(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】触媒システム、これを用いた重質軽油留分を含む原料油の水素化分解方法及び水素化分解装置
(51)【国際特許分類】
C10G 47/20 20060101AFI20241107BHJP
C10G 45/02 20060101ALI20241107BHJP
B01J 29/06 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C10G47/20
C10G45/02
B01J29/06 M
(21)【出願番号】P 2020111904
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-01-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 剛貴
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-181595(JP,A)
【文献】特開平7-268363(JP,A)
【文献】特開2000-86233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G47/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質軽油留分を含む原料油を水素化分解する触媒システムであって、触媒の担体におけるゼオライト比率が12質量%以上の触媒Aにより構成される充填層Aと、触媒の担体におけるゼオライト比率が12質量%未満の触媒Bにより構成される充填層Bとが、前記充填層Aの比率(R
A)と前記充填層Bの比率(R
B)との体積の割合(R
A/R
B)が55/45~95/5となるように、前記充填層Aが前記重質軽油留分と先に接するように充填され
、前記触媒A及び触媒Bの担体におけるゼオライトが周期表第3~16族から選ばれる少なくとも1種以上の金属を担持する金属担持USYゼオライトであり、前記触媒A及び触媒Bが活性金属として第6族の金属と第8~10族の金属とを有し、前記第6族の金属の担持量が触媒全体の0.5~30質量%であり、前記第8~10族の金属の担持量が触媒全体の0.1~20質量%である、触媒システム。
【請求項2】
更に、脱硫脱窒素触媒層が、前記充填層Aよりも先に前記重質軽油留分と接するように設けられる、請求項1に記載の触媒システム。
【請求項3】
少なくとも前記充填層A及び前記充填層Bが、一の反応器に備えられる、請求項1又は2に記載の触媒システム。
【請求項4】
前記脱硫窒素触媒層が、前記一の反応器とは別の反応器に備えられる、請求項3に記載の触媒システム。
【請求項5】
前記割合(R
A/R
B)が、55/45~75/25である請求項1~4のいずれか1項に記載の触媒システム。
【請求項6】
前記原料油が、重質軽油(AGO)及び減圧軽油(VGO)から選ばれる少なくとも一種である請求項1~5のいずれか1項に記載の触媒システム。
【請求項7】
前記原料油が、更に未分解油(UCO)を含む請求項6に記載の触媒システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の触媒システムを用いる、重質軽油留分を含む原料油の水素化分解方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の触媒システムを備える、重質軽油留分を含む原料油の水素化分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒システム、これを用いた重質軽油留分を含む原料油の水素化分解方法及び水素化分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原油を常圧蒸留、減圧蒸留等をして得られる、重質軽油(AGO)、減圧軽油(VGO)等の重質軽油留分は、水素化分解等の精製工程を経た後に、灯油、自動車燃料、潤滑油基油等の各種用途に利用される留分である。水素化分解方法としては、これまで様々な手法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、芳香族炭化水素を含有する原料油を、ゼオライトを含有する水素化分解触媒に接触分解処理油させる第一工程と、非晶質の固体酸を含む水素化分解触媒と接触させる第二工程とを順に有する潤滑油基油の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、既述の重質軽油留分は、水素化分解された後に、灯油、自動車燃料用等の基材(ガソリン基材)、潤滑油基油等の重要な用途に用いられることから、より安価に、安定してこれらの用途に合致する留分を製造し供給することが求められている。そのため、水素化分解に用いる触媒の種類、反応条件、またその他様々な観点から、所望の留分の得率を向上させる、あるいは水素化分解活性を向上させるための検討を行うことが必要である。
【0006】
そこで、本発明は、既述の重質軽油留分のうち、上記の各用途において重用される、主に灯油、軽油として取り扱われる120℃~360℃の沸点を有する中間留分に着目し、重質軽油留分を水素化分解するにあたり、当該中間留分の得率を高め、かつ優れた水素化分解活性を維持させることで、より安価に、安定して中間留分を供給することを実現し得る触媒システム、すなわち、高い中間留分得率と水素化分解活性とを両立する触媒システム、さらには当該触媒システムを用いた重質軽油留分を含む原料油の水素化分解方法及び水素化分解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち本発明は、下記の構成を有する触媒システム、さらには当該触媒システムを用いた重質軽油留分を含む原料油の水素化分解方法及び水素化分解装置を提供するものである。
【0008】
1.重質軽油留分を含む原料油を水素化分解する触媒システムであって、ゼオライト比率が12%以上の触媒Aにより構成される充填層Aと、ゼオライト比率が12%未満の触媒Bにより構成される充填層Bとが、前記充填層Aの比率(RA)と前記充填層Bの比率(RB)との割合(RA/RB)が20/80~95/5となるように、前記充填層Aが前記重質軽油留分と先に接するように充填される、触媒システム。
2.上記1に記載の触媒システムを用いる、重質軽油留分を含む原料油の水素化分解方法。
3.上記1に記載の触媒システムを備える、重質軽油留分を含む原料油の水素化分解装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い中間留分得率と水素化分解活性とを両立する触媒システム、さらには当該触媒システムを用いた重質軽油留分を含む原料油の水素化分解方法及び水素化分解装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)に係る触媒システム、水素化分解方法及び水素化分解装置について具体的に説明する。なお、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以下」、「以上」及び「~」に係る数値は任意に組み合わせできる数値であり、また実施例の数値は上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0011】
[触媒システム]
本実施形態の触媒システムは、重質軽油留分を含む原料油を水素化分解する触媒システムであって、ゼオライト比率が12%以上の触媒Aにより構成される充填層Aと、ゼオライト比率が12%未満の触媒Bにより構成される充填層Bとが、前記充填層Aの比率(RA)と前記充填層Bの比率(RB)との割合(RA/RB)が20/80~95/5となるように、前記充填層Aが前記重質軽油留分と先に接するように充填される、ものである。
【0012】
ゼオライト比率が12%以上の触媒Aは、水素化分解活性がより高いが、中間留分選択性が十分ではないことを特徴とし、ゼオライト比率が12%未満の触媒Bは、中間留分選択性がより高いが、水素化分解活性が十分ではないことを特徴とするものである。本実施形態の触媒システムでは、このような特徴を有する触媒Aと触媒Bとを、上記割合(RA/RB)で組み合わせて用い、かつ重質軽油留分を含む原料油を、触媒Aの充填層Aの後に、触媒Bの充填層Bに通油するように各触媒の充填層を配置することにより、互いの触媒のデメリットを補いつつ、メリットを向上させることができ、結果として高い中間留分得率と水素化分解活性とを両立することができる。なお、本明細書において中間留分とは、既述のように120℃~360℃の沸点を有する留分のことをいい、通常軽油、灯油と称される留分が含まれるものである。
【0013】
発明者らは、中間留分選択性が、重質軽油留分を含む原料油がより後に触れる触媒の充填層の性能に左右される傾向があることを見出し、中間留分選択性がより高い触媒Bの充填層Bを、触媒Aの充填層Aよりも後に原料油が触れるように配置することで、触媒Bが有する中間留分選択性がより高いというメリットを十分に得た上で、触媒Bが有する水素化分解活性がより低いというデメリットは、水素化分解活性がより高いメリットを有する触媒Aにより補完することで、高い中間留分得率と水素化分解活性とを両立することを可能とした。また、触媒Aの充填層Aの割合を、上記割合(RA/RB)が20/80~95/5とする、すなわち20%以上とすることで、中間留分得率の性状を高い水準で維持することができ、また95%以下とすることで高い水準の水素化分解活性が得られることも見出した。このようにして、高い中間留分得率と水素化分解活性とを両立することで、より安価に、かつ安定的に(長期的に)、重質軽油留分の水素化分解を行うことが可能となった。
【0014】
〔触媒A〕
触媒Aは、ゼオライト比率が12%以上であることを特徴とする触媒であり、後述する触媒Bと比較して水素化分解活性に優れる触媒である。本明細書において、ゼオライト比率とは、触媒の担体におけるゼオライトの含有量を意味する。
【0015】
触媒Aとしては、例えば超安定化Y型ゼオライト(「USYゼオライト」とも称される)、金属担持USYゼオライト等のゼオライトと、アルミナ、シリカ-アルミナ、シリカ、アルミナ-ボリア、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-チタニア等の多孔性無機酸化物と、を含み、ゼオライト比率が12%以上である担体に、活性金属を担持した触媒が好ましく挙げられる。
【0016】
(ゼオライト)
ゼオライトとしては、金属担持USYゼオライトがより好ましく、例えば、金属担持USYゼオライトとしては、USYゼオライトに周期表第3~16族から選ばれる少なくとも1種以上の金属を担持したものが好ましく挙げられる。特に、金属として鉄を担持した鉄担持USYゼオライトが好適である。
【0017】
前記USYゼオライト、金属担持USYゼオライトは、例えば、以下の方法によって製造することができる。
USYゼオライトの原料として、アルミナに対するシリカの比率(モル比)、つまりSiO2/Al2O3が4.5以上、好ましくは5.0以上であり、また、Na2Oが2.4質量%以下、好ましくは1.8質量%以下のY型ゼオライトを用いる。
まず、上記のY型ゼオライトをスチーミング処理してUSYゼオライトとする。ここでスチーミング処理の条件としては様々な状況に応じて適宜選定すればよいが、温度510℃以上810℃以下の水蒸気の存在下で処理するのが好ましい。水蒸気は、外部から導入してもよいし、Y型ゼオライトに含まれる物理吸着水や結晶水を使用してもよい。また、スチーミング処理して得られたUSYゼオライトに鉱酸を加え、混合攪拌処理することによって、ゼオライト構造骨格からの脱アルミニウムとスチーミング及び鉱酸処理により脱落アルミニウムの洗浄除去を行う。
【0018】
ここで用いられ得る鉱酸としては各種のものが挙げられるが、塩酸、硝酸、硫酸等が一般的であり、その他リン酸、過塩素酸、ペルオクソ二スルホン酸、二チオン酸、スルファミン酸、ニトロソスルホン酸等の無機酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸等を用いることもできる。
これらの鉱酸の使用量としては、USYゼオライト1kgあたり0.5~20モル程度とすればよく、好ましくは3~16モルとする。鉱酸濃度は0.5~50質量%溶液、好ましくは1~20質量%溶液である。処理温度は、室温~100℃、好ましくは50~100℃である。処理時間は0.1~12時間である。
【0019】
次いで、この系に金属塩溶液を加えてUSYゼオライトに金属を担持する。担持する方法としては混合攪拌処理、浸漬法、含浸法等が挙げられ、混合撹拌処理が好ましい。金属としては周期表第3族~第16族のうちの少なくとも一種の金属が好ましく挙げられる。具体的には、周期表第3族のイットリア、ランタン、第4族のジルコニウム、チタン、第5族のバナジウム、ニオブ、タリウム、第6族のクロム、モリブデン、タングステン、第7族のマンガン、レニウム、第8族の鉄、ルテニウム、オスミウム、第9族のコバルト、ロジウム、イリジウム、第10族のニッケル、パラジウム、白金、第11族の銅、第12族の亜鉛、カドミウム、第13族のアルミニウム、ガリウム、第14族のスズ、第15族のリン、アンチモン、第16族のセレン等が好ましく挙げられる。中でも、
第4族、第7族、第8族、第9族及び第10族のうちの少なくとも一種の金属がより好ましく、更にチタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金が好ましく、特に鉄が好ましい。
【0020】
各種金属の塩としては硫酸塩、硝酸塩が好ましい。金属塩溶液処理を行う場合、状況に応じてかわるために、一義的に規定することはできないが、処理温度は通常30℃以上100℃以下程度とすればよく、好ましくは50℃以上80℃以下であり、処理時間は通常0.1時間以上12時間以下程度とすればよく、好ましくは0.5時間以上5時間以下である。
【0021】
これらの金属の担持はゼオライト構造骨格から脱アルミニウムと同時に行うことが好ましく、pH2.0以下、好ましくはpH1.5以下の範囲で適宜選定し、実施するとよい。鉄の塩の種類は、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等を挙げることができるが、硫酸第二鉄が好ましい。鉄の硫酸塩はそのまま加えることもできるが、溶液として加えることが好ましい。この際の溶媒は鉄塩を溶解するものであればよいが、水、アルコール、エーテル、ケトン等が好ましい。また、加える鉄の硫酸塩の濃度は、通常は0.02~10.0モル/リットル、好ましくは0.05~5.0モル/リットルである。
【0022】
鉱酸と鉄の硫酸塩とを加えて結晶性アルミノシリケートを処理するにあたっては、そのスラリー比、すなわち、処理溶液容量(リットル)/アルミノシリケートの質量(kg)は、1~50の範囲が好都合であり、特に5~30が好適である。
上述の処理により得られる鉄担持結晶性アルミノシリケートは、さらに必要に応じて水洗、乾燥を行う。
以上のようにして、USYゼオライト、金属担持USYゼオライトを製造することができる。
【0023】
(多孔性無機酸化物)
ゼオライトと組み合わせられる多孔性無機酸化物としては、例えばアルミナ、シリカ-アルミナ、シリカ、アルミナ-ボリア、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-チタニア等が好ましく挙げられ、中でもアルミナを主成分とすることが好ましい。本明細書において「主成分」とは、含有量が前記多孔性無機酸化物を基準(100質量%)として、50質量%以上、好ましくは、70質量%、より好ましくは80質量%のものをいう。
【0024】
アルミナとしては、ベーマイトゲル、アルミナゾルおよびこれらから製造されるアルミナが好ましく用いられる。活性金属が高分散担持できる点でアルミナが好適であり、特に以下に述べるアルミナが触媒の細孔分布の最適化を容易にする点で好ましい。
【0025】
特に好ましいアルミナは、アルミニウム塩を含む水溶液の中和反応により中間体としてアルミナ水和物(ベーマイトゲル)を得る工程を経て製造されるものであり、かつそのアルミナ水和物のX線回折分析(XRD)によるベーマイト結晶の相対ピークハイが65~85のものである。相対ピークハイが65以上であれば、アルミナの平均細孔径が過剰に小さくなることがないため、触媒の重質軽油留分に対する脱硫活性が向上し、85以下であれば、アルミナの平均細孔径が過剰に大きくなることがないため、触媒の分解活性が向上する。
【0026】
本発明における、アルミナ水和物のベーマイト結晶の相対ピークハイは、X線回折装置を用いて、標準物質及び試料物質のアルミナ(ベーマイト)の2θ:10°~20°のピークハイ(ピークの高さ)をそれぞれ測定し、後記の式(1)から算出したものである。具体的には、以下の方法で測定した値である。
【0027】
(相対ピークハイの測定方法)
X線回折装置を用いて、標準物質及び試料物質のアルミナ(ベーマイト)ピークハイをそれぞれ測定し、下記の式(1)により相対ピークハイを算出した。
相対ピークハイ=(B/A)×100 (1)
但し、式中、Aは標準物質(サソール社製、商品名:CatapalD)のピークハイ、Bは試料物質のピークハイの測定値を示す。
X線回折の測定条件は、以下のとおりである。
・測定装置 :リガク(RINT-2100)
・測定条件 :
Target:Cu
Filter:Ni
Voltage:30kV
Current:14mA
Scan speed:1°/min,
Full scall:1000cps,
平滑化点数 :19
Scan angle(2θ):10°~20°
・ピークハイの計測方法:
折線プロファイルで、ピークの両側のバックグラウンドに接線を引き、次にピークトップから垂線を引き、バックグラウンドからピークトップまでの高さを求め、その値をそれぞれのピークハイとした。なお、測定装置は、上記機種に限られず、同等の装置であってもよい。
【0028】
上記の条件を満たすアルミナは、例えば次の方法、すなわち(1)アルミニウム塩を含む水溶液と中和剤を反応させ、pH6~11のアルミナ水和物(ベーマイト)を得る工程、次いで、(2)アルミナ水和物について、洗浄工程、熟成工程、乾燥工程、及び捏和工程を実施することにより製造することができる。
【0029】
上記方法において、アルミニウム塩としては、通常、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等が、また中和剤としては、アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリ、苛性ソーダ、アンモニア等を用い得る。
また、アルミナ水和物のpHは、所望の粒子径の水和物が得られやすくなる観点から、ややアルカリ性、具体的にはpH7~10であることが好ましい。
【0030】
(2)の洗浄工程では、充分な洗浄を行い、例えばアルミニウム塩として、硫酸アルミニウムを用いた場合は、アルミナ水和物中の硫酸根(SO4
2-)残量が1質量%以下、さらには0.7質量%以下になるように行うことが好ましい。また、熟成工程の温度は80~160℃、好ましくは90~100℃、捏和時間は、1~24時間、好ましくは2~12時間行うことが好ましい。
なお、既述のアルミナの製造方法は、特許第3755826号公報に記載された方法を採用することが好ましい。
【0031】
(ゼオライト比率)
触媒Aのゼオライト比率が12%以上である、すなわち、触媒Aの担体が既述のゼオライトと多孔性無機酸化物とを含む場合、当該ゼオライトの含有量は12%以上であり、好ましくは14%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは18%以上である。上限としては特に制限はないが、中間留分得率と水素化分解活性とを向上させる観点から、45%以下程度とすればよく、好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下、より更に好ましくは25%以下である。
また、触媒Aの担体は、既述のゼオライトと多孔性無機酸化物とからなる、すなわち両成分の合計が100質量%であることが好ましいが、中間留分得率と水素化分解活性との向上を阻害しない程度であれば、これら以外の成分、例えば粘度鉱物、リン等の成分を含んでいてもよい。この場合、当該これら以外の成分の含有量は、通常30質量%以下程度としておけばよく、好ましくは25質量%以下である。当該これら以外の成分の含有量が上記範囲内であると、当該成分の使用効果が得られやすく、かつ中間留分得率と水素化分解活性との向上も図ることができる。
【0032】
触媒Aの担体は、例えば、上記USYゼオライト、金属担持USYゼオライト等のゼオライトを例えば水とのスラリーとし、またゲル状又はゾル状である多孔性無機酸化物も水とのスラリーとして、これらをニーダー(混練機)等により十分に混合する。それぞれのスラリー状態での水分量は、より効率的に担体を作製する観点から、結晶性アルミノシリケートスラリーでは30~80質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましく、多孔性無機酸化物スラリーでは50質量%~90質量%が好ましく、55~85質量%がより好ましい。
ゼオライトと多孔性無機酸化物とを混合捏和したのち、1/12インチ~1/32インチの径、長さ1.5mm~6mmに成型し、円柱状、三つ葉型、四葉型の形状の成型物とした後、30~200℃、0.1~24時間乾燥させ、次いで、300~750℃(好ましくは450~700℃)で、1~10時間(好ましくは2~7時間)焼成することで、触媒Aの担体は得られる。
【0033】
(活性金属)
水素化分解触媒に用いられる活性金属としては、周期表第6族、第8族、第9族、第10族金属のうち少なくとも一種の金属が好ましく挙げられる。
ここで周期表第6族に属する金属としては、モリブデン、タングステンが好ましく、また第8~10族に属する金属としては、ニッケル、コバルトが好ましい。二種類の金属の組み合わせとしては、第6族の金属と、第8~10族の金属とを組み合わせて用いることが好ましく、具体的には、ニッケル-モリブデン、コバルト-モリブデン、ニッケル-タングステン、コバルト-タングステン等が好ましく挙げられ、中でもコバルト-モリブデン、ニッケル-モリブデンが好ましく、特にニッケル-モリブデンが好ましい。
【0034】
上記活性成分である金属の担持量は、特に制限はなく、原料油の性状、所望の水素化分解活性、中間留分得率等の各種条件に応じて適宜選定すればよいが、通常は第6族の金属は触媒全体の0.5~30質量%、好ましくは5~20質量%、第8~10族の金属は、触媒全体の0.1~20質量%、好ましくは1~10質量%とすればよい。
上記金属成分を担体に担持する方法については特に制限はなく、例えば、含浸法,混練法,共沈法などの公知の方法を採用することができる。
上記の金属成分を担体に担持したものは、通常30~200℃で、0.1~24時間乾燥し、次いで、250~700℃(好ましくは300~650℃)で、1~10時間(好ましくは2~7時間)焼成して、触媒として仕上げられる。
【0035】
〔触媒B〕
触媒Bは、ゼオライト比率が12%未満であることを特徴とする触媒であり、触媒Aと比較して中間留分選択性に優れる触媒である。
触媒Bとしては、例えば超安定化Y型ゼオライト(「USYゼオライト」とも称される)、金属担持USYゼオライト等のゼオライトと、アルミナ、シリカ-アルミナ、シリカ、アルミナ-ボリア、アルミナ-ジルコニア、アルミナ-チタニア等の多孔性無機酸化物と、を含み、ゼオライト比率が12%未満である担体に、活性金属を担持した触媒が好ましく挙げられる。
【0036】
触媒Bにおけるゼオライト、多孔性無機酸化物、活性金属は、触媒Aにおけるゼオライト、多孔性無機酸化物、活性金属として説明したものと同じである。また、触媒Bが有する性状は、触媒Aが有する性状として説明したものと同じであり、触媒Aと触媒Bとは、担体に含まれるゼオライト比率が異なるものである。
このように、ゼオライト比率が異なる二種の触媒を併用することで、既述のように、各々のメリットをいかすと同時に、各々のデメリットを補完し合い、結果として高い中間留分得率と水素化分解活性とが得られる。
【0037】
触媒Bのゼオライト比率は既述のように12%未満であることを要し、中間留分得率と水素化分解活性とを向上させる観点から、11%以下が好ましい。また下限としては特に制限はなく、通常1%以上であり、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上である。
触媒Bの担体は、ゼオライト比率が12%未満となるように、ゼオライトと多孔性無機酸化物とを配合し、スラリーでニーダー(混練機)等により十分に混合して作製すればよく、触媒Aの担体の製造方法として説明した方法に準じて製造すればよい。また活性金属の担持も、触媒Aの製造方法として説明した方法に準じて行えばよい。
【0038】
〔充填層Aの比率と充填層Bの比率との割合〕
本実施形態の触媒システムにおいて、上記触媒Aにより構成される充填層Aと、上記触媒Bにより構成される充填層Bとが、当該充填層Aの比率(RA)と当該充填層Bの比率(RB)との割合(RA/RB)が20/80~95/5となるように充填されることを要する。上記割合(RA/RB)が20/80未満、すなわち充填層Aの比率(RA)が20未満、充填層Bの比率(RB)が80超となると、優れた水素化分解活性が得られない。他方、上記割合(RA/RB)が95/5超、すなわち充填層Aの比率(RA)が95超、充填層Bの比率(RB)が5未満となると、優れた中間留分選択性が得られない。
中間留分得率と水素化分解活性とを向上させる観点から、当該割合は、好ましくは25/75以上、より好ましくは35/65以上、更に好ましくは45/55以上、より更に好ましくは55/45以上であり、上限として好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下、更に好ましくは80/20以下、より更に好ましくは75/25以下である。
【0039】
〔充填層Aと充填層Bとの配置〕
本実施形態の触媒システムにおいて、充填層Aは重質軽油留分を含む原料油と先に接するように充填されていること、すなわち充填層Aの次に充填層Bが充填されていることを要する。よって、本実施形態の触媒システムでは、重質軽油留分を含む原料油は充填層Aに通油された後、充填層Bに通油されることになる。このように充填されないと、触媒A及び触媒Bの各々のメリットをいかすと同時に、各々のデメリットを補完し合うことができず、高い中間留分得率と水素化分解活性とが得られない。
【0040】
本実施形態の触媒システムにおいて、充填層Aと充填層Bとは、充填層Aの方が原料油となる重質軽油留分と先に接するように充填されていれば、充填に関する態様に制限はないが、省スペース化を図る観点から、一の反応器に順に備えられていることが好ましい。
【0041】
〔脱硫脱窒素触媒層〕
本実施形態の触媒システムは、必要に応じて脱硫脱窒素触媒を充填した層、すなわち脱硫脱窒素触媒層を有してもよい。
脱硫脱窒素触媒としては、通常脱硫活性と脱窒素活性とを有する触媒であれば特に制限なく、市販品等を用いることも可能であり、例えばアルミニウム、ケイ素、リン(例えば、五硫化二リン等)等からなる無機複合酸化物担体に、コバルト-モリブデン、ニッケル-モリブデン等を活性金属として担持する水素添加触媒を用いることができる。
【0042】
脱硫脱窒素触媒を用いる場合、脱硫脱窒素触媒層は、充填層Aよりも先に原料油となる重質軽油留分と先に接するように設けられることが好ましい。これにより、中間留分得率と水素化分解活性とが向上し、また触媒A及び触媒Bの寿命が向上し、より安価に、安定して重質軽油留分を供給することが可能となる。
またこの場合、脱硫脱窒素触媒層は、メンテナンス等の観点から、充填層A及び充填層Bとは別の反応器に備えられることが好ましい。
【0043】
(原料油)
本実施形態の触媒システムの原料油は、重質軽油留分を含むものである。重質軽油留分としては、例えば原油の常圧蒸留、減圧蒸留により得られる重質軽油(AGO)、減圧軽油(VGO)、またこれらの混合油が挙げられ、また重質軽油(AGO)、減圧軽油(VGO)及びこれらの混合油のいずれかを水素化分解した後に生成する未分解留分(UCO)を原料油として採用することもできる。
【0044】
これらの原料油の性状としては、上記重質軽油留分を含むものであれば特に制限はないが、例えば密度(15℃)は通常0.800g/cm3以上1.000g/cm3以下であればよく、好ましくは0.820g/cm3以上0.950g/cm3以下、より好ましくは0.850g/cm3以上0.900g/cm3以下であり、硫黄分は通常1.0質量%以上2.9質量%以下であればよく、好ましくは1.5質量%以上2.8質量%以下であり、窒素分としては通常100質量ppm以上1000質量ppm以下であればよく、好ましくは300質量ppm以上750質量ppm以下である。好ましい範囲内にあると、本実施形態の触媒システムが機能しやすく、中間留分得率と水素化分解活性とが向上しやすくなる。
また、原料油の蒸留性状(JIS K2254:1998(石油製品-蒸留試験方法-))として、初留点、10容量%留出温度、50容量%留出温度、90容量%留出温度及び終点は、通常各々240℃以上290℃以下、340℃以上380℃以下、410℃以上450℃以下、475℃以上510℃以下、及び530℃以上570℃以下である。
本実施形態の触媒システムにおいては、これらの性状を有するものであれば、また中間留分を含むものであれば、上記の留分に限らず原料油として使用可能である。
【0045】
本実施形態の触媒システムで用いられる原料油は、重質軽油留分を含むものであれば特に制限はなく、上記性状を有する留分、あるいは中間留分を含む留分も採用可能であるが、原料油に含まれる重質軽油留分の含有量としては、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、そして100質量%、すなわち原料油が重質軽油留分であることがより更に好ましい。
【0046】
(水素化分解条件)
本実施形態の触媒システムにおける、諸条件は以下の通りである。以下の諸条件にて水素化分解を行うことにより、中間留分得率と水素化分解活性とを向上させることができる。
水素化分解処理における原料油の導入口、すなわち触媒Aの充填層Aの上流側において、水素圧力は通常9.0MPa以上19.0MPa以下、好ましくは10.0MPa以上16.0MPa以下、より好ましくは10.5MPa以上13.0MPa以下であり、LHSVは通常0.1h-1以上9.0h-1以下、好ましくは0.3h-1以上5.0h-1以下、より好ましくは0.5h-1以上3.0h-1以下であり、反応温度は通常310℃以上450℃以下、好ましくは330℃以上420℃以下、より好ましくは350℃以上400℃以下であり、水素/原料油比は通常300Nm3/kL以上2000Nm3/kL以下であり、好ましくは500Nm3/kL以上1800Nm3/kL以下、より好ましくは650Nm3/kL以上1500Nm3/kL以下、更に好ましくは800Nm3/kL以上1300Nm3/kL以下、より更に好ましくは900Nm3/kL以上1100Nm3/kL以下である。
【0047】
脱硫脱窒素触媒層を設ける場合、脱硫脱窒素触媒層の出口における窒素分としては、通常1質量ppm以上20質量ppm以下となるように調整すればよく、好ましくは3質量ppm以上17質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以上15質量ppm以下である。なお、当該窒素分は調整目標であり、常時上記範囲内になければならない、ということではない。
【0048】
本実施形態の触媒システムを用いて原料油を水素化分解する場合、当該触媒システム出口における中間留分得率を通常55質量%以上70質量%以下、好ましくは60質量%以上65質量%以下の範囲となるように、当該触媒システム出口の温度(水素化分解温度(WAT:Weight Average Temperature)とも称する。)を調整する。この場合の水素化分解温度(WAT)は通常360℃以上378℃未満、365℃以上375℃以下、368℃以上373℃以下と低い温度とする、すなわち本実施形態の触媒システムは高い中間留分得率と水素化分解活性とを両立することから、上記のような低い温度を保持することが可能である。
【0049】
[水素化分解方法]
本実施形態の水素化分解方法は、既述の本実施形態の触媒システムを用い、重質軽油留分を含む原料油を水素化分解する方法である。
本実施形態の水素化分解方法で採用される本実施形態の触媒システムは、上記説明の通りである。また脱硫脱質素触媒層を有してもいいことも同じである。
【0050】
本実施形態の水素化分解方法において採用される重質軽油留分を含む原料油は、本実施形態の触媒システムに用いられるものとして説明した重質軽油留分を含む原料油と同じものであり、また水素化分解条件も、本実施形態の触媒システムに用いられるものとして説明した水素化分解条件と同じである。
【0051】
[水素化分解装置]
本実施形態の水素化分解装置は、既述の本実施形態の触媒システムを備えるものである。
本実施形態の水素化分解方法で採用される本実施形態の触媒システムは、上記説明の通りであり、脱硫脱質素触媒層を有してもいいことも同じである。また、触媒Aの充填層Aと触媒Bの充填層Bは一の反応器に充填される層であることが好ましいこと、脱硫脱窒素触媒層は当該一の反応器とは別の反応器に備えられ得ることも、同じである。
【0052】
本実施形態の水素化分解装置において水素化分解し得る原料油は、本実施形態の触媒システムに用いられるものとして説明した重質軽油留分を含む原料油と同じものであり、また水素化分解条件も、本実施形態の触媒システムに用いられるものとして説明した水素化分解条件と同じである。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0054】
[評価方法]
1.中間留分得率
実施例及び比較例における中間留分得率について、以下の基準で評価した。中間留分得率が大きいほど触媒の性能が高いことを示す。D評価は不合格である。
A:中間留分得率は46.0質量%以上となった。
B:中間留分得率は45.8質量%以上46.0質量%未満となった。
C:中間留分得率は45.5質量%以上45.8質量%未満となった。
D:中間留分得率は45.5質量%未満となった。
2.水素化分解活性
実施例及び比較例において、触媒Aの充填層Aと触媒Bの充填層Bとを充填した第二反応塔の出口における水素化分解率を62質量%となるように、当該出口温度を水素化分解温度(WAT:Weight Average Temperature)を調整した場合の水素化分解温度(WAT)について、以下の基準で評価した。WATが低いほど触媒の水素化分解活性は高いことを示す。D評価は不合格である。
A:WATは370℃未満となった。
B:WATは370℃以上373℃未満となった。
C:WATは373℃以上378℃未満となった。
D:WATは378℃以上となった。
【0055】
(比較例3)
原料油として、重質軽油(AGO)、減圧軽油(VGO)及び未分解油(UCO)を容量比として4:3:3の比率で含む、第1表に示される性状を有する混合油を採用した。脱硫脱窒素触媒が充填されて脱硫脱窒素触媒層を有する第一反応塔と、触媒Aの充填層Aと触媒Bの充填層Bとを割合50/50となるように充填された第二反応塔とを準備し、上記混合油が、第一反応塔、第二反応塔の順に通油するように、かつ充填層Aが先に通油するように、これらの反応塔を連結した水素化分解装置のベンチ設備を作製した。
運転条件として、LHSV=1.0h-1、水素分圧11.0MPa、第一反応塔の出口における窒素分が5~15質量ppmとなるように調整し、水素化分解率が62質量%となるように触媒Aの充填層Aと触媒Bの充填層Bの水素化分解温度(WAT:Weight Average Temperature)を調整した。第二反応塔出口における水素化分解された原料油についてガスクロ蒸留によりナフサ留分(沸点120℃以下)、中間留分(沸点120~360℃)、未分解油留分(沸点360℃以上)の得率を測定した。中間留分得率及び水素化分解触媒層の温度(WAT)を、第2表に示す。また、中間留分得率と水素化分解活性の評価も第2表に示す。
【0056】
【0057】
(実施例2)
比較例3において、第二反応塔における充填層Aと充填層Bとを割合70/30とした以外は、比較例3と同様にして水素化分解を行った。中間留分得率及び水素化分解率を、第2表に示す。
【0058】
(比較例1及び2)
比較例3において、第二反応塔における充填層Aと充填層Bとを割合を第2表に示されるものとした以外は、比較例3と同様にして水素化分解を行った。中間留分得率及び水素化分解率を、第2表に示す。
【0059】
【0060】
実施例の結果から、充填層Aと充填層Bとの割合を20/80~95/5の範囲内とすることにより、中間留分得率と水素化分解活性とをバランスよく高い水準で両立できることが確認された。
一方、充填層Aのみを用いた比較例1では、触媒Aの特徴により水素化分解活性が高いが中間留分得率が悪く、充填層Bのみを用いた比較例2では、触媒Bの特徴により中間留分得率は高いものの水素化分解活性が悪いという結果になった。