(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】血液分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/49 20060101AFI20241107BHJP
G01N 15/14 20240101ALI20241107BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20241107BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20241107BHJP
G01N 21/49 20060101ALI20241107BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241107BHJP
C12Q 1/04 20060101ALN20241107BHJP
【FI】
G01N33/49 K
G01N15/14 C
G01N33/49 A
G01N21/27 A
G01N21/64 Z
G01N21/49 Z
C12M1/34 B
C12Q1/04
(21)【出願番号】P 2020071704
(22)【出願日】2020-04-13
【審査請求日】2023-04-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100140431
【氏名又は名称】大石 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】東岸 任弘
(72)【発明者】
【氏名】鳥家 雄二
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-049064(JP,A)
【文献】特開2016-050931(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0360075(US,A1)
【文献】特開2008-241672(JP,A)
【文献】M. GWAMAKA et al.,“Iron Deficiency Protects Against Severe Plasmodium falciparumMalaria and Death in Young Children”,ClinicalInfectious Diseases,2012年02月21日,Vol. 54、No. 8,p.1137-1144,DOI: 10.1093/cid/cis010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 15/00-15/14
G01N 21/27-21/74
C12M 1/34
C12Q 1/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マラリアに感染した赤血球を測定するための第1測定試料を血液試料から調製する第1試料調製部と、
赤血球の自家蛍光を測定するための第2測定試料を前記血液試料から調製する第2試料調製部と、
前記血液試料を収容するサンプル容器から前記血液試料を吸引管を介して吸引し、前記吸引管を前記第1試料調製部と前記第2試料調製部のそれぞれに移動し、前記第1試料調製部と前記第2試料調製部のそれぞれに前記血液試料を供給する吸引部と、
前記第1測定試料及び前記第2測定試料に光を照射する光源部と、
光を照射された前記第1測定試料で生じる蛍光及び散乱光を検出し、光を照射された前記第2測定試料で生じる自家蛍光を検出する検出部と、
前記第1測定試料から検出された蛍光及び散乱光に基づきマラリア感染に関する情報を生成し、前記第2測定試料から検出された自家蛍光に基づき鉄欠乏性貧血に関する情報を生成する情報処理部と、
を備
え、
前記第1試料調製部は、第1反応槽で、前記血液試料と、赤血球を収縮させる溶血剤と、核酸を染色する色素と、前記赤血球を収縮させる溶血剤および前記核酸を染色する色素を含まない希釈液と、を混合することにより、前記第1測定試料を調製し、
前記第2試料調製部は、第2反応槽で、前記血液試料と、前記希釈液と、を混合することにより、前記第2測定試料を調製し、
前記希釈液が、前記希釈液を収容する容器から前記第1反応槽と前記第2反応槽に供給される、
血液分析装置。
【請求項2】
前記第1試料調製部および前記第2試料調製部のそれぞれは、前記吸引部により吸引された前記血液試料の一部から、前記第1測定試料および前記第2測定試料を調製する、請求項
1に記載の血液分析装置。
【請求項3】
前記光源部が発する光の波長帯域が400nm以上435nm以下である、請求項1
又は2に記載の血液分析装置。
【請求項4】
前記第1及び第2測定試料を流すフローセルをさらに備え、
前記光源部が、前記フローセル中を流れる前記第1及び第2測定試料に光を照射するように構成されており、
前記検出部が、前記フローセル中を流れる前記第1測定試料で生じる蛍光及び散乱光を検出し、前記フローセル中を流れる前記第2測定試料で生じる自家蛍光を検出するように構成されている、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の血液分析装置。
【請求項5】
前記第1及び第2測定試料の一方が前記フローセルを通過した後、前記第1及び第2測定試料の他方が前記フローセルを通過する前に、前記フローセルを洗浄する洗浄装置をさらに備える、請求項
4に記載の血液分析装置。
【請求項6】
前記情報処理部が、前記マラリア感染に関する情報と前記鉄欠乏性貧血に関する情報を同時に表示装置に出力するための表示情報を出力する、請求項1から
5のいずれか1項に記載の血液分析装置。
【請求項7】
前記マラリア感染に関する情報が、マラリアに感染した赤血球の数、又は、赤血球の数に対するマラリアに感染した赤血球の数の比率を含む、請求項1から
6のいずれか1項に記載の血液分析装置。
【請求項8】
前記マラリア感染に関する情報が、マラリアに感染した赤血球の数、又は、赤血球の数に対するマラリアに感染した赤血球の数の比率と、マラリア感染の可能性判断のための閾値との比較結果に基づく、マラリア感染の可能性を示す情報を含む、請求項1から
7のいずれか1項に記載の血液分析装置。
【請求項9】
前記マラリア感染の可能性を示す情報が、感染したマラリアの種類を示す情報を含む、請求項
8に記載の血液分析装置。
【請求項10】
前記鉄欠乏性貧血に関する情報が、自家蛍光を発する赤血球の数、又は、赤血球の数に対する自家蛍光を発する赤血球の数の比率を含む、請求項1から
9のいずれか1項に記載の血液分析装置。
【請求項11】
前記鉄欠乏性貧血に関する情報が、自家蛍光を発する赤血球の数、又は、赤血球の数に対する自家蛍光を発する赤血球の数の比率と、鉄欠乏性貧血の可能性判断のための閾値との比較結果に基づく、鉄欠乏性貧血の可能性を示す情報を含む、請求項1から
10のいずれか1項に記載の血液分析装置。
【請求項12】
前記マラリア感染に関する情報が、マラリアに感染した赤血球の数、又は、赤血球の数に対するマラリアに感染した赤血球の数の比率と、マラリア感染の可能性判断のための閾値と、の比較結果を含み、前記鉄欠乏性貧血に関する情報が、自家蛍光を発する赤血球の数、又は、赤血球の数に対する自家蛍光を発する赤血球の数の比率と、鉄欠乏性貧血の可能性判断のための閾値と、の比較結果を含み、
前記情報処理部は、マラリア感染の可能性判断のための閾値との比較結果がマラリア感染の可能性を示し、鉄欠乏性貧血の可能性判断のための閾値との比較結果が鉄欠乏性貧血の可能性を示すとき、注意喚起を促すフラグを生成する、
請求項1から
11のいずれか1項に記載の血液分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マラリア原虫はヘム鉄を餌として生育する。そのため、鉄欠乏性貧血患者がマラリアに感染した際に、医師がマラリア感染を見逃して鉄欠乏性貧血患者に鉄剤を投与すると、マラリア性症状が悪化する。したがって、世界保健機関(WHO)は、マラリアが風土病となっている地域では、鉄欠乏性貧血患者への鉄剤の提供はマラリアの診断と共にすることを推奨している(例えば、非特許文献1参照)。マラリアの診断は、例えば、pLDH(plasmodium lactate dehydrogenase)に特異的に結合するDNAアプタマーを検出することによって行われる(例えば、特許文献1参照)。DNAアプタマーの検出は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅したDNAアプタマーを蛍光標識し、励起される蛍光を検出することにより行われる。一方、鉄欠乏性貧血の診断は、例えば、反発性ガイダンス分子(Repulsive Guidance Moleculec)に結合する抗体を検出することによって行われる(例えば、特許文献2参照)。抗体の検出は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】GUIDELINE: DAILY IRON SUPPLEMENTATION IN INFANTS AND CHILDREN, World Health Organization, 2016
【文献】特開2012-254074
【文献】特表2015-502753
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したとおり、マラリアの診断には、DNAアプタマーをポリメラーゼ連鎖反応により増幅し、励起蛍光を検出することが必要である。一方、鉄欠乏性貧血の診断は、特定の抗体を結合させ、酵素結合免疫吸着測定法により抗体を検出することが必要である。従って、鉄欠乏性貧血患者への鉄剤の提供判断のためには、マラリア診断用の分析装置と、鉄欠乏性貧血診断用の分析装置と、を別々に準備し、それぞれの分析装置用に試料を採取し、測定する必要があった。
【0005】
そこで、本発明は、鉄欠乏性貧血患者への鉄剤の提供の判断のための測定を容易にする分析装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様によれば、マラリアに感染した赤血球を測定するための第1測定試料を血液試料から調製する第1試料調製部と、赤血球の自家蛍光を測定するための第2測定試料を血液試料から調製する第2試料調製部と、第1測定試料及び第2測定試料に光を照射する光源部と、光を照射された第1測定試料で生じる蛍光及び散乱光を検出し、光を照射された第2測定試料で生じる自家蛍光を検出する検出部と、第1測定試料から検出された蛍光及び散乱光に基づきマラリア感染に関する情報を生成し、第2測定試料から検出された自家蛍光に基づき鉄欠乏性貧血に関する情報を生成する情報処理部と、を備える、血液分析装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、1台の血液分析装置により、鉄欠乏性貧血患者への鉄剤の提供を判断するための情報が生成されるため、鉄欠乏性貧血患者への鉄剤の提供の判断のための測定を容易にすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る血液分析装置の構成を示す模式図である。
【
図2】実施形態に係る血液分析装置の構成を示す模式図である 。
【
図3】実施形態に係る血液分析装置の情報処理部の構成を示すブロック図である。
【
図4】実施形態に係る血液分析装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態に係る第1測定試料調製処理の手順を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態に係る第2測定試料調製処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る第1測定データ解析処理の手順を示すフローチャートである。
【
図8】実施形態に係る縦軸を前方散乱光強度、横軸を蛍光強度としたスキャッタグラムにおける白血球、血小板凝集、正常赤血球、及びマラリア感染赤血球の各粒子群の出現領域を示す模式図である。
【
図9】実施形態に係るマラリア種判定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図10】マラリア原虫の生活環を説明する説明図である。
【
図11】実施形態に係る縦軸を前方散乱光強度、横軸を蛍光強度としたスキャッタグラムにおける白血球、血小板凝集、正常赤血球、シングルリングフォーム、マルチリングフォーム、トロフォゾイト・シゾント、及びガメトサイトの各粒子群の出現領域を示す模式図である。
【
図12】マラリア原虫に感染した血液試料のスキャッタグラムの一例である。
【
図13】マラリア原虫に感染した血液試料のスキャッタグラムの一例である。
【
図14】マラリア原虫に感染した血液試料のスキャッタグラムの一例である。。
【
図15】実施形態に係る第2測定データ解析処理の手順を示すフローチャートである。
【
図16A】実施形態に係る正常試料の測定結果を示すスキャッタグラムの一例である。
【
図16B】実施形態に係る鉄欠乏性貧血の患者から採取された血液試料の測定結果を示すスキャッタグラムの一例である。
【
図16C】実施形態に係るαサラセミアの患者から採取された血液試料の測定結果を示すスキャッタグラムの一例である。
【
図16D】実施形態に係るβサラセミアの患者から採取された血液試料の測定結果を示すスキャッタグラムの一例である。
【
図17】実施形態に係る分析結果の表示例を示す模式図である。
【
図18】マラリア種・ステージ判定フラグと、鉄欠乏性貧血判定フラグとの組み合わせと、表示されるメッセージの関係を示す図である。
【
図19】実施例に係るマラリアに感染させたマウスの末梢血におけるマラリア感染赤血球数の比率、自家蛍光赤血球数、及び赤血球数の経時変化を示すグラフである。
【
図20】実施例に係るマラリアに感染させたマウスの末梢血から調製した測定試料で測定したスキャッタグラムである。
【
図21】実施例に係るマラリアに感染させたマウスの末梢血の蛍光顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。ただし、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0010】
本実施形態では、血液試料及び試薬から調製された第1測定試料に光を照射したときに発生する蛍光強度と散乱光強度に基づいて、マラリアに感染しているか否かを判定し、かつ血液試料から調製された第2測定試料に含まれる赤血球からの自家蛍光強度に基づいて、鉄欠乏性貧血か否かを判定する血液分析装置について説明する。
【0011】
<血液分析装置の構成>
実施形態に係る血液分析装置は、
図1に示すように、測定部2と、情報処理部3と、を備える。測定部2は、血液試料を取り込み、血液試料から第1及び第2測定試料のそれぞれを調製し、第1及び第2測定試料のそれぞれを光学測定する。情報処理部3は、測定部2の測定により得られた第1測定試料由来の第1測定データ及び第2測定試料由来の第2測定データを処理し、血液試料の分析結果を出力する。
【0012】
測定部2は、マラリアに感染した赤血球を測定するための第1測定試料を血液試料から調製する第1試料調製部5Aと、赤血球の自家蛍光を測定するための第2測定試料を血液試料から調製する第2試料調製部5Bと、を備える。
【0013】
測定部2は、吸引部4をさらに備えている。吸引部4は、吸引管20及び定量部21を有し、試験管に収容された血液試料を吸引管20を介して吸引する。
【0014】
第1試料調製部5Aは、第1反応槽54Aを有し、試薬容器51、52、53に接続されている。試薬容器51は、赤血球を収縮させる溶血剤を収容する。試薬容器52は、DNA等の核酸を染色する染色色素を含有する核酸染色用試薬を収容する。試薬容器53は、溶血剤及び染色色素を含まない希釈液を収容する。
【0015】
吸引部4は、吸引管20を第1反応槽54Aの上方へ移動させ、吸引された血液試料を第1反応槽54Aに吐出する。試薬容器51から第1反応槽54Aに、溶血剤が送り込まれる。試薬容器52から第1反応槽54Aに、核酸染色用試薬が送り込まれる。血液試料と、溶血剤と、核酸染色用試薬と、が第1反応槽54Aで混合される。さらに、試薬容器53から第1反応槽54Aに、希釈液が送り込まれ、血液試料、溶血剤、及び核酸染色用試薬の反応液が希釈液で希釈され、第1測定試料が調製される。第1測定試料は、マラリア感染赤血球の測定に用いられる。
【0016】
試薬容器51に収容される溶血剤は、例えば、溶血力が異なる2種類の界面活性剤を含んでいる。例えば、溶血剤は、カチオン系界面活性剤である2.95mmol/Lのラウリルトリメチルアンモニウムクロライドと、カチオン系界面活性剤である1.11mmol/Lのステアリルトリメチルアンモニウムクロライドと、を含む。ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドの方がラウリルトリメチルアンモニウムクロライドよりも溶血力が強い。溶血力が異なる2種類の界面活性剤であれば、上記の組み合わせに限られない。また、溶血剤は、ノニオン系界面活性剤である2.90mmol/LのPBC-44と、20mmol/LのADAと、適量のNaClと、1Lの精製水とをさらに含んでいる。ADAのpHは6.1である。また、溶血剤のpHは5.0以上7.0以下である。血球を収縮させるために、溶血剤の浸透圧は、例えば、200mOsm/kg・H2O以上300mOsm/kg・H2O以下である。溶血剤の例としては、Lysercell(シスメックス)が挙げられる。
【0017】
試薬容器52に収容される核酸染色用試薬は、例えば、染色色素(ヘキスト34580)を含む。核酸染色用試薬における染色色素の濃度は、例えば、0.3μmol/L以上であり、0.6μmol/L以下、あるいは0.45μmol/Lである。また、測定試料における染色色素の濃度は、例えば、0.15μmol/L以上1.0μmol/L以下である。ヘキスト34580の化学式を以下に示す。
【化1】
【0018】
なお、溶血剤と核酸染色用試薬とを分けずに、赤血球を収縮させる溶血剤と染色色素とを含有する1つの試薬を血液試料と混合して、第1測定試料を調製してもよい。
【0019】
試薬容器53に収容される溶血剤及び染色色素を含まない希釈液の例としては、セルパックDFL(シスメックス)等の緩衝液が挙げられる。溶血剤を含まない希釈液は、フローサイトメトリー方式による血球の測定において、シース液としても利用される。
【0020】
第2試料調製部5Bは、第2反応槽54Bを有し、試薬容器53に接続されている。
【0021】
吸引部4は、吸引管20を第1反応槽54Bの上方へ移動させ、吸引された血液試料を第2反応槽54Bに吐出する。試薬容器53から第2反応槽54Bに、希釈液が送り込まれる。血液試料と、希釈液と、が第2反応槽54Bで混合され、第2測定試料が調製される。第2測定試料は、赤血球の自家蛍光の測定に用いられる。
【0022】
第1試料調製部5A及び第2試料調製部5Bの構成をさらに詳しく説明する。
図2に示すように、吸引部4は、内部を液体が通過する吸引管20と、定量部21と、を備える。吸引管20の先端は、試料を収容するサンプル容器100の密閉蓋100aを貫通(穿刺)可能である。吸引管20は、鉛直方向(Z方向)に移動可能であり、かつ、第1反応槽54A及び第2反応槽54Bまで移動可能である。定量部21には、シリンジポンプが用いられる。なお、シリンジポンプに代えて、例えばダイヤフラムポンプも使用可能である。定量部21は、吸引管20を介して、サンプル容器100から所定量の試料を吸引し、吐出する。これにより、サンプル容器100から試料測定に必要な所定量の試料が吸引され、第1反応槽54A及び第2反応槽54Bに試料を供給可能である。
【0023】
溶血剤を収容する試薬容器51と第1反応槽54Aの間の流路には、定量部22と、電磁バルブ23、24と、が設けられている。定量部22としては、シリンジポンプが用いられる。なお、シリンジポンプに代えて、例えばダイヤフラムポンプも使用可能である。電磁バルブ23、24は、流路を開閉する。定量部22及び電磁バルブ23、24は、試薬容器51内の溶血剤を、第1反応槽54Aに、定量的に送り込む。
【0024】
核酸染色用試薬を収容する試薬容器52は、試薬容器ホルダ25に保持される。試薬容器ホルダ25には、試薬容器52内の核酸染色用試薬を吸引するための吸引管26と、吸引管26を昇降させる吸引管昇降機構27と、が設けられている。吸引管26の先端は、試薬容器52のシール材を貫通(穿刺)可能である。吸引管昇降機構27には、カバー28が接続されている。吸引管昇降機構27が下降し、吸引管26が試薬容器52のシール材を貫通(穿刺)している状態で、カバー28も下降し、カバー28が試薬容器52を覆う。吸引管昇降機構27が上昇すると、カバー28も上昇し、試薬容器52が外部から取り外し可能になる。
【0025】
吸引管26と第1反応槽54Aの間の流路には、液体中の気泡を検出する気泡センサ29が設けられている。また、吸引管26と第1反応槽54Aの間の流路には、定量部30と、電磁バルブ31、32と、が設けられている。定量部30としては、シリンジポンプが用いられる。なお、シリンジポンプに代えて、例えばダイヤフラムポンプも使用可能である。電磁バルブ31、32は、流路を開閉する。定量部30及び電磁バルブ31、32は、試薬容器52内の核酸染色用試薬を、第1反応槽54Aに、定量的に送り込む。
【0026】
希釈液を収容する試薬容器53と第1反応槽54Aの間の流路には、定量部33と、電磁バルブ34、35と、が設けられている。定量部33としては、シリンジポンプが用いられる。なお、シリンジポンプに代えて、例えばダイヤフラムポンプも使用可能である。電磁バルブ34、35は、流路を開閉する。定量部33及び電磁バルブ34、35は、試薬容器53内の希釈液を、第1反応槽54Aに、定量的に送り込む。第1反応槽54Aには、不要になった溶液を収容する廃液チャンバ36が接続される。第1反応槽54Aと廃液チャンバ36の間には、流路を開閉する電磁バルブ37が設けられる。
【0027】
第1反応槽54Aに隣接して、第1反応槽54A内の液体を加温するヒータ55Aが設けられている。また、第1反応槽54Aは、第1反応槽54A内の液体を攪拌するために、第1反応槽54A内にエアを供給するポンプ56Aに接続されている。
【0028】
希釈液を収容する試薬容器53と第2反応槽54Bの間の流路には、定量部38と、電磁バルブ39、40と、が設けられている。定量部38としては、シリンジポンプが用いられる。なお、シリンジポンプに代えて、例えばダイヤフラムポンプも使用可能である。電磁バルブ39、40は、流路を開閉する。定量部38及び電磁バルブ39、40は、試薬容器53内の希釈液を、第2反応槽54Bに、定量的に送り込む。第2反応槽54Bには、不要になった溶液を収容する廃液チャンバ41が接続される。第2反応槽54Bと廃液チャンバ41の間には、流路を、第2反応槽54Bから廃液チャンバ41に通ずる流路と、第2反応槽54Bから第2検出装置7に通ずる流路との間で切り替える電磁バルブ42が設けられる。
【0029】
第2反応槽54Bに隣接して、第2反応槽54B内の液体を加温するヒータ55Bが設けられている。また、第2反応槽54Bは、第2反応槽54B内の液体を攪拌するために、第2反応槽54B内にエアを供給するポンプ56Bに接続されている。
【0030】
図1に示す測定部2は、フローサイトメトリー法により白血球及びマラリア感染赤血球を測定し、かつ、赤血球の自家蛍光を測定する光学検出装置6をさらに備える。光学検出装置6は、第1及び第2測定試料のそれぞれが流れるフローセル61と、フローセル61内を流れる第1及び第2測定試料に光を照射する光源部62と、光を照射された第1及び第2測定試料のそれぞれで生じる蛍光の強度及び散乱光の強度を検出する検出部6Aと、を備える。検出部6Aは、検出器63および検出器64を備える。ここで、蛍光とは、自家蛍光を含む。
【0031】
フローセル61には、第1試料調製部5Aで調製された第1測定試料及び第2試料調製部5Bで調製された第2測定試料のそれぞれと、試薬容器53に収容された希釈液と、が供給される。フローセル61において、第1測定試料及び第2測定試料のそれぞれが、シース液としての希釈液で包まれる。
【0032】
光源部62は、波長帯域が400nm以上435nm以下の光をフローセル61へ照射する。具体的には、光源部62は、半導体レーザ光源であり、波長405nmの青紫色レーザ光をフローセル61へ照射する。
【0033】
検出器63、64のそれぞれは、フローセル61中の第1測定試料及び第2測定試料のそれぞれの流れに光が照射されたときに、第1測定試料及び第2測定試料のそれぞれから発せられる光を検出する。検出器63、64のそれぞれの感度波長範囲は、400nm以上1000nm以下である。検出器63、64は、アバランシェフォトダイオードである。なお、アバランシェフォトダイオードに代えて、レーザダイオード、フォトマルチプライヤーなどの他の検出器も使用できる。
【0034】
以下の説明では、光源部62とフローセル61とを結ぶ方向を「X方向」と呼び、X方向に対して直交し、フローセル61とミラー65とを結ぶ方向を「Y方向」という。検出器63は、フローセル61からY方向側に配置されたミラー65を介して、第1測定試料及び第2測定試料のそれぞれから発せられる蛍光を検出する。また、検出器64は、フローセル61からX方向側に、フローセル61を挟んで光源部62の反対側に配置される。検出器64は、測定試料から発せられる前方散乱光を検出する。
【0035】
なお、前方散乱光に代えて、側方散乱光、後方散乱光など、他の散乱光を、フローセル61に対して適当な位置に配置された検出器で検出してもよい。
【0036】
検出器63、64のそれぞれは、受光強度を示すアナログ信号を出力する。以下、検出器63から出力されるアナログ信号を「蛍光信号」と呼び、検出器64から出力されるアナログ信号を「前方散乱光信号」という。
【0037】
フローセル61に第1測定試料及び第2測定試料を流す順番は任意である。フローセル61に第1測定試料を流し、次に第2測定試料を流してもよい。あるいは、フローセル61に第2測定試料を流し、次に第1測定試料を流してもよい。
【0038】
測定部2は、例えば、第1及び第2測定試料の一方がフローセル61を通過した後、第1及び第2測定試料の他方がフローセル61を通過する前に、フローセル61を洗浄する洗浄装置8をさらに備える。洗浄装置8はシリンジポンプ及びダイヤフラムポンプ等の定量ポンプを備え、試薬容器53に収容された希釈液をフローセル61に流して、フローセル61を洗浄する。フローセル61に先に第1測定試料を流した場合、洗浄装置8がフローセル61を洗浄した後に、フローセル61に第2測定試料を流す。フローセル61に先に第2測定試料を流した場合、洗浄装置8がフローセル61を洗浄した後に、フローセル61に第1測定試料を流す。
【0039】
測定部2は、シースフローDC検出法により赤血球を測定する第2検出装置7を備えている。第2検出装置7は、
図2に示すように、電磁バルブ42を介して第2反応槽54Bに流体的に接続されている。第2検出装置7は、試料ノズル7aと、アパーチャ部材7bと、回収管7cと、検出器7dと、を備えている。試料ノズル7aには、第2反応槽54Bから測定試料(第3測定試料)が供給される。試料ノズル7aに供給された測定試料は、アパーチャ部材7bのアパーチャを通過し、回収管7cによって回収され、廃液チャンバ41へ送られる。アパーチャ部材7bのアパーチャを通過する測定試料には検出器7dにより電圧が印加されている。血球がシースフローセルを通過すると、血球の電気抵抗によって電圧が変化する。検出器7dは、電圧の変化を捉えて電気抵抗を検出し、これによって血球を検出する。検出器7dは、電圧を示すアナログ信号を出力する。なお、光学検出装置6における散乱光の検出によっても赤血球の検出は可能であるため、第2検出装置7は省略してもよい。
【0040】
図1に戻り、測定部2は、信号処理回路81、マイクロコンピュータ82、及び通信インターフェース83をさらに備えている。
【0041】
信号処理回路81は、検出器63、64が出力するアナログ信号に対して信号処理を行う。信号処理回路81は、蛍光信号及び前方散乱光信号に含まれるパルスのピーク値を特徴パラメータとして抽出する。以下、蛍光信号のピーク値を「蛍光強度」と呼び、前方散乱光信号のピーク値を「前方散乱光強度」という。
【0042】
マイクロコンピュータ82は、吸引部4、第1試料調製部5A、第2試料調製部5B、光学検出装置6、信号処理回路81、及び通信インターフェース83を制御する。
【0043】
通信インターフェース83は、通信ケーブルによって、情報処理部3に接続される。測定部2は、通信インターフェース83によって、情報処理部3とデータ通信を行う。通信インターフェース83は、第1測定試料及び第2測定試料のそれぞれの測定が行われると、特徴パラメータを含む第1及び第2測定データを情報処理部3へ送信する。
【0044】
情報処理部3は、第1測定試料から検出された蛍光の強度及び散乱光の強度に基づきマラリア感染に関する情報を生成し、第2測定試料から検出された赤血球の自家蛍光の強度に基づき鉄欠乏性貧血に関する情報を生成する。
【0045】
図3を参照し、情報処理部3の構成について説明する。情報処理部3は、本体300と、入力装置309と、表示装置310とを備えている。本体300は、CPU(Central Processing Unit)301と、ROM(Read Only Memory)302と、RAM(Random Access Memory)303と、ハードディスク304と、読出装置305と、入出力インターフェース306と、画像出力インターフェース307と、通信インターフェース308と、を有する。表示装置310は文字及び画像を表示する。
【0046】
CPU301は、ROM302に記憶されているコンピュータプログラム及びRAM303にロードされたコンピュータプログラムを実行する。RAM303は、ROM302及びハードディスク304に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。RAM303は、コンピュータプログラムを実行するときに、CPU301の作業領域としても利用される。
【0047】
ハードディスク304には、測定部2から与えられた第1及び第2測定データを解析し、分析結果を出力するためのコンピュータプログラム320がインストールされている。
【0048】
読出装置305は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、又はDVD-ROMドライブ等であり、可搬型記録媒体321に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。また、可搬型記録媒体321には、コンピュータを情報処理部3として機能させるためのコンピュータプログラム320が格納されている。可搬型記録媒体321から読み出されたコンピュータプログラム320は、ハードディスク304にインストールされる。
【0049】
入力装置309はキーボード及びマウス等の入力デバイスを備え、入出力インターフェース306に接続される。表示装置310は、画像出力インターフェース307に接続される。通信インターフェース308は、測定部2の通信インターフェース83に接続される。
【0050】
<血液分析装置の動作>
図4を参照し、血液分析装置1の動作について説明する。
【0051】
まず、情報処理部3のCPU301が、ユーザからの測定実行の指示を、入力装置309を介して受け付ける(ステップS101)。測定実行の指示を受け付けると、CPU301は、測定部2に測定開始を指示する指示データを送信し(ステップS102)、測定部2が指示データを受信する(ステップS103)。マイクロコンピュータ82は、第1測定試料調製処理(ステップS104)、第1測定処理(ステップS105)、第2測定試料調製処理(ステップS106)、及び第2測定処理(ステップS107)を実行する。なお、第2測定試料調製処理(ステップS106)及び第2測定処理(ステップS107)を、第1測定試料調製処理(ステップS104)及び第1測定処理(ステップS105)の前に実施してもよい。
【0052】
図5を参照して、第1測定試料調製処理(ステップS104)について説明する。マイクロコンピュータ82が吸引部4を制御して、第1反応槽54Aに所定量、例えば17μLの血液試料を供給する(ステップS201)。次に、マイクロコンピュータ82が第1試料調製部5Aを制御して、試薬容器51から第1反応槽54Aに所定量、例えば1mLの溶血剤を供給し、試薬容器52から第1反応槽54Aに所定量、例えば20μLの核酸染色用試薬を供給する(ステップS202)。
【0053】
第1反応槽54Aは、ヒータ55Aによって所定温度になるように加温されている。加温された状態で、第1反応槽54A内の混合物をポンプ56Aによって撹拌する(ステップS203)。血液試料と溶血剤及び核酸染色用試薬とを反応させた後、マイクロコンピュータ82が第1試料調製部5Aを制御して、試薬容器53から第1反応槽54Aに所定量の希釈液を供給し、血液試料と溶血剤及び核酸染色用試薬との反応液を希釈し、第1測定試料を調製する。次に、マイクロコンピュータ82が第1試料調製部5Aを制御して、第1測定試料を第1反応槽54Aから光学検出装置6へ導出する(ステップS204)。
【0054】
ステップS204の処理が終了すると、マイクロコンピュータ82は、メインルーチンへ処理をリターンする。
【0055】
再び
図4を参照する。第1測定処理(ステップS105)では、光学検出装置6が第1測定試料を測定する。第1試料調製部5Aがシース液と共に第1測定試料をフローセル61に供給する。光源部62がフローセル61中の第1測定試料の流れに光を照射する。
【0056】
第1測定試料がフローセル61を流れると、白血球、血小板凝集、及び赤血球を含む血球がフローセル61を順次通過する。ここで、「血小板凝集」とは、2つ以上の血小板の凝集体である。マラリアに感染している赤血球(以下、「マラリア感染赤血球」という。)が含まれている場合、マラリア感染赤血球の内部には、マラリア原虫が入っている。溶血剤の作用により、測定試料中の赤血球は縮小している。マラリア感染赤血球は、内部にマラリア原虫を保持したまま、溶血剤によって縮小される。また、マラリア原虫には核が存在するため、核酸染色用試薬によって染色される。白血球も核を有するため、染色試薬によって染色される。マラリア原虫に感染していない赤血球(以下、「正常赤血球」という。)及び血小板凝集には核が存在しないため、核酸染色用試薬によってはほとんど染色されない。
【0057】
血球(白血球、血小板凝集、及び赤血球)に光が照射される都度、血球からは散乱光と血球の種類により蛍光が発せられる。血球から発せられた蛍光は検出器63によって検出される。血球から発せられた散乱光(前方散乱光)は検出器64によって検出される。
【0058】
検出器63、64のそれぞれは、受光レベルに応じた電気信号を、蛍光信号及び前方散乱光信号として出力する。信号処理回路81は、蛍光信号から蛍光強度を抽出し、前方散乱光信号から前方散乱光強度を抽出する。第1測定試料をフローセル61に流した後、洗浄装置8がフローセル61を洗浄する。
【0059】
第2測定試料調製処理(ステップS106)について説明する。
図6のステップS301において、マイクロコンピュータ82が吸引部4を制御して、試験管から血液試料を所定量吸引させ、第2反応槽54Bに5μLの試料を供給する。次に、ステップS302において、マイクロコンピュータ82が第2試料調製部5Bを制御して、試薬容器53から第2反応槽54Bに1020μLの希釈液を供給する。
【0060】
第2反応槽54Bは、ヒータ55Bによって所定温度になるように加温されており、加温された状態で、ステップS303で第2反応槽54B内の混合物をポンプ56Bにより撹拌する。ステップS301からS303の動作により、第2反応槽54Bにおいて第2測定試料を調製する。第2測定試料において、血球は溶血及び染色されない。ステップS304において、マイクロコンピュータ82が第2試料調製部5Bを制御して、第2測定試料を第2反応槽54Bから光学検出装置6へ導出する。
【0061】
ステップS304の処理が終了すると、マイクロコンピュータ82は、メインルーチンへ処理をリターンする。
【0062】
再び
図4を参照する。第2測定処理(ステップS107)では、光学検出装置6が第2測定試料を測定する。シース液と共に第2測定試料をフローセル61に供給する。光源部62がフローセル61中の第2測定試料の流れに光を照射する。
【0063】
第2測定試料がフローセル61を流れると、赤血球を含む血球がフローセル61を順次通過する。健常者の赤血球におけるプロトポルフィンの存在量は少ないが、鉄欠乏性貧血の患者の赤血球には多くのプロトポルフィンが含まれる。プロトポルフィンが多く存在する赤血球に青紫色レーザ光を照射すると、自家蛍光が放出される。自家蛍光は、波長が600nm以上700nm以下の赤色光であるので、各赤血球から放出される自家蛍光が個別に検出器63によって検出される。一方、プロトポルフィンがほとんど含まれない赤血球に青色レーザ光を照射しても、自家蛍光はほとんど生じない。したがって、検出器63における受光レベルは低値となり、自家蛍光は検出されない。
【0064】
赤血球に光が照射される都度、赤血球からは散乱光が発せられる。赤血球から発せられた散乱光(前方散乱光)は、波長が405nmであるので、検出器64によって検出される。
【0065】
検出器63及び検出器64は、受光レベルに応じた電気信号を、蛍光信号及び前方散乱光信号として出力する。信号処理回路81は、蛍光信号から蛍光強度を抽出し、前方散乱光信号から前方散乱光強度を抽出する。第2測定試料をフローセル61に流した後、洗浄装置8がフローセル61を洗浄する。
【0066】
第3測定試料調製処理(ステップS108)では、マイクロコンピュータ82が吸引部4を制御して、試験管から血液試料を所定量吸引させ、第2反応槽54Bに5μLの試料を供給する。次に、マイクロコンピュータ82が第2試料調製部5Bを制御して、試薬容器53から第2反応槽54Bに1020μLの希釈液を供給し、第3測定試料を調製する。
【0067】
第3測定処理(ステップS109)では、第2検出装置7が第3測定試料を測定する。第2検出装置7は、シースフローセルを流れる第3測定試料に電圧を印加し、電圧を示すアナログ信号を信号処理回路81へ出力する。赤血球がシースフローセルを通過する都度、その電気抵抗に応じて電圧が変化する。信号処理回路81は、信号処理により電気抵抗の変化を捉え、赤血球を検出する。これにより、信号処理回路81は、第2検出装置7の出力信号を赤血球の検出データに変換する。第3測定処理の後、マイクロコンピュータ82は、各特徴パラメータを含む第1、第2及び第3測定データを情報処理部3へ送信し(ステップS110)、処理を終了する。
【0068】
情報処理部3は、第1、第2及び第3測定データを受信する(ステップS111)。次に、CPU301は、第3測定データに含まれる赤血球の検出データを解析し、赤血球を計数する(ステップS112)。その後、CPU301は、マラリア感染に関する情報を生成するための第1測定データ解析処理を実行し、血液試料の分析結果を生成して、分析結果をハードディスク304に格納する(ステップS113)。
【0069】
図7を参照し、第1測定データ解析処理について説明する。第1測定データ解析処理を開始すると、まずCPU301は、第1測定データに含まれる蛍光強度及び前方散乱光強度に基づいて、検出した血球を白血球、血小板凝集、正常赤血球、及びマラリア感染赤血球に分類し、それぞれを計数する(ステップS401)。
【0070】
図8を参照して、白血球、血小板凝集、正常赤血球、及びマラリア感染赤血球の分類について説明する。
図8のスキャッタグラムにおいて、縦軸は前方散乱光強度を示し、横軸は蛍光強度を示す。
【0071】
白血球は、前方散乱光強度が、正常赤血球及びマラリア感染赤血球の集団より大きく、蛍光強度が、正常赤血球及び血小板凝集の集団よりも大きい領域401(以下、領域401に属する粒子群を第1粒子群という)に概ね出現する。血小板凝集は、前方散乱光強度が領域401と同程度であり、且つ、蛍光強度が領域401よりも小さい領域402に概ね出現する。正常赤血球は溶血剤によって強く縮小される。このため、溶血剤によって縮小された正常赤血球は、前方散乱光強度が領域401よりも小さく、且つ、蛍光強度が領域401よりも小さい領域403(以下、(以下、領域403に属する粒子群を第2粒子群という)に概ね出現する。
【0072】
マラリア感染赤血球は溶血剤によって縮小され、また、核を有するマラリア原虫を内部に保持しているため核酸染色用試薬によって染色される。このため、マラリア感染赤血球は、前方散乱光強度が領域401より小さく、且つ、蛍光強度が403より大きい領域404(以下、(以下、領域404に属する粒子群を第3粒子群という)に概ね出現する。
【0073】
マラリア感染赤血球の亜集団への分類について、
図10及び
図11を用いて説明する。
図10に示すように、マラリア原虫をもつハマダラカに吸血されると、ハマダラカの唾液とともに原虫が血液中に注入される。原虫は肝細胞内に進入し、そこで増殖し、再び血液中に放出される。このときの原虫の形態はメロゾイト(分裂小体:merozoite)と呼ばれ、血液中に放出されると直ちに赤血球内に侵入し、その形態を変化させながら発育していく。この形態変化は生活環と呼ばれ、生活環の各段階(ステージ)で、リングフォーム(輪状体:ring form)、トロフォゾイト(栄養体:tropozoite)、シゾント(分裂体:schizonte)と呼ばれる。リングフォームには、単一のリングフォームを赤血球内に含むシングルリングフォームと、複数のリングフォームを赤血球内に含むマルチリングフォームとがある。シゾントまで発育した原虫は赤血球を破壊し、再びメロゾイトとなって血液中に放出される。放出されたメロゾイトは赤血球に侵入し、再び生活環を繰り返して増殖を繰り返す。マラリア原虫はこのサイクルを繰り返すことによって増殖し、血液中の赤血球を破壊し続ける。なお、メロゾイトの一部は赤血球に感染することなく、ガメサイト(生殖母体:gametocyte)と呼ばれる形態に分化する。ガメトサイトは、ハマダラカの吸血により、さらなる感染の母体となる。シングルリングフォーム、マルチリングフォーム、トロフォゾイト、シゾント及びガメサイトは、その大きさ及び染色度合いに差があるため、
図11に示す、縦軸を前方散乱光強度、横軸を蛍光強度とするスキャッタグラムにおいて分類可能である。トロフォゾイト又はシゾントは、マラリア感染赤血球が出現する領域である、領域404の中で、蛍光強度及び前方散乱光強度がリングフォームと比べて高い領域413に出現する。ガメサイトは、トロフォゾイト又はシゾントよりも蛍光強度が低く、トロフォゾイト又はシゾントのうち前方散乱光強度が高いものと同程度の前方散乱光強度である領域414に出現する。シングルリングフォームは、ガメサイトのうち蛍光強度が低いものと同程度の蛍光強度で、ガメサイトより前方散乱光強度が低い領域411に出現する。マルチリングフォームは、シングルリングフォームより蛍光強度が高く、シングルリングフォームのうち前方散乱光強度が低いものと同程度の前方散乱光強度である領域412に出現する。
【0074】
図7に戻り、ステップS402で、CPU301は、マラリア種判定処理を実行する。
【0075】
図9を参照し、マラリア種判定処理について説明する。マラリア種判定処理は、血液試料が熱帯熱マラリア原虫に感染している疑いがあるか、熱帯熱マラリア以外の種(以下、「その他の種」という。)のマラリア原虫に感染している疑いがあるかを判定するための処理である。熱帯熱マラリアは、悪性マラリアとも呼ばれる死亡率が高い熱病であり、熱帯熱マラリア以外の種と弁別することは臨床的意義が高い。熱帯熱マラリアの場合、熱帯熱マラリア以外の種よりもリングフォームが多く出現することが知られている。
【0076】
ステップS501において、CPU301は、マラリア種・ステージ判定フラグを0にセットする。マラリア種・ステージ判定フラグは、RAM303の特定の領域に設けられている。0にセットされたマラリア種・ステージ判定フラグは、血液試料がマラリア原虫に感染している可能性が低いことを示す。1にセットされたマラリア種・ステージ判定フラグは、血液試料が熱帯熱マラリア原虫に感染している疑いがあることを示す。2にセットされたマラリア種・ステージ判定フラグは、血液試料が熱帯熱マラリア原虫に感染している可能性が高いことを示す。なお、熱帯熱マラリア原虫に感染している疑いがあるとは、熱帯熱マラリア原虫に感染している可能性はあるが、高いとまではいえないことをいう。3にセットされたマラリア種・ステージ判定フラグは、血液試料がその他の種のマラリア原虫に感染している疑いがあることを示す。4にセットされたマラリア種・ステージ判定フラグは、血液試料がその他の種のマラリア原虫に感染している可能性が高いことを示す。なお、その他の種のマラリア原虫に感染している疑いがあるとは、その他の種のマラリア原虫に感染している可能性はあるが、高いとまではいえないことをいう。
【0077】
ステップS502において、CPU301は、ステップS401で計数したマラリア感染赤血球の数が、閾値T1以上であるか否かを判定する。ここで閾値T1は、マラリア感染赤血球の数がT1未満であればマラリア感染赤血球が出現していないと判断できる数値である。マラリア感染赤血球の数がT1未満の場合(ステップS502においてNO)、血液試料がマラリア原虫に感染していないと判断できる。この場合、CPU301は、マラリア種判定処理を終了し、マラリア感染赤血球比率の算出処理(ステップS403)に進む。
【0078】
マラリア感染赤血球の数と閾値T1とを比較した結果、マラリア感染赤血球の数がT1以上の場合(ステップS502においてYES)、血液試料がマラリア原虫に感染している可能性があると判断できる。この場合、CPU301は、ステップS503に処理を移す。
【0079】
ステップS503において、CPU301は、
図11のスキャッタグラムにおける領域411に属する粒子群をシングルリングフォームとして計数し、領域412に属する粒子群をマルチリングフォームとして計数し、領域413に属する粒子群をトロフォゾイト又はシゾント(以下、「トロフォゾイト・シゾント」という。)として計数し、領域414に属する粒子をガメトサイトとして計数する(ステップS503)。
【0080】
ステップS504において、CPU301は、ガメトサイトの数が閾値T2以上であるか否かを判定する。閾値T2は、T2未満であればガメトサイトが出現していないと判断できる数値である。ガメサイトの数がT2以上である場合(ステップS504においてYES)、ガメトサイトが血液試料中に出現したと判断できる。この場合、CPU301は、ステージフラグに2をセットし(ステップS505)、ステップS506へ処理を移す。
【0081】
ガメサイトの数がT2未満である場合(ステップS504においてNO)、ガメトサイトが血液試料中に出現していないと判断できる。この場合、CPU301は、ステップS506へ処理を移す。
【0082】
ステップS506において、CPU301は、シングルリングフォームの数が閾値T3以上であるか否かを判定する(ステップS506)。閾値T3は、T3未満であればシングルリングフォームが出現していないと判断できる数値である。シングルリングフォームの数がT3未満である場合(ステップS506においてNO)、CPU301はステップS511に処理を移す。
【0083】
シングルリングフォームの数がT3以上である場合(ステップS506においてYES)、CPU301は、シングルリングフォームが出現する領域411の前方散乱光強度の代表値が、閾値T4以上であるか否かを判定する(ステップS507)。
【0084】
熱帯熱マラリア原虫のシングルリングフォームの大きさは、その他の種のマラリア原虫のシングルリングフォームの大きさと比べて小さい。また、前方散乱光強度は細胞の大きさを反映している。シングルリングフォームが出現する領域411の前方散乱光強度の代表値は、領域411に出現した複数の粒子の前方散乱光強度の平均値である。閾値T4は、T4未満であれば、熱帯熱マラリアに感染している可能性があると判断できる数値である。
【0085】
領域411の前方散乱光強度の代表値がT4未満である場合(ステップS507においてYES)、熱帯熱マラリア原虫に感染している可能性がある。この場合、CPU301は、マルチリングフォームの数が閾値T5以上であるか否かを判定する(ステップS508)。閾値T5は、マルチリングフォームの数がT5未満であればマルチリングフォームが出現していないと判断できる数値である。
【0086】
マルチリングフォームの数がT5未満である場合(ステップS508においてNO)、マルチリングフォームが血液試料中に出現していないと判断できる。この場合、血液試料が熱帯熱マラリア原虫に感染している可能性が高いとはいえない。その一方で、ステップS507において、血液試料が熱帯熱マラリア原虫に感染している可能性があると判断されている。そこで、CPU301は、マラリア種判定フラグに1をセットし(ステップS509)、マラリア種判定処理を終了し、第1測定データ解析処理に戻す。
【0087】
マルチリングフォームの数がT5以上である場合(ステップS508においてYES)、マルチリングフォームが血液試料中に出現している可能性があると判断できる。この場合、血液試料が熱帯熱マラリア原虫に感染している可能性が高いと判定できる。そこで、CPU301は、マラリア種判定フラグに2をセットし(ステップS510)、マラリア種判定処理を終了し、第1測定データ解析処理に戻す。
【0088】
シングルリングフォームが出現する領域411の前方散乱光強度の代表値がT4以上である場合(ステップS507においてNO)、その他の種のマラリア原虫に感染している可能性がある。この場合、CPU301は、トロフォゾイト・シゾントの数が閾値T6以上であるか否かを判定する(ステップS511)。閾値T6は、T6未満であれば、トロフォゾイト・シゾントが血液試料中に出現していないと判断できる数値である。
【0089】
熱帯熱マラリア原虫の感染者の末梢血中にはトロフォゾイト・シゾントがほとんど出現せず、その他の種のマラリア原虫の感染者の末梢血中にはトロフォゾイト・シゾントが出現することが多い。トロフォゾイト・シゾントの数がT6未満である場合(ステップS511においてNO)、トロフォゾイト・シゾントが血液試料中に出現していないと判断できる。この場合、血液試料がその他の種のマラリア原虫に感染している可能性が高いとはいえない。その一方で、ステップS507において、血液試料がその他の種のマラリア原虫に感染している疑いがあると判断されている。そこで、CPU301は、マラリア種・ステージ判定フラグに3をセットし(ステップS512)、マラリア種判定処理を終了し、第1測定データ解析処理に戻す。
【0090】
トロフォゾイト・シゾントの数がT6以上である場合(ステップS511においてYES)、トロフォゾイト・シゾントが血液試料中に出現していると判断できる。また、この場合、血液試料がその他の種のマラリア原虫に感染している可能性が高いと判定できる。そこで、CPU301は、マラリア種・ステージ判定フラグに4をセットし(ステップS513)、マラリア種判定処理を終了し、第1測定データ解析処理に戻す。
【0091】
本実施形態の血液分析装置によるマラリア種判定におけるスキャッタグラムの例を示す。
図12に、シングルリングフォームの集団とマルチリングフォームの集団とが出現したスキャッタグラムの例を示す。
図12に示すように、シングルリングフォームの集団は、前方散乱光強度および蛍光強度が白血球の集団より小さい。また、シングルリングフォームの集団は、蛍光強度がマルチリングフォームの集団より小さい。
図13に、シングルリングフォームの集団と、ガメトサイトの集団が出現したスキャッタグラムの例を示す。
図13に示すように、ガメトサイトの集団は、前方散乱光強度がシングルリングフォームの集団より大きく、且つ、蛍光強度がシングルリングフォームの集団と同程度又は高いものである。
図14に、シングルリングフォームの集団とトロフォゾイト・シゾントの集団とが出現したスキャッタグラムの例を示す。
図14に示すように、トロフォゾイト・シゾントの集団は、蛍光強度がシングルリングフォームの集団より大きい。
【0092】
再び
図7を参照する。上記のようなマラリア種判定処理を終了すると、CPU301は、全赤血球数(ステップS112で計数した赤血球数)に対するマラリア感染赤血球数(領域404に属する血球数)の比率(以下、「マラリア感染赤血球比率」という。)を算出する(ステップS403)。以上で、CPU301は、第1測定データ解析処理を終了し、
図4に示すメインルーチンへ処理をリターンする。
【0093】
次に、CPU301は、鉄欠乏性貧血に関する情報を生成するための第2測定データ解析処理を実行し、血液試料の分析結果を生成して、分析結果をハードディスク304に格納する(ステップS114)。なお、CPU301は、第2測定データ解析処理(ステップS114)を先に実行し、次に第1測定データ解析処理(ステップS113)を実行してもよい。
【0094】
図15を参照し、第2測定データ解析処理について説明する。第2測定データ解析処理を開始すると、まずCPU301は、ステップS601において、鉄欠乏性貧血の可能性を示す鉄欠乏性貧血判定フラグに初期値の0をセットする。鉄欠乏性貧血判定フラグは、RAM303の特定の領域に記憶されている。鉄欠乏性貧血判定フラグに0がセットされている場合、鉄欠乏性貧血の可能性が低いことを示し、鉄欠乏性貧血判定フラグに1がセットされている場合、鉄欠乏性貧血の可能性があることを示している。
【0095】
ステップS602において、CPU301は、赤血球と判定された粒子集団中から、蛍光強度が所定の閾値以上の粒子を、自家蛍光を発する赤血球(以下、「自家蛍光赤血球」という。)として抽出し、自家蛍光赤血球を計数する。以下、自家蛍光赤血球の数を「自家蛍光赤血球数」という。また、閾値以上の蛍光強度が検知されない赤血球を、「自家蛍光を発しない赤血球」という。
【0096】
図16A~
図16Dを用いてステップS602の処理を説明する。CPU301は、
図7に示すステップS401の処理で生成したスキャッタグラムにおける領域403に属する粒子群について、縦軸を前方散乱光強度、横軸を蛍光強度とするスキャッタグラム4000を生成する。CPU301は、前方散乱光強度がノイズ領域490よりも高く、蛍光強度が、自家蛍光赤血球が出現する領域410よりも低い領域400に属する粒子を、自家蛍光を発しない赤血球と特定する。CPU301は、前方散乱光強度が領域400と同程度であり、蛍光強度が領域400より高い領域410に属する粒子を、自家蛍光赤血球と特定する。CPU301は、領域410に属する粒子を計数し、自家蛍光赤血球数を決定する。
【0097】
図16Aは、正常試料、即ち、健常者から採取された血液試料の測定結果であり、領域410にほとんど粒子が出現せず、自家蛍光赤血球とされる粒子はほとんど検出されていない。一方、
図16Bは、鉄欠乏性貧血の患者から採取された血液試料(以下、「鉄欠乏性貧血試料」という。)の測定結果であり、領域410に多数の粒子が出現し、自家蛍光赤血球とされる粒子が多数検出される。
【0098】
図16C及び
図16Dは、サラセミアの患者から採取された血液試料(以下、「サラセミア試料」という。)の測定結果であり、領域410にほとんど粒子が出現せず、自家蛍光赤血球とされる粒子はほとんど検出されない。鉄欠乏性貧血と同じく小球性貧血に分類されるサラセミアは、鉄欠乏性貧血と症状及び全血算(CBC)項目の検査値などが似ているため、サラセミアと区別して鉄欠乏性貧血の可能性を判定することが臨床上好ましい。
【0099】
図15に戻り、CPU301は、ステップS603において、ステップS112(
図4)で計数した赤血球数に対する、ステップS602で取得した自家蛍光赤血球数の比率(以下、「自家蛍光比率」という。)を自家蛍光情報として算出する。なお、ステップS112で計数した赤血球数に代えて、
図16A~
図16Dに示す領域400に属する粒子数及び領域410に属する粒子数の合計を、赤血球数として用いてもよい。
【0100】
CPU301は、ステップS604において、自家蛍光比率が、閾値T7以上であるか否かを判定する。閾値T7は、T7以上であれば、鉄欠乏性貧血の可能性があると判断できる数値である。
【0101】
自家蛍光比率がT7以上である場合(ステップS604においてYES)、CPU301は、ステップS605において、鉄欠乏性貧血判定フラグに1をセットし、第2測定データ解析処理を終了し、メインルーチンに処理を戻す。自家蛍光比率がT7未満である場合(ステップS604においてNO)、鉄欠乏性貧血判定フラグは0のまま、第2測定データ解析処理を終了し、メインルーチンに処理を戻す。
【0102】
再び
図4を参照する。上記のような第2測定データ解析処理を終了すると、CPU301は、分析結果を表示装置310に表示させて(ステップS115)、処理を終了する。
【0103】
図17を参照し、表示装置310に表示される分析結果画面について説明する。分析結果画面500は、試料情報表示領域510と、患者情報表示領域520と、測定結果表示領域530と、参考情報表示領域540と、を有する。測定結果表示領域530は、CBC項目表示領域531と、マラリア項目表示領域532と、自家蛍光項目表示領域533と、を有する。
【0104】
試料情報表示領域510は、分析結果画面500に表示されている分析結果の元となった血液試料の情報を表示する。患者情報表示領域520は、血液試料を採取された被験者の情報を表示する。
【0105】
測定結果表示領域530は、測定データ解析処理によって得られた各項目の測定値を表示する。CBC項目表示領域531は、血球分析における基本的な測定項目の測定値を表示する。CBC項目表示領域531が表示する測定値は、赤血球(RBC)及び白血球(WBC)の測定値を含む。
【0106】
マラリア項目表示領域532は、マラリア感染赤血球に関する測定項目の測定値を表示する。マラリア項目表示領域532に表示される測定値は、ステップS401で計数したマラリア感染赤血球数(M-RBC)及びステップS403で算出したマラリア感染赤血球比率(MR)の測定値を含む。なお、マラリア項目表示領域532への表示は、マラリア感染赤血球数(M-RBC)及びマラリア感染赤血球比率(MR)のいずれか一方であってもよい。
【0107】
自家蛍光項目表示領域533は、自家蛍光に関する測定項目の測定値を表示する。自家蛍光項目表示領域533に表示される測定値は、ステップS602で計数した自家蛍光赤血球数(AF-RBC)及びステップS603で算出した自家蛍光比率(AF)の測定値を含む。なお、自家蛍光項目表示領域533への表示は、自家蛍光赤血球数(AF-RBC)及び自家蛍光比率(AF)のいずれか一方であってもよい。
【0108】
参考情報表示領域540に表示されるメッセージは、マラリア種・ステージ判定フラグと、鉄欠乏性貧血判定フラグとの組み合わせによって決定される。
図18は、両フラグの組み合わせと、表示されるメッセージの関係を示す図である。
図18に示すように、マラリア種・ステージ判定フラグおよび鉄欠乏性貧血判定フラグが0の場合、メッセージは表示されない。マラリア種・ステージ判定フラグが1であり、鉄欠乏性貧血判定フラグが0の場合、熱帯熱マラリア感染の疑いがあることを示すメッセージとして、「P.falciparum?」が表示される。マラリア種・ステージ判定フラグが2であり、鉄欠乏性貧血判定フラグが0の場合、熱帯熱マラリア感染の可能性が高いことを示すメッセージとして、「P.falciparum+」が表示される。マラリア種・ステージ判定フラグが3であり、鉄欠乏性貧血判定フラグが0の場合、熱帯熱マラリア以外の種のマラリア感染の疑いがあることを示すメッセージとして、「O.Malaria?」が表示される。マラリア種・ステージ判定フラグが4であり、鉄欠乏性貧血判定フラグが0の場合、熱帯熱マラリア以外の種のマラリア感染の可能性が高いことを示すメッセージとして、「O.Malaria+」が表示される。マラリア種・ステージ判定フラグが0乃至4であり、鉄欠乏性貧血判定フラグが1の場合、鉄欠乏性貧血の疑いがあることを示すメッセージとして、「Iron deficiency?」が追加で表示される。また、マラリア種・ステージ判定フラグが1乃至4であり、鉄欠乏性貧血判定フラグが1の場合、患者への鉄剤の提供には注意を要することを示すフラグとして、「Malaria & Iron alert」が追加で表示される。このフラグにより、検査者は、この患者への患者への鉄剤の提供の判断を容易にすることが可能となる。
【0109】
以上説明した本実施形態に係る血液分析装置によれば、1台の血液分析装置により、鉄欠乏性貧血患者への鉄剤の提供を判断するための情報が生成されるため、鉄欠乏性貧血患者への鉄剤の提供の判断のための測定を容易にすることが可能である。
【0110】
(実施例)
C57BL/6マウス(メス、6週齢:日本エスエルシー株式会社より購入)3匹に非致死性のげっ歯類マラリア原虫株P.yoelli 17XNL感染赤血球(3×10
5感染赤血球/匹)を腹腔内投与した。その後、4、7、10、14、17、21、28、35、42、及び49日目に、マウス末梢血を採取し、採取したマウス末梢血をPBSで50倍希釈後、多項目自動血球分析装置XN-30(シスメックス株式会社製)を用いて、全赤血球数に対するマラリア感染赤血球数の比率、自家蛍光赤血球数、及び赤血球数を測定した。結果を
図19に示す。多項目自動血球分析装置XN-30は、光学検出装置6と同等の構成を備えている。
【0111】
感染後14日で全赤血球数に対するマラリア感染赤血球数の比率が60%以上になるとともに、自家蛍光赤血球数は50×10
4赤血球/μLとなり、全体の赤血球数の約20%を占めるようになった。感染後0日目と感染後14日目のスキャッタグラムを
図20に示す。感染により、マラリア感染に特徴的な染色蛍光特性及び散乱光特性を示す赤血球が増加し、また鉄欠乏性貧血に特徴的な自家蛍光特性を示す赤血球が増加したことがわかる。
【0112】
また、BZ-X710蛍光顕微鏡(キーエンス)を用いて、マラリア感染マウスと非感染マウスの血液の蛍光画像を観察した。観察条件として、マラリア原虫由来の核酸を検出する目的でBZ-X GFPフィルター(Ex=470/40nm,Em=525/50 nm、ダイクロイックミラー=495nm)を使用し、プロトポルフィリンIX特異的蛍光を検出する目的で5-ALA-405UF1-BLAフィルター(Ex=405/20nm、Em=640/30nm、ダイクロイックミラー=425nm)を使用した。
【0113】
その結果、
図21に示すように、非感染マウスでは、マラリア原虫の核酸由来の染色蛍光もプロトポルフィリンIX由来の自家蛍光も観察されなかったが、マラリア感染マウスでは、マラリア原虫の核酸を染色した色素由来の蛍光及びプロトポルフィリンIX由来の自家蛍光の両方が観察された。この結果より、本実施形態で説明した血液分析装置が備える光学検出装置6により、マラリア感染マウスにおけるマラリア感染赤血球とプロトポルフィリンIX含有赤血球(鉄欠乏赤血球)の存在を検出できることが確認できた。
【符号の説明】
【0114】
1・・・血液分析装置、2・・・測定部、3・・・情報処理部、5A、5B・・・試料調製部、6・・・光学検出装置、8・・・洗浄装置、7・・・洗浄装置、61・・・フローセル、62・・・光源部、63、64・・・検出器、310・・・表示装置