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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/02 20060101AFI20241107BHJP
   G01N 22/00 20060101ALI20241107BHJP
   G01S 13/88 20060101ALI20241107BHJP
   G01V 3/12 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
G01N22/02 A
G01N22/00 S
G01N22/00 V
G01S13/88 200
G01V3/12 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023517571
(86)(22)【出願日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2022018932
(87)【国際公開番号】W WO2022230897
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2024-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511204267
【氏名又は名称】株式会社計測技術サービス
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【弁理士】
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(74)【代理人】
【識別番号】100212510
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 翔
(72)【発明者】
【氏名】野口 貴文
(72)【発明者】
【氏名】水谷 司
(72)【発明者】
【氏名】清 良平
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特許第2528148(JP,B2)
【文献】特開昭60-200183(JP,A)
【文献】特開2003-166950(JP,A)
【文献】特開2005-043197(JP,A)
【文献】特許第6751957(JP,B1)
【文献】特開平09-088351(JP,A)
【文献】特開2001-201463(JP,A)
【文献】特開2020-051851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 22/00-22/04
G01S 13/00-13/95
G01V 3/12
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体の表面から電磁波を照射し、前記電磁波が被検査体の内部で反射することによって生じた反射波のデータを取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した前記反射波のデータに基づいて、前記被検査体内における空隙の有無を検出する検出手段と、
を有し、
前記検出手段は、前記被検査体内の前記空隙の第1面における第1の反射波と、前記第1面に対向する第2面における第2の反射波であって、前記第1面と前記第2面との間を往復し、前記第2面において2回以上反射する反射波を含む第2の反射波と、の合成波の第1の周波数帯における第1の信号レベルMLと、前記第1の周波数帯より高い第2の周波数帯における第2の信号レベルKLとの比(KL/ML)が所定の閾値以上である場合に、前記被検査体の内部に前記空隙が存在すると判断する、
情報処理装置。
【請求項2】
被検査体の表面から電磁波を照射し、前記電磁波が被検査体の内部で反射することによって生じた反射波のデータを取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した前記反射波のデータに基づいて、前記被検査体内における空隙の有無を検出する検出手段と、
を有し、
前記検出手段は、前記被検査体内の前記空隙の第1面における第1の反射波と、前記第1面に対向する第2面における第2の反射波であって、前記第1面と前記第2面との間を往復し、前記第2面において2回以上反射する反射波を含む第2の反射波と、の合成波におけるスペクトル重心の値に基づいて、前記被検査体の内部における空隙の幅を推定する、
情報処理装置。
【請求項3】
前記検出手段は、前記反射波のデータに基づいて、前記電磁波が反射した対象が前記空隙であるか、前記被検査体の埋設物であるかを判断する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記反射波のデータに対して周波数解析を行う解析手段を有し、前記解析手段の前記周波数解析によって得られる前記反射波の周波数特性に基づいて前記空隙の有無を検出する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記第1の信号レベルMLと前記第2の信号レベルKLとの比(KL/ML)が大きいほど、輝度または色度が高くなるように、前記比の強度を表示手段に表示する表示制御手段と、
をさらに有する請求項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記検出手段は、前記合成波におけるスペクトル重心の値と、前記空隙の幅毎および複数の帯域におけるスペクトル重心の値とを対応付けた対応付けテーブルとに基づいて、前記被検査体の内部における空隙の幅を推定する、
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記検出手段は、前記被検査体の金属の反射波と前記合成波とに基づいて、前記対応付けテーブルを生成する、
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記被検査体は、鉄筋とコンクリートとを含む複合構造体である、
請求項1からのいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記被検査体が有する鉄筋からの反射波を前記空隙に対する入力波として用いる、
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記検出手段は、前記複合構造体内の前記鉄筋と前記空隙とが混在する箇所において、前記電磁波が反射した対象が前記空隙であるか、前記鉄筋であるかを判断する、
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項11】
被検査体の表面から電磁波を照射し、前記電磁波が被検査体の内部で反射することによって生じた反射波のデータを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得した前記反射波のデータに基づいて、前記被検査体内における空隙の有無を検出する検出ステップと、
を有し、
前記検出ステップにおいて、前記被検査体内の前記空隙の第1面における第1の反射波と、前記第1面に対向する第2面における第2の反射波であって、前記第1面と前記第2面との間を往復し、前記第2面において2回以上反射する反射波を含む第2の反射波と、の合成波の第1の周波数帯における第1の信号レベルMLと、前記第1の周波数帯より高い第2の周波数帯における第2の信号レベルKLとの比(KL/ML)が所定の閾値以上である場合に、前記被検査体の内部に前記空隙が存在すると判断する、
情報処理装置の制御方法。
【請求項12】
被検査体の表面から電磁波を照射し、前記電磁波が被検査体の内部で反射することによって生じた反射波のデータを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得した前記反射波のデータに基づいて、前記被検査体内における空隙の有無を検出する検出ステップと、
を有し、
前記検出ステップにおいて、前記被検査体内の前記空隙の第1面における第1の反射波と、前記第1面に対向する第2面における第2の反射波であって、前記第1面と前記第2面との間を往復し、前記第2面において2回以上反射する反射波を含む第2の反射波と、の合成波におけるスペクトル重心の値に基づいて、前記被検査体の内部における空隙の幅を推定する、
情報処理装置の制御方法。
【請求項13】
コンピュータに、
被検査体の表面から電磁波を照射し、前記電磁波が被検査体の内部で反射することによって生じた反射波のデータを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得した前記反射波のデータに基づいて、前記被検査体内における空隙の有無を検出する検出ステップと、
を実行させるコンピュータプログラムであって、
前記検出ステップにおいて、前記被検査体内の前記空隙の第1面における第1の反射波と、前記第1面に対向する第2面における第2の反射波であって、前記第1面と前記第2面との間を往復し、前記第2面において2回以上反射する反射波を含む第2の反射波と、の合成波の第1の周波数帯における第1の信号レベルMLと、前記第1の周波数帯より高い第2の周波数帯における第2の信号レベルKLとの比(KL/ML)が所定の閾値以上である場合に、前記被検査体の内部に前記空隙が存在すると判断する、
コンピュータプログラム。
【請求項14】
コンピュータに、
被検査体の表面から電磁波を照射し、前記電磁波が被検査体の内部で反射することによって生じた反射波のデータを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得した前記反射波のデータに基づいて、前記被検査体内における空隙の有無を検出する検出ステップと、
を実行させるコンピュータプログラムであって、
前記検出ステップにおいて、前記被検査体内の前記空隙の第1面における第1の反射波と、前記第1面に対向する第2面における第2の反射波であって、前記第1面と前記第2面との間を往復し、前記第2面において2回以上反射する反射波を含む第2の反射波と、の合成波におけるスペクトル重心の値に基づいて、前記被検査体の内部における空隙の幅を推定する、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁、トンネル、舗装、住宅、港湾、河川、上下水道等の社会資本は重要なライフラインであると同時に、資本主義を支える産業の重要な基盤となっている。それらの社会資本は、コンクリートを材料としているものが多いが、適切な施工管理が行われなかったことによる内部構造物の劣化や経年劣化により、コンクリートの一部が落下する場合がある。そのため、社会資本構造物を適切に検査および管理し、問題が起きる前に予め対処する予防保全が行われている。
【0003】
検査には主に目視検査、測定機を用いた非破壊検査、構造物の一部の破壊を伴ってサンプル採取する破壊検査がある。破壊検査は、非破壊検査より精度の高い情報を得られる可能性はあるが、構造物を損傷させるために多用することは望ましくない。そのため、先ずは非破壊検査で劣化状況をスクリーニングして、どうしても精度を必要とする箇所のみ、破壊検査を行うことで、より合理的な検査の実施が可能となる。そのため、非破壊検査の精度を上げることは、スクリーニングの精度を上げ、破壊検査を減らし、その上で補修すべき個所を適切に検出することで、社会資本の維持管理に貢献することになると考えられる。非破壊検査の技術としては、例えば、地中に埋設されている埋設管の位置を推定する技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-186994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、コンクリート内の補修すべき箇所として、コンクリートの充填不足や、経年劣化等によって生じた空隙(豆板、空洞等)が挙げられる。ここで、豆板とは、モルタルの充填不良等によってコンクリートの一部に粗骨材が多く集まることにより、隙間が多くなった部分である。空隙は、適切な補修が行われないまま放置されると、時間の経過とともに内部欠陥としてコンクリートの劣化や鉄筋の腐食などが発生し、その影響でコンクリート片の剥離や落下により大事故につながる可能性がある。
【0006】
しかしながら、非破壊検査における空隙の検出方法は、検査装置から得られた結果を技術者が判別するという方法であるため、空隙の検出結果に個人差が生じることや、誤診をまねくおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、被検査体内の空隙を高精度に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様は、被検査体の表面から電磁波を照射し、前記電磁波が被検査体の内部で反射することによって生じた反射波のデータを取得する取得手段と、前記取得手段で取得した前記反射波のデータに基づいて、空隙の有無を検出する検出手段と、を有する情報処理装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被検査体内の空隙を高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】被検査体内の空隙を検出する例を示す図である。
図2】空隙検出システムの構成の概略を示す図である。
図3】サーバのハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】サーバの機能的構成の一例を示す機能ブロック図である。
図5】受信された信号の周波数分布の一例を示す図である。
図6】空隙検出処理の動作を示すフローチャートである。
図7】被検査体内における電磁波の反射を示す図である。
図8】検出結果の表示例を示す図である。
図9】サーバの機能的構成の一例を示す機能ブロック図である。
図10】被検査体内の空隙を検出する例を示す図である。
図11】各帯域におけるスペクトル重心と空隙の幅との関係を示す図である。
図12】空隙幅推定処理の動作を示すフローチャートである。
図13】推定結果の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
<概要>
以下、第1実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る情報処理装置が適用される空隙検出の事例を示す図である。本実施形態では、被検査体が、鉄筋とコンクリートとを含む複合構造体である例について説明する。
【0012】
図1の例では、コンクリートC1の内部に鉄筋T1,T2が埋設されており、それらの間に空隙H1が存在している。検査装置2には車輪が設けられており、コンクリートC1の上側の表面を移動しながら、コンクリートC1の内部に向かって電磁波W1を照射し、コンクリートC1内部からの反射波W2を取得(測定)する。検査装置2によって検出された反射波W2のデータは、ネットワークNを介してサーバ1に送信される。サーバ1は、取得した反射波W2のデータに基づいて、コンクリートC1内に空隙が存在するか否かを判断する。
【0013】
空隙とは、例えば、被検査体(コンクリート)内の空洞、豆板(ジャンカ)、内部亀裂、水平クラック等であって、被検査体内の欠陥または異常個所である。空洞を検出することで、例えば、充填不良による内部空洞や、配管のサビに伴う浮き等の意図しない欠陥を発見することができる。また、豆板を検出することで、例えば、充填不良による不具合箇所や、施工中に生じた初期欠陥等を発見することができる。ここで、豆板とは、モルタルの充填不良等によってコンクリートの一部に粗骨材が多く集まることにより、隙間が多くなった部分である。本実施形態では、2[mm]以上の隙間がある空隙を対象にしているが、検出対象の空隙のサイズや形状は特に限定されない。
【0014】
本実施形態では、検査装置2の検査方法として、電磁波レーダ法を用いる例について説明する。電磁波レーダ法は、主に鉄筋探査に用いられる検査方法であって、電磁波を送信アンテナからコンクリート内部に向けて照射し、その反射波を受信アンテナを介して検出することにより、この照射から検出に到るまでの時間を算出し、反射物体までの距離を検出することができる。また、平面的な位置は、距離計を内蔵した検査装置2を移動させることにより、位置情報を得ることもできる。電磁波は、その種類によって波長、振幅、周波数が異なり、周波数によって呼び名や用途が異なる。レーダに用いる波長の選択は測定対象物までの距離や分解能、アンテナの寸法によって決定される。一般的に、電磁波は、周波数が高いほど時間分解能が上がるが、周波数が高いほど減衰が大きく、深い所まで届かないという性質をもつ。電磁波の種類は特に限定されないが、本実施形態では、電磁波として、300[MHz]~3[GHz]帯のマイクロ波を用いる例について説明する。また、電磁波レーダ法では、反射波の位相、レベル、形状を用いた検査方法があるが、検査精度にばらつきがあることから、本実施形態では、反射波の周波数に基づいて空隙を検出する例について説明する。
【0015】
<システム構成>
図2は、本実施形態に係る空隙検出システムのシステム構成の概要を示す図である。本実施形態に係る空隙検出システムは、空隙の検出処理を行うサーバ1と、検査担当者が操作する検査装置2と、検出結果を表示する表示装置3とが、インターネット等の所定のネットワークNを介して相互に接続されることで構成される。
【0016】
サーバ1は、検査装置2と表示装置3の各動作と協働して各種処理を実行する。検査装置2は、検査担当者の操作によってコンクリートC1(被検査体)の表面を移動することにより、電磁波をコンクリートC1内に照射したり、その反射波を検出したりする。表示装置3は、検査装置2の検査結果、およびサーバ1の空隙検出結果を表示したり、操作画面を表示する。
【0017】
このように構成された空隙検出システムは、検査装置2から取得した反射波のデータに基づいて、サーバ1で空隙検出処理を行い、コンクリートC1内の空隙の有無や空隙の位置(水平位置または垂直位置)を表示装置3に表示する。これにより、コンクリートに重大な問題が生じる前に、適切な対応を行うよう検査担当者に促すことができる。
【0018】
<ハードウェア構成>
図3は、本実施形態に係るサーバ1のハードウェア構成を示すブロック図である。サーバ1は、CPU(Central Processing Unit)11と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)13と、バス14と、入出力インターフェース15と、出力部16と、入力部17と、記憶部18と、通信部19と、ドライブ20と、を備えている。
【0019】
CPU11は、ROM12に記録されているプログラム、又は、記憶部18からRAM13にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。RAM13には、CPU11が各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。CPU11、ROM12及びRAM13は、バス14を介して相互に接続されている。このバス14にはまた、入出力インターフェース15も接続されている。
【0020】
入出力インターフェース15には、出力部16、入力部17、記憶部18、通信部19及びドライブ20が接続されている。出力部16は、ディスプレイやスピーカ等で構成され、各種情報を画像や音声として出力する。入力部17は、キーボードやマウス等で構成され、各種情報を入力する。記憶部18は、ハードディスクやDRAM(Dynamic Random Access Memory)等で構成され、各種データを記憶する。通信部19は、インターネットを含むネットワークNを介して他の装置との間で通信を行う。
【0021】
ドライブ20には、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリ等よりなる、リムーバブルメディア21が適宜装着される。ドライブ20によってリムーバブルメディア21から読み出されたプログラムは、必要に応じて記憶部18にインストールされる。また、リムーバブルメディア21は、記憶部18に記憶されている各種データも、記憶部18と同様に記憶することができる。
【0022】
なお、図示はしないが、検査装置2は、図3に示すハードウェア構成を有し、さらに、電磁波発生させる送信アンテナ、反射した電磁波を検出する受信アンテナ、および走行距離を測定するロータリーエンコーダを備える。また、図示はしないが、表示装置3は、図3に示すハードウェア構成を有し、さらに、表示モニタを備える。
【0023】
<機能構成>
図4は、本実施形態に係るサーバ1および検査装置2における機能的構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0024】
≪検査装置2の機能構成≫
検査装置2のCPU31は、送信アンテナ33を制御して電磁波をコンクリートC1(被検査体)に対して照射する。本実施形態では、上述のように、電磁波として、300[MHz]~3[GHz]帯のマイクロ波を用いるが、特に限定されず、任意の周波数を用いてもよい。そして、検査装置2のCPU31は、受信アンテナ34を介して取得した反射波(コンクリートC1内で反射した反射波)と、ロータリーエンコーダ35の出力信号で測定された距離情報とを、時間軸で紐づける。検査装置2のCPU31は、紐づけた反射波のデータを、通信部32を介して、サーバ1に送信する。
【0025】
≪サーバ1の機能構成≫
サーバ1のCPU11においては、動作する際に、取得部41、検出部42、および表示制御部43が機能する。
【0026】
取得部41は、通信部19介して検査装置2から反射波のデータを取得する。具体的には、検査装置2が電磁波を照射し、コンクリートC1内で反射して得られた反射波のデータ(電気信号に変換されたデータ;受信信号)を取得する。
【0027】
検出部42は、取得部41によって取得された反射波のデータに基づいて、コンクリートC1(被検査体)内の空隙を検出する。検出部42は、検査装置2の測定で得られた結果を「画像」として捉え、そこから異常個所(豆板、空洞)を検出すると捉えることもできる。以下、検出部42が備える機能部である、周波数解析部51、レベル算出部52、比率算出部53、空隙検出部54、および深度算出部55について説明する。
【0028】
周波数解析部51は、取得部41によって取得された反射波のデータに対して、周波数解析を行う。例えば、周波数解析部51は、反射波のデータに対してフーリエ変換を行い、受信信号を各周波数のレベルに変換する。
【0029】
レベル算出部52は、周波数解析部51によって出力された周波数分布のうち、所定の周波数帯における周波数のレベル(パワー)の積分値である値ML(第1の周波数帯における第1の信号レベル)および値KL(第2の周波数帯における第2の信号レベル)を算出する。値MLは、基準となる周波数帯(基本周波数、標準周波数)における所定の周波数区間の信号レベルを積分した値である。値KLは、高周波数帯(高周波)における所定の周波数区間の信号レベルを積分した値である。なお、値MLとして、上述のように、基準となる周波数帯における所定の周波数区間の信号レベルを積分する代わりに、基準となる周波数帯における所定の周波数の信号レベルを用いてもよい。また、値KLとして、上述のように、高周波数帯における所定の周波数区間の信号レベルを積分する代わりに、高周波数帯における所定の周波数の信号レベルを用いてもよい。
【0030】
基準となる周波数帯における所定の周波数区間とは、本実施形態では、900[MHz]~1200[MHz]を示すものとする。なお、基準となる周波数帯は上記に限定されないが、検査装置2から送信される信号のうち最も大きなレベルの周波数帯であることが望ましい。そこで、実際に検査装置2から電磁波を空中に照射し、照射された電磁波を鉄板で全反射させ、その反射波の信号をとらえ、最も大きなレベルである周波数帯を特定することで、基準となる周波数帯(例えば、1[GHz])を決定する。基準となる周波数帯は、豆板の存在に関わりなく定常的に存在している周波数帯域であると捉えることもできる。なお、基準となる周波数帯は、検査装置2のカタログ等の製品情報に基づいて決定されてもよい。
【0031】
高周波数帯における所定の周波数区間とは、本実施形態では、1800[MHz]~2400[MHz]であるものとする。なお、高周波数帯は上記に限定されないが、コンクリートの内部に豆板が存在する場合に強い反応が現れる周波数帯(例えば、2[GHz])の前後の周波数とすることが望ましい。コンクリート内に空隙が存在する場合に、高周波成分が相対的に増えることの原理については後述する。
【0032】
ここで、高周波とは、一般的に、電波、音波など、波形を構成するスペクトラムのうち比較的周波数の高いものを示す。本実施形態では、高周波の定義として、単に高い周波数という意味であって、高い周波数とする基準は、照射される電磁波に含まれる中心周波数より高い周波数とする。
【0033】
比率算出部53は、値MLと値KLとの比である比率KRを算出する(式1)。
比率KR=値KL/値ML ・・・(1)
【0034】
図5は、受信された信号の周波数分布の一例を示す図である。図5の横軸は、周波数(Hz)を示し、縦軸は、信号レベルを示す。上述のとおり、値MLは、基準となる周波数帯(900[MHz]~1200[MHz])における所定の周波数区間の信号レベルを積分した値である。また、値KLは、高周波数帯(1800[MHz]~2400[MHz])における所定の周波数区間の信号レベルを積分した値である。
【0035】
ここで、空隙検出に比率KRを用いる理由を説明する。コンクリートC1内の検出対象が空隙のみであることが事前に把握できれば、上述の値KLのみで空隙の有無を判断することができる。しかし、コンクリートC1内に空隙や鉄筋(埋設物)が混在している場合、高周波成分(値KL)のみで空隙の有無を判断することは現実的ではない。それは、鉄筋からの反射波に含まれる高周波成分(照射された電磁波にもともと含まれる高周波成分)のレベルが、空隙によって相対的に増えた高周波成分のレベルを上回ってしまうためである。ここで、照射される電磁波に元々含まれる高周波成分は一定の割合であるので、仮に鉄筋からの反射波が全反射で大きな信号として戻って来ても、照射された電磁波に含まれる高周波成分の比率以上になって戻って来る事は考えられない。すなわち、反射波に含まれる高周波成分が一定の割合以上であれば、それは空隙によって相対的に増えた高周波成分が含まれているといえる。そこで、高周波成分の大きさ(値KL)そのものではなく、比率KRを評価することで、空隙からの反射であるか鉄筋からの反射であるかを区別する。なお、比率KRの分母を反射波の全体ではなく、反射波中の基準となる周波数帯におけるレベルの積分値としているのは、分母分子が同じ周波数領域のレベルであり、測定環境が違っても同じように影響を受ける為に、相対的な変動は少ないためである。なお、比率KRは、深さ方向に対して、大きな差はなく、ほぼ均一であるという試算を得ていることも、空隙検出に比率KRを用いる理由の1つといえる。
【0036】
空隙検出部54は、比率KRと、所定の閾値Thとに基づいて、反射波が空隙によるものであるか否か判断することにより、空隙を検出する。例えば、空隙検出部54は、比率KRが所定の閾値Th以上の場合に空隙が存在すると判断する。本実施形態では、所定の閾値Thは、0.7である例について説明する。これは、実験結果の一例より、金属等によって生じた反射波に基づく比率KRが0.7未満であって、空隙によって生じた反射波に基づく比率KRが0.7以上であるため、閾値Thを0.7(付近)とすることが好適である。なお、所定の閾値Thの値は特に限定されず、0.7未満であってもよく、0.7以上であってもよい。
【0037】
深度算出部55は、空隙の深度(検査装置2が移動する表面(地表面、斜面、壁面)から空隙までの距離)を算出する。例えば、深度算出部55は、短時間フーリエ変換を用いて深度を算出する。短時間フーリエ変換とは、解析するデータに対し、窓関数をずらしながら掛けて、それにフーリエ変換を行う事であって、観測区間を短く区切る事で、時間分解能を上げる方法である。これにより、深さ方向において所定の幅ごとに短時間フーリエ変換することで、当該所定の幅(区間)ごとに比率KRを算出することができる。そして、比率KRが高い箇所(深度)を、空隙が存在する深度であると判断することができる。
【0038】
表示制御部43は、操作画面や実験結果を、表示装置3に表示するよう制御する。例えば、表示制御部43は、縦軸を時間、横軸を反射波の振幅で表されたグラフ(以下、Aモード画像またはAスコープと称する。)を表示装置3に表示する。検査担当者は、Aモード画像を見る事で、受信した信号の反射時間や、受信した信号の反射強度、位相情報などを読み取ることができる。また、例えば、表示制御部43は、検査装置2を走査した方向に上述のAモード画像を並べて、縦軸を時間、横軸を検査装置2の移動距離、輝度をAモード画像における振幅で表した画像(以下、Bモード画像またはBスコープと称する。)を表示装置3に表示する。検査担当者は、反射波が、検査装置2の移動方向に対して、どのように変化しているかを容易に確認することができる。また、例えば、表示制御部43は、縦軸を時間、横軸を検査装置2の移動距離として、上述のBモード画像において上述の比率KRが高い箇所を示す画像(以下、KR画像と称する。)を表示装置3に表示する。なお、表示制御部43は、コンクリートC1の内部において、空隙の位置を示す画像をKR画像として表示装置3に表示していると捉えることもできる。なお、表示制御部43は、コンクリートC1内における空隙の有無を示す情報を表示装置3に表示するよう制御してもよい。本実施形態における表示例については後述する。
【0039】
記憶部18の一領域には、取得情報DB61、および検出情報DB62が設けられている。取得情報DB61には、取得部41によって取得された取得情報が記録される。取得情報としては、例えば、検査装置2によって取得された反射波のデータが含まれる。検出情報DB62には、検出部42によって検出された検出情報が記録される。検出情報としては、例えば、空隙や埋設物の有無、位置、および深度等が含まれる。
【0040】
<処理内容>
図6は、本実施形態に係る空隙検出処理の一例を示すフローチャートである。
【0041】
ステップS11で、取得部41は、検査装置2から反射波のデータを取得する。取得部41は、取得した反射波のデータを取得情報DB61に記録する。
【0042】
ステップS12で、検出部42の周波数解析部51は、取得部41によって取得された反射波のデータに対して短時間フーリエ変換を行う。具体的には、反射波のデータを一定時間(区間)に区切り、当該区間ごとに窓関数を乗じて、その区間ごとにフーリエ変換を行い、周波数ごとのレベルに変換する。以降のステップS13~S18の処理は、区間ごとにフーリエ変換された周波数ごとのレベルに対して、それぞれ実行されるものとする。
【0043】
ステップS13で、検出部42のレベル算出部52は、基準となる周波数帯における周波数の積分値である値MLを算出する。本実施形態では、基準となる周波数帯とは、周波数が1[GHz]前後の所定の周波数帯(例えば、900[MHz]~1200[MHz])である。
【0044】
ステップS14で、検出部42のレベル算出部52は、高周波数帯における周波数の積分値である値KLを算出する。本実施形態では、高周波数帯とは、周波数が2[GHz]前後の所定の周波数帯(例えば、1800[MHz]~2400[MHz])である。
【0045】
ステップS15で、検出部42の比率算出部53は、値MLおよび値KLの比率KR(比率KR=値KL/値KM)を算出する。
【0046】
ステップS16で、検出部42の空隙検出部54は、比率KRが所定の閾値Th以上であるか否かを判断する。
【0047】
ステップS17で、検出部42の空隙検出部54は、比率KRが所定の閾値Th以上である場合(S16:YES)、比率KRに応じて、上述の区間における輝度(KR画像の輝度)を決定する。例えば、検出部42の空隙検出部54は、比率KRが高いほど輝度が高くなるようにKR画像の輝度を決定する。具体的には、閾値Thが0.7、KR画像における輝度値が0~255の場合、比率KRが0.7のときは輝度値を0、比率KRが0.7から1.0に増加するにつれて輝度値を増加させ、比率KRが1.0のときは輝度値を255となるようにKR画像の輝度を決定する。そして、検出部42の空隙検出部54は、KR画像の輝度等の検出結果を検出情報DB62に記録する。なお、検出部42の空隙検出部54は、比率KRが所定の閾値Th以上である場合に、検出対象は空隙であると判断してもよい。
【0048】
ステップS18で、検出部42の空隙検出部54は、比率KRが所定の閾値Th未満である場合(S16:NO)、比率KRに関わらず、上述の区間における輝度(KR画像の輝度)を決定する。例えば、検出部42の空隙検出部54は、KR画像における輝度値を0にする。そして、検出部42の空隙検出部54は、KR画像の輝度等の検出結果を検出情報DB62に記録する。なお、検出部42の空隙検出部54は、比率KRが所定の閾値Th未満である場合に、検出対象は空隙ではないと判断してもよい。
【0049】
ステップS19で、検出部42の深度算出部55は、空隙の深度を算出する。具体的には、検出部42の深度算出部55は、所定の区間ごとに算出された比率KRに基づいて、比率KRが高い箇所(深度)を、空隙が存在する深度であると判断する。なお、検出部42は、空隙の深度等の検出結果を検出情報DB62に記録する。
【0050】
ステップS20で、表示制御部43は、反射波のデータに対応する画像(Bモード画像)、および上述の処理によって生成されたKR画像を表示装置3に表示する。表示装置3の表示内容については、図8A図8Iを用いて後述する。
【0051】
<空隙によって相対的に高周波成分が増える原理>
図7A図7Cを参照して、コンクリートC1(被検査体)内に空隙が存在する場合に、その反射波の高周波成分が相対的に増えることについて、その原理を説明する。図7A図7Cは、異なる比誘電率εの物質間における電磁波の反射および透過を示す。
【0052】
≪位相の反転≫
図7Aは、コンクリートC1内の鉄筋T1(電気導電体)に電磁波W1が全反射する状態を示す。鉄筋(金属)は、誘電体ではないため比誘電率は∞となる。一方、コンクリートの比誘電率εは4~12とされているため、反射時は位相が反転する。また、金属を透過する電磁波がないため電磁波は全反射となり、反射波W2のレベルは高くなる。
【0053】
図7Bは、コンクリートC1内の空隙H1の上面(第1面)で電磁波W1が反射および透過する状態を示す。この場合、入射された電磁波W1の一部しか反射されないため、図7Aに示す鉄筋T1での反射に比べて、反射波W2のレベルは低くなる。また、比誘電率の高いコンクリートC1(比誘電率ε=4~12)から比誘電率の低い空隙H1(空気;比誘電率ε=1)への入射となるので、電磁波の位相は反転せず、同位相のまま反射される。
【0054】
図7Cは、コンクリートC1内の空隙H1の底面(第1面に対向する第2面)で電磁波W1が反射および透過する状態を示す。この場合、入射された電磁波W1の一部しか反射しないため、図7Aに示す鉄筋T1での反射に比べて、反射波W2のレベルは低くなる。ここで、原理的に誘電体表面(空隙H1の上面)での反射と同じ現象となるが、入射する方向が異なり、比誘電率の低い空隙H1(比誘電率ε=1)から比誘電率の高いコンクリートC1(比誘電率ε=4~12)への入射となるので、電磁波の位相が反転する。このことが図7Bに示す空隙H1の上面での反射と異なる。
【0055】
≪位相の遅れ≫
ここで、空隙底面で反射してくる電磁波は位相が反転するだけでなく、空隙の幅(垂直方向の幅)の分だけ、位相が「遅れる」という現象が起きる。この位相の遅れは時間軸では微妙な変化であり、その振幅を示す画像からは判断が難しいが、この反射波の信号を周波数軸に変換することで、位相の遅れに伴う周波数の変化に着目して空隙の検出を行う。
【0056】
≪空隙による周波数の偏移≫
ここで、照射される電磁波の周波数、空隙の幅、媒質の比誘電率、空隙からの反射波のレベルの関係について説明する。まず、電磁波は波であるので、照射される電磁波の信号fを時間tの関数で表すと、以下の式2となる。
【数1】
ここで、照射される電磁波の周波数をfa[GHz]、空隙の幅をd[mm]、媒質の比誘電率をεとし、空隙から反射する信号の1周期当たりのレベルをLとする。このとき、角周波数ω=2πfa、空隙上面における反射係数α(以下の式3)、空隙底面における反射係数β(以下の式4)、周期をT、空隙を電磁波が通過する往復時間a[ns](以下の式5)を用いると、空隙上面から反射した信号fu(第1の反射波)、および空隙底面からの反射した信号fd(第2の反射波)は以下の式6および式7で表すことができる。
【数2】
【0057】
そして、空隙からの反射波は、空隙表面から反射した信号fuと、空隙底面から反射した信号fdとの合成であるので、空隙から反射される信号h(合成波)は、これらの合算で時間tの関数h(t)として表すことができる。なお、空隙から反射される信号のレベルは、この信号h(t)を積分することで得られるので、単位時間当たりの信号レベルの実効値Lを求める為に、区間を0からTまで積分すると、以下の式8が得られる。
【数3】
【0058】
式8により、空隙から反射される反射波は、入力される信号の角周波数(ω)によって、出力される信号の信号レベルの実効値Lが変わるため、周波数特性を持つことが明らかになり、その周波数特性を表すモデル式(式9)が導かれた。式8、式9により、反射波のレベルとして比誘電率εは関係するものの、その周波数特性は空隙の幅dによって周期的に変化することが示されている。
【数4】
【0059】
これは、空隙底面で反射してくる信号の位相が反転するだけでなく、位相が「遅れる」という現象が起きることで、空隙の厚み(幅d)について、位相が1/4波長分ずれるまでは、空隙の厚みが大きくなるほど、反射波における信号レベルのロスの減少幅は少なくなる。また、位相が1/4波長分の遅れの時間(250ns、空隙の厚み37.5mm)のときに最大になり、それを超えると反射波における信号レベルのロスが大きくなる。
【0060】
このことから、空隙の存在によって、着目している周波数帯域(900[MHz]~3[GHz])において、一種のハイパスフィルタが形成され、そのハイパスフィルタの特性は空隙の幅(垂直方向の幅)と周波数の関数として示される。この高い周波数成分は、周波数特性により高い周波数成分が低い周波数成分より通過しやすいという原理で発生する現象であるため、この現象で起きる高い周波数の変化を周波数特性による高周波成分の相対的な増加と捉えることができる。すなわち、空隙があることで、反射波における高周波成分が相対的に増加するといえる。
【0061】
<表示例>
図8A図8Iは、本実施形態に係る空隙検出結果の表示例を示す図である。図8A図8Iを用いて、コンクリートC1内に空隙が存在しない場合の空隙検出結果の表示例、およびコンクリートC1内に空隙が存在する場合の空隙検出結果の表示例について説明する。
【0062】
≪パターン1:鉄筋あり、空隙なし≫
図8Aは、コンクリートC1内に鉄筋T1~T3が埋設されており、かつ空隙が存在しない場合の例を示す図である。図8Aでは、検査装置2が、コンクリートC1の上面において、右端から左端に対して移動しながらコンクリートC1の内部に向かって電磁波を照射し、コンクリートC1内部からの反射波を取得する。
【0063】
図8Bは、検査装置2よって取得された反射波のBモード画像を示す図である。図8Bに示すBモード画像において、横軸は検査装置2の右端からの移動距離、縦軸は時間、濃淡は反射波の振幅を示す。例えば、反射波の振幅が0のときに灰色、反射波の振幅のマイナス分が大きくなるほど暗く(濃淡を濃く)、反射波の振幅のプラス分が大きくなるほど明るく(濃淡を薄く)する。また、図8Bに示すBモード画像は、検査装置2が走査した方向(右端から左端)に、各地点における反射波の時間的変化を並べたものと捉えることもできる。ここで、検査装置2から照射される電磁波は、走査方向の前後に対して広がりを持っている。そのため、鉄筋(対象物)の直上でなくても、斜め方向から鉄筋に反射し、その反射波を受信する。この場合、斜め方向から鉄筋T1~T3に電磁波が当たった場合、実際の深度より、深く表示される事になる。さらに鉄筋に近づくと、斜め方向の距離が短くなり、鉄筋の直上で最短となり、この時の深さ方向の距離が実際の鉄筋と表面からの距離となる。すなわち、符号F1~F3で示される箇所は、それぞれ図8Aにおける鉄筋T1~T3の位置と対応するため、符号F1~F3(山型の波形の頂上部分)は、鉄筋T1~T3の深度を示している。さらに鉄筋を超えて走査した場合、鉄筋から離れる程、鉄筋からの距離が長くなるので、図8Bに示すように反射波の波形としては、鉄筋の様な断面が丸いものでも、山型の波形となる。
【0064】
図8Cは、図8Bに示すBモード画像に対応するKR画像を示す図である。ここで、図8Cと、以下に説明する図8F及び図8Iにおいては、上述したように、短時間フーリエ変換の対象区間に対応する比率KRが高いほど輝度が高く(白く)、比率KRが所定の閾値(例えば、0.7)に近いほど輝度が低く(黒く)なる。また、比率KRが所定の閾値以下の場合は、輝度値は0(黒)である。符号F4~F6で示される箇所は、図8Bの符号F1~F3で示される箇所に対応する。図8Cに示すように、コンクリートC1内に空隙がない場合は、輝度が高い箇所が存在しないため、空隙が存在しないと判断することができる。なお、比率KRの大きさを輝度の代わりに色度で示してもよく、例えば、短時間フーリエ変換の対象区間に対応する比率KRが高いほど暖色(例えば赤色)に近く、比率KRが所定の閾値に近いほど寒色(例えば青色)に近くなるようにしてもよい。このとき、比率KRが所定の閾値以下の場合は、青色で表示される。
【0065】
≪パターン2:鉄筋あり、空隙(空洞)あり≫
図8Dは、コンクリートC1内に鉄筋T1~T3が埋設されており、かつ鉄筋T1とT2との間に空隙H1(空洞;例えば、2[mm]の隙間)が存在する場合の例を示す図である。図8Dでは、図8Aと同様に、検査装置2が、コンクリートC1の上面において、右端から左端に対して移動しながらコンクリートC1の内部に向かって電磁波を照射し、コンクリートC1内部からの反射波を取得する。
【0066】
図8Eは、図8Dの検査装置2よって取得された反射波のBモード画像を示す図である。符号F7で示される箇所は、図8Dにおける空隙H1の位置と対応する。符号F7で示される箇所において、図8Bに比して、反射波のデータの振幅に僅かに変化が生じている。
【0067】
図8Fは、図8Eに示すBモード画像に対応するKR画像を示す図である。符号F8で示される箇所は、図8Eの符号F7で示される箇所に対応する。図8Fに示すように、コンクリートC1内に空隙H1が存在する場合は、符号F8で示される箇所のように輝度が高く表示されるため、客観的に空隙が存在すると判断することができる。
【0068】
≪パターン3:鉄筋あり、空隙(豆板)あり≫
図8Gは、コンクリートC1内に鉄筋T1~T3が埋設されており、かつ鉄筋T1とT2との間に空隙H2(豆板)が存在する場合の例を示す図である。図8Gでは、図8Aと同様に、検査装置2が、コンクリートC1の上面において、右端から左端に対して移動しながらコンクリートC1の内部に向かって電磁波を照射し、コンクリートC1内部からの反射波を取得する。
【0069】
図8Hは、図8Gの検査装置2よって取得された反射波のBモード画像を示す図である。符号F9で示される箇所は、図8Gにおける空隙H2の位置と対応する。符号F9で示される箇所において、図8Bに比して、反射波のデータの振幅に僅かに変化が生じている。
【0070】
図8Iは、図8Hに示すBモード画像に対応するKR画像を示す図である。符号F10で示される箇所は、図8Hの符号F9で示される箇所に対応する。図8Iに示すように、コンクリートC1内に空隙H2が存在する場合は、符号F10で示される箇所のように断続的に輝度が高く表示されるため、客観的に空隙(豆板)が存在すると判断することができる。
【0071】
<本実施形態の有利な効果>
上述の実施形態によれば、非破壊検査装置を用いて空隙の有無を検出することができる。これにより、従来のように、経験に基づいて作業者が反射波の画像を見て空隙の有無を判断するのではなく、空隙の位置を画像で特定することで、作業者の技量によらず客観的に空隙の有無を判断することができる。すなわち、既往の電磁波の反射波のレベル、位相、あるいは、それらの形状を技術者の主観による判断ではなく、得られた反射波の数値解析を行うことで被検査体における不具合箇所を検出することができる。また、これにより、コンクリート(被検査体)における経年劣化の状態をいち早く検出し、補修することにより、コンクリート構造物の寿命を延ばす事ができる。
【0072】
また、上述の実施形態によれば、空隙によって反射波の周波数特性が変化することを示すことで、空隙の厚み、照射される電磁波の周波数、媒質の反射係数が反射波の信号レベルに与える影響を理論的に導くことができる。具体的には、空隙が存在する場合に起きる物理現象をモデル式で表し、その式を解くことで、空洞からの反射波の周波数特性が偏移することの原理を明らかにすることができる。すなわち、空隙を電磁波が反射するときに、空隙の上面での反射信号と、一部の電磁波が空隙を透過したのち空隙の底面で反射するとき、位相が反転し空洞の厚み分だけ遅れた信号が加算される結果、空洞からの反射波の周波数特性が偏移することの原理を明らかにすることができる。
【0073】
また、上述の実施形態によれば、反射波の周波数に着目することで、反射波の位相や振幅に現れない空隙の特徴(周波数特性)を抽出することができる。また、空隙が媒質中に存在することで生じる周波数特性の変化を捉えることができる。また、この変化を捉える方法として着目する周波数の信号レベルMLと、その約2倍の周波数の信号レベルKLとの比率KRを算出することで、反射波の中から空隙による反射波の分離ができる。また、コンクリート(被検査体)内に、空隙と金属等の埋設物とが存在する場合でも、比率KRを用いることで、金属からの反射と空隙からの反射の分離を可能とし、空隙の有無を検出することができる。
【0074】
また、上述の実施形態によれば、2[mm]の隙間がある空洞でも検出することができるため、例えば、コンクリート内の充填不良による内部空洞や、配管のサビに伴う浮き等の意図しない欠陥を発見することができる。また、2[mm]の隙間がある豆板を検出することもできるため、例えば、充填不良による不具合箇所や、施工中に生じた初期欠陥等を発見することができる。
【0075】
また、検査方法として電磁波レーダ法を用いることで、センサーが非接触で測定ができ、測定面を走査しながら測定することが可能であるため、センサーを測定面に接触させる、弾性波法(衝撃弾性波法、超音波法)と比べ、作業効率を向上させることができる。
【0076】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0077】
(第2実施形態)
<概要>
上述の第1実施形態では、比率を用いて空隙検出を行ったが、第2実施形態では、被検査体における空隙の存在により電磁波の干渉が発生し、当該干渉により受信信号のスペクトル重心(受信信号のスペクトル分布)が変化することに着目して、サーバ1は、この変化に基づいて空隙を検出する。なお、本実施形態では、受信信号のスペクトル分布の変化を測る指標としてスペクトル重心を用いる例について説明するが、同様にスペクトル分布を指標化する方法として、第1実施形態の方法や、スペクトル平坦度等、他の方法を用いてもよい。
また、本実施形態に係るサーバ1は、上述のスペクトル重心の変化に基づいて、空隙の厚み(幅d)を検出する。以下、本実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、本実施形態に係る空隙検出システムのシステム構成、およびサーバ1のハードウェア構成については、上述の第1実施形態と同様のため、説明を省略する。また、機能構成および処理内容については、上述の第1実施形態と異なる箇所について詳細に説明し、同様の構成または処理については、説明を省略する。
【0078】
<サーバ1の機能構成>
図9は、サーバの機能的構成の一例を示す機能ブロック図である。サーバ1のCPU11においては、動作する際に、取得部41、表示制御部43、および検出部71が機能する。取得部41および表示制御部43は、上述の第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0079】
検出部71は、取得部41によって取得された反射波のデータに基づいて、コンクリートC1(被検査体)内の空隙を検出する。
また、検出部71は、取得部41によって取得された反射波のデータに基づいて、コンクリートC1(被検査体)内の空隙の厚み(空隙幅)を推定する。
以下、検出部71が備える機能部である、表面波処理部81、リファレンス信号取得部82、スクリーニング部83、空隙幅推定部84について説明する。
【0080】
表面波処理部81は、非検査体の表面で反射される信号を取り除く。
ここで、検査装置2が受信する反射波(レーダー信号)は、被検査体(測定対象;例えば、コンクリートC1)の表面波(表面)で反射される信号が含まれる。この表面波は、大きな信号で、コンクリートC1内部の信号を処理するためには、この表面波を取り除く必要がある。
なお、一般的に、この表面波処理は、検査装置2が備える機能として保有していることも多く、検査装置2においてCPU31によって行われる処理において行われてもよい。すなわち、取得部41は、表面は処理を行った反射波を取得するものとしてもよい。この場合、当該表面波処理部81における処理は行われないものとする。
【0081】
リファレンス信号取得部82は、測定対象であるコンクリート中の鉄筋(金属)の反射波であるリファレンス信号RSを取得する。このため、本実施形態では、上述の取得部41は、鉄筋の反射波を含むように、上述の反射波を取得するものとするが、あらかじめ、取得された反射波に基づいて、リファレンス信号RSを取得しておいてもよい。
【0082】
リファレンス信号RSは、空隙に対する入力波を想定した信号である。
検査装置2によって照射された電磁波(送信波)を空隙に対する入力波として用いて、当該入力波および反射波に基づいて解析が行われてもよいが、上述の反射波は、上述の送信波が空隙によって影響を受けるとともに、コンクリートC1を単に通過することにより影響を受けたものも含まれる。
そこで、本実施形態では、送信波そのものではなく、送信された電磁波が測定対象であるコンクリート中の鉄筋からの反射波を空隙に対する入力波として用いて、この信号をリファレンス信号RSとする。そして、当該リファレンス信号RSおよび反射波に基づいて解析を行う。このように、リファレンス信号RSを用いることで、検査装置2の送信波特性と測定対象の周波数特性を同時に校正することができる。
【0083】
スクリーニング部83は、空隙が存在しているであろうと思われる箇所をスクリーニングする。本実施形態では、空隙検出だけでなく、空隙幅の推定も可能であるが、そもそも空隙が存在していない箇所まで処理コストをかけて、後述する空隙幅の推定を行う必要はない。そこで、空隙が存在しているところをスクリーニングして、空隙が存在しているであろうと思われる箇所について、後述する空隙幅の推定を行う。
スクリーニングの手法については、空隙幅が10mmを越えている場合には、既存の種々の技術を用いることで、タイムドメイン(時間領域)であるレーダ信号の振幅値に基づく濃淡画像でも検出は可能である。
しかし、空隙幅が10mm未満の場合には、既存の技術では見落としが発生しやすくなるため、例えば、6mm以下になると検出が困難になる。そこで、送信波に対して同位相となる振幅信号に後述するスペクトル重心SCを乗じた値で空隙箇所の選定を行うとよい。この時の判定の閾値については、検査装置2の送信波特性に依存するため、装置毎に最適化する必要とよい。
なお、スクリーニング部83の処理は行われなくてもよい。すなわち、取得したすべての反射波に基づいて、後述の空隙幅の推定を行ってもよい。
【0084】
空隙幅推定部84は、反射波(合成波)におけるスペクトル重心SCの値に基づいて、コンクリートC1(被検査体)の内部における空隙の幅を推定する。
本実施形態では、空隙幅推定部84は、あらかじめ設けられる、空隙の幅毎および複数の帯域におけるスペクトル重心SCの値とを対応付けた対応付けテーブル(帯域ドメインテーブルBT)を用いて空隙の幅を推定する。
また、本実施形態では、空隙幅推定部84は、上述のスクリーニングによって抽出された、空隙の可能性のある個所に対して、当該箇所の反射波から帯域毎のスペクトル重心SC(値)を求めるものとする。
【0085】
≪反射波≫
ここで、検査装置2が受信する反射波(信号)は、一般的にタイムドメイン(時間領域)の信号である。本実施形態では、空隙幅推定部84は、以下の式10で示される反射波を用いるものとする。式10において、α、β、aは、上述の式3~式5で示されるものと同様であるため、説明を省略する。また、ftは、検査装置2によって送信された送信波(本実施形態では、リファレンス信号RS)、htは、検査装置2によって受信された反射波(観測波)である。なお、本実施形態では、空隙内での多重反射を考慮するものとする。多重反射について図10を参照して説明する。
【数5】
【0086】
図10は、被検査体内の空隙を検出する例を示す図である。図10に示すように、検査装置2から照射された電磁波は、空隙の上面および空隙の底面で複数回反射される。このため、検査装置2で受信する反射波は、これらの観測波の合成波であることが考えられる。そこで、本実施形態では、1~5次空隙底面反射波を考慮した反射波htを解析するものとする(式10)。
【0087】
≪スペクトル重心SC≫
次に、空隙幅推定部84は、時間ドメインの反射波htに対してフーリエ変換を行う。そして、空隙幅推定部84は、反射波htをフーリエ変換して得られた周波数ドメインの信号Hωに対して、スペクトル重心SCを求める(式11)。ここで、fkは、周波数を便分割したときのk番目のビンの中心周波数である。また、Skは、周波数を便分割したときのk番目のビンの振幅スペクトル値である。また、b1およびb2は、スペクトル重心を計算する範囲の周波数をビン分割したときの下限および上限のビン番号である。
【数6】
【0088】
式11により求まるスペクトル重心SCは、信号に存在する周波数の加重平均として求められる値である。スペクトル重心SCを用いることにより、送信波の主要な周波数帯域だけ考慮すればよく、スペクトル重心の計算は帯域全体を平均化する効果もあるため、ロバスト性が高くなることも期待できる。
【0089】
≪帯域ドメイン≫
ここで、上述のスペクトル重心SCは、空隙幅に対して多価関数となるため、解析的に解くことができない。
図11Bは、図11Aに示す帯域ごとに、各帯域におけるスペクトル重心と空隙の幅(垂直方向における厚み)との関係を示す図である。図11Bに示すように、スペクトル重心が求まったとしても、当該スペクトル重心と空隙幅の推定値とを1対1に単純に対応付けることができない。
ここで、スペクトル重心SCを求める際の帯域を変更すると、異なるスペクトル重心SCを示すことから、本実施形態では、反射波(受信した信号)の帯域毎のスペクトル重心SCを求め、帯域特性をあらかじめシミュレーションする。このシミュレーション結果を帯域ドメインとする。周波数ドメインであるスペクトル重心SCを帯域ドメインに変換することで、解析的に多価関数を解くことができる。
なお、本実施形態では、シミュレーションに用いる送信波として、上述した被検査体の金属の反射波であるリファレンス信号RSを用いるが、これに限定されず、例えば、sinc関数を用いてもよい。
【0090】
≪帯域ドメインテーブル≫
上述のようにしてリファレンス信号RSを用いて、各空隙幅に対するシミュレーション波形を計算する(式10)。このシミュレーションによって得られた各空隙幅の信号に対して、帯域を変えてスペクトル重心を求める。そして得られた空隙幅毎の各帯域におけるスペクトル重心SCの値が二次元のマトリックスになる。このマトリックスを帯域ドメインテーブルBTとする。生成された帯域ドメインテーブルBTは、帯域ドメインテーブル91に格納されるものとする。
このとき、送信波の周波数特性により、判定の際に重み付けを行うことで精度が向上するため、図11Aに示すように、低い周波数を含む程、重みを大きくするとよい。これにより、図11Cに示すように、空隙の推定幅と、実測値との一致度を高めることができる。
なお、本実施形態では、各帯域の幅を0.5[GHz]~4[GHz]の間で設定しているが、これに限定されない。
【0091】
空隙幅推定部84は、反射波に基づく帯域毎のスペクトル重心SC(測定値)と、帯域ドメインテーブルBTとの相関を取り、最も相関が高い値を推定空隙幅とする。相関を評価する方法は特に限定されないが、例えば、測定値のスペクトル重心SCと、帯域ドメインテーブルBTの残差平方和を算出し、最も小さい残差平方和となったものを相関が高いと判定するとよい。具体的には例えば、空隙幅推定部84は、式12のRSS(Residual Sum of Squares)が最小となるときに幅dを、空隙の幅として推定する。
【数7】
【0092】
<処理内容>
図12は、本実施形態に係る空隙幅推定処理の一例を示すフローチャートである。なお、上述のリファレンス信号RSは予め取得されているものとする。また、当該リファレンス信号RSに基づいて、上述の帯域ドメインテーブルBTが予め生成され、帯域ドメインテーブル91に格納されているものとする。
【0093】
ステップS21で、取得部41は、検査装置2から反射波のデータを取得する。取得部41は、取得した反射波のデータを取得情報DB61に記録する。
【0094】
ステップS22で、表面波処理部81は、上述の反射波から非検査体の表面で反射される信号を取り除く。
【0095】
ステップS23で、スクリーニング部83は、空隙が存在しているであろうと思われる箇所をスクリーニングする。換言すると、スクリーニング部83は、大まかに空隙の有無を検出する。
【0096】
ステップS24で、空隙幅推定部84は、複数の帯域における反射波のスペクトル重心SCと、帯域ドメインテーブルBTとを比較する。
【0097】
ステップS25で、空隙幅推定部84は、上述の式12に示されるRSSが所定の値以下となる幅dがあるか否かを判断する。この条件を満たす場合(S25-Yes)、空隙幅推定部84は、RSSが最も小さい幅dを、空隙の幅として推定する(S26)。また、上記の条件を満たさない場合(S25-No)、空隙幅推定部84は、空隙が無いものと判断する。
【0098】
ステップS28で、表示制御部43は、検査結果画像として、反射波のデータに対応する画像(Bモード画像)、および上述の処理によって判定画像を表示装置3に表示する。
【0099】
<表示例>
図13は、推定結果の表示例を示す図である。図13において、上段は試験体の外観、中段は検査装置2よって取得された反射波のBモード画像(判定画像)、下段は試験体における空隙の推定幅を色(例えば濃淡)で表した画像(判定画像)を示す。また、図13において、左側は空隙の幅8mmの例、右側は空隙の幅60mmの例を示す。
図13に示すように、空隙の幅が大きくなる程、Bモード画像における濃淡表示が強く(濃く)なる。また、本実施形態では、空隙の幅が大きくなる程、図13の下段に示す画像中の色を変化(薄く)させた判定画像を、検査結果画像として表示する。これにより、ユーザが容易に空隙の幅(推定値)を認識することができる。なお、判定画像において、画像中のバーの幅を、空隙の幅(推定値)に応じて変化させてもよい。すなわち、空隙の幅が大きい程、図13の下段に示す画像(空隙の幅の推定値を示す画像)中のバーの幅を大きくしてもよい。
【0100】
<本実施形態の有利な効果>
本実施形態によれば、空隙の有無の検知に加えて、空隙の幅を推定することができる。また、帯域ドメインテーブルを比較することにより、幅2mmの極めて小さい空隙を検出することができる。
【0101】
また、すべての反射波に対して解析を行うのではなく、スクリーニングした結果に基づいて解析を行うことで、解析時間を削減することができる。
【0102】
また、空隙が検出された箇所に対してリファレンス信号を用いて事前にシミュレーション信号を解析的に求め、それらの帯域特性と測定値の相関を求めることで、従来、振幅と位相を参照することにより技術者の主観で行われていた空隙検出よりも、高精度に、かつ容易に空隙の幅を推定することができる。
【0103】
(変形例)
上述の実施形態では、検査装置、情報処理装置(サーバ)および表示装置が別体の例について説明したが、構成は特に限定されず、例えば、1つの装置が上述の2つ以上の装置の機能を有していてもよい。
【0104】
上述の実施形態では、被検査体(コンクリート)内に鉄筋が埋設されている例を示したが、鉄骨、金属管、金属片などの人工物(埋設物)が埋設されている場合でも同様に空隙検出を行うことができる。また、被検査体内に空隙のみが存在する場合でも、上述の検出処理によって、空隙を検出することもできる。
【0105】
上述の実施形態では、被検査体としてコンクリートを例に説明したが、被検査体は特に限定されない。例えば、空港の滑走路(アスファルト)、道路、地層、建築物、橋梁、トンネル、舗装、住宅、人体等を被検査体としてもよい。
【0106】
上述の実施形態では、被検査体(コンクリート)内を検査する方法として電磁波レーダ法を用いる例について説明したが、検査方法は特に限定されない。例えば、コンクリートの内部を検査する方法として、打音法、衝撃弾性波法、超音波法、赤外線サーモグラフィ法、FWD(Falling Wight Deflectometer)を用いた方法等が用いられてもよい。打音法は、ハンマー等でコンクリートに打撃を与え、作業者がその打撃音を聴くことで、主観的に内部の状態を検査する検査方法である。衝撃弾性波法は、打音法と同様に検査するコンクリート表面を鋼球やハンマー等で打撃を加える事で衝撃を与え、その衝撃によってコンクリート内部に発生した弾性波を測定して、コンクリートを評価する方法である。超音波法は、衝撃弾性波法と同様な縦弾性波を用いる方式であって、縦弾性波の往復時間を測定することによって、コンクリートの内部を検査する方法である。赤外線サーモグラフィ法は、検査装置から赤外線を照射して、コンクリート内からの赤外線放射エネルギーを赤外線カメラで検出することによりコンクリートの内部を検査する方法である。FWDを用いた方法は、落下重錘を自由落下させ、その衝撃により表層にどの様な変位が現れるかを重錘の落下地点から、一定の距離ごとに、たわみセンサーを設置して、測定を行う方法である。
【0107】
上述の実施形態では、周波数解析の方法として、フーリエ変換を用いる例について説明したが、周波数解析によって周波数特性が得られればよく、例えば、ウェーブレット変換を用いてもよい。
【0108】
上述の実施形態では、比率を用いて空隙検出を行ったが、被検査体内に空洞のみが存在する場合は、値KLが所定の値以上であるか否かによって空隙の有無を検出することができる。
【0109】
上述の実施形態では、被検査体内に鉄筋等が不均一に分散して存在する場合でも空隙を検出できることを示したが、配管等のように均等に埋設されているものであれば、値KLのみを用いて空隙を検出してもよい。例えば、値KLを求める際に、積分する範囲を鉄筋ピッチと同じ範囲にして、鉄筋の影響を除くことで、空隙を検出することができる。これにより、比率KRを用いなくても、鉄筋による高周波の反応(影響)を一定にすることで、空隙の反応を検出することができる。
【0110】
上述の実施形態では、被検査体内に空隙が存在する場合の表示例について説明したが、この場合に、表示装置に空隙が存在する旨の警告を表示したり、警告音を出すようにしてもよい。
【0111】
上述の実施形態では、検査装置として車輪が設けられる装置を例に説明したが、検査装置は特に限定されない。例えば、飛行型検査機器(ドローン等)を用いて被検査体の検査を行ってもよい。
【0112】
上述の実施形態では、対応付けテーブルを用いて空隙幅の推定を行う例について説明したが、これに限定されない。例えば、機械学習により生成した分類器を用い、反射波から求まるスペクトル重心に基づいて、空隙幅の推定を行ってもよい。
【0113】
また例えば、上述した一連の処理は、ハードウェアにより実行させることもできるし、ソフトウェアにより実行させることもできる。換言すると、図4の機能的構成は例示に過ぎず、特に限定されない。即ち、上述した一連の処理を全体として実行できる機能が情報処理システムに備えられていれば足り、この機能を実現するためにどのような機能ブロックを用いるのかは特に図2の例に限定されない。また、機能ブロックの存在場所も、図4に特に限定されず、任意でよい。例えば、サーバの機能ブロックを検査装置又は表示装置等に移譲させてもよい。逆に検査装置又は表示装置の機能ブロックをサーバ等に移譲させてもよい。また、一つの機能ブロックは、ハードウェア単体で構成してもよいし、ソフトウェア単体で構成してもよいし、それらの組み合わせで構成してもよい。
【0114】
一連の処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータ等にネットワークや記録媒体からインストールされる。コンピュータは、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータであってもよい。また、コンピュータは、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能なコンピュータ、例えばサーバの他汎用のスマートフォンやパーソナルコンピュータであってもよい。
【0115】
このようなプログラムを含む記録媒体は、ユーザ等にプログラムを提供するために装置本体とは別に配布される図示せぬリムーバブルメディアにより構成されるだけでなく、装置本体に予め組み込まれた状態でユーザ等に提供される記録媒体等で構成される。
【0116】
なお、本明細書において、記録媒体に記録されるプログラムを記述するステップは、その順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。また、本明細書において、システムの用語は、複数の装置や複数の手段等より構成される全体的な装置を意味するものとする。
【0117】
(その他)
また例えば、上述した一連の処理は、ハードウェアにより実行させることもできるし、ソフトウェアにより実行させることもできる。換言すると、上述の機能的構成は例示に過ぎず、特に限定されない。即ち、上述した一連の処理を全体として実行できる機能が情報処理システムに備えられていれば足り、この機能を実現するためにどのような機能ブロックを用いるのかは特に上述の例に限定されない。また、機能ブロックの存在場所も、特に限定されず、任意でよい。例えば、サーバ(情報処理装置)の機能ブロックを他の装置等に移譲させてもよい。逆に他の装置の機能ブロックをサーバ等に移譲させてもよい。また、一つの機能ブロックは、ハードウェア単体で構成してもよいし、ソフトウェア単体で構成してもよいし、それらの組み合わせで構成してもよい。
【0118】
一連の処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータ等にネットワークや記録媒体からインストールされる。コンピュータは、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータであってもよい。また、コンピュータは、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能なコンピュータ、例えばサーバの他汎用のスマートフォンやパーソナルコンピュータであってもよい。
【0119】
このようなプログラムを含む記録媒体は、ユーザ等にプログラムを提供するために装置本体とは別に配布される図示せぬリムーバブルメディアにより構成されるだけでなく、装置本体に予め組み込まれた状態でユーザ等に提供される記録媒体等で構成される。プログラムはネットワークを介して配信可能であることから、記録媒体は、ネットワークに接続された、或いは接続可能なコンピュータに搭載、或いはアクセス可能なものであってもよい。
【0120】
なお、本明細書において、記録媒体に記録されるプログラムを記述するステップは、その順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。また、本明細書において、システムの用語は、複数の装置や複数の手段等より構成される全体的な装置を意味するものとする。
【0121】
換言すると、本発明が適用される情報処理装置は、次のような構成を有する各種各様の実施形態を取ることができる。
すなわち、(1)被検査体の表面から電磁波を照射し、前記電磁波が被検査体の内部で反射することによって生じた反射波のデータを取得する取得手段と、
前記取得手段で取得した前記反射波のデータに基づいて、前記被検査体内における空隙の有無を検出する検出手段と、を有する情報処理装置である。
【0122】
また、(2)前記検出手段は、前記反射波のデータに基づいて、前記電磁波が反射した対象が前記空隙であるか、前記被検査体の埋設物であるかを判断する、(1)に記載の情報処理装置である。
【0123】
また、(3)前記検出手段は、前記反射波のデータに対して周波数解析を行う解析手段を有し、前記解析手段の前記周波数解析によって得られる前記反射波の周波数特性に基づいて前記空隙の有無を検出する、(1)または(2)に記載の情報処理装置である。
【0124】
また、(4)前記検出手段は、前記被検査体内の前記空隙の第1面における第1の反射波と、前記空隙の前記第1面に対向する第2面における第2の反射波との合成波の周波数特性に基づいて前記空隙の有無を検出する、(1)から(3)のいずれか1つに記載の情報処理装置である。
【0125】
また、(5)前記検出手段は、前記合成波の第1の周波数帯における第1の信号レベルMLと、前記第1の周波数帯より高い第2の周波数帯における第2の信号レベルKLとの比(KL/ML)が所定の閾値以上である場合に、前記被検査体の内部に前記空隙が存在すると判断する、(4)に記載の情報処理装置である。
【0126】
また、(6)前記第1の信号レベルMLと前記第2の信号レベルKLとの比(KL/ML)が大きいほど、輝度または色度が高くなるように、前記比の強度を表示手段に表示する表示制御手段と、をさらに有する(5)に記載の情報処理装置である。
【0127】
また、(7)前記検出手段は、前記合成波におけるスペクトル重心の値に基づいて、前記被検査体の内部における空隙の幅を推定する、(4)に記載の情報処理装置である。
【0128】
また、(8)前記検出手段は、前記合成波におけるスペクトル重心の値と、前記空隙の幅毎および複数の帯域におけるスペクトル重心の値とを対応付けた対応付けテーブルとに基づいて、前記被検査体の内部における空隙の幅を推定する、(7)に記載の情報処理装置である。
【0129】
また、(9)前記検出手段は、前記被検査体の金属の反射波と前記合成波とに基づいて、前記対応付けテーブルを生成する、(8)に記載の情報処理装置である。
【0130】
また、(10)前記被検査体は、鉄筋とコンクリートとを含む複合構造体である、(1)から(9)のいずれか1つに記載の情報処理装置である。
【0131】
また、(11)前記検出手段は、前記複合構造体内の前記鉄筋と前記空隙とが混在する箇所において、前記電磁波が反射した対象が前記空隙であるか、前記鉄筋であるかを判断する、(10)に記載の情報処理装置である。
【0132】
また、(12)被検査体の表面から電磁波を照射し、前記電磁波が被検査体の内部で反射することによって生じた反射波のデータを取得する取得ステップと、前記取得ステップで取得した前記反射波のデータに基づいて、空隙の有無を検出する検出ステップと、を有する情報処理装置の制御方法である。
【0133】
また、(13)被検査体の表面から電磁波を照射し、前記電磁波が被検査体の内部で反射することによって生じた反射波のデータを取得する取得ステップと、前記取得ステップで取得した前記反射波のデータに基づいて、空隙の有無を検出する検出ステップと、をコンピュータによって実行させるためのコンピュータプログラムである。
【符号の説明】
【0134】
1:サーバ 2:検査装置 3:表示装置
11:CPU 18:記憶部 19:通信部
31:CPU 32:通信部 33:送信アンテナ
34:受信アンテナ 35:ロータリーエンコーダ 41:取得部
42:検出部 43:表示制御部 51:周波数解析部
52:レベル算出部 53:比率算出部 54:空隙検出部
55:深度算出部 61:取得情報DB 62:検出情報DB
71:検出部 81:表面波処理部 82:リファレンス信号取得部
83:スクリーニング部 84:空隙幅推定部 91:帯域ドメインテーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13