IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人信州大学の特許一覧 ▶ 太陽ホールディングス株式会社の特許一覧

特許7583407繊維材料、硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、および硬化物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】繊維材料、硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、および硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20241107BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20241107BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C08L1/02
C08L63/00 A
C08K5/19
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020213504
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099630
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】野口 徹
(72)【発明者】
【氏名】増田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 夏奈江
(72)【発明者】
【氏名】石川 信広
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-084391(JP,A)
【文献】国際公開第2010/074340(WO,A1)
【文献】特開2018-059120(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056681(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーと、カチオン性界面活性剤と、1分子中に水酸基と環状エーテル基を有する化合物(ただし、前記セルロースナノファイバーおよび前記カチオン性界面活性剤とは異なる)と、を含むセルロースナノファイバーの分散体からなる繊維材料であって、
前記1分子中に水酸基と環状エーテル基を有する化合物は、水酸基当量が200g/eq以下であり、
環状エーテル基を有する樹脂(ただし、前記1分子中に水酸基と環状エーテル基を有する化合物を除く)および/または分子中に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物並びに必要に応じて任意成分と混合して用いられることを特徴とする繊維材料。
【請求項2】
前記1分子中に水酸基と環状エーテル基を有する化合物は、25℃における粘度が10,000 mPa・s以下であることを特徴とする請求項1に記載の繊維材料。
【請求項3】
セルロースナノファイバーとカチオン性界面活性剤と1分子中に水酸基と環状エーテル基を有する化合物(ただし、前記セルロースナノファイバーおよび前記カチオン性界面活性剤とは異なる)とを含むセルロースナノファイバーの分散体からなる繊維材料と、硬化性樹脂と、を含む硬化性樹脂組成物であって、
前記1分子中に水酸基と環状エーテル基を有する化合物は、水酸基当量が200g/eq以下であり、
前記硬化性樹脂として、環状エーテル基を有する樹脂(ただし、前記1分子中に水酸基と環状エーテル基を有する化合物を除く)および/または分子中に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物を含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の硬化性樹脂組成物が、フィルム上に塗布、乾燥されてなる樹脂層を有するドライフィルムであって、
前記ドライフィルムの樹脂層における100℃で1時間加熱後の重量減少が、5質量%未満であることを特徴とするドライフィルム。
【請求項5】
請求項3に記載の硬化性樹脂組成物、または、請求項4に記載のドライフィルムの樹脂層が硬化されてなることを特徴とする硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料、硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、木材を原料とした、セルロースナノファイバーが注目を集めている。セルロースナノファイバーは、高い結晶性等の特徴を有することから、樹脂中に補強材料として混合することで、機械強度や耐熱性を向上することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、エポキシ化合物と、エポキシ化合物の硬化剤としてのフェノール化合物と、所定の繊維径を有するセルロースナノファイバーとを含む硬化性樹脂組成物が開示され、破断伸び特性や難燃性に優れた硬化物を得られることが記載されている。
【0004】
また、このような補強材料としてセルロースナノファイバーを用いる場合には、セルロースナノファイバーを、セルロースナノファイバーと親和性を有する溶媒等に均一に分散させた繊維材料を予め作成し、樹脂と混合することで補強効果が向上することが知られている。
【0005】
例えば、特許文献2では、多価アルコールとカチオン性面活性剤とセルロースナノファイバーを含む繊維材料が開示されている。この繊維材料を樹脂と複合化することで、セルロースナノファイバーの分散性が維持され機械強度や熱物性に優れた複合材料が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-220344
【文献】特開2019-173253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の硬化性樹脂組成物によれば、セルロースナノファイバーと樹脂成分との親和性が高くないため、樹脂中でセルロースナノファイバーの凝集が生じ、補強効果が低下する場合があり、優れた補強効果を安定的に得るためには、さらなる改良が必要である。
【0008】
また、特許文献2に記載の繊維材料を用いた複合材料では、多価アルコールの親水性が高いため、樹脂成分の種類によっては複合化時に再分散工程が必要であった。また、特許文献2では、硬化性樹脂と繊維材料とを複合化した硬化性樹脂組成物については、具体的に評価されておらず、用いる多価アルコールの種類によっては、硬化物中に気泡が生じることや、繊維材料においてセルロースナノファイバーが再凝集するといった新たな問題が生じることを発明者らは新たに知見した。
【0009】
そこで本発明の目的は、特に硬化性樹脂組成物において好適に用いることができる、樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性に優れた繊維材料、および、機械強度や耐熱性に優れ、気泡の生じることのない良好な硬化物を得ることができる硬化性樹脂組成物、およびその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、新たな課題認識に基づいて鋭意検討した結果、繊維材料中の成分として、カチオン性界面活性剤と、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有し、かつ、水酸基当量が200g/eq以下である化合物を採用することで、意外にも樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性に優れた繊維材料が得られ、かかる繊維材料を含む硬化性樹脂組成物は、機械強度や耐熱性に優れ、気泡のない良好な硬化物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
セルロースナノファイバーと、カチオン性界面活性剤と、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物と、を含むセルロースナノファイバーの分散体からなる繊維材料であって、
前記1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物は、水酸基当量が200g/eq以下であることを特徴とする繊維材料である。
【0011】
一実施態様として、前記繊維材料は、100℃で1時間加熱後の重量減少が5質量%未満であることを特徴とする。
【0012】
一実施態様として、前記1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物は、25℃における粘度が10,000mPa・s以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明は、セルロースナノファイバーとカチオン性界面活性剤と1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物とを含むセルロースナノファイバーの分散体からなる繊維材料と、硬化性樹脂と、を含む硬化性樹脂組成物であって、
前記1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物は、水酸基当量が200g/eq以下であることを特徴とする硬化性樹脂組成物である。
【0014】
一実施態様として、前記硬化性樹脂組成物が、フィルム上に塗布、乾燥されてなる樹脂層を有するドライフィルムであって、
前記ドライフィルムが100℃で1時間加熱後の重量減少が5質量%未満であることを特徴とするドライフィルムである。
【0015】
一実施態様として、前記硬化性樹脂組成物、または、前記ドライフィルムの樹脂層が硬化されてなることを特徴とする硬化物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特に硬化性樹脂組成物において好適に用いることができる、セルロースナノファイバーの分散性に優れた繊維材料、および、機械強度や耐熱性に優れ、良好な硬化物を得ることができる硬化性樹脂組成物、およびその硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の繊維材料、硬化性樹脂組成物をより具体的に説明する。
【0018】
<繊維材料>
本発明の繊維材料は、セルロースナノファイバーと、カチオン性界面活性剤と、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物と、を含むセルロースナノファイバーの分散体からなる繊維材料であって、前記1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物の水酸基当量が200eq/g以下であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の繊維材料は、カチオン性界面活性剤に加えて、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有し、かつ、水酸基当量が200eq/g以下である化合物を含むことにより、セルロースナノファイバーの樹脂への分散性に優れた繊維材料を得ることができ、さらに、かかる繊維材料と硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの樹脂成分を複合化した樹脂組成物は、機械強度や耐熱性に優れる。
【0020】
以下、繊維材料の各成分について説明する。
【0021】
[セルロースナノファイバー]
本発明の繊維材料を構成するセルロースナノファイバーは、特に限定されないが、例えば木材などから得られるパルプを原料として、機械解繊あるいは化学解繊処理等を施すことで得られるセルロースナノファイバーを用いることができる。中でも、化学解繊処理を施すことで得られるセルロースナノファイバー(化学解繊セルロースナノファイバー)は、セルロースナノファイバー間の相互作用が強く、耐熱性や機械強度がより優れた組成物が得られるため好ましい。
【0022】
上記化学解繊セルロースナノファイバーは、上記パルプに対して酸化処理を行うことによって、天然セルロースのグルコピラノース環中のC6位の1級水酸基を酸化した後に、高圧ホモジナイザー等を用いて解繊することで得られる。このような化学解繊処理では、セルロースのグルコピラノース環中のC6位の1級水酸基がアニオン性基へと変性され、その結果、アニオン性基の相互反発により、容易に解繊することができる。アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、亜リン酸基、硫酸基などが挙げられ、中でも、機械強度により優れた樹脂組成物を得ることができる点から、リン酸基を有するセルロースナノファイバーを用いることが好ましい。具体的には、前記酸化処理を2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)で行ったTEMPO酸化セルロースナノファイバーや、前記酸化処理をリン酸塩で行った、リン酸エステル化セルロースナノファイバーなどが挙げられる。
【0023】
本発明の繊維材料を構成する、セルロースナノファイバーの繊維形状は、特に限定されないが、数平均繊維径が3~1000nmであることが好ましく、3~500nmであることがより好ましく、3~200nmであることがさらに好ましい。また、数平均繊維長が100nm~2000nmであることが好ましく、150nm~1000nmであることがより好ましく、200~800nmであることがさらに好ましい。セルロースナノファイバーの繊維形状を上記範囲とすることで、かかる繊維材料と硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの樹脂成分を複合化した樹脂組成物が機械強度や耐熱性により優れる。
【0024】
なお、本発明におけるセルロースナノファイバーの数平均繊維径、数平均繊維長は、SEM(Scanning Electron Microscope;走査型電子顕微鏡)やTEM(Transmission Electron Microscope;透過型電子顕微鏡)等で観察して、観察写真の視野内の、セルロースナノファイバーの少なくとも50本以上について測定した算術平均値である。
【0025】
本発明の繊維材料を構成する、セルロースナノファイバーの配合量は、繊維材料の不揮発成分総量に対して、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは1~15質量%である。セルロースナノファイバーの配合量が0.1質量%以上の場合、機械強度により優れた樹脂組成物を得ることができ、20質量%以下の場合、樹脂組成物中におけるセルロースナノファイバーの分散性により優れる。
【0026】
[カチオン性界面活性剤]
本発明の繊維材料を構成する、カチオン性界面活性剤は、繊維材料中に含まれるセルロースナノファイバーの凝集を抑制する。このようなカチオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、1級~3級のアミン塩及び4級アンモニウム塩であることが好ましく、4級アンモニウム塩であることがより好ましい。また、カチオン性界面活性剤は、炭素数が1~40のアルキル基を有することが好ましく、炭素数2~20のアルキル基を有することがより好ましく、炭素数8~18のアルキル基を有することがさらに好ましい。カチオン性界面活性剤は、アルキル基の炭素数が増えるにしたがって、セルロースナノファイバーの凝集を抑制する効果がより優れる。
【0027】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム等のトリメチルアンモニウム塩;塩化オクチルピリジニウム、塩化デシルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化テトラデシルピリジニウム、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化オクタデシルピリジニウム等のピリジニウム塩;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンジルトリアルキルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化トリメチルステアリルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニム等が挙げられ、これらのカチオン性界面活性剤を2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0028】
カチオン性界面活性剤の配合量は、繊維材料中のセルロースナノファイバーの配合量に対して、好ましくは10~200質量%、より好ましくは20~100質量%である。カチオン性界面活性剤の配合量が10質量%以上であれば、セルロースナノファイバーの樹脂への分散性に優れた繊維材料を得ることができ、200質量%以下であれば、繊維材料の製造時の加工性が良好となる。
【0029】
[1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物]
本発明の繊維材料を構成する、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物は、水酸基当量が200g/eq以下であることで、セルロースナノファイバー間の水素結合による凝集を抑制し、セルロースナノファイバーの繊維材料中での優れた分散性を維持する。本発明の繊維材料では、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物を、カチオン性界面活性剤と共に配合することで、かかる繊維材料と樹脂を複合化した際に、セルロースナノファイバーの樹脂組成物中での再凝集を抑制することができる。1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物の水酸基当量は、好ましくは80~200g/eq、より好ましくは100~195g/eq、さらに好ましくは120~190g/eqである。水酸基当量が上記範囲であることで、繊維材料および樹脂組成物中でのセルロースナノファイバーの分散性がより安定化する。
【0030】
また、前記1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物は、水酸基以外の反応性基を有することで、樹脂成分との相溶性に優れた繊維材料を得ることができ、セルロースナノファイバーの分散性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0031】
本発明において、反応性基とは、化学反応によって他の部位と反応することができる官能基であり、例えば、反応性基同士が互いに反応し、架橋構造を形成したり、あるいは、後述する硬化性樹脂が有する官能基との間で反応し、架橋構造を形成したりすることができる官能基を意味する。このような反応性基を有することで、かかる繊維材料を用いた硬化性樹脂組成物を硬化する際の気泡の発生を抑制することができる。具体的には、特に限定されないが、例えば、環状エーテル基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、エステル基、ビニル基、メタクリル基、アクリル基などが挙げられ、いずれか1つ以上の反応性基を有する。これらの反応性基の中でも、反応性や樹脂成分との相溶性に優れた繊維材料、耐熱性や機械強度により優れた硬化物が得られる点から環状エーテル基を有することがより好ましい。
【0032】
本発明に用いられる、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物の市販品として、例えば、ナガセケムテックス(株)製のデナコールEX521、デナコールEX512、デナコールEX614、デナコールEX614B、デナコールEX612、デナコールEX622などが挙げられる。
【0033】
本発明の繊維材料を構成する、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物の粘度は、繊維材料の製造時の加工性および硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの樹脂成分と複合化した際に、セルロースナノファイバーの分散性を維持する観点から、25℃における粘度が10,000mPa・s以下であることが好ましく、9000mPa・s以下であることがより好ましく、8000mPa・s以下であることがさらに好ましい。
【0034】
なお、本発明において、粘度は、JIS Z8803:2011の10 円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法に準じ、25℃、100rpm、30秒値とし、コーン・ロータとして1°34’×R24を用いたコーンプレート型粘度計(TVE-33H、東機産業社製)にて測定した値である。
【0035】
本発明の繊維材料を構成する、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物の配合量は、繊維材料中のセルロースナノファイバーの配合量に対して、好ましくは100~5000質量%、より好ましくは200~4000質量%、さらに好ましくは300~3000質量%である。1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物の配合量を上記範囲とすることで、繊維材料および樹脂組成物中でのセルロースナノファイバーの分散性がより安定化し、かかる繊維材料を用いた樹脂組成物及びその硬化物は耐熱性に優れる。
【0036】
[その他の成分]
本発明の繊維材料には、セルロースナノファイバー、カチオン性界面活性剤、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物の他に、発明の効果を損なわない範囲で、後述する硬化性樹脂以外の成分を含むことができ、例えば、ポリビニルアルコールやポリアクリル酸などの熱可塑性樹脂や、シラン系やチタネート系、アルミネート系等のカップリング剤、難燃剤や揺変剤などの添加剤成分、シリカや硫酸バリウム、酸化チタンなどの無機フィラー等があげられる。
【0037】
<繊維材料の製造方法>
本発明の繊維材料の製造方法は、セルロースナノファイバー溶媒分散液と、カチオン性界面活性剤と、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物とを混合してセルロースナノファイバー分散液を得る分散工程と、前記セルロースナノファイバー分散液から水や有機溶媒等の溶媒を除去してセルロースナノファイバー分散体からなる繊維材料を得る乾燥工程と、を含む。
【0038】
[分散工程]
分散工程は、水や有機溶媒中にセルロースナノファイバーが分散したセルロースナノファイバー溶媒分散液と、カチオン性界面活性剤と、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物と、を混合してセルロースナノファイバー分散液を得る工程である。
【0039】
分散工程では、セルロースナノファイバー溶媒分散液に、所定量のカチオン性界面活性剤と、所定量の1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物とを加え、公知慣用の撹拌手段で混合することにより、セルロースナノファイバー分散液を得ることができる。撹拌手段としては、特に限定されないが、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ロールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。なお、撹拌時の粘度調整を目的として、本発明の効果を阻害しない範囲で、水や有機溶媒を適宜追加しても良い。
【0040】
[乾燥工程]
乾燥工程は、前記分散工程で得られたセルロースナノファイバー分散液から、水や有機溶媒を除去してセルロースナノファイバー分散体からなる繊維材料を得る工程である。セルロースナノファイバー分散液から水や有機溶媒を除去する方法は、公知慣用の方法を用いることができ、例えば、加熱によって乾燥する方法を用いることができる。
【0041】
具体的には、例えば、セルロースナノファイバー分散液をポリエチレン容器等に流し込み、その容器を送風乾燥機に入れて30~100℃で加熱し水や有機溶媒を蒸発させることで行う。
【0042】
乾燥工程は、セルロースナノファイバー分散液から水や前記有機溶媒を実質的に除去することが好ましい。なお、本発明において実質的に除去するとは、得られた繊維材料において、100℃で10分間加熱処理した後の重量減少が5重量%未満であることである。
【0043】
<硬化性樹脂組成物>
本発明の硬化性樹脂組成物は、セルロースナノファイバーとカチオン性界面活性剤と1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物とを含むセルロースナノファイバーの分散体からなる繊維材料と、硬化性樹脂と、を含む硬化性樹脂組成物であって、前記1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物の水酸基当量が200g/eq以下であることを特徴とするものである。
【0044】
本発明の硬化性樹脂組成物は、カチオン性界面活性剤と1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物とを用いてあらかじめ処理したセルロースナノファイバー分散体からなる繊維材料と、硬化性樹脂と、必要に応じて任意成分を混合することにより得ることができる。
このように、本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明特有のセルロースナノファイバー分散体からなる繊維材料を用いているので、カチオン性界面活性剤であらかじめ処理したセルロースナノファイバー分散体からなる繊維材料と、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物と、を硬化性樹脂と混合した硬化性樹脂組成物、あるいは、上記3成分を個別に硬化性樹脂と混合した硬化性樹脂組成物、などと比較して、硬化性樹脂組成物中でのセルロースナノファイバーの分散性に優れ、さらに、機械強度や耐熱性に優れた硬化物を得ることができる。
【0045】
[繊維材料]
本発明の硬化性樹脂組成物を構成する繊維材料は、前述したように、カチオン性界面活性剤を含むほかに、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物を含む。この1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物が水酸基以外の反応性基を有することで、当該反応性基が、反応性基間で互いに、あるいは、後述する硬化性樹脂が有する官能基との間で、反応することができ、硬化性樹脂組成物の硬化時の気泡の発生を抑制することができる。
【0046】
本発明の硬化性樹脂組成物を構成する繊維材料としては、前述したものを用いることができる。
【0047】
本発明の硬化性樹脂組成物を構成する繊維材料の配合量は、特に限定されないが、硬化性樹脂組成物中の硬化性樹脂の配合量に対して、好ましくは10質量%~200質量%、より好ましくは20~150質量%、さらに好ましくは30~100質量%である。
【0048】
[硬化性樹脂]
本発明の硬化性樹脂組成物を構成する硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、光硬化性熱硬化性樹脂などが挙げられ、前記繊維材料を構成する1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物を除いた、公知慣用の樹脂を用いることができる。
【0049】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、熱による硬化反応が可能な官能基を有する樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、環状エーテル基を有する樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、アミノ樹脂、活性エステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、ノルボルネン系樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリアゾメチン樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられ、中でも、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物との架橋反応性が得られることから、環状エーテル基を有する樹脂が好ましく用いられる。これらの熱硬化性樹脂は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
環状エーテル基を有する樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、グリシジルメタアクリレート共重合系エポキシ樹脂、シクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートとの共重合エポキシ樹脂、エポキシ変性のポリブタジエンゴム誘導体、CTBN変性エポキシ樹脂、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、フェニル-1,3-ジグリシジルエーテル、ビフェニル-4,4’-ジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコール又はプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリス(2,3-エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどのエポキシ樹脂などが挙げられる。これらの環状エーテル基を有する樹脂は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
光硬化性樹脂としては、特に限定されず、活性エネルギー線照射に起因して硬化反応が可能な反応性基を有する公知慣用の樹脂を用いることができ、硬化反応性はラジカル重合性でもカチオン重合性でも良い。光硬化性樹脂としては、例えば、分子中に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物、脂環式エポキシ化合物、オキセタン化合物などが挙げられ、分子中に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物が好ましく用いられる。
【0052】
光硬化性熱硬化性樹脂組成物としては、特に限定されず、光硬化性と熱硬化性を有するものであれば用いることができ、前述した光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂を含む混合物であってもよい。
【0053】
これらの硬化性樹脂の中でも、繊維材料との複合化が容易となることから、特に、25℃において液状である硬化性樹脂を用いることが好ましく、25℃において液状である環状エーテル基を有する樹脂を用いることがより好ましい。
【0054】
本発明に用いられる硬化性樹脂組成物は、その用途に応じて、前記繊維材料、硬化性樹脂の他に、慣用の他の成分を配合することが可能である。
【0055】
慣用の他の成分としては、例えば、熱可塑性樹脂、硬化触媒、無機フィラー、有機溶媒、カップリング剤、光重合開始剤、消泡剤・レベリング剤、揺変剤、難燃剤などが挙げられ、公知慣用の物を用いることができる。
【0056】
熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル、変性アクリル、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、変性ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸等の汎用プラスチック類、ポリアミド、熱可塑性ポリウレタン、ポリアセタール、ポリカーボネート、超高分子量ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステルイミド、熱可塑性ポリイミド等のエンジニアリングプラスチック類、オレフィン系、スチレン系、ポリエステル系、ウレタン系、アミド系、塩化ビニル系、水添系等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0057】
硬化触媒としては、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、4-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-(2-シアノエチル)-2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体;ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4-(ジメチルアミノ)-N,N-ジメチルベンジルアミン、4-メトキシ-N,N-ジメチルベンジルアミン、4-メチル-N,N-ジメチルベンジルアミン等のアミン化合物、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等のヒドラジン化合物;トリフェニルホスフィン等のリン化合物、ジメチルアミノピリジンなどが挙げられる。また、市販品としては、例えば、2MZ-A、2MZ-OK、2PHZ、2P4BHZ、2P4MHZ(四国化成工業(株)製)、U-CAT3503N、U-CAT3502T、DBU、DBN、U-CATSA102、U-CAT5002(サンアプロ(株)製)などが挙げられ、単独で、または2種以上を混合して使用してもかまわない。また同様に、グアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、メラミン、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-S-トリアジン、2-ビニル-2,4-ジアミノ-S-トリアジン、2-ビニル-4,6-ジアミノ-S-トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-S-トリアジン・イソシアヌル酸付加物等のS-トリアジン誘導体を用いることもできる。
【0058】
無機フィラーとしては、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、無定形シリカ、結晶性シリカ、溶融シリカ、球状シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。
【0059】
有機溶媒は、硬化性樹脂組成物の粘度を調整し加工性を向上させるためのものであり、後述するドライフィルム化工程で除去できる程度に、有機溶媒を適宜選択して用いることができる。有機溶剤としては 、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、トルエンなどの芳香族炭化水素類、酢酸エチルなどのエステル類、エタノール、プロパノールなどのアルコール類などが挙げられる。
【0060】
カップリング剤としては、例えば、シラン系やチタネート系、アルミネート系等のカップリング剤が挙げられ、アルコキシ基としてメトキシ基、エトキシ基、アセチル等を有し、反応性官能基としてビニル、メタクリル、アクリル、エポキシ、環状エポキシ、メルカプト、アミノ、ジアミノ、酸無水物、ウレイド、スルフィド、イソシアネート等を有するものを用いることができる。
【0061】
光重合開始剤は、光ラジカル重合開始剤でも光カチオン重合開始剤でも良い。
【0062】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルフォリニル)フェニル]-1-ブタノン等のアミノアルキルフェノン類;2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-ターシャリーブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;又はキサントン類;(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-ペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、エチル-2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィネイト等のフォスフィンオキサイド類;各種パーオキサイド類、チタノセン系開始剤などが挙げられる。これらは、N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ペンチル-4-ジメチルアミノベンゾエート、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類のような光増感剤等と併用してもよい。
【0063】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、ブロモニウム塩、クロロニウム塩、スルホニウム塩、セレノニウム塩、ピリリウム塩、チアピリリウム塩、ピリジニウム塩等のオニウム塩;トリス(トリハロメチル)-s-トリアジン及びその誘導体等のハロゲン化化合物;スルホン酸の2-ニトロベンジルエステル;イミノスルホナート;1-オキソ-2-ジアゾナフトキノン-4-スルホナート誘導体;N-ヒドロキシイミド=スルホナート;トリ(メタンスルホニルオキシ)ベンゼン誘導体;ビススルホニルジアゾメタン類;スルホニルカルボニルアルカン類;スルホニルカルボニルジアゾメタン類;ジスルホン化合物等が挙げられる。
【0064】
これらの光重合開始剤は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
以上説明したような本発明の硬化性樹脂組成物は、アルカリ水溶液を用いる現像型の硬化性樹脂組成物として用いる場合には、硬化性樹脂としてカルボキシル基含有樹脂を含むことが好ましい。
【0066】
カルボキシル基含有樹脂は、特に限定されず、感光性の不飽和二重結合を1個以上有する感光性のカルボキシル基含有樹脂、および、感光性の不飽和二重結合を有さないカルボキシル基含有樹脂のいずれも用いることができる。特に、以下に列挙する樹脂を好適に使用することができる。
(1)不飽和カルボン酸と不飽和二重結合を有する化合物の共重合によって得られるカルボキシル基含有樹脂、及びそれを変性して分子量や酸価を調整したカルボキシル基含有樹脂。
(2)カルボキシル基含有(メタ)アクリル系共重合樹脂に1分子中にオキシラン環とエチレン性不飽和基を有する化合物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂。
(3)1分子中にそれぞれ1個のエポキシ基と不飽和二重結合を有する化合物と不飽和二重結合を有する化合物との共重合体に不飽和モノカルボン酸を反応させ、この反応により生成した第2級の水酸基に飽和または不飽和多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂。
(4)多官能エポキシ化合物と、1分子中に2個以上の水酸基とエポキシ基と反応する水酸基以外の1個の反応基を有する化合物と、不飽和基含有モノカルボン酸とを反応させ、得られた反応生成物に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂。
(5)フェノール性水酸基を有する樹脂とアルキレンオキシドまたは環状カーボネートとの反応生成物に不飽和基含有モノカルボン酸を反応させ、得られた反応生成物に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂。
(6)多官能エポキシ化合物と、1分子中に少なくとも1個のアルコール性水酸基と1個のフェノール性水酸基を有する化合物と、不飽和基含有モノカルボン酸とを反応させ、得られた反応生成物のアルコール性水酸基に対して多塩基酸無水物の無水物基を反応させて得られるカルボキシル基含有感光性樹脂。
【0067】
<硬化性樹脂組成物の製造方法>
本発明に係る硬化性樹脂組成物の製造方法は、前述した繊維材料の製造方法にて得られた繊維材料と硬化性樹脂を混合して硬化性樹脂組成物を得る複合化工程と、を含む。
【0068】
[複合化工程]
複合化工程は、前記乾燥工程で得られた繊維材料と、硬化性樹脂と、を混合して硬化性樹脂組成物を得る工程である。混合方法としては、特に限定されず、公知慣用の混合手段で混合することができる。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ロールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。
【0069】
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化物とした際に優れた機械強度や耐熱性を有しているため、自動車や航空機のボディ等の構造材や、プリント配線板等の絶縁層等として好適に用いることができる。
【0070】
本発明の硬化性樹脂組成物をプリント配線板等の絶縁材料として用いる場合には、ドライフィルム化して用いても、1液性または2液性以上の液状にて用いても良い。中でも、加工性の観点からドライフィルムとして用いることが好ましい。
【0071】
<ドライフィルム>
本発明のドライフィルムは、前記硬化性樹脂組成物からなる樹脂層を備えるドライフィルムであり、前記樹脂層は100℃で1時間加熱後の重量減少が5質量%未満であることを特徴とする。上記重量減少が5質量%未満であることで、硬化時に気泡が発生し、硬化膜に欠陥が生じることを防ぐことができる。
【0072】
このドライフィルムを製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、キャリアフィルム上に本発明の硬化性樹脂組成物からなる樹脂層を形成した後、樹脂層の上にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルムや表面離形処理フィルムなどの離形性を有するフィルムを積層し、熱プレスや真空プレス等によって均一な膜厚とした後に前記離形フィルムを剥離することで、キャリアフィルム上に硬化性樹脂組成物からなる樹脂層をフィルム形状とする方法が挙げられる。また、本発明の硬化性樹脂組成物を上記有機溶剤で希釈して適切な粘度に調整した上で、キャリアフィルム上に、コンマコーター、ブレードコーター、リップコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、リバースコーター、トランスファロールコーター、グラビアコーター、スプレーコーター等により、均一な膜厚に塗布し、その後、40~130℃の温度で1~30分間乾燥することで、樹脂層を形成する方法が挙げられる。本発明のドライフィルムの前記樹脂層の膜厚については特に制限はないが、一般に、乾燥後の膜厚で、3~150μm、好ましくは5~100μmの範囲で適宜選択される。
【0073】
キャリアフィルムとしては、プラスチックフィルムが用いられ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム等を用いることができる。キャリアフィルムの厚さについては特に制限はないが、一般に、10~150μmの範囲で適宜選択される。より好ましくは15~130μmの範囲である。
【0074】
キャリアフィルム上に本発明の硬化性樹脂組成物からなる樹脂層を形成した後、樹脂層の表面に塵が付着することを防ぐ等の目的で、さらに、樹脂層の表面に、PTFE製フィルムや表面離形処理フィルムなどの離形性を有するフィルムを積層することが好ましい。剥離可能なカバーフィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルムやポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、表面処理した紙等を用いることができる。カバーフィルムとしては、カバーフィルムを剥離するときに、樹脂層との間の接着力が、樹脂層とキャリアフィルムとの接着力よりも小さいものが好ましい。
【0075】
<硬化物>
本発明の硬化物は、前記硬化性樹脂組成物が熱硬化性を有する場合には、硬化性樹脂組成物を熱風循環式乾燥炉や熱プレス機等を用いて、100~180℃の温度に加熱して熱硬化させることにより形成することができる。
【0076】
本発明の硬化物は、前記樹脂組成物が光硬化性を有する場合には、硬化性樹脂組成物に露光装置等で活性エネルギー線を照射して硬化物とすることができる。露光装置の光源は高圧水銀灯ランプ、超高圧水銀灯ランプ、メタルハライドランプ、水銀ショートアークランプ等を用い、波長が350~450nmの活性エネルギー線を、積算光量として10~1000mJ/cm、好ましくは20~800mJ/cmの範囲で照射し、硬化させることができる。
【実施例
【0077】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。なお、以下の表中の配合量は、特に記載がない限りはすべて質量部を表す。
【0078】
<繊維材料>
(実施例1)
TEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)水分散液(固形分濃度1%)500gに対して、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物として、デナコールEX521(ナガセケムテックス(株)製)50g(セルロースナノファイバー固形分量の10倍)を加え、ジューサーミキサー(ツインバード工業(株)製 KC-4850R)を使用して15秒撹拌して混合した。
次に、カチオン性界面活性剤として、塩化トリメチルドデシルアンモニウム2.5g(セルロースナノファイバー固形分量の0.5倍)の水溶液を加え、ジューサーミキサーを用いて15秒撹拌して混合した。
【0079】
このようにして得られたセルロースナノファイバーの分散体を含む水分散液をポリエチレン製のバットに流し込み、精密恒温槽(ヤマト科学(株)製 DF612)を用いて40℃で24時間乾燥してセルロースナノファイバーの分散体からなる繊維材料1を作製した。
【0080】
(実施例2~8)
セルロースナノファイバー、カチオン性界面活性剤、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物として表1に記載の材料、配合量とした以外は、繊維材料1と同様にして、繊維材料2~8を作製した。
(比較例1、2)
セルロースナノファイバー、カチオン性界面活性剤、1分子中に水酸基と水酸基以外の反応性基を有する化合物、有機溶剤として表1に記載の材料、配合量とした以外は、繊維材料1と同様にして、繊維材料9、10を作製した
【0081】
【表1】
※1 ナガセケムテックス(株)製、水酸基当量161~189g/eq、粘度4400mPa・s
※2 ナガセケムテックス(株)製、水酸基当量180~190g/eq、粘度1300mPa・s
※3 ナガセケムテックス(株)製、水酸基当量110~115g/eq、粘度5000mPa・s
※4 ナガセケムテックス(株)製、水酸基当量110~115g/eq、粘度11900mPa・s
※5 ナガセケムテックス(株)製、水酸基当量350~360g/eq、粘度130mPa・s
※6 TEMPO酸化セルロースナノファイバー水分散液(表1中の数値は固形分(CNF)の量を表す)
※7 リン酸エステル化セルロースナノファイバー水分散液(表1中の数値は固形分(CNF)の量を表す)
【0082】
<硬化性樹脂組成物>
(実施例9~19、比較例3、4)
繊維材料1~10、熱硬化性樹脂、硬化触媒を、表2に記載の成分、組成にて配合、混合した後、3本ロールミル((株)永瀬スクリーン印刷研究所製 EXAKT 50I)を用いて4回分散処理を行い、実施例9~19、および、比較例3、4の熱硬化性樹脂組成物を作製した。
【0083】
(実施例20~22、比較例5、6)
繊維材料1、10、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、硬化触媒、光重合開始剤を、表3に記載の成分、組成にて配合、混合した後、3本ロールミル((株)永瀬スクリーン印刷研究所製 EXAKT 50I)を用いて4回分散処理を行い、実施例20、21、および、比較例5の光硬化性樹脂組成物、ならびに実施例22、比較例6の光硬化性熱硬化性樹脂組成物を作製した。
【0084】
<ドライフィルムの作製>
実施例9~22、比較例3~6にて作製した各硬化性樹脂組成物をPET製のキャリアフィルム上にアプリケータを用いて塗布した後に、PTFE製の離形フィルムを硬化性樹脂組成物上に積層した。次に、真空ラミネーターを用いて60℃、圧力0.5MPaの条件で60秒間熱プレスを行い、前記硬化性樹脂組成物をフィルム形状に形成した。次いで、離形フィルムを剥離し、各樹脂組成物層を有するドライフィルムを得た。樹脂組成物層に溶媒を含む場合は、離形フィルムを剥離後に、精密恒温槽にて、60℃で10分加熱して乾燥し各樹脂組成物層を有するドライフィルムを作製した。
【0085】
<硬化膜評価用サンプルの作製>
上記実施例9~19、比較例3、4の熱硬化性樹脂組成物については、作製した各ドライフィルムを、銅箔の光沢面上に真空ラミネーターを用いて60℃、圧力0.5MPaの条件で60秒間圧着した後、キャリアフィルムを剥離した。次いで、精密恒温槽にて、160℃で30分加熱硬化した後、銅箔を剥離して、硬化膜評価用のサンプルを作製した。
【0086】
上記実施例20、21、比較例5の光硬化性樹脂組成物については、作製した各ドライフィルムを、銅箔の光沢面上に真空ラミネーターを用いて60℃、圧力0.5MPaの条件で60秒間圧着した後、キャリアフィルムを剥離した。次いで、メタルハライドランプにて、波長350nmの積算光量が2J/cmとなるよう光照射し、硬化膜評価用サンプルを作製した。
【0087】
上記実施例22、比較例6の光硬化性熱硬化性樹脂組成物については、作製した各ドライフィルムを、銅箔の光沢面上に真空ラミネーターを用いて60℃、圧力0.5MPaの条件で60秒間圧着した後、キャリアフィルムを剥離した。次に、メタルハイドランプにより、700mJ/cmの積算光量で露光した。続いて150℃で60分間、精密恒温槽で硬化した後に、銅箔から剥離して、硬化膜評価用のサンプルを得た。
【0088】
<硬化膜の製膜性評価>
上述にて得られた硬化膜評価用の各サンプルについて、以下の基準にて製膜性を評価した。
○:欠陥のない硬化膜を得た。
×:硬化膜に気泡や孔などの欠陥が存在した。
【0089】
<セルロースナノファイバー分散性の評価>
上述にて得られた硬化膜評価用の各サンプルについて、目視および光学顕微鏡でセルロースナノファイバーの凝集物の有無を観察し、以下の基準にてセルロースナノファイバー分散性を評価した。
◎:目視および光学顕微鏡いずれの観察方法においても凝集物が確認できない。
○:目視では凝集物が確認できないが、光学顕微鏡では凝集物が確認できる。
×:目視で凝集物が確認できる。
【0090】
<ガラス転移温度・貯蔵弾性率の測定>
上述にて得られた硬化膜評価用の各サンプルを5mm幅×15mm長にカットし試験片とした。この試験片をティー・エイ・インスツルメント(株)製DMA(Dynamic Mechanical Analysis)RSA-G2を用いて、チャック間距離10mm、荷重0.5N、周波数1Hzの条件で―50~200℃まで5℃/分で昇温した。
【0091】
測定によって得られたtanδの値を縦軸に、温度を横軸としたグラフを作成し、tanδのピーク温度をガラス転移温度とした。また、120℃における貯蔵弾性率の値を貯蔵弾性率とした。
【0092】
以上の評価結果を表2、表3に示す。
表2、表3に示す結果から明らかなように、本発明の繊維材料は、セルロースナノファイバーの分散性に優れ、かかる繊維材料を含む硬化性樹脂組成物によれば、機械強度や耐熱性に優れた硬化物を得ることができると確認された。
【0093】
【表2】
※8 繊維材料1~8はそれぞれ実施例1~8の繊維材料に対応、繊維材料9は比較例1に対応、繊維材料10は比較例2の繊維材料に対応
※9 熱硬化性樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製、ビスフェノール型液状エポキシ樹脂
※10 熱硬化性樹脂、日本化薬(株)製、ビフェニル型固形エポキシ樹脂、シクロヘキサノンで30wt%に希釈して使用 (表2中の配合量は固形分量を表す)
※11 四国化成工業(株)製、2-エチル4-メチルイミダゾール
【0094】
【表3】
※12 熱硬化性樹脂、日産化学(株)製、トリアジン骨格含有エポキシ樹脂
※13 光硬化性樹脂、ダイセル・オルネクス(株)製、液状エポキシアクリレート
※14 光硬化性樹脂、ダイセル・オルネクス(株)製、エポキシアクリレート、シクロヘキサノンで30wt%に希釈して使用 (表3中の配合量は固形分量を表す)
※15 光硬化性樹脂
※16 下記の合成したカルボキシル基含有樹脂 (表3中の配合量は固形分量を表す)
※17 IGM Resins社製、Omnirad 907
【0095】
[カルボキシル基含有樹脂※16の合成]
温度計、攪拌機、滴下ロートおよび還流冷却器を備えたフラスコに、溶媒としてのジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、および、触媒としてのアゾビスイソブチロニトリルを入れ、窒素雰囲気下、これを80℃に加熱し、メタアクリル酸とメチルメタアクリレートとを0.40:0.60のモル比で混合したモノマーを約2時間かけて滴下した。さらに、これを1時間攪拌した後、温度を115℃にまで上げ、失活させて樹脂溶液を得た。
【0096】
この樹脂溶液を冷却後、これを触媒として臭化テトラブチルアンモニウムを用い、95~105℃で30時間の条件で、ブチルグリシジルエーテルを0.40のモル比で、得られた樹脂のカルボキシル基の等量と付加反応させ、冷却した。
【0097】
さらに、上記で得られた樹脂のOH基に対して、95~105℃で8時間の条件で、無水テトラヒドロフタル酸を0.26のモル比で付加反応させた。これを、冷却後に取り出して、固形分の酸価が78.1mgKOH/g、質量平均分子量が35,000のカルボキシル基含有樹脂を50質量%(不揮発分)含む溶液を得た。