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  • 特許-運動支援装置及び運動支援方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】運動支援装置及び運動支援方法
(51)【国際特許分類】
   A61H 1/02 20060101AFI20241107BHJP
   A63B 69/00 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
A61H1/02 G
A63B69/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021028203
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022129514
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2024-01-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代人工知能・ロボット中核技術開発/次世代人工知能技術の日米共同研究開発/健康長寿を楽しむスマートソサエティ・主体性のあるスキルアップを促進するAIスマートコーチング技術の開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】栗田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】平田 和彦
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-047193(JP,A)
【文献】特開2018-029728(JP,A)
【文献】特開2015-146908(JP,A)
【文献】国際公開第2007/043308(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/02
A63B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の身体を動作させるための生体情報を取得し、取得された前記生体情報から前記対象者の身体の動作量を表す相当動作量を算出する制御部と、
前記相当動作量に基づいて算出された視覚提示動作量の運動状態を映像として前記対象者に提示する視覚情報提示部と、
前記相当動作量に基づいて算出され、前記対象者の身体に作用する反発力又は前記対象者の動作を補助する力として表される力覚の大きさである力覚提示動作量の力覚を前記対象者に提示する力覚情報提示部と、を備え、
前記制御部は、前記視覚提示動作量を、前記相当動作量に対して増幅又は減少させ、前記視覚情報提示部は、前記制御部で増幅又は減少された前記視覚提示動作量に基づいて前記映像を前記対象者に提示し、及び/又は、
前記制御部は、前記力覚提示動作量を、前記相当動作量に対応する前記反発力又は前記補助する力として表される力覚の大きさに対して増幅又は減少させ、前記力覚情報提示部は、前記制御部で増幅又は減少された前記力覚提示動作量に基づいて前記力覚を前記対象者に提示する、
ことを特徴とする運動支援装置。
【請求項2】
前記制御部は、
設定された目標動作量と、前記相当動作量との差から運動の習熟度を算出し、
前記習熟度に基づいて、前記視覚提示動作量及び前記力覚提示動作量の少なくともいずれかを増幅又は減少させる
ことを特徴とする請求項1に記載の運動支援装置。
【請求項3】
前記視覚情報提示部は、
ヘッドマウントディスプレイである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の運動支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動支援装置及び運動支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脳卒中などにより脳の運動関連領域に損傷を受けることにより、身体の運動制御が困難となった患者に対するリハビリテーション装置が開発されている。例えば、特許文献1のリハビリテーション支援装置では、リハビリテーションを実施する者(患者)の生体情報を検出し、患者に映像を提示するとともに、身体駆動装置で患者の身体を動作させることにより、リハビリテーションの効果を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-20835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、視覚情報として提示される動作量と、実際の患者の身体の動作量とを同期させるように、装置で身体を駆動させる。しかしながら、神経経路の再構築を目的として反復動作を行うニューロリハビリテーション等のリハビリテーションでは、リハビリテーションを行う対象者の動作範囲、負荷等を徐々に拡大していくので、長期間にわたる反復動作の訓練が求められる。ここで、駆動装置による強制力でなく、対象者自身の力による動作が、設定された目標値(動作量)に達しない場合、対象者が達成感を感じることは難しく、対象者は身体的な負担とともに、大きな精神的負担を負うこととなる。したがって、対象者のモチベーションが低下して、リハビリテーションの効果は低下する。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、対象者の負担を軽減し、動作習得の効果を高めることができる運動支援装置及び運動支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る運動支援装置は、
対象者の身体を動作させるための生体情報を取得し、取得された前記生体情報から前記対象者の身体の動作量を表す相当動作量を算出する制御部と、
前記相当動作量に基づいて算出された視覚提示動作量の運動状態を映像として前記対象者に提示する視覚情報提示部と、
前記相当動作量に基づいて算出された力覚提示動作量の運動状態の力覚を前記対象者に提示する力覚情報提示部と、を備え、
前記制御部は、
前記視覚提示動作量及び前記力覚提示動作量の少なくともいずれかを、前記相当動作量に対して増幅又は減少させた動作量とする。
【0007】
また、前記視覚提示動作量は、
前記力覚提示動作量より大きい、
こととしてもよい。
【0008】
また、前記制御部は、
設定された目標動作量と、前記相当動作量との差から運動の習熟度を算出し、
前記習熟度に基づいて、前記視覚提示動作量又は前記力覚提示動作量と前記相当動作量との差を調整する、
こととしてもよい。
【0009】
また、前記視覚情報提示部は、
ヘッドマウントディスプレイである、
こととしてもよい。
【0010】
また、本発明の第2の観点に係る運動支援方法は、
対象者の身体を動作させるための生体情報を取得し、
前記生体情報から前記対象者の身体の動作量を表す相当動作量を算出し、
前記相当動作量に基づいて算出された視覚提示動作量の運動状態を映像として前記対象者に提示するとともに、
前記相当動作量に基づいて算出された力覚提示動作量の運動状態の力覚を前記対象者に提示し、
前記視覚提示動作量及び前記力覚提示動作量の少なくともいずれかは、前記相当動作量に対して増幅又は減少させた動作量である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の運動支援装置及び運動支援方法によれば、視覚として提示される動作量及び力覚として提示される動作量の少なくともいずれかと、生体情報に基づく相当動作量との間に差を設けて対象者に提示するので、対象者が達成感を得易く、対象者の負担感を低減することが可能となり、運動の習得を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る運動支援装置のブロック図である。
図2】実施の形態に係る運動支援の流れを示すフローチャートである。
図3】力覚情報提示部としてのパワーアシストグローブを示す図であり、(A)は外観図、(B)は部分断面図である。
図4】視覚情報の例を示す図であり、(A)は対象者の腕部を示す図、(B)は視覚提示される映像情報を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(運動支援装置の構成)
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る運動支援装置1について説明する。
【0014】
本実施の形態では、脳卒中などにより身体に麻痺症状を生じて運動制御能力が低下した対象者の、運動制御能力の回復を目的とするニューロリハビリテーションに用いられる運動支援装置1を例として説明する。
【0015】
図1のブロック図に示すように、本実施の形態に係る運動支援装置1は、リハビリテーションを実施する対象者の身体の動作意図を検出するセンサ11、対象者に身体の動作状態の視覚情報を提示する視覚情報提示部12、対象者に力覚を提示する力覚情報提示部13、運動支援装置1の動作を制御する制御ユニット20を備える。
【0016】
センサ11は、対象者の身体の動作意図としての生体情報を検出するものであり、例えば、対象者の身体に取り付けられ、対象者が身体を動かそうとした時に生じる筋電信号を検出するセンサである。
【0017】
視覚情報提示部12は、身体の運動状態に関する映像情報を対象者に提示する表示装置であり、例えばヘッドマウントディスプレイである。対象者は、視覚情報提示部12に表示された自己の身体の運動状態を視認することにより、自己の運動意図に基づく身体の動作状態(動作量、関節角度等)を認識する。本実施の形態では、ヘッドマウントディスプレイを視覚情報提示部12として用いる。これにより、対象者に高い臨場感と没入感とを与えることができるので、対象者は映像情報として提示されるアバターの動きを自己の身体の動きであると認識し易くなる。
【0018】
力覚情報提示部13は、対象者に身体の運動状態に関する力覚情報を提示するものであり、例えば、腕、足などに装着する人工筋肉等のアクチュエータである。力覚情報提示部13は、対象者の運動の目的、身体の動作状態等に応じて、対象者に対して運動の補助、負荷の付与などを行い、対象者のリハビリテーションを支援する。
【0019】
制御ユニット20は、例えばコンピュータ装置であり、図1に示すように、制御部21、記憶部22、表示部23、入力部24を備える。
【0020】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等から構成されており、運動支援装置1の動作を制御するとともに、センサ11で取得した情報に基づいて、視覚情報提示部12及び力覚情報提示部13によって対象者に提示するための情報を生成する。
【0021】
制御部21は、制御部21のROM、記憶部22等に記憶されている各種動作プログラム及びデータをRAMに読み込んでCPUを動作させることにより、図1に示される制御部21の各機能を実現させる。これにより、制御部21は、生体情報取得部211、演算部212、視覚情報制御部213、力覚情報制御部214として動作する。
【0022】
生体情報取得部211は、センサ11を制御して、対象者の筋電等の生体情報を取得する。これにより、生体情報取得部211は、対象者の身体、例えば腕、足、指等の動作の意図を検出する。また、生体情報取得部211は、取得した生体情報に係る計測データを演算部212へ送信する。
【0023】
演算部212は、生体情報取得部211で取得した生体情報に基づいて、対象者に提示する視覚情報及び力覚情報に係る動作量を算出する。制御部21で生成される視覚情報は、生体情報取得部211で取得された生体情報に基づいて算出される、対象者の身体の動作状態を表す映像情報であり、視覚情報提示部12によって対象者に提示される。
【0024】
また、制御部21で生成される力覚情報は、生体情報取得部211で取得された生体情報に基づいて算出される対象者の身体の動作状態に応じて、対象者に付与される力として算出される。そして算出された力に基づいて、力覚情報制御部214が力覚情報提示部13を制御することにより、対象者に力覚情報が提示される。
【0025】
本実施の形態では、演算部212は、生体情報に基づいて対象者の身体の動作量である相当動作量を算出する。そして相当動作量から算出する、視覚情報に係る動作量(視覚提示動作量)と、力覚情報に係る動作量(力覚提示動作量)との間に差を生じさせることとしている。言い換えると、運動支援装置1は、視覚提示動作量と力覚提示動作量とにずれが生じている状態で、対象者に対して視覚情報と力覚情報とを提示する。これにより、運動支援装置1は、対象者に対する運動支援効果を高めることとしている。視覚提示動作量と力覚提示動作量の算出方法等に関する詳細は後述する。
【0026】
記憶部22は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであり、対象者の身体の特徴(腕、足などリハビリテーションの対象となる身体各部の大きさ、重さ等)、生体情報から視覚提示動作量及び力覚提示動作量を算出する演算アルゴリズム、視覚提示動作量と力覚提示動作量とのずれの度合いを示す差分係数等を記憶する。
【0027】
表示部23は、コンピュータ装置である制御ユニット20に備えられた表示用デバイスであり、例えば液晶ディスプレイである。表示部23は、センサ11で検出された生体情報、演算部212で算出された相当動作量、視覚提示動作量及び力覚提示動作量等を表示する。また、表示部23は、視覚情報提示部12で表示される映像情報を表示させることとしてもよい。
【0028】
入力部24は、運動支援装置1における運動支援の開始、終了指示、対象者の身体情報、差分係数等の設定情報等を入力するための入力デバイスである。入力部24は、制御ユニット20に備えられたキーボード、タッチパネル、マウス等である。
【0029】
(運動支援方法)
続いて、運動支援装置1を用いた運動支援方法について、図2のフローチャートを参照しつつ、具体的に説明する。本実施の形態では、患者である対象者が手の指の関節を反復屈曲動作することによって、指の運動制御能力を回復させるニューロリハビリテーションを例として説明する。
【0030】
まず、運動支援としてのニューロリハビリテーションを行う対象者の身体部分に、生体情報を取得する筋電センサであるセンサ11、対象者に力覚を提示する力覚情報提示部13を装着する(ステップS1)。本例に係る力覚情報提示部13は人工筋を備えるパワーアシストグローブである。また、対象者は、視覚情報提示部12としてのヘッドマウントディスプレイを装着する。
【0031】
また、初期設定として、医師、理学療法士等のリハビリテーションの補助者が、過去のリハビリテーションのデータなどを参考に、実施するリハビリテーションの強度等を入力部24から設定する(ステップS2)。リハビリテーションの強度は、例えば、指の動作量の大きさ及び屈曲動作の反復回数である。また、補助者は、設定されるリハビリテーションの強度に基づいて、適当な差分係数を設定する。
【0032】
続いて、入力部24へのリハビリテーション開始指示の入力により、リハビリテーションが開始される(ステップS3)。本実施の形態では、対象者は、視覚情報提示部12に提示される目標にしたがって、手の指を動かすことを試みる。この場合、対象者にとって屈曲させることが困難な程度の動作量が、目標値として設定されている。
【0033】
センサ11は、対象者の動作に係る生体情報である筋電信号、すなわち対象者が設定された目標値まで指を動かそうとする筋電信号を取得する(ステップS4)。
【0034】
演算部212は、生体情報取得部211がセンサ11から取得した筋電信号に基づいて、相当動作量を算出する(ステップS5)。より具体的には、演算部212は、記憶部22に予め記憶されている対象者の身体情報を読み出し、筋電信号と身体情報とに基づいて、対象者の指がどの程度動くかを表す相当動作量を算出する。
【0035】
続いて、演算部212は、予め設定されている差分係数と、ステップS4で算出された相当動作量とに基づいて、視覚提示動作量と力覚提示動作量とを算出する(ステップS6)。視覚提示動作量は、視覚情報提示部12によって対象者に提示される身体の動作量であり、本実施の形態では、ヘッドマウントディスプレイに自己の指として表示されるアバターの動作量である。
【0036】
また、力覚提示動作量は、力覚情報提示部13によって対象者に提示される身体の動作量に相当する力覚である。力覚提示動作量は、例えば、弾性体を握る動作に伴って指にかかる反発力として、パワーアシストグローブによって対象者に伝えられる。この場合、力覚提示動作量が大きくなれば、負荷も大きくなり、力覚提示動作量が小さくなれば、負荷も小さくなる。パワーアシストグローブは、例えば図3(A)、(B)に示すように人工筋を備えるグローブであり、チューブを介して空気を送り込むことにより、人工筋を動作させてグローブの指部分を屈曲、伸展させる。
【0037】
また、リハビリテーションにおいては、力覚情報提示部13が対象者の身体動作を補助する力を加える、または相当動作量から算出される負荷を軽減することによって、対象者が、設定された目標値まで身体を動かし易いようにすることもできる。例えば、力覚提示動作量を大きくしたい場合、補助力を大きくし、力覚提示動作量を小さくしたい場合、補助力を小さくする。本実施の形態に係る演算部212は、生体情報から算出された相当動作量と目標値との差から補助すべき力を算出し、力覚提示動作量を設定する。
【0038】
通常、リハビリテーション、特にニューロリハビリテーションにおいては、対象者が、動作に関する神経経路を新たに構築するために、身体を動かすという入力情報と、身体が動いたという出力情報とを繰り返し認識することが求められる。しかしながら、このような繰り返し動作は、対象者にとって大きな忍耐を求められるものであり、特にリハビリテーション開始初期には、身体を動作させようという意図に結果としての動作が伴わず、精神的苦痛が大きいものとなる。
【0039】
そこで、本実施の形態では、視覚提示動作量と力覚提示動作量とに差を設けることとしている。詳細には、制御部21の演算部212は、所定の差分係数に基づいて、視覚提示動作量及び力覚提示動作量の少なくともいずれかを、相当動作量に対して増幅又は減少させた動作量とすることとしている。例えば、演算部212は、予め設定された差分係数に基づいて相当動作量に対して力覚提示動作量としての負荷を小さくするとともに、視覚提示動作量としての関節の動作角度を大きくする。これにより、対象者は、軽い負荷で、大きな運動をしているような視覚情報のフィードバックを受けることができる。
【0040】
差分係数の設定方法は特に限定されず、例えば、予め設定された定数を相当動作量に乗じることとしてもよいし、目標動作量と相当動作量との差から運動の習熟度を算出し、算出された習熟度に基づいて視覚提示動作量又は力覚提示動作量と相当動作量との差を調整することとしてもよい。
【0041】
演算部212は、算出された視覚提示動作量を視覚情報制御部213へ送信するとともに、算出された力覚提示動作量を力覚情報制御部214へ送信する。
【0042】
視覚情報制御部213は、演算部212から受信した視覚提示動作量に基づいて、アバターの動作状態を示す映像を生成し、視覚情報提示部12へ送信する(ステップS7)。
【0043】
視覚情報提示部12であるヘッドマウントディスプレイは、視覚情報制御部213で生成された映像情報を表示して、視覚情報を対象者に提示する(ステップS8)。これにより、対象者は、自己の運動意図にしたがって指が動作しているという、視覚による認識を得る。図4(A)、(B)は対象者の腕とアバターの腕の画像の例である。図4(A)に示す対象者の実際の腕を模倣したアバターの映像情報(図4(B))を対象者に提示することにより、対象者は動作状態を視覚として認識し易くなる。
【0044】
力覚情報制御部214は、演算部212から受信した力覚提示動作量に基づいて、力覚情報提示部13によって対象者に与える補助力(または負荷)を算出し、算出された補助力(または負荷)を与えるための力覚情報提示部13の制御情報を生成する(ステップS9)。そして、力覚情報制御部214は、生成された制御情報に基づいて、力覚情報提示部13を制御し、対象者に力覚情報を提示する(ステップS10)。
【0045】
以下、リハビリテーションが終了するまで(ステップS11のNO)、運動支援装置1は、ステップS4~S10の運動支援を行う。リハビリテーション開始時に設定された反復動作回数の終了、対象者、補助者によるリハビリテーションの終了指示の入力等の終了条件を充足すると(ステップS11のYES)、運動支援装置1は運動支援を終了する。
【0046】
以上、説明したように、本実施の形態に係る運動支援装置及び運動支援方法によれば、対象者の生体情報から相当動作量を算出し、相当動作量に基づいて、視覚提示動作量と力覚提示動作量とに差を付けて対象者に視覚と力覚を提示する。したがって、対象者の力覚に基づく負荷と、視覚によって認識される運動量とのバランスを調整することができるので、対象者の運動に対するストレスを軽減し、リハビリテーションの効果を高めることが可能となる。
【0047】
より詳細には、本実施の形態に係る運動支援装置1では、力覚情報提示部13によって対象者の身体の動作を補助することにより、より小さな力で身体を目標値まで動かすことができるという結果を示したり、運動意図に基づく生体情報よりも大きな運動量を視覚提示することにより、動作の結果に対する達成感を得やすくしたりできるので、リハビリテーションにおける対象者のストレスを小さくして、精神的負担を低減することができる。これにより、リハビリテーションの推進を図り、リハビリテーション効果を増大させることが可能となる。
【0048】
また、本実施の形態では、視覚情報提示部12としてヘッドマウントディスプレイを用いることとしている。これにより、対象者は高い臨場感と没入感を得ることができるので、提示された視覚情報、例えば動きを誇張されたアバターの動作を、自己の身体の動作として認識しやすくなる。したがって、対象者はリハビリテーションにおける達成感を得やすく、精神的負担を軽減できるので、ニューロリハビリテーション等のリハビリテーション効果を高めることができる。
【0049】
また、本実施の形態では、力覚提示動作量に対して視覚提示動作量を大きくすることとしたが、これに限られない。例えば、視覚提示動作量を小さく設定して、実際は身体が動いているのに視覚上は動いていないように提示する、又は動きを縮小させて提示することとしてもよい。より具体的には、親指のリハビリテーションを行う場合において、人差し指が親指と一緒に動いても、人差し指の動きを視覚的に提示せず、親指の動きのみを提示することとしてもよい。これにより、リハビリテーションの対象部位の動きのみを強調して対象者に提示することができるので、対象者の集中力を高めて、リハビリテーションの効果を高めることができる。
【0050】
また、例えば、相当動作量に対して、視覚提示動作量と力覚提示動作量とを同等程度の割合で増加又は減少させることとしてもよい。例えば、視覚提示動作量と力覚提示動作量とを同等程度の割合で減少させて提示することにより、対象者は、自己の動作意図よりも小さな動作を視覚と力覚とで認識する。これにより、対象者からより大きく身体を動かす動作意図を引き出し、運動の習得を効果的に行うことができる。
【0051】
本実施の形態では、表示部23と視覚情報提示部12とは別の装置であることとしたが、これに限られない。例えば、視覚情報提示部12であるヘッドマウントディスプレイが表示部23を兼ねることとしてもよい。これにより、運動支援装置1全体の構成を簡素化し、より安価な運動支援装置1を提供することができる。
【0052】
本実施の形態では、センサ11として筋電センサを用いて、対象者の筋電信号を検出して、相当動作量を算出することとしたが、生体情報の取得方法はこれに限られない。例えば、対象者の身体の動作を画像認識により検知して、相当動作量を算出することとしてもよい。これにより、筋電センサ等の生体情報センサを取り付けることが難しい場合でも運動支援装置1を用いることができる。したがって、体操競技、バレエ等のように身体の大きな動作を伴う運動の指導を行う場合の運動支援に、本発明に係る運動支援装置1を用いることができる。この場合、対象者には相当動作量に対して、視覚提示動作量を大きくして提示することにより、目標に対する達成感、モチベーションの向上等の効果を得ることができる。これにより、運動の習得を効果的に行うことができる。
【0053】
ここで、例えば対象者が前腕部の動作を習得する運動支援を行う場合、対象者が前腕部を有するものであれば、前腕部の移動量を各種センサによって直接測定すればよい。他方、対象者が前腕部を切断している等、移動量を直接測定することが難しい場合には、筋電信号と、対象者が使用する義手の重量などから動作量を算出すればよい。
【0054】
また、本実施の形態では、対象者の指の動作制御に関するリハビリテーションを行う場合を例として説明したが、本発明に係る運動支援を実施する部位は特に限定されない。例えば、上腕、体幹、下肢、顔等身体各部に関するリハビリテーション等の運動支援を行うこととしてもよい。また、本発明に係る運動支援装置及び運動支援方法は、例えば右腕と右足との組み合わせのように、身体各部を組み合わせて行う運動支援に適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、運動制御能力を向上させるためのリハビリテーション装置に好適である。特に、神経経路を再構築して運動制御能力を向上させるためのニューロリハビリテーション装置に好適である。
【符号の説明】
【0056】
1 運動支援装置、11 センサ、12 視覚情報提示部、13 力覚情報提示部、20 制御ユニット、21 制御部、211 生体情報取得部、212 演算部、213 視覚情報制御部、214 力覚情報制御部、22 記憶部、23 表示部、24 入力部
図1
図2
図3
図4