(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物、及び該樹脂組成物を用いた成形体
(51)【国際特許分類】
C08G 18/66 20060101AFI20241107BHJP
【FI】
C08G18/66
(21)【出願番号】P 2018022780
(22)【出願日】2018-02-13
【審査請求日】2021-01-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【氏名又は名称】財部 俊正
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】小出 和宏
(72)【発明者】
【氏名】横田 博栄
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】細井 龍史
【審判官】小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218577(JP,A)
【文献】特開2011-046887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G18/00-18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート成分(A)と、鎖延長剤(B)と、ポリオール成分(C)と、の反応生成物である熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物であって、
前記イソシアネート成分(A)は、脂肪族ポリイソシアネートを含み、
前記ポリオール成分(C)が、
ポリカーボネートポリオール(C1)と、
環状構造を有するポリオール(C2)と、を含み、
前記環状構造を有するポリオール(C2)が、
置換基を有しないイソフタル酸由来の構成単位
と、1,6-ヘキサンジオール由来の構成単位と、を含むポリエステルジオールであり、
前記ポリカーボネートポリオール(C1)と、前記環状構造を有するポリオール(C2)と、の質量比(C1)/(C2)が、10/90以上70/30以下であること
を特徴とする、加熱押出成形用または加熱射出成形用の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記質量比(C1)/(C2)が、30/70以上70/30以下であることを特徴とする、請求項1に記載の加熱押出成形用または加熱射出成形用の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪族ポリイソシアネートが、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の加熱押出成形用または加熱射出成形用の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記鎖延長剤(B)が、1,4-ブタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の加熱押出成形用または加熱射出成形用の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリカーボネートポリオール(C1)が、ポリカーボネートジオールであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の加熱押出成形用または加熱射出成形用の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリカーボネートポリオール(C1)は、反応残基が直鎖アルキレン基のみからなるポリカーボネートジオールであることを特徴とする、請求項
1乃至5のいずれか1項に記載の加熱押出成形用または加熱射出成形用の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
UV吸収剤、光安定剤、酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の安定剤をさらに含むことを特徴とする、請求項
1乃至6のいずれか1項に記載の加熱押出成形用または加熱射出成形用の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項8】
請求項
1乃至7のいずれか1項に記載の加熱押出成形用または加熱射出成形用の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物からなる、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物、及び該樹脂組成物を用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタン樹脂(Thermoplastic Polyurethane resin;以後、TPUという)は、強度、柔軟性、耐摩耗性に優れるため、機械的な耐久性を要求される様々な部材として使用されている。
TPUとしては、芳香族系イソシアネートを用いたTPUが一般的に使用されている。しかしながら、芳香族系イソシアネートを用いたTPUは、経時黄変により意匠性が低下する。そのため、意匠性を重視する場合には脂肪族または脂環族ジイソシアネートから形成されるTPUが多用される。
【0003】
特許文献1は、芳香環を含む高分子ジオールと、脂肪族ジイソシアネートと、を主成分とする熱可塑性ポリウレタンエラストマーを開示している。
特許文献2は、ポリカーボネートジオールと、アジピン酸を出発原料とするポリエステルジオールと、からなる混合ポリオール;および、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート;を主成分とするポリウレタン成形材料を開示している。
特許文献3は、脂肪族イソシアネートと、ポリカーボネートポリオールと、鎖延長剤として6以上の炭素数を有するジオールと、を用いたTPUを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-110211号公報
【文献】特開平6-206973号公報
【文献】特開平6-116355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、脂環族ジイソシアネートから形成されるTPUであっても、過酷な機械的負荷がかかる使用環境下では耐摩耗性が不足しており、意匠性の維持には不十分である。したがって、特許文献2にかかるポリウレタン成形材料から得られるTPU、および、特許文献3にかかるTPUは、耐摩耗性が充分ではなく、さらなる改善が求められていた。
また、特許文献1にかかる熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、分子内に芳香環を含む高分子ジオールがポリエステルポリオールであるため、耐加水分解性が不足している。
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、脂肪族ポリイソシアネートと、ポリオール成分と、の反応生成物であって、該ポリオール成分が、ポリカーボネートポリオールと、環状構造を有するポリオールと、を特定の比率で含む熱可塑性ポリウレタン樹脂によって、これらのポリオールを単独で使用した場合よりも優れた耐摩耗性を発現することを見出した。そして、この特定のTPUにおいてさらなる鋭意検討を重ねた結果、様々な特性を高次元に達成し、実用に供することのできる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物およびそれを用いた成形品を完成するに至った。
【0007】
そこで、本発明の一実施形態は、優れた機械的特性、耐加水分解性、透明性、耐ブルーム性、耐摩耗性を備え、長期にわたり耐久性の低下を抑制できる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を提供することに向けられている。また、本発明の他の実施形態は、該熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物からなる成形体を提供することに向けられている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態にかかる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、イソシアネート成分(A)と、鎖延長剤(B)と、ポリオール成分(C)と、の反応生成物である熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物であって、
前記イソシアネート成分(A)は、脂肪族ポリイソシアネートを含み、
前記ポリオール成分(C)が、
ポリカーボネートポリオール(C1)と、
環状構造を有するポリオール(C2)と、を含み、
前記ポリカーボネートポリオール(C1)と、前記環状構造を有するポリオール(C2)と、の質量比(C1)/(C2)が、10/90以上90/10以下である。
また、本発明の他の実施形態にかかる成形体は、上記の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物からなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態にかかる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物によれば、優れた機械的特性、耐加水分解性、透明性、耐ブルーム性、耐摩耗性を備え、長期にわたり耐久性の低下を抑制できる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を提供できる。また、本発明の他の実施形態にかかる成形体によれば、該熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物からなる成形体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を詳細に説明する。
【0011】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物]
本発明の一実施形態にかかる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、イソシアネート成分(A)と、鎖延長剤(B)と、ポリオール成分(C)と、の反応生成物である熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物であって、
前記イソシアネート成分(A)は、脂肪族ポリイソシアネートを含み、
前記ポリオール成分(C)が、
ポリカーボネートポリオール(C1)と、
環状構造を有するポリオール(C2)と、を含み、
前記ポリカーボネートポリオール(C1)と、前記環状構造を有するポリオール(C2)と、の質量比(C1)/(C2)が、10/90以上90/10以下である。
【0012】
<イソシアネート成分(A)>
イソシアネート成分(A)は、脂肪族ポリイソシアネートを含む。脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12-ドデカンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ペンタンジイソシアネート、トリメチル-ヘキサメチレンジイソシアネート等の鎖状脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環構造を有する脂環式ジイソシアネート;等が挙げられる。また、脂肪族ポリイソシアネートとしては、これらのイソシアネートと活性水素基含有化合物との反応によるイソシアネート基末端化合物、または、これらの化合物自体の反応、例えばウレトジオン化反応、イソシアヌレート化反応、カルボジイミド化反応等によるポリイソシアネート変成体等も用いることができる。
これらのイソシアネートのうち、強靭性、柔軟性の向上の面から、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。
【0013】
<鎖延長剤(B)>
鎖延長剤(B)としては、例えば低分子ジオール類、二官能の低分子グリコールエーテル類等が挙げられる。
【0014】
低分子ジオール類としては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の1種又は2種以上の混合物が挙げられる。
また、熱可塑性樹脂の特性を損なわない範囲であれば、1-デカノール、1-ドデカノール、ステアリルアルコール、1-ドコサノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の官能基数が1の活性水素化合物やグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビトール等の官能基数が2より大きい活性水素化合物も併用することができる。
【0015】
二官能の低分子グリコールエーテル類としては、例えば、2,2-ビス(4-ポリオキシエチレン-オキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ポリオキシプロピレン-オキシフェニル)プロパン、ジメチロールヘプタンエチレンオキサイド付加物、ジメチロールヘプタンプロピレンオキサイド付加物のグリコールエーテル等が挙げられる。また、これらの1種又は2種以上を併用することができる。
【0016】
鎖延長剤(B)の数平均分子量は、熱可塑性樹脂本来の特性である柔軟性や可とう性を生かすために60以上300以下であることが好ましい。
鎖延長剤(B)の数平均分子量が60未満の場合、TPUのウレタン基濃度が相対的に高くなり過ぎるために未溶融物が発生したり、TPUの溶融物が高粘度化したりして加工時に成形不良を起こし、外観不良になる恐れがある。また、数平均分子量が60未満の場合、硬さ、100%モジュラス、引張強さ、引裂強さは高くなるものの、伸びが低下し、熱可塑性樹脂本来の特性である柔軟性や可とう性を生かすことができにくくなる恐れがある。
一方、鎖延長剤(B)の数平均分子量が300を超えると、ウレタン基濃度が相対的に低くなり過ぎるために、所期の物性が得られない場合がある。このTPUを用いて得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の成形品は、機械的特性が不足する恐れがある。
【0017】
これらのうち鎖延長剤(B)としては、1,4-ブタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
<ポリオール成分(C)>
ポリオール成分(C)は、ポリカーボネートポリオール(C1)と、環状構造を有するポリオール(C2)と、を含む。
【0019】
<<ポリカーボネートポリオール(C1)>>
ポリカーボネートポリオール(C1)としては、例えば、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等を含むジオール類と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジエチレンカーボネート等と、の脱アルコール反応、脱フェノール反応等によって得ることができるポリカーボネートジオール類が挙げられる。ポリカーボネートジオール類は、2種以上を併用することもできる。
これらの中でも、ポリカーボネートジオール類が、耐加水分解性等の耐久性向上の面から好ましい。耐摩耗性がより一層向上するため、反応残基が直鎖アルキレン基のみから構成されるポリカーボネートジオール類が更に好ましい。すなわち、環状構造、分岐アルキル基を有しないポリカーボネートジオール類が更に好ましい。
【0020】
<<環状構造を有するポリオール(C2)>>
環状構造を有するポリオール(C2)は、分子内に芳香環構造、脂環構造等の環状構造を有するポリオールであり、例えばポリエステルジオール類、ポリカーボネートジオール類、ポリラクトンジオール類、ポリエーテルジオール類が挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用することができる。環状構造を有するポリオール(C2)は、イソフタル酸由来の構成単位を含むポリエーテルジオールであることが好ましい。
これらのポリオールのうち、透明性、TPUに副生物として含まれる環状オリゴマーや安定剤等のブルーム原因物質の相溶性、耐加水分解性、経済性の面から、イソフタル酸由来の構成成分と、1,6-ヘキサンジオール由来の構成成分と、からなるポリエステルジオール類が特に好ましい。
【0021】
<<ポリオール成分(C)の数平均分子量>>
また、ポリオール成分(C)の数平均分子量は750以上3000以下が好ましく、800以上2000以下であることがより好ましく、1000以上2000以下であることが更に好ましい。
数平均分子量が750以上3000以下であると、熱可塑性ポリウレタン樹脂の加工時の成形性が向上し、また、樹脂組成物の成形品の機械的特性、透明性をさらに向上させることができる。
なお、ポリオール成分(C)の数平均分子量は、JIS K 7252-3(プラスチック-サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量及び分子量分布の求め方-第3部:常温付近での方法)に準拠して測定することができる。
【0022】
<<質量比(C1)/(C2)>>
ポリカーボネートポリオール(C1)と環状構造を有するポリオール(C2)との質量比(C1)/(C2)は、10/90以上90/10以下であり、より好ましくは30/70以上70/30以下である。
ポリカーボネートポリオール(C1)と環状構造を有するポリオール(C2)とを混合して用いることで、各ポリオールを単独で使用した場合よりも優れた耐摩耗性を発現させることができる。ところが、ポリカーボネートポリオール(C1)または環状構造を有するポリオール(C2)の質量比が10/90に満たない場合、耐摩耗性の不足や外観悪化を招く。
【0023】
<<他のポリオール成分>>
なお、本開示の趣旨を損なわない範囲であれば、ポリカーボネートポリオール(C1)および環状構造を有するポリオール(C2)と共に、さらにポリラクトンジオール類、ポリエーテルジオール類を併用してもよい。
【0024】
<<R’値:鎖延長剤(B)の活性水素基モル数/ポリオール成分(C)の活性水素基モル数>>
鎖延長剤(B)と、ポリオール成分(C)との配合割合は、ポリオール成分(C)の活性水素基モル数に対する鎖延長剤(B)の活性水素基モル数の比([鎖延長剤(B)の活性水素基モル数]/[ポリオール成分(C)の活性水素基モル数]=R’値)は、TPUのハードセグメント量の指標であり、物性発現を左右する。かかる観点から、R’値は、好ましくは0.1以上15以下であり、より好ましくは0.3以上12以下である。
【0025】
<<<R値:全イソシアネート基モル数/全活性水素基モル数>>>
鎖延長剤(B)の活性水素基モル数、及びポリオール成分(C)の活性水素基モル数を合計した、全活性水素基モル数に対するイソシアネート成分の全イソシアネート基モル数の比([全イソシアネート基モル数]/[全活性水素基モル数]=R値)は、TPUの分子量や粘度を好ましい範囲に調整するという観点から、好ましくは0.7以上1.3以下であり、より好ましくは0.8以上1.2以下である。
【0026】
<安定剤>
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、UV(Ultraviolet)吸収剤、光安定剤、酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の安定剤をさらに含んでいてもよい。
【0027】
UV吸収剤としては、従来公知のものを使用することができる。代表的な例としては、例えばTinuvin-328:2-(2H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ペンチルフェノール(BASF社製)、JF-83:2-[2-ヒドロキシ-5-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フエニル]ベンゾトリアゾール(城北化学工業社製)、Tinuvin-326:2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール(BASF社製)、アデカスタブLA-46:2-エチルヘキサン酸=2-[3-ヒドロキシ-4-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェノキシ]エチル(ADEKA社製)、Tinuvin-1577:2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシルオキシ)フェノール(BASF社製)、Hostavin-VSU:N-(2-エチルフェニル)-N’-(2-エトキシフェニル)シュウ酸ジアミド(Clariant社製)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0028】
光安定剤としては、従来公知のものを使用することができる。代表的な例としては、例えばChimassorb-944:ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}](BASF社製)、Tinuvin-622:コハク酸ジメチル・1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物(BASF社製)、Tinuvin-770:ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)=デカンジオアート(BASF社製)、Tinuvin-765:ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)=デカンジオアート(BASF社製)が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0029】
酸化防止剤としては、従来公知のものを使用することができる。代表的な例としては、例えばIRGANOX-1010:ペンタエリトリトール=テトラキス[3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオナート](BASF社製)、スミライザーGA-80:2,2’-ジメチル-2,2’-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパン-1,1’-ジイル=ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロパノアート](住友化学社製)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0030】
<その他の添加剤>
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物には、上述したもの以外に、必要に応じて、TPUを製造する際に通常使用されている熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、加水分解防止剤、耐熱性向上剤、耐候性改良剤、反応性遅延剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、導電付与剤、抗菌剤、防カビ剤、着色剤、無機および有機充填剤、繊維系補強材、結晶核剤などの各種添加剤を適宜加えることもできる。
【0031】
<熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の製造方法>
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、適切な比率で配合された原料(TPU、安定剤、その他の添加剤)をニーダやヘンシェルミキサー等で混合した後、押出機に供給して、通常のTPUを押し出す温度(約150℃以上220℃以下)で溶融混練後、ストランドカットまたは水中カットでペレット形状にして調製することができる。なお、安定剤、およびその他の添加剤はいずれも任意成分であるため、混合の際にはこれらから選ばれる1種または2種以上を必要に応じて適量添加すればよい。
【0032】
また、任意成分を、前記TPUを製造する際の原料、例えばポリオール成分(C)又はイソシアネート成分(A)に配合して均一に混合した後、反応させて熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を調製することもできる。
【0033】
安定剤等の任意成分の添加方法としては、TPUに対して直接添加する方法以外に、予め任意成分を高濃度に含むマスターバッチを作製しておき、そのマスターバッチを濃度換算して所望の濃度となるようにしてTPUに混合する方法も用いることができる。
【0034】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を構成するTPUは、公知のTPUの製造方法、例えば、ワンショット法、プレポリマー法、バッチ反応法、連続反応法、ニーダによる方法、押出機による方法等により得ることができる。
【0035】
そして、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、前記製造方法によって、フレーク、ペレット、パウダー、グラニュール、ロッド、シート、ブロック等の形状として個々に得られる。
【0036】
さらに、上記のようにして得られた粉末状またはブロック状の固形物を粉砕してフレーク状のものを得て、それを押出機に供給して、通常のTPUを押し出す温度(約150℃以上220℃以下)で溶融混練後、ストランドカットまたは水中カットによりペレット形状のものを得ることができる。
【0037】
また、ニーダによる方法では、ニーダにポリオール成分(C)と、鎖延長剤(B)と、安定剤等の任意成分と、を仕込み、撹拌下、100℃に加温後、イソシアネート成分(A)を投入し、10~120分反応させ、冷却することにより粉末状またはブロック状の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を製造することができる。なお、これらの方法においては、必要に応じて触媒を添加することができる。
【0038】
<<触媒>>
前記のTPUの製造時の触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルイミダゾール、N-エチルモルホリン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン(DBU;diazabicyclo undecene)等のアミン類;酢酸カリウム、スタナスオクトエート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、チタン酸エステル、ジルコニウム化合物、ビスマス化合物、鉄化合物等の有機金属類;トリブチルホスフィン、ホスフォレン、ホスフォレンオキサイド等のリン系化合物;等が挙げられる。なお、これらの化合物はそれぞれ単独で、又は、2種以上を併用して使用することができる。
これらのうち、有機金属類、特にチタン酸エステル、鉄、錫、ジルコニウム、ビスマス化合物が好ましい。使用される触媒の総量は、TPUに対して約5質量%以下が好ましく、0.001質量%以上~2質量%以下がより好ましい。
【0039】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の成形方法は、一般に用いられているTPUの成形方法が適用でき、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、真空成形、遠心成形、回転成形、カレンダー加工、ロール加工、プレス加工等の成形方法を用いることができる。
【0040】
[成形体]
上述した熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、各種成形体として好適に用いることができる。したがって、本発明の一実施形態にかかる成形体は、上述した熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物からなる。
成形体としては、例えば家屋の内外装材、通信ケーブル、工業用ケーブル、自動車、各種車両内外装材、家電用品、装飾品、風力発電用風車、保護フィルム等を挙げることができる。これらは屋内外の幅広い分野に用いることができる。
【0041】
[1]:本発明の第1の実施形態にかかる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、イソシアネート成分(A)と、鎖延長剤(B)と、ポリオール成分(C)と、の反応生成物である熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物であって、
前記イソシアネート成分(A)は、脂肪族ポリイソシアネートを含み、
前記ポリオール成分(C)が、
ポリカーボネートポリオール(C1)と、
環状構造を有するポリオール(C2)と、を含み、
前記ポリカーボネートポリオール(C1)と、前記環状構造を有するポリオール(C2)と、の質量比(C1)/(C2)が、10/90以上90/10以下である。
[2]:本発明の第2の実施形態にかかる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、前記質量比(C1)/(C2)が、30/70以上70/30以下である、第1の実施形態に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
[3]:本発明の第3の実施形態にかかる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、前記脂肪族ポリイソシアネートが、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートである、第1又は第2の実施形態に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
[4]:本発明の第4の実施形態にかかる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、前記鎖延長剤(B)が、1,4-ブタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、第1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
[5]:本発明の第5の実施形態にかかる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、前記ポリカーボネートポリオール(C1)が、ポリカーボネートジオールであることを特徴とする、第1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
[6]:本発明の第6の実施形態にかかる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、前記環状構造を有するポリオール(C2)が、イソフタル酸由来の構成単位を含むポリエステルジオールであることを特徴とする、第1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
[7]:本発明の第7の実施形態にかかる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、前記ポリカーボネートポリオール(C1)は、反応残基が直鎖アルキレン基のみからなるポリカーボネートジオールであることを特徴とする、第1~6のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
[8]:本発明の第8の実施形態にかかる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、UV吸収剤、光安定剤、酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の安定剤をさらに含むことを特徴とする、第1~7のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物。
[9]:本発明の第9の実施形態にかかる成形体は、第1~8のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物からなる。
【0042】
本発明の一実施形態にかかる熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物によれば、経時黄変に対する耐久性の高い脂肪族系TPUの耐摩耗性が改善し、さらにTPU組成の特定により良好な機械的特性、耐加水分解性、及び外観を達成して、意匠性と耐久性を両立させることができる。
【実施例】
【0043】
本発明について、実施例および比較例により、更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、以下に示す実施例1~12のうち、実施例1~2は本発明の範囲に属しない参考例としての例である。
【0044】
<実施例1~12、比較例1~5>
(試料の作製)
撹拌機と温度計の付いた反応容器に、ポリオール成分(C)、鎖延長剤(B)を、表1~表3に記載の量(質量部)を投入し均一に混合して混合液を得た。
得られた混合液を100℃に加熱した後、表1~表3に記載の量(質量部)のイソシアネート成分(A)を加え、ウレタン化反応を行った。反応物が90℃になったところでバット上に流し込み固化させて固形物を得た。得られた固形物を80℃の電気炉で16時間熟成させ、室温まで冷却した後、固形物を粉砕しフレーク状のTPUを得た。
得られたフレーク状のTPUは押出機でペレット化し、得られたペレットを180~220℃でTダイ押出成形または射出成形することにより、厚さ0.15mmのフィルム(押出成形)、厚さ2mmのシート(射出成形)を作製し、実施例1~12、及び比較例1~5の試料(熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物)とした。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
また、表1~表3に記載の使用原料は以下のとおりである。
<イソシアネート成分(A)>
・HDI:1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、東ソー社製
<鎖延長剤(B)>
・1,4-BG:1,4-ブタンジオール(数平均分子量=90)、三菱化学社製
・1,6-HG:1,6-ヘキサンジオール(数平均分子量=118)、三菱化学社製
<反応残基が直鎖アルキル基のみからなるポリカーボネートジオール(C1)>
・PCD(HG/MPD=10/0)-1000:ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(数平均分子量=1000)、東ソー社製
<反応残基が側鎖を有するアルキル基を含むポリカーボネートジオール(C1)>
・PCD(HG/MPD=1/9)-1000:ヘキサメチレン残基と3-メチル-ペンタメチレン残基とがモル比で1/9であるポリカーボネートジオール(数平均分子量=1000)、東ソー社製
<環状構造を有するポリオール(C2)>
・iPA/HG-1000:イソフタル酸由来の構成単位と、1,6-ヘキサンジオール由来の構成単位と、を含むポリエステルジオール(数平均分子量=1000)、東ソー社製
<ポリエステルジオール>
・BA-1000:アジピン酸由来の構成単位と、1,4-ブタンジオール由来の構成単位と、を含むポリエステルジオール(数平均分子量=1000)、東ソー社製
【0049】
(特性試験)
上記手順で作製した成形品としてのTダイ押出成形フィルムまたは射出成形シートについて、以下に示す各種特性を評価した。得られた結果を表1~表3に示す。
【0050】
(1)物性(機械的性質)
Tダイ押出成形フィルムを用いて、JIS K 7311(ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの試験方法)に記載の測定方法に従って測定した。なお、硬さ測定、テーバー摩耗量測定には射出成型シートを用いた。
[硬さ(JIS-A硬度)]
56以上であれば十分といえる。
[100%モジュラス(引張応力、MPa)]
3.0MPa以上であれば十分といえる。
[引張強さ(MPa)]
12MPa以上であれば十分といえる。
[伸び(%)]
400%以上であれば十分といえる。
[引裂強さ(kN/m)]
60kN/m以上であれば十分といえる。
[テーバー摩耗量(mg)]
130mg未満であれば十分といえ、50mg未満であれば良好といえる。そのため、130mg以上のものをDとし、130mg未満50mg以上のものをBとし、50mg未満のものをAとした。
【0051】
(2)透明性
Tダイ押出成形フィルム(厚み0.15mm)を試験片とし、ヘイズを測定した。ヘイズ3%未満のものをA、3%以上のものをDとした。ヘイズは、ヘイズメーター(NDH2000、日本電色工業社製)を用いて測定した。
【0052】
(3)耐ブルーム性
Tダイ押出成形フィルム(厚み0.15mm)を試験片とし、45℃の純水に2日浸漬した後にヘイズの変化を測定した。ヘイズの変化量(「試験後のヘイズ%」-「試験前のヘイズ%」)が4%未満のものをA、4%以上6%未満のものをB、6%以上のものをDとした。ヘイズは、透明性評価と同様の測定方法で測定した。
【0053】
(4)耐加水分解性
Tダイ押出成形フィルム(厚み0.15mm)を用いて、JIS K7311(ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの試験方法)で規定されているダンベル形状(3号)に打ち抜き、試験片とした。試験片を85℃の温水に21日間浸漬し、引張試験機(UTA-500、オリエンテック社製)を使用して引張強さを測定した。試験前のフィルム物性(引張強さ)と比較し、その保持率によって耐加水分解性を以下の基準で評価し、保持率60%以上をAとし、保持率60%未満をDとした。