部51は、樹脂厚み計測部と同様に、レーザ測長センサ(51a,51b)が使用できる。シート材10の厚みを計測する。シート厚み計測部51の計測結果に基づいて、シート材10の厚みの目標値とのずれを小さくするために、含浸部18でシート材10を押す力と、補強繊維材9の投入量のうち、少なくともいずれか一つを調整する。
【0087】
調整する際、キャリアフィルム(2,12)上の第一樹脂コンパウンド4と第二樹脂コンパウンド14の樹脂厚みが、それぞれの樹脂厚み計測部によって計測されて既知であるとき、シート材10の厚みの変動分から、これら樹脂厚みの変動分を減算できる。よって、計測精度が向上する。このようにして、シート材10を押す力(含浸状態)又は補強繊維材9の投入量の適正化を図り、製造規格により適合するシート厚みにする。
【0088】
<第二実施形態の変形例>
第二実施形態の変形例として、さらなるシート厚み計測部を、シート材形成部21と含浸部18との間(
図8に示されるP1部)に配置してもよい。P1部に配置したシート厚み計測部の計測結果と、シート厚み計測部(51,52)の計測結果とを比較することで、シート材10の厚みの目標値に対するずれが、シート材10を押す力の過不足によるものであるか、補強繊維材9の投入量の過不足によるものであるか、を切り分けられる。これにより、製造規格にさらに適合するシート厚みにする。
【0089】
以上で、シート材製造装置の各実施形態とそれらの変形例を説明した。本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上述の実施形態及び変形例を組み合わせること、又は、上述の実施形態及び変形例を種々の改良又は変更できる。改良又は変更の例を以下に示す。
【0090】
上記実施形態で述べた第一樹脂コンパウンド4の塗布機構及び塗布ステップを、第二樹脂コンパウンド14の塗布機構及び塗布ステップにのみ適用し、第一樹脂コンパウンド4の塗布機構及び塗布ステップに適用しなくても構わない。
【0091】
上記実施形態では、一つのキャリアフィルムに対して、ドクターブレードが一つ配置されていたが、一つのキャリアフィルムに対して二つの以上のドクターブレードを配置しても構わない。
【0092】
上述した樹脂厚み計測部又はシート厚み計測部に使用されるセンサの種類及びその使用法は一例であり、他種のセンサ又はセンサの使用法を採用しても構わない。例えば、厚みを測定するのに、表側と裏側の両方に測長センサを設けて投光していたが、測長センサを表側にのみ設け、塗布された部分までの距離と塗布されていない部分までの距離を測るなどして、樹脂厚みを計測しても構わない。
【0093】
制御部は、シート材製造装置として統合されたものでなくても構わない。例えば、ドクターブレードの駆動部及び樹脂厚み計測部を制御する制御部のみが独立して存在し、SMC製造工程に使用される他部(堆積部やシート材形成部等)の制御部と連携して、シート材製造装置を制御してもよい。第一キャリアフィルム2に対して塗布する塗布機構と、第二キャリアフィルム12に対して塗布する塗布機構とで、異なる制御部を使用しても構わないし、同じ制御部を共用しても構わない。
【0094】
幅方向端部における樹脂厚みよりも幅方向中央部における樹脂厚みを優先して調整するために、各計測結果に重みづけを施し加重平均を求めたが、加重平均を求めることは必須ではなく、各計測結果の相加平均を求めても構わない。また、制御部が目標値の算出や各種演算を行うのではなく、人が目標値の算出や各種演算を行い、算出した目標値や演算結果を制御部に入力しても構わない。
【0095】
上記実施形態では、樹脂コンパウンドの塗布機構及びシート材製造装置をSMCの製造に適用する例を示したが、製造するシート材としては、上述したSMCの他に、例えば、エポキシ樹脂等の樹脂コンパウンドを、補強繊維材である炭素繊維の間に含浸させて形成する、プリプレグの製造にも適用できる。樹脂コンパウンド、補強繊維材、キャリアフィルムなどシート材の構成材料は、SMC及びプリプレグなどの製造に用いられるものであれば、特に制限されず使用できる。
【符号の説明】
【0096】
1,11:巻出ロール
2 :第一キャリアフィルム
3 :搬送ベルト
4 :第一樹脂コンパウンド
5 :第一ドクターブレード
6 :第一供給部
7 :ガラスストランド
8 :堆積部
9 :補強繊維材
10 :シート材
12 :第二キャリアフィルム
14 :第二樹脂コンパウンド
15 :第二ドクターブレード
16 :第二供給部
18 :含浸部
20 :巻取ロール
21 :シート材形成部
31 :(搬送ベルトを駆動するための)ローラ
43 :(第一ドクターブレードを駆動するための)第一駆動部
44,45 :第一樹脂厚み計測部(レーザ測長センサ)
51a,51b:シート厚み計測部(レーザ測長センサ)
70 :制御部
100,200 :シート材製造装置